(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
〔概要〕
図1に示す医療用具10は、スコープ(内視鏡)1と、スコープ1に装着され、屈曲および伸縮が可能なマニピュレータ2とを備えている。医療用具10は、体腔内に位置する患部(術部)を鏡視下で処置する鏡視下手術や、鏡視下で所定の部位を観察する鏡視下検査等の医療行為に用いられる。
「体腔」は、例えば、腹腔や胸腔である。
以下では、医療用具10が腹腔内に挿入される場合を例にとり、説明する。
【0030】
医療用具10は、
図2に示すように、腹壁8の内外を貫通する孔8Aを介して腹腔9内に挿入される。腹壁8には、医療用具10が通される管路7Aが形成されたトロッカー7が設けられる。トロッカー7は、管路7Aに通された医療用具10を腹腔9内へと案内する。管路7Aは、トロッカー本体に備えられたチューブ(トロッカーチューブ)の内側であってもよい。
身体への侵襲を低く抑えるため、小さな孔8Aがあけられることが好ましい。トロッカー7の管路7Aの内径は、例えば、5〜10mm程度である。
【0031】
〔スコープ〕
スコープ1(
図1)は、施術の対象範囲(術野)の画像を得る器具であり、マニピュレータ2により腹腔9内の患部付近にまで導かれる。
スコープ1は、多数の光ファイバーが束ねられたファイバースコープであってもよいし、対物レンズを介してCCD(Charge-Coupled Device)等の撮像素子により患部を撮像するビデオスコープであってもよい。スコープ1の先端1Aには、光ファイバーの先端あるいは対物レンズおよび撮像素子が臨む観察窓が設けられている。
【0032】
スコープ1は、マニピュレータ2が装着されている状態で腹壁8の外側から腹腔9内に挿入される。スコープ1は、柔軟性を有しており、マニピュレータ2に沿うように形状が変化する。
【0033】
スコープ1は、患部の画像を得るため、患部を照明する。そのため、光源装置から発せられる光が、スコープ1に備えられた照明用の光ファイバーを通じて患部に供給される。あるいは、スコープ1が、患部を照明する光源としてのLED(light emitting diode)等のライトを備えていてもよい。スコープ1の先端1Aの観察窓の近傍に、照明光を出射する照明窓を設けることができる。
スコープ1により得られた画像のデータは、図示しないモニタに送られる。モニタに映し出された患部の画像を見ながら、患部の処置や観察が行われる。
【0034】
〔マニピュレータ〕
[全体構成]
マニピュレータ2は、
図1および
図2に示すように、先端2A側から腹腔9内に挿入され、屈曲および伸縮しながらスコープ1を腹腔9内の患部付近にまでガイドする。マニピュレータ2の基端2B側は腹壁8の外側に露出している。
本明細書では、先端2A側を「前方」、基端2B側を「後方」というものとする。
【0035】
マニピュレータ2は、孔8Aの内側(管路7Aの内側)を貫通する貫通筒201(貫通部)と、貫通筒201に対して屈曲可能な第1屈曲部21および第2屈曲部22と、伸縮可能な伸縮部23と、第1屈曲部21、第2屈曲部22、および伸縮部23をそれぞれ操作する操作部30とを備えている。
【0036】
マニピュレータ2は、孔8Aの内側を貫通する部分(貫通筒201)と、貫通する部分に対して屈曲可能であるとともに長さが伸縮可能な伸縮筒構造202と、伸縮筒構造202に接続される先端筒203を備えている。これらの筒体201,202,203は、内側にスコープ1を収容し、柔軟性を有する外装シース205(
図1)により覆われている。
【0037】
貫通筒201は、
図2に示すようにトロッカー7の管路7Aに通され、管路7Aよりも腹壁8の外側と、管路7Aよりも腹壁8の内側との両方に露出する。
腹壁8の外側に露出した貫通筒201の上端側は、クランプ5(
図9)等の固定装置によって台等に支持および固定することができる。このとき、クランプ5等の固定装置により、貫通筒201を軸線方向および軸周り方向のいずれにも動かないように固定することもできるし、軸線方向にだけは動かないように固定し、軸周り方向に動くのは許容されていてもよい。
貫通筒201および伸縮筒構造202は、例えばステンレス鋼等の金属材料から形成されている。
【0038】
伸縮筒構造202は、テレスコピック構造となっており、貫通筒201の端部に屈曲可能に連結される外筒202Aと、外筒202Aに対して進退可能に連結される内筒202Bとを備えている。外筒202Aの内側に内筒202Bのほぼ全体を収めることができる。
貫通筒201および外筒202Aは、第1屈曲部21を構成し、外筒202Aおよび内筒202Bは、伸縮部23を構成する。
【0039】
先端筒203は、スコープ1の先端1Aを保持している。先端筒203は、柔軟性を有する材料から形成されており、例えば
図2に示すように屈曲させることができる。先端筒203は、第2屈曲部22として機能する。
先端筒203には、例えば、フッ素系の樹脂材料を用いることができる。
【0040】
図2に示すように、第1屈曲部21は1自由度で屈曲し、伸縮部23は伸縮筒構造202の軸方向に1自由度で伸縮し、第2屈曲部22は2自由度で屈曲する。伸縮部23は、第1屈曲部21よりも先端2A側で伸縮可能であり、第2屈曲部22は、伸縮部23よりも先端2A側で屈曲可能である。
さらに、マニピュレータ2は、第1屈曲部21よりも基端2B側で軸周りに回転(1自由度)させることができる。したがって、マニピュレータ2は、合計で5自由度を有している。
マニピュレータ2には、第1屈曲部21よりも基端2B側(貫通筒201)を軸周りに回転させる回転操作部206(
図2)を付加することができる。
【0041】
操作部30(
図1)は、第1屈曲部21を操作する第1屈曲操作ワイヤ31(
図1)と、第2屈曲部22を操作する第2屈曲操作ワイヤ32(
図6)と、伸縮部23を操作する伸縮操作ワイヤ33(
図4)とを備えている。これらの操作ワイヤ31〜33はいずれも、基端2B側に向けて引っ張られることで、第1屈曲部21、第2屈曲部22、および伸縮部23を個別に操作する。
【0042】
[第1屈曲部]
図3(a)および(b)を参照し、第1屈曲部21について説明する。
図3〜
図5では、スコープ1の図示を省略している。
上述したように第1屈曲部21を構成する、貫通筒201と伸縮筒構造202の外筒202Aとは、蝶番211(ヒンジ)により支持され、
図3(b)に示すように、相対的に屈曲するようになっている。貫通筒201と外筒202Aとの向かい合う端部は、屈曲したときの内周側がいずれも斜めにカットされており、屈曲したときの外周側が蝶番211により連結されている。
【0043】
貫通筒201と外筒202Aとの連結箇所には、第1屈曲操作ワイヤ31が設けられている。第1屈曲操作ワイヤ31は、ここでは2本あるが、本数は特に限定されない。
第1屈曲操作ワイヤ31は、外筒202Aの内周部に固定されており、外筒202Aへの固定端31Aから、外筒202Aと貫通筒201との間の間隙、および貫通筒201の内部を通り、後方へと引き出されている。第1屈曲操作ワイヤ31をガイドする適宜な部材が貫通筒201の内周部に設けられていることが好ましい。
【0044】
第1屈曲操作ワイヤ31は、マニピュレータ2の基端2B(
図1)から引き出されており、マニピュレータ2の外部から第1屈曲操作ワイヤ31を引っ張ることが可能となっている。これは、第2屈曲操作ワイヤ32、および伸縮操作ワイヤ33も同様である。
【0045】
第1屈曲操作ワイヤ31が引っ張られていない自由状態では、蝶番211に設けられているバネおよびストッパ(いずれも図示しない)により、蝶番211が平坦な状態に維持される(
図3(a))。このとき、貫通筒201および外筒202Aは全体として直線状に延びている。
蝶番211のバネの弾性力に抗して第1屈曲操作ワイヤ31を後方に向けて引っ張ると、貫通筒201がスコピストによる把持により保持されているため、
図3(b)に示すように、蝶番211の部品が軸(屈曲軸21A)を中心に相対的に回動して、貫通筒201と外筒202Aとの間の間隔が縮まる。そうすると、自由端側である外筒202Aが、後方に向けて引き付けられるように貫通筒201に対して屈曲する。屈曲の角度は、第1屈曲操作ワイヤ31が引っ張られる力の大きさに応じて固定端31Aが後退する長さが変わることによって調整することができる。貫通筒201に対してほぼ直角の角度にまで伸縮筒構造202を屈曲させることが可能である。
