特許第6709734号(P6709734)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6709734アルコキシシリル基含有有機EL色素およびその製造方法
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  • 特許6709734-アルコキシシリル基含有有機EL色素およびその製造方法 図000030
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6709734
(24)【登録日】2020年5月27日
(45)【発行日】2020年6月17日
(54)【発明の名称】アルコキシシリル基含有有機EL色素およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09B 57/00 20060101AFI20200608BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20200608BHJP
   G01N 33/532 20060101ALI20200608BHJP
【FI】
   C09B57/00 G
   C09B57/00 H
   C09K11/06 660
   G01N33/532 B
【請求項の数】12
【全頁数】39
(21)【出願番号】特願2016-556680(P2016-556680)
(86)(22)【出願日】2015年10月30日
(86)【国際出願番号】JP2015080820
(87)【国際公開番号】WO2016068324
(87)【国際公開日】20160506
【審査請求日】2018年10月30日
(31)【優先権主張番号】特願2014-223403(P2014-223403)
(32)【優先日】2014年10月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503474098
【氏名又は名称】礒部 信一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100103115
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 康廣
(72)【発明者】
【氏名】礒部 信一郎
(72)【発明者】
【氏名】又賀 駿太郎
【審査官】 池上 佳菜子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/070582(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/142316(WO,A1)
【文献】 特開2006−265306(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/074722(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0168671(US,A1)
【文献】 国際公開第2012/111142(WO,A1)
【文献】 特開2010−037511(JP,A)
【文献】 特開2008−156556(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09B 57/00
C09K 11/00
G01N 33/00
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式X−Y−Q−Z−Si(R(OR3−nで表され、Xが有機EL色素、Yが直接結合あるいは−(CH−(pは1から10の整数)または−(O−CHCH−(qは1から10の整数)であり、Qはアミド結合、エーテル結合、チオエーテル結合、チオエステル結合、チオウレア結合、ジスルフィド結合およびポリオキシエチレン結合から選択される1種の結合であり、Zは−(CH−または−(CHNH(CH−であり、RとRは炭素数1から4のアルキル基であり、nは0または1であり、前記有機EL色素が、ジアゾロピリジン誘導体であるアルコキシシリル基含有有機EL色素。
【請求項2】
前記ジアゾロピリジン誘導体が、以下の一般式(1)、(2)又は(3)で表され、Mが前記の結合基と直接結合あるいは−(CH−(pは1から10の整数)または−(O−CHCH−(qは1から10の整数)を介して結合している、請求項1記載のアルコキシシリル基含有有機EL色素。
【化1】


(式(1)および式(3)ではRは、そして式(2)ではRとRの一方は、一般式L−Mで示され、
は、置換基を有してもよいピリジニウム基、2級アミニウム基、3級アミニウム基、4級アンモニウム基、ピペリジニウム基、ピペラジニウム基、イミダゾリウム基、チアゾリウム基、オキサゾリウム基、キノリウム基、ベンゾイミダゾリウム基、ベンゾチアゾリウム基又はベンゾオキサゾリウム基である窒素カチオン含有基、あるいは置換基を有してもよいピリジル基、2級アミノ基、3級アミノ基、ピペリジル基、ピペラジル基、イミダゾリル基、チアゾリル基、オキサゾリル基、キノリル基、ベンゾイミダゾリル基、ベンゾチアゾリル基又はベンゾオキサゾリル基である窒素含有基を示し、
は、−(CH=CR−で表され、Mと中心ピリジン環または中心ベンゼン環とを連結するリンカーであり、rは1から5の整数からなり、Rは、水素原子;置換基を有してもよい炭素数1から6の直鎖状または分岐状のアルキル基;置換基を有してもよいスルホ基;置換基を有してもよいイミダゾリウム基、ピリジニウム基およびフラン基からなる群から選択された複素環基;置換基を有してもよい2級アミノ基、3級アミノ基および4級アミノ基からなる群から選択されたアミノ基;置換基を有してもよいヒドロキシ基;置換基を有してもよいアルコキシ基;置換基を有してもよいアルデヒド基;置換基を有してもよいカルボキシル基;置換基を有してもよい芳香族基のいずれか1種を示し、
式(2)のRとRの残部、式(1)から式(3)のRおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよい芳香族炭化水素基又は脂肪族炭化水素基又は複素環基を示し、
Xは置換基を有していてもよい窒素原子、硫黄原子、酸素原子、セレン原子又はボロン原子を示し、
R’は芳香環を含んでもよいアルキル基からなる脂肪族炭化水素基あるいは芳香族炭化水素基、
Anは、ハロゲン化物イオン、CFSO、BF又はPFを示す。)
【請求項3】
前記のRおよびRが、それぞれ独立に、置換基を有してもよいチエニル基、フラニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、チアジアゾリル基、ピラゾリル基、ピリジル基またはキノリル基を示す請求項2記載のアルコキシシリル基含有有機EL色素。
【請求項4】
前記のRおよびRが、置換基を有してもよいチエニル基を示し、該置換基が、置換基を有してもよい芳香族炭化水素基、脂肪族炭化水素基または複素環基である請求項3記載のアルコキシシリル基含有有機EL色素。
【請求項5】
前記ジアゾロピリジン誘導体が、以下の一般式(4)、(5)又は(6)で表され、Mが前記の結合基と直接結合あるいは−(CH−(pは1から10の整数)または−(O−CHCH−(qは1から10の整数)を介して結合している、請求項1記載のアルコキシシリル基含有有機EL色素。
【化2】

(式(4)および式(6)ではRは、そして式(5)ではRとRの一方は、一般式L−Mで示され、
は、置換基を有してもよいピリジニウム基、2級アミニウム基、3級アミニウム基、4級アンモニウム基、ピペリジニウム基、ピペラジニウム基、イミダゾリウム基、チアゾリウム基、オキサゾリウム基、キノリウム基、ベンゾイミダゾリウム基、ベンゾチアゾリウム基又はベンゾオキサゾリウム基である窒素カチオン含有基、あるいは置換基を有してもよいピリジル基、2級アミノ基、3級アミノ基、ピペリジル基、ピペラジル基、イミダゾリル基、チアゾリル基、オキサゾリル基、キノリル基、ベンゾイミダゾリル基、ベンゾチアゾリル基又はベンゾオキサゾリル基である窒素含有基を示し、
は、Mと中心ピリジン環または中心ベンゼン環とを連結するリンカーであり、直接結合、あるいは−(CH−(sは1〜4の整数)、−NHCOO−、−CONH−、−COO−、−SONH−、−HN−C(=NH)−NH−、−O−、−S−、−NR(Rはアルキル基)、−Ar−(Arは芳香族炭化水素基)、−CO−Ar−NR−、からなる群から選択された1種以上の官能基を示し、
式(5)のRとRの残部、式(4)から式(6)のRおよびRは、それぞれ独立に、置換基を有してもよいチエニル基、フラニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、チアジアゾリル基、ピラゾリル基、ピリジル基またはキノリル基を示し、
Xは置換基を有していてもよい窒素原子、硫黄原子、酸素原子、セレン原子又はボロン原子を示し、
R’は芳香環を含んでもよいアルキル基からなる脂肪族炭化水素基あるいは芳香族炭化水素基、
Anは、ハロゲン化物イオン、CFSO、BF又はPFを示す。)
【請求項6】
前記のRおよびRが、それぞれ独立に、置換基を有してもよいチエニル基、フラニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、チアジアゾリル基、ピラゾリル基、ピリジル基またはキノリル基を示す請求項5記載のアルコキシシリル基含有有機EL色素。
【請求項7】
前記のRおよびRが、置換基を有してもよいチエニル基を示し、該置換基が、置換基を有してもよい芳香族炭化水素基、脂肪族炭化水素基または複素環基である請求項6記載のアルコキシシリル基含有有機EL色素。
【請求項8】
前記ジアゾロピリジン誘導体が、以下の一般式(7)、(8)又は(9)で表され、RまたはRが前記の結合基と直接結合している、請求項1記載のアルコキシシリル基含有有機EL色素。
【化3】

(式(7)、(8)、(9)のR、R、R、Rは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基としてアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルエステル基、リン酸エステル基、硫酸エステル基、ニトリル基、ヒドロキシル基、シアノ基、スルホニル基、芳香族炭化水素基又は複素環基を有してもよい芳香族炭化水素基又は炭化水素基又は複素環基を示し、
Xは置換基を有していてもよい窒素原子、硫黄原子、酸素原子、セレン原子またはボロン原子を示し、
R‘は芳香環を含んでも良いアルキル基からなる脂肪族炭化水素基あるいは芳香族炭化水素基、
Anは、ハロゲン化物イオン、CFSO、BF又はPFを示す。)
【請求項9】
前記のRおよびRが、それぞれ独立に、置換基を有してもよいチエニル基、フラニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、チアジアゾリル基、ピラゾリル基、ピリジル基またはキノリル基を示す請求項8記載のアルコキシシリル基含有有機EL色素。
【請求項10】
上記のRおよびRが、置換基を有してもよいチエニル基を示し、該置換基が、置換基を有してもよい芳香族炭化水素基、脂肪族炭化水素基または複素環基である請求項9記載のアルコキシシリル基含有有機EL色素。
【請求項11】
請求項1記載のアルコキシシリル基含有有機EL色素の製造方法であって、
前記有機EL色素が、スクシンイミジルエステル基、アルコラート基、アミノ基、メルカプト基、および末端ヒドロキシ基含有ポリオキシエチレン基からなる群から選択される1種の反応性基を有し、前記有機EL色素とシランカップリング剤を混合する工程を含む、該製造方法。
