【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明について、詳細に説明する。
なお、本明細書において、濃度の単位「M」は「モル/L」を意味する。
また、化学式中で使用されている各略号は、それぞれ以下の意味を有する。
Et:エチル基(CH
3CH
2)
Ph:フェニル基(C
6H
5)
Ac:アセチル基(CH
3CO)
【0026】
<<化合物(1)>>
本発明の一実施形態の化合物は、下記一般式(1)で表される(本明細書においては、「化合物(1)」と称することがある)。
【0027】
【化9】
(式中、R
1は水素原子又は水酸基であり;Zは下記一般式(1)−11又は(1)−12で表される基である。)
【0028】
【化10】
(式中、X
11及びX
12は水素原子、シアノ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基又はジアルキルアミノ基であり;R
11及びR
12はアルキル基又はハロゲン原子であり;n
11及びn
12は0〜5の整数であり、n
11が2以上の整数である場合、複数個のR
11は互いに同一でも異なっていてもよく、n
12が2以上の整数である場合、複数個のR
12は互いに同一でも異なっていてもよく;符号*を付した結合は、Zの結合先との間で形成されている。)
【0029】
化合物(1)はヌクレオシド誘導体であり、塩基として、3−デアザアデニンがその2位及び3位の炭素原子において、ナフタレン環骨格と縮環した環骨格、すなわちベンゾイミダゾキノリン骨格(以下「BIQ骨格」と略記することがある)を有するヌクレオシドである。
また、化合物(1)は、蛍光性化合物である。
【0030】
なお、本明細書において「誘導体」とは、元の化合物の1個以上の水素原子が水素原子以外の基(置換基)で置換されてなるもの、又は元の化合物の1個以上の炭素原子が単独で、若しくはこの炭素原子に結合している水素原子とともに、他の基(置換基)で置換されてなるもの、を意味する。
【0031】
一般式(1)中、R
1は水素原子又は水酸基である。すなわち、化合物(1)は、R
1が水素原子(−H)である場合にはデオキシリボヌクレオシド誘導体であり、R
1が水酸基(−OH)である場合にはリボヌクレオシド誘導体である。
R
1は水素原子であることが好ましい。
【0032】
一般式(1)中、Zは、塩基に相当し、前記一般式(1)−11又は(1)−12で表される基である。
すなわち、化合物(1)は、下記一般式(1)−1で表される化合物(以下、「化合物(1)−1」と略記することがある)、及び下記一般式(1)−2で表される化合物(以下、「化合物(1)−2」と略記することがある)に分類される。化合物(1)−1及び化合物(1)−2は、構造異性体である。
【0033】
【化11】
(式中、R
1、X
11、X
12、R
11、R
12、n
11及びn
12は、いずれも上記と同じである。)
【0034】
前記一般式(1)−11で表される基、及び前記一般式(1)−12で表される基において、符号*を付した結合は、塩基であるZ中のイミダゾール環骨格を構成する1個の窒素原子と、Zの結合先である糖のうち、R
1が結合している炭素原子に隣り合う炭素原子と、の間で形成されている。
【0035】
一般式(1)−11及び(1)−12中、R
11及びR
12はアルキル基又はハロゲン原子である。
R
11及びR
12における前記アルキル基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでもよく、環状である場合、単環状及び多環状のいずれでもよい。そして、前記アルキル基は、炭素数が1〜12であることが好ましく、1〜10であることがより好ましく、1〜8であることがさらに好ましく、1〜5であることが特に好ましく、1〜3であることが最も好ましい。
【0036】
直鎖状又は分岐鎖状の前記アルキル基は、炭素数が1〜12であることが好ましく、前記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、1−メチルブチル基、n−ヘキシル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、2,2−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、n−ヘプチル基、2−メチルヘキシル基、3−メチルヘキシル基、2,2−ジメチルペンチル基、2,3−ジメチルペンチル基、2,4−ジメチルペンチル基、3,3−ジメチルペンチル基、3−エチルペンチル基、2,2,3−トリメチルブチル基、n−オクチル基、イソオクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基等が挙げられる。
直鎖状又は分岐鎖状の前記アルキル基は、炭素数が1〜10であることがより好ましく、1〜8であることがさらに好ましく、1〜5であることが特に好ましく、1〜3であることが最も好ましい。
【0037】
環状の前記アルキル基は、炭素数が3〜12であることが好ましく、前記アルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、ノルボルニル基、イソボルニル基、1−アダマンチル基、2−アダマンチル基、トリシクロデシル基等が挙げられ、さらに、これら環状のアルキル基の1個以上の水素原子が、直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基で置換されたものが挙げられる。ここで、水素原子を置換する直鎖状、分岐鎖状及び環状のアルキル基としては、R
11及びR
12におけるアルキル基として例示した上記のものが挙げられる。
環状の前記アルキル基は、炭素数が3〜10であることがより好ましく、3〜8であることがさらに好ましく、5〜7であることが特に好ましい。
環状の前記アルキル基は、単環状であることが好ましい。
【0038】
R
11及びR
12における前記アルキル基は、直鎖状又は分岐鎖状であることが好ましい。
【0039】
R
11及びR
12における前記ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、前記ハロゲン原子は塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子であることが好ましい。
【0040】
R
11及びR
12は、炭素数1〜5のアルキル基又はハロゲン原子であることが好ましい。
【0041】
一般式(1)−11及び(1)−12中、n
11及びn
12は0〜5の整数である。
n
11は、化合物(1)−1(より具体的にはBIQ骨格)におけるR
11の結合数であり、n
12は、化合物(1)−2(より具体的にはBIQ骨格)におけるR
12の結合数である。
n
11が1〜5の整数である場合、化合物(1)(より具体的には化合物(1)−1)において、R
11は、BIQ骨格のうち、X
11が結合しているナフタレン骨格を構成している5個の炭素原子のいずれかに結合している。
同様に、n
12が1〜5の整数である場合、化合物(1)(より具体的には化合物(1)−2)において、R
12は、BIQ骨格のうち、X
12が結合しているナフタレン骨格を構成している5個の炭素原子のいずれかに結合している。
【0042】
化合物(1)において、n
11が2以上の整数である場合、複数個のR
11は互いに同一でも異なっていてもよい。すなわち、R
11はすべて同一であってもよいし、すべて異なっていてもよく、一部のみ同一であってもよい。そして、これら複数個のR
11の組み合わせは、特に限定されない。
同様に、化合物(1)において、n
12が2以上の整数である場合、複数個のR
12は互いに同一でも異なっていてもよい。すなわち、R
12はすべて同一であってもよいし、すべて異なっていてもよく、一部のみ同一であってもよい。そして、これら複数個のR
12の組み合わせは、特に限定されない。
【0043】
n
11及びn
12は、0〜3の整数であることが好ましく、0〜2の整数であることがより好ましく、0又は1であることが特に好ましい。
【0044】
一般式(1)−11及び(1)−12中、X
11及びX
12は水素原子、シアノ基(−CN)、アミノ基(−NH
2)、モノアルキルアミノ基又はジアルキルアミノ基である。
X
11及びX
12における前記モノアルキルアミノ基の、窒素原子に結合している1個のアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでもよく、このようなアルキル基としては、R
11及びR
12における前記アルキル基と同様のものが挙げられる。
【0045】
X
11及びX
12における前記ジアルキルアミノ基の、窒素原子に結合している2個のアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでもよく、このようなアルキル基としては、R
11及びR
12における前記アルキル基と同様のものが挙げられる。
前記ジアルキルアミノ基中の2個のアルキル基は、互いに同一でも、異なっていてもよい。
【0046】
X
11及びX
12は、水素原子又はシアノ基であることが好ましく、シアノ基であることがより好ましい。
【0047】
Zが前記一般式(1)−11で表される基である場合の化合物(1)、すなわち化合物(1)−1で好ましいものとしては、例えば、R
11が炭素数1〜5のアルキル基又はハロゲン原子であり、前記n
11が0〜2の整数であるもの等が挙げられる。
化合物(1)−1でより好ましいものとしては、例えば、X
11がシアノ基であり、R
11が炭素数1〜5のアルキル基又はハロゲン原子であり、前記n
11が0〜2の整数であるもの等が挙げられる。
化合物(1)−1でより好ましいものとしては、例えば、R
1が水素原子であり、R
11が炭素数1〜5のアルキル基又はハロゲン原子であり、前記n
11が0〜2の整数であるもの等も挙げられる。
化合物(1)−1でさらに好ましいものとしては、例えば、R
1が水素原子であり、X
11がシアノ基であり、R
11が炭素数1〜5のアルキル基又はハロゲン原子であり、前記n
11が0〜2の整数であるもの等が挙げられる。
【0048】
Zが前記一般式(1)−12で表される基である場合の化合物(1)、すなわち化合物(1)−2で好ましいものとしては、例えば、R
12が炭素数1〜5のアルキル基又はハロゲン原子であり、前記n
12が0〜2の整数であるもの等が挙げられる。
化合物(1)−2でより好ましいものとしては、例えば、X
12がシアノ基であり、R
12が炭素数1〜5のアルキル基又はハロゲン原子であり、前記n
12が0〜2の整数であるもの等が挙げられる。
化合物(1)−2でより好ましいものとしては、例えば、R
1が水素原子であり、R
12が炭素数1〜5のアルキル基又はハロゲン原子であり、前記n
12が0〜2の整数であるもの等も挙げられる。
化合物(1)−2でさらに好ましいものとしては、例えば、R
1が水素原子であり、X
12がシアノ基であり、R
12が炭素数1〜5のアルキル基又はハロゲン原子であり、前記n
12が0〜2の整数であるもの等が挙げられる。
【0049】
化合物(1)のうち、化合物(1)−1で好ましいものとしては、例えば、下記式(1A)−101で表される化合物(以下、「化合物(1A)−101」と略記することがある)、下記式(1B)−101で表される化合物(以下、「化合物(1B)−101」と略記することがある)等が挙げられる。
化合物(1)のうち、化合物(1)−2で好ましいものとしては、例えば、下記式(1A)−201で表される化合物(以下、「化合物(1A)−201」と略記することがある)、下記式(1B)−201で表される化合物(以下、「化合物(1B)−201」と略記することがある)等が挙げられる。
化合物(1A)−101及び化合物(1A)−201はいずれも、デオキシリボヌクレオシド誘導体であり、本明細書においては、デオキシリボヌクレオシド誘導体である化合物(1)を「化合物(1A)」と称することがある。また、化合物(1B)−101及び化合物(1B)−201はいずれも、リボヌクレオシド誘導体であり、本明細書においては、リボヌクレオシド誘導体である化合物(1)を「化合物(1B)」と称することがある。
なお、これら化合物は、好ましい化合物(1)の一例に過ぎず、好ましい化合物(1)はこれらに限定されない。
【0051】
化合物(1)は、Zが前記一般式(1)−11で表される基であるもの、すなわち化合物(1)−1であることが好ましい。
【0052】
化合物(1)は、上述のように、蛍光性化合物であり、そのBIQ骨格の種類に対応して、適切な範囲の波長の光(励起光)を照射することにより、蛍光を発生する。
さらに、化合物(1)は、蛍光性化合物であるだけでなく、化合物(1)の周辺領域のpHの変化に伴って蛍光発光波長が変化するという特性を有する。なお、本明細書において、「蛍光発光波長が変化する」とは、特に断りのない限り、「蛍光スペクトルにおいて蛍光発光強度が大きい主たるピークの蛍光発光波長が変化する」ことを意味し、「蛍光発光強度が最大となるときの蛍光発光波長が変化する」ことが好ましい。
【0053】
化合物(1)は、下記式(I−1)及び下記式(I−2)で示すように、BIQ骨格のうち、キノリン骨格を構成している窒素原子、換言すると、3−デアザアデニン骨格に着目した場合の、この骨格を構成しているN1位の窒素原子に、プロトン(水素イオン、H
+)が結合してプロトン化されると推測される。そして、このようにプロトン化された化合物(1)と、プロトン化されていない化合物(1)とでは、蛍光発光波長が異なるため、化合物(1)はその周辺領域のpHの変化に伴って蛍光発光波長が変化すると推測される。
【0054】
【化13】
(式中、X
11、X
12、R
11、R
12、n
11及びn
12は、いずれも上記と同じである。)
【0055】
周知のように、ヌクレオシド中のアデニン塩基は、下記式(II)で示すように、通常は、ヌクレオシド中のチミン塩基と水素結合によって塩基対を形成する。
これに対して、下記式(III−1)及び下記式(III−2)で示すように、化合物(1)の塩基部位に相当するBIQ骨格も、プロトン化されていない状態では、ヌクレオシド中のチミン塩基と水素結合によって塩基対を形成可能であると推測される。しかし、BIQ骨格は、プロトン化された状態では、ヌクレオシド中のチミン塩基ではなく、シトシン塩基と高選択的に塩基対を形成する。このときの塩基対は、下記式(IV−1)及び下記式(IV−2)で示すように形成されると推測される。
このように、化合物(1)は、その周辺領域のpHに依存して、BIQ骨格のシトシン塩基との塩基対の形成の有無が変化する。
【0056】
【化14】
(式中、X
11、X
12、R
11、R
12、n
11及びn
12は、いずれも上記と同じである。)
【0057】
すなわち、化合物(1)は、周辺領域のpHの変化によって、BIQ骨格のプロトン化の有無が変化し、さらにこのプロトン化の有無によって、BIQ骨格のシトシン塩基との塩基対の形成の有無が変化し、このとき蛍光発光波長が変化する。このような特性を有する化合物(1)は、後述するように、プローブとして利用するのに好適である。
【0058】
また、化合物(1)は、例えば、BIQ骨格の構造を調節するなど、その分子構造を調節することにより、周辺領域のpHの変化によって、蛍光発光波長だけでなく、蛍光発光強度も変化するものとなる。通常は、BIQ骨格の構造の調節によって、化合物(1)の蛍光発光強度を容易に調節できる。なお、本明細書において、「蛍光発光強度が変化する」とは、特に断りのない限り、「蛍光発光強度の最大値が変化する」ことを意味する。
このように、周辺領域のpHの変化によって、蛍光発光波長及び蛍光発光強度が変化する化合物(1)は、プローブとして利用するのに特に好適である。
【0059】
なお、化合物(1)は、周辺領域のpHの変化以外にも、例えば、溶解されている溶媒種によって、蛍光発光波長が変化することもある。
【0060】
<<化合物(1)の製造方法>>
化合物(1)は、例えば、Zの種類に応じて、原料となるヌクレオシド誘導体に対して、公知の反応を行ってBIQ骨格を形成することで製造できる。より具体的には以下のとおりである。
【0061】
<化合物(1)−1の製造方法>
化合物(1)のうち、化合物(1)−1は、例えば、下記一般式(1c)で表される化合物(以下、「化合物(1c)」と略記することがある)と、下記一般式(11b)で表される化合物(以下、「化合物(11b)」と略記することがある)と、を反応させて、下記一般式(11a)で表される化合物(以下、「化合物(11a)」と略記することがある)を得る工程(以下、「化合物(11a)製造工程」と略記することがある)、及び化合物(11a)から化合物(1)−1を得る工程(以下、「化合物(1)−1製造工程」と略記することがある)を有する製造方法により、製造できる。
