(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
灌漑用液体を流通させるチューブの内壁面における、前記チューブの内外を連通する吐出口に対応する位置に接合されて前記チューブ内の前記灌漑用液体を前記吐出口から定量的に前記チューブ外に吐出するための樹脂製のエミッタであって、
前記エミッタが前記チューブに接合されたときに前記チューブ内の空間と連通する取水部と、
前記取水部に連通しており、前記灌漑用液体を減圧させながら流す減圧流路を形成するための減圧流路部と、
前記減圧流路部に連通しており、前記チューブ内の灌漑用液体の圧力に応じて灌漑用液体の流量を調整するための第1の流量調整部と、
前記減圧流路部および前記第1の流量調整部に連通しており、前記チューブ内の灌漑用液体の圧力に応じて灌漑用液体の流量を調整するための第2の流量調整部と、
前記第2の流量調整部に連通しており、前記エミッタが前記チューブに接合されたときに前記吐出口に面する吐出部と、
を有し、
前記第1の流量調整部は、
第1の弁座と、
前記第1の弁座に開口し、前記第2の流量調整部に連通している第1の連通孔と、
可撓性を有するとともに前記第1の弁座とは離れて配置され、前記チューブ内の灌漑用液体の圧力を受けたときに前記第1の弁座に接近する第1のダイヤフラム部と、
前記第1のダイヤフラム部および前記第1の連通孔の開口部の間において、前記第1の連通孔の開口部との間に隙間を有して配置される弁体と、
を有し、
前記弁体は、前記第1のダイヤフラム部が前記第1の弁座に接近するにつれて、前記第1の連通孔に向かって移動し、
前記弁体は、前記弁体の移動距離が所定値以下であるときは、前記弁体が移動するにつれて前記隙間が狭くなり、前記弁体の移動距離が前記所定値超であるときは、前記弁体が移動するにつれて前記隙間が広くなる形状を有する、
エミッタ。
前記第1の流量調整部は、前記第1の連通孔の開口部の全周において、前記第1の連通孔の内面から前記弁体の移動方向に直交する方向に突出する突起部をさらに有する、請求項1に記載のエミッタ。
前記第1の流量調整部は、前記第1の連通孔の開口部を取り囲むように、前記弁体側において互いに離間して配置されている、前記弁体を前記連通孔内に導くための複数のガイド部をさらに有する、請求項1または2に記載のエミッタ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[点滴灌漑用チューブの構成]
図1A、Bは、本実施の形態に係る点滴灌漑用チューブ100の構成を示す図である。
図1Aは、本実施の形態に係る点滴灌漑用チューブ100の軸に沿う方向の断面図であり、
図1Bは、点滴灌漑用チューブ100の軸に垂直な方向の断面図である。点滴灌漑用チューブ100は、灌漑用液体を吐出するための吐出口112を有するチューブ110と、チューブ110の内壁面の吐出口112に対応する位置に接合されているエミッタ120とを有する。
【0014】
チューブ110は、灌漑用液体を流すための管である。チューブ110は、通常、樹脂製であり、チューブ110の材料は、例えば、直鎖状低密度ポリエチレンや高密度ポリエチレンなどのポリエチレンである。チューブ110の径方向の大きさおよびチューブ110の形状は、チューブ110の内部にエミッタ120を配置可能であればよい。
【0015】
チューブ110の管壁には、チューブ110の軸方向において所定の間隔(例えば、200mm〜500mm)で灌漑用液体を吐出するための複数の吐出口112が形成されている。吐出口112の開口部の直径は、灌漑用液体を所望の流量で吐出可能であればよく、例えば、1.5mmである。チューブ110の内壁面の吐出口112に対応する位置には、エミッタ120がそれぞれ接合されている。
【0016】
エミッタ120は、チューブ110の内壁面に接合されている。エミッタ120のチューブ110への接合方法は、特に限定されず、公知の接合方法から適宜選択されうる。当該接合方法の例には、エミッタ120またはチューブ110を構成する樹脂材料の溶着または融着と、接着剤による接着とが含まれる。
【0017】
図2A、Bは、本実施の形態に係るエミッタ120の構成を示す図である。
図2Aは、エミッタ120の平面図であり、
図2Bは、
図2AのA−A線における断面図である。
【0018】
エミッタ120の大きさおよび形状は、所期の機能を発現可能な範囲において適宜に決めることができる。たとえば、エミッタ120の平面視形状は、四隅がR面取りされた略矩形状であり、エミッタ120の長辺方向の長さは、35mmであり、エミッタ120の短辺方向の長さは8mmであり、エミッタ120の高さは2.5mmである。
【0019】
エミッタ120は、
図2A、Bに示されるように、エミッタ本体130、第1のダイヤフラム部170および第2のダイヤフラム部180を有する。第1のダイヤフラム部170および第2のダイヤフラム部180は、エミッタ本体130上に配置されている。
【0020】
図3A〜Dおよび
図4A、Bは、本実施の形態に係るエミッタ本体130の構成を示す図である。
図3Aは、エミッタ本体130の平面図であり、
図3Bは、エミッタ本体130の正面図であり、
図3Cは、エミッタ本体130の底面図であり、
図3Dは、エミッタ本体130の右側面図である。また、
図4Aは、
図3AのA−A線における断面図であり、
図4Bは、
図3AのB−B線における断面図である。
【0021】
エミッタ本体130は、樹脂材料で成形されている。当該樹脂材料の例には、直鎖状低密度ポリエチレンや高密度ポリエチレンなどのポリエチレン、ポリプロピレン、シリコーン、および、ゴム弾性を有する工業用材料が含まれる。当該ゴム弾性を有する工業用材料の例には、エラストマーおよびゴムが含まれる。
【0022】
