特許第6711124号(P6711124)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6711124
(24)【登録日】2020年6月1日
(45)【発行日】2020年6月17日
(54)【発明の名称】消費エネルギー計算装置及び活動量計
(51)【国際特許分類】
   G16H 50/30 20180101AFI20200608BHJP
【FI】
   G16H50/30
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-96243(P2016-96243)
(22)【出願日】2016年5月12日
(65)【公開番号】特開2017-204184(P2017-204184A)
(43)【公開日】2017年11月16日
【審査請求日】2019年4月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】503246015
【氏名又は名称】オムロンヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085006
【弁理士】
【氏名又は名称】世良 和信
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(74)【代理人】
【識別番号】100096873
【弁理士】
【氏名又は名称】金井 廣泰
(74)【代理人】
【識別番号】100123319
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 武彦
(74)【代理人】
【識別番号】100125357
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100123098
【弁理士】
【氏名又は名称】今堀 克彦
(74)【代理人】
【識別番号】100138357
【弁理士】
【氏名又は名称】矢澤 広伸
(72)【発明者】
【氏名】朝田 雄司
【審査官】 松田 岳士
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−031569(JP,A)
【文献】 特開平11−004820(JP,A)
【文献】 特表2012−521584(JP,A)
【文献】 特開2011−107768(JP,A)
【文献】 特開2001−327472(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/038959(WO,A1)
【文献】 特開2007−282657(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 50/22
G16H 10/00−80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザが行った身体活動の情報を取得する活動情報取得部と、
前記ユーザが摂取した食事の時間に関する情報を取得する食事情報取得部と、
前記身体活動の情報を用いて活動代謝量を計算し、前記ユーザの基礎代謝量及び前記食事の時間に関する情報を用いて食事誘発性熱産生を計算し、前記基礎代謝量と前記活動代謝量と前記食事誘発性熱産生とから、前記ユーザが1日に消費した総消費エネルギーを計算する消費エネルギー計算部と、
を有することを特徴とする消費エネルギー計算装置。
【請求項2】
前記消費エネルギー計算部は、前記食事の時間に関する情報に基づいて前記ユーザの摂食行動が適切であるか否かを判定し、前記ユーザの摂食行動が適切でない場合の食事誘発性熱産生の値を前記ユーザの摂食行動が適切である場合の食事誘発性熱産生の値よりも小さくする
ことを特徴とする請求項に記載の消費エネルギー計算装置。
【請求項3】
前記ユーザの体重が重いほど、前記ユーザの摂食行動が適切でない場合の食事誘発性熱産生の値と前記ユーザの摂食行動が適切である場合の食事誘発性熱産生の値との差が大きい
ことを特徴とする請求項に記載の消費エネルギー計算装置。
【請求項4】
前記食事の時間に関する情報は、前記ユーザが食事にかけた時間の長さの情報を含み、
前記消費エネルギー計算部は、前記食事の時間に関する情報に基づいて前記食事にかけた時間が所定の長さより短いか否かを判定し、前記食事にかけた時間が前記所定の長さよりも短い場合に、前記食事にかけた時間が前記所定の長さより長い場合に比べて、食事誘発性熱産生の値を小さくする
