特許第6710971号(P6710971)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6710971-空気入りタイヤの加硫装置および方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6710971
(24)【登録日】2020年6月1日
(45)【発行日】2020年6月17日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤの加硫装置および方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 33/04 20060101AFI20200608BHJP
   B29C 35/04 20060101ALI20200608BHJP
   B29L 30/00 20060101ALN20200608BHJP
【FI】
   B29C33/04
   B29C35/04
   B29L30:00
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-555459(P2015-555459)
(86)(22)【出願日】2015年11月6日
(86)【国際出願番号】JP2015081302
(87)【国際公開番号】WO2016072489
(87)【国際公開日】20160512
【審査請求日】2018年11月5日
(31)【優先権主張番号】特願2014-226630(P2014-226630)
(32)【優先日】2014年11月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】北井 宏尚
【審査官】 今井 拓也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−159049(JP,A)
【文献】 特開2013−006379(JP,A)
【文献】 特開2013−000922(JP,A)
【文献】 特開2011−143585(JP,A)
【文献】 特開2013−056488(JP,A)
【文献】 特開2008−168490(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/04
B29C 35/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の加硫ブラダと、この加硫ブラダの内部と連通可能に接続されている加熱媒体供給ラインおよび加圧媒体供給ラインを備えて、前記加熱媒体供給ラインを通じて加熱媒体が前記加硫ブラダの内部に供給され、前記加圧媒体供給ラインを通じて加圧媒体が前記加硫ブラダの内部に供給される構成した空気入りタイヤの加硫装置において、
前記加硫ブラダの内部と連通可能に接続されている加圧媒体低圧供給ラインおよび循環ラインを備えて、前記加圧媒体供給ラインには相対的に高圧の前記加圧媒体が流れ、前記加圧媒体低圧供給ラインには相対的に低圧の前記加圧媒体が流れる構成にして、加硫開始時には、前記加圧媒体低圧供給ラインを通じて相対的に低圧の前記加圧媒体が前記加硫ブラダの内部に供給されて、加硫モールド内でグリーンタイヤに挿入されている前記加硫ブラダが膨張して前記グリーンタイヤが加硫モールドに押圧された状態になった後、前記加熱媒体供給ラインを通じて前記加熱媒体が前記加硫ブラダの内部に供給され、次いで、前記加硫ブラダの内部に相対的に高圧の前記加圧媒体が供給される前に前記加硫ブラダの内部の媒体が前記循環ラインを通じて循環され始めて、前記加硫ブラダの内部の媒体が前記循環ラインを通じて循環しつつ、前記加圧媒体供給ラインを通じて相対的に高圧の前記加圧媒体が前記加硫ブラダの内部に供給されて前記加硫ブラダの内圧が上昇して前記グリーンタイヤがより強く前記加硫モールドに押圧される構成にしたことを特徴とする空気入りタイヤの加硫装置。
【請求項2】
前記加圧媒体低圧供給ラインが、前記加圧媒体供給ラインから分岐している分岐ラインと、この分岐ラインの中途に存在する減圧弁とで構成される請求項1に記載の空気入りタイヤの加硫装置。
【請求項3】
