(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
他の治療がコルチコステロイドおよび/または長時間作用型若しくは短時間作用型のβ−アドレナリン作動薬および/またはロイコトリエンを含む、請求項9に記載の医薬製剤。
前記化合物が、喘息または慢性閉塞性肺疾患(COPD)の他の療法と組み合わせられ、この併用療法は、同じ吸入器または複数の吸入器で行われる、請求項11に記載の薬物送達装置。
【発明を実施するための形態】
【0029】
下記式(I)の化合物は、好ましくは、以下の特徴を有する。
【0031】
R1およびR2は、同じであっても異なっていてもよく、C1〜C4直鎖または分枝鎖アルキル基を表す。好ましくは、R1およびR2はメチル、エチルまたはイソプロピルであり、最も好ましくはR1およびR3は同じであり、メチルまたはイソプロピルである。他の適切な基として、n−ブチルおよびt−ブチルがある。
R3は、生体組織中で除去され得るプロドラッグ部分または水素を表す。好ましくは、R3は、6−酸素と一緒になってエステル基を形成する。R3は1〜12個の炭素原子、好ましくは1〜6個の炭素原子を有していてもよく、1以上のアミンまたは酸素原子を含んでいてもよい。6−酸素と一緒になる適切な基は、エチル−エステル、ブチル−エステル、ベンゾイル−エステル、または1以上のアミノ酸のエステル(ここで、アミノ基は炭素数1〜4のアルキルカルボン酸でアミド化されている)を含む。好ましい1つの実施形態では、R3は水素である。
nは0または1であってもよく、好ましくは1である。
R4は1〜20個の炭素原子と少なくとも1個の窒素原子を含む基である。R4はさらなる窒素原子、1個以上の酸素原子、ハロゲン、硫黄または燐原子を含んでいてもよく、そして、R4は芳香族基を含んでいてもよい。
R4の分子量は、好ましくは300Da未満である。
好ましくは、式(I)の化合物は、500Da未満の分子量を有する。
好ましくは、式(I)の化合物は、芳香族複素環を含まない。
好ましくは、R4はカルボニル基を含み、最も好ましくは、トロロックス部分に結合したカルボニル基を含む。
1つの好ましい実施形態では、R4は−CO−N−R5であり、ここでC=Oはトロロックス(trolox)部分に結合し、R5は窒素または酸素で置換されていてもよいアルキル基であり、アルキル基は、1〜12個の炭素原子を含み、窒素はアミン、第四級アミン、グアニジンまたはイミンであってもよく、酸素はヒドロキシル、カルボニルまたはカルボン酸であってもよい。酸素および窒素は、一緒になって、アミド、尿素またはカルバメート基を形成し得る。
R5におけるアルキル基は、直鎖状、分岐状または環状であってもよく、好ましくは少なくとも1つの環状構造を含む。
【0032】
式(I)によって表される化合物は、既知の化学合成に従って製造することができる。
例えば、グアニジン基を有する化合物、またはアルキル基を介してトロロックス部分に結合したピペラジン基は、欧州公報第202580号に記載されている。6−酸素が保護され、合成後に遊離されるか、またはプロドラッグ部分で保護される、同様の合成方法を使用することができる。
例えば、置換基としてニコチネート基を有する化合物は、米国特許第461890号に記載されている。トロロックス部分の6−酸素に結合したニコチネートは、プロドラッグ部分として作用することができ、インビボで加水分解されて遊離ヒドロキシル基となる。
例えば、適切な化合物は、国際公開WO88/08424、実施例18−23および78−164に記載されている。
例えば、適切な化合物は、ベンゾイル基が除去されるか、またはプロドラッグ部分として作用し得る、国際公開WO97/41121の製剤1,6,7,12〜15,21,24および27に記載されている。
更なる化合物が、例えば、国際公開WO03/024943(化合物9−11,25−28,109−112,119−122など)に記載されている。
例えば、第四級アンモニウム基を有する化合物は、実施例に合成の説明を含めて、国際公開WO2014/011047に記載されている。
【0033】
本発明の化合物は、予想外に、COPDまたは喘息などの慢性閉塞性気道疾患に対して活性である。
【0034】
本発明の化合物は、好ましくはトロロックスと同程度またはそれ以下のトロロックス酸化当量を有するが、細胞損傷を防止するそれらの活性は実質的に改善されている。
【0035】
本化合物が肺を標的とすることを考慮すると、吸入は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、喘息または気管支拡張症のような慢性閉塞性気道疾患、特に慢性閉塞性肺疾患(COPD)の現在の治療に使用される最も好ましい投与経路である。吸入された化合物は迅速に吸収され、局所的および全身的に作用することができる。正しい用量を得るためには、吸入装置を用いた適切な技術が必要となるので、別の態様によれば、本発明は、本化合物、または吸入に適した製剤の中に活性成分もしくはその薬学的に許容される塩もしくは塩基を含むネブライザーのような吸入器としての薬物送達装置に関する。
【0036】
吸入器または呼吸器は、肺を介して薬物を身体に送達するために使用される医療装置である。吸入器は、一般に、喘息および慢性閉塞性肺疾患(COPD)の治療に使用されている。口腔および咽喉の沈着を低減し、吸入開始を装置の作動に正確に同期させる必要性を低減するために、MDIは相補的なスペーサまたは保持チャンバ装置とともに使用されることがある。吸入器のタイプとして、定量吸入器、乾燥粉末吸入器および噴霧器がある。