ことを特徴とする請求項のうちいずれか1項に記載の消費エネルギー計算装置。
【請求項5】
前記食事の時間に関する情報は、前記ユーザが食事を摂取した時刻の情報を含み、
前記消費エネルギー計算部は、前記食事の時間に関する情報に基づいて前記食事を摂取した時刻が所定の時間帯から外れているか否かを判定し、前記食事を摂取した時刻が前記所定の時間帯から外れている場合に、前記食事を摂取した時刻が前記所定の時間帯に含ま
れている場合に比べて、食事誘発性熱産生の値を小さくする
ことを特徴とする請求項のうちいずれか1項に記載の消費エネルギー計算装置。
【請求項6】
前記食事の時間に関する情報は、前記ユーザが食事を摂取した時刻の情報を含み、
前記消費エネルギー計算部は、前記身体活動の情報と前記食事の時間に関する情報とに基づいて、前記食事を摂取した時刻よりも前の所定の時間内に前記ユーザが運動を行っていたか否かを判定し、前記所定の時間内に前記ユーザが運動を行っていた場合に、前記所定の時間内に前記ユーザが運動を行っていない場合に比べて、食事誘発性熱産生の値を大きくする
ことを特徴とする請求項のうちいずれか1項に記載の消費エネルギー計算装置。
【請求項7】
加速度センサと、
請求項1〜のうちいずれか1項に記載の消費エネルギー計算装置と、を有し、
前記消費エネルギー計算装置の活動情報取得部は、前記加速度センサの出力に基づいてユーザが行った身体活動の情報を取得するものである
ことを特徴とする活動量計。
【請求項8】
コンピュータを、請求項1〜のうちいずれか1項に記載の消費エネルギー計算装置の活動情報取得部、食事情報取得部、及び消費エネルギー計算部として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユーザの消費エネルギーを計算する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
加速度センサにより体動を検知し、運動量や消費エネルギー量を計算し記録する装置が実用化されている。この種の装置は歩数計や活動量計などと呼ばれる(本明細書では「活動量計」と総称する)。
【0003】
人が1日に消費するエネルギー量は、主に、基礎代謝量、活動代謝量、食事誘導性熱産生の3つに大別される。基礎代謝量(BM:Basal Metabolic)とは、体温維持や呼吸な
どの生命活動の維持のために消費されるエネルギーのことであり、活動代謝量とは、生活行動や運動などの身体活動により消費されるエネルギーのことである。また、食事誘導性熱産生(DIT:Diet Induced Thermogenesis)とは、食事を摂取した後の消化、吸収活動により消費されるエネルギーをいう。
【0004】
従来の活動量計では、ユーザの年齢、性別、身長、体重などの情報から基礎代謝量を推定し、加速度センサで検知した身体活動の情報から活動代謝量を推定する方法が広く用いられている。一方、食事誘導性熱産生については、基礎代謝量、又は、基礎代謝量と活動代謝量の合計値から推定する方法が一般的である。例えば特許文献1では、基礎代謝量と活動代謝量の合計値に係数0.11を乗じることで、食事誘導性熱産生によるエネルギー量を求めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−85643号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、最近の研究により、食事の摂り方(摂食行動)が食事誘導性熱産生に影響を与え得ることが分かってきた。具体的には、急いで食べるよりもゆっくりとよく咀嚼して食べる方が食事誘導性熱産生が増加するという報告や、朝昼晩の3食を適切な時間に摂る方が食事誘導性熱産生が増加するという報告がある。また、食事を摂る前に適度な運動を行うと、食事誘導性熱産生が増加するという報告もある。
【0007】
しかしながら従来の活動量計では、上述したような摂食行動が食事誘導性熱産生に与える影響を一切考慮していなかったため、算出される総消費エネルギー量が実際に消費されたエネルギー量よりも大きく、又は、小さく見積もられてしまう可能性があった。また、ユーザ自身が食習慣を改善しようとしたり、保健指導などで食習慣の改善を勧められたとしても、従来は、食習慣の改善による効果(消費エネルギー量の増加)を確認する手段がなかったため、ユーザのモチベーションの維持・向上が困難であった。
