特許第6710406号(P6710406)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6710406プレス金型およびプレス機械、ならびに金型の成形確認方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6710406
(24)【登録日】2020年5月29日
(45)【発行日】2020年6月17日
(54)【発明の名称】プレス金型およびプレス機械、ならびに金型の成形確認方法
(51)【国際特許分類】
   B21D 37/14 20060101AFI20200608BHJP
   B30B 15/06 20060101ALI20200608BHJP
   B30B 15/28 20060101ALI20200608BHJP
   B30B 15/14 20060101ALI20200608BHJP
【FI】
   B21D37/14 J
   B30B15/06 D
   B30B15/28 Q
   B30B15/14 C
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-99096(P2016-99096)
(22)【出願日】2016年4月25日
(65)【公開番号】特開2017-196659(P2017-196659A)
(43)【公開日】2017年11月2日
【審査請求日】2019年2月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】519019115
【氏名又は名称】合同会社竹とんぼ技術設計
(72)【発明者】
【氏名】小森 一正
【審査官】 山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】 実開平01−139933(JP,U)
【文献】 実開平01−172499(JP,U)
【文献】 特開2005−131671(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 37/14
B30B 15/00 − 15/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下型の嵌合面、すなわち下型上面もしくは上型下面の何れか一方に固定される嵌合基準ブロックであって、上下型の嵌合時の相手型との接触面においては、成形の正の基準と一対一に関連付けた接触基準として形成され、上下型の成形面を成形解析結果と一致する位置関係に規制し、かつ、縦歪を上下型の間の加圧力へ変換可能な面積精度を有する構造体を成し、その構造体側面に歪ゲージを取付けたことを特徴とする嵌合基準ブロック。
【請求項2】
請求項1記載の嵌合基準ブロックと、2点以上の加圧ポイントを有するプレス機械において、全箇所の加圧ポイントの各々のダイハイト調整機に、1対のクラッチとブレーキを、当該ダイハイト調整機に対として配置し、1台のモータでダイハイト調整機を個別に調整可能とすることを特徴とする多点ダイハイト調整装置と、2点以上の加圧ポイントを有するプレス機械において、全箇所の加圧ポイントの各々のオーバーロードプロテクタ油圧室に、パイロット操作逆止弁を当該オーバーロードプロテクタ油圧室の対として配置し、当該逆止弁の逆止機能を有効として当該オーバーロードプロテクタ油圧室を他油圧室から遮断し、前記多点ダイハイト調整装置を用いて当該オーバーロードプロテクタ油圧室の圧縮量を調整し、プレス機械の加圧ポイント毎の加圧力を調整可能とすることを特徴とする多点オーバーロードプロテクタ油圧調整装置とを有する2点以上の加圧ポイントを有するプレス機械であって、前記嵌合基準ブロックの前記歪ゲージからの歪ゲージ信号を受取れるインターフェース機能を有することを特徴とするプレス機械。
【請求項3】
請求項記載のプレス機械に用いる制御装置であって、前記嵌合基準ブロックの前記歪ゲージの歪ゲージ信号を加圧力へ変換し、その加圧力を、成形解析結果の加圧力と一致させるように、前記多点ダイハイト調整装置と前記多点オーバーロードプロテクタ油圧調整装置を調整することを特徴とする制御装置。
【請求項4】
請求項記載の制御装置を用いたプレス金型の成形確認方法であって、前記嵌合基準ブロックの前記歪ゲージの前記歪ゲージ信号を変換して得られる前記加圧力を、成形解析結果の加圧力と一致させるように、前記多点ダイハイト調整装置と前記多点オーバーロードプロテクタ油圧調整装置を調整することを特徴とするプレス金型の成形確認方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のプレス部品製造におけるプレス金型を用いた加工において、解析結果を実現するプレス機械と、その機械を用いた金型の成形確認方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用プレス部品を生産するプレス金型(以下、金型という)は、電子計算機による解析技術とNC加工等を用いて設計、製作されるが、実際には解析結果と一致する成形結果が得られず、成形結果を熟練技能者が判定して成形調整として金型の修正を行っている。
【0003】
金型の解析技術は、大きく分けて成形解析と構造解析(剛性解析とも言う)の2種類がある。成形解析は、被成形物の「応力−歪」特性に基づく非線形領域の塑性変形解析が主体であり、金型がプレス機械から受ける加圧力が均一であることを前提に、意図した塑性変形に必要な加圧力と変形量を被成形物に印加可能な形状面を決定する。構造解析は、成形解析結果の加圧力分布に対して、成形に影響を及ぼさない剛性を有する構造を解析し決定している。
【0004】
金型の成形調整作業は、実際の成形結果物や、光明丹や圧力測定フィルム等を用いた面当り状態や、ヒューズや粘土等を用いた上下成形面間等の隙の確認や測定によって、熟練技能者が成形時の状態を推測し、金型の修正を行っている。これらの調整用具は、調整範囲とその調整量を定量的に明示すものではないため、技能者が、自身の技能と経験に基づいて独自の判定を行っている。このため、技能者毎に修正方針は異なるが、修正と確認を何度も繰り返すことは共通する。実際に生産を開始する以前、金型の組付け完成直後から、トライプレスと呼ぶ金型の成形調整用プレスで何度も成形調整を行い、その後も、生産ラインで、成形確認と調整を行うため、金型の成形調整には長期を費やしている。近年の測定技術の発達に伴い、成形結果物と金型の成形部形状を測定し、その結果を元に成形解析を再実行して金型を調整加工する方法も行われている。この方法は、熟練技能者の不足や技能者間の能力差の緩和に効果はあるが、金型すなわち成形の初期品質の劇的な向上には至っていない。
