特許第6709699号(P6709699)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6709699
(24)【登録日】2020年5月27日
(45)【発行日】2020年6月17日
(54)【発明の名称】柱脚接合構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/20 20060101AFI20200608BHJP
   E04B 1/21 20060101ALI20200608BHJP
   E04B 1/58 20060101ALI20200608BHJP
   E02D 27/00 20060101ALI20200608BHJP
【FI】
   E04B1/20 E
   E04B1/21 Z
   E04B1/58 511A
   E02D27/00 D
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-144803(P2016-144803)
(22)【出願日】2016年7月22日
(65)【公開番号】特開2018-13012(P2018-13012A)
(43)【公開日】2018年1月25日
【審査請求日】2019年1月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000174943
【氏名又は名称】三井住友建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】特許業務法人 大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小田 稔
(72)【発明者】
【氏名】山谷 裕介
(72)【発明者】
【氏名】長嶋 龍太朗
(72)【発明者】
【氏名】平田 裕一
(72)【発明者】
【氏名】田野 健治
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 彰
(72)【発明者】
【氏名】高岡 雄二
(72)【発明者】
【氏名】平野 秀和
【審査官】 須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−136888(JP,A)
【文献】 特開2006−257710(JP,A)
【文献】 特開2004−211837(JP,A)
【文献】 特開2005−265165(JP,A)
【文献】 特開2013−221334(JP,A)
【文献】 特開2009−079397(JP,A)
【文献】 特開2007−327239(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0071372(US,A1)
【文献】 中国特許出願公開第104060687(CN,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2006−0024077(KR,A)
【文献】 特開2016−173007(JP,A)
【文献】 特開2016−223586(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/20
E04B 1/21
E04B 1/58
E04H 9/02
E02D 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
最下層への応力集中を回避するべく形成された複数層を有する建築物の柱脚接合構造であって、
鉄筋コンクリート造の基礎構造物と、
前記基礎構造物上に立設され、前記基礎構造物に連結されて鉛直方向に延在する第1柱筋、及び前記基礎構造物に連結されずに鉛直方向に延在する第2柱筋を有する鉄筋コンクリート造の柱と、
前記基礎構造物及び前記柱間の少なくとも一部に配置される納まり部材とを備え、
前記納まり部材は、ゴム及び鋼板の複合構造からな前記複合構造は、前記ゴム及び前記鋼板が交互に積み重ねられた積層構造を含み、前記積層構造は、前記第1柱筋を挿通させる孔を有することを特徴とする柱脚接合構造。
【請求項2】
前記納まり部材は、前記柱の中心軸の延長線を含む位置に配置され、
前記第1柱筋は、前記第2柱筋よりも前記柱の前記中心軸に近接して配置されることを特徴とする請求項1に記載の柱脚接合構造。
【請求項3】
前記納まり部材は、水平方向の中央に配置された前記積層構造を有する中央部と、前記中央部を包囲するように水平方向の周囲に配置された前記ゴムからなる外周部とを有することを特徴とする請求項1又は2に記載の柱脚接合構造。
【請求項4】
