(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る実施の形態が、適宜図面に基づいて説明される。尚、本発明は、下記の実施の形態に限定されない。
【0012】
[第1形態]
図1は、本発明の第1形態に係る超音波振動装置の一例である食品用の超音波振動切断装置1の模式的な斜視図である。
超音波振動切断装置1は、振動子2と、ツールの一種である刃物4と、振動子2のホルダー6を備えている。
【0013】
図2にも示される振動子2は、BLTであり、所望する振動(目的とする振動)を発生するための第1圧電素子ユニットとしての振動発生用圧電素子ユニット10と、所望しない振動(目的としない振動)を抑制するための第2圧電素子ユニットとしての防振用圧電素子ユニット12と、3枚の電極板14〜16と、薄円筒状の絶縁筒18と、振動振幅拡大用の先細の金属材20と、厚円筒状の金属ブロック22と、締結具としてのボルト24を備えている。
尚、振動子2において、金属材20側を前側として金属ブロック22側が後側とされ、又後述の電極板16の接続部38が配置される側が左側とされているが、作業状態等に応じ、前後上下左右は様々に変更可能である。
振動子2において、振動発生用圧電素子ユニット10、防振用圧電素子ユニット12、電極板14〜16、絶縁筒18、金属材20、金属ブロック22、ボルト24は、中心軸が前後方向を向いて同軸となる状態で配置されている。尚、
図1において、電極板14〜16や回路は省略されている。又、回路部分を除く各図において、配線は省略されている。
【0014】
振動発生用圧電素子ユニット10は、軸方向(振動子長手方向)の超音波振動を発生可能であり、軸振動の発生に係る公知の構成を有している。
超音波振動(超音波領域の周波数における振動)は、概ね、16kHz以上とされても良いし、20kHz以上とされても良い。尚、16kHzを下回る振動で駆動される振動子を含む振動装置について、本発明が適用されても良い。
【0015】
振動発生用圧電素子ユニット10は、それぞれ円盤状である2個の駆動用圧電素子30,30を含んでいる。第1圧電素子としての各駆動用圧電素子30の残留分極の分極方向は、振動子2の中心軸と平行な方向(肉厚方向)となっている。尚、振動発生用圧電素子ユニットに含まれる駆動用圧電素子の数は、1個でも良いし、3個以上でも良いが、構成のし易さの観点から好ましくは偶数個とされる。
駆動用圧電素子30,30は、肉厚方向である中心軸を同軸として肉厚方向に並べられており、それらの間には、環状の電極板14が挟まれている。電極板14は、径方向外方に突出する接続部32を備えている。
【0016】
防振用圧電素子ユニット12は、それぞれU字状(半円環状)の板状部材である4個の防振用圧電素子34,34・・を含んでいる。第2圧電素子としての各防振用圧電素子34の分極方向は、振動子2の中心軸と平行な方向(肉厚方向)となっている。
これら防振用圧電素子34,34・・のうちの2個は、振動発生用圧電素子ユニット10に近い側において、左右方向の間隔を有する環状となるように、上下に配置されている(2分割された環状圧電素子)。これらの防振用圧電素子34,34は、均等に分割されていると言える。これらの防振用圧電素子34,34の分極方向は、互いに逆方向とされており、ここでは上の半割の防振用圧電素子34の分極方向が前方とされ、下の半割の防振用圧電素子34の分極方向が後方とされている。これらの防振用圧電素子34,34の前面と、振動発生用圧電素子ユニット10の後部の駆動用圧電素子30の後面の間には、環状の電極板15が挟まれている。電極板15は、径方向外方に突出する接続部36を備えている。
又、これらの防振用圧電素子34,34・・の後側において、別の一対の防振用圧電素子34,34は、同様に間隔を有する環状となるように配置されている(2分割された環状圧電素子)。これらの防振用圧電素子34,34の分極方向は、互いに逆方向とされており、ここでは上の防振用圧電素子34の分極方向が後方とされ、下の防振用圧電素子34の分極方向が前方とされている。
更に、振動発生用圧電素子ユニット10に隣接する防振用圧電素子34,34と、その後側の防振用圧電素子34,34の間には、環状の電極板16が挟まれている。電極板16は、径方向外方に突出する接続部38を備えている。尚、防振用圧電素子ユニット12に、電極板15や他の電極板の少なくとも何れかが含まれるものと考えても良い。
よって、上の2個の防振用圧電素子34,34の分極方向は、電極板16を挟んで互いに離れる方向となり、下の2個の防振用圧電素子34,34の分極方向は、電極板16を挟んで互いに向かい合う方向となる。
又、絶縁体で形成された絶縁筒18が、駆動用圧電素子30,30及び二対の防振用圧電素子34,34・・の内孔に通されている。絶縁筒18の内孔には、ボルト24が進入可能である。
【0017】
導体ブロックとしての金属材20は、前端部に近づくにつれて細くなる(中心軸に直交する断面の面積が次第に小さくなる)テーパ形状を有するように形成される。テーパ形状の種類としては、コニカルホーン形状や、エクスポネンシャルホーン形状、ステップホーン形状が例示される。金属材20の前端部には、刃物4を連結するための雌ネジ穴であるツール取付部40が形成されている。ツール取付部40は、金属材20の前面から後方へ空けられている。他方、金属材20の後端部には、ボルト24が入るボルト穴42が形成されている。ボルト穴42は、金属材20の後面から前方へ空けられている。
もう一つの導体ブロックとしての金属ブロック22の内孔には、ボルト24が進入可能である。
【0018】
そして、駆動用圧電素子30,30及び二対の防振用圧電素子34,34・・は、電極板14〜16を順次介在させ、更に共通の絶縁筒18を含んだ状態で、金属材20と金属ブロック22に挟み込まれている。これらは、金属ブロック22の後方から、その内孔や絶縁筒18の内孔、更にはボルト穴42に入るボルト24により、締結されている。
かような締結により、駆動用圧電素子30,30及び二対の防振用圧電素子34,34・・は十分な強度で拘束され、超音波振動によっても拘束状態を維持する。
