特許第6709870号(P6709870)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6709870電動機用ステータの製造方法および電動機用ステータ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6709870
(24)【登録日】2020年5月27日
(45)【発行日】2020年6月17日
(54)【発明の名称】電動機用ステータの製造方法および電動機用ステータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 15/10 20060101AFI20200608BHJP
   H02K 3/34 20060101ALI20200608BHJP
【FI】
   H02K15/10
   H02K3/34 B
【請求項の数】2
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2019-74216(P2019-74216)
(22)【出願日】2019年4月9日
(62)【分割の表示】特願2016-48673(P2016-48673)の分割
【原出願日】2016年3月11日
(65)【公開番号】特開2019-134677(P2019-134677A)
(43)【公開日】2019年8月8日
【審査請求日】2019年5月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000144038
【氏名又は名称】株式会社三井ハイテック
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100194087
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 伸一
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 将吾
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 毅
(72)【発明者】
【氏名】蓮尾 裕介
(72)【発明者】
【氏名】中山 勇人
【審査官】 小林 紀和
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−239706(JP,A)
【文献】 実開昭56−171539(JP,U)
【文献】 特開2003−143791(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/10
H02K 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のティース部の間にスロットが形成され、前記複数のティース部の先端部同士の間に前記スロットに通じるスリットが存在するステータコアに対して、前記スロットの内面に沿うとともに前記スリットを跨ぐ環状になるように前記スロットの内面に絶縁性の樹脂層を一体成形し、
前記スロットの内面に前記環状の樹脂層を一体成形するときに、前記ステータコアの軸方向に進むに従って前記スロットの内面のうち前記軸方向に沿う側面から離間する傾斜面を有する傾斜部を前記樹脂層の内面に形成し、
前記スロットの内面に前記環状の樹脂層を一体形成した後に、前記環状の樹脂層の内側に、平角線からなるセグメント導体を複数有するセグメントコイルを含む巻線を前記軸方向と平行な挿入方向に沿って挿入し、
前記環状の樹脂層の内側に前記巻線を挿入した後に、前記傾斜部の内面と前記セグメント導体の表面との間に、前記環状の樹脂層とは異なる絶縁材料を流動性がある状態で供給し、前記絶縁材料を加熱して固化させることで前記巻線を保持する充填固着部を形成する
ことを特徴とする電動機用ステータの製造方法。
【請求項2】
複数のティース部の間にスロットが形成され、前記複数のティース部の先端部同士の間に前記スロットに通じるスリットが存在するステータコアと、
前記スロットの内面と一体に設けられ、前記スロットの内面に沿うとともに前記スリットを跨ぐ環状の絶縁性の樹脂層と、
前記環状の樹脂層の内側に挿入され且つ平角線からなるセグメント導体を複数有するセグメントコイルを含む巻線と、
前記環状の樹脂層の内面と前記セグメント導体の表面との間に充填された、前記樹脂層とは異なる絶縁材料により形成されて前記巻線の位置を保持した充填固着部と、
を備え、
前記樹脂層の内面は、前記ステータコアの軸方向に進むに従って前記スロットの内面のうち前記軸方向に沿う側面から離間する傾斜面を有する傾斜部を備える、