以下、各工程について、詳細に説明する。
【0062】
【化15】
(式中、R
10は水素原子、水酸基、トリアルキルシリルオキシ基又はアルキルジアリールシリルオキシ基であり;R
2及びR
3は、それぞれ独立にトリアルキルシリル基又はアルキルジアリールシリル基であり;G
1はヨウ素原子、臭素原子、塩素原子又はパーフルオロアルカンスルホニルオキシ基であり;R
1、X
11、R
11及びn
11は、いずれも上記と同じである。)
【0063】
[化合物(11a)製造工程]
前記化合物(11a)製造工程においては、化合物(1c)と化合物(11b)とを反応させて、化合物(11a)を得る。
化合物(11a)を得る前記反応は、公知のクロスカップリング反応である。
【0064】
(化合物(1c))
化合物(1c)は公知化合物である。
化合物(1c)において、R
10は水素原子、水酸基、トリアルキルシリルオキシ基又はアルキルジアリールシリルオキシ基である。
R
10におけるトリアルキルシリルオキシ基としては、例えば、トリメチルシリルオキシ基((CH
3)
3SiO−)、トリエチルシリルオキシ基((CH
3CH
2)
3SiO−)、tert−ブチルジメチルシリルオキシ基((CH
3)
3C(CH
3)
2SiO−)、トリイソプロピルシリルオキシ基(((CH
3)
2CH)
3SiO−)等が挙げられる。
R
10におけるアルキルジアリールシリルオキシ基としては、例えば、tert−ブチルジフェニルシリルオキシ基((CH
3)
3C(C
6H
5)
2SiO−)等が挙げられる。
【0065】
化合物(1c)において、R
2及びR
3は、それぞれ独立にトリアルキルシリル基又はアルキルジアリールシリル基である。
R
2及びR
3におけるトリアルキルシリル基としては、例えば、トリメチルシリル基((CH
3)
3Si−)、トリエチルシリル基((CH
3CH
2)
3Si−)、tert−ブチルジメチルシリル基((CH
3)
3C(CH
3)
2Si−)、トリイソプロピルシリル基(((CH
3)
2CH)
3Si−)等が挙げられる。
R
2及びR
3におけるアルキルジアリールシリル基としては、例えば、tert−ブチルジフェニルシリル基((CH
3)
3C(C
6H
5)
2Si−)等が挙げられる。
【0066】
化合物(1c)において、G
1はヨウ素原子(−I)、臭素原子(−Br)、塩素原子(−Cl)又はパーフルオロアルカンスルホニルオキシ基である。
G
1におけるパーフルオロアルカンスルホニルオキシ基としては、例えば、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基(CF
3−S(=O)
2−O−)、ノナフルオロブタンスルホニルオキシ基(C
4F
9−S(=O)
2−O−)等が挙げられる。
【0067】
(化合物(11b))
化合物(11b)は新規化合物である。化合物(11b)の製造方法については、後ほど説明する。
化合物(11b)において、X
11、R
11及びn
11は、前記一般式(1)−11におけるX
11、R
11及びn
11と同じである。
【0068】
(化合物(11a))
化合物(11a)は新規化合物である。
化合物(11a)において、R
10、R
2及びR
3は、化合物(1c)におけるR
10、R
2及びR
3と同じであり、X
11、R
11及びn
11は、化合物(11b)におけるX
11、R
11及びn
11と同じである。
化合物(11a)は、目的物である化合物(1)−1の水酸基が保護基で保護された化合物である。
【0069】
化合物(11a)製造工程においては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド(以下、「DMF」と略記することがある)等の有機溶媒や、DMF及び水の混合溶媒等の水性溶媒を反応溶媒として用いることが好ましい。
前記溶媒は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよく、2種以上を併用する場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0070】
化合物(11a)製造工程においては、例えば、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(Pd(P(C
6H
5)
3)
4)、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)(PdCl
2(P(C
6H
5)
3)
2)、ビス(トリ−tert−ブチルホスフィン)パラジウム(0)(Pd(P((CH
3)
3C)
3)
2)等の、パラジウム触媒を用いて反応を行うことが好ましい。
パラジウム触媒は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよく、2種以上を併用する場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。ただし、通常、パラジウム触媒は、1種を単独で用いれば十分である。
化合物(11a)製造工程において、パラジウム触媒の使用量は、例えば、化合物(1c)の使用量の0.01〜0.3倍モル量であることが好ましく、0.01〜0.1倍モル量であることがより好ましい。
【0071】
化合物(11a)製造工程において、化合物(11b)の使用量は、例えば、化合物(1c)の使用量の1〜3倍モル量であることが好ましく、1〜2倍モル量であることがより好ましい。
【0072】
化合物(11a)製造工程においては、さらに塩基を用いて反応を行うことが好ましい。
前記塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機塩基が挙げられる。
前記塩基は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよく、2種以上を併用する場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
化合物(11a)製造工程において、塩基の使用量は、例えば、化合物(1c)の使用量の1〜6倍モル量であることが好ましく、1〜4倍モル量であることがより好ましい。
【0073】
化合物(11a)製造工程において、反応温度は、例えば、70〜110℃であることが好ましく、80〜100℃であることがより好ましい。
化合物(11a)製造工程において、反応時間は、例えば、1〜12時間であることが好ましく、3〜9時間であることがより好ましい。
【0074】
化合物(11a)製造工程においては、不活性ガスの雰囲気下で反応を行うことが好ましい。
前記不活性ガスとしては、例えば、アルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガス等が挙げられる。
【0075】
化合物(11a)製造工程において、反応終了後は、公知の手法によって、必要に応じて後処理を行い、化合物(11a)を取り出せばよい。すなわち、適宜必要に応じて、ろ過、洗浄、抽出、pH調整、脱水、濃縮等の後処理操作をいずれか単独で、又は2種以上組み合わせて行い、濃縮、結晶化、再沈殿、カラムクロマトグラフィー等により、化合物(11a)を取り出せばよい。また、取り出した化合物(11a)は、さらに必要に応じて、結晶化、再沈殿、カラムクロマトグラフィー、抽出、溶媒による結晶の撹拌洗浄等の操作をいずれか単独で、又は2種以上組み合わせて1回以上行うことで、精製してもよい。
化合物(11a)製造工程においては、反応終了後、化合物(11a)を取り出さずに、次工程で用いてもよいが、目的物である化合物(1)−1の収率が向上する点から、化合物(11a)を上述の方法で取り出すことが好ましい。
【0076】
[化合物(1)−1製造工程]
前記化合物(1)−1製造工程においては、化合物(11a)から化合物(1)−1を得る。
化合物(1)−1を得る反応は、公知の脱保護反応である。すなわち、本工程では、R
2及びR
3(トリアルキルシリル基又はアルキルジアリールシリル基)が除去されて、水酸基が形成される。また、R
10がトリアルキルシリルオキシ基又はアルキルジアリールシリルオキシ基である場合にも、同様にトリアルキルシリル基又はアルキルジアリールシリル基)が除去されて、水酸基が形成される。
前記脱保護反応は、例えば、酸性条件下で、又はフッ素原子含有化合物を添加して、行うことができる。
なお、本工程では、R
10が水素原子である場合には、R
1が水素原子である化合物(1)−1が得られ、R
10が水酸基、トリアルキルシリルオキシ基又はアルキルジアリールシリルオキシ基である場合には、R
1が水酸基である化合物(1)−1が得られる。
【0077】
酸性条件とするために用いる前記酸としては、例えば、塩酸等の無機酸;酢酸、パラトルエンスルホン酸等の有機酸等が挙げられる。
脱保護反応時において、例えば、酸の使用量は、化合物(11a)の使用量の1〜2倍モル量であることが好ましく、反応温度は10〜25℃であることが好ましく、反応時間は1〜2時間であることが好ましい。
【0078】
前記フッ素原子含有化合物としては、例えば、フッ化水素酸(HF)、フッ化セシウム(CsF)等の無機フッ素原子含有化合物;テトラブチルアンモニウムフルオライド(TBAF)等の有機フッ素原子含有化合物等が挙げられる。
前記フッ素原子含有化合物は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよく、2種以上を併用する場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。ただし、通常、前記フッ素原子含有化合物は、1種を単独で用いれば十分である。
脱保護反応時において、フッ素原子含有化合物の使用量は、例えば、化合物(11a)の使用量の2〜6倍モル量であることが好ましく、2〜4倍モル量であることがより好ましい。
脱保護反応時において、反応温度は、例えば、15〜35℃であることが好ましく、18〜30℃であることがより好ましい。
脱保護反応時において、反応時間は、例えば、10分〜5時間であることが好ましく、30分〜3時間であることがより好ましい。
【0079】
化合物(1)−1製造工程においては、不活性ガスの雰囲気下で反応を行うことが好ましい。
前記不活性ガスとしては、例えば、化合物(11a)製造工程におけるものと同様のものが挙げられる。
【0080】
化合物(1)−1製造工程において、反応終了後は、化合物(11a)製造工程の場合と同様の方法で、化合物(1)−1を取り出すことができ、取り出した化合物(1)−1をさらに同様の方法で精製してもよい。
【0081】
(化合物(11b)の製造方法)
上述の新規化合物である化合物(11b)は、クロスカップリング反応の原料となる有機ホウ素化合物であり、同じ目的で用いる有機ホウ素化合物は、他に多数知られており、これら有機ホウ素化合物と同様の方法で製造できる。
例えば、化合物(11b)は、下記一般式(11b1)で表される化合物(以下、「化合物(11b1)」と略記することがある)から化合物(11b)を得る工程(以下、「化合物(11b)製造工程」と略記することがある)を有する製造方法により、製造できる。
化合物(11b)製造工程においては、例えば、以下に示すように、化合物(11b1)を、パラジウム触媒の存在下で、4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロランと反応させることにより、化合物(11b)が得られる。
【0082】
【化16】
(式中、X
11、R
11及びn
11は、いずれも上記と同じである。)
【0083】
化合物(11b)製造工程においては、例えば、1,4−ジオキサン等の有機溶媒を反応溶媒として用いることが好ましい。
【0084】
化合物(11b1)製造工程において、4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロランの使用量は、例えば、化合物(11b1)の使用量の1〜6倍モル量であることが好ましく、1〜4倍モル量であることがより好ましい。
【0085】
化合物(11b)製造工程における前記パラジウム触媒として、ここでは、[1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]ジクロロパラジウム(II)(以下、「Pd(dppf)Cl
2」と略記することがある)を示しているが、Pd(dppf)Cl
2以外のものを用いてもよい。
【0086】
化合物(11b1)製造工程において、前記パラジウム触媒の使用量は、例えば、化合物(11b1)の使用量の0.01〜0.3倍モル量であることが好ましく、0.01〜0.1倍モル量であることがより好ましい。
【0087】
化合物(11b1)製造工程においては、さらに塩基を用いて反応を行うことが好ましい。
前記塩基のうち、有機塩基としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン等のトリアルキルアミン等が挙げられる。
前記塩基は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよく、2種以上を併用する場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
化合物(11b1)製造工程において、塩基の使用量は、例えば、化合物(1c)の使用量の1〜8倍モル量であることが好ましく、1〜6倍モル量であることがより好ましい。
【0088】
化合物(11b)製造工程において、反応温度は、例えば、70〜110℃であることが好ましく、80〜100℃であることがより好ましい。
化合物(11b)製造工程において、反応時間は、例えば、1〜12時間であることが好ましく、3〜9時間であることがより好ましい。
【0089】
化合物(11b)製造工程においては、不活性ガスの雰囲気下で反応を行うことが好ましい。
前記不活性ガスとしては、例えば、化合物(11a)製造工程におけるものと同様のものが挙げられる。
【0090】
得られた化合物(11b)は、上述の化合物(11a)製造工程の場合と同様の方法で取り出すことができ、取り出した化合物(11b)をさらに同様の方法で精製してもよい。また、得られた化合物(11b)は、反応終了後、取り出さずに次工程で用いてもよいが、目的物である化合物(11a)の収率が向上する点から、取り出すことが好ましい。
【0091】
化合物(1)−1、化合物(11a)、化合物(11b)等の各化合物は、例えば、核磁気共鳴(NMR)分光法、質量分析法(MS)、赤外分光法(IR)等、公知の手法で構造を確認できる。
【0092】
<化合物(1)−2の製造方法>
化合物(1)のうち、化合物(1)−2は、例えば、化合物(1c)と、下記一般式(12b)で表される化合物(以下、「化合物(12b)」と略記することがある)と、を反応させて、下記一般式(12a)で表される化合物(以下、「化合物(12a)」と略記することがある)を得る工程(以下、「化合物(12a)製造工程」と略記することがある)、及び化合物(12a)から化合物(1)−2を得る工程(以下、「化合物(1)−2製造工程」と略記することがある)を有する製造方法により、製造できる。
【0093】
【化17】
(式中、R
10は水素原子、水酸基、トリアルキルシリルオキシ基又はアルキルジアリールシリルオキシ基であり;R
2及びR
3は、それぞれ独立にトリアルキルシリル基又はアルキルジアリールシリル基であり;G
1はヨウ素原子、臭素原子、塩素原子又はパーフルオロアルカンスルホニルオキシ基であり;R
1、X
12、R
12及びn
12は、いずれも上記と同じである。)
【0094】
[化合物(12a)製造工程]
前記化合物(12a)製造工程においては、化合物(1c)と化合物(12b)とを反応させて、化合物(12a)を得る。
化合物(12a)を得る前記反応は、公知のクロスカップリング反応である。
【0095】
(化合物(1c))
化合物(1c)は、上述の化合物(11a)製造工程で用いる化合物(1c)と同じものである。
【0096】
(化合物(12b))
化合物(12b)は新規化合物である。化合物(12b)の製造方法については、後ほど説明する。
化合物(12b)において、X
12、R
12及びn
12は、前記一般式(1)−12におけるX
12、R
12及びn
12と同じである。
【0097】
(化合物(12a))
化合物(12a)は新規化合物である。
化合物(12a)において、R
10、R
2及びR
3は、化合物(1c)におけるR
10、R
2及びR
3と同じであり、X
