特許第6709750号(P6709750)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6709750
(24)【登録日】2020年5月27日
(45)【発行日】2020年6月17日
(54)【発明の名称】無鉛ガソリン
(51)【国際特許分類】
   C10L 1/06 20060101AFI20200608BHJP
【FI】
   C10L1/06
【請求項の数】2
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-83086(P2017-83086)
(22)【出願日】2017年4月19日
(65)【公開番号】特開2017-145419(P2017-145419A)
(43)【公開日】2017年8月24日
【審査請求日】2019年10月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000105567
【氏名又は名称】コスモ石油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】三浦 靖智
(72)【発明者】
【氏名】保泉 明
【審査官】 森 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−229336(JP,A)
【文献】 特開2010−229335(JP,A)
【文献】 特開2005−272651(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10L 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)に示す軽質接触分解ガソリン基材Aを無鉛ガソリンの全容量に対して3容量%〜40容量%と、下記(2)に示す重質接触改質ガソリン基材Bを無鉛ガソリンの全容量に対して5容量%〜45容量%と、を配合し、かつ、下記(3)〜(14)を満たす無鉛ガソリン。
(1)軽質接触分解ガソリン基材A: 10容量%留出温度が30℃〜45℃、50容量%留出温度が35℃〜50℃、90容量%留出温度が55℃〜75℃、終点が80℃〜100℃、15℃における密度が0.650g/cm〜0.670g/cm、オレフィン分が軽質接触分解ガソリン基材Aの全容量に対して40容量%〜55容量%、かつ炭素数7以上の炭化水素分が軽質接触分解ガソリン基材Aの全容量に対して10容量%以下である、軽質接触分解ガソリン基材。
(2)重質接触改質ガソリン基材B: 下記の基材b1と下記の基材b2と、を含み、基材b1及び基材b2の配合比率(b1:b2)が容量基準で95:5〜5:95の範囲である、重質接触改質ガソリン基材。
基材b1は、10容量%留出温度が95℃〜115℃、50容量%留出温度が100℃〜120℃、90容量%留出温度が105℃〜125℃、終点が110℃〜130℃、15℃における密度が0.840g/cm〜0.860g/cm、炭素数7の芳香族分が基材b1の全容量に対して70容量%〜85容量%、炭素数8の芳香族分が基材b1の全容量に対して10容量%以下、かつ炭素数9の芳香族分が基材b1の全容量に対して5容量%以下の重質接触改質ガソリン基材であり、基材b2は、10容量%留出温度が155〜165℃、50容量%留出温度が160℃〜170℃、90容量%留出温度が165℃〜175℃、終点が175〜190℃、15℃における密度が0.860g/cm〜0.880g/cm、かつ炭素数9の芳香族分が基材b2の全容量に対して90容量%以上の重質接触改質ガソリン基材である。
(3)リサーチ法オクタン価が89以上93未満
(4)モーター法オクタン価が79以上84未満
(5)15℃における密度が0.710g/cm〜0.783g/cm
(6)50容量%留出温度が75℃〜105℃
(7)70℃留出量が無鉛ガソリンの全容量に対して18容量%〜45容量%
(8)リード蒸気圧が45kPa〜93kPa
(9)ベンゼンの含有量が1容量%以下
(10)硫黄分が10質量ppm以下
(11)オレフィン分が無鉛ガソリンの全容量に対して8容量%〜30容量%
(12)芳香族分が無鉛ガソリンの全容量に対して15容量%〜45容量%
(13)炭素数7の芳香族分が無鉛ガソリン中の芳香族分の全容量に対して26容量%以下
(14)炭素数8の芳香族分が無鉛ガソリン中の芳香族分の全容量に対して5容量%以下
【請求項2】
さらに、含酸素基材を、無鉛ガソリンの全容量に対して1容量%〜15容量%を含む請求項1に記載の無鉛ガソリン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無鉛ガソリンに関する。
【背景技術】
【0002】
ガソリンは、各種の燃料規格を満たすように、複数の基材を適切に選定し、これら基材を適切な量で配合して構成されている。燃料規格の一つであるオクタン価は、運転性を確保するという観点から重要な因子である。オクタン価を調整する基材としては、一般に、異性化ガソリン、分解ガソリン、接触改質ガソリン、接触分解ガソリン、含酸素化合物などの基材が用いられている。
これらの基材の内、接触改質ガソリンは、密度が高く、高オクタン価成分である芳香族化合物を豊富に含む高オクタン価基材である。特に、接触改質ガソリンを分留することにより得られる重質接触改質ガソリンは芳香族分の含有率が高い。
【0003】
重質接触改質ガソリンには、ミックスキシレンが含まれている。ミックスキシレンとは、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、及びエチルベンゼンを含有する留分である。ミックスキシレンは、重質接触改質ガソリンから蒸留よって得ることができ、例えば石油化学製品の原料として利用されている。
【0004】
そこで、重質接触改質ガソリンに対する脱ミックスキシレン処理により石油化学製品の原料向けのミックスキシレンの製造を行い、一方で、この脱ミックスキシレン処理により得られる重質接触改質ガソリンを活用した、ガソリン向けの基材の開発が望まれている。
【0005】
例えば、特許文献1には、ガソリン向けに使用される基材及び石油化学製品の原料を製造する技術に関して、原油の常圧蒸留により得られるナフサ留分と重質炭化水素を水素化精製して得られる精製ナフサ留分との混合留分を原料とし、これを接触改質することを特徴とする接触改質ガソリンの製造方法が開示されている。この製造方法によれば、接触改質ガソリン留分を増産できるとともに、ベンゼン、トルエン及びキシレンをはじめとする炭素数が6〜8の芳香族炭化水素を増産できるとされている。
【0006】
