特許第6709742号(P6709742)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6709742
(24)【登録日】2020年5月27日
(45)【発行日】2020年6月17日
(54)【発明の名称】摩擦板
(51)【国際特許分類】
   F16D 13/62 20060101AFI20200608BHJP
【FI】
   F16D13/62 A
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-12967(P2017-12967)
(22)【出願日】2017年1月27日
(65)【公開番号】特開2018-119646(P2018-119646A)
(43)【公開日】2018年8月2日
【審査請求日】2018年9月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000204882
【氏名又は名称】株式会社ダイナックス
(74)【代理人】
【識別番号】230101177
【弁護士】
【氏名又は名称】木下 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100180079
【弁理士】
【氏名又は名称】亀卦川 巧
(72)【発明者】
【氏名】高倉 則雄
(72)【発明者】
【氏名】シャジャダ アハメッド パロヴィー
(72)【発明者】
【氏名】及川 明人
(72)【発明者】
【氏名】大橋 亮
【審査官】 岡本 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−336805(JP,A)
【文献】 特開2008−180314(JP,A)
【文献】 特開2005−076759(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 13/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状のプレートの表面の周方向に構成が異なる第一摩擦材セットと第二摩擦材セットが交互に設けられ、前記プレートの内周側から外周側に向けて連通する油溝が前記第一摩擦材セットと第二摩擦材セットの間に形成されている摩擦板であって、
前記油溝は、前記表面の内周端から外周端までの中央で角度を持って交わるように形成されている、前記中央より外周側に延びる外周側油溝と、前記中央より内周側に延びる内周側油溝を具え、
前記第一摩擦材セットは、前記中央より外周側に前記外周側油溝と連通する外周側連通油溝を具え、該外周側連通油溝によって第一ベース部と第一パーツ部に分断され、
前記第二摩擦材セットは、前記中央より内周側に前記内周側油溝と連通する内周側連通油溝を具え、該内周側連通油溝によって第二ベース部と第二パーツ部に分断されていることを特徴とする、
摩擦板。
【請求項2】
前記外周側油溝と前記内周側連通油溝が直線状に連通している、請求項1の摩擦板。
【請求項3】
前記内周側油溝と前記外周側連通油溝が直線状に連通している、請求項1又は2の摩擦板。
【請求項4】
前記外周側油溝に対向する前記第一摩擦材セットの前記第一ベース部に第一油溜り凹部が設けられている、請求項1から3のいずれかの摩擦板。
【請求項5】
前記内周側油溝に対向する前記第二摩擦材セットの前記第二ベース部に第二油溜り凹部が設けられている、請求項1から4のいずれかの摩擦板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油に浸っている摩擦板(湿式摩擦板)と相手プレートを摩擦係合させてトルクを伝達する摩擦クラッチに使用される摩擦板に関する。
【背景技術】
【0002】
摩擦クラッチは、通常、一方の軸と連動して回転する複数枚の相手プレートと、相手プレートの間に配設され、他方の軸と連動して回転する摩擦板を具え、ピストンが作動して相手プレートを押圧し、相手プレートと摩擦板を摩擦係合させることにより一方の軸と他方の軸との間でトルクを伝達させる。相手プレートと摩擦板は潤滑油に浸っており、潤滑油により相手プレートと摩擦板は冷却される。摩擦板には、相手プレートと対向する面(両面)に摩擦材が貼付けられている。そして、摩擦材の表面や摩擦材同士の間には、潤滑油を流すための油溝が設けられている。
【0003】
