特許第6709646号(P6709646)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6709646
(24)【登録日】2020年5月27日
(45)【発行日】2020年6月17日
(54)【発明の名称】制振装置、制振システム
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20200608BHJP
【FI】
   E04H9/02 311
【請求項の数】7
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-50748(P2016-50748)
(22)【出願日】2016年3月15日
(65)【公開番号】特開2017-166168(P2017-166168A)
(43)【公開日】2017年9月21日
【審査請求日】2018年10月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】593063161
【氏名又は名称】株式会社NTTファシリティーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】特許業務法人 志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉村 義文
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 幹夫
【審査官】 新井 夕起子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−106519(JP,A)
【文献】 特開2009−138907(JP,A)
【文献】 特開平03−250165(JP,A)
【文献】 米国特許第05984062(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
F16F 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建造物の相対変位可能な二部材間に介設される制振装置において、
前記二部材間に渡る軸方向の減衰特性を有する減衰部と、前記軸方向の剛性および長さの少なくとも一つを可変とする軸方向可変部と、を備え、前記軸方向可変部と前記減衰部とが直列に連結され、前記軸方向可変部は、前記二部材間の荷重伝達をなくすことを含んで、前記二部材間の荷重伝達を変化させる制振装置。
【請求項2】
建造物のブレースに連結されている請求項1に記載の制振装置。
【請求項3】
前記軸方向可変部が、MRダンパーである請求項1又は2に記載の制振装置。
【請求項4】
前記軸方向可変部が、電動アクチュエータである請求項1又は2に記載の制振装置。
【請求項5】
前記減衰部が、オイルダンパー、粘性ダンパー、粘弾性ダンパー、鋼材ダンパーおよび摩擦ダンパーの何れかである請求項1から4の何れか一項に記載の制振装置。
【請求項6】
前記減衰部が、前記軸方向可変部を建造物に連結する連結部材である請求項1から5の何れか一項に記載の制振装置。
【請求項7】
請求項1から6の何れか一項に記載の制振装置と、前記建造物の振動を検出する振動センサと、前記振動センサの検出結果に基づいて前記軸方向可変部を作動させる制御装置と、を備えている制振システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振装置、制振システムに関する。
【背景技術】
【0002】
超高層ビル等の建造物の地震対策として、各種の制振装置が開発されている。制振装置には、主にパッシブ方式、アクティブ方式およびセミアクティブ方式がある。
パッシブ方式は、電力などのエネルギーを必要とせずに、オイルダンパー等の減衰特性に基づいて建造物の振動を減衰させる。このため、停電などの影響を受けず、安定した性能を発揮することができる。
アクティブ方式およびセミアクティブ方式は、建造物の揺れをセンサで検出し、その検出結果に基づいて制振ダンパー等を制御する。
【0003】
特許文献1には、振動を減衰させるためのブレースダンパーが開示されている。このブレースダンパーは、第一油圧ダンパーと第二油圧ダンパーとを直列に連結し、互いに逆方向の動作を行うようにしている。
