特許第6711097号(P6711097)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6711097
(24)【登録日】2020年6月1日
(45)【発行日】2020年6月17日
(54)【発明の名称】レンズ鏡筒
(51)【国際特許分類】
   G02B 7/02 20060101AFI20200608BHJP
   G03B 17/56 20060101ALI20200608BHJP
【FI】
   G02B7/02 E
   G03B17/56 B
【請求項の数】7
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-81835(P2016-81835)
(22)【出願日】2016年4月15日
(65)【公開番号】特開2017-191275(P2017-191275A)
(43)【公開日】2017年10月19日
【審査請求日】2019年1月16日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 CP+(シーピープラス)2016 平成28年2月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000131326
【氏名又は名称】株式会社シグマ
(72)【発明者】
【氏名】田内 久真
(72)【発明者】
【氏名】並木 晴史
【審査官】 藏田 敦之
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−183217(JP,A)
【文献】 特開2000−227535(JP,A)
【文献】 特開2009−169184(JP,A)
【文献】 実開平05−084917(JP,U)
【文献】 特開2008−157912(JP,A)
【文献】 特開2013−240167(JP,A)
【文献】 特開昭60−130709(JP,A)
【文献】 特開平10−301012(JP,A)
【文献】 実開平07−036111(JP,U)
【文献】 実開昭60−181712(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 7/02 − 7/16
G03B 17/02
G03B 17/56 −17/58
H04N 5/222− 5/257
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定筒と
前記固定筒と異なる表面処理を施されクリック受け部を有するクリック受け筒と
前記固定筒の外周を回転摺動可能であり三脚座と前記クリック受け部に対して挿脱可能なクリック手段とを有する三脚座回転筒と
を有し、前記クリック受け筒は前記固定筒に固定されており、
前記三脚座回転筒は、前記クリック受け筒を覆いながら前記固定筒に接するよう配置されることを特徴としたレンズ鏡筒。
【請求項2】
前記表面処理は無電解ニッケル膜の付加処理であることを特徴とした請求項1に記載のレンズ鏡筒。
【請求項3】
前記クリック受け筒は長穴部に締結部材が挿入されることで前記固定筒に固定されていることを特徴とした請求項1乃至請求項2のいずれかに記載のレンズ鏡筒。
【請求項4】
前記クリック受け筒は光軸方向に前記締結部材を挿入することで前記固定筒と締結されることを特徴とした請求項3に記載のレンズ鏡筒。
【請求項5】
前記クリック受け筒は光軸と鉛直方向に前記締結部材を挿入することで前記固定筒と締結されることを特徴とした請求項3に記載のレンズ鏡筒。
【請求項6】
前記クリック手段は球状部材と前記球状部材を前記レンズ鏡筒の光軸と鉛直の方向へと付勢する付勢手段とを有することを特徴とした請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のレンズ鏡筒。
【請求項7】
前記クリック受け筒は前記レンズ鏡筒の物体側に面取り部を有することを特徴とした請求項1乃至請求項6のいずれかに記載のレンズ鏡筒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転摺動する三脚座を有するレンズ鏡筒に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、望遠系の交換レンズにはカメラボディとは別に三脚取付用の三脚座が付属されているものが多くある。
【0003】
三脚座はレンズ鏡筒の外観に光軸を中心とした回転可能なリングから突出する形で構成されており、該リングには回転を固定させるためのロック機構が設けられ、任意の位置で固定をし、撮影が行われる。
【0004】
また、該リングとレンズ鏡筒とにはクリック感を感じさせる機構が備わっており、指標を確認することなく所定の位置で固定をすることができる。
【0005】
リングから突出する形で三脚座が設けられたレンズ鏡筒として、例えば特許文献1が挙げられる。特許文献1に開示された発明によれば、レンズ鏡筒の外周に相対回動自在に、三脚取付部を有する三脚取付環を嵌めた三脚座において、クリック機構およびロック機構を有する簡単な構成の三脚座を得ることができる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開平4−130912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし特許文献1に記載の発明は、互いに金属材質である固定筒と三脚取付環とが特別に処置されることなく直接摺動するため、好適な摺動感が得られなかった。また、クリック感を生じさせるクリック部が挿脱するたびに摩耗し、削れていくため、摺動回数が増えるにつれてクリック感が悪化していく問題があった。また固定筒と三脚取付環との係合に調整機構が存在しないため、製造工程で角度バラツキが生じた場合、後から調整を行うことが不可能だった。