前記積層構造における前記鋼板は、中心から水平方向の周縁に向かうにつれて薄くなるように構成されたことを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の柱脚接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複数層を有する鉄筋コンクリート造の建築物の柱脚接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
柱及び梁で骨格が構成される鉄筋コンクリート造の建築物においては、一般的に、柱梁接合部は剛接合される。このような建築物では、曲げ応力が柱脚とフーチングや杭、基礎梁等の基礎構造物との接合部に集中するため、柱下部及び基礎構造物の断面を大きくする必要があった。
【0003】
近年、最下層の柱脚の基礎構造物への接合を半剛接合にすることが提案されている。例えば特許文献1では、柱の中間部に比べると、横断面が小さくかつ主筋の数が少ない柱脚及び柱頭が開示されている。このような柱脚及び柱頭と下部及び上部のスラブとの接合構造は、高さ方向に一様な変形モードを形成するためのものであり、地震時に他の接合構造に比べて早期に曲げ降伏モーメントに達し、ヒンジを形成するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−136888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の接合構造では、曲げ耐力だけでなく、軸力やせん断力に対する耐力も減少していた。
【0006】
このような背景に鑑み、本発明は、最下層への応力集中を回避するために曲げ耐力を減少させ、かつ他の耐力の減少が抑制された複数層を有する鉄筋コンクリート造の建築物の柱脚接合構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の少なくともいくつかの実施形態は、最下層への応力集中を回避するべく形成された複数層を有する建築物の柱脚接合構造(2,30,50,70)であって、鉄筋コンクリート造の基礎構造物(4)と、前記基礎構造物上に立設され、前記基礎構造物に連結されて鉛直方向に延在する第1柱筋(12)、及び前記基礎構造物に連結されずに鉛直方向に延在する第2柱筋(14)を有する鉄筋コンクリート造の柱(6)と、前記基礎構造物及び前記柱間の少なくとも一部に配置される納まり部材(20)とを備え、前記納まり部材は、ゴム(24,34,54/40,60,78)及び鋼板(26,36,56,74)の複合構造からなることを特徴とする。柱脚接合構造(2,30,50)において、前記複合構造は、前記ゴム(24,34,54)及び前記鋼板(26,36,56)が交互に積み重ねられた積層構造を含み、前記積層構造は、前記第1柱筋を挿通させる孔を有するとよい。
【0008】
この構成によれば、柱脚が半剛接合であることによって、柱脚への応力集中が緩和でき、柱及び基礎梁を含む建物全体の断面を小さくすることができるとともに、基礎構造物と柱との間の納まり部材によって両者間でコンクリートが付着しないため、軸耐力に影響を与えることなく、ひび割れの伝播を防止できる。また、納まり部材が、ゴム及び鋼板の複合構造からなるため、鋼板によって大きな軸耐力が得られ、ゴムによってせん断力又は回転力による変形に対する高い許容性が得られる。
【0009】
本発明の少なくともいくつかの実施形態に係る柱脚接合構造は、上記構成において、前記納まり部材は、前記柱の中心軸の延長線を含む位置に配置され、前記第1柱筋は、前記第2柱筋よりも前記柱の前記中心軸に近接して配置されることを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、基礎構造物と柱とを連結させる第1柱筋が柱の中心軸に近接する位置に配置されるため、柱の揺れによって生じる柱脚接合部における回転変形の許容性を高めることができる。
【0013】
本発明の少なくともいくつかの実施形態に係る柱脚接合構造(30,50)は、上記構成において、前記納まり部材(32,52)は、水平方向の中央に配置された前記積層構造を有する中央部(38,58)と、前記中央部を包囲するように水平方向の周囲に配置された前記ゴムからなる外周部(40,60)とを有することを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、回転変形に対する許容性を高めることができる。
【0015】
本発明の少なくともいくつかの実施形態に係る柱脚接合構造(50)は、上記構成において、前記積層構造における前記鋼板(56)は、中心から水平方向の周縁に向かうにつれて薄くなるように構成されたことを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、回転変形に対する許容性をさらに高めることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、最下層への応力集中を回避するために曲げ耐力を減少させ、かつ他の耐力の減少が抑制された複数層を有する建築物の柱脚接合構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】第1実施形態に係る柱脚接合構造の縦断面図
