特許第6709868号(P6709868)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6709868解析方法、解析システム及び解析プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6709868
(24)【登録日】2020年5月27日
(45)【発行日】2020年6月17日
(54)【発明の名称】解析方法、解析システム及び解析プログラム
(51)【国際特許分類】
   G06T 7/00 20170101AFI20200608BHJP
   A61B 5/11 20060101ALI20200608BHJP
【FI】
   G06T7/00 660A
   A61B5/11 120
   A61B5/11 300
   A61B5/11 310
   A61B5/11 320
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-40665(P2019-40665)
(22)【出願日】2019年3月6日
【審査請求日】2019年3月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】595156665
【氏名又は名称】株式会社 ポーラ
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 朋子
(74)【代理人】
【識別番号】100196313
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 大輔
(72)【発明者】
【氏名】奥田 逸子
(72)【発明者】
【氏名】山川 弓香
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 道代
(72)【発明者】
【氏名】田代 恵実
【審査官】 佐藤 実
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−085490(JP,A)
【文献】 高見愛 外2名,表情トレーニングのための笑顔の定量的評価方法の検討,映像情報メディア学会技術報告 メディア工学,社団法人映像情報メディア学会,2007年 9月30日,第31巻 第44号,第25−30頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06T 7/00 − 7/90
A61B 5/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
頬又は口角を引き上げる対象者の顔運動を撮影した動画を用いて、当該対象者の表情筋の量又は質を評価する為の解析方法であって、
前記動画を取得する動画取得ステップと、
前記動画を用いて、頬又は口角の運動に関する顔運動評価値を取得する解析ステップと、を備え、
前記解析ステップにおいて取得された前記顔運動評価値から、予め記憶された前記顔運動評価値と大頬骨筋又は小頬骨筋の量に関する評価を表す筋肉量評価値との間の相関関係に基づいて、前記対象者の前記筋肉量評価値を推定するステップと、
前記解析ステップにおいて取得された前記顔運動評価値から、予め記憶された前記顔運動評価値と大頬骨筋又は小頬骨筋の質に関する評価を表す筋肉質評価値との間の相関関係に基づいて、前記対象者の前記筋肉質評価値を推定するステップと、のうち少なくとも何れか更に備えることを特徴とする、解析方法。
【請求項2】
前記筋肉量評価値を推定するステップでは、前記顔運動評価値と表情筋の厚さを示す指標との間の相関関係に基づいて、前記解析ステップにおいて取得された前記顔運動評価値から、前記対象者の表情筋の厚さを示す指標を、前記筋肉量評価値として推定する、請求項1に記載の解析方法。
【請求項3】
前記筋肉質評価値を推定するステップでは、前記顔運動評価値と表情筋の脂肪浸潤の程度を示す指標との間の相関関係に基づいて、前記解析ステップにおいて取得された前記顔運動評価値から、前記対象者の表情筋の脂肪浸潤の程度を示す指標を、前記筋肉質評価値として推定する、請求項1又は請求項2に記載の解析方法。
【請求項4】
前記顔運動評価値は、前記顔運動による顔の特徴点の運動評価値を含み、