エミッタ本体130は、その平面視形状が略矩形状である。エミッタ本体130の底面の形状は、チューブ110の内壁面に沿う凸の曲面である。エミッタ本体130の上面および底面には、凹部、溝、凸部および貫通孔が適宜に配置されている。
【0023】
より詳しくは、エミッタ本体130の上面には、第1の凹部131、第1の円柱部132、第2の凹部133、第2の円柱部134、第1の凸部135、第1の溝136、第2の溝137、第3の溝138および第4の溝139が形成されている。エミッタ本体130には、スリット140、第1の孔141、第2の孔142、第3の孔143、第4の孔144および第5の孔145がさらに形成されている。エミッタ本体130の底面には、第5の溝150、第1の減圧流路部151、第6の溝152、第2の減圧流路部153、第3の減圧流路部154、第7の溝155および第3の凹部156がさらに形成されている。
【0024】
第1の凹部131は、エミッタ本体130の上面の中央部に開口している。第1の円柱部132は、第1の凹部131の底面の中央部に配置されている。第2の凹部133は、エミッタ本体130の上面において、第1の凹部131よりもエミッタ本体130の長手方向における一方の外側に開口している。第2の円柱部134は、第2の凹部133の底面の中央部に配置されている。第1の凹部131および第2の凹部133の平面視形状は、いずれも円形状である。第1の円柱部132の上面には、第2の孔142が開口している。第1の凸部135は、第1の円柱部132の上面上に、第2の孔142の開口部を取り囲むように、互いに離間して配置されている。第2の円柱部134の上面には、第5の孔145が開口している。第1の溝136は、第2の円柱部134の上面に形成されており、第2の円柱部134の上面の周縁と第5の孔145とを連通している。詳細については後述するが、第2の溝137、第3の溝138および第4の溝139は、エミッタ本体130の上面において、第1の凹部131よりもエミッタ本体130の長手方向における他方の外側に形成されている。
【0025】
第1の凹部131の深さ(エミッタ本体130の上面から第1の凹部131の底面までの距離)および第2の凹部133の深さ(エミッタ本体130の上面から第2の凹部133の底面までの距離)は、互いに同じであってもよいし、異なっていてもよい。本実施の形態では、第1の凹部131および第2の凹部133の深さは、互いに同じである。
【0026】
第1の円柱部132は、第1の凹部131の底面から突出しており、第2の円柱部134は、第2の凹部133の底面から突出している。第1の円柱部132の高さは、第1凹部131の深さ未満である。第2の円柱部134の高さは、第2の凹部133の深さ未満である。第1の円柱部132の高さは、第2の円柱部134の高さよりも低い。第1の円柱部132の上面(第1の弁座132s)は、平面であり、第2の円柱部134の上面(第2の弁座134s)は、斜面(曲面)である。第1の円柱部132の上面の中央部に開口している第2の孔142の開口部の形状は、円形状であり、第2の円柱部134の上面の中央部に開口している第5の孔145の開口部の形状も、円形状である。これにより、第1の円柱部132の平面視形状および第2の円柱部134の平面視形状は、いずれも円環形状である。
【0027】
第1の溝136は、第2の円柱部134の上面(第2の弁座134s)に形成されている。本実施の形態では、第1の溝136の数は、1つである。第1の溝136の平面視形状は、直線形状である。第1の溝136は、第2の円柱部134の上面から一定の深さを有しており、当該上面に対して平行な底面を有している。
【0028】
第1の孔141は、第1の凹部131の底面に開口している。第2の孔142は、第1の円柱部132の中央部に開口している。詳細については後述するが、エミッタ本体130には、第2の孔142の開口部の全周において、内側に突出する突起部146が形成されている。第3の孔143および第4の孔144は、第2の凹部133の底面に開口している。第5の孔145は、第2の円柱部134の中央部に開口している。第1の孔141、第2の孔142、第3の孔143、第4の孔144および第5の孔145の平面視形状は、いずれも円形である。
【0029】
また、エミッタ本体130は、フィルタ部147と、フィルタ部147に配置されたスリット140とを有する。フィルタ部147およびスリット140は、第1の凹部131よりも、エミッタ本体130の長手方向における他方の外側に配置されている。
【0030】
フィルタ部147は、エミッタ本体130の上面に形成された微細な凹凸である。フィルタ部147は、エミッタ本体130の長手方向における他端部の縁に沿うU字型の第2の溝137と、第2の溝137からその外側に延出して第2の溝137と外部とを連通する複数の第3の溝138と、第2の溝137からのその内側に延出する複数の第4の溝139と、によって構成されている。第4の溝139は、主に、エミッタ本体130の短手方向に沿って独立して延在しており、第4の溝139の一部は互いに連通している。
【0031】
スリット140は、エミッタ本体130の短手方向における一方の端部において、エミッタ本体130の長手方向に沿って開口している細長い貫通孔である。スリット140は、エミッタ本体130の上面ではフィルタ部147における複数の第4の溝139の底に開口している。
【0032】