前の駆動用圧電素子30の前面は、金属材20の後面に接触してアースされ、後の防振用圧電素子34,34の後面は、金属ブロック22の前面に接触してアースされる。
【0019】
又、電極板14,15には、軸振動発生用の公知の駆動電圧印加回路(駆動電圧印加手段,図示略)が接続されている。
ここでは、電極板15の接続部36にアースが接続され、電極板14の接続部32に所定の交流電圧が印加される。アースは、例えば金属材20又は金属ブロック22に接続することでなされる。電極板14に交流電圧が印加されると、駆動用圧電素子30,30は軸振動(振動子2の中心軸と平行な方向の振動)を発生する。振動子2は、その形状(長さや径の大きさないしその分布等)や重量配分等の構造により、軸振動及びたわみ振動についてそれぞれ所定の共振周波数を有しており、駆動用圧電素子30,30に対する所定の交流電圧の印加により、振動子2に1次の共振モードにおける軸振動が発生する。1次の共振モードにおける軸振動は、両端開放で振幅最大となり、振幅最小(ゼロ)となる節(ノード)が1箇所、振動子2上に存在する。又、駆動用圧電素子30,30によって積極的にたわみ振動を発生させることはしないが、振動子2は、1次の共振モードにおける軸振動の節の部分に設けられたフランジ部26において、ホルダー6に支持されている。
【0020】
更に、電極板16には、接続部38を介して、シャント回路50が接続されている。シャント回路50は、インダクタ52と抵抗54が、直列に接続されて成る。シャント回路50における、電極板16と逆側の回路端は、アースされている。
インダクタ52のインダクタンスLは、3次の共振モードに係るたわみ振動において、拘束状態の防振用圧電素子34,34・・(防振用圧電素子ユニット12)が呈する静電容量Cと電気的に共振する大きさとされている。
又、抵抗54の抵抗値Rは、3次のたわみ振動における内部インピーダンスと同じ値とされる。
【0021】
駆動電圧印加回路やシャント回路50は、図示されない超音波発振装置に内蔵されており、コード60を介して、振動発生用圧電素子ユニット10あるいは防振用圧電素子ユニット12と電気的に接続されている。
尚、これらの回路の少なくとも一方は、振動子2やホルダー6に内蔵されるようにしても良い。
【0022】
超音波振動切断装置1の動作例は、次の通りである。
即ち、振動発生用圧電素子ユニット10に所定の交流電圧を与えると、振動子2が軸振動して、金属材20のツール取付部40に連結された刃物4が軸方向に超音波振動する。作業者は、超音波軸振動された刃物4により、ケーキ等の食品について、切断抵抗が低減され、切れ味に優れた状態で、押し潰したり、破片を飛び散らせたりすることなく、綺麗に切断することができる。
又、作業中、振動子2にたわみ振動が生起することがあり、かようなたわみ振動は、刃物4の駆動用の軸振動に重畳し、刃物4の振動方向等を変化させ、切断の質に影響を与えるので、所望されない不要な振動である。超音波振動切断装置1では、所望されない3次の共振モードにおけるたわみ振動が生起し始めたとしても、そのエネルギーを、防振用圧電素子ユニット12によって電気エネルギーに変え、更にはシャント回路50によって熱エネルギーに変えて、消散させる。
シャント回路50は、3次のたわみ振動において防振用圧電素子ユニット12が示す静電容量Cに合わせて共振するように調節されたインダクタンスLを有するインダクタ52を備えており、3次のたわみ振動のエネルギーを熱エネルギーに変え、他の振動のエネルギーを熱エネルギーに変えない。
又、シャント回路50において、抵抗54の抵抗値Rが3次のたわみ振動における内部インピーダンスと同じ値とされているから、最も効率良く電気エネルギーを熱エネルギーに変換して消散させることができる。
【0023】
第1形態の超音波振動切断装置1は、2個の駆動用圧電素子30,30を含む振動発生用圧電素子ユニット10と、4個(2対)の防振用圧電素子34,34・・を含む防振用圧電素子ユニット12と、振動発生用圧電素子ユニット10及び防振用圧電素子ユニット12を挟む金属材20及び金属ブロック22と、振動発生用圧電素子ユニット10及び防振用圧電素子ユニット12並びに金属材20及び金属ブロック22を締結するボルト24と、を有する振動子2と、振動子2に連結される刃物4と、防振用圧電素子ユニット12に接続されるシャント回路50と、を備えており、振動発生用圧電素子ユニット10(駆動用圧電素子30,30)は、駆動電圧が印加されることで、振動子2における軸振動を発生し、シャント回路50は、その軸振動以外の3次のたわみ振動において防振用圧電素子ユニット12が示す静電容量Cに対して電気的に共振するように設定されている。
よって、3次の共振モードにおけるたわみ振動のエネルギーのみを、防振用圧電素子ユニット12によって電気エネルギーとして取り出し、シャント回路50によって熱エネルギーに変換して発散させることができ、その結果3次の共振モードにおける不要なたわみ振動が抑制される。ここで、駆動用圧電素子30,30が金属ブロックにより挟み込まれて締結具により締結されており高出力(高周波数及び大振幅の少なくとも何れか等)の超音波振動の発生が可能であるBLTに係る振動子2においても、防振用圧電素子34,34・・が共に挟み込まれることで振動子2から離脱することなく確実に不要な振動が抑制される。又、防振用圧電素子34,34・・を始めとする防振用の各種部材は、振動子2の中心軸(前後方向)を中心として対称的に配置し易く、防振用部材を組み込んだ後の状態においても重量バランスに優れる。従って、不要な振動が目的の軸振動に影響を与える事態が防止され、又防振用部材の組み込みにより重量バランスに影響を与える事態が防止されることとなり、通常のツールによる切断の質が極めて良好になるのは勿論、アスペクト比の高いツール(刃物4等)による切断の質も極めて良好になる。
【0024】
加えて、シャント回路50は、インダクタ52と抵抗54の直列回路を含むから、電気エネルギーから熱エネルギーへの変換ないしエネルギーの発散を簡便に行える。
更に、防振用圧電素子34,34・・は、振動子2の中心軸と交わる方向(上下方向)において分割されている(上下に分かれている)。よって、防振用圧電素子34,34・・がたわみ振動の抑制に合致したものとなる。