前記解析ステップにおいて、前記特徴点の運動評価値を取得することを特徴とする、請求項1〜の何れかに記載の解析方法。
【請求項5】
前記特徴点の運動評価値は、前記顔運動の前後における前記特徴点の移動量を含むことを特徴とする、請求項に記載の解析方法。
【請求項6】
前記特徴点は、頬部又は口角の点を含むことを特徴とする、請求項又は請求項に記載の解析方法。
【請求項7】
前記顔運動は、笑顔を作る動作であることを特徴とする、請求項に記載の解析方法。
【請求項8】
頬又は口角を引き上げる対象者の顔運動を撮影した動画を用いて、当該対象者の表情筋の量又は質を評価する為の解析システムであって、
前記動画を取得する動画取得手段と、
前記動画を用いて、頬又は口角の運動に関する顔運動評価値を取得する解析手段と、を備え、
前記解析手段が取得した前記顔運動評価値から、予め記憶された前記顔運動評価値と大頬骨筋又は小頬骨筋の量に関する評価を表す筋肉量評価値との間の相関関係に基づいて、前記対象者の前記筋肉量評価値を推定する手段と、
前記解析手段が取得した前記顔運動評価値から、予め記憶された前記顔運動評価値と大頬骨筋又は小頬骨筋の質に関する評価を表す筋肉質評価値との間の相関関係に基づいて、前記対象者の前記筋肉質評価値を推定する手段と、のうち少なくとも何れか更に備えることを特徴とする、解析システム。
【請求項9】
頬又は口角を引き上げる対象者の顔運動を撮影した動画を用いて、当該対象者の表情筋の量又は質を評価する為の解析プログラムであって、
コンピュータを、前記動画を取得する動画取得手段と、
前記動画を用いて、頬又は口角の運動に関する顔運動評価値を取得する解析手段と、として機能させ、
前記解析手段が取得した前記顔運動評価値から、予め記憶された前記顔運動評価値と大頬骨筋又は小頬骨筋の量に関する評価を表す筋肉量評価値との間の相関関係に基づいて、前記対象者の前記筋肉量評価値を推定する手段と、
前記解析手段が取得した前記顔運動評価値から、予め記憶された前記顔運動評価値と大頬骨筋又は小頬骨筋の質に関する評価を表す筋肉質評価値との間の相関関係に基づいて、前記対象者の前記筋肉質評価値を推定する手段と、のうち少なくとも何れかとして、コンピュータを更に機能させることを特徴とする、解析プログラム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動画を用いて頭頸部構造を解析する為の解析方法、解析システム及び解析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、画像処理技術が進歩しており、動画を用いて様々な解析を行う技術が研究されている。例えば人の顔を撮影した動画を用いて、人の印象や肌の解析を行う技術等がある。特許文献1には、被験者の顔を撮影した動画像により、顔の追跡点の変化量を追跡し、肌の圧縮率を取得することで、被験者の肌状態を解析する画像解析装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−193197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術では、肌の圧縮率に基づいて肌状態を解析するが、肌の更に深部、即ち皮下の筋肉について解析を行う為には、CT(Computed Tomography)やMRI(Magnetic Resonance Imaging)を用いて検査をする必要があった。近年では表情筋等を含む頭頸部の筋肉が、顔の印象に大きく関わると言われており、トレーニング等についても関心が高まっているが、現在の筋肉の状態やトレーニングの効果について確認する為には、やはりCTやMRIによる検査が必要であった。
【0005】
しかし、上記のような検査には専用の設備が必要になる為、時間も費用もかかり、対象者自身の負担も大きくなることから、手軽に検査を行うことができなかった。また、CTやMRIの撮影画像を見ても、知識や経験がなければ筋肉の状態について適切に評価することはできず、現実的には治療目的以外でこのような検査を行って筋肉の状態を調べることは難しかった。
【0006】