ことを特徴とする電動機用ステータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機用ステータの製造方法および電動機用ステータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ステータコアのスロットに挿入される巻線は、該巻線とスロットの内面との間に絶縁紙を介在させてスロットに挿入されている。
ここで、下記特許文献1には、導線の周りに形成された熱硬化性樹脂からなる内被膜と、内被膜の周りに形成された熱可塑性樹脂からなる外被膜とを有した巻線が開示されている。この巻線は、該巻線がスロットに収容された後に、前記外被膜に含有された発泡剤が熱処理によって発泡することで所望厚の絶縁層を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−228093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、巻線とスロットの内面との間に絶縁紙を介在させる場合には、ステータの製造時に絶縁紙に破れや潰れ等が生じるおそれがある。このため、ステータに絶縁紙を設ける場合、ステータの製造性が低下することがある。また絶縁紙を設ける場合、絶縁紙を切断する工程や、切断した絶縁紙をスロットに挿入する工程等が必要になる。この観点でも、ステータに絶縁紙を設ける場合、ステータの製造性が低下することがある。
また、内被膜と外被膜とからなる二重構造の被膜を巻線に設けるとともに、外被膜に発泡剤を含有させる構成では、二重構造の被膜を巻線に形成する工程や、外被膜に発泡剤を含有させる工程が必要になる。このため、ステータの製造性の向上を図ることが難しい場合がある。
【0005】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、製造性の向上を図ることができる電動機用ステータの製造方法および電動機用ステータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項に記載した発明では、電動機用ステータ(例えば、実施形態におけるステータ3)の製造方法において、複数のティース部(例えば、実施形態におけるティース部22)の間にスロット(例えば、実施形態におけるスロット23)が形成され、前記複数のティース部の先端部同士の間に前記スロットに通じるスリット(例えば、実施形態におけるスリット24)が存在するステータコア(例えば、実施形態におけるステータコア11)に対して、前記スロットの内面に沿うとともに前記スリットを跨ぐ環状になるように前記スロットの内面に絶縁性の樹脂層(例えば、実施形態における樹脂層60)を一体成形し、前記スロットの内面に前記環状の樹脂層を一体成形するときに、前記ステータコアの軸方向に進むに従って前記スロットの内面のうち前記軸方向に沿う側面から離間する傾斜面を有する傾斜部(例えば、実施形態における傾斜部83)を前記樹脂層の内面に形成し、前記スロットの内面に前記環状の樹脂層を一体形成した後に、前記環状の樹脂層の内側に、平角線からなるセグメント導体(例えば、実施形態におけるセグメント導体31)を複数有するセグメントコイル(例えば、実施形態におけるセグメントコイル30)を含む巻線(例えば、実施形態における巻線12)を前記軸方向と平行な挿入方向に沿って挿入し、前記環状の樹脂層の内側に前記巻線を挿入した後に、前記傾斜部の内面と前記セグメント導体の表面との間に、前記環状の樹脂層とは異なる絶縁材料(例えば、実施形態におけるセグメントコイル30)を流動性がある状態で供給し、前記絶縁材料を加熱して固化させることで前記巻線を保持する充填固着部(例えば、実施形態における充填固着部70)を形成することを特徴とする。
【0012】
上記目的を達成するために、請求項に記載した発明では、電動機用ステータは、複数のティース部の間にスロットが形成され、前記複数のティース部の先端部同士の間に前記スロットに通じるスリットが存在するステータコアと、前記スロットの内面と一体に設けられ、前記スロットの内面に沿うとともに前記スリットを跨ぐ環状の絶縁性の樹脂層と、前記環状の樹脂層の内側に挿入され且つ平角線からなるセグメント導体を複数有するセグメントコイルを含む巻線と、前記環状の樹脂層の内面と前記セグメント導体の表面との間に充填された、前記樹脂層とは異なる絶縁材料により形成されて前記巻線の位置を保持した充填固着部と、を備え、前記樹脂層の内面は、前記ステータコアの軸方向に進むに従て前記スロットの内面のうち前記軸方向に沿う側面から離間する傾斜面を有する傾斜部を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項に記載した発明によれば、樹脂層の内面に傾斜部が設けられるので、この傾斜部を誘いとしてスロットの内側(樹脂層の内側)に巻線を挿入しやすくなる。これにより、ステータの製造性の向上をさらに図ることができる。