摩擦クラッチにおいて、ピストンが作動しておらず、摩擦クラッチが非係合状態のとき、相手プレートと摩擦板との間でトルクが全く伝達されずに動力損失を生じないのが理想であるが、実際は、相手プレートと摩擦板の間に介在する潤滑油が原因で相手プレートと摩擦板との間でトルクが少なからず伝達される。これは、摩擦クラッチが非係合状態のとき、回転する相手プレートによって潤滑油が周方向に引摺られながら摩擦板の油溝を抜けることによる、潤滑油の剪断抵抗力によるものである。このようにして伝達されるトルクを引摺りトルクやドラグトルクなどという。
【0004】
引摺りトルクは、潤滑油の空気の含有量を多くすることで低減できることが知られている。そして、これまで、引摺りトルクを低減するため、様々な形状の摩擦材と油溝を具えた摩擦板が考案されてきており、その例として、以下に挙げるものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−221252
【特許文献2】特開2005−351296
【0006】
特許文献1には、芯板と、この芯板の両側面に接合される摩擦材とからなり、該摩擦材に、該摩擦材の内外周縁間を連通する複数条の第1オイル溝と、隣接する第1オイル溝の中間部相互を連通する第2オイル溝とを形成し、前記第1オイル溝を、その半径方向内端を通る半径線に対して該芯板の周方向へ一定角度傾けて配置した摩擦板であって、第2オイル溝を、その半径方向内端を通る半径線に対して第1オイル溝の角度より大きい鋭角をもって第1オイル溝と同方向へ傾けて配置した摩擦板が開示されている。
【0007】
特許文献2には、円板状のコアプレートと所定形状からなるセグメント状の複数の摩擦材とからなり、コアプレートの表面上に各摩擦材を固着し、各摩擦材間の隙間によって油溝を形成してなる摩擦係合装置のフリクションプレートであって、セグメント状の摩擦材間の隙間によって形成する各油溝が、コアプレートの内周側および外周側に開口し且つ中途部がフリクションプレートの回転方向に対して逆方向に凸状に曲がる形状を具えている摩擦板が開示されている。
【0008】
特許文献1の摩擦板によれば、第1オイル溝と第2オイル溝がねじポンプ作用を発揮して、摩擦材とクラッチ板との間に介在するオイルを掻き落としながら、摩擦材の内周側又は外周側に移送するので、摩擦板及びクラッチ板間のオイルの粘性による引摺りトルクが著しく減少し、摩擦材全体を効果的に冷却することができるとされている。
【0009】
特許文献2の摩擦板によれば、摩擦係合装置の解放時、油溝内に導入された潤滑油を相手プレートとの相対回転により引き摺らせて油溝の中央部分に移動させ、油溝の中央部分から軸方向に排出させて、排出時にセパレータプレートとの間隔を拡大するよう作用させ、積極的な非締結力を発生させることができるから、低回転時においても引摺りトルクを低減でき、フリクション低減により燃費を向上させることができるとされている。
【0010】
しかし、近年、摩擦クラッチの小型化の要請から、クラッチ非締結時の摩擦板と相手プレートとの距離が縮まってきており、引摺りトルクをさらに低減できる摩擦板が望まれている。また、クラッチ締結時の冷却性もさらに向上させることが望まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明は、前述した従来技術の問題点に鑑み、引摺りトルクがより少なく、冷却性能をさらに向上させた摩擦板を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、環状のプレートの表面の周方向に構成が異なる第一摩擦材セットと第二摩擦材セットが交互に設けられ、前記プレートの内周側から外周側に向けて連通する油溝が前記第一摩擦材セットと第二摩擦材セットの間に形成されている摩擦板であって、
前記油溝は、前記表面の内周端から外周端までの中央で角度を持って交わるように形成されている、前記中央より外周側に延びる外周側油溝と、前記中央より内周側に延びる内周側油溝を具え、
前記第一摩擦材セットは、前記中央より外周側に前記外周側油溝と連通する外周側連通油溝を具え、該外周側連通油溝によって第一ベース部と第一パーツ部に分断され、
