(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
下記(5)式を満足しない状態から満足する状態に移行したとき、または下記(6)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときに前記ステップBよりも膝部回転部材の回転に対する制動力を大きくするステップCを含む請求項1に記載の膝関節の制御方法。
M1>C5・・・(5)
M2>C6・・・(6)
ただし、C5〜C6は定数であり、C5≧C3>0、C6≧C4>0である。
前記ステップAにおいて、前記(1)式を満足しない状態から満足する状態に移行したとき、かつ、前記(2)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときに膝部回転部材の回転に対する制動力を大きくし、
前記ステップBにおいて、前記(3)式を満足しない状態から満足する状態に移行したとき、かつ、前記(4)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときに膝部回転部材の回転に対する制動力を小さくし、
前記ステップCにおいて、前記(5)式を満足しない状態から満足する状態に移行したとき、かつ、前記(6)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときに膝部回転部材の回転に対する制動力を大きくする請求項2に記載の膝関節の制御方法。
前記ステップCにおいて、前記(5)式を満足しない状態から満足する状態に移行、または前記(6)式の条件を満足しない状態から満足する状態に移行してから所定の遅れ時間を経過した後に前記ステップBよりも膝部回転部材の回転に対する制動力を大きくする請求項2または3に記載の膝関節の制御方法。
前記ステップBにおいて、膝部回転部材の回転に対する制動力を小さくしてから所定時間が経過した後に、前記ステップAにおいて、膝部回転部材の回転に対する制動力を大きくする請求項1〜4のいずれか一項に記載の膝関節の制御方法。
前記ステップBにおいて、前記(3)式を満足しない状態から満足する状態に移行、または前記(4)式を満足しない状態から満足する状態に移行してから所定の遅れ時間を経過した後に、前記ステップAよりも膝部回転部材の回転に対する制動力を小さくする請求項1〜6のいずれか一項に記載の膝関節の制御方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された人工膝の制御方法は、センサから得られた膝モーメント、踵モーメント等のデータを加算、乗算、減算または除算の数学的操作を行うことにより、断面モーメント、断面力、力または距離等の補助変数を計算し、この補助変数を用いて屈曲抵抗および伸展抵抗の値を調整しているため、制御方法が複雑であり、各種データの検出と抵抗値の制御の双方をリアルタイムで行うのは困難であった。
そこで本発明は、使用者の歩容に合わせて膝関節の回転に対する制動力の調整を適切、かつ容易に行うことができる膝関節の制御方法と下肢装具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決し得た膝関節の制御方法とは、使用者の膝屈曲モーメントM1と足関節底屈モーメントM2の少なくとも一方を計測し、(1)式を満足しない状態から満足する状態に移行したとき、または(2)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときに膝関節の回転に対する制動力を大きくするステップAと、
M1>C1・・・(1)
M2>C2・・・(2)
(3)式を満足しない状態から満足する状態に移行したとき、または(4)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときにステップAよりも膝関節の回転に対する制動力を小さくするステップBと、を含む点を要旨とするものである。
M1<C3・・・(3)
M2<C4・・・(4)
ただし、C1〜C4は定数であり、C1≧C3≧0、C2≧C4≧0である。
【0007】
本発明の膝関節の制御方法において、(1)式を満足しない状態から満足する状態に移行したとき、または(2)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときとは、歩行周期のうち立脚初期の開始に相当する。このため、(1)式または(2)式を満足しない状態から満足する状態に移行したかを判定することによって、立脚初期の開始時期を推定することができる。この際、膝関節の回転に対する制動力を大きくすることにより、膝関節の屈曲または伸展がしにくくなる。
【0008】
他方、(3)式を満足しない状態から満足する状態に移行したとき、または(4)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときとは、歩行周期のうち立脚中期の開始に相当する。このため、(3)式または(4)式を満足しない状態から満足する状態に移行したかを判定することによって、立脚中期の開始時期を推定することができる。この際、膝関節の回転に対する制動力を小さくすることにより、膝関節の屈曲または伸展がしやすくなる。
【0009】
すなわち、本発明の膝関節の制御方法は、膝屈曲モーメントM1と足関節底屈モーメントM2の少なくとも一方と所定値C1〜C4との比較を行うことによって、歩行周期を容易に推定することができる。また、本発明の膝関節の制御方法は、複雑な制御が不要であるから、歩行周期の推定と膝関節の回転に対する制動力の調整をリアルタイムで行うことができる。
【0010】
本発明の膝関節の制御方法は、(5)式を満足しない状態から満足する状態に移行したとき、または(6)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときにステップBよりも膝関節の回転に対する制動力を大きくするステップCを含むことが好ましい。
M1>C5・・・(5)
M2>C6・・・(6)
ただし、C5〜C6は定数であり、C5≧C3≧0、C6≧C4≧0である。
(5)式を満足しない状態から満足する状態に移行したとき、または(6)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときとは、歩行周期のうち立脚終期の開始に相当する。このため、(5)式または(6)式を満足しない状態から満足する状態に移行したかを判定することによって、立脚終期の開始時期を推定することができる。この際、膝関節の回転に対する制動力を大きくすることにより、膝関節の屈曲または伸展がしにくくなる。
