(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
(圧電素子1の構成)
(1)概要
図1は、実施形態に係る圧電素子1の構成を示す斜視図である。圧電素子1は、圧電体3、第1電極E1及び第2電極E2を備える。第1電極E1は、第1内部電極5と第1外部電極7を有する。第2電極E2は、第2内部電極15と第2外部電極9を有する。圧電素子1は、例えば、ハードディスク装置(HDD)のヘッドサスペンションに設けられるヘッドスライダを駆動するためのアクチュエータとして好適に用いられる。本実施形態に係る圧電素子1は、0.4kV/mm以上の印加電界によって駆動可能である。
【0010】
(2)圧電体3
圧電体3は、長手方向に延びる略直方体状に形成される。圧電体3は、一対の端面3a,3b、一対の第1側面3c,3d及び一対の第2側面3e,3fを有する。一対の端面3a,3b、一対の第1側面3c,3d及び一対の第2側面3e,3fは、圧電体3の表面である。一対の端面3a,3bは、長手方向に対して垂直であり、互いに対向する。一対の第1側面3c,3dは、長手方向と平行に延びており、互いに対向する。一対の第2側面3e,3fは、長手方向と平行に延びており、互いに対向する。一対の第2側面3e,3fは、一対の第1側面3c,3dと直交する。
【0011】
圧電体3は、圧電セラミック材料によって構成される。圧電セラミックス材料としては、例えばジルコン酸鉛、チタン酸鉛、マグネシウムニオブ酸鉛、ニッケルニオブ酸鉛、亜鉛ニオブ酸鉛、マンガンニオブ酸鉛、アンチモンスズ酸鉛、マンガンタングステン酸鉛、コバルトニオブ酸鉛、チタン酸バリウム、チタン酸ナトリウムビスマス、ニオブ酸カリウムナトリウム、タンタル酸ストロンチウムビスマス、及びこれらの混合物が挙げられる。また、圧電セラミックス材料には、ランタン、カルシウム、ストロンチウム、モリブデン、タングステン、バリウム、ニオブ、亜鉛、ニッケル、マンガン、セリウム、カドミウム、クロム、コバルト、アンチモン、鉄、イットリウム、タンタル、リチウム、ビスマス、スズなどの酸化物が添加されていてもよい。
【0012】
(3)第1電極E1
第1内部電極5は、圧電体3に埋設される。第1内部電極5は、一対の第1側面3c,3dと平行に形成される。第1内部電極5は、板状に形成される。第1内部電極5は、端面3aに露出し、かつ、端面3bには露出しない。第1内部電極5は、一対の第2側面3e,3fそれぞれに露出する。第1内部電極5は、例えばPtによって構成することができる。第1内部電極5の厚みは特に制限されないが、例えば0.5μm〜3.0μmにすることができる。
【0013】
第1外部電極7は、第1電極部71、第2電極部72及び第3電極部73を有する。第1電極部71は、端面3a上に配置される。第1電極部71は、端面3aの略全部を覆う。第2電極部72は、第1側面3c上に配置される。第2電極部72は、第1側面3cの一端部を覆う。第3電極部73は、第1側面3d上に配置される。第3電極部73は、第1側面3dの半分以上を覆う。第3電極部73は、第2内部電極15と対向する。第1電極部71、第2電極部72及び第3電極部73は、一体的に形成される。第1電極部71は、端面3aに露出する第1内部電極5に連結される。第1電極部71、第2電極部72及び第3電極部73は、例えばPtによって構成することができる。第1電極部71、第2電極部72及び第3電極部73それぞれの厚みは特に制限されないが、例えば0.5μm〜3.0μmにすることができる。
【0014】
(4)第2電極E2
第2内部電極15は、圧電体3に埋設される。第2内部電極15は、一対の第1側面3c,3dと平行に形成される。第2内部電極15は、第1内部電極5と第3電極部73の間に配置される。第2内部電極15は、板状に形成される。第2内部電極15は、端面3bに露出し、かつ、端面3aには露出しない。第2内部電極15は、一対の第2側面3e,3fそれぞれに露出する。第2内部電極15は、例えばPtによって構成することができる。第2内部電極15の厚みは特に制限されないが、例えば0.5μm〜3.0μmにすることができる。
