(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
投影レンズとこの投影レンズの後方側に配置された光源とを備え、上記光源からの出射光を上記投影レンズを透して前方へ照射することにより第1の配光パターンを形成するように構成された車両用灯具において、
上記投影レンズと上記光源との間に、上記光源から上記投影レンズへ向かう光の一部を遮光し得るように構成された第1光制御手段が配置されており、
上記第1光制御手段による遮光作用によって、上記第1の配光パターンよりも左右幅が小さい第2の配光パターンを形成するように構成されており、
上記第1光制御手段による遮光が行われる際に、上記第2の配光パターンの形成位置を下方側に変位させる第2光制御手段を備えている、ことを特徴とする車両用灯具。
上記第2の配光パターンとして、上記第1の配光パターンの左右両側部分が切除された縦長帯状の配光パターンを形成するように構成されている、ことを特徴とする請求項1または2記載の車両用灯具。
上記縦長帯状の配光パターンとして、上部領域の左右幅が下部領域の左右幅よりも大きい配光パターンを形成するように構成されている、ことを特徴とする請求項3記載の車両用灯具。
上記第1光制御手段は、上記遮光を行う遮光位置と上記遮光を解除する遮光解除位置とを採り得るように構成された可動シェードによって構成されている、ことを特徴とする請求項1〜4いずれか記載の車両用灯具。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記「特許文献1」に記載された車両用灯具において、可動シェードが遮光位置にあるときに形成される配光パターンを、可動シェードが遮光解除位置にあるときに形成される配光パターンよりも左右幅が小さい配光パターンとして形成するようにすれば、このとき車両前方路面に照射される光によって路面描画を行うこと(すなわち路面に光の模様を意図的に形成すること)が可能となる。
【0006】
しかしながら、上記「特許文献1」に記載された車両用灯具においては、可動シェードの移動によって配光パターンの形状は変化するが、その形成位置は変化しないので、車両前方路面に対する光照射を効率良く行うことができない。
【0007】
本願発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、プロジェクタ型の車両用灯具において、異なる形状の配光パターンを形成可能とした上で、車両前方路面に対する光照射を効率良く行うことができる車両用灯具を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明は、所定の光制御手段を備えた構成とすることにより、上記目的達成を図るようにしたものである。
【0009】
すなわち、本願発明に係る車両用灯具は、
投影レンズとこの投影レンズの後方側に配置された光源とを備え、上記光源からの出射光を上記投影レンズを透して前方へ照射することにより第1の配光パターンを形成するように構成された車両用灯具において、
上記投影レンズと上記光源との間に、上記光源から上記投影レンズへ向かう光の一部を遮光し得るように構成された第1光制御手段が配置されており、
上記第1光制御手段による遮光作用によって、上記第1の配光パターンよりも左右幅が小さい第2の配光パターンを形成するように構成されており、
上記第1光制御手段による遮光が行われる際に、上記第2の配光パターンの形成位置を下方側に変位させる第2光制御手段を備えている、ことを特徴とするものである。
【0010】
上記「第1の配光パターン」の具体的な形状は特に限定されるものではない。
【0011】
上記「光源」の種類は特に限定されるものではなく、例えば発光ダイオードやレーザーダイオード等の発光素子あるいは光源バルブ等が採用可能である。
【0012】
上記「第1光制御手段」は、光源から投影レンズへ向かう光の一部を遮光することが可能なものであれば、その具体的な構成は特に限定されるものではなく、例えば可動シェードや液晶シャッタ等が採用可能である。
【0013】
