特許第6711040号(P6711040)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6711040
(24)【登録日】2020年6月1日
(45)【発行日】2020年6月17日
(54)【発明の名称】リチウム空気電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 12/06 20060101AFI20200608BHJP
   H01M 4/96 20060101ALI20200608BHJP
【FI】
   H01M12/06 F
   H01M12/06 G
   H01M12/06 D
   H01M4/96 M
   H01M4/96 H
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-49175(P2016-49175)
(22)【出願日】2016年3月14日
(65)【公開番号】特開2017-168190(P2017-168190A)
(43)【公開日】2017年9月21日
【審査請求日】2019年1月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷 陽子
(72)【発明者】
【氏名】志賀 亨
【審査官】 冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−025091(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/111185(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/101992(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 12/06
H01M 4/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムを吸蔵放出する負極活物質を有する負極と、
結着材を含まない炭素材料からなり、酸素を正極活物質とする正極と、
前記正極に接触しアセトニトリルを含む非水電解液と、
を備えたリチウム空気電池。
【請求項2】
前記正極は、前記結着材を含まない炭素材料として直径5μm以上20μm以下の炭素繊維を含む、請求項1に記載のリチウム空気電池。
【請求項3】
前記正極は、前記結着材を含まない炭素材料としてカーボンペーパーからなる、請求項1又は2に記載のリチウム空気電池。
【請求項4】
前記非水電解液は、60体積%以下のイオン液体を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のリチウム空気電池。
【請求項5】
前記負極は、前記負極活物質としてリチウム金属を有し、
前記正極と前記負極との間にリチウムイオンを伝導する固体電解質を備える、請求項1〜4のいずれか1項に記載のリチウム空気電池。
【請求項6】
前記負極と前記固体電解質との間には、前記正極側の非水電解液とは異なるイオン伝導媒体を含む、請求項5に記載のリチウム空気電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム空気電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウム空気電池としては、電解液溶媒に電子供与性の高い溶媒を用いることによって、反応中間体を一度電解液中に溶解させ、積極的に正極表面を被覆しない析出形態を形成させる手法が報告されている。たとえば、非特許文献1では、電解液溶媒にジメチルスルホキシドあるいは1−メチルイミダゾールを用いることで、従来のリチウム空気電池に比べて放電容量、放電電位、の少なくとも一つが改善されるとしている。また、非特許文献2では、電解液に少量の水を添加することで反応中間体の溶解性を高くし、非特許文献1と同様の効果が確認されたことが報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Nature Chemistry 6, 1091-1099 (2014)
【非特許文献2】Nature Chemistry 7, 50-56 (2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の非特許文献1のリチウム空気電池では、平板の金電極を正極としており、放電を60mA/cm2という低い電流密度で行っていた。また、非特許文献1のリチウム空気電池では、カーボンペーパーの正極を用いているが、放電容量を1.77mAh/cm2に制限して放電試験を行っており、高容量化を図る点については検討されていなかった。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、放電容量をより高めた新規のリチウム空気電池を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、正極に結着材を含まない自立した炭素材料を用い、且つ電解液にアセトニトリルを含むものとすると、放電容量をより高めた新規のリチウム空気電気となることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明のリチウム空気電池は、