一方、環境保全の観点から、二酸化炭素排出量の抑制のために、エタノールなどのバイオマス由来の含酸素基材の使用も検討されている。これらの含酸素基材を燃料に用いた場合、大気中から二酸化炭素を吸収してできた植物を原料としていることから、燃焼させても、大気中への二酸化炭素排出は少ないとみなされている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−297471号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】ANTONIO F.LOPEZ 他3名、Latin American Research、1990年、20、p.183−187
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、重質接触改質ガソリンから脱キシレン処理によりミックスキシレンを抜き出した場合、高オクタン価に寄与する成分であるミックスキシレンの含有量が低下するため、処理後の重質接触改質ガソリンのオクタン価が低下する。このような、オクタン価の低い重質接触改質ガソリンを基材として用いて、最終製品であるガソリンのオクタン価を確保するためには、重質接触改質ガソリンの配合量を従来よりも増やすという手段が考えられる。しかし、重質接触改質ガソリンの配合量を増加した場合、最終製品であるガソリンにおける重質接触改質ガソリンが占める割合が高くなり重質化する。ガソリンが重質化した場合、そのようなガソリンの使用は、自動車エンジンの始動性を低下するとともに、点火プラグのくすぶりを引き起こす可能性がある。
【0010】
点火プラグのくすぶりとは、ガソリンの不完全燃焼によって生成したカーボン状物質が、点火プラグの硝子絶縁体に堆積することにより、漏洩電流が増加して火花が飛ばなくなる、いわゆる失火を引き起こす現象を指す。
これにより、点火プラグのくすぶりの現象が生じた場合、内燃機関(エンジン)は始動不能になるか、現象が軽い場合でも、排気中の未燃焼の炭化水素の増加、加速性等の運転性能の悪化などの問題を引き起こす傾向にある。
点火プラグのくすぶりは、特にガソリン中の芳香族分が多いほど起こり易いことが知られている。
【0011】
したがって、脱キシレン処理後の重質接触改質ガソリンを基材として従来以上の配合量で配合することなく、所望のオクタン価を有し、かつ、車両の加速性、点火プラグのくすぶり抑制などの各種の性能を備えたガソリンが望まれる。
【0012】
さらに、エタノール等の含酸素基材を配合したガソリンは、燃焼させても大気中への二酸化炭素排出は少ないとみなされることは既述の通りであるが、含酸素基材のガソリンへの配合は、蒸留性状の著しい軽質化をきたし、ひいては自動車の運転性能への悪影響が懸念される。
このため、含酸素基材を配合した場合であっても、所望のオクタン価を有し、かつ、車両の加速性、点火プラグのくすぶり抑制などの各種の性能を備えたガソリンも望まれる。
【0013】
本発明は、上記のような状況に鑑みなされたものであり、脱キシレン処理により得られた重質接触改質ガソリンを基材の配合量を大幅に増やすことなく、オクタン価を維持し、かつ、点火プラグのくすぶり抑制及び車両の加速性に優れる無鉛ガソリンを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ガソリンに配合する基材として、特定の組成及び性状を有する軽質接触分解ガソリンと、特定の組成及び性状を有する脱キシレン処理により得られた重質接触改質ガソリンとを、特定量で配合することで、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、上記課題を解決するための手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1> 下記(1)に示す軽質接触分解ガソリン基材Aを無鉛ガソリンの全容量に対して3容量%〜40容量%と、下記(2)に示す重質接触改質ガソリン基材Bを無鉛ガソリンの全容量に対して5容量%〜45容量%と、を配合し、かつ、下記(3)〜(14)を満たす無鉛ガソリン。
【0016】
(1)軽質接触分解ガソリン基材A: 10容量%留出温度が30℃〜45℃、50容量%留出温度が35℃〜50℃、90容量%留出温度が55℃〜75℃、終点が80℃〜100℃、15℃における密度が0.650g/cm〜0.670g/cm、オレフィン分が軽質接触分解ガソリン基材Aの全容量に対して40容量%〜55容量%、かつ炭素数7以上の炭化水素分が軽質接触分解ガソリン基材Aの全容量に対して10容量%以下である、軽質接触分解ガソリン基材。
【0017】
(2)重質接触改質ガソリン基材B: 下記の基材b1と下記の基材b2と、を含み、基材b1及び基材b2の配合比率(b1:b2)が容量基準で95:5〜5:95の範囲である、重質接触改質ガソリン基材。
基材b1は、10容量%留出温度が95℃〜115℃、50容量%留出温度が100℃〜120℃、90容量%留出温度が105℃〜125℃、終点が110℃〜130℃、15℃における密度が0.840g/cm〜0.860g/cm、炭素数7の芳香族分が基材b1の全容量に対して70容量%〜85容量%、炭素数8の芳香族分が基材b1の全容量に対して10容量%以下、かつ炭素数9の芳香族分が基材b1の全容量に対して5容量%以下の重質接触改質ガソリン基材であり、基材b2は、10容量%留出温度が155〜165℃、50容量%留出温度が160℃〜170℃、90容量%留出温度が165℃〜175℃、終点が175〜190℃、15℃における密度が0.860g/cm〜0.880g/cm、かつ炭素数9の芳香族分が基材b2の全容量に対して90容量%以上の重質接触改質ガソリン基材である。
【0018】
(3)リサーチ法オクタン価が89以上93未満である。
(4)モーター法オクタン価が79以上84未満である。
(5)15℃における密度が0.710g/cm〜0.783g/cmである。
(6)50容量%留出温度が75℃〜105℃である。
(7)70℃留出量が無鉛ガソリンの全容量に対して18容量%〜45容量%である。
(8)リード蒸気圧が45kPa〜93kPaである。
(9)ベンゼンの含有量が1容量%以下である。
(10)硫黄分が10質量ppm以下である。
(11)オレフィン分が無鉛ガソリンの全容量に対して8容量%〜30容量%である。
(12)芳香族分が無鉛ガソリンの全容量に対して15容量%〜45容量%である。
(13)炭素数7の芳香族分が無鉛ガソリン中の芳香族分の全容量に対して26容量%以下である。
(14)炭素数8の芳香族分が無鉛ガソリン中の芳香族分の全容量に対して5容量%以下である。
【0019】