【0008】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、ユーザの食事の摂り方を考慮してユーザの消費エネルギーを精度良く算出可能な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明は、以下の構成を採用する。
【0010】
本発明に係る消費エネルギー計算装置は、ユーザが行った身体活動の情報を取得する活動情報取得部と、前記ユーザが摂取した食事の時間に関する情報を取得する食事情報取得部と、少なくとも前記身体活動の情報と前記食事の時間に関する情報とを用いて、前記ユーザが1日に消費した総消費エネルギーを計算する消費エネルギー計算部と、を有することを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、ユーザが摂取した食事の時間に関する情報を用いて、ユーザの食事の摂り方(摂食行動)を考慮した総消費エネルギーの計算を行うことができるため、従来に比べて総消費エネルギーを精度良く算出することが可能となる。
【0012】
前記消費エネルギー計算部は、前記ユーザの基礎代謝量と、前記身体活動の情報を用いて計算される活動代謝量と、前記食事の時間に関する情報を用いて計算される食事誘発性熱産生とから、前記ユーザの総消費エネルギーを計算するとよい。
【0013】
人の総消費エネルギーは主に基礎代謝量と活動代謝量と食事誘発性熱産生の3つから構成され、このうち、活動代謝量は身体活動に依存し、食事誘発性熱産生は食事の摂り方(摂食行動)に依存して増減し得る。したがって、身体活動の情報を用いて活動代謝量を計算し、食事の時間に関する情報を用いて食事誘発性熱産生を計算することで、ユーザが実際に消費したエネルギー量を精度良く算出することが可能となる。
【0014】
前記消費エネルギー計算部は、前記食事の時間に関する情報に基づいて前記ユーザの摂食行動が適切であるか否かを判定し、前記ユーザの摂食行動が適切でない場合の食事誘発性熱産生の値を前記ユーザの摂食行動が適切である場合の食事誘発性熱産生の値よりも小さくするとよい。
【0015】
このように食事の摂り方(摂食行動)が食事誘発性熱産生に与える影響を見積もることにより、ユーザの総消費エネルギーを精度良く算出することができる。本発明において、「食事の摂り方(摂食行動)」とは、ユーザが食事を摂取したときの状況ないし条件のうち、特に時間的な状況ないし条件に関するものをいう。例えば、食事にかけた時間(食事の開始から終了までの時間長さ)、食事を摂取した時刻、食事と運動のタイミングなどが挙げられる。
【0016】
前記ユーザの体重が重いほど、前記ユーザの摂食行動が適切でない場合の食事誘発性熱産生の値と前記ユーザの摂食行動が適切である場合の食事誘発性熱産生の値との差が大きいとよい。体重が重いほど食事誘発性熱産生は大きいと考えられるため、摂食行動が適切でない場合の食事誘発性熱産生の影響の大きさ(低下度合)は体重が重いほど顕著になると考えられるからである。
【0017】
前記食事の時間に関する情報は、前記ユーザが食事にかけた時間の長さの情報を含み、前記消費エネルギー計算部は、前記食事の時間に関する情報に基づいて前記食事にかけた時間が所定の長さより短いか否かを判定し、前記食事にかけた時間が前記所定の長さよりも短い場合に、前記食事にかけた時間が前記所定の長さより長い場合に比べて、食事誘発性熱産生の値を小さくするとよい。
【0018】
同じ内容の食事であっても、食事にかけた時間の長さが異なると食事誘発性熱産生による消費エネルギーが異なる。例えば、急いで食べた時よりも、ゆっくり食べた時の方が、食事誘発性熱産生が増加するという報告もある。これは、ゆっくり食べた時の方が咀嚼が多くなり、消化・吸収活動が増加するためと考えられる。本発明によれば、食事にかけた時間が長いかどうかを評価することで、その食事による食事誘発性熱産生を従来よりも精
度良く推定することが可能となる。
【0019】
前記食事の時間に関する情報は、前記ユーザが食事を摂取した時刻の情報を含み、前記消費エネルギー計算部は、前記食事の時間に関する情報に基づいて前記食事を摂取した時刻が所定の時間帯から外れているか否かを判定し、前記食事を摂取した時刻が前記所定の時間帯から外れている場合に、前記食事を摂取した時刻が前記所定の時間帯に含まれている場合に比べて、食事誘発性熱産生の値を小さくするとよい。