又、駆動用圧電素子30,30及び防振用圧電素子34,34・・は、分極処理されており、それらの分極方向が振動子2の中心軸と平行な方向(前後方向)となっている。よって、所望する振動の付与や不要な振動の抑制のための構成がシンプルになる。
【0025】
第1形態においては、次のような変更例が存在する。
防振用圧電素子ユニットについて、前側の2個の防振用圧電素子が省略されたり、後側の2個の防振用圧電素子が省略されたり、上側の2個の防振用圧電素子が省略されたり、下側の2個の防振用圧電素子が省略されたり、防振用圧電素子の数が1以上の任意の数に増減されたり、分極方向が上下や左右で入れ替えられたりする等、その構成は様々に変更されて良い。上側若しくは下側の2個の圧電素子が省略された場合、防振用圧電素子は振動子の中心軸と交わる方向(上下方向)において、片寄せられていることになり、この場合、省略された圧電素子と同様な大きさないし重量のスペーサ(金属材あるいは金属ブロックと一体でも別体でも良い)が省略された側に設けられることが好ましい。電極板についても、更に分割する等、様々に変更することができる。又、2分割された圧電素子は、円環状の圧電素子本体における、互いに離れた上部と下部にのみ分極処理されたもの、即ち分極処理された上部と、分極処理されていない中央部(間隙に相当する部分)と、分極処理された下部を有する円環状のものとされても良い。
締結具に関し、防振用圧電素子ユニットを締結するボルトと、振動発生用圧電素子ユニットを締結するボルトが設けられても良い。
シャント回路は、別の構成とされて良く、インダクタンスは2次以下あるいは4次以上のたわみ振動中に示される静電容量と共振するものに設定されても良いし、抵抗値は第1形態とは別の値とされても良い。
目的とする振動(所定の振動)は、2次以上の軸振動とされても良く、1次や2次等の複数の振動状態の何れかに切替可能とされても良い。目的とする振動として、軸振動にたわみ振動を重畳した楕円振動(円振動を含む)が採用されても良い。
電極板として、接続部が省略されたものが採用されても良く、又圧電素子の面に導体を塗布して形成されたものが採用されて、その塗布された導体にコード等が接続されても良い。
振動発生用圧電素子ユニットと防振用圧電素子ユニットの間に、導体のスペーサが配置されて、これらのユニットが互いに離隔されるようにしても良い。各圧電素子ユニット内にスペーサが配置されても良い。
第1形態は、食品用の超音波切断装置に代えて、他のワークを超音波切断する装置や、切断以外の加工を超音波振動するツールによってワークに対して行う装置、あるいは医療用を始めとする他の用途の超音波振動装置に適用されても良い。
【0026】
[第2形態]
図3は、本発明の第2形態に係る食品用の超音波振動切断装置に含まれる、振動子202の模式的な左側面図である。
第2形態は、防振用圧電素子ユニットに係る電極板の設置数及び形状並びにシャント回路の設置数及び設定を除き、第1形態と同様に成る。第1形態と同様に成る部材等には同じ符号が付されて適宜説明が省略される。
【0027】
第2形態では、防振用圧電素子ユニット212に係る電極板216,216が2個設けられている。各電極板216は、1個の防振用圧電素子34の一面に合うように半円環状に形成されており、径方向に突出する接続部238を備えている。
電極板216,216は、左右方向の間隔を有する環状となるように、上下に配置されている(2分割された環状電極板)。電極板216,216は、上側又は下側における一対の防振用圧電素子34,34に、互いの半円環状の面を合わせた状態で挟まれている。
そして、上側の電極板216に第1のシャント回路250が接続され、下側の電極板216に第2のシャント回路260が接続される。
第1のシャント回路250は、直列接続されたインダクタ252と抵抗254を有している。シャント回路250における、電極板216と逆側の回路端は、アースされている。
インダクタ252のインダクタンスL2は、2次の共振モードに係るたわみ振動において、拘束状態の上側の防振用圧電素子34,34が呈する静電容量C2と電気的に共振する大きさとされている。
又、抵抗254の抵抗値R2は、2次のたわみ振動における内部インピーダンスと同じ値とされる。
第2のシャント回路260は、直列接続されたインダクタ262と抵抗264を有している。シャント回路260における、電極板216と逆側の回路端は、アースされている。
インダクタ262のインダクタンスL3は、3次の共振モードに係るたわみ振動において、拘束状態の下側の防振用圧電素子34,34が呈する静電容量C3と電気的に共振する大きさとされている。
又、抵抗264の抵抗値R3は、3次のたわみ振動における内部インピーダンスと同じ値とされる。
【0028】
第2形態の超音波振動切断装置では、目的としない2次の共振モードにおけるたわみ振動が生起し始めたとしても、そのエネルギーを、上側の一対の防振用圧電素子34,34と第1のシャント回路250により、電気エネルギーに変え、更には熱エネルギーに変えて、消散させる。
第1のシャント回路250は、2次のたわみ振動において上側の一対の防振用圧電素子34,34が示す静電容量C2に合わせて共振するように調節されたインダクタンスL2を有するインダクタ252を備えており、2次のたわみ振動のエネルギーを熱エネルギーに変え、他の振動のエネルギーを熱エネルギーに変えない。
又、目的としない3次の共振モードにおけるたわみ振動が生起し始めたとしても、そのエネルギーを、下側の一対の防振用圧電素子34,34と第2のシャント回路260により、電気エネルギーに変え、更には熱エネルギーに変えて、消散させる。
第2のシャント回路260は、3次のたわみ振動において下側の一対の防振用圧電素子34,34が示す静電容量C3に合わせて調節されたインダクタンスL3を有するインダクタ262を備えており、3次のたわみ振動のエネルギーを熱エネルギーに変え、他の振動のエネルギーを熱エネルギーに変えない。
又、第2のシャント回路260において、抵抗264の抵抗値R3が3次のたわみ振動における内部インピーダンスと同じ値とされているから、3次のたわみ振動についても最も効率良く電気エネルギーを熱エネルギーに変換して消散させることができる。
