【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 開催日:平成29年6月21日 集会名:「平成29年度漁場環境・生物多様性保全総合対策事業のうち赤潮・貧酸素水塊対策推進事業『漁場生産力向上のための漁場改善実証試験』計画検討会・第1回漁場生産力向上のための漁場改善実証試験事業推進委員会」 開催場所:岡山県岡山市北区奉還町1丁目7−7 岡山オルガホール
【文献】
池脇義弘、牧野賢治、西岡智哉、平野匠、上田幸男,ゼラチンを用いた藻類養殖用施肥剤の開発,日本水産学会誌,日本,2016年,82巻6号,917−922頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、下水道の普及、工場排水規制の強化などに伴い河川からの栄養塩の供給量が低下し、海藻の養殖に必要な窒素やリンが不十分となり、ワカメや海苔などの海藻でしばしば色落ち現象が発生するようになっている。栄養塩の供給不足に加えて、近年、海藻養殖時にユーカンピアなどの大型珪藻類が繁殖するなどの報告が相次いでおり、このような珪藻類が海藻よりも優先的に窒素やリンを消費するため、養殖ワカメなどの色落ち被害を拡大しているとの報告が多くなっている。この色落ち被害に対して、各県漁連からは栄養塩に関する情報や珪藻注意報といった情報は出されているが、有効な対策がないのが現状である。また、色落ちした海藻の品質は悪化しているため、販売単価の大幅低下あるいは廃棄処分を余儀なくされ、栄養塩の供給低下や大型珪藻類の繁殖によって、養殖を早期に打ち切らざるを得ないような状況となり、生産量の大幅減少という事態も発生している。
【0003】
このような海水の栄養塩濃度の低下に備えて、海藻、特に海苔養殖において、粒状肥料を入れた施肥装置を支柱や海苔網近傍のロープに設置することが行われている。肥料成分の肥効として緩効性が求められることより、被覆肥料を用いる例も見られるが、残存する被覆樹脂の殻の処分問題がある。これに対して、特許文献1では、尿素を使用しても急激に肥料成分が溶出しないように、孔径と孔の面積を調節した海苔養殖用施肥容器を開示している。
【0004】
特許文献1に開示される海苔養殖用施肥器を、
図28に示す。この海苔養殖用施肥器280は、管径20〜70mm、管長0.5〜5m、管の肉厚0.1〜0.3mmの管状容器に、孔径0.1〜1mmの孔が2〜200個の範囲で設けられ、その全表面積が管状容器の全表面積に対し0.000002〜0.0002で、且つ尿素が封入されている。また尿素の粒径が0.5〜5mmで、管状容器がポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニールから選ばれた材料で構成されている。この海苔養殖用施肥器によれば、海苔の養殖過程において、海水中の窒素濃度低下による栄養塩欠乏で発生する海藻の色落ち防止及びその回復に有用であるとされている。
【0005】
しかしながら、このような海苔養殖用施肥器では、粒径0.5〜5mmの粒状尿素を用いているところ、孔径0.1〜1mmの孔から一部が流出してしまうおそれがあった。粒状や粉体のような固形物の肥料を破棄することは、海洋投棄にあたり禁止されている。また、正確な寸法の孔を多数穿孔した管状容器は製造が面倒で高コストとなる問題があった。さらに、尿素の溶出速度の制御も容易でない。特に従来の施肥剤は、海水に含浸すると一気に溶出し、施肥効果が持続しないという問題があった。例えばワカメの色落ちを抑制し、本来の色を回復するには、7〜10日間は必要とされている。
【0006】
そこで本発明者は、施肥剤を収納する容器として、
図29A〜
図29Cに示す容器290A〜290Cを開発した。さらに瓶状にした容器300にワカメ用の施肥剤を詰めて
図30に示すようにワカメのロープRPに吊して試験を行った。しかしながらこの方法では、ゲル化によって溶出速度を抑制できるものの、ロープRPに吊された容器300が波に揺られてワカメWMの根元に接触し、ワカメWMを激しく痛めることが判明した。
