特許第6712380号(P6712380)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6712380水性インクジェットイエローインキ、インキセット、及び、印刷物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6712380
(24)【登録日】2020年6月3日
(45)【発行日】2020年6月24日
(54)【発明の名称】水性インクジェットイエローインキ、インキセット、及び、印刷物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/40 20140101AFI20200615BHJP
   C09D 11/322 20140101ALI20200615BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20200615BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20200615BHJP
【FI】
   C09D11/40
   C09D11/322
   B41M5/00 120
   B41J2/01 501
【請求項の数】10
【全頁数】54
(21)【出願番号】特願2019-227076(P2019-227076)
(22)【出願日】2019年12月17日
【審査請求日】2020年3月23日
(31)【優先権主張番号】特願2018-235199(P2018-235199)
(32)【優先日】2018年12月17日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】依田 純
(72)【発明者】
【氏名】城内 一博
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 紀雄
【審査官】 山本 悦司
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−172180(JP,A)
【文献】 特開2010−235937(JP,A)
【文献】 特開2017−155092(JP,A)
【文献】 特開2007−145887(JP,A)
【文献】 特開2009−167265(JP,A)
【文献】 特開2003−313480(JP,A)
【文献】 特許第6592869(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00−13/00
B41J 2/01
B41M 5/00
C09B 11/12
C09B 19/02
C09B 29/20
C09B 47/04
C09B 57/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性インクジェットイエローインキ、及び、水性インクジェットマゼンタインキを含む、インクジェットインキセットであって、
前記水性インクジェットイエローインキが、下記一般式(1)で表される部分構造を有するイエロー顔料(A)と、有機溶剤と、塩基性有機化合物と、水とを含み、
前記イエロー顔料(A)の含有量が、前記水性インクジェットイエローインキの全量中、1〜10質量%であり、
前記塩基性有機化合物が、25℃におけるpKa値が9.5以下である塩基性有機化合物(B)を、前記水性インクジェットイエローインキの全量中に0.1〜1.25質量%含み、
1気圧下における沸点が240℃以上である有機溶剤の含有量が、前記水性インクジェットイエローインキの全量中、5質量%以下であり、
前記水性インクジェットマゼンタインキが、下記一般式(2)で表される構造を有するマゼンタ顔料と、水とを含み、
前記マゼンタ顔料の含有量が、前記水性インクジェットマゼンタインキの全量中、1〜10質量%である、インクジェットインキセット
一般式(1):
【化1】
(一般式(1)は、少なくとも1つの結合手を有する。
一般式(1)中、X 1 及びX 2 は、ともに=Oであるか、ともに=CR 6 7 であるか、X 1 が=OかつX 2 が=NR 8 であることを表す。
また、R 1 〜R 4 は、それぞれ独立して、水素原子またはハロゲン原子を表し、R 5 は、水素原子または結合手を表し、R 6 〜R 8 は、それぞれ結合手を表す。)
一般式(2):
【化2】
(一般式(2)中、R 9 、R 10 、及びR 11 は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜2のアルキル基、炭素数1〜2のアルコキシ基、アニリド基、カルバモイル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、またはスルホンアミド基のいずれかである。また、R 12 は、水素原子、炭素数1〜2のアルキル基、または下記一般式(3)で表される構造のいずれかである。)
一般式(3):
【化3】
(一般式(3)中、R 13 は、水素原子、塩素原子、臭素原子、炭素数1〜2のアルキル基、炭素数1〜2のアルコキシ基、アミノ基、またはニトロ基のいずれかである。また、R 14 及びR 15 は、それぞれ独立して、水素原子、塩素原子、臭素原子、炭素数1〜2のアルキル基、炭素数1〜2のアルコキシ基、アミノ基、またはニトロ基のいずれかであるか、R 14 とR 15 とが互いに結合し、イミダゾリジノン環を形成している。また、*は結合手を表し、一般式(3)で表される構造は、*の位置にて、前記一般式(2)で表される構造における窒素原子に結合する。)
【請求項2】
前記25℃におけるpKa値が9.5以下である塩基性有機化合物(B)の含有量が、前記水性インクジェットイエローインキの全量中、0.1〜1質量%である、請求項1に記載のインクジェットインキセット
【請求項3】
前記イエロー顔料(A)が、C.I.ピグメントイエロー139、及び/または、C.I.ピグメントイエロー185を含む、請求項1または2に記載のインクジェットインキセット
【請求項4】
前記イエロー顔料(A)に含まれる不純物の含有量が、前記イエロー顔料(A)の全量中、5質量%以下である、請求項1〜3いずれかに記載のインクジェットインキセット
【請求項5】
前記一般式(2)で表される構造を有するマゼンタ顔料が、C.I.ピグメントレッド146、147、150、185、266、及び269からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1〜4いずれかに記載のインクジェットインキセット。
【請求項6】
更に、水性インクジェットシアンインキを含み、
前記水性インクジェットシアンインキが、C.I.ピグメントブルー15:3及び15:6からなる群より選択される少なくとも1種を含む、
請求項1〜5いずれかに記載のインクジェットインキセット。
【請求項7】
更に、水性インクジェットバイオレットインキを含み、
前記水性インクジェットバイオレットインキが、C.I.ピグメントバイオレット3、23、27、及び32からなる群より選択される少なくとも1種を含む、
請求項1〜6いずれかに記載のインクジェットインキセット。
【請求項8】
請求項に記載のインクジェットインキセットであって、他に、水性インクジェット有彩色インキを含まない、インクジェットインキセット。
【請求項9】
請求項に記載のインクジェットインキセットであって、他に、水性インクジェット有彩色インキを含まない、インクジェットインキセット。
【請求項10】
請求項1〜9いずれかに記載のインクジェットインキセットを、インクジェット印刷方式によって、記録媒体上に印刷することを含む、印刷物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、水性インクジェットイエローインキ、前記イエローインキを含むインキセット、及び、印刷物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷方式とは、記録媒体に対してインクジェットヘッドからインキの微小液滴を飛翔及び着弾させて、前記記録媒体上に画像及び/または文字を形成する方式であり、版を必要としないことを特徴とする。版を必要としない他の印刷方式である電子写真方式と比べ、インクジェット印刷方式は、装置自体の価格、印刷時のランニングコスト、装置サイズ、及び高速印刷特性等の面で優れている。デジタル印刷の普及及び用途拡大の中で、インクジェット印刷方式は今後の成長が見込まれている。
【0003】
インクジェット印刷方式に使用されるインキとしては、油系、溶剤系、活性エネルギー線硬化系、及び水系など多岐の種類に渡る。近年では、紙基材だけでなくプラスチックまたはガラス等の非吸収性基材にも適用できる点、印刷物の耐性に優れる点、並びに、高速印刷を実現できる点等の利点から、活性エネルギー線硬化型インクジェット印刷方式の普及が進んでいる。しかし、近年、環境及び人に対する有害性への配慮と対応といった点から、溶剤及びモノマーに対する使用規制が進められており、水性インキへの置き換えが要望され、需要が高まっている。
【0004】
また近年、インクジェットヘッド性能の著しい向上に伴い、従来、オフセット印刷方式等の版を使用する印刷方式が用いられていた、既存の印刷市場へのインクジェット印刷方式の展開が期待されている。既存の印刷市場では、記録物(印刷物)の生産性と色再現性が非常に重要となる。特に、従来のオフセット印刷方式では多くの特色インキが使用され、色再現領域に優れる印刷物が作製されていることから、既存の印刷市場におけるインクジェット印刷方式の実用化を達成するには、優れた色再現性を実現することが重要となる。また、得られる印刷物には、保存中に変色及び退色しないことが求められるうえ、長期保存したインクジェットインキが、初期と同等の色再現性を有することも必要となる。
【0005】
従来、水性インキを用いたインクジェット印刷では、着色剤として水性染料が使用されてきた。しかし、水性染料を使用した水性インキは、耐候性及び耐水性等の特性に劣る欠点があったため、近年では、前記水性染料に替わり、顔料を使用したインキの検討が行われている。実際に、広告看板市場における大判プリンターを始めとして、顔料を使用した水性インキを搭載したインクジェットプリンターの実用化が進んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−24072号公報
【特許文献2】特開2015−93950号公報
【特許文献3】特開2008−291103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方で、使用する着色剤、特にプロセスカラーであるイエロー、シアン、及びマゼンタの3色が、どの程度の色再現ポテンシャルを持つかによって、色再現領域は大きく変化する。特許文献1に記載されているように、色再現性向上の達成のため、特色インキを使用することも可能ではあるが、インクジェットプリンターのコストを抑え小型化する観点から言えば好ましい方策とは言えない。したがって、上記3色の顔料の選定が非常に重要となる。
【0008】
例えば、特許文献2及び3では、イエロー顔料として、C.I.ピグメントイエロー180及び213が使用されている。しかしながら、前記顔料を使用したイエローインキは、着色力が弱く、また、色再現性に優れた印刷物を得ることが難しい。特許文献3に記載されているように、イエローインキ中の顔料濃度を上げることで、色再現性の多少の改善は可能であるものの、顔料濃度の増加は、保存安定性及び分散安定性に悪影響を及ぼし、また、長期でのインクジェット印刷安定性の低下が容易に推測される。特に、近年、産業用途において急速に普及しているシングルパス印刷方式では、高速かつ長時間の印刷でも、ノズル抜け(ノズルからインキが吐出されない現象)及び飛行曲がりが発生しないことが要求されることから、顔料の高濃度化による色再現性の向上は好ましい方策ではない。
【0009】
一方、今後のインクジェット印刷の用途拡大を達成するためには、商業印刷用途等の既存の印刷市場での用途に加えて、ダンボール、紙器パッケージ、及びラベルといったパッケージ市場への用途展開が必須となる。パッケージ市場では、画像濃度及び耐光性の高い印刷物が求められ、特に、販売促進用デザイン、企業のコーポレートカラー、新興国のナショナルカラー等として、耐光性の高いレッド色が求められることが多い。一般にレッド色は、イエロー色とマゼンタ色との重ね合わせによって形成されるが、上記様々な要望に応えるべく、レッド領域の色再現性を高めるためには、ベースとなるイエローインキの色再現性及び画像濃度の向上は必須不可欠である。更に上記の通り、インクジェットヘッドノズルから安定した吐出を実現するためには、インキ中の顔料濃度を一定量以下に抑える必要があり、そのような条件下でもレッド領域の色再現性及び画像濃度の向上を実現できる顔料が必要となる。
【0010】
本発明は上記課題を解決すべくなされたものである。本発明の目的は、色再現性及び耐光性に優れ、また経時で変色及び退色を起こすことがない印刷物を得ることができ、更に保存安定性及び分散安定性に優れた水性インクジェットイエローインキを提供することにある。また本発明の別の目的は、上記に加えて、画像濃度にも優れた印刷物が得られる、水性インクジェットイエローインキを提供することにある。また本発明の別の目的は、特にレッド領域の色再現性及び耐光性のバランスに優れた印刷物が得られる、水性インクジェットイエローインキと水性インクジェットマゼンタインキとを含むインキセット、並びに、前記インキセットを用いた印刷物の製造方法を提供することにある。また本発明の別の目的は、レッド領域及びグリーン領域の色再現性に優れた印刷物が得られる、水性インクジェットイエローインキ、水性インクジェットマゼンタインキ、及び、水性インクジェットシアンインキまたは水性インクジェットバイオレットインキを含むインキセット、並びに、前記インキセットを用いた印刷物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は今般、カラーインクジェット印刷方式において、特定の構造を有するイエロー顔料を、特定のpKa値を有する塩基性有機化合物と組み合わせて水性インクジェットイエローインキとして使用し、更にインキ中に含まれる有機溶剤の沸点を規定することで、上記目的を達成できるとの知見を得た。また、上記の水性インクジェットイエローインキを、水性インクジェットマゼンタインキと組み合わせて用いることで、特にレッド領域の高演色化を実現した印刷物が得られるとの知見を得た。更に、上記の水性インクジェットイエローインキを、水性インクジェットマゼンタインキ、及び、特定の水性インクジェットシアンインキまたは特定の水性インクジェットバイオレットインキと組み合わせて用いることで、特にレッド領域及びグリーン領域の高演色化を実現した印刷物が得られるとの知見を得た。
【0012】
すなわち本発明のある実施形態は、水性インクジェットイエローインキ、及び、水性インクジェットマゼンタインキを含む、インクジェットインキセットであって、
前記水性インクジェットイエローインキが、下記一般式(1)で表される部分構造を有するイエロー顔料(A)と、有機溶剤と、塩基性有機化合物と、水とを含み、
前記イエロー顔料(A)の含有量が、前記水性インクジェットイエローインキの全量中、1〜10質量%であり、
前記塩基性有機化合物が、25℃におけるpKa値が9.5以下である塩基性有機化合物(B)を、前記水性インクジェットイエローインキの全量中に0.1〜1.25質量%含み、
1気圧下における沸点が240℃以上である有機溶剤の含有量が、前記水性インクジェットイエローインキの全量中、5質量%以下であり、
前記水性インクジェットマゼンタインキが、下記一般式(2)で表される構造を有するマゼンタ顔料と、水とを含み、
前記マゼンタ顔料の含有量が、前記水性インクジェットマゼンタインキの全量中、1〜10質量%である、インクジェットインキセットに関する。
一般式(1):
【化1】
(一般式(1)は、少なくとも1つの結合手を有する。
一般式(1)中、X 1 及びX 2 は、ともに=Oであるか、ともに=CR 6 7 であるか、X 1 が=OかつX 2 が=NR 8 であることを表す。
また、R 1 〜R 4 は、それぞれ独立して、水素原子またはハロゲン原子を表し、R 5は、水素原子または結合手を表し、R 6 〜R 8 は、それぞれ結合手を表す。)
一般式(2):
【化2】
(一般式(2)中、R 9 、R 10 、及びR 11 は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜2のアルキル基、炭素数1〜2のアルコキシ基、アニリド基、カルバモイル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、またはスルホンアミド基のいずれかである。また、R 12 は、水素原子、炭素数1〜2のアルキル基、または下記一般式(3)で表される構造のいずれかである。)
一般式(3):
【化3】
(一般式(3)中、R 13 は、水素原子、塩素原子、臭素原子、炭素数1〜2のアルキル基、炭素数1〜2のアルコキシ基、アミノ基、またはニトロ基のいずれかである。また、R 14 及びR 15 は、それぞれ独立して、水素原子、塩素原子、臭素原子、炭素数1〜2のアルキル基、炭素数1〜2のアルコキシ基、アミノ基、またはニトロ基のいずれかであるか、R 14 とR 15 とが互いに結合し、イミダゾリジノン環を形成している。また、*は結合手を表し、一般式(3)で表される構造は、*の位置にて、前記一般式(2)で表される構造における窒素原子に結合する。)
