特許第6712445号(P6712445)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6712445熱可塑性フッ素樹脂組成物、及び架橋体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6712445
(24)【登録日】2020年6月3日
(45)【発行日】2020年6月24日
(54)【発明の名称】熱可塑性フッ素樹脂組成物、及び架橋体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/12 20060101AFI20200615BHJP
   C08K 5/16 20060101ALI20200615BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20200615BHJP
   C08J 3/24 20060101ALI20200615BHJP
【FI】
   C08L27/12
   C08K5/16
   C08L21/00
   C08J3/24 ZCEW
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-107292(P2015-107292)
(22)【出願日】2015年5月27日
(65)【公開番号】特開2016-222752(P2016-222752A)
(43)【公開日】2016年12月28日
【審査請求日】2018年3月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229564
【氏名又は名称】株式会社バルカー
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大住 直樹
【審査官】 阪▲崎▼ 裕美
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/057332(WO,A1)
【文献】 特開2006−342241(JP,A)
【文献】 特開2004−263038(JP,A)
【文献】 特開2008−231330(JP,A)
【文献】 特開平07−205285(JP,A)
【文献】 特開平09−012818(JP,A)
【文献】 特開2013−056979(JP,A)
【文献】 特開平09−073237(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/098338(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L21/,
C08L27/,
C08J 3/,
C08K 5/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ASTM D2240に準拠して測定される23℃におけるショアD硬度が50以下である熱可塑性フッ素樹脂(A)と、
記熱可塑性フッ素樹脂(A)との反応によって架橋構造を形成し得る架橋構造形成剤(B)と、
を含み、
前記架橋構造形成剤(B)として多官能性不飽和化合物(b−1)を含み、パーオキサイド化合物を実質的に含まず、
架橋性ゴム成分(C)をさらに含み、
前記架橋性ゴム成分(C)の含有量が、前記熱可塑性フッ素樹脂(A)100重量部あたり25重量部以下であり、
前記熱可塑性フッ素樹脂(A)は、ビニリデンフルオライド(VDF)−ヘキサフルオロプロピレン(HFP)系重合体、又はビニリデンフルオライド(VDF)系重合体とテトラフルオロエチレン−エチレン系重合体(ETFE)とのブロック重合体であり、
前記架橋性ゴム成分(C)は、ビニリデンフルオライド(VDF)−ヘキサフルオロプロピレン(HFP)−テトラフルオロエチレン(TFE)系重合体である、熱可塑性フッ素樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の熱可塑性フッ素樹脂組成物を用意する工程と、
前記熱可塑性フッ素樹脂組成物を電離性放射線により架橋させる工程と、
を含む、架橋体の製造方法。
【請求項3】
前記熱可塑性フッ素樹脂組成物を用意する工程と前記架橋させる工程との間に、前記熱可塑性フッ素樹脂組成物を成形する工程をさらに含む、請求項2に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性フッ素樹脂組成物に関する。また本発明は、当該熱可塑性フッ素樹脂組成物を用いた架橋体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
架橋ゴムは、架橋剤などと呼ばれている試剤を用いて架橋性ゴム成分(エラストマー形成成分)の分子鎖間に架橋反応を起こさせることによって架橋構造を持たせたエラストマーである。架橋ゴムは、耐熱性や耐薬品性に優れるという特徴を生かして、ガスケット、パッキン等のシール材、ホース、チューブなどによく用いられている。架橋ゴムの中でもフッ素系の架橋ゴム(以下、フッ素ゴムという。)は、熱劣化による歪を示す圧縮永久歪特性に優れており、高温環境での使用に適している〔例えば、特開2005−113035号公報(特許文献1)〕。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−113035号公報