図2図1中のII−II横断面図
図3】第2実施形態に係る柱脚接合構造の縦断面図
図4】第3実施形態に係る柱脚接合構造の縦断面図
図5】第4実施形態に係る柱脚接合構造の縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。各図において、柱6のコンクリート断面の図示は省略している。まず、図1及び図2を参照して、本発明の第1実施形態を説明する。図1は、第1実施形態に係る柱脚接合構造2の模式的縦断面図(図2におけるI−I断面)であり、図2は、図1におけるII−II断面である。柱脚接合構造2は、鉄筋コンクリート造の基礎構造物であるフーチング4に、鉄筋コンクリート造の柱6が接合された構造であり、複数層を有する建築物の最下層に適用される。
【0022】
フーチング4は、柱6からの荷重を地盤に伝える鉄筋コンクリート造の部材であって、水平方向に延在している。フーチング4は、水平方向に延在するフーチング主筋8、鉛直方向に延在して下端側が杭(図示せず)に突入しフーチング4を杭に定着させる定着筋10、及びあばら筋(図示せず)を有する。
【0023】
柱6は、建築物の上部構造の荷重を支持してその荷重をフーチング4に伝える鉄筋コンクリート造の部材であって、フーチング4に立設される。柱6は、平面視で長方形又は正方形をなす。なお、柱6の下端部の横断面積を上部よりも小さくしてもよく、その場合、下端部に高強度コンクリートを用い、又は下端部を鋼管で補強することが好ましい。
【0024】
柱6は、フーチング4に連結されて鉛直方向に延在する第1柱筋12、フーチング4に連結されずに鉛直方向に延在して柱6の主筋をなす第2柱筋14、帯筋16及び副帯筋18を有する。第1柱筋12の各々は、柱6から延出し、フーチング4の内部に至る。第1柱筋12は、下端側がフーチング4に突入しているため、柱6とフーチング4とを連結している。第2柱筋14は、下端が柱6の下端近傍に位置し、平面視で第1柱筋12よりも外側に配置される。第2柱筋14は、フーチング4に突入していないため、柱6とフーチング4とを連結していない。第1柱筋12の横断面積の合計は、柱6の主筋である第2柱筋14の横断面積の合計よりも小さいことが好ましい。帯筋16は、下端側の第2柱筋14が延在していない位置においては第1柱筋12を囲むように配置され、これより上方においては第2柱筋14を囲むように配置されている。帯筋16の本数や間隔は適宜変更される。副帯筋18は、帯筋16の間を柱6の幅又はせい方向に沿って第1柱筋12及び第2柱筋14に近接するように配置される。副帯筋18の本数や間隔は適宜変更され、不要な場合は設置されない。
【0025】
柱6の下面6aとフーチング4の上面4aとの間には、納まり部材20が配置されている。納まり部材20は、平面視で正方形又は長方形をなし、柱6よりも一回り小さい輪郭を有する平板状の部材である。図2における想像線は、納まり部材20の輪郭を示す。平面視で、第1柱筋12は、納まり部材20の内側に配置され、第2柱筋14は、納まり部材20の外側に配置されている。納まり部材20には、第1柱筋12を挿通させる孔22が設けられている。
【0026】
納まり部材20は、その全体において、ゴム板24と鋼板26とが交互に積み重なった積層構造から構成される。図1に示す積層構造では、最上層及び最下層がゴム板24となるように4枚のゴム板24と3枚の鋼板26とが交互に積層されているが、最上層及び最下層の双方又は一方を鋼板26から形成してよく、各々の枚数も適宜変更できる。
【0027】
納まり部材20の周縁に、目地部材(図示せず)を配置して、平面視において納まり部材20の輪郭が柱6の輪郭よりも小さいことによって生じる隙間を埋めてもよい。目地部材は、発泡ポリエチレン等の柔軟で緩衝性を有する樹脂を素材とし、外周面が柱6の側面に整合することが好ましい。
【0028】
柱脚接合構造2の作用効果を説明する。第1柱筋12の横断面積の合計が、柱6の主筋である第2柱筋14の横断面積の合計よりも小さく、第1柱筋12が第2柱筋14よりも内側に配置されているため、全ての主筋が基礎に連結される構造に比べて、柱6とフーチング4との接合部は、曲げに対する耐力が低くなっている。そのため、複数層を有する建築物において最下層への応力集中を回避することができ、柱6や一部の梁(図示せず)の断面を小さくすることができる。
【0029】
なお、曲げに抵抗するという意味において、第1柱筋12は柱6の主筋として機能している。また、柱6の外周に沿って所定の被りをもって配置されている点においても第1柱筋12は柱6の主筋を構成していると言える。第1柱筋12は、柱6からフーチング4にかけて延在し、柱6においては少なくとも定着長さ分だけ鉛直方向に延在していればよく、必ずしも柱6の全高にわたって延在している必要はない。
