特許第6711266号(P6711266)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社豊田自動織機の特許一覧

<>
  • 特許6711266-塗布装置 図000002
  • 特許6711266-塗布装置 図000003
  • 特許6711266-塗布装置 図000004
  • 特許6711266-塗布装置 図000005
  • 特許6711266-塗布装置 図000006
  • 特許6711266-塗布装置 図000007
  • 特許6711266-塗布装置 図000008
  • 特許6711266-塗布装置 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6711266
(24)【登録日】2020年6月1日
(45)【発行日】2020年6月17日
(54)【発明の名称】塗布装置
(51)【国際特許分類】
   B05C 5/00 20060101AFI20200608BHJP
   B05B 1/16 20060101ALI20200608BHJP
   B05B 1/30 20060101ALI20200608BHJP
   B05C 11/10 20060101ALI20200608BHJP
【FI】
   B05C5/00 103
   B05B1/16
   B05B1/30
   B05C11/10
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-255111(P2016-255111)
(22)【出願日】2016年12月28日
(65)【公開番号】特開2018-103155(P2018-103155A)
(43)【公開日】2018年7月5日
【審査請求日】2019年3月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001117
【氏名又は名称】特許業務法人ぱてな
(72)【発明者】
【氏名】三橋 孝好
【審査官】 伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−078961(JP,A)
【文献】 特開2000−306809(JP,A)
【文献】 特開平06−226196(JP,A)
【文献】 特開2000−051762(JP,A)
【文献】 特開平08−323263(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C 5/00− 5/04,
7/00−21/00
B05B 1/00− 3/18,
7/00− 9/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークに対して第1方向に相対移動しつつ、前記ワークに塗布液を塗布する塗布装置であって、
前記ワークは、前記塗布液の塗布が要求される被塗布面を有し、
前記塗布装置は、前記ワークの上方に位置して前記第1方向に交差する第2方向に配列され、前記塗布液を吐出可能な複数のノズルと、
前記ワークの上方に位置して前記第2方向に延在し、前記各ノズルから吐出された前記塗布液によって前記被塗布面に向かって膜状に降下する塗布膜を形成する塗布板と、
前記各ノズルに対し、前記塗布液の吐出を許容する場合と禁止する場合とを切り替え可能な制御手段とを備え
前記塗布板は前記各ノズルと対面し、
前記各ノズルは、前記塗布板に向けて前記塗布液を吐出し、
前記制御手段は、前記塗布液の吐出を許容する場合と禁止する場合とを切り替えることにより、前記塗布膜における前記第2方向の長さ又は前記塗布膜が形成される位置を調整することを特徴とする塗布装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記各ノズルから吐出される前記塗布液の流量を変更可能である請求項1記載の塗布装置。
【請求項3】
前記塗布板は、前記各ノズルから吐出された前記塗布液が流通する本体部と、所定幅の前記塗布膜を形成する幅規制部とを有している請求項1又は2記載の塗布装置。
【請求項4】