【0015】
第2外部電極9は、第1電極部91及び第2電極部92を有する。第1電極部91は、端面3b上に配置される。第1電極部91は、端面3bの略全部を覆う。第2電極部92は、第1側面3c上に配置される。第2電極部92は、第1側面3cの半分以上を覆う。第2電極部92は、第1内部電極5と対向する。第1電極部91及び第2電極部92は、一体的に形成される。第1電極部91は、端面3bに露出する第2内部電極15に連結される。第1電極部91及び第2電極部92は、例えばPtによって構成することができる。第1電極部91及び第2電極部92それぞれの厚みは特に制限されないが、例えば0.5μm〜3.0μmにすることができる。
【0016】
(圧電体3、第1電極E1及び第2電極E2の構成)
図2は、
図1のII−II断面図である。以下、
図2を参照しながら、圧電体3、第1電極E1及び第2電極E2の構成について説明する。
【0017】
(1)圧電体3
圧電体3は、面方向に延びるように形成される。本実施形態において、面方向は、一対の第1側面3c,3dそれぞれに平行な方向である。
図2に示された面方向は、圧電素子1の長手方向と同じ方向である。圧電体3は、第1乃至第3活性部31〜33と、第1乃至第4不活性部41〜44とを有する。
【0018】
各活性部31〜33は、圧電体3のうち、面方向に垂直な厚み方向において第1電極E1と第2電極E2の間に挟まれた領域である。各活性部31〜33は、印加される電界に応じて変位可能な部位である。各不活性部41〜44は、圧電体3のうち、厚み方向において第1電極E1と第2電極E2の間に挟まれていない領域である。各不活性部41〜44は、電界が印加されないため実質的に変位しない。
【0019】
第1活性部31は、厚み方向において第1電極E1の第1内部電極5と第2電極E2の第2電極部92の間に挟まれる。第1活性部31は、第1内部電極5と第2電極部92に電圧が印加されると変位する。第2活性部32は、厚み方向において第1電極E1の第1内部電極5と第2電極E2の第2内部電極15の間に挟まれる。第2活性部32は、第1内部電極5と第2内部電極15に電圧が印加されると変位する。第3活性部33は、厚み方向において第1電極E1の第3電極部73と第2電極E2の第2内部電極15の間に挟まれる。第3活性部33は、第3電極部73と第2内部電極15に電圧が印加されると変位する。各活性部31〜33の厚みは特に制限されないが、後述する90度ドメイン回転による変位を大きくするには、15μm以上が好ましく、20μm以上がより好ましい。
【0020】
第1不活性部41は、面方向において第1活性部31の一端部に連なる。第1不活性部41は、第1活性部31と一体的に形成される。第2不活性部42は、面方向において第2活性部32及び第3活性部33それぞれの一端部に連なる。第2不活性部42は、第2活性部32及び第3活性部33と一体的に形成される。
【0021】
第3不活性部43は、面方向において第1活性部31及び第2活性部32それぞれの他端部に連なる。第3不活性部43は、第1活性部31及び第2活性部32と一体的に形成される。第4不活性部44は、面方向において第3活性部33の他端部に連なる。第4不活性部44は、第3活性部33と一体的に形成される。
【0022】
(2)第1電極E1
第1電極E1の第1内部電極5は、活性電極部10と不活性電極部20とを有する。活性電極部10は、第2活性部32上に配置される。活性電極部10は、第1境界領域10a、第2境界領域10b及び内部領域10cを含む。第1境界領域10aは、面方向において第2活性部32と第2不活性部42の境界L1に隣接する。面方向における第1境界領域10aの長さは、第2活性部32の長さWbの10%(Wb×0.1)である。第2境界領域10bは、面方向において第1境界領域10aの反対側に設けられる。第2境界領域10bは、面方向において第2活性部32と第3不活性部43の境界L2に隣接する。面方向における第2境界領域10bの長さは、第2活性部32の長さWbの10%(Wb×0.1)である。内部領域10cは、第1境界領域10aと第2境界領域10bの間に設けられる。面方向における内部領域10cの長さは、第2活性部32の長さWbの80%(Wb×0.8)である。不活性電極部20は、第2不活性部42上に配置される。面方向における不活性電極部20の長さは、第2不活性部42の長さに応じて適宜設定される。面方向において、活性電極部10(第1境界領域10a)と不活性電極部20の境界の位置は、第2活性部32と第2不活性部42の境界L1の位置と一致する。
