特許第6711493号(P6711493)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6711493
(24)【登録日】2020年6月1日
(45)【発行日】2020年6月17日
(54)【発明の名称】取水口スクリーン
(51)【国際特許分類】
   E02B 5/08 20060101AFI20200608BHJP
【FI】
   E02B5/08 101A
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-33670(P2019-33670)
(22)【出願日】2019年2月27日
【審査請求日】2019年4月3日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519069187
【氏名又は名称】株式会社アイキ産業
(74)【代理人】
【識別番号】110000316
【氏名又は名称】特許業務法人ピー・エス・ディ
(72)【発明者】
【氏名】市村 英規
【審査官】 荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−070508(JP,A)
【文献】 実開昭63−141227(JP,U)
【文献】 特開2012−214978(JP,A)
【文献】 特開2002−285527(JP,A)
【文献】 特開2015−221985(JP,A)
【文献】 特開昭63−219716(JP,A)
【文献】 実開昭62−154030(JP,U)
【文献】 特開平07−207644(JP,A)
【文献】 特開2009−068244(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 5/00−7/18,8/00
E02B 8/06−13/02
E02C 1/00−5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
用水路の側壁に設けられた取水口に配置される取水口スクリーンであって、
取水口の上流側において用水路の側壁に接して又は近接して配置される前端部と、
取水口の下流側において用水路の側壁から離れて配置される後端部と、
前記前端部と前記後端部との間に渡された複数のスクリーンバーと、
前記後端部と、前記前端部が接する又は近接する用水路の側壁と同じ側の側壁との間に取り付けられ、前記複数のスクリーンバーの長さより短い幅を有する異物除去部と
を備え、
前記複数のスクリーンバーの各々は、互いに上下に間隔をあけて並置され、水の流れを受ける面の縦断面形状が凹形状に形成された、取水口スクリーン。
【請求項2】
前記複数のスクリーンバーの各々は、流れを受ける面の縦断面形状が、2つの直線が端部で連続するアングル形状に形成されたものであることを特徴とする、請求項1に記載の取水口スクリーン。
【請求項3】
前記複数のスクリーンバーの各々は、流れを受ける面の縦断面形状が、2つの直線の端部が弧によって連続する略アングル形状に形成されたものであることを特徴とする、請求項1に記載の取水口スクリーン。
【請求項4】
前記複数のスクリーンバーの各々は、流れを受ける面の縦断面形状が弧形状に形成されたものであることを特徴とする、請求項1に記載の取水口スクリーン。
【請求項5】
前記複数のスクリーンバーは、側壁に対して15度以上60度以下の角度で配置されたことを特徴とする、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の取水口スクリーン。
【請求項6】
前記複数のスクリーンバーは、側壁に対して15度以上30度以下の角度で配置されたことを特徴とする、請求項5に記載の取水口スクリーン。
【請求項7】
前記複数のスクリーンバーの少なくとも1つが、前記凹形状の内面に設けられた1つ又は複数の空気噴出孔を有することを特徴とする、請求項1に記載の取水口スクリーン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、用水を河川から取得する用水路に設けられる取水口に取り付けられ、用水路を流れる異物が取水口に流入することを防止するとともに、異物によって目詰まりを起こさない取水口スクリーンに関する。
【背景技術】
【0002】
