(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
工場の屋根上やビルの屋上等には、防水のために、断熱層と防水シートからなる防水層が敷設されていることが多い。
図9には、折れ板状の金属板の屋根に防水層が敷設されている防水構造体の一例を示す。以下、工場、ビル、学校の校舎等の事業用の建造物やマンション等の住居用の建造物の屋根、ベランダ、バルコニー等の防水層が敷設されている対象を躯体と総称する。
図9に示す防水構造体は、躯体21上に、断熱層22と断熱層22を覆う防水シート23からなる防水層24が敷設されている。なお、
図9では、躯体21の全体形状が分かり易いように、防水層24を二点鎖線で示す部分で切り取った防水層24の一部のみを図示しているが、実際は、防水層24は、躯体21の表面全体に敷設されている。
【0003】
このような防水構造体では、
図10に示すように、固定ネジ41を、固定板45の挿通孔46に挿通させた固定具51を用いて、防水層24が固定されている。断熱層22は、固定ネジ41を断熱層22に捻じ込み貫通させ、さらに、躯体21に捻じ込むことより、躯体21に固定されており、また、防水シート23は、固定板45の防水シート側の面52に防水シート23を接着させることにより、躯体21に固定されている。
【0004】
このような従来の防水構造体には、強風に曝されることにより、躯体に捻じ込んだ固定ネジが抜けてしまうという問題があった。
【0005】
このような問題を解決するために、躯体における固定ネジが捻じ込まれる部分の上面に金属補強板を設置し、固定ネジを断熱層を貫通して金属補強板と躯体の両者に捻じ込み固定させる金属下地屋根構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、金属補強板を設置してもなお、強風に曝されることにより、躯体に捻じ込んだ固定ネジが抜けてしまう場合があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、強風に曝されても、躯体に捻じ込んだ固定ネジが抜け難い固定具およびシート防水構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的は、下記(1)〜(
2)に記載の本発明により達成される。
(1) 防水シートと下地層とからなる防水層を躯体表面に固定する固定具であって、
第1貫通孔を有する平板と、
前記平板を前記躯体に取り付ける取付部材と、を備え、
前記取付部材は、第2貫通孔を有する基部と、
前記第2貫通孔と対向するように設けられ、ネジ部を有する底部と、
前記底部と前記基部とを連結する連結部と、を有し、
前記取付部材は、前記連結部を前記第1貫通孔に挿通して用いられるものであり、
前記連結部は、前記第2貫通孔の縁部から前記底部の縁部に延設された複数の板状部材で構成され、
前記平板から前記底部に向かって幅が漸減するように、複数の前記板状部材は、前記平板から前記底部に向かって、前記ネジ部側に傾斜しており、
前記連結部の長さをX[mm]、前記下地層の厚さをY[mm]としたとき、0.90≦X/Y≦1.00の関係を満足することを特徴とする固定具。
【0012】
(
2) 上記(
1)に記載の固定具を用いたシート防水構造であって、
前記躯体と、前記下地層と、前記防水シートと、前記固定具と、固定ネジと、を備え、
前記固定具は、前記連結部が前記下地層を貫通した状態で前記ネジ部を介して前記固定ネジによって前記躯体に固定され、
前記平板の前記連結部とは反対側の面と前記防水シートとが接合されていることを特徴とするシート防水構造。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、強風に曝されても、躯体に捻じ込んだ固定ネジが抜け難い固定具およびシート防水構造を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の固定具およびシート防水構造を添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0016】
1.固定具およびシート防水構造
図1は、本発明のシート防水構造の好適な実施形態を示す断面図、
図2は、本発明の固定具の好適な実施形態を示す斜視図、
図3は、
図2に示す固定具が備える平板を示す斜視図、
図4は、
図2に示す固定具が備える取付部材を示す斜視図、
図5は、
図2に示す固定具の部分縦断面図、
図6は、
図2に示す固定具が備える取付部材の連結部の横断面図である。
【0017】
図1に示すように、シート防水構造10は、躯体100と、躯体100の表面に敷設されている防水層110と、防水層110を固定するための固定具120と、固定ネジ130と、を有する。
【0018】
本実施形態では、シート防水構造10が施工された、屋根のような躯体(構造体)100を一例にして説明する。
【0019】
躯体100は、折れ板状の金属板で構成されている。
躯体100の表面に敷設された防水層110は、
図1に示すように、躯体100の表面を覆う断熱層111と、断熱層(下地層)111の表面を覆う防水シート112とで構成されている。