<2> さらに、含酸素基材を、無鉛ガソリンの全容量に対して1容量%〜15容量%を含む<1>に記載の無鉛ガソリン。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、脱キシレン処理により得られた重質接触改質ガソリンを基材の配合量を大幅に増やすことなく、オクタン価を維持し、かつ、点火プラグのくすぶり抑制及び車両の加速性に優れる無鉛ガソリンを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
なお、本明細書中、数値範囲を現す「〜」は、その上限及び下限としてそれぞれ記載されている数値を含む範囲を表す。また、「〜」で表される数値範囲において上限値のみ単位が記載されている場合は、下限値も同じ単位であることを意味する。
本明細書においてガソリン中の各成分の比率又は量は、ガソリン中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、特に断らない限り、ガソリン中に存在する当該複数種の物質の合計の比率又は量を意味する。
本明細書において、ガソリンの「芳香族分」は、ベンゼン以外の単環又は多環の芳香族炭化水素を包含し、これらは構造中にヘテロ原子を有するものであってもよい。
【0022】
《無鉛ガソリン》
本発明の無鉛ガソリンは、少なくとも、下記(1)を示す軽質接触分解ガソリン基材A(以下、単に「軽質接触分解ガソリン基材A」ともいう。)を無鉛ガソリンの全容量に対して3容量%〜40容量%と、下記(2)に示す重質接触改質ガソリン基材B(以下、単に「重質接触改質ガソリン基材B」ともいう。)を無鉛ガソリンの全容量に対して5容量%〜45容量%と、を配合する。
【0023】
本発明の無鉛ガソリンは、上記の構成を有することにより、脱キシレン処理により得られた重質接触改質ガソリンを基材の配合量を大幅に増やすことなく、オクタン価を維持し、かつ、点火プラグのくすぶり抑制及び車両の加速性に優れる。
さらに、本発明の無鉛ガソリンは、含酸素基材を配合した場合においても、オクタン価を維持し、かつ、点火プラグのくすぶり抑制及び車両の加速性に優れことから、自動車の走行に必要とされる実用性能を維持しつつも、大気環境の保全を図ることが期待できる。
【0024】
(1)軽質接触分解ガソリン基材A: 10容量%留出温度が30℃〜45℃、50容量%留出温度が35℃〜50℃、90容量%留出温度が55℃〜75℃、終点が80℃〜100℃、15℃における密度が0.650g/cm〜0.670g/cm、オレフィン分が軽質接触分解ガソリン基材Aの全容量に対して40容量%〜55容量%、かつ炭素数7以上の炭化水素分が軽質接触分解ガソリン基材Aに対して10容量%以下である、軽質接触分解ガソリン基材である。
【0025】
(2)重質接触改質ガソリン基材Bは、下記の基材b1と下記の基材b2と、を含み、基材b1及び基材b2の配合比率(b1:b2)が容量基準で95:5〜5:95の範囲である、重質接触改質ガソリン基材である。
基材b1は、10容量%留出温度が95℃〜115℃、50容量%留出温度が100℃〜120℃、90容量%留出温度が105℃〜125℃、終点が110℃〜130℃、15℃における密度が0.840g/cm〜0.860g/cm、炭素数7の芳香族分が基材b1の全容量に対して70容量%〜85容量%、炭素数8の芳香族分が基材b1の全容量に対して10容量%以下、かつ炭素数9の芳香族分が基材b1の全容量に対して5容量%以下の重質接触改質ガソリン基材であり、基材b2は、10容量%留出温度が155〜165℃、50容量%留出温度が160℃〜170℃、90容量%留出温度が165℃〜175℃、終点が175〜190℃、15℃における密度が0.860g/cm〜0.880g/cm、かつ炭素数9の芳香族分が基材b2の全容量に対して90容量%以上の重質接触改質ガソリン基材である。
【0026】
軽質接触分解ガソリン基材Aは、流動接触分解装置から留出する軽質接触分解ガソリンからなる基材であり、重質接触改質ガソリン基材Bは、接触改質装置から留出する接触改質ガソリンからなる基材である。本発明の無鉛ガソリンは、これらの軽質接触分解ガソリン基材A及び重質接触改質ガソリン基材Bを必須基材として配合する。
以下、本発明の無鉛ガソリンについて詳細に説明する。
【0027】
本発明の無鉛ガソリンは、流動接触分解装置から留出する軽質接触分解ガソリン基材A、及び接触改質装置から留出する重質接触改質ガソリン基材Bを含むことが好ましい。以下、本発明の無鉛ガソリンに含まれる各成分について、以下に説明する。
【0028】
<軽質接触分解ガソリン基材A>
軽質接触分解ガソリン基材Aは、流動接触分解装置から留出する軽質接触分解ガソリンからなる基材であり、上記の(1)に示す特定の組成及び性状を有する。
【0029】
軽質接触分解ガソリンは、灯油又は軽油、常圧残油等の石油留分(好ましくは重質軽油又は減圧軽油)を、流動接触分解法により、固体酸触媒で分解して得られた接触分解ガソリンを、蒸留して得られるものが挙げられる。
【0030】
流動接触分解法は、重質な炭化水素から接触分解ガソリンを製造する方法であり、公知公用の方法を用いることができる。流動接触分解法としては、例えば、UOP法、シェル二段式法、フレキシクラッキング法、ウルトラオルソフロー法、テキサコ法、ガルフ法、ウルトラキャットクラッキング法、RCC法、HOC法等が挙げられる。
【0031】
流動接触分解法とは、詳しくは、流動している触媒と炭化水素油とを高温で接触させて、ガソリン、中間留分等を得るプロセスである。流動接触分解法は、例えば、HYDROCARBON PROCESSING/NOVEMBER 2000の107〜110ページに記載のFCC(Fluid Catalytic Cracking)プロセスを参照することができる。
【0032】
軽質接触分解ガソリンは、上記のFCCプロセスを用い、ガソリンの沸点以上で沸騰する炭化水素油(炭化水素混合物)を、ゼオライト、シリカアルミナ、アルミナなどの固体酸触媒(いわゆる、固体酸性を示す触媒)と高温で接触させて得てもよい。
【0033】
商業的規模でのFCCプロセスは、通常、垂直に据え付けられたクラッキング反応器と触媒再生器との2種の容器からなるFCC装置内部において、FCC触媒(固体酸触媒)を連続的に循環させて、接触分解を行う。すなわち、触媒再生器から出てくる熱い再生触媒を、炭化水素油と混合し、クラッキング反応器内の上向の方向に導く。その結果、固体酸触媒は、触媒上に析出した炭素(コーク)によって失活し、分解生成物から分離され、さらに、ストリッピング後、触媒再生器に送り込まれ、再生される。再生された触媒は、再びクラッキング反応器に供給され、使用される。
一方、分解生成物は、ドライガス、液化石油ガス(LPG)、ガソリン留分、ライトサイクルオイル(LCO)、ヘビーサイクルオイル(HCO)及びスラリー油等の、1種以上の重質留分に蒸留分離する。これらの分解生成物は、一部又は全部をクラッキング反応器内に再循環させて、更に、分解反応を進めてもよい。