【0018】
また請求項に記載した発明によれば、スロットの内面に樹脂層を一体成形するときに、樹脂層の内面の傾斜部が同時に形成される。このような構成によれば、製造工数の増加を抑制しつつ、樹脂層の内面に傾斜部を容易に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】第1の実施形態の電動機の全体構成を示す断面図である。
図2】第1の実施形態のステータの一部を示す断面図である。
図3】第1の実施形態のセグメントコイルを示す斜視図である。
図4図2中に示されたステータのF4線で囲まれた領域を拡大して示す断面図である。
図5図4中に示されたステータのF5−F5線に沿う断面図である。
図6】第1の実施形態のステータの製造方法の流れを示す断面図である。
図7】第2の実施形態のステータの一部を示す断面図である。
図8】実施形態のステータの変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお以下の説明では、略同じまたは類似の機能を有する構成に同一の符号を付す。そして、それらの重複する説明は省略する場合がある。
【0022】
(第1の実施形態)
まず、図1から図6を参照し、第1の実施形態のステータ3について説明する。
図1は、本実施形態のステータ3を含む電動機(回転電機)1の全体構成を示す。
電動機1は、例えば、ハイブリッド自動車や電気自動車のような車両に搭載される走行用モータである。ただし、本実施形態の構成は、上記例に限らず、発電用モータやその他用途のモータにも適用可能であり、また車両に搭載される以外の電動機(発電機を含む)にも適用可能である。本実施形態の電動機1は、例えば分布巻モータであるがこれに限らず、集中巻モータでもよい。
【0023】
図1に示すように、電動機1は、ケース2と、ステータ3と、ロータ4と、出力シャフト5とを備える。
ケース2は、例えばステータ3およびロータ4を収容する筒状に形成されている。
ステータ3は、環状に形成されて、例えばケース2の内周面に取り付けられている。ステータ3は、ステータコア11と、ステータコア11に取り付けられた巻線12とを有し、ロータ4に対して回転磁界を作用させる。
ロータ4は、例えば、ロータコアと、ロータコアに取り付けられた磁石とを有し、ステータ3の内側で回転駆動される。
出力シャフト5は、ロータ4に接続されてロータ4の回転を駆動力として出力する。
【0024】
ここで、ステータコア11の軸方向Z、径方向R、および周方向θ(図2参照)について定義する。ステータコア11の軸方向Zは、出力シャフト5の回転中心軸Cと略平行に延びた方向である。ステータコア11の径方向Rは、回転中心軸Cから放射状に離れる方向およびその反対方向(回転中心軸Cに近付く方向)である。ステータコア11の周方向θは、回転中心軸Cから一定の距離を保ちながら回転中心軸Cの周りを回転する方向である。
【0025】
次に、ステータ3について詳しく説明する。
図2は、ステータ3の一部を示す断面図である。
図2に示すように、ステータ3は、ステータコア11と、巻線12と、スロット内面樹脂層60(図4参照)と、スロット充填固着部70(図4参照)とを備える。なお図2では、説明の便宜上、スロット内面樹脂層60およびスロット充填固着部70の図示を省略している。
【0026】
ステータコア11は、ロータ4を囲む環状に形成されている。ステータコア11は、例えば周方向θに分割された複数のピースが互いに連結されることで形成される分割型ステータコアでもよく、複数枚の電磁鋼鈑が軸方向Zに積層されることで形成される積層型ステータコアでもよい。
ステータコア11は、環状のヨーク部21と、複数のティース部22と、複数のスロット23とを有する。複数のティース部22は、ヨーク部21からステータコア11の径方向Rの内側に向けて突出している。各スロット23は、ステータコア11の周方向θにおいて互いに隣り合う2つのティース部22の間に形成されている。このため、複数のスロット23は、ステータコア11の周方向θに並んで配置されている。各スロット23は、ステータコア11の軸方向Zにステータコア11を貫通している。
【0027】
各スロット23は、巻線12に面する内面(内周面)23iを有する。なお本願で言う「面する」とは、直接に面する場合に限らず、他の部材(例えば樹脂層60や充填固着部70)を間に介在させて面する場合も含む。また本願で言う「内周面」とは、「内周側の面」を意味する。すなわち、本願で言う「内周面」とは、ひと続きの環状の面に限らず、一部が途切れていてもよい。
【0028】