前記第二摩擦材セットは、前記中央より内周側に前記内周側油溝と連通する内周側連通油溝を具え、該内周側連通油溝によって第二ベース部と第二パーツ部に分断されていることを特徴とする摩擦板によって前記課題を解決した。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、摩擦クラッチの非締結時で摩擦板が回転しているとき、外周側油溝から内周側に向けて流れ込んだ潤滑油が第一摩擦材セットの第一ベース部の上に乗り上げ、或いは、内周側油溝から外周側に向けて流れ込んだ潤滑油が第二摩擦材セットの第二ベース部の上に乗り上げるので、潤滑油を軸方向に排出させて、摩擦板と相手プレートとの間隔を拡大するように作用させることができ、また、乗り上げた潤滑油の空気の含有量が増加することにより引摺りトルクを低減できる。
【0014】
一方で、摩擦クラッチの締結時で摩擦板が回転しているとき、外周側油溝から内周側に向け、また、内周側油溝から外周側に向けて流れ込んだ潤滑油が外周側連通油溝又は内周側連通油溝を通じて摩擦係合面の外部に流れ出易いので、潤滑油を循環させ易く、熱交換効率が高いので、冷却性能を向上させることができる。
【0015】
また、外周側油溝と内周側連通油溝が直線状に連通している構成、或いは、内周側油溝と外周側連通油溝が直線状に連通している構成とすることで、潤滑油を摩擦係合面の外部にさらに流れ出易くさせることができるので、冷却性能をさらに向上させることができる。
【0016】
また、外周側油溝に対向する第一摩擦材セットの第一ベース部に第一油溜り凹部が設けられている構成、或いは、内周側油溝に対向する第二摩擦材セットの第二ベース部に第二油溜り凹部が設けられている構成とすれば、潤滑油が第一油溜り凹部又は第二油溜り凹部に溜まり、第一ベース部又は第二ベース部の上に乗り上げ易いので、引摺りトルクを一層低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第一実施形態の摩擦板の一部正面図。
図2】本発明の第二実施形態の摩擦板の一部正面図。
図3】本発明の第三実施形態の摩擦板の一部正面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図1〜3を参照して説明する。但し、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。なお、本発明の摩擦板は摩擦クラッチに使用されるものであるが、摩擦クラッチの基本的な構造は周知であるため、摩擦クラッチ自体の図示を伴う説明は省略する。
【0019】
図1に示すように、本発明の摩擦板10には、プレート12の面14上に第一・第二摩擦材セット20,30が交互に貼付けられている。図示は省略するが、より詳細には、プレート12は環状形状であり、第一・第二摩擦材セット20,30はプレート12の周方向に亘る面14に貼り付けられている。これは、図2,3においても同様である。なお、プレート12には、図示しないハブ等にスプライン嵌合させるためのスプラインが設けられる。
【0020】
第一摩擦材セット20と第二摩擦材セット30の間には、プレート12の内周側から外周側に向けて連通する油溝40が設けられている。油溝40は、外周側油溝42と内周側油溝44を有し、外周側油溝42と内周側油溝44は、プレート12の表面14の内周端16から外周端18までの中央で角度を持って交わるように構成されている。なお、外周側油溝42と内周側油溝44で形成される内角は、30°〜120°とするのがよい。また、当該内角は、摩擦板10において全て同一角を有するものでなくてもよい。
【0021】
油溝40に隣接する第一摩擦材セット20と第二摩擦材セット30は、構成が異なる。まず、第一摩擦材セット20は、プレート12の表面14の内周端16から外周端18までの中央より外周側に、外周側油溝42と連通する外周側連通油溝46を具えている。すなわち、第一摩擦材セット20は、外周側連通油溝46によって、第一ベース部22と第一パーツ部24に分断されている。摩擦板10の場合、内周側油溝44と外周側連通油溝46は直線状に連通している。
【0022】
一方、第二摩擦材セット30は、プレート12の表面14の内周端16から外周端18までの中央より内周側に、内周側油溝44と連通する内周側連通油溝48を具えている。すなわち、第二摩擦材セット30は、内周側連通油溝48によって、第二ベース部32と第二パーツ部34に分断されている。摩擦板10の場合、外周側油溝42と内周側連通油溝48は直線状に連通している。
【0023】
