特許第6712413号(P6712413)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人物質・材料研究機構の特許一覧

特許6712413磁場下でのイオン輸送を利用する帯電状態の制御方法及びその用途
<>
  • 特許6712413-磁場下でのイオン輸送を利用する帯電状態の制御方法及びその用途 図000002
  • 特許6712413-磁場下でのイオン輸送を利用する帯電状態の制御方法及びその用途 図000003
  • 特許6712413-磁場下でのイオン輸送を利用する帯電状態の制御方法及びその用途 図000004
  • 特許6712413-磁場下でのイオン輸送を利用する帯電状態の制御方法及びその用途 図000005
  • 特許6712413-磁場下でのイオン輸送を利用する帯電状態の制御方法及びその用途 図000006
  • 特許6712413-磁場下でのイオン輸送を利用する帯電状態の制御方法及びその用途 図000007
  • 特許6712413-磁場下でのイオン輸送を利用する帯電状態の制御方法及びその用途 図000008
  • 特許6712413-磁場下でのイオン輸送を利用する帯電状態の制御方法及びその用途 図000009
  • 特許6712413-磁場下でのイオン輸送を利用する帯電状態の制御方法及びその用途 図000010
  • 特許6712413-磁場下でのイオン輸送を利用する帯電状態の制御方法及びその用途 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6712413
(24)【登録日】2020年6月3日
(45)【発行日】2020年6月24日
(54)【発明の名称】磁場下でのイオン輸送を利用する帯電状態の制御方法及びその用途
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/66 20060101AFI20200615BHJP
【FI】
   H01L29/66 M
【請求項の数】14
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-156389(P2016-156389)
(22)【出願日】2016年8月9日
(65)【公開番号】特開2018-26424(P2018-26424A)
(43)【公開日】2018年2月15日
【審査請求日】2019年6月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土屋 敬志
(72)【発明者】
【氏名】寺部 一弥
【審査官】 杉山 芳弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−011786(JP,A)
【文献】 特開2007−203205(JP,A)
【文献】 特開平4−234453(JP,A)
【文献】 特開2011−134557(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0365600(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/66
H01M 6/00
H01M 10/00
B03C 1/00
H01B 1/06
H01B 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質材料を構成するアニオン及びカチオンの少なくとも一方が磁性を有する電解質材料、前記電解質材料を挟んで配置された電極1、及び電極2、並びに磁石を設けた装置であって、前記磁石からの磁界を制御することで、電極1及び/又は電極2の表面の帯電状態を制御する、磁界効果トランジスタである装置。
【請求項2】
電解質材料を構成するアニオン及びカチオンの少なくとも一方が磁性を有する電解質材料、前記電解質材料を挟んで配置された電極1、及び電極2、並びに磁石を設けた装置であって、下記i)からiv)うち少なくとも1の要件を具備し:
i)前記電極1が、電子伝導性を有する金属、及び半導体からなる群から選択される少なくとも一つを含み、前記金属、又は半導体が、磁場下でイオンとの化学反応が可能な活性物質を含む;
ii)前記電極1が、電子伝導性を有する金属、及び半導体からなる群から選択される少なくとも一つを含み、前記金属、又は半導体が、磁場下でイオン輸送が可能な電解質を含み、前記電解質内及び/又は前記電極2内のイオンが移動して前記電極1内に挿入される;