上記「第2光制御手段」は、第1光制御手段による遮光が行われる際に第2の配光パターンの形成位置を下方側に変位させることが可能なものであれば、その具体的な構成は特に限定されるものではなく、例えば偏向レンズやレベリング装置等が採用可能である。
【発明の効果】
【0014】
本願発明に係る車両用灯具は、プロジェクタ型の灯具として第1の配光パターンを形成するように構成されているが、投影レンズと光源との間に配置された第1光制御手段による遮光作用によって第1の配光パターンよりも左右幅が小さい第2の配光パターンを形成し得る構成となっており、その遮光が行われる際には第2光制御手段によって第2の配光パターンの形成位置を下方側に変位させる構成となっているので、次のような作用効果を得ることができる。
【0015】
すなわち、第1光制御手段の遮光作用によって第1の配光パターンよりも左右幅が小さい第2の配光パターンが形成されるが、その形成位置は第2光制御手段によって下方側に変位しているので、単に第1の配光パターンの一部を切除しただけの配光パターンに比して車両前方路面に対する光照射を効率良く行うことができる。
【0016】
このように本願発明によれば、プロジェクタ型の車両用灯具において、異なる形状の配光パターンを形成可能とした上で、車両前方路面に対する光照射を効率良く行うことができる。
【0017】
そして、このように第2の配光パターンの形成位置が下方側に変位していることにより、車両前方路面への光照射による路面描画を行うことが容易に可能となり、また、先行車ドライバや対向車ドライバあるいは横断歩行者等にグレアを与えてしまうおそれを小さくすることができる。
【0018】
上記構成において、第1の配光パターンとしてスポット状の配光パターンを形成する構成とすれば、第1の配光パターンによって遠方視認性を高めるようにした上で、第2の配光パターンによって車両前方路面を局所的に明るく照射することができる。
【0019】
上記構成において、第2の配光パターンとして第1の配光パターンの左右両側部分が切除された縦長帯状の配光パターンを形成する構成とすれば、第2の配光パターンによって車両前方路面に前方へ向けて直線状に延びる光の帯を路面描画として形成することができ、これにより周囲への注意喚起機能を高めることができる。
【0020】
その際、縦長帯状の配光パターンとして上部領域の左右幅が下部領域の左右幅よりも大きい配光パターンを形成する構成とすれば、その上部領域の光によって車両前方を横断する歩行者等に対する注意喚起機能を高めることができる。
【0021】
上記構成において、第1光制御手段が、遮光位置と遮光解除位置とを採り得るように構成された可動シェードによって構成されたものとすれば、簡易な構成によって第1の配光パターンと第2の配光パターンとの選択的形成を行うことができる。
【0022】
このようにした場合において、第2光制御手段が、可動シェードに固定された偏向レンズによって構成されたものとすれば、簡易な構成によって第2の配光パターンの形成位置を下方側に変位させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を用いて、本願発明の実施の形態について説明する。
【0025】
図1は、本願発明の一実施形態に係る車両用灯具10を示す側断面図であり、
図2は、そのII−II線断面図である。なお、これらの図において、Xで示す方向が灯具としての「前方」(車両としても「前方」)であり、Yで示す方向が「右方向」であり、Z示す方向が「上方向」である。それ以外の図においても同様である。
【0026】
これらの図に示すように、本実施形態に係る車両用灯具10は、ヘッドランプの一部として組み込まれた状態で用いられるプロジェクタ型の灯具ユニットであって、投影レンズ12と、この投影レンズ12の後側焦点Fよりも後方側に配置された光源ユニット14と、この光源ユニット14から出射した光を投影レンズ12へ向けて反射させるリフレクタ16と、光源ユニット14と投影レンズ12との間に配置された可動シェード20とを備えた構成となっている。
【0027】
投影レンズ12は、前面が凸面で後面が平面の平凸非球面レンズであって、その後側焦点Fを含む焦点面である後側焦点面上に形成される光源像を、反転像として灯具前方の仮想鉛直スクリーン上に投影するようになっている。この投影レンズ12は、その外周フランジ部においてレンズホルダ32に支持されており、このレンズホルダ32は左右1対のブラケット36を介してベース部材34に支持されている。