【0037】
最も一般的なタイプの吸入器は、加圧式定量吸入器(MDI)である。MDIにおいて、薬物は、推進薬を含む加圧キャニスター内に溶液として保存されている(懸濁液として保存されている場合もある)のが最も一般的である。MDIキャニスターは、プラスチックの手動操作式アクチュエータに取り付けられている。活性化されると、定量吸入器は、エアロゾル形態の一定量の投薬を放出する。エアロゾル化された薬物は、肺の気管支および他の気道の壁にエアロゾルが付着するように、深く吸入し続けた後に息を約10秒間止めることで肺に吸い込まれる。
【0038】
乾燥粉末吸入器またはDPIは、DPI装置を介して吸入される粉剤(薬物)の定量または装置測定量(装置によって測定された容量)を放出する。ネブライザーは、水性製剤から生成されたエアロゾルとして薬剤を供給する。
【0039】
本発明の化合物は、吸入に適した形態に製剤化される。好ましい実施形態によれば、薬物の空気力学的直径範囲は、0.5〜8μm、より好ましくは1〜5μmである。この範囲において、薬剤は粒子の動的挙動に関係し、エアロゾルデポジションの主なメカニズムを示すので、最も効率的に吸収される。重力沈降と慣性衝突の両方は空気力学的直径に依存する。製剤は、必ずではないが、賦形剤をさらに含んでいてもよい。適切な賦形剤には、ラクトース、グルコースおよびマンニトールが挙げられ、その中ではラクトースが好ましい。
【0040】
吸入用の薬剤の調製は、例えば、文献[Respiratory Care(2005)50:1209−1227]に記載されているように、公知である。MDIの場合、噴射剤を有し、界面活性剤を有していてもよい。
【0041】
吸入器を作動させるたびに投与される本発明に係る化合物の量は、約1mmol以下、好ましくは約0.3mmol以下である。この化合物の分子量は、概して400g/mol未満であり、これは、作動させるたびに投与される量が約200mg以下、好ましくは約100mg以下であることを意味する。一般に、本発明の化合物の量は、1μmol以上、好ましくは約10μmol以上である。一般に、化合物の量は約100μg以上であろう。
【0042】
本発明の化合物は、上記のような喘息またはCOPDの他の既知の療法と組み合わせる(併用する)ことができる。特に、本発明の化合物は、コルチコステロイドおよび/または長時間作用型または短時間作用型のβ−作動薬および/またはロイコトリエンと併用することができる。この併用療法は、同じ吸入器または複数の吸入器で行うことができる。
【0043】
以下の実施例を用いて本発明をさらに説明する。実施例では、図面を参照する。
【0044】
実施例1
化合物の合成
本発明の化合物は、当業者に周知の標準的な合成方法に従って合成することができる。SUL−0083、SUL−0084およびSUL−0085は市販されている。以下の表1(本発明の一部の化合物)は、本明細書で使用される本化合物の互換的な任意の標識(コード)として本化合物の概要を提供する。
【0046】
SUL089−112、114−117、120−126、128−130、132、134−135、138および140の合成
アミド形成のための標準的なカップリング試薬、例えばHATUおよびCDIの存在下での適切なアミンとの反応によって、トロロックス(Trolox)のアミド化を行った。形成されたアミドをBH
3で還元して、対応するアミンを調剤した。ヒドロキサム酸誘導体は、ヒドロキシルアミン/CDIとの反応によって調製した。トロロックスのカルボヒドラジド類似体の合成は、(置換)ヒドラジンとの反応によって行われた。エナンチオマー/ジアステレオマー化合物は、エナンチオマー的に純粋な(R)−または(S)−トロロックスから出発して調剤するか、またはキラルクロマトグラフィーによって調製した。
【0048】
SUL−118、SUL−119およびSUL−146の合成
サルコミン(salcomine)、サレン(salen)配位子とコバルトとの配位錯体を用いて市販のプロポフォール(propofol)を酸化した後に、NaBH
4で還元することで2,6−ジイソプロピルベンゼン−1,4−ジオールを得た。その後、HCO/SnCl
2/HClを用いたメチル化およびメタクリル酸メチルとの反応により、SUL−146(メチル6−ヒドロキシ−5,7−ジイソプロピル−2,8−ジメチルクロマン−2−カルボキシレート)を得た。LiOHで加水分解して、カルボン酸SUL−118(6−ヒドロキシ−5,7−ジイソプロピル−2,8−ジメチルクロマン−2−カルボン酸)を得た。アルコールSUL−119(2−(ヒドロキシメチル)−5,7−ジイソプロピル−2,8−ジメチルクロマン−6−オール)は、SUL−146をLiAlH
4で還元することで得た。
【0050】
SUL−131、SUL−133、SUL137およびSUL−146の合成