【特許文献2】国際公開第2006/057331号
【特許文献3】特開2009−138158号公報
【特許文献4】特開2002−167454号公報
【特許文献5】特開2002−173543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
架橋ゴムからなる成形体の製造には、
a)所定の形状に成形するためには架橋反応が必須であるため、押出成形や射出成形に適しておらず、連続的に成形を行って成形体を連続生産することが困難である、
b)一度架橋構造を形成して形状を固定すると、架橋反応は不可逆的であり、加熱しても溶融せず形状も不可逆的であるため、成形後の形状に何らかの不具合があった場合でも、成形後の材料を再利用して再度成形工程を実施することができない、
といった課題があり、生産効率の向上は困難であると認識されてきた。
【0005】
一方、エラストマーには、架橋ゴムのほかに「熱可塑性エラストマー」と呼ばれるものがある。一般に熱可塑性エラストマーには、1)熱可塑性樹脂成分とゴム成分とをブレンドした組成物、2)熱可塑性樹脂成分とゴム成分とを含む組成物を動的架橋してなる組成物、3)熱可塑性樹脂成分とゴム成分とのブロック共重合体等がある。熱可塑性エラストマーは、その熱可塑性樹脂成分の融点未満ではこれが疑似架橋部位的に働いて、形状が固定されるとともにゴム弾性を発現する一方、熱可塑性樹脂成分の融点以上ではこれが溶融するので形状変化が可能となる。動的架橋とは、熱可塑性樹脂成分と未架橋の架橋性ゴム成分とを架橋剤とともに溶融混練させながら架橋性ゴム成分の架橋を行う方法をいう。
【0006】
例えば、国際公開第2006/057331号(特許文献2)には、フッ素樹脂と架橋性のフッ素ゴム成分と架橋剤とを含む組成物を動的架橋してなる熱可塑性エラストマー組成物が記載されている。特開2009−138158号公報(特許文献3)には、フッ素樹脂と未架橋フッ素ゴム粒子と架橋剤とを含む組成物を動的架橋してなる熱可塑性エラストマー組成物を調製し、これを成形した後にガンマ線を照射して成形品を得ることが記載されている。
【0007】
また特開2002−167454号公報(特許文献4)及び特開2002−173543号公報(特許文献5)には、エラストマー性ポリマー鎖セグメントと非エラストマー性ポリマー鎖セグメントとを含むフッ素系熱可塑性エラストマーを成形した後、ガンマ線を照射して成形品を得ることが記載されている。
【0008】
フッ素系熱可塑性エラストマーは、これを構成する熱可塑性樹脂成分の融点以上では当該成分が溶融し、融点未満では形状が固定されるため、押出成形や射出成形に適しており、また、可逆的に形状を変えることができるので、成形後の材料を再利用して再成形することもできる。しかし、熱溶融する熱可塑性樹脂成分を含むフッ素系熱可塑性エラストマーは、フッ素ゴムに比べて耐熱性に劣り、とりわけ熱劣化による歪を示す圧縮永久歪特性に劣る。
【0009】
本発明の目的は、溶融成形による連続成形、及び成形工程を実施する場合には成形後の材料の再利用が可能であって、高温環境下においても優れた圧縮永久歪特性を示す架橋体を製造することができる方法、並びに当該製造方法に用いられる熱可塑性フッ素樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下に示す熱可塑性フッ素樹脂組成物、及び架橋体の製造方法を提供する。
[1] ASTM D2240に準拠して測定される23℃におけるショアD硬度が50以下である熱可塑性フッ素樹脂(A)と、
多官能性不飽和化合物(b−1)、ポリアミン化合物(b−2)及びポリヒドロキシ化合物(b−3)からなる群から選択され、前記熱可塑性フッ素樹脂(A)との反応によって架橋構造を形成し得る架橋構造形成剤(B)と、
を含み、
前記多官能性不飽和化合物(b−1)を含む場合にはパーオキサイド化合物を実質的に含まず、ポリアミン化合物(b−2)を含む場合には受酸剤を実質的に含まず、ポリヒドロキシ化合物(b−3)を含む場合には受酸剤及びオニウム化合物の少なくとも一方を実質的に含まない、熱可塑性フッ素樹脂組成物。
【0011】
[2] 架橋性ゴム成分(C)をさらに含む、[1]に記載の熱可塑性フッ素樹脂組成物。
【0012】
[3] 前記架橋性ゴム成分(C)がフッ素ゴムである、[2]に記載の熱可塑性フッ素樹脂組成物。
【0013】
[4] 前記架橋性ゴム成分(C)の含有量が、前記熱可塑性フッ素樹脂(A)100重量部あたり100重量部以下である、[2]又は[3]に記載の熱可塑性フッ素樹脂組成物。
【0014】
[5] [1]〜[4]のいずれかに記載の熱可塑性フッ素樹脂組成物を用意する工程と、
前記熱可塑性フッ素樹脂組成物を電離性放射線により架橋させる工程と、
を含む、架橋体の製造方法。
【0015】
[6] 前記熱可塑性フッ素樹脂組成物を用意する工程と前記架橋させる工程との間に、前記熱可塑性フッ素樹脂組成物を成形する工程をさらに含む、[5]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、溶融成形による連続成形、及び成形工程を実施する場合には成形後の材料の再利用が可能であって、高温環境下においても優れた圧縮永久歪特性を示す架橋体を提供することができる。得られる架橋体は、パッキンやガスケットのようなシール材など、とりわけ高温環境下(例えば130〜230℃、特には150〜200℃)での耐熱劣化性が求められるシール材などとして好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<熱可塑性フッ素樹脂組成物>