【0007】
このように、ワカメ等の藻類を痛めない状態で、施肥液を効率良く供給する方法が確立されておらず、藻類の色落ちを抑制、回復することは実現されていなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような背景に基づいてなされたものであり、その目的の一は、藻類を痛めることなく、肥料成分を効果的に供給可能な藻類養殖用施肥具を提供することにある。
【0011】
本発明の第1の形態に係る藻類養殖用施肥具によれば、水中に配設されたロープに養殖された藻類に施肥するための藻類養殖用施肥具であって、イオン化する液肥を含む
ゲル化された状態の藻類養殖用施肥剤と、前記藻類養殖用施肥剤を内部に収納する中空状の、一方向に延長した外形を有する延長容器と、前記延長容器を、その延長方向がロープの延長方向に沿う姿勢にて固定するための固定具とを備え、前記延長容器が、
側面の中間の一部に、前記藻類養殖用施肥剤のイオンを透過させ
る半透膜を設け、該半透膜を通じて該延長容器内の藻類養殖用施肥剤のイオンを溶出するよう構成できる。上記構成により、延長容器が水中でロープに沿って固定されているため、波などにより揺られても延長容器が藻類に接触して傷付ける事態を回避できる。また半透膜を介して藻類養殖用施肥剤のイオンを放出する構成としたことで、藻類養殖用施肥剤が急激に溶出する事態を回避して施肥効果を持続させることができる。
【0012】
また、第2の形態に係る藻類養殖用施肥具によれば、上記構成に加え、前記半透膜を、前記延長容器の側面において環状に形成することができる。上記構成により、延長容器の全周に渡って半透膜を通じて藻類養殖用施肥剤のイオンを放出できるので、延長容器をロープに固定する際の姿勢によらず、安定的に施肥効果を発揮させることが可能となる。
【0013】
さらに、
他の形態に係る藻類養殖用施肥具によれば、上記何れかの構成に加え、前記半透膜を、前記延長容器の中間に形成することができる。上記構成により、延長容器の中間に形成された半透膜を通じて、延長容器の左右から藻類養殖用施肥剤のイオンを効果的に溶出できる。
【0014】
さらにまた、第
3の形態に係る藻類養殖用施肥具によれば、上記何れかの構成に加え、さらに前記延長容器を保持する開閉式の保持枠を備え、前記固定具を、前記保持枠に設けることができる。上記構成により、保持枠を介して延長容器をロープに装着でき、藻類養殖用施肥剤を使い切った後は延長容器のみを交換することで、再度施肥効果を発揮させることが可能となり、藻類養殖用施肥剤の再充填の手間を省力化できる利点が得られる。
【0015】
さらにまた、第
4の形態に係る藻類養殖用施肥具によれば、上記何れかの構成に加え、前記保持枠を、メッシュ状に形成することができる。上記構成により、保持枠に保持された延長容器の様子を外部から視認し易く、また延長容器の半透膜部分から溶出される藻類養殖用施肥剤のイオンを保持枠で妨げることなく放出することが可能となる。
【0016】
さらにまた、第
5の形態に係る藻類養殖用施肥具によれば、上記何れかの構成に加え、前記固定具の、先端を鉤爪状に形成することができる。上記構成により、ロープに固定具を固定し易くできる。例えばロープを編むストランド同士の隙間に固定具先端の鉤爪状を刺入して固定し易くできる。
【0017】
さらにまた、第
6の形態に係る藻類養殖用施肥具によれば、上記何れかの構成に加え、前記延長容器が、前記半透膜で中空状に構成し、内部に前記藻類養殖用施肥剤を保持する内層と、前記内層を部分的に半透膜を露出させた状態に被覆する、前記
藻類養殖用施肥剤を透過させない外層を備えることができる。上記構成により、延長容器の一部に半透膜を容易に形成することが可能となる。
【0018】
