(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
車両のスライドドアを開閉する電動モータを駆動制御する際に、前記スライドドアの開閉中に前記スライドドアの移動速度が予め設定された目標速度に追従するように、所定の制御周期に占める前記電動モータへの電源からの通電時間の割合であるデューティ比の指令値を決定し、決定した前記指令値に基づいて前記電動モータの通電制御を実行することで、前記スライドドアの移動速度を制御する制御部を有するモータ制御装置であって、
前記電動モータの巻線の各端子と前記電源との間に接続される複数の上段スイッチング素子と前記各端子と接地電位との間に接続される複数の下段スイッチング素子とを有し、
前記制御部は、
相補パルス幅変調ではないパルス幅変調による駆動出力方式、相補パルス幅変調による駆動制動出力方式、および、前記上段スイッチング素子のすべてもしくは前記下段スイッチング素子のすべてのいずれか一方のみをオン状態とする制動出力方式を有し、
前記駆動出力方式における前記指令値よりも低い前記指令値の場合に、前記駆動制動出力方式として、前記上段スイッチング素子または前記下段スイッチング素子のいずれか一方のみがオン状態であって、前記上段スイッチング素子のいずれか他方と前記下段スイッチング素子のいずれか他方とを同一期間に逆相となるようにデューティ制御を行い、
前記駆動制動出力方式における前記指令値よりも低い前記指令値であって、前記移動速度が前記目標速度を上回った状態で一定時間経過した場合に、前記制動出力方式として、前記上段スイッチング素子のすべてもしくは前記下段スイッチング素子のすべてのいずれか一方のみをオン状態とする制御を行う、
モータ制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(車両のドア開閉装置の構成)
図1は、本発明のモータ制御装置で駆動される電動モータを備えるドア開閉装置14の概略を示す平面図である。
図1に示すように、車両11の側部には、被駆動体としてのスライドドア12が装着されている。このスライドドア12は、車両11に固定されるガイドレール13に案内され、図中実線で示す全開位置と鎖線で示す全閉位置との間で車両前後方向に移動自在つまり開閉自在となっている。
【0012】
車両11にはドア開閉装置14が設けられている。ドア開閉装置14は、スライドドア12を自動的に開閉する。このドア開閉装置14は、車両11に固定される駆動ユニット15を有する。駆動ユニット15には、駆動用のケーブル16が設けられている。ケーブル16は、ガイドレール13の両端に配置された反転プーリ17、および反転ブーリ18に掛け渡されて、車両11の前方側と後方側とからスライドドア12に接続されている。スライドドア12は、駆動ユニット15によりケーブル16のいずれか一方側が引かれると、ケーブル16に引かれながら開方向または閉方向に移動する。
【0013】
図2は、
図1に示すドア開閉装置14の制御体系を示す説明図である。
図2に示すように、駆動ユニット15には電動モータ21が設けられている。この電動モータ21として、本実施形態においては、3相(U相、V相、およびW相)のブラシレスモータが用いられる。ただし、電動モータ21は、3相のブラシレスモータに限らず、例えば直流モータ等であってもよい。電動モータ21は、モータ制御装置41から、所定の通電パターンに従って、3相の各相へ、それぞれ印加電圧Vu、印加電圧Vv、および印加電圧Vwが供給されると作動する。電動モータ21は、供給される印加電圧の正負に応じて、その回転方向が正転または逆転に切り替えられる。
【0014】
また、電動モータ21の回転軸21aには、回転子47(永久磁石)が固定される。この回転子47の回転軌道近傍には、回転子47の回転位置を検出する位置センサとしての3つのホールIC(集積回路)48u、ホールIC48v、およびホールIC48wが、回転軸21aを中心として互いに120度の位相差を有する位置に設けられている。これらの3つのホールIC48u、ホールIC48v、およびホールIC48wは、電動モータ21の回転軸21aが回転すると、それぞれ互いに120度位相のずれたパルス信号Su、パルス信号Sv、およびパルス信号Swをモータ制御装置41に対して出力する。
【0015】
