特許第6709731号(P6709731)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6709731
(24)【登録日】2020年5月27日
(45)【発行日】2020年6月17日
(54)【発明の名称】チアクマイシンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 1/04 20060101AFI20200608BHJP
   A61P 31/04 20060101ALN20200608BHJP
   A61K 31/7048 20060101ALN20200608BHJP
   C07H 17/08 20060101ALN20200608BHJP
【FI】
   C12P1/04 A
   !A61P31/04
   !A61K31/7048
   !C07H17/08 K
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-541236(P2016-541236)
(86)(22)【出願日】2014年12月18日
(65)【公表番号】特表2017-501707(P2017-501707A)
(43)【公表日】2017年1月19日
(86)【国際出願番号】EP2014078552
(87)【国際公開番号】WO2015091851
(87)【国際公開日】20150625
【審査請求日】2017年11月29日
(31)【優先権主張番号】20131718
(32)【優先日】2013年12月20日
(33)【優先権主張国】NO
(73)【特許権者】
【識別番号】505371232
【氏名又は名称】クセリア ファーマシューティカルズ エーピーエス
【氏名又は名称原語表記】Xellia Pharmaceuticals ApS
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】ハンセン、エスペン フリチョフ
(72)【発明者】
【氏名】クレムスダル、ホーヴァル
【審査官】 高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2013/0267692(US,A1)
【文献】 特表2000−508888(JP,A)
【文献】 特表2005−534332(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)チアクマイシンBの産生菌株を発酵させる工程と、
b)その発酵ブロスを乾燥する工程と、
c)その乾燥物をメタノールで抽出する工程と
を含み、
工程a)の前記菌株は、ダクチロスポランギウムおよびアクチノプラーネスのうちから選択される、チアクマイシンBの製造方法。
【請求項2】
前記ブロスは噴霧乾燥または凍結乾燥される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ブロスは噴霧乾燥される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ブロスは凍結乾燥される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
疎水性吸着樹脂を含んだカラムに抽出溶液を投入することと、溶出前にオプションで洗浄することとを含むクロマトグラフィーの工程をさらに含む、請求項1乃至のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チアクマイシンB(Tiacumicin B)を製造および精製するための改良された方法に関する。具体的には、本発明は、乾燥した発酵ブロスからのチアクマイシンBの精製と、それに続く抽出およびクロマトグラフィーの手法に関する。本発明の方法は、従来技術の方法よりも簡便であり、大規模に商業生産用で容易に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
チアクマイシンBは、米国特許第4918174号明細書または国際公開第2004/014295号に開示されているように産生することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第4918174号明細書
【特許文献2】国際公開第2004/014295号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、適当な溶媒による抽出の前に発酵ブロスを乾燥させる工程を含んだチアクマイシンBの製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
