(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6711489
(24)【登録日】2020年6月1日
(45)【発行日】2020年6月17日
(54)【発明の名称】コーティング剤
(51)【国際特許分類】
C09D 171/02 20060101AFI20200608BHJP
C09D 7/20 20180101ALI20200608BHJP
B26B 9/00 20060101ALI20200608BHJP
B26B 13/00 20060101ALI20200608BHJP
B26F 1/44 20060101ALI20200608BHJP
B26D 7/08 20060101ALI20200608BHJP
【FI】
C09D171/02
C09D7/20
B26B9/00 Z
B26B13/00 A
B26F1/44 D
B26D7/08 C
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-105112(P2017-105112)
(22)【出願日】2017年5月26日
(65)【公開番号】特開2018-199783(P2018-199783A)
(43)【公開日】2018年12月20日
【審査請求日】2019年9月20日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】503121505
【氏名又は名称】株式会社フロロテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100089152
【弁理士】
【氏名又は名称】奥村 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 隆彦
(72)【発明者】
【氏名】小原 弘明
【審査官】
上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−144695(JP,A)
【文献】
特開2015−199915(JP,A)
【文献】
特表2014−505114(JP,A)
【文献】
国際公開第2017/038832(WO,A1)
【文献】
国際公開第2017/061235(WO,A1)
【文献】
特開平08−003516(JP,A)
【文献】
特開平01−033165(JP,A)
【文献】
特開平04−239635(JP,A)
【文献】
特開2003−190670(JP,A)
【文献】
特開平11−043641(JP,A)
【文献】
特表2007−517623(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00−10/00
C09D 101/00−201/00
B26B 9/00
B26B 13/00
B26D 7/08
B26F 1/44
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応性フッ素系化合物が揮発性溶媒に溶解されてなる、プラスチックフィルム切断用金属製刃の表面に塗布される溶液状コーティング剤であって、
前記反応性フッ素系化合物は、水素原子の一部又は全てがフッ素化されてなるポリアルキレンエーテル基を骨格とし、リン酸エステル又はホスホン基よりなる官能基を有するものであって、分子量が1000〜10000の範囲内であり、
前記揮発性溶媒は、ハイドロフルオロエーテル、ペルフルオロカーボン、ハイドロフルオロカーボン、ペルフルオロポリエーテル、ハイドロフルオロクロロカーボン及びハイドロフルオロオレフィンよりなる群から選ばれる溶媒であることを特徴とするコーティング剤。
【請求項2】
反応性フッ素系化合物が、化3、化4、化6、化7、化13、化14及び化15よりなる群から選ばれた化合物である請求項1記載のコーティング剤。
【化3】
(式中、mは5〜60である。)
【化4】
(式中、mは5〜60である。)
【化6】
(式中、m+nは10〜100である。)
【化7】
(式中、m+n及びq+rは、各々10〜100である。)
【化13】
(式中、nは約21である。)
【化14】
(式中、nは約21である。)
【化15】