また、電動モータ21の回転軸21aには、駆動ギヤ24が固定される。駆動ギヤ24には大径スパーギヤ25が噛み合わされている。大径スパーギヤ25と一体に回転する小径スパーギヤ26には、出力軸27に固定される従動ギヤ28が噛み合わされている。これにより、電動モータ21の回転は所定の減速比で減速されて出力軸27に伝達される。
【0016】
出力軸27には外周面に図示しない螺旋状の案内溝が形成された円筒形状のドラム31が固定されている。駆動ユニット15に案内されたケーブル16は、案内溝に沿ってドラム31に複数回巻き付けられている。電動モータ21が作動すると、ドラム31は電動モータ21に駆動されて回転し、これによりケーブル16が作動してスライドドア12は開閉動作する。つまり、電動モータ21により、
図2中で反時計回り方向にドラム31を回転させることにより、車両後方側のケーブル16がドラム31に巻き取られて、スライドドア12はケーブル16に引かれながら開方向に移動する。反対に、電動モータ21により、
図2中で時計回り方向にドラム31を回転させることにより、車両前方側のケーブル16がドラム31に巻き取られてスライドドア12はケーブル16に引かれながら閉方向に移動する。このように、スライドドア12は、ケーブル16、ドラム31、出力軸27等を介して電動モータ21に接続され、電動モータ21により開閉駆動される。
【0017】
ドラム31と2つの反転プーリ17、および反転ブーリ18との間には、それぞれテンショナ32が設けられている。テンショナ32は、ドラム31とスライドドア12との間におけるケーブル16の弛みを取ってケーブル張力を一定範囲に維持する。テンショナ32は、それぞれ固定プーリ32aと可動プーリ32bとを有し、可動プーリ32bは固定プーリ32aを軸心としてばね部材32cにより回転方向に付勢されており、ケーブル16は各プーリ32a、32bの間に掛け渡されている。したがって、ケーブル16に緩みが生じると、可動プーリ32bにより付勢されてケーブル16の移動経路が増加し、これによりケーブル16の張力が維持される。
【0018】
なお、駆動ユニット15は電動モータ21と出力軸27との間にクラッチ機構が設けられないクラッチレス式となっている。つまり、電動モータ21から出力軸27、つまりスライドドア12へは、常に動力伝達可能な状態とされている。このため、後述するように電動モータ21により回生ブレーキ力を発生させる際に、電動モータ21の固定子(ステータ)と、ドラム31に接続された回転子47(マグネットロータ)との間にはエアギャップがあり機械的には直接接していないため、電動モータ21に回生ブレーキ力を発生させる際に生じる振動は、クラッチ機構の断続制御により生じる振動(衝撃)よりも少ない。
【0019】
上記駆動ユニット15内の電動モータ21は、モータ制御装置41により駆動される。このモータ制御装置41は、スライドドア12を予め設定された目標速度で開閉移動させるように電動モータ21の作動を制御する。また、モータ制御装置41は、電動モータ21の入力端子22u、22v、および22w(各端子)を短絡させて回生ブレーキ力を発生させる。
【0020】
(モータ制御装置の構成)
図3は、
図2に示すモータ制御装置41、および電動モータ21の詳細を示す回路図である。電動モータ21は、3相DC(直流)ブラシレスモータである。電動モータ21は、インナーロータ型で、一対のN極およびS極を含む永久磁石(マグネット)を埋め込んで構成された回転子47(マグネットロータ)を含む。また、電動モータ21は、スター結線されたU相、V相およびW相の固定子巻線21u、21v、および21wを含む。また、回転子47に近接して、120度毎に、回転位置検出素子(ホールIC48u、ホールIC48v、およびホールIC48w)が配置される。これらホールICは、回転子47の回転位置を検出する。
【0021】
電動モータ21を制御するためのモータ制御装置41は、駆動回路部42、直流電源44、および制御系回路部50を含んで構成される。
【0022】
駆動回路部42は、3相ブリッジ形式に接続された6個のスイッチング素子としてのnチャネルMOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)42a〜42f(以下、トランジスタ42a〜42fという)を含む。このトランジスタ42a〜42fは、各ドレイン−ソース間に逆並列に接続された寄生ダイオード43a〜43fとを含んでいる。ブリッジ接続された6個のトランジスタ42a〜42fの各ゲートは制御系回路部50に接続される。