【0028】
光源ユニット14は、光源としてのレーザーダイオード14aから出射した光を集光レンズ14bによって蛍光体からなる発光部14cに集光させ、この発光部14cから白色の拡散光として出射させるように構成されている。その際、この光源ユニット14からの出射光は、発光部14cの中心位置からの出射光の強度が最も高いものとなっている。この光源ユニット14は、その発光部14cが円形状の表面形状を有しており、この表面を鉛直上方に対して後方側に傾斜した方向へ向けた状態でベース部材24に支持されている。
【0029】
リフレクタ16は、光源ユニット14を上方側から覆うように配置された状態で、左右1対のブラケット36に支持されている。このリフレクタ16の反射面16aは、光源ユニット14における発光部14cの発光中心を第1焦点とするとともに投影レンズ12の後側焦点Fを第2焦点とする回転楕円面で構成されている。これにより、リフレクタ16は、光源ユニット14からの出射光を投影レンズ12の後側焦点F近傍に集光させるようになっている。
【0030】
可動シェード20は、回動ピン26を介してアクチュエータ(例えばソレノイド等)30に回動可能に支持されたシェードホルダ22と、このシェードホルダ22に支持されたシェード本体24とを備えている。その際、回動ピン26は、光軸Axの下方でかつ後側焦点Fよりも前方において左右方向に延びるように配置されており、その両端部がアクチュエータ30および図示しない支持ブラケットに支持されている。これらアクチュエータ30および支持ブラケットは、ベース部材34に支持されている。
【0031】
この可動シェード20は、アクチュエータ30の駆動により、遮光位置(
図1において実線で示す位置)と、この遮光位置から後方側に所定角度回動した遮光解除位置(
図1において2点鎖線で示す位置)とを採り得るようになっている。このアクチュエータ30は、図示しないビーム切換えスイッチの操作が行われたときに駆動するようになっている。
【0032】
可動シェード20には、リフレクタ16からの反射光の向きを変えるための偏向レンズ28が取り付けられている。この偏向レンズ28は、シェード本体24によってシェードホルダ22に固定されている。
【0033】
図3は、車両用灯具10の主要構成要素を示す、
図1の要部詳細図である。
【0034】
また、
図4および5は、これらを各要素に分解した状態で示す斜視図である。その際、
図4は、可動シェード20を構成するシェードホルダ22およびシェード本体24と偏向レンズ28とを、斜め上前方から見て示す斜視図であり、
図5は、これらを斜め上後方から見て示す斜視図である。
【0035】
これらの図に示すように、シェードホルダ22は、ダイカスト成形品であって、回動ピン26を支持する回動ピン支持部22Aと、この回動ピン支持部22Aから後方へ向けて斜め上方へ延びる傾斜部22Bと、この傾斜部22Bの後端縁から鉛直上方へ延びる立壁部22Cと、回動ピン支持部22Aから下方へ延びるカウンターウェイト部22Dとを備えている。その際、傾斜部22Bは、平面視において光軸Axの下方位置から左右両側へ向けて前方側に湾曲して延びるように形成されている。また、立壁部22Cおよびカウンターウェイト部22Dは、回動ピン支持部22Aおよび傾斜部22Bよりも狭い左右幅で形成されている。
【0036】
そして、傾斜部22Bには、該傾斜部22Bを前後方向に貫通する開口部22Baが形成されており、また、立壁部22Cにも、該立壁部22Cを前後方向に貫通する開口部22Caが形成されている。その際、開口部22Baは、横長の略矩形状の開口形状で形成されている。一方、開口部22Caは、やや横長の略矩形状の開口形状で光軸Axを囲むように形成されている。
【0037】
立壁部22Cの下端部には、水平面に沿って前方へ向けて延びる水平部22C1が形成されており、この水平部22C1の下面における左右方向の中央部には、開口部22Baに臨むようにして下方へ突出する突起部22C1aが形成されている。
【0038】