本発明は、上記のような現状に鑑みてなされたものであり、対象者に負担をかけず、手軽に頭頸部構造を評価する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記のような課題に対し、本発明者らは、鋭意研究の結果、顔の動きと顔面を中心とする頭頸部の筋肉の状態との間に、高い相関関係があることを見出した。そして、顔の特定部位の運動を解析することで、特定の顔の筋肉に関するパラメータを推定できることを見出し、本発明を完成させるに至った。即ち、本発明は以下の通りである。
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、対象者の表情変化の過程を撮影した動画を用いて、当該対象者の顔面を中心とする頭頸部構造を評価する為の解析方法であって、
前記動画を取得する動画取得ステップと、
前記動画を用いて、顔運動評価値を取得する解析ステップと、
前記解析ステップにおいて取得された前記顔運動評価値から、予め記憶された前記顔運動評価値と顔面および周囲を含む頭頸部構造の評価値との間の相関関係に基づいて、前記評価値を推定する評価ステップと、を備えることを特徴とする。
【0009】
このような構成とすることで、対象者の動画を撮影するだけで顔面を中心とする頭頸部の評価をすることができる。
【0010】
本発明の好ましい形態では、前記評価ステップにおいて、予め記憶された前記顔運動評価値と顔面及び周囲を含む頭頸部の筋肉評価値との間の相関関係に基づいて、前記筋肉評価値を推定することを特徴とする。
このような構成とすることで、対象者の動画を撮影するだけで顔面を中心とする頭頸部の筋肉の評価をすることができる。
【0011】
本発明の好ましい形態では、前記筋肉評価値は、頭頸部の筋肉の量に関する評価を表す筋肉量評価値を含み、
前記評価ステップにおいて、前記筋肉量評価値を推定することを特徴とする。
このような構成とすることで、動画から頭頸部の筋肉量に関する評価を推定することができる。
【0012】
本発明の好ましい形態では、前記筋肉評価値は、頭頸部の筋肉の質に関する評価を表す筋肉質評価値を含み、
前記評価ステップにおいて、前記筋肉質評価値を推定することを特徴とする。
このような構成とすることで、動画から頭頸部の筋肉の質に関する評価を推定することができる。
【0013】
本発明の好ましい形態では、前記顔運動評価値は、前記表情変化による顔の特徴点の運動評価値を含み、
前記解析ステップにおいて、前記特徴点の運動評価値を取得することを特徴とする。
このような構成とすることで、動画中の特徴点を追跡することにより、頭頸部構造を評価することができる。
【0014】
本発明の好ましい形態では、前記特徴点の運動評価値は、前記表情変化の前後における前記特徴点の移動量を含むことを特徴とする。
このような構成とすることで、移動量によって特徴点の運動を単純化して頭頸部構造の評価を行うことができるため、計算量を減らすことができる。
【0015】
本発明の好ましい形態では、前記特徴点は、頬部又は口角の点を含むことを特徴とする。
このような構成とすることで、表情変化によって大きく運動し、その運動の差を評価しやすい点を解析に用いることができるため、より正確に頭頸部構造の評価を行えるようになる効果が期待できる。
【0016】
本発明の好ましい形態では、前記表情変化は、笑顔を作る動作であり、
評価の対象となる頭頸部構造は、大頬骨筋又は小頬骨筋を含むことを特徴とする。
このような構成とすることで、本発明者らが見出した、笑顔を作ったときの頬部又は口角の点の移動量等の運動評価値と、大頬骨筋又は小頬骨筋の厚みや脂肪浸潤等の筋肉評価値と、の間の相関関係に基づいて、正確に頭頸部構造の評価値を推定することができる。
【0017】
本発明の好ましい形態では、前記顔運動評価値は、表情の大きさを表す表情評価値を含み、
前記解析ステップにおいて、前記表情評価値を取得することを特徴とする。
このような構成とすることで、表情評価値と頭頸部構造の評価値との相関関係に基づいて、表情評価値から頭頸部構造の評価値を推定することができる。これにより、表情の大きさから頭頸部構造を評価できるため、より簡単に頭頸部構造の評価を行うことができる。
【0018】
本発明は、対象者の表情変化の過程を撮影した動画を用いて、当該対象者の顔面を中心とする頭頸部構造を評価する為の解析システムであって、
前記動画を取得する動画取得手段と、
前記動画を用いて、顔運動評価値を取得する解析手段と、