前記ワークは、前記被塗布面の反対側に位置し、前記塗布液の塗布を禁止する塗布禁止面と、前記被塗布面から前記塗布禁止面まで貫通する開口とを有している請求項1乃至3のいずれか1項記載の塗布装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塗布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に従来の塗布装置が開示されている。この塗布装置はスリットノズルを備えており、ワークに対して第1方向に相対移動可能となっている。スリットノズルは、ワークの上方に位置して第1方向に直交する第2方向に延びており、塗布液を吐出可能である。ワークは、塗布液の塗布が要求される被塗布面を有している。
【0003】
この塗布装置では、スリットノズルから吐出された塗布液が被塗布面に向かって膜状に降下する塗布膜を形成する。この際、スリットノズルが第2方向に延びていることから、塗布膜は第2方向に延びる形状に形成される。そして、この塗布膜内をワークが第1方向に通過することにより、被塗布面に塗布液が塗布される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−349280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ワークには種々の形状が存在し、それに応じて被塗布面の形状も種々に形成され得る。この点、上記従来の塗布装置では、スリットノズルの形状によって、塗布膜における第2方向の長さや塗布膜が形成される位置が一義的に定まってしまう。このため、この塗布装置では、種々の形状の被塗布面に対応することが難しい。
【0006】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、種々の形状に形成された被塗布面を有するワークに対し、好適に塗布液を塗布可能な塗布装置を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の塗布装置は、ワークに対して第1方向に相対移動しつつ、前記ワークに塗布液を塗布する塗布装置であって、
前記ワークは、前記塗布液の塗布が要求される被塗布面を有し、
前記塗布装置は、前記ワークの上方に位置して前記第1方向に交差する第2方向に配列され、前記塗布液を吐出可能な複数のノズルと、
前記ワークの上方に位置して前記第2方向に延在し、前記各ノズルから吐出された前記塗布液によって前記被塗布面に向かって膜状に降下する塗布膜を形成する塗布板と、
前記各ノズルに対し、前記塗布液の吐出を許容する場合と禁止する場合とを切り替え可能な制御手段とを備え
前記塗布板は前記各ノズルと対面し、
前記各ノズルは、前記塗布板に向けて前記塗布液を吐出し、
前記制御手段は、前記塗布液の吐出を許容する場合と禁止する場合とを切り替えることにより、前記塗布膜における前記第2方向の長さ又は前記塗布膜が形成される位置を調整することを特徴とする。
【0008】
本発明の塗布装置では、制御手段が各ノズルに対し、塗布液の吐出を許容する場合と禁止する場合とを切り替えることにより、塗布板で塗布膜が形成される際の第2方向の長さ、すなわち、塗布膜の幅方向の長さを調整できる他、塗布膜が形成される位置を調整できる。このため、この塗布装置では、種々の形状の被塗布面に対して、塗布膜の幅方向の長さや塗布膜の位置を対応させ易い。
【0009】
したがって、本発明の塗布装置によれば、種々の形状に形成された被塗布面を有するワークに対し、好適に塗布液を塗布可能である。
【0010】
制御手段は、各ノズルから吐出される塗布液の流量を変更可能であることが好ましい。この場合には、塗布膜の幅の長さをより好適に調整することが可能となる。
【0011】
塗布板は、各ノズルから吐出された塗布液が流通する本体部と、所定幅の塗布膜を形成する幅規制部とを有していることが好ましい。この場合には、幅規制部の形状に基づいて塗布膜の幅の長さをより詳細に調整することが可能となる。
【0012】
ワークは、被塗布面の反対側に位置し、塗布液の塗布を禁止する塗布禁止面と、被塗布面から塗布禁止面まで貫通する開口とを有していることが好ましい。
【0013】
この種の塗布装置では、塗布膜においてワークの被塗布面に接触しなかった部分、すなわち、被塗布面に塗布されなかった塗布液は、回収桶等によって回収される。この際、被塗布面に塗布されなかった塗布液が多くなれば、その分、塗布液が回収桶等の内部で跳ね返り易くなる。この結果、跳ね返った塗布液がワークの塗布禁止面に付着することで、塗布液が塗布された後のワークの品質が低下する問題が生じ易くなる。