第5の溝150は、エミッタ本体130の底面に形成されている。第5の溝150は、エミッタ本体130の短手方向の一方の端部において、上記長手方向に沿って延在している。第1の減圧流路部151は、上記短手方向の一方の端部において、上記長手方向に沿って延在している。第1の減圧流路部151の一方の端部は、第5の溝150の一方の端部に連通している。第6の溝152は、エミッタ本体130の長手方向の他方の端部において、上記短手方向に沿って延在している。第6の溝152は、上記長手方向の内側部分において、第1の減圧流路部151の他方の端部と、第2の減圧流路部153の一方の端部と、第3の減圧流路部154の一方の端部とに連通している。第2の減圧流路部153は、上記短手方向における中心部において、上記長手方向に沿って延在している。第3の減圧流路部154は、上記短手方向における他方の端部において、上記長手方向に沿って延在している。第7の溝155は、エミッタ本体130の底面の中心部において、上記長手方向に沿って延在している。第3の凹部156は、エミッタ本体130の底面において、第5の溝150、第7の溝155および第3の減圧流路部154よりも、上記長手方向における外側に形成されている。
【0033】
第1の減圧流路部151、第2の減圧流路部153および第3の減圧流路部154は、いずれも、その平面形状がジグザグ形状の溝である。当該ジグザグ形状は、例えば、当該減圧流路部の両側面から略三角柱形状の凸部が上記長手方向に沿って交互に配置されることによって形成される形状である。当該凸部は、例えば、エミッタ本体130を底面視したときに、当該凸部の突端が上記両側面間の中心軸を超えないように配置されている。
【0034】
第5の溝150の底面には、スリット140が開口している。第2の減圧流路部153の他方の端部には、第1の孔141が開口している。第7の溝155の一方の端部には、第2の孔142が開口しており、第7の溝155の他方の端部には、第3の孔143が開口している。第3の減圧流路部154の他方の端部には、第4の孔144が開口している。第3の凹部156の底面の内側には、第5の孔145が開口している。
【0035】
第3の凹部156は、エミッタ本体130の底面の外側の一端部に亘って配置されている。第3の凹部156は、第2の凸部157、第3の凸部158、第4の凸部159および第5の凸部160を有する。
【0036】
第2の凸部157は、上記短手方向に沿って延在しており、上記長手方向において第5の孔145と重なる位置に配置されている。第3の凸部158は、上記短手方向における第2の凸部157の延長線上の、第2の凸部157および第3の凹部156の側壁のいずれとも離間する位置に配置されている。第4の凸部159は、第3の凹部156の側壁から上記短手方向に沿って延在しており、上記長手方向において第3の凸部158と第3の凹部156の側壁との隙間と重なる位置に配置されている。第5の凸部160は、上記短手方向における第4の凸部159の延長線上に沿って延在しており、上記長手方向において第2の凸部157と第3の凸部158の側壁との隙間と重なる位置に配置されている。
【0037】
図5A、Bは、第1のダイヤフラム部170の構成を示す図であり、
図5C、Dは、第2のダイヤフラム部180の構成を示す図である。
図5Aは、中心軸を通る第1のダイヤフラム部170の断面図であり、
図5Bは、第1のダイヤフラム部170の底面図である。また、
図5Cは、中心軸を通る第2のダイヤフラム部180の断面図であり、
図5Dは、第2のダイヤフラム部180の底面図である。
【0038】
第1のダイヤフラム部170および第2のダイヤフラム部180も、樹脂製であり、可撓性を有する。当該樹脂材料の例には、直鎖状低密度ポリエチレンや高密度ポリエチレンなどのポリエチレン、ポリプロピレン、シリコーン、および、ゴム弾性を有する工業用材料が含まれる。当該ゴム弾性を有する工業用材料の例には、エラストマーおよびゴムが含まれる。第1のダイヤフラム部170の樹脂材料は、エミッタ本体130の樹脂材料と同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、第1のダイヤフラム部170の樹脂材料は、第2のダイヤフラム部180の樹脂材料と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0039】
第1のダイヤフラム部170は、その平面視形状が円形状である第1の膜部171と、第1の膜部171の中心部から、第1の膜部171の法線方向に延在する弁体172と、第1の膜部171の周縁部から弁体172と同じ方向に延在する第1の周壁部173とを有する。第1の周壁部173は、第1の膜部171の外縁部より内側に配置されている。第1の膜部171の直径は、第1の凹部131の直径より大きく、第1の周壁部173の外径は、第1の凹部131の直径と同じである。第1の膜部171の、第1の周壁部173より外側の部分と、第1の周壁部173は、第1の凹部131の開口部の角部を挟み込むように、エミッタ本体130上に配置されている。これにより、第1のダイヤフラム部170は、所望の位置に確実かつ容易に位置決めされうる。
【0040】
本実施の形態では、第1のダイヤフラム部170および弁体172は、一体である。弁体172の外形は、略円錐台形状であり、第1の膜部171から離れるにつれて、弁体172の水平方向の断面における弁体172の直径は、大きくなる。弁体172は、第1のダイヤフラム部170(第1の膜部171)が第1の凹部131を塞ぐように配置されたときに、第1のダイヤフラム部170および第2の孔142の開口部の間において、第2の孔142の開口部との間に隙間を有して配置される。当該隙間とは、弁体172および第2の孔142の開口部の間の最短距離である。詳細については後述するが、当該隙間の大きさは、当該隙間を流れる灌漑用液体の所望の流量に応じて適宜設定される。
【0041】