また、第一摩擦材セット20の第一ベース部22は、第一油溜り凹部45を具えている。第一油溜り凹部45は、外周側油溝42に対向する第一摩擦材セット20の第一ベース部22に設けられている。摩擦板10では、第一油溜り凹部45の形状は半円形であるが、これに限られるものではなく、潤滑油が溜まる形状であればよい。同様に、内周側油溝44に対向する第二摩擦材セット30の第二ベース部32にも第二油溜り凹部47が設けられている。
【0024】
上記構成を有する摩擦板10によれば、摩擦クラッチの非締結時で摩擦板10が矢印Xの方向に回転すると、外周側油溝42から内周側に向けて(矢印Aの方向に)流れ込んだ潤滑油が第一摩擦材セット20の第一ベース部22の上に乗り上げ、一方で、内周側油溝44から外周側に向けて(矢印Bの方向に)流れ込んだ潤滑油が第二摩擦材セット30の第二ベース部32の上に乗り上げるので、潤滑油を軸方向に排出させて、摩擦板10と相手プレート(図示省略)との間隔を拡大するように作用させることができ、また、乗り上げた潤滑油の空気の含有量が増加することにより、引摺りトルクを低減させることができる。
【0025】
また、摩擦クラッチの締結時で摩擦板10が矢印Xの方向に回転しているとき、外周側油溝42から内周側に向けて流れ込んだ潤滑油が外周側連通油溝46を通じて矢印Cの方向に流れ出易く、同時に、内周側油溝44から外周側に向けて流れ込んだ潤滑油が内周側連通油溝48を通じて矢印Dの方向に流れ出易い。すなわち、潤滑油が摩擦係合面14の外部に流れ出易いので、潤滑油を循環させ易く、熱交換効率が高いので、冷却性能を向上させることができる。
【0026】
摩擦板10のように、外周側油溝42と内周側連通油溝48が直線状に連通している構成、或いは、内周側油溝44と外周側連通油溝46が直線状に連通している構成とすることで、潤滑油をプレート12の表面14の外部にさらに流れ出易くさせることができ、冷却性能を向上させることができる。
【0027】
他方、第一油溜り凹部45又は第二油溜り凹部47が設けられている構成とすれば、摩擦クラッチの締結時で摩擦板10が矢印Xの方向に回転しているとき、潤滑油が第一油溜り凹部45又は第二油溜り凹部47に溜まり、第一摩擦材セット20の第一ベース部22又は第二摩擦材セット30の第二ベース部32の上に乗り上げ易いので、引摺りトルクを低減させ易くすることができる。
【0028】
図2に示す摩擦板10aは、摩擦板10に比べ、外周側油溝42aと内周側油溝44aで形成される内角が鋭角である。摩擦板10aのように、第一摩擦材セット20aの第一ベース部22a、第一パーツ部24a、及び第二摩擦材セット20bの第二ベース部22b、第二パーツ部24bの形状は、油溝等の構成に応じて適宜変更することが可能である。摩擦板10aの構成としても、摩擦板10aがX方向に回転したとき、引摺りトルクの低減と冷却性能の向上という効果を奏することができる。
【0029】
また、図3に示す摩擦板10bのように、外周側油溝42bと内周側連通油溝48b、及び内周側油溝44bと外周側連通油溝46bが直線状でない構成とすることもできる。本構成としても、摩擦板10bがX方向に回転したとき、引摺りトルクの低減と冷却性能の向上という効果を奏することができる。
【0030】
上記に説明した外周側油溝42〜42b、内周側油溝44〜44b、外周側連通油溝46〜46b、内周側連通油溝48〜48b、及び第一・第二油溜り凹部45,47は、例えば、該当部分に摩擦材を貼付けないことによって形成することもでき、環状の摩擦材にプレス加工又は切削などの除去加工を施して形成することもできる。また、摩擦材や油溝は、プレートの両面の摩擦係合面に設けることができ、摩擦板の回転方向に応じて、それらの向きを調整すればよい。
【0031】
以上説明したように、本発明によれば、潤滑油の排出効率が高く、且つ、潤滑油を軸方向に排出させて、摩擦板と相手プレートとの間隔を拡大するように作用させ、また、乗り上げた潤滑油の空気の含有量を増加させることにより、冷却性能が高く、且つ、引摺りトルクがより少ない摩擦板を提供することができる。
【符号の説明】
【0032】
10〜10b 摩擦板
12 プレート
14
16 内周端
18 外周端
20〜20b 第一摩擦材セット
22〜22b 第一ベース部
24〜24b 第一パーツ部
30〜30b 第二摩擦材セット
32〜32b 第二ベース部
34〜34b 第二パーツ部
40 油溝
42〜42b 外周側油溝
44〜44b 内周側油溝
45 第一油溜り凹部
46〜46b 外周側連通油溝
47 第二油溜り凹部
48〜48b 内周側連通油溝
図1
図2
図3