【0034】
本発明のガソリンにおいては、FCCプロセスより分解された生成物から分離された留分のうち、ガソリン留分を蒸留して得られる軽質ガソリン留分を軽質接触分解ガソリンとして用いてもよい。
【0035】
軽質接触分解ガソリン基材Aを得るために使用する原料である重質な炭化水素(以下、「原料炭化水素」ともいう。)としては、ガソリンの沸点以上で沸騰する炭化水素混合物が挙げられる。
本明細書において、ガソリンの沸点以上で沸騰する炭化水素混合物には、原油を常圧又は減圧蒸留で得られる軽油留分、常圧蒸留残渣油及び減圧蒸留残渣油等を意味し、コーカー軽油、溶剤脱瀝油、溶剤脱瀝アスファルト、タールサンド油、シェールオイル油、石炭液化油などをも包含される。
更に、原料炭化水素は、公知の水素化処理、例えば、Ni−Mo系触媒、Co−Mo系触媒、Ni−Co−Mo系触媒、Ni−W系触媒などの水素化処理触媒の存在下、高温高圧下で水素化脱硫した水素化処理油であってもよく、水素化処理油は、原料炭化水素油としてFCCプロセスに使用してもよい。
【0036】
FCCプロセスに用いられるFCC装置において、クラッキング反応器の運転条件としては、温度が400℃〜600℃、好ましくは450℃〜550℃であり、圧力が常圧〜5kg/cm、好ましくは常圧〜3kg/cmであり、触媒と原料炭化水素油との配合比(触媒/原料炭化水素油)が、質量基準で、2〜20、好ましくは4〜15であることが好適である。
【0037】
クラッキング反応器の反応温度が400℃以上であると、原料炭化水素油の分解反応の進行を促進させて、分解された生成物の得られる量が向上する傾向がある。また、反応温度が600℃以下であると、適量のオレフィン分を得られる傾向があり、所望のオクタン価を確保することが可能となる。
圧力が5kg/cm以下であると、分解反応によりモル数の増加を抑制することが可能となり、分解反応の進行が低下を防ぐことが可能となる。また、触媒と原料炭化水素油との配合比(触媒/原料炭化水素油)が2以上であると、クラッキング反応器内の触媒濃度が低くなりすぎず、原料油分解の進行の低下を防ぐことが可能となる。また、配合比が20以下であると、触媒の効果を効果的に発揮させること可能となる。
【0038】
軽質接触分解ガソリン基材Aの蒸留性状は、10容量%留出温度(T10)が30℃〜45℃、50容量%留出温度(T50)は35℃〜50℃、90容量%留出温度(T90)は55℃〜75℃、終点(EP)は80℃〜100℃である。
軽質接触分解ガソリン基材Aの10容量%留出温度、50容量%留出温度、90容量%留出温度、及び終点が上記範囲にあると、軽質接触分解ガソリン基材Aのオクタン価を高く維持することが可能となり、高オクタン価を有する無鉛ガソリンを効率よく製造することが可能となる。さらに、軽質接触分解ガソリン基材Aを用いて製造した本発明の無鉛ガソリンは、運転性能及びエンジン清浄性に優れる傾向がある。
上記観点から、軽質接触分解ガソリン基材Aは、好ましくは10容量%留出温度が33℃〜44℃であり、50容量%留出温度が38℃〜50℃、90容量%留出温度が58℃〜73℃、終点が85℃〜100℃であり、より好ましくは10容量%留出温度が35℃〜43℃、50容量%留出温度が40℃〜50℃、90容量%留出温度が60℃〜70℃、終点が90℃〜100℃である。
なお、上記蒸留性状は、JIS K 2254(1998)に準拠して測定した値を意味する。
【0039】
軽質接触分解ガソリン基材Aのリサーチ法オクタン価は、92以上が好ましく、より好ましくは93以上、更に好ましくは94以上である。
リサーチ法オクタン価が92以上であると、重質接触改質ガソリン基材Bの配合量を抑えることができるので、規格を満たす製品ガソリンの調製が容易となる。
なお、このリサーチ法オクタン価は、JIS K 2280−1(2013)に準拠して測定した値である。
【0040】
軽質接触分解ガソリン基材Aの15℃における密度は、0.650g/cm〜0.670g/cmである。
密度が上記範囲内であると、本発明の無鉛ガソリンの軽質化を抑制することが可能となる。
上記観点から、密度としては、好ましくは0.653g/cm〜0.670g/cm、より好ましくは0.655g/cm〜0.670g/cmである。
なお、上記密度は、JIS K 2249(2011)に準拠して測定した値を意味する。
【0041】
軽質接触分解ガソリン基材Aのオレフィン分は、軽質接触分解ガソリン基材Aの全容量に対して、40容量%〜55容量%であり、好ましくは40容量%〜53容量%、より好ましくは40容量%〜50容量%である。
軽質接触分解ガソリン基材Aのオレフィン分が上記範囲内であると、軽質接触分解ガソリン基材Aのオクタン価を高いレベルで維持することが可能となる。
なお、オレフィン分とは、石油学会法JPI−5S−33−90(ガスクロマトグラフ法)に準拠して測定され、軽質接触分解ガソリン基材Aが含むオレフィン分の合計(容量%)を意味する。
【0042】
軽質接触分解ガソリン基材Aにおける炭素数7以上の炭化水素分は、軽質接触分解ガソリン基材Aの全容量に対して、10容量%以下である。
炭素数7以上の炭化水素分の含有量が10容量%以下であるとオクタン価が向上する傾向がある。上記観点から、炭素数7以上の炭化水素分としては、好ましくは9容量%以下、より好ましくは8容量%以下である。
【0043】
また、軽質接触分解ガソリン基材Aにおいて、炭素数5の炭化水素分としては、軽質接触分解ガソリン基材Aの全容量に対して、68容量%以下が好ましく、65容量%以下がより好ましい。下限は、好ましくは63容量%である。
また、軽質接触分解ガソリン基材Aにおける炭素数6の炭化水素分は、軽質接触分解ガソリン基材Aの全容量に対して、45容量%以下が好ましく、より好ましくは43容量%以下であり、下限は好ましくは40容量%である。
軽質接触分解ガソリン基材Aは、オクタン価を維持する観点から、炭素数5の炭化水素分が68容量%以下、炭素数6の炭化水素分が45容量%以下、炭素数7以上の炭化水素分が10容量%以下であることが特に好ましい。
なお、各炭素数の炭化水素分の含有量は、石油学会法JPI−5S−33−90(ガスクロマトグラフ法)に準拠して測定した値を意味する。
【0044】
<重質接触改質ガソリン基材B>
重質接触改質ガソリン基材Bは、接触改質装置から留出する重質接触改質ガソリンからなる基材であり、後述の基材b1と基材b2とを含み、かつ既述の(2)に示す特定の組成及び性状を有する。
【0045】
本発明に適用される重質接触改質ガソリンは、接触改質装置から得られた接触改質油に公知の脱ベンゼン処理を行ったときに留出する留分に対して、更に公知の脱キシレン処理を行うことより、ベンゼン留分及びキシレン留分が除去された後の接触改質油(即ち、接触改質ガソリン)である。