立壁部22Cの後面には、開口部22Caから左右両側に拡がる矩形状凹部22Cbが形成されている。この矩形状凹部22Cbにおける左右両壁面および上面には、前後方向に延びるビード22Cb1が形成されている。
【0039】
立壁部22Cの上端面は水平面に沿って延びており、その左右方向の中央部には突起部22Ccが形成されており、その左右方向の両端近傍部位には突起部22Cdがそれぞれ形成されている。
【0040】
立壁部22Cの後面には、その左右方向の中央部における開口部22Caの下方近傍部位に、後方へ向けて突出する円柱状のピン22Ceが形成されている。
【0041】
シェード本体24は、バネ性を有する金属板を加工することにより形成された部材であって、光軸Axに関して左右対称の形状を有している。
【0042】
このシェード本体24は、光軸Axと直交する鉛直面に沿って延びる鉛直面部24Aと、この鉛直面部24Aの上端縁から前方へ延びる上面部24Bと、鉛直面部24Aの左右両側において上面部24Bの後端縁から下方へ延びる板バネ部24Cと、鉛直面部24Aの下端縁から前方へ延びる下面部24Dとを備えている。
【0043】
鉛直面部24Aは、シェードホルダ22の立壁部22Cと略同じ上下幅で形成されており、その開口部22Caと略同じ左右幅で形成されている。
【0044】
この鉛直面部24Aにおける左右方向の中央部には、上下方向に延びる縦長矩形状のスリット24Aaが形成されている。このスリット24Aaは、偏向レンズ28の上下幅と略同じ高さで形成されており、その際、光軸Axに関して上方側の領域よりも下方側の領域の方がやや長くなっている。また、このスリット24Aaの左右幅は、1〜3mm程度(例えば2mm程度)に設定されている。
【0045】
鉛直面部24Aにおけるスリット24Aaの下方近傍には、上下方向にやや長い長孔24Abが形成されている。
【0046】
上面部24Bは、水平面に沿って延びており、その左右方向の中央部には矩形状の切欠き部24Baが形成されており、その左右方向の両端近傍部位には矩形状の開口部24Bbがそれぞれ形成されている。
【0047】
各板バネ部24Cは、下方へ向けて後方側に湾曲して延びており、その下端近傍部位には左右方向に延びる半円筒形状で前方側へ突出する半円筒部24Caが形成されている。
【0048】
下面部24Dは、水平面に沿って延びており、その前端近傍部位には矩形状の開口部24Daが形成されている。
【0049】
偏向レンズ28は、樹脂製レンズであって、レンズ本体部28Aと、このレンズ本体部28Aから左右両側に延びる1対のフランジ部28Bとを備えており、光軸Axに関して左右対称の形状を有している。
【0050】
左右1対のフランジ部28Bは、光軸Axと直交する鉛直面に沿って平板状に延びるように形成されており、レンズ本体部28Aは、両フランジ部28Bから前方へ突出するように形成されている。
【0051】
レンズ本体部28Aは、その前面28Aaが凸曲面状に形成されるとともに、その後面28Aaが凹曲面状に形成されている。その際、後面28Aaは、光軸Axのやや上方に位置する点を中心とする縦長楕円面に略沿った曲面で構成されており、前面28Aaは、光軸Axよりも下方側の領域が前方へ大きく膨らむ曲面で構成されている。
【0052】
すなわち、このレンズ本体部28Aは、水平断面内においては一定の肉厚で形成されているが、鉛直断面内においては上端縁から下端縁へ向けて徐々に肉厚が増大するように形成されている。
【0053】
そしてこれにより、偏向レンズ28は、リフレクタ16からの反射光を一定の角度分だけ下方側へ偏向させるようになっている。その際の下方偏向量は、1〜3°程度(例えば2°程度)に設定されている。
【0054】
シェード本体24および偏向レンズ28は、シェードホルダ22の立壁部22Cに取り付けられている。この取付けは、次のようにして行われるようになっている。
【0055】
すなわち、まず、偏向レンズ28を、シェードホルダ22の立壁部22Cに対して、その後方側から開口部22Caに挿入して、両フランジ部28Bを矩形状凹部22Cbに当接させることにより、レンズ本体部28Aを立壁部22Cの開口部22Caから前方へ突出させる。