相対的に低圧の前記加圧媒体の圧力が、相対的に高圧の前記加圧媒体の圧力の10%〜40%である請求項1または2に記載の空気入りタイヤの加硫装置。
【請求項4】
加硫モールド内でグリーンタイヤに挿入された筒状の加硫ブラダの内部に加熱媒体および加熱媒体を供給して前記グリーンタイヤを加硫する空気入りタイヤの加硫方法において、
前記加圧媒体として相対的に高圧の加圧媒体と、相対的に低圧の加圧媒体とを使用し、加硫開始時には、相対的に低圧の前記加圧媒体を前記加硫ブラダの内部に供給して膨張させて前記グリーンタイヤを前記加硫モールドに押圧した後、前記加熱媒体を前記加硫ブラダの内部に供給し、次いで、前記加硫ブラダの内部に相対的に高圧の前記加圧媒体を供給する前に前記加硫ブラダの外部に延在する循環ラインを通じて前記加硫ブラダの内部の媒体を循環させ始めて、前記循環ラインを通じて前記加硫ブラダの内部の媒体を循環させつつ、相対的に高圧の前記加圧媒体を前記加硫ブラダの内部に供給して前記加硫ブラダの内圧を上昇させて前記グリーンタイヤを前記加硫モールドにより強く押圧して加硫することを特徴とする空気入りタイヤの加硫方法。
【請求項5】
相対的に低圧の加圧媒体を前記加硫ブラダの内部に供給する際には、相対的に高圧の前記加圧媒体を前記加硫ブラダの内部に供給する加圧媒体供給ラインから分岐する加圧媒体低圧供給ラインに、相対的に高圧の前記加圧媒体を供給して、この加圧媒体低圧供給ラインに設置した減圧弁によって減圧した相対的に低圧の前記加圧媒体を、前記加圧媒体低圧供給ラインを通じて前記加硫ブラダの内部に供給する請求項4に記載の空気入りタイヤの加硫方法。
【請求項6】
相対的に低圧の前記加圧媒体の圧力を、相対的に高圧の前記加圧媒体の圧力の10%〜40%に設定する請求項4または5に記載の空気入りタイヤの加硫方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤの加硫装置および方法に関し、さらに詳しくは、設備を大型化することなく、加硫初期にグリーンタイヤに十分な内圧を付与しつつ、過加硫を抑制することが可能な空気入りタイヤの加硫装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モールド内部に設置されたグリーンタイヤに加硫ブラダを挿入し、この加硫ブラダに加熱媒体となるスチームを注入した後、加圧媒体となる窒素ガス(不活性ガス)を注入してグリーンタイヤを加硫する方法が知られている。加硫時間は最も加硫に時間を要する部位(加硫速度が遅い部位)を基準にして設定される。例えば、シリカが多量に配合された未加硫ゴムは加硫時間が長くなる。そのため、シリカの配合量が多いトレッドゴムを用いたグリーンタイヤを加硫する場合は、トレッド部を基準にして加硫時間が設定され、高温で加硫する程トレッド部以外の部位が一段と過加硫状態になり易い。過加硫状態になる程、加硫ゴムの物性に与える悪影響が大きくなるため、過加硫状態を極力抑制することが望ましい。
【0003】
また、加硫初期に加硫ブラダによってグリーンタイヤに付与する内圧が過小であると未加硫ゴムが十分に流動しないため、加硫故障が生じることがある。特に、剛性が高いタイヤを加硫する場合にはこの加硫故障が顕著になる。
【0004】
加硫装置として、例えば、スチームと不活性ガスを予めタンク内で混合しておき、この混合気体を加硫ブラダに注入して加硫する装置が提案されている(特許文献1参照)。この提案の加硫装置によれば、タンク内の混合気体を加硫ブラダに注入すればグリーンタイヤに付与する内圧を加硫初期から大きくすることができる。また、ある程度、加硫時間を短縮することが可能になる。