【0046】
接触改質油は、重質の直留ナフサなどを接触改質法(例えば、プラットフォーミング法、マグナフォーミング法、アロマイジング法、レニフォーミング法、フードリフォーミング法、ウルトラフォーミング法、パワーフォーミング法等)により、水蒸気流中で高温及び加圧下で触媒と接触処理することで得ることができる。接触改質反応に使用される触媒としては、種々のものを用いることができ、白金/アルミナ系触媒(例えば、白金の含有率が0.2質量%〜0.8質量%)などを好ましく用いることができる。白金/アルミナ系触媒には、更に、レニウム、ゲルマニウム、すず、イリジウム等が含まれていてもよい。接触改質装置の好適な運転条件については後述する。
【0047】
基材b1は、脱キシレン処理を行ったときに留出する留分のうち、炭素数7の芳香族分が主成分である留分であり、基材b2は、炭素数9の芳香族分が主成分である留分であり、これらの基材b1及び基材b2を所定の配合比率で混合した混合基材が、本発明における重質接触改質ガソリン基材Bである。
【0048】
基材b1を構成する炭素数7の芳香族分が主成分である留分、及び、基材b2を構成する炭素数9の芳香族分が主成分である留分は、例えば、接触改質油を、蒸留法により軽質接触改質油留分と粗ベンゼン留分と重質接触改質油留分とに分留し、さらに、得られた重質接触改質油留分を、蒸留法又は抽出法といった手法により、炭素数7の芳香族分とキシレン留分と炭素数9の芳香族留分とに分留して得ることができる。
【0049】
接触改質装置としては、特に制限はなく、固定床半再生式、サイクリック式、連続再生式等いずれの方法を適用した装置であってもよい。
【0050】
接触改質装置が固定床半再生式の場合、接触改質装置の運転条件としては、反応温度:470℃〜540℃、反応圧力:1MPa〜3.5MPa、水素油比:76NL/L〜3000NL/L、LHSV(Liquid Hourly Space Velocity;液空間速度):1h−1〜4h−1であることが好ましい。
反応温度が470℃以上であると、得られる接触改質処理油のオクタン価が向上する傾向がある。反応温度が540℃以下であると、水素化分解が進行して液収率が低下を抑制し、かつ、コークの生成による触媒活性の低下を抑制する傾向がある。反応圧力が1MPa以上であると、コークの生成を抑制することが可能となる。反応圧力が3.5MPaであると、脱水素環化反応が抑制せずに、オクタン価の高い接触改質処理油を得ることが可能となる。
【0051】
接触改質装置が連続再生式の場合、接触改質装置の運転条件としては、反応温度:510℃〜530℃、反応圧力:0.35MPa〜1MPa、水素油比:140NL/L〜530NL/L、LHSV:1h−1〜4h−1であることが好ましい。
【0052】
反応温度が510℃以上であると、得られる接触改質処理油のオクタン価を向上させることが可能となる。また、反応温度が、530℃以下であると、水素化分解が進行して液収率が低下を抑制し、かつ、コークの生成による触媒活性の低下を抑制する傾向がある。
【0053】
反応圧力が0.35MPa以上であると、コークの生成を抑制することが可能となる。反応圧力が1MPa以下であると、脱水素環化反応が抑制されずにオクタン価の高い接触改質処理油を得ることが可能となる。
【0054】
重質接触改質ガソリン基材Bが含む基材b1及び基材b2について以下に説明する。
【0055】
(基材b1)
基材b1の蒸留性状は、10容量%留出温度(T10)が95℃〜115℃、50容量%留出温度(T50)が100℃〜120℃、90容量%留出温度(T90)が105℃〜125℃、終点(EP)が110℃〜130℃である。
基材b1の10容量%留出温度、50容量%留出温度、90容量%留出温度、及び終点が、上記範囲内であると、運転性を維持しつつ、排出ガス中の有害成分の増加及びエンジン清浄性の悪化を防止することが可能となる。
上記の観点から、基材b1は、好ましくは、10容量%留出温度が85℃〜125℃、50容量%留出温度が90℃〜130℃、90容量%留出温度が95℃〜135℃であり、より好ましくは、10容量%留出温度が95℃〜105℃、50容量%留出温度が100℃〜110℃、90容量%留出温度が105℃〜115℃である。
なお、上記の蒸留性状はJIS K 2254(1998)に準拠して測定した値である。
【0056】
重質接触改質ガソリン基材b1において、リサーチ法オクタン価は103以上であることが好ましい。リサーチ法オクタン価が103以上であると、後述の重質接触改質ガソリンBの配合量を抑えることが可能となり、規格を満たす製品ガソリンの調整が容易となる。
上記観点から、重質接触改質ガソリン基材b1のリサーチ法オクタン価としては、好ましくは104以上、より好ましくは105以上である。
なお、リサーチ法オクタン価は、JIS K 2280−1(2013)に準拠して測定した値を意味する。
【0057】
重質接触改質ガソリン基材b1の15℃における密度は0.840g/cm〜0.860g/cmである。密度が、上記範囲であると、本発明の無鉛ガソリンの軽質化及び蒸留性状の変化を抑制することが可能となる。
上記観点から、密度としては、好ましくは0.840g/cm〜0.850g/cm、より好ましくは0.840g/cm〜0.845g/cmである。
なお、この密度は、JIS K 2249−4(2011)に準拠して測定した値を意味する。
【0058】
基材b1において、炭素数7の芳香族分は、基材b1の全容量に対して、70容量%〜85容量%であり、炭素数8の芳香族分は10容量%以下であり、かつ、炭素数9の芳香族分が5容量%以下である。
基材b1において、炭素数7の芳香族分、炭素数8の芳香族分及び炭素数9の芳香族分が、上記範囲内であると、運転性能を維持しつつ、くすぶり性の悪化を防止し、エンジン内デポジット量の増加を防ぎ、かつ、排出ガス中の有害成分の増加を抑制することが可能となる。
上記観点から、炭素数7の芳香族分は、基材b1の全容量に対して、好ましくは75容量%〜85容量%、より好ましくは80容量%〜85容量%以下であり、炭素数8の芳香族分が、好ましく5容量%以下、より好ましくは3容量%以下であり、かつ炭素数9の芳香族分が、好ましくは4容量%以下、より好ましくは3容量%以下である。
なお、各炭素数の芳香族分は石油学会法JPI−5S−33−90(ガスクロマトグラフ法)に準拠して測定した値を意味する。
【0059】
(基材b2)
基材b2の蒸留性状は、10容量%留出温度(T10)が155℃〜165℃、50容量%留出温度(T50)が160℃〜170℃、90容量%留出温度(T90)が165℃〜175℃、終点(EP)が175℃〜190℃である。