12、R
12及びn
12は、化合物(12b)におけるX
12、R
12及びn
12と同じである。
化合物(12a)は、目的物である化合物(1)−2の水酸基が保護基で保護された化合物である。
【0098】
化合物(12a)製造工程は、化合物(11b)に代えて化合物(12b)を用いる点以外は、上述の化合物(11a)製造工程と同じ方法で行うことができる。
【0099】
[化合物(1)−2製造工程]
前記化合物(1)−2製造工程においては、化合物(12a)から化合物(1)−2を得る。
化合物(1)−2を得る反応は、公知の脱保護反応である。すなわち、本工程では、R
2及びR
3(トリアルキルシリル基又はアルキルジアリールシリル基)が除去されて、水酸基が形成される。また、R
10がトリアルキルシリルオキシ基又はアルキルジアリールシリルオキシ基である場合にも、同様にトリアルキルシリル基又はアルキルジアリールシリル基)が除去されて、水酸基が形成される。
前記脱保護反応は、例えば、酸性条件下で、又はフッ素原子含有化合物を添加して、行うことができる。
なお、本工程では、R
10が水素原子である場合には、R
1が水素原子である化合物(1)−2が得られ、R
10が水酸基、トリアルキルシリルオキシ基又はアルキルジアリールシリルオキシ基である場合には、R
1が水酸基である化合物(1)−2が得られる。
【0100】
化合物(1)−2製造工程は、化合物(11a)に代えて化合物(12a)を用いる点以外は、上述の化合物(1)−1製造工程と同じ方法で行うことができる。例えば、反応終了後は、上述の化合物(11a)製造工程の場合と同様の方法で、化合物(1)−2を取り出すことができ、取り出した化合物(1)−2をさらに同様の方法で精製してもよい。
【0101】
(化合物(12b)の製造方法)
上述の新規化合物である化合物(12b)は、化合物(11b1)に代えて、下記一般式(12b1)で表される化合物(以下、「化合物(12b1)」と略記することがある)を用いる点以外は、上述の化合物(11b)の製造方法と同様の方法で製造できる。
すなわち、化合物(12b)は、化合物(12b1)から化合物(12b)を得る工程(以下、「化合物(12b)製造工程」と略記することがある)を有する製造方法により、製造できる。化合物(12b)製造工程における反応、取り出し、精製等の各条件は、いずれも化合物(11b)製造工程の場合と同様とすることができる。
【0102】
【化18】
(式中、X
12、R
12及びn
12は、いずれも上記と同じである。)
【0103】
得られた化合物(12b)は、反応終了後、取り出さずに次工程で用いてもよいが、目的物である化合物(12a)の収率が向上する点から、取り出すことが好ましい。
【0104】
化合物(1)−2、化合物(12a)、化合物(12b)等の各化合物は、例えば、核磁気共鳴(NMR)分光法、質量分析法(MS)、赤外分光法(IR)等、公知の手法で構造を確認できる。
【0105】
(化合物(1a))
上述の説明のように、化合物(11a)及び化合物(12a)は、新規化合物である。これら化合物は包括して、例えば、下記一般式(1a)で表すことができる(本明細書においては、下記一般式(1a)で表される化合物を「化合物(1a)」と称することがある)。
【0106】
【化19】
(式中、R
10は水素原子、水酸基、トリアルキルシリルオキシ基又はアルキルジアリールシリルオキシ基であり;Zは下記一般式(1)−11又は(1)−12で表される基であり;R
2及びR
3は、それぞれ独立にトリアルキルシリル基又はアルキルジアリールシリル基である。)
【0107】
【化20】
(式中、X
11及びX
12は水素原子、シアノ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基又はジアルキルアミノ基であり;R
11及びR
12はアルキル基又はハロゲン原子であり;n
11及びn
12は0〜5の整数であり、n
11が2以上の整数である場合、複数個のR
11は互いに同一でも異なっていてもよく、n
12が2以上の整数である場合、複数個のR
12は互いに同一でも異なっていてもよく;符号*を付した結合は、Zの結合先との間で形成されている。)
【0108】
<<化合物(2)>>
本発明の一実施形態の化合物は、下記一般式(2)で表される(本明細書においては、「化合物(2)」と称することがある)。
【0109】
【化21】
(式中、R
1は水素原子又は水酸基であり;Zは下記一般式(1)−11又は(1)−12で表される基であり;mは1〜3の整数である。)
【0110】
【化22】
(式中、X
11及びX
12は水素原子、シアノ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基又はジアルキルアミノ基であり;R
11及びR
12はアルキル基又はハロゲン原子であり;n
11及びn
12は0〜5の整数であり、n
11が2以上の整数である場合、複数個のR
11は互いに同一でも異なっていてもよく、n
12が2以上の整数である場合、複数個のR
12は互いに同一でも異なっていてもよく;符号*を付した結合は、Zの結合先との間で形成されている。)
【0111】
化合物(2)は、BIQ骨格を含む塩基を有するヌクレオチド誘導体であり、化合物(1)の5’−一リン酸体、5’−二リン酸体及び5’−三リン酸体である。
また、化合物(2)は、蛍光性化合物である。
【0112】
化合物(2)は、符号mを付した構成単位として、式「−P(=O)(−O
−)−O−」で表される基を有するが、この構成単位は、酸性条件下においては、プロトン(H
+)の付加によって、式「−P(=O)(−OH)−O−」で表されるものとなっていることもある。
【0113】
化合物(2)は、5’位の水酸基(−OH)とメチレン基(−CH
2−)との間に、上述の符号mを付した構成単位を有する点以外は、化合物(1)と同じものである。すなわち、化合物(2)におけるR
1及びZ(換言するとX
11、X
12、R
11、R
12、n
11、n
12及び符号*)は、化合物(1)におけるR
1及びZ(換言するとX
11、X
12、R
11、R
12、n
11、n
12及び符号*)と同じである。
【0114】
一般式(2)中、mは1〜3の整数である。
すなわち、化合物(2)は、下記一般式(2)−1−1で表される化合物(以下、「化合物(2)−1−1」と略記することがある)、下記一般式(2)−1−2で表される化合物(以下、「化合物(2)−1−2」と略記することがある)、下記一般式(2)−1−3で表される化合物(以下、「化合物(2)−1−3」と略記することがある)、下記一般式(2)−2−1で表される化合物(以下、「化合物(2)−2−1」と略記することがある)、下記一般式(2)−2−2で表される化合物(以下、「化合物(2)−2−2」と略記することがある)、及び下記一般式(2)−2−3で表される化合物(以下、「化合物(2)−2−3」と略記することがある)に分類される。化合物(2)−1−1及び化合物(2)−2−1は、構造異性体である。同様に、化合物(2)−1−2及び化合物(2)−2−2は、構造異性体であり、化合物(2)−1−3及び化合物(2)−2−3は、構造異性体である。
【0115】
【化23】
(式中、R
1、X
11、R
11及びn
11は、いずれも上記と同じである。)
【0116】
【化24】
(式中、R
1、X
12、R
12及びn
12は、いずれも上記と同じである。)
【0117】
Zが前記一般式(1)−11で表される基である場合の化合物(2)、すなわち化合物(2)−1−1、化合物(2)−1−2及び化合物(2)−1−3(以下、これら化合物を包括して「化合物(2)−1」と称することがある)で好ましいものとしては、例えば、R
11が炭素数1〜5のアルキル基又はハロゲン原子であり、前記n
11が0〜2の整数であるもの等が挙げられる。
化合物(2)−1でより好ましいものとしては、例えば、X
11がシアノ基であり、R
11が炭素数1〜5のアルキル基又はハロゲン原子であり、前記n
11が0〜2の整数であるもの等が挙げられる。
化合物(2)−1でより好ましいものとしては、例えば、R
1が水素原子であり、R
11が炭素数1〜5のアルキル基又はハロゲン原子であり、前記n
11が0〜2の整数であるもの等も挙げられる。
化合物(2)−1でさらに好ましいものとしては、例えば、R
1が水素原子であり、X
11がシアノ基であり、R
11が炭素数1〜5のアルキル基又はハロゲン原子であり、前記n
11が0〜2の整数であるもの等が挙げられる。
【0118】
Zが前記一般式(1)−12で表される基である場合の化合物(2)、すなわち化合物(2)−2−1、化合物(2)−2−2及び化合物(2)−2−3(以下、これら化合物を包括して「化合物(2)−2」と称することがある)で好ましいものとしては、例えば、R
12が炭素数1〜5のアルキル基又はハロゲン原子であり、前記n
12が0〜2の整数であるもの等が挙げられる。
化合物(2)−2でより好ましいものとしては、例えば、X
12がシアノ基であり、R
12が炭素数1〜5のアルキル基又はハロゲン原子であり、前記n
12が0〜2の整数であるもの等が挙げられる。
化合物(2)−2でより好ましいものとしては、例えば、R
1が水素原子であり、R
12が炭素数1〜5のアルキル基又はハロゲン原子であり、前記n
12が0〜2の整数であるもの等も挙げられる。
化合物(2)−2でさらに好ましいものとしては、例えば、R
1が水素原子であり、X
12がシアノ基であり、R
12が炭素数1〜5のアルキル基又はハロゲン原子であり、前記n
12が0〜2の整数であるもの等が挙げられる。
【0119】
化合物(2)のうち、化合物(2)−1で好ましいものとしては、例えば、下記式(2A)−101−1で表される化合物、下記式(2A)−101−2で表される化合物、下記式(2A)−101−3で表される化合物(以下、これら化合物をそれぞれ「化合物(2A)−101−1」、「化合物(2A)−101−2」、「化合物(2A)−101−3」と略記することがある)、下記式(2B)−101−1で表される化合物、下記式(2B)−101−2で表される化合物、下記式(2B)−101−3で表される化合物(以下、これら化合物をそれぞれ「化合物(2B)−101−1」、「化合物(2B)−101−2」、「化合物(2B)−101−3」と略記することがある)等が挙げられる。
【0121】
化合物(2)のうち、化合物(2)−2で好ましいものとしては、例えば、下記式(2A)−201−1で表される化合物、下記式(2A)−201−2で表される化合物、下記式(2A)−201−3で表される化合物(以下、これら化合物をそれぞれ「化合物(2A)−201−1」、「化合物(2A)−201−2」、「化合物(2A)−201−3」と略記することがある)、下記式(2B)−201−1で表される化合物、下記式(2B)−201−2で表される化合物、下記式(2B)−201−3で表される化合物(以下、これら化合物をそれぞれ「化合物(2B)−201−1」、「化合物(2B)−201−2」、「化合物(2B)−201−3」と略記することがある)等が挙げられる。
【0123】
化合物(2A)−101−1、化合物(2A)−101−2、化合物(2A)−101−3、化合物(2A)−201−1、化合物(2A)−201−2、化合物(2A)−201−3はいずれも、デオキシリボヌクレオチド誘導体である。本明細書においては、デオキシリボヌクレオチド誘導体である化合物(2)を「化合物(2A)」と称することがある。
また、化合物(2B)−101−1、化合物(2B)−101−2、化合物(2B)−101−3、化合物(2B)−201−1、化合物(2B)−201−2、化合物(2B)−201−3はいずれも、リボヌクレオチド誘導体である。本明細書においては、リボヌクレオチド誘導体である化合物(2)を「化合物(2B)」と称することがある。
なお、これら化合物は、好ましい化合物(2)の一例に過ぎず、好ましい化合物(2)はこれらに限定されない。
【0124】
化合物(2)は、Zが前記一般式(1)−11で表される基であるもの、すなわち化合物(2)−1であることが好ましい。
【0125】
化合物(2)は、化合物(1)と同じBIQ骨格を有するため、化合物(1)と同様の蛍光特性を有する。
すなわち、化合物(2)は、蛍光性化合物であるだけでなく、化合物(2)の周辺領域のpHの変化に伴って蛍光発光波長が変化するという特性を有する。
また、化合物(2)の塩基部位に相当するBIQ骨格は、プロトン化されていない状態では通常、ヌクレオシド中のチミン塩基と塩基対を形成すると推測される。しかし、BIQ骨格は、プロトン化された状態では、ヌクレオシド中のチミン塩基ではなく、シトシン塩基と高選択的に塩基対を形成する。
【0126】
このように、化合物(2)は、その周辺領域のpHの変化によって、BIQ骨格のプロトン化の有無が変化し、さらにこのプロトン化の有無によって、BIQ骨格のシトシン塩基との塩基対の形成の有無が変化し、このとき蛍光発光波長が変化する。このような特性を有する化合物(2)は、後述するように、プローブとして利用するのに好適である。
また、化合物(2)は、周辺領域のpHの変化によって、蛍光発光波長だけでなく、蛍光発光強度も変化するものとなる。このような特性を有する化合物(2)は、プローブとして利用するのに特に好適である。
【0127】
なお、化合物(2)は、周辺領域のpHの変化以外にも、例えば、溶解されている溶媒種によって、蛍光発光波長が変化することもある。
【0128】
化合物(2)は、各種のプローブとして使用可能である。すなわち、新規のプローブとして、化合物(2)からなるプローブが挙げられる。
また、化合物(2)は、後述する縮合物の製造原料として有用であり、得られた縮合物も各種のプローブとして使用可能である。縮合物については、後ほど詳しく説明する。
【0129】
<<化合物(2)の製造方法>>
化合物(2)は、例えば、mの数に応じて公知のリン酸化方法を利用することで製造できる。より具体的には、以下のとおりである。
【0130】
<5’−一リン酸体の製造方法>
化合物(2)のうち、mが1である場合の5’−一リン酸体(本明細書においては、単に「5’−一リン酸体」と称することがある)は、例えば、化合物(1)の5’−水酸基を一リン酸化する工程(以下、「5’−一リン酸体製造工程」と略記することがある)を有する製造方法により、製造できる。ここで、5’−一リン酸体としては、化合物(2)−1−1及び化合物(2)−2−1が挙げられる。
【0131】
5’−一リン酸体製造工程においては、例えば、トリメチルホスファイト(別名:亜リン酸トリメチル、P(OCH
3)
3)等の溶媒に化合物(1)を溶解させ、好ましくは−5〜5℃の冷却条件下において、この溶液中の化合物(1)に対して、塩化ホスホリル(別名:オキシ塩化リン、POCl
3)を作用させた後、水を作用させることで、化合物(1)の5’−水酸基を一リン酸化できる。
【0132】
得られた5’−一リン酸体は、上述の化合物(11a)製造工程の場合と同様の方法で取り出すことができ、取り出した5’−一リン酸体をさらに同様の方法で精製してもよい。
【0133】
<5’−二リン酸体の製造方法>
化合物(2)のうち、mが2である場合の5’−二リン酸体(本明細書においては、単に「5’−二リン酸体」と称することがある)としては、化合物(2)−1−2及び化合物(2)−2−2が挙げられる。
【0134】
5’−二リン酸体の製造では、各種のヌクレオシド5’−二リン酸の公知の製造方法を利用できる。例えば、pH7.6のトリス−塩酸緩衝液等の溶媒に、化合物(1)の5’−一リン酸体を溶解させ、塩化マグネシウムの存在下、好ましくは5〜25℃で、ヌクレオシド一リン酸キナーゼを作用させることによって、5’−二リン酸体が得られる。
得られた5’−二リン酸体は、上述の化合物(11a)製造工程の場合と同様の方法で取り出すことができ、取り出した5’−二リン酸体をさらに同様の方法で精製してもよい。
【0135】
<5’−三リン酸体の製造方法>
化合物(2)のうち、mが3である場合の5’−三リン酸体(本明細書においては、単に「5’−三リン酸体」と称することがある)は、例えば、化合物(1)の5’−水酸基を三リン酸化する工程(以下、「5’−三リン酸体製造工程」と略記することがある)を有する製造方法により、製造できる。ここで、5’−三リン酸体としては、化合物(2)−1−3及び化合物(2)−2−3挙げられる。
【0136】
5’−三リン酸体は、例えば、塩化ホスホリルを作用させた後、水を作用させる前に、トリブチルアンモニウムピロリン酸を前記溶液に添加する点以外は、上述の5’−一リン酸体製造工程の場合と同じ方法で、5’−三リン酸体製造工程を行うことにより、製造できる。
【0137】
化合物(2)は、例えば、核磁気共鳴(NMR)分光法、質量分析法(MS)、赤外分光法(IR)等、公知の手法で構造を確認できる。