前記解析手段が取得した前記顔運動評価値から、予め記憶された前記顔運動評価値と顔面および周囲を含む頭頸部構造の評価値との間の相関関係に基づいて、前記評価値を推定する評価手段と、を備えることを特徴とする。
【0019】
本発明は、対象者の表情変化の過程を撮影した動画を用いて、当該対象者の顔面を中心とする頭頸部構造を評価する為の解析プログラムであって、
コンピュータを、前記動画を取得する動画取得手段と、
前記動画を用いて、顔運動評価値を取得する解析手段と、
前記解析手段が取得した前記顔運動評価値から、予め記憶された前記顔運動評価値と顔面を中心とする頭頸部構造の評価値との間の相関関係に基づいて、前記評価値を推定する評価手段と、として機能させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、対象者に負担をかけず、手軽に頭頸部構造を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施形態における解析方法を実行する解析システムの機能ブロック図である。
図2】本発明の実施形態における特徴点の一例を示す図である。
図3】本発明の実施形態における筋肉評価値の推定の処理の流れを示すフローチャートである。
図4】本発明の実施形態における顔運動評価値の解析の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<解析システム>
以下、本発明の一実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。本実施形態においては、表情変化として笑顔を作る動作の過程を撮影した動画を用いて、大頬骨筋及び小頬骨筋の筋肉量及び質について評価を行う場合について例示する。なお、以下に示す実施形態は本発明の一例であり、本発明を以下の実施形態に限定するものではなく、様々な構成を採用することもできる。
【0023】
例えば、本実施形態では解析システムの構成、動作等について説明するが、同様の構成の方法、コンピュータ装置、コンピュータプログラム、記録媒体等も、同様の作用効果を奏することができる。また、プログラムは、記録媒体に記憶させてもよい。この記録媒体を用いれば、例えばコンピュータにプログラムをインストールすることができる。ここで、プログラムを記憶した記録媒体は、例えばCD−ROM等の非一過性の記録媒体であっても良い。
【0024】
大頬骨筋とは、人間の頭部の浅頭筋のうち、口唇周囲にかけての口筋のなかで口角を上外側に引き上げる働きをする筋肉である。また、小頬骨筋は人間の頭部の浅頭筋のうち、口唇周囲にかけての口筋のなかで上唇を後上方に引き上げる働きをする筋肉である。これらの筋肉は表情の表出に大きく関わっており、これらの筋肉の衰えが鼻唇溝等の原因にもなると言われている。
【0025】
なお、本実施形態においては、頭頸部構造に含まれる頭頸部の筋肉の一例として、大頬骨筋や小頬骨筋を中心とした表情筋を評価する構成を示すが、この他にも例えば顎部や首の筋肉等、頭頸部の任意の筋肉について評価を行う構成としてよい。また、その他頭頸部の任意の構造について評価を行う構成としてよい。
【0026】
本発明において顔運動評価値とは、表情変化による顔の運動に関する値を指す。例えば、表出する表情の大きさを表す表情評価値や、1又は複数の特徴点に関する、移動量、移動速度、加速度等の特徴点の運動評価値等、顔の運動に関して測定可能な任意の値を用いてよい。
【0027】
また、筋肉評価値とは、頭頸部の筋肉に関する評価を示すものである。本実施形態においては、筋肉の量に関する評価である筋肉量評価値と、筋肉の質に関する評価である筋肉質評価値と、を含み、これらの両方について推定する。筋肉量評価値としては、例えば、筋肉の厚みを用いることができる。また、筋肉質評価値としては、いわゆる「霜降り」状態を示す脂肪浸潤の程度を用いることができ、脂肪浸潤の程度が軽いほど筋肉の質が高いと評価できる。
【0028】
図1は、本実施形態における解析システムの機能ブロック図である。本実施形態の解析システムは、解析装置1と端末装置2とが相互に通信可能に構成されている。ただし、本発明の構成はこれに限られず、解析装置1が種々の入出力手段を備え、動画像の取得から評価結果の出力まで全てを行う構成としてもよい。この他にも、端末装置2を複数備える構成や、複数のコンピュータ装置によって解析装置1を実現する構成等、任意の構成に変更してよい。