【0023】
また、6個のトランジスタ42a〜42fのドレインまたはソースは、電動モータ21の入力端子22u、22v、および22wを介して、スター結線された固定子巻線21u、21v、および21wに接続される。6個のトランジスタ42a〜42fのうち3個の上段トランジスタ42a〜42c(複数の上段スイッチング素子)は各ドレインが直流電源44の正極端子に接続されるとともに、各ソースが電動モータ21の入力端子22u、22v、および22wに接続されている。また、3個の下段トランジスタ42d〜42f(複数の下段スイッチング素子)は各ドレインが電動モータ21の入力端子22u、22v、および22wに接続されるとともに、各ソースが直流電源44の接地電位に接続されている。これによって、6個のトランジスタ42a〜42fは、制御系回路部50から入力される駆動信号(ゲート信号)G1〜G6によってスイッチング動作を行い、駆動回路部42に印加される直流電源44の電源電圧を、3相(U相、V相、W相)の印加電圧Vu、Vv、Vwとして、固定子巻線U、V、Wへ供給する。なお、駆動信号(ゲート信号)G1は、ハイ信号(H信号)の場合に、対応するトランジスタ42aがオン(ON)になり、ロー信号(L信号)の場合に、対応するトランジスタ42aがオフ(OFF)になる。駆動信号(ゲート信号)G2〜G6についても同様である。
【0024】
制御系回路部50は、電動モータ21への印加電圧Vu、Vv、Vw(より正確には電圧と周波数)を可変制御するために、駆動回路部42のトランジスタ42a〜42fの各ゲートを駆動する駆動信号G1〜G6をパルス幅変調信号(PWM信号)として形成する。制御系回路部50は、トランジスタ42a〜42fを高速スイッチングすることにより、直流電源44から各固定子巻線21u、21v、および21wへ供給する印加電圧を制御する。
【0025】
制御系回路部50は、ドライバ回路51、ドア開閉情報生成部52、および制御部53を含んで構成される。
【0026】
制御部53は、回転制御部54と、記憶部57とを有している。制御部53は、例えばマイクロコンピュータ(以下、マイコンという)であり、CPU(中央処理装置)、記憶装置、周辺装置等を含み、記憶装置に記憶されているプログラムを実行することで動作する。また、本実施形態では、制御部53は、相補PWM(相補パルス幅変調)に対応したPWM指令信号(駆動信号G1〜G6に対応する信号)の発生機能を有している。相補PWMとは、ブリッジ接続されたトランジスタ42a〜42fのうち、直列接続された各トランジスタを逆相で駆動する動作モードである。例えば、直列接続されたトランジスタ42aとトランジスタ42dにおいてPWMの1周期のなかのオン期間でトランジスタ42aをオンするとともにトランジスタ42dをオフし、オフ期間でトランジスタ42aをオフするとともにトランジスタ42dをオンする。ただし、トランジスタ42aとトランジスタ42dは同時にオンさせると直流電源44が短絡状態となるので、短絡防止期間 (デッドタイム) が自動的に挿入される。制御部53は、所定のレジスタに、PWM周期、相補PWMとするか否か、PWM制御のデューティ比等を設定することで非相補PWM(通常のPWM)または相補PWMに対応したPWM指令信号を発生する。
【0027】
回転制御部54は、ドア開閉情報生成部52から入力されるパルス信号Su、パルス信号Sv、およびパルス信号Sw、速度信号V、位置信号P、および方向信号Dに基づいて、ドライバ回路51に対して、電動モータ21を正転駆動または逆転駆動するためのPWM指令信号(正転回転指令または逆転回転指令)を出力する。ドライバ回路51は、入力されるPWM指令信号に基づいて、トランジスタ42a〜42fを所定の通電パターンでスイッチングするための駆動信号G1〜G6を生成し、駆動回路部42へ出力する。これによって、駆動回路部42(駆動回路)は、固定子巻線21u、21v、および21wを所定の通電パターンで通電する供給電圧Vu、Vv、Vwを各固定子巻線に印加し、回転子47を、回転制御部54が指示する回転方向に回転させる。
【0028】