具体的には、本発明は、
a)チアクマイシンBの産生菌株を発酵させる工程と、
b)その発酵ブロスを乾燥する工程と、
c)その乾燥物を溶媒で抽出する工程と
を含むチアクマイシンBの製造方法を提供する。
【0006】
本発明による乾燥工程b)は、噴霧乾燥または凍結乾燥によって実施されてもよい。
一実施形態によれば、本方法で用いられる溶媒は、C〜Cアルコール、C〜Cエーテル、C〜Cケトン、またはC〜Cエステルのうちから選択される。
【0007】
さらに一実施形態によれば、前記溶媒は、メタノール、エタノール、イソプロパノールおよびアセトンのうちから選択される。
本方法で用いられる溶媒は水をさらに含有してもよく、例えば少なくとも1〜40%v/vの水、例えば少なくとも10〜30%v/vの水、または例えば少なくとも15〜20%v/vの水を含有してもよい。そのような溶媒を本開示では水性溶媒と称する。
【0008】
一実施形態によれば、
a)チアクマイシンBの産生菌株を発酵させる工程と、
b)その発酵ブロスを乾燥する工程と、
c)その乾燥物を、50〜90%v/vのメタノール、エタノール、イソプロパノールおよびアセトンのうちから選択される有機溶媒を含有した水性溶媒で抽出する工程と
を含むチアクマイシンBの製造方法が提供される。
【0009】
別の実施形態によれば、
a)チアクマイシンBを産生することができるダクチロスポランギウム(Dactylosporangium)菌株またはアクチノプラーネス(Actinoplanes)菌株を発酵させる工程と、
b)その発酵ブロスを乾燥する工程と、
c)その乾燥物を、60〜90%v/vのメタノールおよびエタノールを含有した水性溶媒で抽出する工程と
を含む方法が提供される。
【0010】
前記抽出は、メタノール、エタノール、イソプロパノールおよびアセトンのうちから選択される溶媒によって実施されてもよい。一実施形態によれば、前記溶媒は、50〜90%v/vのメタノール、エタノール、イソプロパノールまたはアセトンを含有する水性溶媒である。
【0011】
本発明で用いられる溶媒は、一実施形態によれば、60〜90%v/v、好ましくは70〜80%v/v、より好ましくは75%v/vの有機溶媒を含有する水性溶媒であってもよい。前記溶媒は、メタノール、エタノール、イソプロパノールおよびアセトンのうちから選択されてもよい。
【0012】
さらに別の実施形態によれば、前記乾燥は噴霧乾燥によって実施され、かつ抽出工程中に用いられる水性溶媒は70〜80%v/vのメタノールである。さらに別の実施形態によれば、前記乾燥は噴霧乾燥によって実施され、かつ抽出工程中に用いられる水性溶媒は70〜80%v/vのエタノールである。
【0013】
さらに別の実施形態によれば、前記乾燥は凍結乾燥によって実施され、かつ抽出工程中に用いられる水性溶媒は70〜80%v/vのメタノールである。さらに別の実施形態によれば、前記乾燥は凍結乾燥により実施され、かつ抽出工程中に用いられる水性溶媒は70〜80%v/vのエタノールである。
【0014】
本方法によれば、乾燥した発酵ブロスの質量に対する溶媒の体積の割合は1〜6mL/gであってもよい。本発明の一実施形態によれば、乾燥した発酵ブロスの質量に対する溶媒の体積の割合は2〜4mL/gである。
【0015】
本発明によれば、発酵工程に用いられるチアクマイシンBの産生菌株は、ダクチロスポランギウムおよびアクチノプラーネスのうちから選択されてもよい。
様々な実施形態を含む本発明の様々な態様等について、詳細な説明、実施例および添付図面を参照しながら、さらに詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】噴霧乾燥した発酵物の異なる溶媒濃度での抽出効率を示す図。
図2】噴霧乾燥した発酵物の異なるメタノール濃度での抽出収量を示す図。
図3】噴霧乾燥した発酵物を異なる量の75%v/v水性メタノールで抽出したときの収量を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明によれば、本発明の発酵ブロスを提供するために、いかなるチアクマイシンB産生菌種を用いてもよい。一実施形態によれば、チアクマイシンBは、ダクチロスポランギウム・オーランティアカム亜種ハムデネンシス(Dactylosporangium aurantiacum subspecies hamdenensi)NRRL18085、またはアクチノプラネス・デカネンシス(Actinoplanes deccanensis)ATCC21983の発酵によって産生され得る。