【請求項12】
請求項1記載のアルコキシシリル基含有有機EL色素の縮合体を含む蛍光シリカ粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコキシシリル基含有有機EL色素およびその製造方法に関し、さらに詳しくは核酸、タンパク質、ペプチド類、そして糖類等の生体分子の検出に用いる蛍光色素含有シリカ粒子の製造に用いるアルコキシシリル基含有有機EL色素およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ヒトゲノムの全容が明らかにされ、遺伝子治療、遺伝子診断などを目的としたポストゲノム研究が盛んに行われている。例えば、DNA解析は、DNAマイクロアレイ基盤上に固定されたプローブDNAと、蛍光色素等で標識されたサンプルDNAとをハイブリダイズさせて二本鎖を形成させ、サンプルDNAの検出を行っている。これは蛍光色素で標識した核酸をPCR伸長し、基盤上でハイブリダイゼーションを行った後に測定する手法である。最近では、より多くのアミノ基を有するプライマーを用いた手法、DNAにアミノ基を導入する手法がとられている。
【0003】
標識には蛍光色素が広く使用されているが、水溶液中では消光を起こしやすいという問題がある。これに対し、シリカナノ粒子の中に蛍光色素を導入した蛍光色素含有シリカ粒子(以下、蛍光シリカ粒子という)を用いることで、蛍光色素の消光を抑制し、蛍光強度を増加させる方法が提案されている(例えば、特許文献1)。特許文献1は、有機色素分子としてテトラメチルローダミン・イソチオシアネート(TRITC)を用い、TRITCとオルガノシラン化合物を混合して色素前駆体を形成し、その色素前駆体を水溶液と混合して密集蛍光コアを形成し、その密集蛍光コアとシリカ前駆体を混合して密集コア上にシリカ殻を形成することで蛍光単分散ナノ粒子を製造する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−514708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の蛍光シリカ粒子は、乾燥状態では退光し易く、蛍光強度が十分ではないという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、乾燥状態でも退光しにくい蛍光シリカ粒子の製造に用いることのできるアルコキシシリル基含有有機EL色素およびその製造方法を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明のアルコキシシリル基含有有機EL色素は、一般式X―Y−Q−Z−Si(R(OR3−nで表され、Xが有機EL色素、Yが直接結合あるいは−(CH−(pは1から10の整数)または−(O−CHCH−(qは1から10の整数)であり、Qはアミド結合、エーテル結合、チオエーテル結合、チオエステル結合、チオウレア結合、ジスルフィド結合およびポリオキシエチレン結合から選択される1種の結合であり、Zは−(CH−または−(CHNH(CH−であり、RとRは炭素数1から4のアルキル基であり、nは0または1であることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の製造方法は、上記のアルコキシシリル基含有有機EL色素の製造方法であって、前記有機EL色素が、スクシンイミジルエステル基、アルコラート基、アミノ基、メルカプト基、および末端ヒドロキシ基含有ポリオキシエチレン基からなる群から選択される1種の反応性基を有し、前記有機EL色素とシランカップリング剤を混合する工程を含むことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の蛍光シリカ粒子は、上記のアルコキシシリル基含有有機EL色素の縮合体を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のアルコキシシリル基含有有機EL色素を用いることで、乾燥状態でも高い蛍光強度を有する蛍光シリカ粒子を製造することが可能となる。また、有機EL色素の置換基を変えることにより励起波長及び発光波長を変化させることができるので、蛍光波長の選択の自由度が増加し、レッド、オレンジ、イエロー、グリーン、ブルーなど多くの蛍光波長を用いることができる。これにより、ストークスシフトの大きい(励起波長と蛍光波長の差が大きい)2種以上の蛍光色素を用いることが可能となり、一つの試料中に含まれる複数の標的核酸を同時に検出することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明のアルコキシシリル基含有有機EL色素の退光性試験の結果を示す蛍光顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明のアルコキシシリル基含有有機EL色素は、一般式X―Y−Q−Z−Si(R(OR3−nで表され、Xが有機EL色素、Yが直接結合あるいは−(CH−(pは1から10の整数)または−(O−CHCH−(qは1から10の整数)であり、Qはアミド結合、エーテル結合、チオエーテル結合、チオエステル結合、チオウレア結合、ジスルフィド結合およびポリオキシエチレン結合から選択される1種の結合であり、Zは−(CH−または−(CHNH(CH−であり、RとRは炭素数1から4のアルキル基であり、nは0または1であることを特徴とするものである。
【0013】
本発明に用いる有機EL色素は、一対の陽極と陰極との間に固体状態で挟持され、陽極から注入された正孔と陰極から注入された電子とが再結合する際のエネルギーにより発光可能な色素であれば特に限定されない。例えば、テトラフェニルブタジエンやペリレン等の多環芳香族化合物、シクロペンタジエン誘導体、ジスチリルピラジン誘導体、アクリドン誘導体、キナクドリン誘導体、スチルベン誘導体、フェノチアジン誘導体、ピラジノピリジン誘導体、ジアゾロピリジン誘導体、イミダゾール誘導体、カルバゾール誘導体そしてテトラフェニルチオフェン誘導体等を用いることができる。好ましくは、ジアゾロピリジン誘導体、イミダゾール誘導体またはカルバゾール誘導体である。
【0014】
本発明に用いる有機EL色素は、その置換基を変えることにより、励起波長及び発光波長を変化させて、レッド、ブルー、グリーンの発光色を得ることができる。
【0015】
前記のYは、直接結合あるいは−(CH−(pは1から10の整数)または−(O−CHCH−(qは1から10の整数)を示す。pは好ましくは1から8、より好ましくは1から4である。また、qは好ましくは1から8、より好ましくは1から4である。
【0016】
また、前記のQは、アミド結合、エーテル結合、チオエーテル結合、チオエステル結合、チオウレア結合、ジスルフィド結合およびポリオキシエチレン結合から選択される1種の結合である。好ましくは、アミド結合またはポリオキシエチレン結合である。なお、アミド結合は、−CO(NR)−で表すことができ、Rは水素または炭素数1から4のアルキル基であり、好ましくはRは水素またはメチル基である。また、ポリオキシエチレン結合は、−(O−CHCH−で表すことができ、rは1から10の整数、好ましくは1から5の整数である。
【0017】
また、前記のZは−(CH−または−(CHNH(CH−である。好ましくは−(CH−である。
【0018】
また、Si(R(OR3−nのRとRは炭素数1から4のアルキル基であり、好ましくはメチル基、エチル基、n−プロピル基、より好ましくはメチル基またはエチル基である。また、nは0または1である。
【0019】
また、本発明のアルコキシシリル基含有有機EL色素は、以下の方法を用いて製造できる。すなわち、前記有機EL色素が、スクシンイミジルエステル基、アルコラート基、アミノ基、メルカプト基、および末端ヒドロキシ基含有ポリオキシエチレン基からなる群から選択される1種の反応性基を有し、前記有機EL色素とシランカップリング剤を混合する工程を含むことを特徴とするものである。
【0020】
本発明に用いる有機EL色素は、上記の反応性基を有しており、シランカップリング剤と反応することで共有結合を形成してシランカップリング剤と結合する。共有結合として、アミド結合、エーテル結合、チオウレア結合、ジスルフィド結合またはポリオキシエチレン結合である。アミド結合を形成する場合、シランカップリング剤にはアミノアルキルシランを用い、有機EL色素の反応性基としては、スクシンイミジルエステル基を用いることができる。また、エーテル結合を形成する場合、シランカップリング剤にはハロゲン化アルキルシランを用い、有機EL色素の反応性基としては、アルコラート基を用いることができる。また、チオウレア結合を形成する場合、シランカップリング剤にはイソチオシアネートシランを用い、有機EL色素の反応性基としては、アミノ基を用いることができる。また、ジスルフィド結合を形成する場合、シランカップリング剤にはメルカプトシランを用い、有機EL色素の反応性基としては、メルカプト基を用いることができる。また、ポリオキシエチレン結合を形成する場合、シランカップリング剤にはグリシジルオキシアルキルシランを用い、有機EL色素の反応性基としては、末端ヒドロキシ基含有ポリオキシエチレン基を用いることができる。
【0021】
シランカップリング剤には、アミノアルキルシラン、グリシジルオキシアルキルシラン、メルカプトシラン、イソチオシアネート、イソシアネートシラン、ハロゲン化シラン等を用いることができる。好ましくは、アミノアルキルシランである。アミノアルキルシランの具体例としては、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルジメトキシメチルシラン、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルジエトキシメチルシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができるが、好ましくは3−アミノプロピルトリメトキシシランである。また、グリシジルオキシアルキルシランの具体例としては、ジエトキシ(3−グリシジルオキシプロピル)メチルシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピル(ジメトキシ)メチルシラン、トリエトキシ(3−グリシジルオキシプロピル)シラン等を挙げることができる。また、メルカプトシランには、3−メルカプトプロピルメチルメトキシシランや3−メルカプトプロピルトリメトキシシランを挙げることができる。また、イソシアネートシランには、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシランや3−イソシアネートプロピルトリメトキシシランを挙げることができる。また、イソチオシアネートには、3−チオシアナトプロピルトリエトキシシランを挙げることができる。また、ハロゲン化シランには、(3−ブロモプロピル)トリメトキシシラン、3−トリメトキシシリルプロピルクロライド、3−クロロプロピルジメトキシメチルシラン、3−ヨードプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0022】
有機EL色素とシランカップリング剤との反応は、溶媒にジクロロメタン、クロロホルム、DMF等を用い、室温から60℃の温度で、混合攪拌することにより行うことができる。必要に応じて溶媒を減圧等により除去して反応物を取り出すことができる。
【0023】