より具体的には、制御部53には、開閉スイッチ45が接続される。操作者が開閉スイッチ45を操作し、制御部53にドアの開閉開始を指令する信号が入力されると、回転制御部54は、ドア開閉情報生成部52から入力される速度信号V、位置信号P、および方向信号Dに応じてPWM指令信号を生成し、ドライバ回路51に対して出力する。ここで、PWM指令信号は、所定の制御周期にて各駆動信号G1〜G6のオンもしくはオフ、または所定のデューティ比でオンおよびオフする信号である。ここで、デューティ比は、PWM制御の1周期に対するオン期間の比率であり、所定の制御周期に占める電動モータ21への直流電源44からの通電時間の割合に対応する。ここで、所定の制御周期はPWM周期である。
【0029】
なお、ドア開閉情報生成部52は、制御部53がPWM指令信号の生成に用いる速度信号V、位置信号P、および方向信号Dを、ホールIC48u、48v、48wがそれぞれ出力するパルス信号Su、Sv、およびSwから生成する。ドア開閉情報生成部52は、ホールIC48u、48v、48wがそれぞれ出力するパルス信号Su、Sv、およびSwが入力されると、パルス信号の発生間隔に基づいて電動モータ21の回転速度、つまりスライドドア12の移動速度Vを算出する。また、ドア開閉情報生成部52は、パルス信号Su、Sv、およびSwの出現タイミング(出現する順番)に基づいて電動モータ21の回転方向、つまりスライドドア12の移動方向を検出し、方向信号Dを出力する。
【0030】
また、ドア開閉情報生成部52は、スライドドア12が基準位置(例えば全閉位置)となったときを起点としてパルス信号の切替りをカウント(積算)することによりスライドドア12の位置を検出し、位置信号Pを出力する。なお、スライドドア12の基準位置は、例えば、全閉検出スイッチ46により検出される。この全閉検出スイッチ46は、スライドドア12のドア位置が「全閉位置」にあることを検出するためのスイッチであり、例えば、ドア位置が「全閉位置」でオンになるリミットスイッチである。
【0031】
回転制御部54は、スライドドア12を開閉する電動モータ21を駆動制御する際に、スライドドア12の開閉中にスライドドア12の移動速度が予め設定された目標速度に追従するように、デューティ比の指令値を決定し、決定した指令値に基づいて電動モータ21の通電制御を実行することで、スライドドア12の移動速度を制御する。回転制御部54によるデューティ比の指令値の算出は次のように実行される。すなわち、回転制御部54は、スライドドア12の移動速度(速度信号Vの速度)と、予め実験或いは設計において設定されて記憶部57内に格納された目標速度Vcとに基づいた比例制御と積分制御とによりデューティ比の指令値を算出する。回転制御部54は、駆動信号G1〜G6のデューティ比の指令値xを、スライドドア12の移動速度Vと目標速度Vcとに基づいたPI(比例積分)演算、x=kp(V−Vc)+kiΣ(V−Vc)で算出する。ここで、kpは比例ゲイン、kiは積分ゲインを示す。このPI制御によれば、スライドドア12の移動速度Vと目標速度Vcの偏差の累積により、移動速度Vと目標速度Vcの差が0となっても指令値xは0とならないので、安定した速度制御が可能となる。また、特に制限を設けない場合、デューティ比の指令値xは、0%以下(すなわち負の値)となったり、100%以上となったりする。ただし、以下では、デューティ比の指令値xが上限100%で制限されているとして説明を行う。なお、デューティ比の指令値xが0%以下となるのは、例えば、スライドドア12の移動速度が目標速度を上回った状態で一定時間経過したような場合である。回転制御部54は、方向信号Dが示す回転方向に基づき、同方向に対応したPWM指令信号をドライバ回路51に対して出力する。なお、記憶部57は、目標速度Vcを、位置信号Pが示すスライドドア12の位置、および方向信号Dが示すスライドドア12の移動方向に関連付けて記憶している。
【0032】
次に、
図4〜
図13を参照して、回転制御部54の動作例について説明する。
図4は、回転制御部54が実行する処理のメインルーチンを示すフローチャートである。
図4に示す処理は、例えば、回転制御部54が電動モータ21を駆動制御している間、例えば、5msよりも十分短い周期で繰り返し実行される。回転制御部54は、まず、5ms制御のタイミングであるか否かを判定する(ステップS1)。5ms制御のタイミングであるか否かとは、5ms毎に実行する処理を開始するタイミングであるか否かということであり、前回の実行タイミングから5msが経過した場合に、回転制御部54は、5ms制御のタイミングであると判定し(ステップS1でYes)、ステップS2とステップS3の処理を実行する。回転制御部54は、5ms制御のタイミングでないと判定した場合(ステップS1でNo)、ステップS2とステップS3の処理を実行せず、処理を終了する。