iii)前記電極2が、電子伝導性を有する金属、及び半導体からなる群から選択される少なくとも一つを含み、前記金属、又は半導体が、磁場下でイオンとの化学反応が可能な活性物質を含む;
iv)前記電極2が、電子伝導性を有する金属、及び半導体からなる群から選択される少なくとも一つを含み、前記金属、又は半導体が、磁場下でイオン輸送が可能な電解質を含み、前記電解質内及び/又は前記電極1内のイオンが移動して前記電極2内に挿入される;
かつ、前記磁石からの磁界を制御することで、電極1及び/又は電極2の表面の帯電状態を制御する装置。
【請求項3】
蓄電装置である、請求項に記載の装置。
【請求項4】
前記電極1又は前記電極2に前記磁石を近づけることによって前記アニオン及びカチオンの少なくとも一方を輸送させ、前記電極1と前期電極2の間に電圧を生じる請求項に記載の装置。
【請求項5】
前記アニオン及びカチオンの少なくとも一方の、前記電極1若しくは電極2側への移動、又は前記電極1若しくは前記電極2内への挿入によって、前記電極1及び電極2に電子及び正孔が生成され、それに伴って放電可能な電力が与えられる、請求項に記載の蓄電装置。
【請求項6】
前記電解質材料が、液体電解質又は固体電解質を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
前記液体電解質が、塩化鉄イオン(FeCl-)、及び硫酸銅(CuSO)からなる群より選ばれる少なくとも一つを含む、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記電解質材料が、可動イオンを有する高分子化合物を含む、請求項6に記載の装置。
【請求項9】
前記高分子化合物が、ポリエチレンオキシドである、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記電解質材料が、可動イオンを有する金属酸化物を含む、請求項6に記載の装置。
【請求項11】
前記金属酸化物が、ケイ酸(SiO)、酸化タンタル(Ta)を含む、請求項10に記載の装置。
【請求項12】
前記磁石が、永久磁石又は電磁石である、請求項1から10のいずれか一項に記載の装置。
【請求項13】
電解質材料を構成するアニオン及びカチオンの少なくとも一方が磁性を有する電解質材料、並びに前記電解質材料を挟んで配置された電極1、及び電極2、に印加する磁界を制御することで、電極1及び/又は電極2の表面の帯電状態を制御する方法であって、下記i)からiv)うち少なくとも1の要件を具備する方法:
i)前記電極1が、電子伝導性を有する金属、及び半導体からなる群から選択される少なくとも一つを含み、前記金属、又は半導体が、磁場下でイオンとの化学反応が可能な活性物質を含む;
ii)前記電極1が、電子伝導性を有する金属、及び半導体からなる群から選択される少なくとも一つを含み、前記金属、又は半導体が、磁場下でイオン輸送が可能な電解質を含み、前記電解質内及び/又は前記電極2内のイオンが移動して前記電極1内に挿入される;
iii)前記電極2が、電子伝導性を有する金属、及び半導体からなる群から選択される少なくとも一つを含み、前記金属、又は半導体が、磁場下でイオンとの化学反応が可能な活性物質を含む;
iv)前記電極2が、電子伝導性を有する金属、及び半導体からなる群から選択される少なくとも一つを含み、前記金属、又は半導体が、磁場下でイオン輸送が可能な電解質を含み、前記電解質内及び/又は前記電極1内のイオンが移動して前記電極2内に挿入される
【請求項14】
電解質材料を構成するアニオン及びカチオンの少なくとも一方が磁性を有する電解質材料、並びに前記電解質材料を挟んで配置された電極1、及び電極2、に印加する磁界を制御することで、電極1及び/又は電極2の表面の帯電状態を制御する方法を用いる、磁界効果トランジスタ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁場下における電解質中でのイオン移動により電極表面の帯電状態を制御する方法に関するものである。さらに本発明は、この方法を用いて蓄電する装置や電子キャリア濃度を制御する磁界効果トランジスタにも関する。
【背景技術】
【0002】