【0020】
同じ内容の食事であっても、食事を摂取する時刻が異なると食事誘発性熱産生による消費エネルギーが異なる。例えば、朝昼晩の食事を標準的な時間帯に摂る生活習慣の人と、朝を抜いて夜食を摂る夜型の生活習慣の人とを比べると、前者に比べて後者の方が食事誘発性熱産生が減少するという報告もある。本発明によれば、食事を摂取した時刻が適切かどうかを評価することで、その食事による食事誘発性熱産生を従来よりも精度良く推定することが可能となる。
【0021】
前記食事の時間に関する情報は、前記ユーザが食事を摂取した時刻の情報を含み、前記消費エネルギー計算部は、前記身体活動の情報と前記食事の時間に関する情報とに基づいて、前記食事を摂取した時刻よりも前の所定の時間内に前記ユーザが運動を行っていたか否かを判定し、前記所定の時間内に前記ユーザが運動を行っていた場合に、前記所定の時間内に前記ユーザが運動を行っていない場合に比べて、食事誘発性熱産生の値を大きくするとよい。
【0022】
同じ内容の食事であっても、食事前に運動を行うと食事誘発性熱産生が増加する。例えば、食事前の20〜30分前に適度な運動を行うことを推奨する報告もある。本発明によれば、身体活動の情報を参照することで食事前に運動を行っていたかどうかを評価することで、その食事による食事誘発性熱産生を従来よりも精度良く推定することが可能となる。
【0023】
なお、本発明は、上記構成ないし機能の少なくとも一部を有する消費エネルギー計算装置として捉えることができる。また、本発明は、加速度センサと消費エネルギー計算装置を備える活動量計として捉えることもできる。また、本発明は、上記処理の少なくとも一部を含む消費エネルギー計算方法として捉えることもできる。また、本発明は、コンピュータ(プロセッサ)を消費エネルギー計算装置の各構成として機能させるためのプログラム、又は、コンピュータ(プロセッサ)に消費エネルギー計算方法の各ステップを実行させるためのプログラム、又は、そのようなプログラムを非一時的に記録したコンピュータ読取可能な記録媒体として捉えることもできる。上記構成及び処理の各々は技術的な矛盾が生じない限り互いに組み合わせて本発明を構成することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、ユーザの食事の摂り方を考慮してユーザの消費エネルギーを精度良く算出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、活動量計の内部構成を示すブロック図である。
図2図2は、消費エネルギー計算装置の機能構成を示すブロック図である。
図3図3は、DIT補正を導入した消費エネルギーの計算方法のメインフローである。
図4図4は、食事速度を考慮したDIT補正のフローである。
図5図5は、食事時刻を考慮したDIT補正のフローである。
図6図6は、食事前運動を考慮したDIT補正のフローである。
図7図7は、消費エネルギー計算装置の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に図面を参照しつつ、本発明の好適な実施の形態を説明する。ただし、以下に記載されている各構成の説明は、発明が適用される装置の構成や各種条件により適宜変更されるべきものであり、この発明の範囲を以下の記載に限定する趣旨のものではない。
【0027】
<第1実施形態>
(活動量計の構成)
図1は、活動量計の内部構成を示すブロック図である。活動量計1は、ユーザの運動量や消費エネルギー量を計算し記録する装置であり、制御部10、操作部11、I/F(Interface)12、加速度センサ13、メモリ14、表示部15、電源16などを備えている。
【0028】
制御部10は、CPU、MPU、又は、FPGAなどのプロセッサにより構成される演算処理回路であり、メモリ14又は制御部10内のメモリに格納されたプログラムに従って、活動量計1の各部の制御、体動の検知、身体活動の種類判別、運動量や運動強度の算出・記録、食事情報の記録、消費エネルギー(消費カロリー)の算出・記録、各種情報の表示、操作部11やI/F12を介した情報の入出力などを実行する機能を担う。制御部10の機能の詳細については後述する。
【0029】