そのまま第1屈曲操作ワイヤ31が引っ張られていると、第1屈曲操作ワイヤ31の張力により、貫通筒201に対して外筒202Aが屈曲した状態に維持される。
第1屈曲操作ワイヤ31を引く力を弱めるか、第1屈曲操作ワイヤ31を解放すると、伸縮筒構造202が元の位置に復帰し、貫通筒201と伸縮筒構造202とが直線的に真っ直ぐ延びている状態に復元する。
【0046】
上記は、第1屈曲部21に採用し得る構造のあくまで一例である。
貫通筒201に伸縮筒構造202(外筒202A)が連結されており、これら貫通筒201および伸縮筒構造202が直線状に延びている姿勢と、貫通筒201に対して伸縮筒構造202が屈曲した姿勢とをとることのできる限りにおいて、第1屈曲部21の具体的な構造は、適宜に定めることができる。
例えば、蝶番211を用いる代わりに、貫通筒201と伸縮筒構造202とを柔軟な材料から形成された軟性部を介在させた状態で連結し、第1屈曲操作ワイヤ31を引っ張って軟性部を屈曲させることで、貫通筒201に対して伸縮筒構造202を屈曲させるようにしてもよい。
【0047】
[伸縮部]
次に、
図4(a)および(b)を参照し、伸縮部23について説明する。
図4(b)に、外筒202Aを一点鎖線で示し、内筒202Bを二点鎖線で示している。
伸縮部23として機能する伸縮筒構造202は、伸縮操作ワイヤ33を引っ張り、外筒202Aに対して内筒202Bを進退させることにより、伸縮筒構造202全体の長さの伸縮が可能となっている。
伸縮操作ワイヤ33として、伸長用の操作ワイヤ331と、収縮用の操作ワイヤ332とが用意されている。
【0048】
図4(a)に示すように、内筒202Bには、長さ方向に沿って溝231が形成されている。溝231は、内筒202Bを肉厚方向に貫通しており、ピン232が挿入されている。ピン232は、外筒202Aの前方側の端部に、径方向に沿って設けられており、ピン232には伸長用操作ワイヤ332が掛けられている。
溝231およびピン232は、外筒202Aに対して内筒202Bが進退されるときのガイドとして機能するとともに、外筒202Aから内筒202Bが抜け出るのを防止する。外筒202Aに対して内筒202Bが進退されるストロークの長さは、溝231の長さと同等である。
【0049】
伸長用操作ワイヤ332が掛け回されるピン232は、軸周りに回転可能に設けられていて滑車として機能することが好ましい。
また、内筒202Bに2つの溝231が平行に形成されており、ピン232の両端がそれぞれ溝231に挿入されていると、溝231およびピン232により内筒202Bおよび外筒202Aが安定してガイドされるので好ましい。
【0050】
収縮用操作ワイヤ331は、
図4(a)に示すように、溝231の前端よりも前側の位置で内筒202Bの内周部に固定され、内筒202Bの内側、外筒202Aの内側、および貫通筒201(
図3(a))の外側を通って後方へと引き出されている。収縮用操作ワイヤ331の内筒202Bへの固定端331Aを黒い丸で示す。
【0051】
伸長用操作ワイヤ332は、
図4(a)および(b)に示すように、ピン232よりも後方の位置で内筒202Bの内周部に固定されている。内筒202Bへの固定端332Aを黒い丸で示す。伸長用操作ワイヤ332は、ピン232に掛けられ、ピン232の位置で後方に向けて折り返し、外筒202Aおよび貫通筒201の内側を通って後方へと引き出されている。
【0052】
内筒202Bおよび外筒202Aの周方向において操作ワイヤ331,332が配置される位置は特に限定されない。収縮用操作ワイヤ331および伸長用操作ワイヤ332をガイドする適宜な部材が内筒202Bおよび外筒202Aの内周部に設けられていることが好ましい。
【0053】
外筒202Aが連結されている貫通筒201がスコピストによる把持により保持されているため、
図5(a)に示すように、収縮用操作ワイヤ331を後方に向けて引っ張ると(白抜き矢印)、固定端331Aが固定された内筒202Bが外筒202Aの内側に退避する(実線矢印)。そのため、外筒202Aおよび内筒202Bの全体の長さが収縮する。
一方、
図5(b)に示すように、伸長用操作ワイヤ332を後方に向けて引っ張ると(白抜き矢印)、固定端332Aとピン232とが近づき(破線矢印)、内筒202Bが前進する(実線矢印)。そのため、外筒202Aおよび内筒202Bの全体の長さが伸長する。
【0054】
上述した構造は、伸縮部23に採用し得る構造のあくまで一例である。
伸縮筒構造202は、貫通筒201に屈曲可能に連結される内筒と、内筒の外周に位置する外筒とから構成することもできる。
また、伸縮部23は、必ずしも、2つの部材を相対的にスライド(進退)させるものには限らず、例えば、蛇腹や螺旋等の構造により伸縮部23が伸縮可能に構成されることも許容される。
また、伸縮部23を操作する操作部の構造も、引っ張られる伸縮操作ワイヤ33には限らず、伸縮操作ワイヤ33に代えて、例えば、内筒202Bおよび外筒202Aの内側に設けられたガイドチューブに通されて押し引きされるワイヤを採用することもできる。
【0055】
[第2屈曲部]
次に、
図6(a)および(b)を参照し、第2屈曲部22について説明する。
第2屈曲部22として機能する先端筒203は、伸縮筒構造202の内筒202Bの前端部に支持部材204により支持されている。
図6(a)および(b)では、内筒202Bの前端部の一部を破断し、支持部材204および第2屈曲操作ワイヤ32を示している。なお、
図2等では、支持部材204の図示を省略している。
【0056】
支持部材204の後端側は、内筒202Bの前端部の内側に挿入されており、支持部材204の突起204A(
図1)が内筒202Bの開口部に係合することにより、内筒202Bの内周部に保持されている。
支持部材204は、円筒状に形成されており、内側に先端筒203の後端側を受け入れて保持する。支持部材204の内周部と先端筒203の外周部とは、適宜な方法で固定されている。
【0057】
先端筒203は、支持部材204よりも前方に突出している。スコープ1は先端筒203の内側にも配置されている。
先端筒203には、先端筒203を屈曲させる第2屈曲操作ワイヤ32が設けられている。
図6(a)に示すように、第2屈曲操作ワイヤ32が引っ張られていない自由状態では、先端筒203は、伸縮筒構造202の軸線の延長線上に、直線的に延びている。
【0058】
第2屈曲操作ワイヤ32として、左方操作ワイヤ32Lと、右方操作ワイヤ32Rと、下方操作ワイヤ32Dとが用意されている。
ここで、「左右」方向は、屈曲軸21A(蝶番211の軸)の方向と一致し、この左右方向に対して「上下」方向は直交する。
【0059】
左方操作ワイヤ32Lは先端筒203の左端部に固定されており、支持部材204の内側と外側とを支持部材204の径方向に沿って貫通する経路204Bを通じて支持部材204の内側に引き込まれている。左方操作ワイヤ32Lは、支持部材204の内側から、伸縮筒構造202内の少なくとも前端部に設けられたガイドチューブ330を通り、後方へと引き出されている。左方操作ワイヤ32Lは、貫通筒201内でも適宜なガイド部材によりガイドされることが好ましい。
右方操作ワイヤ32Rおよび下方操作ワイヤ32Dも、左方操作ワイヤ32Lと同様に、それぞれ先端筒203に固定されており、支持部材204の経路204B、支持部材204の内側、ガイドチューブ330を通り、後方へと引き出されている。
これらの操作ワイヤ32L,32R,32Dを含め、先端筒203および支持部材204は外装シース205(
図1)に覆われている。
【0060】
下方操作ワイヤ32Dが後方に向けて引っ張られて後退すると、
図6(b)に示すように、先端筒203の下端部が支持部材204に引き付けられるようにして、先端筒203が伸縮筒構造202に対して下向きに屈曲する。これに追従してスコープ1も下方へと向く。伸縮筒構造202の軸線に対してほぼ直交する角度あるいはそれ以上の角度にまで先端筒203を屈曲させることができる。
下方操作ワイヤ32Dを引く力を弱めるか、下方操作ワイヤ32Dを解放すると、先端筒203が元の真っ直ぐな状態に復元する。
【0061】
図示を省略するが、左方操作ワイヤ32Lが後方に向けて引っ張られると、先端筒203が左向きに屈曲し、右方操作ワイヤ32Rが後方に向けて引っ張られると、先端筒203が右向きに屈曲する。下方操作ワイヤ32Dおよび左方操作ワイヤ32L(または右方操作ワイヤ32R)を同時に引っ張ることにより、先端筒203を下方でかつ右方(または左方)に向けて屈曲させることもできる。