農業用水などに用いられる用水を河川から取得する用水路には、用水路から必要な用水を分水する取水口が設けられている。取水口には、通常、用水路の水に浮遊する流木や枯れ草などを始めとする異物が取水口に流れ込まないように、異物をせき止めるための取水口スクリーンが配置される。従来の取水口スクリーンとして、取水口の全面を覆うように流れに平行に設置された網状のものが用いられることが多い。しかし、こうした取水口スクリーンは、用水路を流れる異物が表面に付着して目詰まりを起こし、水の流れを阻害するため、定期的な異物除去作業を要する。また、取水口スクリーンは、遠隔地に設置されることが多く、定期的な異物除去が難しい場合もある。
【0003】
こうした課題に対応した装置として、例えば特許文献1〜特許文献4の装置が提案されている。
特許文献1の装置は、流れに対して平行に取水口に配置され、横方向に移動する金網のスクリーンベルトを備えたものであり、スクリーンベルトに付着した異物は、スクリーンベルトの移動によって除去されるようになっている。特許文献2の装置は、流れに対して平行に取水口に配置され、多数の円板からなる複数の円筒状スクリーンが、隣接する円板同士が重なりあうように取水口に配置されたものであり、円板が回転することによって表面に異物が付着することを防止するようになっている。
【0004】
特許文献3の装置は、流れに対して平行に取水口に配置されたスクリーンの前面に取り付けられ、配管からエアを噴出させることによって異物を除去する装置に関する。また、特許文献4の装置は、取水口の前に、水の流れの上流側から下流側に向けて取水口から徐々に離れるように斜めに取り付けられたスクリーンに関する。スクリーンは、断面が楔形のウェッジバーの配列から構成されており、ウェッジバーは、楔形の底辺側(最大厚み側)が流れの本流側に向けて配置される。スクリーンは、下流側にコイルばねが設けられることによって、下流側端部が自然に又は人為的に振動し、異物のふるい落としが行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−76815号公報
【特許文献2】特開平10−311020号公報
【特許文献3】特開2004−68269号公報
【特許文献4】特開平8−302651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び特許文献2に提案される装置は、スクリーンが本流の流れに対して平行に配置されており、スクリーンからの水の反発力がほとんど生じないため、異物が付着しやすい。また、これらの装置は、可動部を有しているため構造が複雑で高価であり、複雑な構造の隙間に異物が挟まるため、頻繁にメンテナンスを要する。特許文献4に提案される装置は、楔形のスクリーンが本流の流れに対して斜めに取り付けられているので、特許文献1及び特許文献2の装置との比較では、スクリーンからの水の反発力による異物付着防止効果が多少は得られると考えられる。しかし、複数の楔形のスクリーンバーは、平らな底面が本流側を向いた状態で並んでいるため、本流に対して平面が面することになり、水の反発力は大きくない。また、特許文献3に提案される装置は、噴出するエアにより異物付着を防止するとされるが、エアの噴出圧力を相当程度大きくしなければ水流に対抗して異物を押し退けることが難しく、スクリーンも本流の流れに対して平行に配置されているため、結局は定期的な異物除去作業を要する。
【0007】
本発明は、スクリーンを構成するスクリーンバーの形状を適切に選択することにより、簡単な構造で、用水路を流れる異物が付着しない取水口スクリーンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、用水路の側壁に設けられた取水口に配置される取水口スクリーンを提供する。取水口スクリーンは、取水口の上流側において用水路の側壁に接して又は近接して配置される前端部と、取水口の下流側において用水路の側壁から離れて配置される後端部と、前端部と後端部との間に渡された複数のスクリーンバーとを備える。複数のスクリーンバーの各々は、互いに上下に間隔をあけて並置され、水の流れを受ける面の縦断面形状が凹形状に形成されている。
【0009】
一実施形態においては、複数のスクリーンバーの各々は、流れを受ける面の縦断面形状が、2つの直線が端部で連続するアングル形状に形成されたものであることが好ましい。別の実施形態においては、複数のスクリーンバーの各々は、流れを受ける面の縦断面形状が、2つの直線の端部が弧によって連続する略アングル形状に形成されたものであることが好ましく、さらに別の実施形態においては、複数のスクリーンバーの各々は、流れを受ける面の縦断面形状が弧形状に形成されたものであることが好ましい。
【0010】