現代生活において電気、及び電気を利用する科学技術は必要不可欠なものとなっている。例えば近年、電池やキャパシタに代表される様々な蓄電装置が利用されている。通常、こうした蓄電装置においては、化学、熱、光等のエネルギー源により供給される電場下での荷電粒子(電子やイオン)の輸送を用いて蓄電を行う。これは荷電粒子が輸送され電極界面や電極内において濃度差を生じ、それに伴い電極の帯電状態を変化せしめるために通常電場が必要なためである。よって、蓄電には一般に先述のようなエネルギー源が必要となる。また、情報通信機器に幅広く利用される電界効果トランジスタにおいても、半導体中の電子キャリア濃度を電場に誘起される電子輸送、蓄積に起因する帯電状態の変化で制御しているため、電場及びそれを供給するためのエネルギー源が必要となる。
【0003】
一方、荷電粒子が電場だけでなく磁場でも輸送可能であることが知られている。特に磁場下でのイオン輸送についての最近の報告は、これを用いた帯電状態制御の可能性を示唆している(例えば、非特許文献1、2、及び3参照。)。磁場(磁気エネルギー)は小型磁石のみで与えることが出来るため可搬性が高く、これを用いた帯電状態の制御が可能になれば、利便性・汎用性の高い蓄電装置等への発展が期待される。蓄電装置を一例にすれば、太陽光のような光エネルギー、風力エネルギー等の供給源のない暗闇・無風状態でも蓄電出来る。特に高深度、水中、宇宙空間のような極限状態においても好適に利用することができる。また、情報通信技術に応用すれば、他の一例として磁界効果トランジスタが得られ、従来技術と全く異なる次世代技術への展開が期待される。
【0004】
これまでに磁場を蓄電に用いようとする試みがなされている。例えば、非接触電力伝送では、電磁誘導によって蓄電する。この場合は電力を非接触で伝送する手段として磁場が使われているが、伝送される電力自体は磁場(磁気エネルギー)で蓄電したものではない(例えば、非特許文献4参照。)。また、電池の反応物を効率良く流動させるために磁性流体を利用している例もある。ここでは蓄電装置の動作の一部に磁場が関わっているが、磁場は撹拌に利用されているのであり、磁場(磁気エネルギー)で畜電しているのではない(例えば、非特許文献5参照。)。このように、磁場(磁気エネルギー)のみによって電力を生み出し蓄電するという課題は、未だ解決されていない。また、磁場を情報通信技術に用いようとする試みもなされている。これは磁気抵抗効果やスピントロニクスと呼ばれるが、いずれも磁場印加による磁気ベクトルやスピンの変化を利用するものであり、帯電状態、及び電子キャリア濃度を制御するものではない(例えば、非特許文献6参照。)。よって磁場によって電子キャリア濃度を制御するという課題もまた解決されておらず、磁界効果トランジスタと呼ぶべき技術は存在しない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Inorg.Chem.,40,2298(2001)
【非特許文献2】Appl.Phys.Lett.,392,460(2004)
【非特許文献3】Chem.Lett.,33,12,1590(2004)
【非特許文献4】IEEE J.,128,12,796(2008)
【非特許文献5】Nano Lett.,15,7394(2015)
【非特許文献6】Phys.Rev.Lett.,61,2472(1988)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の背景技術に鑑み、本発明の課題は、磁場を用いて電解質中でイオンを輸送させることで電子キャリア濃度を制御して帯電状態を制御する方法、及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、磁性を有するアニオン及び/又はカチオンを有する電解質材料、一対の電極、並びに磁石を組み合わせることで、上記課題が効果的に解決されることを見い出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明の一側面は、
[1]電解質材料を構成するアニオン及びカチオンの少なくとも一方が磁性を有する電解質材料、前記電解質材料を挟んで配置された電極1、及び電極2、並びに磁石を設けた装置であって、前記磁石からの磁界を制御することで、電極1及び/又は電極2の表面の帯電状態を制御する装置、である。
当該装置は、可変電気抵抗素子としても機能する。
当該装置を構成する電解質材料は、磁性を有するアニオン及び/又はカチオンを有することで、磁場によるイオンの輸送が可能である。
【0008】
また、以下[2]から[18]は、いずれも本発明の好ましい一形態、又は一態様である。
[2]
蓄電装置である、[1]に記載の装置。