【0029】
解析装置1としては、CPU(Central Processing Unit)等の演算装置、RAM(Random Access Memory)等の主記憶装置、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリ等の補助記憶装置、ネットワークへの接続手段を含む種々の入出力装置等を備えた、サーバ装置等の一般的なコンピュータ装置を利用することができる。より詳細には、コンピュータ装置の備える補助記憶装置に、予め、あるいは、解析装置1の管理者等の操作によって、コンピュータ装置を後述する各手段として動作させるための解析プログラムを記録しておき、それを主記憶装置上に展開して、演算装置によって、入出力装置の制御等の各種処理を行うことによって実現できる。
【0030】
端末装置2としては、演算装置、主記憶装置、補助記憶装置、解析装置1への接続手段や、カメラ等の撮像手段を含む種々の入出力装置等を備えた、一般的なコンピュータ装置を利用することができる。本実施形態では、スマートフォンやタブレット端末等を利用する場合を想定するが、この他にも例えばPC(Personal Computer)のような任意のコンピュータ装置を用いてよい。本実施形態では、端末装置2は、撮影した動画を解析装置1に送信する為の、ウェブブラウザアプリケーション又は専用のアプリケーションを記憶している。
【0031】
解析装置1は、表情変化の過程を撮影した動画を取得する動画取得手段11と、動画を用いて顔運動評価値を取得する解析手段12と、顔運動評価値及び筋肉評価値の相関関係に基づいて筋肉評価値を推定する評価手段13と、顔運動評価値及び筋肉評価値の間の相関関係を含む種々の情報を記憶する記憶手段14と、を備える。
【0032】
端末装置2は、動画を撮影する為の撮像手段21と、入力手段22と、出力手段23と、を備える。本実施形態では、撮像手段21によって撮影した動画を、端末装置2が解析装置1に送信し、動画に基づいて推定された筋肉評価値を解析装置1が端末装置2に送信して、端末装置2の出力手段23が出力を行う。
【0033】
本実施形態では、FACS(Facial Action Coding System)による解析を行う。FACSは、映像から表情の分類や強度を解析する技術であり(参考:https://www.noldus.com/facereader/facial-action-units,最終閲覧日:2019年3月6日)、3Dモデリングを行って顔上の点を特定して追跡することで、顔の各部の動きを個別に解析して表情の分類を行うことができる。
【0034】
FACSにおいては、アクションユニット(AU:Action Unit)と呼ばれる、表情変化の際の運動部位に分けて解析を行う。図2は、本実施形態において用いる特徴点を示す図である。このように、本実施形態においては、頬の上下の運動を示すAU6と、口角の上下を示すAU12を特徴点として用いて解析を行う。なお、図2の矢印は、自然な笑顔を作った場合のAU6及びAU12の運動の方向を示す。
【0035】
図3は、本実施形態における筋肉評価値の推定に係る処理フローチャートである。まず、ステップS11において、端末装置2の撮像手段21が、対象者の表情変化の過程を撮影する。表情変化としては、例えば、怒り、笑顔、驚き、嫌悪、悲しみ、恐れ等の表情を任意の順番で再現する等の動作を撮影すればよい。本実施形態では、AU6及びAU12が大きく運動する、笑顔を作る動作を撮影して解析を行う。なお、笑顔を作る前の表情は特に限定されない。
【0036】
次に、ステップS12において、ステップS11で撮影された動画を端末装置2が送信し、解析装置1において動画取得手段11が動画を取得する。なお、動画取得手段11が取得する動画は、撮像手段21によって撮影したものである必要はなく、例えばステップS11を省略して、予め撮影して記録しておいた動画を取得する構成としてもよい。
【0037】
ステップS13では、ステップS12で取得した動画を解析手段12が解析し、顔運動評価値を取得する。図4は、顔運動評価値の解析に係る処理のフローチャートである。本実施形態では、図4(a)に示す手順に従って解析が行われる。
【0038】