【0005】
技能者による成形調整では、成形面の形状の調整に加え、上下型の位置関係についても、被成形物の厚みのばらつきも考慮して調整する。上下型の位置関係の調整には、完全に上下型を押切った状態で、過剰押下を防止し、かつ上下成形面の位置関係を決定する押切りブロックが用いられている。この押切りブロックは、上型全体と下型全体の鉛直方向の位置関係を決定するものであり、成形調整の過程で成形調整の一部として調整され、成形および押切り状態の調整結果として、最後に完成される。
【0006】
光明丹や圧力測定フィルムに代わる金型内の成形状態を知る工学的方法として、成形面もしくはその内部に歪ゲージを取付けて歪を測定する方法(特許文献1)が発明されている。しかし、歪は無次元で物理量を持たないため、自身の経過変化のような相対比較としては有効であるが、他と相対比較するためには、物理量への変換が必要であり、この点で、実用化には多くの課題がある。
【0007】
成形に関わる主要装置であるプレス機械のダイハイト調整装置とオーバーロードプロテクタ装置を説明する。なお、説明は、以降も含め、自動車用プレス部品の生産現場で最も一般的な4ポイントのプレス機械、すなわち、スライドが4本のプランジャロッドで駆動装置と連結されたプレス機械を例にする。
【0008】
ダイハイト調整装置を説明する。ダイハイト調整装置は、プレス機械のダイハイト、すなわちスライド下死点におけるポルスタプレート(もしくはベッド)上面からスライド底面までの、金型の押切り高さを調整する装置である。ダイハイト調整装置は、プランジャロッド毎に組付けられたダイハイト調整機を全て機械的に連結し、1台のモータで同期運転する。ダイハイト調整機は、ウォームネジとウォームホイールネジを対として構成される。ウォームネジは他のダイハイト調整機と駆動モータとに機械的に連結され、ウォームホイールネジは、プランジャロッドに組付けられ、ダイハイト調整機本体はスライドに固定されている。ウォームホイールネジは、ウォームネジにより回転され、プランジャロッドに対する位置が調整され、これによりスライド調整機が固定されたスライド位置が上下し、ダイハイトが調整される。
【0009】
ダイハイトとスライド平行度の関係を説明する。一般にダイハイト調整量は、数十〜数百[mm]であり、前項説明のように、1台のモータで機械的に同期運転される。スライド平行度は、ダイハイト調整機の組付け状態により決定され、任意調整はできない。スライド平行度は成形に影響するため、JISにて精度等級の一部として制定されている。自動車用プレス部品用のプレス機械は、通常、JIS等級の1級であり、例えば、ダイスペース長4[m]のスライド平行度の許容差は、0.44[mm]である。スライド平行度の金型への影響の一例として、下死点でダイハイト調整装置を駆動する際に平行度が許容値を外れると、上下型の水平方向の位置関係を規制するガイド等の規制部で、干渉不具合の原因となる。以上、ダイハイト調整装置とスライド平行度は密接に関係し、ダイハイトの調整運転中においても、スライド平行度を許容値内に保つ必要がある。
【0010】
一部のプレス機械において、スライドの平行度を調整する方法として、各々のダイハイト調整機を個別のモータで独立して調整する方法(特許文献2)や油圧シリンダを用いた平行度調整装置(特許文献3)が発明されている。しかし、両発明とも各調整軸間の機械的な同期構造を有せず、ダイハイトの調整の過程で平行度を許容値内に保つ制御等の付加的な機構を必要とする。また、個別モータ方式(特許文献2)は、広い設置スペースを必要とする。油圧シリンダ方式(特許文献3)は、構造が複雑である上、オーバーロードプロテクタ装置に能動的な伸縮機能を付加したものであり、プレス加圧時の圧縮時の補正や油の粘度の温度変化等に対して、さらに高度の制御を必要とする。
【0011】
また、近年、プレス機械の駆動源としてサーボモータを使った、通称、サーボプレスが実用化されていて、一部のサーボプレスでは、加圧点毎に設けたサーボモータを同期させて下死点停止させている。この形態のサーボプレスにおいても、個別のモータで独立して調整する方法(特許文献2)と同様に、同期性が不安定で動作中の平行度の保持が課題である。加えて、下死点位置自体と下死点位置での平行度の双方が、サイクル毎で精度差を有し再現性がない。サーボプレスの平行度に関しては、その平行度の維持機構が数多く発明されているが、発明の多さが平行度に関する課題の大きさの査証でもある。
【0012】
オーバーロードプロテクタ装置を説明する。プレス機械の加圧点である各プランジャロッドの直下にオーバーロードプロテクタと呼ぶ油圧室が存在する。オーバーロードプロテクタ(油圧室)は、油圧ダンパーと同等の機構であり、下死点での押切り時に圧縮による反力を発生するのみで、能動的な伸縮機能は有しない。オーバーロードプロテクタ装置は、オーバーロードプロテクタ油圧室を全て油圧配管で接続し、共通の油圧が供給される。オーバーロード発生時には、この油圧供給が停止され、かつ、オーバーロードプロテクタ内の油圧が排出され、圧縮による反力が減じられる。オーバーロードプロテクタ装置は、ダイハイト調整装置と密接に関連しており、金型のダイハイト(上下型押切り時の高さ)よりプレス機械のダイハイト(下死点でのスライド高さ)を低く設定することで、下死点でオーバーロードプロテクタが圧縮され反力が発生し、この反力がプレス機械の加圧力である。一般に、プレス機械は汎用機と位置付けられ、金型に対しては均等な加圧力を発生する前提で設計され、全てのオーバーロードプロテクタは、前述のように油圧配管で相互に接続され、かつ油圧源も同一であり、全オーバーロードプロテクタの反力である加圧力はその圧縮量に関係なく均等となる。
【0013】
オーバーロードプロテクタ装置の油圧調整は、類似発明として、オーバーロードプロテクタによる平行度調整装置(特許文献4)やシリンダによる平行度調整装置(特許文献5)が発明されている。両発明ともスライド平行度調整を目的とするが、プレス加圧点の油圧を調整する技術を共通とする。両発明とも、能動的な油圧調整方式であるため、高額な油圧装置を必要とし、かつ油圧の粘度の温度変化や圧縮量によるばらつきが大きく、高精度の制御を必要とする。
【0014】
以上は、金型の製作から調整まで、実際の生産に移行する前の技術背景である。生産に移行後は、金型の成形調整過程で得られたダイハイト値等のプレス機械の調整結果を生産要件として、生産段取り時に、プレス機械を調整している。しかし、生産移管等によりプレス機械を変更した場合や、プレス機械もしくは金型の保全内容によっては、再度の成形確認と調整を必要としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2010−115702号公報