また、本発明のアルコキシシリル基含有有機EL色素を用いて蛍光シリカ粒子を製造することができる。蛍光シリカ粒子を製造する方法は、シランカップリング剤を用いてシリカ粒子を製造する方法であれば特に限定されない。例えば特許文献1に記載されているように、アルコキシシリル基含有有機EL色素を水溶液と混合して密集蛍光コアを形成し、その密集蛍光コアとシリカ前駆体を混合して密集コア上にシリカ殻を形成する方法を用いることができる。
【0024】
実施の形態1
本実施の形態に係るアルコキシシリル基含有有機EL色素は、有機EL色素に以下の一般式(1)、(2)、(3)で表されるジアゾロピリジン誘導体を用いる。
【0025】
【化1】
【0026】
式(1)および式(3)ではRは、そして式(2)ではRとRの一方は、一般式L−Mで示され、Mは、置換基を有してもよいピリジニウム基、2級アミニウム基、3級アミニウム基、4級アンモニウム基、ピペリジニウム基、ピペラジニウム基、イミダゾリウム基、チアゾリウム基、オキサゾリウム基、キノリウム基、ベンゾイミダゾリウム基、ベンゾチアゾリウム基又はベンゾオキサゾリウム基である窒素カチオン含有基、あるいは置換基を有してもよいピリジル基、2級アミノ基、3級アミノ基、ピペリジル基、ピペラジル基、イミダゾリル基、チアゾリル基、オキサゾリル基、キノリル基、ベンゾイミダゾリル基、ベンゾチアゾリル基又はベンゾオキサゾリル基である窒素含有基を示し、Lは、−(CH=CR−で表され、Mと中心ピリジン環または中心ベンゼン環とを連結するリンカーであり、sは1から5の整数からなり、Rは、水素原子;置換基を有してもよい炭素数1から6の直鎖状または分岐状のアルキル基;置換基を有してもよいスルホ基;置換基を有してもよいイミダゾリウム基、ピリジニウム基およびフラン基からなる群から選択された複素環基;置換基を有してもよい2級アミノ基、3級アミノ基および4級アミノ基からなる群から選択されたアミノ基;置換基を有してもよいヒドロキシ基;置換基を有してもよいアルコキシ基;置換基を有してもよいアルデヒド基;置換基を有してもよいカルボキシル基;置換基を有してもよい芳香族基のいずれか1種を示し、式(2)のRとRの残部、そして式(1)から(3)のRおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよい芳香族炭化水素基または脂肪族炭化水素基または複素環基を示し、Xは置換基を有していてもよい窒素原子、硫黄原子、酸素原子、セレン原子又はボロン原子を示し、R’は芳香環を含んでもよいアルキル基からなる脂肪族炭化水素基あるいは芳香族炭化水素基、Anは、ハロゲン化物イオン、CFSO、BF又はPFを示す。
【0027】
ここで、Mは、上記の結合基Qと直接結合あるいは−(CH−(pは1から10の整数)または−(O−CHCH−(qは1から10の整数)を介して結合する。
【0028】
およびRは、それぞれ独立に、置換基を有してもよい芳香族炭化水素基または脂肪族炭化水素基または複素環基であることが好ましい。該置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルエステル基、リン酸エステル基、硫酸エステル基、ニトリル基、ヒドロキシル基、シアノ基、スルホニル基、芳香族炭化水素基または複素環基を挙げることができる。該置換基としてのアルキル基は、置換または無置換の炭素数1〜20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基である。また、該置換基としてのアルケニル基は、無置換の炭素数2〜20の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基である。また、該置換基としてのアルキニル基は、無置換の炭素数2〜20の直鎖状もしくは分岐状のアルキニル基である。また、該置換基としてのアルコキシ基は、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、ペンチロキシ基またはフェノキシ基である。また、該置換基としてのアルキルエステル基は、炭素数1から6の直鎖状又は分岐状のアルキルエステルである。また、該置換基としての芳香族炭化水素基は単環又は多環を含むアリール基である。また、該置換基としての複素環基は、例えばチエニル基、フラニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、チアジアゾリル基、ピラゾリル基、ピリジル基またはキノリル基である。また、R、Rが、スルホニル基を有するアリール基であってもよい。
【0029】
上記のRおよびRは、それぞれ独立に、置換基を有してもよいチエニル基、フラニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、チアジアゾリル基、ピラゾリル基、ピリジル基またはキノリル基であることが好ましい。無置換あるいはフェニル基を用いた場合に比べ、蛍光波長が大きく長波長シフトし、大きなストークスシフトが得られるからである。より好ましくは、RおよびRが、置換基を有してもよいチエニル基を示し、該置換基が、置換基を有してもよい芳香族炭化水素基、脂肪族炭化水素基または複素環基である。
ここで、置換基を有してもよい芳香族炭化水素基としては、単環または多環を含むアリール基であり、置換または無置換のフェニル基、ナフチル基、ビフェニル基等を挙げることができる。なお、置換基を有してもよい芳香族炭化水素基は、該置換基を1から3個含むことができ、該置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルエステル基、リン酸エステル基、硫酸エステル基、ニトリル基、ヒドロキシル基、シアノ基、スルホニル基、芳香族炭化水素基または複素環基を挙げることができる。該置換基としてのアルキル基は、置換または無置換の炭素数1〜20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基である。また、該置換基としてのアルケニル基は、無置換の炭素数2〜20の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基である。また、該置換基としてのアルキニル基は、無置換の炭素数2〜20の直鎖状もしくは分岐状のアルキニル基である。また、該置換基としてのアルコキシ基は、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、ペンチロキシ基またはフェノキシ基である。また、該置換基としてのアルキルエステル基は、炭素数1から6の直鎖状又は分岐状のアルキルエステルである。
また、置換基を有してもよい脂肪族炭化水素基としては、置換または無置換の炭素数1〜20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、無置換の炭素数2〜20の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基、無置換の炭素数2〜20の直鎖状もしくは分岐状のアルキニル基等を挙げることができる。
また、置換基を有してもよい複素環基としては、置換または無置換のフラニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、チアジアゾリル基、ピラゾリル基、ピリジル基またはキノリル基を挙げることができる。
チエニル基の置換基としては、置換基を有してもよい芳香族炭化水素基または脂肪族炭化水素基が好ましく、より好ましくは置換基を有してもよい芳香族炭化水素基、さらに好ましくは単環または多環を含むアリール基であり、具体例としては、置換または無置換のフェニル基、ナフチル基、ビフェニル基等を挙げることができる。なお、置換基を有してもよい芳香族炭化水素基は、該置換基を1から3個含むことができ、該置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルエステル基、リン酸エステル基、硫酸エステル基、ニトリル基、ヒドロキシル基、シアノ基、スルホニル基、芳香族炭化水素基または複素環基を挙げることができる。該置換基としてのアルキル基は、置換または無置換の炭素数1〜20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基である。また、該置換基としてのアルケニル基は、無置換の炭素数2〜20の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基である。また、該置換基としてのアルキニル基は、無置換の炭素数2〜20の直鎖状もしくは分岐状のアルキニル基である。また、該置換基としてのアルコキシ基は、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、ペンチロキシ基またはフェノキシ基である。また、該置換基としてのアルキルエステル基は、炭素数1から6の直鎖状又は分岐状のアルキルエステルである。
【0030】
また、上記の反応性基は、上記のMであってもよく、またはMに導入してもよい。
【0031】
本実施の形態によれば、上記のジアゾロピリジン誘導体とシランカップリング剤とを反応させることで得られるアルコキシシリル基含有有機EL色素は乾燥状態でも退光しにくい。そのため、そのアルコキシシリル基含有有機EL色素を用いて蛍光シリカ粒子を製造することで、乾燥状態でも退光しにくい蛍光シリカ粒子を提供することが可能となる。また、本実施の形態に用いたジアゾロピリジン誘導体は、高い水溶性を有しているので、生体分子に対する標識率を向上させることができ、高感度の生体分子の検出が可能となる。また、ジアゾロピリジン誘導体の置換基を変えることにより励起波長及び発光波長を変化させ、ストークスシフトの大きい2種以上の蛍光シリカ粒子を用いることが可能となり、一つの試料中に含まれる複数の標的分子を同時に検出することが可能となる。特に、RおよびRに、置換基を有してもよいチエニル基を用いた場合、100nmを越えるストークスシフトが得られるので、励起光の影響を受けることがなく高感度の検出が可能となる。
【0032】
実施の形態2
本実施の形態に係るアルコキシシリル基含有有機EL色素は、有機EL色素に以下の一般式(4)、(5)、(6)で表されるジアゾロピリジン誘導体を用いる。本実施の形態においても、実施の形態1の場合と同様の効果が得られる。
【0033】
【化2】
【0034】
式(4)および式(6)ではRは、そして式(5)ではRとRの一方は、一般式L−Mで示され、Mは、置換基を有してもよいピリジニウム基、2級アミニウム基、3級アミニウム基、4級アンモニウム基、ピペリジニウム基、ピペラジニウム基、イミダゾリウム基、チアゾリウム基、オキサゾリウム基、キノリウム基、ベンゾイミダゾリウム基、ベンゾチアゾリウム基又はベンゾオキサゾリウム基である窒素カチオン含有基、あるいは置換基を有してもよいピリジル基、2級アミノ基、3級アミノ基、ピペリジル基、ピペラジル基、イミダゾリル基、チアゾリル基、オキサゾリル基、キノリル基、ベンゾイミダゾリル基、ベンゾチアゾリル基又はベンゾオキサゾリル基である窒素含有基を示し、Lは、Mと中心ピリジン環または中心ベンゼン環とを連結するリンカーであり、直接結合、あるいは−(CH−(tは1〜4の整数)、−NHCOO−、−CONH−、−CON(CH)−、−COO−、−SONH−、−HN−C(=NH)−NH−、−O−、−S−、−NR(Rはアルキル基)、−Ar−(Arは芳香族炭化水素基)、−CO−Ar−NR−、からなる群から選択された1種以上の官能基を示し、式(5)のRとRの残部、式(4)から式(6)のRおよびRは、それぞれ独立に、置換基を有してもよいチエニル基、フラニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、チアジアゾリル基、ピラゾリル基、ピリジル基またはキノリル基を示し、Xは置換基を有していてもよい窒素原子、硫黄原子、酸素原子、セレン原子又はボロン原子を示し、R’は芳香環を含んでもよいアルキル基からなる脂肪族炭化水素基あるいは芳香族炭化水素基、Anは、ハロゲン化物イオン、CFSO、BF又はPFを示す。