下方操作ワイヤ32D、右方操作ワイヤ32R、左方操作ワイヤ32Lの1つ以上を適宜に操作することで、スコープ1の先端1Aを旋回させるようにして視野を変更することもできる。
【0062】
先端筒203を上向きに屈曲させる上方操作ワイヤを下方操作ワイヤ32D等と同様に先端筒203に設けることもできる。但し、後述するように、腹腔9内でマニピュレータ2は患部4の上方で腹壁8に沿って延びているため、先端筒203を上向きに屈曲させて腹壁8の内壁を観察する必要があまりないので、ここでは、上方操作ワイヤを省略している。
【0063】
〔使用手順、および本実施形態の効果〕
以下、
図7〜
図9を参照し、医療用具10を用いて腹腔鏡手術を行う際の手順の一例を説明する。医療用具10は、後述するように単孔式手術に好適である。
腹腔9内に医療用具10のマニピュレータ2を挿入する際には、第1屈曲部21および第2屈曲部22は屈曲させずに、マニピュレータ2を直線状に延びた真っ直ぐな状態にしておく。また、マニピュレータ2の基端2Bから先端2Aまでの長さを短くしておくことが好ましい。上述したように、収縮用操作ワイヤ331を引っ張ることで(
図5(a))、伸縮部23(伸縮筒構造202)を収縮させればよい。
真っ直ぐな状態のマニピュレータ2を把持し、
図7(a)に示すように、臍の近傍等、腹壁8の所定位置にあけられた孔8Aに挿入されているトロッカー7の管路7Aを通じて腹腔9内に挿入する(挿入ステップS1)。腹腔9内には、予め必要に応じてガスが導入される。
【0064】
マニピュレータ2を腹腔9内に挿入するときは、その後に行う屈曲および伸長の動作によりスコープ1を患部4(
図9)の付近にまでアクセスさせることができるように、第1屈曲部21の屈曲軸21Aの位置を考慮してマニピュレータ2の軸周り方向の向きを適切に定めるとよい。マニピュレータ2の軸周り方向の向きを容易に定めるために、屈曲軸21Aの位置を基端2B側にマーキングしてあることが好ましい。
なお、貫通筒201の軸周りの向きは、後から直したり、変更したりすることもできる。
【0065】
貫通筒201の前端が管路7Aを通過したならば、第1屈曲操作ワイヤ31を引っ張り(
図3(b))、
図7(b)に示すように、腹腔9内で第1屈曲部21を屈曲させる(第1屈曲ステップS2)。すると、貫通筒201に対して屈曲した伸縮筒構造202が、腹腔9に臨む腹壁8の近傍で腹壁8に沿って延出する。屈曲の角度は、第1屈曲操作ワイヤ31を引っ張る力に応じて調整することができる。腹腔9内に挿入される際にマニピュレータ2の軸周り方向の向きが適切に定められていると、伸縮筒構造202が患部4の上方に向けて延出する。予めマニピュレータ2の伸縮部23を短い状態にしておくことにより、マニピュレータ2が臓器等に干渉することなく、貫通筒201の前端が管路7Aを超えるまでマニピュレータ2を腹腔9内に挿入することができる。
【0066】
第1屈曲操作ワイヤ31は、適宜な方法により引っ張ることができる。例えば、ハンドルの手動操作やモータ等の動力源により操作ワイヤ31を巻き取ることにより、操作ワイヤ31を引っ張ることができる。ワイヤの巻取りを操作するフットペダル等の装置を用いることが好ましい。
上記は、伸縮操作ワイヤ33および第2屈曲操作ワイヤ32についても同様である。
【0067】
この後、トロッカー7の管路7Aの内側を貫通している貫通筒201とトロッカー7との相対位置は基本的には変位せず、腹腔9内に挿入されたマニピュレータ2の部位を変位させることになるから、第1屈曲ステップS2を終えた段階で、トロッカー7よりも上方に露出している貫通筒201の部位をクランプ5によって支持および固定してもよい。
【0068】
続いて、伸長用操作ワイヤ332を引っ張り(
図5(b))、
図8(a)に示すように、腹腔9内で、腹壁8に沿って伸縮筒構造202を伸長させる(伸長ステップS3)。すると、マニピュレータ2の先端2Aが患部4に近づく。
患部4の場所によっては、このままで、スコープ1の視野に患部4を捉えることができる。
【0069】
さらに、第2屈曲操作ワイヤ32(32L,32R,32D)を選択的に引っ張り(
図6(b))、
図8(b)に示すように、先端筒203を屈曲させることができる(第2屈曲ステップS4)。ここでは、下方操作ワイヤ32Dを引いているので、マニピュレータ2の先端2Aに位置するスコープ1の観察窓および照明窓が下へと向く。このスコープ1により、患部4を視野に捉えて患部4の画像を得ることができる。マニピュレータ2は腹腔9内で腹壁8に沿うように配置されており、腹壁8に近いところから、腹壁8よりも下方に位置する患部およびその周囲の広い範囲を視野に収めることができる。
スコープ1から送られた画像をモニタで確認しながら、マニピュレータ2の屈曲や伸縮の操作によりスコープ1の位置や向きの調整が可能である。
この時点で、まだマニピュレータ2の貫通筒201の上端側が固定されていなければ、クランプ5等で固定することができる。
次いで、鉗子6を腹腔9内に挿入し、患部4の処置を行うことができる(鉗子挿入ステップS5)。
【0070】
以上で説明したように、本実施形態の医療用具10は、第1屈曲部21、伸縮部23、および第2屈曲部22を有するマニピュレータ2を備えていることにより、スコープ1の位置や向きを自在にガイドすることができる。それによって患部4をスコープ1の視野に確実に捉えることができる。
腹腔9内で屈曲して腹壁8に沿っている伸縮部23の長さを調節することにより、トロッカー7の近くから、伸縮部23を最大に伸ばしたときにスコープ1の観察窓が到達する位置までの広範囲に亘り、鏡視下で処置可能となる。
さらに、必要に応じて、手動であるいは回転操作部206(
図2)により貫通筒201を軸周りに回転させると、貫通筒201を軸にマニピュレータ2が旋回するので、より広範囲に亘り鏡視下の処置が可能となる。
本実施形態の医療用具10によれば、手術にあたりスコープ1のアクセスが必要な範囲(術野)を十分にカバーすることができる。
手術の間、必要に応じてマニピュレータ2の第1屈曲部21、伸縮部23、および第2屈曲部22を適宜に操作し、あるいは貫通筒201を軸周りに回転させることで、視野の変更を行うことができる。
【0071】
しかも、マニピュレータ2は、手術支援ロボットと比べて単純な構造であって、第1屈曲部21の屈曲により腹腔9内でマニピュレータ2を所定の方向に向け、次いで、伸縮筒構造202を伸長させるという基本動作に基づいて、腹腔9内におけるマニピュレータ2自体の位置を容易に想定することができる。
マニピュレータ2は、主として複数の筒体201,202,203と、操作ワイヤ31,32,33とからなるという点でも単純な構造であり、安価に製造することができる。
さらに、操作ワイヤ31,32,33をそれぞれ引っ張る操作によりマニピュレータ2を駆動するため、例えばワイヤを押し引きする機構を採用する場合と比べて径が小さい操作ワイヤ31,32,33を用いることができる。操作ワイヤ31,32,33の径が小さい分、操作ワイヤ31,32,33が収められる筒内の空きスペースを大きくとれるので、マニピュレータ2の外径としてはトロッカー7に通すことのできるように細径に構成されていながら、径が大きくなりがちな高性能なスコープ1をマニピュレータ2の筒内に収めることができる。
【0072】
第1屈曲部21が屈曲していることで、マニピュレータ2が腹腔9内で腹壁8に沿うように配置されているため、マニピュレータ2が
図9に二点鎖線で示すように全体的に直線状に延びている場合と比べて、腹腔9内に空いたスペースを大きく確保できる。このため、鏡視下手術用の鉗子6等の他の医療用具を腹腔9内に挿入しても、腹腔9内でマニピュレータ2と鉗子6とが接触する干渉が起こり難い。例えば、鉗子6を動かすとマニピュレータ2が動いてスコープ1の視野が変わってしまうといったことが起こり難く、鉗子6等の可動域を大きく確保できる。
スコープ1の視野を変えようとするときは、腹腔9内で腹壁8に沿っている伸縮筒構造202を伸長または収縮させたり、先端筒203の向きを変えたりすればよい。この操作によって鉗子6の位置が動いてしまうことはない。
【0073】
本実施形態によれば、直線状の典型的な鉗子6を用いることができるので、鉗子6の操作が容易である。鉗子6は、例えば、物をつかむ把持鉗子や、組織を剥離する剥離鉗子、鋏の機能を持った鋏型鉗子等である。また、鉗子6に限らず、電気メスや、クリップを血管に装着するクリップアプライヤーや、自動縫合器、超音波凝固切開装置等の医療用具も、マニピュレータ2と共に腹腔9内に挿入して用いることができる。