【0014】
この点、本発明の塗布装置では、ワークの開口を避けるように塗布膜の幅の長さや塗布膜の位置を調整することができるため、被塗布面に塗布されずに回収桶等で回収される塗布液の量を可及的に少なくすることができる。このため、この塗布装置では、回収桶等の内部で跳ね返った塗布液がワークの塗布禁止面に付着することを好適に防止でき、塗布液が塗布された後のワークの品質が低下し難い。
【発明の効果】
【0015】
本発明の塗布装置によれば、種々の形状に形成された被塗布面を有するワークに対し、好適に塗布液を塗布可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、実施例1の塗布装置及びワークを示す斜視図である。
図2図2は、実施例1の塗布装置によってワークに塗布液が塗布される状態を示す図1におけるA−A断面図である。
図3図3は、実施例1の塗布装置によってワークに塗布液が塗布される状態を示す図1におけるB−B断面図である。
図4図4は、実施例1の塗布装置に係り、塗布膜の幅の長さを示す図2及び図3と同方向の断面図である。
図5図5は、実施例2の塗布装置に係り、塗布板を示す正面図である。
図6図6は、実施例2の塗布装置において形成された塗布膜の形状を示す図2及び図3と同方向の断面図である。
図7図7は、実施例3の塗布装置に係り、塗布板を示す正面図である。
図8図8は、実施例3の塗布装置において形成された塗布膜の形状を示す図2及び図3と同方向の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を具体化した実施例1〜3を図面を参照しつつ説明する。
【0018】
(実施例1)
図1に示すように、実施例1の塗布装置は塗装ブース100内に設けられている。この塗布装置は、第1〜5ノズル1〜5と、塗布板7と、回収桶9と、第1〜7チューブ11〜17と、第1〜3バルブ19〜21と、コントローラ23とを備えている。この塗布装置は、車両用ルーフパネル25に塗料27を塗布することにより、車両用ルーフパネル25の塗装を行う。第1〜3バルブ19〜21及びコントローラ23は、本発明における「制御手段」の一例である。また、車両用ルーフパネル25は本発明における「ワーク」の一例であり、塗料27は本発明における「塗布液」の一例である。
【0019】
図1では、車両用ルーフパネル25を基準として前後方向、左右方向及び上下方向を規定している。そして、図2以降では、図1に対応して左右方向及び上下方向を規定している。これらの前後方向、左右方向及び上下方向は互いに直交する関係にある。また、前後方向は本発明における「第1方向」に対応しており、左右方向は本発明における「第2方向」に対応している。なお、前後方向等は一例であり、適宜変更可能である。
【0020】
図1〜4に示すように、第1〜5ノズル1〜5は、いずれも同一の構成であり、前後方向に延びる筒状に形成されている。第1〜5ノズル1〜5は、車両用ルーフパネル25よりも上方に位置している。そして、第1〜5ノズル1〜5は、第1ノズル1を塗布板7の右端側に配置するとともに、第5ノズル1を塗布板7の左端側に配置した状態で、左右方向に一列に配列されている。また、第1〜5ノズル1〜5は、後端側が前端側よりも下方となるように傾斜した状態で配列されている。
【0021】
第1〜5ノズル1〜5には、それぞれ前端側に流入口29が形成されており、後端側に吐出口31が形成されている。第1〜5ノズル1〜5は、流入口29から内部に塗料27を流入させるとともに、内部の塗料27を塗布板7に向けて吐出口31から吐出する。
【0022】
塗布板7は、上下方向及び左右方向に延びる矩形状の本体部7aのみで構成されている。塗布板7は、図示しない保持装置によって上下方向に垂直な状態で保持されており、車両用ルーフパネル25よりも上方であって、第1〜5ノズル1〜5よりも後方に配置されている。これにより、本体部7aは第1〜5ノズル1〜5と対面している。本体部7aは、第1〜5ノズル1〜5から吐出された塗料27を表面に流通させることにより、塗料27を塗布板7の下端側へ案内する。
【0023】
