(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
モータの電流を検出する検出部と、モータの実速度を検出する位置・速度推定部と、モータを駆動する駆動部とを有し、速度指令値に基づいてモータの速度を制御するモータ制御装置であって、
前記モータ制御装置は、第1の減算器と第1の積分器を備えた第1のΔΣ部と、第2の減算器と第2の積分器を備えた第2のΔΣ部とを有し、
前記第1のΔΣ部は前記速度指令値と前記位置・速度推定部で検出されたモータの実速度との差分を積分して出力し、前記第2のΔΣ部は前記第1のΔΣ部の出力に基づいて生成された電流指令値と前記検出部で検出されたモータの電流との差分を積分して前記駆動部に出力することを特徴とするモータ制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面を参照して本願に係るモータ制御装置の実施形態について説明する。以下の実施形態は、周期的な負荷トルク変動を有する圧縮機を駆動するモータのトルク制御を、位置センサレスベクトル制御により行う、例えば空気調和装置又は低温保存装置等のモータ制御装置に関する。しかし、開示の技術は、位置センサレスベクトル制御を行うモータ制御装置に広く適用可能である。
【0014】
なお、以下に示す実施形態は、一例を示すに過ぎず、開示の技術を限定するものではない。また、以下に示す実施形態及びその変形例は、矛盾しない範囲で適宜組み合わせることができる。また、以下に示す実施形態及びその変形例は、開示の技術に係る構成及び処理について主に示し、その他の構成及び処理の説明を簡略又は省略する。また、以下に示す実施形態及びその変形例において、同一の構成及び処理には同一の符号を付与し、既出の構成及び処理の説明は省略する。
【0015】
[実施形態1]
先ず、実施形態1の背景及び概略について説明する。
図1は、従来のベクトル制御を行うモータ制御装置の基本的な構成例を示す図である。モータ制御装置100Xは、減算器11、速度制御器12、励磁電流制御器13、減算器14、減算器15、d軸電流制御器16、q軸電流制御器17、非干渉化制御器18、減算器19、加算器20、dq/3φ変換器21、PWM(Pulse Width Modulation)生成器22、IPM(Intelligent Power Module)23、1シャント電流検出器を構成する抵抗R、3φ電流算出器24、3φ/dq変換器25、軸誤差演算処理部26、PLL制御器29、位置推定器30、1/Pn処理器31を有する。
【0016】
減算器11は、モータ制御装置100Xへ入力された速度指令値(目標速度、ここでは機械角目標速度)ωm
*から、1/Pn処理器31により出力された推定された現在の角速度である実速度(機械角実速度)ωmを減算した速度偏差(機械角速度偏差)Δωを速度制御器12へ出力する。
【0017】
速度制御器12は、減算器11から出力された速度偏差Δωが小さくなるようなq軸電流指令値Iq
*を生成し、励磁電流制御器13及び減算器15へ出力する。励磁電流制御器13は、速度制御器12から出力されたq軸電流指令値Iq
*からd軸電流指令値Id
*を生成し、減算器14へ出力する。ここで、速度制御器12と励磁電流制御器13を合わせ電流指令値生成部とも呼ぶ。また、d軸とq軸は2相の回転座標系の座標軸を表し、Id、Iq及び後述するVd、Vqはこの座標軸上の電流及び電圧である。
【0018】
減算器14は、励磁電流制御器13から出力されたd軸電流指令値Id
*から、3φ/dq変換器25により出力されたd軸電流Idを減算してd軸電流偏差ΔIdを生成しd軸電流制御器16へ出力する。減算器15は、速度制御器12から出力されたq軸電流指令値Iq
*から、3φ/dq変換器25から出力されたq軸電流Iqを減算してq軸電流偏差ΔIqを生成しq軸電流制御器17へ出力する。