【0074】
図9に二点鎖線で示すようにマニピュレータ2が直線状に構成されており、軸線に対して屈曲させることができない場合は、トロッカー7を介して腹腔9内に挿入される鉗子6が、患部4の手前でスコープ1の視野に大きく写り込む。それに対して、本実施形態では、第1屈曲部21が屈曲しており、鉗子6に対してマニピュレータ2がなす角度が大きいため、視野内に鉗子6が写り込む干渉が起こり難い。そのため、鉗子6に妨げられることなく患部4を十分に観察しつつ、鉗子6を患部4に容易にかつ確実にアクセスさせることができる。
【0075】
マニピュレータ2は、手術支援ロボットと比べて単純な構造であり、マニピュレータ2自体の位置を容易に想定することができるという点でも、マニピュレータ2と鉗子6との干渉を避けることができる。
【0076】
さらに、本実施形態によれば、トロッカー7の管路7Aを貫通しているマニピュレータ2の貫通筒201を固定した状態で、同一の孔8Aに挿入されているトロッカー7から鉗子6等の医療用具を腹腔9内に挿入することができる。トロッカー7には、管路7Aの他にも、鉗子6等の医療用具を挿入可能な管路(例えば
図10(a)の7B参照)が用意されているものとする。
なお、孔8Aへのトロッカー7の設置の形態には種々あり、
図10(a)に示すように、マニピュレータ2が挿入される管路7Aと、鉗子6が挿入される管路7Bとが共に同一のトロッカー7に形成されていたり、
図10(b)に示すように、マニピュレータ2が挿入される管路7Aと、鉗子6が挿入される管路7Bとが別々のトロッカー7
1,7
2に形成されていたりする。
【0077】
単一の孔8Aをあけ、この孔8Aに位置するトロッカー7やトロッカー7
1,7
2から腹腔9内にスコープ1や鉗子6等の医療用具を挿入して行う手術のことを単孔式手術という。
スコープ1に装置されているマニピュレータ2の貫通筒201の位置が固定されていると、
図11に示すように、トロッカー7が挿入される孔8Aおよびその近傍においてマニピュレータ2が占めている領域8A
1(斜線で示す)以外の領域8A
2を鉗子6等の他の医療用具に割り当てることができる。領域8A
2において鉗子6等の可動域が広く確保されているので、鉗子6を動かしても、鉗子6とマニピュレータ2とが孔8Aの位置およびその近傍で接触(干渉)してスコープ1の視野が動いてしまうことがない。また、マニピュレータ2の第1屈曲部21や伸縮部23、第2屈曲部22を操作しても、貫通筒201が軸線方向や軸周りに動いてしまうこともない。そのため、適切に視野を設定しながら、鉗子6を自在に操作して適切な処置を容易に行うことができる。
【0078】
トロッカー7の設置の形態としては、
図10(c)に示すように、別々の孔8A,8Aに挿入されているトロッカー7
1,7
2にそれぞれ、マニピュレータ2が挿入される管路7Aと、鉗子6が挿入される管路7Bとが個別に形成されている場合もある。この場合にも、近接する孔8A,8Aを含む全体の領域に関し、上記同様に考えることができる。つまり、孔8A,8Aを含む全体の領域においてマニピュレータ2が占めている領域以外の領域を他の医療用具に割り当て、マニピュレータ2と、鉗子6等の他の医療用具とをそれぞれ互いに影響なく操作しながら、適切な処置を容易に行うことができる。
【0079】
医療用具10は、腹腔9内やトロッカー7でマニピュレータ2や鉗子6等が混雑する単孔式手術に特に好適であるが、腹壁8の複数の箇所に孔をあけて行う多孔式手術にも適用することができる。医療用具10は、単孔式手術に限らず、腹腔9内やトロッカー7で混雑する医療用具同士の干渉を防ぐために有効性が高い。
例えば、複数(例として2つ)の孔をあけて鏡視下手術を行う場合であって、手術に使用する医療用具10のマニピュレータ2や鉗子6等の医療用具で腹腔9内やトロッカーが混雑していたとしても、医療用具同士の干渉を防ぐことができる。
図10(c)のようにマニピュレータ2と鉗子6とが、近接する別の孔8A,8Aにそれぞれ挿入されており、スコープ1の軸と鉗子6の軸とが近接しているとしても、それらの干渉を防ぐことができる。
【0080】
以上によれば、従来、医療用具同士の干渉に起因して術者やスコピストに掛かっていた負担を大幅に軽減することができる。
上述のように、トロッカー7(または7
1,7
2)におけるマニピュレータ2の位置が固定され、マニピュレータ2が占めている領域以外の領域が鉗子6に割り当てられることにより、マニピュレータ2を操作するスコピストの手と鉗子6を操作する術者の手とが交差する機会が減少する。
トロッカー7におけるマニピュレータ2の位置が固定されていると、マニピュレータ2を把持する必要がない。そのため、術者が自分自身でマニピュレータ2を操作してスコープ1の視野を設定し、その後に鉗子6を把持して処置を行う単孔式手術も可能である。
【0081】
〔変形例〕
図12は、本発明の変形例に係る医療用具20を示している。
医療用具20は、スコープ1と、スコープ1に装着されるマニピュレータ3とを備えている。
マニピュレータ3は、第2屈曲部22を有していないことだけが、上述のマニピュレータ2と相違する。
図12に示すマニピュレータ2は、貫通筒201と、伸縮筒構造202(外筒202Aおよび内筒202B)と、伸縮筒構造202の前側に接続された先端部207とを備えている。先端部207は、伸縮筒構造202の軸線に沿って配置されており、伸縮筒構造202に対して屈曲はしない。
先端部207には、スコープ1の観察窓および照明窓が配置されている。これらの観察窓および照明窓は、マニピュレータ3が腹腔9内で腹壁8に沿うように延びているときの先端部207の下端に設けることが好ましい。そうすると、伸縮筒構造202に対して先端部207を下向きに屈曲させたときとほぼ同様の効果を得ることができる。
図12に示すマニピュレータ3によれば、トロッカー7から腹腔9内にマニピュレータ3を挿入し、腹腔9内で第1屈曲部21を屈曲させ、さらに伸縮部23を患部4の付近にまで伸長させることにより、下方に位置する患部4をスコープ1で上方から観察することができる。
【0082】
なお、伸縮筒構造202に先端部207を接続せずに、スコープ1の観察窓および照明窓を伸縮筒構造202に設けることもできる。
また、スコープ1の観察窓および照明窓を先端部207の下端にではなく先端2Aに設け、第1屈曲操作ワイヤ31により、屈曲角度を調整することで、患部4に先端2Aが向くように伸縮筒構造202の姿勢を設定するようにしてもよい。
【0083】
図12に示すマニピュレータ2によれば、先端部207を操作するための操作ワイヤ32が必要ない分、より細径に構成することができる。
【0084】
本発明の医療用具は、スコープ1の他の医療器具にも適用することができる。
図13に示す医療用具が備えるマニピュレータ12は、ワイヤにより操作されるフレキシブルな鉗子16に装着される。マニピュレータ12の貫通筒201、伸縮筒構造202、および先端筒203には鉗子16の操作ワイヤ16Aが収容されており、マニピュレータ12の先端12Aよりも前方に、操作ワイヤが後方に引っ張られることで動作する鉗子16のジョー16Bが配置されている。
このマニピュレータ12をトロッカー7から腹腔9内に挿入し、第1屈曲部21を屈曲させてから伸縮部23を伸長させ、さらに、第2屈曲部22を必要に応じて屈曲させることにより、鉗子16のジョー16Bを所望の位置にガイドして処置を行うことができるから、広い術野をカバーすることができる。
マニピュレータ12において、第2屈曲部22を省略することもできる。
【0085】
マニピュレータ12は、腹腔9内で、腹壁8に沿うように延びているため、トロッカー7から腹腔9内に挿入された他の医療器具との干渉が起こり難い。このマニピュレータ12と、直線状のスコープとを同じトロッカー7から腹腔9内に挿入していても、スコープの視野にマニピュレータ12が写り込むことを避けることができる。
【実施例】
【0086】
以下、本発明の発明者らが上述の実施形態(
図1)と同様の医療用具10を使用して行った試験例(第1試験および第2試験)について説明する。医療用具10のマニピュレータ2はスコープ1に装着されている。
【0087】
まず、第1試験および第2試験に使用した医療用具10(
図1)の第1、第2屈曲部21,22および伸縮部23のそれぞれの可動範囲は下記の通りである。