【0033】
ステップS2の速度制御処理において、回転制御部54は、上述したようにして、スライドドア12の開閉中にスライドドア12の移動速度が予め設定された目標速度に追従するようにデューティ比の指令値を決定する。
【0034】
次に、ステップS3のモータ駆動処理において、回転制御部54は、ドア開閉情報生成部52の出力信号や開閉スイッチ45の出力信号、ステップS2で決定されたデューティ比の指令値に基づき、電動モータ21の駆動処理を実行する。回転制御部54は、例えば、電動モータ21の駆動を開始したり、駆動を一時停止させたり、あるいは一時停止を解除したりする処理を実行する。
【0035】
また、回転制御部54は、
図4に示すステップS2の速度制御処理で決定されたデューティ比の指令値と方向信号Dに基づいて、ドライバ回路51に対して出力されるPWM指令信号(駆動信号G1〜G6に対応する信号)を生成して出力するための処理を行う。その際、回転制御部54は、
図5に示すように、駆動回路部42における各トランジスタ42a〜42fの駆動方式をデューティ比の指令値に応じて制動力が異なる複数の駆動方式に選択的に切り替える処理を行う。この駆動方式の切り替えによって本実施形態では制動力の制御性能の向上(制動力の増大、精度の向上等)を図っている。この場合、回転制御部54は、駆動回路部42の駆動方式を、相補PWMではないPWMによる駆動方式、相補PWMによる駆動方式、または、上段トランジスタ42a〜42cのすべてもしくは下段トランジスタ42d〜42fのすべてをオン状態とする場合にデューティ制御を行う駆動方式のいずれかに、デューティ比の指令値に応じて切り替える。
【0036】
図5は、回転制御部54がPWM指令信号を生成して出力する際のデューティ比の指令値と駆動方式との対応関係を示す図表である。
【0037】
図5に示すように、デューティ比の指令値が相補PWM最大デューティ〜100%の場合、相補PWM無しの駆動出力によって電動モータ21を駆動状態とする駆動方式が選択される。相補PWM最大デューティは、相補PWM無しと相補PWM有りとを切り替えるしきい値となるデューティ比の指令値である。相補PWM無しの駆動出力では、例えば
図6に示すように、パルス信号Su、Sv、およびSwが変化するタイミングに応じて、上段トランジスタ42a〜42c(駆動信号G1〜G3)がオン(H)またはオフ(L)に制御されるとともに、下段トランジスタ42d〜42f(駆動信号G4〜G6)がPWM制御によってオン(H)またはオフ(L)される。
図6は、パルス信号Su、Sv、およびSwと駆動信号G1〜G6の変化を示すタイミングチャートである。横軸は回転子47の回転位置を電気角で表す。この場合、電気角60°毎に通電パターンが変化している。
図7は、左端の60°の領域の通電パターンにおける駆動回路部42と電動モータ21の動作状態を示す。この場合、電流は、直流電源44(正極)→トランジスタ42a→電動モータ21→トランジスタ42e→グランド(接地)と通電する。PWMのオン時間が長い(直流電源44からの通電割合に対応するデューティ比が大きい)ほど強い駆動出力となる。
【0038】
次に、
図5に示すように、デューティ比の指令値が1%〜相補PWM最大デューティの場合、相補PWMによる駆動出力または制動出力によって電動モータ21を駆動状態または制動状態とする駆動方式が選択される。相補PWM有りの駆動出力または制動出力では、例えば
図8に示すように、パルス信号Su、Sv、およびSwが変化するタイミングに応じて、上段トランジスタ42a〜42c(駆動信号G1〜G3)がオン(H)、オフ(L)またはPWM制御によってオン(H)もしくはオフ(L)されるとともに、下段トランジスタ42d〜42f(駆動信号G4〜G6)がPWM制御によってオン(H)またはオフ(L)される。この場合、上段トランジスタ42a〜42cのPWM制御によるオン(H)またはオフ(L)と、下段トランジスタ42d〜42fのPWM制御によるオン(H)またはオフ(L)は、同一期間に逆相関係となるように制御される。
図8は、パルス信号Su、Sv、およびSwと駆動信号G1〜G6の変化を示すタイミングチャートである。横軸は回転子47の回転位置を電気角で表す。この場合、電気角60°毎に通電パターンが変化している。
図9は、