【0020】
断熱層111の材質としては、通常、建物の断熱に用いられる断熱材であれば、特に制限されず、例えば、発泡ポリスチレン、ポリウレタンフォーム、ポリイソシアヌレートフォーム、フェノールフォーム等が挙げられる。
【0021】
断熱層111としては、特に制限されず、躯体と防水シートとの間に配置されて、断熱機能を発揮するものであればよい。断熱層は、上記のような断熱材のみで形成されていてもよいし、他には、例えば、上記のような断熱材上に(上記断熱材と固定板との間に)、例えば、ポリエチレン製の織布からなる絶縁クロスシート、ガラス繊維製の防火用シート、ピンホール検査用のアルミ箔ラミネートシート等や、人の歩行を可能にする目的で、歩行用ボードとして、珪酸カルシウム板、石綿スレート板、軽量気泡コンクリート板等の高剛性板が敷かれているものであってもよく、この場合は、上記断熱材及びその上に敷かれている絶縁クロスシート、防火用シート、アルミ箔ラミネートシート、高剛性板等が、断熱層である。
【0022】
防水シート112の材質としては、防水性と耐候性を有し、通常、建物の防水シートとして用いられるものであれば、特に制限されず、例えば、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリオレフィン系樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体等の軟質の合成樹脂、合成ゴム系の材質等が挙げられる。これらのうち、防水シート112の材質としては、ポリ塩化ビニル樹脂が、溶剤溶着性や熱融着性に優れる点で好ましい。防水シート112の厚みは、特に制限されず、必要に応じて適宜選択される。
【0023】
固定具120は、
図2に示すように、平板121と、平板121を躯体100に取り付けるための取付部材122と、を有している。
【0024】
平板121は、
図3に示すように、円盤状をなしている。
また、平板121の中央部には、第1貫通孔123が設けられている。当該第1貫通孔123には、後述する取付部材122の連結部129が挿通される。
【0025】
また、平板121は、
図3に示すように、第1貫通孔123周辺に形成された段差124が設けられている。段差124は、平板121の外縁側から中心に向かって凹んだ構成となっている。この段差124は、後述する取付部材122の基部125の厚さとほぼ同等の深さを有している。また、この段差124の平面視の形状は、後述する取付部材122の基部125の平面視の形状とほぼ同等となっている。
【0026】
平板121の材質としては、特に制限されないが、例えば、鉄、ステンレス鋼などの金属、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂などの合成樹脂等が挙げられる。
【0027】
平板121が、表面が合成樹脂で被覆されている鋼板等の金属板の場合、固定板に被覆されている合成樹脂としては、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリオレフィン系樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体等の軟質の合成樹脂、合成ゴム系の材質等が挙げられる。これらのうち、固定板に被覆されている合成樹脂としては、ポリ塩化ビニル樹脂が、溶剤溶着性や熱融着性に優れる点で好ましい。
【0028】
平板121の厚みは、特に制限されず、必要に応じて適宜選択される。
平板121は、断熱層111と防水シート112との間に配置される。
平板121の防水シート側の面は、防水シート112に接合されている。
【0029】
平板121の防水シート112側の面と防水シート112との接合形態としては、例えば、防水シート112に覆われた状態で、防水シート112の上から、平板121の防水シート112側の面に被覆されている樹脂を加熱することにより、平板121の防水シート112側の面に被覆されている樹脂で融着された形態、防水シートを平板121の防水シート112側の面に載置するときに、平板121の防水シート112側の面に被覆されている樹脂に溶剤を塗布することにより、平板121の防水シート112側の面に被覆されている樹脂で溶着された形態、防水シートを平板121の防水シート112側の面に載置するときに、平板121の防水シート112側の面に接着剤を塗布することにより、接着剤で接着された形態等が挙げられる。
【0030】
取付部材122は、平板121を躯体100に取り付けるための部材である。
取付部材122は、第2貫通孔126を有する基部125と、第2貫通孔126と対向するように設けられ、ネジ部128を有する底部127と、底部127と基部125とを連結する連結部129と、を有している。
【0031】
基部125は、
図4に示すように円盤形状をなし、その中央部に第2貫通孔126を有している。
【0032】
底部127は、第2貫通孔126と対向するように設けられている。
また、底部127の中央部には、固定ネジ130を挿通するネジ部128が設けられている。本実施形態において、底部127は躯体100と接触するよう構成されている。