【0088】
(第1屈曲部による屈曲動作の運動範囲)
図3(a)に示すように、貫通筒201の延長線上に沿って、伸縮構造202が真っすぐに延びている状態を0°とすると、屈曲軸21Aを回動軸として、貫通筒201に対して伸縮筒構造202を90°まで屈曲させることができる(
図3(b))。つまり、第1屈曲部21による屈曲動作の角度θ1(第1屈曲角度)は、0°〜90°である。
【0089】
(伸縮部による伸縮動作の運動範囲)
伸縮筒構造202(
図4(a))の最小の長さは、120mmであり、最大の長さは210mmである。したがって、伸縮筒構造202の軸線方向への伸縮動作による伸縮範囲D(ストローク)は、90mmである。
【0090】
(第2屈曲部による屈曲動作の運動範囲)
使用を想定した位置および傾き(姿勢)に医療用具10をクランプ5等により固定し(
図8(a))、伸縮筒構造202の長さおよび第1屈曲角度θ1をいずれも一定に保ったまま、先端筒203(
図6(a)および(b))の2自由度の屈曲角度を照明光の出射角度により確認した。
【0091】
先端筒203の先端から出射される光線が、伸縮筒構造202の軸線の延長線に対してなす角度の測定により、先端筒203の下方に向けた屈曲角度θ2a(第2下方屈曲角度)と、先端筒203の左右方向に向けた屈曲角度θ2b(第2左右屈曲角度)とを得ることができる。
それによると、下方に向けた屈曲角度θ2a(第2下方屈曲角度)は、伸縮筒構造202の軸線の延長線の位置を0°として、0〜120°である。
そして、左右方向に向けた屈曲角度θ2b(第2左右屈曲角度)は、伸縮筒構造202の軸線の延長線の位置を0°として−120〜120°である。
【0092】
〔第1試験〕
さて、第1試験について説明する。第1試験は、いずれも米国のSociety of American Gastrointestinal and Endoscopic Surgeons(SAGES)およびAmerican College of Surgeons(ACS)により承認されているFLS(Fundamentals of Laparoscopic Surgery)のTask oneに基づいて、腹腔鏡手術の作業性を評価可能な試験である。第1試験では、FLS Task oneに定められた作業手順や評価方法に準拠する。以下、第1試験に用いる部材や作業内容について簡単に説明する。
【0093】
図14(a)は、FLS Task oneに用いる部材を示している。
FLS Task oneでは、
図14(a)に示すように複数の棒状のペグ41が固定されているペグボード40と、複数のラバー製のリング42と、一対の直線的な把持鉗子43とを用いる。第1試験でも、FLS Task oneに使用する部材と同様に構成された部材として、
図14(a)に示されたペグボード40に相当するペグボードと、
図14(a)に示された一対の把持鉗子43に相当する一対の把持鉗子と、
図14(a)に示されたリング42と同一のリング42を使用する。
図14(a)に示す各部材と、それぞれに対応する第1試験の使用部材との構成は、リング42を除き、必ずしも同一でないものの、以下の説明では、第1試験で使用する部材のそれぞれを、
図14(a)において相当する部材に付された符号と同一の符号により称するものとする。
【0094】
FLS Task oneでは、リング42を把持してペグ41間を移動させる回数が「6」であるのに対し、第1試験では、リング42を把持してペグ41間を移動させる回数が「3」である。
また、FLS Task oneでは、ペグボード40を視野に収めるスコープから得られた画像データによりモニタの画面に表示された画像を見ながら、リング42を把持してペグ41間を移動させる作業を行うのに対し、第1試験では、医療用具10に備えられた対眼レンズからペグボード40を目視しながら、同様の作業を行う。これらの点を除いて、第1試験はFLS Task oneに準拠している。
【0095】
(試験用の部材)
第1試験には、上述の運動範囲を有するマニピュレータ2およびスコープ1を備えた医療用具10(
図1)に加え、ペグボード40,リング42、および把持鉗子43と、人体の気腹状態の腹部を模擬した腹部モデル50(
図15(a))とを用いる。
【0096】
ペグボード40上に起立したペグ41に通されたリング42を、被験者が操作する把持鉗子43により把持し、異なるペグ41へと移動させる。ペグボード40は、腹部モデル50の内部に固定される。
【0097】
腹部モデル50(
図15)の腹壁51の広い範囲に亘り、把持鉗子43を挿入可能な多数の挿入部510が用意されている。把持鉗子43は、挿入部510に形成されている星状の開口511を通じて、腹部モデル50の内部である模擬的な腹腔52へ挿入され、挿入部510の円環状の保持体512の内側に保持される。
【0098】
(試験条件)
腹部モデル50の所定の挿入部510から、把持鉗子43および医療用具10を腹腔52へ挿入する。このとき、
図15(b)に破線で示す挿入部510へ把持鉗子43を入れ、
図15(b)に一点鎖線で示す挿入部510へ医療用具10を入れる。この状態の把持鉗子43および医療用具10の位置関係のことをアキシャルポジションと称する。
【0099】
医療用具10(
図1)は、ペグボード40全体をスコープ1の視野に収めるように、クランプ5等により所定の位置および姿勢に固定される。このとき、貫通筒201に対して第1屈曲部21を腹腔52内で適宜な角度に屈曲させるとともに、第2屈曲部22も伸縮部23に対して適宜な角度に屈曲させるものとする。第2屈曲部22は、少なくとも下方に向けて屈曲させる。また、伸縮部23の長さも適宜に調整する。
被験者は、スコープ1に備えられた対眼レンズから目視することにより、ペグボード40全体の画像を把握可能である。
被験者は、既往歴無しの右利きの10人の成人男性からなる。被験者はいずれも、
図14(a)に示す部材を使用したFLSTask one訓練の習熟者であるものとする。
【0100】
(試験内容)
被験者は、ペグボード40の画像を確認しながら、腹部モデル50の内部に固定されたペグボード40のペグ41に通されたリング42を把持鉗子43によって他のペグ41へと移動させる。このとき、所定の手順により、各リング42を把持鉗子43によりペグ41間で移動させる。
被験者とは異なる計測者により、把持鉗子43が最初にリング42に接触した時から、所定の手順により各リング42を移動させる一連の作業を終えるまでに要する時間を計測する。
【0101】
医療用具10と作業性を比較するため、医療用具10に代えて、典型的な硬性鏡を模擬した比較対象90(
図18(a))を使用して上記と同様の作業を同じ被験者により行い、作業の所要時間を計測した。
使用する比較対象90は、金属製の筒体の内側に軟性鏡を通して筒体と一体化したものである。軟性鏡自体が容易に変形するとしても、変形し難い硬質の材料から形成された筒体により軟性鏡が覆われているため、比較対象90は全体として変形し難い。
図18(a)に示すように、比較対象90は、腹腔52に挿入される範囲の全体に亘り、軸線に沿って直線的に構成されている。比較対象90は、医療用具10とは違い、屈曲したり伸縮したりする機能は備えていない。比較対象90は、医療用具10と同じ挿入部510から腹腔52へ挿入され、ペグボード40全体を視野に収めるように、クランプ5等により所定の位置および姿勢に固定される。この比較対象90とアキシャルポジションをなす一対の把持鉗子43により、各リング42をペグ41間で移動させる作業を行う。
【0102】
(計測結果)
図14(b)は、医療用具10を使用した場合と、比較対象90を使用した場合とのそれぞれについて、全被験者の作業所要平均時間を示す。
図14(b)における「Straight」は比較対象90を意味し、「Flexion」は、屈曲可能な本発明の医療用具10を意味している。これは、
図21〜
図23でも同様である。
図14(b)から、医療用具10を使用した場合の所要時間は、比較対象90を使用した場合の所要時間よりも短い。両者の所要時間の間に、有意な差異を認めることができる。
【0103】
ここで、
図14(b)に示す比較対象90のデータ群と本発明のデータ群とを対象とする公知の手法による有意差検定により有意確率pを算出しており、p<0.01であることを確認している。これは、データ群間の計測値の差異が99%を超える確率で起こることを意味することから、比較対象90のデータ群の計測値と本発明のデータ群の計測値との間には十分に信頼に足りる有意差が存在する。
