特許第6710610号(P6710610)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6710610
(24)【登録日】2020年5月29日
(45)【発行日】2020年6月17日
(54)【発明の名称】鉄道車両用制振制御装置
(51)【国際特許分類】
   B61F 5/24 20060101AFI20200608BHJP
   B60G 99/00 20100101ALI20200608BHJP
   B60G 17/016 20060101ALI20200608BHJP
   B60L 3/00 20190101ALI20200608BHJP
【FI】
   B61F5/24 F
   B60G99/00
   B60G17/016
   B60L3/00 B
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-173688(P2016-173688)
(22)【出願日】2016年9月6日
(65)【公開番号】特開2018-39323(P2018-39323A)
(43)【公開日】2018年3月15日
【審査請求日】2019年7月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004617
【氏名又は名称】日本車輌製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】特許業務法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡田 信之
【審査官】 森本 哲也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−018641(JP,A)
【文献】 特開平05−038911(JP,A)
【文献】 特開2012−086671(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61F 5/24
B60G 17/016
B60G 99/00
B60L 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の横揺れを低減するための制振用のアクチュエータと、前記横揺れを計測する加速度センサと、前記加速度センサの出力に基づいて前記アクチュエータの推力を制御する制御装置とを有する鉄道車両用制振制御装置において、
前記制御装置は、
周波数を関数とする前記横揺れに関し、乗客が、乗り心地が良いと感じる振動パワー値を算出する振動パワー算出手段と、
前記加速度センサの計測値に基づいて、前記鉄道車両の前記横揺れを、前記振動パワー算出手段が算出した前記振動パワー値に近づくように、前記鉄道車両を加振する加振手段を有すること、
を特徴とする鉄道車両用制振制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の鉄道車両用制振制御装置において、
前記振動パワー値が、1/fゆらぎに相当すること、
を特徴とする鉄道車両用制振制御装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の鉄道車両用制振制御装置において、
周波数を所定の区分に分割し、前記区分毎に、前記加速度センサと前記振動パワー値との差を算出し、前記差がマイナスの場合にのみ、加振制御を行うこと、
を特徴とする鉄道車両用制振制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載する鉄道車両用制振制御装置において、
前記制御装置は、
乗客が感じやすい周波数領域の重みを低くすることにより、前記周波数領域で前記加振制御を消極的に行うこと、
を特徴とする鉄道車両用制振制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載する鉄道車両用制振制御装置において、
前記制御装置は、
1/fゆらぎに相当する前記振動パワー値を、ISO2631をもとにした乗り心地フィルタの二乗値の逆数で補正すること、