[3]
磁界効果トランジスタである、[1]に記載の装置。
[4]
前記電極1又は前記電極2に前記磁石を近づけることによって前記アニオン及びカチオンの少なくとも一方を輸送させ、前記電極1と前期電極2の間に電圧を生じる[1]に記載の装置。
[5]
前記アニオン及びカチオンの少なくとも一方の、前記電極1若しくは電極2側への移動、又は前記電極1若しくは前記電極2内への挿入によって、前記電極1及び電極2に電子及び正孔が生成され、それに伴って放電可能な電力が与えられる、[2]に記載の蓄電装置。
[6]
前記電解質材料が、液体電解質又は固体電解質を含む、[1]から[5]のいずれか一項に記載の装置。
[7]
前記液体電解質が、塩化鉄イオン(FeCl-)、及び硫酸銅(CuSO)からなる群より選ばれる少なくとも一つを含む、[6]に記載の装置。
[8]
前記電解質材料が、可動イオンを有する高分子化合物を含む、[6]に記載の装置。
[9]
前記高分子化合物が、ポリエチレンオキシドである、[8]に記載の装置。
[10]
前記電解質材料が、可動イオンを有する金属酸化物を含む、[6]に記載の装置。
[11]
前記金属酸化物が、ケイ酸(SiO)、酸化タンタル(Ta)を含む、[10]に記載の装置。
[12]
前記電極1が、電子伝導性を有する金属、及び半導体からなる群から選択される少なくとも一つを含む、[1]から[11]のいずれか一項に記載の装置。
[13]
前記金属、又は半導体が、磁場下でイオンとの化学反応が可能な活性物質を含む、[12]に記載の装置。
[14]
前記金属、又は半導体が、磁場下でイオン輸送が可能な電解質を含み、前記電解質内及び/又は前記電極2内のイオンが移動して前記電極1内に挿入される、[12]に記載の装置。
[15]
前記電極2が、電子伝導性を有する金属、及び半導体からなる群から選択される少なくとも一つを含む、[1]から[11]のいずれか一項に記載の装置。
[16]
前記金属、又は半導体が、磁場下でイオンとの化学反応が可能な活性物質を含む、[15]に記載の装置。
[17]
前記金属、又は半導体が、磁場下でイオン輸送が可能な電解質を含み、前記電解質内及び/又は前記電極1内のイオンが移動して前記電極2内に挿入される、[15]に記載の装置。
[18]
前記磁石が、永久磁石又は電磁石である、[1]から[17]のいずれか一項に記載の装置。
【0009】
本発明の他の一側面は、
[19]
電解質材料を構成するアニオン及びカチオンの少なくとも一方が磁性を有する電解質材料、並びに前記電解質材料を挟んで配置された電極1、及び電極2、に印加する磁界を制御することで、電極1及び/又は電極2の表面の帯電状態を制御する方法、である。
また、以下[20]及び[21]も、いずれも本発明の好ましい一形態、又は一態様である。
[20]
[19]に記載の方法を用いる、蓄電装置。
[21]
[19]に記載の方法を用いる、磁界効果トランジスタ。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電解質材料、及び電極1、2への磁場印加によってイオンが輸送され、その効果により、装置を蓄電し放電可能な状態に変化させることが可能である。この原理を利用した蓄電装置を用いれば、磁気エネルギーを用いて蓄電するため、化学、熱、光等のエネルギー源が不要となる。他のエネルギー源の確保が難しい環境で動作させる場合に特に有利である。
また、この原理を利用した電気素子を作製すれば、磁界効果トランジスタとして用いることが出来る。これにより、新しい情報通信機器への展開が期待されるのみならず、新たな磁場の測定手法として用いることも出来る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一態様である、磁場下でのイオン輸送によって蓄電を可能にする装置の模式図。
図2】本発明の一態様である、磁場下でのイオン輸送によって電気抵抗制御を可能にする素子の模式図。
図3】負の電荷を有するイオン1を含む電解質材料を用いた場合に、イオンの移動によって動的に引き起こされる蓄電を利用した蓄電装置の動作原理を示す図。
図4】負の電荷を有するイオン1を含む電解質材料を用いた場合に、イオンの移動によって動的に引き起こされる電気抵抗変化を利用した可変電気抵抗素子の動作原理を示す図。
図5】本発明の一実施例における、金電極を用いた蓄電装置の磁場変化に伴う起電力の変化を示す図。
図6】本発明の一実施例における、起電力の液体電解質([bmim]FeCl)濃度依存性を示す図。