(式中、m+nは約45である。)
【請求項3】
請求項1又は2記載の反応性フッ素系化合物が金属製刃の表面に化学結合により結合してなるプラスチックフィルム切断用刃。
【請求項4】
請求項3記載の切断用刃を用いてプラスチックフィルムを切断するプラスチックフィルムの切断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、
プラスチックフィルム切断用金属製刃の表面に塗布して用いるコーティング剤に関し、金属製刃の切れ味を向上させると共に耐久性を向上させうるコーティング剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、金属製刃の表面にフッ素樹脂を塗布して、切り屑の付着を防止したり、錆を防止することが行われている。しかるに、フッ素樹脂は物理的に金属製刃の表面に付着しているだけなので、金属製刃の使用を続けてゆくと、フッ素樹脂が剥離脱落してしまうということがあった。
【0003】
このため、金属製刃の表面にフッ素系化合物を化学的に結合させることが提案されている(特許文献1)。特許文献1には、骨格であるフッ化炭素基の一端にクロルシラン基を導入し、クロルシラン基と金属とを化学的に結合して、フッ素系化合物の剥離脱落を防止することが提案されている。
【0004】
しかしながら、クロルシラン基と金属との化学的結合力は弱く、長期間金属製刃を使用しているとフッ素系化合物が剥離脱落してしまい、耐久性の更なる向上が図れないということがあった。また、フッ化炭素基は動摩擦係数が比較的高く、金属製刃の切れ味が十分に向上しないということがあった。
【0005】
【特許文献1】特許第2501248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、
プラスチックフィルム切断用金属製刃の表面に塗布した場合、金属製刃の切れ味の更なる向上及び耐久性の更なる向上を実現しうるコーティング剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、特定の反応性フッ素系化合物を採用することにより、上記課題を解決したものである。すなわち、本発明は、反応性フッ素系化合物が揮発性溶媒に溶解されてなる、
プラスチックフィルム切断用金属製刃
の表面に塗布される溶液状コーティング剤であって、前記反応性フッ素系化合物は、水素原子の一部又は全てがフッ素化されてなるポリアルキレンエーテル基を骨格とし、リン酸エステル
又はホスホン基よりなる官能基を有するものであって、分子量が1000〜10000の範囲内であり、前記揮発性溶媒は、ハイドロフルオロエーテル、ペルフルオロカーボン、ハイドロフルオロカーボン、ペルフルオロポリエーテル、ハイドロフルオロクロロカーボン及びハイドロフルオロオレフィンよりなる群から選ばれる溶媒であることを特徴とするコーティング剤に関するものである。
また、このコーティング剤を金属製刃の表面に塗布して得られる切断刃に関するものである。さらに、この切断刃を用いてプラスチックフィルムを切断する方法に関するものである。
【0008】
本発明で用いる反応性フッ素系化合物は、水素原子の一部又は全てがフッ素化されてなるポリアルキレンエーテル基を骨格とするものである。そして、その末端には、リン酸エステル
又はホスホン基よりなる官能基を有するものである。反応性フッ素系化合物は、骨格と官能基のみから構成されていてもよいし、その他、フッ化炭素基が付加されていてもよいし、アミド基や炭化水素基等の連結基(骨格と官能基とを連結する基)等を含んでいてもよい。また、反応性フッ素系化合物の分子量は1000〜10000程度である。この分子量は、GPCでMMA換算で測定される平均分子量のことである。分子量が1000未満であると、水素原子の一部又は全てがフッ素化されてなるポリアルキレンエーテル基の割合が少なく、反応性フッ素系化合物が塗布された金属製刃の切れ味を向上させにくくなる。また、分子量を10000を超えると、揮発性溶媒に溶解しにくくなり、反応性フッ素系化合物を金属製刃に均一な厚さで塗布しにくくなる。
【0009】
反応性フッ素系化合物の具体例を挙げると、以下のとおりである。
【化1】
(式中、nは5〜60である。)