【0018】
発酵ブロスは、細菌バイオマスおよびチアクマイシン化合物を含有する培養液である。
発酵ブロスの乾燥は凍結乾燥によって実施され得る。好ましい凍結乾燥法は、温度を−40℃に低下させて圧力を200ミリトル(約26.7Pa)に減圧することと、次に−5℃〜5℃の範囲の温度で一次乾燥を行うことと、その後に約20℃の温度で二次乾燥を行うこととを含む。
【0019】
本発明の発酵ブロスに好ましい乾燥法は噴霧乾燥である。噴霧乾燥プロセスにおける高い温度にもかかわらず、チアクマイシンBを高収率で回収することができる。
好ましい噴霧乾燥法は、180〜220℃の入口温度と、80〜100℃の出口温度とを含む。乾燥は、0%〜12%w/wの水分含有量を達成するために実施され、10%w/w未満、例えば2%〜8%w/wの水分含有量がより好ましい。
【0020】
〜Cアルコールは、1つ、2つ、3つ、4つ、または5つの炭素原子を有する脂肪族アルコールを包含することを意味する。
〜Cエーテルは、4つ、5つ、または6つの炭素原子を有する脂肪族エーテルを包含することを意味する。
【0021】
〜Cケトンは、2つ、3つ、4つ、または5つの炭素原子を有する脂肪族ケトンを包含することを意味する。
〜Cエステルは、1つ、2つ、3つ、4つ、または5つの炭素原子を有する脂肪族エステルを包含することを意味する。
【0022】
一実施形態によれば、乾燥した発酵ブロスは、メタノール、エタノール、イソプロパノールおよびアセトンのうちから選択される溶媒で抽出される。
別の実施形態によれば、乾燥した発酵ブロスは、50〜90%v/vのメタノール、エタノール、イソプロパノールおよびアセトンのうちから選択される有機溶媒、好ましくは70〜80%v/v、より好ましくは75%v/vのメタノール、エタノール、イソプロパノールおよびアセトンのうちから選択される有機溶媒を含有する水性溶媒で抽出される。抽出中の好ましいpHは約5〜7であり、好ましくは6〜7、より好ましくは7である。抽出中の好ましい温度は20〜25℃である。
【0023】
抽出溶液中のメタノールまたはエタノールの濃度は、その後の蒸発または希釈によって、吸着樹脂へのチアクマイシンBの結合に適した濃度、例えば水中に50%の有機溶媒のような濃度に調節される。吸着樹脂に結合した後、樹脂は、未結合の不純物を除去するために、例えば50%の有機溶媒のような水性溶媒溶液で洗浄される。結合したチアクマイシンBは、60〜100%の有機溶媒と0〜40v/vの水とを含有する溶媒で溶出させることができる。
【0024】
実験データ:
実施例1
ダクチロスポランギウム・オーランティアカム亜種ハムデネンシスNRRL18085の発酵物を、二流体ノズルを備えたニロ・モバイル・マイナー(Niro Mobile Minor)噴霧乾燥機を用いて直接噴霧乾燥させた。気圧は1.2バール(120kPa)であった。入口温度は約200℃であり、出口温度は90〜92℃であった。供給速度は0.5〜1.0リットル/時であった。噴霧乾燥した粉末を約1gずつ、8つの5mLメスフラスコに分取した。次に溶媒を5mLの標線まで添加した。異なる溶媒、すなわち、エタノール、メタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、アセトニトリル、アセトン、ジメチルスルホキシド、水を用いた。そのフラスコをオーバーヘッドスターラーで1時間にわたって振盪した。スラリーを取り出して遠心分離した。生じた上澄み液をHPLCによって分析した。DMSOは抽出に最も有効な溶媒であった。しかしながら、DMSOは沸点が高いために生産規模に適していない。驚くべきことに、メタノールが他の溶媒の中で最も高い収率を与えた。その収率は、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、アセトニトリルおよびアセトンに比較して50〜100%高かった。
【0025】
実施例2
噴霧乾燥したダクチロスポランギウム・オーランティアカム亜種ハムデネンシスNRRL18085の発酵物を異なる溶媒および異なる溶媒/水組成で抽出した。エタノール、メタノール、イソプロパノールおよびアセトンは、100%、75%、50%および25%の水中濃度で用いた。乾燥した発酵物の重量の5倍の量で用いた(すなわち溶液1mL当たり200mgの粉末)。そのスラリーをオーバーヘッド振盪器で4時間にわたって振盪した。そしてスラリーを遠心分離し、上澄み液をHPLCによって分析した。結果を図1に示す。