10容量%留出温度、50容量%留出温度、90容量%留出温度及び終点が上記範囲内であると、重質接触改質ガソリン基材Bの重質化を防止することが可能となる。そのため、内燃機関の始動性、車両の加速性などの運転性能を維持しつつ、排出ガス中の有害成分の増加及びエンジン清浄性の悪化を防止することが可能となる。
上記観点から、基材b2の蒸留性状としては、10容量%留出温度が157℃〜165℃、50容量%留出温度が160℃〜168℃、90容量%留出温度が165℃〜173℃、終点が180℃〜190℃であることが好ましく、10容量%留出温度が160℃〜165℃、50容量%留出温度が162℃〜165℃、90容量%留出温度が165℃〜170℃、終点が183℃〜188℃であることがより好ましい。
なお、上記蒸留性状はJIS K 2254(1998)に準拠して測定した値である。
【0060】
基材b2の15℃における密度は、0.860g/cm〜0.880g/cmである。
基材b2の密度が上記範囲であると、本発明の無鉛ガソリンの軽質化及び蒸留性状の輪歪化を抑制することが可能となる。
上記観点から、密度としては、好ましくは0.865g/cm〜0.880g/cm、より好ましくは0.870g/cm〜0.880g/cmである。
なお、この密度は、JIS K 2249−4(2011)に準拠して測定した値を意味する。
【0061】
基材b2において、炭素数9の芳香族分は、基材b2の全容量に対して、90容量%以上である。
炭素数9の芳香族分が、上記範囲内であると、運転性能を維持しつつ、くすぶり性の悪化を防止し、エンジン内デポジット(堆積物)量の増加を防ぎ、かつ、排出ガス中の有害成分の増加を抑制することが可能となる。
上記観点から、炭素数9の芳香族分は、好ましくは91容量%以上、より好ましくは94容量%以上である。
なお、各炭素数の芳香族分は石油学会法JPI−5S−33−90(ガスクロマトグラフ法)に準拠して測定した値を意味する。
【0062】
<ガソリン基材の配合量及び配合比率>
本発明の無鉛ガソリンにおいて、軽質接触分解ガソリン基材Aの含有量は、無鉛ガソリンの全容量に対して3容量%〜40容量%であり、好ましくは10容量%〜40容量%、より好ましくは13容量%〜40容量%である。
重質接触改質ガソリン基材Bの含有量は、無鉛ガソリンの全容量に対して、5容量%〜45容量%であり、好ましくは20〜53容量%、より好ましくは23〜52容量%である。
重質接触改質ガソリン基材Bにおける基材b1と基材b2との配合比率(b1:b2)は、容量基準で、95:5〜5:95であり、好ましくは90:10〜10:90、より好ましくは80:20〜10:90である。
【0063】
本発明の無鉛ガソリンは、軽質接触分解ガソリン基材A及び重質接触改質ガソリン基材Bの配合量及び配合比率が上記範囲内であることで、運転性能を維持しつつ、排出ガス中の有害成分の増加及びエンジン清浄性の悪化を防止することが可能となる。また、無鉛ガソリンの酸化安定性の低下を防ぐことが可能となる。
【0064】
<含酸素基材>
本発明の無鉛ガソリンは、軽質接触分解ガソリン基材A及び重質接触改質ガソリン基材Bに加えて、さらに、含酸素基材を含んでいてもよい。本発明の無鉛ガソリンが、含酸素基材を含む場合、本発明の無鉛ガソリンのオクタン価を更に向上させることが可能となる。
【0065】
含酸素基材として適用される含酸素化合物としては、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール、アルコールからの誘導体であるエーテル又はエステルが挙げられる。
二酸化炭素排出量の削減、及び環境保全の観点から、含酸素化合物としては、バイオマス由来のアルコール、アルコールからの誘導体であるエーテル又はエステルであることが好ましい。
【0066】
含酸素化合物としては、炭素数2〜5のアルコール、炭素数4〜8のエーテル、又は炭素数4〜8のエステルであることが好ましく、炭素数2〜5のアルコール又は炭素数4〜8のエーテルであることがより好ましく、炭素数4〜8のエーテルであることが更に好ましい。
【0067】
炭素数2〜5のアルコールとしては、エタノール、プロピルアルコール、ブチルアルコールが挙げられる。
また、アルコール類からの誘導体であるエーテル類及びエステル類としては、炭素数4〜8のエーテルとしては、エチルイソプロピルエーテル、エチルターシャリーブチルエーテル(ETBE)、エチルセカンダリーブチルエーテル(ESBE)、ジイソプロピルエーテル、ターシャリーアミルエチルエーテル(TAEE)が挙げられる。
【0068】
また、炭素数4〜8のエステルとしては、酢酸エチル、プロピオン酸エチル等が挙げられる。
【0069】
これらの中でも、二酸化炭素排出量の削減、及び環境保全の観点から、含酸素化合物としては、エチルターシャリーブチルエーテル(ETBE)であることが好ましい。
【0070】
本発明の無鉛ガソリンが、含酸素化合物を含む場合、含酸素化合物の配合量としては、無鉛ガソリンの全容量に対して、1容量%〜15容量%であることが好ましい。含酸素化合物の配合量が上記範囲内であると、発熱量の低下による燃費への悪影響の懸念が少なく、排出ガス中の一酸化炭素(CO)、全炭化水素(THC)等の低減などを図ることが可能となる。
上記観点としては、含酸素化合物の配合量としては、好ましくは3容量%〜13容量%、より好ましくは5容量%〜12容量%である。
【0071】
本発明の無鉛ガソリンは、軽質接触分解ガソリン基材A、重質接触改質ガソリン基材B及び含酸素基材以外の基材(以下、「その他の基材」ともいう。)を含んでいてもよい。その他の基材としては、例えば以下の(a)〜(d)の成分等が挙げられる。
【0072】
(a)原油を常圧蒸留した直留ナフサを脱硫処理して得られた脱硫直留ナフサを蒸留により、軽質留分と重質留分に分けたうちの軽質留分である脱硫軽質ナフサ
(b)イソブタンと低級オレフィン(ブテン、プロピレン等)を原料として、酸触媒(硫酸、フッ化水素、塩化アルミニウム等)の存在下で反応させて得られるアルキレート
(c)原油や粗油等の常圧蒸留時、改質ガソリン製造時又は分解ガソリン製造時等に蒸留して得られるブタン、ブテン類を主成分としたC4留分
(d)直鎖の低級パラフィン系炭化水素の異性化によって得られるアイソメレート又はアイソメレートを精密蒸留して得られるイソペンタン
【0073】
本発明の無鉛ガソリンは、ポリエーテルアミン、ポリアルキルアミン、ポリイソブテンアミン、コハク酸イミド等の清浄剤を含んでいてもよい。
本発明の無鉛ガソリンが清浄剤を含む場合、清浄剤の添加量は、無鉛ガソリンの全質量に対して、50質量ppm〜1000質量ppmの範囲であることが好ましい。