カルボン酸SUL−118(6−ヒドロキシ−5,7−ジイソプロピル−2,8−ジメチルクロマン−2−カルボン酸)から出発し、カップリング試薬としてCDIを用いてヒドロキシルアミンと反応させて、そのヒドロキシルアミンを得た。化合物SUL133((6−ヒドロキシ−5,7−ジイソプロピル−2,8−ジメチルクロマン−2−イル)(4−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン−1−イル)メタノン)およびSUL137((6−ヒドロキシ−5,7−ジイソプロピル−2,8−ジメチルクロマン−2−イル)(ピペラジン−1−イル)メタノン)を、SUL−118と適切なピペラジン誘導体との反応により調製した。カップリング試薬HATUおよびCDIの両方は満足のいく収率をもたらした。SUL139(2−(4−(6−ヒドロキシ−5,7−ジイソプロピル−2,8−ジメチルクロマン−2−カルボニル)ピペラジン−1−イル)酢酸は、グリオキサル酸を用いたSUL137((6−ヒドロキシ−5,7−ジイソプロピル−2,8−ジメチルクロマン−2−イル)(ピペラジン−1−イル)メタノン)の還元的アミド化によって調製した。
【0052】
SUL−136、SUL−141およびSUL−142の合成
N
2雰囲気下でのSUL−140(エチル2−(4−(6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボニル)ピペラジン−1−イル)酢酸の加水分解により、SUL−136(2−(4−(6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボニル)ピペラジン−1−イル)酢酸)を高収率で得た。エナンチオマー、SUL−141およびSUL−142は、上記の条件に従って調製した。
【0054】
SUL143,144および145の合成
カラムクロマトグラフィー後に、(S)−メチルピロリジン−2−カルボキシラート(L−プロリンメチルエステル)でトロロックスをアミド化し、カラムクロマトグラフィーの後に2つのジアステレオ異性体を得た。続いて個々のジアステレオ異性体を加水分解して、SUL−144((2S)−1−(6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボニル)ピロリジン−2−カルボン酸、ジアステレオマー1)およびSUL−145((2S)−1−(6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボニル)ピロリジン−2−カルボン酸、ジアステレオマー2)を得た。ラセミ類似体、SUL−143((2S)−1−(6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボニル)ピロリジン−2−カルボン酸)は、個々のジアステレオ異性体のエステルを混合した後に、LiOHを用いてエステル部分を加水分解することにより得られた。
【0056】
トロロックスのアミド化(一般的な例)
SUL−108((4−ブチルピペラジン−1−イル)(6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−イル)メタノン)HCl
トロロックス(11g、0.044mol、1当量)をアセトニトリル(100−150ml)に懸濁させた。CDI(8.6g、0.053mol、1.2当量)を少しずつ加えた。反応混合物を室温で0.5〜1時間攪拌した。1−ブチルピペラジン(6.9g、0.048mol、1.1当量)を添加した後に、反応混合物を25−30℃で週末にかけて撹拌した。反応混合物を濃縮し、H
2O(200ml)を加え、水層をEtOAcで抽出した(4×)。合わせた有機層を乾燥させ、濾過し、濃縮した。得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィー(DCM/10%MeOH)により精製して、目的とした化合物(9gの生成物、純度82%)を得た。EtOAc/ヘプタンから結晶化して、SUL−108(6g、0.016mol、収率36%、純度90%)を白色固体として得た。得られた物質をDCM(50−100ml)に溶解した。HCl(ジオキサン中4M、8.8ml、0.0035mol、2.2当量)を加え、反応混合物を室温で週末にかけて撹拌した。混合物を濾過し、DCMですすぎ、乾燥させて、SUL−108のHCl塩(6.3g、純度97−98%)を白色固体として得た。
1H-NMR (CDCl
3, ppm): 0.93 (t, 3H), 1.38 (m, 2H), 1.58 (s, 3H), 1.67 (m, 2H), 2.09 (s, 3H), 2.12 (s, 3H), 2.15 (s, 3H), 2.50-3.20 (m, 14H). M
+ = 375.3
【0057】
トロロックスアミドの還元(一般例)
SUL−128(2−(((S)−2−(ヒドロキシメチル)ピロリジン−1−イル)メチル)−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−6−オール)HCl
THF中のBH
3.THF(16ml、0.0156mol、2当量)をT=0℃に冷却した。THF(50ml)中SUL−112((6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−イル)((S)−2−(ヒドロキシメチル)ピロリジン−1−イル)メタノン;2.6g、0.0078mol、1当量)の溶液を滴下し、反応混合物を1時間還流し、室温に一晩冷却した。反応混合物を氷浴上で冷却し、HCl(6M、25ml)を滴下した。DCM(100ml)を加え、層を分離した。水層をDCMで抽出した(3×)。合わせた有機層を、ガス形成がもはや確認されなくなるまで、K
2CO
