(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0015】
(実施の形態1)
図1は、本実施の形態の有機EL素子用の保護膜の断面図である。
図1に示すように、有機EL素子用の保護膜PROは、フレキシブル基板S上の有機EL形成層L上に形成されている。
【0016】
この保護膜PROは、ALD(Atomic Layer Deposition:原子層堆積)法で形成されたSiOC膜よりなる。このSiOC膜は、SiとCとを有する化合物を原料としたALD法を用いて形成された膜である。このように、炭素(C)を含有する膜を有機膜と言い、ALD法により有機膜を形成する方法を有機ALD法と言う。そして、上記SiとCとを有する化合物は、(1)SiとSiとの間の主鎖に、少なくとも1つ以上のCを有し、(2)主鎖の両端のSiに、それぞれアミノ基が結合されていると言う2つの特徴を有する。
【0017】
図2に、本実施の形態の有機EL素子用の保護膜の原料であるSiとCとを有する化合物の構造を模式的に示す。
【0018】
図2の式(1)で示されるシリコン化合物の一例として、例えば、1,2−ビス[(ジメチルアミノ)ジメチルシリル]エタン(以下、単に“DMSE”と示す)が挙げられる。
【0019】
図3は、DMSEの構造とDMSEを用いたSiOC膜の成膜の反応機構を示す図である。
図3に示すように、(a)有機EL形成層Lの表面の−OHと、DMSEの一方の端のアミノ基とが反応し、副生成物として、N(CH
3)
2Hが生じる(b)。次いで、(c)に示すように、酸化剤である酸素ラジカル(Oラジカル)の作用により、DMSEの他方の端のアミノ基が、−OHとなる。次いで、この−OHが、他のDMSEと(a)と同様に反応することにより、SiOC膜が成長する(d)。なお、
図3において、隣り合う原子間のSi同士が直接、または、他の原子(例えば、OやC)を介して結合する反応が生じてもよい。また、確率は小さいが、上記原料分子の両端のアミノ基の双方が、有機EL形成層Lの表面の−OHと反応する場合もある。
【0020】
図4は、DMSEを用いたALD法によるSiOC膜の成膜の様子を模式的に示す図である。
【0021】
まず、第1ステップ(原料ガス供給ステップ)として、基板が配置されたチャンバ内へ原料ガスであるDMSEを導入(供給)する。これにより処理対象物である有機EL形成層Lの表面上に、DMSEの分子が物理吸着する(
図4(a))。そして、有機EL形成層Lの表面の−OHと、DMSEの一方の端のアミノ基とが反応し、NR
2H(R=CH
3)が離脱し、O(酸素原子)とSi(シリコン原子)が化学的に結合する(
図4(b))。
【0022】
次に、第2ステップ(パージステップ)として、チャンバ内への原料ガスの導入を停止し、パージガスを導入(供給)する。パージガスとしては、不活性ガスを好適に用いることができるが、窒素ガス(N
2ガス)を用いる場合もあり得る。パージガスを導入することで、有機EL形成層Lの表面の−OHと反応したDMSE以外の原料ガスや副生成物NR
2H(R=CH
3)は、パージガスと一緒にチャンバ外に排出される。
【0023】
次に、第3ステップ(反応ガス供給ステップ)として、反応ガスを、チャンバ内に導入(供給)する。反応ガスとしては、Oプラズマを用いることができる。ここでは、O
2ガス(酸素ガス)をチャンバ内に導入し、高周波電力の印加により、Oプラズマを生成する。なお、予め、チャンバ外において生成したOプラズマをチャンバ内に導入(供給)してもよい。このOプラズマの作用(反応)により、DMSEの他方の端のアミノ基が、−OHとなる(
図4(c))。言い換えれば、Oラジカルとの反応物が生成する。これにより、有機EL形成層Lの表面に、SiOCの原子層(第一層1L)が形成される。なお、O
2ガス(酸素ガス)に代えてO
3ガス(オゾンガス)や水蒸気(H
2O)を用いてもよい。但し、低温(例えば、200℃以下)の成膜においては、O
2ガスによるOプラズマを用いた方が反応性が良好である。
【0024】
次に、第4ステップ(パージステップ)として、チャンバ内への反応ガスの導入と、高周波電力の印加を停止し、パージガスをチャンバ内に導入(供給)する。パージガスとしては、不活性ガスを好適に用いることができるが、窒素ガス(N
2ガス)を用いる場合もあり得る。パージガスを導入することで、未反応物質(反応ガスなど)は、パージガスと一緒にチャンバ外に排出される(パージされる)。
【0025】