一実施形態においては、複数のスクリーンバーは、側壁に対して15度以上60度以下の角度で配置されることが好ましく、側壁に対して15度以上30度以下の角度で配置されることがより好ましい。
【0011】
一実施形態においては、複数のスクリーンバーの少なくとも1つが、凹形状の内面に設けられた1つ又は複数の空気噴出孔を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の取水口スクリーンは、用水路を流れる異物による目詰まりを起こさず、定期的な異物除去作業を必要としないため、維持が容易であり、維持コストの低減が可能である。また、取水口スクリーンは、構造が簡単であるため、安価に製造及び設置が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態による取水口スクリーンの斜視図を示し、(a)は、取水口スクリーン単体の斜視図であり、(b)は、取水口スクリーンが用水路の取水口の前に設置された状態の斜視図である。
図2】本発明の一実施形態による取水口スクリーンの平面図を示し、(a)は、スクリーン部の背面図(1)、右側面図(2)及び上面図(3)であり、(b)は、異物除去部の正面図(1)、右側面図(2)及び上面図(3)である。
図3】本発明の取水口スクリーンを構成するスクリーンバーの好ましい形状の斜視図を示し、(a)はスクリーンバーの縦断面がアングル形状の場合、(b)は縦断面が最奥部に弧状の部分を有する略アングル形状の場合、(c)は縦断面が弧形状の場合である。
図4】本発明の取水口スクリーンの最適な形状及び設置角度を検討するための数値流体解析で用いた解析モデルの斜視図である。
図5】本発明の取水口スクリーンの最適な形状及び設置角度を検討するための数値流体解析で用いた計算条件である。
図6A】数値流体解析の結果を示す図であり、スクリーンバーの縦断面形状がV字型(水の流れの方向に対するスクリーンバーの傾斜角θは30°)の場合における、スクリーンバー周辺を流れる水の速度ベクトルである。図の右方が水の流れの上流側である。
図6B】数値流体解析の結果を示す図であり、スクリーンバーの縦断面形状がV字型の角にRをつけたもの(水の流れの方向に対するスクリーンバーの傾斜角θは30°)である場合における、スクリーンバー周辺を流れる水の速度ベクトルである。図の右方が水の流れの上流側である。
図6C】数値流体解析の結果を示す図であり、スクリーンバーの縦断面形状がU字型(水の流れの方向に対するスクリーンバーの傾斜角θは30°)の場合における、スクリーンバー周辺を流れる水の速度ベクトルである。図の右方が水の流れの上流側である。
図7A】数値流体解析の結果を示す図であり、スクリーンバーの形状がV字型の場合において、水の流れの方向に対するスクリーンバーの傾斜角θが15°のときのスクリーンバー周辺を流れる水の速度ベクトルである。図の右方が水の流れの上流側である。
図7B】数値流体解析の結果を示す図であり、スクリーンバーの形状がV字型の場合において、水の流れの方向に対するスクリーンバーの傾斜角θが30°のときのスクリーンバー周辺を流れる水の速度ベクトルである。図の右方が水の流れの上流側である。
図7C】数値流体解析の結果を示す図であり、スクリーンバーの形状がV字型の場合において、水の流れの方向に対するスクリーンバーの傾斜角θが45°のときのスクリーンバー周辺を流れる水の速度ベクトルである。図の右方が水の流れの上流側である。
図7D】数値流体解析の結果を示す図であり、スクリーンバーの形状がV字型の場合において、水の流れの方向に対するスクリーンバーの傾斜角θが60°のときのスクリーンバー周辺を流れる水の速度ベクトルである。図の右方が水の流れの上流側である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。本発明にかかる取水口スクリーンは、例えば農業用水などに用いられる水を河川から取得するための用水路において、用水路の側壁に設けられた取水口の前に取り付けられることにより、用水路を流れる異物が取水口に流入することを防止する。この取水口スクリーンは、異物が付着しないように構成されているため、異物による目詰まりが生じない。
【0015】
図1及び図2は、本発明の一実施形態による取水口スクリーン1(以下、スクリーン1という)を示す。図1(a)は、スクリーン1単体の斜視図であり、図1(b)は、スクリーン1が用水路40の取水口42の前に設置された状態の斜視図である。また、図2(a)は、スクリーン部10の平面図であり、図2(b)は、異物除去部30の平面図である。図2(a)におけるスクリーン部10は、取水口42側からみた背面図(1)と、用水路側(正面)からみて右側面図(2)と、上面図(3)とが示されている。図2(b)における異物除去部30は、用水路側からみた正面図(1)と、右側面図(2)と、上面図(3)とが示されている。