さらにまた、第7の形態に係る藻類養殖用施肥具によれば、水中に配設されたロープに養殖された藻類に施肥するための藻類養殖用施肥具であって、イオン化する液肥を含む藻類養殖用施肥剤と、前記藻類養殖用施肥剤を内部に収納する中空状の、一方向に延長した外形を有する延長容器と、前記延長容器を、その延長方向がロープの延長方向に沿う姿勢にて固定するための固定具と、を備え、前記延長容器が、その一部に、前記藻類養殖用施肥剤のイオンを透過させる半透膜を設け、該半透膜を通じて該延長容器内の藻類養殖用施肥剤のイオンを溶出するよう構成しており、
前記延長容器が、前記半透膜で中空状に構成し、内部に前記藻類養殖用施肥剤を保持する内層と、前記内層を、部分的に半透膜を露出させた状態に被覆する、前記藻類養殖用施肥剤を透過させない外層とを備えており、前記延長容器が、前記外層に、該延長容器の延長方向の横断面の全周に渡って形成された円環状の剥離線を、該延長容器の延長方向に沿って複数箇所に離間して設けており、前記剥離線に沿って前記外層の一部を部分的に剥離することで、前記内層の一部を露出させて半透膜を形成可能とすることができる。上記構成により、所望の位置の剥離線にて半透膜領域を形成できるので、半透膜領域の幅を調整でき、半透膜領域の面積を可変とすることで延長容器内部の藻類養殖用施肥剤の溶出量を調整できる利点が得られる。
【0019】
さらにまた、第
8の形態に係る藻類養殖用施肥具によれば、上記何れかの構成に加え、前記剥離線を、前記外層の肉厚を薄くした薄肉部又はミシン目とすることができる。
【0020】
さらにまた、第
9の形態に係る藻類養殖用施肥具によれば、上記何れかの構成に加え、前記藻類養殖用施肥剤を、
寒天とすることができる。
【0021】
さらにまた、第
10の形態に係る藻類養殖用施肥具によれば、上記何れかの構成に加え、前記藻類養殖用施肥剤に窒素を含ませることができる。
【0022】
さらにまた、第
11の形態に係る藻類養殖用施肥具によれば、上記何れかの構成に加え、前記藻類養殖用施肥剤を、藻類の色落ちの回復効果を奏する藻類養殖用施肥剤とすることができる。
【0023】
さらにまた、第
12の形態に係る藻類養殖用施肥具によれば、上記何れかの構成に加え、前記藻類養殖用施肥剤を、ワカメの色落ちの回復効果を奏する藻類養殖用施肥剤とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を具体化するための例示であって、本発明は以下のものに特定されない。また、本明細書は特許請求の範囲に示される部材を、実施の形態の部材に特定するものでは決してない。特に実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。さらに以下の説明において、同一の名称、符号については同一もしくは同質の部材を示しており、詳細説明を適宜省略する。さらに、本発明を構成する各要素は、複数の要素を同一の部材で構成して一の部材で複数の要素を兼用する態様としてもよいし、逆に一の部材の機能を複数の部材で分担して実現することもできる。
(実施形態1)
【0026】
本発明の実施形態1に係る藻類養殖用施肥具を
図1〜
図9に示す。藻類養殖用施肥具は、
図1、
図2に示すように水中に配設されたロープ1に養殖された藻類に施肥するための施肥具である。各藻類養殖用施肥具100は、ロープ1に沿って互いに離間されて固定されている。ここでは、藻類としてワカメWMに対し施肥する例を示している。ワカメの養殖いかだ1000は、
図1に示すように30m×31m等の枠WKをブイBYで構成して、この間にロープ1を等間隔に張設する。そして各ロープ1にワカメWMの種苗糸を付けると共に、
図2に示すようにワカメWMの種苗糸をロープ1に固定している各固定位置FPの近傍に、各藻類養殖用施肥具100を配置している。固定位置FPは、ワカメWMの種苗糸をロープ1に付ける方法に応じて調整される。例えば挟み込み法と呼ばれる方法では、2〜5cmの長さに切った種苗糸を一定間隔でロープ1の撚りの間に挟み込む。挟み込む間隔は漁場や漁師によって異なるが、40cm〜1m程度の間隔とされることが多い。施肥は、ワカメWMの各固定位置FP、すなわちワカメWMの根元付近の成長点に行うことが効果的であるため、離間された各固定位置FPでワカメWMの成長点に適切な濃度の液肥を供給できるように、各各藻類養殖用施肥具100をロープ1に沿って固定する。