3上で乾燥させた。有機相を濾過し、濃縮した。粗生成物を氷浴上で冷却し、NaOH(6M、50ml)を滴下した。添加後、反応混合物を1時間撹拌し、DCMで抽出した(4×)。合わせたDCM層を乾燥させ、濾過し、濃縮して1.6gの粗生成物(20−40%純度)を得た。該物質をカラムクロマトグラフィーで精製して、SUL−128(300mg、0.94mmol、収率12%、純度90%)を得た。これをDCM(10ml)に溶解し、T=0℃(氷浴)に冷却した。HCl(ジオキサン中4M、0.3ml、0.94mmol、1.2当量)を加え、反応混合物を室温で一晩撹拌した。形成された固体を濾過し、Et
2Oで洗浄し、乾燥させて、SUL−128のHCl塩(300mg、純度90%)を白色固体(ジアステレオマーの混合物)として得た。
1H-NMR (CDCl
3, ppm): 1.20-1.90 (m, 7H), 2.12 (s, 6H), 2.17 (s, 3H), 2.20-2.90 (m, 9H), 3.4-3.65 (m, 2H). M
+ = 320.1
【0058】
SUL−118(6−ヒドロキシ−5,7−ジイソプロピル−2,8−ジメチルクロマン−2−カルボン酸)の合成
2,6−ジイソプロピルシクロヘキサ−2,5−ジエン−1,4−ジオンの合成
プロポフォール(100g、561mmol)をDMF(250mL)に溶解した。溶液を攪拌しながら0℃に冷却した。サルコミン(16.6g、51mmol;9mol%)を加え、得られた反応混合物を室温に加温しながら112時間連続して撹拌した。反応混合物を水(7L)の中に注いだ。得られたスラリーをヘプタン(5×1L)で抽出した。合わせた有機抽出物をNa
2SO
4で乾燥させた。この溶液を真空下で濃縮して粗2,6−ジイソプロピルシクロヘキサ−2,5−ジエン−1,4−ジオン(62.5g、325mmol、58%収率)を油状物として得た。生成物をさらに精製することなく次の工程で使用した。
【0059】
2,6−ジイソプロピルベンゼン−1,4−ジオールの合成
粗2,6−ジイソプロピルシクロヘキサ−2,5−ジエン−1,4−ジオン(62.5g、325mmol)をジクロロメタン(300mL)およびメタノール(100mL)に溶解した。溶液を氷浴で0℃に冷却した。水素化ホウ素ナトリウム(4.5g、182mmol)を少しずつ加えた。その添加が完了した後に、反応混合物を室温で一晩撹拌した。アセトン(150mL)を加えて過剰量の水素化ホウ素ナトリウムを急冷した。30分間撹拌した後に、2NのHCl水溶液(200mL)を添加した。45分間攪拌した後に、混合物を酢酸エチルで抽出した(4×400mL)。合わせた有機層をNa
2SO
4で乾燥させた。溶液を真空下で濃縮して、定量的収率の粗2,6−ジイソプロピルベンゼン−1,4−ジオール(64g、330mmol)を赤色油状物として得た。生成物をさらに精製することなく次の工程で使用した。
【0060】
3,5−ジイソプロピル−2−メチルベンゼン−1,4−ジオールの合成
2,6−ジイソプロピルベンゼン−1,4−ジオール(64g、0.33mol)、パラホルムアルデヒド(9.8g、0.327mol)、SnCl
2(217.9g、1.15mol)、37%のHCl濃縮水溶液(0.6L)およびジイソプロピルエーテル(2.5L)の混合物を4時間加熱還流した。一晩室温に冷却した後に、二相混合物を分離した。水層をTBME(2000mL)で抽出した。合わせた有機画分を1NのHCl水溶液(1000mL)、水(1000mL)および塩水(1000mL)で洗浄した。有機画分をNa
2SO
4で乾燥させ、真空下で濃縮して、3,5−ジイソプロピル−2−メチルベンゼン−1,4−ジオールと、2,6−ジイソプロピル−3,5−ジメチルベンゼン−1,4‐ジオールとの50:35混合物(61gの油状物)を得た(GCMS分析に基づく)。酢酸エチル/ヘプタン=97.5:2.5(4000mL)、95:5(4000mL)で溶離するシリカゲル(1200mL)のクロマトグラフィーにより精製して、3,5−ジイソプロピル−2−メチルベンゼン−1,4−ジオール6(16.6g、79.8mmol、24%、純度83%)を油状物として得た。
【0061】
メチル6−ヒドロキシ−5,7−ジイソプロピル−2,8−ジメチルクロマン−2−カルボキシレートの合成
メチルメタクリレート(20mL、186mmol)に3,5−ジイソプロピル−2−メチルベンゼン−1,4−ジオール(10.6g、50.9mmol、純度83%)を溶解した。その溶液をBerghof反応器内のテフロン(登録商標)管に移した。ホルムアルデヒド水溶液(10mL;10−15%のMeOHで安定化した37重量%の溶液)を添加し、密閉反応器中で反応混合物を攪拌しながら180℃(内部温度)に5時間加熱した。約40℃まで冷却した後に、反応混合物をMeOH(200mL)に注ぎ、混合物を真空下で濃縮した。酢酸エチル/ヘプタン=95:5(5000mL;TLC:R〜0.2;ヨウ素蒸気でスポット染色)で溶離するシリカゲル(600mL)のクロマトグラフィーにより精製して、所望の純粋な生成物、6−ヒドロキシ−5,7−ジイソプロピル−2,8−ジメチルクロマン−2−カルボキシラート(10.0g、31.3mmol、61%)を得た。
【0062】
6−ヒドロキシ−5,7−ジイソプロピル−2,8−ジメチルクロマン−2−カルボン酸(SUL−118)の合成
MeOH(100mL)、THF(100mL)および水(25mL)中精製メチル6−ヒドロキシ−5,7−ジイソプロピル−2,8−ジメチルクロマン−2−カルボキシラート(8.3g、25.9mmol)および水酸化リチウム一水和物(4.3g、102.5mmol、4当量)の混合物を、60℃の温水浴中で、回転蒸発器で回転させながら、周囲圧力で30分間加熱した。有機溶媒を真空下で蒸発させた。水(150mL)を残渣に加えた後に、酢酸(10mL)を加えた。淡い橙色の混合物が得られた。酢酸エチルで抽出し(3×100mL)、合わせた有機画分をNa
