(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
燃料電池等、従来よりも低電圧・高電流特性を有する電池の普及に伴い、昇圧回路としても効率が相対的に悪化する高デューティでの動作が必要となってきている。例えば、燃料電池自動車では、燃料電池からの電力を昇圧回路で昇圧してインバータ回路、さらにはモータに供給するが、昇圧回路で100Vを650V程度まで高昇圧比で昇圧する際に、高デューティとすると効率が悪化してしまうため、高デューティでなくとも高昇圧比が実現できる昇圧回路が望まれる。
【0003】
図10は、従来の一般的な昇圧回路を示す。スイッチ素子S1,S2及びリアクトルからなる、所謂昇圧チョッパである。入力電圧をVi、出力電圧をVo、スイッチ素子S2のオンデューティをDとすると、
Vo/Vi=1/(1−D)
である。
【0004】
また、
図11は、チョークコイルの代わりにハイブリッドトランスを用いた昇圧回路を示す。ハイブリッドトランスの巻数比を1:Nとすると、
Vo/Vi=(N+1)D/(1−D)+1
である。
【0005】
従って、ハイブリッドトランスを用いることで、オンデューティを極端に高い値にしなくても高昇圧比を得ることが可能であるが、ハイブリッドトランスの漏れインダクタンスを流れる電流波形が不連続となるため、スイッチング時に大きな電圧スパイクが生じる問題がある。
【0006】
特許文献1には、ハイブリッドトランスとフライングキャパシタを用いた共振型降圧回路が記載されている。
【0007】
図12は、特許文献1に記載された回路構成を示す。スイッチ素子S1,S2、巻数比N1:N2のハイブリッドトランス、及びフライングキャパシタCrを備える。S1オン、S2オフの状態、及びS1オフ、S2オンの状態のいずれにおいても、ハイブリッドトランスの漏れインダクタンスには常に電流経路が確保されているため、共振動作を用いることで電圧スパイクを抑制できるとしている。
【0008】
なお、
図12の回路構成は共振型降圧回路として記載されているが、図中CRで示すダイオードを能動スイッチ素子に置き換えることで昇圧回路として機能し得る。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面に基づき本発明の実施形態について説明する。
【0020】
まず、本実施形態の基本原理について説明する。
【0021】
図11に示すように、ハイブリッドトランスを用いることでスイッチングデューティを極端に高い値にしなくても高昇圧比を得ることが可能であるが、ハイブリッドトランスの漏れインダクタンスを流れる電流波形が不連続となるのでスイッチング時に大きな電圧スパイクが生じてしまう。他方、
図12に示すように、ハイブリッドトランスとフライングキャパシタを用いた共振動作では電圧スパイクを抑制することが可能であるが、適用範囲が限定されてしまう。
【0022】
そこで、本実施形態では、ハイブリッドトランスを用いつつ、共振動作を行うことなくスイッチング時の電圧スパイクを抑制する。
【0023】
すなわち、
図11の回路構成を起点とすると、ハイブリッドトランスの2次側トランスコイルに直列にフライングキャパシタを接続するとともに、2次側トランスコイル及びフライングキャパシタと並列にスイッチング素子を接続する。そして、当該スイッチング素子に並列にダイオード、いわゆる還流ダイオードを接続する。
【0024】
電源からの電力によりハイブリッドトランスを介してフライングキャパシタを充電し、その後にスイッチング素子をオン/オフして出力側に電力を出力する際に、2次側トランスコイル及びフライングキャパシタに並列に接続されたスイッチ素子の還流ダイオードに電流が流れ、ハイブリッドトランスの1次側トランスコイルと2次側トランスコイルの電流が等しくなるまで電流が流れ続ける。このような還流ダイオードによる還流により、スイッチング時においても電流の連続性が維持されるので、共振動作を行うことなくスイッチング時の電圧スパイクを抑制することができる。
【0025】