【0056】
次に、シェード本体24の上面部24Bに形成された切欠き部24Baを立壁部22Cの上端面に形成された突起部22Ccに係合させて左右方向の位置決めを行うとともに、その上面部24Bに形成された左右1対の開口部24Bbを立壁部22Cの上端面に形成された左右1対の突起部22Cdに係合させる。
【0057】
次に、左右1対の板バネ部24Cの半円筒部24Caを偏向レンズ28のフランジ部28Bに押し当てて、各板バネ部24Cを弾性変形させる。
【0058】
そして、シェード本体24の下面部24Dに形成された開口部24Daを、立壁部22Cの水平部22C1の下面に形成された突起部22C1aに係合させることにより、シェード本体24をシェードホルダ22に固定し、これにより偏向レンズ28をシェード本体24とシェードホルダ22とによって前後両側から挟持して位置決めするようになっている。
【0059】
可動シェード20は、遮光位置にあるとき、そのシェード本体24の鉛直面部24Aが光軸Axと直交する鉛直面に沿って延びるように配置され、このとき、スリット24Aaの中心位置が投影レンズ12の後側焦点Fのやや下方に位置するようになっている。
【0060】
そして、可動シェード20が遮光位置にあるときには、リフレクタ16からの反射光は、その大半がシェード本体24によって遮光され、スリット24Aaを通過した光のみが偏向レンズ28によって下向きに偏向された後、投影レンズ12に到達するようになっている。一方、可動シェード20が遮光解除位置にあるときには、リフレクタ16からの反射光はシェード本体24によって遮光されることなく投影レンズ12に到達するようになっている。
【0061】
図6は、車両用灯具10から前方へ照射される光により灯具前方25mの位置に配置された仮想鉛直スクリーン上に形成される配光パターンを透視的に示す図である。
【0062】
その際、
図6(a)に示す配光パターンPA1は、可動シェード20が遮光解除位置にあるときにハイビーム用配光パターンPHの一部として形成される第1の配光パターンであり、
図6(b)に示す配光パターンPA2は、可動シェード20が遮光位置にあるときにロービーム用配光パターンPLの一部として形成される第2の配光パターンである。
【0063】
図6(a)に示すハイビーム用配光パターンPHは、他の車両用灯具(図示せず)からの照射光によって形成される基本配光パターンPH0と第1の配光パターンPA1との合成配光パターンとして形成されるようになっている。
【0064】
基本配光パターンPH0は、H−V(灯具正面方向の消点)を中心として左右方向に大きく拡がる横長の配光パターンとして形成されている。
【0065】
一方、第1の配光パターンPA1は、H−Vを中心とするやや横長のスポット状の配光パターンとして形成されており、これによりハイビーム用配光パターンPHの中心に高光度領域を形成するようになっている。この第1の配光パターンPA1は、その中心部の光度はかなり高いが、その周縁部の光度は比較的低いものとなっている。
【0066】
図6(b)に示すロービーム用配光パターンPLは、他の車両用灯具(図示せず)からの照射光によって形成される基本配光パターンPL0と第2の配光パターンPA2との合成配光パターンとして形成されるようになっている。
【0067】
基本配光パターンPL0は、左配光のロービーム用配光パターンであって、H−Vを中心として左右方向に大きく拡がる横長の配光パターンとして形成されており、その上端縁に左右段違いのカットオフラインCL1、CL2を有している。このカットオフラインCL1、CL2は、H−Vを鉛直方向に通るV−V線を境にして左右段違いで水平方向に延びており、V−V線よりも右側の対向車線側部分が下段カットオフラインCL1として形成されるとともに、V−V線よりも左側の自車線側部分が、この下段カットオフラインCL1から傾斜部を介して段上がりになった上段カットオフラインCL2として形成されている。
【0068】
一方、第2の配光パターンPA2は、第1の配光パターンPA1の左右両側部分を切除して縦長帯状の配光パターンとした上で、これを下方側へ変位させた配光パターンとして形成されている。その際、第1の配光パターンPA1に対する第2の配光パターンPA2の下方変位量は1〜3°程度(例えば2°程度)であり、第2の配光パターンPA2の左右幅は1〜3°程度(例えば2°程度)である。