回収桶9は、塗布板7の下方であり、かつ、車両用ルーフパネル25よりも下方に配置されている。回収桶9は、車両用ルーフパネル25に塗布されなかった塗料27を内部に貯留しつつ回収する。
【0024】
第1〜7チューブ11〜17は、内部に塗料27を流通させることにより、図示しない塗料タンクから第1〜5ノズル1〜5へ塗料27を供給する。具体的には、第1チューブ11は、塗料27の流通方向の下流側が第1ノズル1の流入口29に接続されている。同様に、第5チューブ15は、下流側が第5ノズル5の流入口29に接続されている。そして、第1、5、6チューブ11、15、16は、塗料27の流通方向の上流側が第7チューブ17の下流側に接続されている。また、第2〜4チューブ12〜14は、それぞれ下流側が第2〜4ノズル2〜4の流入口29に接続されている。そして、第2〜4チューブ12〜14は、それぞれ上流側が第6チューブ16の下流側に接続されている。第7チューブ17は、上流側が塗料タンクに接続されている。
【0025】
第1バルブ19は第1チューブ11に設けられている。第1バルブ19は、開状態となることで第1チューブ11内を塗料27が流通することを許容し、閉状態となることで第1チューブ11内を塗料27が流通することを禁止する。また、第1バルブ19は、開度を変更することにより、第1チューブ11内を流通する際の塗料27の流量を変更可能となっている。第2バルブ20は、開状態となることで第6チューブ16内を塗料27が流通することを許容し、閉状態となることで第6チューブ16内を塗料27が流通することを禁止する。また、第2バルブ20は、開度を変更することにより、第6チューブ16内を流通する際の塗料27の流量を変更可能となっている。第3バルブ21は、開状態となることで第5チューブ15内を塗料27が流通することを許容し、閉状態となることで第5チューブ15内を塗料27が流通することを禁止する。また、第3バルブ21は、開度を変更することにより、第5チューブ15内を流通する際の塗料27の流量を変更可能となっている。
【0026】
これらの第1〜3バルブ19〜21及び第1〜7チューブ11〜17の一部は、ケース33内に収容されている。なお、図1では、説明を容易にするため、ケース33を仮想線で示している。
【0027】
コントローラ23は、ケース33の外部に設けられている。コントローラ23は第1〜3バルブ19〜21と電気的に接続されている。コントローラ23は、第1〜3バルブ19〜21を制御することで、第1〜3バルブ19〜21を個別に開閉させるとともに、開度を調整可能となっている。
【0028】
また、図示を省略するものの、この塗布装置は、塗装ブース100内に設けられた移動機構に取り付けられている。これにより、移動装置は、塗装ブース100内で、前後方向に移動可能となっている。
【0029】
車両用ルーフパネル25は樹脂製であり、前後方向及び左右方向に延びる略矩形の板状に形成されている。図2及び図3に示すように、車両用ルーフパネル25は、上面と、上面の反対側に位置する下面とを有している。ここで、上面は、車両用ルーフパネル25が図示しない車体パネルに固定された際に車体パネルとともに車両の意匠を構成する。このため、車両用ルーフパネル25では、上面全体が塗料27の塗布を要求する被塗布面25aとされている。一方、下面は、車両用ルーフパネル25を車体パネルに固定するに当たって、車体パネルに接着等される。この際、塗料27の存在が接着等の妨げになり得ることから、下面は塗料27の塗布を禁止する塗布禁止面25bとされている。
【0030】
また、図1及び図2に示すように、車両用ルーフパネル25は、図示しないガラスルーフを配置させるための開口25cを有している。開口25cは、車両用ルーフパネル25の前側に位置しており、被塗布面25aから塗布禁止面25bまで貫通している。これにより、車両用ルーフパネル25において、開口25cが存在する箇所では、被塗布面25aが開口25cを挟んで左右に形成されることとなる。また、開口25cが存在する箇所では、開口25cが存在しない箇所に比べて、被塗布面25aの幅の長さが狭くなる。この車両用ルーフパネル25は、被塗布面25aを塗布板7側に向けた状態で、塗装ブース100内に設けられた図示しない塗装台に載置されている。
【0031】