【0023】
第1電極E1の第3電極部73は、活性電極部11と不活性電極部21とを有する。活性電極部11は、第3活性部33上に配置される。活性電極部11は、第1境界領域11a、第2境界領域11b及び内部領域11cを含む。第1境界領域11aは、面方向において第3活性部33と第2不活性部42の境界L3に隣接する。面方向における第1境界領域11aの長さは、第3活性部33の長さWcの10%(Wc×0.1)である。第2境界領域11bは、面方向において第1境界領域11aの反対側に設けられる。第2境界領域11bは、面方向において第3活性部33と第4不活性部44の境界L4に隣接する。面方向における第2境界領域11bの長さは、第3活性部33の長さWcの10%(Wc×0.1)である。内部領域11cは、第1境界領域11aと第2境界領域11bの間に設けられる。面方向における内部領域11cの長さは、第3活性部33の長さWcの80%(Wc×0.8)である。不活性電極部21は、第2不活性部42上に配置される。面方向における不活性電極部21の長さは、第2不活性部42の長さに応じて適宜設定される。面方向において、活性電極部11(第1境界領域11a)と不活性電極部21の境界の位置は、第3活性部33と第2不活性部42の境界L3の位置と一致する。
【0024】
(3)第2電極E2
第2電極E2の第2電極部92は、活性電極部12と不活性電極部22とを有する。活性電極部12は、第1活性部31上に配置される。活性電極部12は、第1境界領域12a、第2境界領域12b及び内部領域12cを含む。第1境界領域12aは、面方向において第1活性部31と第1不活性部41の境界L5に隣接する。面方向における第1境界領域12aの長さは、第1活性部31の長さWaの10%(Wa×0.1)である。第2境界領域12bは、面方向において第1境界領域12aの反対側に設けられる。第2境界領域12bは、面方向において第1活性部31と第3不活性部43の境界L6に隣接する。面方向における第2境界領域12bの長さは、第1活性部31の長さWaの10%(Wa×0.1)である。内部領域12cは、第1境界領域12aと第2境界領域12bの間に設けられる。面方向における内部領域12cの長さは、第1活性部31の長さWaの80%(Wa×0.8)である。不活性電極部22は、第3不活性部43上に配置される。面方向における不活性電極部22の長さは、第3不活性部43の長さに応じて適宜設定される。面方向において、活性電極部12(第1境界領域12b)と不活性電極部22の境界の位置は、第1活性部31と第3不活性部43の境界L6の位置と一致する。
【0025】
第2電極E2の第2内部電極15は、活性電極部13と不活性電極部23とを有する。活性電極部13は、第3活性部33上に配置される。活性電極部13は、第1境界領域13a、第2境界領域13b及び内部領域13cを含む。第1境界領域13aは、面方向において第3活性部33と第2不活性部42の境界L3に隣接する。面方向における第1境界領域13aの長さは、第3活性部33の長さWcの10%(Wc×0.1)である。第2境界領域13bは、面方向において第1境界領域13aの反対側に設けられる。第2境界領域13bは、面方向において第3活性部33と第4不活性部44の境界L4に隣接する。面方向における第2境界領域13bの長さは、第3活性部33の長さWcの10%(Wc×0.1)である。内部領域13cは、第1境界領域13aと第2境界領域13bの間に設けられる。面方向における内部領域13cの長さは、第3活性部33の長さWcの80%(Wc×0.8)である。不活性電極部23は、第4不活性部44上に配置される。面方向における不活性電極部23の長さは、第4不活性部44の長さに応じて適宜設定される。面方向において、活性電極部13(第2境界領域13b)と不活性電極部23の境界の位置は、第3活性部33と第4不活性部44の境界L4の位置と一致する。