【0026】
実施例3
噴霧乾燥したダクチロスポランギウム・オーランティアカム亜種ハムデネンシスNRRL18085の発酵物を異なる水中濃度のメタノールで抽出した。1gの発酵物を5mLのメスフラスコに移して、メタノール/水溶液を標線まで添加した。精製水(RO)中65%、70%、75%、80%および85%のメタノールの濃度を試験した。そのスラリーをオーバーヘッド振盪器で1.5時間にわたって振盪した。そしてスラリーを遠心分離し、上澄み液をHPLCによって分析した。上澄み液の乾燥重量も測定した。結果を図2に示す。
【0027】
抽出収量のピークは75〜80%メタノールに存在した。乾燥重量はメタノール濃度が増大するにつれて減少した。HPLC純度はすべてのメタノール濃度において同一なままであった。
【0028】
実施例4
噴霧乾燥したダクチロスポランギウム・オーランティアカム亜種ハムデネンシスNRRL18085の発酵物を異なる量の75%メタノール/水で抽出した。異なる試験管内において、1gの発酵物に、2mL、3mL、4mL、5mL、および10mLの75%メタノールを添加した。そのスラリーをオーバーヘッド振盪器で1.5時間にわたって振盪した。そしてスラリーを遠心分離し、上澄み液をHPLCによって分析した。
【0029】
結果を図3に示す。その収率はすべての量について同様であった。
実施例5
噴霧乾燥したダクチロスポランギウム・オーランティアカム亜種ハムデネンシスNRRL18085の発酵物を2時間にわたって撹拌しながら75%メタノール/水(重量の3倍の量)で抽出した。スラリーを遠心分離し、ロータリーエバポレータ内で2倍に濃縮して、溶液中のメタノールを50%とした。そしてカラムに充填したHP20樹脂に濃縮物を直接投入した。そのカラムを50%メタノールで洗浄し、50%メタノールから100%メタノールまでの勾配で溶出した。収率は92%であった。
【0030】
実施例6
本発明の乾燥工程は、下記の実施例に示すように、小規模および大規模の双方において凍結乾燥によって実施してもよい。
【0031】
6.1 小規模凍結乾燥
4Lのダクチロスポランギウム・オーランティアカム亜種ハムデネンシスNRRL18085の発酵物をスチールトレイに注いだ(液高:1.5〜2.0cm)。そのトレイをヴァーティス・ジェネシス12ES凍結乾燥機内に載置して、−40℃にまで冷凍した。この温度に達した後、トレイを2時間放置した。次に、凝縮器を約−50°Cに冷却し、200ミリトル(約26.7Pa)の真空を確立した。棚温度は600分間にわたって−5°Cに調節した。次に、棚温度を速やかに0°Cに調節して、1250分間にわたって維持した。再び速やかに棚温度を+5°Cに調節し、この温度で生成物を600分間維持した。速やかに+20°Cに調節することによって二次乾燥を行い、その温度において生成物を1250分間にわたって真空(200ミリトル(約26.7Pa))中に放置した。その後に凍結乾燥機からタンクを取り出すと、179gの乾燥物が得られた。
【0032】
6.2 大規模凍結乾燥
約110Lのダクチロスポランギウム・オーランティアカム亜種ハムデネンシスNRRL18085の発酵物を48枚のスチールトレイに注いだ(液高:1.5〜2.0cm)。そのトレイを2つの凍結乾燥機内に配置して、−20℃にまで冷凍した。この温度に達した後、発酵物をしばらくの間放置した。凝縮器を約−40°Cに冷却した。次に、約200ミリトル(約26.7Pa)の真空を確立した。棚温度は約44時間にわたって+40℃に調節した。その後にトレイを凍結乾燥機から取り出すと、6.6kgの乾燥物が得られた。
【0033】
400gの凍結乾燥したダクチロスポランギウム・オーランティアカム亜種ハムデネンシスNRRL18085の発酵物に2000mLの80%v/vメタノール−水を添加して、1時間にわたって撹拌した。次に、混合物を4500rpmで15分間遠心分離した。上澄み液を静かに移した(1550mLの量)。沈降物に1400mLの80%v/vメタノール−水を添加した。その混合物を一晩放置して、翌日に1時間撹拌した。その後、混合物を4500rpmで15分間遠心分離した。上澄み液を静かに移した(1380mLの量)。双方の上澄み液を合わせると2930mLの総量であった。全収率は79%。
【0034】
次に、この溶液を40°Cの水浴上において減圧下で蒸発させた。最終体積は1220mLであり、カール・フィッシャー滴定による測定で40%の水を含有していた。この溶液をHP20樹脂が充填されたカラムに投入した。
図1
図2
図3