次いで、同様にして第1ステップ、第2ステップ、第3ステップおよび第4ステップを行い、SiOCの原子層(第二層2L)が形成される(
図4(d))。
【0026】
このように、第1ステップ、第2ステップ、第3ステップおよび第4ステップを、複数サイクル繰り返すことで、有機EL形成層Lの表面上に、所望の膜厚のSiOC膜を形成することができる。例えば、第1ステップ、第2ステップ、第3ステップおよび第4ステップを、30サイクル繰り返せば、30層の原子層からなる膜が形成される。
【0027】
このように、本実施の形態の有機EL素子用の保護膜の製造方法(形成方法)によれば、SiとSiとの間の主鎖に、少なくとも1つ以上のCを有する原料を用いたので、形成される膜中に効果的に炭素(C)を取り込み、SiOC膜を形成することができる。このSiOC膜は、水分バリア性(耐水性)を有し、柔軟性を有する。これにより、有機EL素子を水分から保護できるとともに、フレキシブル基板に追随してSiOC膜に曲げ応力が加わったとしても、曲げによる亀裂などを防止することができ、曲げ耐性を向上させることができる。
【0028】
また、SiとSiとの間の主鎖中のCの数を調整することで、柔軟度を調整することができる。例えば、SiとSiとの間の主鎖中のCの数を多くすることで、柔軟性を向上させることができる。
【0029】
また、本実施の形態の有機EL素子用の保護膜の製造方法によれば、SiとSiとの間の主鎖により、比較的分子長さが長くなるため、1サイクル当たりの原子層の厚さを大きくすることができ、SiOC膜の成膜速度を向上させることができる(
図4参照)。
【0030】
なお、SiとSiとの間の主鎖に、−C−、−C−C−、−C−C−C−などの他、ベンゼン環などを含んでもよい。また、−O−C−C−O−など、炭素と酸素の化合物を含んでもよい。
【0031】
また、上記フレキシブル基板は、繰り返しの折り曲げも可能であり、ベンダブル(bendable)基板とみなすこともでき、また、折りたたむことも可能であり、フォルダブル(foldable)基板とみなすこともできる。このように、フレキシブル基板には、ベンダブル基板やフォルダブル基板も包括されている。
【0032】
また、本実施の形態の有機EL素子用の保護膜は、後述する表示装置や、有機EL素子を用いた照明などの電子機器に広く適用可能である。
【0033】
(実施の形態2)
次いで、実施の形態1で説明した保護膜を有する表示装置について以下に詳細に説明する。
【0034】
<表示装置の構造>
本実施の形態の表示装置は、有機EL素子を利用した有機EL表示装置(有機エレクトロルミネッセンス表示装置)である。本実施の形態の表示装置を、図面を参照して説明する。
【0035】
図5は、本実施の形態の表示装置1の全体構成を示す平面図である。
【0036】
図5に示される表示装置1は、表示部2と、回路部3とを有している。表示部2には、複数の画素がアレイ状に配列されており、画像の表示を可能としている。回路部3には、必要に応じて種々の回路が形成されており、例えば、駆動回路または制御回路などが形成されている。回路部3内の回路は、必要に応じて、表示部2の画素に接続されている。回路部3は、表示装置1の外部に設けることもできる。表示装置1の平面形状は、種々の形状を採用できるが、例えば矩形状である。
【0037】
図6は、表示装置1の要部平面図であり、
図7は、表示装置1の要部断面図である。
図6には、表示装置1の表示部2の一部(
図5に示される領域4)を拡大して示してある。
図7は、例えば、
図6のA1−A1部に対応している。
【0038】
表示装置1のベースを構成する基板11は、絶縁性を有している。また、基板11は、フレキシブル基板(フィルム基板)であり、可撓性を有している。このため、基板11は、絶縁性を有するフレキシブル基板、すなわちフレキシブル絶縁基板である。基板11は、更に透光性を有する場合もあり得る。基板11として、例えばフィルム状のプラスチック基板(プラスチックフィルム)を用いることができる。基板11は、
図5の表示装置1の平面全体に存在しており、表示装置1の最下層を構成している。このため、基板11の平面形状は、表示装置1の平面形状とほぼ同じであり、種々の形状を採用できるが、例えば矩形状とすることができる。なお、基板11の互いに反対側に位置する2つの主面のうち、有機EL素子が配置される側の主面、すなわち後述のパッシベーション膜12、電極層13、有機層14、電極層15および保護膜16を形成する側の主面を、基板11の上面と称することとする。また、基板11における上面とは反対側の主面を、基板11の下面と称することとする。