【0016】
スクリーン部10は、細長い複数のスクリーンバー12を備える。複数のスクリーンバー12は、その長さ方向が、用水路40を流れる水の流れの方向DWの上流側から下流側に向かって沿うように配置される。複数のスクリーンバー12は、各々が互いに上下方向に間隔を空けた状態で、高さ方向に並置される。具体的には、上下方向に隣接するスクリーンバー12の一方の下辺と他方の上辺との間に、所定の間隔Sが設けられるように並置される。
【0017】
スクリーン部10の幅、すなわちスクリーンバー12の長さは、取水口42の大きさに応じて適宜設計することができる。また、スクリーン部10の高さ、すなわち、最上部のスクリーンバー12の上辺から最下部のスクリーンバー12の下辺までの長さは、用水路40の深さ及び水の深さに応じて適宜設計することができる。スクリーンバー12の数及びそれぞれの高さは、スクリーン部10の高さと、スクリーンバー12間の所定の間隔Sと、用水路40を流れる水の水深とに応じて適宜設計することができる。所定の間隔Sは、間隔Sを通る水の水量と取水口42に流入させる水の水量とを勘案して決めることができるが、好ましくは、複数の間隔Sの面積の合計が、取水口42の開口面積の1.5倍程度となるように設計される。スクリーンバーの材質は、特に限定されるものではないが、耐久性及び防錆性が高いものであることが好ましい。
【0018】
図3は、スクリーンバー12の水の流れを受ける面(水の流れの方向DWの上流側に向いた面)12sの好ましい形状を示す斜視図である。複数のスクリーンバー12の各々は、水の流れを受ける面12sの縦断面形状が凹形状になるように形成されている。面12sの凹形状は、限定されるものではないが、例えば、横断面形状を、2つの直線が端部で連続するアングル形状(図3(a))、2つの直線の端部が弧によって連続する略アングル形状(図3(b))、又は弧の一部である弧形状(図3(c))とすることができる。図1のスクリーン1のスクリーンバー12は、図3(a)に示されるアングル形状のスクリーンバーとして示されている。スクリーンバー12の面12sが凹形状を有することによって、スクリーン部10に異物が付着することを防止する効果が生じる。
【0019】
出願人は、面12sが凹形状のスクリーンバー12を用いることによってスクリーン部10に異物が付着することを防止する効果が生じる理由を、以下のように推測している。スクリーンバー12に向かって流れて面12sに当たった水は、面12sに沿って上下方向に向かう還流及び面12sから離れる方向に向かう還流(間隔Sの部分では、上下から向かってきた還流がぶつかり、スクリーンバーから離れて逆方向に向かう還流になると考えられる)となる。スクリーンバー12に接近しようとする異物は、これらの還流による抵抗を受け、スクリーンバー12に接することなく、その長さ方向に沿って流れる水とともに、下流に運ばれる。一方、スクリーン部10から離れた位置においてスクリーン1の方向に流れている異物は、スクリーンバー12に沿って下流に向かう水の流れによって、スクリーンバー12に接近することなく下流に流れていく。したがって、用水路40を流れる異物は、スクリーン部10に付着しない。一方、流れを受ける面が凹形状ではないスクリーンバーの場合(例えば特許文献4に記載のスクリーンバーの場合)は、スクリーンバーの面及びスクリーンの間における還流が生じないか、又は生じたとしても小さいため、スクリーンバーに向かう異物に対する抵抗力の効果が生じない。
【0020】
複数のスクリーンバー12の面12sの形状は、限定されるものではないが、奥部に弧形状を有する略アングル形状(図3(b))又は弧の一部である弧形状(図3(c))が好ましく、アングル形状(図3(a))であることがより好ましい。出願人は、面12sが略アングル形状又は弧形状の場合には、面12sに当たった後に面12sに沿って上下方向に向かう還流及び面12sから離れる方向に向かう還流が、アングル形状より少なくなると考えている。これは、略アングル形状又は弧形状においては、面12sに当たった水はなめらかな弧の部分で合流するため、その部分に沿って下流に向かう水が、平面が奥部で直線状に交わる(すなわち面12sになめらかな形状の部分が存在しない)アングル形状の場合より多くなるためであると考えられる。したがって、略アングル形状又は弧形状の場合には、面12sに向かって流れ込む水に対する抵抗が小さくなり、水流を押し返す力が弱くなるため、これらの形状よりアングル形状の方が、異物付着効果の点でより好ましい。また、間隔Sの部分において面12sから離れる方向に向かう還流は、間隔Sの部分に向かう水に対する抵抗となることから、この還流が強いほど、間隔Sを通過する水の速度が遅くなると考えられる。間隔Sを通過する水の速度が早い場合には、通過する水に異物が引かれて間隔Sの部分に付着しやすいが、アングル形状の場合には還流が強く、間隔Sを通過する水の速度が遅いため、アングル形状は、略アングル形状又は弧形状と比較して異物付着効果の点でより好ましい。