操作部11は、ユーザが活動量計1の電源投入、各種操作、情報入力などを行うための入力インターフェースであり、例えばボタンスイッチやタッチパネルなどで構成される。ユーザの登録、ユーザ情報(性別、年齢などの属性情報、身長、体重などの体格情報を含む)の入力、食事情報の入力などの操作も操作部11により行う。I/F12は、体組成計、パーソナル・コンピュータ、スマートフォンなどの外部機器と無線通信又は有線通信でデータを送受信するための外部インターフェイスである。メモリ14は、歩数、運動量、運動強度、食事情報、消費エネルギーなどの記録、ユーザ情報、プログラム及びプログラムが利用する各種データを記憶する不揮発性の記憶手段である。表示部15は、LCD(液晶ディスプレイ)などで構成される表示手段であり、運動量、運動強度、消費エネルギーなどの情報を出力したり、ユーザ情報や食事情報の入力画面を表示可能である。
【0030】
加速度センサ13は、体動を検知するための検知手段である。1軸の加速度センサを用いてもよいし、多軸の加速度センサを用いてもよい。加速度センサ13としては、静電容量型センサ、圧電型センサなど、どのような原理のセンサでも利用可能である。
【0031】
加速度センサ13から出力される生の信号には、重力加速度(静的加速度)の変動に対応する低周波成分が含まれている。そこで、ハイパスフィルタを用いて低周波成分を除去し、体動(歩行や走行)による動的加速度の成分のみを取り出すとよい。このような出力信号を用いることにより、体動の正確な判別と、運動量や運動強度の正確な算出が可能となる。なお、動的加速度の変化のみを検出するタイプのセンサを用いた場合には、上述したハイパスフィルタのような構成は不要である。
【0032】
活動量計1は単体のデバイスで構成することもできるし、他の情報デバイス(例えばスマートフォン、スマートウォッチ、ライフロガーなど)の一機能として実装することもできる。活動量計1の外観はユーザによる携帯が容易であればどのような形態でもよい。例えば、ポケットやバッグの中に入れるタイプ、クリップで衣服に留めるタイプ、腕時計タイプ、メガネタイプなどを例示できる。
【0033】
(機能構成)
図2は、消費エネルギー計算装置の機能構成を示すブロック図である。消費エネルギー計算装置は、主な機能として、活動情報取得部20、食事情報取得部21、及び、消費エネルギー計算部22を有する。本実施形態では、制御部10がプログラムを実行し、活動量計1の各部と協働することにより、消費エネルギー計算装置の各機能が実現される。
【0034】
活動情報取得部20は、加速度センサ13の出力に基づいて、ユーザが行った身体活動の情報を取得する機能である。例えば、活動情報取得部20は、加速度センサ13の出力データに基づき所定の単位期間ごと(例えば数秒から数十秒ごと)の動的加速度の代表値(平均、平均偏差、最大値、中間値など)を計算し、関数又はルックアップテーブル(LUT)などを用いて加速度の値を運動強度(METs)に換算する。活動情報取得部20によって計算された単位期間ごとの運動強度のデータは、日時情報とともに、メモリ14に記録される。なお、関数やLUTは被検者実験などのデータを用いて予め設計されるものである。ユーザの属性や体格に応じて、計算に用いる関数やLUTを変更したり、補正を加えてもよい。
【0035】
食事情報取得部21は、ユーザが摂取した食事の時間に関する情報(食事情報と呼ぶ)を取得する機能である。食事情報としては、食事にかけた時間の長さの情報、食事を摂取した時刻の情報などを取得するとよい。本実施形態の食事情報取得部21は、例えば、表示部15に「食事を摂った時刻を入力してください」「食事にかけた時間を入力してください」のような入力ガイドを表示し、操作部11を介してユーザから食事情報の入力を受け付ける。入力された食事情報は、メモリ14に記録される。
【0036】
なお、食事情報の取得方法はここで述べた方法に限らず、どのような方法を用いてもよい。例えば、食事の開始時と終了時にそれぞれ操作部11のボタンを押下させることで食事時刻と食事にかけた時間を記録してもよいし、音声入力や他のセンサを利用して食事の開始や終了を自動検知してもよい。センサで自動検知する方法としては、例えば、手首に装着した加速度センサにより手の動き(テーブルと口の間の往復動作)を検知することで食事中か否かを検知する方法、側頭部に装着した筋電センサにより咀嚼による電位変動を検知する方法、耳に装着したセンサにより咀嚼による外耳形状の変化を検知する方法などが考えられる。
【0037】