【0138】
<<縮合物>>
本発明の縮合物は、上述の化合物(2)と、化合物(2)又は化合物(2)以外のその他の化合物と、の縮合物である。
本発明の縮合物は、後述するように、各種のプローブとして用いるのに有用である。
【0139】
本発明の縮合物は、化合物(2)同士の、又は化合物(2)及び前記その他の化合物の、水の脱離(すなわち脱水)を伴う反応によって形成された構造と同じ構造を有するものであれば、特に限定されない。
なかでも本発明の縮合物としては、化合物(2)のリン酸基又は3’位の水酸基が、エステル結合を形成しているものが好ましい。
【0140】
前記その他の化合物は、化合物(2)以外のものであれば、特に限定されない。
好ましい前記その他の化合物としては、例えば、1分子中に水酸基(OH−)及びリン酸基(H
2PO
4−)を合計で1個以上有するもの、すなわち、1分子中に水酸基を有さず、リン酸基を1個以上有するもの、1分子中に水酸基を1個以上有し、リン酸基を有しないもの、並びに1分子中に水酸基及びリン酸基をともに1個以上有するもの、等が挙げられる。前記その他の化合物において、リン酸基はアニオン(HPO
4−−)を形成していてもよい。
【0141】
なかでも、より好ましい前記その他の化合物としては、例えば、ヌクレオシド、ヌクレオシド誘導体、ヌクレオチド、ヌクレオチド誘導体等が挙げられる。
そして、前記その他の化合物がヌクレオチドであり、前記縮合物がポリヌクレオチドであることが特に好ましい。
【0142】
なお、本明細書において「ポリヌクレオチド」とは、複数個のヌクレオシドがリン酸等の連結部を介して相互に結合した構成を有するものを意味し、通常は、複数個のヌクレオチドが相互に結合した構成を有するものを意味し、構成しているヌクレオシドの数は特に限定されない。したがって、例えば、10個以下のヌクレオシド又はヌクレオチドが結合した構成を有するもののように、通常「オリゴヌクレオチド」と称されるものも、本明細書においては「ポリヌクレオチド」と称する。
【0143】
前記縮合物としてのポリヌクレオチドを構成しているヌクレオシドの数は、3〜25であることが好ましく、5〜20であることがより好ましく、7〜17であることが特に好ましい。
【0144】
前記縮合物の、化合物(2)から誘導された構成単位の含有量は特に限定されず、例えば、すべての構成単位が化合物(2)から誘導された構成単位であってもよい(すなわち、前記縮合物が化合物(2)のみの縮合物であってもよい)し、化合物(2)から誘導された構成単位の数が1であってもよい(すなわち、前記縮合物が分子数1の化合物(2)と分子数1以上の前記その他の化合物との縮合物であってもよい)。
通常、前記縮合物においては、すべての構成単位の合計量(モル数)に対する、化合物(2)から誘導された構成単位の含有量(モル数)の割合は、3〜100モル%であることが好ましく、5〜100モル%であることがより好ましい。
例えば、前記縮合物がポリヌクレオチドである場合には、これを構成している化合物(2)から誘導された構成単位の数は、1〜3であることが好ましく、1又は2であることがより好ましく、1であることが特に好ましい。そして、ポリヌクレオチドを構成しているヌクレオシドの数が、上述のように3〜25である場合に、化合物(2)から誘導された構成単位がこのような数の条件を満たすことが好ましい。
【0145】
上記の本発明のポリヌクレオチドは、その周辺領域のpHの変化によって、蛍光発光強度が変化する。このような本発明のポリヌクレオチドは、典型的には、pHが低くなるほど、上記のプロトン化の程度が増大し、蛍光発光強度が小さくなる傾向にある。
【0146】
また、本発明のポリヌクレオチドは、他のポリヌクレオチドと二重鎖を形成し、他のポリヌクレオチド中のシトシンが、本発明のポリヌクレオチド中のBIQ骨格に対面すると、他の塩基が対面した場合よりも、非酸性条件下であっても、BIQ骨格のプロトン化が誘導される。そして、BIQ骨格のプロトン化に伴って、本発明のポリヌクレオチドは、蛍光発光波長が明りょうに変化する。
【0147】
例えば、このような本発明のポリヌクレオチドは、典型的には、以下のような蛍光発光特性を示す傾向にある。すなわち、本発明のポリヌクレオチドを含有し、さらに、シトシンを有し、かつこのポリヌクレオチドと二重鎖を形成可能な他のポリヌクレオチドを含有する弱塩基性の溶液(i)と、本発明のポリヌクレオチドを含有し、前記他のポリヌクレオチドを含有せず、pHと本発明のポリヌクレオチドの濃度とがいずれも前記溶液(i)の場合と同じである溶液(ii)とで、蛍光発光強度を比較すると、溶液(i)の方が、蛍光発光強度が小さくなる。ここで、溶液(i)及び(ii)は、好ましくは水溶液であり、そのpHは好ましくは7.0〜9.0である。これは、弱塩基性であるにも関わらず、溶液(i)においては、本発明のポリヌクレオチド中のBIQ骨格がプロトン化されているのに対し、溶液(ii)においては、本発明のポリヌクレオチド中のBIQ骨格がプロトン化されていないか、又はプロトン化の程度が著しく低いためであると推測される。
【0148】
また、本発明のポリヌクレオチドは、さらに、以下のような蛍光発光特性を示す傾向にある。すなわち、本発明のポリヌクレオチドを含有する酸性の溶液(iii)と、本発明の化合物(1)を含有し、pHとBIQ骨格の濃度とがいずれも前記溶液(iii)の場合と同じである溶液(iv)とで、蛍光発光強度を比較すると、溶液(iii)の方が、蛍光発光強度が小さくなる。ここで、溶液(iii)及び(iv)は、好ましくは水溶液であり、そのpHは好ましくは4.0〜5.0である。
【0149】
<縮合物の製造方法>
前記縮合物は、原料化合物である化合物(2)と、化合物(2)又は化合物(2)以外のその他の化合物と、を縮合する工程を有する製造方法により、製造できる。
原料化合物同士の縮合は、原料化合物の種類に応じて、公知の方法に従って行えばよい。
【0150】
例えば、前記縮合物がポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体である場合、これら縮合物は、酵素を用いない公知の化学合成法を適用して原料化合物同士を縮合することによって、製造できる。
【0151】
また、ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体である前記縮合物は、酵素を用いない公知の化学合成法以外に、ポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction)法(以下、「PCR法」と略記する)を適用することによっても製造できる。
このようにPCR法を適用する場合には、例えば、上述の5’−三リン酸体である化合物(2)を用いてPCR法を行えばよい。
また、5’−三リン酸体である化合物(2)に代えて、化合物(1)の誘導体を用いてPCR法を行ってもよい。以下、化合物(1)の誘導体を用いて、前記縮合物を製造する方法について、説明する。
【0152】
化合物(1)の前記誘導体としては、例えば、下記一般式(5)で表される化合物(以下、「化合物(5)」と略記することがある)が挙げられる。
【0153】
【化27】
(式中、R
1は水素原子又は水酸基であり;Z’は下記一般式(5)−11又は(5)−12で表される基である。)
【0154】
【化28】
(式中、X
11及びX
12は水素原子、シアノ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基又はジアルキルアミノ基であり;R
11及びR
12はアルキル基又はハロゲン原子であり;n
11及びn
12は0〜5の整数であり、n
11が2以上の整数である場合、複数個のR
11は互いに同一でも異なっていてもよく、n
12が2以上の整数である場合、複数個のR
12は互いに同一でも異なっていてもよく;符号*を付した結合は、Z’の結合先との間で形成されている。)
【0155】
化合物(5)は、例えば、化合物(1)から下記一般式(3)で表される化合物(以下、「化合物(3)」と略記することがある)を得る工程(以下、「化合物(3)製造工程」と略記することがある)、化合物(3)から下記一般式(4)で表される化合物(以下、「化合物(4)」と略記することがある)を得る工程(以下、「化合物(4)製造工程」と略記することがある)、及び化合物(4)から化合物(5)を得る工程(以下、「化合物(5)製造工程」と略記することがある)を有する製造方法で製造できる。以下、各工程について説明する。
【0156】
【化29】
(式中、R
1、Z及びZ’は、いずれも上記と同じである。)
【0157】
[化合物(3)製造工程]
化合物(3)製造工程においては、例えば、化合物(1)とN,N−ジ−n−ブチルホルムアミドジメチルアセタールとを反応させることにより、化合物(3)が得られる。
化合物(3)製造工程における反応条件は、反応が良好に進行する限り特に限定されない。
【0158】
ただし、本工程においては、化合物(1)を溶媒に溶解させて反応を行うことが好ましい。
前記溶媒は特に限定されないが、好ましいものとしては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素;テトラヒドロフラン(以下、「THF」と略記することがある)、ジエチルエーテル等のエーテル;N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド(アミド結合を有する化合物);ジメチルスルホキシド等のスルホキシド;塩化メチレン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素等が挙げられる。
前記溶媒は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよく、2種以上を併用する場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0159】
化合物(3)製造工程における反応条件のうち、例えば、反応温度は50〜90℃であることが好ましく、反応時間は0.5〜10時間であることが好ましい。
N,N−ジ−n−ブチルホルムアミドジメチルアセタールの使用量は、化合物(1)の使用量の2〜5倍モル量であることが好ましい。
【0160】
化合物(3)製造工程においては、不活性ガスの雰囲気下で反応を行うことが好ましい。
前記不活性ガスとしては、例えば、上述の化合物(11a)製造工程におけるものと同様のものが挙げられる。
【0161】
化合物(3)製造工程においては、例えば、反応終了後は、上述の化合物(11a)製造工程の場合と同様の方法で、化合物(3)を取り出すことができ、取り出した化合物(3)をさらに同様の方法で精製してもよい。また、得られた化合物(3)は、反応終了後、取り出さずに次工程で用いてもよいが、目的物である化合物(5)の収率が向上する点から、取り出すことが好ましい。
【0162】
[化合物(4)製造工程]
化合物(4)製造工程においては、例えば、化合物(3)と4,4’−ジメトキシトリチルクロリド((CH
3OC
6H
4)
2C(C
6H
5)Cl)とを反応させることにより、化合物(4)が得られる。
化合物(4)製造工程における反応条件は、反応が良好に進行する限り特に限定されない。
【0163】
ただし、本工程においては、化合物(3)を溶媒に溶解させて反応を行うことが好ましい。
前記溶媒は特に限定されないが、好ましいものとしては、例えば、ピリジン等の有機塩基が挙げられる。また、前記溶媒は、含有している水分を除去する操作を行った無水溶媒であることが好ましい。
前記溶媒は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよく、2種以上を併用する場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0164】
化合物(4)製造工程における反応条件のうち、例えば、反応温度は15〜35℃であることが好ましく、反応時間は0.5〜8時間であることが好ましい。
4,4’−ジメトキシトリチルクロリドの使用量は、化合物(3)の使用量の1〜1.5倍モル量であることが好ましい。
【0165】
化合物(4)製造工程においては、不活性ガスの雰囲気下で反応を行うことが好ましい。
前記不活性ガスとしては、例えば、上述の化合物(11a)製造工程におけるものと同様のものが挙げられる。
【0166】
化合物(4)製造工程においては、例えば、反応終了後は、上述の化合物(11a)製造工程の場合と同様の方法で、化合物(4)を取り出すことができ、取り出した化合物(4)をさらに同様の方法で精製してもよい。また、得られた化合物(4)は、反応終了後、取り出さずに次工程で用いてもよいが、目的物である化合物(5)の収率が向上する点から、取り出すことが好ましい。
【0167】
[化合物(5)製造工程]
化合物(5)製造工程においては、例えば、化合物(4)と2−シアノエチルジイソプロピルクロロホスホロアミダイト(((CH
3)
2CH)
2P(OCH
2CH
2CN)Cl)とを反応させることにより、化合物(5)が得られる。
化合物(5)製造工程における反応条件は、反応が良好に進行する限り特に限定されない。
【0168】
ただし、本工程においては、化合物(4)を溶媒に溶解させて反応を行うことが好ましい。
前記溶媒は特に限定されないが、好ましいものとしては、例えば、アセトニトリル等のニトリルが挙げられる。
前記溶媒は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよく、2種以上を併用する場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0169】
化合物(5)製造工程における反応条件のうち、例えば、反応温度は15〜35℃であることが好ましく、反応時間は20分〜4時間であることが好ましい。
2−シアノエチルジイソプロピルクロロホスホロアミダイトの使用量は、化合物(4)の使用量の1〜12倍モル量であることが好ましい。
【0170】
また、本工程においては、塩基を用いて反応を行うことが好ましい。
前記塩基は特に限定されないが、好ましいものとしては有機塩基が挙げられ、前記有機塩基としては、例えば、トリエチルアミン、N,N−ジイソプロピルエチルアミン等のトリアルキルアミン等が挙げられる。
前記塩基は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよく、2種以上を併用する場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
前記塩基の使用量は、2−シアノエチルジイソプロピルクロロホスホロアミダイトの使用量の3〜12倍モル量であることが好ましい。
【0171】
化合物(5)製造工程においては、不活性ガスの雰囲気下で反応を行うことが好ましい。
前記不活性ガスとしては、例えば、上述の化合物(11a)製造工程におけるものと同様のものが挙げられる。
【0172】
化合物(5)製造工程においては、例えば、反応終了後は、上述の化合物(11a)製造工程の場合と同様の方法で、化合物(5)を取り出すことができ、取り出した化合物(5)をさらに同様の方法で精製してもよい。
【0173】
化合物(5)、化合物(4)、化合物(3)等の各化合物は、例えば、核磁気共鳴(NMR)分光法、質量分析法(MS)、赤外分光法(IR)等、公知の手法で構造を確認できる。
【0174】
<<プローブ>>
上述の化合物(1)及び縮合物は、それぞれ各種のプローブとして用いるのに有用である。
すなわち、本発明のプローブとしては、化合物(1)からなるもの、及び前記縮合物からなるものが挙げられる。
以下、前記縮合物のうち、特にポリヌクレオチドからなるプローブについて、より詳細に説明する。
【0175】
本発明のプローブは、1本鎖の状態においても蛍光を発し、ポリヌクレオチドとハイブリダイズさせた場合において、上述の化合物(1)に対合するヌクレオチドがアデニル酸、チミジル酸又はグアニル酸であるときには、発光波長の明りょうな変化は認められない。しかしながら、後述の「シトシンの検出方法」に示すとおり、上述の化合物(1)に対合するヌクレオチドがシチジル酸であり、酸性条件の場合には、1本鎖の場合とは異なり、発光波長が明りょうに変化する。
【0176】
本発明のプローブのヌクレオチドの数は、標的ポリヌクレオチドの種類又は長さによって異なるが、3〜25であることが好ましく、5〜20であることがより好ましく、7〜17であることが特に好ましい。
【0177】
本発明のプローブを構成するヌクレオチドは、標的ポリヌクレオチドを含む試料が細胞抽出液等のヌクレアーゼを含むものである場合には、ヌクレアーゼにより切断され難いように、ホスホロチオエートDNA又はRNA、H−ホスホネートDNA又はRNA等の修飾ヌクレオチドであってもよい。