【0021】
面12sがアングル形状又は略アングル形状の場合、アングルの角度、すなわち面12sを構成する2つの平面の角度は、特に限定されるものではない。しかし、水の流れが早い場合には、角度が大きい方がより好ましく、水の流れが遅い場合には、角度が小さい方がより好ましい。出願人は、この理由を以下のように推測している。流速の早い水が角度の大きい面12sに当たった場合には、面12sに沿って上下に向かう還流量が、角度の小さい面12sに当たった場合より大きくなり、これらの還流がスクリーンバー12間の間隔Sに向かう水の流れの抵抗となる。これに対して、流速の早い水が角度の小さい面12sに当たった場合には、面12sから離れて逆方向に向かう還流量が、角度の大きい面12sの場合より大きく、相対的に間隔Sに向かう水の流れに対する抵抗が小さくなる。そのため、面12sの角度の小さいスクリーンバー12の場合には、間隔Sに流入する水の速度がより早くなり、異物がその流れに引かれて間隔Sの部分に付着しやすいと考えられる。したがって、水の流れが早い場合には、面12sを構成する2つの面の角度が大きい方がより好ましい。
【0022】
一方、流速の遅い水が角度の大きい面12sに当たった場合には、凹形状の内部において渦が生じるため、面12sに向かう水に対する反発力が弱くなる。これに対して、流速の遅い水が角度の小さい面12sに当たった場合には、渦の発生が少なく、面12sからの還流が生じて面12sに向かう水に対する反発力が、角度の大きい面12sより大きくなると考えられる。したがって、水の流れが遅い場合には、面12sを構成する2つの面の角度が小さい方がより好ましい。
【0023】
複数のスクリーンバー12の各々には、その背面側において、スクリーンバー12と平行に補強部材13が設けられている。また、スクリーンバー12及び補強部材13の各々は、スクリーンバー12の長さ方向と概ね直交する方向の長さを有する支持部材14、16に取り付けられている。支持部材14は、スクリーンバー12の水の流れを受ける面12sとは反対側において流れの上流側に配置され、スクリーンバー支持部材16は、スクリーンバー12の水の流れを受ける面12sとは反対側において流れの下流側に配置される。2つの支持部材14、16がスクリーンバー12の両端部付近に配置された構成に限定されるものではなく、3つ以上の支持部材がスクリーンバー12の長さ方向の適切な箇所に設けられた構成とすることもできる。
【0024】
スクリーン1は、スクリーン1の一方の端部1a(すなわち、スクリーンバー12の端部12a)が用水路40の側壁44に接して、又は側壁44に近接して取り付けられ、スクリーン1の他方の端部1b(すなわち、スクリーンバー12の端部12b)が側壁44から離れて配置されるように設置される。したがって、スクリーン1は、取水口42の前に、用水路40の水の流れの方向DWに対して角度を設けて配置されることになる。スクリーン1は、例えば、スクリーンバー12の一方の端部12aに取り付けられた連結具18aと、用水路40の側壁44に取り付けられた連結具46aとを、連結棒50を用いて連結することによって、側壁44に取り付けることができる。
【0025】
水の流れの方向DWに対するスクリーン部10の傾斜角θ(すなわち、用水路40の側壁44とスクリーンバー12との間の角度)は、15度以上60度以下であることが好ましく、15度以上45度以下であることがより好ましく、15度以上30度以下であることが最も好ましい。傾斜角θが15度より小さい場合には、面12sに当たる水の力が弱いため、面12sに沿って上下に移動する還流が弱く、その結果として、間隔Sに向かう水に対する抵抗が小さくなり、間隔Sを通過する水の速度が速くなる。一方、傾斜角θが60度より大きい場合には、スクリーン部10に当たる水の力が強くなるため、間隔Sを通過する水の速度も速い。したがって、いずれの場合にも、間隔Sを通過する水に異物が引かれて間隔Sの部分に付着しやすいと考えられる。これらに対して、傾斜角θが15度以上30度以下の場合は、還流による抵抗と間隔Sを通過する流速とが適度にバランスし、結果として異物の付着が少なくなるものと考えられる。