【化2】
(式中、nは5〜60である。)
【化3】
(式中、mは5〜60である。)
【化4】
(式中、mは5〜60である。)
【化5】
(式中、mは5〜60である。)
【化6】
(式中、m+nは10〜100である。)
【化7】
(式中、m+n及びq+rは、各々10〜100である。)
【化8】
(式中、m+nは10〜100である。)
【化9】
(式中、m+nは10〜100である。)
【化10】
(式中、m+nは10〜100である。)
【化11】
(式中、m+nは10〜100である。)
【化12】
(式中、m+nは10〜100である。)
【0010】
本発明に係るコーティング剤は、反応性フッ素系化合物が揮発性溶媒に溶解されてなる溶液状のものである。本発明に係るコーティング剤中における反応性フッ素系化合物の濃度は任意であるが、一般的に0.01〜1重量%程度である。また、更に濃度を高くして、30重量%程度にしてもよい。濃度の低いコーティング剤は、刷毛塗りやスプレー法によって金属製刃に塗布するのに好適である。一方、濃度が高いコーティング剤は、真空蒸着法によって金属製刃に塗布する場合に、好適に用いられる。本発明で用いる反応性フッ素系化合物を溶解しうる揮発性溶媒としては、ハイドロフルオロエーテル、ペルフルオロカーボン、ハイドロフルオロカーボン、ペルフルオロポリエーテル、ハイドロフルオロクロロカーボン又はハイドロフルオロオレフィンが単独で又は混合して用いられる。揮発性溶媒の沸点は、40℃〜240℃の範囲内のものであるのが好ましい。反応性フッ素系化合物は、室温でも金属製刃の表面と化学的に結合可能であるが、200℃程度又はそれ以下の温度に加熱した方が速やかに化学的結合が進行する。したがって、加熱時に揮発性溶媒が蒸発するようにするため、沸点を40℃〜240℃程度とするのが好ましいのである。なお、揮発性溶媒と共に、アルコール、エーテル、エステル、ケトン又は炭化水素等の有機溶剤を混合しておいてもよい。これらの有機溶剤を混合することにより、揮発性溶媒の粘度又は蒸発速度等の性質を調整することができる。また、これらの有機溶媒は、揮発性溶媒に比べ安価であるので、本発明に係るコーティング剤の価格を低減しうる。
【0011】
揮発性溶媒であるハイドロフルオロエーテルの具体例としては、スリーエムジャパン社製の商品名ノベックシリーズが用いられる。すなわち、ノベック HFE−7100、ノベック HFE−7200、ノベック HFE−7300、ノベック HFE−7500、ノベック 71DE、ノベック 72DE、ノベック 71DA等が用いられる。また、AGC旭硝子社製の商品名アサヒクリン AE−3000やAE−3100E等も用いられる。揮発性溶媒であるペルフルオロカーボンの具体例としては、スリーエムジャパン社製の商品名フロリナート又は不活性液体PFシリーズが用いられる。揮発性溶媒であるハイドロフルオロカーボン又はその混合物の具体例としては、三井・デュポンフロロケミカル社製の商品名バートレルXF、バートレルXF−UP、バートレルXE、バートレルXP;日本ゼオン社製の商品名ゼオローラH;ミテニ社製のヘキサフルオロメタキシレン;AGC旭硝子社製の商品名アサヒクリン AC−2000、AC−6000、AC6000E;日本ソルベイ社製の商品名ソルカン 365mfc等が用いられる。揮発性溶媒であるペルフルオロポリエーテルの具体例としては、ソルベイスペシャリティポリマーズ社製の商品名ガルデン等が用いられる。揮発性溶媒であるハイドロフルオロクロロカーボンの具体例としては、AGC旭硝子社製の商品名アサヒクリンAK−225等が用いられる。揮発性溶媒であるハイドロフルオロオレフィンとしては、セントラル硝子社製の商品品番1233Z;三井・デュポンフロロケミカル社製の商品名バートレルスープリオン等が用いられる。
【0012】
本発明に係るコーティング剤は、
プラスチックフィルム切断用金属製刃の表面に塗布される。金属製刃としては、トムソン刃、打ち抜き刃、ジグソー刃、ハサミ、シャーリング加工用刃、ロータリーカッター刃等が挙げられるが、これに限定されるものではなく、切断用や打ち抜き用の金属製刃であればよい。また、金属の素材としては、鉄又は鉄合金が一般的であるが、アルミやアルミ合金等も用いることができる。
