特許第6709620号(P6709620)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6709620
(24)【登録日】2020年5月27日
(45)【発行日】2020年6月17日
(54)【発明の名称】ゴム金属積層ガスケットの製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/08 20060101AFI20200608BHJP
   B32B 15/06 20060101ALI20200608BHJP
   B32B 25/04 20060101ALI20200608BHJP
   B29C 65/48 20060101ALI20200608BHJP
【FI】
   F16J15/08 H
   B32B15/06 Z
   B32B25/04
   B29C65/48
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-561805(P2015-561805)
(86)(22)【出願日】2015年9月18日
(86)【国際出願番号】JP2015076696
(87)【国際公開番号】WO2016047599
(87)【国際公開日】20160331
【審査請求日】2018年8月2日
(31)【優先権主張番号】特願2014-193462(P2014-193462)
(32)【優先日】2014年9月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 昭寛
【審査官】 竹村 秀康
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−059791(JP,A)
【文献】 特開2014−062224(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/015902(WO,A1)
【文献】 特開2013−213551(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/08
B29C 65/48
B32B 15/06
B32B 25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材表面にゴム糊を塗布することにより、前記金属部材とゴム部材と接着しゴム金属積層ガスケットを製造する製造方法であって、
前記ゴム糊は、ゴム成分と接着成分とを含有する組成物であり、
前記金属部材表面に前記ゴム糊を塗布する前処理として、不活性ガス雰囲気下で前記金属部材表面にリモート式の大気圧プラズマ放電処理を行うことを特徴とするゴム金属積層ガスケットの製造方法。
【請求項2】
前記不活性ガスが窒素であることを特徴とする請求項1に記載のゴム金属積層ガスケットの製造方法。
【請求項3】
前記ゴム部材がフッ素ゴムを含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のゴム金属積層ガスケットの製造方法。
【請求項4】
前記金属部材が、鉄またはステンレス鋼からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のゴム金属積層ガスケットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム金属積層ガスケットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム金属積層ガスケットは、金属部材とゴム部材との積層体であり、自動車、工業機械などの産業分野において、自動車等のシリンダーヘッドガスケット、電子機器の収納ケースの蓋等の用途に広く使用されている。
【0003】
耐水性、耐LLC(ロングライフクーラント)性および耐熱性が必要とされるガスケット等のゴム金属積層体の金属材料としては、主としてステンレス鋼が用いられている。しかし、ステンレス鋼に直接、ゴム糊を適用し、ゴムと接着させても、対液接着耐久性が悪く、このゴム金属積層体に水、LLC等を用いて浸漬試験を実施すると、接着剥離が生じるという問題がある。ここで、ゴム糊とは、ゴム成分と接着成分とを含有する組成物であり、金属部材にゴム糊が接着することによって、ゴム金属積層ガスケットのゴム部材を形成することになる。
【0004】
そのため、ステンレス鋼にゴム糊を塗布する前の下地処理として、ブラスト処理や燐酸亜鉛処理等が用いられている。例えば、特許文献1には、金属表面の接着剤塗布前の処理方法として、燐酸亜鉛処理とショットブラスト処理が開示されている。また、特許文献2には、金属板の表面処理として、ブラスト処理が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4433109号公報