【0019】
d軸電流制御器16は、減算器14から出力されたd軸電流偏差ΔIdからd軸電圧指令値Vd
**を生成する。q軸電流制御器17は、減算器15から出力されたq軸電流偏差ΔIqからq軸電圧指令値Vq
**を生成する。
【0020】
非干渉化制御器18は、d軸とq軸の干渉をキャンセルしそれぞれを独立に制御するための非干渉化補正値を生成する。具体的には、3φ/dq変換器25から出力されたd軸電流IdとPLL制御器29から出力された電気角推定速度ωeから、d軸電圧指令値Vd
**を非干渉化するためのd軸非干渉化補正値Vdaを生成し、減算器19へ出力する。また、非干渉化制御器18は、3φ/dq変換器25から出力されたq軸電流IqとPLL制御器29から出力された電気角推定速度ωeから、q軸電圧指令値Vq
**を非干渉化するためのq軸非干渉化補正値Vqaを生成し、加算器20へ出力する。
【0021】
減算器19は、d軸電流制御器16から出力されたd軸電圧指令値Vd
**から、非干渉化制御器18から出力されたd軸非干渉化補正値Vdaを減算してd軸電圧指令値Vd
**を非干渉化したd軸電圧指令値Vd
*を生成し、dq/3φ変換器21へ出力する。加算器20は、q軸電流制御器17から出力されたq軸電圧指令値Vq
**へ、非干渉化制御器18から出力されたq軸非干渉化補正値Vqaを加算してq軸電圧指令値Vq
**を非干渉化したq軸電圧指令値Vq
*を生成し、dq/3φ変換器21へ出力する。
【0022】
dq/3φ変換器21は、位置推定器30により出力された現在のロータの位置である電気角位相(dq軸位相)θeを用いて、非干渉化された2相のd軸電圧指令値Vd
*及びq軸電圧指令値Vq
*を、3相のU相出力電圧指令値Vu
*、V相出力電圧指令値Vv
*、W相出力電圧指令値Vw
*へ変換する。そして、dq/3φ変換器21は、U相出力電圧指令値Vu
*、V相出力電圧指令値Vv
*、W相出力電圧指令値Vw
*をPWM生成器22へ出力する。なお、Vu
*とVv
*とVw
*及び後述のIuとIvとIwは3相の固定座標系の電圧及び電流である。
【0023】
PWM生成器22は、U相出力電圧指令値Vu
*、V相出力電圧指令値Vv
*、W相出力電圧指令値Vw
*と、PWMキャリア信号から、6相のPWM信号を生成し、IPM23へ出力する。
【0024】
IPM23は、PWM生成器22から出力された6相のPWM信号をもとに、モータMのU相、V相、W相それぞれへ印可する交流電圧を、外部から供給される直流電圧Vdcから変換して生成し、それぞれの交流電圧をモータMのU相、V相、W相へ印加する。
【0025】
3φ電流算出器24は、PWM生成器22から出力された6相PWMスイッチング情報と、抵抗Rによって1シャント電流検出方式で検出された母線電流から、モータMのU相電流Iu、V相電流Iv、W相電流Iwを算出する。または、モータMのU相電流Iu、V相電流Iv、W相電流Iwは、2つのCT(Current Transformer)でU相電流Iu及びV相電流Ivを検出し、残りのW相電流Iwを、Iu+Iv+Iw=0の関係式より算出する2CT方式であってもよい。3φ電流算出器24は、算出したモータMのU相電流Iu、V相電流Iv、W相電流Iwを、3φ/dq変換器25へ出力する。
【0026】
3φ/dq変換器25は、位置推定器30から出力された電気角位相θeを用いて、3φ電流算出器24から出力された3相のU相電流Iu、V相電流Iv、W相電流Iwを、2相のd軸電流Id及びq軸電流Iqへ変換する。そして、3φ/dq変換器25は、d軸電流Idを減算器14、非干渉化制御器18、軸誤差演算処理部26へ、q軸電流Iqを減算器15、非干渉化制御器18、軸誤差演算処理部26へ、それぞれ出力する。
【0027】
軸誤差演算処理部26は、減算器19から出力されたd軸電圧指令値Vd