を特徴とする鉄道車両用制振制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の横揺れを低減するための制振用のアクチュエータと、横揺れを計測する加速度センサと、加速度センサの出力に基づいてアクチュエータの推力を制御する制御装置とを有する鉄道車両用制振制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、本特許出願人が提案した特許文献1には、鉄道車両の横揺れを低減するための制振用の油圧シリンダと、横揺れを検出する加速度センサと、加速度センサの出力に基づいて油圧シリンダに供給する油圧を制御する制御装置とを有する鉄道車両用制振制御装置が記載されている。
しかし、従来の鉄道車両用制振制御装置は全て、振動レベルを低減すること、すなわち振動を無くすことを課題としていた。
【0003】
一方、特許文献2には、自動車において、車両が停止しているときに、モータに1/fゆらぎに相当する回転力を与えることが記載されている。停止時には、モータの振動が車体を揺らすため、その振動を1/fゆらぎにしようとする提案である。
乗り心地に関する測定方法及び評価に関しては、非特許文献1が知られている。ISO2631には、乗り心地に関する重みづけフィルタ(乗り心地フィルタ)が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5627096号公報
【特許文献2】特開2015-198494号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】日本工業規格JIS B 7760-2:2004(ISO 2631-1:1997)全身振動-第2部 測定方法及び評価に関する基本的要求
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、制振制御装置の導入により、例えば高速鉄道車両の振動は低減しているが、全体の振動が低減した結果、今まで気にならなかった周波数の振動が気になる場合がある。
乗客が快適と感じるかどうかは、振動の大きさだけではなく、周波数間の振動のバランスも重要であり、例えば、振動が大きくなっても振動を1/fゆらぎに合わせることで、むしろ乗客にとっては心地よいと感じることもある。
【0007】
一方、自動車の停止時においては、車両の振動がモータの振動に限定されるため、モータの振動を1/fゆらぎに合わせることが、大きな困難を伴わずに実施可能である。
しかし、動いている自動車や鉄道車両では、車両の振動(例えば、横揺れ)が複雑な要因の集積であるため、周波数間の振動のバランスを所定のバランスに合わせるように制御することは困難であった。
【0008】
本発明は、上記問題点を解決するためのものであり、鉄道車両において、車両を加振することにより、乗客が、乗り心地が良いと感じる振動に近い振動を、鉄道車両に与えることのできる鉄道車両用制振制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の鉄道車両用制振制御装置は、次のような構成を有している。
(1)鉄道車両の横揺れを低減するための制振用のアクチュエータと、横揺れを計測する加速度センサと、加速度センサの出力に基づいてアクチュエータの推力を制御する制御装置とを有する鉄道車両用制振制御装置において、制御装置は、周波数を関数とする横揺れに関し、乗客が、乗り心地が良いと感じる振動パワー値を算出する振動パワー算出手段と、加速度センサの計測値に基づいて、鉄道車両の横揺れを、振動パワー算出手段が算出した振動パワー値に近づくように、鉄道車両を加振する加振手段を有すること、を特徴とする。
【0010】
(2)(1)に記載の鉄道車両用制振制御装置において、前記振動パワー値が、1/fゆらぎに相当すること、を特徴とする。ここで、1/fゆらぎとは、パワースペクトル密度が周波数f(f>0)に反比例するゆらぎのことをいう。
(3)(1)または(2)に記載の鉄道車両用制振制御装置において、周波数を所定の区分に分割し、前記区分毎に、前記加速度センサと前記振動パワー値との差を算出し、前記差がマイナスの場合にのみ、加振制御を行うこと、
を特徴とする。