【0039】
基板11の上面上には、パッシベーション膜(パッシベーション層)12が形成されている。パッシベーション膜12は、絶縁材料(絶縁膜)からなり、例えば酸化シリコン膜からなる。パッシベーション膜12は、形成しない場合もあり得るが、形成した方がより好ましい。パッシベーション膜12は、基板11の上面のほぼ全体にわたって形成することができる。
【0040】
パッシベーション膜12は、基板11側から有機EL素子(特に有機層14)への水分の伝達を防止(遮断)する機能を有している。このため、パッシベーション膜12は、有機EL素子の下側の保護膜として機能することができる。一方、後述の保護膜16は、有機EL素子の上側の保護膜として機能することができ、上側から有機EL素子(特に有機層14)への水分の伝達を防止(遮断)する機能を有している。
【0041】
基板11の上面上には、パッシベーション膜12を介して、有機EL素子が形成されている。有機EL素子は、電極層13と有機層14と電極層15とからなる。つまり、基板11上のパッシベーション膜12上には、電極層13と有機層14と電極層15とが、下から順に形成(積層)されており、これら電極層13と有機層14と電極層15とにより、有機EL素子が形成されている。
【0042】
電極層13は、下部電極層であり、電極層15は、上部電極層である。電極層13は、陽極および陰極のうちの一方を構成し、電極層15は、陽極および陰極のうちの他方を構成する。すなわち、電極層13が陽極(陽極層)の場合は、電極層15は陰極(陰極層)であり、電極層13が陰極(陰極層)の場合は、電極層15は陽極(陽極層)である。電極層13および電極層15は、それぞれ導電膜からなる。
【0043】
電極層13および電極層15のうちの一方は、反射電極として機能できるように、アルミニウム(Al)膜などの金属膜により形成することが好ましく、また、電極層13および電極層15のうちの他方は、透明電極として機能できるように、ITO(インジウムスズオキサイド)などからなる透明導体膜により形成することが好ましい。基板11の下面側から光を取出す、いわゆるボトムエミッション方式を採用する場合は、電極層13を透明電極とすることができ、基板11の上面側から光を取出す、いわゆるトップエミッション方式を採用する場合は、電極層15を透明電極とすることができる。また、ボトムエミッション方式を採用する場合は、基板11として透光性を有する透明基板(透明フレキシブル基板)を用いることができる。
【0044】
基板11上のパッシベーション膜12上に電極層13が形成され、電極層13上に有機層14が形成され、有機層14上に電極層15が形成されているため、電極層13と電極層15との間には、有機層14が介在している。
【0045】
有機層14は、少なくとも有機発光層を含んでいる。有機層14は、有機発光層以外にも、ホール輸送層、ホール注入層、電子輸送層および電子注入層のうちの任意の層を、必要に応じて更に含むことができる。このため、有機層14は、例えば、有機発光層の単層構造、ホール輸送層と有機発光層と電子輸送層との積層構造、あるいは、ホール注入層とホール輸送層と有機発光層と電子輸送層と電子注入層との積層構造などを有することができる。
【0046】
電極層13は、例えば、X方向に延在するストライプ状のパターンを有している。すなわち、電極層13は、X方向に延在するライン状の電極(電極パターン)13aが、Y方向に所定の間隔で複数配列した構成を有している。電極層15は、例えば、Y方向に延在するストライプ状のパターンを有している。すなわち、電極層15は、Y方向に延在するライン状の電極(電極パターン)15aが、X方向に所定の間隔で複数配列した構成を有している。つまり、電極層13は、X方向に延在するストライプ状の電極群からなり、電極層15は、Y方向に延在するストライプ状の電極群からなる。ここで、X方向とY方向とは、互いに交差する方向であり、より特定的には、互いに直交する方向である。また、X方向およびY方向は、基板11の上面に略平行な方向でもある。
【0047】