第2試験の計測結果(
図21〜
図22)についても、データ群間の有意差検定により有意確率pを算出しており、p<0.01である場合に、データ群間の計測値の差異が「有意」であることを記載している。
【0104】
以上の第1試験の計測結果から、比較対象90に比べて医療用具10の作業性が高いことが言える。
後述するように、医療用具10を使用した場合と比較対象90を使用した場合との視界の差異や、腹腔52内に挿入される鉗子と医療用具との接触回数が、第1試験の結果にも影響したことが推察される。
【0105】
〔第2試験〕
次に、
図15〜
図23を参照し、第2試験(パターンタッチ試験)について説明する。第2試験では、第1試験とは異なる作業を通じて、医療用具10の作業性を評価する。
第2試験で行う作業内容としては、腹腔52内において、
図19(a)〜(c)に示すように一対の鉗子63(医療器具)の先端部63Aを、パターンP1〜P3にそれぞれ定められた接触パッドに接触させる。この作業過程において、鉗子63同士が交叉(交差)した状態となる。これは、術中において、鉗子同士が交叉した状態となることが多いとの想定に基づいている。
【0106】
(試験用の部材)
第2試験には、第1試験で使用したのと同様の腹部モデル50(
図15および
図16)と、医療用具10および直線的な鉗子63と、鉗子63の先端部63Aを接触させる接触パッド601〜606が備わる接触台60(
図16(b))と、マニピュレータ2と鉗子63との接触(干渉)回数を電気的に計測するための機器71およびパーソナルコンピュータ76(
図17)を使用する。
また、医療用具10と作業性を比較するため、第1試験で使用したものと同様の比較対象90を使用する。
【0107】
接触台60は、
図16(b)、
図18(a)および(b)に示すように、接触パッド601〜606が設けられたパッド設置部61と、それを支持する台座62とを備えている。台座62は、パッド設置部61が取り付けられる箱状の部材621と、その部材621を支持する板状の部材622とを有する。
パッド設置部61の上面側に、接触パッド601〜606が全体として円をなすように、パッド設置部61の平面中心に対して等角度で設置されている。各接触パッド601〜606の形状は問わないが、ここでは円形である。接触パッド601〜606は、鉄が用いられた母材と、真鍮により母材の表面に施されためっきとからなる。
パッド設置部61および台座62は、木材から構成されている。
【0108】
接触パッド601〜606のそれぞれに鉗子63が接触したことが電気的に検知できるように、接触パッド601〜606が金属等の導体からなり、パッド設置部61は例えば木材等の絶縁体からなることが好ましい。
【0109】
後述するように、術中の鉗子の動作を模擬したパターンタッチが行われた際に、腹腔52内において、鉗子63とマニピュレータ2との間の接触(干渉)が発生した回数を計測する。そのために使用される計測系70は、
図17に示す機器71と、パーソナルコンピュータ(PC)76と、鉗子63およびマニピュレータ2とを含んで構成されている。
【0110】
機器71は、図示しない電源に接続されるマイクロコンピュータ711と、ブレッドボード712(基板)と、マイクロコンピュータ711およびブレッドボード712の間の図示しない配線とを含んで構成されている。ブレッドボード712には、LED75(Light Emitting Diode)が配線されている。
マイクロコンピュータ711は、IC(Integrated Circuit)と、メモリと、入出力端子とを備えている。このマイクロコンピュータ711には、パーソナルコンピュータ76がUSB(Universal Serial Bus)ケーブルにより接続されている。マイクロコンピュータ711とパーソナルコンピュータ76との間でシリアル通信が可能である。
【0111】
鉗子63とマニピュレータ2との接触を電気的に検知するため、接触し得る部位にそれぞれ導電性が与えられた鉗子63およびマニピュレータ2を第2試験に用いる。
第2試験に用いられる鉗子63において、金属製の先端部63Aよりも基端側であって、腹腔52内に挿入される範囲は金属製の皮膜63Bで覆れている。
第2試験に用いられるマニピュレータ2において、金属製である伸縮筒構造202は外装シース205(
図1)により覆われておらず、マニピュレータ2の表面に露出している。
【0112】
上記のように、鉗子63およびマニピュレータ2のそれぞれの腹腔52内で接触し得る部位には導電性が与えられている。
そのため、鉗子63とマニピュレータ2とが例えば
図17に示す状態に接触すると、機器71、皮膜63Bに腹腔52の外側で接続された電線72、鉗子63とマニピュレータ2との接点73、および伸縮筒構造202の基端側に接続された電線74、およびLED75を含んで形成される電気回路に通電することに基づいて、鉗子63とマニピュレータ2との接触を電気的に検知することができる。かかる電気回路に通電したことを示す電気信号がマイクロコンピュータ711からパーソナルコンピュータ76へと送信されると、パーソナルコンピュータ76の演算部は、その電気信号に基づいて、鉗子63とマニピュレータ2との接触回数をカウントする。
鉗子63とマニピュレータ2とが接触したことは、上記の電気回路への通電時にLED75が点灯することで報知されるため、回路が正常に動作していることをLED75の点灯により確認しながら試験を進めることができる。
【0113】
接触台60は、パッド設置部61が、
図16(a)に示す生体器官200(ここでは肝臓)の所定部位を想定した位置(A〜C)に配置されるように、腹部モデル50の内部(腹腔52)に固定される。接触台60の台座62の部材622は、対象の生体器官が位置する腹部モデル50の内側に設けられた板623(
図16(b))上に配置される。
なお、位置Aは、肝臓の左葉外側区域に相当し、位置Bは、肝臓の右葉前上区域に相当し、位置Cは、肝臓の右葉後下区域に相当する。
【0114】
術中における生体部位の運動により、処置対象の生体器官の姿勢が変化し、生体器官の同じ部位でも表面の傾き等が変化する。このことも考慮に入れて作業性を評価するため、接触台60は、
図18(a)および(b)に示すように、パッド設置部61の傾きを調整可能に構成されている。
パッド設置部61の板状の部分は、腹部モデル50に取り付けられて台座62の設置される板623の接地面と平行である0°のとき、ほぼ水平方向に延在している。台座62に軸支されているパッド設置部61を、臍側に向けて回動させてパッド設置部61の傾斜角度を固定できるようになっている。
【0115】
(試験条件)
第2試験の被験者は、第1試験と同様、既往歴無しの10人の成人男性からなり、いずれも、
図14(a)に示す部材を使用したFLS Task one訓練の習熟者であるものとする。
被験者は、スコープ1から得られた画像データにより液晶モニタに表示された画像を確認することによって、接触パッド601〜606の全体の画像を把握可能である。スコープ1は、ディジタルビデオカメラに該当する。
第2試験では、鉗子63が接触する接触対象の位置、鉗子63が接触するパッド設置部61の角度、鉗子63および医療用具10(または比較対象90)の挿入位置、および医療用具10のスコープ1(または比較対象90)による観察位置のそれぞれの観点から作業性を評価するため、次の試験条件を設定する。
【0116】
(1)接触対象の位置
腹部モデル50の内部における位置A〜C(
図16(a))のいずれかにパッド設置部61が配置されるように、接触台60が腹部モデル50の内部に固定される。
図16(b)は、パッド設置部61が位置Aに配置された例を示している。A〜Cは、生体器官の複数の所定部位のそれぞれにおける代表位置に相当する。
【0117】
(2)パッド設置部の角度
図18(b)に示すように、パッド設置部61の台座62に対する傾斜角度を複数の角度(45°,30°,0°)に設定可能である。
【0118】
(3)鉗子等の挿入位置
図15(a)に示す位置関係において、スコープ1を含む医療用具10と、一対の鉗子63とは、相互に近接した挿入部510から腹腔52にそれぞれ挿入される。この位置関係のことを、腹壁に形成した単一の孔に内視鏡および鉗子等を挿入して行う単孔式腹腔鏡下手術の「単孔」に関して「擬似単孔」と称し、「Single」と表記するものとする。