本発明に係る熱可塑性フッ素樹脂組成物は、熱可塑性フッ素樹脂(A)と架橋構造形成剤(B)とを含む。熱可塑性フッ素樹脂とは、フッ素原子を含有する熱可塑性樹脂をいう。
【0018】
(A)熱可塑性フッ素樹脂
本発明に係る熱可塑性フッ素樹脂組成物に含有される熱可塑性フッ素樹脂(A)は、ASTM D2240に準拠して測定される23℃におけるショアD硬度が50以下の熱可塑性フッ素樹脂である。これは、本発明者が取得した新たな知見に基づいており、ショアD硬度が50以下の熱可塑性フッ素樹脂(A)を用いることにより、高温環境下における圧縮永久歪特性に優れた架橋体を得ることができる。ショアD硬度は、好ましくは45以下である。熱可塑性フッ素樹脂組成物は、熱可塑性フッ素樹脂(A)を1種又は2種以上含んでいてもよいが、2種以上含む場合、すべての熱可塑性フッ素樹脂(A)についてショアD硬度が50以下であることが好ましい。
【0019】
熱可塑性フッ素樹脂(A)の具体例は、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、クロロトリフルオロエチレン−エチレン共重合体(ECTFE)、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(VDF−HFP共重合体)、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体(VDF−HFP−TFE共重合体)を含む。中でも、VDF−HFP共重合体、VDF−HFP−TFE共重合体等が好ましく用いられる。
【0020】
本明細書において用語「熱可塑性フッ素樹脂」は、フッ素系熱可塑性エラストマーを含む。フッ素系熱可塑性エラストマーとは、フッ素原子を含有する熱可塑性エラストマーをいう。上述のように熱可塑性エラストマーには、1)熱可塑性樹脂成分とゴム成分とをブレンドした組成物、2)熱可塑性樹脂成分とゴム成分とを含む組成物を動的架橋してなる組成物、3)熱可塑性樹脂成分とゴム成分とのブロック共重合体等がある。本発明に用いることができる好適なフッ素系熱可塑性エラストマーは、上記3)に属する、熱可塑性樹脂成分(熱可塑性のポリマー鎖セグメント)とゴム成分(エラストマー性のポリマー鎖セグメント)とのブロック共重合体である。
【0021】
熱可塑性フッ素樹脂(A)として市販品を用いてもよい。ショアD硬度が50以下である熱可塑性フッ素樹脂(A)の具体例は、いずれも商品名で、「Kynar UltraFlex B」、「Kynar UltraFlex C」(いずれもアルケマ社製、VDF−HFP共重合体からなる熱可塑性樹脂)、「THV 220G」(スリーエム社製、VDF−HFP−TFE共重合体からなる熱可塑性樹脂)、「ダイエルサーモプラスチック」(ダイキン工業(株)製、ETFE共重合体とVDF系共重合体のブロック共重合体からなる熱可塑性エラストマー)を含む。
【0022】
熱可塑性フッ素樹脂(A)は、後述する架橋構造形成剤(B)の存在下、電離性放射線の照射により架橋し得る熱可塑性樹脂である。熱可塑性フッ素樹脂(A)は、不飽和基、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボニル基、ハロゲン基等の架橋性部位を有していてもよいし、有していなくてもよい。電離性放射線の照射による架橋においては、架橋性部位を有していなくても熱可塑性フッ素樹脂(A)は架橋し得る。
【0023】
(B)架橋構造形成剤
本発明に係る熱可塑性フッ素樹脂組成物は、架橋構造形成剤(B)を必須成分として含有する。本明細書において「架橋構造形成剤」とは、電離性放射線の照射による熱可塑性フッ素樹脂(A)との反応によって、熱可塑性フッ素樹脂(A)と一緒になって架橋構造を形成し得る試剤をいう。
【0024】
架橋構造形成剤(B)は、例えば多官能性不飽和化合物(b−1)、ポリアミン化合物(b−2)及びポリヒドロキシ化合物(b−3)からなる群から選択される試剤である。架橋構造形成剤(B)は、(b−1)、(b−2)及び(b−3)から選択される2種以上の架橋構造形成剤を含んでいてもよいが、通常はこれらから選択される1種のみを含む。架橋構造形成剤(B)は、熱可塑性フッ素樹脂(A)の架橋系に応じて選択することができる。熱可塑性フッ素樹脂組成物は、好ましくは多官能性不飽和化合物(b−1)を含む。
【0025】
多官能性不飽和化合物(b−1)は、架橋性ゴム成分をパーオキサイド架橋系で架橋させてフッ素ゴムを製造する場合などにおいて「共架橋剤」として一般的に用いられている多官能性不飽和化合物であることができる。架橋構造形成剤(B)は、多官能性不飽和化合物(b−1)を1種又は2種以上含むことができる。
【0026】