【0069】
ロービーム用配光パターンPLにおいてこのような第2の配光パターンPA2を形成することにより、車両前方路面に前方へ向けて直線状に延びる光の帯を路面描画として生成し、これにより周囲への注意喚起機能を高めるようになっている。
【0070】
この第2の配光パターンPA2は、その上端部がカットオフラインCL1、CL2からはみ出してH−Vのやや上方の位置まで延びるように形成されているが、上述したように第1の配光パターンPA1の周縁部の光度は比較的低いものとなり、第2の配光パターンPA2の上下両端部の光度も比較的低いものとなるので、先行車のドライバ等に有害なグレアを与えてしまうことはない。
【0071】
次に本実施形態の作用効果について説明する。
【0072】
本実施形態に係る車両用灯具10は、プロジェクタ型の灯具ユニットとして第1の配光パターンPA1を形成するように構成されているが、投影レンズ12と光源ユニット14との間に配置された第1光制御手段としての可動シェード20による遮光作用によって第1の配光パターンPA1よりも左右幅が小さい第2の配光パターンPA2を形成し得る構成となっており、その遮光が行われる際には第2光制御手段としての偏向レンズ28によって第2の配光パターンPA2の形成位置を下方側に変位させる構成となっているので、次のような作用効果を得ることができる。
【0073】
すなわち、可動シェード20の遮光作用によって第1の配光パターンPA1よりも左右幅が小さい第2の配光パターンPA2が形成されるが、その形成位置は偏向レンズ28によって下方側に変位しているので、単に第1の配光パターンPA1の一部を切除しただけの配光パターンに比して車両前方路面に対する光照射を効率良く行うことができる。
【0074】
このように本実施形態によれば、プロジェクタ型の車両用灯具10において、異なる形状の配光パターンPA1、PA2を形成可能とした上で、車両前方路面に対する光照射を効率良く行うことができる。
【0075】
そして、このように第2の配光パターンPA2の形成位置が下方側に変位していることにより、車両前方路面への光照射による路面描画を行うことが容易に可能となり、また、先行車ドライバや対向車ドライバあるいは横断歩行者等にグレアを与えてしまうおそれを小さくすることができる。
【0076】
しかも本実施形態においては、第1の配光パターンPA1としてスポット状の配光パターンを形成するように構成されているので、第1の配光パターンPA1によって遠方視認性を高めるようにした上で、第2の配光パターンPA2によって車両前方路面を局所的に明るく照射することができる。
【0077】
その際、本実施形態においては、第2の配光パターンPA2として第1の配光パターンPA1の左右両側部分が切除された縦長帯状の配光パターンを形成するように構成されているので、第2の配光パターンPA2によって車両前方路面に前方へ向けて直線状に延びる光の帯を路面描画として形成することができ、これにより周囲への注意喚起機能を高めることができる。
【0078】
また本実施形態においては、第1光制御手段が、遮光位置と遮光解除位置とを採り得るように構成された可動シェード20によって構成されているので、簡易な構成によって第1の配光パターンPA1と第2の配光パターンPA2との選択的形成を行うことができる。
【0079】
さらに本実施形態においては、第2光制御手段が、可動シェード20に固定された偏向レンズ28によって構成されているので、簡易な構成によって第2の配光パターンPA2の形成位置を下方側に変位させることができる。
【0080】
上記実施形態においては、可動シェード20が、前後方向の回動運動によって光制御位置と退避位置とを採り得るように構成されているものとして説明したが、左右方向の回動運動や、回動運動の代わりに上下方向や左右方向の直線往復運動等を採用することも可能である。
【0081】
上記実施形態においては、光源ユニット14からの出射光をリフレクタ14で反射させて投影レンズ12に入射させるように構成されているものとして説明したが、光源ユニット14からの直射光を投影レンズ12に入射させる構成とすることも可能である。
