特許第6710900号(P6710900)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6710900水溶性ビタミン類含有グミキャンディの製造方法および該製造方法を用いて得られるグミキャンディ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6710900
(24)【登録日】2020年6月1日
(45)【発行日】2020年6月17日
(54)【発明の名称】水溶性ビタミン類含有グミキャンディの製造方法および該製造方法を用いて得られるグミキャンディ
(51)【国際特許分類】
   A23G 3/34 20060101AFI20200608BHJP
   A23L 29/20 20160101ALI20200608BHJP
   A23L 33/15 20160101ALI20200608BHJP
【FI】
   A23G3/34 101
   A23L29/20
   A23L33/15
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-93448(P2015-93448)
(22)【出願日】2015年4月30日
(65)【公開番号】特開2016-208879(P2016-208879A)
(43)【公開日】2016年12月15日
【審査請求日】2018年4月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】390020189
【氏名又は名称】ユーハ味覚糖株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】土井 聡
(72)【発明者】
【氏名】松川 泰治
(72)【発明者】
【氏名】松居 雄毅
(72)【発明者】
【氏名】山田 泰正
(72)【発明者】
【氏名】山田 一郎
【審査官】 平林 由利子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−519686(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/042723(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/188861(WO,A1)
【文献】 特開2006−296379(JP,A)
【文献】 特開昭63−017831(JP,A)
【文献】 特表2009−528818(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23G 1/00 − 9/52
A23L 21/00 −21/25
A23L 29/20 −29/206
A23L 29/231−29/30
A23L 33/00 −33/29
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖質、ゼラチンおよび水溶性ビタミン類である葉酸またはビタミンB12を少なくとも配合するグミキャンディの製造方法であって、
(I)糖質およびゼラチンを水に加熱溶解してグミキャンディベースを調製する工程、
(II)ガレート型カテキン、ゼラチン、酸類(ただし、葉酸を除く)および水溶性ビタミン類である葉酸またはビタミンB12を含有する平均粒子径10〜1000nmの水溶性ビタミン粒子含有溶液を調整する工程
(III)前記グミキャンディベースおよび前記水溶性ビタミン粒子含有溶液を混合する工程、
を有することを特徴とするグミキャンディの製造方法。
【請求項2】
前記水溶性ビタミン粒子含有溶液がさらに多糖類および/またはリン酸塩を含有する請求項1に記載のグミキャンディの製造方法。
【請求項3】
糖質、ゼラチン、ガレート型カテキン、水溶性ビタミン類である葉酸またはビタミンB12、および酸類(ただし、葉酸を除く)を少なくとも含有するグミキャンディであって