多官能性不飽和化合物(b−1)の具体例は、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリアクリルホルマール、トリアリルトリメリテート、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、ジプロパギルテレフタレート、ジアリルフタレート、テトラアリルテレフタレートアミド、トリアリルホスフェート、ビスマレイミド、フッ素化トリアリルイソシアヌレー卜(1,3,5−卜リス(2,3,3−トリフルオロ−2−プロペニル)−1,3,5−卜リアジン−2,4,6−トリオン)、トリス(ジアリルアミン)−S−トリアジン、亜リン酸トリアリル、N,N−ジアリルアクリルアミド、1,6−ジビニルドデカフルオロへキサン、へキサアリルホスホルアミド、N,N,N’,N’−テトラアリルフタルアミド、N,N,N’,N’−テトラアリルマロンアミド、トリビニルイソシアヌレート、2,4,6−トリビニルメチルトリシロキサン、トリ(5−ノルボルネン−2−メチレン)シアヌレート、トリアリルホスファイトを含む。これらの中でも、熱可塑性フッ素樹脂(A)の架橋性、及び得られる架橋体の物性、とりわけ圧縮永久歪特性の点から、多官能性不飽和化合物(b−1)は、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)を含むことが好ましい。
【0027】
熱可塑性フッ素樹脂組成物における多官能性不飽和化合物(b−1)の含有量(2種以上の多官能性不飽和化合物(b−1)を用いる場合はその合計量)は、熱可塑性フッ素樹脂(A)100重量部あたり、例えば0.1〜20重量部であり、好ましくは0.2〜10重量部であり、より好ましくは1〜8重量部である。多官能性不飽和化合物(b−1)の含有量が過度に小さいと、電離性放射線の照射による熱可塑性フッ素樹脂(A)の架橋が十分に進行せず、得られる架橋体の圧縮永久歪特性が低下し得る。多官能性不飽和化合物(b−1)の含有量が過度に大きいと、熱可塑性フッ素樹脂組成物の成形性が低下し得る。
【0028】
熱可塑性フッ素樹脂組成物が多官能性不飽和化合物(b−1)を含む場合、熱可塑性フッ素樹脂組成物は、パーオキサイド化合物(有機過酸化物)を実質的に含まないことが肝要である。このパーオキサイド化合物は、架橋性ゴム成分をパーオキサイド架橋系で架橋させてフッ素ゴムを製造する場合などにおいて「架橋剤」として一般的に用いられているものであり、架橋性ゴム成分を熱により架橋させる場合に必須成分として含有される、架橋反応を開始させる又は開始に必要な試剤である。かかるパーオキサイド化合物の具体例は、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,5,5−トリメチルシクロへキサン、2,5−ジメチルへキサン−2,5−ジヒドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、α,α−ビス(t−ブチルパーオキシ)−p−ジイソプロピルベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)へキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−へキシン−3、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゼン、t−ブチルパーオキシマレイン酸、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートを含む。
【0029】
本明細書において「パーオキサイド化合物を実質的に含まない」とは、その含有量が熱可塑性フッ素樹脂(A)100重量部あたり0.1重量部以下であることをいう。
【0030】
パーオキサイド化合物を実質的に含まない本発明に係る熱可塑性フッ素樹脂組成物によれば、電離性放射線の照射による架橋によって高温環境下においても優れた圧縮永久歪特性を示す架橋体を得ることができる。また、本発明に係る熱可塑性フッ素樹脂組成物は、加熱溶融が可能であり、かつパーオキサイド化合物を実質的に含まないことにより成形時に加熱溶融しても架橋が進行しない。従って、本発明に係る熱可塑性フッ素樹脂組成物は、例えば押出成形や射出成形のような溶融成形を用いた連続成形が容易である。また、成形後の形状に何らかの不具合があったときに当該成形体を熱溶融し、再度成形工程を実施するなど、成形後の材料を再利用することもできる。このような材料の再利用は製造コストの削減に有利である。
【0031】
以上のような本発明に係る熱可塑性フッ素樹脂組成物の利点は、該組成物がフッ素ゴム等の後述する架橋性ゴム成分(C)をさらに含む場合においても得られる。これに対して、特許文献2及び3に記載されるような、フッ素樹脂と未架橋フッ素ゴムと架橋剤とを含む組成物を動的架橋(フッ素樹脂と未架橋フッ素ゴムと架橋剤とを溶融混練させながら架橋剤を利用して未架橋フッ素ゴムを熱架橋)してなる熱可塑性エラストマー組成物の場合、フッ素樹脂の含有率を高めることによって熱溶融性や成形性を向上させることはできるが、この熱可塑性エラストマー組成物を熱により、又は電離性放射線によりさらに架橋させても、優れた圧縮永久歪特性を得ることは難しい。特許文献4及び5に記載されるような、エラストマー性ポリマー鎖セグメントと非エラストマー性ポリマー鎖セグメントとを含むフッ素系熱可塑性エラストマーを電離性放射線により架橋させる方法においても、優れた圧縮永久歪特性を得ることは難しい。