【特許文献2】特開2001−121297号公報
【特許文献3】特開2010−131620号公報
【特許文献4】特開2001−71198号公報
【特許文献5】特開2009−178726号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
解析技術とNC加工等を用いて設計、製作した金型を用いた実際のプレス成形において、解析結果と一致した成形結果が得られない。この主たる原因は、解析技術の中で簡略化や単純化した因子、すなわちプレス機械や金型の精度差等の因子が、実際には成形に影響するためである。これら因子の成形への影響に対しての定量的な要因分析も不十分で、この部分の解析技術が確立していない。また、成形結果の解析技術への帰還も不完全であり、解析技術の性能の向上も限定される。以上により、本発明は、前提条件や演算過程を含めた解析技術と比較可能な成形の実態を検知する手段を提供し、その手段を用いてプレス機械と金型の成形影響因子を排除もしくは極小化する手段を提供することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の嵌合基準ブロックは、上下型の嵌合面、すなわち下型上面もしくは上型下面の何れか一方に固定され、上下型の嵌合時の相手型との接触面を、成形の正の基準と一対一に関連付けた接触基準として形成することにより、上下型の成形面を成形解析結果と一致する位置関係に規制し、かつ、上下型の間の縦歪を加圧力へ変換可能な面積精度を有する構造体を成し、その構造体側面に歪ゲージを取付けて成り、この嵌合基準ブロックを金型内の要所に配置し、上下型の嵌合押切り状態において、上下型の成形面の位置関係を成形解析結果と一致するよう規制し、かつ加圧力分布を成形解析結果と一致させる指標とすることを特徴とする。
【0018】
本発明の多点ダイハイト調整装置は、プレス機械と金型の成形影響因子を排除もしくは影響を極小化して、成形解析結果と一致する嵌合押切り状態を実現することを目的とし、嵌合基準ブロックから得られる加圧力情報である実測値と、当該嵌合基準ブロック部の加圧力の成形解析結果である設定値とを比較し、仮に実測値が設定値より低い部分に対しては、当該部分のダイハイト調整機のみのクラッチを接続し、かつ対となるブレーキを解放して、調整モータを駆動して、実測値が設定値の許容範囲内に入るまでダイハイトを下降させ、仮に、実測値が設定値より高い部位に対しては、同様にクラッチとブレーキとモータの操作を用いて必要箇所のみを駆動し、実測値が設定値の許容範囲内に入るまでダイハイトを上昇させる機能を有することを特徴とする。
【0019】
本発明の多点オーバーロードプロテクタ油圧調整装置は、プレス機械と金型の成形影響因子を排除もしくは影響を極小化して、成形解析結果と一致する嵌合押切り状態を実現することを目的とし、偏荷重に対応してプレス機械の出力バランスを変更する場合において、嵌合基準ブロックから得られる加圧力情報である実測値と、当該嵌合基準ブロック部の加圧力の成形解析結果である設定値とを比較し、変更が必要なオーバーロードプロテクタと対となるパイロット操作逆止弁の逆止機能を有効として当該オーバーロードプロテクタを他油圧室から遮断し、かつ、当該オーバーロードプロテクタ部の上記ダイハイト調整機を用いて、仮に増圧が必要な場合は、実測値が設定値の許容範囲内に一致するまでダイハイトを下降し、仮に減圧が必要な場合は、実測値が設定値の許容範囲内に入るまでダイハイトを上昇させて、金型内の加圧力分布を成形解析結果と一致させる調整機能を有するパイロット操作逆止弁を用いたことを特徴とする。
【0020】
本発明のプレス機械は、上記嵌合基準ブロックと、上記多点ダイハイト調整装置と、上記多点オーバーロードプロテクタ油圧調整装置を有する2点以上の加圧ポイントを有するプレス機械であって、上記嵌合基準ブロックの上記歪ゲージからの歪ゲージ信号を受取れるインターフェース機能を有することを特徴とする。
【0021】
本発明の制御装置は、上記プレス機械に用いる制御装置であって、上記嵌合基準ブロックの上記歪ゲージからの上記歪ゲージ信号を加圧力へ変換し、当該加圧力を、成形解析結果の加圧力と一致させるように、上記多点ダイハイト調整装置と上記多点オーバーロードプロテクタ油圧調整装置を調整することを特徴とする。
【0022】
詳細には、本発明の制御装置は、上記嵌合基準ブロックに対し上記嵌合基準ブロック毎に対応する管理番号を付与し、当該管理番号と、当該管理番号毎に、上記歪ゲージからの上記歪ゲージ信号を加圧力に変換する変換係数と、成形解析結果もしくは上記プレス機械で実測した全ての上記嵌合基準ブロックの加圧力における、成形調整および成形品質確認時に設定値として用いる、実負荷時の成形余裕加圧力上限値および下限値と、それら成形余裕加圧力上下限値の中央範囲の加圧力中央上限値および下限値と、成形調整および金型段取り時に設定値として用いる、無負荷時の無負荷加圧力上限値および下限値と、同じく成形調整および成形品質確認時に設定値として用いる、実負荷時の加圧力分布が成形解析結果の加圧力分布と一致する時の全ての加圧点の上記多点ダイハイト調整装置の実測値から得られるダイハイト設定上限値および下限値と、全ての上記多点オーバーロードプロテクタ油圧調整装置の上記パイロット操作逆止弁の逆止機能の設定状態と、上記多点ダイハイト調整装置が実負荷時の加圧力分布を成形解析結果の加圧力分布と一致させるダイハイト値である時の、実負荷時と無負荷時双方の全ての加圧点のオーバーロードプロテクタ油圧の実測値から得られる実負荷出力上限値および下限値と無負荷出力上限値および下限値とを、生産要件として金型毎に記憶する機能を有し、かつ、上記嵌合基準ブロックの上記歪ゲージからの上記歪ゲージ信号を、上記嵌合基準ブロックに対応する管理番号毎に、加圧力に変換する演算機能を有し、かつ、生産時において、全ての上記嵌合基準ブロックの上記歪ゲージからの上記歪ゲージ信号を変換して得られる加圧力である実測値を、上記嵌合基準ブロックに対応する管理番号毎に、記憶情報である生産要件の成形余裕加圧力上下限値と比較し、仮に実測値が成形余裕加圧力上限値を超えた場合は、当該嵌合基準ブロックの管理番号と過剰加圧警報を出力し、仮に実測値が成形余裕加圧力下限値に満たない場合は、当該嵌合基準ブロックの管理番号と加圧不足警報を出力し、仮に実測値が成形余裕加圧力上下限値内であれば、さらに記憶情報である生産要件の成形余裕加圧力上下限値の中央範囲の加圧力中央上下限値とも比較し、仮に実測値が加圧力中央上下限値内であれば成形状態を良好と判定出力し、仮に実測値が加圧力中央上値を超えた場合は、当該嵌合