(4)(3)に記載する鉄道車両用制振制御装置において、前記制御装置は、乗客が感じやすい周波数領域の重みを低くすることにより、前記周波数領域で前記加振制御を消極的に行うこと、を特徴とする。
(5)(4)に記載する鉄道車両用制振制御装置において、前記制御装置は、1/fゆらぎに相当する前記振動パワー値を、ISO2631をもとにした乗り心地フィルタの二乗値の逆数で補正すること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の鉄道車両用制振制御装置は、次のような作用、効果を奏する。
(1)鉄道車両の横揺れを低減するための制振用のアクチュエータと、横揺れを計測する加速度センサと、加速度センサの出力に基づいてアクチュエータの推力を制御する制御装置とを有する鉄道車両用制振制御装置において、制御装置は、周波数を関数とする横揺れに関し、乗客が、乗り心地が良いと感じる振動パワー値を算出する振動パワー算出手段と、加速度センサの計測値に基づいて、鉄道車両の横揺れを、振動パワー算出手段が算出した振動パワー値に近づくように、鉄道車両を加振する加振手段を有すること、を特徴とするので、従来高速鉄道車両では、全体の振動が低減した結果、今まで気にならなかった周波数の振動が気になる場合があったが、振動レベルを低減するのではなく、周波数帯によっては、加振することにより、乗り心地が良いと感じる振動パワー値に近づけることができるため、高速鉄道車両の乗り心地をより向上させることができる。
【0012】
(2)(1)に記載の鉄道車両用制振制御装置において、前記振動パワー値が、1/fゆらぎに相当すること、を特徴とするので、鉄道車両の椅子席で乗客、特に幼児、子どもが心地よい睡眠を取ることができる。
【0013】
(3)(1)または(2)に記載の鉄道車両用制振制御装置において、周波数を所定の区分に分割し、前記区分毎に、前記加速度センサと前記振動パワー値との差を算出し、前記差がマイナスの場合にのみ、加振制御を行うこと、を特徴とするので、従来行われていなかった加振制御のみを行うため、鉄道車両の実際の振動を、効率的に乗り心地が良いと感じる振動パワー値に近づけることができる。
本発明者らの実験によると、例えば、軌道と速度を限定して考えれば、1Hz〜3Hzの領域では、実際の振動が振動パワー値よりも小さく、3Hz〜6Hzの領域では、実際の振動が振動パワー値よりも大きい。この場合に、1Hz〜3Hzの領域と3Hz〜6Hzの領域の振動のバランスを乗客が乗り心地が良いと感じる振動のバランスに近づけることが周波数領域の重みづけによりできるため、乗客の乗り心地を向上させることを効率的に行うことができる。
【0014】
(4)(3)に記載する鉄道車両用制振制御装置において、前記制御装置は、乗客が感じやすい周波数領域の重みを低くすることにより、前記周波数領域で前記加振制御を消極的に行うこと、を特徴とする。
本発明者らの実験によると、例えば、軌道と速度を限定して考えれば、1Hz〜3Hzの領域では、実際の振動が振動パワー値よりも小さく、3Hz〜6Hzの領域では、実際の振動が振動パワー値よりも大きい。この場合に、1Hz〜3Hzの領域と3Hz〜6Hzの領域の振動のバランスを乗客が乗り心地が良いと感じる振動のバランスに近づけることが周波数の重みづけによりできるため、乗客の乗り心地を向上させることを効率的に行うことができる。
【0015】
(5)(4)に記載する鉄道車両用制振制御装置において、前記制御装置は、1/fゆらぎに相当する前記振動パワー値を、ISO2631をもとにした乗り心地フィルタの二乗値の逆数で補正すること、を特徴とする。
1/fゆらぎをそのまま適用すると、乗客が感じやすい周波数領域を加振する場合があり、かえって乗り心地が悪化してしまう。それを防止するために、1/fゆらぎに相当する振動パワー値をISO2631をもとにした乗り心地フィルタの二乗値の逆数で補正している。
なお、乗り心地フィルタは加速度に対する重みのため、加振制御におけるパワー換算できるように、二乗値の逆数で補正している。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の鉄道車両用制振制御装置の構成を示すブロック図である。
図2】振動パワー値算出部S2の作用を示す図である。
図3】本発明の鉄道車両用制振制御装置を用いた場合の作用を示す図である。