しかしながら、スチームと不活性ガスを予め混合するタンクが必要なり、設備が大型化するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】日本国特開平9−76239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、設備を大型化することなく、加硫初期にグリーンタイヤに十分な内圧を付与しつつ、過加硫を抑制することが可能な空気入りタイヤの加硫装置および方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明の空気入りタイヤの加硫装置は、筒状の加硫ブラダと、この加硫ブラダの内部と連通可能に接続されている加熱媒体供給ラインおよび加圧媒体供給ラインを備えて、前記加熱媒体供給ラインを通じて加熱媒体が前記加硫ブラダの内部に供給され、前記加圧媒体供給ラインを通じて加圧媒体が前記加硫ブラダの内部に供給される構成した空気入りタイヤの加硫装置において、前記加硫ブラダの内部と連通可能に接続されている加圧媒体低圧供給ラインおよび循環ラインを備えて、前記加圧媒体供給ラインには相対的に高圧の前記加圧媒体が流れ、前記加圧媒体低圧供給ラインには相対的に低圧の前記加圧媒体が流れる構成にして、加硫開始時には、前記加圧媒体低圧供給ラインを通じて相対的に低圧の前記加圧媒体が前記加硫ブラダの内部に供給されて、加硫モールド内でグリーンタイヤに挿入されている前記加硫ブラダが膨張して前記グリーンタイヤが加硫モールドに押圧された状態になった後、前記加熱媒体供給ラインを通じて前記加熱媒体が前記加硫ブラダの内部に供給され、次いで、前記加硫ブラダの内部に相対的に高圧の前記加圧媒体が供給される前に前記加硫ブラダの内部の媒体が前記循環ラインを通じて循環され始めて、前記加硫ブラダの内部の媒体が前記循環ラインを通じて循環しつつ、前記加圧媒体供給ラインを通じて相対的に高圧の前記加圧媒体が前記加硫ブラダの内部に供給されて前記加硫ブラダの内圧が上昇して前記グリーンタイヤがより強く前記加硫モールドに押圧される構成にしたことを特徴とする。
【0008】
本発明の空気入りタイヤの加硫方法は、加硫モールド内でグリーンタイヤに挿入された筒状の加硫ブラダの内部に加熱媒体および加熱媒体を供給して前記グリーンタイヤを加硫する空気入りタイヤの加硫方法において、前記加圧媒体として相対的に高圧の加圧媒体と、相対的に低圧の加圧媒体とを使用し、加硫開始時には、相対的に低圧の前記加圧媒体を前記加硫ブラダの内部に供給して膨張させて前記グリーンタイヤを前記加硫モールドに押圧した後、前記加熱媒体を前記加硫ブラダの内部に供給し、次いで、前記加硫ブラダの内部に相対的に高圧の前記加圧媒体を供給する前に前記加硫ブラダの外部に延在する循環ラインを通じて前記加硫ブラダの内部の媒体を循環させ始めて、前記循環ラインを通じて前記加硫ブラダの内部の媒体を循環させつつ、相対的に高圧の前記加圧媒体を前記加硫ブラダの内部に供給して前記加硫ブラダの内圧を上昇させて前記グリーンタイヤを前記加硫モールドにより強く押圧して加硫することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、相対的に低圧の前記加圧媒体を前記加硫ブラダの内部に供給して膨張させた後、前記加熱媒体を前記加硫ブラダの内部に供給するので、加硫初期にグリーンタイヤに十分な内圧を付与しつつ、迅速に加硫ブラダを加熱することができる。それ故、未加硫ゴムの流動不足を回避するには有利になっている。この際に最初に加圧媒体によって加硫ブラダに内圧を付与しているので、加熱媒体の温度を従来よりも低くすることができる。その後、前記加硫ブラダの外部に延在する循環ラインを通じて前記加硫ブラダの内部の媒体を循環させつつ、相対的に高圧の前記加圧媒体を前記加硫ブラダの内部に供給して前記加硫ブラダの内圧を上昇させて前記グリーンタイヤを加硫するので、従来に比して加硫温度を抑えて過加硫状態になる部位を最小限にすることができる。また、従来設備に対して、加圧媒体を相対的に低圧にして加硫ブラダの内部に供給するラインを追加する程度で本発明を実現できるので、設備が大型化することもない。
【0010】
例えば、相対的に高圧の前記加圧媒体を前記加硫ブラダの内部に供給する加圧媒体供給ラインから分岐する加圧媒体低圧供給ラインに、相対的に高圧の前記加圧媒体を供給して、この加圧媒体低圧供給ラインに設置した減圧弁によって減圧した相対的に低圧の前記加圧媒体を、前記加圧媒体低圧供給ラインを通じて前記加硫ブラダの内部に供給する。これにより、相対的に低圧の前記加圧媒体を加硫ブラダの内部に供給するラインと、相対的に高圧の前記加圧媒体を加硫ブラダの内部に供給するラインとを完全に独立して設ける必要がない。それ故、設備をよりコンパクトにすることができる。また、既存の加圧媒体供給ラインがある場合は、これを有効に利用することができる。