2SO
4で乾燥し、減圧下で濃縮して、粗生成物を橙色の固体として得た。固体をtBME(150mL)と共に撹拌した。ベージュ色の固体が沈殿し、橙色の溶液が得られた。ヘプタン(250mL)を加え、混合物を15分間撹拌した。混合物をガラスフィルターで濾過した。残留固体をフィルター上で、ヘプタン(2×50mL)で吸引洗浄した。60℃、真空下で固体を乾燥して、純粋な6−ヒドロキシ−5,7−ジイソプロピル−2,8−ジメチルクロマン−2−カルボン酸(SUL−118)を灰白色の固体として得た(3.1g、10.13mmol;39%、100%純度)。
1H-NMR (CDCl
3, ppm): 1.38 (t, 12 H), 1.52 (s, 3H), 1.87 (m, 1H), 2.20 (s, 3H), 2.30 (m, 1H), 3.20 (m, 1H), 3.38 (m, 1H). M+ = 307.10
【0063】
SUL119(2−(ヒドロキシメチル)−5,7−ジイソプロピル−2,8−ジメチルクロマン−6−オール)の合成
THF(12mL)中メチル6−ヒドロキシ−5,7−ジイソプロピル−2,8−ジメチルクロマン−2−カルボキシラート(500mg、1.56mmol)の溶液を、ゴム隔膜を介してシリンジで5分間かけてLiAlH
4(238mg、6.26mmol、4当量)に加え、室温で撹拌しながら、不活性窒素雰囲気下で、乾燥した3つ口丸底フラスコの中で予め秤量した。エステルの発熱的添加はガス発生を伴った。添加が完了した後に、得られた灰色の懸濁液を加熱還流した。3時間後に、加熱を停止し、EtOAc(6mL;発熱性)を滴下して反応を急冷させた。水(5mL)を少量ずつ加え、続いて2NのHCl(2mL)を、続いてEtOAc(25mL)を加えた。混合物をNa
2SO
4(約50g)に注ぎ、やや黄色の有機層を二相混合物から分離した。水相をEtOAc(50mL)で洗浄し、合わせた有機画分を減圧下で濃縮して、粗アルコール(530mg)を透明油状物として得た。ヘプタン(100mL)を加え、真空下で濃縮した後に、2−(ヒドロキシメチル)−5,7−ジイソプロピル−2,8−ジメチルクロマン−6−オール(248mg、0.85mmol、54%、LCMS:95.5%純度)を得た。
M+ = 293.2
【0064】
SUL139(2−(4−(6−ヒドロキシ−5,7−ジイソプロピル−2,8−ジメチルクロマン−2−カルボニル)ピペラジン−1−イル)酢酸の合成
SUL−137(440mg、1.17mmol、1当量)をMeOH(50ml)に溶解し、グリオキサル酸(216mg、2.35mmol、2当量)を添加した。得られた混合物を室温で1時間撹拌し、続いてNaBH
3CN(183mg、2.94mmol、2.5当量)を添加した。反応混合物を室温で一晩撹拌した。酢酸(数ml)を加え、室温で0.5〜1時間撹拌した後に、反応混合物を濃縮した。得られた残渣をEtOAcに溶解し、H
2Oで洗浄し(2×)、乾燥し、濾過し、濃縮して、SUL−139(500mg、1.16mmol、98%、91−92%純度)を淡黄色固体として得た。
1H-NMR (CD
3OD, ppm): 1.33 (dd, 12H), 1.59 (s, 3H), 1.62 (m, 1H), 2.09 (s, 3H), 2-5-3.0 (m, 7H), 3.1-3.6 (m, 4H), 3.81 (bs, 2H), 4.28 (bs, 2H). M
+ = 433.2.
【0065】
SUL136(2−(4−(6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボニル)ピペラジン−1−イル)酢酸)
2つの隔膜(左および右)および栓を備えた250mlの三ツ口フラスコに、SUL−136(15.5g、38.4mmol)およびTHF/水(240mlのTHF+80mlの水)を入れた。透明な溶液を、左隔膜を介して長いシリンジ針を設けた入口チューブ(短い針を設けた右隔膜は出口として機能した)を用いたアルゴンバブリング(argon−bubbling)により少なくとも30分間撹拌、脱気した。(アルゴン下で維持した)脱気した溶液を氷浴中で0℃に冷却し、固体無水LiOH(2.3g、96mmol、2.5当量)を一度に加えた。得られた反応混合物を0℃で2時間撹拌した後に、Dowex−50WX8−200イオン交換樹脂のMeOH/水(3/1、v/v)スラリーを加えることで中和した。最終pHは約6であった。Dowex樹脂を吸引濾過し、MeOH/水(3/1、v/v)で3回すすいだ。濾液を減圧下で除去し、ぬれた生成物に約100mlの水を加えた。得られた白色の水性懸濁液を一晩凍結乾燥して、SUL−136(13.48g、93%、LCMS:99.6%)を白色固体として得た。
1H-NMR (CD3OD, ppm)): 1.60 (s, 3H), 1.65 (m, 1H), 2.05 (s, 3H), 2.10 (s, 6H), 2.55 (m, 2H), 2.62 (m, 1H), 3.0, (bs, 4H), 3.40 (bs, 2H), 3.65 (bs, 2H), 4.25 (bs, 2H). M+ = 377.1
【0066】
SUL144((2S)−1−(6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボニル)ピロリジン−2−カルボン酸)の合成