電極層15を構成する各電極15aの延在方向はY方向であり、電極層13を構成する各電極13aの延在方向はX方向であるため、電極15aと電極13aとは、平面視において互いに交差している。なお、平面視とは、基板11の上面に略平行な平面で見た場合を言うものとする。電極15aと電極13aとの各交差部においては、電極15aと電極13aとで有機層14が上下に挟まれた構造を有している。このため、電極15aと電極13aとの各交差部に、電極13aと電極15aと電極13a,15a間の有機層14とで構成される有機EL素子(画素を構成する有機EL素子)が形成され、その有機EL素子により画素が形成される。電極15aと電極13aとの間に所定の電圧が印加されることで、その電極15a,電極13a間に挟まれた部分の有機層14中の有機発光層が発光することができる。すなわち、各画素を構成する有機EL素子が発光することができる。電極15aが、有機EL素子の上部電極(陽極または陰極の一方)として機能し、電極13aが、有機EL素子の下部電極(陽極または陰極の他方)として機能する。
【0048】
なお、有機層14は、表示部2全体にわたって形成することもできるが、電極層13と同じパターン(すなわち電極層13を構成する複数の電極13aと同じパターン)として形成することもでき、あるいは、電極層15と同じパターン(すなわち電極層15を構成する複数の電極15aと同じパターン)として形成することもできる。いずれにしても、電極層13を構成する複数の電極13aと電極層15を構成する複数の電極15aとの各交点には、有機層14が存在している。
【0049】
このように、平面視において、表示装置1の表示部2では、平面視において、基板11上に有機EL素子(画素)がアレイ状に複数配列した状態になっている。
【0050】
なお、ここでは、電極層13,15がストライプ状のパターンを有している場合について説明した。このため、アレイ状に配列した複数の有機EL素子(画素)において、X方向に並んだ有機EL同士では、下部電極(電極13a)同士が繋がっており、また、Y方向に並んだ有機EL同士では、上部電極(電極15a)同士が繋がっている。しかしながら、これに限定されず、アレイ状に配列する有機EL素子の構造は、種々変更可能である。
【0051】
例えば、アレイ状に配列した複数の有機EL素子が、上部電極でも下部電極でも互いにつながっておらず、独立に配置されている場合もあり得る。この場合は、各有機EL素子は、下部電極と有機層と上部電極との積層構造を有する孤立パターンにより形成され、この孤立した有機EL素子が、アレイ状に複数配列することになる。この場合は、各画素において有機EL素子に加えてTFT(薄膜トランジスタ)などのアクティブ素子を設けるとともに、画素同士を必要に応じて配線を介して接続することができる。
【0052】
基板11(パッシベーション膜12)の上面上には、有機EL素子を覆うように、従って電極層13と有機層14と電極層15とを覆うように、保護膜(保護層)16が形成されている。本実施の形態では、保護膜16は、実施の形態1で説明した有機ALD法で形成されたSiOC膜よりなる(
図3、
図4参照)。このSiOC膜は、前述したように、SiとCとを有する化合物を原料としたALD法を用いて形成された、炭素(C)を含有する有機膜である。そして、上記SiとCとを有する化合物は、(1)SiとSiとの間の主鎖に、少なくとも1つ以上のCを有し、(2)主鎖の両端のSiに、それぞれアミノ基が結合されている。
【0053】
表示部2に有機EL素子がアレイ状に配列している場合は、それらアレイ状に配列した有機EL素子を覆うように、上記保護膜16が形成される。このため、保護膜16は、表示部2全体に形成されていることが好ましく、また、基板11の上面のほぼ全体上に形成されていることが好ましい。有機EL素子(電極層13、有機層14および電極層15)を保護膜16により覆うことで、有機EL素子(電極層13、有機層14および電極層15)を保護し、また、有機EL素子への水分の伝達、特に有機層14への水分の伝達を、保護膜16によって防止(遮断)することができる。また、保護膜16は、柔軟性を有するため緩衝材としての機能を有している。例えば、保護膜16と、その下層の有機EL形成層(13、14、15等)との間の応力を緩和する。また、保護膜16と、その上層の樹脂膜17との間の応力を緩和する。
【0054】
ここで、電極または配線などの一部を、保護膜16から露出させる場合には、後述する保護膜16のパターニング工程により、部分的に保護膜16を除去し、電極または配線などの一部を露出させる。但し、そのような場合でも、保護膜16を形成していない領域から、有機層14は露出しないようにすることが好ましい。
【0055】
保護膜16上には、樹脂膜(樹脂層、樹脂絶縁膜、有機絶縁膜)17が形成されている。樹脂膜17の材料としては、例えばPET(polyethylene terephthalate:ポリエチレンテレフタレート)などを好適に用いることができる。樹脂膜17は、その形成を省略することもできる。