図2に示すように、各スロット23の内面23iは、一対の側面23a,23bと、底面23cと、一対の先端部端面23d,23eとを有する。一対の側面23a,23bは、互いに異なるティース部22によって形成され、ステータコア11の周方向θに互いに離れている。一対の側面23a,23bは、例えば互いに略平行である。底面23cは、一対の側面23a,23bの径方向Rの外側の端部同士を接続している。一対の先端部端面23d,23eは、一対の側面23a,23bの径方向Rの内側の端部から互いに近付く方向に延びている。
また本実施形態のスロット23は、径方向Rの内側が閉じられていないオープンスロットである。すなわち本実施形態のステータコア11は、一対のティース部22の先端部の間に形成されたスリット24を有する。スリット24は、ステータコア11の径方向Rでスロット23に連通している。スリット24の周方向θの幅は、スロット23の周方向θの幅(一対の側面23a,23bの間の距離)よりも小さい。なおこれに限らず、本実施形態の構成は、径方向Rの内側が閉じられたクローズドスロットにも適用可能である。
【0029】
巻線12は、ステータコア11のスロット23に収容されてステータコア11に装着されている。巻線12は、U相、V相、W相からなる3相コイルである。本実施形態の巻線12は、互いに連結されて使用される複数のセグメントコイル(分割導線)30によって形成されている。
【0030】
図3は、巻線12に含まれる1つのセグメントコイル30を示す斜視図である。なお図3中の(a)は、スロット23に挿入されて別のセグメントコイル30と連結される状態のセグメントコイル30を示す。図3中の(b)は、ステータコア11のスロット23に単に挿入された状態のセグメントコイル30を示す。
【0031】
図3中の(a)に示すように、1つのセグメントコイル30は、複数(例えば4つ)のセグメント導体31を有する。各セグメント導体31は、例えば平角線である。すなわち、各セグメント導体31の断面形状は、長方形状に形成されている。なお巻線12に関して本願で言う「断面」または「断面形状」とは、ステータコア11の軸方向Zとは略直交する平面に沿う断面または断面形状を意味する。同一のスロット23に挿入される複数のセグメント導体31は、例えばセグメント導体31の主面同士を互いに向かい合わせにして、1列に重ねられている。各セグメント導体31は、通電性の導線50と、導線を覆う絶縁性の被膜51とを有する。被膜51は、例えばエナメル層である。
【0032】
図3中の(a)に示すように、各セグメント導体31は、2つの直線部40A,40Bと、第1接続部41と、2つの第2接続部42A,42Bとを有する。2つの直線部40A,40Bは、互いに異なるスロット23に分かれて収容される。複数のスロット23に分かれて収容される複数のセグメントコイル30の直線部40A,40Bは、ステータコア11の周方向θにおいて、U相、U相、V相、V相、W相、W相、U相、U相、…の順に配列されている。第1接続部41は、スロット23の外部に配置されるとともに、2つの直線部40A,40Bの端部同士を接続している。第2接続部42A,42Bは、直線部40A,40Bに対して第1接続部41とは反対側に位置するとともに、スロット23の外部に配置されている。一方の第2接続部42Aは、別のセグメントコイル30の第2接続部42BとTIG溶接やレーザ溶接等で接合される。他方の第2接続部42Bは、さらに別のセグメントコイル30の第2接続部42AとTIG溶接やレーザ溶接等で接合される。これにより、複数のセグメントコイル30が順次連結されている。
【0033】
図3中の(b)に示すように、セグメントコイル30は、ステータコア11の軸方向Zと略平行な挿入方向Dに沿って、ステータコア11の外部からスロット23に挿入される。具体的には、セグメントコイル30は、第2接続部42A,42Bが直線部40A,40Bに対して真っ直ぐな状態で、スロット23に挿入される。セグメントコイル30は、直線部40A,40Bがスロット23に挿入された後に、直線部40A,40Bに対して第2接続部42A,42Bが曲げられることで、他のセグメントコイル30と連結される。なお以下の説明では、2つの直線部40A,40Bを互いに区別せずに、単に「巻線部40」と称する。
【0034】
次に、ステータ3に設けられたスロット内面樹脂層60について説明する。
図4は、図2中に示されたステータ3のF4線で囲まれた領域を拡大して示す断面図である。なお、図4以降の図では、スロット23内の巻線部40の数を模式的に4つに簡略して示す。
【0035】