消費エネルギー計算部22は、ユーザが1日に消費した総消費エネルギー(総消費カロリー)を計算する機能である。本実施形態の消費エネルギー計算部22は、式(1)を用いて、基礎代謝量BM、活動代謝量AM、食事誘発性熱産生DITの3つを合計することにより、総消費エネルギーTE[kcal]を求める。

TE=BM+AM+DIT 式(1)
【0038】
消費エネルギー計算部22は、ユーザの年齢、性別、身長、体重などの情報に基づき基礎代謝量BMを推定する。基礎代謝量の推定式については、公知の方法を用いることができるので、詳しい説明は割愛する。また、消費エネルギー計算部22は、メモリ14に記録された身体活動の情報(運動強度のデータ)に基づき活動代謝量AMを推定する。活動代謝量の推定式についても、公知の方法を用いることができるので、ここでは詳しい説明は割愛する。
【0039】
食事誘発性熱産生DITは、一般的に、基礎代謝量の10〜20%といわれている。そこで、消費エネルギー計算部22は、式(2)のように、ユーザ情報から推定した基礎代謝量BMに対し所定の係数c(本実施形態では0.1)を乗じることで、食事誘発性熱産生DITを計算する。

DIT=c×BM 式(2)
【0040】
ただし、式(2)は、ユーザがゆっくりとよく咀嚼して食べた場合を想定したときの推定式であり、ユーザが急いで食べた場合は式(2)ではDITの推定誤差が大きくなる。そこで、本実施形態の消費エネルギー計算部22は、食事情報に基づいてユーザの摂食行動(ここでは食事速度)が適切であるか否かを判定し、摂食行動が適切でない場合(食事にかけた時間が短かすぎる場合)のDITの値を摂食行動が適切である場合(食事に十分な時間をかけた場合)のDITの値よりも小さくするように、DITの補正を行う。以下、詳しく説明する。
【0041】
(食事速度を考慮した消費エネルギーの計算方法)
図3は、DIT補正を導入した消費エネルギーの計算方法の一例を示すフローチャートである。図3の処理は、1日(24時間)に1回、所定の時刻にバッチ的に実行される処理である。
【0042】
まず、消費エネルギー計算部22は、ユーザ情報を用いて1日分の基礎代謝量BMを計算するとともに(ステップS30)、1日分の身体活動の情報を用いて活動代謝量AMを計算する(ステップS31)。また、消費エネルギー計算部22は、ステップS30で求めた基礎代謝量BMと式(2)から、食事誘発性熱産生DITのデフォルト値を計算する(ステップS32)。次に、消費エネルギー計算部22は、食事情報に基づいて食事速度を考慮したDITの補正を行う(ステップS33)。詳しい処理内容は図4で説明する。その後、消費エネルギー計算部22は、基礎代謝量BM、活動代謝量AM、食事誘発性熱産生DITと式(1)から、当該ユーザが1日に消費した総消費エネルギーTEを計算する(ステップS34)。
【0043】
図4に、ステップS33における食事速度を考慮したDIT補正の詳細を示す。消費エネルギー計算部22は、メモリ14に記録された食事情報を参照し、朝食の開始から終了までの時間が所定の長さ(本実施形態では閾値を20分に設定)より短いか否かを評価する(ステップS400)。朝食に20分以上かけていた場合は摂食タイプが「Slow」である(つまり適切である)と判定し(ステップS401)、DITの補正を行わない(ステップS402)。この場合、DITは式(2)で求めたデフォルト値のままである。一方、朝食にかけた時間が20分より短い場合は摂食タイプが「Fast」である(つまり適切でない)と判定し(ステップS403)、DITの値を小さくする補正を行う(ステップS404)。本実施形態では、式(3)に示すように、DITの値から、体重1kg当たり0.173kcalのエネルギーを減じる。なお、演算記号「←」は代入を表している。

補正後のDIT←DIT−0.173[kcal]×体重[kg] 式(3)
【0044】
同様に、消費エネルギー計算部22は、昼食にかけた時間を評価し(ステップS410)。昼食に20分以上かけていた場合はDITの補正を行わず(ステップS411、S412)、昼食にかけた時間が20分より短い場合は式(3)によりDITを補正する(ステップS413、S414)。また同様に、消費エネルギー計算部22は、夕食にかけた時間を評価し(ステップS420)。夕食に20分以上かけていた場合はDITの補正を行わず(ステップS421、S422)、夕食にかけた時間が20分より短い場合は式(3)によりDITを補正する(ステップS423、S424)。