【0026】
(活性電極部10〜13の構成)
以下において、活性電極部10〜13の構成について説明する。
【0027】
上述のとおり、活性電極部10〜13は、互いに同様の構成を有する。そのため、以下においては、活性電極部10〜13の代表として、第2電極部92の活性電極部12について説明する。また、活性電極部12の第1境界領域12aと第2境界領域12bは、互いに同様の構成を有する。そのため、以下においては、第1境界領域12aと第2境界領域12bの代表として、第1境界領域12aについて説明する。
【0028】
(1)第1境界領域12a
図3は、
図2の部分拡大図である。
図3では、第1境界領域12aの断面が模式的に示されている。
【0029】
第1境界領域12aは、第2電極部92の活性電極部12のうち、面方向において第1活性部31と第1不活性部41の境界L5に隣接する領域である。面方向における第1境界領域12aの長さは、第1活性部31の長さWaの10%(Wa×0.1)である。第1境界領域12aは、内部領域12cに連なる。
【0030】
本実施形態において、第1境界領域12aは、断続的に形成されている。第1境界領域12aは、連続的な層状には形成されていない。第1境界領域12aは、第1活性部31の表面を部分的に被覆している。第1境界領域12aによる第1活性部31の表面の被覆率Paは、100%未満である。第1境界領域12aによる第1活性部31の表面の被覆率Paは、80%以上とすることができ、85%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、95%以上が特に好ましい。第1境界領域12aによる第1活性部31の表面の被覆率Paは、第1境界領域12aの断面のSEM(Scanning Electron Microscope)画像から、第1境界領域12aの全長(Wa×0.1)に対する第1活性部31との総接触長さの割合である。
【0031】
第1境界領域12aは、面方向における単位長さ当たりの断面積Ra(μm
2/μm)を有する。単位長さ当たりの断面積Ra(μm
2/μm)は、以下のようにして算出される。
【0032】
まず、第1境界領域12aの断面のSEM画像を取得する。次に、画像処理ソフトフェアPickMap(URL;http://fishers.dtdns.net/software/pickmap/index.html#1)を用いて、SEM画像上の第1境界領域12aのみが抽出されるように閾値をRGBの平均値に調整することによってSEM画像を二値化する。
【0033】
次に、画像処理ソフトフェアPickMapを用いて、第1境界領域12aの総断面積を算出する。
図3において、第1境界領域12aの総断面積Rbは、R1、R2、R3及びR4の和である。
【0034】
次に、第1境界領域12aの長さ(Wa×0.1)で総断面積Rbを除すことによって、単位長さ当たりの断面積Rc(μm
2/μm)を算出する。
図3において、単位長さ当たりの断面積Rc(μm
2/μm)は、(R1+R2+R3+R4)/(Wa×0.1)である。そして、さらに4つの断面において単位長さ当たりの断面積Rc(μm
2/μm)を同様に算出する。計5つの断面は、長手方向に直交する幅方向(
図3の紙面に垂直な方向)において第1境界領域12aを均等に6分割して得られる断面とする。
【0035】
5つの断面それぞれから算出した単位長さ当たりの断面積Rc(μm
2/μm)を算術平均した値が、第1境界領域12aの単位長さ当たりの断面積Ra(μm
2/μm)である。
【0036】
(2)内部領域12c
図4は、
図2の部分拡大図である。
図4では、内部領域12cの断面が模式的に示されている。
【0037】
内部領域12cは、第2電極部92の活性電極部12のうち、面方向において第1活性部31と第1不活性部41の境界L5(
図3参照)から離れた領域である。内部領域12cは、境界L5から第1境界領域12aの長さ(Wb×0.1)より大きく離れている。