*と加算器20から出力されたq軸電圧指令値Vq
*、3φ/dq変換器25から出力されたd軸電流Id及びq軸電流Iqから、軸誤差変動Δθを算出し、PLL制御器29へ出力する。ここで、軸誤差とは実際のdq軸と制御上のdq軸とのずれのことである。
【0028】
PLL制御器29は、軸誤差演算処理部26から出力された軸誤差変動Δθから、推定された現在のモータの回転の角速度である電気角推定速度ωeを算出し、非干渉化制御器18、位置推定器30、1/Pn処理器31へそれぞれ出力する。
【0029】
位置推定器30は、PLL制御器29から出力された電気角推定速度ωeから、ロータ位置を推定する電気角位相(dq軸位相)θeを算出する。そして、位置推定器30は、電気角位相θeをdq/3φ変換器21及び3φ/dq変換器25へそれぞれ出力する。
【0030】
1/Pn処理器31は、PLL制御器29から出力された電気角推定速度ωeをモータMの極対数Pnで除算して算出した、推定された現在の角速度である実速度(機械角実速度)ωmを、減算器11へ出力する。
【0031】
ここで、
図1に示すモータ制御装置100Xの構成には、3つの特徴がある。第1番目の特徴は、
図1に示す第1のフィードバック(FB:Feed Back)経路FB1と第2のフィードバック経路FB2の二つのフィードバック経路を有し、各フィードバック経路でそれぞれの指令値(目標値)からそれぞれの検出値(推定値)を減算していることである。なお、本発明の実施例において、第1のフィードバック経路FB1は実速度ωmのフィードバック経路、第2のフィードバック経路FB2はq軸電流Iq及びd軸電流Idのフィードバック経路である。第2番目の特徴は、dq/3φ変換器21、3φ/dq変換器25、PWM生成器22、3φ電流算出器24の各変換器を有していることである。3番目の特徴は、位置推定器30によるモータMの回転位相(電気角位相θe)は、dq/3φ変換器21へフィードフォワード(
図1中のFF:Feed Forward)され、3φ/dq変換器25へフィードバック(
図1中の第3のフィードバック経路FB3)されていることである。
【0032】
第2番目の特徴に注目して、
図2に示すように、
図1におけるd軸電流制御器16及びq軸電流制御器17から3φ/dq変換器25までの経路を、量子化器Qと見なして置き換えることができる。
図2は、従来のモータ制御装置において量子化器へ置き換えることができる要素を示す図である。これにより、量子化器Qの入出力は、d軸電流Id及びq軸電流Iqとなる。
【0033】
第3番目の特徴において、
図3の(a)に示すように、位置推定器30からの出力が3φ/dq変換器25へフィードバックされているので、
図3の(b)に示すように、位置推定器30の処理を1キャリア遅れの処理とみなして、位置推定器30を遅延器32及び遅延器33と置き換えることができる。遅延器32はd軸1次遅延器であり、遅延器33はq軸1次遅延器である。
図3は、従来のモータ制御装置における位置推定器の置き換えを示す図である。
【0034】
よって、
図1の構成に、
図2及び
図3の置き換えを適用すると、
図4のように表すことができる。
図4は、従来のモータ制御装置において要素の置き換えを行った構成を示す図である。
【0035】
ここで、
図4に示すモータ制御装置100Yの構成と、
図5に示す2次ΔΣ変調型A/D変換器の構成モデルとを比較する。
図4のFB1と
図5のFB1、
図4のFB2と
図5のFB2とが対応するフィードバック経路である。また、
図4の減算器11と
図5の減算器S1、
図4の減算器14及び減算器15と
図5の減算器S2がそれぞれ対応する要素である。そして、
図4及び
図5の(a)は、ともに量子化器Q及び遅延器Dを有する。
【0036】
以上から、
図4に示すモータ制御装置100Yは、