【0008】
上記課題から本発明は、表面処理の施されたクリック受け筒を固定筒に取り付けることで好適な摺動感を獲得し、更に固定筒と三脚取付筒との係合を調整可能なレンズ鏡筒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に示す発明は、固定筒と前記固定筒と異なる表面処理を施されクリック受け部を有するクリック受け筒と前記固定筒の外周を回転摺動可能であり三脚座と前記クリック受け部に対して挿脱可能なクリック手段とを有する三脚座回転筒とを有し、前記クリック受け筒は前記固定筒に固定されており、前記三脚座回転筒は、前記クリック受け筒を覆いながら前記固定筒に接するように配置されることを特徴としたレンズ鏡筒である。
【0010】
請求項2に示す発明は、前記表面処理は無電解ニッケル膜の付加処理であることを特徴とした請求項1に記載のレンズ鏡筒である。
【0011】
請求項3に示す発明は、前記クリック受け筒は長穴部に締結部材が挿入されることで前記固定筒に固定されていることを特徴とした請求項1乃至請求項2のいずれかに記載のレンズ鏡筒である。
【0012】
請求項4に示す発明は、前記クリック受け筒は光軸方向に前記締結部材を挿入することで前記固定筒と締結されることを特徴とした請求項3に記載のレンズ鏡筒である。
【0013】
請求項5に示す発明は、前記クリック受け筒は光軸と鉛直方向に前記締結部材を挿入することで前記固定筒と締結されることを特徴とした請求項3に記載のレンズ鏡筒である。
【0014】
請求項6に示す発明は、前記クリック手段は球状部材と前記球状部材を前記レンズ鏡筒の光軸と鉛直の方向へと付勢する付勢手段とを有することを特徴とした請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のレンズ鏡筒である。
【0015】
請求項7に示す発明は、前記クリック受け筒は前記レンズ鏡筒の物体側に面取り部を有することを特徴とした請求項1乃至請求項6のいずれかに記載のレンズ鏡筒。
【0016】
本発明によれば、表面処理の施されたクリック受け筒を固定筒に取り付けることで好適な摺動感を獲得し、更に固定筒と三脚取付筒とを調整可能なレンズ鏡筒を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施例を示したレンズ鏡筒における主要な構成部材の展開斜視図である。
図2】本発明の一実施例を示したレンズ鏡筒における主要な構成部材の断面図である。
図3】クリック受け筒を物体側から見た平面図である。
図4】クリック受け筒の断面図である。
図5】異なる形状のクリック受け筒の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付の図面に従って、本発明を実施するための最良の形態について説明する。なお、この実施の形態により本発明が限定されるものではない。
【0019】
図1は本発明の一実施例を示したレンズ鏡筒における主要な構成部材の展開斜視図である。また、図2は本発明の一実施例を示したレンズ鏡筒における主要な構成部材の断面図である。以下、図1図2を使用してレンズ鏡筒の部材について説明する。ここで、レンズ鏡筒は撮像装置に交換可能であり、その中心に光軸を持つ。また本明細書ではマウント部の存在する側を撮像装置側、その反対側を物体側と呼称することとする。
【0020】
10はレンズ鏡筒における固定筒であり、内部には不図示の光学素子等を備えている。
【0021】
クリック受け筒20は、表面処理を施された円筒部材であり、その外周上に等間隔に配置されたクリック受け部24を4箇所備え、また、内周部に締結用長穴22を3箇所備えている。また、クリック受け筒20は締結用長穴22に締結ビス等である締結部材26が挿入され、固定筒10に固定されている。
【0022】
三脚取付筒30はレンズ鏡筒の光軸を中心に相対回動可能な円筒部材である。ロック機構32は三脚取付筒の摺動状態を切り替えるために設けられた部材であり、締め込みによって三脚取付筒30を摺動不可状態で固定する。クリックボール34は付勢バネ36によって光軸と鉛直の方向に付勢されることで常にクリック受け筒20と点接触しており、またクリック受け筒20のクリック受け部24と挿脱することでクリック感を生み出すクリック機構を形成している。また三脚取付筒30は、固定筒10に固定されたクリック受け筒20を撮像装置側から覆いかぶせるようにして、固定筒10と着接している。
【0023】
後部部材40はマウント部42を有する部材であり、三脚取付筒30と着接し、不図示の締結部材によって固定筒10に固定されている。なお、図2において後部部材40はその一部を省略されて描写されている。
【0024】
図3はクリック受け筒20を物体側から見た平面図である。以下、図3を用いてクリック受け筒20を設けることによる効果について説明する。
【0025】