【0045】
以上の処理を経たDITの値が、図3のステップS34における総消費エネルギーの計算に用いられる。本実施形態によれば、ユーザが食事にかけた時間が長いかどうかを評価し、必要な場合に食事誘発性熱産生DITの値を補正するので、ユーザの総消費エネルギーを従来よりも精度良く推定することが可能となる。
【0046】
なお、本実施形態で述べた処理フロー、演算式、係数や閾値は一例であり、装置構成などに合わせて適宜変更してもよい。例えば、図3及び図4にはバッチ処理の例を示したが、食事が行われる毎にリアルタイムにDITや消費エネルギーの計算処理を行ってもよい。また、食事にかけた時間を評価する閾値は20分でなくてもよく、朝食、昼食、夕食で閾値を異ならせてもよい。また、本実施形態ではSlowとFastの二段階で評価したが、三段階以上で評価してもよい。また、式(3)以外の補正式によりDITを補正してもよい。例えば、ユーザの体重を考慮せずに、補正前のDITから一定値又は一定の割合を減じてもよい。
【0047】
<第2実施形態>
同じ内容の食事であっても、食事を摂取する時刻(食事時刻)が異なると食事誘発性熱産生による消費エネルギーが異なる。例えば、朝昼晩の食事を標準的な時間帯に摂る食習慣の人と、朝を抜いて夜食を摂る夜型の食習慣の人とを比べると、前者に比べて後者の方が食事誘発性熱産生が減少するという報告もある。そこで本実施形態では、食事情報に基づいてユーザの食事時刻が適切であるか否かを評価し、食事時刻が適切でない場合のDITの値を食事時刻が適切である場合のDITの値よりも小さくするように、DITの補正を行う。
【0048】
(食事時刻を考慮した消費エネルギーの計算方法)
図5を参照して、本実施形態の特徴である、食事時刻を考慮したDIT補正処理について説明する。活動量計の構成(図1図2)及び消費エネルギーの計算方法のメインフロー(図3)については第1実施形態のものと同様であるため、説明を割愛する。
【0049】
消費エネルギー計算部22は、メモリ14に記録された1日分(過去24時間分)の食事情報を参照し、05:00〜09:00の間に食事を摂取した記録があるか(ステップS500)、11:00〜15:00の間に食事を摂取した記録があるか(ステップS501)、17:00〜20:00の間に食事を摂取した記録があるか(ステップS502)を評価する。ステップS500〜S502の全てが肯定判定の場合はユーザの摂食タイプが「朝型」であると判定し(ステップS503)、DITの補正を行わない(ステップS504)。朝型とは、朝昼晩の3食を適切な時間帯に規則正しく摂る食習慣である。
【0050】
一方、ステップS500〜S502のいずれかで否定判定があった場合はユーザの摂食タイプが「夜型」であると判定し(ステップS505)、DITの値を小さくする補正を行う(ステップS506)。夜型とは、朝昼晩の3食を適切な時間帯に摂らない食習慣である。例えば、朝食を抜いたり、遅い時間に夕食を摂ったり、夜食を食べたりした場合は、夜型に分類される。本実施形態では、式(4)に示すように、DITの値から、体重1kg当たり0.224kcalのエネルギーを減じる補正を行う。

補正後のDIT←DIT−0.224[kcal]×体重[kg] 式(4)
【0051】
以上の処理を経たDITの値が、図3のステップS34における総消費エネルギーの計算に用いられる。本実施形態によれば、ユーザが食事を摂取した時刻が適切かどうかを評価し、必要な場合に食事誘発性熱産生DITの値を補正するので、ユーザの総消費エネルギーを従来よりも精度良く推定することが可能となる。
【0052】
なお、本実施形態で述べた処理フロー、演算式、係数や閾値は一例であり、装置構成などに合わせて適宜変更してもよい。例えば、図5にはバッチ処理の例を示したが、食事が行われる毎にリアルタイムにDITや消費エネルギーの計算処理を行ってもよい。朝昼晩それぞれの時間帯については、図5に示した例に限らず、適宜変更してもよい。また、朝食と昼食の間隔、昼食と夕食の間隔などを評価に加えてもよい。また、式(4)以外の補正式によりDITを補正してもよい。例えば、ユーザの体重を考慮せずに、補正前のDITから一定値又は一定の割合を減じてもよい。
【0053】
<第3実施形態>