以上のように構成された塗布装置では、作業者がコントローラ23を通じて第1〜3バルブ19〜21を制御可能である。ここで、第1〜3バルブ19〜21が全て開状態となれば、塗料タンクから第7チューブ17内を流通した塗料27が第1チューブ11を経て第1ノズル1に供給されるとともに、第5チューブ15を経て第5ノズル5に供給される。さらに、第7チューブ17内を流通した塗料27は、第6チューブ16から第2〜4チューブ12〜14を経て第2〜4ノズル2〜4にそれぞれ供給される。これにより、図1及び図3に示すように、第1〜5ノズル1〜5では、それぞれ吐出口31から塗料27が塗布板7の本体部7aに向けて吐出される。
【0032】
つまり、この塗布装置では、第1バルブ19が開状態となることで第1ノズル1の吐出口31において塗料27の吐出が許容され、第2バルブ20が開状態となることで第2〜4ノズル2〜4の各吐出口31において塗料27の吐出が許容される。また、第3バルブ21が開状態となることで第5ノズル5の吐出口31において塗料27の吐出が許容される。この際、第1、3バルブ19、21の各開度を調整することで、第1、5チューブ11、15を流通する塗料27の流量を変更できる。同様に、第2バルブ20の開度を調整することで、第6チューブ16を流通する塗料27の流量が変更され、ひいては、第2〜4チューブ12〜14を流通する塗料27の流量が変更される。こうして、この塗布装置では、第1〜5ノズル1〜5の各吐出口31から吐出される塗料27の流量を変更することができる。
【0033】
反対に、この塗布装置では、第1バルブ19が閉状態となれば、第1チューブ11から第1ノズル1に塗料27が供給されなくなり、第1ノズル1において吐出口31から塗料27の吐出が禁止される。同様に、第2バルブ20が閉状態となれば、第2〜4チューブ12〜14から第2〜4ノズル2〜4に塗料27がそれぞれ供給されなくなり、第2〜4ノズル2〜4において各吐出口31から塗料27の吐出が禁止される。また、第3バルブ21が閉状態となれば、第5チューブ15から第5ノズル5に塗料27が供給されなくなり、第5ノズル5において吐出口31から塗料27の吐出が禁止される。
【0034】
こうして、この塗布装置では、第1、5ノズル1、5では、個別に塗料27の吐出の許容と禁止とを切り替えることができるとともに、塗料27の流量を個別に変更することができる。一方、第2〜4ノズル2〜4では、塗料27の吐出の許容と禁止とを一体で切り替えることができるとともに、塗料27の流量を一体で変更することができる。
【0035】
そして、第1〜5ノズル1〜5の各吐出口31から吐出された塗料27は、本体部7aを流通することで、塗布板7の下端側へ案内される。こうして、塗布板7は、自己の下端から下方に向けて、すなわち、車両用ルーフパネル25の被塗布面25aに向けて塗料27を降下させる。これにより、塗料27は、塗布板7と回収桶9との間で、膜状をなして上下方向及び左右方向に所定の長さで延びる塗布膜270を形成する。この際、塗布膜270では、塗料27の表面張力により、下方に向かうにつれて左右方向の長さ、すなわち、塗布膜270の幅方向の長さが次第に短くなる。
【0036】
ここで、この塗布装置では、上記のように、第1〜5ノズル1〜5の全てから塗料27の吐出が許容される状態では、塗布板7の左右方向のほぼ全体に亘る幅の長さを有する1つの塗布膜270が形成される。この際の塗布膜270の幅の長さは、車両用ルーフパネル25の左右方向の長さ、つまり、車両用ルーフパネル25の幅方向の長さとほぼ等しくなる。
【0037】
これに対し、例えば、第2バルブ20のみを開状態から閉状態に切り替えれば、図2に示すように、第1、5ノズル1の各吐出口31のみから塗料27が吐出されるため、塗布板7の右側と左側とに離間する2つの塗布膜270が形成される。この際、塗布板7の右側に形成される塗布膜270は、第1ノズル1の吐出口31から吐出された塗料27のみによって形成される。このため、この場合の塗布膜270の幅の長さは、第1〜5ノズル1〜5の全てから塗料27の吐出が許容される状態に比べて短くなる。塗布板7の左側に形成される塗布膜270についても同様である。
【0038】