図4】鉄道車両に設けられた制振装置を概念的に示した図である。
図5】第1実施形態の制振用ダンパ5を示した回路図である。
図6】第2実施形態の乗り心地フィルタの二乗値の逆数で補正した場合の作用を示す図である。
図7】ISO2631をもとにした乗り心地フィルタの重みを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の鉄道車両用制振制御装置の実施形態について、図面を参照しながら以下に詳細に説明する。図4は、鉄道車両に設けられた制振装置を概念的に示した図であり、車体長手方向に見た図である。鉄道車両1は、前後2台の台車3に空気バネ4を介して車体2が載せられ、車体2の横揺れを防止するための制振装置8が設けられている。制振装置8には、車体2と台車3との間に制振用ダンパ5が連結され、車体2の横揺れに応じて制振用ダンパ5の制振荷重を変化させ、制振度合いの調節を可能にしている。
制振用ダンパ5は、シリンダ10の作動油を制御する比例リリーフ弁等を備えた油圧回路によって構成され、制振装置8には、その比例リリーフ弁等の作動を制御する制御コントローラ6が設けられている。また、鉄道車両1には、車体2の左右方向の振動を計測する加速度センサ7が設けられ、それに制御コントローラ6が接続されている。
【0018】
図5は、第1実施形態の制振用ダンパ5を示した回路図である。シリンダ10は、ピストン15がヘッド側室13とロッド側室14とにシリンダチューブ11内を仕切り、そのピストン15には、ヘッド側室13からロッド側室14の方向にのみ作動油が流れるようにチェック弁16を備えた連通路が形成されている。ヘッド側室13の断面積はピストンロッド12の断面積の2倍に設定され、伸縮のいずれの場合にでも、シリンダチューブ11から吐出される作動油の量が同じになるように構成されている。
シリンダ10には、ヘッド側室13にチェック弁25を介してオイルタンク18が接続されている。一方、ロッド側室14には流路41が接続され、その流路41から流路42が分岐し、そこに第1比例リリーフ弁21が設けられている。第1比例リリーフ弁21の二次側には、流路42から分岐した流路43がオイルタンク18へ接続されている。流路43には、パッシブ用の低圧リリーフ弁22と第2比例リリーフ弁23が直列に設けられている。
【0019】
第1比例リリーフ弁21及び第2比例リリーフ弁23は、ノーマルオープンタイプの電磁比例リリーフ弁であり、図4に示す制御コントローラ6からの荷重制御信号に従い、リリーフ圧を調整したオンロード制御が行われ、通常の全開状態でアンロード制御を可能にしたものである。制振用ダンパ5には更に、各弁による作動油の流れが遮断したフェイル時にでもオイルを還流させることができるようにするため、ロッド側室14とオイルタンク18との間に、オリフィス26とリリーフ弁27とが設けられている。
シリンダ10のヘッド側室13に接続された流路44は、低圧リリーフ弁22と第2比例リリーフ弁23との間で流路43に接続され、その流路44には第1比例リリーフ弁21を設けた流路42が接続され、ロッド側室14側に連通している。流路42,44には、それぞれ開閉弁28,29が設けられている。開閉弁28,29は、両方向への作動油の流れを可能とする開弁状態と、一方向の流れのみを遮断する閉弁状態とが切り替えられるものである。ただし、閉弁状態での作動油の遮断方向は、ヘッド側室13に対して逆向きになるように構成されている。
【0020】
制振用ダンパ5は、このように第1比例リリーフ弁21や第2比例リリーフ弁23などを備えた流路41,42,43,44によってセミアクティブ回路部が構成されている。そして、更に制振用ダンパ5には、モータ32によって駆動するポンプ31が接続され、シリンダ10へ積極的に作動油を供給するフルアクティブ回路部が構成されている。フルアクティブ回路部は、ポンプ31が接続された流路45と、第3比例リリーフ弁33が接続された戻り流路46によって構成されている。