【0032】
ポリアミン化合物(b−2)は、架橋性ゴム成分をポリアミン架橋系で架橋させてフッ素ゴムを製造する場合などにおいて「架橋剤」として一般的に用いられているポリアミン化合物であることができる。架橋構造形成剤(B)は、ポリアミン化合物(b−2)を1種又は2種以上含むことができる。
【0033】
ポリアミン化合物(b−2)の具体例は、ヘキサメチレンジアミンカーバメート、N,N’−ジシンナミリデン−1,6−ヘキサメチレンジアミン、4,4’−ビス(アミノシクロヘキシル)メタンカルバメートを含む。これらの中でも、熱可塑性フッ素樹脂(A)の架橋性、及び得られる架橋体の物性、とりわけ圧縮永久歪特性の点から、ポリアミン化合物(b−2)は、N,N’−ジシンナミリデン−1,6−ヘキサメチレンジアミンを含むことが好ましい。
【0034】
熱可塑性フッ素樹脂組成物におけるポリアミン化合物(b−2)の含有量(2種以上のポリアミン化合物(b−2)を用いる場合はその合計量)は、熱可塑性フッ素樹脂(A)100重量部あたり、例えば0.1〜20重量部であり、好ましくは0.2〜10重量部であり、より好ましくは1〜8重量部である。ポリアミン化合物(b−2)の含有量が過度に小さいと、電離性放射線の照射による熱可塑性フッ素樹脂(A)の架橋が十分に進行せず、得られる架橋体の圧縮永久歪特性が低下し得る。ポリアミン化合物(b−2)の含有量が過度に大きいと、熱可塑性フッ素樹脂組成物の成形性が低下し得る。
【0035】
熱可塑性フッ素樹脂組成物がポリアミン化合物(b−2)を含む場合、熱可塑性フッ素樹脂組成物は、受酸剤を実質的に含まないことが肝要である。この受酸剤は、架橋性ゴム成分をポリアミン架橋系で架橋させてフッ素ゴムを製造する場合などにおいて「受酸剤」として一般的に用いられているものと同じであり、架橋性ゴム成分を熱により架橋させる場合に必須成分として含有される、架橋反応を開始させる又は開始に必要な試剤である。かかる受酸剤の具体例は、2価金属の酸化物、2価金属の水酸化物、2価金属の酸化物と弱酸金属塩との混合物、2価金属の水酸化物と弱酸金属塩との混合物を含む。2価金属としては、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、鉛等が挙げられる。弱酸金属塩としては、ステアリン酸、安息香酸、炭酸、シュウ酸、亜リン酸等のような弱酸の金属塩が挙げられる。
【0036】
本明細書において「受酸剤を実質的に含まない」とは、その含有量が熱可塑性フッ素樹脂(A)100重量部あたり0.1重量部以下であることをいう。
【0037】
受酸剤を実質的に含まない本発明に係る熱可塑性フッ素樹脂組成物もまた、上述のパーオキサイド化合物を実質的に含まない熱可塑性フッ素樹脂組成物と同様の効果を奏することができる。この効果は、該組成物が後述する架橋性ゴム成分(C)をさらに含む場合においても奏され得る。
【0038】
ポリヒドロキシ化合物(b−3)は、架橋性ゴム成分をポリオール架橋系で架橋させてフッ素ゴムを製造する場合などにおいて「架橋剤」として一般的に用いられているポリヒドロキシ化合物であることができる。架橋構造形成剤(B)は、ポリヒドロキシ化合物(b−3)を1種又は2種以上含むことができる。得られる架橋体の圧縮永久歪特性の観点から、ポリヒドロキシ化合物(b−3)は、好ましくはポリヒドロキシ芳香族化合物を含む。
【0039】
ポリヒドロキシ芳香族化合物の具体例は、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)パーフルオロプロパン(ビスフェノールAF)、レゾルシン、1,3−ジヒドロキシベンゼン、1,7−ジヒドロキシナフタレン、2,7− ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、4,4’−ジヒドロキシスチルベン、2,6−ジヒドロキシアントラセン、ヒドロキノン、カテコール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン(ビスフェノールB)、4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)吉草酸、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)テトラフルオロジクロロプロパン、4,4−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルケトン、トリ(4−ヒドロキシフェニル)メタン、3,3’,5,5’−テトラクロロビスフェノールA、3,3’,5,5’−テトラブロモビスフェノールAを含む。これらのポリヒドロキシ芳香族化合物は、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などであってもよい。
【0040】
熱可塑性フッ素樹脂組成物におけるポリヒドロキシ化合物(b−3)の含有量(2種以上のポリヒドロキシ化合物(b−3)を用いる場合はその合計量)は、熱可塑性フッ素樹脂(A)100重量部あたり、例えば0.1〜20重量部であり、好ましくは0.2〜10重量部であり、より好ましくは1〜8重量部である。ポリヒドロキシ化合物(b−3)の含有量が過度に小さいと、電離性放射線の照射による熱可塑性フッ素樹脂(A)の架橋が十分に進行せず、得られる架橋体の圧縮永久歪特性が低下し得る。ポリヒドロキシ化合物(b−3)の含有量が過度に大きいと、熱可塑性フッ素樹脂組成物の成形性が低下し得る。