図5の(a)に示す2次ΔΣ変調型A/D変換器と類似する部分を有している。そして、上記のとおり、
図4に示すモータ制御装置100Yの減算器11、減算器14、減算器15のそれぞれを
図5の減算器S1、減算器S2とみなし、
図5の(a)と同様に積分器I1を減算器S1と減算器S2の間へ、積分器I2を減算器S2と量子化器Qの間へ追加することで、2次ΔΣ変調型A/D変換器の構成を得ることができる。
【0037】
上記のとおり、
図5(a)の量子化器Qには
図2の要素が含まれる。
図5(b)は
図5(a)の量子化器Qに含まれる
図2の要素に量子化誤差Q1を加算する加算器A1を加えたものである。この量子化誤差Q1は、
図2におけるd軸電流制御器16及びq軸電流制御器17から3φ/dq変換器25までの要素における電流や電圧の変換、PWM変調、IPMの駆動、1シャント電流検出等に起因する変換誤差を量子化誤差とみなしたもので、この量子化誤差Q1が加算器A1によって量子化器Qに加算される。
【0038】
ここで、
図5の(b)に示す2次ΔΣ変調型A/D変換器の入出力の関係を、下記(1)式に示す。下記(1)式における“X”“Y”“Z
−1”“Q1”は、
図5の(b)に示すものと同一である。
【0040】
上記(1)式における量子化誤差Q1は上述のように量子化器Qによる変換誤差を表し、その量子化誤差Q1にかかる係数(1−Z
−1)が減衰係数(微分項)になる。この減衰係数に含まれるZ
−1は低周波領域において1と見なせる。これは、Z=exp(jωn)(ただしnは遅延のクロック数、expは指数関数、jは虚数単位)と表されるためである。この特性により、低周波領域(駆動回転数領域)において変換誤差(量子化誤差)を小さくすることができる(ノイズシェーピング特性)。
【0041】
この特性をベクトル制御に適用するため、本発明では
図6に示すように、
図1に示す従来のモータ制御装置の構成に、
図5に示す積分器I1、I2に相当する積分器35、積分器36、積分器37をそれぞれ追加した構成とする。
図6は、実施形態1に係る2次ΔΣ変調型のモータ制御装置の構成を示す図である。
図6に示す実施形態1に係る2次ΔΣ変調型のモータ制御装置100Aは、積分器35、積分器36、積分器37により量子化誤差Q1を積分することにより、変換誤差を小さくする機能を発揮する。言い換えると、積分器35、積分器36、積分器37は減算器11、減算器14、減算器15による入出力の差分を足し合わせ、現在のサンプリングデータ(現在のキャリアで処理を行ったデータ)とそれ以前のサンプリングデータ(現在より前のキャリアで処理を行ったデータ)の情報を持つことで、入力信号(速度指令値、目標速度)の再現性を高める(変換誤差を低減し高精度化する)。
【0042】
なお、
図6において、減算器11は本発明の第1の減算器、積分器35は本発明の第1の積分器であり、第1のΔΣ部は一例としてこれら第1の減算器と第1の積分器を有する。また、減算器14と減算器15は本発明の第2の減算器であり、積分器36と積分器37は本発明の第2の積分器であり、本発明の第2のΔΣ部は一例としてこれら第2の減算器と第2の積分器を有する。また、d軸電流制御器16、q軸電流制御器17、非干渉化制御器18、減算器19、加算器20、dq/3φ変換器21、PWM生成器22、IPM23は、本発明の駆動部の一例である。また、抵抗R、3φ電流算出器24、3φ/dq変換器25は、本発明の検出部の一例である。また、遅延器34は、本発明の第1の遅延部の一例である。また、遅延器32と遅延器33は、本発明の第2の遅延部の一例である。また、軸誤差演算処理部26、PLL制御器29、1/Pn処理器31は本発明の位置・速度推定部の一例である。そして、第1のΔΣ部は入力された速度指令値(目標速度)ωm