清浄剤の添加量が50質量ppm以上であると、吸気バルブデポジットの増加を防ぐことが可能となる。また、添加量が1000質量ppm以下であると、燃焼室デポジットの増加を防ぐことが可能となる。本発明の無鉛ガソリンが清浄剤を上記範囲で含む場合、重質接触改質ガソリンBの適用によりエンジン内デポジットの生成を抑制する効果と相まって、燃焼室デポジットの生成をより効果的に抑制することが可能となる。
上記観点から、清浄剤の添加量としては、好ましくは100質量ppm〜500質量ppmである。
【0074】
本発明の無鉛ガソリンは、更に必要に応じて、各種の添加剤を適宜配合してもよい。
添加剤としては、フェノール系、アミン系等の酸化防止剤、チオアミド化合物等の金属不活性剤、有機リン系化合物等の表面着火防止剤、多価アルコール及びそのエーテル等の氷結防止剤、有機酸のアルカリ金属やアルカリ土類金属塩、高級アルコールの硫酸エステル等の助燃剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤等の帯電防止剤、アルケニルコハク酸エステル等の錆止め剤、及びアゾ染料等の着色剤など、公知の燃料添加剤が挙げられる。
添加剤は、1種単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記燃料添加剤の添加量としては、任意であり、通常、燃料添加剤の合計添加量は、無鉛ガソリンの全質量に対して、0.1質量%以下とすることが好ましい。
【0075】
本発明の無鉛ガソリンの製造方法としては、特に制限はなく、公知の方法により調製することができる。本発明の無鉛ガソリンの製造方法としては、例えば、特定軽質接触分解ガソリンを無鉛ガソリンの全容量に対して3容量%〜40容量%と、重質接触改質ガソリンCを無鉛ガソリンの全容量に対して5容量%〜45容量%と、を含有するように配合して、後述の(3)〜(14)を満たすように調製すればよい。
【0076】
<無鉛ガソリンの性状>
本発明の無鉛ガソリンは、既述のとおり、(1)に示す軽質接触改質ガソリン基材Aを無鉛ガソリンの全容量に対して3容量%〜40容量%と、(2)に示す重質接触改質ガソリン基材Bを無鉛ガソリンの全容量に対して5容量%〜45容量%と、を配合し、かつ(3)〜(14)を満たすものである。
以下、無鉛ガソリンの性状における各性状について説明する。
【0077】
(3)リサーチ法オクタン価(RON)
本発明の無鉛ガソリンは、リサーチ法オクタン価(RON)が89以上93未満である。リサーチ法オクタン価が89以上であると、ノッキングを抑制して高い運転性能を維持することが可能となる。
上記観点から、リサーチ法オクタン価としては、好ましくは90以上93未満であることが好ましい。
リサーチ法オクタン価は、JIS K 2280−1(2013)に準拠して測定した値を意味する。
【0078】
(4)モーター法オクタン価(MON)
本発明の無鉛ガソリンは、モーター法オクタン価(MON)が79以上84未満である。
モーター法オクタン価が79以上であると、高速走行時のアンチノック性の低下を防止することが可能となる。
上記観点から、モーター法オクタン価としては、好ましくは80以上84未満である。
モーター法オクタン価は、JIS K 2280−2(2013)に準拠して測定した値を意味する。
【0079】
(5)密度
本発明の無鉛ガソリンは、15℃における密度が0.710g/cm〜0.783g/cmである。
密度が0.710g/cm以上であると、良好な燃費を確保することが可能となる。また、密度を0.783g/cm以下であると、高密度の芳香族分を低減する傾向があり、排出ガスによる大気への芳香族化合物の排出量を低減することが可能となる。
上記観点から、密度としては、好ましくは0.710g/cm〜0.770g/cmである。
なお、上記密度は、JIS K 2249−4(2011)に準拠して測定した値である。
【0080】
(6)50容量%留出温度及び(7)70℃留出量
本発明の無鉛ガソリンは、50容量%留出温度(T50)が75℃〜105℃である。
また、本発明の無鉛ガソリンは、70℃留出量(E70)が、無鉛ガソリンの全容量に対して、18容量%〜45容量%である。
50容量%留出温度及び70℃留出量が上記範囲内であると、始動性、加速性等の運転性能に関する不具合を防ぐ傾向がある。
上記観点から、50容量%留出温度としては、好ましくは80℃〜100℃である。
また、同様の観点から、70℃留出量(E70)としては、好ましくは20容量%〜45容量%である。
なお、50容量%留出温度及び70℃留出量はJIS K 2254(1998)に準拠して測定した値である。
【0081】
(8)リード蒸気圧(RVP)
本発明の無鉛ガソリンは、リード蒸気圧(RVP)が、45kPa〜93kPaである。
リード蒸気圧が45kPa以上であると、低温始動性及び暖気性の低下を防ぐことが可能となる。また、リード蒸気圧が、93kPa以下であると、蒸発ガスの量を少なくすることが可能となる。
上記観点から、リード蒸気圧としては、好ましくは50kPa〜90kPaである。
なお、このリード蒸気圧は、JIS K 2258−1(2009)に準拠して測定した値を意味する。
【0082】
(9)ベンゼンの含有量
本発明の無鉛ガソリンは、ベンゼンの含有量が、無鉛ガソリンの全容量に対して、1容量%以下である。ベンゼンの含有量が1容量%以下であると、大気中のベンゼン濃度の増加を抑制する傾向があり、環境汚染を低減することが可能となる。
上記観点から、ベンゼンの含有量としては、好ましくは0.8容量%以下である。
なお、ベンゼンの含有量は、石油学会法JPI−5S−33−90(ガスクロマトグラフ法)に準拠して測定される、無鉛ガソリン中のベンゼンの含有量の合計(容量%)を意味する。
【0083】
(10)硫黄分
本発明の無鉛ガソリンは、硫黄分が、無鉛ガソリンの全質量に対して10質量ppm以下である。
硫黄分が10質量ppm以下であると、排出ガス浄化触媒の能力低下を抑制する傾向があり、排出ガス中の窒素酸化物(NOx)、一酸化炭素(CO)及び全炭化水素(THC)の濃度上昇を抑制することが可能となる。
上記観点から、硫黄分としては、好ましくは8質量ppm以下である。
なお、上記硫黄分はJIS K 2541−6(2003)「原油及び石油製品−硫黄分試験方法 第6部:紫外蛍光法」に準拠して測定される、無鉛ガソリン中の硫黄分の合計(容量%)を意味する。
【0084】
(11)オレフィン分
本発明の無鉛ガソリンは、オレフィン分が、無鉛ガソリンの全容量に対して、8容量%〜30容量%である。
オレフィン分が8容量%〜30容量%であると、酸化安定性の低下を防ぐことが可能となる。上記観点から、オレフィン分としては、好ましくは12容量%〜28容量%である。