【特許文献2】特許第2980941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ショットブラスト処理(ブラスト処理)は、粒状の研磨材を金属材料表面に高速で衝突させて、その表面を粗面化する方法である。そのため、研磨材による作業環境の悪化、大量の廃棄物の発生、金属部材への汚れ(研磨材の付着)が生じ、処理後に表面に残った研磨材の洗浄が必要である。また、燐酸亜鉛処理は、重金属を含有する水溶液を使用するため、廃液処理が必要であり、洗浄・乾燥等の工程を追加することが必要となる。また、いずれの方法も基本的にはバッチ処理であり、インライン化は困難である等の課題がある。
【0007】
本発明は、前記の状況に鑑みてなされたものであり、本発明の課題は、製造工程が簡便で、後処理が不要であり、金属部材とゴム部材との接着性を安定して向上させることが可能なゴム金属積層ガスケットの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記のブラスト処理法や燐酸亜鉛処理法に代わる処理方法であって、金属部材表面にゴム糊を塗布する前の処理方法について、鋭意検討を重ねた。その結果、プラズマ処理法が前記課題を解消し得ることを見出した。すなわち、本発明は以下のような構成を有している。
【0009】
本発明のゴム金属積層ガスケットの製造方法は、金属部材表面にゴム糊を塗布することにより金属部材とゴム部材とを接着してなるゴム金属積層ガスケットの製造方法であって、金属部材表面にゴム糊を塗布する前処理として、金属部材表面にプラズマ処理を行うことを特徴としている。
また、前記プラズマ処理は、リモート式の大気圧プラズマ放電処理であることが好ましい。前記プラズマ処理は、窒素雰囲気下で行うことが好ましい。さらに、前記ゴム糊がフッ素ゴムを含有することが好ましい。また、前記金属部材が、鉄またはステンレス鋼からなることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明のゴム金属積層ガスケットの製造方法は、製造工程が簡便で、後処理が不要であり、金属部材とゴム部材との接着性を安定して向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明のプラズマ処理に使用するリモート式大気圧プラズマ放電処理装置の模式的断面図である。
図2】本発明のゴム金属積層ガスケットの製造方法を示すフローチャートである。
図3】比較例のゴム金属積層ガスケットの製造方法を示すフローチャートである。
図4】未処理のステンレス鋼板表面のTOF−SIMSスペクトル図である。
図5】プラズマ処理後のステンレス鋼板表面のTOF−SIMSスペクトル図である。
図6】ゴム金属積層体の剥離強度を測定する方法を示す模式図である。(a)は表面処理を施す範囲を示す平面図である。(b)は剥離強度試験を行う際の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、本発明の範囲は、以下に説明する実施形態に限定されるわけではない。
【0013】
本発明は、自動車、工業機械などの産業分野において、自動車等のシリンダーヘッドガスケット、電子機器の収納ケースの蓋等の用途に好適に使用し得るゴム金属積層ガスケットの製造方法に関する。
【0014】
本発明のゴム金属積層ガスケットの製造方法は、金属部材表面にゴム糊を塗布して、金属部材とゴム部材とを接着して、ゴム金属積層ガスケットを製造する方法である。そして、金属部材表面にゴム糊を塗布する前処理として、金属部材表面にプラズマ処理を行うことを特徴としている。
【0015】
本発明において金属部材としては、ステンレス鋼板、軟鋼板、アルミニウム板、アルミニウムダイキャスト板等が用いられる。ステンレス鋼板としては、好ましくはSUS304、SUS301、SUS301H、SUS430等が用いられる。金属部材の板厚は、ガスケット用途であるので、一般に約0.1〜2mm程度のものが用いられる。
【0016】
本発明においてゴム糊は、ゴム成分と接着成分とを含有する組成物である。そのため、金属部材にゴム糊を塗布して、接着させることによって、ゴム金属積層ガスケットのゴム部材を形成させることができる。また、ゴム糊には、耐熱性、ゴム特性、耐薬品性等を向上させるために、加硫(架橋)成分を含有させることができる。そのため、ゴム糊を加熱等させることによって、加硫させた状態で金属部材に接着させることができる。
【0017】
ゴム糊が含有するゴム成分としては、特に限定されるわけではないが、耐熱性、耐薬品性等の観点から、フッ素ゴムが好ましい。