前記水溶性ビタミン類、前記ガレート型カテキン、前記ゼラチン、及び、前記酸類が含まれる平均粒子径10〜1000nmの水溶性ビタミン粒子グミキャンディ中に分散されている、水溶性ビタミン類を安定に含有するグミキャンディ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性ビタミン類を安定な状態で含有するグミキャンディの製造方法に関する。また、本発明は、水溶性ビタミンを含有するグミキャンディに関する。
【背景技術】
【0002】
グミキャンディは、糖質、ゼラチンを主体とする弾力のある食感の菓子であり、世界中の人々に愛され続けている。そして近年、健康志向の向上とともに、嗜好性も重要視されるようになってきたことから、栄養成分、機能性成分を配合したグミキャンディが、その手軽さやおいしさから、欧米を中心に人気となっており、今後も新たな機能性成分の配合が求められている。
【0003】
水溶性ビタミン群はビタミンC、ビタミンB1、ビタミンB2 パントテン酸の総称であり、水への溶解性の高いビタミン類である。これらのビタミンは代謝等の生命に必須の機能にかかわる重要な成分であるが、近年その不足が懸念されている。水溶性ビタミンは尿中で排泄されることが知られており、こまめな補給が必要である。本来、朝昼夜の食生活において摂取するのが理想であるが、食生活が不規則な現代社会において困難な場合がある。
【0004】
このような現状からビタミンを配合した様々な食品が販売されている。しかし、水溶性をはじめとするビタミン類は光や熱、pHの影響を受けやすいため製品の耐久性を確保することが困難である場合が多い。
【0005】
したがって、水溶性ビタミン類の安定性を向上させる技術が数多く報告されている。たとえば、リジン・アルギニン・トリプトファン・ヒドロキシプロリンを用いた葉酸(ビタミンB9)の安定化方法がある(特許文献1)。この報告では、溶液の性状と官能評価にて葉酸の安定性を評価している。しかし成分を分析したものではなく、葉酸の含有量について明確に言及していない。また、カテキン類を用いた葉酸安定化方法(特許文献2)や、アミノ糖類を含有させてビタミンB1類を安定化させる方法(特許文献3)、ルチン配糖体によるビタミンB6を安定化させる方法(特許文献4)など様々な方法が報告さている。
【0006】
しかし、上記の方法はグミキャンディの製造方法に適応させるには困難な場合が多い。例えば、特許文献2の場合、飲料組成物となり、熱履歴やpHなどの環境がグミキャンディとは大きく異なる。特許文献3の場合、得られる製剤は固形製剤であるため、製造方法が大きく異なる。特許文献4の場合も加熱を受けていない。しかし、消費者の健康志向が高まりとともに嗜好性の両立が重要となってきている今日において、嗜好性に適したグミキャンディに含有する機能性成分の担保が重要であり、その安定化は大きな課題となっている。
【0007】
一方、グミキャンディに、水溶性ビタミン類を配合する場合、その安定性を評価した例は少なく、グミキャンディ中の水溶性ビタミン類がどの程度安定なのかは不明である。
【0008】
グミキャンディは、一般的に以下の製造方法によって得られる。まず、砂糖および水飴を加熱溶解させて糖液(A液とする)を調製し、別で調製したゼラチン水溶液(B液とする)をA液に添加・混合し、最後に果汁、酸味料、香料および色素などの添加物を溶解させて調製した水溶液(C液とする)をA液とB液との混合液に添加・混合して、得られたグミキャンディ液(A液+B液+C液)を鋳型に充填し、所望の水分値まで乾燥させ、鋳型から抜いて表面をコーティングし、グミキャンディが得られる。
【0009】
水溶性ビタミン類を添加する場合、A液、B液もしくはC液のいずれかに添加して混合する。A液に水溶性ビタミン類を添加する場合、A液の加熱温度が100℃に近い高温になるため、水溶性ビタミンには過酷な環境となる。B液に水溶性ビタミン類を添加する場合でも同様に、B液が60℃程度の高温に維持されるため、水溶性ビタミンには過酷な環境となる。一方、C液は加熱されないため、水溶性ビタミン類を添加するには適している。
【0010】