【0035】
ここで、Mは、上記の結合基Qと直接結合あるいは−(CH−(pは1から10の整数)または−(O−CHCH−(qは1から10の整数)を介して結合する。
【0036】
およびRは、置換基を有してもよいチエニル基を示し、該置換基が、置換基を有してもよい芳香族炭化水素基、脂肪族炭化水素基または複素環基であることが好ましい。ここで、置換基を有してもよい芳香族炭化水素基としては、単環または多環を含むアリール基であり、具体例としては、置換または無置換のフェニル基、ナフチル基、ビフェニル基等を挙げることができる。なお、置換基を有してもよい芳香族炭化水素基は、該置換基を1から3個含むことができ、該置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルエステル基、リン酸エステル基、硫酸エステル基、ニトリル基、ヒドロキシル基、シアノ基、スルホニル基、芳香族炭化水素基または複素環基を挙げることができる。該置換基としてのアルキル基は、置換または無置換の炭素数1〜20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基である。また、該置換基としてのアルケニル基は、無置換の炭素数2〜20の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基である。また、該置換基としてのアルキニル基は、無置換の炭素数2〜20の直鎖状もしくは分岐状のアルキニル基である。また、該置換基としてのアルコキシ基は、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、ペンチロキシ基またはフェノキシ基である。また、該置換基としてのアルキルエステル基は、炭素数1から6の直鎖状又は分岐状のアルキルエステルである。また、置換基を有してもよい脂肪族炭化水素基としては、置換または無置換の炭素数1〜20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、無置換の炭素数2〜20の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基、無置換の炭素数2〜20の直鎖状もしくは分岐状のアルキニル基等を挙げることができる。また、置換基を有してもよい複素環基としては、置換または無置換のフラニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、チアジアゾリル基、ピラゾリル基、ピリジル基またはキノリル基を挙げることができる。チエニル基の置換基としては、置換基を有してもよい芳香族炭化水素基または脂肪族炭化水素基が好ましく、より好ましくは置換基を有してもよい芳香族炭化水素基であり、具体例としては、置換または無置換のフェニル基、ナフチル基、ビフェニル基等を挙げることができる。なお、置換基を有してもよい芳香族炭化水素基は、該置換基を1から3個含むことができ、該置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルエステル基、リン酸エステル基、硫酸エステル基、ニトリル基、ヒドロキシル基、シアノ基、スルホニル基、芳香族炭化水素基または複素環基を挙げることができる。該置換基としてのアルキル基は、置換または無置換の炭素数1〜20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基である。また、該置換基としてのアルケニル基は、無置換の炭素数2〜20の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基である。また、該置換基としてのアルキニル基は、無置換の炭素数2〜20の直鎖状もしくは分岐状のアルキニル基である。また、該置換基としてのアルコキシ基は、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、ペンチロキシ基またはフェノキシ基である。また、該置換基としてのアルキルエステル基は、炭素数1から6の直鎖状又は分岐状のアルキルエステルである。
【0037】
また、上記の反応性基は、上記のMであってもよく、またはMに導入してもよい。
【0038】
実施の形態3
本実施の形態に係るアルコキシシリル基含有有機EL色素は、有機EL色素に以下の一般式(7)、(8)、(9)で表されるジアゾロピリジン誘導体を用いる。本実施の形態においても、実施の形態1の場合と同様の効果が得られる。
【0039】
【化3】
【0040】
ここで、式(7)、(8)、(9)のR、R、R、Rは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基としてアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルエステル基、リン酸エステル基、硫酸エステル基、ニトリル基、ヒドロキシル基、シアノ基、スルホニル基、芳香族炭化水素基又は複素環基を有してもよい芳香族炭化水素基又は炭化水素基又は複素環基を示し、Xは置換基を有していてもよい窒素原子、硫黄原子、酸素原子、セレン原子またはボロン原子を示し、R‘は芳香環を含んでも良いアルキル基からなる脂肪族炭化水素基あるいは芳香族炭化水素基、Anは、ハロゲン化物イオン、CFSO、BF又はPFを示す。
【0041】
ここで、RまたはRが前記の結合基と直接結合している。
【0042】
およびRが、それぞれ独立に、置換基を有してもよいチエニル基、フラニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、チアジアゾリル基、ピラゾリル基、ピリジル基またはキノリル基であってもよい。
【0043】
また、RおよびRが、置換基を有してもよいチエニル基を示し、該置換基が、置換基を有してもよい芳香族炭化水素基、脂肪族炭化水素基または複素環基であってもよい。
【0044】
また、上記の反応性基は、RまたはRに導入することができる。
【0045】
実施の形態4
本実施の形態に係るアルコキシシリル基含有有機EL色素は、有機EL色素に以下の一般式(10)〜(14)で表されるイミダゾール誘導体を用いる。本実施の形態においても、実施の形態1の場合と同様の効果が得られる。
【0046】
【化4】
【0047】
ここで、式(10)、(12)および(13)のRとRの一方、そして式(11)および(14)のR、RおよびRのいずれか一つは、一般式L−M示され、Mは、置換基を有してもよいピリジニウム基、2級アミニウム基、3級アミニウム基、4級アンモニウム基、ピペリジニウム基、ピペラジニウム基、イミダゾリウム基、チアゾリウム基、オキサゾリウム基、キノリウム基、ベンゾイミダゾリウム基、ベンゾチアゾリウム基又はベンゾオキサゾリウム基である窒素カチオン含有基、あるいは置換基を有してもよいピリジル基、2級アミノ基、3級アミノ基、ピペリジル基、ピペラジル基、イミダゾリル基、チアゾリル基、オキサゾリル基、キノリル基、ベンゾイミダゾリル基、ベンゾチアゾリル基又はベンゾオキサゾリル基である窒素含有基を示し、Lは、−(CH=CR−で表され、Mと中心ピリジン環または中心ベンゼン環とを連結するリンカーであり、uは1から5の整数からなり、Rは、水素原子;置換基を有してもよい炭素数1から6の直鎖状または分岐状のアルキル基;置換基を有してもよいスルホ基;置換基を有してもよいイミダゾリウム基、ピリジニウム基およびフラン基からなる群から選択された複素環基;置換基を有してもよい2級アミノ基、3級アミノ基および4級アミノ基からなる群から選択されたアミノ基;置換基を有してもよいヒドロキシ基;置換基を有してもよいアルコキシ基;置換基を有してもよいアルデヒド基;置換基を有してもよいカルボキシル基;置換基を有してもよい芳香族基のいずれか1種を示し、式(10)、(12)および(13)のRとRの残部、式(11)および(14)のR、RおよびRの残部、そしてRおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよい芳香族炭化水素基又は脂肪族炭化水素基又は複素環基を示し、Xは置換基を有していてもよい窒素原子、硫黄原子、酸素原子、セレン原子又はボロン原子を示し、R’は芳香環を含んでもよいアルキル基からなる脂肪族炭化水素基あるいは芳香族炭化水素基、Anは、ハロゲン化物イオン、CFSO、BF又はPFを示す。
【0048】
ここで、Mは、上記の結合基Qと直接結合あるいは−(CH−(pは1から10の整数)または−(O−CHCH−(qは1から10の整数)を介して結合する。
【0049】
およびRは、それぞれ独立に、置換基を有してもよい芳香族炭化水素基または脂肪族炭化水素基または複素環基であることが好ましい。該置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルエステル基、リン酸エステル基、硫酸エステル基、ニトリル基、ヒドロキシル基、シアノ基、スルホニル基、芳香族炭化水素基または複素環基を挙げることができる。該置換基としてのアルキル基は、置換または無置換の炭素数1〜20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基である。また、該置換基としてのアルケニル基は、無置換の炭素数2〜20の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基である。また、該置換基としてのアルキニル基は、無置換の炭素数2〜20の直鎖状もしくは分岐状のアルキニル基である。また、該置換基としてのアルコキシ基は、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、ペンチロキシ基またはフェノキシ基である。また、該置換基としてのアルキルエステル基は、炭素数1から6の直鎖状又は分岐状のアルキルエステルである。また、該置換基としての芳香族炭化水素基は単環又は多環を含むアリール基である。また、該置換基としての複素環基は、例えばチエニル基、フラニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、チアジアゾリル基、ピラゾリル基、ピリジル基またはキノリル基である。また、R、Rが、スルホニル基を有するアリール基であってもよい。
【0050】
また、R’、R”は芳香環を含んでも良いアルキル基からなる脂肪族炭化水素基あるいは芳香族炭化水素基を示す。ここで、その脂肪族炭化水素基あるいは芳香族炭化水素基には、上記と同様のものを用いることができる。
【0051】
また、実施の形態1の場合と同様、上記のRおよびRは、それぞれ独立に、置換基を有してもよいチエニル基、フラニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、チアジアゾリル基、ピラゾリル基、ピリジル基またはキノリル基であることが好ましい。無置換あるいはフェニル基を用いた場合に比べ、蛍光波長が大きく長波長シフトし、大きなストークスシフトが得られるからである。より好ましくは、RおよびRが、置換基を有してもよいチエニル基を示し、該置換基が、置換基を有してもよい芳香族炭化水素基、脂肪族炭化水素基または複素環基である。また、チエニル基の置換基については実施の形態1の場合と同様のものを用いることができる。
【0052】
また、上記の反応性基は、上記のMであってもよく、またはMに導入してもよい。
【0053】
実施の形態5