図7】本発明の一実施例における、起電力の磁場依存性を示す図。
図8】本発明の一実施例における、蓄電装置の出力特性を示す図。
図9】本発明の一実施例において、アルミニウム電極を用いた場合の磁場変化に伴う起電力の変化を示す図。
図10】本発明の一実施例における、水素終端ダイヤモンドを用いた可変電気抵抗素子の磁場変化に伴う電流の変化を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態として、磁場下でイオンが伝導できる電解質材料と、前記電解質材料を挟む電極1及び電極2とを設け、さらに磁場を印加するための磁石を加えた蓄電装置が提供される。磁場下でイオンが伝導できる電解質材料は、該電解質材料を構成するアニオン及びカチオンの少なくとも一方が磁性を有し、当該アニオン及びカチオンの少なくとも一方が磁場により移動することにより、磁場下でのイオン伝導が実現される。
また、前記電極1、もしくは前記電極2の側から前記磁石を近づけて磁場を印加することによって、前記電解質材料内のイオン(前記アニオン及びカチオンの少なくとも一方)が移動して前記電解質内、もしくは前記電極1、2内でイオン濃度に偏りができるようにすることで、電極1及び/又は電極2の表面の帯電状態を制御してもよい。
【0013】
また、前記アニオン及びカチオンの少なくとも一方の分布の偏りによって前記電極1内及び電極2内に電子キャリアが蓄積され、それに伴って放電可能な電力が与えられていてもよい。
【0014】
[電解質材料]
前記電解質材料は、液体電解質又は固体電解質を少なくとも一つを含んでいてもよい。
また、ここで液体電解質は純水、その他の溶媒で希釈されていてもよい。液体電解質が希釈されることで、磁界を印加したときのイオンの濃度差が生じ易くなり、起電力を増加させることができる。
更に、前記電解質材料は構成要素として塩化鉄イオン(FeCl-)、及び硫酸銅(CuSO)からなる群から選ばれる少なくとも一つを含んでいてもよく、特に塩化鉄イオン(FeCl-)を含むことが好ましい。これは塩化鉄イオン(FeCl-)の磁場下での特に高い輸送特性による。
また、前記電解質材料は可動イオンを有する高分子化合物を含んでいてもよい。
更に、前記高分子化合物はポリエチレンオキシドを含んでいてもよい。
また、前記電解質材料は金属酸化物を含んでいてもよい。
更に、前記電極1は磁気特性(常磁性、強磁性、反磁性、反強磁性、超常磁性)を問わず電子伝導性を有する金属(金、アルミニウム、鉄)、半導体を用いてもよい。
また、前記電極1は磁場下でイオンとの化学反応が可能な活性物質を含んでいてもよい。
更に、前記活性物質はアルミニウム、鉄からなる群れから選択された少なくとも一つからなっていてもよい。
【0015】
[電極]
前記電極1は磁場下でイオン輸送が可能な電解質を含んでよく、前記電解質材料内及び前記電極2内のイオンが移動して前記電極1内に挿入されるようにしてもよい。
また、前記電極2は磁気特性(常磁性、強磁性、反磁性、反強磁性、超常磁性)を問わず電子伝導性を有する金属、半導体を用いてよい。
更に、前記電極2は磁場下でイオンとの化学反応が可能な活性物質を含んでよい。
また、前記活性物質はアルミニウム、鉄からなる群れから選択された少なくとも一つからなってよい。
また、前記電極2は磁場下でイオン輸送が可能な電解質を含んでよく、前記電解質材料内及び前記電極1内のイオンが移動して前記電極2内に挿入されるようにしてよい。
【0016】
[磁石]
前記磁石は永久磁石、電磁石からなる群れから選択された少なくとも一つからなっていてもよい。
外部からのエネルギー供給を必要とせずに磁界を発生させることができる点では、永久磁石が好ましく、例えばフェライト磁石等の汎用磁石や、サマリウムコバルト磁石又はネオジム磁石等の希土類磁石等から適宜選択することができる。高強度の磁界を発生できる点で、希土類磁石が特に好ましい。
磁界の強度等の制御が容易である点では、電磁石が好ましい。常電導磁石ないし超電導磁石のいずれでも使用可能であるが、高強度の磁場を印加する場合には、磁場強度のコントロール性と安定性の両方を兼ね備えた超電導磁石が好適に用いられる。
【0017】
[素子の構造]
本発明の一実施形態によれば、2端子の電極構造を有する素子が提供される。図1に模式図で示すように、イオン1、イオン2、溶媒3が移動出来る電解質材料2を電極1(5)と電極2(6)で挟んだ積層構造によって素子を形成する。磁石7による磁場の印加による電極表面での帯電状態制御効果を電極1(5)と電極2(6)の間の電圧(起電力)として測定可能である。