さらに、この状態で、例えば、第1バルブ19の開度を小さくする一方、第3バルブ21の開度を大きくすれば、第1ノズル1から吐出される塗料27の流量は減少し、反対に、第5ノズル5から吐出される塗料27の流量は増大する。このため、図4に示すように、この塗布装置では、塗布板7の右側に形成される塗布膜270の幅は長さL1となるのに対し、塗布板7の左側に形成される塗布膜270の幅は長さL1よりも長い長さL2となる。このように、この塗布装置では、塗布板7の右側に形成される塗布膜270と、塗布板7の左側に形成される塗布膜270とで、幅の長さを個別に調整することが可能となっている。なお、詳細な図示を省略するものの、この塗布装置では、第1、3バルブ19、21を閉状態とし、第2バルブ20のみを開状態とすることで、第2〜4ノズル2〜4の各吐出口31のみから塗料27が吐出される。このため、塗布板7の左右方向のほぼ中央に1つの塗布膜270を形成することができる。この際も、第2バルブ20の開度を調整することで、塗布膜270の幅の長さを調整することができる。また、第1、2バルブ19、20を開状態とし、第3バルブ21のみを閉状態とすることにより、第1〜4ノズル1〜4から塗料27が吐出されるため、塗布板7のやや右寄りに塗布膜270を形成することができる。さらに、第2、3バルブ20、21を開状態とし、第1バルブ19のみを閉状態とすることにより、第2〜5ノズル2〜5から塗料27が吐出されるため、塗布板7のやや左寄りに塗布膜270を形成することができる。
【0039】
そして、この塗布装置によって車両用ルーフパネル25の塗装を行うに当たっては、まず、作業者は、上記のように、第1〜5ノズル1〜5の吐出口31の全てから塗料27を吐出させることにより、塗布板7の左右方向のほぼ全体に亘る幅の長さを有する1つの塗布膜270を形成する。次に、この状態で図1の白色矢印で示すように、移動機構によって、塗布装置を車両用ルーフパネル25の後方に相対移動させる。このため、車両用ルーフパネル25が塗布膜270内を通過する。これにより、車両用ルーフパネル25では、被塗布面25aに対して前側から次第に塗料27が塗布される。
【0040】
こうして、被塗布面25aに塗料27塗布しつつ、塗布装置が車両用ルーフパネル25の後方に相対移動すれば、車両用ルーフパネル25において、開口25cが形成された部分が塗布膜270に差し掛かる。この場合には、図2に示すように、作業者は、第2バルブ20を閉状態に切り替えることで、第1、5ノズル1の各吐出口31のみから塗料27を吐出させる。これにより、開口25cを避けるように、塗布板7の右側と左側とに塗布膜270が形成される。こうして、車両用ルーフパネル25が2つの塗布膜270内を通過する。これにより、開口25cの右側に位置する被塗布面25aは、塗布板7の右側に位置する塗布膜270を通過することで塗料27が塗布される。同様に、開口25cの左側に位置する被塗布面25aは、塗布板7の左側に位置する塗布膜270を通過することで塗料27が塗布される。この際、作業者は、第1、3バルブ19、21の各開度を調整して第1、5ノズル1、5から吐出される塗料27の各流量を調整することで、各被塗布面25aの幅の長さに対応するように、各塗布膜270の幅の長さを調整する。これにより、各被塗布面25aに接触せずに開口25c内を通過する塗布膜270、すなわち、各被塗布面25aに塗布されない塗料27の量を可及的に少なくする。
【0041】
そして、塗布装置が車両用ルーフパネル25の後方へさらに相対移動し、開口25cの周囲の被塗布面25aに対する塗料27の塗布が完了すれば、図3に示すように、作業者は、再び第2バルブ20を開状態に切り替え、第1〜5ノズル1〜5の各吐出口31から塗料27を吐出させることで、塗布板7左右方向のほぼ全体に亘る幅の長さを有する1つの塗布膜270を再び形成する。そして、この塗布膜270内を車両用ルーフパネル25が通過することより、開口25cの後方に位置する被塗布面25aに塗料27が塗布される。こうして、被塗布面25aの全てに塗料27が塗布され、車両用ルーフパネル25の塗装が完了する。
【0042】