【0011】
相対的に低圧の前記加圧媒体の圧力は、例えば、相対的に高圧の前記加圧媒体の圧力の10%〜40%に設定する。この範囲に設定することで、加硫初期にグリーンタイヤに対して、より適度な内圧を付与しつつ、加硫温度を抑えてより適切な温度で加硫することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は本発明の空気入りタイヤの加硫装置の全体概要を縦断面視で例示する説明図である。
図2図2図1の加硫装置を簡略化して例示する説明図である。
図3図3は本発明の加硫装置の別の実施形態を簡略化して例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の空気入りタイヤの加硫装置および方法を図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0014】
図1および図2に例示する本発明の空気入りタイヤの加硫装置1(以下、加硫装置1という)は、ゴム製の筒状の加硫ブラダ2を有している。加硫ブラダ2の上側クランプ部3a、下側クランプ部3bはそれぞれ、中心機構4を構成するセンターポスト4aに取り付けられた円盤状の上側クランプ保持部5a、下側クランプ保持部5bにより保持される。
【0015】
センターポスト4aの外周側の位置には、円筒状のハブ部4bが配置されている。ハブ部4bには、加硫ブラダ2の内部に加熱媒体となるスチームや加圧媒体となる不活性ガス(窒素ガス等)を注入する注入口6と、加硫ブラダ2の内部の加熱媒体や加圧媒体を外部に排出する排出口7とが形成されている。
【0016】
ハブ部4bには例えば4つの注入口6が周方向に均等の位置に形成され、1つの排出口7が形成されている。注入口6および排出口7の数は任意に設定できる。
【0017】
注入口6、排出口7はそれぞれ、加硫装置1から下方に延びる供給ライン6L、排出ライン7Lに接続されている。注入口6は排出口7よりも上方位置に配置されている。さらに、加硫ブラダ2の外部に延在する循環ライン8Lが備わっている。
【0018】
供給ライン6Lは、加圧媒体供給ライン6L1と、加圧媒体低圧供給ライン6L2および加熱媒体供給ライン6L3とを備えている。加圧媒体供給ライン6L1は、加圧媒体供給源P1から送られた相対的に高圧の加圧媒体を加硫ブラダ2の内部に供給する。この相対的に高圧の加圧媒体の圧力の大きさは、例えば、タイヤ加硫に使用される加圧媒体の一般的な圧力の大きさである。加圧媒体低圧供給ライン6L2は、加圧媒体供給源P1から送られた相対的に高圧の加圧媒体を減圧して、加圧媒体供給ライン6L1よりも相対的に低圧の加圧媒体を加硫ブラダ2の内部に供給する。
【0019】
この実施形態では、加圧媒体低圧供給ライン6L2が、加圧媒体供給ライン6L1から分岐した分岐ラインと、この分岐ラインの中途に設けられた減圧弁9gとで構成されている。加圧媒体低圧供給ライン6L2には、このライン6L2を開閉する開閉弁9eも設けられている。
【0020】
加熱媒体供給ライン6L3は、加熱媒体供給源P2から送られた加熱媒体を加硫ブラダ2の内部に供給する。循環ライン8Lは、加硫ブラダ2の内部の媒体(加圧媒体および加熱媒体)を循環させる。この実施形態では、循環ライン8Lが加圧媒体供給ライン6L1と加熱媒体供給ライン6L3とを連結することにより形成されている。即ち、循環ライン8Lは、加圧媒体供給ライン6L1および加熱媒体供給ライン6L3の一部を利用して形成されている。循環ライン8Lには媒体を循環させる循環ポンプ等の循環器8aが設けられている。
【0021】
加圧媒体供給ライン6L1には、このライン6L1を開閉する開閉弁9a、9bが設けられている。1つの開閉弁9aは、循環ライン8Lよりも加圧媒体供給源P1側に配置され、もう1つの開閉弁9bは、循環ライン8の中で、加圧媒体低圧供給ライン6L2との分岐点よりも加硫ブラダ2側に配置されている。
【0022】