【0013】
また本発明のある実施形態は、前記25℃におけるpKa値が9.5以下である塩基性有機化合物(B)の含有量が、前記水性インクジェットイエローインキの全量中、0.1〜1質量%である、上記インクジェットインキセットに関する。
【0014】
また本発明のある実施形態は、前記イエロー顔料(A)が、C.I.ピグメントイエロー139、及び/または、C.I.ピグメントイエロー185を含む、上記いずれかのインクジェットインキセットに関する。
【0015】
また本発明のある実施形態は、前記イエロー顔料(A)に含まれる不純物の含有量が、前記イエロー顔料(A)の全量中、5質量%以下である、上記いずれかのインクジェットインキセットに関する。
【0018】
また本発明のある実施形態は、前記一般式(2)で表される構造を有するマゼンタ顔料が、C.I.ピグメントレッド146、147、150、185、266、及び269からなる群より選択される少なくとも1種を含む、上記いずれかのインクジェットインキセットに関する。
【0019】
また本発明のある実施形態は、更に、水性インクジェットシアンインキを含み、
前記水性インクジェットシアンインキが、C.I.ピグメントブルー15:3及び15:6からなる群より選択される少なくとも1種を含む、
上記いずれかのインクジェットインキセットに関する。
【0020】
また本発明のある実施形態は、更に、水性インクジェットバイオレットインキを含み、
前記水性インクジェットバイオレットインキが、C.I.ピグメントバイオレット3、23、27、及び32からなる群より選択される少なくとも1種を含む、上記いずれかのインクジェットインキセットに関する。
【0021】
また本発明のある実施形態は、上記いずれかの水性インクジェットイエローインキ、前記水性インクジェットマゼンタインキ、及び、前記水性インクジェットシアンインキを含み、他に、水性インクジェット有彩色インキを含まない、インクジェットインキセットに関する。
【0022】
また本発明のある実施形態は、上記いずれかの水性インクジェットイエローインキ、前記水性インクジェットマゼンタインキ、及び、前記水性インクジェットバイオレットインキを含み、他に、水性インクジェット有彩色インキを含まない、インクジェットインキセットに関する。
【0023】
また本発明のある実施形態は、上記いずれかの水性インクジェットイエローインキ、前記水性インクジェットマゼンタインキ、前記水性インクジェットシアンインキ、及び前記水性インクジェットバイオレットインキを含み、他に、水性インクジェット有彩色インキを含まない、インクジェットインキセットに関する。
【0024】
また本発明のある実施形態は、上記いずれかのインクジェットインキセットを、インクジェット印刷方式によって、記録媒体上に印刷することを含む、印刷物の製造方法に関する。



【発明の効果】
【0025】
本発明のある実施形態によって、色再現性及び耐光性に優れ、また経時で変色及び退色を起こすことがない印刷物を得ることができ、更に保存安定性及び分散安定性に優れた水性インクジェットイエローインキを提供することが可能となる。また、本発明のある実施形態によって、上記に加えて、画像濃度にも優れた印刷物が得られる、水性インクジェットイエローインキを提供することが可能となる。また、本発明のある実施形態によって、特にレッド領域の色再現性及び耐光性のバランスに優れた印刷物が得られる、水性インクジェットイエローインキと水性インクジェットマゼンタインキとを含むインキセット、並びに、前記インキセットを用いた印刷物の製造方法を提供することが可能となる。また、本発明のある実施形態によって、レッド領域及びグリーン領域の色再現性に優れた印刷物が得られる、水性インクジェットイエローインキ、水性インクジェットマゼンタインキ、及び、水性インクジェットシアンインキまたは水性インクジェットバイオレットインキを含むインキセット、並びに、前記インキセットを用いた印刷物の製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の例を説明するものである。また本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される変形例も含まれる。なお、特にことわりのない限り、「部」「%」は、「質量部」「質量%」を表す。本明細書においては、本発明の実施形態である水性インクジェットイエローインキを、単に「イエローインキ」という場合がある。
【0027】
<水性インクジェットイエローインキ>
本発明の実施形態であるイエローインキは、一般式(1)で表される部分構造を有するイエロー顔料(A)をイエローインキ全量中に1〜10質量%と、25℃におけるpKa値が9.5以下である塩基性有機化合物(B)をイエローインキ全量中に0.1〜1.25質量%含む。更に、1気圧下における沸点が240℃以上である有機溶剤の含有量がイエローインキ全量中、5質量%以下(0質量%でもよい)である。
【0028】
従来使用されているイエロー顔料を用いてインキを作製した場合、色再現性、及び、耐光性のどちらかを満足する印刷物を得ることはできるものの、その全てを満たすことは難しい状況であった。例えば、一般的に着色力の強い顔料として知られるC.I.ピグメントイエロー12または14(不溶性モノアゾ系顔料)のみを使用した場合は、耐光性に劣る印刷物となってしまう。またC.I.ピグメントイエロー213(キノキサリン系顔料)のみを使用した場合は、色再現性に劣る印刷物となってしまう。
【0029】
また仮に、上記特性を共に満たす印刷物が得られたとしても、長期に渡って前記特性を維持することは難しい状況であった。その要因として、一般にイエロー顔料は水性媒体中で安定的に分散させることが難しく、保存安定性(粘度安定性)及び分散安定性に優れたインキが得られにくいことがある。例えば、不溶性モノアゾ系顔料であるC.I.ピグメントイエロー74は、色再現性及び耐光性は良好であるが、前記顔料の耐溶剤性の悪さに起因して、インキの保存安定性が悪く、その結果、長期保存後のインキを使用すると、色再現性に劣った印刷物が得られてしまう。
【0030】
なお、本明細書において「水性媒体」とは、少なくとも水を含む液体からなる媒体を意味する。
【0031】
そこで本発明の実施形態では、特定の部分構造を有するイエロー顔料を一定量使用するとともに、特定のpKa値を有する塩基性有機化合物と併用し、更に、併用する有機溶剤の沸点を特定することによって、上記特性の両立を図っている。
【0032】
以下、本発明に関する構成要素について、詳細に説明する。
【0033】
<イエロー顔料(A)>
イエローインキは、下記一般式(1)で表される部分構造を有するイエロー顔料(A)を、イエローインキ全量中に1〜10質量%含む。
【0034】
一般式(1):
【化4】
【0035】
一般式(1)は、少なくとも1つの結合手を有する。
一般式(1)中、X 1 及びX 2 は、ともに=Oであるか、ともに=CR 6 7 であるか、X 1 が=OかつX 2 が=NR 8 であることを表す。
また、R 1 〜R 4 は、それぞれ独立して、水素原子またはハロゲン原子を表し、R 5 は、水素原子または結合手を表し、R 6 〜R 8 は、それぞれ結合手を表す。
【0036】
上記一般式(1)で表される部分構造として、フタルイミド(一般式(1)において、X 1 及びX 2 がともに=Oである場合。例えば、C.I.ピグメントイエロー138が挙げられる。)、イソインドリノン(一般式(1)において、X 1 が=OかつX 2 が=NR 8 である場合。例えば、C.I.ピグメントイエロー109及び110が挙げられる。)、イソインドリン(一般式(1)において、X 1 及びX 2 が、ともに=CR 6 7 である場合。例えば、C.I.ピグメントイエロー139及び185が挙げられる。)等がある。イエローインキは、上記の顔料を、1種類のみ含んでもよいし、2種類以上を併用してもよい。また2種類以上を併用する際は、混晶状態になっているものを使用してもよい。
【0037】
上記で例示した顔料のうち、耐光性及び色再現性に優れる観点から、イソインドリノン系イエロー顔料として知られる、C.I.ピグメントイエロー109及び110、並びに、イソインドリン系イエロー顔料として知られる、C.I.ピグメントイエロー139及び185から選択される1種以上が好ましく選択される。特に、優れた着色力を有しており、少量の添加であっても画像濃度に優れた印刷物が得られる観点から、イソインドリン系イエロー顔料である、C.I.ピグメントイエロー139及び185から選択される1種以上を使用することが特に好ましい。
【0038】
イエロー顔料(A)を使用する場合は、顔料中の不純物量に注意することが好適である。不純物が多く存在すると、インキを製造する際の顔料分散工程において、泡立ち、及び/または、顔料と顔料分散樹脂(後述)との吸着阻害の原因となり得るため、印刷物の優れた画像濃度及び色再現性と、インキの良好な保存安定性及び分散安定性とを両立することが難しい場合がある。以上の観点から、イエロー顔料(A)中に存在する不純物量は、イエロー顔料(A)全量中、5質量%以下であることが好ましく、4質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることが特に好ましい。不純物量は、0質量%でもよい。
【0039】
なお、本明細書において、イエロー顔料(A)中の不純物量は、後述する実施例に記載の方法により測定できる。
【0040】
特に、前記不純物の中でも、ナトリウムイオン及びカルシウムイオンといったアルカリ金属イオン及びアルカリ土類金属イオンは、水性媒体中に速やかに溶解(電離)し、任意に移動及び拡散できるため、上記の吸着阻害を引き起こすばかりでなく、吐出時にインクジェットヘッドノズル詰まりを引き起こす要因ともなり得る。したがって、ナトリウムイオン及びカルシウムイオンの含有量はできるだけ低減させることが好ましい。具体的には、前記イエロー顔料(A)に含まれる、ナトリウムイオン量とカルシウムイオン量の含有量が、それぞれ80ppm以下である(0ppmでもよい)ことが好ましく、50ppm以下である(0ppmでもよい)ことがより好ましく、20ppm以下である(0ppmでもよい)ことが更に好ましい。
【0041】
なお、イエロー顔料(A)中に存在する不純物を低減させる方法として、合成後の前記イエロー顔料(A)を、水及び/または有機溶剤で洗浄する手法がある。特に、水を用いた洗浄工程と、有機溶剤を用いた洗浄工程とを、それぞれ1回以上、実施することが好ましい。また前記水として、純水またはイオン交換水を使用することが好適である。
【0042】
イエローインキに含まれるイエロー顔料(A)の総量は、イエローインキ全量中、1〜10質量%であり、1.5〜9.5質量%であることがより好ましい。また、前記イエローインキの保存安定性及び分散安定性、並びに、インクジェットヘッドからの吐出安定性を考慮すると、2〜8質量%であることが特に好ましく、3〜5.5質量%であることが最も好ましい。
【0043】
<塩基性有機化合物(B)>
イエローインキは、塩基性有機化合物を含有する。塩基性有機化合物は、25℃におけるpKa値が9.5以下である塩基性有機化合物(B)をイエローインキ全量中、0.1〜1.25質量%含み、好ましくは0.1〜1.0質量%含む。塩基性有機化合物は、pKa値が9.5超である塩基性有機化合物を含んでもよい。
【0044】
一般に水性インキは、顔料粒子間に発生する電荷反発により、前記顔料の分散状態が維持され、保存安定性及び分散安定性を確保している。特にインクジェット用途である場合、インクジェットヘッドノズルを長期に渡って詰まらせることなく、水性インキを安定して吐出させるため、顔料の分散状態の長期維持は極めて重要である。
前記長期維持を実現する方法として、塩基性材料を添加して、インキのpHを7以上に調整する手法がある。pHを塩基性側で維持することで、顔料表面を覆う電気二重層内のイオン濃度を上げ、電気二重層斥力を高めて、顔料粒子間に大きな反発力を生じさせることができる。
【0045】
しかしながら、上記で説明したイエロー顔料(A)、中でも、本発明の実施形態において特に好適に使用されるイソインドリン系顔料は、塩基性材料に対する耐性が弱いことが知られている。併用の仕方によっては、印刷物中のイエロー顔料(A)が経時で分解し、変色及び/または退色が発生する恐れがある。
【0046】
上記課題の解決のため、本発明者らが鋭意検討を進めた結果、塩基性材料として、前記pKa値が9.5以下である塩基性有機化合物(B)を用いることにより、印刷物の優れた色再現性並びに経時での退色及び変色の防止と、インキの良好な保存安定性及び分散安定性とを両立できることを見出した。詳細な要因は不明であるが、酸解離定数(pKa値)が適度に小さいこと、及び、有機化合物であることが、イエロー顔料(A)に対するダメージを抑制しているものと考えられる。
【0047】
上記観点より、塩基性有機化合物(B)のpKa値は、好ましくは8.5以下である。pKa値の小さい化合物を使用することで、添加量に対するインキの過剰なpH変動を抑えることができ、経時での印刷物の退色及び変色の防止と、保存安定性及び分散安定性の確保とが両立しやすい。塩基性有機化合物(B)のpKa値の下限は、特に限定されない。例えば、pKa値は、3以上であり、好ましくは4.5以上、より好ましくは6.5以上である。
【0048】
塩基性有機化合物(B)の具体例としては、ジエタノールアミン(pKa=8.9)、メチルジエタノールアミン(pKa=8.5)、トリエタノールアミン(pKa=7.8)、1−アミノ−2−プロパノール(pKa=9.4)、ジイソプロパノールアミン(pKa=9.0)、トリイソプロパノールアミン(pKa=8.0)、トリスヒドロキシメチルアミノメタン(pKa=8.1)、イミダゾール(pKa=7.0)、及びアニリン(pKa=4.6)が挙げられる。上記の中でも、水性媒体に対する溶解度が高い点、及び、人体に対する安全性の点等から、塩基性有機化合物(B)は、アミノアルコール類(アルカノールアミン類)を含むことが好ましく、pKa値の小さいトリエタノールアミンを含むことが特に好ましい。なお上記の化合物は1種のみ使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合の例として、pKa値が8.5以下の塩基性有機化合物と、pKaが8.5超の塩基性有機化合物とを含む塩基性有機化合物(B);トリエタノールアミンと、トリエタノールアミン以外の塩基性有機化合物とを含む塩基性有機化合物(B)、などが挙げられる。
【0049】
なお、本明細書において、pKaは既知の方法、例えば、京都電子工業社製電位差自動滴定装置AT−710Sを用い、水を溶媒とした電位差滴定法によって、25℃環境下で測定できる。
【0050】
いくつかの実施形態において、イエローインキ中に含まれる塩基性有機化合物(B)の分子量は、500以下であることが好ましく、300以下であることがより好ましく、200以下であることが特に好ましい。また前記分子量は、50以上であることが好ましく、75以上であることがより好ましく、100以上であることが特に好ましい。上記分子量を有する塩基性有機化合物(B)を使用することで、印刷時の塩基性有機化合物(B)の過乾燥及び残存を防止でき、印刷物の色再現性及び乾燥性に優れたインキを得ることが可能となる。また詳細は不明ながら、上記分子量を有する塩基性有機化合物(B)は、イエロー顔料(A)に与えるダメージが小さく、インキの保存安定性及び分散安定性を向上させることも可能となる。
【0051】
イエローインキ中の、塩基性有機化合物(B)の含有量は、イエローインキ全量中、0.1〜1.25質量%である。0.1質量%以上であれば、長期での保存安定性の確保が容易となるうえ、インクジェットヘッドノズル上で水が揮発した際であっても、イエロー顔料(A)の分散状態が破壊されることがなくなるため、ノズル抜け等の発生による印刷物の品質の低下を防止できる。また1.25質量%以下の添加とすることで、経時での印刷物の退色及び変色を防止できる。また塩基性有機化合物(B)として使用する材料によっては、高沸点の化合物も存在するため、含有量を1.25質量%以下とすることで、インキの乾燥性が悪化することがなくなり、印刷物の製造速度を低下させる必要がなくなる。また、上記効果をより好適に発現させる観点から、いくつかの実施形態において、塩基性有機化合物(B)の含有量は、イエローインキ全量中、0.1〜1.0質量%であることが好ましい。
【0052】
なお、後述するpH調整剤及び/または界面活性剤などの任意の成分についても、前記pKaを満たす塩基性有機化合物に該当するのであれば、塩基性有機化合物(B)に含まれるものとする。また、イエローインキが、任意の成分として、酸基を有する「顔料分散樹脂及び/またはバインダー樹脂」を含有し、かつ、酸基を有する「顔料分散樹脂及び/またはバインダー樹脂」として、前記pKaを満たす塩基性有機化合物により中和された「顔料分散樹脂及び/またはバインダー樹脂」が用いられた場合は、中和に使用された前記pKaを満たす塩基性有機化合物(以下、「塩基性有機化合物(b2)」という場合がある。)も、塩基性有機化合物(B)に含まれるものとする。