擬似単孔の場合、具体的には、医療用具10が挿入される挿入部510の位置(臍の位置に相当し、一点鎖線で示す)を中心として、その位置の右隣の挿入部510(510R)と左隣の挿入部510(510L)とにそれぞれ鉗子63が挿入される。
【0119】
図15(b)に示す位置関係において、スコープ1を含む医療用具10と、一対の鉗子63とは、左右方向軸上に位置する複数の挿入部510に個別に挿入される。この位置関係のことを、「アキシャルポジション」と称し、「Axial」と表記するものとする。医療用具10が挿入される挿入部510は、上記の擬似単孔の場合と同様に、腹部モデル50における左右方向の中心部に位置している。その中心の挿入部510から右方向に所定距離だけ離れた挿入部510(510R)に鉗子63が挿入され、中心の挿入部510から左方向に、右方向と同じ距離だけ離れた挿入部510(510L)に鉗子63が挿入される。
上記の擬似単孔およびアキシャルポジションは、比較対象90(
図18(a))を用いる比較試験にも適用する。
【0120】
(4)スコープによる観察位置
腹部モデル50の内部に設置された接触台60のパッド設置部61に向けて、
図18(b)に示すように、医療用具10がクランプ5等により所定の位置および姿勢に固定される。このとき、貫通筒201に対して第1屈曲部21を腹腔52内で腹壁51に近づくように適宜な角度に屈曲させるとともに、第2屈曲部22も伸縮部23に対して適宜な角度および向きに屈曲させた状態で、観察窓が位置するスコープ1の先端からパッド設置部61の表面の中心まで所定の距離x(55mm)だけ離し、スコープ1の視野に接触パッド601〜606の全体を収める。第2屈曲部22は、少なくとも下方に向けて屈曲させるものとする。また、伸縮部23の長さも適宜に調整する。
【0121】
図18(a)に示す比較対象90も、パッド設置部61に向けて、クランプ5等により所定の位置および姿勢に固定される。比較対象90も医療用具10も、同じ挿入部510に通されている。
比較対象90は、屈曲しないため、腹腔52内で直線的に延びている。そして、上記と同様に、比較対象90の先端からパッド設置部61の表面の中心まで、距離xだけ離し、比較対象90の視野に接触パッド601〜606の全体を収める。
【0122】
ここで、パッド設置部61の45°,30°,0°の角度毎に、医療用具10と比較対象90との間で距離xを合わせることも考えられるが、ここでは、パッド設置部61を45°に傾斜させた時に距離xを合わせるものとし、傾斜角度が変わっても、医療用具10や比較対象90が所定の位置および姿勢に固定されたままで、試験を続けるものとする。
【0123】
(試験内容)
第2試験で行う作業の内容として、本発明者が創出したパターンタッチについて説明する。
被験者は、腹部モデル50の挿入部510Rから腹腔52内に挿入された右方の鉗子63Rを右手で持ち、腹部モデル50の挿入部510Lから腹腔52内に挿入された左方の鉗子63Lを左手で持つ。そして、被験者により、接触パッド601〜606の画像を確認しながら、
図19(a)〜(c)にそれぞれ示すパターンに定められた一対の接触パッドに順次接触するように、鉗子63R,63Lを移動させていく一連のパターンタッチ作業を行う。
図19(a)〜(c)のいずれにおいても、接触パッド601〜606のうち180°の角度をなす一対の接触パッドが選ばれている。
【0124】
パターンタッチ作業の開始時には、まず、
図19(a)に示す初期位置のパターンに定められた一対の接触パッド601、604に鉗子63R,63Lをそれぞれ接触させる。より具体的に、手前側(臍側)に位置する接触パッド604に左方の鉗子63Lの先端部63Aを突き当て、奥側に位置する接触パッド601に右方の鉗子63Rの先端部63Aを突き当てる。
【0125】
図19(a)に示す状態から、
図19(a)に矢印で示す向きへと鉗子63R,63Lを図上の反時計回りに移動させることで、
図19(b)に示すパターンに定められた一対の接触パッド602,605へと鉗子63R,63Lの先端部63Aを移動させる。そうすると、鉗子63Rの先端部63Aが左側に、鉗子63Lの先端部63Aが右側に位置するので、鉗子63Rと鉗子63Lとが交叉した状態となる。
さらに、
図19(b)に矢印で示す向きへと鉗子63R,63Lを反時計周りに移動させることで、
図19(c)に示すパターンに定められた一対の接触パッド603,606へと鉗子63R,63Lの先端部63Aを移動させる。
図19(a)に示すように、鉗子63R,63Lの先端部63Aが接触パッド603,606に置かれたとき、パターンタッチの作業が終了する。
【0126】
上記のパターンタッチ作業において、各接触パッド601〜606に鉗子63の先端部63Aが接触したことは、接触パッド601〜606の画像の目視と、鉗子63を持つ手に伝わる感触とに基づいて判断することができる。
【0127】
上述した試験条件の可変値(パラメータ)としては、パッド設置部61が配置される位置(A,B,C)と、パッド設置部61の角度(45°,30°,0°)と、鉗子63および医療用具20の挿入位置(擬似単孔/アキシャルポジション)とがある。上記のパターンタッチ作業は、これらのパラメータの全ての組み合わせについて行うものとする。
【0128】
(計測対象)
被験者ではない、一人の試験監督者によりストップウォッチを使用して、被験者が一対の鉗子63を腹腔52内へと挿入してから、上記のパターンタッチ作業を完了して一対の鉗子63を腹腔52の外側へと抜き去るまでの時間(
図21〜
図22)を計測した。
それに加え、被験者が一対の鉗子63を腹腔52内へと挿入してから、上記のパターンタッチ作業を完了して一対の鉗子63を腹腔52の外側へと抜き去るまでの間、上述した計測系70(
図17)により、鉗子63と医療用具10とが接触した合計の回数も計測した(
図23)。
また、パッド設置部61の角度毎に、パッド設置部61を含む視界の画像を取得した(
図20)。
【0129】
(計測結果:視界の差異)
図20は、医療用具10を用いる場合(Flexion)と、比較対象90を用いる場合(Straight)との視界の差異をパッド設置部61の角度毎(45°,30°,0°)に示している。各画像に、鉗子63の輪郭を示す黒い線と、接触パッド601の輪郭を示す白い線とを付加している。
医療用具10により得られる視界と、比較対象90により得られる視界との差異は、医療用具10が屈曲していることに基づいている。
パッド設置部61が接地面に対してなす角度が相対的に大きい場合(45°)には、
図20(a)に示すように、比較対象90(Straight)により得られる視界と、医療用具10(Flexion)により得られる視界とがほぼ同様であると言えるが、
図20(b)、(c)に示すように、パッド設置部61の傾斜角度が小さくなると、両者の視界の差異が大きくなる。
【0130】
医療用具10を用いる場合(Flexion)は、第1屈曲部21および第2屈曲部22が屈曲していることで、スコープ1がパッド設置部61を上方から見下ろす姿勢となるため、接地面に対するパッド設置部61の角度が
図20(b)、(c)のように小さい場合でも、パッド設置部61をほぼ正面からスコープ1の視界に捉えることができる。パッド設置部61上の接触パッド601〜606に接触する鉗子63も、パッド設置部61の角度が変わろうとも、視界においてほぼ上方から観察される。
つまり、医療用具10を用いると、鉗子63が接触する処置対象の姿勢を問わず、安定した視界が確保される。
【0131】
一方、比較対象90を用いる場合(Straight)は、
図20(a)に示すように接地面に対するパッド設置部61の角度が大きい時(45°)は、パッド設置部61をほぼ正面からスコープ1の視界に捉えることができても、接地面に対するパッド設置部61の角度が(b)、(c)のように小さくなるのに伴い、接触パッド601が遠くに小さく、偏平に見えるように、視界におけるパッド設置部61の形状が正面視の状態から変形する。45°のときほぼ真円に見える接触パッド601も、0°のときは偏平な形状に見え、視界に占める面積が減少する。接触パッド601〜606に接触する鉗子63は、パッド設置部61の角度が小さいと、視界において側方から、奥の接触パッド601に対して相対的に大きく観察される。
【0132】
以上より、医療用具10を用いると、角度を問わず、処置対象をほぼ正面から観察することができ、処置対象の角度を問わず視界への鉗子6の写り込みが一定の比率に留まるため、広くて見易い視界を安定して確保することができる。