弁体172の高さ(弁体172の基端部および先端部の間の距離)は、第1の凹部131の深さ、第1の円柱部132の高さ(第2の孔142の位置)および第2の孔142の深さに応じて適宜設定されうる。弁体172の高さは、第1のダイヤフラム部170(第1の膜部171)が第1の凹部131を塞ぐように配置されたときに、弁体172の先端部が第2の孔142の開口部より上に所望の隙間を有して配置されうる高さである。また、弁体172の底面視形状は、円形状であり、弁体172を平面視したとき、弁体172の突端部の外径は、第2の孔142の開口部の直径よりもわずかに小さい。より具体的には、第2の孔142の開口部の直径から、第2の孔142の内面の全周から内側に突出する突起部146の突出方向における長さの2倍を引いた長さよりもわずかに小さい。弁体172の中心部は、逆円錐形状の空洞となっており、弁体172の外周壁の厚さは、略均一である。
【0042】
第2のダイヤフラム部180は、その平面視形状が円形状である第2の膜部181と、第2の膜部181の周縁部から、第2の膜部181の法線方向に延在する第2の周壁部183とを有している。第2の周壁部183は、第2の膜部181の外縁部より内側に配置されている。第2の膜部181の直径は、第2の凹部133の直径より大きく、第2の周壁部183の直径は、第2の凹部133の直径と同じである。第2の膜部181の、第2の周壁部183より外側の部分と、第2の周壁部183は、第2の凹部133の開口部の角部を挟み込むように、エミッタ本体130上に配置されている。これにより、第2のダイヤフラム部180は、所望の位置に確実かつ容易に位置決めされうる。
【0043】
エミッタ120は、第1のダイヤフラム部170の、弁体172および第1の周壁部173が第1の凹部131に対向した状態で、第1のダイヤフラム部170を第1の凹部131に内嵌させ、第2のダイヤフラム部180の第2の周壁部183が第2の凹部133に対向した状態で、第2のダイヤフラム部180を第2の凹部133に内嵌させることによって作製される。前述のとおり、両ダイヤフラム部は、周壁部と、周壁部より外側に延在する膜部とを有することから、両ダイヤフラム部の膜部は、いずれも、上記円柱部の上面(弁座)から所期の距離だけ離れた位置に確実かつ容易に配置される。
【0044】
第1のダイヤフラム部170および第2のダイヤフラム部180は、エミッタ本体130に接合されている。接合方法の例には、前述したように、樹脂材料の溶着または融着と、接着剤による接着とが含まれる。
【0045】
フィルタ部147、スリット140および第5の溝150は、エミッタ120がチューブ110に接合されたときにチューブ110内と連通する取水部200を構成している。
【0046】
また、第1の凹部131、第1の円柱部132、第1の凸部135(特許請求の範囲では、「ガイド部」と称している)、第1の孔141、第2の孔(特許請求の範囲では、「第1の連通孔」と称している)142、弁体172を含む第1のダイヤフラム部170および突起部146は、チューブ110内の灌漑用液体の圧力に応じて灌漑用液体の流量を調整するための第1の流量調整部300を構成している(
図2B参照)。第1の流量調整部300は、第1の孔141を介して第2の減圧流路部153に連通しており、第2の孔142、第7の溝155および第3の孔143を介して後述の第2の流量調整部400に連通している。第1の円柱部132の上面は、第1のダイヤフラム部170の第1の膜部171が接近する第1の弁座132sである。第2の孔142は、第1の弁座132sに開口している。
【0047】
第1のダイヤフラム部170の第1の膜部171は、可撓性を有するとともに第1の弁座132sとは離れて配置され、チューブ110内の灌漑用液体の圧力を受けたときに第1の弁座132sに接近するように構成され、かつ配置されている。本実施の形態では、第1のダイヤフラム部170は、第2の孔142の開口部との間に隙間を有して配置される弁体172を有している。より具体的には、弁体172は、その突端部と、突起部146との間に隙間を有して配置されている。弁体172は、第1のダイヤフラム部170(第1の膜部171)が第1の弁座132sに接近するにつれて、第2の孔142に向かって移動する。弁体172は、弁体172の移動距離が所定値以下であるときは、弁体172が移動するにつれて弁体172および第2の孔142の開口部の間の最短距離である隙間が狭くなり、弁体172の移動距離が上記所定値超であるときは、弁体172が移動するにつれて当該隙間が広くなる形状(本実施の形態では、逆円錐台形状)を有している。
【0048】
ここで、所定値とは、弁体172の突端部および第2の孔142の突起部146の隙間の長さに基づいて決定される。より具体的には、所定値とは、弁体172が第2の孔142に向かって移動したときに、弁体172の突端部および第2の孔142の突起部146の隙間が最小となるまでの弁体172の移動距離である。本実施の形態では、所定値は、上記隙間がほぼゼロとなるまでの弁体172の移動距離である。
【0049】
第1の凸部135は、弁体172が第2の孔142に向かって移動する際のガイドとして機能する。弁体172は、第2の孔142の開口部との間に隙間を有して配置されているため、第1の凸部135(ガイド部)が弁体172を第2の孔142に導くことによって、適切に第2の孔142の開口部に向かって移動することができる。第1の凸部135の大きさ、形状および数は、上記の機能を発揮することができればよい。たとえば、第1の凸部135の数は複数であり、複数の第1の凸部135は、第2の孔142の開口部を取り囲むように、弁体172側において互いに離間して配置されている。灌漑用液体は、隣接する第1の凸部135の間を流れることができる。本実施の形態では、第1の凸部135の数は、4つである。4つの第1の凸部135は、第2の孔142の中心を通り、互いに直交する2つの直線に沿って配置されている。また、弁体172の移動しやすさの観点からは、弁体172および第1の凸部135の接触面積が小さいことが好ましい。このような観点から、第1の凸部135の、弁体172に接触する部分の形状は、曲面形状であることが好ましい。