かように、第2形態の超音波振動切断装置では、主に振動モードの次数について異なる2種類の不要な振動を抑制することが可能である。
【0029】
第2形態においては、第1形態と同様の変更例が適宜存在する他、次のような変更例が存在する。
第1と第2のシャント回路におけるインダクタンスの調整等により、抑制する不要なたわみ振動の種類は様々に変更されても良い。例えば、1次と2次のたわみ振動が抑制されるようにしても良いし、4次のたわみ振動と5次のたわみ振動が抑制されるようにしても良い。
防振用圧電素子の数が周方向において増加され(分割数が増やされ)、それに対応してシャント回路の数が増加されることにより、3種類以上の不要なたわみ振動が抑制されるようにしても良い。
【0030】
[第3形態]
図4は、本発明の第3形態に係る食品用の超音波振動切断装置に含まれる、振動子302の模式的な斜視図であり、
図5は、振動子302の模式的な左側面図である。尚、
図4において、各種の電極板や回路は省略されている。
第3形態は、防振用圧電素子ユニットの構成並びにシャント回路の設置数を除き、第1形態と同様に成る。第1形態と同様に成る部材等には同じ符号が付されて適宜説明が省略される。
【0031】
第3形態では、防振用圧電素子ユニット312は、8個の防振用圧電素子34,34・・を備えている。そのうち4個の防振用圧電素子34,34・・や電極板16は、第1形態の防振用圧電素子ユニット12ないしこれに挟まれる電極板16と同じ構成を具備している。又、他の4個の防振用圧電素子34,34・・についても、電極板16と同じ電極板316を挟んで同様に配置される。
そして、振動発生用圧電素子ユニット10の後側において、電極板15を介して隣接するように、電極板316を挟む4個の防振用圧電素子34,34・・が配置され、更にその後側において、電極板317を介して隣接するように、電極板16を挟む4個の防振用圧電素子34,34・・が配置される。電極板316を挟む二対(4個)の防振用圧電素子34,34・・における間隙の方向は上下方向であり、これらの防振用圧電素子34,34・・は、振動子2の中心軸と平行な方向(前後方向)と交わる方向である左右方向において、分割されている。又、電極板16を挟む二対(4個)の防振用圧電素子34,34・・における間隙の方向は左右方向であり、これらの防振用圧電素子34,34・・は、振動子2の中心軸と平行な方向(前後方向)と交わる方向である上下方向において、分割されている。
振動発生用圧電素子ユニット10、及び8個の防振用圧電素子34,34・・を備えた防振用圧電素子ユニット312は、金属材20及び金属ブロック22により挟み込まれて、ボルト24により締結され、振動子302からの離脱が防止される。
【0032】
電極板316は、径方向外側に突出する接続部338を有しており、電極板317は、径方向外側に突出する接続部335を有している。
電極板317は、接続部335を介して、電極板15と同様にアースされている。
電極板316には、接続部338を介して、シャント回路50と同様に成るシャント回路350が接続されている。シャント回路350のインダクタ352のインダクタンスLはシャント回路50のインダクタ52と同じであり、シャント回路350の抵抗354の抵抗値Rはシャント回路50の抵抗54と同じである。
【0033】
第3形態の超音波振動切断装置では、目的としない3次の共振モードにおけるたわみ振動が振動子302において主に上下方向で生起し始めたとしても、そのエネルギーを、主に電極板16を挟む二対の防振用圧電素子34,34・・とシャント回路50により、電気エネルギーに変え、更には熱エネルギーに変えて、消散させる。
又、目的としない3次の共振モードにおけるたわみ振動が主に左右方向で生起し始めたとしても、そのエネルギーを、主に電極板316を挟む二対の防振用圧電素子34,34・・と第2のシャント回路350により、電気エネルギーに変え、更には熱エネルギーに変えて、消散させる。
かように、第3形態の超音波振動切断装置では、防振用圧電素子34,34・・は、振動子2の中心軸と交わる方向であって互いに異なる複数の方向即ち上下方向と左右方向において分割されていることから、主に振動方向について異なる2種類の不要な振動を抑制することが可能である。
【0034】
第3形態においては、第1形態や第2形態と同様の変更例が適宜存在する。
特に、第3形態においても、第1と第2のシャント回路におけるインダクタンスの調整等により、抑制する不要な振動の種類は様々に変更されても良い。例えば、2次の左右方向のたわみ振動と2次の上下方向のたわみ振動が抑制されるようにしても良いし、4次の左右方向のたわみ振動と4次の上下方向のたわみ振動が抑制されるようにしても良いし、2次の左右方向のたわみ振動と3次の上下方向のたわみ振動が抑制されるようにしても良い。
又、振動子の中心軸と交わる方向であって、上下方向や左右方向とは異なる斜めの方向において分割された圧電素子が設けられるようにして、更にその斜めの方向の不要なたわみ振動が抑制されるようにしても良い。
【0035】
[第4形態]
図6は、本発明の第3形態に係る食品用の超音波振動切断装置に含まれる、振動子402の模式的な左側面図である。
第4形態は、振動発生用圧電素子ユニットの構成及びシャント回路の設定を除き、第1形態と同様に成る。第1形態と同様に成る部材等には同じ符号が付されて適宜説明が省略される。
【0036】
第4形態の振動子402の振動発生用圧電素子ユニット410は、たわみ方向の超音波振動を発生可能であり、たわみ振動の発生に係る公知の構成(上記特許文献2参照)を有している。
振動発生用圧電素子ユニット410は、それぞれ半円環状である4個の駆動用圧電素子430,430・・を含んでいる。各駆動用圧電素子430の分極方向は、肉厚方向に向いており、振動子402の中心軸と平行な方向に向いている。
これら駆動用圧電素子430,430・・のうちの2個は、金属材20に近い側において、左右方向の間隔を有する環状となるように、上下方向に分割されている。これらの駆動用圧電素子430,430の前面は金属材20に共通に接しており、各後面は半円環状の電極板414,414に接している。各電極板414は、外方に突出する接続部432,432を有している。