【0041】
熱可塑性フッ素樹脂組成物がポリヒドロキシ化合物(b−3)を含む場合、熱可塑性フッ素樹脂組成物は、受酸剤及びオニウム化合物の少なくとも一方を実質的に含まないことが肝要である。この受酸剤及びオニウム化合物はそれぞれ、架橋性ゴム成分をポリオール架橋系で架橋させてフッ素ゴムを製造する場合などにおいて「受酸剤」、「オニウム化合物」として一般的に用いられているものと同じであり、架橋性ゴム成分を熱により架橋させる場合に必須成分として含有される、架橋反応を開始させる又は開始に必要な試剤である。受酸剤の具体例は上述のものと同様である。オニウム化合物の具体例は、第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩、オキソニウム化合物、スルホニウム化合物を含む。
【0042】
本明細書において「受酸剤及びオニウム化合物の少なくとも一方を実質的に含まない」とは、それらの少なくとも一方の含有量が熱可塑性フッ素樹脂(A)100重量部あたり0.1重量部以下であることをいう。
【0043】
受酸剤及びオニウム化合物を実質的に含まない本発明に係る熱可塑性フッ素樹脂組成物もまた、上述のパーオキサイド化合物を実質的に含まない熱可塑性フッ素樹脂組成物と同様の効果を奏することができる。この効果は、該組成物が後述する架橋性ゴム成分(C)をさらに含む場合においても奏され得る。
【0044】
(C)架橋性ゴム成分
本発明に係る熱可塑性フッ素樹脂組成物は、架橋性ゴム成分(C)をさらに含有することができる。架橋性ゴム成分(C)をさらに含有する熱可塑性フッ素樹脂組成物においても、高温環境下においても優れた圧縮永久歪特性を示す架橋体を得ることができ、また、例えば押出成形や射出成形のような溶融成形を用いた連続成形や、成形後の材料を再利用が可能である。架橋性ゴム成分(C)をさらに含有させることは、例えば柔軟性を要求される用途において有利である。
【0045】
架橋性ゴム成分(C)は、架橋反応によって上述の架橋構造を有するエラストマー(架橋ゴム)を形成可能なものであり、その具体例は、エチレン−プロピレンゴム(EPM)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、ニトリルゴム(NBR;アクリロニトリルブタジエンゴム)、水素添加ニトリルゴム(HNBR;水素添加アクリロニトリルブタジエンゴム)、ブチルゴム(IIR)、フッ素ゴム(FKM)、パーフルオロエラストマー(FFKM)、アクリルゴム、シリコーンゴムを含む。中でも、フッ素ゴム(FKM)、パーフルオロエラストマー(FFKM)が好適に用いられる。架橋性ゴム成分(C)は1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0046】
フッ素ゴム(FKM)の具体例は、ビニリデンフルオライド(VDF)−ヘキサフルオロプロピレン(HFP)系重合体;ビニリデンフルオライド(VDF)−ヘキサフルオロプロピレン(HFP)−テトラフルオロエチレン(TFE)系重合体;テトラフルオロエチレン(TFE)−プロピレン(Pr)系重合体;ビニリデンフルオライド(VDF)−プロピレン(Pr)−テトラフルオロエチレン(TFE)系重合体;エチレン(E)−テトラフルオロエチレン(TFE)−パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)系重合体;ビニリデンフルオライド(VDF)−テトラフルオロエチレン(TFE)−パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)系重合体、ビニリデンフルオライド(VDF)−パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)系重合体を含む。
【0047】
パーフルオロエラストマー(FFKM)の具体例は、テトラフルオロエチレン(TFE)−パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)系重合体を含む。
【0048】
架橋性ゴム成分(C)は、炭素−炭素不飽和基、ニトリル基、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボニル基、ハロゲン基等の架橋性部位を有していてもよいし、有していなくてもよい。電離性放射線の照射による架橋においては、架橋性部位を有していなくても架橋性ゴム成分(C)は架橋し得る。
【0049】
熱可塑性フッ素樹脂組成物における架橋性ゴム成分(C)の含有量(2種以上の架橋性ゴム成分(C)を用いる場合はその合計量)は、熱可塑性フッ素樹脂(A)100重量部あたり、好ましくは100重量部以下であり、より好ましくは80重量部以下(例えば70重量部以下である。架橋性ゴム成分(C)の含有量が過度に大きいと、熱可塑性フッ素樹脂組成物の成形性が低下し得る。熱可塑性フッ素樹脂組成物が架橋性ゴム成分(C)を含有する場合においてその含有量は、熱可塑性フッ素樹脂(A)100重量部あたり、例えば5重量部以上、10重量部以上、又は20重量部以上である。