本実施の形態に係るアルコキシシリル基含有有機EL色素は、有機EL色素に以下の一般式(15)で表されるカルバゾール誘導体を用いる。本実施の形態においても、実施の形態1の場合と同様の効果が得られる。
【0054】
【化5】
【0055】
ここで、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、あるいは置換基を有してもよい芳香族炭化水素基または脂肪族炭化水素基または複素環基である。該置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルエステル基、リン酸エステル基、硫酸エステル基、ニトリル基、ヒドロキシル基、シアノ基、スルホニル基、芳香族炭化水素基または複素環基を挙げることができる。該置換基としてのアルキル基は、置換または無置換の炭素数1〜20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基である。また、該置換基としてのアルケニル基は、無置換の炭素数2〜20の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基である。また、該置換基としてのアルキニル基は、無置換の炭素数2〜20の直鎖状もしくは分岐状のアルキニル基である。また、該置換基としてのアルコキシ基は、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、ペンチロキシ基またはフェノキシ基である。また、該置換基としてのアルキルエステル基は、炭素数1から6の直鎖状又は分岐状のアルキルエステルである。また、該置換基としての芳香族炭化水素基は単環又は多環を含むアリール基である。また、該置換基としての複素環基は、例えばチエニル基、フラニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、チアジアゾリル基、ピラゾリル基、ピリジル基またはキノリル基である。また、R、Rが、スルホニル基を有するアリール基であってもよい。
【0056】
は、芳香環を含んでも良いアルキル基からなる脂肪族炭化水素基あるいは芳香族炭化水素基である。
【0057】
ここで、RまたはRは、上記の結合基Qとの直接結合でもよい。
【0058】
また、上記の反応性基は、RまたはRに導入することができる。
【0059】
実施の形態6
本実施の形態に係るアルコキシシリル基含有有機EL色素は、実施の形態1における一般式(1)、(2)、(3)で表されるジアゾロピリジン誘導体において、式(1)および式(3)ではRは、そして式(2)ではRとRの一方は、上記の結合基Qと直接結合する。結合基Qはアミド結合、エーテル結合、チオエーテル結合、チオエステル結合、チオウレア結合、ジスルフィド結合およびポリオキシエチレン結合から選択することができる。そして、結合基Qは上記のZを介してアルコキシシリル基と結合する。また、式(2)のRとRの残部、そして式(1)から(3)のRおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよい芳香族炭化水素基または脂肪族炭化水素基または複素環基である。また、一般式(1)、(2)、(3)中のXは置換基を有していてもよい窒素原子、硫黄原子、酸素原子、セレン原子又はボロン原子であり、R’は芳香環を含んでもよいアルキル基からなる脂肪族炭化水素基あるいは芳香族炭化水素基、Anは、ハロゲン化物イオン、CFSO、BF又はPFを示す。
【0060】
本実施の形態によれば、上記のジアゾロピリジン誘導体とシランカップリング剤とを反応させることで得られるアルコキシシリル基含有有機EL色素は乾燥状態でも退光しにくい。そのため、そのアルコキシシリル基含有有機EL色素を用いて蛍光シリカ粒子を製造することで、乾燥状態でも退光しにくい蛍光シリカ粒子を提供することが可能となる。
【0061】
本発明のアルコキシシリル基含有有機EL色素は、水溶液と混合し縮合させることで、蛍光シリカ粒子を製造することができる。例えば、特許文献1に記載の方法を用い、水溶液と混合し縮合させることで密集コアを形成させ、その密集コアとシランカップリング剤と混合して、密集コア上にシリカ殻を形成することで、蛍光シリカ粒子を製造することができる。
【0062】
(用途)
本発明の蛍光シリカ粒子は、標識された固体あるいは半固体状態の生体分子の蛍光を測定する検出方法であれば、あらゆる生体分子の検出方法に適用することが可能であり、以下の用途が期待できる。例えば、核酸を検出対象とするDNAマイクロアレイ法や、プライマーやターミネータを用いるPCR法に用いることができる。
【0063】
また、タンパク質を検出対象とする場合、通常、電気泳動後のタンパク質の検出には染色色素が用いられている。泳動後のゲル中に、染色色素、例えばクーマシーブリリアントブルー(CBB)を浸透させてタンパク質を染色し、UVを照射して発光させる方法が用いられる。しかしながら、従来の染色色素を用いる方法は簡便であるが、感度が100ng程度と低く微量のタンパク質の検出には適さない。また、ゲルを介して染色色素を浸透させるため、染色に長時間を要するという問題もある。これに対し、本発明の蛍光シリカ粒子を用いると高感度であり、微量タンパク質の検出には好適である。さらに、サイズ分離したタンパク質を質量分析して同定することも期待できる。
【0064】
ここで、タンパク質には、アルブミン、グロブリン、グルテリン、ヒストン、プロタミン、そしてコラーゲン等の単純タンパク質、核タンパク質、糖タンパク質、リボタンパク質、リンタンパク質、金属タンパク質等の複合タンパク質のいずれも検出対象とすることができる。例えば、リンタンパク質、糖タンパク質、総タンパク質の染色色素に対応させて3種の蛍光色素を用い、二次元電気泳動で分離したタンパク質試料において、リンタンパク質、糖タンパク質及び総タンパク質を染色することができる。また、TOF−Mass等の質量分析を行うことにより、タンパク質を同定できるので、特殊なタンパク質を生成させる、ガンやウィルスによる感染症などの疾病の診断や治療に応用することが期待できる。また、コラーゲンは、動物の結合組織を構成するタンパク質であり、独特の繊維状構造をとる。すなわち、3本のポリペプチド鎖からなり、そのペプチド鎖が寄り集まって三重鎖を形成する。コラーゲンは、一般に極めて免疫原性が低いタンパク質であり、食品、化粧品、医薬品等の分野で広く利用されている。しかし、コラーゲンのペプチド鎖に蛍光色素を導入しても、従来の蛍光色素ではその安定性が十分とは言えず、より安定な蛍光色素が必要とされている。そこで、本発明の蛍光シリカ粒子を用いてコラーゲンを標識することにより、安定かつ高感度な検出を行うことが期待できる。
【0065】
また、タンパク質と特異的に結合する抗体を本発明の蛍光シリカ粒子で標識することにより、タンパク質を標識することも期待できる。例えば、IgG抗体をペプシンで処理するとF(ab’)と呼ばれるフラグメントが得られる。このフラグメントをジチオスレイトール等で還元するとFab’と呼ばれるフラグメントが得られる。Fab’フラグメントは1つもしくは2つのチオール基(−SH)を有している。このチオール基に対してマレイミド基を作用させて特異的な反応を行うことができる。すなわち、有機EL蛍光シリカ粒子に反応性基としてマレイミド基を導入し、フラグメントのチオール基と反応させることにより抗体を標識することが期待できる。この場合、抗体の生理活性(抗原捕捉能)を失うことがない。
【0066】
なお、本発明の蛍光シリカ粒子でアプタマーを標識することもできる。アプタマーはオリゴ核酸からなり、塩基配列に依存して種々の特徴ある立体構造をとることができるので、その立体構造を介してタンパク質を含むあらゆる生体分子に結合することができる。この性質を利用し、本発明の蛍光シリカ粒子で標識したアプタマーを特定のタンパク質に結合させ、被検出物質との結合によるそのタンパク質の構造変化に伴う蛍光変化から間接的に被検出物質を検出することが期待できる。
【0067】
また、本発明の蛍光シリカ粒子を用いて金属イオンの検出を行うことも期待できる。体内のDNAやタンパク質などの安定性や高次構造の維持、機能発現、そして生体内のすべての化学反応を司る酵素の活性化など、生体内で起こるあらゆる生命現象に金属イオンは関与している。そのため、生体内での金属イオンの動きをリアルタイムで観察できる金属イオンセンサは医療分野を初めとしてその重要性が叫ばれている。従来、生体分子に蛍光色素を導入した金属イオンセンサが知られている。例えば、Kイオン存在化において、Kイオン取り込んで特殊な構造をとる配列を有する核酸を利用する金属イオンセンサが提案されている(J. AM. CHEM. SOC. 2002, 124, 14286-14287)。エネルギートランスファーを起こす蛍光色素を核酸の両端に導入する。通常は色素間距離があるためエネルギートランスファーは起きない。しかし、Kイオン存在下では核酸が特殊な形をとる結果、蛍光色素がエネルギートランスファーを起こす距離に近接することで、蛍光を観察することができる。また、ペプチドに蛍光色素を導入した亜鉛イオンセンサも提案されている(J. Am. Chem. Soc. 1996, 118, 3053-3054)。これらの従来の蛍光色素に代えて本発明の蛍光シリカ粒子を用いることにより、従来に比べ高感度で取り扱いが容易な金属イオンセンサを提供することが期待できる。なお、生体内に存在する金属イオンであれば、すべての金属イオンを検出することが期待できる。
【0068】
また、本発明の蛍光シリカ粒子を用いて、細胞内のシグナル観察を行うことも期待できる。内部シグナルや環境情報に対する細胞の応答には、イオンから酵素へと多大な分子が関与している。シグナル伝達過程では特殊なプロテインキナーゼが活性化し、特殊な細胞タンパク質のリン酸化を導くことで様々な細胞応答の初期応答を担っていることが知られている。ヌクレオチドの結合と加水分解はこれらの活性に重大な役割を果たしており、ヌクレオチド誘導体を用いることで、シグナル伝達挙動を素早く観察することができる。例えば、プロテインキナーゼC(PKC)は細胞膜におけるシグナル伝達において重要な役割を果たしている。このCa2+依存セリン/スレオニンプロテインキナーゼはジアシルグリセロールやフォスファティジルセリンの様な膜構成脂質上で活性化され、イオンチャネルや細胞骨格タンパク質に存在するセリンやスレオニンをリン酸化することで膜表面電化を変えシグナル伝達を行っている。これらを生細胞において動的に観察することで細胞のシグナル伝達の観察を行うことができる。
【0069】
ここで、ヌクレオチド誘導体は酵素の基質や阻害剤として供給され、孤立性タンパク質の構造と力学の探査、膜結合タンパク酵素の再構成、ミトコンドリアのようなオルガネラ、除膜筋線維のような組織のヌクレオチド結合タンパク質部分に、結合してその調節を行っている。また、最近ではG−タンパク質の阻害剤や活性体のようなシグナル伝達に影響を与える化合物の存在も解ってきている。このヌクレオチド誘導体に本発明の蛍光シリカ粒子を導入することで、これらの細胞内シグナル伝達の動的観察を高感度で、かつ取り扱い容易に行うことが可能となる。
【0070】
また、本発明の蛍光シリカ粒子を、組織又は細胞試料中の標的核酸や標的タンパク質の発現レベルの検討に用いる組織又は細胞の染色色素としても用いることが期待できる。すなわち、有機EL蛍光シリカ粒子を真核細胞の染色に用いると、乾燥状態でも蛍光を発することから標識後の保存などの点で従来の色素よりも優れた性能を示すことが期待できる。また、真核細胞のみならず、細胞骨格用色素としても十分に用いることが可能である。この他、ミトコンドリア、ゴルジ体、小胞体、ソリゾーム、脂質二重膜などの標識に用いることが可能である。これら、標識された細胞等は、湿潤及び乾燥のあらゆる条件下で観測が可能であるため、汎用性が大きい。観測に際しては、蛍光顕微鏡などを用いることができる。