【0011】
ステップAにおいて、(1)式を満足しない状態から満足する状態に移行したとき、かつ、(2)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときに膝関節の回転に対する制動力を大きくし;ステップBにおいて、(3)式を満足しない状態から満足する状態に移行したとき、かつ、(4)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときに膝関節の回転に対する制動力を小さくし;ステップCにおいて、(5)式を満足しない状態から満足する状態に移行したとき、かつ、(6)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときに膝関節の回転に対する制動力を大きくすることが好ましい。膝屈曲モーメントM1と足関節底屈モーメントM2の両方を用いることにより、歩行周期の推定精度を向上させることができるため、膝関節の回転に対する制動力を調整するタイミングの精度を高められる。
【0012】
ステップCにおいて、(5)式を満足しない状態から満足する状態に移行、または(6)式の条件を満足しない状態から満足する状態に移行してから所定の遅れ時間(後述する第3遅れ時間)を経過した後にステップBよりも膝関節の回転に対する制動力を大きくすることが好ましい。このように遅れ時間を設けることにより、使用者の歩容に合わせて膝関節の回転に対する制動力を調整するタイミングを設定することができる。
【0013】
ステップBにおいて、膝関節の回転に対する制動力を小さくしてから所定時間(後述する第2所定時間)が経過した後に、ステップAにおいて、膝関節の回転に対する制動力を大きくすることが好ましい。これにより、立脚終期に発生することがある膝関節の制御に不要な膝屈曲モーメントM1および足関節底屈モーメントM2のピークを除外できるようになる。その結果、歩行周期の推定精度を向上させることができるため、膝関節の回転に対する制動力を調整するタイミングの精度が高められる。
【0014】
使用者の動きに伴う加速度Aを計測し、ステップAにおいて、(1)式を満足しない状態から満足する状態に移行、または(2)式を満足しない状態から満足する状態に移行し、かつ、(7)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときに膝関節の回転に対する制動力を大きくすることが好ましい。
A>C7・・・(7)
ただし、C7は定数であり、C7>0である。
本発明の膝関節の制御方法において、加速度Aを用いることにより、立脚初期の開始時期の推定精度を向上させることができるため、膝関節の回転に対する制動力を調整するタイミングの精度を高められる。
【0015】
ステップBにおいて、(3)式を満足しない状態から満足する状態に移行、または(4)式を満足しない状態から満足する状態に移行してから所定の遅れ時間(後述する第2遅れ時間)を経過した後に、ステップAよりも膝関節の回転に対する制動力を小さくすることが好ましい。このように遅れ時間を設けることにより、使用者の歩容に合わせて膝関節の回転に対する制動力を調整するタイミングを設定することができる。
【0016】
また、上記課題を解決し得た下肢装具とは;大腿側の第1構成部材と、下腿側の第2構成部材と、第1構成部材と第2構成部材を保持する膝部回転部材と、を有する下肢装具であって;膝部回転部材の回転中心における膝屈曲モーメントM1を計測する計測部と;膝屈曲モーメントM1が(1)式、(3)式、(5)式を満足することを判定する処理部と;(1)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときに膝部回転部材の回転に対する制動力を大きくし、(3)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときに膝部回転部材の回転に対する制動力を(1)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときの制動力よりも小さくし、(5)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときに膝部回転部材の回転に対する制動力を(3)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときの制動力よりも大きくする駆動部と、が設けられている点を要旨とするものである。
M1>C1・・・(1)
M1<C3・・・(3)
M1>C5・・・(5)
ただし、C1、C3、C5は定数であり、C1≧C3≧0、C5≧C3≧0である。
【0017】
本発明の下肢装具は、計測部が設けられているため、膝部回転部材の回転中心における膝屈曲モーメントM1を計測することができる。(1)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときとは、歩行周期のうち立脚初期の開始に相当する。このため、(1)式を満足しない状態から満足する状態に移行したかを判定することによって、立脚初期の開始時期を推定できる。この際、膝関節の回転に対する制動力を大きくすることにより、膝関節の屈曲または伸展がしにくくなる。
【0018】
本発明において、(3)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときとは、歩行周期のうち立脚中期の開始に相当する。このため、(3)式を満足しない状態から満足する状態に移行したかを判定することによって、立脚中期の開始時期を推定できる。立脚中期において、膝関節の回転に対する制動力を(1)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときの制動力よりも小さくすることにより、膝関節の屈曲または伸展がしやすくなる。
【0019】
本発明において、(5)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときとは、歩行周期のうち立脚終期の開始に相当する。このため、(5)式を満足しない状態から満足する状態に移行したかを判定することによって、立脚終期の開始時期を推定できる。立脚終期において、膝関節の回転に対する制動力を(3)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときの制動力よりも大きくすることにより、膝関節の屈曲または伸展がしにくくなる。