【0018】
また、本発明の他の態様によれば、上述の帯電状態制御構造をその一部として利用した、2端子の電極構造を有する可変電気抵抗素子が与えられる。この可変電気抵抗素子では、図2に模式図で示すように、イオン1、イオン2、溶媒3が移動出来る電解質材料2と半導体8、及びそれを挟む電極1(9)、電極2(10)とが接する構造によって素子を形成する。この素子では、磁場によるイオン移動を用いて半導体8を流れる電流を制御することができる。
【0019】
なお、図1及び以降の模式図は本発明の実施形態である2端子素子の構造、あるいは本発明の特性を調べるために作成した2端子素子の構造、を概念的に示すものであるため、実際の構造がこれらの図に示す構造と完全に相似形となることが必要とされるわけではないし、またこれらの図には明示されていない要素を追加したり、同等な別の要素で置換することもできる。
【0020】
電解質材料としては、例えば、液体電解質である1−ブチルー3−メチルイミダゾリウム=テトラクロロフェラート(III)([bmim]FeCl)の純水希釈溶液を用いることができる。この液体電解質の濃度は80%以下程度が好ましく、特に20〜50%の範囲が好ましい。電解質材料としては[bmim]FeClの純水希釈溶液以外も使用可能であり、具体的には、濃厚硫酸銅(CuSO)溶液、FeClを含む濃厚塩酸溶液等の液体電解質を使用できる。また、電解質材料には電解質以外に各種の添加物を加えることもできる。また、電解質の材料としては他に固体電解質、高分子化合物、及び金属酸化物も使用可能である。
【0021】
前記電極1としては、例えば金を用いることができる。この金は電解質との化学反応について比較的不活性であるので、安定性、耐久性に優れた装置を実現することができる。これ以外にも例えばアルミニウム、鉄等の金属も使用可能である。金属に加えて半導体を使用することも出来る。厚さは例えば0.5mmを用いることができるが、0.1〜0.5mm程度の範囲内の厚さが好ましい。
【0022】
前記電極2としては、例えば金を用いた。この金は電解質との化学反応について比較的不活性であるので、安定性、耐久性に優れた装置を実現することができる。これ以外にも例えばアルミニウム、鉄等の金属も使用可能である。金属に加えて半導体を使用することも出来る。厚さは例えば0.5mmを用いることができるが、0.1〜0.5mm程度の範囲内の厚さが好ましい。
【0023】
[蓄電装置の動作]
図3を参照しながら、金を用いた電極1(5)、2(6)、[bmim]FeClである液体電解質2および小型ネオジム永久磁石である磁石7を使用した場合の本発明の一形態である動的に蓄電可能な蓄電装置の動作を説明する。図3には、図1に示す2端子素子において、電極2(6)の側から磁石7を用いて磁場を印加することによって、電極1(5)と電極2(6)の間の電圧(起電力)を変化させることが可能であることを示している。なお、ここでの電圧は電極2(6)の電位を基準にして測定される電極1(5)の電位と等しい。
【0024】
図3に示す装置の作製時の状態では、図1に示す様に、電解質材料2内にイオン1、イオン2、溶媒3が均一に分布している。次に、この作製時の状態の装置に、電極2(6)側から磁石7を近づけ磁場を印加すると、電解質材料2内の負の電荷を有するイオン1は、電極2(6)と電解質材料2の界面(以下、電極2側界面と称する。また、電極1(5)と電解質材料2の界面を電極2側界面と称する)付近に移動し、濃化する。このとき、負の極性のイオン1の濃化により液体電解質内に電場が生じ、正の極性のイオン2も電極2側界面に濃化する。この濃化により電極2側界面近傍での電解質材料2の電位が変調されるため、当該電極2(6)には負の電荷e(負の極性の伝導キャリア11)が蓄積される。一方、対向する電極1(5)においてはイオン1、イオン2が減少して溶媒4が多く残される希薄化が起こる。この希薄化により電極1側界面近傍での電解質材料2の電位が変調されるため、、当該電極1(5)には正の電荷h+(正の極性の伝導キャリア12)が蓄積される。この時の素子状態を図3に示す。
この状態は平行極板キャパシタに蓄電したのと類似の状態であるので、電極1(5)と電極2(6)との間に、電極1(5)を正の極性とした電圧(以下、Vで表し、電極1(5)側の電圧を電圧の極性とする。)が起電力として生じる。このVは磁石が生じる磁場や電解質におけるイオン伝導度、イオン輸率によって変化する。磁場は100mT以上が好ましい。印加時間は数秒〜1000秒程度が好ましい。