しかし、グミキャンディは、その嗜好性と耐久性の観点から、pH2〜5の酸性を呈する場合が多く、また、前記A液、B液、C液を混合したグミキャンディ液は混合・充填工程の間はゼラチンのゲル化を抑制するために60〜80℃の高温に保たれる。この場合、酸性および高温条件下にある水溶性ビタミン類の安定性は著しく低下する場合が多い。また製造後であっても一定の水分値で流通するグミキャンディの特性から、低pH環境下では水溶性ビタミン類の安定化には不向きな環境にある。従って、グミキャンディでは製造時および製造後も水溶性ビタミン類は様々な影響を受ける可能性があり、その成分量担保が困難になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2013−227274号公報
【特許文献2】特許第04545632号公報
【特許文献3】特開2014−139254号公報
【特許文献4】特開2012−106941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、水溶性ビタミン類が安定に含有されたグミキャンディおよびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成するため、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、ガレート型カテキン、ゼラチン、酸類および水溶性ビタミン類を混合して平均粒子径10〜1000nmを有する水溶性ビタミン粒子含有溶液とすることで、この水溶性ビタミン粒子含有溶液を加熱したり、攪拌して酸素と接触させたりした場合でも、含有される水溶性ビタミン類が安定に保持されていること、そして、前記水溶性ビタミン粒子含有溶液をグミキャンディベースと混合することによって水溶性ビタミン類を安定に含有できるグミキャンディが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
即ち、本発明は、
[1]糖質、ゼラチンおよび水溶性ビタミン類である葉酸またはビタミンB12を少なくとも配合するグミキャンディの製造方法であって、
(I)糖質およびゼラチンを水に加熱溶解してグミキャンディベースを調製する工程、
(II)ガレート型カテキン、ゼラチン、酸類(ただし、葉酸を除く)および水溶性ビタミン類である葉酸またはビタミンB12を含有する平均粒子径10〜1000nmの水溶性ビタミン粒子含有溶液を調整する工程
(III)前記グミキャンディベースおよび前記水溶性ビタミン粒子含有溶液を混合する工程、
を有することを特徴とするグミキャンディの製造方法、
[2]前記水溶性ビタミン粒子含有溶液がさらに多糖類および/またはリン酸塩を含有する前記[1]に記載のグミキャンディの製造方法、
[3]糖質、ゼラチン、ガレート型カテキン、水溶性ビタミン類である葉酸またはビタミンB12、および酸類(ただし、葉酸を除く)を少なくとも含有するグミキャンディであって
前記水溶性ビタミン類、前記ガレート型カテキン、前記ゼラチン、及び、前記酸類が含まれる平均粒子径10〜1000nmの水溶性ビタミン粒子グミキャンディ中に分散されている、水溶性ビタミン類を安定に含有するグミキャンディ
に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の製造方法によって得られるグミキャンディは、水溶性ビタミン類を安定に含有したグミキャンディであり、保存期間中でも水溶性ビタミン類の含有量が低減していく現象が顕著に抑えられており、前記グミキャンディを食べることで同時に有効量の水溶性ビタミン類を効率よく摂取することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明をさらに詳しく説明する。
【0017】
本発明のグミキャンディの製造方法は、
糖質、ゼラチンおよび水溶性ビタミン類を少なくとも配合するグミキャンディの製造方法であって
(I)糖質およびゼラチンを水に加熱溶解してグミキャンディベースを調製する工程、
(II)ガレート型カテキン、ゼラチン、酸類および水溶性ビタミン類を含有する平均粒子径10〜1000nmの水溶性ビタミン粒子含有溶液を調製する工程、
(III)前記グミキャンディベースおよび前記水溶性ビタミン粒子含有溶液を混合する工程、
を有することを特徴とする。
以下、本発明のグミキャンディの製造方法の各工程について説明する。