以下、本実施形態について、具体的に説明する。
【0026】
図1は、本実施形態における昇圧回路の回路構成を示す。昇圧回路は、ハイブリッドトランス10、第1の半導体スイッチ素子S1、第2の半導体スイッチ素子S2、第3の半導体スイッチ素子S3、及びフライングキャパシタCfを備える。ハイブリッドトランス10は、1次側トランスコイルLpと2次側トランスコイルLsから構成され、トランス動作とリアクトル動作を行う。1次側トランスコイルLpは電源12に接続され、1次側トランスコイルLpと2次側トランスコイルLsの巻数比は1:Nであり、結合率はkLである。2次側トランスコイルLsとフライングキャパシタCfは直列接続され、第1の半導体スイッチ素子S1は、直列接続された2次側トランスコイルLs及びフライングキャパシタCfに直列接続され、第3の半導体スイッチ素子S3は、直列接続された2次側トランスコイルLs及びフライングキャパシタCfに並列接続される。第1の半導体スイッチ素子S1、第2の半導体スイッチ素子S2、第3の半導体スイッチ素子S3のそれぞれには、並列にダイオード、いわゆる還流ダイオードが接続される。
【0027】
より詳しくは、以下の通りである。すなわち、電源12の正極側に1次側トランスコイルLpの一端が接続され、1次側トランスコイルLpの他端に半導体スイッチ素子S2が接続される。電源12の入力電圧をViとする。半導体スイッチ素子S2の他端は電源12の負極側に接続される。半導体スイッチ素子S2には並列に還流ダイオードが接続される。1次側トランスコイルLpと半導体スイッチ素子S2の中点Pに2次側トランスコイルLs及びフライングキャパシタCfが互いに直列接続される。言い換えれば、1次側トランスコイルLpと2次側トランスコイルLsの中点に半導体スイッチ素子S2が接続される。
【0028】
また、2次側トランスコイルLs及びフライングキャパシタCfと並列に半導体スイッチ素子S3が接続され、半導体スイッチ素子S3には並列に還流ダイオードが接続される。フライングキャパシタCfの他端にはフライングキャパシタCfと直列に半導体スイッチ素子S1が接続され、半導体スイッチ素子S1には並列に還流ダイオードが接続される。半導体スイッチ素子S1の他端と、半導体スイッチ素子S2の他端との間にキャパシタ(出力キャパシタ)Cが接続される。出力キャパシタCには負荷が接続され、出力電圧Voが出力される。
【0029】
半導体スイッチ素子S1,S2,S3は、例えばMOSトランジスタで構成されるが、これに限定されない。半導体スイッチ素子S1,S2,S3のスイッチングは、マイコンで構成される図示しない制御回路からの信号によって制御される。制御回路は、半導体スイッチ素子S1,S2,S3のオン/オフタイミングを制御し、具体的には、半導体スイッチ素子S1をオフして半導体スイッチ素子S2及びS3をオンし、次に、半導体スイッチ素子S1をオンし、半導体スイッチ素子S2及びS3をオフする動作を繰り返す。制御回路は、半導体スイッチ素子のオンデューティを制御することで出力電圧Voを制御する。
【0030】
図12に示す回路と
図1に示す回路とを対比すると、
図12に示す回路ではハイブリッドトランスを構成する両トランスコイルとフライングキャパシタCrを結ぶ経路に半導体スイッチ素子S2が接続されているのに対し、
図1に示す回路ではハイブリッドトランス10を構成する片側の2次側トランスコイルLsとフライングキャパシタCfを結ぶ経路に半導体スイッチ素子S3が接続される構成である。
【0031】
図2は、
図1に示す回路構成の動作波形を示す。
図2(a)は半導体スイッチ素子S1,S2,S3の動作波形、
図2(b)は1次側トランスコイルLp及び2次側トランスコイルLsの両端電圧VLp及びVLs、
図2(c)は1次側トランスコイルLp及び2次側トランスコイルLsの電流iLp及びiLsと出力電流io、
図2(d)はハイブリッドトランス10のコア内磁束密度Bを示す。また、図において、Dは半導体スイッチ素子S2のオンデューティ、Tは半導体素子のスイッチング周期を示す。
【0032】