図2の例では、挟み込み法でロープ1に固定されたワカメWMの成長点に対し、固定位置FP同士の間に藻類養殖用施肥具100を固定している。この方法であれば、藻類養殖用施肥具100の固定がワカメWMを直接傷付けることなく設置が可能となる。
【0027】
一方、巻き付け法や巻き込み法等と呼ばれる方式では、
図3に示すようにロープ(親縄)1に種苗糸STを巻き付けて、所々を細糸等で縛る。この方法に対して藻類養殖用施肥具100を固定するには、藻類養殖用施肥具100を固定するロープ1上の領域でワカメWMの除去(間引き)が必要となる。ただし、巻き付け法自体がワカメの間引きを必須としているため、収量に対する影響は軽微と思われる。以下、本実施形態では挟み込み法でロープ1に固定されたワカメWMに対する施肥を行う例を説明する。
【0028】
各藻類養殖用施肥具100の外観を
図4に、分解斜視図を
図5に示す。これらの図に示す藻類養殖用施肥具100は、藻類養殖用施肥剤と、藻類養殖用施肥剤を収納する延長容器10と、延長容器10をロープ1に固定するための固定具20を備える。この例では、固定具20は
図6の斜視図に示すように、保持枠30に固定されている(詳細は後述)。
(藻類養殖用施肥剤)
【0029】
藻類養殖用施肥剤は、藻類の色落ちの防止や回復効果を奏する肥料成分、特にイオン化する液肥を含んでいる。海水などの水温によらず、藻類養殖用施肥剤としての効果を持続できるような効果持続処理を施すことが好ましい。効果持続処理の例としては、藻類養殖用施肥剤をゲル化することが挙げられる。ゲル化剤としては、寒天やゼラチン等が利用できる。
【0030】
また、藻類養殖用施肥剤の効果持続処理は必ずしもゲル化された状態のみに限られず、非ゲル状に固形化させた状態としてもよい。この場合、均質に固化させる他、表面のみを固化させて内部をゲル状としても良い。
【0031】
なおゲル化剤として使用する材料の内、寒天はゼラチンに比べ、肥料成分を多量に含む液体でも固め易く、水温が上がっても固化状態を維持できる。
【0032】
また藻類養殖用施肥剤は、窒素を含むことが好ましい。例えばワカメの色落ちの防止や回復効果に好適な成分として、アンモニウム塩や硝酸塩、例えば硝酸アンモニウム(NH
4N0
3)、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム等が利用できる。特に硝酸アンモニウムは、アンモニア性窒素と硝酸性窒素を含んでおり、硫酸アンモニウムと比べ窒素分は1.5倍程度あり、無効成分が含まれておらず、窒素肥料源として有効で速効性がある。流亡性が大きいとされているが、上述の通り効果持続処理を施すことで、効果を持続させることができる。
(延長容器10)
【0033】
延長容器10は、内部を中空状として藻類養殖用施肥剤を収納可能としている。その外形は、一方向に延長した筒状としている。この延長容器10は、肥料成分を透過しない材質、例えばポリエチレンビニール、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニール製等とする。
(半透膜12)
【0034】
延長容器10は、その一部に、藻類養殖用施肥剤のイオンを透過させ
る半透膜12を設けている。この半透膜12を通じて、
図9の断面図に示すように延長容器10内の藻類養殖用施肥剤40のイオンを溶出するよう構成している。これにより、延長容器10が水中でロープ1に沿って固定され、波などにより揺られても延長容器10が藻類に接触して傷付ける事態を回避できる。また延長容器の前面でなく、半透膜12を介して藻類養殖用施肥剤40のイオンを放出する構成としたことで、藻類養殖用施肥剤40が延長容器の全面から急激に溶出する事態を回避して施肥効果を持続させることができる。