【0018】
〔工程(I):グミキャンディベースの調製工程〕
本工程は、糖質およびゼラチンを含有するグミキャンディベースを調製する工程である。
なお、グミキャンディベースとは、グミキャンディを構成する基材をいう。
【0019】
糖質およびゼラチンは、一般的なグミキャンディに使用されているものであればよい。
糖質としては、グミキャンディに一般的に使用できる糖質であれば特に限定されずに使用できる。例えば、砂糖、水飴、ブドウ糖、果糖ブドウ糖液糖、還元水飴、ソルビトール、キシリトール、トレハロース、パラチノース、還元パラチノース、マルチトール等が使用できる。
ゼラチンとしては、コラーゲンを酸処理又はアルカリ処理後に精製されたゼラチンが挙げられ、例えば、豚皮、牛骨等の獣由来ゼラチンに加えて、淡水または海水に生息する水生生物由来のゼラチン等が挙げられるが、コラーゲンを酸処理又はアルカリ処理の工程を含めて精製したゼラチンであれば由来生物に関しては特に制限されない。
本発明において、前記糖質およびゼラチンの種類に限定はなく、それぞれを単独で使用してもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0020】
グミキャンディベース中の前記成分の含有量としては、グミキャンディの食感および味、保形性、製造適性の観点から以下の範囲に調整することが好ましい。
糖質の含有量は55〜85重量%に調整することが好ましい。
ゼラチンの含有量は5〜15重量%に調整することが好ましい。
水分の含有量は10〜30重量%に調整することが好ましい。
【0021】
前記グミキャンディベースは、糖質およびゼラチンを含有したものであればよいが、例えば、アラビアガムやペクチンなどのゲル化剤、グリセリン、ミネラル類、アミノ酸類、タンパク質、食物繊維、果汁、乳製品、酸味料、着色料、香料等の各種任意成分を含有してもよい。
これらのグミキャンディ用の各種任意成分は、いずれもグミキャンディに一般的に使用できるものであればよく、また、それらの含有量についても特に限定はない。
【0022】
グミキャンディベースを調製する方法としては、従来のグミキャンディの製造法に準じて糖質およびゼラチン、必要に応じて前記任意成分を水に加熱溶解していればよい。例えば、糖質を加熱溶解させ、そこにゼラチンを温水で溶解させて調製したゼラチン水溶液を添加混合してグミキャンディベースを得てもよいし、糖質および前記同様のゼラチン水溶液を全て混合してから、加熱溶解させてグミキャンディベースを得てもよい。糖質とゼラチン水溶液との添加順には特に限定はない。
【0023】
〔工程(II):水溶性ビタミン粒子含有溶液の調整工程〕
本工程は、ガレート型カテキン、ゼラチン、酸類および水溶性ビタミン類を含有する平均粒子径10〜1000nmの水溶性ビタミン粒子含有溶液を調整する工程であり、具体的には、前記ガレート型カテキン、ゼラチン、酸類および水溶性ビタミン類を水に溶解させて水溶性ビタミン粒子含有溶液を調整する工程である。
【0024】
前記溶性ビタミン粒子含有溶液では、ゼラチンが含有されていることから、通常であればゼラチンのゲル化能が発揮されることによりゲル状物になるところ、ガレート型カテキン、ゼラチン、酸類および水溶性ビタミンを含有することにより、驚くべきことにゼラチンのゲル化能が消失して溶液状態を維持する。そのため、定量ポンプなどのような定量的な供給装置を用いて前記水溶性ビタミン粒子含有溶液を前記グミキャンディベースと混合することでグミキャンディを連続的に製造することが可能になる。
【0025】
本発明において、水溶性ビタミン粒子含有溶液とは、前記ガレート型カテキン、ゼラチン、酸類および水溶性ビタミン類を水中で混合することで、溶液中に粒子が分散された状態になっている溶液をいう。前記の粒子が溶液中に分散されている状態は、目視で確認することができる。
【0026】
本工程で作製する水溶性ビタミン粒子含有溶液の平均粒子径は、10〜1000nmであり、粒子の分散安定性の観点から、好ましくは50〜500nmである。
前記平均粒子径は、後述の実施例に記載のように、ゼータ電位・ナノ粒子径測定システム(ベックマン・コールター株式会社製、「DelsaMax PRO」)にて測定することができる。