図8の時刻t2での通電パターンにおける駆動回路部42と電動モータ21の動作状態を示す。この場合、電流は、電動モータ21とトランジスタ42aおよびトランジスタ42bが形成する回路を流れる。電流が回生しているため電動モータ21は制動状態となる。また、電動モータ21はグランドと接続されていないため、直流電源44からの電流は流れない。一方、
図8の時刻t1での通電パターンにおける駆動回路部42と電動モータ21の動作状態は、
図7を参照して説明した上述の場合と同じである。相補PWMによる駆動出力または制動出力では、
図9に示す制動出力でのPWMのオン時間が長い(直流電源44からの通電割合に対応するデューティ比が小さい)ほど強い制動力となる。
【0039】
次に、
図5に示すように、デューティ比の指令値が0%の場合、すべてのトランジスタ42a〜42fをオフさせることで電動モータ21を制動状態とする駆動方式が選択される。
【0040】
次に、
図5に示すように、デューティ比の指令値が0%未満の場合は、下段(または上段)のトランジスタをすべて同時にオンさせ、かつオン時間をPWM出力により制御することで電動モータ21を制動状態とする駆動方式が選択される。この駆動方式では、例えば
図10に示すように、常時、上段トランジスタ42a〜42c(駆動信号G1〜G3)がすべてオフ(L)されるとともに、下段トランジスタ42d〜42f(駆動信号G4〜G6)がPWM制御によってオン(H)またはオフ(L)される。この場合、下段トランジスタ42d〜42fのPWM制御によるオン(H)またはオフ(L)は、連続的に同相で実行される。
図10は、パルス信号Su、Sv、およびSwと駆動信号G1〜G6の変化を示すタイミングチャートである。横軸は回転子47の回転位置を電気角で表す。この場合、電気角60°毎に通電パターンは同一であるが、異なっていてもよい。
図11は、
図10に示す各通電パターンにおける駆動回路部42と電動モータ21の動作状態を示す。この場合、電流は、電動モータ21とトランジスタ42d〜42fが形成する回路を流れる。電流が回生しているため電動モータ21は制動状態となる。また、電動モータ21はグランドと接続されていないため、直流電源44からの電流は流れない。この駆動方式による制動出力では、
図10に示すPWMのオン時間が長いほど強い制動力となる。また、
図8に示すような相補PWMでは駆動出力と制動出力の間の切り替え時に上段トランジスタ42a〜42cと下段トランジスタ42d〜42fが同時にオンすることがないようデッドタイムを設定する必要がある。これに対し、この駆動方式では、下段トランジスタ42d〜42f(または上段トランジスタ42a〜42c)のみをオン状態とすることで電動モータ21を制動出力の状態とするので、デッドタイムの分の出力時間を制動出力に割り当てることができる。よって相補PWMよりも大きな制動出力を得ることができる。
【0041】
次に、
図12を参照して、回転制御部54が、PWM指令信号を生成して出力する際の処理について説明する。
図12は、回転制御部54が、PWM指令信号を生成して出力する際の処理の一例を示すフローチャートである。回転制御部54は、
図12に示す処理を、例えばパルス信号Su、Sv、およびSwの信号の立ち上がりおよび立ち下がりに同期して実行する。
【0042】
図12に示すフローチャートにおいて、回転制御部54は、
図4の速度制御処理(ステップS2)で算出したデューティ比の指令値が0%以上であるか否かを判定する(J1)(ステップS101)。デューティ比の指令値が0%以上でない場合(ステップS101でNoの場合)、回転制御部54は、下段トランジスタ42d〜42fをすべてオンにするモードに駆動方式を設定する(ステップS102)。続いて、デューティ比の指令値に基づき、下段トランジスタ42d〜42fをすべてオンにする駆動方式における出力デューティ(
図10のオン時間比)を算出する(ステップS103)。一方、デューティ比の指令値が0%以上である場合(ステップS101でYesの場合)、回転制御部54は、デューティ比の指令値が相補PWMの最大デューティ以下であるか否かを判定する(J2)(ステップS104)。
【0043】
デューティ比の指令値が相補PWMの最大デューティ以下である場合(ステップS104でYesの場合)、回転制御部54は、相補PWM有りのモードに駆動方式を設定する(ステップS105)。他方、デューティ比の指令値が相補PWMの最大デューティ以下でない場合(ステップS104でNoの場合)、回転制御部54は、相補PWM無しのモードに駆動方式を設定する(ステップS106)。