又、電極板414,414の後側において、別の一対の駆動用圧電素子430,430は、同様に間隔を有する環状となるよう、上下方向において分割されている。これらの電極板414,414の後面は、アースされた環状の電極板15に接している。
振動発生用圧電素子ユニット410は、駆動用圧電素子430,430・・の分極方向に応じ、たわみ振動発生用の公知の駆動電圧印加回路(駆動電圧印加手段,図示略)により駆動される。駆動電圧印加回路は、各電極板414の接続部432において接続されており、振動子2において3次の共振モードに係るたわみ振動(目的の振動)が発生するような駆動電圧を印加する。例えば、上側の駆動用圧電素子430,430の分極方向がそれぞれ電極板414に向かうことで互いに向かい合い、下側の駆動用圧電素子430,430の分極方向がそれぞれ電極板414とは逆側に向かうことで互いに離れるものとなっている場合、同位相の駆動電圧が印加されれば、目的のたわみ振動が発生する。あるいは、上側と下側の駆動用圧電素子430,430の分極方向が互いに合致する場合、逆位相の駆動電圧が印加されれば、目的のたわみ振動が発生する。
【0037】
そして、第4形態の振動子402の防振用圧電素子ユニット12は、電極板15の後側において、第1形態と同様に配置される。
電極板16には、シャント回路450が接続されている。
シャント回路450は、直列接続されたインダクタ452及び抵抗454を含む。インダクタ452のインダクタンスL4は、2次の共振モードに係るたわみ振動において、拘束状態の防振用圧電素子34,34・・が呈する静電容量C4と電気的に共振する大きさとされている。
又、抵抗454の抵抗値R4は、2次のたわみ振動における内部インピーダンスと同じ値とされる。
【0038】
第4形態の超音波振動切断装置では、目的とする3次の共振モードにおけるたわみ振動の発生中に、目的としない2次の共振モードにおけるたわみ振動が生起し始めたとしても、そのエネルギーを、防振用圧電素子ユニット12とシャント回路450により、電気エネルギーに変え、更には熱エネルギーに変えて、消散させる。
シャント回路450は、2次のたわみ振動において防振用圧電素子ユニット12が示す静電容量C4に合わせて共振するように調節されたインダクタンスL4を有するインダクタ452を備えており、2次のたわみ振動のエネルギーを熱エネルギーに変え、他の振動のエネルギーを熱エネルギーに変えない。
かように、第4形態の超音波振動切断装置では、所定の周波数(3次の共振モードの周波数)におけるたわみ振動を目的とする振動子402において、その周波数以外の特定の周波数(3次より低次である2次の共振モードの周波数)におけるたわみ振動(目的としないたわみ振動)を抑制することが可能である。
又、駆動用圧電素子430,430・・は、振動子402の中心軸と交わる方向(上下方向)において分割されているから、所望する振動がたわみ振動である場合に適した構成となる。
【0039】
第4形態においては、第1形態ないし第3形態の少なくとも何れかと同様の変更例が適宜存在する他、次のような変更例が存在する。
目的とするたわみ振動が4次のたわみ振動とされ、不要なたわみ振動が3次のたわみ振動とされたり、目的とするたわみ振動が2次のたわみ振動とされ、不要なたわみ振動が3次のたわみ振動とされたりする等、駆動や防振に係る共振モードの組合せは様々に変更されて良い。目的とするたわみ振動の共振モード(次数)が切替可能とされても良い。
振動発生用圧電素子ユニットがたわみ振動に係る駆動用圧電素子と軸振動に係る駆動用圧電素子を備えるようにして、ツールが楕円振動(円振動を含む)を行うものとされても良い。
【0040】
[第5形態]
図7は、本発明の第5形態に係る食品用の超音波振動切断装置に含まれる、刃物4及び振動子502並びに回路の模式図である。
第5形態は、防振用圧電素子ユニット及び振動発生用圧電素子ユニット並びに回路の構成を除き、第4形態と同様に成る。第4形態と同様に成る部材等には同じ符号が付されて適宜説明が省略される。
【0041】
第5形態の振動子502の振動発生用圧電素子ユニット510は、第4形態の振動発生用圧電素子ユニット410と同様に成り、駆動用圧電素子430と同様の駆動用圧電素子530や、電極板414(接続部432)と同様の電極板514(接続部532)を備えている。
但し、振動発生用圧電素子ユニット510は、1次の軸振動を発生する。ここでは、4個の駆動用圧電素子530,530・・のうち、上側の2個をPZT1とし、下側の2個をPZT2とすると、分極方向がPZT1とPZT2で同一になっている状態で、PZT1の間の電極板514に同位相の駆動電圧が印加される。又、振動発生用圧電素子ユニット510は、振動検出用圧電素子ユニット512の後側に配置されている。
【0042】
第5形態に係る不要な振動を検出するための振動検出用圧電素子ユニット512(第2圧電素子ユニット)は、第2形態の防振用圧電素子ユニット212と同様に成り、防振用圧電素子34と同様の振動検出用圧電素子534(第2圧電素子)や、電極板216(接続部238)と同様の電極板516(接続部538)を備えている。
4個の振動検出用圧電素子534,534・・のうち、上側の2個をPZT3とし、下側の2個をPZT4とすると、ここでは分極方向はPZT3とPZT4で同一になっている。
振動検出用圧電素子ユニット512と振動発生用圧電素子ユニット510の間には、接続部36を有する電極板15が配置されている。
PZT3やPZT4において、圧縮による歪みにより、歪みの大きさに応じたプラスの電圧が生起するものとする。
又、振動発生用圧電素子ユニット510と金属ブロック22の間には、電極板15と同様に成る電極板517が配置されている。電極板517は、接続部539を有している。
電極板15,517は、接続部36,539を介して、アースされている。
【0043】