【0071】
また、臨床段階で人体より採取された組織は、ミクロトームなどの機器を用いて薄膜にスライスした後、染色されている。ここでは、Cy色素及びAlexa色素が用いられている。しかしながら、既存の色素は安定性が非常に悪く、再診断の際には、再びサンプルを作製する必要がある。また、作製されたサンプルは標本として保存することが不可能である。しかし、上記の従来の色素に比べ本発明の蛍光シリカ粒子は、非常に安定な色素であるので、染色した組織を標本として保存することが可能である。
【0072】
また、ガンや感染症等の診断には、抗体の特異的認識能を利用したイムノアッセイが用いられている。イムノアッセイは、標識抗体を用いて目的の抗原を検出する方法であり、標識物質に酵素を用いる酵素イムノアッセイ(ELISA法)や標識物質に蛍光色素を用いる蛍光イムノアッセイ(FIA法)等が用いられている。ELISA法は、最終的な検出は標識物質である酵素の反応によって生じるさまざまなシグナル(発色、発光、化学発光等)を検出及び定量することにより行う。一方、FIA法は、標識物質である蛍光色素に励起光を照射し、それによる蛍光を検出及び定量することにより行う。FIA法は蛍光色素を用いるため鮮明なコントラストを有し定量性に優れ、またELISA法に比べ、より短時間での検出が可能でかつ操作も簡便であるという特徴を有している。しかしながら、従来の蛍光色素は標識率が低いという問題がある。例えば、抗体に対して200倍モル程度の蛍光色素を用いているが、この条件下においても標識率は50−60%程度であった。そのため、蛍光色素を大量に使用する必要があるため検出費用が高コストになったり、未反応の蛍光色素を除去するための処理工程が必要となり検出に長時間を要するという問題があった。これに対し、本発明の蛍光シリカ粒子を用いることにより、標識率を向上させることができるので、より高感度の検出を行うことが期待できる。また、イムノクロマトグラフィーを用いた診断薬も開発されている。例えば、金ナノコロイド粒子を用いた感染症の診断方法が存在する。本発明の蛍光シリカ粒子を用いることにより、蛍光イムノクロマトグラフィーを用いた診断薬も期待できる。
【0073】
また、本発明の蛍光シリカ粒子を化粧用組成物に用いることもできる。蛍光色素を含む化粧用組成物は、夜間や室内における演出用の化粧としてだけでなく、蛍光色素の明色化効果を利用して、ファンデーションや毛髪の染色剤等に用いられている。ここで、明色化効果とは、蛍光色素が紫外光を吸収して可視光を放出して、皮膚や毛髪に明るさや鮮やかさを与える効果をいう。日本の室内照明には、昼光色や白色の蛍光灯が使われているが、これらの蛍光灯からの光は、青や緑が主であり赤が少ない。そのため、女性の化粧肌は青白くくすんで見えるという問題がある。これに対し、本発明の蛍光シリカ粒子を用いることにより、例えば、橙色の光を放出する蛍光色素を用い、鮮やかな赤味の色を発色させてくすみの解消を図ることが期待できる。また、毛髪の染色に用いると、蛍光色素は可視領域の放出光線により毛髪の色を変えるだけでなく、毛髪の輝きを増加させることも期待できる。
【0074】
また、本発明の蛍光シリカ粒子をマーキング剤に用いることもできる。本発明の蛍光シリカ粒子を含むマーキング剤は、通常の可視光下では不可視であるが、紫外線等の励起光を照射することにより蛍光色素を発光させて視認することができる。この性質を利用し、犯罪防止や犯罪捜査を目的として、物品や人体等の識別や物質の検出等に使用することができる。マーキング剤の対象物には、偽造や盗難等の犯罪の防止や犯罪捜査の対象となる物品や人体が含まれる。例えば、紙幣、小切手、株券、各種証明書等の重要文書や、自動車、オートバイ、自転車、美術品、家具、ブランド品、衣服等の物品、人体の皮膚、頭髪、爪等の身体表面部分、潜在指紋等の遺留物質等を挙げることができる。さらに、対象物を構成する材料に関しては、上質紙、OCR紙、ノーカーボン紙、アート紙等の紙や、塩化ビニル、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン等のプラスチックや、金属や、ガラスや、セラミックスや、羊毛、木綿、絹、麻等の天然繊維や、再生セルロース繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維等の合成繊維や、人体皮膚や体液中のタンパク質等を挙げることができる。
【実施例】
【0075】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の範囲は以下の実施例により限定されるものではない。
【0076】
合成例1
アルコキシシリル基として3−アミノプロピルトリエトキシシラン(以下、APSと略す)を含む4,7−ジフェニル−1,2,5−オキサジアゾロピリジンのエステル体の合成について説明する。まず、以下のスキーム1は、そのエステル体(4)の合成スキームである。
【0077】
【化6】
【0078】
(1)ジケトン誘導体(2)の合成
500ml三口フラスコ中で4−メトキシアセトフェノン(1) 30.0g(0.25mol)、亜硝酸ナトリウム0.15gを酢酸100mlに溶解した。水浴中、硝酸100mlを酢酸100mlに溶解したものを1時間かけて滴下した。その後、室温で2日間撹拌した。反応混合物を500mlの水にゆっくりと入れ、沈殿を生成させた。沈殿物は濾過し、クロロホルムに溶解した。クロロホルム相を飽和重曹水で洗浄し、10%NaCl水溶液で2回洗浄した。無水硫酸マグネシウムで脱水した後、減圧下、クロロホルムを留去し、オキサジアゾール−N−オキサイド(2)を得た(収量30.5g、収率82%)。
【0079】
(2)ジケトン誘導体(3)の合成
500ml三口フラスコ中でオキサジアゾール−N−オキサイド(2) 14.7g(0.05mol)をアセトニトリル400mlに溶解した。それに金属亜鉛6.0g、酢酸7ml、無水酢酸20mlを添加した。水浴中で反応温度が35℃を超えないように冷却した。6時間撹拌して反応終点とした。反応混合物を濾過し、不溶分を除去した。アセトニトリルを減圧下留去して残渣を得た。残渣をクロロホルムで再結晶し、オキサジアゾールジベンゾイル体(3)を得た(収量9.6g、収率69%)。
【0080】
(3)ジフェニルオキサジアゾロピリジンエチルエステル体(4)の合成
500ml三口フラスコ中でオキサジアゾールジベンゾイル体(3) 10.0g(0.035mol)をブタノール300mlに溶解した。そこへグリシンエチルエステル塩酸塩32.0g(0.23mol)を添加した。24時間加熱還流を行った。ブタノールを減圧下留去し、残渣を得た。残渣を200mlのクロロホルムに溶解し、10%塩酸、飽和重曹水、10%NaCl水溶液で洗浄した。無水硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を留去した。得られた残渣をクロロホルムで再結晶し、4,7−ジフェニル−1,2,5−オキサジアゾロピリジンエチルエステル(4)(以下、エステル体(4)という。)を得た(収量7.6g、収率65%)。
【0081】
(4)活性エステル体(5)の合成
50ml三口フラスコで合成例1のエステル体(4) 1.0g(1.6mmol)を30mlのエタノールに溶解した。そこへKOH 0.11g(3.0mmol)を添加した。5時間加熱還流を行った後、反応混合物を50mlの水へ添加した。水溶液を塩酸でpH1に調整し沈殿を得た。沈殿物を水-エタノール(1:1)で再結晶し、カルボン酸体を得た(収量0.47g、収率81%)。
【0082】
50ml三口フラスコでカルボン酸体を70mg(0.17mmol)とN−ヒドロキシスクシンイミド21mg(0.18mmol)をDMF20mlに溶解した。これにDMF5mlに溶解したN,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド37mg(0.17mmol)を30分かけて滴下した。滴下後、室温で30時間撹拌した。減圧下、DMFを留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで単離し、活性エステル体(5)を得た(収量90mg、収率78%)。
【0083】
(5)活性エステル体(5)とAPSとの反応
活性エステル体(5)とAPSとの反応を以下に示す。
【0084】
【化7】
【0085】
ナスフラスコに活性エステル体(5)を100mg(241μmol)入れ、ジクロロメタン10mLで溶解させた。APS 0.1mL(482μmol)を反応溶液に添加し、室温で反応を開始した。2時間反応後、セライト濾過を行い、反応溶液をエバポレーターで減圧留去した。生成物をカラムクロマト精製(CHCl:ACOAT=9.5:0.5)し、減圧留去後、真空ポンプで乾燥させ、APS含有体(6)を得た(収量45.7mg、収率36%)。
【0086】
APS含有体(6)について、H−NMRによる分析結果を示す。
H−NMRより、8.670〜8.650ppmにベンゼン環の2H、7.649〜7.503ppmに8Hの水素が確認された。8.011ppmにアミド結合の水素1Hが確認された。3.849〜3.800ppmにトリエトキシシランの6H、1.233〜1.201ppmに9Hの水素が確認された。3.485〜3.434ppm、1.777〜1.701ppm、0.713〜0.671ppmにトリエトキシシランのアルキル鎖、各2Hずつ、合計6Hが確認された。
【0087】
合成例2
アルコキシシリル基としてAPSを含む4,7−ジフェニル−1,2,5−オキサジアゾロピリジンの窒素カチオン体の合成について説明する。
【0088】
(1)活性エステル体(9)の合成
【0089】
【化8】
【0090】
20mlの二つ口フラスコでピリジン体(7)0.2g(2.85×10−4mol)と、スクシンイミジルエステル体(8)0.734g(1.43×10−3mol)とを混合した。その後、フラスコ内をアルゴンで置換し、脱気を行った。その後、シリンジを用いてトルエンを10ml加え、120℃で2日間撹拌した。冷却後、沈殿物をろ過し、活性エステル体(9)を得た(収率79%)。
【0091】
(2)活性エステル体(9)とAPSとの反応
活性エステル体(9)とAPSとの反応を以下に示す。
【0092】
【化9】
【0093】
5mLのナスフラスコに活性エステル体(9)を14mg(22.2μmol)入れ、モレキュラーシーブ4A入りDMF0.7mLで溶解させた。DMF0.7mL、APSを5.2μL(22.2μmol)添加した溶液をナスフラスコに加えて室温で反応を開始した。1時間反応後、反応溶液をエバポレーターで減圧留去、真空ポンプで乾燥させAPS含有体(10)を得た(収量:7.6mg、収率:46%)。
【0094】
APS含有体(10)について、H−NMR(JEOL製型式JNM−LA400)による分析結果を示す。
H−NMRより、9.365〜9.348ppm、8.177〜8.162ppmにピリジン環の水素が4H分認められた。8.740〜8.716ppm、7.674〜7.391ppmに左右のベンゼン環の水素が10H分、8.013ppmにアミド結合の水素1Hが認められた。5.045〜5.008ppm、2.470〜2.436ppm、2.163〜2.1285ppm、1.801〜1.767ppmピリジン環の横のアルキル鎖の水素が各2Hずつ、合計8H分認められた。3.822〜3.690ppmにトリエトキシシランの6H、1.252〜1.154ppmに9H分、3.222〜3.173ppm、1.662〜1.584ppm、0.647〜0.605ppmのアミド結合の横のアルキル鎖、各2Hずつ、合計6H分の水素が認められた。