【0050】
突起部146は、第2の孔142の開口部の全周において、第2の孔142の内面から弁体172の移動方向に直交する方向に向かって突出している。突起部146も、弁体172の移動距離が所定値以下であるときは、弁体172が移動するにつれて上記隙間が狭くなり、弁体172の移動距離が上記所定値超であるときは、弁体172が移動するにつれて上記隙間が広くなる形状を有している。弁体172が第2の孔142に向かって移動したとき、上記隙間が狭くなった後、広くなり始めるまでの間の時間を短くする観点から、弁体172の移動方向における突起部146の長さは、短いことが好ましい。一方で、エミッタ本体130を射出成形により製造する際の、突起部146への樹脂の充填しやすさの観点からは、弁体172の移動方向における突起部146の長さは、ある程度大きいことが好ましい。弁体172の移動方向に沿う平面における突起部146の断面形状は、例えば、直角三角形状または二等辺三角形状である。
【0051】
さらに、第2の凹部133、第2の円柱部134、第3の孔143、第4の孔144、第5の孔(特許請求の範囲では、「第2の連通孔」と称している)145、第1の溝136および第2のダイヤフラム部180は、チューブ110内の灌漑用液体の圧力に応じて灌漑用液体の流量を調整するための第2の流量調整部400を構成している(
図2B参照)。第2の流量調整部400は、第4の孔144を介して第3の減圧流路部154に連通しており、第3の孔143、第7の溝155および第2の孔142を介して第1の流量調整部300に連通しており、第5の孔145を介して後述の吐出部500に連通している。第2の円柱部134の上面は、第2のダイヤフラム部180の第2の膜部181が着座可能な第2の弁座134sである。第5の孔145は、第2の弁座134sに開口している。第2のダイヤフラム部180は、可撓性を有するとともに第2の弁座134sとは離れて配置され、チューブ110内の灌漑用液体の圧力を受けたときに第2の弁座134sに接近する。
【0052】
前述したように、エミッタ120は、エミッタ本体130の底面でチューブ110の内壁面に接合される。こうして、
図1A、Bに示されるような点滴灌漑用チューブ100が作製される。吐出口112は、エミッタ120の接合前に予めチューブ110に形成されていてもよいし、エミッタ120の接合後に形成されてもよい。
【0053】
エミッタ本体130の底面に形成された凹部および溝がチューブ110の内壁面によって塞がれると、エミッタ120内部の灌漑用液体の流路および吐出部500が形成される。より具体的には、第1の減圧流路部151、第2の減圧流路部153および第3の減圧流路部154は、取水部200に連通しており、灌漑用液体を減圧させながら流す第1の減圧流路、第2の減圧流路および第3の減圧流路をそれぞれ形成する。第6の溝152は、第1の減圧流路から第2の減圧流路および第3の減圧流路に分岐する分岐流路を形成し、第7の溝155は、第1の流量調整部300からの灌漑用液体を第2の流量調整部400に供給するための連絡流路を形成する。また、第3の凹部156は、第2の流量調整部400に連通し、吐出口112に面する吐出部500を形成する。
【0054】
[灌漑用液体の流れ]
点滴灌漑用チューブ100における灌漑用液体の流れの概要を説明する。チューブ110内に供給された灌漑用液体は、フィルタ部147の溝(第2の溝137、第3の溝138および第4の溝139)およびスリット140を通って、第5の溝150に供給される。灌漑用液体とは、例えば、水、液体肥料、農薬またはこれらのうちの二以上の混合液、である。灌漑用液体中の浮遊物は、フィルタ部147の溝に入り混むことができないので、上記浮遊物が除去された灌漑用液体が、スリット140を介して第5の溝150に供給される。
【0055】
第5の溝150に供給された灌漑用液体は、第1の減圧流路(第1の減圧流路部151)を通って減圧されながら上記分岐流路に供給される。上記分岐流路に供給された灌漑用液体の一部は、第2の減圧流路(第6の溝152)を通ってさらに減圧されながら第1の流量調整部300に供給される。次いで、連絡流路(第7の溝155)を介して第2の流量調整部400に供給される。また、上記分岐流路(第6の溝152)に供給された灌漑用液体の残りは、第3の減圧流路(第3の減圧流路部154)を通ってさらに減圧されながら第2の流量調整部400に供給される。第2の流量調整部400に供給された灌漑用液体は、チューブ110内の灌漑用液体の液圧に応じて調整された流量で吐出部500に供給され、吐出口112から排出される。以下、取水部200、第1の減圧流路(第1の減圧流路部151)、第2の減圧流路(第2の減圧流路部153)、第1の流量調整部300、第2の流量調整部400および吐出部500を含む流路を「第1の流路」という。また、取水部200、第1の減圧流路(第1の減圧流路部151)、第3の減圧流路(第3の減圧流路部154)、第2の流量調整部400および吐出部500を含む流路を「第2の流路」という。
【0056】
点滴灌漑用チューブ100の使用時には、吐出口112から、土や植物の根などの異物が侵入することがある。これらの異物の侵入は、第3の凹部156に配置されている、第4の凸部159および第5の凸部160によって遮られ、次いでさらに第5の孔145側に配置されている第2の凸部157および第3の凸部158によって遮られる。こうして、当該異物の侵入による灌漑用液体の排出停止や流量低下などの流量の変動が防止される。
【0057】
[吐出量の制御]