基準ブロックの管理番号と過剰加圧注意報を出力し、仮に実測値が加圧力中央下限値に満たない場合は、当該嵌合基準ブロックの管理番号と加圧不足注意報を出力する機能を有し、かつ、金型を装着する際に、装着直前の上死点では、上記多点ダイハイト調整装置の全ての上記ダイハイト調整機のダイハイト値である実測値を、記憶情報である生産要件のダイハイト設定上下限値と個別に比較し、仮に実測値がダイハイト設定下限値より低ければ当該ダイハイトを上昇し、仮に実測値がダイハイト設定上限値より高ければ当該ダイハイトを下降して生産要件のダイハイト設定上下限値内に調整し、かつ、上記多点オーバーロードプロテクタ油圧調整装置の上記パイロット操作逆止弁の逆止機能の有効もしくは無効を記憶情報である生産要件と一致した状態に設定し、装着時の下死点では、上記多点オーバーロードプロテクタ油圧調整装置の全ての上記オーバーロードプロテクタの油圧値である実測値を、記憶情報である生産用件の無負荷出力圧上下限値と個別に比較し、仮に実測値が無負荷出力圧上限値を超えた場合は、当該オーバーロードプロテクタ油圧が設定範囲内となるまで対となるダイハイトを上昇し、仮に実測値が無負荷出力圧下限値に満たない場合は、同様に当該オーバーロードプロテクタ油圧が設定範囲内となるまで対となるダイハイトを下降し、仮に実測値が設定範囲内であれば、さらに上記嵌合基準ブロックの上記歪ゲージからの歪ゲージ信号を変換して得られる加圧力を実測値として、生産要件である無負荷加圧力上下限値とを比較し、仮に実測値が無負荷加圧力上限値を超えた場合は、当該嵌合基準ブロックの管理番号とダイハイト過剰下降警報を出力し、仮に実測値が無負荷加圧力下限値に満たない場合は、当該嵌合基準ブロックの管理番号とダイハイト下降不足警報を出力し、仮に実測値が生産要件である無負荷加圧力上下限値内である場合は、装着正常信号を出力する機能を有することを特徴とする。
【0023】
本発明のプレス金型の成形確認方法は、上記制御装置を用いたプレス金型の成形確認方法であって、上記嵌合基準ブロックの上記歪ゲージの上記歪ゲージ信号を変換して得られる上記加圧力を、成形解析結果の加圧力と一致させるように、上記多点ダイハイト調整装置と上記多点オーバーロードプロテクタ油圧調整装置を調整することを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
プレス金型の成形状態を成形解析結果と一致させることができる。例えば、本発明を用いれば、プレス機械と金型の精度差の影響の修正と、金型製作直後のトライプレスによる金型調整過程が不要となり、期間短縮が可能となる。
【0025】
成形解析結果と実際の成形結果との差異の原因を、プレス機械と金型の精度差の影響を排除した解析技術だけの要因に絞り込んだ良質のデータとして、解析技術に帰還することが可能となり、解析技術の性能が向上する。
【0026】
副次的な波及効果として人材の有効活用が可能となる。従来、量産開始後も含め金型調整には、一定以上の技能と経験年数を有する熟練者が必用であった。本発明により、成形状態が数値管理可能となるため、熟練者の作業の大部分が代行可能となる。従って、熟練者を、従来の後追い仕事から、金型製作および成形プロセス革新等の先取り仕事へ振り向けることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】嵌合基準ブロックの説明図である。
図2】嵌合基準ブロックの機能を説明するための上下型の嵌合押切り状態を示した説明図である。
図3】嵌合基準ブロックの配置例を示した説明図である。
図4】4ポイントプレス機械における多点ダイハイト調整装置の説明図である。
図5】4ポイントプレス機械における多点オーバーロードプロテクタ油圧調整装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
金型設計における解析技術には、成形解析と構造解析とがある。成形解析は、被成形物の「応力−歪」特性に基づき、意図した塑性変形に必要な加圧力と変形量を被成形物に印加できる成形形状を解析し決定する。この成形形状は、被成形物に対し、意図した形状を実現する変形量を決定する「型」となる形状を有する成形面と、被成形物をその「型」に沿わせ、かつ必要な応力を印加するための成形面とが、被成形物を間に挟んで対を成す。構造解析は、成形に必要なプレス機械からの加圧力と金型内の成形荷重の双方に対して、成形に影響しない十分な剛性を有する構造を決定する。これら成形、構造の両解析技術とNC加工を用いて製作した金型において、実際の成形結果が、解析結果と一致しない。この原因は、解析技術の性能に起因するだけでなく、プレス機械の精度差や、金型の製作精度差にも起因する。従って、解析結果と一致する成形結果を得るには、成形結果に影響する因子を、解析技術の性能に関わる因子と、プレス機械と金型に関わる因子とに分離し、解析技術以外の後者の影響を排除もしくは影響を無視できる程度まで極小化することが必要であり、前提条件と演算過程を含む解析技術と比較可能な成形の実態を検知する手段と、その手段を用いたプレス機械と金型の成形影響因子を排除もしくは極小化する手段が必要である。なお、被成形物の厚み等の形状と応力特性のばらつきは、成形余裕の問題として、解析技術の性能の一部に含むべきものである。
【0029】
成形解析結果における、変形量を決定する「型」となる成形面を正の基準(面)とする正の成形面とし、被成形物をその「型」に沿わせ、かつ必要な応力を印加する成形面を従の成形面とする。成形解析結果と一致した成形結果を得るには、プレス成形時の加圧状態、すなわち上下型の嵌合押切り状態において、正と従の両成形面間の位置関係と両成形面間の加圧力分布の双方が、成形解析結果と一致する必要がある。以上より、嵌合押切り状態下で、正と従の両成形面間の位置関係を規制し、かつ両成形面間の加圧力分布を測定する手段として、本発明である嵌合基準ブロック(10)を用いる。
【0030】