【0133】
次に、医療用具10を用いる場合(Flexion)と、比較対象90を用いる場合(Straight)との間で、作業に要した時間を比較する。
【0134】
(計測結果:計測した作業時間の比較1)
図21(a)は、処置対象における位置(A〜C)毎に、医療用具10を用いる場合と、比較対象90を用いる場合とのそれぞれの場合の所要時間を示している。
図21(a)に示す位置AのStraightのデータ群は、比較対象90が用いられた位置Aの全計測データの集合である。同様に、位置AのFlexionのデータ群は、医療用具10が用いられた位置Aの全計測データの集合である。位置B、位置Cのデータ群や、
図21(b)、
図22、
図23にそれぞれ示すデータ群も、同様に、条件に当てはまる全計測データの集合である。
【0135】
図21(a)より、位置A〜Cのいずれに関しても、医療用具10を用いる場合(Flexion)の所要時間は、比較対象90を用いる場合(Straight)の所要時間よりも短い。
医療用具10を用いる屈曲的アプローチは、特に、位置Aおよび位置Bに関し、比較対象90を用いる直線的なアプローチに比べ、作業時間が有意に短い。
【0136】
(計測結果:計測した作業時間の比較2)
図21(b)は、医療用具10または比較対象90に対する鉗子63のポジション(Single, Axial)別に、医療用具10を用いる場合と、比較対象90を用いる場合とのそれぞれの場合の所要時間を示している。
図21(b)より、鉗子63のポジションに関わらず、医療用具10を用いる場合(Flexion)の方が、比較対象90を用いる場合(Straight)と比べて作業時間が有意に短い。
【0137】
(計測結果:計測した作業時間の比較3)
図22は、パッド設置部61の角度(0°,30°,45°)毎に、医療用具10を用いる場合と、比較対象90を用いる場合とのそれぞれの場合の所要時間を示している。
図22より、角度0°,30°,45°のいずれに関しても、医療用具10を用いる場合(Flexion)の所要時間は、比較対象90を用いる場合(Straight)の所要時間と比べて短い。Straightの最も作業時間が短いデータ群(30°)と、Flexionの最も作業時間が長いデータ群(45°)とを比べても、医療用具10を用いる屈曲的アプローチの方が、比較対象90を用いる直線的なアプローチよりも作業時間が短い。その他のStraightのデータ群とFlexionのデータ群との組み合わせの対比において、医療用具10を用いる場合(Flexion)の所要時間は、比較対象90を用いる場合(Straight)の所要時間と比べて有意に短い。
【0138】
次に、医療用具10を用いる場合(Flexion)と、比較対象90を用いる場合(Straight)との間で、上述したパターンタッチ作業の間に、一対の鉗子63および医療用具10(または比較対象90)の間で相互に接触した回数を比較する。
【0139】
(計測結果:接触回数)
図23は、処置対象における位置(A〜C)毎に、医療用具10を用いる場合と、比較対象90を用いる場合とのそれぞれの場合について、鉗子63との接触回数を示している。
図23より、医療用具10を用いる場合(Flexion)、鉗子63と医療用具10との間の接触回数は、0回である。つまり、接触(干渉)が発生しない。
一方、比較対象90を用いる場合(Straight)、位置A〜Cにより回数に差は見られるものの、少なくとも20回、位置A,Bに関しては30回を超える回数もの鉗子63と比較対象90との接触が計測された。
なお、
図17に示す計測系70と同様の構成を使用して、一対の鉗子63同士が接触した回数を計測した結果も得ているが、その計測結果は省略する。その計測結果によれば、医療用具10を用いる場合と、比較対象90を用いる場合とのいずれにおいても、鉗子63同士の接触は発生する。
【0140】
図23から、比較対象90を用いた10秒程度(
図21〜
図22)の作業の間に、鉗子63と比較対象90との間の接触が頻繁に発生していると言える。このことが、上述したパターンタッチ作業の妨げとなり、その分、作業時間を長く要したことが推察される。また、術中に、比較対象90が固定されていないとすると、鉗子63が比較対象90に接触することで比較対象90の視野位置がずれてしまうといった不都合が想定される。
【0141】
以上に、視界の差異や、作業の所要時間、および接触回数の観点から示した計測結果に基づくと、医療用具10は、腹腔52内で屈曲可能であることにより、処置対象を見下ろすアングルの視界が得られ、そのため、体動等により変化する処置対象の角度を問わず、鉗子63の写り込みが少ない広くて見易い視界を安定して得ることができる(
図20)。その上、腹腔52内に直線的に延びている一対の鉗子63の周りを避けて、腹腔52内に医療用具10を配置することができるため、腹腔52内における鉗子63や医療用具10の混雑が緩和され、鉗子63と医療用具10との接触(干渉)を避けることができる(
図23)。術中を想定すると、鉗子63と医療用具10との接触により医療用具10の視界の位置がずれることが発生しないので、術者およびスコピスト双方にとっての負担を軽減することができる。
上記の良好な視界の確保、および接触の回避の主として2つの理由から、腹腔52内における作業効率が高いため、数十回もの接触が生じる直線的なアプローチと比べて、第1試験に係るFLS Task one、第2試験に係るパターンタッチのいずれについても所要時間が短い。処置対象の位置(A〜C)を選ばず(
図21(a))、鉗子63の挿入位置も選ばす(
図21(b))、処置対象の角度も選ばず(
図22)、医療用具10の作業性は比較対象90と比べて優れていると言える。
【0142】
上述したように、腹腔52内に位置する処置対象(パッド設置部61)の観察下、医療用具10と共に腹腔52内に挿入された鉗子63の先端部63Aが、処置対象の接触パッド601〜606へ接触位置を変えながら接触するタッチ作業が行われた際に、医療用具10と鉗子63とが接触した回数を電気的に検知することにより、医療用具10の作業性を定量的に評価することができ、医療用具10の作業性向上に寄与することができる。
【0143】
〔第2試験の変形例〕
第2試験に用いる部材や、試験条件、試験内容は、適宜に改変することができる。
例えば、上述したパターンタッチ作業におけるパターンに選定する接触パッドとして、180°以外(例えば120°)の角度をなす一対の接触パッドを選ぶこともできる。
さらには、必ずしも一対の鉗子63を用いる作業に限定されることなく、術中の処置を模擬した種々の作業を想定した手順に基づく所定の作業の所要時間を計測することができる。
模擬する作業に応じて、必要な鉗子63の種類や数も変わる。模擬する作業に応じて、腹腔52内に、スコープ1を装着した医療用具10と、一以上の鉗子63等の医療器具を挿入して試験を行うことができる。
【0144】
上記以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
本発明のマニピュレータは、少なくとも、孔の内側を貫通する貫通部と、貫通部に対して体腔内で屈曲可能な第1屈曲部と、第1屈曲部よりも先端側で伸縮可能な伸縮部と、第1屈曲部を操作する第1屈曲操作部と、伸縮部を操作する伸縮操作部とを備えている限りにおいて、構成要素の付加や、具体的な構造の改変が許容される。
例えば、本発明のマニピュレータが、第1屈曲部および第2屈曲部に加えて、第3の屈曲部や第4の屈曲部を備えていてもよい。一例を挙げると、第3の屈曲部を、第1屈曲部21と第2屈曲部22との間や、第2屈曲部22よりも先端側に配置することができる。そして、例えば、第3屈曲部と第2屈曲部との間にも、伸縮可能な伸縮部を配置することができる。
本発明のマニピュレータは、少なくとも一つの屈曲部と、少なくとも一つの伸縮部とを備えていれば足り、屈曲部の数および伸縮部の数は限定されない。
【0145】
上述の実施形態や実施例では、マニピュレータ2がクランプ5により保持されているが、これは一例に過ぎない。本発明のマニピュレータ2は、手で保持されるハンディタイプとして構成することもできるし、アーム装置によりマニピュレータ2を支持して、アーム装置の操作により、マニピュレータ2の姿勢を変更したり第1、第2屈曲部21,22の屈曲状態や伸縮部23の長さを調整したりするように構成することもできる。