次いで、エミッタ120による灌漑用液体の吐出量の制御について説明する。まず、常温(例えば20℃)での灌漑用液体の吐出量の制御について説明する。
図6A〜Cは、エミッタ120による灌漑用液体の吐出量の制御について説明するための部分拡大断面図である。
図6Aは、エミッタ120の無圧条件下および極低圧条件下における第1の流量調整部300および第2の流量調整部400の様子を模式的に示す断面図であり、
図6Bは、エミッタ120の低圧条件下における第1の流量調整部300および第2の流量調整部400の様子を模式的に示す断面図であり、
図6Cは、エミッタ120の中高圧条件下における第1の流量調整部300および第2の流量調整部400の様子を模式的に示す断面図である。なお、
図6A〜Cでは、第1の孔141側の第1の凸部135を省略して示している。
【0058】
(常温無圧条件下)
灌漑用液体の温度が常温であり、かつその液圧が0MPaである場合、灌漑用液体は、エミッタ120内を流れないことから、その内外で圧力差(差圧)は生じない。よって、第1のダイヤフラム部170および第2のダイヤフラム部180は、いずれも変形しない(
図6A参照)。
【0059】
(常温極低圧条件下)
灌漑用液体の温度が常温であり、かつその液圧が極低圧(例えば0.005MPa程度)である場合(常温極低圧条件下)、チューブ110内およびエミッタ120内の両方に灌漑用液体が流れる。
【0060】
第1の流量調整部300では、チューブ110内であってエミッタ120外の灌漑用液体の液圧(外液圧)と、第1の凹部131内の灌漑用液体の液圧(内液圧)との差圧が生じる。第1の流量調整部300における内液圧は、第1の減圧流路および第2の減圧流路における圧力損失によって外液圧よりも低くなる。第1の流量調整部300における上記差圧は、通常、外液圧の上昇によって大きくなる。
【0061】
第2の流量調整部400でも、チューブ110内であってエミッタ120外の灌漑用液体の液圧(外液圧)と、第2の凹部133内の灌漑用液体の液圧(内液圧)との差圧が生じる。第2の流量調整部400における内液圧は、第1の減圧流路、第3の減圧流路および第1の流量調整部300における圧力損失によって外液圧よりも低くなる。第2の流量調整部400における上記差圧は、第1の減圧流路による圧力損失と、第3の減圧流路による圧力損失と、第1の流量調整部300における圧力損失とによって決まる。
【0062】
常温極低圧条件下において、エミッタ120の内外における差圧は小さいため、第1のダイヤフラム部170および第2のダイヤフラム部180は、いずれも変形していない(
図6A参照)。前述のとおり、第1の流量調整部300では、弁体172と、第2の孔142の突起部146との間には、隙間が形成されている。このため、常温極低圧条件下において、灌漑用液体は、当該隙間を介して流れることができる。取水部200から取り入れられた灌漑用液体は、第1の流路および第2の流路の両方を通って、チューブ110の吐出口112から外部に吐出される。
【0063】
(常温低圧条件下)
灌漑用液体の温度が常温であり、かつその液圧が低圧(例えば0.02MPa程度)である場合(常温低圧条件下)、第1のダイヤフラム部170は、上記差圧によって、
図6Bに示されるように撓む。なお、
図6Bでは、弁体の移動距離が所定値のとき、すなわち弁体172の突端部および第2の孔142の突起部146の隙間が最小になったときの状態を示している。第1のダイヤフラム部170が撓むと、弁体172が、第1の凸部135に沿って第2の孔142に向かって移動する。弁体172は、弁体172の移動距離が所定値に近づくにつれて、弁体172は、上記隙間が狭くなるように移動する。このため、弁体172の移動距離が所定値に近づくにつれて、第1の流量調整部300では、当該隙間による灌漑用液体の圧力損失が増大する。すなわち、上記隙間を介して流れる灌漑用液体の流量が少なくなる。そして、弁体172の移動距離が所定値のとき、当該隙間による灌漑用液体の圧力損失は、最大となる。
【0064】
灌漑用液体の圧力が高くなるにつれて、第2の流量調整部400の第2のダイヤフラム部180は、差圧によって、
図6Bに示されるように撓み、第2の円柱部134の上面(第2の弁座134s)に接近する。これにより、第5の孔145の開口部と、第2のダイヤフラム部180との隙間が小さくなる。結果として、吐出口112から吐出される灌漑用液体の流量が調整される。
【0065】
(常温中高圧条件下)
灌漑用液体の温度が常温かつその液圧が中高圧(例えば0.1MPa)である場合(常温中高圧条件下)では、第1のダイヤフラム部170は、上記差圧によって、
図6Cに示されるように大きく撓む。第1のダイヤフラム部170が大きく撓むと、弁体172が第2の孔142に向かってさらに移動する。弁体172は、弁体172の移動距離が所定値より大きくなるにつれて、弁体172は、上記隙間が広くなるように移動する。このため、弁体172の移動距離が所定値より大きくなるにつれて、第1の流量調整部300では、当該隙間による灌漑用液体の圧力損失が減少する。これにともなって、第2の流量調整部400の内液圧が大きくなる。
【0066】
一方で、第2のダイヤフラム部180も、
図6Cに示されるように、上記外液圧と内液圧との差圧によって大きく撓み、第2の円柱部134の上面(第2の弁座134s)に当接する。このとき、第5の孔145は、第1の溝136を介して第2の円形凹部133と連通している。常温中高圧条件下では、灌漑用液体は、第2の流量調整部400の内液圧と第1の溝150によって決まる所定の流量で吐出口112から排出される。
【0067】
次に、高温(例えば40〜50℃)でのエミッタ120による灌漑用液体の吐出量の制御を説明する。
【0068】
(高温無圧条件下)