【0018】
金属部材とフッ素ゴムとの接着のためには、一般には金属部材上に接着剤層が形成される。接着剤としては、フッ素ゴムを接着できるものであれば特に制限なく使用することができる。例えば、市販品であるロードファーイースト社製ケムロックAP-133、東洋化学研究所製メタロックS-2、ロームアンドハース社製メガム3290-1等のシラン系のフッ素ゴム用接着剤、あるいは有機金属化合物を含有してなるシラン系下塗り剤とノボラック型エポキシ樹脂、パラ非置換フェノールから導かれたノボラック型フェノール樹脂、2-エチル-4-メチルイミダゾールを含有してなる上塗り接着剤を組み合わせたものなどを使用することができる。(下塗り)接着剤は、金属板上にスプレー、浸せき、噴霧、はけ塗り、ロールコーターなどの方法によって、約0.1〜10μmの膜厚で塗布され、室温下で乾燥させた後、約100〜250℃で約1〜20分間程度焼付処理される。さらに、上塗り接着剤が用いられる場合には、下塗り接着剤処理鋼板上に塗布され、下塗り接着剤と同様の方法により1〜15μmの膜厚で塗布され、下塗り接着剤と同様の乾燥、焼付処理が行われる。
【0019】
しかし、上記の接着剤層の形成を特に行うことなく、ゴム糊中に上記接着剤成分を添加することによって、金属部材とフッ素ゴムとを接着させることができる。
【0020】
フッ素ゴムとしては、ポリオール架橋性およびパーオキサイド架橋性のいずれも使用することができる。得られるゴム層が、硬度(デュロメーターA;瞬時)80以上(JIS K6253:1997)、圧縮永久歪(100℃、22時間)50%以下(JIS K6262:2006)のものであれば足りる。特に配合内容が限定されるものではないが、例えば後記する配合例のフッ素ゴムコンパウンドが例示される。
【0021】
ポリオール架橋性フッ素ゴムとしては、一般に、フッ化ビニリデンと他の含フッ素オレフィン、例えば、ヘキサフルオロプロペン、ペンタフルオロプロペン、テトラフルオロエチレン、トリフルオロクロロエチレン、フッ化ビニル、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)等の少なくとも一種との共重合体または含フッ素オレフィンとプロピレンとの共重合体などが挙げられる。これらのフッ素ゴムは、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)パーフルオロプロパン、ヒドロキノン等のポリヒドロキシ芳香族化合物によってポリオール化される。
【0022】
また、パーオキサイド架橋性フッ素ゴムとしては、例えば、分子中にヨウ素および/または臭素を有するフッ素ゴムが挙げられる。これらのフッ素ゴムは一般に、パーオキサイド架橋に用いられている有機過酸化物によって架橋される。この場合には、有機過酸化物と共に、トリアリルイソシアヌレートによって代表される多官能性不飽和化合物を併用することが好ましい。
【0023】
図3は、比較例のゴム金属積層ガスケットの製造方法を示すフローチャートである。金属部材としてステンレス鋼を使用し、ゴム部材としてフッ素ゴムを使用し、シリンダーヘッドガスケット用途を例に挙げて、以下に比較例の製造方法について具体的に説明する。
【0024】
(1)まず、素材となるステンレス鋼板をプレス加工で打抜き、シリンダーヘッドガスケットの形状の金属部材を作製する(プレス加工工程S1)。
(2)こうして打抜かれた金属部材には、防錆油や加工油が付着している。これらは、ゴムと接着させる場合に接着力を低下させる原因となるので、加熱による脱脂を行う(加熱脱脂洗浄工程S2)。
(3)次に、ショットブラスト処理によって研磨材を吹き付けて、脱脂しきれなかった油分を除去し、金属部材の表面を粗面化する(ショットブラスト処理工程S6)。金属部材の表面を粗面化することによって、接着面積を増加させ、接着力を増大させることができる。
(4)ショットブラスト処理工程S6において、表面に残った研磨材を除去するために、超音波による洗浄を行う(超音波洗浄工程S7)。ショットブラスト処理後には、金属表面に研磨材が付着している。そのため、超音波等による洗浄工程は必須の工程となる。
(5)その後、粗面化された表面に、接着成分が添加されたゴム糊を所定の形状に塗布する(ゴム糊塗布工程S4)。
(6)加熱加硫させることによって、金属部材とゴム部材とが強固に接着される(加熱加硫工程S5)。
【0025】
ここで、前記の比較例や本発明において、ゴム糊としては例えば、以下のような配合組成を有したフッ素ゴム組成物と加硫促進剤を使用して、以下に記載する方法で調製することができる。
【0026】
<フッ素ゴム組成物の配合組成>