このように、この塗布装置では、第1〜3バルブ19〜21及びコントローラ23が第1〜5ノズル1〜5に対し、塗料27の吐出を許容する場合と禁止する場合とを切り替えることにより、塗布板7で塗布膜270が形成される際の幅方向の長さを調整できる他、塗布膜270が形成される位置を調整することができる。このため、この塗布装置では、車両用ルーフパネル25において、被塗布面25aが左右に離間して形成される場合を含め、種々の形状の被塗布面25aに対して、塗布膜270の幅方向の長さや塗布膜270の位置を対応させ易くなっている。また、この塗布装置では、車両用ルーフパネル25が開口25cを有していても、その開口25cを避けるように塗布膜270の幅の長さや塗布膜270の位置を調整することができる。このため、被塗布面25aに塗布されずに回収桶9で回収される塗料27の量を可及的に少なくすることができる。この結果、この塗布装置では、回収桶9の内部で跳ね返った塗料27が車両用ルーフパネル25の塗布禁止面25bに付着することを好適に防止でき、塗装が終了した後の車両用ルーフパネル25の品質が低下し難くなっている。
【0043】
したがって、実施例1の塗布装置によれば、種々の形状に形成された被塗布面25aを有する車両用ルーフパネル25に対し、好適に塗料27を塗布可能である。
【0044】
特に、この塗布装置では、第1〜3バルブ19〜21の開度を調整することにより、第1〜5ノズル1〜5の各吐出口31から吐出される塗料27の流量を変更可能である。このため、この塗布装置では、塗布膜270の幅の長さを好適に調整することが可能となっている。
【0045】
(実施例2)
実施例2の塗布装置では、実施例1の塗布装置における塗布板7に換えて、図5に示す塗布板35を備えている。塗布板35は、本体部35aと、第1〜10幅規制部35b〜35kとを有している。本体部35aは、上記の本体部7aと同様、上下方向及び左右方向に延びる矩形状に形成されている。
【0046】
第1〜10幅規制部35b〜35kは、いずれも同一の構成であり、塗布板35の下方に向かって延びる略三角形状に形成されている。第1〜10幅規制部35b〜35kは、本体部35aの下端と連続しており、等間隔で左右方向に配列されている。なお、第1〜10幅規制部35b〜35kの個数は適宜設計可能である。この塗装装置における他の構成は実施例1の塗装装置と同様であり、同一の構成については同一の符号を付して構成に関する詳細な説明を省略する。
【0047】
図6に示すように、この塗布装置では、第1〜5ノズル1〜5の吐出口31から吐出された塗料27は、本体部35aによって第1〜10幅規制部35b〜35kに案内される。そして、塗料27は、塗布板35の下方に向かって第1〜10幅規制部35b〜35kを流通し、第1〜10幅規制部35b〜35kの各下端から降下することで、複数の塗布膜270を形成する。この際、第1〜10幅規制部35b〜35kが塗布板35の下方に向かって延びる略三角形状であることから、第1〜10幅規制部35b〜35kは、各下端に向けて塗料27を次第に左右方向に収縮させることで、各塗布膜270の幅を規制する。この結果、この塗布装置では、実施例1の塗布装置に比べて、各塗布膜270の幅を狭く形成することができる。このため、この塗布装置では、被塗布面25aの幅がより狭く形成されていても、各塗布膜270の幅の長さを対応させることができる。
【0048】
また、この塗布装置では、第1〜10幅規制部35b〜35kが同一の形状であることから、形成される各塗布膜270の幅の長さをほぼ均一にすることができる。さらに、この塗布装置では、第1〜10幅規制部35b〜35kが等間隔で左右方向に整列していることから、各塗布膜270は左右方向に等間隔で形成される。そして、この塗布装置では、第1〜3バルブ19〜21の開閉を切り替えることにより、形成される塗布膜270の数及び塗布板35における各塗布膜270の位置を変更することができる。また、第1〜3バルブ19〜21の開度を調整することにより、各塗布膜270の幅の長さをより細かく調整することができる。この塗布装置における他の作用は、実施例1の塗布装置と同様である。
【0049】
(実施例3)
実施例3の塗布装置では、実施例1の塗布装置における塗布板7に換えて、図7に示す塗布板37を備えている。塗布板37は、本体部37aと、第1、2幅規制部37b、37cとを有している。本体部37aも、上記の本体部7aと同様、上下方向及び左右方向に延びる矩形状に形成されている。
【0050】
第1、2幅規制部37b、37cは左右対称の形状である。第1、2幅規制部37b、37cは、塗布板35の下方に向かって一定の幅で延びた後、下方に向かって幅が次第に狭くなる形状に形成されている。つまり、第1幅規制部37bの下端では、右端面が左端面に次第に近づくことで幅が次第に狭くなる。そして、第2幅規制部37cの下端では、左端面が右端面に次第に近づくことで幅が次第に狭くなる。