リチウムを吸蔵放出する負極活物質を有する負極と、
結着材を含まない炭素材料からなり、酸素を正極活物質とする正極と、
前記正極に接触しアセトニトリルを含む非水電解液と、
を備えたものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、放電容量をより高めた新規なリチウム空気電池を提供することができる。このような効果が得られる理由は、例えば、以下のように推測される。一般に、リチウム空気電池の正極表面には、放電生成物であるLi22が膜状に析出する。例えば、非特許文献2の図1bでは、多孔質カーボンのカーボン粒子の表面を被覆する形態で放電生成物が析出している。これに対し、本発明では、結着材を含まない炭素材料、例えば、カーボンペーパーなどを正極とするが、ナノサイズの細孔を有していない。そして、この細孔を有さないカーボンペーパーの電極上に、放電生成物であるLi22が高次構造を形成して析出する。このような形状で析出することにより、電極の単位面積あたりに析出できるLi22量が増大し、高容量の放電容量が得られるものと推察される。また、非水電解液に含まれるアセトニトリルは、Liイオン伝導性および酸素溶解性が高い性質を有する。これによっても、放電容量がより向上するものと推察される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】リチウム空気電池20の一例を模式的に示す説明図。
図2】実施例1、2の放電電圧と電池容量の変化を表すグラフ。
図3】実施例3及び比較例1、2の放電電圧と電池容量の変化を表すグラフ。
図4】放電時の電位振動が起きるモデルを表す説明図。
図5】実施例1の放電終点の表面と未使用のカーボンペーパーのSEM写真。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のリチウム空気電池は、リチウムを吸蔵放出する負極活物質を有する負極と、結着材を含まない炭素材料からなり酸素を正極活物質とする正極と、正極に接触しアセトニトリルを含む非水電解液と、を備えている。
【0011】
このリチウム空気電池において、負極は、リチウムを吸蔵放出する負極活物質を有する。リチウムを吸蔵放出可能な負極としては、例えば金属リチウムやリチウム合金のほか、金属酸化物、金属硫化物、リチウムを吸蔵放出する炭素質物質などが挙げられる。リチウム合金としては、例えばアルミニウムやスズ、マグネシウム、インジウム、カルシウムなどとリチウムとの合金が挙げられる。金属酸化物としては、例えばスズ酸化物、ケイ素酸化物、リチウムチタン酸化物、ニオブ酸化物、タングステン酸化物などが挙げられる。金属硫化物としては、例えばスズ硫化物やチタン硫化物などが挙げられる。リチウムを吸蔵放出する炭素質物質としては、例えば黒鉛、コークス、メソフェーズピッチ系炭素繊維、球状炭素、樹脂焼成炭素などが挙げられる。
【0012】
このリチウム空気電池において、正極は、気体からの酸素を正極活物質とするものである。気体としては、空気であってもよいし酸素ガスであってもよい。この正極は、結着材を含まない炭素材料からなる。なお、結着材とは、粒子状の活物質を繋ぎ止める役割を果たすものをいい、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)ゴム、スルホン化EPDMゴム、天然ブチルゴム(NBR)等のゴムのほか、セルロース化合物やスチレンブタジエンゴム(SBR)等が挙げられる。この正極は、結着材を含まない炭素材料として直径5μm以上20μm以下の炭素繊維を含むものとしてもよい。この炭素材料は、例えば、炭素材料のみで自立した形状を維持することが可能なものとしてもよく、カーボンペーパーやカーボンフェルトなどとしてもよい。炭素材料が炭素繊維からなる場合、繊維方向が配向しているものとしてもよい。この炭素材料は、炭素材料自体に形成されたミクロ孔やメソ孔などの細孔容積が0.01cm3/g以下など、少ないものとしてもよいし、細孔がないものとしてもよい。また、炭素材料は、炭素繊維同士が形成する空間により多孔質に類似する性質を有するものとしてもよい。この炭素材料は、気体透過性が100(mL・mm/(cm2・h・Pa))以上300(mL・mm/(cm2・h・Pa))以下の範囲が好ましい。この範囲では、例えば非水電解液や酸素などを透過しやすく好ましい。このような炭素材料により正極を構成すると、正極の表面が完全に放電生成物で被覆されることなく継続して高出力の放電が可能である。なお、正極は、放電生成物であるリチウム酸化物やリチウム過酸化物を含んでいてもよい。また、正極は、触媒を含むものとしてもよい。触媒としては、例えば、酸素の酸化還元を行うものが好ましく、二酸化マンガン、四酸化三コバルトなどの金属酸化物であってもよいし、Pt、Pd、Coなどの金属であってもよいし、金属ポルフィリン、金属フタロシアニン、イオン化フラーレン、カーボンナノチューブなどの有機及び無機化合物であってもよい。
【0013】