【0027】
前記水溶性ビタミン類としては、チアミン(ビタミンB1)、リボフラビン(ビタミンB2)、ナイアシン(ビタミンB3)、ニコチンアミド(ビタミンB3)、パントテン酸(ビタミンB5)、ピリドキシン(ビタミンB6)、ピリドキサール(ビタミンB6)、ピリドキサミン(ビタミンB6)、ビオチン(ビタミンB7)、葉酸(ビタミンB9)、ジヒドロ葉酸(ビタミンB9)、フォリン酸(ビタミンB9)、シアノコバラミン(ビタミンB12)、メチルコバラミン(ビタミンB12)、ヒドロキソコバラミン(ビタミンB12)、などのビタミンB群、アスコルビン酸(ビタミンC)、デヒドロアスコルビン酸(ビタミンC)などの水溶性ビタミンおよびその塩も含む。前記水溶性ビタミン類は、それぞれ単独で使用してもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。これらの水溶性ビタミン類としては、食品に使用可能な市販品を用いればよい。また市販品も、単独の水溶性ビタミン類を含有するものであっても、数種の水溶性ビタミン類が混合されているものであってもよく、特に限定はない。
【0028】
前記ゼラチンとしては、特に限定はなく、前記グミキャンディベースに使用されるものと同様のものであってもよく、前記グミキャンディベースと異なる種類のゼラチンを用いてもよい。
【0029】
前記ガレート型カテキンとは、緑茶、紅茶あるいはウーロン茶などのカメリア属に分類される植物の茶に多く含まれているカテキン類の一種であり、ECg(エピカテキンガレート)、EGCg(エピガロカテキンガレート)、Cg(カテキンガレート)、GCg(ガロカテキンガレート)などの、分子内にガロイル基を有するカテキンである。これらは、精製品の他、粗製品でもよく、これらを含有する天然物またはその加工品でもよいが、ガレート型カテキン比率として10重量%以上の原料であることが、風味等の点で好ましい。
【0030】
前記酸類には、食品として利用可能な酸を選択すればよい。例えば、クエン酸、グルコン酸、カルボン酸、酒石酸、コハク酸のような有機酸、塩酸、炭酸のような無機酸、または緩衝液などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、前記酸類としては、アスコルビン酸、パントテン酸、ジヒドロ葉酸、フォリン酸、デヒドロアスコルビン酸などのも酸型水溶性ビタミン類も用いることができる。ただし、酸類から葉酸は除く。
【0031】
前記水溶性ビタミン粒子含有溶液中の前記成分の含有量としては、水溶性ビタミン粒子含有溶液の物性およびグミキャンディの物性、水溶性ビタミン類の安定性の観点から以下の範囲に調整することが好ましい。
水溶性ビタミン類の含有量は0.1〜30重量%に調整することが好ましい。
ゼラチンの含有量は0.1〜10重量%に調整することが好ましい。
酸類の含有量は0.1〜20重量%に調整することが好ましい。
ガレート型カテキンの含有量は0.1〜20重量%に調整することが好ましい。
水分の含有量は25〜60重量%に調整することが好ましい。
なお、前記酸型水溶性ビタミン類を用いる場合、酸型水溶性ビタミン類の含有量は、0.1〜30重量%に調整することが好ましい。
なお、酸型水溶性ビタミン類を酸類として使用する場合、酸型水溶性ビタミン類の含有量を前記水溶性ビタミン類の含有量の上限値30重量%を超える量に調整することで、前記上限値を超える分を酸類の含有量とすることができる。
【0032】
前記水溶性ビタミン粒子含有溶液は、さらに多糖類および/またはリン酸塩を含有することで、粒子の分散安定性が向上するため好ましい。
多糖類としては、大豆多糖類、アラビアガム、ペクチン、ジェランガム、キサンタンガム、トラガントガム、グアガム、カラヤガム、タマリンドシードガム、ガティガム、カシアガム、ローカストビーンガム、カラギナン、アルギン酸などが挙げられる。本発明では、特に大豆多糖類を使用することが物性の点で好ましい。