【0025】
本装置で生じた起電力は磁場の持つ磁気エネルギーによるものなので磁場を除去すれば失われてしまうが、磁場を保持したままであれば蓄電した電力を放電することが出来る。放電に従い電極に蓄えられた正及び負の電荷は徐々に失われ、やがて放電が完了する。完全放電後も磁場を印加し直すことで再び蓄電することが出来る。
【0026】
[可変電気抵抗素子の動作]
図4を参照しながら、半導体8として水素終端ダイヤモンドを、電極1(9)、2(10)として金を用い、[bmim]FeClである液体電解質および小型ネオジム永久磁石である磁石7を使用した場合の本発明の動的に制御可能な可変電気抵抗素子の動作を説明する。
図4には、図2に示す2端子素子において、半導体8の側から磁石7を用いて磁場を印加することによって、電極1(9)と電極2(10)の間の電流を変化させること、いわゆるスイッチング機能を発揮させることが可能であることを示している。
すなわち、この可変電気抵抗素子は、磁界で静電的、あるいは電気化学的に誘起される電子キャリア濃度の変調を用いたトランジスタでもあり、磁界効果トランジスタと呼ぶこともできる。
【0027】
図4に示す素子の作製時の状態では、図2に示す様に、電解質材料2内にイオン1、イオン2、溶媒3が均一に分布している。次に、この作製時の状態の素子に、半導体8側から磁石7を近づけ磁場を印加すると、電解質材料2内の負の電荷を有するイオン1は、半導体8と電解質材料2の界面(以下、半導体8側界面と称する。)付近に移動し、濃化する。このとき、負の極性のイオン1の濃化により液体電解質内に電場が生じ、正の極性のイオン2も半導体8側界面に濃化する。この濃化により半導体8側界面近傍での電解質材料2の電位が変調されるため、当該半導体8には負の電荷e(負の極性の伝導キャリア11)が蓄積される。この時の素子状態を図4に示す。逆に、半導体8の逆側から磁石7を用いて磁場を印加すると、半導体8側界面においてイオン1、イオン2が減少して溶媒4が多く残される希薄化が起こる。この希薄化により半導体8側界面近傍での電解質材料2の電位が変調されるため、、半導体8には正の電荷h+(正の極性の伝導キャリア12)が蓄積される。
この状態は誘電体を用いた電界効果トランジスタにおいて電子キャリア濃度を制御したのと類似の状態であるので、電極1(9)と電極2(10)との間に一定の電圧を印加しておけば、ここを流れる電流の変化が生じる。この電流変化は磁石が生じる磁場や電解質におけるイオン伝導度、イオン輸率によって変化する。磁場は100mT以上が好ましい。印加時間は数秒〜1000秒程度が好ましい。
【0028】
以下、実施例を参照しながら本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はいかなる意味においても以下の実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0029】
[実施例1]
図3に、本発明の一実施例である、蓄電を可能にする装置(蓄電装置)の模式図を示す。電極としては様々な電子伝導性材料を用いることが出来るが、ここでは金を用いた。また、電解質には磁場によってイオン輸送が起こる液体及び固体電解質を用いることが出来るが、ここでは液体電解質である1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラクロロフェラート(C15ClFeN、以降では[bmim]FeClとも称す)、及びそれを純水で希釈したものを用いた。
【0030】
小型ネオジム永久磁石(磁束密度:480mT)を一方の金電極に近づけ、再び遠ざけた際の両電極間に生じた起電力変化を図5に示す。80%希釈[bmim]FeCl水溶液を用いた場合、30mV程の起電力が可逆的に生じることがわかる。これは、磁場下でのFeClイオン移動とそれに伴って起きる[bmim]イオンの移動により両電極付近でのFeClイオンと[bmim]イオンの濃度に差が付くためである。一方、純粋な[bmim]FeClを用いた場合には、イオンが移動しても[bmim]FeClの濃度にほとんど差が付かないため起電力を生じない。すなわち、本実施例での起電力はFeClイオンと[bmim]イオンの濃度に差が付くことにより、電極近傍で起こる静電的な蓄電に由来している。
【0031】