【0020】
したがって、本発明の下肢装具は、膝屈曲モーメントM1と所定値C1、C3、C5との比較を行うことによって、歩行周期を容易に推定することができる。このため、膝関節の回転に対する制動力の調整をリアルタイムで容易に行うことができる。
【0021】
本発明の下肢装具は、足関節側の第3構成部材と、第2構成部材と第3構成部材を保持する足首部回転部材とを有し;計測部において足首部回転部材の回転中心における足関節底屈モーメントM2が計測され:処理部において、(1)式、(3)式、(5)式と、下記(2)式、下記(4)式、下記(6)式を満足することを判定し;駆動部において、(1)式を満足しない状態から満足する状態に移行したとき、または(2)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときに膝部回転部材の回転に対する制動力を大きくし;(3)式を満足しない状態から満足する状態に移行したとき、または(4)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときに、膝部回転部材の回転に対する制動力を(1)式を満足しない状態から満足する状態に移行したとき、または(2)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときの制動力よりも小さくし;(5)式を満足しない状態から満足する状態に移行したとき、または(6)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときに、膝部回転部材の回転に対する制動力を(3)式を満足しない状態から満足する状態に移行したとき、または(4)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときの制動力よりも大きくすることが好ましい。
M2>C2・・・(2)
M2<C4・・・(4)
M2>C6・・・(6)
ただし、C2、C4、C6は定数であり、C2≧C4≧0、C6≧C4≧0である。
このように、膝関節の制御に膝屈曲モーメントM1と足関節底屈モーメントM2の両方を用いることにより、歩行周期の推定精度を向上させることができるため、膝関節の回転に対する制動力を調整するタイミングの精度を高められる。
【0022】
本発明の下肢装具において、処理部が、計測部および駆動部と通信可能な外部端末に設けられていることが好ましい。処理部が外部端末に設けられていれば、使用者以外の医師等が、計測部で計測されたデータの観察や、(1)式〜(6)式の右辺に記載されたC1〜C6の変更等を遠隔で行うことができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の膝関節の制御方法は、膝屈曲モーメントM1と足関節底屈モーメントM2の少なくとも一方を用いることによって、歩行周期を容易に推定することができる。また、複雑な制御が不要であるから、歩行周期の推定と膝関節の回転に対する制動力の調整をリアルタイムで行うことができる。
さらに、本発明の下肢装具は、膝屈曲モーメントM1を用いることによって、歩行周期を容易に推定することができる。また、複雑な制御が不要であるから、歩行周期の推定と膝関節の回転に対する制動力の調整をリアルタイムで行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、下記実施の形態に基づき本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施の形態によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、図面における種々部材の寸法は、本発明の特徴を理解に資することを優先しているため、実際の寸法とは異なる場合がある。
【0026】
1.膝関節の制御方法
本発明の膝関節の制御方法は、使用者の膝屈曲モーメントM1と足関節底屈モーメントM2の少なくとも一方を計測し、(1)式を満足しない状態から満足する状態に移行したとき、または(2)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときに膝関節の回転に対する制動力を大きくするステップAと、
M1>C1・・・(1)
M2>C2・・・(2)
(3)式を満足しない状態から満足する状態に移行したとき、または(4)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときにステップAよりも膝関節の回転に対する制動力を小さくするステップBと、を含むものである。
M1<C3・・・(3)
M2<C4・・・(4)
ただし、C1〜C4は定数であり、C1≧C3≧0、C2≧C4≧0である。
【0027】
本発明の膝関節の制御方法において、ステップAで(1)式または(2)式を満足しない状態から満足する状態に移行したかを判定することによって、立脚初期の開始時期を推定することができる。また、立脚初期において膝関節の回転に対する制動力を大きくすることにより、膝関節の屈曲または伸展がしにくくなる。他方、ステップBで(3)式または(4)式を満足しない状態から満足する状態に移行したかを判定することによって、立脚中期の開始時期を推定することができる。また、立脚中期において膝関節の回転に対する制動力を小さくすることにより、膝関節の屈曲または伸展がしやすくなる。すなわち、本発明の膝関節の制御方法は、膝屈曲モーメントM1と足関節底屈モーメントM2の少なくとも一方と所定値C1〜C4との比較を行うことによって、歩行周期を容易に推定することができる。また、本発明の膝関節の制御方法は、複雑な制御が不要であるから、歩行周期の推定と膝関節の回転に対する制動力の調整をリアルタイムで行うことができる。
【0028】
図1は、膝屈曲モーメントM1と足関節底屈モーメントM2を示す模式図を表す。足底が床13に接しているとき、下肢10には床反力F1が生じる。膝関節11が重心12よりも前側に出ると、床反力F1を受けて、膝の屈曲する方向(膝関節11を回転中心として大腿と下腿が近づく方向)に膝屈曲モーメントM1が発生する。膝屈曲モーメントM1はM1=F1×L1で表される。なお、L1は、膝関節11から床反力F1までの垂線の距離である。
【0029】