【0082】
上記実施形態においては、車両用灯具10が、左配光のロービーム用配光パターンPLを形成するように構成されているが、右配光のロービーム用配光パターンを形成するように構成されている場合、あるいは上端部に水平カットオフラインのみを有する配光パターンを形成するように構成されている場合においても、上記実施形態と同様の構成を採用することにより同様の作用効果を得ることができる。
【0083】
次に、上記実施形態の変形例について説明する。
【0084】
まず、上記実施形態の第1変形例について説明する。
【0085】
図7は、本変形例に係る車両用灯具の要部を示す、
図3と同様の図である。
【0086】
図7に示すように、本変形例の基本的な構成は上記実施形態の場合と同様であるが、可動シェード120のシェード本体124および偏向レンズ128の構成が上記実施形態の場合と異なっている。
【0087】
図8(a)は、本変形例のシェード本体124を単品で示す斜視図である。
【0088】
これらの図に示すように、本変形例のシェード本体124も、基本的な構成は上記実施形態のシェード本体24と同様であり、その鉛直面部124Aにおける左右方向の中央部には上下方向に延びるスリット124Aaが形成されているが、その形状が上記実施形態の場合と異なっている。
【0089】
すなわち、上記実施形態のシェード本体24においては、スリット24Aaが一定の左右幅で縦長矩形状に形成されているが、本変形例のシェード本体124は、スリット124Aaの下部領域124Aa1が上記実施形態のスリット24Aaよりも広幅で形成されている。
【0090】
具体的には、このシェード本体124のスリット124Aaも、偏向レンズ28の上下幅と略同じ高さで形成されており、光軸Axに対して上方側の領域よりも下方側の領域の方がやや長くなっている。そして、このスリット24Aaの左右幅は、下部領域124Aa1以外の一般領域においては、1〜3mm程度(例えば2mm程度)に設定されているが、下部領域124Aa1においては、4〜6mm程度(例えば5mm程度)に設定されている。その際、下部領域124Aa1の上端縁の位置は、光軸Axよりもやや下方の位置に設定されている。
【0091】
また、
図7に示すように、本変形例の偏向レンズ128は、その基本的な構成は上記実施形態の偏向レンズ28と同様であるが、そのレンズ本体部128Aの鉛直断面形状が上記実施形態の場合と異なっている。
【0092】
すなわち、本変形例の偏向レンズ128も、リフレクタ16からの反射光を一定の角度分だけ下方側へ偏向させるように構成されているが、その際の下方偏向量が上記実施形態の場合よりも多少小さい値に設定されている。具体的には1〜2°程度(例えば1.5°程度)に設定されている。
【0093】
これを実現するため、レンズ本体部128Aは、その前面128Aaが凸曲面状に形成されており、光軸Axよりも下方側の領域が前方へ大きく膨らむ曲面で構成されているが、その膨らみの程度が上記実施形態のレンズ本体部28Aよりも小さいものとなっている。
【0094】
図9(a)は、可動シェード120が遮光位置にあるときに上記仮想鉛直スクリーン上に形成される第2の配光パターンPA3を透視的に示す図である。
【0095】
この第2の配光パターンPA3は、上記実施形態の第2の配光パターンPA2よりもやや上方に変位した位置において、その上部領域PA3aが左右両側に張り出すようにして形成されている。その際、
図6(a)に示す第1の配光パターンPA1に対する第2の配光パターンPA3の下方変位量は1〜2°程度(例えば1.5°程度)であり、第2の配光パターンPA3の左右幅は、上部領域PA3a以外では1〜3°程度(例えば2°程度)であり、上部領域PA3aでは4〜6°程度(例えば5°程度)である。
【0096】
ロービーム用配光パターンPLにおいてこのような第2の配光パターンPA3を形成することにより、上記実施形態の第2の配光パターンPA2と同様、車両前方路面に前方へ向けて直線状に延びる光の帯を路面描画として生成することができ、これにより周囲への注意喚起機能を高めることができる。
【0097】