*と位置・速度推定部で検出したモータの実速度(機械角実速度)ωmとの差分である速度偏差(機械角速度偏差)Δωを積分して出力し、第2のΔΣ部は第1のΔΣ部の出力に基づいて電流指令値生成部である速度制御器12と励磁電流制御器13で生成された電流指令値I
*(d軸電流指令値Id
*、q軸電流指令値Iq
*)と検出部で検出したモータの電流I(ここでは、検出部で検出して3相の固定座標系の電流から2相の回転座標系の電流に変換したd軸電流Idとq軸電流Iq)との差分ΔI(ここでは、d軸電流偏差ΔId及びq軸電流偏差ΔIq)を積分して駆動部に出力する。
【0043】
図6の入出力の関係は、下記(2)式のようになる。下記(2)式では、Q1を、
図6において量子化器Qへ置き換えた要素の量子化誤差とする。下記(2)式における“ω”“ω
*”“Z
−1”“Q1”は、
図5の(b)及び
図6に示すものと同一である。
【0045】
実施形態1によれば、ベクトル制御を行うモータ制御装置の構成をΔΣ変調型とすることにより、ベクトル制御の制御系内で生じる変換誤差に対して低減効果をもたらし、ベクトル制御全体での精度向上を図ることができる。例えば、実施形態1に係るモータ制御装置100Aは、
図6に示す量子化器Qへ置き換えた要素の量子化誤差Q1を小さくすることができる。また、ベクトル制御を行うモータ制御装置の構成に、現在の値に1キャリア前の値を加算していくだけの積分処理を行う積分器を追加するだけなので、変換処理に係る演算量の増加や、その演算量の増加に伴う応答性の低下、処理時間の増加などをまねくことがない。
【0046】
[実施形態2]
実施形態1では、量子化器Qへ置き換えた要素の量子化誤差Q1を小さくすることができるが、モータ制御装置が駆動するモータMの負荷トルク脈動による速度変動を小さくすることはできない。すなわち、実施形態1では、ベクトル制御を実行するモータ制御装置内のA/D変換誤差やD/A変換誤差等の変換誤差を低減するのみであり、モータの負荷トルク脈動による速度変動までは低減できない。つまり、制御系内に存在しない誤差(外的要因)には対応できない。
【0047】
すなわち、コンプレッサ等の周期的な負荷トルク脈動を有する負荷を駆動する場合、負荷トルク脈動によりモータの速度(回転数)が変動し、騒音や振動を引き起こし問題となる。そのため、モータ制御装置には負荷トルク脈動による速度変動を抑えることが求められる。
【0048】
そこで、実施形態2では、モータの速度(回転数)が変動することに注目してモータMを周波数変換器として捉え、本発明を適用することにより、負荷トルク脈動による速度変動を小さくする。
【0049】
ここで、
図6に示すモータ制御装置100Aの構成と、
図7に示す2次ΔΣ変調型A/D変換器の構成モデルとを比較する。
図7は、モータを周波数変換器とみた場合の2次ΔΣ変調型A/D変換器の構成モデルを示す図である。
図7の(a)は、
図5の(a)に相当し、
図6のモータ制御装置100AにおいてモータMを周波数変換器FCとみなした構成モデルである。
【0050】
そして、
図7の(a)に示す量子化器Qは、
図6における量子化器Qに含まれる量子化誤差Q1を加算したものである。また、周波数変換器FCは、
図6におけるモータMを周波数変換器FCと見なしたとき、モータMの負荷トルク脈動による速度変動を周波数変換誤差Q2(以下、速度誤差Q2ともいう)として加算するものである。これより、
図7の(a)を
図7の(b)のように置き換えることができる((
図7(a)の周波数変換器FCを、
図7(b)の加算器A2に置き換えることができる)。このとき、
図7の(b)における入出力はΔΣ変調型A/D変換器の特性を得ることができる。
図6において量子化器Qと置き換えた要素の総変換誤差を量子化誤差Q1とし、モータMの速度変動(速度誤差)をQ2とすると、
図7の(a)における入力X及び出力Yの関係は、下記(3)式のように表される。