床反力F1が足関節10よりも前側を通るときには、足関節10は背屈方向(足関節10を回転中心として爪先が床13から離れる方向)に床反力F1によるモーメントを受ける。そうすると、足関節10が背屈方向に回転するのを防ぐために、足関節10が底屈方向(足関節10を中心として爪先を床13側に近づける方向)に底屈筋力F2が働き、底屈筋力F2により足関節底屈モーメントM2が発生する。足関節底屈モーメントM2はM2=F2×L2で表される。なお、L2は足関節10から底屈筋力F2までの垂線の距離である。
【0030】
本発明では、使用者の膝屈曲モーメントM1と足関節底屈モーメントM2の少なくとも一方を計測する。膝屈曲モーメントM1、足関節底屈モーメントM2は、例えば、下肢装具や義肢に取り付けられるロードセル(荷重変換器)や筋電計、その他、公知のトルクセンサによって計測できる。
【0031】
ロードセルの種類は、例えば歪ゲージ式、磁歪式、静電容量式、ジャイロ式などがある。例えば、歪ゲージ式の場合、ロードセルの起歪体に対して力やモーメントが加わると、起歪体にある歪ゲージが伸縮することにより電気抵抗値が変化するが、この変化を電圧で測定することで力やモーメントを容易に計測することができる。
【0032】
膝および足関節に関して麻痺等の重度な障害が無い場合は、膝屈曲モーメントM1や足関節底屈モーメントM2の計測に筋電計を用いることもできる。筋電計で膝屈曲モーメントM1を計測する場合は、大腿四頭筋等の膝を屈曲させる筋に筋電計が取り付けられる。筋電計で足関節底屈モーメントM2を計測する場合には、足関節が底屈するときに足関節底屈モーメントを発生している前脛骨筋等に筋電計が取り付けられる。筋電計により計測された信号は、二乗平均平方根(RMS)化等の数学的処理により大きさが比較できる状態に加工することでモーメントと同等の情報を簡便に得ることができる。
【0033】
本発明の実施の形態に係る膝関節の制御方法について、
図2〜
図6を用いて説明する。
図2〜
図6は本発明の実施の形態1〜5に係る膝関節の制御方法を示すフローチャートを表す。
【0034】
(実施の形態1)
図2に示す実施の形態1は、膝関節の制御に膝屈曲モーメントM1を用いる例である。
【0035】
未歩行時には膝関節の回転に対する制動力を大きくする(ステップS1)。このように膝関節の回転に対する制動力を大きくすることで膝関節が屈曲または伸展しないように固定されるか、もしくは一定の速度で屈曲することが可能になり、未歩行時に膝折れや立ち座りに伴う転倒が発生するのを抑止できる。また、立ち座りにおいては、上記のように膝屈曲モーメントに合わせて制動力の大きさを調整する方法以外にも、別途計測される膝関節の加速度に合わせて制動力の大きさを調整してもよい。なお、膝関節が屈曲または伸展する速度は一定でもよく、膝関節の回転に対する制動力が変化する速度に応じて可変でもよい。膝関節が屈曲または伸展する速度は、使用者の年齢、性別、歩容、病気の進行度等に応じて適宜設定することができる。膝関節が屈曲または伸展する速度は、後述するステップA〜Cの場合も同様に設定できる。
【0036】
膝関節の回転に対する制動力を大きくする方法としては、ロードセル等のセンサによって検出された膝屈曲モーメントM1と逆向きのモーメントを加える方法や、下肢装具や義肢に取り付けられる膝継手の回転トルクを大きくする方法等を用いることができる。
【0037】
使用者が歩行を開始しているか判定するために、膝屈曲モーメントM1が発生しているか判定する(ステップS2)。具体的にはM1>0であるかを判定することが好ましい。
【0038】
ステップS2において、膝屈曲モーメントM1が発生している場合には、歩行を開始していると判定し、歩行ループを開始する(ステップS3)。
【0039】
ステップS2において、膝屈曲モーメントM1が発生していない場合には歩行を開始していないと判定することができるため、引き続き膝関節の回転に対する制動力を大きくしておくためにステップS1に戻る。
【0040】
次いで、(1)式を満足しない状態から満足する状態に移行したかを判定する(ステップS4)。これにより、立脚初期の開始時期を推定できる。
M1>C1・・・(1)
ただし、C1は定数であり、C1≧0である。
【0041】
(1)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときに、膝関節の回転に対する制動力を大きくする(ステップS5(ステップA))。この際、膝関節の回転に対する制動力を大きくすることにより、膝関節が屈曲または伸展しにくくなるため、立脚初期に使用者が自然な歩行姿勢をとることを促進できる。
【0042】
ステップS5において、膝関節の回転に対する制動力を大きくするとは、後述するステップS8よりも膝関節の回転に対する制動力を大きくすることを意味する。具体的に、膝関節の回転に対する制動力を大きくするとは、例えば、膝関節の回転に対する制動力を加えて膝関節が屈曲または伸展しないように膝関節を固定することや、膝関節の回転に対する制動力を加えてステップS8(ステップB)よりも低速で膝関節を屈曲または伸展させることである。
【0043】
ステップS5では、ステップS1で未歩行時に大きくした制動力を維持することにより、膝関節の回転に対する制動力を大きくしてもよい。
【0044】
図2には示していないが、(1)式を満足しない状態から満足する状態に移行してから所定の遅れ時間(第1遅れ時間)を経過した後に、ステップS5(ステップA)において膝関節の回転に対する制動力を大きくすることが好ましい。第1遅れ時間を設けることにより、使用者の歩容に合うように膝関節の回転に対する制動力を制御するタイミングを設定することができる。このように第1遅れ時間を設ける方法は、特に歩行中に膝の位置が安定しない使用者に対して有効である。一般に、歩行周期は0.7秒〜2.0秒程度であり、そのうち立脚初期は10%〜20%程度を占める。このため、第1遅れ時間は、例えば0.07秒〜0.2秒に設定することができる。
【0045】
(1)式を満足しない状態から満足する状態に移行していない場合、膝関節の回転に対する制動力を大きくする(ステップS6)。膝屈曲モーメントが(1)式を満足しない状態から満足する状態に移行していない場合、歩行周期のどの段階に位置しているか推定するのが困難となる。この際、膝関節の回転に対する制動力を大きくしておくことにより、膝関節が屈曲または伸展しにくくなるため膝折れが発生しにくくなる。
【0046】
ステップS6では、未歩行時(ステップS1)に大きくした制動力を維持することにより、膝関節の回転に対する制動力を大きくしてもよい。
【0047】
ステップS5の後、(3)式を満足しない状態から満足する状態に移行したかを判定する(ステップS7)。これにより、立脚中期の開始時期を推定できる。