期間1は、半導体スイッチ素子S1をオフ、半導体スイッチ素子S2及びS3をオンとする期間である。
図3に、この期間の電流の流れを示す。電源12とハイブリッドトランス10及びフライングキャパシタCfが接続され、電源12からハイブリッドトランス10を介してフライングキャパシタCfに充電する。つまり、ハイブリッドトランス10のトランス動作によってフライングキャパシタCfへ電力を供給する。また、これと同時にハイブリッドトランス10のリアクトル動作により磁気素子にエネルギが蓄積される。1次側トランスコイルLp及び2次側トランスコイルLsに電流iLp、iLsが流れるが、半導体スイッチ素子S1はオフであるため出力電流ioはゼロである。期間1の長さはDTである。
【0033】
期間2は、半導体スイッチ素子S1をオン、半導体スイッチ素子S2及びS3をオフとする期間である。
図4に、この期間の電流の流れを示す。電源12と1次側トランスコイルLp、2次側トランスコイルLs、フライングキャパシタCf、半導体スイッチ素子S1が互いに直列に接続され、1次側トランスコイルLpと2次側トランスコイルLsに流れる電流iLp、iLsが等しくなるまで、つまりiLp=iLsとなるまで半導体スイッチ素子S3に並列に接続された還流ダイオードに還流する。
図2(c)において、期間2においてiLp及びiLsはそれぞれ減少し、期間2の終わりのタイミングにおいてiLp=iLsとなる。
【0034】
期間3は、期間2と同様に半導体スイッチ素子S1をオン、半導体スイッチ素子S2及びS3をオフとする期間である。期間3は、期間2において、iLp=iLsとなった後の期間である。
図5に、この期間の電流の流れを示す。電源とフライングキャパシタCfが直列接続となり、出力キャパシタ側へ電力を供給する。電源とフライングキャパシタCfが直列接続となるため、直流電流が低減され、ハイブリッドトランス10のコア内磁束密度もこれに応じて低減される。期間2,3の長さは、(1−D)Tである。期間2は、期間3の初期期間ということもできる。
【0035】
このように、期間2においてダイオード還流により電流の連続性が維持され、期間3においてハイブリッドトランスのトランス動作による給電を行いながら電源12とフライングキャパシタCfの直列接続で昇圧を行うので、共振動作を用いなくても電圧スパイクを抑制し得る。
【0036】
フライングキャパシタCfの電圧をVf、出力電力をPoとすると、
図1の回路では、
Vo=(Vi+Vf)/(1−D)
である。但し、
Vf={−LeqPo+(Leq
2Po
2+T
2D
4Vi
4)
0.5}/(TD
2Vi)
Leq=(1−kL)Lp+(1−kL)Ls/N
2
である。すなわち、出力電圧Voは、オンデューティD及び出力電力Poにより制御される。
【0037】
図6は、上記の式を用いた本実施形態の昇圧回路の昇圧比を示す。また、比較のため、
図10及び
図11に示す昇圧回路の昇圧比も併せて示す。図において、横軸は半導体スイッチ素子S2のオンデューティD、縦軸は昇圧比Vo/Viを示す。符号100,102,104は、それぞれ
図10、
図11、
図1の回路での昇圧比である。計算の都合上、N=1とした。
図1に示す本実施形態の昇圧回路では、
図11に示す昇圧回路と同様に、
図10に示す昇圧回路と比べて相対的に低いオンデューティDでも高い昇圧比を得ることができ、かつ、
図11に示す昇圧回路で生じ得る電圧スパイクも抑制することができる。
【0038】
本願発明者等は、
図1に示す回路をPo=1000W、Vi=7V、Vo=48V、N=2として回路設計した場合に、
図10に示す昇圧回路と比べて体積を約50%低減し得ることを確認している。
図1に示す回路では、高昇圧比動作でもオンデューティDを極端に大きくする必要がないので、出力電流リプルを低減でき、出力キャパシタサイズを低減できる。
【0039】
本実施形態の昇圧回路は、任意の昇圧比及び負荷に適用し得るものであり、かつ、その体積も従来に比べて低減できるため、例えばハイブリッド自動車や燃料電池車等に搭載され得る。
