特許第6710040号(P6710040)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6710040
(24)【登録日】2020年5月28日
(45)【発行日】2020年6月17日
(54)【発明の名称】唾液分泌促進剤及び口腔用組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/10 20160101AFI20200608BHJP
   A23G 4/06 20060101ALI20200608BHJP
   A23G 3/34 20060101ALI20200608BHJP
   A23L 21/10 20160101ALI20200608BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20200608BHJP
   A61K 31/19 20060101ALI20200608BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20200608BHJP
   A61K 9/68 20060101ALI20200608BHJP
【FI】
   A23L33/10
   A23G4/06
   A23G3/34 101
   A23L21/10
   A61P1/02
   A61K31/19
   A61K9/20
   A61K9/68
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-218776(P2015-218776)
(22)【出願日】2015年11月6日
(65)【公開番号】特開2017-85943(P2017-85943A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2018年8月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000228
【氏名又は名称】江崎グリコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 峰峰
【審査官】 飯室 里美
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/087401(WO,A1)
【文献】 特開2007−262050(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/088314(WO,A1)
【文献】 特表2008−540632(JP,A)
【文献】 特開2014−148501(JP,A)
【文献】 特表2006−528662(JP,A)
【文献】 特表2005−515186(JP,A)
【文献】 特開2015−000868(JP,A)
【文献】 特開2015−000056(JP,A)
【文献】 特表2012−515545(JP,A)
【文献】 FFI Journal, 2014, Vol.219, p.126-133
【文献】 The Natural Products Journal,2015年,Vol.5,No. 3,p.199-205
【文献】 J.Agric.Food Chem., 2008, Vol.56, p.597-601
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 33/00
A23G
A61K 31/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3,7−ジメチル−2,6−オクタジエノイック アシッド及び3,7−ジメチル−6−オクテノイック アシッドからなる群から選ばれる少なくとも1種からなる唾液分泌促進剤。
【請求項2】
3,7−ジメチル−2,6−オクタジエノイック アシッド及び3,7−ジメチル−6−オクテノイック アシッドからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、唾液分泌促進用口腔用組成物(但し、シトラールを含む口腔用組成物を除く)。
【請求項3】
チューインガム、ハードキャンデー、ソフトキャンデー、グミ、タブレット又はゼリーである請求項2に記載の唾液分泌促進用口腔用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、唾液分泌促進剤及び口腔用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
口腔内の自浄作用を高める、口腔内の乾きを癒す、口臭の予防改善等のため、チューインガム、ソフトキャンデー、ハードキャンデー、グミ、タブレット等の口腔用組成物によって口腔内の唾液分泌を促進させる手段は一般的に知られている。
【0003】
通常は、食品を咀嚼すると唾液が分泌されるが、近年は自己免疫疾患、糖尿病、臓器障害等の各種疾患、薬剤の副作用、癌の治療による放射線治療等の様々な要因によって唾液分泌の低下を訴える人が増加している。また、健康な状態であっても、緊張状態、高いストレスを感じた時、運動した後等に唾液の分泌が低下することがある。さらに高齢者の場合は、老化による唾液腺機能の低下や、高齢者特有の慢性疾患に対する各種治療薬により唾液の分泌が低下することが知られている。そのため、より唾液の分泌を促進する手段として、クエン酸等の有機酸、植物や生薬由来の抽出物等を利用した、味覚を通した唾液分泌促進方法は既に多数報告されている(特許文献1〜9)。
【0004】