特許文献2には、コントローラ等を必要とせずに、セミアクティブ方式と同様の効率を得ることを可能とした油圧ダンパーが開示されている。この油圧ダンパーは、同一の構造を持つ油圧ダンパーを、ブレースを挟んで対称に対向配置している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−270179号公報
【特許文献2】特開2004−52922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、地震が起きると様々な周期を持つ揺れ(地震動)が発生する。特に高層の建造物では長周期地震動の影響を強く受ける。
このような様々な周期の揺れに対して、パッシブ方式では十分に対応することが困難であるという問題がある。
一方、アクティブ方式は、様々な周期の揺れに対応可能であるが、例えばアクティブマスダンパーの様に大型のアクチュエータやポンプが必要となったり、ダンパー自体の減衰特性を変化させる形式では特殊なダンパーを開発、製造する必要があったりする。このため、装置が大型かつ高価になりやすいという問題がある。
【0006】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであって、建造物の振動を効率よく減衰させるとともに、小型かつ安価に構成することができる制振装置、制振システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提案している。
本発明の制振装置は、建造物の相対変位可能な二部材間に介設される制振装置において、前記二部材間に渡る軸方向の減衰特性を有する減衰部と、前記軸方向の剛性および長さの少なくとも一つを可変とする軸方向可変部と、を備え、前記軸方向可変部と前記減衰部とが直列に連結され、前記軸方向可変部は、前記二部材間の荷重伝達をなくすことを含んで、前記二部材間の荷重伝達を変化させる
この構成によれば、軸方向可変部の剛性および長さの少なくとも一つを任意に変化させることで、前記二部材間の伝達荷重を任意に変化させることができ、建造物の振動を効率よく減衰させることができる。このため、特に高層の建造物の長周期地震動対策として有効である。また、減衰部から独立した軸方向可変部を減衰部に直列に連結するのみでよいので、減衰部にアクチュエータが組み込まれたアクティブダンパを用いる場合と比較して小型かつ安価に構成することができる。
【0008】
また、上記の制振装置は、建造物のブレースに連結されている構成としてもよい。
この場合、軸方向可変部の作動によりブレースへの伝達荷重を任意に変化させ、建造物の振動を効率よく減衰させることができる。
【0009】
また、上記の制振装置は、前記軸方向可変部が、MRダンパーである構成としてもよい。
この場合、既存のMRダンパーを利用して小型かつ安価にアクティブ制御を実現することができる。
【0010】
また、上記の制振装置は、前記軸方向可変部が、電動アクチュエータである構成としてもよい。
この場合、既存の電動アクチュエータを利用して小型かつ安価にアクティブ制御を実現することができる。
【0011】
また、上記の制振装置は、前記減衰部が、オイルダンパー、粘性ダンパー、粘弾性ダンパー、鋼材ダンパーおよび摩擦ダンパーの何れかである構成としてもよい。
この場合、既存のダンパー装置を利用して簡単かつ安価に制振装置を構成することができる。
【0012】
また、上記の制振装置は、前記減衰部が、前記軸方向可変部を建造物に連結する連結部材である構成としてもよい。
この場合、連結部材を減衰部として簡単かつ安価に制振装置を構成することができる。
【0013】
本発明の制振システムは、上記何れかの制振装置と、前記建造物の振動を検出する振動センサと、前記振動センサの検出結果に基づいて前記軸方向可変部を作動させる制御装置と、を備えている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、建造物の振動を効率よく減衰させるとともに、小型かつ安価に構成することができる制振装置、制振システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態における制振システムの説明図である。
図2】本発明の実施形態における制振装置の正面図であり、(a)はY形ブレースに連結した例、(b)は片ブレースに連結した例をそれぞれ示す。
図3】上記制振装置の減衰特性の説明図であり、粘性ダンパーとMRダンパーとを連結した例において、(a)はMRダンパーの軸方向の剛性を変化させた場合、(b)はMRダンパーの軸方向の剛性を変化させずMRダンパーが軸方向に変形しない一定の特性とした場合の比較例をそれぞれ示す。