ポンプ31は、流路45によってオイルタンク18に接続され、そのオイルタンク18の作動油をシリンダ10側へ供給するようにしたものであり、チェック弁34を介して流路41,42に接続されている。ポンプ31の二次側では戻り流路46が分岐し、オイルタンク18に接続されている。第3比例リリーフ弁33は、ノーマルオープンタイプの電磁比例リリーフ弁であり、フルアクティブ作動時の制振荷重を調整するためのものである。制御コントローラ6からの荷重制御信号に従いリリーフ圧が調整される。
【0021】
次に、図1は、本発明の鉄道車両用制振制御装置の構成を示すブロック図であり、この回路は、制御コントローラ6に内蔵されている。
全体は、制御指令算出部S1、振動パワー値算出部S2、各周波数帯の加振前のパワーと振動パワー値との差を算出する加速度差算出部S3、加速度差算出部S3が算出した差が正の場合には、加振を不要として、差をゼロとするマイナス時加振部S4、各周波数帯の加振前のパワーと振動パワー値との差に相当する加速度を算出する加速度算出部S5、及び、各周波数帯の加振加速度の和に車体質量を乗じて加振荷重とし制御指令に加算する加振部S6より構成されている。
【0022】
従来の制振制御である制御指令算出部S1は、加速度センサ7の検出値に基づいて、シリンダ10に与える荷重を算出する。算出された荷重は、加算部Mに入力される。
振動パワー値算出部S2は、周波数f1Lから周波数fnHまでの間において、各周波数の車体加速度af(N)の二乗平均を算出する(O)。一方、周波数重みの積分値を算出する(P)。次に、車体加速度afの二乗平均値を、周波数重みの積分値で除する(Q)。次に、周波数重みを乗ずる。これにより、各周波数における乗客が乗り心地が良いと感じる振動パワー値が算出される。
図2に、振動パワー値算出部S2の作用を示す。横軸が周波数を対数表示したもので、0.1Hz、1.0Hz、10Hzを表示している。縦軸は、車体加速度afの二乗平均値を示す。図2のグラフでは、(1)式、及び(2)式の周波数重みG(f)を1/fゆらぎとした場合を示している。
R1の直線は、1/fゆらぎの基準を示すものであり、図2の(1)式のPwである。また、R2の直線は、算出された振動パワー値P(fx)を示し、(2)式の左辺を示している。
【0023】
次に、加速度差算出部S3について説明する。加速度差算出部S3は、各周波数帯の加振前のパワーと振動パワー値との差を算出するものである。
n個のバンドパスフィルタA1〜Anに、加速度センサ7の計測値aが入力される。
バンドパスフィルタA1は、f1L〜f1Hの幅内にある周波数の振動信号を通過させる。本実施例では、f1Lは、0.5Hzにしている。また、f1H=0.5×21/3としている。最低周波数であるf1Lを0.5Hzとしているのは、0.5Hz未満の周波数の横振動は、鉄道車両が直進するときに、乗客が横揺れを感じることが少なく、問題とならないからである。また、21/3としているのは、1/3オクターブフィルタを用いるためである。1/3オクターブフィルタを用いているのは、バンドの幅を一定にすると、高い周波数で細かすぎるので、それを回避するためである。
【0024】
バンドパスフィルタA2は、f2L〜f2Hの幅内にある周波数の振動信号を通過させる。f2L=0.5×21/3であり、f2H=0.5×21/3×21/3である。バンドパスフィルタA3は、f3L〜f3Hの幅内にある周波数の振動信号を通過させる。f3L=0.5×21/3×21/3であり、f3H=0.5×21/3×21/3×21/3=0.5×2=1である。以下、Anまで同様である。本実施例では、fnL=5として演算を行っている。すなわち、本実施例では、n=13として計算を行っている。nが小さいと修正が不十分となる恐れがあり、また、nが大きすぎると、計算に時間がかかり他の制御処理に支障をきたす恐れがあるからである。
【0025】
バンドパスフィルタA1〜Anを通過した信号は、B1〜Bnで二乗平均が算出される。そして、振動パワー値算出部S2からの出力を受けた値をD1〜Dnで減算する。
これにより、各周波数帯の加振前のパワーと振動パワー値との差が算出される。
【0026】
次に、マイナス時加振部S4について説明する。
マイナス時加振部S4は、加速度差算出部S3が算出した差(D1〜Dnの出力)が正の場合には、加振を不要として、差をゼロとしている。また、加速度差算出部S3が算出した差(D1〜Dnの出力)が負の場合には、そのままの信号をS5へ送る。
【0027】