【0052】
ここで、上記(3)式では、モータMの負荷トルク脈動による速度誤差Q2には、実施形態1で説明したような減衰係数が係らないため、モータMの負荷トルク脈動による速度誤差Q2を小さくできないことがわかる。ΔΣ変調型A/D変換器の特徴として、量子化誤差Q1のように、制御系内に誤差が含まれる場合は、減衰係数が係り誤差を小さくできる。そのため、
図8に示すように、制御系内に速度誤差(周波数変換誤差)Q2と同じ量を加算する加算器A3を追加する。
図8は、負荷トルク変動による誤差へ対応した2次ΔΣ変調型A/D変換器の構成モデルを示す図である。
図8に示す入力X及び出力Yの関係は、下記(4)式のように表される。
【0054】
上記(4)式によれば、速度誤差(周波数変換誤差)Q2には減衰係数が係るため、速度誤差Q2を小さくすることが可能となる。
【0055】
図8の構成モデルを適用した実施形態2に係るモータ制御装置100Bは、
図9Aに示すようになる。モータ制御装置100Bは、
図1に示す従来のモータ制御装置100Xと比較して、位置推定器30に代えて位置推定器30Bを有し、減算器11と速度制御器12の間に積分器35を有し、減算器14とd軸電流制御器16の間に積分器36を有し、減算器15とq軸電流制御器17の間に積分器37を有し、3φ/dq変換器25と減算器14、15それぞれの間に電流補正器38を有する。
【0056】
位置推定器30Bは、PLL制御器29から出力された電気角推定速度ωeから、電気角位相(dq軸位相)θe及び機械角位相θdを算出し、電気角位相θeをdq/3φ変換器21及び3φ/dq変換器25へ出力し、機械角位相θdを電流補正器38へ出力する。
【0057】
なお、
図9Aにおいて、減算器11は本発明の第1の減算器、積分器35は本発明の第1の積分器であり、本発明の第1のΔΣ部は一例としてこれら第1の減算器と第1の積分器を有する。また、減算器14と減算器15は本発明の第2の減算器であり、積分器36と積分器37は本発明の第2の積分器であり、本発明の第2のΔΣ部は一例としてこれら第2の減算器と第2の積分器を有する。また、d軸電流制御器16、q軸電流制御器17、非干渉化制御器18、減算器19、加算器20、dq/3φ変換器21、PWM生成器22、IPM23は、本発明の駆動部の一例である。また、抵抗R、3φ電流算出器24、3φ/dq変換器25は、本発明の検出部の一例である。また、電流補正器38は、電流補正部の一例である。また、軸誤差演算処理部26、PLL制御器29、1/Pn処理器31は、本発明の位置・速度推定部の一例である。
【0058】
図9Bは、実施形態2に係る2次ΔΣ変調型のモータ制御装置の電流補正器の構成を示す図である。モータ制御装置100Bの電流補正器38は、減算器38a、加算器38b、補正電流算出器38cを有する。また、1キャリア遅れの処理を実行する遅延器39a、遅延器39bを有する。
【0059】
補正電流算出器38cは、位置推定器30Bから出力された機械角位相θd、減算器11から出力された速度偏差Δω(=ωm
*−ωm)から電流補正値ΔIcを生成する。
【0060】
速度誤差(周波数変換誤差)Q2を電流帰還路に加算するため、速度誤差Q2の振幅と位相を速度の次元から電流の次元に変換する。そのため、生成された機械角位相θdと速度偏差Δωにより、補正電流振幅Aωと補正位相θωを計算する。なお、下記(5)式においては、位相検出及び振幅検出は、相関演算を用いた既知の手法を用いることができる。
【0062】
上記(5)式をもとに、
図9A及び
図9Bに示す電流補正器38において、補正電流算出器38cは、位置推定器30Bから出力された機械角位相θd、減算器11から出力された速度偏差(機械角速度偏差)Δω(=ωm