図4】上記制振装置の減衰特性の説明図であり、鋼材ダンパーとMRダンパーとを連結した例において、(a)はMRダンパーの軸方向の剛性を変化させた場合、(b)はMRダンパーの軸方向の剛性を変化させずMRダンパーが軸方向に変形しない一定の特性とした場合の比較例をそれぞれ示す。
図5】上記制振装置の減衰特性の説明図であり、粘性ダンパーと電動アクチュエータとを連結した例において、(a)は電動アクチュエータを変化させた場合、(b)は電動アクチュエータを変化させず電動アクチュエータが軸方向に変形しない一定の特性とした場合の比較例をそれぞれ示す。
図6】上記制振装置の減衰特性の説明図であり、鋼材ダンパーと電動アクチュエータとを連結した例において、(a)は電動アクチュエータを変化させた場合、(b)は電動アクチュエータを変化させず電動アクチュエータが軸方向に変形しない一定の特性とした場合の比較例をそれぞれ示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態に係る制振装置および制振システムを説明する。
図1に示す制振システム5は、高層の建造物BLの例えば下層部に取り付けられた複数の制振装置1と、建造物BLの適宜の層に取り付けられて建造物BLの振動を検出する複数の振動センサ6と、振動センサ6の検出結果に基づいて制振装置1を作動制御する制御装置7と、を備えている。制振システム5は、各振動センサ6にて建造物BLの揺れを感知、記録し、この検出結果に応じて制御装置7にて制御力を計算し、この計算結果に応じて各制振装置1にて建造物BLの振動を制御する。なお、制振装置1の設置個所は低層部に限らず任意の層に設置してもよい。
【0017】
制振装置1は、建造物BLの相対変位可能な二部材間に介設される。制振装置1は、前記二部材に対する連結部の間に渡る軸方向(長さ方向)の減衰特性を有する減衰部10と、前記軸方向の剛性および長さの少なくとも一つを可変とする軸方向可変部20と、を備えている。制振装置1は、軸方向可変部20と減衰部10とを前記軸方向で直列に連結して構成されている。なお、軸方向可変部20と減衰部10とは互いに別体であっても一体型であってもよい。
【0018】
図2(a)に示す制振装置1Aは、建造物BLにおける一対の柱Pの上端部間に渡るY形ブレースBr1の頂部(下端部)Br1aに連結されている。制振装置1Aは、Y形ブレースBr1の頂部Br1aと建造物BLの柱Pの基台Paとの間に略水平に配置されている。制振装置1Aは、両端部を頂部Br1aおよび柱Pにそれぞれ連結している。図2(a)に示す制振装置1Aは、減衰部10および軸方向可変部20で構成されているが、前記軸方向に延びる連結部材をさらに備え、この連結部材を介して、減衰部10および軸方向可変部20の少なくとも一方をブレースおよび柱Pの対応するものに連結してもよい。
【0019】
図2(b)に示す制振装置1Bは、建造物BLにおける一対の柱Pの上下端部間に渡る片ブレースBr2の中間部に連結(設置)されている。制振装置1Bは、片ブレースBr2における上下に分断した上下ブレース部材Br2a,Br2bのブレース中央側の端部の間に配置されている。制振装置1Bは、前記軸方向を片ブレースBr2の軸方向(長さ方向)と平行かつ略一致させて配置されている。制振装置1Bは、両端部を上下ブレース部材Br2a,Br2bのブレース中央側の端部にそれぞれ連結している。図2(b)に示す制振装置1Bは、減衰部10および軸方向可変部20並びに上下ブレース部材Br2a,Br2bで構成されているが、上下ブレース部材Br2a,Br2bの一方を無くしてもよい。
【0020】
減衰部10は、前記軸方向で所定の減衰特性を有するものであり、オイルダンパー、粘性ダンパー、粘弾性ダンパー、鋼材ダンパーまたは摩擦ダンパー等が用いられる。つまり、市販の各種の制振ダンパーを用いることができる。また、減衰部10は、前記軸方向での減衰特性を持った連結部材および上下ブレース部材Br2a,Br2bの何れかで構成してもよい。また、連結部材およびブレース部材の何れかが減衰部10および軸方向可変部20の間に設けられてもよい。
なお、制振装置1を連結するブレースは、Y形ブレースBr1および片ブレースBr2に限らず、X形ブレース、V形ブレース等の他の形態であってもよい。
【0021】