【0051】
第1幅規制部37bは、本体部37aの右下端と連続しており、第2幅規制部37cは、本体部37aの左下端と連続している。これにより、塗布板37において、第1幅規制部37bと第2幅規制部37cとは左右方向に離間して配置されている。そして、この塗布板37では、本体部37aと、第1幅規制部37bと、第2幅規制部37cとの間に凹部37dが形成されている。この塗装装置における他の構成は実施例1の塗装装置と同様である。
【0052】
図8に示すように、この塗布装置では、第1〜5ノズル1〜5の吐出口31から吐出された塗料27のうち、本体部37aの右側を流通する塗料27は、本体部37aから第1幅規制部37bに案内されて第1幅規制部37bを下方に向かって流通する。同様に、本体部37aの左側を流通する塗料27は、本体部37aから第2幅規制部37cに案内されて第2幅規制部37cを下方に向かって流通する。そして、第1、2幅規制部37b、37cのいずれにも案内されなかった塗料27は、本体部37aの下端に至った後、自己の表面張力により、第1、2幅規制部37b、37cを流通する塗料27とともに凹部37d内で塗布膜270を形成する。ここで、この塗布膜270では、右端及び左端がそれぞれ第1、2幅規制部37b、37cの各下端の形状に沿いつつ第1、2幅規制部37b、37cを流通することにより、第1、2幅規制部37b、37cによって幅の長さが規制される。こうして、この塗布装置では、実施例1の塗布装置に比べて、塗布膜270の幅の長さをより詳細に調整することが可能となっている。この塗布装置における他の作用は実施例1の塗布装置と同様である。
【0053】
以上において、本発明を実施例1〜3に即して説明したが、本発明は上記実施例1〜3に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【0054】
例えば、実施例1〜3の塗布装置では、第2バルブ20によって、第2〜4ノズル2〜4において塗料27の吐出が許容される場合と禁止される場合とを一体で切り替えるとともに、第2〜4ノズル2〜4から吐出される塗料27の流量を一体で調整している。しかしこれに限らず、第2〜4ホース12〜14にそれぞれバルブを設けることにより、第2〜4ノズル2〜4においても、塗料27の吐出が許容される場合と禁止される場合と個別に切り替え可能とするとともに、各吐出口31から吐出される塗料27の流量を個別に調整可能となるように構成しても良い。
【0055】
また、実施例1〜3の塗布装置では、第1〜5ノズル1〜5を備えているが、これに限らず、第1〜3ノズル1〜3のみを備える構成としたり、第1〜5ノズル1〜5の他に、ノズルをさらに備える構成としたりしても良い。
【0056】
さらに、実施例1〜3の塗布装置を塗装ブース100内で固定する一方、車両用ルーフパネル25を塗装ブース100内で前後方向に移動させることで、塗布装置が車両用ルーフパネル25を相対移動する構成としても良い。
【0057】
また、実施例1〜3の塗布装置において、車両用ルーフパネル25における被塗布面25aの位置や形状を検出可能な検出手段を設けることにより、検出手段が検出した被塗布面25aの位置や形状に基づいて、第1〜3バルブ19〜21における開状態と閉状態との切り替えや各開度の調整を自動で行うように構成しても良い。
【0058】
さらに、実施例1〜3の塗布装置において、第1〜5ノズル1〜5がコーティング剤等を吐出する構成としても良い。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は自動塗装装置等に利用可能である。
【符号の説明】
【0060】
1〜5…第1〜5ノズル(ノズル)
7…塗布板
7a…本体部
19〜21…第1〜3バルブ(制御手段)
23…コントローラ(制御手段)
25…車両用ルーフパネル(ワーク)
25a…被塗布面
25b…塗布禁止面
25c…開口
35…塗布板
35a…本体部
35b〜35k…第1〜10幅規制部(幅規制部)
37…塗布板
37a…本体部
37b、37c…第1、2幅規制部(幅規制部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8