このリチウム空気電池において、正極と接触する非水電解液としては、例えばアセトニトリルを含む非水電解液を用いることができる。アセトニトリルは、非水電解液中に40体積%以上が好ましく、50体積%以上がより好ましく、80体積%以上が更に好ましい。また、非水電解液の溶媒すべてがアセトニトリルであるものとしてもよい。アセトニトリルは、リチウムイオン伝導性および酸素溶解性が高い性質を有するため、非水電解液に、より多く含まれることがより好ましい。この非水電解液には、支持塩が含まれるものとしてもよい。支持塩としては、特に限定されるものではないが、例えば、LiPF6,LiClO4,LiAsF6,LiBF4,Li(CF3SO22N,Li(CF3SO3),LiN(C25SO22などの公知の支持塩を用いることができる。これらの支持塩は、単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。支持塩の濃度としては、0.1〜2.0Mであることが好ましく、0.8〜1.2Mであることがより好ましい。非水電解液には、アセトニトリルが含まれるが、そのほかに60体積%以下のイオン液体が含まれるものとしてもよい。このイオン液体は、非水電解液に50体積%以下の範囲で含まれるものとしてもよいし、20体積%以下の範囲で含まれるものとしてもよい。イオン液体としては、例えば、N,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(DEME−TFSI)、N,N−ジエチル−N−エチル‐N−(2−メトキシエチル)アンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、N−メチル−N−プロピルピペリジウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1−エチル−3−ブチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0014】
また、非水電解液には、鎖状エーテルなどエーテル系溶媒が含まれているものとしてもよい。このエーテル系溶媒は、例えば、非水電解液に、50体積%以下の範囲で含まれてもよく、20体積%以下含まれてもよく、10体積以下含まれてもよい。エーテル系溶媒としては、例えばジメトキシエタン、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等がある。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0015】
このリチウム空気電池において、負極と正極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、リチウム空気電池の使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の薄い微多孔膜が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0016】
このリチウム空気電池において、正極と負極との間にリチウムイオンを伝導する固体電解質を備えるものとしてもよい。こうすれば、正極及び負極の短絡を防止できる。また、負極活物質としてリチウム金属を有する場合には、この固体電解質を備えることが望ましい。非水電解液に含まれるアセトニトリルは、リチウム金属に接触すると還元されることがある。このリチウム空気電池では、負極がリチウム金属である場合に固体電解質によりアセトニトリルと負極との物理的接触を遮断することができ、非水電解液の劣化などをより抑制することができる。固体電解質は、緻密な板状体であるものが好ましく、例えば、気孔率が5%以下、より好ましくは、2%以下などが好ましい。固体電解質としては、例えば、ガラスセラミックスや、Liの窒化物、ハロゲン化物、酸素酸塩などが挙げられる。具体的には、ガラスセラミックスとして、Li1+XTi2SiX3-X12・AlPO4(OHARA電解質)や、Li1.5Al0.5Ge1.5(PO43(LAGP)などが挙げられる。その他に、特開2009−122991号公報に紹介されている固体電解質、例えば、ガーネット型酸化物Li5+XLa3(ZrX,Nb2-X)O12(Xは1.4≦X<2)、ガーネット型酸化物Li7La3Zr212 、ガーネット型酸化物Li7ALa3Nb212(A=Ca,Sr,Ba)、なども用いることができる。また、固体電解質としては、Li3.25Ge0.250.254、Li4SiO4、Li4SiO4−LiI−LiOH、xLi3PO4−(1−x)Li4SiO4、Li2SiS3、Li3PO4−Li2S−SiS2、硫化リン化合物なども挙げられる。また、固体電解質としては、LiとSrとZrとを含むペロブスカイト型イオン伝導性酸化物としてもよい。このペロブスカイト型イオン伝導性酸化物は、基本構成をSrZrO3とするものとし、SrサイトやZrサイトが他の元素により置換されたものとしてもよい。
【0017】