【0056】
<表示装置の製造方法>
本実施の形態の表示装置1の製造方法について、図面を参照して説明する。
図8〜
図13は、本実施の形態の表示装置1の製造工程を示す要部断面図である。なお、ここでは、主として、表示装置1の表示部2の製造工程を説明する。
【0057】
図8に示されるように、ガラス基板9とフレキシブル基板である基板11とが貼り合わされた基板10を用意(準備)する。基板11は可撓性を有しているが、基板11がガラス基板9に貼り合わされていることで、基板11はガラス基板9に固定される。これにより、基板11上への各種の膜の形成やその膜の加工などが容易になる。なお、基板11の下面が、ガラス基板9に貼り付けられている。
【0058】
次に、
図9に示されるように、基板10の上面上に、パッシベーション膜12を形成する。なお、基板10の上面は、基板11の上面と同義である。
【0059】
パッシベーション膜12は、スパッタリング法、CVD法またはALD法などを用いて形成することができる。パッシベーション膜12は、絶縁材料からなり、例えば酸化シリコン膜からなる。例えば、CVD法により形成した酸化シリコン膜を、パッシベーション膜12として好適に用いることができる。
【0060】
次に、
図10に示されるように、基板10の上面上に、すなわちパッシベーション膜12上に、電極層13と電極層13上の有機層14と有機層14上の電極層15とからなる有機EL素子を形成する。すなわち、パッシベーション膜12上に、電極層13と有機層14と電極層15とを順に形成する。この工程は、例えば、次のようにして行うことができる。
【0061】
すなわち、基板10の上面上に、すなわちパッシベーション膜12上に、電極層13を形成する。電極層13は、例えば、導電膜をパッシベーション膜12上に形成してから、この導電膜を、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術などを用いてパターニングすることなどにより、形成することができる。それから、電極層13上に有機層14を形成する。有機層14は、例えば、マスクを用いた蒸着法(マスク蒸着法)などにより、形成することができる。それから、有機層14上に電極層15を形成する。電極層15は、例えば、マスクを用いた蒸着法などにより、形成することができる。なお、有機層14や電極層15をパターニングにより加工してもよい。
【0062】
電極層13と有機層14と電極層15とからなる有機EL素子を形成した後、基板10の上面上に、すなわち電極層15上に、保護膜16を形成する。保護膜16は、有機EL素子を覆うように形成される。
【0063】
保護膜16は、実施の形態1において説明したように、ALD法を用いて形成する。
【0064】
図14は、ALD法による成膜を行うチャンバ(処理室)25の構成の一例を示す断面図である。
【0065】
図14に示されるように、チャンバ25内には、処理対象物27を配置するためのステージ41と、ステージ41の上方に配置された上部電極42とが、配置されている。チャンバ25の排気部(排気口)43は、真空ポンプ(図示せず)などに接続されており、チャンバ25内を所定の圧力に制御できるようになっている。また、チャンバ25には、チャンバ25内にガスを導入するためのガス導入部44と、チャンバ25内からガスを排出するためのガス排出部45と、を有している。なお、
図14では、理解を簡単にするために、ガス導入部44からチャンバ25内に導入するガスの流れと、ガス排出部45からチャンバ25外に排出するガスの流れとを、それぞれ矢印で模式的に示してある。このような構成の装置を用い、実施の形態1において詳細に説明したように、保護膜(PRO、16)を形成する(
図3、
図4参照)。
【0066】
また、電極または配線などの一部を、保護膜16から露出させる必要がある場合は、保護膜16を形成した後、保護膜16を、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術などを用いてパターニングすることにより、電極または配線などの一部を露出させることができる。このように、SiO
2やSiOCなどのシリコン系の化合物は、ドライエッチングが容易であり、加工性に優れる。これに対し、例えば、酸化アルミニウムなどのAlconeは、ドライエッチングが困難であり、マスクを用いて、保護膜16を形成しない領域を覆い、マスクで覆われずに露出されていた領域に、保護膜16として酸化アルミニウム(Alcone)を形成するという方法(マスク蒸着法)を用いる必要があり、加工性が悪い。