嵌合基準ブロック(10)の構造について、図1の嵌合基準ブロック(10)の説明図と、図2の嵌合基準ブロック(10)を用いた上下型の嵌合押切り状態の説明図とを用いて説明する。なお、嵌合基準ブロックは、上下型の何れに取付けても良いが、加圧測定用配線の処理等、段取り性が良い下型への取付けを前提に説明する。図1に示す嵌合基準ブロック(10)は、図2に示す上下型の嵌合押切り状態おいて、正の成形面(21a、22a)と被成形物(23)を挟んで対面する従の成形面(21aに対しては22b、22aに対しては21b)の位置関係を成形解析結果と一致するよう規制する構造体である。従って、嵌合基準ブロックの上面(10a)および同上面(10a)に接触する上型の接触面の双方を、成形の正の基準と一対一に関連付けた嵌合時の接触基準として定め、成形解析にて嵌合基準面として形成する。詳しくは、仮に正の成形面(21a、22a)が上下型に存在する場合には、双方の位置関係が成形解析結果と一致する位置関係に、仮に上下型の一方にしか正の成形面(21aもしくは22a)が存在しない場合でも、正の成形面(21aもしくは22a)と対面する従の成形面(21aに対して22b、22aに対して21b)が成形解析結果と一致する位置関係に規制可能な、正の基準(面)と一対一に関連付けた精度保証された嵌合基準(面)として解析する。嵌合基準面を精度保証する手段例として、嵌合基準ブロックを組付け後に成形の正の基準と一対一に関連付けた嵌合基準面として機械加工を施す。
【0031】
嵌合基準ブロック(10)は、正と従の両成形面間の加圧力分布を測定する手段としても用いる。嵌合基準ブロック(10)は、ボルトによる取付け部(10c)と測定部(10b)とで構成し、測定部(10b)の側面に歪ゲージ(11)を取付ける。嵌合基準ブロック(10)の上面(10a)は平面とし、その上面(10a)と測定部(10b)の側面は垂直を成す。かつ、測定部(10b)における、嵌合基準ブロック上面(10a)と平行な断面の面積精度を保証する。歪ゲージ(11)は、その面積保証された測定部(10b)の側面に、嵌合基準ブロック上面(10a)と垂直方向の縦歪を測定するよう取付ける。嵌合基準ブロック(10)の金型内への取付けは、その上面(10a)が、常に加圧力を垂直に受けるように、取付け部(10c)をボルト固定する。例えば、加圧力が鉛直であれば、嵌合基準ブロック上面(10a)を水平とし、例えば、加圧力が水平であれば、嵌合基準ブロック上面(10a)を鉛直とする等、常に、加圧力の方向が嵌合基準ブロック上面(10a)と垂直を成すように取付ける。成形面の可動方向は加圧力の方向と一致し、その可動は横ずれに対しガイド構造にて規制されているから、嵌合基準ブロック(10)は、嵌合基準ブロック上面(10a)に対して加圧力の方向である垂直方向の位置関係を規制するのみで良い。
【0032】
歪ゲージ(11)の出力信号εは無次元のため、物理量である力[N]へ変換し、成形解析結果と比較する。嵌合基準ブロックの測定部(10b)の弾性係数[Pa]と水平断面積[m]とを乗ずるか、もしくは嵌合基準ブロック(10)をロードセルとして校正し、物理量である力[N]として扱う。嵌合基準ブロックの材質については、耐荷重性と弾性係数の均一性を除いて制約は無く、仮に一般鋼で製作する場合、鋼材の弾性係数は約206GPa(軟鋼で201〜206GPa)であるから、嵌合基準ブロックの水平断面積の製作精度を管理すれば、ロードセル用の校正を行わなくとも、5%以内の精度で加圧力を測定可能である。
【0033】
嵌合基準ブロック(10)に対応するプレス機械の制御装置は、歪ゲージ(11)信号を加圧力へ変換し、成形解析結果の加圧力分布と比較する機能を有する。詳しくは、嵌合基準ブロック(10)へ付与した管理番号と、当該管理番号毎に、弾性係数と水平断面積の積、もしくはロードセルとしての校正係数を、歪ゲージ信号を加圧力へ変換する変換係数として、金型毎に生産要件として記憶する機能を有す。かつ、当該管理番号毎に、当該変換係数と対応する歪ゲージ信号(11)を用いて加圧力へ変換する図1の演算機能(12)も有す。当該管理番号毎に、実際に嵌合基準ブロック(10)から得られる加圧力と、当該嵌合基準ブロック(10)に対する加圧力の成形解析結果とを比較し、嵌合押切り時の加圧力分布を検知、判定する。従って、当発明の嵌合基準ブロック(10)を成形の実態を検知する手段とし、後述の多点ダイハイト装置や多点オーバーロードプロテクタ油圧調整装置を、プレス機械と金型の成形影響因子を排除もしくは影響を極小化する手段として用い、嵌合押切り状態を成形解析結果と一致させる。
【0034】
仮に、上下成形面間の嵌合押切り状態が成形解析結果と一致した状態下でも、意図した成形結果が得られない場合は、成形解析もしくは構造解析もしくはその双方の解析技術の性能の問題であるから、嵌合基準ブロック(10)から得られる加圧力の分布と実際の成形結果の双方を、解析技術に帰還する。前述の「成形結果品と金型の成形部形状を測定比較する方法」は、プレス機械と金型の精度差等の影響を含み、かつ差異の定量的な要因分析にも至っていない。対して、当発明で得られるデータは、プレス機械の精度差等の影響を排除した解析技術だけの要因に絞り込んだ良質のデータである。また、仮に上下成形面間の嵌合押切り状態が成形解析結果と一致せず、部分的に、加圧実測値が設計加圧力の許容下限値に満たない場合は、金型の加工もしくは組付け時の製作上の不良、もしくはその加圧不足部の近傍の剛性不足であり、仮に、加圧実測値が設計加圧力の許容上限値を超える場合は、金型の加工もしくは組付け時の製作上の不良、もしくはその加圧不足部の近傍以外の剛性不足である。仮に剛性不足の場合は、嵌合基準ブロックから得られる加圧力分布の実測値を構造解析に帰還する。以上、本発明の帰還データは、解析技術の要因に限定した良質のものであり、かつ「応力−歪」と比較可能な「力」の数値データであるため、解析技術の向上にも寄与する。
【0035】
嵌合基準ブロック(10)を用いる形態を、図3の嵌合基準ブロックの配置例を用いて説明する。なお、図3の中のLF、RF、LR、RRの記号は、以降の図4図5も含め、4ポイントのプレス機械において、プレス機械の機械中心で前後左右に4分割し、各ポイントすなわち加圧点に対応する区画をプレス機械の呼び名称に合せ、LF=左前、RF=右前、LR=左後、RR=右後と示す。嵌合基準ブロック(10)は、後述の多点ダイハイト調整装置や多点オーバーロードプロテクタ油圧調整装置を用いて、プレス機械と金型の成形に影響する因子を排除もしくは影響を極小化するための指標でもあるため、LF、RF、LR、RRの各加圧ポイントにおける区画の調整指標となるよう全区画に配置する。かつ、正と従の両成形面間の位置関係が、嵌合押切り時に安定を保つよう、バランス良く配置する。取付け位置に関しては、成形面を有する金型の構造体が、構造解析にて成形に影響しない十分な剛性を有することを前提にすれば、嵌合基準ブロック(10)を被成形物と干渉する成形面内に配置する必要は無く、被成形物と干渉しない成形面の近傍に配置する。むしろ、被成形物の厚みのばらつきの影響を受けないよう、被成形物と干渉しない成形面の近傍が望ましい。ただし、クッションパッドやプレッサーパッド等のスプリング機能による押圧構造部で、かつ被成形物の流動に影響しない場合は、この限りでない。なお、特に重点管理が必要な成形部位の近傍に数多く嵌合基準ブロック(10)を配置し、また嵌合基準ブロック(10)をロードセルと同様に校正して用いれば、成形管理の精度向上も可能である。