次にこのようにして生じた起電力の[bmim]FeCl濃度依存性を図6に示す。[bmim]FeClを希釈するに従い起電力は100mVを超えるまでに大きくなっている。これは、[bmim]FeClを希釈する程に、磁場下でイオンが遠ざかる電極側でのFeClイオンと[bmim]イオンの濃度が薄まるため、両電極付近でのFeClイオンと[bmim]イオンの濃度に差が付きやすくなるためである。生じた起電力の磁場依存性を図7に示す。300 mT以上の磁場では大きな起電力を示したが100mT付近で急激に低下しており、電極近傍での蓄電に100〜300mT程の磁場が必要であることを示唆している。図8に磁場480mTで測定した出力特性を示す。蓄電装置としては典型的な山型の出力変化を示し、最大約1.2μWが得られた。
【0032】
このような蓄電装置には別の電極材料を用いることも出来る。例えば、図2の装置で両方の電極のみを金よりも化学的に活性なアルミニウムに代えた場合も、同様の蓄電挙動を示す。図9に小型ネオジム永久磁石(磁束密度:480mT)を一方のアルミニウム電極に近づけ、再び遠ざけた際の両電極間に生じた起電力変化を示す。この場合も140mVという比較的大きな起電力を生じた点では金電極の場合と一致しているが、大きく異なっているのは純粋な[bmim]FeClでも起電力が生じたということである。さらに、起電力が生じる向きも逆転していたことから、磁場によるイオン輸送を起源とする点では共通するものの蓄電機構に違いがあることを示している。蓄電実験後のアルミニウム電極に若干溶解した痕跡が認められることや、同様の結果がアルミニウムと同じく化学的に活性な鉄電極でも得られていることから、これら化学的に活性な電極を用いた場合は電極界面で静電的な蓄電が起こっているのではなく、輸送されてきたイオンと電極材料との間で化学反応が起こり蓄電されていると考えられる。[bmim]FeClは酸性を示すことからアルミニウムや鉄では酸化反応が起こる。図9に認められるやや不安定な起電力の推移も酸化反応による蓄電を裏付けている。
【0033】
[実施例2]
図4に、本発明の一実施例である、磁界による電気伝導率の制御を可能にする装置(磁界効果トランジスタ)の模式図を示す。半導体としては様々な材料を用いることが出来るが、ここでは水素終端ダイヤモンドを用いた。また、電解質には磁場によってイオン輸送が起こる液体及び固体電解質を用いることが出来るが、ここでは液体電解質である1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラクロロフェラート(C15ClFeN、以降では[bmim]FeClと称す)、及びそれを純水で希釈したものを用いた。
【0034】
小型ネオジム永久磁石(磁束密度:480mT)をダイヤモンド側に近づけ、再び遠ざけて逆側から近づける操作を繰り返した際に両電極間に生じた電流変化を図10に示す。図中の矢印は磁場を切り替えた時刻を示している。80%希釈[bmim]FeCl水溶液を用いた場合、約250〜300%程の電流変化が可逆的に生じたことがわかる。これは、磁場下でのFeClイオン移動とそれに伴って起きる[bmim]イオンの移動により水素終端ダイヤモンド表面付近でのFeClイオンと[bmim]イオンの濃度に差が付き、それによって蓄積される電荷が水素終端面の電子キャリア濃度を変化させるためである。すなわち、ここでの電流変化はFeClイオンと[bmim]イオンの濃度に差が付くことにより、水素終端面近傍で起こる静電的な電子キャリア注入に由来している。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明によれば、磁石の磁気エネルギーを利用して帯電状態を制御することが可能な装置が提供される。これを用いた蓄電装置は磁石による磁気エネルギー以外に一切のエネルギー供給源を必要とせずに蓄電が可能である。また、これを用いた可変電気抵抗素子は従来の電界効果トランジスタと異なり磁界によって電子キャリア濃度を制御可能である。これらはいずれも従来技術では実現不可能な特徴を有しており、産業の各分野において広範に利用可能である。
【符号の説明】
【0036】
1:磁場に応答して伝導するイオン1
2:電解質
3:磁場に応答しないがイオン1が生じる電場で伝導するイオン
4:溶媒
5:電極1
6:電極2
7:小型永久磁石
8:半導体
9:電極1
10:電極2
11:負の極性の伝導キャリア
12:正の極性の伝導キャリア

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10