軸方向可変部20は、前記軸方向の剛性および長さの少なくとも一つを変化させることで、減衰部10を含む制振装置1の減衰特性を変化させる。軸方向可変部20および減衰部10の軸方向は前記軸方向と一致している。
【0022】
軸方向可変部20は、建造物BLと減衰部10との間に直列に挿入され、建造物BLの振動に応じて前記二部材間の伝達荷重を任意に変化させることで、減衰部10の特性を任意に変化させて建造物BL全体の振動を効果的に抑制可能とする。
軸方向可変部20は、例えばMRダンパーで構成することができる。つまり、市販のMRダンパーを用いることができる。
MRダンパーは、MR流体(Magnetorheological Fluid:磁気粘性流体)を内部に備え、MR流体に与える磁場に応じてMR流体の粘性を変化させて所望の減衰力を発生させる。
【0023】
MR流体に磁場を与えなければ、MRダンパーの減衰力(反力)がほぼ0になり、前記軸方向の剛性がほぼ0になって、前記二部材間の荷重伝達を不能とする。このとき、制振装置1全体の減衰力がほぼ0になるとともに、前記二部材の一方の振動が他方に伝わらなくなり、前記二部材間で振動をいなすことが可能となる。
一方、MR流体に磁場を与えてMRダンパーの減衰力を適宜高めることで、前記軸方向の剛性が高まり、制振装置1全体の減衰力を発生させ、かつ増減させることができる。またこのとき、前記二部材間の荷重伝達を可能とし、かつ伝達荷重を増減させることができる。これにより、前記二部材間で振動を効果的に減衰させることが可能となる。
このように、建造物BLの振動に応じてMRダンパーを作動させることで、アクティブ方式の制振作用を奏し、パッシブ方式よりも効率的な振動制御が可能となる。
【0024】
一方、軸方向可変部20は、例えば電動アクチュエータで構成することもできる。つまり、市販の電動アクチュエータを用いることができる。
そして、建造物BLの振動に応じて電動アクチュエータを伸縮させることで、前記二部材間の荷重伝達を不能にしたり増減させたりすることが可能となる。これにより、制振装置1全体の減衰力を増減させて前記二部材間で荷重伝達をなくしたり振動を減衰させたりすることが可能となる。
このように、建造物BLの振動に応じて電動アクチュエータを作動させることで、アクティブ方式の制振作用を奏し、パッシブ方式よりも効率的な振動制御が可能となる。
【0025】
図3図4を参照し、軸方向可変部20にMRダンパー(軸剛性可変装置)を用いた場合の作用について説明する。
図3(a)は、粘性ダンパーからなる減衰部10とMRダンパーからなる軸方向可変部20とを直列に組み合わせた制振装置1による減衰特性を示し、図4(a)は、鋼材ダンパーからなる減衰部10とMRダンパーからなる軸方向可変部20とを直列に組み合わせた制振装置1による減衰特性を示す。
これらの場合、制振装置1全体の減衰特性は、任意のタイミングでMRダンパーを作動させることにより変化させることができる。図3図4の例では、MRダンパーの軸剛性を任意のタイミングでほぼ無限大とし、他のタイミングでほぼゼロにすることにより、前記二部材間の荷重伝達を部分的にキャンセルしている。
このように、振動センサ6により得られた記録を基に制振装置1を制御することで、建造物BLへの負担や効率等を総合的に考慮してパッシブ制振よりも効果的な制振を行うことが可能となる。なお、図3図4の如くMRダンパーの軸剛性をほぼ無限大かゼロの二択にするのみならず、中間の軸剛性を設定して制振装置1の制御幅を広げてもよい。
【0026】
図3(b)は、粘性ダンパーからなる減衰部10を備える一方、軸方向可変部20の軸方向の剛性を高めて変化させず、MRダンパーが軸方向に変形しない一定の特性とした制振装置1による減衰特性を示し、図4(b)は、鋼材ダンパーからなる減衰部10を備える一方、軸方向可変部20の軸方向の剛性を高めて変化させず、MRダンパーが軸方向に変形しない一定の特性とした制振装置1による減衰特性を示す。
これらの場合、制振装置1全体の減衰特性は、減衰部10の固定された減衰特性となる。
【0027】
図5図6を参照し、軸方向可変部20に電動アクチュエータ(軸長可変装置)を用いた場合の作用について説明する。
図5(a)は、粘性ダンパーからなる減衰部10と電動アクチュエータからなる軸方向可変部20とを直列に組み合わせた制振装置1による減衰特性を示し、図6(a)は、鋼材ダンパーからなる減衰部10と電動アクチュエータからなる軸方向可変部20とを直列に組み合わせた制振装置1による減衰特性を示す。