【0178】
本発明のプローブと標的ポリヌクレオチドとのハイブリダイズに際しては、標的ポリヌクレオチドを含む試料に対して本発明のプローブを1nM〜1mM程度、特に1μM〜5 0μM程度添加することが好ましい。また、ハイブリダイズの条件はポリヌクレオチドの長さによっても異なるが、例えば0〜60℃程度の温度で、例えば5〜60分程度でハイブリダイズを行うことができる。また、ハイブリダイズさせる試料は、例えばpH4.0〜9.0程度に調整すればよい。
【0179】
本明細書において、「ハイブリダイズ」とは、相補的な塩基配列を持つ2本の核酸同士が水素結合を介してハイブリッド二本鎖を形成することを意味する。この様な組み合わせとしては、例えば、DNA/DNA、DNA/RNA、RNA/RNA、DNA/PNA、RNA/PNAまたはPNA/PNA等を挙げることができる。
【0180】
本発明のプローブは以下の用途に使用できる。
(i)標的ポリヌクレオチドと相補的なプローブを用いることにより、標的ポリヌクレオチドの特定位置のシトシンの有無を決定できる。同様の方法で1塩基多型の検出に利用できる。
(ii)DNAチップにおいて、本発明のプローブを基材上に固定又は吸着させることにより、特定の塩基配列を有するか否かを確認できる。特に、標的ポリヌクレオチドの特定位置のシトシンの有無を決定できる。
(iii)アンチセンスポリヌクレオチドに代えて本発明のプローブを使用する場合には、通常のポリヌクレオチドとは異なるため、核酸分解酵素(例えば、制限酵素等)や核酸結合タンパク質(例えば、転写因子等) 等の標的核酸への結合を阻害できる。このことから、これらの作用を利用した実験用試薬として利用できる。
(iv)本発明のプローブ自体蛍光を発するため、ポリヌクレオチドの蛍光ラベルに使用できる。
(v)DNA複製において、複製されるDNAと相補的なプローブとして使用することによりDNA複製のリアルタイム検出ができる。同様に、RNAへの転写において、転写されるRNAと相補的なプローブとして使用することによりRNA転写のリアルタイム検出ができる。
(vi)本発明のプローブは、シトシンを有する相補的配列とハイブリダイズすることにより蛍光発光波長が変化するため、この波長の変化により、本発明のプローブの酸化還元電位が変化する。このため、電極上に本発明のプローブを固定しておき、被験ポリヌクレオチドをこの電極に作用させて酸化還元電位を測定する方法で、核酸配列応答性のバイオセンサーとして利用できる。
(vii)本発明のポリヌクレオチドは、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)に供される蛍光性プローブとして利用できる。
【0181】
上記(ii)に記載のDNAチップ(又はDNAアレイ)は、本発明のプローブを基材上に固定又は吸着させることにより、得ることができる。固定には共有結合などによる結合も含まれる。
【0182】
基材上の本発明のプローブのスポット径は特に限定されないが、例えば50〜200μm程度とすることができる。またスポットピッチは特に限定されないが、例えば100〜500μm程度とすることができる。
【0183】
基材の材料は特に限定されず、例えばガラス、シリカ、金等を用いることができる。また、基材の形状は、板状(基板状)、球体状等のどのような形状のものであってもよい。
【0184】
基材上に本発明のプローブを結合する場合には、本発明のプローブの一端を、例えば金属−硫黄結合などの方法を使用して、基材に結合させることができる。
【0185】
DNAチップに固定等される本発明のプローブのヌクレオチドの数は、試料の種類によって異なるが、例えば10〜200個程度であればよく、例えば50〜100個程度であればよい。
【0186】
<<シトシンの検出方法>>
上述のプローブは、例えば、解析対象であるポリヌクレオチド中のシトシンを検出するのに有用である。
すなわち、本発明のシトシンの検出方法は、シトシンを有するポリヌクレオチドと、上述のプローブとを、酸性条件下でハイブリダイズさせて、ハイブリダイズ産物を得る工程と、酸性条件下での前記ハイブリダイズ産物及び前記プローブの蛍光を測定する工程と、シトシンの有無に基づく、前記蛍光の発光波長の変化を検出することで、前記ポリヌクレオチド中のシトシンを検出する工程と、を備えるものである(以下、「検出方法1」と略記することがある)。
また、本発明のシトシンの検出方法は、シトシンを有するポリヌクレオチドと、上述のプローブとを、異なる複数種のpH条件下でハイブリダイズさせて、ハイブリダイズ産物を得る工程と、異なる複数種のpH条件下での前記ハイブリダイズ産物及び前記プローブの蛍光を測定する工程と、前記pHの違いに基づく、前記蛍光の発光波長の変化を検出することで、前記ポリヌクレオチド中のシトシンを検出する工程と、を備えるものである(以下、「検出方法2」と略記することがある)。
以下、各検出方法について、説明する。
【0187】
<検出方法1>
[ハイブリダイズ工程]
検出方法1では、シトシンを有するポリヌクレオチドを含有せず、前記プローブを含有する酸性溶液(以下、「酸性溶液1−1」と略記することがある)、及びシトシンを有するポリヌクレオチドと、前記プローブと、を含有する酸性溶液(以下、「酸性溶液1−2」と略記することがある)を用いる。
【0188】
酸性溶液1−2における、シトシンを有するポリヌクレオチドとは、解析対象のポリヌクレオチドであり、塩基として1個又は2個以上の検出対象であるシトシンを有する。酸性溶液1−2中において、前記プローブ中のBIQ骨格は、この溶液のpHが特定の範囲内である場合に、プロトン化された状態で、前記ポリヌクレオチド中のシトシンを識別し、このシトシンと塩基対を形成する。そして、前記プローブ及びポリヌクレオチドがハイブリダイズすることにより、安定した二重鎖が形成される。一方、この溶液のpHが上記とは異なる範囲内である場合には、前記プローブ中のBIQ骨格は、プロトン化された状態か又はされていない状態で、前記ポリヌクレオチド中のシトシンを識別せず、塩基対を形成しない。
【0189】
一方、酸性溶液1−1における、シトシンを有するポリヌクレオチドとは、酸性溶液1−2における解析対象のポリヌクレオチドだけでなく、シトシンを有するすべてのポリヌクレオチドのことを意味する。
酸性溶液1−1はこのようなポリヌクレオチドを含有していないため、酸性溶液1−1中における前記プローブも、BIQ骨格がポリヌクレオチド中のシトシンと塩基対を形成しない。
【0190】
酸性溶液1−1及び1−2における、シトシンを有するポリヌクレオチドは、細胞抽出液、血液等の体液等のように不純物を含むものであってもよく、PCR産物、合成ポリヌクレオチド等の純度の高いものであってよい。
【0191】
酸性溶液1−1及び1−2のpHは、酸性であって、シトシンを有するポリヌクレオチド及び前記プローブが分解せず安定的に溶解可能であるpHであればよく、例えば、pH4.0以上pH7.0未満であればよく、例えば、pH4.0以上pH6.0以下であればよい。酸性溶液1−1及び1−2に用いる酸性溶液としては、例えば、クエン酸、乳酸、リン酸、酢酸、グルコン酸、コハク酸、又はそれらの水和物等の酸を用いて、上記pHに調製した緩衝液であればよい。酸性溶液1−1及び1−2に用いる酸性溶液は、同じ種類の酸性溶液であってもよく、異なる種類の酸性溶液であってよい。中でも、後に続く蛍光測定工程でそのまま測定を行えることから、同じ種類の酸性溶液であることが好ましい。
【0192】
ハイブリダイズ条件は、上述の「プローブ」において説明したとおりである。
【0193】
[蛍光測定工程]
蛍光は常法に従い、照射波長250〜600nm程度で測定すればよい。酸性溶液1−1中の前記プローブの蛍光測定と、酸性溶液1−2中のハイブリダイズ産物の蛍光測定とは、同じ種類の酸性溶液に溶解又は懸濁させた状態で行うことが好ましい。通常はハイブリダイズさせた際の酸性溶液に溶解又は懸濁させた状態で測定すればよい。
【0194】
[シトシン検出工程]
酸性溶液1−2中の前記プローブは、BIQ骨格がプロトン化された状態でシトシンと塩基対を形成している場合と、塩基対を形成していない場合とでは、蛍光発光波長が明りょうに異なり、蛍光発光強度が異なることもある。
また、酸性溶液1−1中の前記プローブは、シトシンと塩基対を形成しておらず、シトシンと塩基対を形成している場合とは、蛍光発光波長が異なり、蛍光発光強度が異なることもある。
したがって、酸性溶液1−1及び酸性溶液1−2について、前記測定工程において、前記プローブの蛍光を測定した場合、これら酸性溶液中でのシトシンの有無に基づいて、蛍光発光波長の変化を検出することによって、前記ポリヌクレオチド中のシトシンを検出できる。
【0195】
<検出方法2>
[ハイブリダイズ工程]
検出方法2では、シトシンを有するポリヌクレオチドと、前記プローブと、を含有し、pHが異なる複数種の溶液(以下、「溶液2群」と略記することがある)を用いる。
溶液2群とは、前記ポリヌクレオチド及びプローブ以外の含有成分について、その種類及び含有量のいずれか一方又は両方が調節され、pHが互いに異なるように調節された2種以上の溶液群である。溶液2群には、通常、1種以上の酸性溶液が必須溶液として含まれる。
【0196】
検出方法2における、シトシンを有するポリヌクレオチドは、解析対象のポリヌクレオチドであり、上述の酸性溶液1−2における、シトシンを有するポリヌクレオチドと同様のものである。溶液2群のうち、酸性溶液中において、前記プローブ中のBIQ骨格は、この溶液のpHが特定の範囲内である場合に、プロトン化された状態で、前記ポリヌクレオチド中のシトシンを識別し、このシトシンと塩基対を形成する。そして、前記プローブ及びポリヌクレオチドがハイブリダイズすることにより、安定した二重鎖が形成される。一方、溶液2群の他の溶液のpHが上記とは異なる範囲内である場合には、前記プローブ中のBIQ骨格は、プロトン化された状態か又はされていない状態で、前記ポリヌクレオチド中のシトシンを識別せず、塩基対を形成しない。
【0197】
溶液2群における、シトシンを有するポリヌクレオチドは、上述の検出方法1におけるシトシンを有するポリヌクレオチドと同様のものである。
【0198】
pHが異なる複数種の溶液のpHは、シトシンを有するポリヌクレオチド及び前記プローブが分解せず安定的に溶解可能であるpHであればよく、例えば、pH4.0以上pH9.0以下であればよい。pHが異なる複数種の溶液としては、例えば、クエン酸、乳酸、リン酸、酢酸、グルコン酸、コハク酸又はそれらの水和物等の酸、あるいは酢酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸水素一ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二カリウム、塩化アンモニウム等の1価若しくは2価の塩又はそれらの水和物等のアルカリを用いて、pHを目的の値に調節して得られた緩衝液が挙げられる。
必須溶液である酸性溶液のpH及び組成は、上述の検出方法1における酸性溶液1−1及び1−2の場合と同様である。
【0199】
ハイブリダイズ条件は、上述の「プローブ」において説明したとおりである。
【0200】
[蛍光測定工程]
検出方法2における蛍光測定工程は、上述の検出方法1における蛍光測定工程と同様である。
【0201】
[シトシン検出工程]
前記プローブは、BIQ骨格がプロトン化された状態でシトシンと塩基対を形成している場合と、塩基対を形成していない場合とでは、蛍光発光波長が明りょうに異なり、蛍光発光強度が異なることもある。
したがって、溶液2群のpHが互いに異なる複数種の溶液について、前記測定工程において、前記プローブの蛍光を測定した場合、これら溶液のpHの違いに基づいて、蛍光発光波長の変化を検出することによって、前記ポリヌクレオチド中のシトシンを検出できる。
【0202】
<<遺伝子変異の検出方法>>
上述のシトシンの検出方法は、例えば、遺伝子変異を検出するのに有用である。
すなわち、本発明の遺伝子変異の検出方法は、上述のシトシンの検出方法を用いるものである。
以下、遺伝子変異の検出方法について、説明する。
【0203】
遺伝子変異の検出方法では、上述の検出方法1又は検出方法2を用いて、シトシンの有無又はpHの違いに基づく蛍光発光波長の変化を検出することにより、遺伝子の変異の有無を判断できる。
【0204】
本発明の遺伝子変異の検出方法において、検出対象となる遺伝子としては、少なくとも1塩基のアデニン、グアニン若しくはチミンがシトシンに置換されている変異、又は、少なくとも1塩基のシトシンが挿入されている変異を有する遺伝子であればよく、例えば、癌遺伝子、癌抑制遺伝子等の癌関連遺伝子、その他疾患関連遺伝子等が挙げられる。より具体的には、後述の実施例で示す、癌抑制遺伝子であるBRCA1(breast cancer susceptibility gene I)等が挙げられる。
【0205】
BRCA1遺伝子とは、乳癌感受性遺伝子であって、BRCA1遺伝子の変異により、遺伝子不安定性を生じ、最終的に乳癌や卵巣癌を引き起こすことが知られている。さらに、BRCA1遺伝子のcDNAにおいて、5382番目にシトシンが挿入された変異は、乳癌の発症リスクを高めることが知られている。よって、本発明の遺伝子変異の検出方法によれば、BRCA1遺伝子の5382番目にシトシンが挿入された変異を簡便に感度良く検出できる。
【実施例】
【0206】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
なお、以下においては、例えば、「一般式(1A)−101で表される化合物」を「化合物(1A)−101」と称するなど、各化合物に付している符号を用いて、その化合物の名称を確定した。
【0207】
[実施例1]
<化合物(11b)の製造>
以下に示す経路で、化合物(11b)として化合物(11b)−101を製造した。
【0208】
【化30】
【0209】
[化合物(11b3)−101の製造]
アルゴン雰囲気下で化合物(11b4)−101(1.6g、 7.95mmol)を酢酸(25mL)に溶解させた。得られた酢酸溶液に、臭素(20mmol)を少量ずつ加え、さらに酢酸ナトリウム(1.3g、16mmol)を加えた後、50℃のオイルバス中で2.5時間撹拌した。その後、臭素(10mmol)を少量ずつ加え、さらに酢酸ナトリウム(0.7g、7mmol)を加えて、1.5時間撹拌した。その後、酢酸(50mL)、48%臭化水素酸(50mL)、亜硫酸ナトリウム(12g、95mmol)を加え、130℃で一晩還流させながら撹拌した。得られた反応液を室温まで冷却した後、10%水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを5に調整して、黒色結晶を析出させ、吸引ろ過を行い、水で洗浄して析出物を取り出した。ろ液にも反応生成物が含まれていたため、クロロホルム及び純水の2層系でろ液に対して分液操作を行い、有機層に硫酸ナトリウムを加えて脱水し、減圧濃縮することで白色結晶を得た。この白色結晶と、吸引ろ過で取り出した前記析出物とを合わせて、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(メタノール/クロロホルム/酢酸(10/100/1、体積比))により精製し、化合物(11b3)−101を白色粉末として得た(収量1g、収率100%)。
【0210】
[化合物(11b2)−101の製造]
アルゴン雰囲気下で、化合物(11b3)−101(1g)、トルエン(15mL)、塩化チオニル(1.5mL)を混合し、120℃で2時間還流させながら撹拌した。得られた反応液を減圧濃縮し、濃縮物を氷水で冷やしながら、この濃縮物に飽和アンモニア水を加えて約30分撹拌した。反応液中で析出した茶褐色結晶を吸引ろ過で取り出した。得られた茶褐色結晶を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(メタノール/クロロホルム(1/100、体積比))により精製し、化合物(11b2)−101を肌色粉末として得た(収量750mg、収率36%)。
【0211】
得られた化合物(11b2)−101の
1H−NMR、
13C−NMRによる分析結果を以下に示す。
1H-NMR(DMSO-d
6, 400MHz)σ5.77(br s, 2H), 7.11(s, 1H), 7.27(br s, 1H), 7.58(d, J = 8.7 Hz, 1H), 7.79(dd, J = 1.4 Hz, 1H), 7.92(br s, 1H), 8.11(s, 1H), 8.23(d, J = 1.4 Hz, 1H).