次に、加速度算出部S5について説明する。加速度算出部S5は、各周波数帯の加振前のパワーと振動パワー値との差に相当する加速度を算出するためのものである。
ランダムデータがバンドパスフィルタF1〜Fnに入力される。バンドパスフィルタF1〜Fnは、バンドパスフィルタA1〜Anと同じフィルタであるので、説明を割愛する。ランダムデータを入力しているのは、追加する加振による横揺れが、乗客に意図的な揺れであると感じられないようにするためである。
【0028】
バンドパスフィルタF1〜Fnを通過した信号は、G1〜Gnで二乗平均が算出される。
次に、S4から入力された各周波数帯の加振前のパワーと振動パワー値との差について、S4で処理した信号を、G1〜Gnで算出した二乗平均で除する(H1〜Hn)。これにより、加振すべき加速度の強さが求められる。
H1〜Hnで算出された値の平方根を算出する(I1〜In)。算出した平方根にバンドパスフィルタF1〜Fnを通過した信号を乗じる(J1〜Jn)。
J1〜Jnから出力された信号は、各周波数帯の加振前のパワーと振動パワー値との差に相当する加速度である。
【0029】
次に、加振部S6について説明する。加振部S6は、各周波数帯の加振加速度の和に車体質量を乗じて加振荷重とし制御指令に加算するためのものである。
各周波数帯の加振前のパワーと振動パワー値との差に相当する加速度である、J1〜Jnから出力されたすべての信号は、積分器Kに入力され積分され、加振すべき加速度として算出される。加振すべき加速度は、Lにおいて鉄道車両の質量が乗じられて加振すべき力として算出される。加振すべき力は、Mにおいて、通常の制振信号に加算される。
【0030】
次に、本発明の鉄道車両用制振制御装置の作用、効果について説明する。
図3に、本発明の鉄道車両用制振制御装置を用いた場合の作用を示す。図3の横軸は周波数を対数表示したもので、1Hz〜10Hzを表示している。縦軸は、車体加速度afの二乗平均値を示す。
T3は、振動パワー値であり、T2は、加振を行わなかった場合のデータを示し、T1は、本発明の鉄道車両用制振制御装置を用いた場合のデータを示す。
図3に示すように、周波数1Hz〜3Hzの周波数帯で、T1がT2と比較して、車体加速度が大きく、振動パワー値に近似していることがわかる。一方、3Hz〜5Hzの周波数帯では、T2の車体加速度の二乗平均値が振動パワー値を上回っているため、加振を行っていない。
【0031】
近年、制振制御装置の導入により、例えば高速鉄道車両の振動は低減しているが、全体の振動が低減した結果、今まで気にならなかった周波数の振動が気になる場合がある。
乗客が快適と感じるかどうかは、振動の大きさだけではなく、周波数間の振動のバランスも重要であり、例えば、振動が大きくなっても振動を1/fゆらぎに合わせることで、むしろ乗客にとっては心地よいと感じることもある。
したがって、振動レベルを低減するのではなく、周波数帯によっては、加振することにより、振動パワー値に近づけることができるため、鉄道車両の乗り心地をより向上させることができる。
【0032】
次に、第2の実施の形態について説明する。第2の実施の形態は、全体概要は、第1の実施の形態と同じであるので、相違点のみ説明して、同じ点については、説明を省略する。
制御コントローラ6は、周波数を所定の区分にバンドパスフィルタを用いて分割している。1/fゆらぎに相当する振動パワー値を、バンドパスフィルタA1〜Anの二乗値で補正している。
図6は、第2実施形態の乗り心地フィルタの二乗値の逆数で補正した場合の作用を示す図である。
図7は、ISO2631をもとにした乗り心地フィルタの重みを示す図である。横軸が、左右乗り心地フィルタの周波数を示し、縦軸は、左右乗り心地フィルタの重みを示す。
【0033】
図7では、U2に示す部分で重みが大きくなる。すなわち、U2に示す周波数域は乗客が感じやすい周波数域であり、この周波数域を加振すると、かえって乗客の乗り心地を悪くしてしまう。
図6では、乗り心地フィルタの二乗値の逆数で補正しているので、U1に示す部分の重みが低減されるため、乗客が感じやすい周波数域で加振する度合いを小さくでき、加振によりかえって乗客の乗り心地を悪化することを防止できる。
【0034】