図4に示すように、スロット内面樹脂層60(以下、単に「樹脂層60」と称する。)は、ステータコア11のスロット23の内面23iに設けられた絶縁性の樹脂層である。樹脂層60は、スロット23の内面23iを覆う絶縁層を形成している。例えば、樹脂層60は、スロット23の内面23iの側面23a,23b、底面23c、および先端部端面23d,23eに亘ってひと続きに形成されている。樹脂層60は、スロット23に収容された複数の巻線部40に面し、複数の巻線部40とステータコア11との間を電気的に絶縁している。本実施形態では、樹脂層60は、スロット23の内面23iに沿う環状に形成されて、複数の巻線部40の全周を取り囲んでいる。言い換えると、複数の巻線部40は、スロット23において樹脂層60の内側に配置されている。また本実施形態では、樹脂層60は、スリット24内にも設けられて、スリット24を塞いでいる。
【0036】
本実施形態では、樹脂層60は、スロット23の内面23iに一体成形されることで形成されている。すなわち、樹脂層60は、例えば二次接着や機械的接合を用いないで、スロット23の内面23i(ステータコア11の表面)に対して樹脂層60の成形と接合とが同時に行われることで形成されている。例えば、樹脂層60は、インサート成形等によって形成されている。すなわち、樹脂層60は、ステータコア11が金型の内部にセットされ、樹脂層60となる樹脂材料が流動性を有する状態でスロット23の内面23iに供給されることで、スロット23の内面23iに対して一体成形されている。なお、樹脂層60となる樹脂材料は、熱可塑性樹脂でもよく、熱硬化性樹脂でもよい。
【0037】
また別の観点として、ステータ3の完成品で見ると、樹脂層60は、スロット23の内面23iと一体に設けられている。なお本願で言う「一体に設けられた」とは、別体として成型された樹脂部材が後から取り付けられた状態でないことを意味する。すなわち、本願で言う「一体に設けられた」とは、例えば二次接着や機械的接合が無くても樹脂層60がスロット23の内面23i(ステータコア11の表面)から脱落しない状態を意味する。本実施形態では、樹脂層60は、スロット23の内面23iに沿って設けられ、スロット23の内面23iに密着している。具体的な一例では、樹脂層60が熱可塑性樹脂で形成される場合、スロット23の内面23iに対する樹脂層60の最小厚さt1は、0.15mm以上である。
【0038】
図5は、図4中に示されたステータ3のF5−F5線に沿う断面図である。
図5に示すように、樹脂層60は、ステータコア11の軸方向Zにおいて、スロット23の全長に亘って設けられている。
【0039】
ここで、ステータコア11は、該ステータコア11の軸方向Zの端面として、第1端面11aと、第2端面11bとを有する。第1端面11aは、ステータコア11の軸方向Zの一方の側に位置し、ステータコア11の外部に露出している。第2端面11bは、第1端面11aとは反対側に位置し、ステータコア11の外部に露出している。第1端面11aおよび第2端面11bの各々は、ステータコア11の径方向Rおよび周方向θに沿って広がる面である。
【0040】
そして本実施形態では、樹脂層60は、本体部65と、第1突出部66と、第2突出部67とを有する。本体部65は、スロット23の内面23iに設けられている。
第1突出部66は、本体部65と繋がるとともに、ステータコア11の外部に向けてステータコア11の第1端面11aよりも突出している。ステータコア11の第1端面11aに対する第1突出部66の突出量s1は、例えば樹脂層60の最小厚さt1以上である。第1突出部66の突出量s1は、例えば0.15mm以上である。また、第1突出部66は、ステータコア11の軸方向Zに沿って見た平面視において、スロット23の内面23iの略全周(すなわち、内面23iの側面23a,23b、底面23c、および先端部端面23d,23e)に沿う環状に形成されている。
【0041】
同様に、第2突出部67は、本体部65と繋がるとともに、ステータコア11の外部に向けてステータコア11の第2端面11bよりも突出している。ステータコア11の第2端面11bに対する第2突出部67の突出量s2は、例えば樹脂層60の最小厚さt1以上である。第2突出部67の突出量s2は、例えば0.15mm以上である。また、第2突出部67は、ステータコア11の軸方向Zに沿って見た平面視において、スロット23の内面23iの略全周(すなわち、内面23iの側面23a,23b、底面23c、および先端部端面23d,23e)に沿う環状に形成されている。
【0042】
次に、ステータ3に設けられたスロット充填固着部70について説明する。