【0040】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、種々の変形が可能である。特に、
図1の回路構成において、互いに直列に接続される素子あるいは素子セットを入れ替えても回路的に等価であるため、この観点からの変形例が可能である。
【0041】
図7は、一つの変形例の昇圧回路である。
図1との相違点は、
図1において直列接続された2次側トランスコイルLsとフライングキャパシタCfの位置を入れ替えたものである。
【0042】
すなわち、電源12の正極側にハイブリッドトランス10の1次側トランスコイルLpの一端が接続され、1次側トランスコイルLpの他端に半導体スイッチ素子S2が接続される。半導体スイッチ素子S2の他端は電源12の負極側に接続される。半導体スイッチS2には並列に還流ダイオードが接続される。1次側トランスコイルLpと半導体スイッチS2の中点PにフライングキャパシタCfと2次側トランスコイルLsが互いに直列接続される。また、フライングキャパシタCf及び2次側トランスコイルLsと並列に半導体スイッチ素子S3が接続され、半導体スイッチ素子S3には並列に還流ダイオードが接続される。2次側トランスコイルLsの他端には2次側トランスコイルLsと直列に半導体スイッチ素子S1が接続され、半導体スイッチ素子S1には並列に還流ダイオードが接続される。半導体スイッチ素子S1の他端と、半導体スイッチ素子S2の他端との間に出力キャパシタCが接続される。
【0043】
図8は、他の変形例の昇圧回路である。
図1との相違点は、
図1において直列接続された、2次側トランスコイルLs、フライングキャパシタCf及び半導体スイッチS3のセットと半導体スイッチS1の位置を入れ替えたものである。
【0044】
すなわち、電源12の正極側にハイブリッドトランス10の1次側トランスコイルLpの一端が接続され、1次側トランスコイルLpの他端に半導体スイッチ素子S2が接続される。半導体スイッチ素子S2の他端は電源12の負極側に接続される。半導体スイッチS2には並列にダイオードが接続される。1次側トランスコイルLpと半導体スイッチS2の中点Pに半導体スイッチS1の一端が接続される。半導体スイッチ素子S1には並列に還流ダイオードが接続される。半導体スイッチS1の他端には、2次側トランスコイルLs及びフライングキャパシタCfが直列接続される。2次側トランスコイルLs及びフライングキャパシタCfと並列に半導体スイッチ素子S3が接続され、半導体スイッチ素子S3には並列に還流ダイオードが接続される。フライングキャパシタCfの他端と、半導体スイッチ素子S2の他端との間に出力キャパシタCが接続される。
【0045】
図9は、さらに他の変形例の昇圧回路である。
図8との相違点は、
図8において直列接続された2次側トランスコイルLsとフライングキャパシタCfの位置を入れ替えたものである。
【0046】
すなわち、電源12の正極側にハイブリッドトランス10の1次側トランスコイルLpの一端が接続され、1次側トランスコイルLpの他端に半導体スイッチ素子S2が接続される。半導体スイッチ素子S2の他端は電源12の負極側に接続される。半導体スイッチS2には並列にダイオードが接続される。1次側トランスコイルLpと半導体スイッチS2の中点Pに半導体スイッチS1の一端が接続される。半導体スイッチ素子S1には並列に還流ダイオードが接続される。半導体スイッチS1の他端には、フライングキャパシタCfと2次側トランスコイルLsが直列接続される。フライングキャパシタCf及び2次側トランスコイルLsと並列に半導体スイッチ素子S3が接続され、半導体スイッチ素子S3には並列に還流ダイオードが接続される。2次側トランスコイルLsの他端と、半導体スイッチ素子S2の他端との間に出力キャパシタCが接続される。
【0047】
図7〜
図9に示される何れの回路も、
図1に示される回路と同様に動作し、
図10に示す昇圧回路と比べて相対的に低いオンデューティDでも高い昇圧比を得ることができ、かつ、
図11に示す昇圧回路で生じ得る電圧スパイクを抑制できる。