(2S)−メチル1−(6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボニル)ピロリジン−2−カルボキシレート(ジアステレオマー1、3.5g、9.7mmol)をTHF/H
2O(60/20mL)に溶解した。溶液にN
2を1時間吹き込んだ。混合物を氷浴で冷却し、LiOH.H
2O(1.01g、24.2mmol、2.5当量)を添加した。反応混合物を室温、N
2下で一晩撹拌した。pH=6になるまでDowex−50WX8−200(MeOH/H
2O(3:1)で4回洗浄したもの)をMeOH/H
2O(3:1)中のスラリーとして加えた。混合物を濾過し、MeOH/H
2O(3:1)で洗浄し、真空下で濃縮した。この濃縮物に半分のH
2O(50mL)を加え、溶液を凍結乾燥して、SUL−144(3.4g、9.7mmol、定量分析、99.7%純度)を灰白色の泡状物として得た。
1H-NMR (CDCl3): 1.60 (s, 3H), 1.65-2.30 (m, 14H), 2.60 (m, 2H), 2.81 (m, 1H), 3.49 (m, 1H), 4.01 (t, 1H), 4.50 (d, 1H). M+ = 348.1
【0067】
実施例2
導入
H
2Sは、いくつかの異なるシグナル伝達機構の相互作用によって生物学的機能を変化させる。CTHノックアウトマウスを用いて、喘息マウスの炎症および気道過敏性(AHR)におけるH
2Sの役割を研究した。CTH欠損マウスの肺では、野生型マウスと比較して、内因性H
2S産生およびCTHの発現が減少したことが報告された。急性喘息を誘発するオボアルブミンの投与は、野生型マウスにおけるCTH発現およびH
2S産生を減少させた。CTHの枯渇は、オボアルブミン投与後の気管支肺胞液中のIL−5、IL−13、およびエオタキシン−1レベルの上昇、AHRの増加、並びに気道炎症をもたらすが、それらは、H
2SドナーであるNaHSで処置することで逆転される。これらは、CTH/H
2Sシステムが喘息の発症において重要な保護的役割を果たすことは明確に示す。
【0068】
興味深いことに、重度の喘息患者の喀痰とH
2S濃度との間に強い関係がある。喀痰中H
2Sのレベルは、喘息、好中球性炎症、慢性気流閉塞などの閉塞性肺疾患のための有望な新規バイオマーカーであり、β−アドレナリン性気管支拡張薬応答性をも反映する。β−作動薬であるフェノテロールとH
2S測定を併用することで、閉塞性肺疾患の表現型についてより包括的な説明ができるという提案がされている。
【0069】
低酸素誘発肺血管構造変化のラットモデルにおいて、H
2SドナーであるNaHSは、リモデリングパラメータコラーゲンI、コラーゲンIIIおよび形質転換成長因子−β(TGF−β)の発現を低下させ、肺動脈平滑筋細胞の増殖を阻害した。現在の研究はまだヒトの喘息とは直接関係しないが、気道平滑筋量の増加により喘息の重篤度が悪化することは十分に立証されており、TGF−βが気道平滑筋量の増加をさらに促進すると推測されている。H
2SによるTGF−βレベルの減少は、気道リモデリングの根底にあるプロセスを効果的に防ぐことができる。
【0070】
火傷と煙の吸入による急性肺傷害のマウスモデルは、H
2SドナーNaHSの治療後の投与が死亡率を減少させ、マウスの平均生存期間を増加させることを示した。また、H
2SはIL−1βのレベルを阻害したが、抗炎症性サイトカインIL−10のレベルを高めた。一般に、炎症性転写因子NF−kBの阻害に関与する可能性が最も高いマクロファージおよび好中球のレベルを低下させるだけでなく、接着分子の発現を抑制することによって、IL−10が保護的な生物学的機能を発揮すると仮定した。さらに、IL−1βが気道粘膜組織に対して炎症促進効果を発揮することが証明されている。したがって、H
2Sは、炎症誘発性IL−1βおよび抗炎症性IL−10のバランスの変化を介して急性肺傷害に保護効果を発揮すると提案することは合理的である。
【0071】
上に概説したように、いくつかの最近の文献は、H
2Sが人体全体の生物学的機能の調節において中心的な役割をすることを示している。喘息およびCOPDなどの慢性閉塞性肺疾患の病態生理学的状況下でのH
2S機能不全は、動物モデルおよび患者の両方において疾患症状の進行に寄与する。
【0072】
この実施例では、以下の点について、4種のH
2S化合物、即ち、SUL90、SUL121の効果を研究した:
1)ヒト(不死化)気道平滑筋細胞(hTERT細胞)の細胞生存率
2)hTERT細胞からの炎症メディエーターIL−8の放出
3)ウシ気管平滑筋片の気道平滑筋収縮性。
【0073】
以下のサンプルを使用した:
‐2つのSUL−化合物:SUL90、SUL121;
‐以前の報告(Oldenburgerら、2012)に基づいて培養されたヒトテロメラーゼ逆転写酵素不死化気道平滑筋(hTERT)細胞。実験に先立って、細胞を1日間無血清状態にし、続いて15%タバコ煙抽出物(CSE)の非存在下および存在下で、指示濃度のSUL−化合物でさらに24時間(該細胞を)処理した。対照として、1μMのフェノテロールおよび500μMのH
2SドナーNaHSを使用した。
‐2つの研究用タバコ(ケンタッキー大学2R4F)の煙を25mLのDMEM(FBSなし)を通しておおよそ1本/5分の速度で燃焼させて(オランダ、ロッテルダムのWatson Marlow 323 E/D)新たに作った100%タバコ煙エキス(CSE)。その後、CSEを15%に希釈した(Oldenburgerら、2012)。