【0038】
本実施形態において、内部領域12cは、断続的に形成されている。内部領域12cは、連続的な層状には形成されていない。内部領域12cは、第1活性部31の表面を部分的に被覆している。内部領域12cによる第1活性部31の表面の被覆率Qaは、100%未満である。内部領域12cによる第1活性部31の表面の被覆率Qaは、95%以下とすることができ、90%以下が好ましく、85%以下がより好ましく、83%以下が特に好ましい。
【0039】
内部領域12cは、面方向における単位長さ当たりの断面積Sa(μm
2/μm)を有する。単位長さ当たりの断面積Sa(μm
2/μm)は、以下のようにして算出される。
【0040】
まず、内部領域12cの断面のSEM画像を取得する。次に、画像処理ソフトフェアPickMapを用いて、SEM画像上の内部領域12cのみが抽出されるように閾値をRGBの平均値に調整することによってSEM画像を二値化する。
【0041】
次に、画像処理ソフトフェアPickMapを用いて、上述した第1境界領域12aの長さ(Wa×0.1)における内部領域12cの総断面積を算出する。
図4において、第1境界領域12aの長さ(Wa×0.1)における内部領域12cの総断面積Sbは、S1、S2、S3、S4及びS5の和である。
【0042】
次に、第1境界領域12aの長さ(Wa×0.1)で総断面積Sbを除すことによって、単位長さ当たりの断面積Sc(μm
2/μm)を算出する。
図4において、単位長さ当たりの断面積Sc(μm
2/μm)は、(S1+S2+S3+S4+S5)/(Wa×0.1)である。そして、さらに4つの断面において単位長さ当たりの断面積Sc(μm
2/μm)を同様に算出する。計5つの断面は、長手方向に直交する幅方向(
図4の紙面に垂直な方向)において内部領域12cを均等に6分割して得られる断面とする。
【0043】
5つの断面それぞれから算出した単位長さ当たりの断面積Sc(μm
2/μm)を算術平均した値が、内部領域12cの単位長さ当たりの断面積Sa(μm
2/μm)である。
【0044】
(3)単位長さ当たりの断面積Raと単位長さ当たりの断面積Sa
第1境界領域12aの単位長さ当たりの断面積Raは、内部領域12cの単位長さ当たりの断面積Saよりも大きい。
【0045】
このように、第1境界領域12aは、内部領域12cに比べて電極密度が高いため、第1活性部31のうち第1境界領域12aと接する部位では、第1活性部31のうち内部領域12cと接する部位に比べて大きな圧縮応力がかかる。そのため、第1活性部31のうち第1境界領域12aと接する部位では、第1活性部31のうち内部領域12cと接する部位に比べて、分極時に圧縮応力を緩和する方向(すなわち、厚み方向)へ90度ドメイン回転が起こりやすい。従って、圧電体3に電界を印加した場合、第1活性部31のうち第1境界領域12aと接する部位では、90度ドメイン回転による変位が小さく、逆電圧効果による変位が優勢になるため、全体としての変位は小さくなる。その結果、第1活性部31と第1不活性部41の境界L5に発生する応力を低減させることができるため、第1活性部31と第1不活性部41の境界L5付近にクラックが発生することを抑制できる。このような効果は、第1境界領域12aだけでなく、第1境界領域10a、第2境界領域10b、第1境界領域11a、第2境界領域11b及び第2境界領域12bによっても奏されるものである。
【0046】
一方、内部領域12cでは、第1境界領域12aに比べて電極密度が低いため、第1活性部31のうち内部領域12cと接する部位では、第1活性部31のうち第1境界領域12aと接する部位に比べて小さな圧縮応力がかかる。そのため、第1活性部31のうち内部領域12cと接する部位では、第1活性部31のうち第1境界領域12aと接する部位に比べて、分極時に圧縮応力を緩和する方向(すなわち、厚み方向)へ90度ドメイン回転が起こりにくい。従って、圧電体3に電界を印加した場合、第1活性部31のうち内部領域12cと接する部位では、90度ドメイン回転による変位が大きく、逆電圧効果による変位よりも優勢になるため、全体としての変位は大きくなる。その結果、上述のように第1境界領域12aにおける変位が小さくなったとしても、第1活性部31全体としての変位量は確保される。このような効果は、内部領域12cだけでなく、内部領域10c、内部領域11c及び内部領域13c内部領域12cによっても奏されるものである。