第5形態の駆動用ないし防振用の回路570は、駆動電源572と、乗算器574と、アンプ(AMP)576,578と、電圧比較器579を備えている。回路570は、駆動電圧印加手段と駆動電圧調節手段を兼ねており、より詳しくは、駆動電源572とアンプ(AMP)576,578が駆動電圧印加手段を構成し、乗算器574と電圧比較器579が駆動電圧調節手段を構成している。尚、駆動電圧調節手段は、PZT3やPZT4あるいは電極板516,516を含めて構成されると考えても良い。
駆動電源572とPZT1は、乗算器574、アンプ576、電極板514(接続部532)を介して接続されている。駆動電源572で発生した交流電圧は、乗算器574を経て、アンプ576により増幅され、電極板514(接続部532)を介してPZT1に印加される。
駆動電源572とPZT2は、アンプ578、電極板514(接続部532)を介して接続されている。駆動電源572で発生した交流の駆動電圧は、アンプ578により増幅され、電極板514(接続部532)を介してPZT2に印加される。PZT1とPZT2が同様に構成されるため、アンプ576,578における増幅率は同じものとされている。
【0044】
PZT3と電圧比較器579は、電極板516(接続部538)を介して接続されている。PZT4と電圧比較器579は、電極板516(接続部538)を介して接続されている。
電圧比較器579は、乗算器574に接続されている。電圧比較器579は、PZT3において生起した電圧と、PZT4において生起した電圧を比較してその差分を乗算器574へ出力する。乗算器574は、受信した差分に応じ、駆動電源572からの駆動電圧を、適宜増減してあるいは増減せずに、アンプ576に送る。
即ち、電圧比較器579は、PZT3の電圧がPZT4の電圧より大きいと、マイナスの差分を出力し、乗算器574は、差分の絶対値に応じた0以上で1より小さい数を駆動電圧に乗ずる。アンプ576に与えられる駆動電圧は、差分の絶対値に応じ、アンプ578に与えられる駆動電圧より小さくなる。他方、電圧比較器579は、PZT3の電圧がPZT4の電圧より小さいと、プラスの差分を出力し、乗算器574は、差分の絶対値に応じた1以上の数を駆動電圧に乗ずる。アンプ576を経てPZT1に与えられる駆動電圧は、差分の絶対値に応じ、アンプ578を経てPZT2に与えられる駆動電圧より大きくなる。
【0045】
第5形態の超音波振動切断装置では、アンプ576,578を介して駆動電圧が印加されることで駆動されるPZT1,PZT2により、振動子502に軸振動が発生する。
そして、軸振動中において振動子502にたわみ振動が生起した場合、PZT3やPZT4においてたわみ振動に応じた大きさの歪みが生じ、その歪みの大きさに応じた電圧が生起する。
かように生起したPZT3の電圧とPZT4の電圧は、電圧比較器579において比較され、乗算器574においてそれら電圧の差分に応じた係数がPZT1の駆動電圧に乗算されることで、PZT2の駆動電圧に対するPZT1の駆動電圧が調節される。
即ち、たわみ振動によってPZT3側に大きな歪みが生起した場合、PZT3においてPZT4より大きな電圧が生起し、電圧比較器579はマイナスの差分を出力して、乗算器574はPZT1の駆動電圧を差分の絶対値に応じて小さくする。よって、PZT1はPZT2に比べて小さい駆動電圧で駆動されることになり、自身と同じ上側にあるPZT3側への歪みを、PZT2の駆動より弱く適切な大きさである駆動によって、能動的に打ち消す。他方、たわみ振動によってPZT4側に大きな歪みが生起した場合、PZT4においてPZT3より大きな電圧が生起し、電圧比較器579はプラスの差分を出力して、乗算器574はPZT1の駆動電圧を差分の絶対値に応じて大きくする。よって、PZT1はPZT2に比べて大きい駆動電圧で駆動されることになり、自身と逆側の下側にあるPZT4側への歪みを、PZT2の駆動より強く適切な大きさである駆動によって、能動的に打ち消す。
【0046】
第5形態の超音波振動切断装置は、4個の駆動用圧電素子530,530・・(PZT1,PZT2)を含む振動発生用圧電素子ユニット510と、4個の振動検出用圧電素子534,534・・(PZT3,PZT4)を含む振動検出用圧電素子ユニット512と、振動発生用圧電素子ユニット510及び振動検出用圧電素子ユニット512を挟む金属材20及び金属ブロック22と、振動発生用圧電素子ユニット510及び振動検出用圧電素子ユニット512並びに金属材20及び金属ブロック22を締結するボルト24と、を有する振動子502と、振動子502に連結される刃物4と、を備えており、振動発生用圧電素子ユニット510は、駆動電圧印加手段により駆動電圧が印加されることで、振動子502における1次の軸振動を発生し、その駆動電圧は、乗算器574や電圧比較器579により、その軸振動以外のたわみ振動において振動検出用圧電素子534,534・・(PZT3,PZT4)に生起する電圧に応じて調節される。
よって、目的としないたわみ振動の状態が振動検出用圧電素子ユニット512(PZT3,PZT4)によって検出され、その状態に応じて、振動発生用圧電素子ユニット510(PZT1,PZT2)の駆動電圧が、目的としないたわみ振動を打ち消すようにフィードバック制御されることになる。従って、第1形態ないしは第4形態のように、不要なたわみ振動の発生に対して受動的に対応する(パッシブ防振)のではなく、不要なたわみ振動が能動的に抑制されることとなる(アクティブ防振)。そしてその結果、通常の超音波振動切断の場合のみならず、アスペクト比の高いツールを用いる場合であっても、又大出力の振動をツールに与える場合であっても、不要なたわみ振動を確実に抑制して、極めて優れた切断を提供することができる。又、振動検出用圧電素子ユニット512(PZT3,PZT4)によって検出されたたわみ振動の状態に応じて駆動電圧がフィードバック制御されることにより、たわみ振動の次数を問わず、様々な共振モードに係るたわみ振動を適切に抑制することが可能である。
【0047】
更に、振動検出用圧電素子534,534・・は、振動子502の中心軸と交わる方向(上下方向)において分割されている。よって、振動検出用圧電素子534,534・・がたわみ振動の抑制に合致したものとなる。
又、駆動用圧電素子530,530・・は、振動子502の中心軸と交わる方向(上下方向)において分割されている。よって、不要なたわみ振動をフィードバック制御により能動的に打ち消して抑制する場合に適した構成となる。