【0074】
細胞ベースの研究においては、SUL−化合物を1mM原液として0.9%NaClに溶解した。等尺性張力測定のために、SUL−化合物を100mM原液として100%DMSOに溶解した。
【0075】
アッセイ1:トリパンブルー細胞計数
細胞生存率測定のために、以前の報告(Oldenburgerら、2012)に基づいてトリパンブルー細胞計数を行った。対照として、500μMのH
2SドナーNaHSを使用した。あるいは、ほとんど以前の報告(Oldenburgerら、2012)に基づいてアラマーブルー測定を行い、細胞生存率を決定した。
【0076】
つまり、hTERT細胞を、24ウェルプレート上に10,000細胞/ウェルの細胞密度で播種した。再び細胞を1日間無血清状態にし、続いて15%タバコ煙抽出物(CSE)の非存在下および存在下で、指示濃度のSUL−化合物でさらに24時間(該細胞を)処理した。
【0077】
アッセイ2:hTERT細胞からのインターロイキン−8(IL−8)の放出
このアッセイを使用して、hTERT細胞、フェノテロール(1μM)および対照としてのH
2Sドナー(500μM)からインターロイキン−8の放出を測定した。15%CSEの非存在下および存在下で指示濃度のSUL−化合物で細胞を刺激してから24時間後に培地を収集し、以前の報告(Oldenburgerら、2012)に基づいて、製造者(オランダ、サンクイン社のPeliKine Compact ELISAキット)の指示に従って細胞上清中のIL−8濃度を測定した。
【0078】
アッセイ3:ウシ気管平滑筋(BTSM)片および等尺性張力測定
等尺性張力測定は、以前の報告(Roscioniら、2011;Roscioni、Prinsら、2011)に基づいて行った。117.5mMのNaCl、25mMのNaHCO
3、5.5mMのグルコース、5.6mMのKCl、1.18mMのMgSO
4、2.50mMのCaCl
2、1.28mMのNaH
2PO
4、5%CO
2および95%O
2のプレガス(pre−gas)を含有するpH7.4のKrebs−Henseleit(KH)緩衝液を含有するオルガンバス(organ−bath)に等浸透圧記録のためにBTSM片を設けた。平滑筋層を切開し、結合組織を注意深く除去した後、長さ約1cm、幅約2mmのBTSM片を用意した。非必須アミノ酸混合物(1:100)、ピルビン酸ナトリウム(1mM)、ゲンタマイシン(45μg
*ml−1)、ペニシリン(100U
*ml−1)、ストレプトマイシン(100μg
*ml−1)、アムホテリシンB(1.5μg
*ml−1)、アポトランスフェリン(5μg
*ml−1)およびアスコルビン酸(100μM)を補充したDMEM中で組織片を培養した。BTSM片を1〜3日間培養した後に、Innova4000インキュベーターシェーカー(37℃、55rpm)で等張力測定を行った。
【0079】
等張力測定(Roscioniら、2011;Roscioni、Prinsら、2011)を行うために、BTSM片の内径を測定し、トランスデューサに取り付け、オルガンバス内のプレガス化KH緩衝液の中に入れた。各片を3グラムの基礎張力に調整した。次に、片を洗浄し、再び60分間平衡化させ、続いて1×10
−3.5μMのメタコリンによって前収縮(pre−contraction)を誘発した。等長張力に対するSUL−化合物の急性効果を分析するために、片を累積用量のSUL−化合物(1〜300μM)と共にインキュベートし、その後0.01μMのイソプレナリンを添加した。
【0080】
SUL−化合物によって誘発された効果におけるβ2−ARの潜在的役割を分析するために、片を1μMのプロプラノロールとともに30分間インキュベートしてから、SUL−化合物を添加した。イソプレナリンによって誘発された弛緩に対するSUL−化合物の潜在的効果を分析するために、先ず片をSUL−化合物(各30μM)と共にインキュベートしてから、累積用量のイソプレナリン(1×10
−5−1μM)を添加した。最後に、メタコリンによって誘発された収縮に対するSUL−化合物の潜在的な効果を分析するために、片をSUL−化合物(各30μM)と共にインキュベートしてから、、メタコリンの累積用量(0.0001〜30μM)を添加し、その後0.01μMのイソプレナリンを添加した。
【0081】
データは、平均±標準誤差として表す。適切な場合、一元配置分散分析(one−way ANOVA)に続くベンフェロニポストホック(Benferroni post hoc)検定、対応のある両側t検定(2−tailed paired t−test)、二元配置分散分析(two−way ANOVA)を使用して、平均間の統計学的差異を同定した。統計学的差異はp<0.05で有意であると定義した。
【0082】
結果
細胞生存率に対するSUL−化合物
図1に示すように、SUL−化合物は、細胞生存率に有意な効果を示さない。しかしながら、SUL−化合物の濃度を増加させることは、細胞生存率に対するCSEの深遠な効果をさらに増加させるようである。ここに示すものは、トリパンブルー計数に基づく細胞生存率の研究結果である。アラマーブルー測定でも同様の結果が得られた(データは示せず)。したがって、SUL−90およびSUL−121は、hTERT細胞の細胞生存率を大きく変化させないようである。
【0083】
CSEに曝露されたhTERTからのIL−8の放出に対するSul−90、Sul−121の効果