M1<C3・・・(3)
ただし、C3は定数であり、C1≧C3≧0である。また、C1>C3≧0とすることもできる。
【0048】
(3)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときに、ステップS5よりも膝関節の回転に対する制動力を小さくする(ステップS8(ステップB))。この際、ステップS5(ステップA)よりも膝関節の回転に対する制動力を小さくすることで膝関節が動作しやすくなるため、立脚中期に使用者が自然な歩行姿勢をとることを促進できる。
【0049】
ステップS8(ステップB)において、膝関節の回転に対する制動力を小さくするとは、例えば、膝関節の回転に対する制動力を加えずに固定解除することや、膝関節の回転に対する制動力を加えてステップS5(ステップA)よりも高速で膝関節を屈曲または伸展させることである。
【0050】
膝関節の回転に対する制動力を小さくする方法としては、ロードセル等のセンサによって検出された膝屈曲モーメントM1と逆向きに加えていたモーメントを小さくする方法や、下肢装具や義肢に取り付けられる膝継手の回転トルクを小さくする方法等を用いることができる。
【0051】
図2には示していないが、ステップS8(ステップB)において、(3)式を満足しない状態から満足する状態に移行してから所定の遅れ時間(第2遅れ時間)を経過した後に、ステップS5(ステップA)よりも膝関節の回転に対する制動力を小さくすることが好ましい。第2遅れ時間を設けることにより、使用者の歩容に合うように膝関節の回転に対する制動力を調整するタイミングを設定することができる。このように第2遅れ時間を設ける方法は、特に歩行中に膝の位置が安定しない使用者に対して有効である。一般に、立脚中期は10%〜20%程度を占める。このため、第2遅れ時間は、例えば0.07秒〜0.2秒に設定することができる。
【0052】
(3)式を満足しない状態から満足する状態に移行していない場合、膝関節の回転に対する制動力を大きくするステップS6に戻る。ステップS6では、ステップS1での制動力を維持することにより、膝関節の回転に対する制動力を大きくしてもよく、ステップS5での制動力を維持することにより、膝関節の回転に対する制動力を大きくしてもよい。
【0053】
ステップS8の開始からの経過時間が、第1所定時間以内であるかを判定する(ステップS9)。すなわち、膝関節の回転に対する制動力を小さくしている状態が、第1所定時間以内であるかを判定する。これにより異常歩行の発生の有無を推定できる。
【0054】
第1所定時間は、例えば、1.0秒〜2.0秒に設定することができる。また第1所定時間は、使用者の1歩行周期に相当する時間に設定してもよい。
【0055】
ステップS8の開始からの経過時間が第1所定時間以内の場合、(3)式を満足しない状態から満足する状態に移行したかを判定するステップS4に戻る。ステップS8の開始からの経過時間が第1所定時間以内の場合には、歩行動作が継続しているとみなせる。
【0056】
ステップS8の開始からの経過時間が第1所定時間を超える場合、膝関節の回転に対する制動力をステップS8よりも大きくする(ステップS10)。ステップS8の開始からの経過時間が第1所定時間を超える場合には、歩行動作が終了しているとみなせるため、膝折れが発生しないように膝関節の回転に対する制動力をステップS8よりも大きくする。
【0057】
ステップS8(ステップB)において、膝関節の回転に対する制動力を小さくしてから所定時間(第2所定時間)が経過した後に、ステップS5(ステップA)において、膝関節の回転に対する制動力を大きくすることが好ましい。このことには、ステップS8(ステップB)の後、ステップS8の開始からの経過時間が第1所定時間以内で、次の立脚初期の開始時期を推定するためにステップS4に戻る場合を意図している。使用者によっては、立脚終期に膝屈曲モーメントM1または足関節底屈モーメントM2が大きくなることがあるため、立脚初期と立脚終期の判別がしにくくなることがある。このため、ステップBにおいて、膝関節の回転に対する制動力を小さくしてから第2所定時間が経過した後に、次の歩行終期のステップAにおいて、膝関節の回転に対する制動力を大きくすることで、立脚終期の途中で発生し、膝関節の制御に不要な膝屈曲モーメントM1および足関節底屈モーメントM2のピークを除外できるようになり、歩行周期の推定精度を向上させることができる。これにより、膝関節の回転に対する制動力を調整するタイミングの精度が高められ、使用者が自然な歩行姿勢をとることを促進できる。
【0058】
第2所定時間は、歩行周期の半分以上の時間であることが好ましい。膝関節の制御に不要な立脚終期の膝屈曲モーメントM1および足関節底屈モーメントM2のピークは、ステップS8(ステップB)で膝関節の回転に対する制動力を大きくしてから半歩行周期を超えたときに出現することがあるためである。一般に、歩行周期は0.7秒〜2.0秒程度であるから、第2所定時間は、例えば0.35秒以上1.0秒以下に設定される。
【0059】
実施の形態1において、膝屈曲モーメントM1の代わりに足関節底屈モーメントM2を用いることもできる。その場合、ステップS4において(1)式の代わりに下記(2)式を用い、ステップS7において(3)式の代わりに下記(4)式を用いればよい。
M2>C2・・・(2)
M2<C4・・・(4)
ただし、C2、C4は定数であり、C2≧C4≧0である。また、C2>C4≧0とすることもできる。
【0060】
本発明の膝関節の制御方法において、具体的なC1〜C4の値は、C1≧C3≧0、C2≧C4≧0の関係を満たしていれば特に制限されるものではなく、使用者の年齢、性別、歩容、病気の進行度等に応じて適宜設定することができる。例えば、C1、C2は0N・m〜20N・mの範囲に設定することができ、C3、C4は0N・m〜5N・mの範囲に設定することができる。
【0061】
(実施の形態2)
実施の形態2では、実施の形態1で用いた(1)式および(3)式に加えて、立脚終期の開始時期を推定可能な(5)式を用いる例を示す。
図3は、本発明の実施の形態2に係る膝関節の制御方法を示すフローチャートを表す。なお、実施の形態2の説明において、上記の説明と重複する部分は説明を省略する。
【0062】
ステップS1〜ステップS6は、実施の形態1と同様である。
【0063】
ステップS5(ステップA)の後、(3)式を満足しない状態から満足する状態に移行したかを判定する(ステップS7)。これにより、立脚中期の開始時期を推定できる。
【0064】