【0044】
ステップS103、S105またはS106の後、回転制御部54は、駆動方式が下段トランジスタ全オンモードに設定されているか否かを判定する(J3)(ステップS107)。下段トランジスタ全オンモードに設定されている場合(ステップS107でYesの場合)、回転制御部54は、下段トランジスタ42d〜42fがすべて同期してオンするようにマイコン(制御部53)を設定する(ステップS108)。ステップS108において、回転制御部54は、後述するステップS113〜S118の出力設定に関わらず、上段トランジスタ42a〜42cを常にオフするとともに、下段トランジスタ42d〜42fについてはいずれかのトランジスタがオンした場合に他のトランジスタも同時にオンするようマイコン(制御部53)を設定する。
【0045】
一方、下段トランジスタ全オンモードに設定されていない場合(ステップS107でNoの場合)、回転制御部54は、駆動方式が相補PWM有りのモードに設定されているか否かを判定する(J4)(ステップS109)。駆動方式が相補PWM有りのモードに設定されている場合(ステップS109でYesの場合)、回転制御部54は、相補PWMでPWM指令信号が生成されるようマイコン(制御部53)を設定する(ステップS110)。他方、駆動方式が相補PWM有りのモードに設定されていない場合(ステップS109でNoの場合)、回転制御部54は、相補PWM無しでPWM指令信号が生成されるようマイコン(制御部53)を設定する(ステップS111)。
【0046】
ステップS108、S110またはS111の後、回転制御部54は、パルス信号Su、Sv、およびSwに基づいて通電パターンを判定する(J5)(ステップS112)。ステップS112において、回転制御部54は、パルス信号Su、Sv、およびSwに基づき、電気角360°のうちのどの角度範囲(例えばどの60°の領域)に対応する通電パターンを選択すべきかを判定する。
【0047】
次に、回転制御部54は、通電パターンの判定結果(ステップS112)に基づき、通電パターン毎の出力設定を行うとともに(ステップS113〜S118)、出力デューティを設定する(ステップS119〜S124)。ここで、一例として、ステップS113が
図6、
図8または
図10に示す左端の60°の区間の通電パターンに対応し、ステップS114が
図6、
図8または
図10に示す左端の60°の区間の右隣の次の60°の区間の通電パターンに対応するとする。この場合、回転制御部54は、ステップS113において、駆動信号G1に対応するPWM指令信号(以下、駆動信号G1と称する(他の信号についても同様とする))をオン、駆動信号G2をオフ、駆動信号G3をオフ、駆動信号G4をオフ、駆動信号G5をPWM出力、および駆動信号G6をオフに設定する。続いて、回転制御部54は、ステップS119において、PWM制御のデューティ比を、
図4のステップS2で算出したデューティ比の指令値またはステップS103で算出した出力デューティに設定する。以上の処理で、回転制御部54は、駆動信号G1〜G6を、
図6、
図8または
図10に示す各駆動方式に対応した信号とすることができる。また、この例において、回転制御部54は、ステップS114で、駆動信号G1をオン、駆動信号G2をオフ、駆動信号G3をオフ、駆動信号G4をオフ、駆動信号G5をオフ、および駆動信号G6をPWM出力に設定する。続いて、回転制御部54は、ステップS120において、PWM制御のデューティ比を、
図4のステップS2で算出したデューティ比の指令値またはステップS103で算出した出力デューティに設定する。以上の処理で、回転制御部54は、駆動信号G1〜G6を、
図6、
図8または
図10に示す各駆動方式に対応した信号とすることができる。
【0048】
また、デューティ比の指令値が0%の場合には、ステップS101でYes、ステップS104でYes、ステップS105で相補PWM有りに駆動方式を設定、ステップS107でNo、ステップS109でYes、ステップS110で相補PWM有りでマイコン設定、ステップS113〜S118で通電パターン設定がなされた後、ステップS119〜S124で出力デューティが0%に設定される。したがって、駆動信号G1〜G6はオフ(L)となる。
【0049】
以上のようにして制御部53は、例えば