ただし一般に、塩基性有機化合物(b2)は、前記酸基を有する「顔料分散樹脂及び/またはバインダー樹脂」と分子間相互作用を形成すると考えられる。したがって、いくつかの実施形態では、イエローインキ中に含まれる塩基性有機化合物(B)の全量から、塩基性有機化合物(b2)の量を差し引いた量が、0.1〜1.0質量%であることが好ましい。以下、塩基性有機化合物(b2)以外の塩基性有機化合物(B)を、塩基性有機化合物(b1)という場合がある。
【0053】
塩基性有機化合物(b1)と塩基性有機化合物(b2)とは、同じ化合物であっても、互いに異なる化合物であってもよい。同じ化合物である場合、塩基性有機化合物(b1)と塩基性有機化合物(b2)とは、アミノアルコール類(アルカノールアミン類)であることが好ましく、トリエタノールアミンであることがより好ましい。異なる化合物である場合、塩基性有機化合物(b1)と塩基性有機化合物(b2)の組み合わせとして、例えば、pKa値が8.5以下の塩基性有機化合物と、pKaが8.5超の塩基性有機化合物;トリエタノールアミンと、トリエタノールアミン以外の塩基性有機化合物、などが挙げられる。
【0054】
塩基性有機化合物は、pKa値が9.5超である塩基性有機化合物を含有してもよい。塩基性有機化合物がpKa値が9.5超である塩基性有機化合物を含有する場合、pKa値が9.5超である塩基性有機化合物の含有量は、イエローインキの全量中、0質量%超0.5質量%以下であることが好ましく、0質量%超0.25質量%以下であることがより好ましい。塩基性有機化合物の合計の含有量(塩基性有機化合物(B)とpKa値が9.5超である塩基性有機化合物との合計の含有量)は、イエローインキの全量中、0.1〜2.0質量%であることが好ましく、0.1〜1.5質量%であることがより好ましく、0.1〜1.25質量%であることが更に好ましい。具体例として、イエローインキの全量中、塩基性有機化合物(B)の含有量が0.1〜1.0質量%であり、かつ、塩基性有機化合物の合計の含有量(塩基性有機化合物(B)とpKa値が9.5超である塩基性有機化合物との合計の含有量)が1.5質量%以下であるイエローインキが挙げられる。
【0055】
<沸点240℃以上の有機溶剤>
イエローインキは、1気圧下における沸点が240℃以上である有機溶剤(以下、「高沸点有機溶剤」ともいう)の含有量が、イエローインキ全量中、5質量%以下(0質量%であってもよい)である。
【0056】
高沸点有機溶剤が過剰に存在するインキでは、印刷後の印刷物中に前記高沸点有機溶剤が残存しやすくなる。また一般に、高沸点有機溶剤は吸湿性が高いため、印刷物を長期に渡って保存した場合、前記高沸点有機溶剤が大気中の水分を吸収してしまう恐れがある。ここで、使用する塩基性有機化合物(B)の沸点が高い場合、印刷物内に前記塩基性有機化合物(B)もまた一部が残存すると考えられる。その場合、高沸点有機溶剤が吸収した水分中に前記塩基性有機化合物(B)が溶出し、印刷物内に拡散し、イエロー顔料(A)にダメージを与えることが考えられる。そして以上の結果として、高沸点有機溶剤が過剰に存在するインキを使用して製造した印刷物では、経時で退色及び変色が発生する恐れがある。そこで本発明の実施形態では、イエローインキ中の前記高沸点有機溶剤の含有量を一定量以下とすることで、前記現象の抑制を図っている。
【0057】
上記観点より、高沸点有機溶剤の含有量は少ないほどよく、例えば、イエローインキ全量中、3質量%以下であることがより好ましく、1.5質量%以下であることが特に好ましい。
【0058】
なお、本明細書において、1気圧下での沸点は、DSC(示差走査熱量分析)などの熱分析装置を用いることにより測定することができる。
【0059】
<水溶性有機溶剤>
有機溶剤は、水溶性有機溶剤であることが好ましい。なかでも、25℃での表面張力が20〜35mN/mである有機溶剤を好ましく使用できる。イエローインキの静的表面張力を低下させることが可能となり、記録媒体に対する濡れ性及び浸透性が良化するため、画像濃度、色再現性、及びその他の画像品質に優れた印刷物が得られ、更にはインキの乾燥性もまた改善できるためである。なお表面張力は、日本化学会編「化学便覧 基礎編 改訂5版」(丸善出版、2004年)に記載されており、参照できる。また、協和界面科学社製CBVP−Z表面張力計を用い、Wilhelmy法(プレート法、垂直板法)により測定してもよい。
【0060】
また、水溶性有機溶剤の25℃での粘度は、1〜20mPa・sであることが好ましい。なお粘度は、例えば東機産業製TVE−25L(コーンプレートタイプE型粘度計)により測定できる。
【0061】
上記の特性を有する溶剤として、脂肪族ポリオール類を使用することが好ましい。そのなかでも、1気圧下での沸点が180℃以上250℃以下であるものを選択することが好ましく、沸点が180℃以上240℃未満のものを選択することがより好ましい。上記の沸点範囲を満たす脂肪族ポリオールを用いることにより、記録媒体の種類の影響を受けずに、イエローインキの濡れ性、浸透性、及び乾燥性を容易に制御することが可能となるためである。またこれにより、インクジェットヘッドノズル上での保湿性を維持しつつ、様々な記録媒体に対して、乾燥装置を大型化せずとも、画像濃度、色再現性、及びその他の画像品質に優れた画像を作製することが可能となる。
なお1気圧下での沸点は、例えば熱分析装置を用いて測定することができる。また、後述する界面活性剤は、脂肪族ポリオール類には含めないものとする。
【0062】
上記沸点が180〜250℃の脂肪族ポリオールとしては、以下に限定されないが、例えば、1,2−プロパンジオール(プロピレングリコール、沸点188℃)、1,2−ブタンジオール(沸点194℃)、1,2−エタンジオール(エチレングリコール、沸点197℃)、2−メチルペンタン−2,4−ジオール(沸点197℃)、3−メチル−1,3−ブタンジオール(沸点203℃)、1,3−ブタンジオール(ブチレングリコール、沸点207℃)、1,2−ペンタンジオール(沸点210℃)、1,3−プロパンジオール(沸点210℃)、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(沸点210℃)、2−メチル−1,3−プロパンジオール(沸点214℃)、1−プロペン−1,3−ジオール(沸点214℃)、1,2−ヘキサンジオール(沸点223℃)、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール(沸点226℃)、1,4−ブタンジオール(沸点230℃)、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール(沸点230℃)、ジプロピレングリコール(沸点232℃)、2−ブテン−1,4−ジオール(沸点235℃)、1,5−ペンタンジオール(沸点242℃)、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール(沸点244℃)、ジエチレングリコール(沸点245℃)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール(沸点249℃)、及び1,6−ヘキサンジオール(沸点250℃)が挙げられる。
【0063】
好ましくは、イエローインキには、上記の脂肪族ポリオールが2種以上含まれ、且つ脂肪族ポリオールの合計含有量としてはイエローインキ全量中10〜30質量%の範囲である。脂肪族ポリオールを2種以上、上記の含有量の範囲内で使用することで、記録媒体に対する濡れ性、浸透性、及び乾燥性を容易に制御することが可能となる。結果として、吸収層を有する基材及び難吸収性基材のどちらに対しても、画像濃度、色再現性、及びその他の画像品質に優れた印刷物を得ることができる。
【0064】
特に前記2種以上含有されている脂肪族ポリオールのうち、少なくとも1種がアルカンジオールであることが好ましく、イエローインキ中に含まれる脂肪族ポリオールの全てがアルカンジオールであることがより好ましい。理由としては、産業用途の印刷物に用いられる記録媒体として一般的に挙げられるコート紙、アート紙、またはポリ塩化ビニルシートなど疎水性の高い難浸透性基材上でのイエローインキの濡れ性を高め、前記基材に対しても画像濃度、色再現性、及びその他の画像品質に優れた印刷物が得られるためである。
【0065】
上記で例示した脂肪族ポリオールのなかでも、1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,2−エタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、及び1,6−ヘキサンジオールからなる群から選択される少なくとも1種が、保湿性及び乾燥性の観点から好ましく使用される。また理由は定かではないが、これらの溶剤は、イエロー顔料(A)の分散状態に悪影響を及ぼしにくく、結果としてイエローインキの保存安定性を良好なものとすることができる点からも、好ましく選択される。
【0066】
最も好ましくは、水溶性有機溶剤として、1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、及び1,2−ヘキサンジオールからなる群より選択される2種以上を含み、且つその合計含有量がイエローインキ全量中10〜30質量%であるイエローインキである。前記条件を満たすイエローインキは、使用する記録媒体によらず、画像濃度、色再現性、及びその他の画像品質に優れた印刷物が得られ、また保存安定性にも優れたものとなる。
【0067】
また、その他の有機溶剤もイエローインキの保湿性及び記録媒体への浸透性を調整するために併用することができる。その他の有機溶剤としては、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノペンチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールモノアルキルエーテル類;ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、トリエチレングリコールメチルエチルエーテル、テトラエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、テトラエチレングリコールブチルメチルエーテル等のグリコールジアルキルエーテル類;並びに、2−ピロリドン、N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン、N−メチルオキサゾリジノン、N−エチルオキサゾリジノン、γ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトン等の複素環化合物が挙げられる。これらの溶剤は単独で使用してもよく、複数を混合して使用することもできる。
【0068】
<イエロー顔料(A)以外の顔料>
イエローインキは、好適な画像濃度及び色再現性を有する印刷物とするため、イエロー顔料(A)以外の顔料を併用してもよい。ただしその場合、使用する顔料全量に対する、イエロー顔料(A)の含有量は、50質量%以上であることが好ましい。より好ましくは70質量%以上であり、更に好ましくは90質量%以上であり、特に好ましくは95質量%以上である。使用する顔料全量に対する、イエロー顔料(A)の含有量は、100質量%であってもよい。
【0069】
本発明の実施形態で使用することができる、イエロー顔料(A)以外の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー1、2、3、10、11、12、13、14、17、20、24、74、83、86、93、94、95、117、120、125、128、137、147、148、150、151、154、155、166、168、180、213等が挙げられる。なかでも、C.I.ピグメントイエロー12、13、14、74、83、120、150、151、154、155、180、及び213からなる群から選択される1種または2種以上を含むことが好ましい。
【0070】
なお上記の顔料は、1種類のみ使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。また2種類以上を併用する際は、混晶状態になっているものを使用してもよい。更に、混晶状態になっていない、すなわち、それぞれが異なる結晶構造を有する2種類以上の顔料を用いる場合、後述の方法等により、始めから前記2種類以上の顔料を混在させて分散させてもよいし、別々に分散した顔料分散体同士を後から混合してもよい。
【0071】
印刷物の色再現性、並びに、インキの保存安定性及び分散安定性の観点から、イエローインキに含まれる顔料の総量は、イエローインキ全量中、1〜10質量%であることが好ましく、1.5〜9.5質量%であることがより好ましい。
【0072】
<顔料分散樹脂>
本発明の実施形態において、顔料を、インクジェットインキ中で安定的に分散保持する方法として、水溶性の樹脂を顔料表面に吸着させ分散する方法;水溶性及び/または水分散性の界面活性剤を顔料表面に吸着させ分散する方法;顔料表面に親水性官能基を化学的及び/または物理的に導入し、分散剤及び界面活性剤なしでインキ中に分散する方法;水不溶性の樹脂で顔料を被覆しマイクロカプセル化する方法等を挙げることができる。
【0073】
上記の分散方法のなかでも、樹脂(本明細書では「顔料分散樹脂」ともいう。)で分散する方法が好ましく、特に水溶性の樹脂で分散する方法を用いることがより好ましい。樹脂を形成するモノマー組成及び/または分子量を選定及び検討することにより、顔料に対する樹脂吸着能を容易に上げることができるうえ、微細な顔料に対しても分散安定性を付与することが可能となることにより、発色性及び色再現性に優れたイエローインキを提供することが可能となるためである。
【0074】
顔料分散樹脂の種類としては特に制限はないが、例えば、(メタ)アクリル樹脂、スチレン(メタ)アクリル樹脂、マレイン酸樹脂、スチレンマレイン酸樹脂、ウレタン樹脂、エステル樹脂、アミド樹脂、イミド樹脂等が挙げられる。中でも、イエローインキの保存安定性及び分散安定性の面では、(メタ)アクリル樹脂、スチレン(メタ)アクリル樹脂、ウレタン樹脂、及びエステル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。またその構造についても特に制限はないが、ランダム構造、ブロック構造、櫛型構造、または星型構造等が挙げられる。なお本明細書において「(メタ)アクリル」とは、アクリルまたはメタクリルを表す。
【0075】
イエローインキでは、顔料分散樹脂に芳香環構造を導入することが、顔料分散性を高め、印刷物の色再現性、並びに、インキの保存安定性及び分散安定性を向上させることが可能となるため好ましい。芳香環構造を有する官能基としては、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、トリル基、キシリル基、メシチル基、アニシル基等が挙げられ、フェニル基、ナフチル基、またはトリル基が好ましい。理由としては、イエロー顔料(A)に含まれる芳香環構造と、顔料分散樹脂中に含まれる芳香環構造が相互作用することにより、前記イエロー顔料(A)に対する顔料分散樹脂の吸着能力が著しく向上し、顔料の微細分散を実施したとしても、長期に渡って、印刷物の色再現性、並びに、インキの保存安定性及び分散安定性を確保することが可能となるためである。
【0076】
顔料分散樹脂中の芳香環構造の含有比率を、樹脂合成時に使用されるモノマー全量に対する、前記芳香環構造を有するモノマーの配合比率で表した場合、前記配合比率が10質量%以上70質量%以下であることが好ましく、15質量%以上50質量%以下であることが特に好ましい。10質量%以上とすることで、イエロー顔料(A)への吸着能力を良好なものとすることができ、結果として印刷物の色再現性、保存安定性及び分散安定性に優れたイエローインキを得ることができる。また70質量%以下とすることで、顔料分散体及びインキの粘度を、インクジェット用途に適した範囲に収めることができる。
【0077】
また更に、炭素数10〜36のアルキル基を有する顔料分散樹脂を用いることが、保存安定性及び分散安定性の観点から好ましい。なお、アルキル基を有する顔料分散樹脂を合成する方法として、基本となる樹脂骨格が持つカルボン酸などの官能基に対して、アルキル基を有するアルコール及び/またはアミンを縮合させる方法、または、合成時にアルキル基を有するモノマーを使用する方法等が挙げられる。
【0078】
アルキル基は炭素数10〜36の範囲が特に好ましく、直鎖であっても分岐していてもいずれも使用することができるが、直鎖状のアルキル基がより好ましい。なお直鎖状のアルキル基としては、ラウリル基(C12)、ミリスチル基(C14)、セチル基(C16)、ステアリル基(C18)、アラキル基(C20)、ベヘニル基(C22)、リグノセリル基(C24)、セロトイル基(C26)、モンタニル基(C28)、メリッシル基(C30)、ドトリアコンタニル基(C32)、テトラトリアコンタニル基(C34)、ヘキサトリアコンタニル基(C36)等が挙げられる。顔料分散樹脂が有するアルキル基の炭素数を10〜36とすることで、顔料分散体及びインキについて、保存安定性及び分散安定性の向上、並びに、低粘度化を実現することが可能となる。またアルキル基の炭素数として、好ましくは12〜30であり、更に好ましくは18〜24である。
【0079】