リン酸塩としては、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、テトラポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、トリポリリン酸カリウムなどのリン酸塩などが挙げられる。
前記多糖類およびリン酸塩の種類は、それぞれ1種類のものを使用してもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0033】
前記水溶性ビタミン粒子含有溶液中の多糖類およびリン酸塩の含有量としては、水溶性ビタミン粒子含有溶液の物性およびグミキャンディの物性、水溶性ビタミン類の安定性の観点から以下の範囲に調整することが好ましい。
多糖類の含有量は、0.01〜10重量%に調整することが好ましい。
リン酸塩の含有量は、0.01〜10重量%に調整することが好ましい。
【0034】
また、前記水溶性ビタミン粒子含有溶液には、上記成分の他に、糖質、油脂、グリセリン、アルコール、ミネラル類、アミノ酸類、タンパク質、食物繊維、果汁、乳製品、着色料、香料等の各種任意成分を含有してもよい。
これらの水溶性ビタミン粒子含有溶液用の各種任意成分は、いずれもグミキャンディに一般的に使用できるものであればよく、また、それらの含有量についても特に限定はない。
【0035】
水溶性ビタミン粒子含有溶液を調製する方法としては、ガレート型カテキン、ゼラチン、酸類および水溶性ビタミン類、必要に応じて前記任意成分を水に加熱溶解していればよい。前記各成分の添加順には特に限定はない。
【0036】
〔工程(III):グミキャンディベースと水溶性ビタミン粒子含有溶液との混合工程〕
本工程は、工程(I)で得られたグミキャンディベースおよび工程(II)で得られた水溶性ビタミン粒子含有溶液を混合してグミキャンディ液を作製する工程である。
【0037】
前記混合方法は、グミキャンディベースと水溶性ビタミン粒子含有溶液が均一に混ざる方法であれば特に限定はない。また、水溶性ビタミン粒子含有溶液は室温下でもゲル化しないため、特に温度コントロールは必要ないが、前記グミキャンディベースおよびグミキャンディベースと水溶性ビタミン粒子含有溶液との混合物であるグミキャンディ液は、いずれも室温でゲル化するため、前記混合は60℃以上に保温して行なうことが好ましい。
【0038】
前記工程(III)で得られるグミキャンディ液は、その後、鋳型に充填し、所望の水分値まで乾燥させ、鋳型から抜いて、グミキャンディが得られる。前記鋳型から抜いたグミキャンディの表面には、コーティングを施してもよい。
前記鋳型の大きさや材質、乾燥方法、コーティング方法については、一般的なグミキャンディの製造に使用されていればよく、特に限定はない。
【0039】
以上のようにして得られる本発明のグミキャンディは、水溶性ビタミン類を安定に含有したグミキャンディである。本発明において「安定」とは、水溶性ビタミン類の継時的な分解に伴う含有量の低減が顕著に抑えられていることをいう。特に本発明のグミキャンディは、後述の実施例に記載するように低pH・高温・多湿の過酷な条件下であっても水溶性ビタミン類が減少せず、極めて安定な状態であるという特徴がある。
【0040】
本発明のグミキャンディ中の水溶性ビタミン類の含有量としては特に限定はないが、推奨摂取基準を参考にした量としてもよい。例えば、グミキャンディ中の水溶性ビタミン類の含有量は、0.000001〜20重量%であればよい。
グミキャンディの水分としては、5〜20重量%であることが好ましい。
また、前記グミキャンディ中の他の成分の含有量としては、前記グミキャンディ液に準じた含有量であればよく、特に限定はない。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら制限されるものではない。なお、以下の実施例の記載中、「%」は重量基準である。
【0042】
(実施例1 水溶性ビタミン粒子含有溶液の作製)