図4に示すように、スロット充填固着部70(以下、単に「充填固着部70」と称する。)は、ステータコア11のスロット23の内部に設けられている。充填固着部70は、例えばワニスのような絶縁材料がスロット23の内部に充填されて固化されることで形成されている。充填固着部70は、複数の巻線部40と樹脂層60との間を埋めており、スロット23内における巻線部40の位置を安定して保持している。また、充填固着部70は、巻線部40とステータコア11との間の電気的な絶縁をさらに確実にしている。
【0043】
次に、本実施形態のステータ3の製造方法について説明する。
図6は、ステータ3の製造方法の流れを示す断面図である
まず、複数のピースが連結されるか、または複数の積層鋼板が積層されることで、ステータコア11が形成される(図6中の(a)参照)。次に、ステータコア11のスロット23の内面23iに樹脂層60が一体成形される(図6中の(b)参照)。すなわち、スロット23の内面23iに対して、流動性がある状態の樹脂材料が供給され、その後、樹脂材料が冷えて固化することで、スロット23の内面23iに樹脂層60が一体成形される。例えば、樹脂層60は、スロット23の内面23iに樹脂層60が一体成形されるときに、該樹脂層60の最小厚さt1が0.15mm以上に形成される。
【0044】
また、樹脂層60は、例えばステータコア11が金型の内側にセットされた状態で、スロット23の内面23iに形成される。このとき、樹脂層60の第1突出部66および第2突出部67に対応する空間が金型に設けられていることで、金型の内部形状に沿って樹脂層60の第1突出部66および第2突出部67が容易に且つ精度良く形成される。
【0045】
そして、スロット23の内面23iに樹脂層60が形成された後、スロット23に巻線12(セグメントコイル30)が挿入される(図6中の(c)参照)。例えば、複数のスロット23に分かれて挿入された複数のセグメントコイル30は、ここで互いに連結される。
【0046】
そして、樹脂層60と巻線12との間の隙間に、充填固着部70を形成する絶縁材料(例えばワニス)が流動性を有する状態で供給される。そして、例えば前記絶縁材料を加熱して固化させることで、充填固着部70が形成される(図6中の(d)参照)。
最後に、巻線12に対する電源接続部等が取り付けられる。これにより、ステータ3が完成する。
【0047】
このような構成のステータ3によれば、ステータ3の製造時に絶縁紙に関する不具合が生じなくなる。このため、絶縁紙の破れや潰れ、抜け等がなくなるため、検査工程を無くすことができる。また、スロット23の内面23iに絶縁性の樹脂層60が一体に設けられると、ステータコア11と絶縁紙とが別部品である場合に比べて、部品点数が少なくなり、製造工数を少なくすることができる。例えば、一体成形によれば、複数のスロット23の内面23iに絶縁性の樹脂層60を一度に設けることができるので、複数のスロット23に対してひとつひとつ絶縁紙を挿入する作業が必要な場合に比べて、製造工数を大きく減らすことができる。
また、スロット23の内面23iに絶縁性の樹脂層60が一体に設けられると、スロット23の内面23iに対して樹脂層60が固定されているため、スロット23に対する巻線12の挿入工程において樹脂層60が邪魔になりにくい。このため、スロット23内に絶縁紙が単に配置される場合に比べて、スロット23に対する巻線12の良好な挿入性を得ることできる。これらにより、ステータ3の製造性の向上を図ることができる。
さらに、スロット23の内面23iに絶縁性の樹脂層60が一体に設けられると、絶縁紙のような破れや潰れが生じないため、樹脂層60の厚さを薄くすることができる。これにより、スロット23内の占積率を高めることができ、電動機1の性能向上も図ることができる。
【0048】
また、樹脂層60の最小厚さが0.15mm以上に形成されると、樹脂層60の割れを抑制するとともに、巻線12とステータコア11との間の絶縁性を確実に実現することができる。例えば樹脂層60の最小厚さが0.15mm以上あれば、巻線12とステータコア11との間に約500Vの電位差があっても巻線12とステータコア11との間の絶縁性を確保することができる。また、樹脂層60の最小厚さが0.15mm以上に形成されると、ステータコア11に対する樹脂層60の一体成形時に、樹脂層60となる樹脂材料の良好な流動性を確保することができる。
【0049】
本実施形態では、樹脂層60は、ステータコア11の第1端面11aよりも突出した第1突出部66と、ステータコア11の第2端面11bよりも突出した第2突出部67とを有する。このような構成によれば、巻線12とステータコア11との間の壁面距離が長く確保される。なお「壁面距離」とは、巻線12とステータコア11との間の絶縁されていない最短経路の距離を意味する。これにより、巻線12とステータコア11の端面11a,11bとの間の絶縁性をさらに確実に確保することができる。また、樹脂層60が第1突出部66と第2突出部67とを有する構成によれば、ステータコア11の端面11a,11bに対して絶縁紙を所定量だけ飛び出させる場合に比べて、端面11a,11bに対する突出量の精度を高めることができる。このため、端面11a,11bに対する突出量の管理(例えば検査)などが容易になる。これにより、ステータ3の製造性のさらなる向上を図ることができる。