また顔料分散樹脂の酸価は、50〜400mgKOH/gであることが好ましい。酸価を50mgKOH/g以上とすることで顔料分散樹脂の溶解度が好適化するため、保存安定性及び分散安定性の向上、並びに、インキの低粘度化を実現できる。また、400mgKOH/g以下とすることで、樹脂間での相互作用を適度に抑えることができ、インキの低粘度化が可能となる。顔料分散樹脂の酸価は、好ましくは100〜350mgKOH/gであり、更に好ましくは150〜300mgKOH/gである。
【0080】
なお本明細書における樹脂の酸価とは、前記樹脂1g中に含まれる酸を中和するために必要となる水酸化カリウム(KOH)のmg数であり、エタノール/トルエン混合溶媒中で、KOH溶液を用いて滴定した値である。上記酸価の測定は、例えば、京都電子工業社製「電位差自動滴定装置AT−610」を用いて行うことができる。
【0081】
更に、顔料分散樹脂の重量平均分子量は、1,000〜100,000の範囲内であることが好ましく、5,000〜50,000の範囲であることがより好ましい。分子量が前記範囲であることにより、イエロー顔料(A)が水中で安定的に分散し、またイエローインキに適用した際の粘度調整等を行いやすい。更に重量平均分子量を1,000以上とすることで、有機溶剤に対して顔料分散樹脂が溶解しにくくなるために、イエロー顔料(A)に吸着した樹脂が脱離しにくくなり、結果として保存安定性及び分散安定性が著しく向上する。加えて、重量平均分子量を100,000以下とすることで、インクジェットヘッドからの吐出安定性の向上もまた実現できる。
【0082】
なお本明細書における重量平均分子量は、常法によって測定できる。具体的には、TSKgelカラム(東ソー社製)と、RI検出器とを装備したGPC測定装置(東ソー社製HLC−8120GPC)を用い、展開溶媒にTHFを用いて測定したポリスチレン換算値として得られる値である。
【0083】
顔料分散樹脂が酸基を有する場合、顔料分散樹脂は水への溶解度を上げるために、前記顔料分散樹脂中の酸基が塩基で中和されていることが好ましい。塩基として、ジメチルアミノエタノール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機化合物、及び、アンモニア、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機化合物等を使用することができる。中和は、部分中和又は完全中和であってよい。塩基として有機化合物を用いる場合、該有機化合物は、塩基性有機化合物(B)に該当する有機化合物(すなわち、塩基性有機化合物(b2))であっても、または、塩基性有機化合物(B)に該当しない有機化合物(すなわち、pKa値が9.5超である塩基性有機化合物)であってもよい。塩基性有機化合物(b2)は、例えば、pKaが8.5以下の塩基性有機化合物であることが好ましい。塩基性有機化合物(b2)は、例えば、pKaが8.5超の塩基性有機化合物であることが好ましい。または、中和に適しているという観点から、中和用の有機化合物は、塩基性有機化合物(B)には該当しない化合物(すなわち、pKa値が9.5超である塩基性有機化合物)であることが好ましい。
【0084】
顔料分散樹脂の含有量は、顔料総量に対して1〜50質量%であることが好ましい。顔料分散樹脂の比率を上記範囲に収めることで、顔料分散体及びイエローインキの粘度を低く保つことができるとともに、印刷物の色再現性、並びに、保存安定性及び分散安定性が向上する。顔料分散樹脂の含有量の比率としてより好ましくは、顔料総量に対して2〜45質量%、更に好ましくは4〜40質量%であり、最も好ましくは5〜35質量%である。
【0085】
<顔料誘導体>
本発明の実施形態では、イエロー顔料(A)及び、前記イエロー顔料(A)以外の顔料に対する顔料分散樹脂の吸着性を向上させ、顔料の保存安定性及び分散安定性を向上させるとともに、微細分散を実現し、印刷物の色再現性を向上させることを目的として、顔料誘導体を使用することができる。顔料誘導体としては、有機色素を基本骨格とし、分子内に置換基を導入した化合物が好適であり、例えば下記一般式(4)〜(6)で表される化合物が挙げられる。
【0086】
一般式(4):
【化5】
【0087】
一般式(4)中、Pはn 1 価の有機色素残基であり、n 1 は1以上の整数、Z 1 はスルホン酸基、またはカルボキシル基を表す。n 1 は1〜5であることが好ましく、より好ましくは1〜3、更に好ましくは1〜2、最も好ましくは1である。また、Z 1 はスルホン酸基であることが好ましい。
【0088】
一般式(5):
【化6】
【0089】
一般式(5)中、Pはn 2 価の有機色素残基であり、n 2 は1以上の整数、Z 2 はSO3-またはCOO-を、Z 3 は、アルカリ金属カチオン、NH4+、第1級アンモニウムカチオン、第2級アンモニウムカチオン、第3級アンモニウムカチオン、または第4級アンモニウムカチオンを表す。n 2 は1〜5であることが好ましく、より好ましくは1〜3、更に好ましくは1〜2、最も好ましくは1である。
【0090】
一般式(6):
【化7】
【0091】
一般式(6)中、Pはn 3 価の有機色素残基であり、n 3 は1以上の整数、R 16 は下記一般式(7)で表される有機基を表す。n 3 は1〜5であることが好ましく、より好ましくは1〜3、更に好ましくは1〜2、最も好ましくは1である。
【0092】
一般式(7):
【化8】
【0093】
一般式(7)中、R 17 は(m+1)価の有機残基を示し、mは1以上の整数、R 18 は水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1〜10のアルキル基を表す。R 18 は炭素数1〜10のアルキレン基であることが好ましく、より好ましくは炭素数1〜5のアルキレン基である。またR 18 は全て水素原子であることが好ましい。
【0094】
前記有機色素残基(P)としてはアゾ系、ベンズイミダゾロン系、フタロシアニン系、キナクリドン系、アントラキノン系、ジオキサジン系、ジケトピロロピロール系、キノフタロン系、イソインドリノン系、イソインドリン系、ペリレン系、ペリノン系、フラバンスロン系、ピランスロン系、またはアンスラピリミジン系が挙げられる。有機色素残基(P)の構造は必ずしも顔料の構造と一致する必要はないが、インキの色相と近い色相のものを選択することが好ましい。更には有機色素残基(P)をインキに使用する顔料と近い構造のものにすることが好ましい。これにより、顔料との吸着が高まり、安定性向上の効果が発現しやすくなる。
【0095】
上記一般式(6)で表される顔料誘導体は、一般式(1)で表される、イエロー顔料(A)の部分構造と類似の構造を有しているため、前記イエロー顔料(A)との親和性が特段に高く、好適に選択される。また、芳香環構造を有する顔料分散樹脂と併用することにより、イエロー顔料(A)を微細化することが可能となり、且つ粒度分布を狭くすることができる。その結果、イエローインキ内に含まれる粗大粒子の量が著しく少なくなることから、インクジェットヘッドからの吐出安定性の向上、並びに、保存安定性及び分散安定性の向上を実現できる。また、色再現性等に優れた印刷物を得ることが可能となる。更に、印刷物の表面に存在する粗大粒子の量が著しく低下し、前記表面の平滑性が増すことにより、印刷物に入射した光の乱反射を抑えることが可能となる。その結果として、印刷物の高濃度化を実現できる。
【0096】
顔料誘導体を使用する場合、その含有量は、インキ中の顔料総量に対して0.1〜10質量%とすることが好ましく、0.1〜5質量%とすることが特に好ましい。0.1質量%以上とすることで、顔料に対する添加比率が十分な量となり、印刷物の色再現性、並びに、保存安定性及び分散安定性が向上する。また10質量%以下とすることで、顔料微細化が必要以上に進むことがなくなるため、保存安定性及び分散安定性が向上するとともに、印刷物の耐光性の悪化を防止できる。
【0097】
<顔料分散体の製造方法>
顔料分散体の製造方法としては例えば下記の方法が挙げられるが、これに限定されるものではない。先ず顔料分散樹脂、水、及び、必要に応じて有機溶剤を含む溶液中に、イエロー顔料(A)、及び必要に応じて、その他の顔料、顔料誘導体、及び、有機溶剤等の任意の成分を添加し、混合撹拌した後、分散機を用いて分散処理を行う。この後、必要に応じて遠心分離及び/または濾過を行い、顔料分散体を得ることができる。用いる分散機としては既知の分散機であればいずれであっても使用することができるが、ビーズミルを用いることが好ましい。
【0098】
いくつかの実施形態において、イエローインキは、優れた画像濃度及び色再現性を有する印刷物が得られる観点から、顔料の平均二次粒子径(D50)が40nm〜500nmであることが好ましく、より好ましくは50nm〜400nmであり、特に好ましくは60nm〜300nmである。なお上記平均二次粒子径は、例えば、動的光散乱法によって測定される体積基準のメディアン径である。具体的には、マイクロトラック・ベル社製のナノトラックUPA−EX150を用い、必要に応じて水で希釈したインキを用いて測定することができる。
【0099】
平均二次粒子径を調整する方法として、上記分散機の粉砕メディアのサイズを小さくすること、粉砕メディアの材質を変更すること、粉砕メディアの充填率を大きくすること、撹拌部材(アジテータ)の形状を変更すること、分散処理時間を長くすること、分散処理後フィルター及び/または遠心分離機などで分級すること、及びこれらの手法の組み合わせが挙げられる。なお顔料の平均二次粒子径を、上記好適な粒度範囲に調整するためには、上記分散機の粉砕メディアの直径を0.1〜3mmとすることが好ましい。また粉砕メディアの材質として、ガラス、ジルコン、ジルコニア、及びチタニアが好ましく用いられる。
【0100】
<バインダー樹脂>
イエローインキは、バインダー樹脂を含むことが好ましい。一般に、水性インクジェットインキのバインダー樹脂としては、樹脂微粒子と水溶性樹脂が知られており、本発明の実施形態においては、どちらかを選択して使用してもよいし、併用してもよい。また、バインダー樹脂として使用される樹脂の種類としては、(メタ)アクリル樹脂、スチレン(メタ)アクリル樹脂、マレイン酸樹脂、スチレンマレイン酸樹脂、スチレンブタジエン樹脂、ウレタン樹脂、アミド樹脂、イミド樹脂、オレフィン樹脂等が挙げられる。中でも、イエローインキの保存安定性及び分散安定性、並びに印刷物の耐性の面を考慮すると、(メタ)アクリル樹脂、スチレン(メタ)アクリル樹脂、ウレタン樹脂、及びオレフィン樹脂が好ましい。
【0101】
バインダー樹脂が酸基を有する場合、バインダー樹脂中の酸基が塩基で中和されていてもよい。顔料分散樹脂の中和に用いられる塩基の説明を、バインダー樹脂にも適用することができる。
【0102】
樹脂微粒子は、水溶性樹脂と比較して高分子量であること、または、インキ粘度を低くでき、より多くの樹脂をインキ中に配合できることから、印刷物の耐性を高めるのに適している。一方で、樹脂微粒子を含むインキは、水が揮発した際に分散状態であった樹脂微粒子が凝集し成膜することにより、インクジェットヘッドノズルでの目詰まりを引き起こすことがある。また、成膜しやすい樹脂微粒子を使用した場合は、表面の平滑性に劣る印刷物となり、結果として画像濃度及び/または色再現性が低下する場合がある。前記現象を抑制する方法として、例えば、樹脂微粒子を得るためのモノマー組成をコントロールし、ガラス転移点(Tg)を80℃以上にすること、イエローインキ中の樹脂微粒子の含有量を2質量%以下とすること、または、これらの両方を行うことがある。この観点から、樹脂微粒子を使用する場合、スチレン(メタ)アクリル樹脂微粒子、及び/または、オレフィン樹脂微粒子を選択することが特に好適である。
【0103】
なお本発明者らが鋭意検討を進めたところ、樹脂微粒子としてオレフィン樹脂微粒子を使用した際、条件によっては、印刷物の色再現性、並びに、インキの保存安定性及び分散安定性が向上し、経時での印刷物の変色も防止できることを見出した。具体的には、イエロー顔料(A)のアミン価をAm(PA)[mgKOH/g]、前記イエロー顔料(A)のインキ全量中の含有量をC(PA)[質量%]、オレフィン樹脂微粒子の酸価をAv(RO)[mgKOH/g]、及び、前記オレフィン樹脂微粒子のインキ全量中の含有量をC(RO)[質量%]としたとき、下記式(8)で表される酸価/アミン価比が、0.5×10 -4 〜15×10 -4 であることが好ましく、1.5×10 -4 〜10×10 -4 であることが特に好ましい。その詳細な要因は不明であるが、オレフィン樹脂微粒子中に存在する酸基と、アミン構造を有するイエロー顔料(A)とが相互作用を起こし、前記イエロー顔料(A)の周囲に、前記オレフィン樹脂微粒子が存在することで、前記イエロー顔料(A)の凝集を防止できると考えられる。
【0104】
式(8):

酸価/アミン価比={Av(RO)×C(RO)}÷{Am(PA)×C(PA)}
【0105】
一方、インクジェットプリンターのメンテナンス性能を考慮した場合、バインダー樹脂として水溶性樹脂を選択することが好適である。その場合、水溶性樹脂の重量平均分子量が5,000〜50,000の範囲内であることが好ましく、10,000〜40,000の範囲内であることがより好ましい。重量平均分子量を5,000以上とすることで、印刷物の塗膜耐性を良好なものとすることができ、重量平均分子量を50,000以下とすることで、インクジェットヘッドからの吐出安定性を良好なものとし、印刷安定性に優れたインキを得ることが可能となる。なおバインダー樹脂の重量平均分子量は、上記顔料分散樹脂の場合と同様にして測定できる。
【0106】
また、バインダー樹脂に水溶性樹脂を選択する際には酸価も考慮することが好ましく、酸価が5〜80mgKOH/gであることが好ましく、10〜50mgKOH/gであることがより好ましい。酸価が10mgKOH/g以上であれば、インクジェットヘッドノズル上での目詰まりが起きにくくなり、印刷安定性が著しく向上する。また酸価が80mgKOH/g以下であれば、印刷物の耐水性が良好なものとなるため好ましい。なおバインダー樹脂の酸価も、上記顔料分散樹脂の場合と同様にして測定できる。
【0107】
前記バインダー樹脂の、イエローインキ中における含有量の総量は、固形分換算でイエローインキ全量中の2〜10質量%の範囲であることが好ましく、より好ましくは3〜8質量%の範囲であり、特に好ましくは3〜6質量%の範囲である。なお、バインダー樹脂として樹脂微粒子と水溶性樹脂を併用する場合、イエローインキ中における樹脂微粒子の含有量は、0.5〜2質量%であることが好ましい。
【0108】
<界面活性剤>
イエローインキへは、表面張力を調整し記録媒体上での濡れ性を確保する目的で、界面活性剤を添加することがより好ましい。本発明の実施形態では、陽イオン性、陰イオン性、両性、非イオン性のいずれの界面活性剤も用いることが可能である。また1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0109】
陽イオン性界面活性剤としては、脂肪酸アミン塩、脂肪族4級アンモニウム塩、ベンザルコニウム塩、塩化ベンゼトニウム、ピリジニウム塩、イミダゾリニウム塩などが挙げられる。
【0110】
陰イオン性界面活性剤としては、脂肪酸石鹸、N−アシル−N−メチルグリシン塩、N−アシル−N−メチル−β−アラニン塩、N−アシルグルタミン酸塩、アシル化ペプチド、アルキルスルフォン酸塩、アルキルベンゼンスルフォン酸塩、アルキルナフタレンスルフォン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸エステル塩、アルキルスルホ酢酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、N−アシルメチルタウリン、硫酸化油、高級アルコール硫酸エステル塩、第2級高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸塩、第2級高級アルコールエトキシサルフェート、脂肪酸アルキロールアミド硫酸エステル塩、アルキルエーテルリン酸エステル塩、アルキルリン酸エステル塩などが挙げられる。
【0111】
両性界面活性剤としては、カルボキシベタイン型、スルホベタイン型、アミノカルボン酸塩、イミダゾリニウムベタインなどが挙げられる。
【0112】
非イオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレン2級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンステロールエーテル、ポリオキシエチレンラノリン誘導体、ポリオキシエチレンポリプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油、硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアミンオキサイド、アセチレンジオール系化合物、アセチレンアルコール系化合物、ポリエーテル変性シロキサン系化合物、フッ素系化合物などが挙げられる。
【0113】
上記に例示した界面活性剤のなかでも、記録媒体への濡れ性を向上させるため、非イオン界面活性剤を用いることが好ましく、アセチレンジオール系化合物、ポリエーテル変性シロキサン系化合物、及びフッ素系化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を選択することがより好ましい。特にインキの表面張力を制御して下げるという観点からは、アセチレンジオール系化合物、及び/または、ポリエーテル変性シロキサン界面活性剤を使用することが好ましい。