加熱媒体供給ライン6L3には、この供給ライン6L3を開閉する開閉弁9c、9dが設けられている。1つの開閉弁9cは、循環ライン8Lよりも加熱媒体供給源P2側に配置され、もう1つの開閉弁9dは、循環ライン8の中に配置されている。排出ライン7Lにはこのライン7Lを開閉する開閉弁9fが設けられている。それぞれの開閉弁9a〜9fおよび減圧弁9gの開閉は制御装置により制御される。したがって、供給ライン6L1、6L2、6L3、循環ライン8および排出ライン7Lは、それぞれに設けられている弁を開弁することにより、加硫ブラダ2の内部と連通する。
【0023】
本発明の加硫装置1を用いてグリーンタイヤGを加硫するには、まず、グリーンタイヤGをモールド10の内部に横置き状態で配置する。この実施形態では、モールド10は周方向に複数に分割された環状のセクタ10aと、上側に配置される環状のサイドプレート10b、下側に配置される環状のサイドプレート10cで構成されている。加硫ブラダ2はグリーンタイヤGの内側に挿入され、モールド10を閉型した状態にする。
【0024】
次いで、加圧媒体供給源P1から送られた常温の相対的に高圧の加圧媒体を加圧媒体低圧供給ライン6L2に流す。加圧媒体低圧供給ライン6L2に流した相対的に高圧の加圧媒体は、減圧弁9gにより減圧されて相対的に低圧の加圧媒体になって、加硫ブラダ2の内部に供給される。この相対的に低圧の加圧媒体のみによって加硫ブラダ2を所定内圧にして膨張させた後に、相対的に低圧の加圧媒体の供給を停止する。膨張した加硫ブラダ2により、グリーンタイヤGの内周面は押圧され、グリーンタイヤGはモールド10に押圧される。
【0025】
次いで、加熱媒体供給源P2から送られた所定温度(所定圧力)の加熱媒体を加熱媒体供給ライン6L3を通じて所定時間、加硫ブラダ2の内部に供給する。これにより、加硫ブラダ2は加熱されて高温になり、グリーンタイヤGの未加硫ゴムが実質的に流動し始める。このとき、加硫ブラダ2は既に内部に供給された加圧媒体によってある程度の内圧を付与されているので、供給する加熱媒体の温度を従来に比して低温にできる。即ち、加熱媒体は加硫ブラダ2に内圧を付与することを考慮せずに、純粋に加硫に適切な温度になるように設定して供給される。
【0026】
次いで、循環器8aを作動させて、加硫ブラダ2の内部の媒体(加圧媒体および加熱媒体)を循環ライン8Lを通じて循環させて加硫ブラダ2の内部温度(加硫ブラダ2の温度)を均一化する。加硫ブラダ2の内部温度(加硫ブラダ2の温度)が適切な温度(温度状態)に達すると加熱媒体の供給を停止する。
【0027】
加硫ブラダ2の内部の媒体を循環ライン8Lを通じて循環させつつ、次いで、加圧媒体供給源P1から送られた常温の相対的に高圧の加圧媒体だけを加圧媒体供給ライン6L1を通じて加硫ブラダ2の内部に供給する。即ち、加圧媒体低圧供給ライン6L2を通じて供給した場合よりも相対的に高圧にした加圧媒体を加硫ブラダ2の内部に供給して加硫ブラダ2の内圧を上昇させる。これに伴い、さらに膨張した加硫ブラダ2により、グリーンタイヤGの内周面はより強く押圧され、グリーンタイヤGはモールド10により強く押圧されつつ加熱されて本格的に加硫される。
【0028】
所定時間経過後に加硫ブラダ2の内部の媒体の循環ライン8Lを通じた循環を停止し、開閉弁9fを開弁することにより排出ライン7Lを通じて加硫ブラダ2の内部の存在している媒体を加硫ブラダ2の外部に排出する。その後、上側のサイドプレート10bを上方移動させ、それぞれのセクタ10aを拡径方向に移動させてモールド10を開型する。次いで、加硫したタイヤを上方移動させて収縮した加硫ブラダ2から抜き出して加硫装置1から取り出す。
【0029】
本発明によれば、相対的に低圧の加圧媒体を加硫ブラダ2の内部に供給して膨張させた後、加熱媒体を加硫ブラダの内部に供給するので、加硫初期にグリーンタイヤGに十分な内圧を付与しつつ、迅速に加硫ブラダ2を加熱することが可能になる。これにより、未加硫ゴムの流動不足を防止して加硫故障の発生を抑えるには有利になる。
【0030】
また、最初に加圧媒体によって加硫ブラダ2に内圧を付与しているので、加硫ブラダ2の内部に供給する加熱媒体の温度を従来よりも低くすることができる。そのため、従来に比して加硫温度を抑えて過加硫状態になる部位を最小限にするには有利になる。