【0026】
スクリーン1の他方の端部1b(スクリーンバー12の端部12b)と側壁44との間には、スクリーン1の後方に回り込んだ異物が取水口42に入ることを防止するための異物除去部30が取り付けられることが好ましい。本実施形態においては、異物除去部30は、枠32と、所定の間隔を設けて枠32に取り付けられた、上下方向の複数の棒状部材34とを備える。しかし、異物除去部は、特に限定されるものではなく、柵や金網などといった汎用のスクリーンを異物除去部として用いることもできる。
【0027】
異物除去部30は、一方の端部に取り付けられた連結具36aと、スクリーン部10の他方の端部に取り付けられた連結具18bとを、連結棒52を介して連結することによって、スクリーン部10に取り付けることができる。また、異物除去部30は、他方の端部に取り付けられた連結具36bと、用水路40の側壁44に取り付けられた連結具46bとを、連結棒54を介して連結することによって、側壁44に取り付けることができる。
【0028】
複数のスクリーンバー12の少なくとも1つに、水の流れを受ける面12sから空気を噴出することができるように、複数の空気噴出孔(図示せず)が設けられることが好ましい。空気噴出孔から噴出させた空気は、スクリーンバー12の面12sに沿って上昇し、スクリーンバー12間の間隔Sにからみついた異物を押し上げる効果があるため、スクリーン部10に異物が付着することをより効果的に防止することができる。空気噴出孔は、特に異物が集中しやすい部分、例えば水面近くに位置する複数のスクリーンバー12に設けられていることが好ましい。空気噴出孔を設ける位置は、流れを受ける面12sの面内であれば特に限定されないが、凹形状の奥であることがより好ましい。スクリーンバー12の各々に設けられる空気噴出孔の数及び間隔は、異物の付着をより効果的に防止することができる数であれば特に限定されない。
【0029】
複数のスクリーンバー12の各々において、流れを受ける面12sとは反対側のいずれかの位置に、空気噴出孔から噴出される空気を供給するための空気供給管(図示せず)が設けられることが好ましい。また、空気供給管の各々に空気を供給するための機構は特に限定されるものではなく、一般的な圧縮空気を生成して空気供給管に供給するためのコンプレッサ及び送気管(図示せず)が適切な位置に設けられていればよい。空気の噴出圧力は、必要とするエネルギーと異物除去効果とのバランスで決めればよく、特に限定されるものではないが、0.3MPa〜1.0MPa程度であればよい。
【0030】
(シミュレーションによる取水口スクリーンの形状及び設置角度の検討)
本発明による取水口スクリーンのスクリーンバーの形状及び設置角度を検討することを目的として、コンピュータ・シミュレーションを行った。本シミュレーションにおいては、本発明に係る取水口スクリーンを取り付けた水路を3次元CADソフトウェア(Dassault Systemes SolidWorks社のSolidWorks)及びモデリングツール(ANSYS社のANSYS Design Modeler)により3D解析モデル化し、この解析モデルを用いて数値流体解析を行った。数値流体解析には、有限体積法によって数値解析を行う汎用の熱流体解析ソフトウェア(ANSYS社のANSYS−Fluent18.0)を用いた。
【0031】
図4及び図5は、数値流体解析に用いた解析モデル及び条件を示す。図4は、解析モデルの斜視図及び流路のサイズを示し、図5は、解析対象水路の条件、解析の際の計算条件及び水の物性値を示す。図5においては、スクリーンはフィルターと表現されている。解析モデルにおけるスクリーンのスクリーンバー形状は、V字型のもの(以下の記載及び図面においては、「V字」と表す)、V字型の角にR(R10)を付けたもの(同様に、「R10」と表す)及びU字型(四分円)のもの(同様に、「U90」と表す)とした。V字のスクリーンバーは、水の流れを受ける面12sがアングル形状(図3(a))のものに対応する。同様に、R10のスクリーンバーは面12sが略アングル形状(図3(b))のものに対応し、U90のスクリーンバーは面12sが弧形状(図3(c))のものに対応する。
【0032】