【0095】
合成例3
アルコキシシリル基としてAPSを含む4,7−ジ(メチルフェニル)−1,2,5−チアジアゾロピリジンのエステル体の合成について説明する。以下に反応スキームを示す。
【0096】
【化10】
【0097】
(1)ジアミン体の合成
ナスフラスコにエチルエステル体(11)を338mg(905μmol)入れ、エタノール30mLで溶解させた。水素化ホウ素ナトリウムを249mg(6.60mmol)添加し、室温で反応を開始した。2時間反応後、反応溶液を水に入れ、クロロホルム溶媒で抽出した(30mLで2回)。クロロホルム層に硫酸マグネシウムを加え、吸引濾過後、減圧留去させた。生成物をカラムクロマト精製(関東化学製シリカゲル60N,CHCl=100)し、ジアミン体(12)を得た(収量:70mg、収率:21%)。
【0098】
(2)エチルエステル体の合成
ナスフラスコにジアミン体(12)を70mg(193μmol)入れ、クロロホルム2mLで溶解させた。SOClを1mL(1.4mmol)とクロロホルム1mLの混合溶液を添加し、オイルバスで加熱還流させ、反応を開始した。2時間反応後、反応溶液を水に入れ、クロロホルム溶媒で抽出した(30mLで2回)。クロロホルム層に硫酸マグネシウムを加え、吸引濾過後、減圧留去させた。残渣をエタノールで洗浄して、エチルエステル体(13)を得た(収量:30mg、収率:40%)。
【0099】
(3)カルボン酸体の合成
ナスフラスコにエチルエステル体(13)を180mg(462μmol)入れ、エタノール20mL中、80℃に設定したオイルバスで溶解させた。水酸化カリウム64mg(1.15mmol)を水5mLに溶解させた水溶液を添加し、反応を開始した。4時間反応後、反応溶液を水に入れ、室温で撹拌しながらpH≦1になるまで、ゆっくりと塩酸を加えた。析出した固体を吸引濾過後、真空ポンプで乾燥させ、カルボン酸体(14)を得た(収量:106mg、収率:63%)。
【0100】
(4)活性エステル体の合成
ナスフラスコにカルボン酸体(14)を100mg(276μmol)とN -ヒドロキシスクシンイミドを34mg(303μmol)入れ、THF:CHCl=4:1(10mL)中、室温で溶解させた。WSCIをTHF:CHCl=1:4(10mL)で溶解させ、反応溶液にゆっくりと滴下し反応を開始した。滴下後、4時間反応させた。反応後、エバポレーターで減圧留去し、残渣をクロロホルムに溶解させ、食塩水で2回洗浄した。これに硫酸マグネシウムを加え、濾過、減圧留去後、真空ポンプで乾燥させた。これを、カラムクロマト精製(関東化学シリカゲル60N,CHCl:ACOET=9:1)し活性エステル体(15)を得た(収量:89mg、収率:70%)。
【0101】
(5)APS含有体の合成
ナスフラスコに活性エステル体(15)を81mg(176μmol)入れ、ジクロロメタン10mLで溶解させた。 APS 0.044mL(193μmol)を反応溶液に添加し、室温で反応を開始した。2.5時間反応後、反応溶液をエバポレーターで減圧留去した。生成物をカラムクロマト精製 (関東化学シリカゲル60N,CHCl:ACOET=9.8:0.2)し、減圧留去後、真空ポンプで乾燥させAPS含有体(16)を得た(収量:59mg、収率:59%)。
【0102】
APS含有体(16)について、H−NMRによる分析結果を示す。
H−NMRより、8.528〜8.513ppmにベンゼン環の2H、7.410〜7.339ppmに8Hの水素が認められた。8.274ppmにアミド結合の水素1Hが認められた。3.832〜3.817ppmにトリエトキシシランの6H、1.220〜1.203ppmに9Hの水素が認められた。3.444ppm、1.738ppm1、0.698ppmにトリエトキシシランのアルキル鎖6Hが認められた。2.502〜2.448ppmに上下のベンゼン環のメチル基6Hが認められた。
【0103】
合成例4
アルコキシシリル基としてAPSを含む4,7−ジフェニル−1,2,5−チアジアゾロピリジンの窒素カチオン体(ビニル基含有)の合成について説明する。まず、窒素カチオン体(ビニル基含有)の合成について説明する。
【0104】
合成例1で合成したエステル体(4)をNaBH存在下、還元反応を行い、ジアミノアルコール体(5)を得、これと塩化チオニルを反応させチアジアゾロピリジンクロロメチル体(6)を得、これにトリフェニルホスフィンを反応させてホスホニウム塩(7)を得、さらにウィティヒ反応によりビニル体(8)を得、そして活性エステルを含むピリジニウム塩(9)(−CH=CH−を含む)を合成した。以下に反応例を示す。
【0105】
【化11】
【0106】
(1)ジアミノアルコール体(17)の合成
エステル体(4)(1.73g、5mmol)とNaBH(1.30g、35mmol)のエタノール溶液(100ml)を12時間加熱還流後、反応液を水に注入し、一夜放置後に沈澱をろ過してジアミノアルコール体(17)を得た(収量1.17g、収率80%)。
【0107】
(2)クロロメチル体(18)の合成
室温下、ジアミノアルコール体(17)(1.17g)のクロロホルム溶液(60ml)に塩化チオニル(6ml)、ピリジン−NaBH(3ml)をこの順で滴下、その後3時間30分加熱還流後、反応液を水に注入し、飽和重曹水で中和し、クロロホルムで抽出した。抽出液を無水硫酸マグネシウムで乾燥、減圧留去して得た残渣をカラム(Kanto C−60、ヘキサン/クロロホルム=3/1(v/v)処理してクロロメチル体(18)を得た(収量1.11g、収率82%)。
【0108】
(3)ホスホニウム塩(19)の合成
クロロメチル体(18) 112.6mg(0.33mmol)とトリフェニルホスフィン(96mg、0.37mmol)のトルエン溶液(5ml)を3日間加熱還流後、沈澱をろ過し、エーテルで洗浄してホスホニウム塩(19)を得た(収量108mg、収率55%)。
【0109】
(4)ビニル体(20)の合成
氷冷下、m−フォルミルピリジン(16μL,0.18mmol)と水酸化カリウム(純度85%、15mg)のエタノール溶液(1ml)にホスホニウム塩(19)(140.5mg,0.23mmol)を加え、その温度で1時間30分撹拌した。沈澱をろ過し、エタノール、水で洗浄後、乾燥して、4,7−ジフェニル−1,2,5−オキサジアゾロピリジン−6−(4−ビニルピリジン)(以下、ビニル体(20)という。)を得た(収量44mg、収率62%)。
【0110】
(5)活性エステルを含むピリジニウム塩(21)の合成
ビニル体(20)(40mg、0.10mmol)とブロムヘキサン酸活性エステル(32mg、0.11mmol)のトルエン溶液(2ml)を5日間加熱還流後、沈澱をろ過して活性エステルを含むピリジニウム塩(21)を得た。
【0111】
(6)APS含有体(22)の合成
以下に反応例を示す。
【0112】
【化12】
【0113】
ナスフラスコに活性エステルを含むピリジニウム塩(21)を14mg(20.8μmol)入れ、モレキュラーシーブ4A入りDMF1.4mLで溶解させた。APS 4.8μL(20.8μmol)を反応溶液に添加し、室温で反応を開始した。2時間反応後、反応溶液をエバポレーターで減圧留去、真空ポンプで乾燥させAPS含有体(22)を得た(収量:10.3mg、収率:64%)。
【0114】
APS含有体(22)についても、H−NMRによりその構造を確認した。
【0115】
合成例5
アルコキシシリル基として、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン(以下、MPSと略す)を含む4,7−ジフェニル−1,2,5−チアジアゾロピリジンのチオエーテル体の合成について説明する。その反応を以下に示す。
【0116】
【化13】
【0117】
50mLの二つ口フラスコにクロロメチル体(18)0.2g(0.592mmol、モル比 1.0)、炭酸カリウム0.05g(0.355mmol、モル比 0.6)、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン(以下、MPSと略す)0.14mL(0.592mmol、モル比 1.0)、を入れ減圧しながらアルゴン置換を行った。これに、ガラスシリンジを使用してアセトニトリル20mLを加え、75℃に設定したオイルバスで24時間、反応させた。TLC(CHCl:Hexan=3:2)で反応が進行したのを確認後、室温まで冷却させ吸引濾過、減圧留去、真空乾燥を行った。これを、シリカゲルカラムクロマト精製(Kanto 60N,CHCl:Hexan=3:2)を行った。H−NMRによりその構造を確認した結果、不純であったため再度、シリカゲルカラムクロマト精製(Kanto 60N,CHCl:Hexan=3:2)を行い目的物であるMPS含有体(23)を得た(収量:0.1795g、収率56%)。
【0118】
H−NMRにより、8.696〜8.680ppmにオキサジアゾロピリジン骨格の窒素の影響によってフェニル基の2H、7.616〜7.570ppmにフェニル基の残りの8Hの水素が確認された。4.000ppmにチアジアゾロピリジン骨格とチオエーテル基の間の2H、3.806〜3.763ppmにトリエトキシシランのエトキシ基の6H、1.205〜1.181ppmに9H、2.735〜2.710ppm、1.736〜1.684ppm、0.723〜0.710ppmにアルキル鎖の各2H分の水素が確認された。
【0119】
合成例6
活性エステル体(5)とMPSとの反応を以下に示す。
【0120】
【化14】
【0121】
50mLのナス型フラスコに炭酸カリウム0.1g(0.725mmol、モル比 1.5)、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン0.12mL(0.483mmol、モル比 1.1)を入れ、1,4−ジオキサン10mL中でアルゴン雰囲気下、室温で撹拌した。これに、1,4−ジオキサン15mLに溶解させた活性エステル体(5)0.2g(0.483mmol、モル比 1.1)を30分かけてゆっくりと滴下した。滴下後、80℃に設定したオイルバスで24時間、反応させた(アルゴン雰囲気下)。TLC(CHCl=100)で反応が進行したのを確認後、室温まで冷却させ吸引濾過、減圧留去、真空乾燥を行った。これを、シリカゲルカラムクロマト精製(Kanto 60N,CHCl=100)を行った。H−NMRで確認を行い、目的物であるMPS含有体(24)を得た(収量0.16g、収率62%)。
【0122】
H−NMRにより、8.817〜8.801ppmにオキサジアゾロピリジン骨格の窒素の影響によってフェニル基の2H、7.656〜7.511ppmにフェニル基の残りの8H分の水素が確認された。3.835〜3.800ppmにトリエトキシシランのエトキシ基の6H、1.234〜1.210ppmに9H、3.021〜2.996ppm、1.800〜1.748ppm、0.776〜0.748ppmにアルキル鎖の各2H分の水素が確認された。
【0123】
合成例7
アルコキシシリル基としてAPSを含む4,7−ジ[(1−ナフチル)チエニル]−1,2,5−オキサジアゾロピリジン−6−(4−ピリジニウム)について説明する。まず、4,7−ジ[(1−ナフチル)チエニル]−1,2,5−オキサジアゾロピリジン−6−(4−ピリジニウム)の活性エステル体の合成について説明する。
【0124】
【化15】
【0125】
(1)鈴木カップリングを用いたピリジル体(26)の合成