水溶性ビタミン類を安定化させるために、ゼラチン1g、緑茶抽出物(ガレート型カテキン:60重量%、太陽化学株式会社製)0.9g、アスコルビン酸2gを水6.1gに混合・加熱溶解させ、10gの溶液Aを作製した。次いで、葉酸2gを水8gに分散させ、これに作製した前記溶液A10gを添加して20gの溶液Bを作製した。次いで、大豆多糖類(SM−700、三栄源株式会社製)0.4gを水180gに溶解させ、これに前記溶液B20gを混合して水溶性ビタミン粒子含有溶液を作製した(サンプル1)。得られた水溶性ビタミン粒子含有溶液の平均粒子径を、ゼータ電位・ナノ粒子径測定システム(ベックマン・コールター株式会社製、「DelsaMax PRO」)を用いて測定したところ、430nmであった。
【0043】
(比較例)
比較例として、ガレート型カテキンを含有しない以外は実施例1と同様にして得られた溶液(サンプル2)、アスコルビン酸を含有しない以外は実施例1と同様にして得られた溶液(サンプル3)、ガレート型カテキンとアスコルビン酸を含有しない以外は実施例1と同様にして得られた溶液(サンプル4)をそれぞれ作製した。これらのサンプルでは粒子は観察されなかった。
【0044】
(試験例1 葉酸安定性評価)
前記のようにして作製したサンプル1〜4の葉酸安定性を評価した。
評価方法は、作製した各サンプルを透明ガラス瓶に入れ、紫外線下でサンプルを2週間静置し、葉酸量を下記の方法にて測定した。
葉酸の測定方法は、サンプル1mLと0.1M水酸化ナトリウム溶液9mLに混合し、これをHPLCで測定した。測定方法は以下の通りである。
【0045】
<HPLC分析条件>
カラム:逆相用カラム「CAPCELL PAK C18 type UG80」(4.6mmi.d.×250mm、資生堂株式会社製)
移動相:A・・・HO(0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)), B・・・アセトニトリル(0.1%TFA)
流速:1.0mL/min
注入:10μL
検出:290nm
勾配(容量%):100%A/0%Bから0%A/100%Bまで33分間、100%Bで7分間(全て直線)
【0046】
得られた分析値より、製造時を100%とした相対値を算出した。結果を表1に示す。
なお、製造時に比べて2週間後の葉酸の含有量が90%以上であるものを安定性の合格品とした。
【0047】
【表1】
【0048】
表1の結果より、サンプル1は、紫外線照射2週間後でも97%の葉酸が残存していたことから、葉酸安定性が顕著に優れていることが認められた。
一方、サンプル2〜4は、紫外線照射2週間後で葉酸の含有量が86%以下となっており、サンプル1に比べて葉酸安定性が有意に劣るものであった。
したがって、サンプル1を用いてグミキャンディの作製を行った。
【0049】
(実施例2 葉酸安定性グミキャンディの作製)
砂糖40g、酵素水飴(Bx.75)50g、ペクチン0.3g、水12gを混合し、全量が97gになるまで102℃で5分間加熱濃縮してシロップを調製し、これに、予め60℃の温水8gに溶かしておいたゼラチン6gを混合し、グミキャンディベース111gを調製した。得られたグミキャンディベースは70℃に保温しておいた。
【0050】
上記で調製したグミキャンディベース111gと実施例1で得られたサンプル1の水溶性ビタミン粒子含有溶液11gとを混合し、得られたグミキャンディ液を70℃に加温した状態で、直径15mmの半球形の凹みをつけたスターチモールドに充填した。そして、40℃にて48時間乾燥させた後、スターチモールドから取り出し、表面に光沢剤を塗布してコーティングし、単重3g、水分値16%のグミキャンディを作製した(本発明品1)。
【0051】
また、比較品としてガレート型カテキンおよびアスコルビン酸を含有しない水溶性ビタミン粒子含有溶液を用いたグミキャンディ(比較品1)およびグミキャンディベースに葉酸、アスコルビン酸、緑茶抽出物を個別に添加したグミキャンディ(比較品2)を、実施例2と同様にして作製し、比較した。
【0052】
(試験例2:グミキャンディ中の葉酸の高温安定性試験)
実施例2で得られた本発明品1および比較品1、2のグミキャンディ中の葉酸の安定性を調べるために、グミキャンディを80℃で2日間加熱し、グミキャンディ中の葉酸含有量を測定した。
【0053】
(分析方法)