以上詳細に説明したように、本実施の形態の鉄道車両用制振制御装置によれば、(1)鉄道車両1の横揺れを低減するための制振用のアクチュエータであるシリンダ10と、横揺れを計測する加速度センサ7と、加速度センサ7の出力に基づいてシリンダ10の推力を制御する制御コントローラ6とを有する鉄道車両用制振制御装置において、制御コントローラ6は、周波数を関数とする横揺れに関し、乗客が、乗り心地が良いと感じる振動パワー値を算出する振動パワー算出手段と、加速度センサ7の計測値に基づいて、鉄道車両1の横揺れを、振動パワー算出手段が算出した振動パワー値に近づくように、鉄道車両1を加振する制振用ダンパ5を有すること、を特徴とするので、従来高速鉄道車両では、全体の振動が低減した結果、今まで気にならなかった周波数の振動が気になる場合があったが、振動レベルを低減するのではなく、周波数帯によっては、加振することにより、乗り心地が良いと感じる振動パワー値に近づけることができるため、鉄道車両の乗り心地をより向上させることができる。
【0035】
(2)(1)に記載の鉄道車両用制振制御装置において、振動パワー値が、1/fゆらぎに相当すること、を特徴とするので、鉄道車両の椅子席で乗客、特に幼児、子どもが心地よい睡眠を取ることができる。
【0036】
(3)(1)または(2)に記載の鉄道車両用制振制御装置において、周波数を所定の区分に分割し、区分毎に、加速度センサ7と振動パワー値との差を算出し、差がマイナスの場合にのみ(S4)、加振制御を行うこと、を特徴とするので、従来行われていなかった加振制御のみを行うため、鉄道車両1の実際の振動を、効率的に振動パワー値に近づけることができる。
本発明者らの実験によると、例えば、軌道と速度を限定して考えれば、1Hz〜3Hzの領域では、実際の振動が振動パワー値よりも小さく、3Hz〜6Hzの領域では、実際の振動が振動パワー値よりも大きい。この場合に、1Hz〜3Hzの領域と3Hz〜6Hzの領域の振動のバランスを乗客が乗り心地が良いと感じる振動のバランスに近づけることができるため、乗客の乗り心地を向上させることを効率的に行うことができる。
【0037】
(4)(3)に記載する鉄道車両用制振制御装置において、制御コントローラ6は、乗客が感じやすい周波数領域の重みを低くすることにより、周波数領域で加振制御を消極的に行うこと、を特徴とする。
本発明者らの実験によると、例えば、軌道と速度を限定して考えれば、1Hz〜3Hzの領域では、実際の振動が振動パワー値よりも小さく、3Hz〜6Hzの領域では、実際の振動が振動パワー値よりも大きい。この場合に、1Hz〜3Hzの領域と3Hz〜6Hzの領域の振動のバランスを乗客が乗り心地が良いと感じる振動のバランスに近づけることができるため、乗客の乗り心地を向上させることを効率的に行うことができる。
【0038】
(5)(4)に記載する鉄道車両用制振制御装置において、制御コントローラ6は、1/fゆらぎに相当する振動パワー値を、ISO2631をもとにした乗り心地フィルタの二乗値の逆数で補正すること、を特徴とする。
1/fゆらぎをそのまま適用すると、乗客が感じやすい周波数領域を加振する場合があり、かえって乗り心地が悪化してしまう。それを防止するために、1/fゆらぎに相当する振動パワー値をISO2631をもとにした乗り心地フィルタの二乗値の逆数で補正している。
なお、乗り心地フィルタは加速度に対する重みのため、加振制御におけるパワー換算できるように、二乗値の逆数で補正している。
【0039】
なお、本実施形態は単なる例示にすぎず、本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に、その要旨を逸脱しない範囲内で様々な改良、変形が可能である。
例えば、本実施の形態では、振動パワー値として、1/fゆらぎを用いているが、通勤用鉄道、高速鉄道等鉄道車両の用途に合わせて、別の基準パワー値を用いても良い。
【符号の説明】
【0040】
S1 制御指令算出部
S2 振動パワー値算出部
S3 加速度差算出部
S4 マイナス時加振部
S5 加速度算出部
S6 加振部
6 制御コントローラ
7 加速度センサ
10 シリンダ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7