なお、図4に示されるように、解析対象である水路の大きさは、幅3000mm、高さ2000mm、長さ5000mmであり、スクリーンの大きさは、幅1500mm、高さ2000mm、厚さ100mmである。一方、解析モデルのサイズは、幅3000mm、高さ480mm、長さ5000mmであり、解析対象の水路と比較して高さが減少している。これは、計算する格子数を削減して解析時間を短縮する目的で、スクリーンバーの数を少なく(すなわち、スクリーンバーを低く)し、それに合わせて解析モデルの高さを減少させたためである。スクリーンバーの数は、解析モデルにおいては5個とした。
【0033】
図6A図6Cは、水の流れの方向DWに対するスクリーンバーの傾斜角θ(図1(b)を参照)が30°の場合に、スクリーンバーの形状によってスクリーンバー周辺を流れる水の速度及び方向がどのように変化するかを示すシミュレーション結果である。これらの図においては、スクリーンバーを横方向(スクリーン部10の左方向)からみたときの速度ベクトルが示されている。各図の左端には速度スケール(単位はm/s)が示されており、色が濃いほど速度が速いことを表す。図6Aは、V字のスクリーンバーの場合であり、図6Bは、R10のスクリーンバーの場合であり、図6Cは、U90のスクリーンバーの場合である。
【0034】
図6A図6Cを比較すると、スクリーンバーの流れを受ける面に沿って上下に向かうベクトルが、V字(図6A)、R10(図6B)、U90(図6C)の順で多いことがわかる。これらのベクトルで表される水の流れは、面に当たった後に面に沿って上下方向に向かう還流及び面から離れる方向に向かう還流になると考えられ、これらの還流が強いほど、スクリーンバーに向かう水に対する抵抗が大きくなり、異物付着防止効果が大きい。また、スクリーンバー間の間隔を通過した水の速さは、V字、R10、U90の順で速いこともわかる。間隔を通過した水の速度が遅いほど、通過する水に引かれて間隔の部分に付着する異物が少なくなる。したがって、スクリーンバーの好ましい形状に関する上述の説明のとおり、異物付着防止効果は、V字、R10、U90の順で大きいと考えられる。
【0035】
図7A図7Dは、スクリーンバーの形状がV字の場合に、水の流れの方向に対するスクリーンバーの傾斜角θによってスクリーンバー周辺を流れる水の速度及び方向がどのように変化するかを示すシミュレーション結果である。これらの図においては、スクリーンバーを横方向(スクリーン部10の左方向)からみたときの速度ベクトルが示されている。各図の左端には速度スケール(単位はm/s)が示されており、色が濃いほど速度が速いことを表す。図7Aは、スクリーンバーの傾斜角θが15°の場合であり、図7Bは傾斜角が30°の場合、図7Cは傾斜角が45°の場合、図7Dは傾斜角が60°の場合である。
【0036】
図7A図7Dを比較すると、傾斜角が15度の場合には、間隔Sを通過する水の速度が速く、傾斜角30度の場合はそれより若干遅いか同程度であり、傾斜角45度、60度となるにつれて速くなることがわかる。間隔を通過する水の速度が速いと、その水に引かれて間隔の部分に異物が付着しやすいと考えられる。一方、スクリーンバーの水を受ける面に沿って上下に移動する水(還流)は、傾斜角が大きくなるにつれて量が多くなっている。還流が多いほど、スクリーンバーに向かう水に対する抵抗が大きくなる。したがって、スクリーンバーの好ましい傾斜角に関する上述の説明のとおり、角度が15度又は30度の場合には、角度がより大きい場合と比較して、還流による抵抗と間隔を通過する流速とが適度なバランスとなり、異物の付着防止効果がより高くなるものと考えられる。
【符号の説明】
【0037】
1 取水口スクリーン
10 スクリーン部
12 スクリーンバー
12a 一方の端部
12b 他方の端部
12s 水の流れを受ける面
13 補強部材
14、16 支持部材
18a、18b 連結具
30 異物除去部
32 枠
34 棒状部材
36a、36b 連結具
40 用水路
42 取水口
44 側壁
46a、46b 連結具
50、52、54 連結棒
S スクリーンバーの間隔
DW 水の流れの方向


【要約】
【課題】 簡単な構造で、用水路を流れる異物が付着しない取水口スクリーンを提供する。
【解決手段】 取水口スクリーンは、取水口の上流側において用水路の側壁に接触又は近接して配置される前端部と、取水口の下流側において用水路の側壁から離れて配置される後端部と、前端部と後端部との間に渡された複数のスクリーンバーとを備える。複数のスクリーンバーの各々は、互いに上下に間隔をあけて並置され、水の流れを受ける面の縦断面形状が凹形状に形成されている。
【選択図】 図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図7C
図7D