加えて、駆動用圧電素子530,530及び振動検出用圧電素子534,534・・は、分極処理されており、それらの分極方向が振動子502の中心軸に平行な方向となっている。よって、フィードバック制御における、所望する振動の付与や不要な振動の抑制のための構成が、シンプルになる。
【0048】
第5形態においては、第1形態ないし第4形態の少なくとも何れかと同様の変更例が適宜存在する他、次のような変更例が存在する。
回路の構成は、回路の各種要素と同等である他の要素に置き換えたり、PZT2に対する電圧あるいは双方の電圧を調節するものとしたり、電圧比較器において係数が出力されるようにしたり、電圧比較器と乗算器が統合された比較乗算器が用いられたり、アンプの倍率が調節されることで駆動電圧が調節されるものとしたり、アンプが省略されたりする等、様々に変更されて良い。
又、振動発生用圧電素子ユニットにおいて駆動用圧電素子の分極方向がPZT1とPZT2で逆になっている状態で、PZT1の間の電極板に逆位相の駆動電圧が印加され、その駆動電圧が調節されるようにしても良い。
【0049】
[第6形態]
図8(a)は、本発明の第6形態に係る食品用の超音波振動切断装置に含まれる、刃物4及び振動子602並びに回路の模式図であり、
図8(b)は、振動子602のたわみ振動中の模式図である。
第6形態は、振動検出用圧電素子ユニット及び振動発生用圧電素子ユニット並びに回路の構成を除き、第5形態と同様に成る。第5形態と同様に成る部材等には同じ符号が付されて適宜説明が省略される。
【0050】
第6形態の振動子602における4個の圧電素子631,631・・を含む圧電素子ユニット611は、第5形態の軸方向の振動発生用圧電素子ユニット510とたわみ方向の振動検出用圧電素子ユニット512の役割を兼ねている。
圧電素子ユニット611は、第5形態の振動発生用圧電素子ユニット510あるいは振動検出用圧電素子ユニット512と同様に構成される。即ち、圧電素子631,631・・はそれぞれ半円環状であり、2個の半円環状の電極板617を2個の圧電素子631,631で挟んでいて、上下に分かれている。ここで、下の2個の圧電素子631,631はPZTαとされ、上の2個の圧電素子631,631はPZTβとされる。
PZTαとPZTβの分極方向は、互いに同じ向きとされ、例えば電極板617に向かう向きとされている。
各電極板617は、径方向外方に突出する接続部639を備えている。
圧電素子ユニット611の前面と後面は、アースされている。
【0051】
第6形態の駆動用兼防振用の回路670は、駆動電源572と、乗算器574と、アンプ(AMP)576,578と、演算回路679と、電流センサーCC1,CC2を備えている。回路670は、駆動電圧印加手段と駆動電圧調節手段を兼ねており、より詳しくは、駆動電源572とアンプ(AMP)576,578が駆動電圧印加手段を構成し、乗算器574と演算回路679と電流センサーCC1,CC2が駆動電圧調節手段を構成している。尚、駆動電圧調節手段は、PZTαやPZTβあるいは電極板617,617を含めて構成されると考えても良いし、電流センサーCC1,CC2を除いて構成されると考えても良い。
駆動電源572とPZTαは、アンプ578、電極板617(接続部639)を介して接続されている。駆動電源572で発生した交流の駆動電圧は、アンプ578により増幅され、電極板617(接続部639)を介してPZTαに印加される。
駆動電源572とPZTβは、乗算器574、アンプ576、電極板617(接続部639)を介して接続されている。駆動電源572で発生した交流電圧は、乗算器574を経て、アンプ576により増幅され、電極板617(接続部639)を介してPZTβに印加される。PZTαとPZTβが同様に構成されるため、アンプ576,578における増幅率は同じものとされている。
【0052】
又、アンプ578を出た(PZTαに付与される)電流I
1を測定するように電流センサーCC1が配置され、アンプ576を出た(PZTβに付与される)電流I
2を測定するように電流センサーCC2が配置される。
電流センサーCC1,CC2は演算回路679に接続されており、測定された電流I
1,I
2を演算回路679に出力する。
演算回路679は、乗算器574と接続されている。演算回路679は、受信した電流I
1,I
2について、その差分(I
1−I
2)に応じてPZTβの駆動電流I
2が(駆動電流I
1に対して相対的に)抑制され、増大され、あるいは維持されるよう、係数Bを演算する。係数Bは、下記[数1]により算出される。
係数Bは乗算器574に出力され、乗算器574は、受信した係数Bを、駆動電源572からの駆動電圧Aに乗算し(A×B)、その結果に係る増幅前の駆動電圧がアンプ576に与えられる。
【0054】
第6形態の超音波振動切断装置では、アンプ576,578を介して同電圧で同位相の駆動電圧が印加されることで、PZTα,PZTβが同様に振動し、振動子602に軸振動が発生する。
振動子602にたわみ振動がない場合、PZTα,PZTβには同一の応力が発生しており、それぞれの圧電素子631,631(PZTα,PZTβ)におけるインピーダンスは同一であって、PZTα,PZTβに流れ込む電流I
1,I
2は等しい。このとき、係数Bは1となり、アンプ576への電圧AないしPZTβに流れ込む電流I
2は維持される。
【0055】
そして、軸振動中において振動子602にたわみ振動が生起した場合、PZTαやPZTβにおいて異なる応力が生起し、互いにインピーダンスが相違することになる。よって、そのインピーダンスの影響により、PZTαに流れ込む電流I
1と、PZTβに流れ込む電流I
2は、互いに異なるものとなる。
すると、演算回路679は、電流センサーCC1,CC2から受信した電流I
1,I
2から、それらの差分に応じた係数Bを算出し、乗算器574は、駆動電圧Aに、演算回路679から受信した係数Bを掛けることで、駆動に係る電流I
2を調節する。
即ち、電流I
2が電流I
1より大きい場合には、PZTβのインピーダンスがPZTαのインピーダンスより小さくなっており、不要なたわみ振動によりPZTα側に比較的に大きい応力がかかっているので(