【0114】
特に、後述するインキセットの形態で、イエローインキを使用する場合、アセチレンジオール系化合物と、ポリエーテル変性シロキサン系化合物とを併用することで、幅広い記録媒体に対して、色再現性及びその他の画像品質に優れた印刷物を作製することが可能となるため、好適である。原理としては推測の域を超えないが、インキの動的表面張力をアセチレンジオール系化合物により著しく低下させることで、幅広い記録媒体に対する濡れ性が付与されるとともに、ポリエーテル変性シロキサン系化合物により、インキ液滴の混色を制御することが可能となり、色再現性及びその他の画像品質が良化すると考えられる。
【0115】
上記界面活性剤のなかでも、HLB(Hydrophile−Lipophile Balance)値が低いものを用いることで、水性インクジェットインキの動的表面張力を著しく低下することが可能となる。その結果、易吸収性基材などの浸透性記録媒体だけでなく、樹脂コーティングされている記録媒体に対しても、インキの濡れ性を改善することができ、幅広い記録媒体に対して印刷物の画像濃度、色再現性及びその他の画像品質を著しく向上することが可能となる。HLB値としては、8以下(0であってもよい)であることが好ましく、6以下(0であってもよい)であることが特に好ましい。
【0116】
なお、HLB値とは、材料の親水性または疎水性を表すパラメータの一つであり、小さいほど材料の疎水性が高く、大きいほど材料の親水性が高いことを表す。HLB値の算出方法にはグリフィン法、デイビス法、川上法など種々の方法があり、また実測する方法も様々知られているが、本明細書では、アセチレンジオール系化合物のように、化合物の構造が明確に分かる場合は、グリフィン法を用いてHLB値の算出を行う。グリフィン法とは、対象の材料の分子構造と分子量を用いて、下記式(9)のようにしてHLB値を求める方法である。
【0117】
式(9):

HLB値=20×(親水性部分の分子量の総和)÷(材料の分子量)
【0118】
一方、ポリエーテル変性シロキサン系化合物のように、構造不明の化合物が含まれる場合は、例えば西一郎ら編「界面活性剤便覧」(産業図書社、1960年)のp.324に記載されている方法によって、界面活性剤のHLB値を実験的に求めることができる。具体的には、界面活性剤0.5gをエタノール5mLに溶解させた後、得られた溶解液を25℃下で撹拌しながら、2質量%フェノール水溶液で滴定し、液が混濁したところを終点とする。終点までに要した前記フェノール水溶液の量をA(mL)としたとき、下記式(10)によってHLB値を算出できる。
【0119】
式(10):

HLB値=0.89×A+1.11
【0120】
イエローインキにおける、界面活性剤の添加量としては、イエローインキ全量中、0.1〜5.0質量%が好ましく、0.3〜4.0質量%がより好ましく、0.5〜3.0質量%が更に好ましい。0.1質量%以上とすることで、イエローインキの動的表面張力を十分に低下させる効果が得られ、印刷物の画像品質を改善することが可能となる。また5.0質量%以下とすることで、インクジェットヘッドノズル周辺へのイエローインキの濡れ及びメニスカスの制御が可能となり、インクジェットヘッドからの安定吐出が可能となり、印刷安定性が向上する。
【0121】
<水>
水の含有量は、イエローインキ全量中、45〜95質量%、更に好ましくは50〜75質量%の範囲であることが好ましい。なお上記のように、イエローインキ中に含まれる、アルカリ(土類)金属イオン等の不純物を減らすことで、印刷物の優れた画像濃度及び色再現性、並びに、インキの保存安定性及び分散安定性の向上を両立できる。この観点から、イエローインキに含まれる水は、種々のイオンを含有する一般の水ではなく、純水またはイオン交換水を使用するのが好ましい。
【0122】
<その他の成分>
イエローインキは、上記の成分の他に、必要に応じて所望の物性値を持つインキとするために、消泡剤、増粘剤、防腐剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤などの添加剤を適宜に添加することができる。これらの添加剤の添加量の例としては、イエローインキ全量中、0.01〜10質量%以下が好適である。
【0123】
なお、イエローインキは重合性モノマーを実質的に含有しないことが好ましい。ここで「実質的に含有しない」とは意図的に添加しないことを表すものであり、インクジェットインキを製造及び保管する際の微量の混入または発生を除外するものではない。具体的には、重合性モノマーの含有量は、イエローインキ全量中、1質量%とすることが好ましく、0.5質量%以下とすることが特に好ましい。
【0124】
<イエローインキの製造方法>
イエローインキの製造方法は特に限定されない。優れた印刷物を得ることができ、良好な保存安定性及び分散安定性を得る観点から、例えば、イエローインキの製造方法は、イエロー顔料(A)を含有するイエロー顔料分散体と、塩基性有機化合物(B)と、有機溶剤と、水とを混合することを含む方法であることが好ましい。イエローインキが任意の成分を含有する場合は、例えば、イエローインキの製造方法は、イエロー顔料(A)を含有するイエロー顔料分散体と、塩基性有機化合物(B)と、有機溶剤と、水と、任意の成分とを混合することを含む方法であることが好ましい。任意の成分としては、例えば、バインダー樹脂又はバインダー樹脂を含むバインダー樹脂分散体、界面活性剤等が挙げられる。混合する際に加える塩基性有機化合物(B)の含有量が、イエローインキ全量中、0.1〜1.0質量%となる量であることが好ましい。混合する際に加える塩基性有機化合物(B)は、アルカノールアミン類であることが好ましく、トリエタノールアミンであることがより好ましい。例えば、イエローインキの製造方法は、イエロー顔料(A)を含有するイエロー顔料分散体と、イエローインキ全量中0.1〜1.0質量%となる量の塩基性有機化合物(B)と、有機溶剤と、水と、必要に応じて任意の成分とを容器に加え、混合することを含む方法であることが好ましく、前記イエロー顔料分散体は、塩基性有機化合物(B)を含んでも、含まなくてもよい。
【0125】
顔料分散体は、顔料分散樹脂と、水と、イエロー顔料(A)とを含み、更に任意の成分を含んでもよい。任意の成分としては、例えば、その他の顔料、顔料誘導体、有機溶剤、顔料分散樹脂が酸基を有する場合は中和用の塩基等が挙げられる。バインダー樹脂分散体は、バインダー樹脂と、水とを含み、更に任意の成分を含んでもよい。任意の成分としては、有機溶剤、バインダー樹脂が酸基を有する場合は中和用の塩基等が挙げられる。バインダー樹脂分散体は、塩基性有機化合物(B)を含んでも、含まなくてもよい。
【0126】
<イエローインキ塗工物の特性>
上記の通り、イエローインキを使用することで、色再現性に優れた印刷物を得ることができる。また、後述する水性インクジェットマゼンタインキと組み合わせて使用することで、特にレッド領域の色再現性に優れた印刷物が得られる。特に本発明の実施形態では、以下の方法によって測定される色相角∠H°が70〜105°の範囲であるイエローインキとすることが、色再現性の観点から好適であり、76〜102°の範囲とすることがより好適であり、82〜98°の範囲とすることが特に好適である。色に関する規格または基準として、例えば、Japan Color(日本オフセット枚葉印刷色規格)、Fogra(ドイツ印刷関連規格)、SWOP(米国オフ輪印刷規格)等、オフセット印刷国際規格(ISO 12647−2)に準拠した規格が知られている。上記色相角を満たしたイエローインキであれば、上記の各印刷色規格または基準を満たすことができ、色再現性に優れた印刷物を得ることができる。
【0127】
イエローインキの色相角∠H°は、記録媒体上にウェット膜厚6μmとなるように塗工し、乾燥して作製した塗工物を用いて測定される。具体的には、松尾産業社製KコントロールコーターK202、ワイヤーバーNo.1を用いてイエローインキを塗工した後、80℃オーブンにて1分間以上にわたり乾燥し、塗工物を作製する。次いで、X−rite社製i1Pro2を用い、光源D50、視野角2°及びCIE表色系の条件で測定を行い、得られたa*及びb*値を用いて、∠H°=tan -1 (b*/a*)+180(a*<0の場合)、または∠H°=tan -1 (b*/a*)+360(a*>0の場合)により求める。また、塗工には、記録媒体として、例えば、UPM社製のUPM Finesse Gloss紙を使用する。
【0128】
また、画像濃度に優れ、更には、水性インクジェットマゼンタインキと組み合わせた際にレッド領域の色再現性にも優れた印刷物が得られるイエローインキとなる観点から、上記方法で作製した、ウェット膜厚6μmの塗工物の分光反射率が、380〜480nmの波長領域にて10%以下であることが好ましい。なお印刷物の分光反射率は、ISO 5−3:2009で規定された方法で算出されるものであり、イエロー色の測色にはStatusTのBlueフィルターが用いられる。具体的には、上記の色相角∠H°と同様に、X−rite社製i1Pro2を用いて測定できる。
【0129】
上記の通り、イエローインキは、イエロー顔料(A)と、必要に応じて、前記イエロー顔料(A)以外の顔料とを含む。上記の特性を有するイエローインキ塗工物、すなわち、色再現性及び画像濃度に優れた印刷物を得る観点から、前記イエロー顔料(A)、及び、前記イエロー顔料(A)以外の顔料として、色相角∠H°が82°〜98°の範囲である顔料を選択することが好ましい。中でも、前記色相角を満たし、かつ、380〜480nmの波長領域における分光反射率が10%以下である顔料を選択することが特に好ましい。なお顔料の色特性は、分散状態によっても変わることから、例えば、後述する実施例のイエロー顔料分散体1と同様の方法で製造した顔料分散体を利用して測定することが好ましい。また、具体的な色相角の測定方法としては、顔料濃度が3質量%となるように顔料分散体を水で希釈した後、上記ウェット膜厚6μmのイエローインキ塗工物と同様の方法で、記録媒体上に塗工する。次いで、上記記載の方法で、得られた塗工物の色相角及び分光反射率を測定する。
なお上記で例示したイエロー顔料(A)のうち、色相角及び分光反射率を満たすものに、C.I.ピグメントイエロー139及び185がある。
【0130】
更に本発明の実施形態では、耐光性に優れる印刷物が得られる観点から、イエローインキに含まれる顔料として、JIS L 0843に規定されている「キセノンアーク灯光に対する染色堅牢度試験方法」の第三露光法に基づくブルーウールスケールが4級以上であるものを選択することが好ましい。
【0131】
<インキセット>
上記で説明したように、本発明の実施形態であるイエローインキを使用することで、色再現性及び耐光性に優れ、また経時で変色及び退色を起こすことがない印刷物が得られる。また、前記イエローインキと、以下に示す水性インクジェットマゼンタインキ(以下、単に「マゼンタインキ」ともいう。)とを組み合わせたインキセットを使用することで、特にレッド領域の色再現性及び耐光性に優れ、色域の広い印刷物を得ることができる。
【0132】
また、いくつかの実施形態では、本発明の実施形態であるイエローインキと、以下に示すマゼンタインキと、以下に示す水性インクジェットシアンインキ(以下、単に「シアンインキ」ともいう。)または以下に示す水性インクジェットバイオレットインキ(以下、単に「バイオレットインキ」ともいう。)とを組み合わせたインキセットを使用することで、それら以外の水性インクジェット有彩色インキを使用せずとも、記録媒体の種類によらず、特にレッド領域及びグリーン領域の色再現性に優れた印刷物を得ることができる。
【0133】
なお本明細書において「有彩色」とは、一般に彩度を有しない色(ブラック、ライトブラック(グレー)、及びホワイト)以外の全ての色を指すものとする。
【0134】
一般に、水性インキを用いたインクジェット印刷において、2次色を有する印刷物は、2種類以上の色の異なるインキを記録媒体上で接触させることで作製される。例えば、当該記録媒体として難吸収性基材を使用する際、高速でインクジェット印刷を行う場合、あるいは、印刷物の印字率が高い場合等では、インキ同士がウェット状態で接触することとなる。このような場合、使用するインキによっては、色再現性に劣る印刷物が得られてしまうことがある。従来は、2次色の色再現性に優れた印刷物を得るため、当該2次色を有するインキ(例えば、レッドインキ、及び、グリーンインキ等。上記特許文献1も参照。)を使用する、記録媒体に処理液を付与する、1色印刷する毎に記録媒体を乾燥する等の手法がとられてきた。しかし、いずれの手法も、印刷装置の大型化及びコストの増加は避けられなかった。
【0135】
上記状況に対し、本発明の実施形態であるイエローインキ、以下に示すマゼンタインキ、及び、以下に示すシアンインキまたは以下に示すバイオレットインキのみからなる有彩色インキを含むインキセットを使用した場合であっても、レッド領域及びグリーン領域の色再現性に優れた印刷物を得ることができる。その理由として、上述の通り、一般式(1)で表される部分構造を有するイエロー顔料(A)を含むイエローインキは、保存安定性及び分散安定性に優れることから、他のインキと接触した際に、当該イエローインキの分散状態が破壊されることがない。また、詳細は不明ながら、当該イエロー顔料(A)と、以下に示すマゼンタ顔料、シアン顔料、及び、バイオレット顔料との間では、強い分子間相互作用が形成されないため、混合時に互いの分散状態に悪影響を及ぼすことがないと考えられる。そのため、記録媒体上で接触した際に、色再現性の悪化につながる各顔料の凝集が起こることがなく、また、当該各顔料が持つ発色性及び色再現性を十分に発揮させることができ、結果として、色再現性に優れた印刷物が得られると推測される。
【0136】
以下に、本発明の実施形態であるインキセットで使用されるインキについて説明する。
【0137】
<マゼンタインキ>
マゼンタインキは、マゼンタ顔料と水とを含む。好ましくは、マゼンタインキは、後述する一般式(2)で表される部分構造を有するマゼンタ顔料を、マゼンタインキ全量中に1〜10重量%含む。
【0138】
<マゼンタ顔料>
マゼンタインキは、マゼンタ顔料を含む。前記マゼンタ顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド5、7、12、22、23、31、48(Ca)、48(Mn)、49、52、53、57(Ca)、57:1、122、146、147、150、166、179、185、202、238、242、266、269、282、C.I.ピグメントバイオレット19等が挙げられ、2種以上を併用してもよい。なお、マゼンタインキは、上記列挙した顔料の総含有量が、マゼンタインキ中に含まれる顔料全量中50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは70質量%以上であり、更に好ましくは90質量%以上であり、特に好ましくは95質量%以上である。使用する顔料全量に対する、上記列挙した顔料の総含有量は、100質量%であってもよい。すなわち、上記列挙した顔料を主成分として含むインキを、本明細書におけるマゼンタインキとすることが好ましい。前記条件を満たす範囲内で上記列挙した顔料を使用し、かつ、例えば色味の調整のため、上記列挙した以外の顔料を併用してもよい。
【0139】
いくつかの実施形態において、色再現性及び耐光性の観点から、マゼンタインキは、C.I.ピグメントレッド48(Ca)、48(Mn)、122、146、147、150、185、202、266、269、及び、C.I.ピグメントバイオレット19からなる群から選択される1種または2種以上を含むことが好ましい。
【0140】
いくつかの実施形態において、マゼンタインキは、下記一般式(2)で表される構造を有するマゼンタ顔料を含むことが好ましい。
【0141】
一般式(2):
【化9】
【0142】
一般式(2)中、R 9 、R 10 、及びR 11 は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜2のアルキル基、炭素数1〜2のアルコキシ基、アニリド基、カルバモイル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、またはスルホンアミド基のいずれかである。また、R 12 は、水素原子、炭素数1〜2のアルキル基、または下記一般式(3)で表される構造のいずれかである。
アニリド基は、フェニルアミノカルボニル基ともいい、「−CO−NH−C65」で表すことができる。スルホンアミド基は、置換または非置換のアミノスルホニル基であってよく、例えば「−SO2−NH2」または「−SO2−NHCH3」で表すことができる。
【0143】
一般式(3):
【化10】
【0144】
一般式(3)中、R 13 は、水素原子、塩素原子、臭素原子、炭素数1〜2のアルキル基、炭素数1〜2のアルコキシ基、アミノ基、またはニトロ基のいずれかである。また、R 14 及びR 15 は、それぞれ独立して、水素原子、塩素原子、臭素原子、炭素数1〜2のアルキル基、炭素数1〜2のアルコキシ基、アミノ基、またはニトロ基のいずれかであるか、R 14 とR 15 とが互いに結合し、イミダゾリジノン環を形成している。また、*は結合手を表し、一般式(3)で表される構造は、*の位置にて、前記一般式(2)で表される構造における窒素原子に結合する。
【0145】