13C-NMR(DMSO-d
6, 100MHz)σ107.3, 112.4, 124.8, 124.9, 125.7, 127.2, 127.6, 132.2, 135.2, 145.1, 167.9.
【0212】
[化合物(11b1)−101の製造]
アルゴン雰囲気下で、化合物(11b2)−101(700mg、0.27mmol)をアセトニトリル(20mL)に懸濁させた。得られた懸濁液に、塩化ホスホリル(50μL、0.5mmol)を少しずつ加え、80℃のオイルバス中で2.5時間撹拌した。得られた反応液を、氷水(約50mL)中にゆっくりと注いだ後、約30分撹拌した。次いで、得られた反応液に対して、酢酸エチル及び炭酸水素ナトリウム水溶液の2層系で分液操作を行い、有機層を硫酸ナトリウムによって脱水した後、減圧濃縮した。得られた濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル(5/1〜3/1、体積比)により精製し、化合物(11b1)−101を白色粉末として得た(収量300mg、収率44%)。
【0213】
得られた化合物(11b1)−101の
1H−NMR、
13C−NMRによる分析結果を以下に示す。
1H-NMR(CDCl
3, 400MHz)σ4.56(br s, 2H), 7.06(s, 1H), 7.47(dd, J = 1.4, 8.2 Hz,1H), 7.59(d, J = 8.2 Hz, 1H), 7.96(d, J = 1.4 Hz, 1H), 8.00(s, 1H).
13C-NMR(CDCl
3, 100MHz)σ105.9, 108.5, 114.0, 119.6, 126.7, 127.1, 132.2, 133.0, 135.5, 144.5.
【0214】
[化合物(11b)−101の製造]
アルゴン雰囲気下で、化合物(11b1)−101(100mg、0.4mmol)及び[1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]ジクロロパラジウム(II)(17mg、20μmol)を、1,4−ジオキサン(2mL)に溶解させた。得られた1,4−ジオキサン溶液に、トリメチルアミン(230μL、1.7mmol)を加え、さらに4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン(300μL、1.3mmol)を滴下し、フラスコ内の反応液が泡立ちながら黄色溶液から赤紫溶液に変化するのを確認した後、この溶液を90℃のオイルバス中で一晩撹拌した。得られた反応液を室温まで冷却した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル(10/1、体積比)により精製し、化合物(11b)−101を黄色粉末として得た(収量70mg、収率58%)。
【0215】
得られた化合物(11b)−101の
1H−NMR、
13C−NMRによる分析結果を以下に示す。
1H-NMR(CDCl
3, 400MHz)σ1.40(s, 12H), 5.12(br s, 2H), 6.83(s, 1H), 7.42(dd, J = 1.4, 8.7 Hz,1H), 7.51(d, J = 8.7 Hz, 1H), 8.03(d, J = 1.4 Hz, 1H), 8.22(s, 1H).
13C-NMR(CDCl
3, 100MHz)σ24.9,84.3, 104.2, 106.9, 120.2, 125.3, 126.2, 127.9, 135.0, 138.4, 139.8, 152.3.
【0216】
[実施例2]
<化合物(11a)の製造>
以下に示す手順により、化合物(1a)のうち、化合物(11a)として化合物(11Aa)−101を製造した。
アルゴン雰囲気下で、化合物(1Ac)−101(125mg、0.2mmol)、化合物(11b)−101(70mg、0.2mmol)、炭酸カリウム(80mg、0.6mmol)、及びテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(11mg、10μmol)の混合物に、DMF(3mL)及び水(600μL)の混合溶媒を加え、懸濁液を得た。この懸濁液を90℃のオイルバス中で一晩撹拌した後、室温まで冷却し、減圧濃縮した。得られた濃縮物に対して、酢酸エチル及び炭酸水素ナトリウム水溶液の2層系で分液操作を行い、有機層を硫酸ナトリウムによって脱水した後、減圧濃縮した。得られた濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル(1/1〜1/3、体積比)により精製し、化合物(11Aa)−101を黄色粉末として得た(収量125mg、収率94%)。
【0217】
得られた化合物(11Aa)−101の
1H−NMR、
13C−NMRによる分析結果を以下に示す。
1H-NMR(DMSO-d
6, 400MHz)σ1.12(m, 42H), 2.71(m, 2H), 3.95(m, 2H), 4.33(m, 1H), 4.87(m, 1H), 5.82(br s, 2H), 6.88(dd, J = 1.8, 8.7 Hz, 1H), 7.55(dd, J = 1.8, 8.7 Hz, 1H), 7.97(d, J = 8.7 Hz, 1H), 8.25(s, 1H), 8.30(complex, 2H), 8.59(s, 1H).
13C-NMR(DMSO-d
6, 100MHz)σ11.9, 12.2, 17.9, 18.1, 42.3, 63.4, 72.8, 77.2, 86.6, 89.2, 107.4, 117.8, 119.7, 120.8, 123.4, 125.3, 127.4, 128.9, 129.6, 131.7, 133.3, 134.9, 138.3, 145.1, 153.0.
【0218】
[実施例3]
<化合物(1)−1の製造>
以下に示す手順により、化合物(1)のうち、化合物(1)−1として化合物(1A)−101を製造した。
アルゴン雰囲気下で、化合物(11Aa)−101(125mg、0.2mmol)をTHF(2mL)に溶解させた。得られたTHF黄色溶液を室温下で撹拌しながら、ここへテトラブチルアンモニウムフルオライド(360μL、0.4mmol)を滴下し、さらに1時間撹拌した。反応液中で黄色結晶が析出したのを確認した後、この反応液に酢酸(360μL)を加えて中和を行い、さらに約10分撹拌した。反応液中で黄色沈殿物が多くなったのを確認した後、吸引ろ過を行い、0℃のアセトン/エタノール(5/1、体積比)混合溶媒で黄色沈殿物を洗浄して、化合物(1A)−101を黄色粉末として得た(収量54mg、収率80%)。
【0219】
得られた化合物(1A)−101の
1H−NMR、
13C−NMRによる分析結果を以下に示す。
1H-NMR(DMSO-d
6, 400MHz)σ2.71(m, 2H), 3.61(m, 1H), 3.66(m, 1H), 4.05(m, 1H), 4.49(m, 1H),5.07(dd, J = 5.0, 5.5 Hz, 1H), 5.47(d, J = 4.1 Hz, 1H), 6.87(dd, J = 5.5, 6.0 Hz, 1H), 7.18(br s, 2H), 7.64(dd, J = 1.8, 8.7 Hz, 1H), 8.10(d, J = 8.7 Hz, 1H), 8.67(s, 1H), 8.73(s, 1H), 8.80(s, 1H).
13C-NMR(DMSO-d
6, 100MHz)σ60.6, 69.1, 78.0, 85.8, 87.8, 105.3, 117.4, 119.7, 121.6, 124.8, 126.4, 128.4, 129.5, 130.7, 132.8, 135.4, 139.7, 145.6, 153.7.
【0220】
【化31】
【0221】
[試験例1]
<化合物(1)−1の光学特性の評価>
[紫外線吸収スペクトルの測定]
上記で得られた化合物(1A)−101を、(S1)1,4−ジオキサン、(S2)THF、(S3)酢酸エチル、(S4)DMF、(S5)ジメチルスルホキシド(DMSO)、(S6)アセトニトリル、(S7)2−プロパノール、(S8)エタノール、(S9)メタノール、(S10)エチレングリコール、(S11)グリセロールの11種の溶媒に、それぞれ濃度が10μMとなるように溶解させ、11種の溶液を調製した。
次いで、得られたこれら溶液について、紫外可視分光光度計(島津製作所社製「UV−2550」)を用いて、紫外線吸収スペクトルを測定した。結果を
図1(a)に示す。
図1(a)のグラフにおける縦軸は吸光度を表し、横軸は光の波長(nm)を表す。
【0222】
[蛍光スペクトルの測定]
上記で得られた化合物(1A)−101の11種の溶液について、蛍光光度計(島津製作所社製「RF−5300PC」)を用いて、蛍光スペクトルを測定した。結果を
図1(b)に示す。
図1(b)のグラフにおける縦軸は光の強度を表し、横軸は光の波長(nm)を表す。
【0223】
[励起スペクトルの測定]
上記で得られた化合物(1A)−101の11種の溶液について、蛍光光度計(島津製作所社製「RF−5300PC」)を用いて、励起スペクトルを測定した。結果を
図1(c)に示す。
図1(c)のグラフにおける縦軸は光の強度を表し、横軸は光の波長(nm)を表す。
【0224】
図1に示すように、化合物(1A)−101の溶液は、紫外線吸収スペクトル、蛍光スペクトル及び励起スペクトルのいずれにおいても、類似のスペクトルを示したものもあるが、溶媒の種類によっては、異なるスペクトルを示した。例えば、溶媒の種類によっては、蛍光発光波長が大きく変化しており、蛍光発光波長が変化している場合には、蛍光発光強度の変化が大きい傾向が見られた。
【0225】
[試験例2]
<化合物(1)−1における光学特性のpH依存性の評価>
[各pH条件下での紫外線吸収スペクトルの測定]
下記(b1)〜(b4)の4タイプの緩衝液を用い、pH4.0〜9.0に調節された、緩衝液/エタノール(9/1、体積比)の各種水溶液を調製し、これら水溶液にそれぞれ濃度が10μMとなるように、上記で得られた化合物(1A)−101を溶解させ、pHが異なる各種溶液を調製した。
(b1):グリシン塩酸塩及び塩化ナトリウムの合計濃度が10mMである、pH4.0の緩衝液。
(b2):酢酸及び酢酸ナトリウムの合計濃度が10mMであり、これら成分の比率を調節することで、pH4.3〜6.0のいずれかに調節された緩衝液。
(b3):リン酸一水素ナトリウム及びリン酸二水素ナトリウムの合計濃度が10mMであり、これら成分の比率を調節することで、pH6.3〜8.0のいずれかに調節された緩衝液。
(b4):塩化アンモニウム及びアンモニアの合計濃度が10mMであり、これら成分の比率を調節することで、pH8.3〜9.0のいずれかに調節された緩衝液。
【0226】
次いで、これらのpHが異なる各種溶液について、紫外可視分光光度計(島津製作所社製「UV−2550」)を用いて、紫外線吸収スペクトルを測定した。結果を
図2(a)に示す。
【0227】
[各pH条件下での蛍光スペクトルの測定]
上記で得られた、pHが異なる化合物(1A)−101の各種溶液について、蛍光光度計(島津製作所社製「RF−5300PC」)を用いて、蛍光スペクトルを測定した。結果を
図2(b)に示す。
【0228】
図2に示すように、化合物(1A)−101の溶液は、紫外線吸収スペクトル及び蛍光スペクトルのいずれにおいても、pHに依存して異なるスペクトルを示した。特に蛍光スペクトルの変化が大きく、pHに依存して蛍光発光波長及び蛍光発光強度がともに大きく変化していた。このことから、化合物(1A)−101中のBIQ骨格に含まれる窒素原子においては、プロトン化及び脱プロトン化の変化が生じていると推測された。
【0229】
なお、上記の紫外線吸収スペクトルの測定結果のうち、波長394nmでの測定値を用いて、化合物(1A)−101のpKaを算出した結果、その値は6.16であった。
また、上記の蛍光スペクトルの測定結果のうち、波長379nmでの測定値を用いて、化合物(1A)−101のpKaを算出した結果、その値は6.08であった。
これらの結果から、化合物(1A)−101のpKaは、6.1〜6.2であると考えられた。
【0230】
化合物(1A)−101において、pH4.5の酸系における、励起光の波長が370nmである場合の絶対量子収率は0.856であり、蛍光寿命は9.6ナノ秒であった。
また、化合物(1A)−101において、pH8.5の塩基系における、励起光の波長が370nmである場合の絶対量子収率は0.852であり、蛍光寿命は5.2ナノ秒であった。
【0231】
[実施例4]
<縮合物(ポリヌクレオチド)の製造>
以下に示す手順により、化合物(1A)−101をモノマーとして用いた縮合物として、ポリヌクレオチドを製造した。
【0232】
[化合物(3A)−101の製造]
アルゴン雰囲気下で、化合物(1A)−101(42mg、0.1mmol)をDMF(2mL)に溶解させた。得られたDMF黄色溶液に、N,N−ジ−n−ブチルホルムアミドジメチルアセタール(100μL)を加え、80℃のオイルバス中で2時間撹拌した。得られた反応液を室温まで冷却した後、減圧濃縮し、得られた濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール/トリエチルアミン(300/10/3〜100/5/1)により精製し、化合物(3A)−101を黄色粉末として得た(収量42mg、収率72%)。
【0233】
得られた化合物(3A)−101の
1H−NMR、
13C−NMRによる分析結果を以下に示す。
1H-NMR(DMSO-d
6, 400MHz)σ0.95(m, 6H), 1.36(m, 4H), 1.65(m, 4H), 2.71(m, 2H), 3.46(m, 2H), 3.61-3.67(complex, 4H), 4.05(m, 1H), 4.49(m, 1H),5.07(m, 1H), 5.49(d, J = 4.8 Hz, 1H), 6.93(t, J = 5.7, 6.0 Hz, 1H), 7.69(m, 1H), 8.20(d, J = 8.8 Hz, 1H), 8.48(s, 1H), 8.68(s, 1H), 8.82(s, 1H), 8.90(s, 1H), 8.93(s, 1H).
13C-NMR(DMSO-d
6, 100MHz)σ13.6, 13.7, 19.1, 19.6, 28.7, 30.5, 40.1, 44.3, 50.7,60.4, 68.9, 85.6, 87.6, 106.2, 118.0, 119.5, 121.5, 124.3, 124.6, 127.3, 128.8, 131.9, 132.2, 133.9, 135.4, 139.9, 144.2, 156.7, 157.7.