図8(b)の状態)、電流I
2が、電流I
1,I
2の差分に応じて小さくなるように調節される。比較的に小さい応力がかかっているPZTβは、駆動に係る電流I
2が小さくなった分、軸振動を弱め、相対的にPZTαの駆動電流I
1が大きくなって、PZTαの軸振動が強められることになる。相対的にPZTαの軸振動が強くなれば、たわみ振動によって応力のかかっているPZTαは、PZTβより大きく軸振動することになり、たわみ振動が打ち消されるように軸振動することになる。
他方、電流I
2が電流I
1より小さい場合には、PZTβのインピーダンスがPZTαのインピーダンスより大きくなっており、不要なたわみ振動によりPZTβ側に比較的に大きい応力がかかっているので、電流I
2が、電流I
1,I
2の差分に応じて大きくなるように調節される。比較的に大きい応力がかかっているPZTβは、駆動に係る電流I
2が大きくなった分、PZTαに対して軸振動を強め、PZTαより大きく軸振動して、やはりたわみ振動が打ち消されるように軸振動する。
かように、回路670により、電流I
1,I
2について、電流I
1,I
2の差分の負帰還に係るフィードバック制御が行われ、PZTα,PZTβに係る各駆動電圧が制御されて、たわみ振動が能動的に打ち消される状態で軸振動が継続される。
【0056】
このような制御の詳細が、
図8(b)や
図9に基づき、以下更に説明される。
図8(b)に模式的に示されるように、たわみ振動中のある瞬間において、PZTβは定常時より伸び、PZTαは定常時より縮んでいる。このとき、PZTα,PZTβには、逆位相の起電力が生起し、見かけ上のインピーダンスはPZTαとPZTβで異なることとなって、流れる電流はPZTαとPZTβで異なることとなる。かような現象は、たわみ振動中、継続する。よって、軸振動にたわみ振動が重畳されると、たわみ振動によるインピーダンスの差分の電流が、軸振動の電流に重畳されることになる。
これに対し、たわみ振動が生起していない正常な軸振動においては、PZTα,PZTβは同相で振動し、インピーダンスは等しく、流れる電流はPZTαとPZTβで同一である。
【0057】
図9は、電流波形を示すグラフであり、基本波の軸振動に対して、その2分の1の周波数でたわみ振動が生起した場合のシミュレーションに係るグラフである。尚、縦軸は相対的な電流の大きさ(曲線E1の振幅を1とした場合)であり、横軸は時間である。
図中、曲線E1(太実線)は、PZTα,PZTβに本来流れるべき軸振動用の電流波形であり、曲線E2(細実線)は、たわみ振動によってPZTαに発生した起電力に係る電流成分の波形であり、曲線E3(細点線)は、PZTαに実際に流れる電流波形であり、曲線E4(太点線)は、PZTβに実際に流れる電流波形である。
たわみ振動が生起すると、PZTαにおいては、曲線E1で示される本来の電流に、曲線E2で示される電流成分が重畳し、PZTαには曲線E3で示される電流が流れることになる。
他方、たわみ振動によってPZTβに発生した起電力に係る電流成分の波形は、曲線E2の逆位相の曲線となり、PZTβにおいては、曲線E1で示される本来の電流に、曲線E2の逆位相の曲線で示される電流成分が重畳し、PZTβには曲線E4で示される電流が流れることになる。
その結果、PZTα,PZTβには、たわみ振動に応じた不平衡電流が流れることになり、たわみ振動を打ち消すような軸振動が発生することになるのである。
【0058】
第6形態の超音波振動切断装置は、4個の圧電素子631,631・・を含む圧電素子ユニット611と、圧電素子ユニット611を挟む金属材20及び金属ブロック22と、圧電素子ユニット611並びに金属材20及び金属ブロック22を締結するボルト24と、を有する振動子602と、振動子602に連結される刃物4と、を備えており、複数の圧電素子631,631・・は、振動子602の中心軸と交わる方向(上下方向)において分かれるように配置されており(上側のPZTα,下側のPZTβ)、複数の圧電素子631,631・・(PZTα,PZTβ)にそれぞれ駆動電流I
1,I
2が流されることで、振動子602における軸振動を発生し、駆動電流I
2は、軸振動以外のたわみ振動によって複数の圧電素子631,631・・(PZTα,PZTβ)においてそれぞれ変化した電流I
1,I
2の差分(I
1−I
2)に応じて調節される。
よって、目的としないたわみ振動の状態が、電流センサーCC1,CC2によって検出され演算回路679によって算出された電流I
1,I
2の差分I
1−I
2によって把握され、圧電素子631,631(PZTβ)の駆動電流I
2が、目的としないたわみ振動を打ち消すよう能動的にフィードバック制御されることになる(アクティブ防振)。従って、通常の超音波振動切断の場合のみならず、アスペクト比の高いツールを用いる場合であっても、又大出力の振動をツールに与える場合であっても、不要なたわみ振動を確実に抑制して、極めて優れた切断を提供することができる。又、圧電素子ユニット611(PZTα,PZTβ)における電流I
1,I
2の差分I
1−I
2によって把握されたたわみ振動の状態に応じて、駆動電流I
2がフィードバック制御されることにより、たわみ振動の次数を問わず、様々な共振モードに係るたわみ振動を適切に抑制することが可能である。
【0059】
又、圧電素子631,631・・は、分極処理されており、それらの分極方向が振動子602の中心軸と平行な方向(前後方向)となっている。
よって、フィードバック制御における、所望する振動の付与や不要な振動の抑制のための構成が、シンプルになる。
【0060】
第6形態においては、第1形態ないし第5形態の少なくとも何れかと同様の変更例が適宜存在する。
特に、回路の構成について、PZTαに対する電流あるいは双方の電流を調節するものとされて良い。又、圧電素子ユニットにおいて圧電素子の分極方向がPZTαとPZTβで逆になっている状態で、PZTβの間の電極板に逆位相の駆動電流が印加され、その駆動電流が調節されるようにしても良い。
第1形態ないし第6形態及びそれらの変更例のうち、少なくとも何れか二つが、適宜組み合わせられても良い。