【0033】
連結部129は、底部127の縁部と第2貫通孔126の縁部とを連結するよう構成されている。これにより、底部127と基部125とが連結される。
【0034】
本実施形態では、
図4〜6に示すように、連結部129は、筒状をなしている。
連結部129の長さをX[mm]、断熱層(下地層)111の厚さをY[mm]としたとき、0.90≦X/Y≦1.00の関係を満足する。このような関係を満足することにより、固定具120を固定ネジ130により躯体100に固定した際に、底部127と躯体100とが接触した状態またはほぼ接触した状態となる。このため、ネジ部128を中心とした、固定具120の横揺れを防止することができる。その結果、強風に曝されても、躯体に捻じ込んだ固定ネジが緩んで抜けてしまうのを防止することができる。
【0035】
なお、連結部129の長さをX[mm]、断熱層(下地層)111の厚さをY[mm]としたとき、0.90≦X/Y≦1.00の関係を満足するが、0.95≦X/Y≦1.00の関係を満足するのがより好ましい。これにより、本発明の効果がより顕著なものとなる。
【0036】
また、
図1〜3に示すように、連結部129は、基部125から底部127に向かって幅が漸減するよう構成されている。これにより、底部127、ネジ部128および連結部129を断熱層111に容易に挿通させることができる。
【0037】
取付部材122は、
図5に示すように、平板121の第1貫通孔123内に連結部129を挿通して使用される。この際、取付部材122の基部125は、段差124の内側の凹みと勘合するよう構成されている。また、勘合した状態において、段差124により、平板121の上面と基部125の上面とが面一となるよう構成されている。
【0038】
上記のような構成の固定具120を構成する各部材は、例えば、表面に合成樹脂が被覆されている合成樹脂被覆鋼板をプレス加工することにより作製することができる。また、上記のような構成の固定具120を構成する各部材は、例えば、合成樹脂を射出成形等の適宜の樹脂加工方法で成形することにより作製することができる。
【0039】
固定ネジ130は、平面形状が円形のネジ頭と、側面にネジ山が形成されている軸と、先端部と、で構成されている。
【0040】
固定ネジ130がネジ部128に挿通した状態で、固定ネジ130が躯体100に捻じり込み固定されることで、躯体100に固定具120が固定される。
【0041】
固定ネジ130で固定された後には、貫通孔123内部に、接着剤等の充填材を充填してもよい。これにより、固定ネジ130の抜けをより確実に防止することができる。
【0042】
なお、上記説明では、連結部129が筒状であるものについて説明したが、これに限定されない。例えば、連結部129は、
図7に示すように、第2貫通孔126の縁部から底部127の縁部に延設された複数の板状部材で構成されていてもよい。
【0043】
また、上記説明では、連結部129の表面が平坦なものについて説明したが、
図8に示すように、連結部129の外壁面にネジ溝を形成してもよい。このような構成とすることにより、連結部129を断熱層111内へより容易に捻じ込むことができる。
【0044】
2.シート防水構造の施工方法
上記のようなシート防水構造10は、例えば、以下に示す方法により施工・構築される。
【0045】
まず、躯体100の表面に、断熱層111を載置する。
次に、断熱層111上の固定具120の設置箇所に、平板121を設置する。
【0046】
次に、平板121の第1貫通孔123内に取付部材122の連結部129を挿通しつつ、連結部129を断熱層111に貫通させて、固定具120を設置する。
【0047】
次いで、ネジ部128を介して固定ネジ130を躯体21に捻じ込むことにより、断熱層111が、固定具120により、躯体100に固定される。
【0048】
次に、断熱層111および固定具120を覆うように、防水シート112を載置する。
次に、固定具120の防水シート112側の面と防水シート112とを接合させることにより、
図1に示すシート防水構造10が構築される。
【0049】
以上、本発明の固定具およびシート防水構造について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0050】
例えば、本発明のシート防水構造において、各構成は、同様の機能を発揮し得る任意のものと置換することができ、あるいは、任意の構成のものを付加することができる。
【0051】
また、前記実施形態では、シート防水構造が断熱層を有するものとして説明したが、防水シートの下地層として機能するものであれば、断熱機能は無くてもよい。
【0052】
また、前述した実施形態では、連結部が底部に向かって幅が漸減するよう構成されているものとして説明したが、漸減していなくてもよい。
【0053】
また、前述した実施形態では、平板が円盤状のものとして説明したが、これに限定されず、板状であってもよい。
【0054】
また、シート防水構造の施工方法には、任意の目的の工程が1または2以上追加されてもよい。