まずステップS21において、解析手段12が特徴点を検出する。本実施形態では、図2に示したように、頬部の点としてAU6を、口角の点としてAU12を検出する。なお、特徴点の位置や数は特に限定されず、例えば、頬部、口角についてそれぞれ複数の点を検出してもよいし、その他の部位を特徴点として検出してもよい。
【0039】
ここで、特徴点は、評価対象となる筋肉の収縮によって運動する点であることが好ましい。このようにすることで、特徴点の運動の解析により、正確に筋肉の評価を行うことが可能になる。
【0040】
特徴点が検出されると、ステップS22に進み、解析手段12が、顔運動評価値として、特徴点の運動評価値を解析する。本実施形態では、表情変化の前後における各特徴点の移動量を解析し、運動評価値として用いる。このように、AU6及びAU12を特徴点として検出し、その移動量を取得することで、本発明者らが見出した、AU6やAU12の移動量と大頬骨筋や小頬骨筋の筋肉の厚みとの相関関係に基づいて、より正確に筋肉評価値を推定することができる。
【0041】
なお、顔運動評価値としては、表情の大きさを示す値を用いる構成としてもよい。図4(b)では、表情の大きさを示す表情評価値を算出する場合の処理を示す。この場合には、解析手段12はステップS31で動画を解析して表情評価値を取得する。また、(a)及び(b)の解析を組み合わせて、これらの両方の情報を用いて筋肉評価値を推定する構成としてもよい。
【0042】
顔運動評価値の解析が終わると、図3のステップS14に進み、評価手段13が筋肉評価値の推定を行う。評価手段13は、ステップS13で取得した顔運動評価値を用いて、記憶手段14に記憶された顔運動評価値及び筋肉評価値の相関関係に基づいて、筋肉評価値の推定を行う。ここで、本実施形態では、大頬骨筋及び小頬骨筋について、筋肉量及び筋肉の質の両方を推定する。
【0043】
具体的には、例えば特徴点の移動量と大頬骨筋の厚さとの関係を示す関数を記憶手段14に記憶しておき、この関数に従って、特徴点の移動量から大頬骨筋の厚さを推定して、筋肉量評価値として出力する等の方法が考えられる。他の筋肉量評価値や筋肉質評価値についても同様の方法で推定することが可能である。
【0044】
この他、複数の特徴点の移動量から各筋肉量及び筋肉の質を推定する等、推定方法の詳細は任意に変更が可能である。また、筋肉量評価値や筋肉質評価値については、上述した筋肉の厚さのように連続的に測定可能な値でなくてもよく、例えば複数段階に分けて評価する等、不連続な評価値を用いてもよい。
【0045】
また、顔運動評価値と筋肉評価値の組み合わせを教師データとして学習させた機械学習モデルを用いて筋肉評価値を行う構成としてもよい。
【0046】
以上のようにして推定された筋肉評価値は、端末装置2に送信され、出力手段23が出力する。具体的には、例えば端末装置2が出力手段23として表示部を備え、筋肉評価値を表示する構成とすることができる。この際、対象者の筋肉評価値に加え、平均値との比較や、筋肉評価値の推移を出力するようにしてもよい。
【0047】
以上のように、本発明によれば、対象者の表情変化の過程を撮影した動画を解析することにより、手軽に頭頸部構造の評価値の推定を行うことができる。これにより、例えば現在の表情筋の状態を確認したり、トレーニングの効果を検討したりすることが可能になる。
【0048】
なお、本実施形態においては、笑顔を作る際の表情変化を撮影し、その動画を解析して顔運動評価値を取得することで、大頬骨筋及び小頬骨筋の評価を行う構成を示したが、本発明の構成は任意に変更してよい。例えば、表情変化としては笑顔や怒り等の表情の他、特定の音を発する時の動きを用いてもよいし、評価対象は、頭頸部の任意の構造とすることができる。
【0049】
以下、本発明者らによって行われた、顔運動評価値と筋肉評価値との関係を調べた実験の結果について説明する。なお、本発明は以下のような実験結果に基づいてなされたものであるが、本発明において用いられる値や相関関係は、以下の内容に限られない。
【0050】
<実験結果>
(1)顔運動評価値測定
40代の女性10人を対象として、怒り、笑顔、驚き、嫌悪、悲しみ、恐れの各表情を順番に表現し、最後に大きく笑顔を表現する様子を撮影し、笑顔を作る動作について、AU6及びAU12の移動量を解析した。動画の解析にはFACSの技術を利用し、出力されるAU6及びAU12の運動の程度表す値を、本発明における特徴点の移動量として用いた。