固体電解質を備えたリチウム空気電池において、負極と固体電解質との間には、正極側の非水電解液とは異なるイオン伝導媒体を含むものとしてもよい。イオン伝導媒体は、非水電解液としてもよいし、ゲル電解質などとしてもよい。イオン伝導媒体には、例えば、プロトン性の有機溶媒が含まれているものとしてもよい。この有機溶媒は、例えば、イオン伝導媒体に、50体積%以上の範囲で含まれてもよく、70体積%以上含まれてもよく、80体積%以上含まれてもよい。このような有機溶媒としては、例えば環状カーボネート、鎖状カーボネート、環状エステル、環状エーテル、鎖状エーテル等が挙げられる。環状カーボネートとしては、例えばエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等がある。鎖状カーボネートとしては、例えばジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等がある。環状エステルカーボネートとしては、例えばガンマブチロラクトン、ガンマバレロラクトン等がある。環状エーテルとしては、例えばテトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等がある。鎖状エーテルとしては、例えばジメトキシエタン、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等がある。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。また、イオン伝導媒体には、上述したエーテル系溶媒やイオン液体が含まれているものとしてもよい。また、このイオン伝導媒体は、上述した支持塩を含むものとしてもよい。支持塩の種類や濃度などは正極側の非水電解液に準ずるものとしてもよい。
【0018】
このリチウム空気電池は、放電時において、電池電圧が上下動する放電電圧の振動現象が起きるものとしてもよい。この振動現象は、例えば、放電生成物として、結晶性の高いLi22相と結晶性の低いアモルファスのLi22相とが順次析出することにより起きるものと考えられる。正極に結着材を含まない炭素材料を用い、非水電解液にアセトニトリルを含むものとすると、このような新規の挙動を奏するものと考えられる。
【0019】
本発明のリチウム空気電池の形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。図1は、本発明のリチウム空気電池20の一例を模式的に示す説明図である。このリチウム空気電池20は、リチウムを吸蔵放出する負極活物質を有する負極21と、酸素を正極活物質とする正極22と、負極21と第1正極22との間に配設された固体電解質25とを備えている。負極21と固体電解質25との間には、リチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体24があり、正極22と固体電解質25との間には、リチウムイオンを伝導する非水電解液26がある。また、リチウム空気電池20は、ケーシング28と、押さえ部材31と、ガス溜め32とを備える、ケーシング28は、負極21や正極22を収容する絶縁体の収容容器である。押さえ部材31は、正極22を押さえる部材であり、内部を酸素が流通可能になっている。ガス溜め32は、その内部に酸素を含むガス(例えば乾燥空気)を収容しており、押さえ部材31を介して正極22に酸素を供給する。正極22は、結着材を含まない炭素材料からなる。また、非水電解液26には、アセトニトリルが含まれる。
【0020】
以上詳述した本発明では、放電容量をより高めた新規なリチウム空気電池を提供することができる。このような効果が得られる理由は、例えば、以下のように推測される。このリチウム空気電池では、結着材を含まない炭素材料を正極とし、この正極上に放電生成物であるLi22が高次構造を形成して析出する。このような形状で析出することにより、電極の単位面積あたりに析出できるLi22量が増大し、高容量の放電容量が得られるものと推察される。また、非水電解液に含まれるアセトニトリルは、Liイオン伝導性および酸素溶解性が高い性質を有する。これによっても、放電容量がより向上するものと推察される。
【0021】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例】
【0022】
以下には、本発明のリチウム空気電池を具体的に作製した例を実施例として説明する。なお、本発明は以下に示す実施例に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0023】
[実施例1]
カーボンペーパー(東レ製、TGP−H−060)を3.14cm2の面積となるように切り取り、リチウム空気電池の正極とした。このカーボンペーパーは、気体透過性が194(mL・mm/(cm2・h・Pa))であり、直径20μm以下の炭素繊維からなる。負極には、直径10mm、厚さ0.5mmの金属リチウム(田中貴金属製)を用いた。これらを用いて図1に示したリチウム空気電池を作製した。まず、SUS製のケーシング28に負極21を設置し、正極22との間にはリチウム伝導性の固体電解質25(OHARA製)を設置した。負極21と固体電解質25との間には、イオン伝導媒体24として非水電解液(電解液A)5mLを注入した。電解液Aには、1Mのリチウムテトラフルオロスルフォニルイミド(以下LiTFSI)を支持塩として含む、エチレンカーボネート30質量部とジエチルカーボネート70質量部からなる溶液(関東化学製)を用いた。次に、アセトニトリル(以下AN)に0.5MのLiTFSIを含む非水電解液を調製した(電解液B)。この非水電解液200μLを固体電解質25と正極22の間に注入した。正極22上から空気が流通可能な押さえ部材31で押し付けることにより、セルを固定した。このようにして実施例1のリチウム空気電池を得た。なお、図示しないが、ケーシング28は正極22と接触する上部と負極21と接触する下部とに分離可能であり、絶縁樹脂の介在により、正極22と負極21とは電気的に絶縁されている。