フッ素ゴム(デュポン社製、バイトンA−200) 100質量部
MTカーボン(N990) 20質量部
ホワイトカーボン(東ソーシリカ社製、ニップシールER) 10質量部
酸化マグネシウム(協和化学社製、マグネシア#30) 5質量部
土壌黒鉛(日電カーボン社製、A−O) 30質量部
加硫剤(デュポン社製、キュラティブ#30) 10.7質量部
エポキシ基含有シランカップリング剤(接着剤成分)
(東レ・ダウコーニング社製、SH−6040) 1.0質量部
エポキシ変性フェノール樹脂(接着剤成分)
(大日本インキ化学社製、エピクロンN695) 34.5質量部
【0027】
<加硫促進剤>
加硫促進剤(デュポン社製、キュラティブ#20) 5.8質量部
【0028】
<ゴム糊の調製方法>
前記のフッ素ゴム組成物と加硫促進剤とをオープンロールを用いて混合して、ゴム組成物を得る。次に、調製したゴム組成物を、メチルエチルケトン−メチルアルコール(容積比9:1)混合溶媒中に、固形分濃度25質量%となるように回転型撹拌機を用いて溶解して、ゴム溶液(ロータNo.4、回転数4rpmでのBH型粘度計による粘度2.5Pa・s)を調製する。
【0029】
図3に記載の製造方法に従い、以下の条件を用いて、ゴム金属積層ガスケットを作製した。
(a)ゴム糊塗布工程S4の条件:調製した上記のゴム糊を乾燥後の厚さが25μmとなるように塗布した。
(b)加熱加硫工程S5の条件:オーブンに入れて200℃で10分間加熱した後、積層体を取り出した。
【0030】
しかしながら、ステンレス鋼板にゴム糊を塗布する前処理として、前記のようにショットブラスト処理を行った場合には、ゴムと金属との対液接着耐久性が悪く、水またはLLCを用いて浸漬試験を実施すると、接着部において剥離が生じ易いものであった。
【0031】
本発明は、金属部材表面にゴム糊を塗布する前処理として、前記ショットブラスト処理の代わりに、金属部材表面にプラズマ処理を行うことを特徴としている。
【0032】
図2は、本発明のゴム金属積層ガスケットの製造方法を示すフローチャートである。図2において、プレス加工工程S1と加熱脱脂洗浄工程S2は、図3の比較例の場合と同様である。また、ゴム糊塗布工程S4と加熱加硫工程S5も、図3の比較例の場合と同様である。そのため、これらの工程についての説明を省略する。
【0033】
本発明のゴム金属積層ガスケットの製造方法は、図3の比較例の製造方法におけるショットブラスト処理工程S6と超音波洗浄工程S7の両工程の代わりに、プラズマ処理工程S3を行うものである。
【0034】
本発明のゴム金属積層ガスケットの製造方法では、加熱脱脂洗浄後のステンレス鋼材表面にプラズマ処理を施す。加熱脱脂洗浄後のステンレス鋼材の極表層(数十〜数百ナノメートル)には、炭化水素膜が形成されている。プラズマ処理を施すことによって、ゴムと反応し得る官能基がステンレス鋼材の表面の炭素水素膜に導入されることとなり、ステンレス鋼材とゴム糊との接着性を向上させることができる。また、炭化水素膜は疎水性のため、水、LLC等に対する対液接着耐久性も向上させることができる。
【0035】
プラズマ処理の方法には、大気圧プラズマ放電処理、真空プラズマ放電処理等の方法があるが、真空チャンバが不要であり、低温での処理が可能であり、処理装置の汚染を引き起こしにくいことから、大気圧プラズマ放電処理が好ましい。
【0036】
プラズマ処理の方法としては、放電空間から活性種をガスで搬送して吹き付けて処理するリモート式プラズマ処理法と、放電空間に基材を通して処理する直接プラズマダイレクト式プラズマ処理法とがある。この中では、被処理物の表面形状に制約が少なく、被処理物の損傷が少ないことから、リモート式プラズマ処理法が好ましい。これらのプラズマ処理法を採用することによって、容易にインライン化させることができる。
【0037】
図1は、プラズマ処理に使用するリモート式大気圧プラズマ放電処理装置の模式的断面図である。図1に示すように、リモート式大気圧プラズマ処理装置10は、電極1と誘電体2の間にガス3を流し、発生させたプラズマを被処理物4に噴きつけて処理するものである。プラズマ処理条件のうち、放電周波数、放電出力、処理時間は、プラズマ処理装置の形状や大きさによって適宜調整することが望ましい。例えば、放電周波数としては、1〜20kHz、放電出力としては、1〜10kV、処理時間としては、0.1〜5秒の範囲が好ましく用いられる。
【0038】
プラズマ処理時の雰囲気ガスとしては、ゴム部材との接着性向上のためには、特に限定されず、窒素、アルゴン、ヘリウム、酸素、空気等を使用することができる。しかし、水、LLC等に対する対液接着耐久性において、不活性ガス雰囲気下において行う方が接着耐久性が向上するため、好ましい。不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウム等が挙げられるが、入手のし易さ等の観点から、窒素が好ましい。