【0067】
有機EL素子(特に有機層14)は高温に弱いため、有機層14の形成後の成膜温度は、有機EL素子(特に有機層14)に悪影響を及ぼさないように、比較的低温であることが好ましく、具体的には、300℃以下であることが好ましく、200℃以下とすることがより好ましい。例えば、実施の形態1においても説明したとおり、上記保護膜16の成膜温度は、200℃以下である。このように、本実施の形態によれば、比較的低い成膜温度でも、水分バリア性および柔軟性を有する保護膜16を形成することができる。
【0068】
保護膜16を形成した後、
図12に示されるように、基板10の上面上に、すなわち保護膜16上に、樹脂膜17を形成する。樹脂膜17は、例えばPETなどからなり、スピンコート法(塗布法)などを用いて形成することができる。
【0069】
その後、
図13に示されるように、基板11をガラス基板9から引きはがすことにより、基板11とその上面上の構造体とを、ガラス基板9から分離する。このようにして、表示装置1を製造することができる。
【0070】
なお、表示装置の製造工程において、前述のチャンバ25の側壁などに付着した不所望なSiO
2やSiOCなどのシリコン系の化合物を、クリーニング(除去)してもよい。前述したように、SiO
2やSiOCなどのシリコン系の化合物は、ドライエッチングが容易であり、エッチングガスをチャンバ25内に流すことで、チャンバ25内のクリーニングが可能となり、チャンバ25のメンテナンスが容易である。
【0071】
(応用例)
図15は、有機EL形成層L上の異物31を示す図である。有機EL形成層Lは、例えば、
図10に示す基板10とパッシベーション膜12と電極層13と有機層14と電極層15とを合わせたものと対応する。
【0072】
図15に示すように、有機EL形成層Lの表面に異物(パーティクル、粒子)31が付着する場合がある。このような、異物31の発生率は、低いことが好ましいが、発生率をゼロとすることは困難である。このため、異物の31の発生率を抑止しつつ、異物31が生じた際の不具合を極力回避するための対策が望まれる。このような対策の一つとして、異物を膜により固着する方法がある。
【0073】
図16は、有機EL形成層上の異物上にCVD法を用いて保護膜を形成した場合の図であり、
図17は、有機EL形成層上の異物上にALD法を用いて保護膜を形成した場合の図である。
【0074】
図16に示すように、有機EL形成層L上に異物31が付着した状態で、CVD法により保護膜32を形成した場合には、被覆性が低く、異物31を固着するように、連続した保護膜32が形成されない。別の言い方をすれば、異物31の影となる部分には保護膜32が形成されない。このような状態においては、異物31の下部を通して水分が侵入する恐れがある。また、異物31が脱落しやすく、その後の工程において、異物31が脱落した場合には、異物31の大きさに対応する保護膜32の孔(開口部)が生じることとなり、水分バリア性がさらに悪化する。
【0075】
これに対し、本実施の形態において説明したように、ALD法により保護膜16を形成した場合においては、
図17に示すように、被覆性が良く、異物31を強固に固着することができ、水分バリア性を維持することができる。
【0076】
(実施の形態3)
実施の形態1、2においては、保護膜(PRO、16)が単層膜である場合について説明したが、保護膜を積層膜としてもよい。保護膜を、例えば、SiOC膜/無機絶縁膜、無機絶縁膜/SiOC膜、SiOC膜/無機絶縁膜/SiOC膜、または、無機絶縁膜/SiOC膜/無機絶縁膜としてもよい。以下に、
図18〜
図21を参照しながら、本実施の形態の第1例〜第4例を説明する。
【0077】
(第1例)
図18は、本実施の形態の第1例の有機EL素子用の保護膜(SiOC膜/無機絶縁膜)の断面図である。
図18に示すように、本第1例において、保護膜16は、SiOC膜(有機絶縁膜、有機ALD膜)16SとSiO
2膜(無機絶縁膜、無機ALD膜)16Hとの積層膜よりなる。フレキシブル基板S上の有機EL形成層L上に、SiOC膜(有機絶縁膜、有機ALD膜)16Sが形成され、その上にSiO
2膜(無機絶縁膜、無機ALD膜)16Hが形成されている。前述したように、炭素(C)を含有する膜を有機膜と言い、ALD法により有機膜を形成する方法を有機ALD法と言う。これに対し、ALD法により無機膜を形成する方法を無機ALD法と言う。