【0234】
[化合物(4A)−101の製造]
アルゴン雰囲気下で、化合物(3A)−101(50mg、9.72×10
−2mmol)をピリジン(1.5mL)に溶解させた。得られたピリジン黄色溶液に、4,4’−ジメトキシトリチルクロリド(40mg、0.1mmol)を加え、室温下で一晩撹拌した。得られた反応液を減圧濃縮し、得られた濃縮物に対して、酢酸エチル及び炭酸水素ナトリウム水溶液の2層系で分液操作を行い、有機層を硫酸ナトリウムによって脱水した後、減圧濃縮した。得られた濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール/トリエチルアミン(200/1/2、体積比)により精製し、化合物(4A)−101を黄色粉末として得た(収量38mg、収率53%)。
【0235】
得られた化合物(4A)−101の
1H−NMR、
13C−NMRによる分析結果を以下に示す。
1H-NMR(DMSO-d
6, 400MHz)σ0.98(m, 6H), 1.44(m, 4H), 1.74(m, 4H), 2.88(m, 1H), 3.09(dd, J = 10.5 Hz, 1H), 3.21(m, 1H), 3.33(m, J = 4.6, 10.5 Hz, 1H), 3.52(m, 2H), 3.53(s, 3H), 3.59(s, 3H), 3.75(m, 2H), 4.30(m, 1H), 4.89(m, 1H), 6.41(m, 2H), 6.50(m, 2H), 6.90(m, 1H), 7.02-7.15(complex, 9H), 7.56(dd, J = 1.4, 8.7 Hz, 1H), 8.39(s, 1H), 8.45(s, 1H), 8.57(s, 1H), 9.00(s, 1H), 9.11.
13C-NMR(DMSO-d
6, 100MHz)σ14.1, 14.3, 20.5, 20.9, 30.1, 32.0, 40.3, 45.9, 52.3, 55.3, 55.3, 63.6, 70.7, 86.2, 86.5, 87.2, 108.0, 113.6(2C), 113.6(2C), 113.9, 119.5, 120.2, 123.0, 125.4, 125.5, 128.4(2C), 128.7(2C), 128.8, 129.8, 130.5(2C), 130.8(2C), 133.6, 134.0, 135.7, 136.1, 136.4, 136.6, 139.6, 145.8, 146.1, 158.1, 158.9, 159.2, 159.3.
【0236】
[化合物(5A)−101の製造]
アルゴン雰囲気下で、化合物(4A)−101(37mg、0.05mmol)をアセトニトリル(1mL)に溶解させた。得られたアセトニトリル溶液に、トリエチルアミン(0.5mL)加え、2−シアノエチルジイソプロピルクロロホスホロアミダイト(100μL)を滴下して、室温下で1時間撹拌した。得られた反応液に対して、酢酸エチル及び炭酸水素ナトリウム水溶液の2層系で分液操作を行い、得られた有機層に対して、さらに酢酸エチル及び塩化ナトリウム水溶液の2層系で分液操作を行った。次いで、得られた有機層を硫酸ナトリウムによって脱水した後、減圧濃縮することで、化合物(5A)−101を得た。
【0237】
[ポリヌクレオチドの製造]
化合物(5A)−101をアセトニトリル(600μL)に溶解させ、得られた溶液と、DNA自動合成機(アプライドバイオシステムズ社製「DNAシンセサイザー3400」)とを用いて、DNA鎖の自動合成を行い、配列番号1に示す塩基配列を有するポリヌクレオチド(5’−CGCAATNTAACGC−3’(Nは化合物(5A)−101中のBIQ骨格を有する塩基部位を表す)、以下、「ODN1」と略記することがある)を得た。
【0238】
得られたODN1は、さらに、下記の条件で高速液体クロマトグラフィーでの分取による精製を行った。
移動相:AF緩衝液/アセトニトリル(アセトニトリルの濃度を45分で3体積%から20体積%まで上昇させた。)
流量:2.0mL/min
カラム:ケムコプラス社製「CHEMCOBOND 5−ODS−H」(10mm×150mm)
【0239】
得られたODN1について、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法(MALDI−TOF−MS)により分析した結果、プロトン付加体イオン[M+H]
+の質量の測定値が4052.02であり、理論値4052.8とほぼ一致した。これにより、ODN1は目的物であることが確認された。
【0240】
【化32】
【0241】
[試験例3]
<ポリヌクレオチドにおける光学特性のpH依存性の評価>
[各pH条件下での紫外線吸収スペクトルの測定]
pH4.0〜8.0に調節された、下記(b5)〜(b7)の3タイプの緩衝液を調製し、これら緩衝液にそれぞれ濃度が5μMとなるように、上記で得られたODN1を溶解させ、pHが異なる各種溶液を調製した。
(b5):酢酸及び酢酸ナトリウムの合計濃度が10mMであり、これら成分の比率を調節することで、pH4.0〜6.0のいずれかに調節された緩衝液。
(b6):リン酸一水素ナトリウム及びリン酸二水素ナトリウムの合計濃度が10mMであり、これら成分の比率を調節することで、pH6.3〜8.0のいずれかに調節された緩衝液。
(b7):塩化アンモニウム及びアンモニアの合計濃度が10mMであり、これら成分の比率を調節することで、pH8.3〜9.0のいずれかに調節された緩衝液。
【0242】
次いで、これらのpHが異なる各種溶液について、紫外可視分光光度計(島津製作所社製「UV−2550」)を用いて、紫外線吸収スペクトルを測定した。結果を
図3(a)に示す。
【0243】
[各pH条件下での蛍光スペクトルの測定]
上記で得られた、pHが異なるODN1の各種溶液について、蛍光光度計(島津製作所社製「RF−5300PC」)を用いて、蛍光スペクトルを測定した。結果を
図3(b)に示す。
【0244】
[各pH条件下での励起スペクトルの測定]
上記で得られた、pHが異なるODN1の各種溶液について、蛍光光度計(島津製作所社製「RF−5300PC」)を用いて、励起スペクトルを測定した。結果を
図3(c)に示す。
【0245】
図3(b)に示すように、ODN1の溶液は、例えば、波長430〜480nmの領域内においては、pHが低くなるほど蛍光発光強度が小さくなる傾向を示し、pHに依存して蛍光発光強度が変化した。これは、ODN1が二重鎖を形成していない状態で、ODN1中のBIQ骨格は、前記溶液のpHが低くなるに従ってプロトン化の程度が増大する(換言すると、前記溶液のpHが高くなるに従って脱プロトン化の程度が増大する)ことを示していた。しかし、蛍光スペクトルにおいて蛍光発光強度が大きい主たるピークの蛍光発光波長に変化がなく、蛍光発光波長に明りょうな変化はなかった。
【0246】
なお、
図3(b)に示す蛍光スペクトルは、濃度が5μMのODN1の溶液のものであり、先の
図2(b)に示す蛍光スペクトルは、濃度が10μMの化合物(1A)−101の溶液のものであって、これら溶液では、目的物の濃度が異なる。しかし、これら蛍光スペクトルのうち、例えば、pH4.5等の酸性条件下で、同じpHでの蛍光スペクトルを比較すると、蛍光発光強度は、いずれも波長が410nm又はその近傍の場合に最大となるが、その最大値(蛍光発光強度の最大値)は、目的物の濃度の相違を考慮しても、
図3(b)に示す蛍光スペクトルでは、
図2(b)に示す蛍光スペクトルから想定される値よりも明らかに小さくなっていた。すなわち、化合物(1)の溶液と、本発明のポリヌクレオチドの溶液とで、BIQ骨格の濃度が同じであるもの同士の蛍光発光強度を比較すると、ポリヌクレオチドの溶液の方が、蛍光発光強度が低くなることが確認された。
【0247】
<ポリヌクレオチド中のシトシンの検出>
[実施例5]
pH4.0〜8.0に調節された、前記(b5)〜(b7)の3タイプの緩衝液を調製し、これら緩衝液に、上記で得られたODN1と、配列番号2に示す塩基配列を有するポリヌクレオチド(3’−GCGTTACATTGCG−5’、以下、「TrichC」と略記することがある)と、を溶解させた。次いで、90℃で5分加熱した後、ゆっくりと室温まで冷却することでハイブリダイゼーションさせて、これらポリヌクレオチドの二重鎖を含む、pHが異なる各種溶液を調製した。ODN1とTrichCの使用量は、前記溶液におけるこれらポリヌクレオチドの二重鎖の濃度が5μMとなるように調節した。
【0248】
次いで、これらのpHが異なる各種溶液について、試験例3の場合と同じ方法で紫外線吸収スペクトル、蛍光スペクトル及び励起スペクトルを測定した。紫外線吸収スペクトルの測定結果を
図4(a)に、蛍光スペクトルの測定結果を
図4(b)に、励起スペクトルの測定結果を
図4(c)に、それぞれ示す。
【0249】
さらに、これらのpHが異なる各種溶液について、加熱しながら吸光度を測定し、熱融解曲線を作成して、前記二重鎖の融解温度(以下、「Tm」と略記することがある)を測定した。このとき得られた熱融解曲線を
図4(d)に示す。
図4(d)のグラフにおける縦軸は標準化吸光度を表し、横軸は加熱温度(℃)を表す。また、Tmの測定値を表1に示す。
【0250】
図4(b)に示すように、前記溶液の蛍光スペクトルでは、pHが低くなるに従って、蛍光発光強度が小さくなっており、前記溶液のpHが低くなるに従ってプロトン化の程度が増大していることを示していた。また、
図4(b)と
図3(b)とで、pH7.0〜8.0等の領域における同じpHでの蛍光スペクトルを比較すると、ODN1の濃度が同じであるにもかかわらず、
図4(b)の蛍光スペクトルの方が、全体的に蛍光発光強度が小さかった。これは、弱塩基性の溶液中において、ODN1がTrichCと共存している場合には、ODN1中のBIQ骨格がすでにプロトン化されているのに対し、ODN1が単独で存在している場合には、ODN1中のBIQ骨格がプロトン化されていないか、又はプロトン化の程度が著しく低いことを示していた。
さらに、前記溶液の蛍光スペクトルでは、pHが低くなるに従って、蛍光発光強度が大きい主たるピークの蛍光発光波長が変化していた。特に、蛍光発光強度が最大となるときの蛍光発光波長は、pHが6.5以上の場合には440nm又はその近傍であるのに対し、pHが6.0以下の場合には415nm又はその近傍であり、明りょうな変化が見られた。
さらに、このような短波長側へ変化した蛍光発光は、周辺に存在する核酸塩基の影響により、強く消光されることが判った。すなわち、pHの変化によって、発光波長が変化した蛍光発光の強度は、消光によって小さくなっていた。
これらの結果は、例えば、前記溶液のpHが6.0以下のような酸性条件下の場合、ODN1中のBIQ骨格が、プロトン化されるとともに、TrichC中の対面するシトシンを識別し、このシトシンと安定して塩基対を形成していることを示していた。
【0251】
一方、表1に示すように、TmはpH5.5で最高値となっており、pH6.0でもかなり高く、pHが5.5〜6.0の場合に、前記二重鎖が最も安定して形成されていると推測された。
【0252】
試験例3及び実施例5の結果から、シトシンを有するポリヌクレオチドを含有せず、本発明のポリヌクレオチドからなるプローブを含有する酸性溶液、及びシトシンを有するポリヌクレオチドと、本発明のポリヌクレオチドからなるプローブと、を含有する酸性溶液について、前記プローブの蛍光を測定し、その測定結果から、前記ポリヌクレオチドの含有の有無に基づく、蛍光発光波長の変化を検出することで、解析対象の前記ポリヌクレオチド中のシトシンを検出できることが確認された。
また、実施例5の結果から、シトシンを有するポリヌクレオチドと、本発明のポリヌクレオチドからなるプローブと、を含有し、pHが異なる複数種の溶液について、前記プローブの蛍光を測定し、その測定結果から、前記溶液のpHの違いに基づく蛍光発光波長の変化を検出することで、解析対象の前記ポリヌクレオチド中のシトシンを検出できることが確認された。
【0253】
また、本発明のポリヌクレオチドからなるプローブを含有し、前記プローブと二重鎖を形成し得るポリヌクレオチドを含有しない弱塩基性溶液、好ましくはポリヌクレオチドとして、本発明のポリヌクレオチドからなるプローブのみを含有する弱塩基性溶液、及び本発明のポリヌクレオチドからなるプローブと、前記プローブと二重鎖を形成し得るポリヌクレオチドと、を含有する弱塩基性溶液、の2種の弱塩基性溶液として、前記プローブの濃度が同じであるものを用い、これら2種の弱塩基性溶液について、前記プローブの蛍光を測定し、その測定結果から、蛍光発光強度の違いを検出することで、前記プローブ中の
BIQ骨格のプロトン化の有無を検出できることが確認された。ここで、弱塩基性溶液とは、例えば、pH7.5〜8.0の溶液である。
【0254】
[比較例1]
TrichCに代えて、配列番号3に示す塩基配列を有するポリヌクレオチド(3’−GCGTTAAATTGCG−5’、以下、「TrichA」と略記することがある)を用いた点以外は、実施例5と同じ方法で、二重鎖の形成を試み、紫外線吸収スペクトル、蛍光スペクトル、励起スペクトル及びTmを測定した。TrichAの塩基配列は、中央の塩基がシトシンではなくアデニンである点以外は、上述のTrichCの塩基配列と同じである。紫外線吸収スペクトルの測定結果を
図5(a)に、蛍光スペクトルの測定結果を
図5(b)に、励起スペクトルの測定結果を
図5(c)に、熱融解曲線を
図5(d)に、それぞれ示す。また、Tmの測定値を表1に示す。
【0255】
図5(b)に示すように、TrichAを用いた場合には、前記溶液のpHが低くなるに従って、蛍光発光強度が小さくなっており、前記溶液のpHが低くなるに従ってプロトン化の程度が増大していることを示していた。また、
図5(b)と
図4(b)とで、pH7.0〜8.0等の領域における同じpHでの蛍光スペクトルを比較すると、ODN1の濃度が同じであるにもかかわらず、
図4(b)の蛍光スペクトルの方が、全体的に蛍光発光強度が小さかった。これは、弱塩基性の溶液中において、ODN1がTrichCと共存している場合には、ODN1中のBIQ骨格がすでにプロトン化されているのに対し、ODN1がTrichAと共存している場合には、ODN1中のBIQ骨格がプロトン化されていないか、又はプロトン化の程度が著しく低いことを示していた。
さらに、TrichAを用いた場合には、前記溶液の蛍光スペクトルでは、pHが変化しても、蛍光発光強度が大きい主たるピークの蛍光発光波長に明りょうな変化が見られなかった。より具体的には、蛍光発光強度が最大となるときの蛍光発光波長は、概ねpHによらず440nm又はその近傍であった。この結果には、実施例5の場合と同様に、短波長側での蛍光発光の強い消光作用も関与している可能性がある。