*−ωm)から電流補正値ΔIcを生成する。減算器38aは、3φ/dq変換器25から出力されたd軸電流Idから電流補正値ΔIcを減算した結果である補正d軸電流Id´を減算器14へ出力する。加算器38bは、3φ/dq変換器25から出力されたq軸電流Iqへ電流補正値ΔIcを加算した結果である補正q軸電流Iq´を減算器15へ出力する。
【0063】
速度誤差Q2は、検出部から出力されるd軸電流Id及びq軸電流Iqからは検出できない(d軸電流Id及びq軸電流Iqは実速度による電流であり、速度誤差を認識できない)。このため、実施形態2では速度誤差Q2を表す量として、電流補正器38により、速度指令値ωm
*と実速度ωmの差分である速度偏差Δωに基づく電流補正値ΔIcを生成し、これをd軸電流Id及びq軸電流Iqから減算して第2のΔΣ部へフィードバックする。つまり電流補正器38が速度誤差Q2を検出する機能と
図8に示す加算器A3の機能を果たす。
【0064】
以上で説明したように、実施形態2では、第1のΔΣ部は入力された速度指令値(目標速度)ωm
*と位置・速度推定部で検出されたモータの実速度(機械角実速度)ωmとの差分である速度偏差(機械角速度偏差)Δωを積分して出力し、第2のΔΣ部は第1のΔΣ部の出力に基づいて電流指令値生成部である速度制御器12と励磁電流制御器13で生成された電流指令値I
*(d軸電流指令値Id
*、q軸電流指令値Iq
*)と補正電流I´(ここでは、検出部で検出して3相の固定座標系の電流を2相の回転座標系の電流に変換したd軸電流Idとq軸電流Iqから電流補正器38で電流補正値ΔIcを生成し、さらにd軸電流Idとq軸電流Iqから電流補正値ΔIcを減算した補正d軸電流Id´及び補正q軸電流Iq´)との差分ΔI(ここでは、d軸電流偏差ΔId及びq軸電流偏差ΔIq)を積分して駆動部に出力する。
【0065】
(実施形態2の変形例)
実施形態2では、モータMを周波数変換器とみなし、その周波数変換誤差を低減する。しかし、これに限らず、モータMの外的要因である出力トルクリプルや電気特性のバラツキ等の誤差や、
図7の(a)の量子化器Qの後段に接続されうるその他の要素が発生させる種々の誤差も、
図8に示すように制御系内にその誤差を加算することで、周波数変換誤差と同様に低減できる。
【0066】
実施形態2によれば、ベクトル制御を行うモータ制御装置の構成を、モータを周波数変換器とみなし、負荷トルク脈動による回転数変動(速度変動)を回転数指令値(目標回転数、目標速度)との誤差と捉えたΔΣ変調型とすることにより、モータの負荷トルク脈動による速度変動(周波数変換誤差)も低減し、周波数変換誤差の低減を含めてベクトル制御全体での精度向上を図ることができる。例えば、実施形態2に係るモータ制御装置100Bは、
図9Aに示す量子化器Qへ置き換えた要素の量子化誤差Q1及びモータMの周波数変換誤差Q2を小さくすることができる。また、ベクトル制御を行うモータ制御装置の構成に、処理時間の増加がない積分器と電流補正器を追加するだけなので、変換処理に係る演算量の増加や、その演算量の増加に伴う応答性の低下、処理時間の増加などをまねくことがない。
【0067】
上述の実施形態及び図示の具体的名称、処理、制御、各種のデータやパラメータを含む情報については、一例を示すに過ぎず、特記する場合を除いて適宜変更することができる。また、上述の実施形態における各部もしくは各装置の構成は、処理負荷や実装効率等から適宜分散及び統合されてもよい。
【0068】
上述の実施形態のより広範な態様は、上述のように表しかつ記述した特定の詳細及び代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲及びその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神又は範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。