【0035】
このような半透膜12には、再生セルロース製の透析チューブ、例えば和光純薬工業製ダイアライシスメンブレンサイズ36、スペクトラム社製スペクトラ/ポア4、ポア5(いずれも商品名)等が好適に利用できる。
【0036】
半透膜12は、延長容器10の側面において環状に形成することが好ましい。これにより、延長容器10の全周に渡って半透膜12を通じて藻類養殖用施肥剤のイオンを放出できるので、延長容器10をロープ1に固定する際の姿勢によらず、安定的に施肥効果を発揮させることが可能となる。
【0037】
また半透膜12は、延長容器10の中間に形成することが好ましい。これにより、延長容器10の中間に形成された半透膜12を通じて、延長容器10の左右から藻類養殖用施肥剤のイオンを効果的に溶出できる。
【0038】
このような半透膜12を延長容器10の中間に形成するため、例えば延長容器10を内層と外層の二重構造とする。このような延長容器10を、
図7の斜視図及び
図8の分解斜視図に示す。これらの図に示す延長容器10は、内層11を半透膜12で中空状に構成し、内部に藻類養殖用施肥剤を保持する。また外層13は、内層11の半透膜12を部分的に露出させた状態に被覆する。この外層13は、
藻類養殖用施肥剤を透過させない。これにより、
図9の断面図に示すように延長容器10の一部に半透膜12を容易に形成することが可能となる。これにより、延長容器10内の
藻類養殖用施肥剤40が、半透膜12を通じて外部に放出される。特に、
図8に示すように外層13を内層11に沿わせて移動させて、中間の開口部分の面積を容易に調整できる利点が得られる。また所定の相対位置に外層13と内層11を位置決めした後、これらを固定する。例えば外層13と内層11を熱溶着させたり、接着材や両面テープ等で接着したり、輪ゴムのような弾性体で押圧するなど、既知の固定方法を適宜利用できる。
(実施形態2)
【0039】
あるいは、
図10に示す実施形態2に係る藻類養殖用施肥具200のように、延長容器10Bを
藻類養殖用施肥剤を透過させない非透過性部材で構成し、その一部を構成する材質を、
藻類養殖用施肥剤を透過させる透過性部材(半透膜12B)で構成してもよい。この構成であれば、予め半透膜12Bを一体的に形成した延長容器10Bを準備することで、上述した内層と外層の固定などの手間なく利用できる。
(実施形態3)
【0040】
さらに他の実施形態として、延長容器10を外層13と内層11の二重構造としつつ、外層13を部分的に破断して、内層11の半透膜12を露出させるようにしてもよい。このような例を実施形態3に係る藻類養殖用施肥具300として、
図11に示す。この図に示す延長容器10は、外層13Cに、延長容器10Cの延長方向の横断面の全周に渡って形成された円環状の剥離線BLを、この延長容器10の延長方向に沿って複数箇所に離間して設けている。この剥離線BLに沿って外層13Cの一部を部分的に剥離することで、内層11Cの半透膜12Cを一部露出させることができる。これにより、所望の位置の剥離線BLに沿って半透膜領域を形成できるので、半透膜領域の幅を調整できる。また半透膜領域の面積を可変とすることで延長容器内部の藻類養殖用施肥剤の溶出量を調整できる利点が得られる。このような剥離線BLは、外層13Cの肉厚を薄くした薄肉部や、ミシン目とすることができる。特に薄肉部は、ミシン目に比べ、破断部分がないため、破断部分から内層11Cの藻類養殖用施肥剤が漏洩する虞がない。
(実施形態4)
【0041】
さらに延長容器10は、
図2等に示したように、複数個を用意してロープ1に沿って離間して設ける構成とする他、一本の長い延長容器10Dを、ロープ1に沿って固定しても良い。このような例を実施形態4に係る藻類養殖用施肥具400として、