【0036】
嵌合基準ブロックを(10)を用いるに当たり、全ての嵌合基準ブロック(10)に対し管理番号を付与し、プレス機械の制御装置は、当該管理番号と、当該管理番号毎に、成形解析もしくは実測にて得た、被成形物を成形する負荷時における成形余裕加圧力上限値および下限値と、それら成形余裕加圧力上下限値の中央範囲の加圧力中央上限値および下限値と、さらには、無負荷時の嵌合押切り状態の許容範囲の無負荷加圧力上限値および下限値を、金型毎に生産要件としてプレス機械の制御装置に記憶保管する機能を有す。なお、これらの値は、上下型の嵌合時の加圧分布もしくは実際の成形結果において、成形解析結果と一致しない場合は、嵌合基準ブロックから得られる実際の加圧分布を成形解析もしくは構造解析に帰還し、解析技術の性能の向上を図ると共に、再計算し常に最新に保つ。
【0037】
歪ゲージを成形面に取付けて歪を測定する方法(特許文献1)が発明されている。しかし、歪は無次元で物理量を持たないため、自身の経過変化のような相対比較としては有効であるが、成形部全体をロードセルと同等の校正を行わない限り、物理量への変換が困難である。物理量として取扱えなければ、他部位との相対比較も被成形物の「応力−歪」特性との関連付け、すなわち成形解析結果との比較が出来ない。また、同発明は、上下型の成形面間の位置関係を規制する構造を有しないため、被成形物の無い無負荷時には測定不能である。負荷時においても、特に歪ゲージを成形部の表面に取付ける場合は、被成形物の板厚のばらつきの影響や、例えば絞り成形における材料流入のような成形中の被成形物の挙動が測定と成形の双方に相互に影響し合い、測定値にも影響する。特に十数[μm]以上の突起、異物は被成形物の外観の品質不良となるため、外板部品用の金型へは適用できない。加えて、歪ゲージは取付け部と密着して一体化する必要があり、成形面の表面処理や歪ゲージの補修が困難である上、内部に取付ける場合は、取付けスペースによる成形面の剛性への影響等の課題が残る。
【0038】
前項の発明(特許文献1)に対し、本発明の嵌合基準ブロック(10)は、成形面間の位置関係を成形解析結果と一致させる規制構造体であるため、無負荷時の測定も可能である。また、物理量である力[N]へ換算可能な形状も有す。加えて、嵌合基準ブロック(10)は単体の構造物として金型へのボルト組付けを前提とし、金型の表面処理や補修、歪ゲージの補修やロードセルとしての校正も容易である。
【0039】
また、嵌合基準ブロックの(10)は、従来の押切りブロックとは、特に思想的に異なる。押切りブロックが、成形調整と共に調整される成形調整の従属結果であるのに対し、嵌合基準ブロック(10)は、成形面間の位置関係を規制する構造体であり、かつ他を調整するための指標でもある。例えば、従来の嵌合状態の調整では、光明丹や被成形物や粘土等を使い、何度もスライドを昇降させ、成形調整と成形確認を繰り返し、その都度、成形調整の一環として押切りブロックも調整する。対して、本発明である嵌合基準ブロック(10)は、嵌合押切り状態を成形解析結果と一致させる規制構造体を成す正の基準であり、同時に他を調整する指標でもあるから、嵌合基準ブロック(10)から得られる加圧力情報を基に、プレス機械の多点ダイハイト調整装置と多点オーバーロードプロテクタ油圧調整装置を用いることで、スライドを下死点へ一度降ろすのみで、嵌合押切り状態を成形解析結果と一致させることが可能となる。このように、本発明を用いれば、金型の成形調整が効率化できる。特に、実際に生産するプレス機械に於いて、成形解析結果と一致した成形状態を実現できるため、従来のトライプレスを使った成形調整は意味を持たなくなり、廃止も可能である。
【0040】
図4に多点ダイハイト調整装置、図5に多点オーバーロードプロテクタ油圧調整装置の説明図を示す。LF、RF、LR、RRの各区画において、同一区画内の嵌合基準ブロックとダイハイト調整機とオーバーロードプロテクタ装置は同一のグループとして管理する。
【0041】
図4の多点ダイハイト調整装置の説明図を用いて、同装置の構成を説明する。多点ダイハイト調整装置は、ダイハイト調整機(43)に、1対のクラッチ(40a)とブレーキ(40b)を、当該ダイハイト調整機(43)に対として加えたことを特徴とする。ダイハイト調整機(43)は、1対のウォームネジ(43a)とウォームホイールネジ(43b)を主要構成とし、本体はスライド(46)に固定されている。ウォームネジ(43a)は他のダイハイト調整機(43)と駆動モータ(41)とに駆動シャフト(44)で機械的に連結される。本発明では、ウォームネジ(43a)の駆動側、駆動シャフト(44)との間にクラッチ(40a)を設け、かつ当該ウォームネジ(43a)の反駆動側に当該クラッチ(40a)の対となるブレーキ(40b)を設ける。ダイハイトの調整には、調整するダイハイト調整機(43)と対となるクラッチ(40a)を接続し、かつ対となるブレーキ(40b)を開放し、駆動モータ(41)を駆動し、当該ダイハイト調整機(43)のウォームネジ(43a)を介して対となるウォームホイールネジ(43b)を回転させる。当該ウォームホイールネジ(43b)の回転を以て、当該ウォームホイールネジ(43b)が組込まれたプランジャロッド(45)に対する当該ウォームホイールネジ(43b)の位置が調整され、結果、当該ウォームホイールネジ(43b)と機械構造的に一体であるダイハイト調整機(43)と当該ダイハイト調整機(43)が固定されたスライド(46)の位置が調整される。ダイハイトの調整を要しない場合は、ダイハイト調整機(43)の対となるクラッチ(40a)を開放し、かつ対となるブレーキ(40b)を接続することにより、駆動モータ(41)の駆動力が当該ダイハイト調整機(43)のウォームネジ(43a)に伝達されず、かつ、当該ダイハイト調整機(43)は当該ブレーキ(40b)にてその位置が保持され、ダイハイトは調整されない。以上の機構により、スライドの平行度と金型内の加圧力分布を調整し、成形解析結果と一致する嵌合押切り状態を実現する。なお、金型内の偏荷重に対応してプレス機械の出力バランスを変更する場合、もしくはスライドの平行度がプレス機械の許容値を超える場合は、多点ダイハイト調整装置に加え、後述の多点オーバーロードプロテクタ油圧調整装置を用いる必要がある。先ず、多点ダイハイト調整装置について説明し、多点オーバーロードプロテクタ油圧調整装置については後述する。
【0042】