図13に示すように、速度制御におけるデューティ比の指令値に基づき、制動力を制御することができる。
図13は、速度制御におけるデューティ比の指令値と電動モータ21の制動力との関係を模式的に示す図である。なお、駆動方式を変更するデューティ比の指令値は、
図13に示す関係に限らず、例えば、駆動停止位置を0%以外の値に対応させるなどしてもよい。
【0050】
なお、上記の構成および動作例は一例であって、例えば、
図6、
図8または
図10に示す例では通電角を120°としているがこれに限定されない。また、進角の値は変更することができる。また、スイッチング素子は、FETに限らず、絶縁ゲート・バイポーラ・トランジスタ(IGBT)等を用いてもよい。また、
図10および
図11に示す例では、下段トランジスタ42d〜42fをすべてオン状態としているが、上段トランジスタ42a〜42cをすべてオン状態とするようにしてもよい。
【0051】
以上のように、本実施形態のモータ制御装置41によれば、制御部53によって、速度制御によるデューティ比の指令値に応じて、上段トランジスタ42a〜42cのすべてまたは下段トランジスタ42d〜42fのすべてをオン状態にして電動モータ21を駆動制御するので、相補PWMによる制動出力よりも大きな制動力を発生させることができる。
よって、開閉体が重い場合などでも目標速度よりも速くなることを防止でき、スライドドアの速度制御を精度よく行うことができる。
【0052】
また、本実施形態のモータ制御装置41によれば、制御部53によって、速度制御によるデューティ比の指令値に応じて、上段トランジスタ42a〜42cのすべてまたは下段トランジスタ42d〜42fのすべてをオン状態とする場合に、デューティ制御を実行するので、目標速度への追従性を向上させることができる。
【0053】
また、本実施形態のモータ制御装置41によれば、制御部53によって、上段トランジスタ42a〜42cおよび下段トランジスタ42d〜42fの駆動方式を、相補PWMではないPWMによる駆動方式、相補PWMによる駆動方式、または、上段トランジスタ42a〜42cのすべてもしくは下段トランジスタ42d〜42fのすべてをオン状態とする場合にデューティ制御を行う駆動方式のいずれかに、速度制御によるデューティ比の指令値に応じて切り替えるので、切り替えを行わない場合と比較して、スライドドアの速度制御を精度よく行うことができる。
【0054】
従来、スライドドアが外力により加速する状況、例えば急傾斜地でのドア停止制御などの状況の際に、スライドドアの重量が重い場合など従来のPWM制御のみではスライドドアの速度を制御しきれない(目標速度を上回ったまま)場合があった。この課題の一因として、相補PWMにおいて、上段FETと下段FETが同時にオンしないように、デッドタイムを設けていることがある。すなわち、デッドタイム分の時間は電動モータがフリー状態となり、駆動出力・制動出力ともに実施できないため、例えばスライドドアの重量が重くなった場合などスライドドアの速度を制御しきれないことが生じる可能性があった。これに対し、本実施形態では、速度制御における制御演算において駆動出力のデューティの指令値が0%未満の演算結果をなった場合に相補PWM出力を停止し、上段または下段どちらかのトランジスタのみを使用しPWM出力させることで、相補PWMよりも強い制動力を発揮させることができるようになった。この駆動方式では、制動出力のみを実施し、駆側出力を実施しない状態となる。相補PWMでは制動出力の限界が「出力1周期−デッドタイム」となっているため、完全な制動出力のみを実施できない。これに対し、本実施形態では、速度制御演算結果が制動のみとなった場合は相補PWMを停止し、下段(または上段)トランジスタの全オン状態とし、さらにオン時間をPWM制御することで、より強い制動出力を実現することができる。すなわち、デッドタイム分の出力時間を制動出力に割り当てることができた。
【0055】
本実施形態によれば、例えば電動モータの体格を変更せずに出力方法を変更することで、制御対象の外力による加速を制限できる。また、内部での出力値の演算結果に基づき動的に電動モータの出力方式を変更することで、駆動/制動力を制御することができるので、容易に既存の構成に採用することができる。
【0056】
以上、本発明の実施形態およびその変形例について説明したが、本発明のモータ制御装置は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。