【0047】
単位長さ当たりの断面積Saに対する単位長さ当たりの断面積Raの比(Ra/Sa)は、1.0よりも大きければよいが、1.05以上が好ましく、1.15以上がより好ましい。
【0048】
(4)被覆率Paと被覆率Qa
第1境界領域12aによる第1活性部31の表面の被覆率Paは、内部領域12cによる第1活性部31の表面の被覆率Qaよりも大きい。すなわち、平面視において、第1境界領域12aの充填率は、内部領域12cの充填率よりも大きい。
【0049】
被覆率Qaに対する被覆率Paの比(Pa/Qa)は、1.0よりも大きければよいが、1.05以上が好ましく、1.15以上がより好ましい。
【0050】
(5)活性電極部12の作製方法
活性電極部12の作製方法について説明する。
【0051】
まず、Ptなどの導電材を含む導電性ペーストを調製する。
【0052】
次に、圧電セラミックス材料のスラリーを用いて第1活性部31用のグリーンシートを作製する。そして、グリーンシートの表面に導電性ペーストをスクリーン印刷法などによって塗布することによって、活性電極部12を含む第2電極部92の成形体を形成する。この際、グリーンシートの表面のうち第1境界領域12a及び第2境界領域12bを形成する領域への導電性ペーストの塗布にはメッシュサイズの大きなスクリーンを用い、グリーンシートの表面のうち内部領域12cを形成する領域への導電性ペーストの塗布にはメッシュサイズの小さなスクリーンを用いる。これによって、第1境界領域12aの単位長さ当たりの断面積Raを、内部領域12cの単位長さ当たりの断面積Saよりも大きくすることができる。
【0053】
その後、第1活性部31用のグリーンシートと第2電極部92の成形体を焼成(1050℃〜1250℃、1時間〜4時間)することによって、第1活性部31と第2電極部92とが同時に形成される。
【0054】
(他の実施形態)
本発明は以上の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない範囲で種々の変形又は変更が可能である。
【0055】
上記実施形態において、圧電素子1は、第1内部電極5と第1外部電極7を有する第1電極E1と、第2内部電極15と第2外部電極9を有する第2電極E2とを備えることとしたが、これに限られるものではない。圧電素子1は、圧電体3に電界を印加することのできる一対の電極を備えていればよく、その構成、サイズ及び材料などに制限はない。従って、本発明に係る一対の電極は、圧電素子1以外の様々な態様の圧電素子に適用可能である。
【0056】
上記実施形態において、第2電極E2の第2電極部92のうち活性電極部12は、第1境界領域10a、第2境界領域10b及び内部領域10cを有することとしたが、これに限られるものではない。活性電極部12は、内部領域10cと、第1境界領域10a及び第2境界領域10bのいずれか一方とを有していればよい。
【0057】
上記実施形態において、第1電極E1の第1内部電極5のうちの活性電極部10、第1電極E1の第3電極部73のうちの活性電極部11、第2電極E2の第2電極部92のうちの活性電極部12、及び第2電極E2の第2内部電極15のうちの活性電極部13は、互いに同様の構成(すなわち、2つの境界領域と1つの内部領域10cを含む構成)であることとしたが、これに限られるものではない。活性電極部10〜13のいずれかの活性電極部が、1つの境界領域と1つの内部領域とを有していれば、上述した効果を得ることができる。
【0058】