【0078】
SiOC膜16Sは、実施の形態1において説明したように、例えば、1,2−ビス[(ジメチルアミノ)ジメチルシリル]エタンとOプラズマとを用いた有機ALD法により形成することができる。このSiOC膜16Sは、水分バリア性を有し、柔軟性を有する。
【0079】
このように、SiOC膜16SとSiO
2膜16Hとを積層することにより、水分バリア性が向上する。また、SiOC膜16Sは、柔軟性を有するため緩衝材としての機能を有し、例えば、SiO
2膜16Hと、有機EL形成層Lとの間の応力を緩和する。
【0080】
例えば、実施の形態1において
図4を参照しながら説明した、第1ステップ、第2ステップ、第3ステップおよび第4ステップを複数サイクル繰り返し、SiOC膜16Sを形成した後、ビス(ジメチルアミノ)シランとOプラズマとを用いた無機ALD法によりSiO
2膜16Hを形成する。この際、
図14を参照しながら説明した、チャンバ(処理室)25を用いて、SiOC膜16SとSiO
2膜16Hとを連続して形成することができる。
【0081】
例えば、
図4を参照しながら説明した、第1〜第4ステップにおいて、原料ガスの1,2−ビス[(ジメチルアミノ)ジメチルシリル]エタンを用いて、SiOC膜16Sを形成した後、原料ガスをビス(ジメチルアミノ)シランに代えて、同様に処理を行い、SiO
2膜16Hを形成する。
図22は、ビス(ジメチルアミノ)シランを用いたALD法によるSiO
2膜の成膜の様子を模式的に示す図である。
【0082】
まず、第1ステップ(原料ガス供給ステップ)として、基板が配置されたチャンバ内へ原料ガスであるビス(ジメチルアミノ)シランを導入(供給)する。これにより処理対象物である有機EL形成層Lの表面の−OHと、ビス(ジメチルアミノ)シランの一方の端のアミノ基とが化学的に緩く結合する(
図22(a))。
【0083】
次に、第2ステップ(パージステップ)として、チャンバ内への原料ガスの導入を停止し、パージガスを導入(供給)する。パージガスとしては、不活性ガスを好適に用いることができるが、窒素ガス(N
2ガス)を用いる場合もあり得る。パージガスを導入することで、有機EL形成層Lの表面の−OHと化学的に緩く結合したビス(ジメチルアミノ)シラン以外の原料ガスは、パージガスと一緒にチャンバ外に排出される。この第2ステップにおいて、200℃以下の熱処理により、有機EL形成層Lの表面の−OHと、ビス(ジメチルアミノ)シランの一方の端のアミノ基とが化学的に反応し、NR
2H(R=CH
3)が離脱し、O(酸素原子)とSi(シリコン原子)が結合する(
図22(b))。
【0084】
次に、第3ステップ(反応ガス供給ステップ)として、反応ガスを、チャンバ内に導入(供給)する。反応ガスとしては、Oプラズマを用いることができる。ここでは、O
2ガス(酸素ガス)をチャンバ内に導入し、高周波電力の印加により、Oプラズマを生成する。なお、予め、チャンバ外において生成したOプラズマをチャンバ内に導入(供給)してもよい。このOプラズマの作用により、ビス(ジメチルアミノ)シランの他方の端のアミノ基が、−OHとなる(
図22(c))。これにより、有機EL形成層Lの表面に、SiOの原子層(第一層1L)が形成される。
【0085】
次に、第4ステップ(パージステップ)として、チャンバ内への反応ガスの導入と、高周波電力の印加を停止し、パージガスをチャンバ内に導入(供給)する。パージガスとしては、不活性ガスを好適に用いることができるが、窒素ガス(N
2ガス)を用いる場合もあり得る。パージガスを導入することで、未反応物質(反応ガスなど)は、パージガスと一緒にチャンバ外に排出される(パージされる)。
【0086】
次いで、同様にして第1ステップ、第2ステップ、第3ステップおよび第4ステップを行い、SiOの原子層(第二層2L)が形成される(
図22(d))。
【0087】
このように、第1ステップ、第2ステップ、第3ステップおよび第4ステップを、複数サイクル繰り返すことで、有機EL形成層Lの表面上に、所望の膜厚のSiOC膜を形成することができる。例えば、第1ステップ、第2ステップ、第3ステップおよび第4ステップを、30サイクル繰り返せば、30層の原子層からなる膜が形成される。
【0088】
なお、
図22において、隣り合う原子間のSi同士が直接、または、酸素原子を介して結合する反応が生じてもよい。
【0089】
このように、本実施の形態においては、原料ガスの切り替えにより、柔軟性を有するSiOC膜16Sと、緻密なSiO