(3)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときに、ステップS5よりも膝関節の回転に対する制動力を小さくする(ステップS8(ステップB))。
【0065】
(3)式を満足しない状態から満足する状態に移行しない場合、膝関節の回転に対する制動力を大きくするステップS5に戻る。
【0066】
ステップS8の後、(5)式を満足しない状態から満足する状態に移行したかを判定する(ステップS11)。これにより、立脚終期の開始時期を推定できる。
M1>C5・・・(5)
ただし、C5は定数であり、C5≧C3≧0である。また、C5>C3≧0とすることもできる。
【0067】
ステップS11において(5)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときに、ステップS8(ステップB)よりも膝関節の回転に対する制動力を大きくするステップS6(ステップC)に戻る。
【0068】
ステップS6(ステップC)において、膝関節の回転に対する制動力を大きくするとは、例えば、膝関節の回転に対する制動力を加えて膝関節が屈曲または伸展しないように膝関節を固定することや、膝関節の回転に対する制動力を加えてステップS8(ステップB)よりも低速で膝関節を屈曲または伸展させることである。
【0069】
一般に、立脚終期では膝関節の回転に対する制動力を小さくして膝関節を動作させやすくするが、使用者によっては膝屈曲モーメントM1の値が立脚終期で過度に大きくなり、膝折れが発生することがあった。しかし、本発明では仮に立脚終期で過度な膝屈曲モーメントが発生したとしても、ステップS8(ステップB)よりも膝関節の回転に対する制動力を大きくすることにより膝関節が屈曲または伸展しにくくなるため、膝折れが発生するのを未然に抑止できる。
【0070】
(5)式を満足しない状態から満足する状態に移行しない場合、膝関節の回転に対する制動力を小さくする(ステップS12)。(5)式を満足しない状態から満足する状態に移行しない場合とは、立脚終期であっても、過度に膝屈曲モ−メントM1が大きくならずに歩容が安定していることを意味する。この場合、立脚終期で膝関節11が動作しやすくなるように、膝関節の回転に対する制動力を小さくすることで、使用者が自然な歩行姿勢をとることを促進できる。
【0071】
図3には示していないが、(5)式を満足しない状態から満足する状態に移行してから所定の遅れ時間(第3遅れ時間)を経過した後に、ステップS6において、ステップS8よりも膝関節の回転に対する制動力を大きくすることが好ましい。第3遅れ時間を設けることにより、使用者の歩容に合うように膝関節の回転に対する制動力を調整するタイミングを設定することができる。このように第3遅れ時間を設ける方法は、特に歩行中に膝の位置が安定しない使用者に対して有効である。第3遅れ時間は、例えば、0.07秒〜0.2秒に設定することができる。
【0072】
ステップS12の開始からの経過時間が、第3所定時間以内であるかを判定する(ステップS13)。すなわち、膝関節の回転に対する制動力を小さくしている状態が、第3所定時間以内であるかを判定する。これにより、異常歩行の発生の有無を推定できる。
【0073】
第3所定時間は、例えば、1.0秒〜2.0秒に設定することができる。また第3所定時間は、使用者の1歩行周期に相当する時間に設定してもよい。
【0074】
ステップS12の開始からの経過時間が、第3所定時間以内の場合、膝関節の回転に対する制動力を小さくするステップS8に戻る。ステップS12の開始からの経過時間が第3所定時間以内の場合には、歩行動作が継続しているとみなせる。
【0075】
ステップS12の状態の継続時間が、第3所定時間を超える場合、膝関節の回転に対する制動力をステップS12よりも大きくする(ステップS14)。ステップS12の開始からの経過時間が第3所定時間を超える場合には、歩行動作が終了したとみなせる。
【0076】
実施の形態2において、膝屈曲モーメントM1の代わりに足関節底屈モーメントM2を用いることもできる。その場合、ステップS4において(1)式の代わりに下記(2)式を用い、ステップS7において(3)式の代わりに下記(4)式を用い、ステップS11において(5)式の代わりに下記(6)式を用いればよい。
M2>C2・・・(2)
M2<C4・・・(4)
M2>C6・・・(6)
ただし、C2、C4は定数であり、C2≧C4≧0、C6≧C4≧0である。また、C2>C4≧0、C6>C4≧0とすることもできる。
【0077】
本発明の膝関節の制御方法において、具体的なC5〜C6の値は、C5≧C3≧0、C6≧C4≧0の関係を満たしていれば特に制限されるものではなく、使用者の年齢、性別、歩容、病気の進行度等に応じて適宜設定することができる。例えば、C5〜C6は0N・m以上10N・m以下に設定することができる。
【0078】
膝屈曲モーメントM1または足関節底屈モーメントM2の値は、立脚初期と立脚終期でピークを示すが、これらの値は立脚初期での値が立脚終期での値よりも大きい人もいれば、立脚終期での値が立脚初期での値よりも大きい人もいる。このため、C1とC5の大小関係や、C2とC6の大小関係は、使用者の歩容に応じて適宜設定することができる。具体的には、C1とC5の大小関係はC1>C5でもよく、C1<C5でもよい。同様にC2とC6の大小関係はC2>C6でもよく、C2<C6でもよい。
【0079】
(実施の形態3)
実施の形態3では、膝関節11の回転に対する制動力を大きくする制御に足関節モーメントM2を用い、膝関節11の回転に対する制動力を小さくする制御に膝屈曲モーメントM1を用いる例を示す。
図4は本発明の実施の形態3に係る膝関節の制御方法を示すフローチャートを表す。なお、
図4の説明において、上記の説明と重複する部分は説明を省略する。
【0080】
未歩行時には膝関節11の回転に対する制動力を大きくする(ステップS21)。
【0081】
使用者が歩行を開始しているか判定するために、膝屈曲モーメントM1が発生しているかを判定する(ステップS22)。具体的にはM1>0であるかを判定することが好ましい。
【0082】
ステップS22において、膝屈曲モーメントM1が発生していない場合には、ステップS21に戻り、膝関節の回転に対する制動力を大きくする。
【0083】
ステップS22において、膝屈曲モーメントM1が発生している場合、足関節底屈モーメントM2が発生していることを判定する(ステップS23)。具体的にはM2>0であるかを判定することが好ましい。
【0084】