本発明の特徴である、嵌合基準ブロックと多点ダイハイト調整装置を用いる形態を説明する。スライド下死点で上下型を嵌合押切り状態とし、嵌合基準ブロック(10)の加圧力に関して、仮に無負荷の場合は記憶情報である無負荷加圧力上限値および下限値を設定上下限値とし、仮に実負荷の場合は記憶情報である成形解析結果の加圧力中央上限値および下限値を設定上下限値とし、金型内の嵌合基準ブロック(10)から得られる加圧力である実測値と、LF、RF、LR、RRの区画毎に比較し判定する。その結果、仮に実測値が設定下限値に満たない場合は、当該区画のダイハイト調整装置のクラッチ(40a)を接続し、かつ対となるブレーキ(40b)を解放し、調整モータ(41)を駆動して当該区画のダイハイトを下降し、加圧力の実測値が設定上下限内に入るまでオーバーロードプロテクタ(51)の圧縮量を増加し、仮に実測値が設定上限値を超える場合は、当該区画のダイハイト調整装置のクラッチ(40a)を接続し、かつ対となるブレーキ(40b)を解放し、調整モータ(41)を駆動して当該区画のダイハイトを上昇し、加圧力の実測値が設定上下限内に入るまでオーバーロードプロテクタ(51)の圧縮量を軽減し、仮に実測値が設定上下限値内の場合は、当該区画のダイハイト調整装置のクラッチ(40a)を解放し、かつ対となるブレーキ(40b)を接続してダイハイトを調整せず、結果、スライド平行度と金型内の加圧力分布を成形解析結果と一致させる。そして、成形解析結果と一致する加圧力分布である状態での多点ダイハイト調整装置のダイハイト検出器(42)の実測値を、生産用件として制御装置に記憶保存する。従って、プレス機械の制御装置は、成形解析結果と一致する加圧力分布である状態でのダイハイト値において、その許容範囲であるダイハイト設定上限値および下限値を、生産用件として記憶する機能を有す。
【0043】
スライドの平行度の調整方法として、個別モータ方式(特許文献2)や油圧シリンダ方式(特許文献3)が発明されている。一般に、ダイハイト調整量は数十〜数百[mm]、平行度の許容値は1[mm]未満であるが、両発明とも、スライドの平行度調整時以外のダイハイト調整における長距離駆動において、各調整軸間の同期性の保証がなく平行度が不安定となる。加えて、モータや油圧装置等の高額の機器や設置スペースも必要とする。対して、本発明では、通常のダイハイト調整時は、全クラッチ(40a)を接続し、かつ全ブレーキ(40b)を解放し同期運転し、スライドの平行度調整時のみクラッチ(40a)と対となるブレーキ(40b)を操作して平行度調整を行うことが可能である。かつ、複数のモータや油圧装置等の高額の機器を必要としない上、省スペースである。
【0044】
図5の多点オーバーロードプロテクタ油圧調整装置の説明図を用い、同装置の構成を説明する。なお、同装置の主要構成物であるオーバーロードプロテクタは、油圧ダンパー構造であるため、オーバーロードプロテクタとオーバーロードプロテクタ油圧室は同義である。多点オーバーロードプロテクタ油圧調整装置は、オーバーロードプロテクタ(51)にその対となるオーバーロードプロテクタ遮断装置(50)を加え、当該オーバーロードプロテクタ(51)をその対とするオーバーロードプロテクタ遮断装置(50)を介し、油圧配管で他のオーバーロードプロテクタと接続して構成する。オーバーロードプロテクタ遮断装置(50)は、パイロット操作逆止弁(50a)とパイロット操作弁(50b)を基本構成とする。油圧検出器(52)は、以降に説明するが、多点ダイハイト調整装置を用いた生産時における段取り時の調整時の指標として用いる。
【0045】
本発明の特徴である、嵌合基準ブロックと多点ダイハイト調整装置と多点オーバーロードプロテクタ油圧調整装置を用いる形態を説明する。多点オーバーロードプロテクタ油圧調整装置は、金型内の偏荷重に対応してプレス機械出力バランスを変更する場合、もしくはスライドの平行度がプレス機械の許容を超える場合に、前述の多点ダイハイト調整装置と共に用いる。先ず、オーバーロードプロテクタ(51)に圧縮力が作用する前、例えば上死点で、他の区画から遮断するオーバーロードプロテクタ(51)の対となるパイロット操作逆止弁(50a)の逆止機能を有効とする。次に、上下型を嵌合押切り状態とし、嵌合基準ブロック(10)の加圧力に関して、仮に無負荷の場合は記憶情報である無負荷加圧力上限値および下限値を設定上下限値とし、仮に実負荷の場合は記憶情報である加圧力中央上限値および下限値を設定上下限値とし、金型内の嵌合基準ブロック(10)から得られる加圧力である実測値と、LF、RF、LR、RRの区画毎に比較し判定する。その結果、仮に実測値が設定下限値に満たない場合は、当該区画のダイハイト調整装置を前項記載の様に操作してダイハイトを下降し、加圧力の実測値が設定範囲内に入るまでオーバーロードプロテクタ(51)の圧縮量を増加し、仮に実測値が設定上限値を超える場合は、当該区画のダイハイト調整装置を前項記載の様に操作してダイハイトを上昇し、加圧力の実測値が設定範囲内に入るまでオーバーロードプロテクタ(51)の圧縮量を軽減し、結果、オーバーロードプロテクタの反力であるプレス機械の出力をポイント毎に調整し、金型内の加圧力分布を成形解析結果と一致させる。そして、成形解析結果と一致する加圧力分布である状態での多点オーバーロードプロテクタ油圧調整装置における、パイロット操作逆止弁(50a)の逆止機能の設定状態と油圧検出器(52)の実測値を、生産用件として用いるために、制御装置に記憶保存する。従って、プレス機械の制御装置は、成形解析結果と一致する加圧力分布である状態での多点オーバーロードプロテクタ油圧調整装置の状態において、パイロット操作逆止弁(50a)の逆止機能の設定状態とオーバーロードプロテクタ油圧の許容範囲である実負荷出力上限値および下限値を、生産用件として記憶する機能を有す。加えて、成形解析結果と一致する加圧力分布である状態を実現するダイハイトである状態下で、生産段取り用の生産用件として、被成形物の無い無負荷時のオーバーロードプロテクタ油圧調整装置の油圧検出器(52)の実測値も制御装置に記憶保存する。従って、プレス機械の制御装置は、成形解析結果と一致する嵌合押切り状態を実現するダイハイトの設定状態下において、無負荷時のオーバーロードプロテクタ油圧の許容範囲である無負荷出力上限値および下限値も、生産用件として記憶する機能を有す。なお、パイロット操作弁(50b)の作動形態として、パイロット操作弁(50b)の励磁状態とパイロット操作逆止弁(50a)の逆止機能との関係における技術的規定はない。同逆止機能を多用する環境下では、パイロット操作弁(50b)の消磁時にパイロット操作逆止弁(50a)の逆止機能を有効とし、逆に同逆止機能を多用しない環境下では、当該パイロット操作弁の消磁時に当該パイロット操作逆止弁の逆止機能を無効とすることが合理的であるが、必要条件ではない。
【0046】