【0030】
また本実施形態では、納まり部材20によって、柱6とフーチング4とのコンクリート部分の縁が切れているため、コンクリート部分において、柱6の下端側の軸耐力に悪影響を与えることなく、ひび割れの伝播や曲げ応力の伝達が防がれている。また、納まり部材20に孔22が設けられることにより、第1柱筋12を柱6の中心軸に寄せて配置することが可能になり、曲げ応力が負荷されたときに、第1柱筋12を引き抜く方向に働く力を抑えることができる。また、納まり部材20がゴム板24と鋼板26との積層構造からなることにより、軸方向の耐力が高いとともに、柱6の揺れによって生じる回転変形や、水平方向へのせん断変形に対する許容性が高い。また、平面視において、納まり部材20の輪郭が柱6の輪郭よりも小さいことから、回転変形を許容しやすい。
【0031】
次に、図3を参照して、本発明の第2実施形態に係る柱脚接合構造30を説明する。なお、第1実施形態と同様の構成には、同一の符号を付してその説明を省略する。図3は、第2実施形態に係る柱脚接合構造30の模式的縦断面図である。断面の位置は、第1実施形態に係る図1の断面の位置に対応する。第2実施家形態に係る柱脚接合構造30は、納まり部材32の構造において第1実施形態と異なる。
【0032】
納まり部材32は、水平方向の中央に配置されたゴム板34及び鋼板36の積層構造からなる中央部38と、水平方向において中央部38を包囲するように配置されたゴムからなる外周部40とを有する。第1柱筋12は、外周部40に設けられた孔22に挿通される。外周部40がゴムからなるため、第1実施形態に比べて回転変形に対する許容性が高くなっている。
【0033】
次に、図4を参照して、本発明の第3実施形態に係る柱脚接合構造50を説明する。なお、第2実施形態と同様の構成には、同一の符号を付してその説明を省略する。図4は、第3実施形態に係る柱脚接合構造50の模式的縦断面図である。断面の位置は、第1実施形態に係る図1の断面の位置に対応する。
【0034】
納まり部材52は、ゴム板54及び鋼板56の積層構造からなる中央部58と、ゴムからなる外周部60とを有する点は第2実施形態と共通するが、鋼板56の形状が第2実施形態と異なる。鋼板56は、水平方向の中心から外側に向かうに従って、鉛直方向の厚さが薄くなっている。例えば、鋼板56は、縦断面がひし形となるように、2つの円錐又は角錐の底面を互いに合わせた形状とすることができる。鋼板56がこのような形状であるため、第2実施形態に比べてさらに回転変形に対する許容性が高くなっている。
【0035】
次に、図5を参照して、本発明の第4実施形態に係る柱脚接合構造70を説明する。なお、第1実施形態と同様の構成には、同一の符号を付してその説明を省略する。図5は、第4実施形態に係る柱脚接合構造70の模式的縦断面図である。断面の位置は、第1実施形態に係る図1の断面の位置に対応する。第4実施家形態に係る柱脚接合構造70は、納まり部材72の構造において第1実施形態と異なる。
【0036】
納まり部材72は、水平方向の中央に複数の鋼板74を積層させた中央部76と、水平方向において中央部76を包囲するように配置されたゴムからなる外周部78とを有する。第1柱筋12は、外周部40に設けられた孔22に挿通される。外周部40がゴムからなるため、第1実施形態に比べて回転変形対する許容性が高くなっている。また、中央部76が積層された鋼板74からなるため、第2実施形態に比べて軸耐力が向上している。なお、中央部76を1枚の鋼板74から構成してもよい。
【0037】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、フーチングに柱の下端部を受容する凹部を設けてもよい。柱及び納まり部材の横断面の形状は、四角形に代えて、他の多角形や、円形、長円形等でもよく、互いに相似形をなさなくともよい。柱は、現場打ちコンクリートでもよく、プレキャストコンクリートでもよい。柱の下端側の幅を納まり部材の幅と同程度まで狭くしてもよく、納まり部材の幅を柱の幅と同程度まで拡げてもよい。第1実施形態における鋼板を、第3実施形態の鋼板のように厚みが変化するように構成してもよい。第2〜第4実施形態において、納まり部材の中央部に孔を設け、第1柱筋の全部又は一部を挿通させてもよい。
【符号の説明】
【0038】
2,30,50,70:柱脚接合構造
4:フーチング(基礎構造物)
6:柱
12:第1柱筋
14:第2柱筋
16:帯筋
18:副帯筋
20,32,52,72:納まり部材
22:孔
24,34,54:ゴム板
26,36,56,74:鋼板
38,58,76:中央部
40,60,78:外周部
図1
図2
図3
図4
図5