図12に示す。この構成の延長容器10Dは、ロープ1に沿って半透膜領域12Dを離間して形成する。この構成であれば、延長容器10Dをロープ1に固定する位置を調整し易い。また上述した実施形態3のような剥離線BLを設けることで、ワカメの固定位置に応じて所望の位置に半透膜領域12Dを形成できるので、延長容器10Dをロープ1に取り付けた後で藻類養殖用施肥剤を供給する位置の調整を容易に行える利点が得られる。
(固定具20)
【0042】
固定具20は、延長容器10をロープ1に、延長容器10の延長方向がロープ1の延長方向に沿う姿勢で固定する。
(保持枠30)
【0043】
図4、
図5の例では、藻類養殖用施肥具100は延長容器10を保持する保持枠30を設けており、固定具20はこの保持枠30に固定されている。これにより、保持枠30を介して延長容器10をロープ1に装着できる。この保持枠30は、
図6の斜視図に示すように、メッシュ状の筒状に形成しており、この筒状本体31の内部に延長容器10を収納する。これにより、メッシュ状の隙間を通じて、延長容器10から溶出する藻類養殖用施肥剤を藻類養殖用施肥具100の外部に放出できる。メッシュ状の筒状本体31は、例えば金属製等とする。
【0044】
また保持枠30は、開閉式とすることが好ましい。
図5の例では、筒状本体31の一方の端縁を開口しており、同じくメッシュ状とした蓋部32で覆うようにしている。なお、保持枠30を開閉式とする構造は、この構成に限らず、例えば蝶番式の開閉蓋部を設けてもよいし、また筒状本体を左右に二分割するよう構成してもよい。
【0045】
このようにして、保持枠30を開閉式として内部の延長容器10を交換式とできる。この結果、藻類養殖用施肥剤を使い切った後でも、延長容器のみを交換することで、再度施肥効果を発揮させることが可能となり、藻類養殖用施肥剤の再充填の手間を省力化できる利点が得られる。なお、ワカメの色落ちの回復効果は、一般に藻類養殖用施肥剤を1〜2週間程度供給すれば足りることが多いが、波の速度や海温、個体差等の状況によって、一部のワカメで色落ち効果が不十分となることが考えられる。この場合でも、保持枠に藻類養殖用施肥剤を交換式に再充填可能とすることで、必要な箇所のワカメに対し施肥を継続することが可能となる。
【0046】
図6等に示す保持枠30は、上述の通りメッシュ状に形成している。これにより、保持枠30に保持された延長容器10の様子を外部から視認し易く、また延長容器10の半透膜領域から溶出される藻類養殖用施肥剤のイオンを保持枠30で妨げることなく放出することが可能となる。
【0047】
固定具20の例としては、
図4、
図5に示すように先端を鉤爪状に形成した構成が利用できる。これにより、鉤爪状の先端をロープ1の撚りに刺入して固定具20を固定し易くできる。例えば
図13に示すように、ロープ1を編むストランド同士の隙間に固定具20先端の鉤爪状を刺入して固定し易くできる。
(変形例)
【0048】
また固定具20はこの構成に限られず、保持枠30をロープ1に固定可能な既知の固定具20を適宜利用できる。例えば
図14Aに示す固定具20Aのように、指で摘まんで開閉可能なクリップ状に構成したり、
図14Bに示す固定具20Bのようにねじで固定するクランプ式にしたり、あるいは
図14Cに示す固定具20Cのような弾性変形する金属製のU字状のクリップ、
図14Dの断面図に示す固定具20Dのような樹脂製の爪に圧入する構造、
図14Eに示す固定具20Eのようなナスカン式などが適宜利用できる。
【0049】
さらに保持枠30も、
図4〜
図6に示したようなメッシュ式に限られず、種々の形態が利用できる。例えば
図15Aに示す保持枠30Aのように、筒状に形成して多数の開口窓を形成したものとしてもよい。開口窓の形状は、円形の他、四角形や六角形などの多角形状、楕円形や半円形などとすることができる。あるいは
図15Bに示す保持枠30Bのように側面にスリットを設けてもよい。あるいはまた
図15Cに示す保持枠30Cのように側面を渦巻き状に構成してもよい。いずれも、保持枠に多くの隙間を形成することで、保持枠に保持した延長容器から藻類養殖用施肥剤を溶出させ、隙間を通じてワカメに施肥することができる。