灌漑用液体の温度が高温であり、かつその液圧が0MPaである場合、前述の常温無圧条件の場合と同様に、灌漑用液体は、エミッタ120内を流れないので、その内外での圧力差は生じず、よって、第1のダイヤフラム部170および第2のダイヤフラム部180は、いずれも変形しない。
【0069】
(高温極低圧条件下)
灌漑用液体の温度が高温であり、かつその液圧が極低圧(例えば0.005MPa程度)である場合(高温極低圧条件下)、チューブ110内およびエミッタ120内の両方に灌漑用液体が流れる。
【0070】
高温極低圧条件下において、エミッタ120の内外における差圧は小さいため、第1のダイヤフラム部170および第2のダイヤフラム部180は、いずれも変形していない。常温極低圧条件の場合と同様に、灌漑用液体は、第1の流量調整部300における、弁体172と、第2の孔142の突起部146との間の隙間を介して流れることができる。取水部200から取り入れられた灌漑用液体は、第1の流路および第2の流路の両方を通って、チューブ110の吐出口112から外部に吐出される。
【0071】
(高温低圧条件下)
灌漑用液体の温度が高温であり、かつその液圧が低圧(例えば0.02MPa)である場合(高温低圧条件下)、第1のダイヤフラム部170および第2のダイヤフラム部180は、いずれも前述の差圧によって変形する。ただし、第1のダイヤフラム部170および第2のダイヤフラム部180は、いずれも前述したように樹脂製であることから、高温低圧条件下では常温低圧条件下に比べて、より変形しやすい。
【0072】
このため、高温低圧条件下では、常温低圧条件下に比べて、第1のダイヤフラム部170は、より大きく撓む。よって、高温低圧条件下では、常温低圧条件下に比べて、より小さい差圧でも弁体172の移動距離が所定値に達する。第2のダイヤフラム部180も、高温低圧条件下では、常温低圧条件下に比べてより変形しやすいため、より小さい差圧で第2の円柱部134の上面(第2の弁座134s)に接近する。高温低圧条件下でも、常温低圧条件の場合と同様に、灌漑用液体の流量は調整される。
【0073】
(高温中高圧条件下)
高温中高圧条件下において、第1のダイヤフラム部170は、常温中高圧条件下に比べて、より変形しやすい。このため、弁体172は、より小さい差圧で所定値を超えて第2の孔142内に挿入される。これにより、第1の流量調整部300における圧力損失は、常温中高圧条件下に比べて小さくなる。
【0074】
一方、第2のダイヤフラム部180も、高温中高圧条件下では、常温中高圧条件下に比べてより変形しやすい。しかしながら、高温中高圧条件下では、前述のとおり、第2の流量調整部400の上流側での圧力損失のうちの第1の流量調整部300による圧力損失は、常温中高圧条件下におけるそれに比べてより小さくなる。したがって、高温中高圧条件下では、常温中高圧条件下に比べて、第2の流量調整部400における内液圧がより高くなり、第2の流量調整部400における差圧がより小さくなる。
【0075】
その結果、第2のダイヤフラム部180の変形が抑制され、第2のダイヤフラム部180は、高温中高圧条件下でも、常温中高圧条件下と同程度に変形するにとどまる。よって、高温中高圧条件下であっても、第5の孔145の開口部と第2のダイヤフラム部180との隙間は、常温中高圧条件下のそれと同程度の大きさとなり、その結果、常温中高圧条件下での流量と実質的に同じ流量で灌漑用液体が吐出口112から吐出される。
【0076】
このように、高温条件下の上記差圧と常温条件下の上記差圧とが実質的に同じとなるようにエミッタ120が設計されることにより、圧力が同じで異なる温度条件での第2の流量調整部400における流量調整の動作を実質的に同程度に設定することが可能となる。よって、高温条件下における吐出口112からの灌漑用液体の流量は、常温条件下におけるそれと実質的に同じとなる。さらに、本実施の形態では、弁体172は、第1のダイヤフラム部170および第2の孔142の開口部の間において、第2の孔142の開口部との間に隙間を有して配置されている。これにより、チューブ110内への灌漑用液体の圧力が極低圧の場合でも、灌漑用液体を吐出口112から吐出させることができる。
【0077】
(効果)
本実施の形態に係るエミッタ120は、減圧流路部(第1の減圧流路部151、第2の減圧流路部153、第3の減圧流路部154)、第1の流量調整部300および第2の流量調整部400を有する。また、弁体172は、第1のダイヤフラム部170および第2の孔142の開口部の間において、第2の孔142の開口部との間に隙間を有して配置されている。そして、弁体172は、弁体172の移動距離が所定値以下であるときは、弁体172が移動するにつれて上記隙間が狭くなり、弁体172の移動距離が上記所定値超であるときは、弁体172が移動するにつれて上記隙間が広くなる形状を有する。したがって、弁体172が、第1のダイヤフラム部170および第2の孔142の開口部の間において、第2の孔142の開口部との間に隙間を有することなく配置されている場合と比較して、本実施の形態では、チューブ110内への灌漑用液体圧力が極低圧の場合でも、灌漑用液体が上記隙間を介して流れて吐出口112から吐出されうる。
【0078】
また、弁体172の移動距離が所定値超のときは、第1の流量調整部300において第1のダイヤフラム部170が大きく変形し、弁体172が移動するにつれて、第1の流量調整部300における圧力損失を低減させることができる。これにより、第2の流量調整部400における内液圧の上昇がもたらされ、その結果、第2の流量調整部400における流量の制限が緩和される。したがって、エミッタ120の吐出量は、両ダイヤフラム部170、180の変形量が外液圧に応じて変化しやすい中高圧条件下においても、温度にかかわらず、所期の量に制御される。よって、エミッタ120は、灌漑用液体の温度がある程度高くても、温度にかかわらずに所期の吐出量で灌漑用液体を吐出することができる。点滴灌漑用チューブ100は、エミッタ120を有することから、同じく、灌漑用液体の温度がある程度高くても、温度にかかわらずに所期の吐出量で灌漑用液体を吐出することができる。