同じ内容の食事であっても、食事前に運動を行うと食事誘発性熱産生が増加する。例えば、食事前の20〜30分前に適度な運動を行うことを推奨する報告もある。そこで本実施形態では、身体活動の情報と食事情報を参照することで食事前に運動を行っていたかどうかを評価し、食事前に適切な運動を行っていた場合のDITの値を運動を行っていない場合のDITの値よりも大きくするように、DITの補正を行う。
【0054】
(食事前運動を考慮した消費エネルギーの計算方法)
図6を参照して、本実施形態の特徴である、食事前運動を考慮したDIT補正処理について説明する。活動量計の構成(図1図2)及び消費エネルギーの計算方法のメインフロー(図3)については第1実施形態のものと同様であるため、説明を割愛する。
【0055】
まず、消費エネルギー計算部22は、メモリ14に記録された食事情報と運動強度の情報を参照し、食事前の所定の時間内に運動を行っていたか否かを判定する(ステップS600)。本実施形態では、食事を摂取した時刻の20分前〜30分前の間に3METs以上の運動強度の身体活動が記録されていた場合に(ステップS600のYES)、ユーザの摂食タイプが「Active(食事前運動あり)」であると判定し(ステップS601)、DITの値を大きくする補正を行う(ステップS602)。本実施形態では、式(5)に示すように、DITの値に、体重1kg当たり0.2kcalのエネルギーを加算する補正を行う。

補正後のDIT←DIT+0.2[kcal]×体重[kg] 式(5)
【0056】
一方、食事を摂取した時刻の20分前〜30分前の間に3METs以上の運動強度の身体活動が記録されていなかった場合には(ステップS600のNO)、ユーザの摂食タイプが「Rest(食事前運動なし)」であると判定し(ステップS603)、DITの補正を行わない(ステップS604)。
【0057】
以上の処理を経たDITの値が、図3のステップS34における総消費エネルギーの計算に用いられる。本実施形態によれば、ユーザが食事前に適切な運動を行ったかどうかを評価し、必要な場合に食事誘発性熱産生DITの値を補正するので、ユーザの総消費エネルギーを従来よりも精度良く推定することが可能となる。
【0058】
なお、本実施形態で述べた処理フロー、演算式、係数や閾値は一例であり、装置構成などに合わせて適宜変更してもよい。例えば、図6にはバッチ処理の例を示したが、食事が行われる毎にリアルタイムにDITや消費エネルギーの計算処理を行ってもよい。また、本実施形態では、3METs以上の活動を行っていたか否かの二段階で評価したが、運動強度又は運動量に応じて三段階以上で評価してもよい。また、式(5)以外の補正式によりDITを補正してもよい。例えば、ユーザの体重を考慮せずに、補正前のDITに対し一定値又は一定の割合を加算してもよい。
【0059】
<その他の実施形態>
上述した実施形態の構成は本発明の一具体例を示したものにすぎない。本発明の範囲は上記実施形態に限られるものではなく、その技術思想の範囲内で種々の変形が可能である。例えば、第1から第3実施形態の処理を任意に組み合わせてもよい。
【0060】
また、上記実施形態では、消費エネルギー計算装置を活動量計1の一機能として実装したが、例えば図7に示すように、消費エネルギー計算装置を活動量計1や加速度センサ13とは別体の装置で構成してもよい。図7は、スマートフォンによって消費エネルギー計算装置を構成した例である。この構成において、加速度センサの出力データ(身体活動の情報)は有線通信又は無線通信によってスマートフォンに入力され、消費エネルギーの計算はスマートフォンのアプリによって実行される。この構成によれば、スマートフォン上でデータの記録・管理や通信機能を利用したデータの共有などを行うことができる。なお、本実施形態では、スマートフォンを例に説明したが、他にもモバイルPC(Personal Computer)、タブレットPC、ウェアラブル端末、PDA(Perso
nal Digital Assistant)や携帯電話など、コンピュータ(プロセッサ)を備える任意の情報機器により消費エネルギー計算装置を構成することができる。
【符号の説明】
【0061】
1:活動量計
10:制御部、11:操作部、12:I/F、13:加速度センサ、14:メモリ、15:表示部、16:電源
20:活動情報取得部、21:食事情報取得部、22:消費エネルギー計算部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7