マゼンタ顔料の中でも、分子構造中に1−フェニルアゾ−2−ナフトール構造を1つ有する、C.I.ピグメントレッド146、147、150、185、266、及び269からなる群から選択される1種または2種以上を含むマゼンタインキは、本発明の実施形態であるイエローインキと組み合わせて使用した際に、前記イエローインキによる吸収が小さい波長領域の入射光を好適に吸収でき、結果として、レッド領域の色再現性に特段に優れた印刷物が得られるため、特に好ましく選択される。
【0146】
色再現性及び画像濃度の観点から、マゼンタ顔料の含有量は、マゼンタインキ全量中、0.1〜10質量%であることが好ましく、1〜9.5質量%であることがより好ましい。
【0147】
マゼンタインキを含むインキセットの好ましい態様として、以下が挙げられる。
・本発明の実施形態であるイエローインキ、及び、マゼンタ顔料と、水とを含むマゼンタインキを含む、インキセット。
・本発明の実施形態であるイエローインキ、一般式(2)で表される構造を有するマゼンタ顔料と、水とを含むマゼンタインキを含み、一般式(2)で表される構造を有するマゼンタ顔料の含有量が、前記マゼンタインキ全量中、1〜10質量%である、インキセット。
・本発明の実施形態であるイエローインキ、及び、C.I.ピグメントレッド146、147、150、185、266、及び269からなる群より選択される少なくとも1種を含むマゼンタ顔料と、水とを含むマゼンタインキを含み、前記マゼンタ顔料の含有量が、前記マゼンタインキ全量中、1〜10質量%である、インキセット。
【0148】
<マゼンタ顔料以外の成分>
マゼンタインキは、マゼンタ顔料及び水のほかに、顔料分散樹脂、顔料誘導体、有機溶剤、バインダー樹脂、界面活性剤、塩基性有機化合物、及びその他の成分を含んでもよい。これらの成分に関する詳細は、上述したイエローインキの場合と同様である。
【0149】
<マゼンタインキ塗工物の特性>
いくつかの実施形態では、本発明の実施形態であるイエローインキと組み合わせて使用した際に、レッド領域の色再現性に優れた印刷物が得られる観点から、マゼンタインキは、上記イエローインキの場合と同様にして作製した、ウェット膜厚6μmのマゼンタインキ塗工物の色相角∠Hm°が、330〜360°であることが好ましい。また前記塗工物の分光反射率が、480〜580nmの波長領域にて10%以下であることが好ましい。
【0150】
更に、耐光性に優れる印刷物が得られる観点から、マゼンタ顔料として、JIS L 0843に規定されている「キセノンアーク灯光に対する染色堅牢度試験方法」の第三露光法に基づくブルーウールスケールが4級以上であるものを選択することが好ましい。
【0151】
一方、別のいくつかの実施形態では、本発明の実施形態であるイエローインキ、マゼンタインキ、及び、後述するシアンインキまたは後述するバイオレットインキの3種類のインキのみからなる有彩色インキを含むインキセットにより、優れた色再現性を有する印刷物が製造できる観点から、上記イエローインキの場合と同様にして作製した、ウェット膜厚6μmのマゼンタインキ塗工物の色相角∠Hm°が、0〜45°であることが好ましい。また、これらの実施形態の場合も、前記塗工物の分光反射率は、480〜580nmの波長領域にて10%以下であることが好ましい。
【0152】
<イエローインキ、マゼンタインキ以外のインキ>
インキセットは、色再現性に優れた印刷物を得る観点から、イエローインキ及びマゼンタインキ以外のインキを含んでいてもよい。中でも、レッド領域の色再現性がいっそう高まる観点から、イエローインキ及びマゼンタインキに加えて、オレンジインキ、及び/または、レッドインキを含むことが好適である。
【0153】
<オレンジインキ>
例えば、イエローインキ及びマゼンタインキに加えてオレンジインキを使用する場合、前記オレンジインキに含まれる顔料としては、例えば、C.I.ピグメントオレンジ5、13、16、34、36、38、43、62、64、67、71、72並びにC.I.ピグメントレッド17,49:2,112,149,178,188及び264からなる群から選ばれる1種または2種以上を挙げることができる。中でも、レッド〜オレンジ領域の色再現性及び耐光性、更には吐出安定性の点から、C.I.ピグメントオレンジ43を含むことが好ましい。
【0154】
色再現性及び画像濃度の観点から、オレンジインキに含まれる顔料の量は、前記オレンジインキ全量中、0.1〜10質量%であることが好ましく、2〜9.5質量%であることがより好ましい。
【0155】
オレンジインキを使用する場合、上記の顔料に加えて、上述したマゼンタ顔料を含むことが好ましい。マゼンタ顔料を含むことにより、レッド領域の色再現性がいっそう高まるためである。
【0156】
オレンジインキがマゼンタ顔料を含む場合は、オレンジインキに含まれる顔料全量に対して、マゼンタ顔料を0.5〜49質量%含むことが好ましく、1〜45質量%含むことがより好ましく、1.5〜40質量%含むことが特に好ましい。
【0157】
<レッドインキ>
また、イエローインキ及びマゼンタインキに加えてレッドインキを使用する場合、前記レッドインキに含まれる顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド177、254、255、及び、C.I.ピグメントオレンジ73からなる群から選ばれる1種または2種以上が好適に用いられる。中でも、レッド領域での色再現性及び耐光性、並びに、吐出安定性の点から、C.I.ピグメントレッド254を含むことが好ましい。
【0158】
色再現性及び画像濃度の観点から、レッドインキに含まれる顔料の量は、レッドインキ全量中、0.1〜10質量%であることが好ましく、1〜9.5質量%であることがより好ましい。
【0159】
<シアンインキ>
本発明の実施形態では、イエローインキ及びマゼンタインキ(、及び、必要に応じてオレンジインキ及び/またはレッドインキ)に加え、シアンインキを含むインキセットを好ましく使用することができる。シアンインキは、シアン顔料と水とを含む。前記シアンインキに含まれるシアン顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15:3、15:4、15:6、16、22等が挙げられる。なお、シアンインキは、上記列挙した顔料の総含有量が、シアンインキ中に含まれる顔料全量中50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは70質量%以上であり、更に好ましくは90質量%以上であり、特に好ましくは95質量%以上である。使用する顔料全量に対する、上記列挙した顔料の総含有量は、100質量%であってもよい。中でも、塗工物の色相角∠Hm°が330〜360°であるマゼンタインキと併用する場合は、C.I.ピグメントブルー15:3及び15:4からなる群から選ばれる1種または2種以上を含むことが好ましい。
【0160】
一方、塗工物の色相角∠Hm°が0〜45°であるマゼンタインキと併用する場合は、本発明の実施形態であるイエローインキ、マゼンタインキ、及び、シアンインキの3種類のインキのみからなる有彩色インキを含むインキセットであっても、優れた色再現性を有する印刷物が製造できる観点から、C.I.ピグメントブルー15:6を含むシアンインキを使用することが好ましい。
【0161】
色再現性及び画像濃度の観点から、前記シアンインキに含まれるシアン顔料の含有量は、シアンインキ全量中、0.1〜10%質量%であることが好ましく、1〜9.5質量%であることがより好ましい。
【0162】
シアンインキは、シアン顔料及び水のほかに、顔料分散樹脂、顔料誘導体、有機溶剤、バインダー樹脂、界面活性剤、塩基性有機化合物、及びその他の成分を含んでもよい。これらの成分に関する詳細は、例えば、上述したイエローインキの場合と同様である。
【0163】
シアンインキを含むインキセットの好ましい態様として、以下が挙げられる。
・本発明の実施形態であるイエローインキと、前記マゼンタインキと、シアンインキとを含み、シアンインキが、C.I.ピグメントブルー15:3及び15:6からなる群より選択される少なくとも1種を含む、インキセット。
・有彩色インキを含み、有彩色インキが、本発明の実施形態であるイエローインキと、前記マゼンタインキと、C.I.ピグメントブルー15:3及び15:6からなる群より選択される少なくとも1種を含むシアンインキのみからなる、インキセット。前記インキセットは、無彩色インキを更に含んでもよい。
・本発明の実施形態であるイエローインキと、前記マゼンタインキと、C.I.ピグメントブルー15:3及び15:6からなる群より選択される少なくとも1種を含むシアンインキと、無彩色インキとのみからなる、インキセット。
上記において、無彩色インキは、例えば、ブラックインキ、ライトブラック(グレー)インキ、及びホワイトインキからなる群より選択される少なくとも1種からなる。
【0164】
<バイオレットインキ>
本発明の実施形態では、イエローインキ及びマゼンタインキ(、及び、必要に応じてオレンジインキ及び/またはレッドインキ)に加え、バイオレットインキを含むインキセットを好ましく使用することができる。バイオレットインキは、バイオレット顔料と水とを含む。前記バイオレットインキに含まれるバイオレット顔料としては、例えば、C.I.ピグメントバイオレット1、3、23、27、32、36、37、38等が挙げられる。なお、バイオレットインキは、上記列挙した顔料の総含有量が、バイオレットインキ中に含まれる顔料全量中50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは70質量%以上であり、更に好ましくは90質量%以上であり、特に好ましくは95質量%以上である。使用する顔料全量に対する、上記列挙した顔料の総含有量は、100質量%であってもよい。中でも、本発明の実施形態であるイエローインキと、塗工物の色相角∠Hm°が0〜45°であるマゼンタインキとを併用することで、3種類のインキのみからなるインキセットであっても、優れた色再現性を有する印刷物が製造できる観点から、C.I.ピグメントバイオレット3、23、27、及び32からなる群から選ばれる1種または2種以上を含むことが好ましい。
【0165】
色再現性及び画像濃度の観点から、前記バイオレットインキに含まれるバイオレット顔料の含有量は、バイオレットインキ全量中、0.1〜10%質量%であることが好ましく、1〜9.5質量%であることがより好ましい。
【0166】
バイオレットインキは、バイオレット顔料及び水のほかに、顔料分散樹脂、顔料誘導体、有機溶剤、バインダー樹脂、界面活性剤、塩基性有機化合物、及びその他の成分を含んでもよい。これらの成分に関する詳細は、例えば、上述したイエローインキの場合と同様である。
【0167】
バイオレットインキを含むインキセットの好ましい態様として、以下が挙げられる。
・本発明の実施形態であるイエローインキと、前記マゼンタインキと、バイオレットインキとを含み、バイオレットインキが、C.I.ピグメントバイオレット3、23、27、及び32からなる群より選択される少なくとも1種を含む、インキセット。
・有彩色インキを含み、有彩色インキが、本発明の実施形態であるイエローインキと、前記マゼンタインキと、C.I.ピグメントバイオレット3、23、27、及び32からなる群より選択される少なくとも1種を含むバイオレットインキとのみからなる、インキセット。前記インキセットは、無彩色インキを更に含んでもよい。
・本発明の実施形態であるイエローインキと、前記マゼンタインキと、C.I.ピグメントバイオレット3、23、27、及び32からなる群より選択される少なくとも1種を含むバイオレットインキと、無彩色インキとのみからなる、インキセット。
上記において、無彩色インキは、例えば、ブラックインキ、ライトブラック(グレー)インキ、及びホワイトインキからなる群より選択される少なくとも1種からなる。
【0168】
なお本明細書において、シアンインキとバイオレットインキとは、インキ中に主として含まれる顔料のカラーインデックス名によって区別される。すなわち、主成分としてC.I.ピグメントブルー顔料を含むインキをシアンインキとし、主成分としてC.I.ピグメントバイオレット顔料を含むインキをバイオレットインキとする。また、C.I.ピグメントブルー顔料と、C.I.ピグメントバイオレット顔料とを同量ずつ含むインキの場合は、上記イエローインキの場合と同様にして作製した、ウェット膜厚6μmのインキ塗工物の色相角∠Hb°が、200°以上260°未満であるものをシアンインキとし、260°以上330°未満であるものをバイオレットインキとする。ただし、主成分としてC.I.ピグメントブルー顔料及び/またはC.I.ピグメントバイオレット顔料を含むインキであっても、上記インキ塗工物の色相角∠Hb°が200°未満である場合は、後述するグリーンインキであるものとし、前記∠Hb°が330°以上である場合は、上述したマゼンタインキであるものとする。ここで、主成分とは、顔料の総量を基準とし、最も含有量が大きい顔料をいう。
【0169】
<その他のカラーインキ>
インキセットは、全色領域での色再現性を高めるため、更にグリーンインキ及び/またはブラウンインキなどを組み合わせることができる。グリーンインキを使用する場合、前記グリーンインキに含まれる顔料としては、例えば、C.I.ピグメントグリーン7、36、及び、58からなる群から選ばれる1種または2種以上が好適に用いられる。
【0170】
また、用途及び画像品質に応じて、顔料濃度が低いインキである、ライトイエローインキ、ライトシアンインキ、ライトマゼンタインキ、グレーインキなどの淡色インキ等も併用することが可能である。
なおライトイエローインキを併用する場合、イエローインキで使用しているイエロー顔料(A)を使用することが好ましい。またその場合、ライトイエローインキにおいても、イエロー顔料(A)と塩基性有機化合物(B)とを併用することが特に好適である。
【0171】
<ブラックインキ>
インキセットには、更にブラックインキを含めることも可能である。ブラックインキを併用することで、文字の表現及びコントラストの表現に優れた、より高精細な画像を得ることが可能となる。
【0172】
ブラックインキの顔料として、例えば、アニリンブラック、ルモゲンブラック、アゾメチンブラック等の有機顔料、及び、カーボンブラック、酸化鉄等の無機顔料が挙げられる。また、上記のイエロー顔料、マゼンタ顔料、シアン顔料などのカラー顔料を複数用いてコンポジットブラックとして使用することもできる。
【0173】
カーボンブラック顔料としては、ファーネス法、または、チャネル法で製造されたカーボンブラックが好適である。中でも、これらのカーボンブラックであって、一次粒子径が11〜40mμm(nm)、BET法による比表面積が50〜400m2/g、揮発分が0.5〜10質量%、pH値が2〜10等の特性を有するものが好適である。このような特性を有する市販品としては、例えば、No.25、30、33、40、44、45、52、850、900、950、960、970、980、1000、2200B、2300、2350、2600;MA7、MA8、MA77、MA100、MA230(三菱化学社製)、RAVEN760UP、780UP、860UP、900P、1000P、1060UP、1080UP、1255(コロンビアンカーボン社製)、REGAL330R、400R、660R、MOGUL L(キャボット社製)、Nipex160IQ、170IQ、35、75;PrinteX30、35、40、45、55、75、80、85、90、95、300;SpecialBlack350、550;Nerox305、500、505、600、605(オリオンエンジニアドカーボンズ社製)などがあり、いずれも好ましく使用することができる。
【0174】
ブラックインキに含まれる顔料の量は、ブラックインキ全量中、0.1〜10質量%であることが好ましく、1〜9.5質量%であることがより好ましい。
【0175】
<ホワイトインキ>
インキセットには、ホワイトインキを含むことができる。ホワイトインキを併用することによって、透明な記録媒体または明度が低い記録媒体に対して、良好な視認性を有する印刷物が形成できる。特に本発明の実施形態であるイエローインキと併用することによって、上記の記録媒体に対しても、白色媒体に記録する時と同様に、鮮明で高精細な印刷物を得ることが可能となる。
【0176】
ホワイトインキに使用できる顔料には、無機白色顔料及び有機白色顔料がある。そのうち無機白色顔料としては、例えば、硫酸バリウム等のアルカリ土類金属硫酸塩、炭酸カルシウム等のアルカリ土類金属炭酸塩、微粉ケイ酸、合成ケイ酸塩等のシリカ類、ケイ酸カルシウム、アルミナ、アルミナ水和物、酸化チタン、酸化亜鉛、タルク、クレイ等が挙げられる。隠蔽性及び着色力の観点から、酸化チタンが最も好ましい。
【0177】
ホワイト顔料の平均粒子径は50〜500nmであることが好ましい。平均粒子径を上記範囲内に収めることで、隠蔽性、保存安定性、吐出安定性を両立することができる。なお、より好ましくは100〜400nmである。
【0178】
ホワイトインキに含まれる顔料の量は、ホワイトインキ全量中、3〜50質量%であることが好ましく、5〜30質量%であることがより好ましい。
【0179】
<インクジェット印刷方式>
本発明の実施形態であるイエローインキまたはインキセットは、インクジェット印刷方式によって、記録媒体上に印刷される。前記インクジェット印刷方式として、記録媒体に対しインクジェットインキを1回だけ吐出して記録するシングルパス方式、及び、前記記録媒体の搬送方向と直行する方向に、短尺のシャトルヘッドを往復走査させながら吐出及び記録を行うシリアル型方式、のいずれを採用してもよい。