【0079】
なお、本実施の形態では、第1のダイヤフラム部170および弁体172が一体である場合について説明したが、第1のダイヤフラム部170および弁体172は、別体であってもよい。
図7Aは、変形例に係るエミッタ120’の構成を示す部分拡大断面図であり、
図7B、Cは、変形例に係るエミッタ120’が有する弁部172’の構成を示す図である。
図7Bは、
図7CのB−B線における断面図であり、
図7Cは、弁部172’の底面図である。
【0080】
図7Aに示されるように、変形例に係るエミッタ120’は、エミッタ本体130と、エミッタ本体130上に配置されているフィルム190’とを有する。エミッタ本体130とフィルム190’との接合方法は、特に限定されない。エミッタ本体130とフィルム190’との接合方法の例には、フィルム190’を構成する樹脂材料の溶着や、接着剤による接着などが含まれる。
【0081】
変形例に係る弁部172’は、弁体1721’、接続部1722’および脚部1723’を有する。変形例においても、弁体1721’は、その突端部と、突起部146との間に隙間を有して配置されている。弁体1721’の形状は、その中心部が逆円錐形状の空洞となっていない点を除いて上記実施の形態の弁体172と同様の形状である。接続部1722’は、弁体1721’および脚部1723’を接続する。脚部1723’は、エミッタ120’の第1の凹部131内の灌漑用液体によって弁体1721’の位置がずれないように、弁部172’を位置決めする。本変形例では、脚部1723’は、接続部1722’の外縁部から起立した凸部である。接続部1722’および脚部1723’の形状は、上記の機能を発揮することができれば特に限定されない。本変形例では、接続部1722’の平面視形状は、略矩形状である。また、脚部1723’の形状は、第1の凹部131の内壁面に接するように形成されている外側に凸の柱形状である。
【0082】
また、本変形例では、第1のダイヤフラム部170および第2のダイヤフラム部180は一体であり、単純な構成のフィルム190’として構成されている。このように、第1のダイヤフラム部170および弁体172’を別体として構成することによって、第1のダイヤフラム部および第2のダイヤフラム部を単純なフィルム190’として構成することができる。結果として、エミッタ120’の構成を簡単にして、低コスト化を実現することができる。
【0083】
また、本実施の形態では、第1のダイヤフラム部170の樹脂材料と第2のダイヤフラム部180の樹脂材料とが同じ場合について説明したが、第1のダイヤフラム部170の樹脂材料と、第2のダイヤフラム部180の樹脂材料とは、異なっていてもよい。たとえば、第1のダイヤフラム部170が第2のダイヤフラム部180に比べて高温時により曲がりやすい樹脂材料で構成されていてもよい。これにより、中高圧条件下における常温時での灌漑用液体の吐出量と高温時での灌漑用液体の吐出量との差をより小さくすることができる。
【0084】
第1のダイヤフラム部170の樹脂材料と、第2のダイヤフラム部180の樹脂材料とが同じである場合では、第2のダイヤフラム部180は、同じ圧力下であれば、高温の方がより第2の円柱部134の上面(第2の弁座134s)に接触しやすい。第2のダイヤフラム部180の変形の温度依存性が第1のダイヤフラム部170のそれよりも小さいと、高温時に第2のダイヤフラム部180が第2の円柱部134に接触するタイミングをより遅くすることが可能となる。その結果、第2のダイヤフラム部180を、高温時であっても常温時と同じかそれに近いタイミングで第2の円柱部134の上面に接触させるように構成できる。これは、より容易かつ精密な設計の観点からより一層効果的である。
【0085】
上記樹脂材料の温度変化による曲がりやすさは、例えば、灌漑用液体の想定される温度範囲内で樹脂材料の曲げ弾性率を求めることによって決めることが可能である。当該曲げ弾性率は、例えばJIS K7171:2008(ISO 178:2001)またはJIS K7127:1999(ISO 527−3:1995)などの公知の規格に基づいて求めることが可能である。
【0086】
ダイヤフラム部170、180の樹脂材料、膜部171、181の厚さ、弁体172の外形は、例えば、第1のダイヤフラム部170の上記液圧による変形と、第2の孔142と弁体172との隙間の大きさの変化量との関係や、上記液圧の増加と、そのときの第2のダイヤフラム部180(第2の膜部181)から第2の円柱部134の上面までの距離の減少量との関係、などから決めることが可能であり、これらの関係は、例えばコンピュータシミュレーションによる計算や試作品による実験などによって求めることが可能である。
【0087】
弁体172の外形は、逆円錐台形に限定されない。たとえば、弁体172の水平方向の断面形状は多角形であってもよいし、楕円形などの非円形であってもよい。また、弁体172の縦断面形状における外形は、釣り鐘型(弁体172の軸方向(高さ方向)に沿って漸次拡大する外側への凸曲線を含む形状)であってもよいし、その逆に、弁体172の軸方向(移動方向)に沿って漸次拡大する外側に対する凹曲線を含む形状であってもよい。
【0088】
また、フィルタ部147における第2の溝137、第3の溝138および第4の溝139の側壁をアンダーカット部とする、いわゆるウエッジワイヤー構造とすると、フィルタ部147での圧力損失を抑制するとともに目詰まりを抑制する観点からより一層効果的であり、好ましい。