アルゴン置換したナスフラスコ中でピリジル体(25) 200mg(0.38mmol)と、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム 12.7mgを入れ、2M−炭酸ナトリウム溶液2.8mlとベンゼン4mlで溶解した。1−ナフチルボロン酸144mg(0.83mmol)をエタノール2mlで溶解し、反応液に投入した。その後、80℃で6時間加熱還流した。反応液に水を20ml入れ、クロロホルムを用いて抽出した。クロロホルムを減圧下留去し、残渣をヘキサン−クロロホルムで再結晶した。ピリジル体(26)を収量190mg、収率55%で得た。
【0126】
(2)活性エステル体(27)の合成
ピリジル体(26) 300mg(0.58mmol)、ブロモヘキサン酸活性エステル170mg(0.58mmol)をトルエン8mlで溶解後、室温で一晩攪拌した。反応終了後吸引濾過を行い、濾物を真空乾燥して活性エステル体(27)を得た。
【0127】
活性エステル体(27)とAPSとの反応を以下に示す。
【0128】
【化16】
【0129】
50mLのナス型フラスコに化合物(27)を0.2g(0.224mmol、モル比 1.0)、3−アミノプロピルトリエトキシシラン0.053mL(0.224mmol、モル比 1.0)を入れ、DMF15mL中でアルゴン雰囲気下、室温で5時間反応させた。反応終了後、反応溶液をエバポレーターで減圧留去、真空乾燥を行った。これを、シリカゲルカラムクロマト精製(Kanto 60N,CHCl:メタノール=8:2)を行った。H−NMRで確認を行い、目的物であるAPS含有体(28)を得た(収量0.11g、収率49%)。
【0130】
合成例8
アルコキシシリル基としてAPSを含む4,7−ジ[(2−ナフチル)チエニル]−1,2,5−オキサジアゾロピリジン−6−(4−ピリジニウム)について説明する。まず、4,7−ジ[(2−ナフチル)チエニル]−1,2,5−オキサジアゾロピリジン−6−(4−ピリジニウム)の活性エステル体の合成例を示す。
【0131】
【化17】
【0132】
(1)鈴木カップリングを用いたピリジル体(29)の合成
アルゴン置換したナスフラスコにピリジル体(25) 200mg(0.38mmol)、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム12.7mgを入れ、2M−炭酸ナトリウム溶液2.8mlとベンゼン4mlで溶解した。2−ナフチルボロン酸 144mg(0.83mmol)をエタノール2mlで溶解し、反応液に投入した。その後、80℃で5時間加熱還流した。反応液に水を15ml入れ、クロロホルムを用いて抽出した。クロロホルムを減圧下留去し、残渣をヘキサン−クロロホルムで再結晶した。ピリジル体(29)を収量220mg、収率64%で得た。
【0133】
(2)活性エステル体(30)の合成
ピリジル体(29)300mg(0.58mmol)、ブロモヘキサン酸活性エステル170mg(0.58mmol)をトルエン8mlで溶解後、室温で一晩攪拌した。反応終了後吸引濾過を行い、濾物を真空乾燥して活性エステル体(30)を得た。
【0134】
活性エステル体(30)とAPSとの反応を以下に示す。
【0135】
【化18】
【0136】
50mLのナス型フラスコに活性エステル体(30)を0.2g(0.224mmol、モル比 1.0)、3−アミノプロピルトリエトキシシラン0.053mL(0.224mmol、モル比 1.0)を入れ、DMF15mL中でアルゴン雰囲気下、室温で5時間反応させた。反応終了後、反応溶液をエバポレーターで減圧留去、真空乾燥を行った。これを、シリカゲルカラムクロマト精製(Kanto 60N,CHCl:メタノール=8:2)を行った。H−NMRで確認を行い、目的物であるAPS含有体(31)を得た(収量0.13g、収率58%)。
【0137】
合成例9
アルコキシシリル基としてAPSを含む4,7−ジ[(2−ビフェニル)チエニル]−1,2,5−オキサジアゾロピリジン−6−(4−ピリジニウム)について説明する。まず、4,7−ジ[(2−ビフェニル)チエニル]−1,2,5−オキサジアゾロピリジン−6−(4−ピリジニウム)の活性エステル体の合成例を示す。
【0138】
【化19】
【0139】
(1)鈴木カップリングを用いたピリジル体(32)の合成
アルゴン置換したナスフラスコにピリジル体(25) 200mg(0.38mmol)と、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム12.7mgを入れ、2M−炭酸ナトリウム溶液2.8mlとベンゼン4mlで溶解した。ビフェニルボロン酸164mg(0.83mmol)をエタノール2mlで溶解し、反応液に投入した。その後、80℃で5時間加熱還流した。反応液に水を20ml入れ、クロロホルムを用いて抽出した。クロロホルムを減圧下留去し、残渣をヘキサン−クロロホルムで再結晶した。ピリジル体(32)を収量155mg、収率61%で得た。
【0140】
(2)活性エステル体(33)の合成
ピリジル体(32)(300mg,0.45mmol)、ブロモヘキサン酸活性エステル145mg(0.49mmol)をトルエン8mlで溶解後、室温で一晩攪拌した。反応終了後吸引濾過を行い、濾物を真空乾燥して活性エステル体(33)を得た。
【0141】
活性エステル体(33)とAPSとの反応を以下に示す。
【0142】
【化20】
【0143】
50mLのナス型フラスコに活性エステル体(33)を0.2g(0.213mmol、モル比 1.0)、3−アミノプロピルトリエトキシシラン0.05mL(0.213mmol、モル比 1.0)を入れ、DMF15mL中でアルゴン雰囲気下、室温で7時間反応させた。反応終了後、反応溶液をエバポレーターで減圧留去、真空乾燥を行った。これを、シリカゲルカラムクロマト精製(Kanto 60N,CHCl:メタノール=8:2)を行った。H−NMRで確認を行い、目的物であるAPS含有体(34)を得た(収量0.092g、収率41%)。
【0144】
合成例10
アルコキシシリル基としてMPSを含むチオエーテル体(36)について説明する。
【0145】
【化21】
【0146】
50mLの二つ口フラスコに、クロル体35を0.2g(0.529mmol、モル比 1.0)、炭酸カリウム0.073g(0.529mmol、モル比 1.0)、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン0.13mL(0.529mmol、モル比 1.0)、を入れ減圧しながらアルゴン置換を行った。これに、ガラスシリンジを使用してアセトニトリル20mLを加え、75℃に設定したオイルバスで24時間、反応させた。TLC(CHCl:ヘキサン=3:2)で反応が進行したのを確認後、室温まで冷却させ吸引濾過、減圧留去、真空乾燥を行った。これを、シリカゲルカラムクロマト精製(Kanto 60N,CHCl:ヘキサン=3:2)を行った。H−NMRで確認した結果、不純であったため再度、シリカゲルカラムクロマト精製(Kanto 60N,CHCl=100)を行い目的物であるチオエーテル体(36)(crude)を得た(収量0.075g、収率25%)。
【0147】
合成例11
アルコキシシリル基としてMPSを含むチオエステル体(38)について説明する。
【0148】
【化22】
【0149】
50mLのナス型フラスコに炭酸カリウム0.09g(0.66mmol、モル比 1.5)、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン0.12mL(0.484mmol、モル比 1.1)を入れ、1,4−ジオキサン10mL中でアルゴン雰囲気下、室温で撹拌した。これに、1,4−ジオキサン15mLに溶解させた活性エステル体37の0.2g(0.44mmol、モル比 1.0)を30分かけてゆっくりと滴下した。滴下後、80℃に設定したオイルバスで24時間、反応させた(アルゴン雰囲気下)。TLC(CHCl=100)で反応が進行したのを確認後、室温まで冷却させ吸引濾過、減圧留去、真空乾燥を行った。これを、シリカゲルカラムクロマト精製(Kanto 60N,CHCl=100)を行った。H−NMRで確認を行い、目的物であるチオエステル体(38)を得た(収量0.1g、収率39%)。
【0150】
合成例12
アルコキシシリル基として3−ヨードプロピルトリエトキシシランを含むピリジニウム塩(40)について説明する。
【0151】
【化23】
【0152】
30mLのナス型フラスコにピリジル体39を0.2g(0.512mmol、モル比 1.0)、3−ヨードプロピルトリエトキシシラン0.85g(2.56mmol、モル比 5.0)、トルエン10mLを入れ、室温で撹拌しながら減圧、アルゴン置換を行った。その後、110℃設定したオイルバスで2日間反応させた。TLC(CHCl=100)で反応が進行したのを確認後、室温まで冷却させてエバポレーターで減圧留去した。残渣をヘキサンで洗浄し、吸引濾過、真空乾燥させた。これを、シリカゲルカラムクロマト精製(Kanto 60N,CHCl:メタノール=8:2)を行った。H−NMRで確認を行い、目的物であるピリジニウム塩(40)を得た(収量0.11g、収率30%)。
【0153】
合成例13
アルコキシシリル基として3−ヨードプロピルトリエトキシシランを含むピリジニウム塩(42)について説明する。
【0154】
【化24】
【0155】
30mLのナス型フラスコにピリジル体41を0.2g(0.492mmol、モル比 1.0)、3−ヨードプロピルトリエトキシシラン0.82g(2.46mmol、モル比 5.0)、トルエン10mLを入れ、室温で撹拌しながら減圧、アルゴン置換を行った。その後、110℃に設定したオイルバスで2日間反応させた。TLC(CHCl=100)で反応が進行したのを確認後、室温まで冷却させてエバポレーターで減圧留去した。残渣をヘキサンで洗浄し、吸引濾過、真空乾燥させた。これを、シリカゲルカラムクロマト精製(Kanto 60N,CHCl:メタノール=8:2)を行った。H−NMRで確認を行い、目的物であるピリジニウム塩(42)を得た(収量0.12g、収率33%)。
【0156】
(退光性の評価)
実験1
合成例1〜13で製造したアルコキシシリル基含有有機EL色素をクロロホルムに溶解させ、スライドガラス上に垂らし、乾燥させ膜状のサンプルを作製した。作製したサンプルに紫外線ランプ(アズワンSLUV−4:照射波長 365nm)を用いて紫外線を照射し、所定時間経過後、以下の蛍光顕微鏡による観察を行った。なお、紫外線照射前後の蛍光強度の変化は、撮影した写真を目視観察することで評価した。
顕微鏡:OlYMPUS BX50
励起フィルター:ET405/40X
ダイクロイックミラー:T470pxr
吸収フィルター:ET545/70m
【0157】
(結果)
表1に、吸収波長、蛍光波長、そして紫外線照射6時間後の蛍光強度の変化の結果を示す。紫外線照射後でも、UV照射前と同様の蛍光強度が得られた。なお、図1に、合成例2で製造したAPS含有体(10)について、UV試験前とUV照射300時間後のサンプルの蛍光顕微鏡写真を示す。UV照射300時間後でも、UV照射前と同様の蛍光強度が得られた。
【0158】
【表1】
【0159】
合成例1〜13で製造したアルコキシシリル基含有有機EL色素は、すべて100nm以上のストークスシフトを有しており、特に、RおよびRに置換チエニル基を有する合成例7〜13は、170nm以上のストークスシフトが得られた。これにより、励起光の影響を受けることなく高感度の検出が可能となる。また、合成例7〜13は、640nm以上の近赤外光域に蛍光波長を有していることから、生体組織の形態学的変化や機能的変化を検出する有効なツールとなり、高感度の生体イメージング用蛍光試薬としても期待できる。

図1