上記実施形態において、第2電極E2の第2電極部92のうち活性電極部12では、第1境界領域12aと内部領域12cの両方とも連続的な層状には形成されていないこととしたが、両方とも層状に形成されていてもよい。すなわち、活性電極部12の断面において、第1境界領域12aによる第1活性部31の表面の被覆率Paと、内部領域12cによる第1活性部31の表面の被覆率Qaは、それぞれ100%であってもよい。この場合には、第1境界領域12aと内部領域12cそれぞれの厚みを調整することによって、第1境界領域12aの単位長さ当たりの断面積Raを内部領域12cの単位長さ当たりの断面積Saよりも大きくすることができる。第1境界領域12aの厚みは1.2μm以上とすることができ、1.3μm以上が好ましく、1.4μm以上がより好ましい。内部領域12cの厚みは0.9μm以下とすることができ、0.8μm以下が好ましく、0.7μm以下がより好ましい。
【0059】
上記実施形態では、第1電極E1の第1内部電極5のうちの不活性電極部20、第1電極E1の第3電極部73のうちの不活性電極部21、第2電極E2の第2電極部92のうちの不活性電極部22、及び第2電極E2の第2内部電極15のうちの不活性電極部23それぞれの構成について特に説明していないが、不活性電極部20〜23は、第1境界領域12aや第2境界領域12bと同じ構成(電極密度)であってもよいし、内部領域12cと同じ構成(電極密度)であってもよい。
【0060】
上記実施形態において、各活性電極部に含まれる各境界領域の面方向における長さは、各活性電極部が接触する活性部の全長の10%であり、各活性電極部に含まれる各内部領域の面方向における長さは、各活性電極部が接触する活性部の全長の80%であることとしたが、これに限られるものではない。各境界領域の面方向における長さは、各活性電極部が接触する活性部の全長の10%以上であればよく、各内部領域の面方向における長さは、各活性電極部が接触する活性部の全長の10%以上であればよい。
【実施例】
【0061】
以下において本発明に係る実施例について説明する。ただし、本発明は以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0062】
(実施例1〜3の作製)
図5は、実施例1〜3に係る圧電素子の製造方法を説明するための図である。
【0063】
まず、主成分としてのPZT粉末500g、ビヒクル、分散剤及び可塑剤を混合したスラリーを用いて、圧電体用のグリーンシートを3枚作製した。
【0064】
次に、3枚の圧電体用グリーンシートの表面に所定パターンでPtを含む導電性ペーストを印刷した。この際、
図5に示すように、活性電極部と不活性電極部を一体的に形成するとともに、活性電極部において一対の境界領域と内部領域を一体的に形成した。一対の境界領域それぞれの長さを、圧電体用グリーンシートのうち活性部となる領域の長さの10%とし、内部領域の長さを、圧電体用グリーンシートのうち活性部となる領域の長さの80%とした。
【0065】
また、一対の境界領域の塗布にはメッシュサイズの大きなスクリーンを用い、内部領域の塗布にはメッシュサイズの小さなスクリーンを用いた。これによって、後述するように、一対の境界領域それぞれにおける単位長さ当たりの断面積Raを、内部領域における単位長さ当たりの断面積Saよりも大きくした。
【0066】
次に、導電性ペーストが印刷された3枚の圧電体用グリーンシートを熱圧着して積層体を形成した。そして、積層体の両側面に導電性ペーストを印刷した(
図1参照)。
【0067】
次に、導電性ペーストが印刷された積層体を焼成(1150℃、2時間)して、Pt電極付き圧電素子を作製した。実施例1に係る圧電素子のサイズは、長さ1.0mm×幅0.3mm×厚み0.08mmであった。
【0068】
(比較例1〜3の作製)
図6は、比較例1〜3に係る圧電素子の製造方法を説明するための図である。
【0069】
比較例1〜3では、
図6に示すように、活性電極部及び不活性電極部を一体的に形成するとともに、実施例1の内部領域の形成条件によって全体を一様なメッシュサイズのスクリーンを用いて形成した。それ以外は実施例1と同じ工程にて圧電素子を作製した。比較例1〜3に係る圧電素子のサイズは、実施例1〜3に係る圧電素子のサイズと同じであった。
【0070】
(断面積と被覆率の測定)
(1)SEM画像の取得
実施例1〜3及び比較例1〜3を長手方向に切断して(