【0031】
加圧媒体低圧供給ライン6L2を通じて加硫ブラダ2の内部に供給する相対的に低圧の加圧媒体の圧力は、加圧媒体供給ライン6L1を通じて加硫ブラダ2の内部に供給する相対的に高圧の加圧媒体の圧力に対して、例えば10%〜40%に設定する。相対的に低圧の加圧媒体の圧力をこの範囲に設定することで、加硫初期にグリーンタイヤGに対して、より適度な内圧を付与しつつ、加硫温度を抑えてより適切な温度で加硫することができる。
【0032】
本発明を実現する設備としては、相対的に低圧の加圧媒体を加硫ブラダ2の内部に供給する加圧媒体低圧供給ライン6L2を追加する程度で済む。それ故、設備を大型化する必要がない。
【0033】
この実施形態では、加圧媒体低圧供給ライン6L2を、加圧媒体供給ライン6L1から分岐した分岐ラインと、この分岐ラインの中途に設けられた減圧弁9gとで構成している。そのため、相対的に低圧の加圧媒体を加硫ブラダ2の内部に供給するラインと、相対的に高圧の加圧媒体を加硫ブラダ2の内部に供給するラインとを完全に独立して設ける必要がない。それ故、設備をよりコンパクトにすることができる。また、加硫装置を改造する場合など、既存の加圧媒体供給ライン6L1がある際には、これを有効に利用することができる。即ち、本発明の加硫装置1は、既存の加硫装置を大掛かりな改造をすることなく得ることが可能である。
【0034】
尚、図3に例示するように、相対的に低圧の加圧媒体を加硫ブラダ2の内部に供給する加圧媒体低圧供給ライン6L2と、相対的に高圧の加圧媒体を加硫ブラダ2の内部に供給する加圧媒体供給ライン6L1とを完全に独立して設ける構成にすることもできる。
【実施例】
【0035】
乗用車用タイヤ(サイズ235/50/R18)を表1に示す5通りの方法(従来例、比較例、実施例1〜3)で加硫し、製造したタイヤの転がり抵抗および加硫故障の発生率を確認し、その結果を表1に示す。実施例1〜3では、図1図2に例示した加硫装置と同様の装置を用いて、最初に相対的に低圧の窒素ガスを加硫ブラダの内部に注入した後、スチームを注入し、次いで加硫ブラダの内部の媒体(スチームおよび窒素ガス)を循環ラインを通じて循環させつつ、相対的に高圧の窒素ガスを注入してグリーンタイヤを加硫した。従来例および比較例は、最初に相対的に低圧の窒素ガスを加硫ブラダの内部に注入せず、その他は実施例1〜3と同じ手順でグリーンタイヤを加硫した。
【0036】
表1のスチームの注入圧力は、従来例を基準の100として指数で表示し、数値が大きい程、圧力が大きいことを示す。表1の窒素ガスの注入圧力および初期窒素ガスの注入圧力は、従来例の窒素ガスの注入圧力を基準の100として指数で表示し、数値が小さいほど圧力が小さいことを示す。表1の初期窒素ガスとスチームとの体積割合とは、スチームを注入した後の加硫ブラダの内部での体積割合を示している。
【0037】
表1の転がり抵抗は、従来例を基準の100として指数で表示した。指数の数値が小さい程、抵抗が小さくて優れていることを示す。タイヤが過加硫状態である程、転がり抵抗が大きくなる傾向がある。表1の加硫故障の発生率は、従来例を基準の5として指数で表示した。指数の数値が小さい程、加硫故障の発生が低いことを示す。
【0038】
【表1】
【0039】
表1の結果から、実施例1〜3は従来例に比してタイヤの転がり抵抗が小さくて過加硫状態を抑制できたことが分かる。また、加硫故障の発生の抑制にも効果的であることができることが分かる。
【符号の説明】
【0040】
1 加硫装置
2 加硫ブラダ
3a 上側クランプ部
3b 下側クランプ部
4 中心機構
4a センターポスト
4b ハブ部
5a 上側クランプ保持部
5b 下側クランプ保持部
6 注入口
6L 供給ライン
6L1 加圧媒体供給ライン
6L2 加圧媒体低圧供給ライン
6L3 加熱媒体供給ライン
7 排出口
7L 排出ライン
8L 循環ライン
8a 循環器
9a、9b、9c、9d、9e、9f 開閉弁
9g 減圧弁
10(10a、10b、10c) モールド
G グリーンタイヤ
P1 加圧媒体供給源
P2 加熱媒体供給源
図1
図2
図3