【0051】
(2)筋肉評価値測定
(2−1)筋肉量評価値測定
(1)で顔運動評価値を測定した各被験者の顔のCTスキャンを行った。各被験者の顔のCT画像を2名の医師が確認し、大頬骨筋及び小頬骨筋のそれぞれについて、厚みを測定した。これを各被験者に対して3回繰り返し、2名の医師×3回分の測定の平均値を各被験者の測定結果とした。厚みの測定は、大頬骨筋起始部(眼輪筋外側の端部)、大頬骨筋中央部、小頬骨筋中央部について、顔の左右それぞれに対し行われた。このようにして測定された筋肉の厚みを、本発明における筋肉量評価値として用いた。
【0052】
(2−2)筋肉質評価値測定
(1)で顔運動評価値を測定した各被験者の顔のMRI画像を撮影した。各被験者の顔のMRI画像を2名の医師が確認し、大頬骨筋及び小頬骨筋のそれぞれについて、脂肪浸潤の度合いを4段階で評価した。これを各被験者に対して3回繰り返し、2名の医師×3回分の評価の平均値を各被験者の評価値とした。脂肪浸潤の評価は、大頬骨筋起始部(眼輪筋外側の端部)、大頬骨筋中央部、小頬骨筋中央部について、顔の左右それぞれに対し行われた。このようにして決定された脂肪浸潤の評価値を、本発明における筋肉質評価値として用いた。
【0053】
(3)触診
各被験者が笑顔を作った時の頬部について2名の肌評価専門家が触診を行い、硬さについて1〜8までの0.5刻みで15段階評価した。2名の肌評価専門家の平均値を各被験者の評価値とした。更に、触診の評価値をもとに、被験者を評価値が良好なポジティブ群(P群)と評価値が良好でないネガティブ群(N群)とに分けた。
【0054】
(4)相関関係解析
各種の測定結果について、相関分析を行ったところ、以下の項目において、相関係数R0.6以上、p値0.1未満の強い相関が認められた。
AU6移動量−触診評価値:R=0.69、p=0.028
AU6移動量−大頬骨筋起始部(左右平均):R=0.74、p=0.014
AU6移動量−大頬骨筋中央部(左右平均):R=0.61、p=0.062
AU6移動量−小頬骨筋中央部(左右平均):R=0.66、p=0.038
AU12移動量−大頬骨筋起始部(左右平均):R=0.65、p=0.041
AU12移動量−大頬骨筋中央部(左右平均):R=0.60、p=0.065
AU12移動量−小頬骨筋中央部(左右平均):R=0.68、p=0.030
大頬骨筋起始部(左右平均)−大頬骨筋中央部(左右平均):R=0.96、p=0.00014
大頬骨筋中央部(左右平均)−小頬骨筋中央部(左右平均):R=0.77、p=0.0097
大頬骨筋起始部(左右平均)−小頬骨筋中央部(左右平均):R=0.73、p=0.016
【0055】
(5)傾向観察
P群、N群のそれぞれについて脂肪浸潤の評価値を観察すると、大頬骨筋起始部、大頬骨筋中央部、小頬骨筋中央部のそれぞれについて、N群に比べてP群の方が脂肪浸潤の評価値がよい傾向が確認された。
【0056】
(4)の結果から、AU6又はAU12の移動量を用いて、大頬骨筋及び小頬骨筋の厚みを推定できることがわかった。また、AU6の移動量から触診の評価値を推定できることが示され、更に(5)の観察から、触診の評価値がよいグループ(P群)の方が、触診の評価値が悪いグループ(N群)よりも、脂肪浸潤の評価値がよい傾向があることが示された。これにより、AU6の移動量を用いて、脂肪浸潤の評価値を推定できる可能性が示された。
【符号の説明】
【0057】
1 解析装置
11 動画取得手段
12 解析手段
13 評価手段
14 記憶手段
2 端末装置
21 撮像手段
22 入力手段
23 出力手段
【要約】
【課題】
対象者に負担をかけず、手軽に頭頚部構造を評価する方法を提供すること。
【解決手段】
対象者の表情変化の過程を撮影した動画を用いて、当該対象者の顔面を中心とする頭頸部構造を評価する為の解析方法であって、前記動画を取得する動画取得ステップと、前記動画を用いて、顔運動評価値を取得する解析ステップと、前記解析ステップにおいて取得された前記顔運動評価値から、予め記憶された前記顔運動評価値と顔面を中心とする頭頸部構造の評価値との間の相関関係に基づいて、前記評価値を推定する評価ステップと、を備えることを特徴とする。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4