【0180】
また、インキを吐出する方式にも特に制限はなく、既知の方式、例えば、静電誘引力を利用してインキを吐出させる電荷制御方式;ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式);電気信号を音響ビームに変えインキに照射して放射圧を利用しインキを吐出させる音響インクジェット方式;インキを加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット(バブルジェット[登録商標])方式等がいずれも利用できる。更に、インキを吐出するために用いるインクジェットヘッドは、オンデマンド方式及びコンティニアス方式のどちらであってもよい。
【0181】
インクジェットヘッドから吐出されるインキの液滴量は、乾燥時の負荷の軽減効果が大きく、また色再現性、及びその他の画像品質の向上という点からも、0.2〜50ピコリットルであることが好ましく、1〜30ピコリットルであることがより好ましい。
【0182】
また、インクジェットヘッドを搭載したインクジェット記録装置は、更に、インキの乾燥機構を備えていることが好ましい。前記乾燥機構で用いられる乾燥方法として、加熱乾燥法、熱風乾燥法、赤外線(例えば波長700〜2500nmの赤外線)乾燥法、マイクロ波乾燥法、及びドラム乾燥法などが挙げられる。
【0183】
インキ中の液体成分の突沸を防止し、色再現性、及びその他の画像品質に優れた印刷物を得る観点から、加熱乾燥法を採用する場合は乾燥温度を35〜100℃とすることが、また熱風乾燥法を採用する場合は熱風温度を50〜250℃とすることが、それぞれ好ましい。また同様の観点から、赤外線乾燥法を採用する場合は、赤外線照射に用いる赤外線の全出力の積算値の50%以上が、700〜1,500nmの波長領域に存在することが好ましい。
【0184】
また上記乾燥方法は、単独で用いてもよいし、複数を続けて使用してもよいし、同時に併用してもよい。例えば加熱乾燥法と熱風乾燥法を併用することで、それぞれを単独で使用したときよりも素早く、インキを乾燥させることができる。
【0185】
<記録媒体>
イエローインキまたはインキセットを印刷する記録媒体は特に限定されない。例えば、上質紙、コート紙、アート紙、キャスト紙、合成紙等の紙基材;ポリカーボネート、硬質塩ビ、軟質塩ビ、ポリスチレン、発泡スチロール、PMMA、ポリプロピレン、ポリエチレン、PET等のプラスチック基材;ステンレス等の金属基材;ガラス;木材等が使用できる。イエローインキまたはインキセットは、吸収層を有するインクジェット専用紙または上質紙といった易吸収性基材だけではなく、産業用途に一般的に使用されている、コート紙、アート紙、塩化ビニルシートといった難吸収性基材に対しても好適に使用することができる。
【実施例】
【0186】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。なお、以下の記載において、「部」「%」及び「比率」とあるものは特に断らない限り質量基準である。
【0187】
実施例で使用したイエロー顔料は以下に示す通りである。
・SYMULER FAST YELLOW GFCONC
(C.I.ピグメントイエロー12、DIC社製)
・SYMULER FAST YELLOW 4090G
(C.I.ピグメントイエロー14、DIC社製)
・HANSA YELLOW 5GX01
(C.I.ピグメントイエロー74、クラリアント社製)
・Irgazin Yellow L 1030
(C.I.ピグメントイエロー109、BASF社製)
・Irgazin Yellow D 1999
(C.I.ピグメントイエロー110、BASF社製)
・Paliotol Yellow D 0960
(C.I.ピグメントイエロー138、BASF社製)
・Paliotol Yellow D 1819
(C.I.ピグメントイエロー139、BASF社製)
・PV Fast Yellow P−HG
(C.I.ピグメントイエロー180、クラリアント社製)
・Paliotol Yellow D 1155
(C.I.ピグメントイエロー185、BASF社製)
・TCY 18501L
(C.I.ピグメントイエロー185、トラストケム社製)
・Inkjet Yellow H5G
(C.I.ピグメントイエロー213、クラリアント社製)
【0188】
<顔料中の不純物含有量の測定方法>
容量250mlのポリプロピレン製広口びん(アズワン社製アイボーイ[登録商標])に、イオン交換水95gと、顔料5gとを添加し密閉した。次いで、振とう機で1時間、振とう撹拌を行った後、得られた試料を70℃オーブン中に7日間静置した。静置後、室温になるまで放冷した後、デカンテーションにより試料中の残渣を除去した。その後、残った上澄み液について、遠心分離機(日立工機社製HIMAC CP−100)を用いて、30,000rpm、6時間の条件で遠心分離を実施した。次いで、沈降物を除去した後の上澄み液に含まれる固形分量を測定することで、顔料中の不純物含有量を算出した。
なお固形分量の測定方法は、次のとおりである。上澄み液の一部を、あらかじめその質量を測定しておいたアルミ製の容器(前記質量をW1とする)に加え、総質量を測定した(総質量をW2とする)。その後、液体成分が完全に揮発するまでアルミ製の容器を80℃の温度下に静置し、再度総質量を測定した(総質量をW3とする)。固形分量を式:95×[(W3−W1)÷(W2−W1)]により算出した。
【0189】
<顔料分散樹脂1のワニスの製造>
撹拌機を備えた混合容器に、星光PMC社製スチレンアクリル樹脂X−1(重量平均分子量18,000、酸価110mgKOH/g)20.2部と、ジメチルアミノエタノール3.8部と、水76.0部とを添加し、十分に撹拌することで、前記スチレンアクリル樹脂の酸基を100%中和し、溶解させた。その後、溶液1gをサンプリングして、180℃で20分間にわたり加熱乾燥を行い、不揮発分を測定した後、前記不揮発分が20%となるように水を加えることで、顔料分散樹脂1のワニス(不揮発分20%)を得た。
【0190】
<イエロー顔料分散体1の製造例>
撹拌機を備えた混合容器に、SYMULER FAST YELLOW GFCONC20部と、顔料分散樹脂1のワニス36部と、水44部とを投入し、撹拌機で予備分散した後、直径0.5mmのジルコニアビーズ1,800gを充填した、容積0.6Lのダイノーミルを用いて2時間にわたり本分散を行い、イエロー顔料分散体1を得た。なお、顔料と顔料分散樹脂1(不揮発分)との比率は、顔料/顔料分散樹脂1(不揮発分)=100/36となっている。
【0191】
<イエロー顔料分散体2〜11の製造例>
顔料の種類を、それぞれ表1に示したものに変えた以外は、イエロー顔料分散体1と同様の方法で、イエロー顔料分散体2〜11を製造した。なお表1には、上記に記載した方法で測定した、顔料中の不純物含有量についても記載した。
【0192】
【表1】
【0193】
<オレフィン樹脂微粒子1の水分散液の製造>
撹拌機を備えた混合容器に、ポリエチレンワックス(融点約115℃)45部と、酸基含有ポリオレフィン(酸価17mgKOH/g、融点約100℃である、酸化ポリエチレンワックス)45部と、ポリオキシエチレンステアリルエーテル10部とを投入し、撹拌しながら加熱し溶融した。次いで、ジメチルアミノエタノール1.0部を添加した後、よく撹拌しながら、90℃以上の熱水110質量部を少しずつ加え、転相及び乳化を行った。得られた乳化物を室温まで冷却した後、水を添加して不揮発分が30質量%になるように調整し、オレフィン樹脂微粒子1の水分散液を得た。
【0194】
<オレフィン樹脂微粒子2〜3の水分散液の製造>
酸基含有ポリオレフィンを、酸価41mgKOH/g、融点約140℃である酸化ポリエチレンワックスに変更し、ポリエチレンワックスの投入量を32部、前記酸基含有ポリオレフィンの投入量を58部とし、更に、添加したジメチルアミノエタノールの量を2.3部とした以外は、オレフィン樹脂微粒子1の水分散液と同様の方法で、オレフィン樹脂微粒子2の水分散液(不揮発分30質量%)を製造した。
また、酸基含有ポリオレフィンを、酸価60mgKOH/g、融点約105℃である酸変性ポリエチレンワックスに変更し、添加したジメチルアミノエタノールの量を3.4部とした以外は、オレフィン樹脂微粒子2の水分散液と同様の方法で、オレフィン樹脂微粒子3の水分散液(不揮発分30質量%)を製造した。
【0195】
[実施例1〜7、比較例1〜6]
<水性イエローインキ1〜13の製造>
表2に記載した組成となるように、撹拌機を備えた混合容器に、上記で作製したイエロー顔料分散体、バインダー樹脂(星光PMC社製樹脂微粒子であるJE−1056(固形分42.5%、粒子径50nm))、溶剤、界面活性剤(日信化学工業社製アセチレンジオール系化合物であるサーフィノール104E)、塩基性有機化合物(B)(ジエタノールアミン(pKa=8.9))、及び、水を撹拌しながら添加し、1時間にわたり混合した。次いで、孔径1μmのメンブランフィルターで濾過を実施し、粗大粒子を除去することで、水性イエローインキ1〜13を得た。実施例中、表に示すJE−1056の含有量は、固形分の含有量である。
【0196】
【表2】
【0197】
なお表2中、*を記載した顔料は、イエロー顔料(A)に相当する。また表2には、下記に記載した評価1〜5の結果についても、併せて記載した。
【0198】
<イエローインキ塗工物の作製>
上記で作製した水性イエローインキ1〜13を用い、UPM社製UPM Finesse Gloss紙上に、松尾産業社製KコントロールコーターK202、ワイヤーバーNo.1(ウェット膜厚6μm)を用いて塗工した後、80℃オーブンにて1分間以上にわたり乾燥し、塗工物を作製した。得られたイエローインキ塗工物について、下記の色相、画像濃度(OD値)、分光反射率、及び耐光性の評価を行った。
【0199】
<評価1:イエローインキ塗工物の色相及び画像濃度の測定>
X−rite社製 i1Pro2を用い、光源D50、視野角2°、及びCIE表色系の条件で、上記で作製したイエローインキ塗工物の色相、及び、画像濃度を測定した。また得られたa*及びb*より、彩度Cと、色相角∠H°とを算出した。なお彩度Cは下記式(11)によって算出し、色相角∠H°は上記記載の式によって算出した。
【0200】
式(11):

C=√(a* 2 +b* 2
【0201】
なお彩度Cは、70以上であれば実使用可能レベルであり、85以上であれば実使用上、好ましいレベルであり、95以上であれば実使用上、特に好ましいレベルである。また色相角∠H°は、70〜105°であれば実使用可能レベルであり、76〜102°であれば実使用上、好ましいレベルであり、82〜98°であれば実使用上、特に好ましいレベルである。更に画像濃度(OD値)は、0.65以上であればよく、1.0以上であることが好ましく、1.1以上であることが特に好ましい。
【0202】
<評価2:イエローインキ塗工物の分光反射率の測定>
X−rite社製 i1Pro2を用い、光源D50、視野角2°、及びCIE表色系の条件で、上記で作製したイエローインキ塗工物の、380〜480nmの波長領域における分光反射率を10nmごとに測定した。なお、上記で説明したように、上記波長領域の全てで、分光反射率が10%以下であることが好ましい。
【0203】
<評価3:イエローインキ塗工物の耐光性試験>
上記で作製したイエローインキ塗工物、及び、JIS L 0841:2004に規定されている2〜7等級の標準青色染布(ブルースケール)を用い、JIS L 0843:2006に規定されている「キセノンアーク灯光に対する染色堅牢度試験方法」の第三露光法に基づき、スガ試験機社製キセノンウェザーメーターSX75を用いて、放射照度60W、ブラックパネル温度63℃、50%RHの条件にて耐光性試験を行った。次いで、各等級のブルースケールが退色したときの退色度合いを目視にて判定することで、イエローインキ塗工物の耐光性を等級にて判定した。結果は表2に示すとおりであり、3級以上を実使用可能レベル、6級以上を実使用上、好ましいレベルとした。
【0204】
<評価4:イエローインキの保存安定性試験>
水性イエローインキ1〜13の粘度を、E型粘度計(東機産業社製TVE25L型粘度計)を用いて測定した後、70℃オーブンにて保管した。次いで、1日毎に取り出し、再度上記と同様の方法で粘度の測定を行い、粘度の変化幅を確認することで、保存安定性の評価を行った。評価基準は以下の通りとし、A、B及びC判定を実使用可能レベルとした。
A:70℃保管4週間時点で変化幅が±0.5mPa・s以内であった
B:70℃保管2週間以上4週間未満で変化幅が±0.5mPa・s以上となった
C:70℃保管1週間以上2週間未満で変化幅が±0.5mPa・s以上となった
D:70℃保管1週間未満で変化幅が±0.5mPa・s以上となった
【0205】
<評価5:経時イエローインキの色相変化の評価>
水性イエローインキ1〜13を70℃オーブンにて2週間保管し、経時イエローインキ1〜13を作製した。その後、上記イエローインキ塗工物と同様の方法で、経時イエローインキ1〜13の塗工物(ウェット膜厚6μm)を作製し、未経時のイエローインキ1〜13を用いて作製したイエローインキ塗工物と目視比較することで、色相変化の評価を行った。評価基準は以下の通りとし、A判定を実使用可能レベルとした。
A:目視比較により、色相の変化は観察されなかった
B:目視比較により、色相の変化が観察された
【0206】
イエローインキ1〜7(実施例1〜7)については、CIELAB色空間において定義される彩度C及び色相角∠H°が実使用可能レベル以上、耐光性が3等級以上であり、保存安定性及び経時イエローインキの色相変化に関する評価結果も実使用可能レベルであった。特に、イエローインキ4〜7(実施例4〜7)で使用されている、C.I.ピグメントイエロー139及び185は、前記彩度C及び前記色相角∠H°が実使用上、特に好ましいレベルであるうえ、画像濃度(OD値)も高く、更に、380〜480nmの波長領域における分光反射率が10%以下であるため、色再現性及び耐光性に加えて、画像濃度も極めて高い、高濃度のイエローインキを作製することが可能である。
【0207】
なお、イエローインキ5と6(実施例5と6)は、同じC.I.ピグメントイエロー185を使用しているものの、画像濃度に差が見られた。イエローインキ6で使用した顔料は、不純物含有量が5質量%以下であったことで、分散時に泡立ち及び/または顔料分散樹脂の吸着阻害を抑えることができたためと考えられる。
【0208】
一方、イエローインキ8と9(比較例1と2)で使用したC.I.ピグメントイエロー12及び14は、一般的にオフセット印刷方式及びグラビア印刷方式で使用されているイエロー顔料である。これらの顔料を使用した場合、CIELAB色空間において定義される彩度C及び色相角∠H°が実使用上、特に好ましいレベルであり、更に、380〜480nmの波長領域における分光反射率も10%以下に抑え込むことができるため、高濃度のイエローインキを作製することは可能である。しかしながら耐光性が2等級と低いうえ、インキ8においては、保存安定性、及び経時イエローインキの色相変化に関する評価結果も、実使用上、問題となるレベルであった。
【0209】
また、イエローインキ12(比較例5)で使用したC.I.ピグメントイエロー213は、耐光性が7等級と非常に優れ、保存安定性及び経時イエローインキの色相変化に関する評価結果も実使用可能レベルであった。しかしながらCIELAB色空間において定義される彩度Cが70未満であり、色再現性に劣る印刷物となってしまうことが確認された。
その他、イエローインキ10と11(比較例3と4)に使用した顔料は経時イエローインキの色相変化に関する評価結果が悪く、経時で変色及び退色を起こしうるイエローインキであることが判明した。
【0210】
一方、イエローインキ13(比較例6)は、沸点が240℃以上である有機溶剤の含有量が5質量%より多いインキであり、同じ顔料を使用したイエローインキ6と7(実施例6と7)と比較して、経時イエローインキの色相変化に劣ることが確認された。
【0211】
[実施例8〜19、比較例7〜15]
<イエローインキ14〜34の製造>
更に、塩基性有機化合物(B)の効果を確認するため、水性イエローインキ1〜13と同様の方法で、表3に記載した組成を有するイエローインキ14〜34を製造した。次いで、得られたイエローインキ14〜34に関して、上記に記載した方法により保存安定性試験を実施した。更に、上記に記載した方法でイエローインキ塗工物(ウェット膜厚6μm)を作製した後、上記に記載した方法により耐光性の評価を行った。イエローインキ14〜34の、保存安定性及び耐光性の評価結果は表3に示した通りであった。
【0212】
【表3】
【0213】
なお、表3で使用した塩基性有機化合物の種類と25℃でのpKa値は、以下の通りである。
・ジエチルアミノエタノール pKa値=9.9
・ジエタノールアミン pKa値=8.9
・メチルジエタノールアミン pKa値=8.5
・トリエタノールアミン pKa値=7.8
【0214】
イエロー顔料(A)として、イソインドリン系顔料であるC.I.ピグメントイエロー139または185を使用したイエローインキについては、併用した塩基性有機化合物のpKa値が小さくなるに従い、耐光性及び保存安定性が良化することが確認された。またイソインドリノン系顔料であるC.I.ピグメントイエロー110を使用した場合についても、耐光性の良化傾向が見られた。