なお、オレフィン分とは、石油学会法JPI−5S−33−90(ガスクロマトグラフ法)に準拠して測定される、無鉛ガソリン中のオレフィン分の合計(容量%)を意味する。
【0085】
(12)芳香族分
本発明の無鉛ガソリンは、芳香族分が、無鉛ガソリンの全容量に対して、15容量%〜45容量%である。芳香族分が45容量%以下であると、排出ガス中に含まれる有害成分の増加を防ぐことが可能となる。
上記観点から、芳香族分は、好ましくは20〜45容量%である。
なお、芳香族分とは、石油学会法JPI−5S−33−90(ガスクロマトグラフ法)に準拠して測定される、無鉛ガソリン中の芳香族分の合計(容量%)を意味する。
【0086】
(13)炭素数7の芳香族分
本発明の無鉛ガソリンにおいて、炭素数7の芳香族分は、無鉛ガソリン中の芳香族分の全容量に対して、26容量%以下である。炭素数7の芳香族分が26容量%以下であると、ミックスキシレンの増産が可能となる。
上記観点から、炭素数7の芳香族分としては、好ましくは24容量%である。
なお、この炭素数7の芳香族分は、石油学会法JPI−5S−33−90(ガスクロマトグラフ法)に準拠して測定される、無鉛ガソリン中の炭素数7の芳香族分の合計(容量%)を意味する。
【0087】
(14)炭素数8の芳香族分
本発明の無鉛ガソリンにおいて、炭素数8の芳香族分は、無鉛ガソリン中の芳香族分の全容量に対して、5容量%以下である。炭素数8の芳香族分が5容量%以下であると、ミックスキシレンの増産が可能となる。
上記観点から、炭素数8の芳香族分としては、好ましくは4容量%である。
なお、この炭素数8の芳香族分は、石油学会法JPI−5S−33−90(ガスクロマトグラフ法)に準拠して測定される、無鉛ガソリン中の炭素数8の芳香族分の合計(容量%)を意味する。
【実施例】
【0088】
以下、本発明を実施例によって、さらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限するものではない。
【0089】
(実施例1〜実施例12、比較例1〜比較例6)
表1に示す性状の重質接触改質ガソリン基材(b1及びb2)、軽質接触分解ガソリン基材(A1、A2及びC)、及びその他の基材(脱硫接触分解ガソリン、脱硫軽質ナフサ、C4留分)を用い、表3及び表4に示す性状の無鉛ガソリンを得た。
【0090】
表3及び表4に示す重質接触改質ガソリン基材B1〜B5は、表1に示す重質接触改質ガソリン基材b1及びb2を、表2に示す配合比率で配合した混合基材であり、既述の重質接触改質ガソリン基材Bに包含される重質接触改質ガソリン基材である。
重質接触改質ガソリン基材b1及びb2は、それぞれ既述の基材b1及び基材b2に包含される基材である。
軽質接触分解ガソリン基材A1及びA2は、いずれも既述の重質接触改質ガソリン基材Aに包含される基材である。
軽質接触分解ガソリン基材Cは、既述の軽質接触分解ガソリン基材Aの範囲外の基材である。
【0091】
なお、重質接触改質ガソリン基材、軽質接触分解ガソリン基材、脱硫接触分解ガソリン、脱硫軽質ナフサ、C4留分及び無鉛ガソリンの性状は、上述の試験方法、測定法に準拠して測定した。
なお、表1、表3及び表4中の「−」は、該当の成分を含まないことを示す。
【0092】
【表1】
【0093】
表1中、オレフィン分及び芳香族分の割合(容量%)は、いずれも、ガソリン基材の全容量を基準とする。
C5炭化水素分、C6炭化水素分、及びC7以上の炭化水素分の割合(容量%)は、いずれも、ガソリン基材の全容量を基準とする。
C6芳香族分、C7芳香族分、C8芳香族分、C9芳香族分、C10芳香族分、C11芳香族分、C12芳香族分、及びC13以上芳香族分の割合(容量%)は、いずれも、ガソリン基材の全容量を基準とする。
【0094】
【表2】
【0095】
【表3】
【0096】
【表4】
【0097】
表4における略号は以下の通りである。
・ETBE:エチルターシャリーブチルエーテル(含酸素基材)
【0098】
表3及び表4中、オレフィン分及び芳香族分の割合(容量%)は、いずれも、ガソリンの全容量を基準とする。
ベンゼン含有量、C7芳香族分、C8芳香族分、及びC9以上芳香族分の割合(容量%)は、いずれも、ガソリン基材の全容量を基準とする。
【0099】
[評価]
実施例1〜12及び比較例1〜6で調製した無鉛ガソリンを用いて、以下の評価を行った。結果を表5及び表6に示す。
【0100】
<加速性(運転性能)>
加速性の評価は、排気量2L、直接噴射(DI)方式、オートマチックトランスミッション(AT)の車両を用い、試験温度20℃、湿度50%の条件で行った。
車両のエンジン始動後、10秒間アイドリングを行い、アクセル開度50%で車速が40km/hに到達するまでの時間を測定した。
加速時間が4.20秒以内である場合は、加速性に優れると評価し、加速時間が4.20秒を超えた場合を、加速性に劣ると評価した。
【0101】
<点火プラグのくすぶり性>
点火プラグのくすぶり抑制の評価は、以下の方法で行った。排気量2L、マルチポイントインジェクション(MPI)方式、オートマチックトランスミッション(AT)の車両を用い、−10℃の試験温度条件で、下記に示す1サイクル約30分の評価試験を行った後、点火プラグの絶縁抵抗値を絶縁抵抗計(型番:DM−1526、三和電気計器(株)製)を用いて測定した。
エンジンを始動し、10km/h〜20km/hの加減速を10回繰り返した後、エンジンを切り、28分間冷却する。
点火プラグの絶縁抵抗値の変動は、点火プラグの汚損度の指標となる。
点火プラグの絶縁抵抗値が100MΩ以下に達したときに、点火プラグのくすぶりが発生したと判定する。評価試験は、点火プラグのくすぶりが発生したと判定されるまで繰返して行い、点火プラグのくすぶりが発生したと判定されるまでの試験回数(サイクル数)によって、点火プラグのくすぶり性を評価した。
サイクル数が15回以上の場合を点火プラグのくすぶり抑制に優れると判断する。
【0102】
【表5】
【0103】
【表6】
【0104】
実施例1〜12の無鉛ガソリンは、加速性及び点火プラグのくすぶり性の双方において、良好な結果を示した。一方、基材の配合又は燃料性状において、本発明に係る構成要素を一つでも満たさない比較例1〜6の無鉛ガソリンでは、加速性及び点火プラグのくすぶり性の双方を満足する運転性能が得られなかった。
また、実施例7〜12の無鉛ガソリンは、含酸素基材であるETBEを含んでいる場合であっても、加速性及び点火プラグのくすぶりの抑制に優れていた。
【0105】
以上の結果から、本発明の無鉛ガソリンは、オクタン価を維持し、点火プラグのくすぶりを抑制し、かつ、内燃機関の加速性に優れることが分かる。加えて、含酸素基材を含む本発明の無鉛ガソリンは、大気環境の保全に寄与することが可能である。