図2に示すように、SUL−化合物は、CSEによって誘発されたIL−8の細胞放出に対して差異のある効果を示さない。Sul−90およびSul−121は、炎症メディエーター、IL−8の放出を有意に減少させる(
図5)。
【0084】
BTSM片の急性弛緩に対するSul−90、Sul−121、Sul−127およびSul−136の効果
図3に示すように、Sul−90は、100μMよりも高い濃度でBTSM片の弛緩を誘発する傾向を示す。Sul−121は、さらに顕著な弛緩を誘発して、統計的有意性に達する。対照的に、Sul−127およびSul−136はBTSM片の収縮トーンを変化させない(
図3)。
【0085】
Sul−90およびSul−121による弛緩
β2−アドレナリン受容体が弛緩特性に関与する可能性を分析するために、BTSM片をβ2−アドレナリン受容体拮抗薬プロプラノロールと共に予めインキュベートした。
図4に示すように、プロプラノロールは、イソプレナリンの用量応答曲線の右シフトを誘発した。対照的に、Sul90およびSul−121によって誘発された弛緩は、プロプラノロールの影響を受けなかった(
図4)。プロプラノロールの存在下で、Sul−90は弛緩特性の左シフト傾向をも示した。統計分析(表2参照)は、プロプラノロールがイソプレナリンによる弛緩を有意に変化させたが、Sul−90およびSul−121によって誘発された弛緩は影響を受けなかったことを明らかにした。したがって、Sul90およびSul−121は、β2−アドレナリン受容体に関係なく、BTSMの急性弛緩を誘発する。
【0087】
イソプレナリンによって誘発された弛緩に対するSul−90およびSul−121の影響
BTSM片を、上記した30μMの濃度のSul90およびSul−121と共に予めインキュベートして、等長張力は影響を受けないようにした。
図5に示すように、Sul−121は、Sul−90とは違って、イソプレナリンの用量応答曲線の有意な右シフトを誘発した。
【0088】
メタコリンによって誘発された収縮に対するSul−90およびSul−121の影響
BTSMス片を、上記した30μMの濃度のSul90およびSul−121と共に予めインキュベートして、等長張力は影響を受けないようにした。
図6に示すように、Sul−90およびSul121は、メタコリンによって誘発された収縮を減少させた。
【0089】
結論
1)SUL90およびSUL121は、hTERT細胞の細胞生存率を大きく変化させない。
2)SUL90およびSUL121は、CSEによって誘発された細胞のIL−8放出を阻害する。
3)SUL90およびSUL121は、β2−アドレナリン受容体に依存することなく、メタコリンで予め収縮させたウシ気管片の弛緩を誘発する。
4)SUL212は、イソプレナリンの用量応答曲線の右シフトを誘発するが、これは、SUL121がイソプレナリンの細胞内シグナル伝達成分について競合し得ることを示す。
5)SUL90およびSUL12は、メタコリンによって誘発される収縮を有意に減少させる。
【0090】
実施例3
モルモットに、胸腔内圧のオンライン測定のために胸腔内バルーンカテーテルを埋め込んだ。LPS点滴の24時間前に(t=−24h)、ヒスタミンに対する基礎気道反応性を測定する(PC100:胸腔内圧の倍加を誘発するヒスタミン濃度)。鼻腔内LPS点滴の30分前に(t=−0.5h)、動物を生理食塩水、(6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−イル)(ピペラジン−1−イル)メタノンまたはN、6−ジヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボキサミドまたはフェノテロールで処理し、陽性対照として用いた。
【0091】
時点0(t=0h)で、LPSを鼻腔内に注入し、その後、PC100測定を行うことで、異なる時点(t=1、2、3、6および24h)で気道過敏性を測定した。t=25hにおいて、気道炎症に対する異なる処理(処置)の効果を測定するために気管支肺胞洗浄(BAL)を行った。LPSによって誘発された効果の対照として、t=−0.5hで生理食塩水処理後、生理食塩水を鼻腔内に投与した。
【0092】
有効量を評価するために、(6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−イル)(ピペラジン−1−イル)メタノンまたはN,6−ジヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボキサミドのいずれかで処理する30分前、そして、処理後の様々な時点(30分、1h、2h、3h、6hおよび24h)でヒスタミンPC100測定を実施した。両方の化合物について3、30および300mMのエアロゾル濃度を用いた。
【0093】
完全麻酔下で、自由に動く動物の胸腔内圧のオンライン測定のために、胸腔内に胸腔内バルーンカテーテルを外科的に埋め込んだ。1週間の回復後、動物を測定方法に適合するように訓練した。
【0094】
図7は、気道反応性に対する本発明の化合物の効果を示しており、結果は、化合物が明らかな拡張効果を有することを示している。
【0095】
図8は、BAL測定の結果を示しており、対照における誤差範囲は比較的大きいものの、好酸球、リンパ球、好中球および上皮細胞がすべて減少したことを示している。したがって、この実験は、本発明の化合物がインビボで炎症に対して低減効果を有することを示す。