【0215】
また、イエローインキ22〜31は、塩基性有機化合物(B)として使用したトリエタノールアミンの含有量を変えたときの傾向を評価したものである。評価に使用した、C.I.ピグメントイエロー139及び185のいずれの場合も、含有量をイエローインキ全量中、0.1〜1%とすることで、耐光性と保存安定性とを両立できる結果となった。
【0216】
[実施例20〜43]
<イエローインキ35〜58の製造>
続いて、バインダー樹脂、有機溶剤、及び界面活性剤の種類及び/または量を変えたときの効果を確認するため、水性イエローインキ1〜13と同様の方法で、表4に記載した組成を有するイエローインキ35〜58を製造した。次いで、得られたイエローインキ35〜58に関して、上記に記載した方法により保存安定性を評価した。更に、下記に記載した方法により、色差ΔEの評価を行った。イエローインキ35〜58の、保存安定性及び色差ΔEの評価結果は表4に示した通りであった。
【0217】
【表4】
【0218】
【表4】
【0219】
<評価6:色差の評価>
以下に示す記録媒体を使用した以外は、上記イエローインキ塗工物の作製方法と同様にして、上記で作製した水性イエローインキ35〜58のそれぞれについて、記録媒体が異なる複数のイエローインキ塗工物を作製した。次いで、全てのイエローインキ塗工物について、X−rite社製 i1Pro2を用い、光源D50、視野角2°、及びCIE表色系の条件で、色相(L*値、a*、及びb*値)を測定した。次いで、水性イエローインキ35〜58ごとに、イエローインキ塗工物の測定により得られたL*値、a*、及びb*値の差(記録媒体が異なる2種類の塗工物の差。それぞれ、ΔL*、Δa*、及びΔb*とする。)を算出し、更に下記式(12)によって色差ΔEを算出した。
【0220】
式(12):

ΔE=√(ΔL* 2 +Δa* 2 +Δb* 2
【0221】
水性イエローインキ35〜58ごとに、全てのイエローインキ塗工物の組み合わせについて上記色差ΔEを算出し、色差ΔEの最大値を比較することで、記録媒体に起因するイエローインキ塗工物の色相の差を評価した。評価基準は以下の通りとし、A、B及びC判定を実使用可能レベルとした。
A:ΔEの最大値が1.0未満であった。
B:ΔEの最大値が1.0以上2.0未満であった。
C:ΔEの最大値が2.0以上3.0未満であった。
D:ΔEの最大値が3.0以上であった。
【0222】
<評価6で使用した記録媒体>
・コート紙:UPM社製UPM Finesse Gloss紙
・普通紙:日本製紙社製NPI−70紙
・ポリ塩化ビニルシート:メタマーク社製MD−5
【0223】
イエローインキ38、40、及び、42〜43のように、水溶性有機溶剤として、1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、及び1,2−ヘキサンジオールからなる群より選択される2種以上を含み、且つその合計含有量がイエローインキ全量中10〜30質量%であるイエローインキは、いずれの記録媒体を用いた場合も色差ΔEが小さく、また保存安定性にも優れていることが確認された。
【0224】
また、イエローインキ43、45〜48、及び、イエローインキ49〜52は、界面活性剤のHLB値を変えて評価を行ったものである。その結果、イエロー顔料(A)としてC.I.ピグメントイエロー139及び185のいずれを使用した場合も、HLB値が8以下、特に好ましくは6以下である界面活性剤を使用することで、色相の記録媒体に起因する変化を小さく抑えることができることが判明した。
【0225】
イエローインキ53〜56は、バインダー樹脂としてオレフィン樹脂微粒子を使用した際の、前記イエローインキの品質に与える影響について評価したものである。なお、上記式(8)で表される酸価/アミン価比は、それぞれ、0.53×10 -4 、1.6×10 -4 、9.9×10 -4 、または14.5×10 -4 である。評価の結果、オレフィン樹脂微粒子を含まないイエローインキ49と比較して、前記酸価/アミン価比が1.5×10 -4 〜10×10 -4 であるイエローインキ54及び55では、保存安定性の向上が確認された。
【0226】
[実施例44〜52、比較例16〜18]
続いて、レッド領域の色再現性を確認するため、イエローインキとマゼンタインキとからなるインキセットを作製し、彩度Cm、画像濃度(OD値)、及び、380〜480nmの波長領域における分光反射率を評価した。
【0227】
<イエローインキ59〜63の製造>
水性イエローインキ1〜13と同様の方法で、表5に記載した組成を有するイエローインキ59〜63を製造した。
【0228】
【表5】
【0229】
<マゼンタインキ1の製造>
撹拌機を備えた混合容器に、クラリアント社製Ink Jet Magenta E−S(C.I.ピグメントレッド122)20部と、顔料分散樹脂1のワニス36部と、水44部とを投入し、撹拌機で予備分散した後、直径0.5mmのジルコニアビーズ1,800gを充填した容積0.6Lのダイノーミルを用いて2時間にわたり本分散を行い、マゼンタ顔料分散体1を得た。
このマゼンタ顔料分散体1を30部と、プロピレングリコールを10部と、1,2−ブタンジオールを10部と、星光PMC社製樹脂エマルションであるJE−1056(固形分42.5%、粒子径50nm)を9部と、サーフィノール104Eを1部と、水54部とを、撹拌機を備えた上記とは別の混合容器に撹拌しながら添加し、1時間にわたり混合した。次いで、孔径1μmのメンブランフィルターで濾過を実施し、粗大粒子を除去することで、マゼンタインキ1を得た。
【0230】
<マゼンタインキ2〜8の製造>
顔料の種類を、それぞれ表6に示したものに変えた以外は、マゼンタ顔料分散体1と同様の方法で、マゼンタ顔料分散体2〜8を製造した。次いで、マゼンタ顔料分散体1を、マゼンタ顔料分散体2〜8に変えた以外は、マゼンタインキ1と同様の方法で、マゼンタインキ2〜8を製造した。
【0231】
【表6】
【0232】
<マゼンタインキとイエローインキとの重ね塗工物(レッド塗工物)の作製>
上記で製造したマゼンタインキとイエローインキとを、表7のように組み合わせ、以下に示した方法で塗工物(レッド塗工物)を作製した。先ず上記で製造したマゼンタインキ1〜8を、UPM社製UPM Finesse Gloss紙上に、松尾産業社製KコントロールコーターK202、ワイヤーバーNo.1(ウェット膜厚6μm)を用いて塗工した後、80℃オーブンにて1分間以上にわたり乾燥し、マゼンタインキ塗工物を作製した。
その後、前記マゼンタインキによる塗膜上に重なるように、また表4に記載した組み合わせになるようにして、イエローインキ59〜60を塗工した。なお塗工に使用した装置は、マゼンタインキ塗工物の作製に使用したものと同一とした。塗工後、80℃オーブンにて1分間以上にわたり乾燥することで、マゼンタインキとイエローインキとを重ねた塗工物(レッド塗工物)を作製した。
なお、上記レッド塗工物の作製にあたっては、産業用シングルパスインクジェットプリンターにて一般的に用いられている、ブラック→シアン→マゼンタ→イエローの印刷順序を考慮した。
【0233】
なお、上記で得たマゼンタインキ塗工物について、イエローインキ塗工物と同様の方法により色相角∠Hm°を測定したところ、マゼンタインキ1、3又は8により形成した塗工物の色相角∠Hm°は330〜360°であり、マゼンタインキ2、4、5又は7により形成した塗工物の色相角∠Hm°は0〜45°であった。
【0234】
【表7】
【0235】
上記で得られたレッド塗工物について、下記の色相の評価を行った。
【0236】
<評価7:レッド塗工物の色相及び画像濃度の測定>
X−rite社製 i1Pro2を用い、光源D50、視野角2°、及びCIE表色系の条件、上記で作製したレッド塗工物の色相、及び、画像濃度を測定した。また得られたa*及びb*より、上記式(11)によって、レッド塗工物の彩度(Cmとする)を算出した。次いで得られた彩度Cmを、Japan Color 2007、Fogra39におけるレッド標準色の彩度(以下、C STDとする)と比較することで、レッド塗工物の色再現性を評価した。彩度Cの評価基準は下記に示した通りであり、A及びB判定を実使用可能レベルと判断した。また画像濃度(OD値)は、1.2以上であることが好ましく、1.4以上であることが特に好ましい。
A:レッド塗工物の彩度Cmが、Japan Color 2007における標準色の彩度(C STD =81.9)以上、かつ、Fogra39における標準色の彩度(C STD=83.2)以上であった。
B:レッド塗工物の彩度Cmが、Japan Color 2007における標準色の彩度(C STD =81.9)以上であったが、Fogra39における標準色の彩度(C STD =83.2)よりも小さかった。
C:レッド塗工物の彩度Cmが、Japan Color 2007における標準色の彩度(C STD =81.9)よりも小さかった。
【0237】
<評価8:レッド塗工物の分光反射率の測定>
上記評価2と同様の方法で、レッド塗工物の、380〜480nmの波長領域における分光反射率を10nmごとに測定した。なお、上記波長領域の全てで、分光反射率が5%以下であることが、色再現性の観点から好ましい。
【0238】
評価の結果、本発明の実施形態であるイエローインキと、キナクリドン顔料を含むマゼンタインキとを組み合わせることで、色再現性に優れ、また、画像濃度も高い印刷物が得られることが確認された。その一方で、イエロー顔料(A)を含まないイエローインキを使用した場合、彩度に大きく劣ることが判明した。
【0239】
一般に、上記マゼンタインキに使用したキナクリドン顔料は、380〜480nmの波長領域に反射を有するため、イエローインキと重ねたレッド色の色再現領域が狭くなる傾向にある。しかしながら、本発明の実施形態であるイエローインキと組み合わせることで、上記の通り、レッド領域の色再現性、更には画像濃度にも優れた印刷物を得ることができる。
【0240】
また、本発明の実施形態であるイエローインキと、一般式(2)で表される構造を有するマゼンタ顔料を含むマゼンタインキとを組み合わせた際も、キナクリドン顔料を含むマゼンタインキの場合と同様に、色再現性に優れ、また、画像濃度も高い印刷物を得ることができた。
【0241】
[実施例53〜68、比較例21〜22]
続いて、様々な標準色の再現性を確認するため、更に、シアンインキ及びバイオレットインキを製造し、上記で製造したイエローインキ及びマゼンタインキと組み合わせ、カラーパッチ印刷物の色相を評価した。
【0242】
<シアンインキ1の製造>
撹拌機を備えた混合容器に、トーヨーカラー社製LIONOGEN BLUE FG−7358G(C.I.ピグメントブルー15:3)20部と、顔料分散樹脂1のワニス30部と、水50部とを投入し、撹拌機で予備分散した後、直径0.5mmのジルコニアビーズ1,800gを充填した容積0.6Lのダイノーミルを用いて2時間にわたり本分散を行い、シアン顔料分散体1を得た。
このシアン顔料分散体1を15部と、プロピレングリコールを10部と、1,2−ブタンジオールを10部と、星光PMC社製樹脂エマルションであるJE−1056(固形分42.5%、粒子径50nm)を9部と、サーフィノール104Eを1部と、トリエタノールアミンを0.8部と、水54.2部とを、撹拌機を備えた上記とは別の混合容器に撹拌しながら添加し、1時間にわたり混合した。次いで、孔径1μmのメンブランフィルターで濾過を実施し、粗大粒子を除去することで、シアンインキ1を得た。
【0243】
<シアンインキ2、バイオレットインキ1〜4の製造>
顔料の種類を、それぞれ表8に示したものに変えた以外は、シアン顔料分散体1と同様の方法で、シアン顔料分散体2、及び、バイオレット顔料分散体1〜4を製造した。次いで、表9に記載した組成を有するシアンインキ1〜3、及び、バイオレットインキ1〜4を製造した。
【0244】
【表8】
【0245】
【表9】
【0246】
<カラーパッチ印刷物の作製>
基材を搬送できるコンベヤの上部に、京セラ社製インクジェットヘッド(KJ4B−QAモデル、設計解像度600dpi)が4個設置されたインクジェット吐出装置を準備し、表10に記載されたインキの組み合わせをインキセットとして、上流側から、バイオレットインキ、シアンインキ、マゼンタインキ、及びイエローインキとなるように充填した。
次いで、コンベヤ上にUPM社製UPM Finesse Gloss紙を固定した後、前記コンベヤを50m/分の速度で駆動させ、前記インクジェットヘッドの設置部を通過する際に、バイオレットインキ、シアンインキ、マゼンタインキ、イエローインキの順に、それぞれ周波数30kHz、600×600dpiの印字条件で吐出することで、カラーチャート画像(各インキセットを構成するインキのうち2種類を、印字率10%刻みで掛け合わせたパッチを、全ての組み合わせについて配列した画像)の印刷を行った。次いで、印刷後、速やかに、70℃エアオーブンを用いて3分間にわたり乾燥させることで、カラーパッチ印刷物を作製した。
【0247】
【表10】
【0248】
上記で得られたカラーパッチ印刷物について、下記の色相の評価を行った。
【0249】
<評価9:カラーパッチ印刷物の色相の評価>
X−rite社製 i1Pro2を用い、光源D50、視野角2°、及びCIE表色系の条件で、上記で作製したカラーパッチ印刷物の色相を測定した。また得られたa*及びb*より、各カラーパッチの彩度Cc及び色相角∠Hc°を算出した。なお彩度Ccは上記記載の式(11)によって算出し、色相角∠Hc°は上記記載の式によって算出した。
各カラーパッチの色相角∠Hc°を、下記の各標準色の色相角と比較し、最もその差が小さい前記カラーパッチの彩度Ccを、前記標準色の彩度と比較することで、カラーパッチ印刷物の色相を評価した。Warm−Redを除く3種類の標準色においてA判定であるものを実使用可能レベルと判断した。
A:標準色の色相角との差が最も小さかったカラーパッチの彩度Ccが、前記標準色の彩度以上であった。
B:標準色の色相角との差が最も小さかったカラーパッチの彩度Ccが、前記標準色の彩度未満であった。
【0250】
<評価9で使用した標準色>
・Fogra−Magenta:Fogra39におけるマゼンタ標準色
(彩度=72.2、色相角=356°)
・Reflex−Blue:PANTONE Reflex Blue C標準色
(彩度=74.0、色相角=290°)
・Pantone−Grn:PANTONE Green C標準色
(彩度=76.4、色相角=180°)
・Warm−Red:PANTONE Warm Red C標準色
(彩度=90.3、色相角=39°)
【0251】
評価の結果、本発明の実施形態であるイエローインキと、マゼンタインキと、シアンインキ及び/またはバイオレットインキとを含むインキセットを用いることで、上記に示した各標準色の再現性に優れる印刷物を作製できることが確認された。特に、前記マゼンタインキが一般式(2)で表される構造を有するマゼンタ顔料を含み、かつ、前記シアンインキがC.I.ピグメントブルー15:3及び15:6からなる群より選択される1種を含む場合か、前記バイオレットインキがC.I.ピグメントバイオレット3、23、27、及び32からなる群より選択される1種を含む場合か、または、これらの両方の場合は、イエローインキ、マゼンタインキ、並びに、シアンインキ及び/またはバイオレットインキの3色または4色の有彩色インキのみで、色再現性に優れた印刷物が得られることが判明した。一方で、イエロー顔料(A)を含まないイエローインキ61または62を使用したインキセットでは、Fogra39におけるマゼンタ標準色を再現できなかったうえ、レッド領域に属するPANTONE Warm Red C標準色、及び、グリーン領域に属するPANTONE Green C標準色の再現性にも劣っていた。
【0252】
また、一般式(2)で表される構造を有するマゼンタ顔料を含み、塗工物の色相角∠Hm°が330〜360°であるマゼンタインキ3及び8は、レッド領域の色再現性が特段に優れていた。一方、一般式(2)で表される構造を有するマゼンタ顔料を含み、塗工物の色相角∠Hm°が0〜45°であるマゼンタインキ2、4、5及び7は、総合的な色再現性(CMY又はRGB)が優れていた。
【0253】
本願の開示は、2018年12月17日に出願された特願2018−235199号に記載の主題と関連しており、その全ての開示内容は引用によりここに援用される。
【要約】
【課題】色再現性及び耐光性に優れ、また経時で変色及び退色を起こすことがない印刷物を得ることができ、更に保存安定性及び分散安定性に優れた水性インクジェットイエローインキを提供すること。
【解決手段】特定の部分構造を有するイエロー顔料(A)と、有機溶剤と、塩基性有機化合物と、水とを含む、水性インクジェットイエローインキであって、前記イエロー顔料(A)の含有量が、前記水性インクジェットイエローインキの全量中、1〜10質量%であり、前記塩基性有機化合物が、25℃におけるpKa値が9.5以下である塩基性有機化合物(B)を、前記水性インクジェットイエローインキの全量中に0.1〜1.25質量%含み、1気圧下における沸点が240℃以上である有機溶剤の含有量が、前記水性インクジェットイエローインキの全量中、5質量%以下である、水性インクジェットイエローインキ。
【選択図】なし