【0050】
(D)その他の成分
本発明に係る熱可塑性フッ素樹脂組成物は、必要に応じて、充填剤(補強剤)、加工助剤、老化防止剤、酸化防止剤、加硫促進剤、安定剤、シランカップリング剤、難燃剤、離型剤、ワックス類、滑剤等の添加剤を含むことができる。充填剤の具体例は、カーボンブラック、シリカ、アルミナ、酸化亜鉛、二酸化チタン、クレー、タルク、珪藻土、硫酸バリウム、ケイ酸化合物(ケイ酸塩等)、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化カルシウム、マイカ、グラファイト、水酸化アルミニウム、樹脂微粒子を含む。加工助剤の具体例は、熱可塑性フッ素樹脂(A)以外の熱可塑性樹脂、液状ゴム、オイル(パラフィン系オイル等)、可塑剤、軟化剤、粘着付与剤を含む。添加剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0051】
(E)熱可塑性フッ素樹脂組成物の調製
本発明に係る熱可塑性フッ素樹脂組成物は、熱可塑性フッ素樹脂(A)、架橋構造形成剤(B)、及び任意で添加される架橋性ゴム成分(C)、その他の添加剤を均一に混練することにより調製できる。混練機としては、例えば、オープンロールのようなミキシングロール;ニーダー、バンバリーミキサーのようなミキサー;二軸押出機のような押出機等を用いることができる。これらの配合剤は、一度に混合して混練されてもよいし、一部の配合剤を混練した後、残りの配合剤を混練するといったように複数段に分けてすべての配合剤を混練するようにしてもよい。混練時の温度は、常温であってもよいし、加熱下であってもよいが、混練の均一性の観点から、熱可塑性フッ素樹脂(A)の溶融温度若しくはその近傍、又は溶融温度以下の温度で混練することが好ましい。
【0052】
<架橋体の製造方法>
上述の熱可塑性フッ素樹脂組成物を原料とする架橋体は、次の工程:
(1)上述の本発明に係る熱可塑性フッ素樹脂組成物を用意する工程〔以下、工程(1)という。〕、及び
(2)熱可塑性フッ素樹脂組成物を電離性放射線により架橋させる工程〔以下、工程(2)という。〕
を含む方法によって好適に製造することができる。好ましくは、工程(1)と工程(2)との間に、
(3)熱可塑性フッ素樹脂組成物を所望の形状に成形する工程〔以下、工程(3)という。〕
をさらに含む。
【0053】
工程(1)は、本発明に係る熱可塑性フッ素樹脂組成物を何らかの形で入手する工程であってもよいし、該組成物を調製する工程であってもよい。調製方法は上述のとおりである。
【0054】
熱可塑性フッ素樹脂組成物の成形を行う工程(3)は、通常の方法で行うことができる。本発明に係る熱可塑性フッ素樹脂組成物は、加熱溶融が可能であり、かつ熱による架橋反応を開始させる又は開始に必要な試剤を実質的に含まないため、成形時に加熱溶融しても架橋が進行しない。従って、本発明に係る熱可塑性フッ素樹脂組成物によれば、例えば押出成形や射出成形のような溶融成形を用いた連続成形が可能である。これにより、架橋成形体の連続生産、ひいては製造コストの削減が可能となる。プレス成形などの他の成形法によって熱可塑性フッ素樹脂組成物の成形を行ってもよい。熱可塑性フッ素樹脂組成物の成形温度は、例えば150〜320℃である。
【0055】
また、加熱溶融が可能であり、かつ成形時に加熱溶融しても架橋が進行しない本発明に係る熱可塑性フッ素樹脂組成物によれば、成形後の形状に何らかの不具合があったときに当該成形体を熱溶融し、再度成形工程を実施するなど、成形後の材料を再利用することもできる。
【0056】
工程(3)において熱可塑性フッ素樹脂組成物又はその成形体は、電離性放射線により架橋されて、架橋体(又は架橋成形体)が得られる。電離性放射線は特に制限されないが、電子線やγ線を好ましく用いることができる。電離性放射線の照射量は、好ましくは10〜500kGyであり、より好ましくは30〜200kGyである。照射量が10kGy未満であると、十分な架橋度が得られず、所望する圧縮永久歪特性、場合によってはさらに機械的強度が得られない傾向にある。一方、照射量を500kGy以下とすることは、柔軟性を損なわないようにするうえで有利である。また、照射量が500kGyを超えると、架橋体に電離性放射線による劣化が生じるおそれがある。
【0057】
本発明に係る架橋体の製造方法は、熱可塑性フッ素樹脂組成物又はその成形体を熱により架橋する工程を実質的に含まない。これは、熱可塑性フッ素樹脂組成物が熱による架橋反応を開始させる又は開始に必要な試剤を実質的に含まないことによる。仮に当該試剤を含有させると、熱可塑性フッ素樹脂組成物が架橋性ゴム成分(C)をさらに含有する場合、成形時の加熱溶融時などに熱可塑性フッ素樹脂組成物が動的架橋処理されることとなり、その結果、得られる架橋体の圧縮永久歪特性が低下してしまう。
【0058】
電離性放射線による架橋処理の後、必要に応じて、オーブン(電気炉、真空電気炉)等を用いて架橋体に対して熱処理を加えてもよい。架橋体が例えば真空シール用途のシール材である場合、熱処理により放出ガス成分を低減できるのでシール性を向上できることがある。熱処理の温度は、通常100〜320℃(例えば170〜230℃程度、又は170〜200℃程度)である。
【0059】