なお、オーバーロードプロテクタ装置の油圧調整は、類似形態(特許文献4および特許文献5)が発明されている。両発明とも、プレス加圧点の油圧を能動的に調整する方式のため、高額の油圧発生および調整装置を追加もしくは従来に比べ高機能である油圧装置を必要とする。対して、本発明は、多点ダイハイト調整装置を用いて受動的に油圧を調整する簡易な方法であり、高額の油圧装置の追加も高機能化も必要としない。
【0047】
本発明の特徴である、嵌合基準ブロックと多点ダイハイト調整装置と多点オーバーロードプロテクタ油圧調整装置を用いた、生産時における成形確認の形態を説明する。生産時における成形確認の形態には、生産時における嵌合押切り状態を成形解析結果と一致させる形態と、生産中の品質確認の形態とがある。
【0048】
生産時における嵌合押切り状態を成形解析結果と一致させる形態として、生産段取り時の金型装着時において、嵌合押切り状態を成形解析結果と一致させ、生産における品質の安定化を実現する。従来の金型装着では、上死点においてスライド全体のダイハイトを調整するのみで、成形解析結果との一致性を確認していない。本発明のプレス機械の制御装置は、成形解析結果と一致する嵌合押切り状態、すなわち成形結果を得られるLF、RF、LR、RRの各区画における、ダイハイト設定上限値および下限値と、多点オーバーロードプロテクタ油圧調整装置のパイロット操作逆止弁(50a)の逆止機能の有効か無効かの設定状態と、無負荷での嵌合押切り時のオーバーロードプロテクタ油圧の無負荷出力圧上限値および下限値と、全ての嵌合基準ブロックの無負荷加圧力上限値および下限値とを、生産要件として記憶保管する機能を有し、かつ、上死点においては、多点ダイハイト調整装置と多点オーバーロードプロテクタ油圧調整装置を用いて、LF、RF、LR、RRの各区画のダイハイト調整を行い、かつオーバーロードプロテクタの遮断が必要な区画を遮断し、下死点においては、嵌合基準ブロックと多点ダイハイト調整装置と多点オーバーロードプロテクタ油圧調整装置を用いて、成形解析結果と一致する加圧力分布を実現する。
【0049】
詳しくは、先ず、金型の装着直前の上死点において、LF、RF、LR、RRの各区画のダイハイトを、区画毎にダイハイト検出器(図4の42)の実測値とダイハイト設定上限値および下限値とを比較し、仮に実測値が設定上限値を超えている場合は、多点ダイハイト調整装置を用いて、当該区画のダイハイトを下降し、仮に実測値が設定下限値に満たない場合は、多点ダイハイト調整装置を用いて、当該区画のダイハイトを上昇して、全ての区画のダイハイトを設定上下限内に調整する。また、各区画の多点オーバーロードプロテクタ油圧調整装置のパイロット操作逆止弁(図5の50a)の逆止機能の有効か無効かを生産要件と一致した状態に設定する。
【0050】
次に、スライドを下死点へ降ろし、嵌合押切り状態とし、LF、RF、LR、RRの各区画のオーバーロードプロテクタにおいて、記憶情報である無負荷出力圧上限値と下限値を設定上下限値とし、オーバーロードプロテクタの油圧検出器(図5の52)の実測値と比較し、仮に実測値が設定上限値を超えている場合は、多点ダイハイト調整装置を用いて、実測値が無負荷出力圧上下限値内に入るまで当該ダイハイトを上昇し、仮に実測値が設定下限値に満たない場合は、多点ダイハイト調整装置を用いて、実測値が無負荷上下限値内に入るまで当該ダイハイトを下降する。さらに、この状態で、記憶情報である生産用件の各嵌合基準ブロックの無負荷加圧力上限値および下限値を設定上下限値とし、嵌合基準ブロック(10)から得られる加圧力である実測値と、嵌合基準ブロックの管理番号毎に比較し、仮に実測値が設定上限値を超えた場合は、当該嵌合基準ブロックの管理番号とダイハイト過剰下降警報を出力し、仮に実測値が設定下限値に満たない場合は、当該嵌合基準ブロックの管理番号とダイハイト下降不足警報を出力し、仮に実測値が設定上下限内の場合は、段取り時の装着正常信号を出力する。
【0051】
生産時における成形確認の形態のうち、生産中の品質確認の形態を説明する。生産時の品質検査において、嵌合押切り状態を成形解析結果と比較し、自動での品質検査を実現する。本発明のプレス機械の制御装置は、全ての嵌合基準ブロック(10)に対し、被成形物を成形する際の成形余裕加圧力上限値および下限値と、それら成形余裕加圧力上下限値の中央範囲の加圧力中央上限値および下限値を、生産要件として金型毎に記憶保管する機能を有し、かつ、それら生産要件と嵌合基準ブロック(10)より得られる加圧力である実測値とを比較し、生産時の成形品質を自動で検査する。
【0052】
詳しくは、プレス機械の生産稼働中において、全ての嵌合基準ブロック(10)より得られる加圧力である実測値と、記憶情報である生産要件の成形余裕加圧力上下限値を、嵌合基準ブロックの管理番号毎に比較し、仮に実測値が成形余裕加圧力上限値を超えた場合は、当該嵌合基準ブロックの管理番号と過剰加圧警報を出力し、仮に実測値が成形余裕加圧力下限値に満たない場合は、当該嵌合基準ブロックの管理番号と加圧不足警報を出力し、仮に成形余裕加圧力上下限値内であれば、さらに、記憶情報である生産要件の成形余裕加圧力上下限値の中央範囲の加圧力中央上下限値とも比較する。比較の結果、仮に加圧力中央上下限内であれば成形状態を良好と判定出力し、仮に加圧力中央上限値を超えた場合は、当該嵌合基準ブロックの管理番号と過剰加圧注意報を出力し、仮に加圧力中央下限値に満たない場合は、当該嵌合基準ブロックの管理番号と加圧不足注意報を出力する。
【産業上の利用可能性】
【0053】
嵌合基準ブロックは、金型を用いたプレス成形一般に適用できる。
【0054】
多点ダイハイト調整装置と多点オーバーロードプロテクタ油圧調整装置は、2ポイント以上のプレス機械に適用できる。
【符号の説明】
【0055】
10 嵌合基準ブロック
10a 嵌合基準ブロック上面(上型接触面)
10b 嵌合基準ブロック測定部
10c 嵌合基準ブロック取付け部
11 歪ゲージ
12 歪ゲージ信号から加圧力への変換器(機能)
21 上型(成形面を有するブロック)
21a 上型の正の成形面(正の基準)
21b 上型の従の成形面
22 下型(成形面を有するブロック)
22a 下型の正の成形面(正の基準)
22b 下型の従の成形面
23 被成形物
40a クラッチ
40b ブレーキ
41 モータ
42 ダイハイト検出器
43 ダイハイト調整装置
43a ウォームネジ
43b ウォームホイールネジ
44 駆動シャフト
45 プランジャロッド(ネジ部)
46 スライド
50 オーバーロードプロテクタ遮断装置
50a パイロット操作逆止弁
50b パイロット操作弁
51 オーバーロードプロテクタ(油圧室)
52 油圧検出器
図1
図2
図3
図4
図5