特許文献1、2及び3で使用される有機酸は実施例等より、クエン酸、リンゴ酸等の酸味料に分類される有機酸である。酸味刺激による唾液分泌は経験上知られている通りだが、酸味による刺激は非常に強く、唾液分泌促進剤として利用するには用途が極めて制限される。また、溶解性が高いため、酸味刺激の消失が早く、唾液分泌促進効果が持続しない、多量に使用すると歯牙の脱灰を促進するなどの問題を有している。そのため、効果の持続性や、用途の拡大、安全性を高めるため、植物由来の抽出物や糖アルコール等を併用することで改善を計っている。
【0005】
特許文献4及び5では様々な植物抽出物を唾液分泌促進剤として利用しているが、いずれも特徴的な香り、特徴的な刺激(渋味や辛味等)を伴い、一般的な食品類に唾液分泌促進剤として使用するには酸味刺激以上に用途が限られる。
【0006】
特許文献6及び7では、唾液分泌促進剤として酸味料では無く香料製剤を使用している。
【0007】
特許文献8及び9は、薬剤を用いた唾液分泌促進剤が報告されているが、これら薬剤には頭痛、悪心、嘔吐、下痢等、広範な副作用が指摘されており、一般的な食品用途には適さないと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2013-12454
【特許文献2】特開平11-71253
【特許文献3】特開平10-182392
【特許文献4】特開2002-265375
【特許文献5】特開2005-162633
【特許文献6】特開2011-102279
【特許文献7】特開2003-40752
【特許文献8】特開平8-12575
【特許文献9】特開2001-64203
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、特徴的な香りや、特徴的な刺激(酸味や渋味等)によって用途が限られない唾液分泌促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の唾液分泌促進剤及び口腔用組成物を提供するものである。
項1. 炭素数9〜20の有機モノカルボン酸からなる唾液分泌促進剤。
項2. 直鎖又は分岐を有し、置換されていてもよい炭素数9〜20の飽和又は不飽和脂肪族有機モノカルボン酸を含む、項1に記載の唾液分泌促進剤。
項3. 直鎖又は分岐を有する炭素数9〜20の脂肪族不飽和有機モノカルボン酸を含む、項2に記載の唾液分泌促進剤。
項4. テトラデカノイック アシッド、トリデカノイック アシッド、ドデカノイック アシッド、ウンデカノイック アシッド、3,7−ジメチル−2,6−オクタジエノイック アシッド、3,7−ジメチル−6−オクテノイック アシッド、デカノイック アシッド、ノナノイック アシッド及び3−フェニル−2−プロペノイック アシッドからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、項1に記載の唾液分泌促進剤。
項5. 項1〜4のいずれか1項に記載の少なくとも1種の唾液分泌促進剤を含む、口腔用組成物。
項6. チューインガム、ハードキャンデー、ソフトキャンデー、グミ、タブレット又はゼリーである項5に記載の口腔用組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明の唾液分泌促進剤は、優れた唾液分泌促進効果を有しているが、特徴的な香りや刺激が無いため、様々な口腔用組成物に使用出来る。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明では、唾液分泌促進のために炭素数9〜20の有機モノカルボン酸を使用する。有機モノカルボン酸の炭素数は、9〜20,好ましくは9〜18,より好ましくは9〜16、特に9〜14である。有機モノカルボン酸としては、置換されていてもよい脂肪族(飽和、不飽和)モノカルボン酸、脂環式(飽和、不飽和)モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸が挙げられる。脂肪族(飽和、不飽和)モノカルボン酸、脂環式(飽和、不飽和)モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸の置換基としては、フェニル基、OH、メトキシ、エトキシなどが挙げられ、分岐を有する有機モノカルボン酸は、炭素数1〜4のアルキル基(メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル)を分岐鎖として含んでいてもよい。脂肪族不飽和モノカルボン酸の不飽和(炭素-炭素二重結合)の数は、1〜3,好ましくは1〜2である。脂肪族(飽和、不飽和)モノカルボン酸は直鎖であっても分岐を有していてもよく、フェニル基などのアリール基を置換基として有していてもよい。好ましい炭素数9〜20の有機カルボン酸は、フェニル基で置換されていてもよい直鎖又は分岐を有する脂肪族(飽和、不飽和)モノカルボン酸であり、より好ましくはテトラデカノイック アシッド、トリデカノイック アシッド、ドデカノイック アシッド、ウンデカノイック アシッド、3,7−ジメチル−2,6−オクタジエノイック アシッド、3,7−ジメチル−6−オクテノイック アシッド、デカノイック アシッド、ノナノイック アシッド及び3−フェニル−2−プロペノイック アシッドである。
【0013】
有機モノカルボン酸は、単独で使用しても唾液分泌促進効果があるが、2種以上を併用することで1つの成分の配合量を下げることができ、特徴的な香りや刺激を低減し、口腔用組成物への配合を容易にすることができる。
【0014】
唾液分泌効果のある炭素数9〜20の有機モノカルボン酸を配合する口腔用組成物としては、チューインガム、ハードキャンデー、ソフトキャンデー、グミ、タブレット、ゼリーなどが挙げられる。口腔用組成物への炭素数9〜20の有機モノカルボン酸の配合量(2種以上の炭素数9〜20の有機モノカルボン酸を使用する場合には合計量)は、唾液分泌が促進され、特徴的な香りや刺激が口腔用組成物の風味に悪影響を与えない限り特に限定されないが、好ましくは0.0001〜0.5質量%、より好ましくは0.0005〜0.3質量%、さらに好ましくは0.001〜0.1質量%、特に0.005〜0.05質量%である。