【0039】
図4は、未処理のステンレス鋼板表面のTOF−SIMSスペクトル図である。図5は、プラズマ処理後のステンレス鋼板表面のTOF−SIMSスペクトル図である。TOF−SIMSスペクトル図は、TOF−SIMS分析(飛行時間型二次イオン質量分析)を行うことによって得られるものである。
大気圧プラズマ処理前後のステンレス鋼板表面のTOF−SIMS分析を実施したところ、大気圧プラズマ処理したステンレス鋼板表面には、未処理表面(図4参照)には見られないCNおよびCNOのMSスペクトルを確認することができた(図5参照)。このことより、窒素ガスによる大気圧プラズマ処理によってステンレス鋼板表面に有機窒素化合物が導入されたものと考えることができる。
【0040】
プラズマ処理工程S3後は、比較例と同様にして、ゴム糊塗布工程S4および加熱加硫工程S5を行う。プラズマ処理された金属部材表面に、ゴム糊を塗布し、加熱加硫することによって、金属部材とゴム部材とは強固に接着される。
【0041】
前記したように、本発明のゴム金属積層ガスケットの製造方法は、ショットブラスト処理工程S6と超音波洗浄工程S7が不要である。また、プラズマ処理後に後処理を行うことも不要である。そのため、製造工程を短くすることができ、簡便な製造工程とすることができる。
【0042】
また、金属部材の表面にミクロな官能基を均一に形成させることができるため、金属部材とゴム部材との接着性の向上効果が安定しており、耐水性、耐LLC性を向上させることができる。
【0043】
さらに、原料はガスのみであることから、ブラスト処理で問題となる作業環境の悪化や大量の廃棄物の発生はない。また、被処理物をコンベア等でプラズマ中に通すことによって、インライン化することも容易である。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を用いて、本発明をより詳細に説明する。
【0045】
(実施例1、比較例1、比較例2)
図6は、ゴム金属積層体の剥離強度を測定する方法を示す模式図である。(a)は表面処理を施す範囲を示す平面図である。(b)は剥離強度試験を行う際の側面図である。
まず、SUS304からなる長さ200mm×幅120mm×厚さ0.2mmの金属基材に、表1に記載の表面処理を施した。
【0046】
【表1】
【0047】
次に、表面処理を施した金属基材の長さ方向に平行で幅方向の中心部に、前記の処方に従って調製されたフッ素ゴム組成物と加硫促進剤とを含有するゴム糊を長さ200mm×幅12mmで乾燥後の厚さが25μmとなるように塗布した。その後、200℃で10分間加熱した。ゴム糊が塗布された金属基材を幅方向に平行に、長さ120mmで幅16mmの短冊状に切断した。さらに、短冊状にした金属基材を長さが半分となるように、中央部で切断し、端部にゴム部材21が接着されたゴム金属積層体20を各条件とも12枚ずつ得た(図6(a)参照)。
【0048】
各実施例・比較例の端部にゴム部材21が接着されたゴム金属積層体20のうち、2枚を用いてゴム部材21が接着された端部のみが相対して互いに重なるように反対向きに配置した(図6(b)参照)。2枚のゴム部材21をシアノアクリレート系瞬間接着剤22を用いて貼り合せた。その後、引張試験機を用いて、ゴム部材21が接着された2枚のゴム金属積層体20の両端を把持し、水平方向に引張って、剥離強度(MPa)を測定した(図6(b)参照)。3組のゴム金属積層体20を用いて測定し、その平均値(n=3)を求めた。
【0049】
さらに、各実施例・比較例の端部にゴム部材21が接着されたゴム金属積層体20のうち、別の各6枚を、オートクレーブを用いて100℃でLLC50%溶液に、120時間浸漬させた。浸漬後溶液から取り出して、水洗し、乾燥させた。その後、上記と同様にして、ゴム部材21が接着された端部のみをシアノアクリレート系瞬間接着剤22で接着して、剥離強度を測定した。測定結果を表1に示した。
【0050】
金属部材の表面を大気圧プラズマ処理した実施例1は、常態値(LLC処理する前)およびLLC処理した後も同等の安定した剥離強度を有していた。金属部材の表面を未処理の比較例1は、LLC処理後の剥離強度の低下が大きかった。金属部材の表面をショットブラスト処理した比較例2も、LLC処理後に剥離強度が低下した。
【符号の説明】
【0051】
1 電極
2 誘電体
3 ガス
4 被処理物
10 リモート式大気圧プラズマ放電処理装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6