2膜16Hとの積層膜を形成することができる。
【0090】
(第2例)
図19は、本実施の形態の第2例の有機EL素子用の保護膜(無機絶縁膜/SiOC膜)の断面図である。
図19に示すように、本第2例において、保護膜16は、SiO
2膜(無機絶縁膜、無機ALD膜)16Hと、SiOC膜(有機絶縁膜、有機ALD膜)16Sとの積層膜よりなる。フレキシブル基板S上の有機EL形成層L上に、SiO
2膜(無機絶縁膜、無機ALD膜)16Hが形成され、その上にSiOC膜(有機絶縁膜、有機ALD膜)16Sが形成されている。
【0091】
第1例の場合と同様に、SiO
2膜16Hは、例えば、ビス(ジメチルアミノ)シランとOプラズマとを用いた無機ALD法により形成することができ、SiOC膜16Sは、例えば、1,2−ビス[(ジメチルアミノ)ジメチルシリル]エタンとOプラズマとを用いた有機ALD法により形成することができる。
【0092】
本応用例においても、SiO
2膜16HとSiOC膜16Sとを積層することにより、水分バリア性が向上する。また、SiOC膜16Sは、柔軟性を有するため緩衝材としての機能を有し、例えば、SiO
2膜16Hと、樹脂膜17との間の応力を緩和する。
【0093】
(第3例)
図20は、本実施の形態の第3例の有機EL素子用の保護膜の断面図である。
図20に示すように、本第3例において、保護膜16は、SiOC膜(有機絶縁膜、有機ALD膜)16SとSiO
2膜(無機絶縁膜、無機ALD膜)16HとSiOC膜(有機絶縁膜、有機ALD膜)16Sとの積層膜よりなる。フレキシブル基板S上の有機EL形成層L上に、SiOC膜(有機絶縁膜、有機ALD膜)16Sが形成され、その上にSiO
2膜(無機絶縁膜、無機ALD膜)16Hが形成され、さらに、その上にSiOC膜(有機絶縁膜、有機ALD膜)16Sが形成されている。
【0094】
第1例の場合と同様に、SiO
2膜16Hは、例えば、ビス(ジメチルアミノ)シランとOプラズマとを用いた無機ALD法により形成することができ、SiOC膜16Sは、例えば、1,2−ビス[(ジメチルアミノ)ジメチルシリル]エタンとOプラズマとを用いた有機ALD法により形成することができる。
【0095】
本応用例においても、SiOC膜16SとSiO
2膜16HとSiOC膜16Sとを積層することにより、水分バリア性が向上する。また、SiOC膜16Sは、柔軟性を有するため緩衝材としての機能を有し、例えば、有機EL形成層LとSiO
2膜16Hとの間の応力を緩和する。また、SiO
2膜16Hと、樹脂膜17との間の応力を緩和する。
【0096】
(第4例)
図21は、本実施の形態の第4例の有機EL素子用の保護膜の断面図である。
図21に示すように、本第4例において、保護膜16は、SiO
2膜(無機絶縁膜、無機ALD膜)16HとSiOC膜(有機絶縁膜、有機ALD膜)16SとSiO
2膜(無機絶縁膜、無機ALD膜)16Hとの積層膜よりなる。フレキシブル基板S上の有機EL形成層L上に、SiO
2膜(無機絶縁膜、無機ALD膜)16Hが形成され、その上にSiOC膜(有機絶縁膜、有機ALD膜)16Sが形成され、さらに、その上にSiO
2膜(無機絶縁膜、無機ALD膜)16Hが形成されている。
【0097】
第1例の場合と同様に、SiO
2膜16Hは、例えば、ビス(ジメチルアミノ)シランとOプラズマとを用いた無機ALD法により形成することができ、SiOC膜16Sは、例えば、1,2−ビス[(ジメチルアミノ)ジメチルシリル]エタンとOプラズマとを用いた有機ALD法により形成することができる。
【0098】
本応用例においても、SiO
2膜16HとSiOC膜16SとSiO
2膜16Hとを積層することにより、水分バリア性が向上する。また、SiOC膜16Sは、柔軟性を有するため緩衝材としての機能を有し、例えば、SiO
2膜16H間の応力を緩和する。
【0099】
(他の例)
上記第1例〜第4例においては、無機絶縁膜としてSiO
2膜を例示したが、SiOC膜と他の無機絶縁膜との積層膜を保護膜としてもよい。無機絶縁膜としては、SiO
2膜の他、SiN膜、Al
2O
3膜、TiO
2膜、ZrO
2膜などを用いることができる。これらの膜は、ALD法での成膜が可能である。また、これらの膜のうち、SiO
2膜やSiN膜は、ドライエッチングが可能であり、保護膜の加工性が良く、チャンバのクリーニングも容易である。
【0100】
以上、本発明者によってなされた発明をその実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。