【0015】
口腔用組成物がチューインガムの場合、炭素数9〜20の有機モノカルボン酸は糖衣層などのコーティング層に含まれていてもよいが、ガムベース、糖アルコール(キシリトール、マルチトール、マンニトール、ソルビトール、エリスリトールなど)、高甘味度甘味料(アスパルテーム、アセスルファムK,スクラロース)などの甘味成分、還元水飴、グリセリン、香料などとともにガムベース層に含まれているのが唾液分泌促進の持続性のために好ましい。
【0016】
口腔用組成物が グミの場合、ゼラチン、水、蔗糖、水あめ、糖アルコールなどの糖質、香料、色素等の添加剤とともに炭素数9〜20の有機モノカルボン酸を配合し、混合・乾燥して得ることができる。
【0017】
口腔用組成物がハードキャンデーの場合、水に糖類と水あめと炭素数9〜20の有機モノカルボン酸を溶解し、水を蒸発させながら煮つめることで得ることができる。糖類としては砂糖、ブドウ糖、果糖、ブドウ糖果糖液糖、果糖ブドウ糖液糖、砂糖混合ブドウ糖果糖液糖、砂糖混合果糖ブドウ糖液糖、乳糖、糖アルコールなどが挙げられ、砂糖が好ましい。ハードキャンデーには、さらに、香料、色素、乳製品、油脂などを配合してもよい。
【0018】
口腔用組成物がソフトキャンデーの場合、1種以上の糖類(砂糖、ブドウ糖、果糖、ブドウ糖果糖液糖、果糖ブドウ糖液糖、砂糖混合ブドウ糖果糖液糖、砂糖混合果糖ブドウ糖液糖、乳糖、糖アルコール、水飴及び粉飴など)、とともに炭素数9〜20の有機モノカルボン酸を配合し、常法に従い製造することができる。ソフトキャンデーには、さらに、香料、色素、ゼラチンなどを配合してもよい。ソフトキャンデーには、グミを配合してもよく、この場合、ソフトキャンデーに炭素数9〜20の有機モノカルボン酸を配合してあれば、グミに炭素数9〜20の有機モノカルボン酸を配合してもしなくてもよい。
【0019】
口腔用組成物がタブレットの場合、タブレットは、炭素数9〜20の有機モノカルボン酸と砂糖、ブドウ糖、果糖、ブドウ糖果糖液糖、果糖ブドウ糖液糖、砂糖混合ブドウ糖果糖液糖、砂糖混合果糖ブドウ糖液糖、乳糖、糖アルコール、水飴及び粉飴等の糖類を混合し、打錠して得ることができる。タブレットには香料、色素などを配合してもよい。
【0020】
口腔用組成物がゼリーの場合、カラギナン、ゼラチン、寒天、ペクチン、キサンタンガム、ローカストビーンガム、ジェランガム、グルコマンナン、アルギン酸塩、タマリンドガム等のゲル化剤と炭素数9〜20の有機モノカルボン酸を水に加熱溶解し、冷却固化することで製造できる。糖類、果汁、果肉、コーヒー、酒類、香料、酸味料などを添加してもよい。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例と比較例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
実施例1〜7及び比較例1〜31
表1に示す配合で、試験用香料製剤もしくは各種チューインガム用香料製剤、ガムベース、甘味料(糖類、高甘味度甘味料)をガムミキサーに投入し、15分間混合の後に取り出し、エクストルーダーにて押し出し、圧延ロールで圧延し、カッターロールで一般的な板状ガム(厚み1.9mm×長さ50mm×幅19mm、重量2g/枚)に裁断した。試験用香料製剤の組成は表2に示すように香気成分10質量%、香料用溶剤90質量%であるので、板状ガムには、実施例1〜7と比較例1〜20の香気成分は1.0質量%×10%=0.1質量%含まれている。比較例21〜31の香料成分は、香料用溶剤が多量に含まれている各種チューインガム用香料をそのまま使用した。
【0022】
得られたチューインガム1枚を専門パネラー5名に喫食させて、表3に示す項目について官能評価を行った。
【0023】
表3中の潤い感と刺激は、以下の基準に従い評価した。また、R-OH:アルコール類、
R-CHO:アルデヒド類、R-COOH:モノカルボン酸類を意味する。
【0024】
潤い感:チューインガム咀嚼中に口腔内が唾液で潤う感覚
5:非常に強く潤いを感じる
4:かなり潤いを感じる
3:潤いを感じる
2:やや潤いを感じる
1:潤いを感じない
刺激:特徴的な味や香りによる、不快な刺激の有無
無:不快な刺激が無い
弱:不快な刺激がある
強:不快な刺激が強い
【0025】
【表1】
【0026】
【表2】
【0027】
【表3】
【0028】
炭素数が9以上のモノカルボン酸類(R-COOH)は潤い感が強く、且つ特徴的な味や香りによる、不快な刺激も無いことが確認された。
【0029】
実施例8〜19
表4に示すように、香気成分として、実施例1〜7の有機モノカルボン酸の2〜7種の組み合わせを使用して同様の官能評価(潤い感、刺激)を行った。結果を表4に示す。
【0030】
【表4】
【0031】
表3より、特に潤い感の強かった、実施例3及び4を主体に、複数組合せるといずれも高い潤い感を示した。炭素数9以上の酸類に分類される香気成分を2種以上適宜組み合わせることが望ましい。
試験例1
実施例1〜19及び比較例4、13、20、21、23、26、30の香気成分を添加したチューインガムの唾液分泌量及びその増加率を表5に示す。表5の唾液量は、専門パネラー8名の平均値である。
【0032】
各チューインガムを咀嚼したときの唾液分泌量を以下のように測定した。
唾液分泌量の測定方法
(i)試験1時間前から被験者(専門パネラー5名)の飲食や喫煙を禁止した。
(ii)チューインガム1枚(2g)を10分間咀嚼した。
(iii)咀嚼中は唾液を飲み込まず、咀嚼開始から終了まで、すべての唾液を採取した。
【0033】
結果を表5に示す。
【0034】
【表5】
【0035】
表3及び4の官能評価(潤い感)と表5の唾液分泌量には相関関係が確認された。