【0050】
(第2の実施形態)
次に、図7を参照し、第2の実施形態のステータ3について説明する。
本実施形態のステータ3は、ステータコア11の端面11a,11bの一部を覆う張出部81,82を樹脂層60が有する点、および、樹脂層60の内面60iが傾斜部83を有する点で第1の実施形態とは異なる。なお、本実施形態のその他の構成は、第1の実施形態の構成と同様である。そのため、第1の実施形態と同様の部分の説明は省略する。なお図7では、説明の便宜上、充填固着部70の図示を省略している。また図7では、傾斜部83の傾きを実際よりも強調して表している。
【0051】
まず、樹脂層60の張出部81,82について説明する。
図7に示すように、樹脂層60は、第1張出部81と、第2張出部82とを有する。
第1張出部(第1覆い部)81は、本体部65に繋がるとともに、ステータコア11の外部に向けてステータコア11の第1端面11aよりも突出している。ステータコア11の第1端面11aに対する第1張出部81の突出量s1は、例えば樹脂層60の最小厚さt1以上である。第1張出部81の突出量s1は、例えば0.15mm以上である。
【0052】
また、第1張出部81は、第1端面11aに沿って設けられ、ステータコア11の軸方向Zにおいて第1端面11aの一部あるいは全部の領域を覆う。第1張出部81は、第1端面11aにおいてスロット23に隣接した少なくとも一部の領域(例えばスロット23に隣接した縁部)を覆う。第1張出部81は、ステータコア11の軸方向Zに沿って見た平面視において、スロット23の内面23iの略全周(すなわち、内面23iの側面23a,23b、底面23c、および先端部端面23d,23e)に沿う環状(フランジ状)に形成されている。具体的な一例では、ステータコア11の軸方向Zに沿って見た平面視において、第1張出部81と第1端面11aとの重なり幅(重なり量)w1は、例えば樹脂層60の最小厚さt1以上である。なお、第1張出部81の重なり幅w1は、上記例に限定されるものではない。
【0053】
同様に、第2張出部(第2覆い部)82は、本体部65に繋がるとともに、ステータコア11の外部に向けて、ステータコア11の第2端面11bよりも突出している。ステータコア11の第2端面11bに対する第2張出部82の突出量s2は、例えば樹脂層60の最小厚さt1以上である。第2張出部82の突出量s2は、例えば0.15mm以上である。
【0054】
また、第2張出部82は、第2端面11bに沿って設けられ、ステータコア11の軸方向Zにおいて第2端面11bの一部あるいは全部の領域を覆う。第2張出部82は、第2端面11bにおいてスロット23に隣接した少なくとも一部の領域(例えばスロット23に隣接した縁部)を覆う。第2張出部82は、ステータコア11の軸方向Zに沿って見た平面視において、スロット23の内面23iの略全周(すなわち、内面23iの側面23a,23b、底面23c、および先端部端面23d,23e)に沿う環状(フランジ状)に形成されている。具体的な一例では、ステータコア11の軸方向Zに沿って見た平面視において、第2張出部82と第2端面11bとの重なり幅(重なり量)w2は、例えば樹脂層60の最小厚さt1以上である。なお、第2張出部82の重なり幅w2は、上記例に限定されるものではない。
【0055】
第1張出部81および第2張出部82は、スロット23の内面23iに樹脂層60を一体成形するときに、樹脂層60となる樹脂材料をスロット23の内面からステータコア11の第1端面11aおよび第2端面11bにオーバーフローさせ、第1端面11aおよび第2端面11bにおいてスロット23に隣接した少なくとも一部の領域を前記樹脂材料によって覆うことで形成される。例えばステータコア11が金型の内側にセットされてスロット23の内面23iに樹脂層60が形成される場合、第1張出部81および第2張出部82に対応する空間が金型に設けられていることで、金型の内部形状に沿って第1張出部81および第2張出部82が容易に且つ精度良く形成される。
【0056】
次に、樹脂層60の内面60iの傾斜部83について説明する。
図7に示すように、樹脂層60の内面(内周面)60iは、傾斜部(傾斜面)83を有する。なお、樹脂層60の内面60iとは、樹脂層60のなかで巻線12に面する表面である。
【0057】