ステップS23において、足関節底屈モーメントM2が発生していない場合には、ステップS21に戻り、膝関節の回転に対する制動力を大きくする。
【0085】
ステップS23において、足関節底屈モーメントM2が発生している場合には、歩行を開始していると判定し、歩行ループを開始する(ステップS24)。
【0086】
ステップS24の後、(2)式を満足しない状態から満足する状態に移行したかを判定する(ステップS25)。これにより、立脚初期の開始時期を推定できる。
M2>C2・・・(2)
【0087】
ステップS25において(2)式を満足しない状態から満足する状態に移行しない場合、膝関節の回転に対する制動力を大きくする(ステップS26)。ステップS26の後は、歩行ループを開始するステップS24に戻る。
【0088】
ステップS25において、(2)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときに、膝関節の回転に対する制動力を大きくする(ステップS27(ステップA))。
【0089】
ステップS27の後、(3)式を満足しない状態から満足する状態に移行したかを判定する(ステップS28)。これにより、立脚中期の開始時期を推定できる。
M1<C3・・・(3)
【0090】
ステップS28において、(3)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときに、ステップS27(ステップA)よりも膝関節の回転に対する制動力を小さくする(ステップS29(ステップB))。
【0091】
ステップS28において、(3)式を満足しない状態から満足する状態に移行しない場合、ステップS27に戻り膝関節の回転に対する制動力を大きくする。
【0092】
ステップS29の後、(5)式を満足しない状態から満足する状態に移行したかを判定する(ステップS30)。
M1>C5・・・(5)
【0093】
ステップS30において、(5)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときに、ステップ29(ステップB)よりも膝関節の回転に対する制動力を大きくする(ステップS26(ステップC))。これにより、膝屈曲モーメントが立脚終期で大きくなることに起因する膝折れの発生を未然に抑止できる。
【0094】
(5)式を満足しない状態から満足する状態に移行しない場合、膝関節の回転に対する制動力を小さくする(ステップS31)。(5)式を満足しない状態から満足する状態に移行しない場合とは、立脚終期であっても、過度に膝屈曲モ−メントM1が大きくならずに歩容が安定していることを意味する。この場合、立脚終期で膝関節が動作しやすくなるように、膝関節の回転に対する制動力を小さくすることで使用者が自然な歩行姿勢をとることを促進できる。
【0095】
ステップS31の後、ステップS31の開始からの経過時間が、第3所定時間以内であるかを判定する(ステップS32)。すなわち、膝関節の回転に対する制動力を小さくしている状態が、第3所定時間以内であるかを判定する。これにより、異常歩行の発生の有無を推定できる。
【0096】
ステップS31の開始からの経過時間が、第3所定時間以内の場合には、歩行動作が継続しているとみなして、膝関節の回転に対する制動力を小さくするステップS29に戻る。
【0097】
ステップS31の開始からの経過時間が、第3所定時間を超える場合、歩行動作が終了したとみなして、膝関節の回転に対する制動力をステップS31よりも大きくする(ステップS33)。
【0098】
実施の形態3に示した膝関節の制御方法は、使用者が足関節底屈筋(
図1のF2)のコントロールが可能な場合に適している。使用者が足関節底屈筋のコントロールが可能であれば、足関節底屈モーメントM2を大きくすることができ、歩行姿勢が比較的安定するからである。
【0099】
(実施の形態4)
実施の形態4では、膝関節の制御に膝屈曲モーメントM1および足関節底屈モーメントM2を用いる。
図5は、本発明の実施の形態4に係る膝関節の制御方法を示すフローチャートを表す。なお、
図5の説明において、上記の説明と重複する部分は説明を省略する。
【0100】
ステップS41〜S44は、実施の形態3のステップS21〜S24と同様である。
【0101】
ステップS44の後、(1)式を満足しない状態から満足する状態に移行したかを判定する(ステップS45)。
M1>C1・・・(1)
【0102】
ステップS45において、(1)式を満足しない状態から満足する状態に移行しない場合、膝関節の回転に対する制動力を大きくする(ステップS46)。
【0103】
ステップS45において、(1)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときに、(2)式を満足しない状態から満足する状態に移行したかを判定する(ステップS47)。
M2>C2・・・(2)
【0104】
ステップS47において、(2)式を満足しない状態から満足する状態に移行しない場合、ステップS46に戻り、膝関節の回転に対する制動力を大きくする。
【0105】
ステップS47において、(2)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときに、膝関節の回転に対する制動力を大きくする(ステップS48(ステップA))。
【0106】
ステップS48の後、(3)式を満足しない状態から満足する状態に移行したかを判定する(ステップS49)。
M1<C3・・・(3)
【0107】
ステップS49において、(3)式を満足しない状態から満足する状態に移行しない場合、膝関節の回転に対する制動力を大きくするステップS48に戻る。
【0108】
ステップS49において、(3)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときに、(4)式を満足しない状態から満足する状態に移行したかを判定する(ステップS50)。
M2<C4・・・(4)
【0109】
ステップS50において、(4)式を満足しない状態から満足する状態に移行しない場合、膝関節の回転に対する制動力を大きくするステップS48に戻る。
【0110】
ステップS50において、(4)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときに、ステップS48よりも膝関節の回転に対する制動力を小さくする(ステップS51(ステップB))。
【0111】
ステップS51の後、(5)式を満足しない状態から満足する状態に移行したかを判定する(ステップS52)。