図2参照)、Pt電極の活性電極部のうち境界領域と内部領域の断面をSEMで観察した。なお、観察対象は、
図2に示した第1電極E1のうち第1内部電極5の活性電極部10に統一した。
【0071】
図7は、活性電極部のうち境界領域の断面SEM画像であり、
図8は、活性電極部のうち内部領域の断面SEM画像である。
【0072】
図7,8から分かるとおり、境界領域は高密度に形成されているのに対して、内部領域は低密度に形成されていることが確認できた。
【0073】
(2)境界領域における単位長さ当たりの断面積Ra
まず、画像処理ソフトフェアPickMapを用いて、境界領域の断面SEM画像上の境界領域のみが抽出されるように閾値をRGBの平均値に調整することによって断面SEM画像を二値化した。そして、画像処理ソフトフェアPickMapを用いて、境界領域の総断面積Rbを算出した。
【0074】
次に、境界領域の全長(圧電体活性部の10%長)で境界領域の総断面積Rbを除すことによって、単位長さ当たりの断面積Rc(μm
2/μm)を算出した。そして、さらに4つの断面において単位長さ当たりの断面積Rc(μm
2/μm)を同様に算出した。計5つの断面は、長手方向に直交する幅方向において境界領域を均等に6分割して得られた断面である。5つの断面それぞれから算出した単位長さ当たりの断面積Rc(μm
2/μm)を算術平均することによって、境界領域の単位長さ当たりの断面積Ra(μm
2/μm)を求めた。
【0075】
(3)境界領域による圧電体活性部の被覆率
また、境界領域の断面SEM画像から、境界領域の全長(圧電体活性部の10%長)に対する圧電体活性部との総接触長さの割合を算出することによって、境界領域による圧電体活性部の被覆率を求めた。
【0076】
(4)内部領域における単位長さ当たりの断面積Sa
まず、画像処理ソフトフェアPickMapを用いて、内部領域の断面SEM画像上の内部領域のみが抽出されるように閾値をRGBの平均値に調整することによって断面SEM画像を二値化した。そして、画像処理ソフトフェアPickMapを用いて、内部領域の総断面積Sbを算出した。
【0077】
次に、境界領域の全長(圧電体活性部の10%長)で内部領域の総断面積Sbを除すことによって、単位長さ当たりの断面積Sc(μm
2/μm)を算出した。そして、さらに4つの断面において単位長さ当たりの断面積Sc(μm
2/μm)を同様に算出した。計5つの断面は、長手方向に直交する幅方向において内部領域を均等に6分割して得られる断面である。5つの断面それぞれから算出した単位長さ当たりの断面積Sc(μm
2/μm)を算術平均することによって、内部領域の単位長さ当たりの断面積Sa(μm
2/μm)を求めた。
【0078】
(5)内部領域による圧電体活性部の被覆率
また、内部領域の断面SEM画像から、内部領域の全長(圧電体活性部の80%長)に対する圧電体活性部との総接触長さの割合を算出することによって、内部領域による圧電体活性部の被覆率を求めた。
【0079】
(圧電体におけるクラックの観察)
実施例1〜3の圧電素子と比較例1〜3の圧電素子を所定条件(10kHz、100時間、±1kV/mm)で連続駆動した後、電子顕微鏡を用いて、圧電体活性部と圧電体不活性部との境界付近におけるクラック(長さ5μm以上、幅1μm以上)の有無を確認した。表1では、実施例1の圧電素子と比較例1の圧電素子それぞれ50個ずつについて、クラックが1箇所でも確認された圧電素子を破損品としてカウントしたときの破損品発生率である。なお、観察対象は、
図2に示した第1活性部31と第3不活性部43の境界L6に統一した。
【0080】
【表1】
【0081】
表1に示すように、境界領域の単位長さ当たりの断面積Raを、内部領域の単位長さ当たりの断面積Saよりも大きくした実施例1〜3では、圧電体活性部と圧電体不活性部との境界付近にクラックが発生することを抑制できた。これは、境界領域の電極密度を高くしたことによって、活性部のうち境界領域と接する領域に大きな圧縮応力がかかったため、分極時に90度ドメイン回転が促進され、その結果、活性部のうち境界領域と接する領域では90度ドメイン回転による変位を小さくできたからである。