傾斜部83は、ステータコア11の軸方向Zに進むに従い、巻線12の表面から離れる方向に傾斜している。別の観点で見ると、傾斜部83は、スロット23に対する巻線12の挿入方向Dに対して傾斜している。傾斜部83は、挿入方向Dに進むに従い、巻線12の表面に近付く方向に傾斜している。例えば、傾斜部83は、スロット23の内面23iに対して傾斜している。
【0058】
傾斜部83は、ステータコア11の軸方向Zにおいて、例えば樹脂層60の内面60iの全長に亘って設けられている。ただし、傾斜部83は、ステータコア11の軸方向Zにおいて、例えば樹脂層60の内面60iの一部領域のみに設けられてもよい。また、傾斜部83は、環状に形成された樹脂層60の内面60iの略全周に設けられている。ただし、傾斜部83は、樹脂層60の内面60iの全周のなかの一部領域のみに設けられてもよい。例えば、傾斜部83は、ステータコア11に樹脂層60が一体成形される金型に対する抜き勾配を兼ねてもよい。
【0059】
また別の観点で見ると、樹脂層60は、第1開口部85と、第2開口部86とを有する。第1開口部85は、スロット23の内部から挿入方向Dに(図7に見る下方に)開口した開口部である。第2開口部86は、第1開口部85とは反対側に設けられ、スロット23の内部から挿入方向Dとは反対方向に向けて開口した開口部である。本実施形態では、第2開口部86の開口幅w4は、第1開口部85の開口幅w3よりも大きい。
【0060】
傾斜部83は、スロット23の内面23iに樹脂層60を一体成形するときに、樹脂層60の内面60iに形成される。例えばステータコア11が金型の内側にセットされてスロット23の内面23iに樹脂層60が形成される場合、傾斜部83に対応した内部形状が金型に設けられることで、傾斜部83が容易に且つ精度良く形成される。
【0061】
このような構成のステータ3によれば、上記第1の実施形態と同様に、ステータ3の製造性の向上を図ることができる。
さらに本実施形態では、第1張出部81および第2張出部82が設けられることで、巻線12のなかでスロット23の外部に位置する部分とステータコア11の端面11a,11bとの間の絶縁性をさらに確実に確保することができる。また、第1張出部81および第2張出部82が設けられると、樹脂層60の端部の強度が高められている。このため、スロット23に対する巻線12の挿入時において、樹脂層60の割れなどを抑制することができる。ここで、ステータ3の冷熱時などには、ステータコア11と樹脂層60との熱膨張率の違いに起因して、樹脂層60がスロット23の内面23iから剥がれようとする場合がある。ただし、第1張出部81および第2張出部82が設けられていると、例えば第1張出部81および第2張出部82がステータコア11を両側から挟んでいるため、樹脂層60がスロット23の内面23iから剥がれることを確実に抑制することができる。
【0062】
また本実施形態では、樹脂層60の内面60iに傾斜部83が設けられているので、この傾斜部83を誘いとしてスロット23の内側(樹脂層60の内側)に巻線12を挿入しやすくなる。これにより、ステータ3の製造性の向上をさらに図ることができる。
本実施形態の第1開口部85の開口角部および第2開口部86の開口角部は、C面加工(45°面取り)、R面加工(丸み面取り)、または他の面取り加工などが施されてもよい。この場合には、巻線12の挿入性をより向上させることが可能となる。
【0063】
以上、第1および第2の実施形態に係る電動機用ステータ3とその製造方法に説明したが、実施形態の構成は上記例に限定されない。例えば、図8は、実施形態のステータ3の変形例を示す断面図である。例えば、図8中の(a)に示すように、樹脂層60は、ステータコア11のスリット24には設けられなくてもよい。また、図8中の(b)に示すように、ステータコア11は、スリット24を有しないクローズスロットタイプのステータコアでもよい。
【0064】
以上、本発明を実施するための形態について実施形態を用いて説明したが、本発明はこうした実施形態等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形及び置換を加えることができる。例えば、本発明が適用可能なステータは、特定の巻線形式や特定の巻線形状に限定されるものではなく、基本的にはあらゆる種類の巻線形式およびあらゆる種類の巻線形状にも適用可能である。
【符号の説明】
【0065】
1…電動機、3…ステータ、11…ステータコア、12…巻線、23…スロット、23i…スロットの内面、60…スロット内面樹脂層(絶縁性の樹脂層)、81…第1張出部、82…第2張出部、83…傾斜部、Z…軸方向、R…径方向、θ…周方向。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8