これらの結果は、TrichAの共存下において、ODN1中のBIQ骨格は、前記溶液のpHが低くなるに従ってプロトン化の程度が増大したものの、前記溶液のpHによらず、TrichA中の対面するアデニンを識別せず、このアデニンとは塩基対を形成していないことを示していた。
【0256】
また、表1に示すように、TmはpH6.5で最高値となっており、pH7.0及び7.5でもかなり高いが、いずれも実施例5でのTmの最高値よりも顕著に低かった。このことから、TrichAを用いた場合の二重鎖は、実施例5での二重鎖よりも顕著に不安定であると推測された。
【0257】
[比較例2]
TrichCに代えて、配列番号4に示す塩基配列を有するポリヌクレオチド(3’−GCGTTAGATTGCG−5’、以下、「TrichG」と略記することがある)を用いた点以外は、実施例5と同じ方法で、二重鎖の形成を試み、紫外線吸収スペクトル、蛍光スペクトル、励起スペクトル及びTmを測定した。TrichGの塩基配列は、中央の塩基がシトシンではなくグアニンである点以外は、上述のTrichCの塩基配列と同じである。紫外線吸収スペクトルの測定結果を
図6(a)に、蛍光スペクトルの測定結果を
図6(b)に、励起スペクトルの測定結果を
図6(c)に、熱融解曲線を
図6(d)に、それぞれ示す。また、Tmの測定値を表1に示す。
【0258】
図6(b)に示すように、TrichGを用いた場合には、前記溶液のpHが低くなるに従って、蛍光発光強度が小さくなっており、前記溶液のpHが低くなるに従ってプロトン化の程度が増大していることを示していた。また、
図6(b)と
図4(b)とで、pH7.0〜8.0等の領域における同じpHでの蛍光スペクトルを比較すると、ODN1の濃度が同じであるにもかかわらず、
図4(b)の蛍光スペクトルの方が、全体的に蛍光発光強度が小さかった。これは、弱塩基性の溶液中において、ODN1がTrichCと共存している場合には、ODN1中のBIQ骨格がすでにプロトン化されているのに対し、ODN1がTrichGと共存している場合には、ODN1中のBIQ骨格がプロトン化されていないか、又はプロトン化の程度が著しく低いことを示していた。
さらに、TrichGを用いた場合には、前記溶液の蛍光スペクトルでは、pHが変化しても、蛍光発光強度が大きい主たるピークの蛍光発光波長に明りょうな変化が見られなかった。より具体的には、蛍光発光強度が最大となるときの蛍光発光波長は、概ねpHによらず440nm又はその近傍であった。この結果にも、実施例5の場合と同様に、短波長側での蛍光発光の強い消光作用も関与している可能性がある。
これらの結果は、TrichGの共存下において、ODN1中のBIQ骨格は、前記溶液のpHが低くなるに従ってプロトン化の程度が増大したものの、前記溶液のpHによらず、TrichG中の対面するグアニンを識別せず、このグアニンとは塩基対を形成していないことを示していた。
【0259】
また、表1に示すように、TmはpH7.0で最高値となっており、pH6.5でもかなり高いが、いずれも実施例5でのTmの最高値よりも顕著に低かった。このことから、TrichGを用いた場合の二重鎖は、実施例5での二重鎖よりも顕著に不安定であると推測された。
【0260】
[参考例1]
TrichCに代えて、配列番号5に示す塩基配列を有するポリヌクレオチド(3’−GCGTTATATTGCG−5’、以下、「TrichT」と略記することがある)を用いた点以外は、実施例5と同じ方法で、二重鎖の形成を試み、紫外線吸収スペクトル、蛍光スペクトル、励起スペクトル及びTmを測定した。TrichTの塩基配列は、中央の塩基がシトシンではなくチミンである点以外は、上述のTrichCの塩基配列と同じである。紫外線吸収スペクトルの測定結果を
図7(a)に、蛍光スペクトルの測定結果を
図7(b)に、励起スペクトルの測定結果を
図7(c)に、熱融解曲線を
図7(d)に、それぞれ示す。また、Tmの測定値を表1に示す。
【0261】
図7(b)に示すように、TrichTを用いた場合には、前記溶液のpHが低くなるに従って、蛍光発光強度が小さくなっており、前記溶液のpHが低くなるに従ってプロトン化の程度が増大していることを示していた。また、
図7(b)と
図4(b)とで、pH7.0〜8.0等の領域における同じpHでの蛍光スペクトルを比較すると、ODN1の濃度が同じであるにもかかわらず、
図4(b)の蛍光スペクトルの方が、全体的に蛍光発光強度が小さかった。これは、弱塩基性の溶液中において、ODN1がTrichCと共存している場合には、ODN1中のBIQ骨格がすでにプロトン化されているのに対し、ODN1がTrichTと共存している場合には、ODN1中のBIQ骨格がプロトン化されていないか、又はプロトン化の程度が著しく低いことを示していた。
さらに、TrichTを用いた場合には、前記溶液の蛍光スペクトルでは、pHが変化しても、蛍光発光強度が大きい主たるピークの蛍光発光波長に明りょうな変化が見られなかった。より具体的には、蛍光発光強度が最大となるときの蛍光発光波長は、概ねpHによらず440nm又はその近傍であった。この結果にも、実施例5の場合と同様に、短波長側での蛍光発光の強い消光作用も関与している可能性がある。
【0262】
また、表1に示すように、TmはpH7.5で最高値となっているが、実施例5でのTmの最高値よりも明らかに低かった。このことから、TrichTを用いた場合の二重鎖は、実施例5での二重鎖よりも不安定であると推測された。
ただし、本参考例でのTmの前記最高値は、比較例1及び比較例2でのTmの最高値よりも明らかに高かった。これは、ODN1中のBIQ骨格がプロトン化されていない状態で、アデニンの場合と同様に、TrichT中の対面するチミンを識別して、塩基対を形成しているためであると推測された。
【0263】
【表1】
【0264】
[実施例6]
<縮合物(ポリヌクレオチド)の製造>
DNA鎖の自動合成時における各モノマーの反応順序を変更した点以外は、実施例4と同様の方法で、配列番号6に示す塩基配列を有するポリヌクレオチド(5’−GGTACCANTGAAATA−3’(Nは化合物(5A)−101中のBIQ骨格を有する塩基部位を表す)、以下、「ODN2」と略記することがある)を得た。
【0265】
得られたODN2について、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法(MALDI−TOF−MS)により分析した結果、プロトン付加体イオン[M+H]
+の質量の測定値が4734.13であり、理論値4734.26とほぼ一致した。これにより、ODN2は目的物であることが確認された。
【0266】
[試験例4]
<ポリヌクレオチドにおける光学特性のpH依存性の評価>
[各pH条件下での紫外線吸収スペクトルの測定]
pH4.5〜8.0に調節された、前記(b5)〜(b6)の2タイプの緩衝液、及びpH8.5〜9.0に調節された、前記(b7)のタイプの緩衝液を調製し、これら緩衝液にそれぞれ濃度が5μMとなるように、上記で得られたODN2を溶解させ、pHが異なる各種溶液を調製した。
【0267】
次いで、これらのpHが異なる各種溶液について、紫外可視分光光度計(島津製作所社製「UV−2550」)を用いて、紫外線吸収スペクトルを測定した。結果を
図8(a)に示す。
【0268】
[各pH条件下での蛍光スペクトルの測定]
上記で得られた、pHが異なるODN2の各種溶液について、蛍光光度計(島津製作所社製「RF−5300PC」)を用いて、蛍光スペクトルを測定した。結果を
図8(b)に示す。
【0269】
図8(b)に示すように、ODN2の溶液は、例えば、波長420〜500nmの領域内においては、pHが低くなるほど蛍光発光強度が小さくなる傾向を示し、pHに依存して蛍光発光強度が変化した。これは、ODN2が二重鎖を形成していない状態で、ODN2中のBIQ骨格は、前記溶液のpHが低くなるに従ってプロトン化の程度が増大する(換言すると、前記溶液のpHが高くなるに従って脱プロトン化の程度が増大する)ことを示していた。しかし、蛍光スペクトルにおいて蛍光発光強度が大きい主たるピークの蛍光発光波長に変化がなく、蛍光発光波長に明りょうな変化はなかった。
【0270】
なお、
図8(b)に示す蛍光スペクトルは、濃度が5μMのODN2の溶液のものであり、先の
図2(b)に示す蛍光スペクトルは、濃度が10μMの化合物(1A)−101の溶液のものであって、これら溶液では、目的物の濃度が異なる。しかし、これら蛍光スペクトルのうち、例えば、pH4.5等の酸性条件下で、同じpHでの蛍光スペクトルを比較すると、蛍光発光強度は、
図8(b)では波長が440nm又はその近傍の場合に最大となり、
図2(b)では波長が410nm又はその近傍の場合に最大となるが、その最大値(蛍光発光強度の最大値)は、目的物の濃度の相違を考慮しても、
図8(b)に示す蛍光スペクトルでは、
図2(b)に示す蛍光スペクトルから想定される値よりも明らかに小さくなっていた。すなわち、先に説明したODN1の場合と同様に、化合物(1)の溶液と、本発明のポリヌクレオチドの溶液とで、BIQ骨格の濃度が同じであるもの同士の蛍光発光強度を比較すると、ポリヌクレオチドの溶液の方が、蛍光発光強度が低くなることが確認された。
【0271】
<ポリヌクレオチド中のシトシンの検出>
[実施例7]
pH4.5〜8.0に調節された、前記(b5)〜(b6)の2タイプの緩衝液、及びpH8.5〜9.0に調節された、前記(b7)のタイプの緩衝液を調製し、これら緩衝液に、上記で得られたODN2と、配列番号7に示す塩基配列を有するポリヌクレオチド(3’−CCATGGTCACTTTAT−5’、以下、「BRCA1−C」と略記することがある)と、を溶解させた。次いで、90℃で5分加熱した後、ゆっくりと室温まで冷却することでハイブリダイゼーションさせて、これらポリヌクレオチドの二重鎖を含む、pHが異なる各種溶液を調製した。ODN2とBRCA1−Cの使用量は、前記溶液におけるこれらポリヌクレオチドの二重鎖の濃度が5μMとなるように調節した。
【0272】
次いで、これらのpHが異なる各種溶液について、試験例3の場合と同じ方法で、紫外線吸収スペクトル、蛍光スペクトル及びTmを測定した。紫外線吸収スペクトルの測定結果を
図9(a)に、蛍光スペクトルの測定結果を
図9(b)に、熱融解曲線を
図9(c)に、それぞれ示す。
【0273】
図9(b)に示すように、前記溶液の蛍光スペクトルでは、pHが低くなるに従って、概ね蛍光発光強度が小さくなっており、前記溶液のpHが低くなるに従ってプロトン化の程度が増大していることを示していた。また、
図9(b)と
図8(b)とで、pH7.0〜9.0等の領域における同じpHでの蛍光スペクトルを比較すると、ODN2の濃度が同じであるにもかかわらず、
図9(b)の蛍光スペクトルの方が、全体的に蛍光発光強度が小さかった。これは、上述のODN1の場合と同様の結果であった。すなわち、弱塩基性の溶液中において、ODN2がBRCA1−Cと共存している場合には、ODN2中のBIQ骨格がすでにプロトン化されているのに対し、ODN2が単独で存在している場合には、ODN2中のBIQ骨格がプロトン化されていないか、又はプロトン化の程度が著しく低いことを示していた。
さらに、前記溶液の蛍光スペクトルでは、pHが低くなるに従って、蛍光発光強度が大きい主たるピークの蛍光発光波長が変化していた。より具体的には、pHが7.0以上の場合には概ね440nm又はその近傍のみに主たるピークが存在していた。これに対して、pHが6.5以下の場合には、440nm又はその近傍以外に、390nm又はその近傍にも主たるピークが存在していた。そして、pHが4.5及び5.0の場合には、440nm又はその近傍、及び390nm又はその近傍以外にも、410nm又はその近傍にも主たるピークが存在していた。このように、前記溶液のpHに依存して、蛍光発光波長の明りょうな変化が見られた
さらに、上述のODN1の場合と同様に、このような短波長側へ変化した蛍光発光は、周辺に存在する核酸塩基の影響により、強く消光されることが判った。すなわち、pHの変化によって、発光波長が変化した蛍光発光の強度は、消光によって小さくなっていた。
これらの結果は、例えば、前記溶液のpHが6.5以下のような酸性条件下の場合、ODN2中のBIQ骨格が、プロトン化されるとともに、BRCA1−C中の対面するシトシンを識別し、このシトシンと安定して塩基対を形成していることを示していた。
【0274】
また、
図9(c)に示すように、いずれの溶液でも熱融解曲線はシグモイド曲線となっており、前記二重鎖が形成され、ODN2中のBIQ骨格は、前記溶液のpHが6.5以下の酸性条件の場合にプロトン化されるとともに、BRCA1−C中において対面するシトシンを識別し、このシトシンと安定して塩基対を形成していると判断できた。
【0275】
[参考例2]
BRCA1−Cに代えて、配列番号8に示す塩基配列を有するポリヌクレオチド(3’−CCATGGTTACTTTAT−5’、以下、「BRCA1−T」と略記することがある)を用いた点以外は、実施例7と同じ方法で、二重鎖の形成を試み、紫外線吸収スペクトル、蛍光スペクトル及びTmを測定した。BRCA1−Tの塩基配列は、中央の塩基がシトシンではなくチミンである点以外は、上述のBRCA1−Cの塩基配列と同じである。紫外線吸収スペクトルの測定結果を
図10(a)に、蛍光スペクトルの測定結果を
図10(b)に、熱融解曲線を
図10(c)に、それぞれ示す。
【0276】
図10(b)に示すように、BRCA1−Tを用いた場合には、前記溶液のpHが低くなるに従って、蛍光発光強度が小さくなっており、前記溶液のpHが低くなるに従ってプロトン化の程度が増大していることを示していた。また、
図10(b)と
図9(b)とで、pH7.0〜9.0等の領域における同じpHでの蛍光スペクトルを比較すると、ODN2の濃度が同じであるにもかかわらず、
図9(b)の蛍光スペクトルの方が、全体的に蛍光発光強度が小さかった。これは、弱塩基性の溶液中において、ODN2がBRCA1−Cと共存している場合には、ODN2中のBIQ骨格がすでにプロトン化されているのに対し、ODN1がBRCA1−Tと共存している場合には、ODN2中のBIQ骨格がプロトン化されていないか、又はプロトン化の程度が著しく低いことを示していた。
さらに、BRCA1−Tを用いた場合には、前記溶液の蛍光スペクトルでは、pHが変化しても、蛍光発光強度が大きい主たるピークの蛍光発光波長に明りょうな変化が見られなかった。より具体的には、蛍光発光強度が最大となるときの蛍光発光波長は、概ねpHによらず440nm又はその近傍であった。この結果にも、実施例7の場合と同様に、短波長側での蛍光発光の強い消光作用も関与している可能性がある。
【0277】
なお、pHが7.5である場合のTmは、本参考例では47.9℃であり、実施例7では49.3℃であった。このように、前記Tmが、実施例7よりも本参考例の方が明らかに低かったことから、BRCA1−Tを用いた場合の二重鎖は、BRCA1−Cを用いた場合の二重鎖よりも、不安定であると推測された。