(実施形態5)
【0050】
また固定具20は、必ずしも保持枠に設ける必要はなく、例えば固定具を別部材としてもよい。例えば保護枠に固定具を取り付けるのではなく、紐状のものや伸縮性のあるゴム等を予めロープに取り付けておき、固定具のない保持枠をロープに固定することもできる。また、保持枠を使用しない態様とすることもできる。例えば
図16に示す実施形態5に係る藻類養殖用施肥具500では、延長容器10をロープ1に固定するため、環状の固定具20Fを用いている。この構成であれば、保持枠を用意することなく延長容器10を直接、ロープ1に装着できる。環状の固定具20Fは、例えば紐状体で延長容器10を一定間隔でロープ1に結びつける。紐状体は、麻紐等が利用できる。あるいは帯状の布や不織布、ビニール紐などを紐状体としても良い。
(実施形態6)
【0051】
あるいは、
図17に示す実施形態6に係る藻類養殖用施肥具600のように、固定具20Gとして予めロープ1側に一定間隔で紐状体を設けてもよい。例えばロープ1を撚る際に予め麻紐を入れ込んでおく。この構成であれば、ロープ1に沿って延長容器10を紐状体で結びつけることが一層容易となる。特に
図16の例と異なり、紐状体がロープ1に沿って移動することがないため、より安定的に延長容器10を保持できる。
(実施形態7)
【0052】
また、他の固定具として、環状体を予めロープ1に一定間隔で設けてもよい。環状体は、例えばゴム輪などの弾性体で構成することができる。また環状体をロープ1の延長方向に沿って設ける間隔を、延長容器10の長さよりも短くすると共に、環状体の内径を、延長容器10の外径と同じか、これよりも若干小さく設計することで、
図18A、
図18Bに示す実施形態7に係る藻類養殖用施肥具700のように環状体20Hの開口部分に延長容器10を圧入して、延長容器10の両端をロープ1に固定できる。この構成であれば延長容器10をロープ1に固定する作業を簡略化することができる。
(実施形態8)
【0053】
さらに、他の固定具として、
図19Aに示す実施形態8に係る藻類養殖用施肥具800のようにロープ1に沿って延長容器10を配置した状態で、固定具として弾性部材で螺旋状に形成したスプリング体20Iを、これらロープ1と延長容器10の周囲に巻き付けるようにして、
図19Bに示すように固定することもできる。この構成であれば、いわば固定具を保持枠と兼用するように構成して、延長容器10を保護しつつロープ1の任意の位置に固定することが可能となる。
(比較試験1)
【0054】
ここで、延長容器10上に設けた半透膜領域の面積を異ならせて試験を行った結果を、
図20A〜
図21に基づいて説明する。ここでは、藻類養殖用施肥剤として硝酸塩を用いて、内層11として半透膜12である再生セルロース製のチューブに充填した。そして、この内層11の両端から、
図8に示すように、外層13であるポリエチレンビニール製のチューブで表面を覆い、
図7に示すように延長容器10の中間において内層11すなわち半透膜12を露出させるようにした。
【0055】
ここでは比較例1として、
図20Aに示すように延長容器10の全面を半透膜12とした藻類養殖用施肥具100と、実施例1として
図20Bに示すように半透膜12を延長容器10の中央で横幅10mmに設けた藻類養殖用施肥具100と、実施例2として
図20Cに示すように横幅30mmで設けた藻類養殖用施肥具100を作成し、硝酸塩の溶出率を測定した。この結果を