グミキャンディ1gを細切れにし、0.5MNaOH溶液10mlを加え、50℃で溶解させた。得られた溶液1mLを0.1MNaOH溶液9mLに混合し、HPLCで分析した。分析方法は試験例1と同様の条件にて行った。得られた分析値より、製造時を100%とした相対値を算出した。得られた結果を表2に示す。
【0054】
【表2】
【0055】
表2の結果より、本発明品1は、高温虐待後でも97.7%の葉酸が残存していたことから、葉酸安定性が顕著に優れていることがわかる。
一方、比較品2は64.1%に減少しており、比較品1においても92.3%に減少していた。従って本発明品に比べて葉酸安定性が有意に劣るものであった。本発明品と比較品1の違いは粒子形成の有無にある。従って、粒子形成によって水溶性ビタミンを安定化させる技術として有用であることが分かる。
したがって、本発明品1は、水溶性ビタミン類の安定性が顕著に向上されたグミキャンディとして有用であることがわかる。
【0056】
(実施例3 B12安定性グミキャンディの作製)
実施例2と同様の方法にてグミキャンディベースを作製し、70℃に保温しておいた。
【0057】
上記で調製したグミキャンディベース111gと試験例1で得られたサンプル1を葉酸からビタミンB12に変更した流動性液体11gとを混合し、得られたグミキャンディ液を70℃に加温した状態で、直径15mmの半球形の凹みをつけたスターチモールドに充填した。そして、40℃にて48時間乾燥させた後、スターチモールドから取り出し、表面に光沢剤を塗布してコーティングし、単重3g、水分値16%のグミキャンディを作製した(本発明品2)。
【0058】
また、比較品としてガレート型カテキンおよびビタミンB12を含有しない流動性液体を用いたグミキャンディ(比較品3)を、実施例2と同様にして作製し、比較した。
【0059】
(試験例3:グミキャンディ中のビタミンB12の高温安定性試験)
実施例3で得られた本発明品2および比較品3のグミキャンディ中のビタミンB12の安定性を調べるために、グミキャンディを80℃で1時間加熱し、グミキャンディ中のビタミンB12含有量を測定した。
【0060】
(分析方法)
虐待したグミキャンディ1gに蒸留水10mlを加え、50℃で溶解させた。得られた溶液を500倍蒸留水で希釈し、HPLCで分析した。分析方法は下記の条件にて行った。
【0061】
<HPLC分析条件>
カラム:逆相用カラム「CAPCELL PAK C18 type UG80」(2.0mmi.d.×150mm、資生堂株式会社製)
移動相:A・・・HO(0.1%ギ酸), B・・・メタノール(0.1%ギ酸)
流速:0.2mL/min
注入:10μL
検出:360nm
勾配(容量%):100%A/0%Bから50%A/50%Bまで25分間(全て直線)
【0062】
得られた分析値より、製造時を100%とした相対値を算出した。得られた結果を表3に示す。
【0063】
【表3】
【0064】
表3の結果より、本発明品2は、高温虐待後でもビタミンB12が減少せず、比較品3では88.8%まで減少した。なお、本発明品2の虐待後のビタミンB12の量が100%を超えているのは測定条件に伴う誤差である。
【0065】
したがって、実施例2、3の結果より、本発明は、ビタミンB12のみならず、様々な水溶性ビタミン類においてその安定性を向上させることができる有用なグミキャンディの製造方法であることがわかる。
【0066】
(試験例4:グミキャンディ中の葉酸の安定性試験)
実施例2で得られた本発明品1および比較品1のグミキャンディ中の葉酸の安定性を調べるために、以下の条件でのグミキャンディ中の葉酸含有量を測定した。
(1)作製直後
(2)遮光性のプラスチック袋に入れ、40℃/湿度75%の環境下で30日経過後
【0067】
(分析方法)
試験例2と同様に実施した。得られた結果を表4に示す。
【0068】
【表4】
【0069】
表4の結果より、本発明品1は、30日後でも94.1%の葉酸が残存していたことから、葉酸安定性が顕著に優れていることがわかる。
一方、比較品1は、30日後ですでに葉酸の含有量が88.2%となっており、本発明品1に比べて葉酸安定性が有意に劣るものであった。
したがって、本発明品1は、水溶性ビタミン類の安定性が顕著に向上されたグミキャンディとして有用であることがわかる。