【0024】
(放電試験)
このようにして得られたリチウム空気電池を、アスカ電子製の充放電装置(型名5V/100MA)にセットし、正極22と負極21との間で0.63mA(200μA/cm2)の電流を流して放電電位が2.0V以下となるまで放電した。この放電試験は、25℃で行った。
【0025】
[実施例2]
電解液Bの電解液溶媒を、50体積%のイオン液体(N,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド,以下、DEME−TFSI)を含む混合溶媒とした以外は実施例1と同様に作製したリチウム空気電池を実施例2とした。実施例1と同様の条件で放電を行った。
【0026】
[実施例3]
電流密度を10μA/cm2として放電試験を実施したものを実施例3とした。
【0027】
[比較例1、2]
電解液Bの電解液溶媒をDEME−TFSIのみとした以外は実施例1と同様に作製したリチウム空気電池を比較例1とした。また、電解液Bの電解液溶媒をジメチルスルホキシド(以下、DMSO)のみとした以外は実施例1と同様に作製したリチウム空気電池を比較例2とした。比較例1、2についても、放電時の電流密度を10μA/cm2として放電試験を実施した。
【0028】
(結果と考察)
図2は、実施例1、2の放電試験における電圧と電池容量の変化を表すグラフである。図3は、実施例3及び比較例1、2の放電試験における電圧と電池容量の変化を表すグラフである。図2に示すように、実施例1、2では、200μA/cm2の電流密度において2.4mAh/cm2を超える高容量の放電が可能であることがわかった。これは、正極に結着材の不要な炭素繊維からなるカーボンペーパを用い、リチウムイオン伝導性と酸素溶解性が高いアセトニトリルを電解液溶媒に全量あるいは一部含むためであると考えられた。また、図3に示すように。比較例1では、電解液溶媒にDEME−TFSIのみを用いているため放電容量は0.002mAh/cm2とほとんど得られなかった。また、比較例2では、電子供与性の高いDMSOを使用しているため、非特許文献1に記載のとおり、比較例1と比べて高い放電容量が得られたが、実施例3と比較すると低い放電容量であった。このように、正極にカーボンペーパーを用い、正極側の非水電解液にアセトニトリルを含む実施例1〜3では、放電容量を高めることができることがわかった。特に、非特許文献1において放電容量が大きいDMSOでは本実施例では小さく、非特許文献1において放電容量が小さいアセトニトリルで本実施例は大きい結果となり、正極部材と電解液との特異な組み合わせがあることがわかった。
【0029】
この理由は以下のように推察された。例えば、一般に、リチウム空気電池の正極表面には、放電生成物であるLi22が膜状に析出する。例えば、非特許文献2の図1bでは、多孔質カーボンのカーボン粒子の表面を被覆する形態で放電生成物が析出している。これに対し、実施例1〜3では、結着材を含まない炭素材料、例えば、カーボンペーパーを正極とするが、ナノサイズの細孔を有していない。そして、この細孔を有さないカーボンペーパーの電極上に、放電生成物であるLi22が高次構造を形成して析出する。このような形状で析出することにより、電極の単位面積あたりに析出できる Li22量が増大し、高容量の放電容量が得られるものと推察された。また、非水電解液に含まれるアセトニトリルは、リチウムイオン伝導性および酸素溶解性が高い性質を有する。これによっても、放電容量がより向上するものと推察された。
【0030】
実施例1〜3では、放電容量をより高められることがわかったが、いずれも放電電圧が振動する現象が見られた。この放電電圧の振動現象は、以下に説明するような特徴的な析出形態により進行したと推察された。図4は、放電時の電位振動が起きるモデルを表す説明図である。このモデルでは、Li22のアモルファス相(a−Li22相)と結晶相(c−Li22相)とが順次堆積していくと推察した。まず、電極近傍で熱力学的安定相であるc−Li22が形成される。この相は、反応速度が遅く、また、電子伝導性が低いため放電電位が降下する(A)。次に、c−Li22の欠陥部に電流が集中し、ここを起点としてa−Li22相が形成される。この相は電子伝導性が高く、反応表面積が増大するため放電電位は上昇する(B)。続いて、a−Li22相の形成が進むと、反応活性部位の電流密度が低下し、拡散律速過程の進行が維持できなくなる(C)。このため、反応律速過程に転じてc−Li22相形成が始まる(D)。そして、上記A−B−C−D の過程が連続して起こることで放電電位が周期的に変化し、電極表面ではc−Li22相とa−Li22相との複合体が生じる。図5は、実施例1の放電終点の表面と未使用のカーボンペーパー表面のSEM写真である。上述したモデルでは、放電生成物のSEM像で見られた析出形態をうまく説明できるものと推察された。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、電池産業に利用可能である。
【符号の説明】
【0032】
20 リチウム空気電池、21 負極、22 正極、24 イオン伝導媒体、25 固体電解質層、26 非水電解液、28 ケーシング、31 押さえ部材、32 ガス溜め。
図1
図2
図3
図4
図5