図21のグラフに示す。この図に示すように、全面を半透膜12とした延長容器10の場合は、硝酸塩の溶出が急激に進行し、1日で95%近くの硝酸塩が溶出してしまい、3日程度しか持続しなかった。一方、実施例1と3はいずれも、硝酸塩の露出量をほぼ一定の勾配に維持することができ、14日経過後でも硝酸塩の溶出効果を持続できた。なお、実施例1の横幅10mmと実施例3の横幅30mmを比較すると、実施例3の方が半透膜12の露出面積が広い分、溶出率が高く、14日経過後に約90%の硝酸塩が溶出された。一方、実施例1に係る横幅10mmでは、14日経過後でも溶出率が60%であり、14日経過後も溶出効果が持続されることが示された。このことから、半透膜12の面積を調整することで、藻類養殖用施肥剤の溶出の持続効果を調整できることが確認された。一般に、ワカメの色落ちの回復には、7〜10日間は必要とされているため、14日間の持続効果があれば十分な実用性を発揮できる。また、露出面積が広いほど、硝酸塩の溶出率が高くなる分、持続効果も短くなると思われるので、藻類養殖用施肥具100の交換頻度や要求される施肥量等に応じて、半透膜12の面積を調整できる。このように、実施例に係る本願発明によれば、半透膜12の露出面積を調整することで、藻類養殖用施肥剤の溶出量を調整できることが確認された。
(比較試験2)
【0056】
次に、半透膜12を延長容器10上で設ける位置を異ならせて試験を行った結果を、
図22A〜
図23に基づいて説明する。
図22Aでは実施例3として、延長容器10の両端をそれぞれ20mm露出させた藻類養殖用施肥具100を、
図22Bでは実施例4として、図において左側端部のみを30mm露出させて、それぞれ硝酸塩の溶出率を測定した。この結果を
図23に示す。なお、延長容器10の材質や藻類養殖用施肥剤等の条件は、上記比較試験1と同様とした。
図23に示すように、いずれの実施例も硝酸塩の溶出効果を14日経過後も持続でき、有効性が確認された。また、両端に半透膜を設けた方が、片方に設ける場合よりも溶出率が高いことが確認された。このことから、保持枠30の形態や延長容器10の固定方法の違いに応じて、延長容器10の中間以外の位置に半透膜12を設けて、藻類養殖用施肥剤の溶出量を最適になるよう調整することも可能と思われる。
(比較試験3)
【0057】
さらに、ゲル化の効果を確認するため、ゲル化していない液体の液肥を用いて比較試験を行った。ここでは液肥として硝酸アンモニウムの水溶液を、半透膜性に充填した。比較例3では、
図25に示すように、半透膜の中間において30mm幅で露出させるように藻類養殖用施肥具で被覆した。また比較例4では被覆を行わず、半透膜のままで剥き出しとした。これらの比較例3、4における施肥剤の溶出結果を
図25のグラフに示す。この図に示すように、比較例4では上述した比較例1と同様の結果となり、また比較例3でも同様に被膜しない状態と余り差がない状態で、短期間に液肥が溶出してしまい持続効果が得られなかった。言い換えると、藻類養殖用施肥具の一部に半透膜を用いたとしても、液肥を利用した場合は溶出を抑制し難いことが判明した。この理由は、液肥の分子が藻類養殖用施肥具の内部を自由に動き回るためと思われる。この結果からも、液肥の施肥剤を寒天等のゲル化剤で硬化させて溶出量を制御する方法の有効性が確認された。
(実施形態9)
【0058】
以上の例では、藻類としてワカメの施肥に利用する例を説明したが、本発明の藻類養殖用施肥具100は、ワカメに限らず他の藻類の施肥にも適用できる。例えば海苔、昆布等が利用できる。実施形態9として、海苔の施肥に用いる例を
図26及びその拡大図である
図27に基づいて説明する。
図26に示す海苔の養殖いかだ2000は、メインロープMRによって形成された長方形の枠の内側に平行に張設されたサブロープSRの間に、海苔の胞子を付けた海苔網SNを張設している。そして
図27の拡大図に示すように、藻類養殖用施肥具100を、各海苔網SNのサブロープSRに沿って固定している。固定方法等は、上述したワカメ用の藻類養殖用施肥具100と同様の構成が適宜利用できる。また藻類養殖用施肥剤は、海苔の育成や色落ちの回復効果に優れた藻類養殖用施肥剤が適宜選択される。なお藻類養殖用施肥具100の固定位置FPや配置パターンは、適宜変更することができる。例えば海苔網SNに藻類養殖用施肥具100を直接固定してもよい。さらに海苔以外の藻類に対しても、本発明の藻類養殖用施肥具100は適宜利用できる。