【0013】
本発明に係るコーティング剤を、金属製刃の表面に塗布した後に、揮発性溶媒を蒸発させると、反応性フッ素系化合物が金属製刃の表面に化学的に結合し、反応性フッ素系化合物で構成された膜が形成される。膜の厚さは任意であるが、一般的に0.1μm以下であり、好ましくは0.01μm以下である。また、塗布方法は、刷毛塗り、スプレー法又は浸漬法等が一般的であるが、真空蒸着法によって行うこともできる。本発明で用いる反応性フッ素系化合物の分子量は10000未満であるので、真空蒸着法を採用した場合であっても、良好に反応性フッ素系化合物が蒸発し、金属製刃の表面に付着し化学的に結合する。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るコーティング剤を
プラスチックフィルム切断用金属製刃の表面に塗布し、反応性フッ素系化合物を金属製刃表面に化学的に結合してなる切断用刃は、被切断物を切断した際の摩擦係数が低く、切れ味が良好である。具体的には、被切断物の切断箇所のずれが少なく、切断箇所のずれは50μm以内に収まる。また、耐久性にも優れており、プラスチックフィルムを1万枚以上切断しても、反応性フッ素系化合物の膜の剥離脱落が生じにくい。
【実施例】
【0015】
実施例
1
化13の化学式で表される反応性フッ素系化合物(分子量約3900)と化14の化学式で表される反応性フッ素系化合物(分子量約7700)の混合物5gを、揮発性溶媒であるペルフルオロカーボン(スリーエムジャパン社製、商品名フロリナート FC−43)995gに溶解して、液状コーティング剤を得た。
【化13】
(式中、nは約21である。)
【化14】
(式中、nは約21である。)
この液状コーティング剤を
鋼製トムソン刃(ナカヤマ社製、商品名 高機能フィルム用MIR−CI23)の表面に刷毛塗りにて塗布し、120℃で30分間加熱して、厚さ0.1μm以下の透明な膜を形成して、コーティングトムソン刃
(切断用刃である。)を得た。
【0016】
実施例
2
化15の化学式で表される反応性フッ素系化合物(分子量約4300)5gを、揮発性溶媒であるハイドロフルオロオレフィン(三井・デュポンフロロケミカル社製 商品名バートレル スープリオン)995gに溶解して、液状コーティング剤を得た。
【化15】
(式中、m+nは約45である。)
この液状コーティング剤を実施例1で用いたのと同一のトムソン刃の表面に刷毛塗りにて塗布し、120℃で30分間加熱乾燥して、厚さ0.1μm以下の透明な膜を形成して、コーティングトムソン刃を得た。
【0017】
比較例1
実施例1で用いたのと同一のトムソン刃に何らの処理を施すことなく、そのままトムソン刃として用いた。
【0018】
比較例2
特許第2501248号公報の実施例1に記載された液状コーティング液を準備した。すなわち、ペルフルオロオクチルエチルクロロシラン1gを、ヘキサンデカン80gと四塩化炭素12gとクロロホルム8gの混合溶媒に溶解した液状コーティング剤を準備した。そして、この液状コーティング剤中に、実施例1で用いたのと同一のトムソン刃を浸漬した後、常温で乾燥して、トムソン刃の表面にペルフルオロオクチルエチルクロロシランで構成された厚さ0.1μm以下の透明な膜を形成して、コーティングトムソン刃を得た。
【0019】
実施例1
、2、比較例1及び2で得られたトムソン刃を用いて、厚さ150μmのプラスチックフィルム(ポリエステル高反射フィルム)の打ち抜きを連続して行った。実施例1
及び2に係るコーティングトムソン刃は、1万枚のプラスチックフィルムを打ち抜いてもトムソン刃表面の膜の剥離脱落が少なく、耐久性に優れたものであった。また、1万枚のプラスチックフィルムを打ち抜いた後も、打ち抜き寸法の誤差は±50μmの範囲内に収まった。これに対し、比較例1に係るトムソン刃は1241枚打ち抜いた後は、打ち抜き端面にバリが発生したり、打ち抜き寸法の誤差が±50μmの範囲外となった。また、比較例2に係るコーティングトムソン刃は4893枚打ち抜いた後は、打ち抜き寸法の誤差が±50μmの範囲外となった。以上のことから、実施例に係るコーティングトムソン刃は、比較例に係るトムソン刃に比べて、切れ味と耐久性に優れていることが分かる。