これらの場合、制振装置1全体の減衰特性は、任意のタイミングで電動アクチュエータを作動(伸縮)させることにより変化させることができる。図5図6の例では、電動アクチュエータの軸方向長さを伸縮させ、減衰部10の軸変形のスピードや量を変化させることにより、前記二部材間の荷重伝達を任意に増減させている。
このように、振動センサ6により得られた記録を基に制振装置1を制御することで、建造物BLへの負担や効率等を総合的に考慮してパッシブ制振よりも効果的な制振を行うことが可能となる。
【0028】
図5(b)は、粘性ダンパーからなる減衰部10を備える一方、軸方向可変部20を変化させず、電動アクチュエータが軸方向に変化しない一定の特性とした制振装置1による減衰特性を示し、図6(b)は、鋼材ダンパーからなる減衰部10を備える一方、軸方向可変部20を変化させず、電動アクチュエータが軸方向に変化しない一定の特性とした制振装置1による減衰特性を示す。
これらの場合、制振装置1の減衰特性は減衰部10の固定された減衰特性となる。
【0029】
図1に戻り、制振システム5は、振動センサ6により建造物BLの振動を検出し、振動センサ6の検出結果に基づいて制御装置7が制振装置1の作動(軸方向可変部20の作動)を制御する。これにより、建造物BLの振動に応じて制振装置1全体の減衰力を増減させて、前記二部材間で荷重伝達をなくしたり振動を減衰させたりすることが可能となる。
【0030】
本制振システム5を建造物BLに導入することにより、建造物BLの振動を容易にアクティブに制御でき、パッシブ方式の制振に比べて少ないダンパーで効率的な制振を行うことができる。また、本制振システムは、既存建造物BLにも導入が容易であり、既存の制振ダンパーをアクティブ制振用のダンパーとして使用することができる。本制振システム5に用いる減衰部10は、市販の制振ダンパーが豊富に存在し、安価に手に入る。一方、軸方向可変部20は、機能が単純であり、MRダンパーや小型のアクチュエータ等を用いることが可能である。
【0031】
以上説明したように、上記実施形態における制振装置1は、建造物BLの相対変位可能な二部材間(例えばY形ブレースBr1と柱Pとの間、上下ブレース部材Br2a,Br2bの間)に介設されるものであって、前記軸方向の減衰特性を有する減衰部10と、前記軸方向の剛性および長さの少なくとも一つを可変とする軸方向可変部20とが、互いに直列に連結されているため、軸方向可変部20の剛性および長さの少なくとも一つを任意に変化させることで、前記二部材間の伝達荷重を任意に変化させることができ、建造物BLに対して任意に減衰と復元力とを与え、建造物BLの振動を効率よく減衰させることができる。また、減衰部10から独立した軸方向可変部20を減衰部10に直列に連結するのみでよいので、減衰部にアクチュエータが組み込まれたアクティブダンパを用いる場合と比較して小型かつ安価に構成することができる。
【0032】
なお、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、例えば、制振システム5において、振動センサ6の数や種類は任意に選択することができる。また、制御装置7による制御も適宜フィードバックや学習による最適化を図るものであってもよい。
建造物BLの揺れは、地震動に限らず風による振動も含まれる。
制振装置1は、建造物BLの任意の場所に設置することができ、かつ設置数も様々である。また、制振装置1を連結するブレースBの形式は統一されている必要はなく、各種の形式のブレースBが混在していてもよい。また、制振装置1の方式(軸剛性可変方式、軸長可変方式)も統一されている必要はなく、複数の方式の制振装置1が混在していてもよい。
軸剛性可変装置としてはMRダンパーに限らず機械的機構の装置等でもよい。軸長可変装置としては電動アクチュエータに限らず油圧アクチュエータ等でもよい。
そして、上記実施形態における構成は本発明の一例であり、実施形態の構成要素を周知の構成要素に置き換える等、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0033】
1,1A,1B…制振装置
5…制振システム
6…振動センサ
7…制御装置
10…減衰部
20…軸方向可変部
BL…建造物
P…柱
Pa…基台
Br1…Y形ブレース(ブレース)
Br2…片ブレース(ブレース)
Br1a…頂部
Br2a…上ブレース部材(連結部材)
Br2b…下ブレース部材(連結部材)
図1
図2
図3
図4
図5
図6