しかも、この第2の配光パターンPA3は、上記実施形態の第2の配光パターンPA2よりもやや上方に変位しており、かつ、その上部領域PA3aが左右両側に張り出すようにして形成されているので、上記実施形態の場合よりも遠方視認性を高めることができる。
【0098】
例えば、
図6(a)に示すように、対向車2の背後において車両前方路面を横断している歩行者4がいる場合、対向車2のヘッドランプから照射光によって歩行者4を発見しづらくなるが、第2の配光パターンPA3の上部領域PA3aが歩行者4に照射されることによって、歩行者4を発見しやすくなる。また、歩行者4にとっても、自分の体に光が照射されることによって、車両が近づいていることを認識しやすくなる。
【0099】
次に、上記実施形態の第2変形例について説明する。
【0100】
図8(b)は、本変形例のシェード本体224を単品で示す斜視図である。
【0101】
図8(b)に示すように、本変形例の基本的な構成は上記第1変形例の場合と同様であるが、本変形例のシェード本体224においては、その鉛直面部224Aにおける左右方向の中央部に形成されたスリット224Aaの下部領域224Aa1が、上記第1変形例のシェード本体124におけるスリット124Aaの下部領域124Aa1よりもさらに広幅で形成されている。具体的には、この下部領域224Aa1の左右幅は、7〜9mm程度(例えば8mm程度)に設定されている。
【0102】
これにより、
図9(b)に示すように、可動シェード(図示せず)が遮光位置にあるときに上記仮想鉛直スクリーン上に形成される第2の配光パターンPA4は、その上部領域PA4aが、上記第1変形例の第2の配光パターンPA3の上部領域PA3aよりも、さらに大きく左右両側に張り出すようにして形成されている。その際、この第2の配光パターンPA4の上部領域PA4aの左右幅は7〜9°程度(例えば8°程度)である。
【0103】
ロービーム用配光パターンPLにおいてこのような第2の配光パターンPA4を形成することにより、上記第1変形例の場合よりも遠方視認性をさらに高めることができる。
【0104】
次に、上記実施形態の第3変形例について説明する。
【0105】
図10は、本変形例の可動シェード320を示す、
図2の要部と同様の図である。
【0106】
図10に示すように、本変形例の基本的な構成は上記実施形態の場合と同様であるが、本変形例の可動シェード320は、シェードホルダ322が上記実施形態におけるシェードホルダ22の機能とシェード本体24の機能とを兼ね備えている。
【0107】
すなわち、この可動シェード320においては、ダイカスト製のシェードホルダ322の立壁部322Cにスリット322Caが形成されている。
【0108】
このスリット322Caは、上記実施形態のシェード本体24のスリット24Aaと同一の位置に同一の開口形状で形成されている。
【0109】
本変形例の可動シェード320においては、そのシェードホルダ322の立壁部322Cの前面に、偏向レンズ28の後面が接着等によって固定されている。 その際、立壁部322Cの外周縁部には、偏向レンズ28を位置決めするための突起部322Cbが前方へ向けて突出するようにして形成されている。また、立壁部322Cの後面におけるスリット322Caの左右両側の領域は、スリット322Caへ向けて前方側へ傾斜した傾斜面322Ccとして形成されている。これにより、スリット322Caに臨む側端縁の位置における立壁部322Cの肉厚を上記実施形態のシェード本体24の板厚と同程度まで薄くして、リフレクタ(図示せず)からの反射光が不用意に遮光されてしまわないようにしている。
【0110】
本変形例の構成を採用した場合にも上記実施形態の場合と同様の作用効果を得ることができる。
【0111】
また、本変形例の構成を採用することにより、部品点数の削減を図ることができる。
【0112】
なお、上記実施形態およびその変形例において諸元として示した数値は一例にすぎず、これらを適宜異なる値に設定してもよいことはもちろんである。
【0113】
また、本願発明は、上記実施形態およびその変形例に記載された構成に限定されるものではなく、これ以外の種々の変更を加えた構成が採用可能である。