本発明により得られる架橋体及び架橋成形体は、熱可塑性フッ素樹脂組成物が架橋性ゴム成分(C)を含まない場合、架橋された熱可塑性フッ素樹脂(A)(及び任意で含有される添加剤)で構成されたものである。また本発明により得られる架橋体は、熱可塑性フッ素樹脂組成物が架橋性ゴム成分(C)をさらに含む場合、架橋された熱可塑性フッ素樹脂(A)と架橋された架橋性ゴム成分(C)(すなわち架橋ゴム)との海島構造を採り得る。架橋された熱可塑性フッ素樹脂(A)及び架橋ゴムのうちのいずれがマトリクスとなるかは、熱可塑性フッ素樹脂(A)及び架橋性ゴム成分(C)の配合比率等に依存する。配合比率のより高い成分がマトリクスになる傾向がある。本発明により得られる架橋体及び架橋成形体は、海島構造のほか、共連続構造、シリンダー構造、ラメラ構造などの構造形態を有していてもよい。
【0060】
本発明により得られる架橋体及び架橋成形体は、耐熱性の求められる各種部材に適用することができ、中でも、パッキンやガスケットのようなシール材など、とりわけ200℃又はそれ以上の高温環境下での耐熱劣化性が求められるシール材などとして好適に用いることができる。シール材の形状はその用途に応じて適宜選択され、その代表例は、断面形状がO型であるOリングである。
【実施例】
【0061】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。以下の実施例及び比較例において、圧縮永久歪は次の方法に従って測定した。
【0062】
(圧縮永久歪の測定)
JIS K 6262に準拠して、試料(A568−214 Oリング)を圧縮率25%で鉄板に挟み込み、200℃×72時間の条件で電気炉で加温後、圧縮解放し、30分間放冷後の試料の圧縮永久歪を下記式:
圧縮永久歪(%)={(T0−T1)/(T0−T2)}×100%
に基づいて算出した。T0は試験前の試料の高さ、T1は30分間放冷後の試料の高さ、T2はスペーサ−の厚み(高さ)である。結果を表1に示す。
【0063】
<実施例1>
表1に示される配合組成に従って(表1における配合量の単位は重量部である。)、各配合成分の所定量をオープンロールにより混練した。混練温度は140℃とした。次に、得られた熱可塑性フッ素樹脂組成物を230℃で押出成形して、シール材(Oリング)形状の成形体を得た。シール材形状への押出成形(溶融成形)は容易であった。その後、80kGyの照射量で放射線(γ線)を照射して、架橋成形体であるシール材(Oリング)を得た。放射線照射前の成形体は熱溶融性を示し、その成形体を熱溶融させ再度成形を行うことも容易であった。
【0064】
<実施例2〜5、比較例1〜3>
熱可塑性フッ素樹脂組成物の配合成分及びその配合量を表1に示されるとおりとしたこと以外は実施例1と同様にして架橋成形体であるシール材を作製した。実施例2〜5、比較例1〜3のいずれにおいても、シール材形状への押出成形(溶融成形)は容易であった。また、放射線照射前の成形体は熱溶融性を示し、その成形体を熱溶融させ再度成形を行うことも容易であった。
【0065】
<比較例4>
表1に示される配合組成に従って架橋構造形成剤(B)と架橋性ゴム成分(C)をオープンロールにて混練して混練物を得た。この混練物と熱可塑性フッ素樹脂(A)とパーオキサイドとをラボプラストミル〔(株)東洋精機製作所製〕にて表1に示される配合組成に従って混練した。このときの混練温度は200℃とし、回転数は50rpmとした。次に、得られた熱可塑性フッ素樹脂組成物を230℃で押出成形して、シール材(Oリング)形状の成形体を得た。シール材形状への押出成形(溶融成形)は容易であった。その後、80kGyの照射量で放射線(γ線)を照射して、架橋成形体であるシール材(Oリング)を得た。
【0066】
【表1】
【0067】
実施例及び比較例で用いた各配合成分の詳細は次のとおりである。
〔1〕熱可塑性フッ素樹脂a−1:VDF−HFP共重合体からなる熱可塑性樹脂(アルケマ社製の「Kynar UltraFlex B」、ASTM D2240に準拠して測定される23℃におけるショアD硬度:40)、
〔2〕熱可塑性フッ素樹脂a−2:ビニリデンフルオライド(VDF)系重合体とテトラフルオロエチレン−エチレン系重合体(ETFE)とのブロック重合体であるフッ素系熱可塑性エラストマー〔ダイキン工業(株)製「ダイエルサーモプラスチックT−530」、ASTM D2240に準拠して測定される23℃におけるショアD硬度:18〕、
〔3〕熱可塑性フッ素樹脂a−3:VDF−HFP共重合体からなる熱可塑性樹脂(アルケマ社製の「Kynar 2850−00」、ASTM D2240に準拠して測定される23℃におけるショアD硬度:73)、
〔4〕架橋構造形成剤b−1:トリアリルイソシアヌレート〔日本化成社製「TAIC」〕、
〔5〕架橋性ゴム成分c−1:ビニリデンフルオライド(VDF)−ヘキサフルオロプロピレン(HFP)−テトラフルオロエチレン(TFE)系重合体〔ダイキン工業(株)製「ダイエルG902」〕、
〔6〕架橋性ゴム成分c−2:ビニリデンフルオライド(VDF)−ヘキサフルオロプロピレン(HFP)系重合体、
〔7〕パーオキサイドd−1:5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン〔日油(株)製「パーヘキサ25B」〕。