クリック受け筒20はその外周を三脚取付筒30のクリックボール34が摺動するため、三脚取付筒30の摺動感の根本となる部材である。従来のレンズ鏡筒ではクリックボールは付勢バネによって光軸に鉛直な方向へ付勢されながら固定筒に直接摺動しており、その両者がアルミ、マグネシウム、ステンレス等の金属材質であることから、摺動感に問題があった。
【0026】
出願人は鋭意研究の末、無電解ニッケルメッキをクリックボール34が摺動する部位に施すことで、好適な摺動感を得られることを発見した。しかし無電解ニッケルメッキの付加は硬度を保ちつつ膜厚を安定させることが困難なため、固定筒のようなレンズの位置精度に関わる高い寸法精度が要求される部材に対して行うのは不適切である。また、無電解ニッケルメッキは素材をメッキ液に浸漬することで付加されるので、所定の部分のみを表面処理することが困難である。従って、本出願では固定筒10全体に表面処理を施すのではなく、新たにクリック受け筒20を設け、クリック受け筒20のみに表面処理を施すこととした。なお、無電解ニッケルメッキの付加方法については公知の技術であるため、詳細な説明は省略する。
【0027】
このように無電解ニッケルメッキによる表面処理を行うことで三脚取付筒30の摺動性を向上させることができる。また表面硬度が向上するため、クリックボール34の挿脱による摩耗を原因とする、クリック受け部24の削れを抑制することができる。
【0028】
また、クリック受け筒20を設けることで、表面処理を行う部材を小型化し、処理難度を低下させることができる。同時に、表面処理を行う面積が減少するため、表面処理に必要なコストを低減することができる。また、クリック受け筒は、同径で形状の異なる固定筒を持つ他の種類のレンズ鏡筒にも同様に使用すること出来る。つまり、異なるレンズ鏡筒同士の共通部材とできるので、製造コストを低減することができる。
【0029】
図3で示されるようにクリック受け筒20は内周部に締結用長穴22を3箇所備えている。締結用長穴22は、クリック受け筒20を固定筒10に固定するための締結部材26について規制するために設けられている。このような長穴の規制部を用いることで、固定筒10と三脚取付筒30の角度方向の製造バラツキを調整することが可能となる。
【0030】
例えば固定筒10と三脚取付筒30とにそれぞれ指標を設け、所定のクリック受け部24にクリックボール34が挿入されていれば互いの指標同士が合致するように調整し、締結部材26で固定する工程を考える。もし固定筒10に直接クリック受け部24を設けていれば、指標が製造エラーによりずれていた場合、部材製造後に修正することができず、固定筒10もしくは三脚取付筒30を同部材と交換しなければならない。
【0031】
しかし締結用長穴22の設けられたクリック受け筒20が存在すると、規制範囲内であれば、締結部材26を緩め、角度方向の微調整をし、再度締結をすることで部材製造後の調整が可能となる。
【0032】
図4はクリック受け筒20の断面図である。クリック受け筒20は物体側に内周部のエッジを落とす形で面取り部28を持つ。このような構造にすることで、クリック受け筒20を固定筒10へ撮像装置側から嵌装させる組み立て工程を容易なものとしている。
【0033】
本実施例ではクリック受け筒の形状を図3図4のようにしたが、異なる形状としてもよい。図5は異なる形状のクリック受け筒を示した斜視図である。
【0034】
クリック受け筒50は、表面処理を施された円筒部材であり、その外周上に等間隔に配置されたクリック受け部54を4箇所備え、また、外周上に締結用長穴52を4箇所備えている。また、クリック受け筒50は締結用長穴52に締結部材が挿入され、固定筒に固定される
【0035】
また、締結用長穴52は長穴形状であり、クリック受け筒20と同様に部品製造後の調整が可能である。
【0036】
クリック受け筒50は、締結部材を外周上から光軸に鉛直な方向に向かって締結することで固定筒に固定されている。このような構成はクリック受け筒20と比べ簡易な構造となることから、製造難度が下がり、加工コストを低減することができる。
【0037】
ただしクリック受け筒50は外周上に円形の穴を穿つ必要があるので、強度を増すためにクリック筒20と比べ筒の光軸方向の全長を増大させる必要がある。また、クリック受け部の円周上をクリックボールが摺動することから、光軸方向においてクリック受け部と締結用長穴とは重ならないよう配置される必要がある。実施者はこのような特徴から、必要とされる形態を選択し実施すればよい。
【0038】
即ち本発明は、表面処理の施されたクリック受け筒を固定筒に取り付けることで好適な摺動感を獲得し、更に固定筒と三脚取付筒との係合を調整可能なレンズ鏡筒を提供するという目的を、特に固定筒10と前記固定筒10と異なる表面処理を施されクリック受け部24を有するクリック受け筒20と前記レンズ鏡筒の外周を回転摺動可能であり三脚座と前記クリック受け部24に対して挿脱可能なクリック手段とを有する三脚座回転筒30とを有し、前記クリック受け筒20は前記固定筒10に固定されているという構成により実現した。
【符号の説明】
【0039】
10 固定筒
20 クリック受け筒
22 締結用長穴
24 クリック受け部
26 締結部材
28 面取り部
30 三脚取付筒
32 ロック機構
34 クリックボール
36 付勢バネ
40 後部部材
42 マウント部
50 クリック受け筒
52 締結用長穴
54 クリック受け部
図1
図2
図3
図4
図5