M1>C5・・・(5)
【0112】
ステップS52において、(5)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときに、ステップS51よりも膝関節の回転に対する制動力を大きくするステップS46(ステップC)に戻り、再び歩行ループを開始する。
【0113】
ステップS52において、(5)式を満足しない状態から満足する状態に移行しない場合、(6)式を満足しない状態から満足する状態に移行したかを判定する(ステップS53)。
M2>C6・・・(6)
【0114】
ステップS53において、(6)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときに、膝関節の回転に対する制動力を大きくするステップS46(ステップC)に戻り、再び歩行ループを開始する。
【0115】
ステップS53において、(5)式を満足しない状態から満足する状態に移行しない場合、ステップS48(ステップA)よりも膝関節の回転に対する制動力を小さくする(ステップS54)。
【0116】
ステップS53の後、ステップS54の開始からの経過時間が、第3所定時間以内であるかを判定する(ステップS55)。すなわち、膝関節の回転に対する制動力を小さくしている状態が、第3所定時間以内であるかを判定する。これにより異常歩行の発生の有無を推定できる。
【0117】
ステップS54の開始からの経過時間が、第3所定時間以内の場合には、歩行動作が継続しているとみなして、膝関節の回転に対する制動力を小さくするステップS51に戻る。
【0118】
ステップS54の開始からの経過時間が、第3所定時間を超える場合には、歩行動作が終了したとみなして、膝関節の回転に対する制動力をステップS54よりも大きくする(ステップS56)。
【0119】
実施の形態4に示した膝関節の制御方法のように、(1)式を満足しない状態から満足する状態に移行し、かつ、(2)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときにステップS48(ステップA)において膝関節の回転に対する制動力を大きくし;(3)式を満足しない状態から満足する状態に移行し、かつ、(4)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときにステップS51(ステップB)においてステップAよりも膝関節の回転に対する制動力を小さくし;(5)式を満足しない状態から満足する状態に移行し、かつ、(6)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときにステップS46(ステップC)において、ステップS48(ステップA)よりも膝関節の回転に対する制動力を大きくすることが好ましい。膝屈曲モーメントM1と足関節底屈モーメントM2の両方を膝関節の制御に用いることにより、歩行周期の推定精度を向上させることができるため、膝関節の回転に対する制動力を調整するタイミングの精度を高められる。
【0120】
(実施の形態5)
膝関節の制御には、加速度が用いられてもよい。加速度は、使用者の動きに伴い発生するものである。ここで加速度とはX軸方向成分の二乗と、Y軸方向成分の二乗と、Z軸方向(鉛直方向)成分の四乗の和である(単位:g)。ここでX軸方向およびY軸方向は使用者の進行方向を表し、1gは9.8m
2/sである。従って、加速度Aは以下の数式1で表され、被検者の動きがないときの加速度はゼロである。加速度Aは立脚初期の開始時に増加するため、加速度Aを観察することにより、立脚初期の開始時期を推定することができる。
【0122】
すなわち、使用者の動きに伴う加速度Aを計測し、ステップS5(ステップA)において、(1)式を満足しない状態から満足する状態に移行、または(2)式を満足しない状態から満足する状態に移行し、かつ、(7)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときにステップS8(ステップB)よりも膝関節の回転に対する制動力を大きくすることが好ましい。
A>C7・・・(7)
ただし、C7は定数であり、C7>0である。
【0123】
実施の形態5は、
図3に示す実施の形態2に係る膝関節の制御方法において、膝関節の回転に対する制動力を小さくする制御に加速度をさらに用いる例である。
図6は、本発明の実施の形態5に係る膝関節の制御方法を示すフローチャートを表す。なお、
図6の説明において、上記の説明と重複する部分は説明を省略する。
【0124】
図6に示す膝関節の制御方法は、
図3に示すステップS4を、ステップS4−1とステップS4−2に置き換えた方法である。
【0125】
ステップS1〜ステップS3は、
図3に示す実施の形態2に係る膝関節の制御方法と同様である。
【0126】
ステップS3の後、(1)式を満足しない状態から満足する状態に移行したかを判定する(ステップS4−1)。
【0127】
ステップS4−1において、(1)式を満足しない状態から満足する状態に移行しない場合、膝関節の回転に対する制動力を大きくするステップS6に戻る。
【0128】
ステップS4−1において、(1)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときに、(7)式を満足しない状態から満足する状態に移行したかを判定する(ステップS4−2)。
A>C7・・・(7)
【0129】
ステップS4−2において、(7)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときに、膝関節の回転に対する制動力を大きくする(ステップS5(ステップA))。
【0130】
ステップS4−2において、(7)式を満足しない状態から満足する状態に移行しない場合、膝関節の回転に対する制動力を大きくするステップS6に戻る。
【0131】
ステップS6〜ステップS14は、
図3に示す実施の形態2の膝関節の制御方法と同じである。
【0132】
実施の形態5では、立脚初期の開始時期を推定するために膝屈曲モーメントM1と加速度Aを用いる方法を例として示したが、実施の形態1、3〜4の膝関節の回転に対する制動力を小さくする制御に加速度Aが用いられてもよい。また、実施の形態1〜2の膝関節の制御方法において膝屈曲モーメントM1の代わりに足関節底屈モーメントM2を用いた上で、加速度Aをさらに加えてもよい。
【0133】
歩行周期を精度よく推定して膝関節の回転に対する制動力を調整するタイミングの精度を高められるように、加速度Aの他、足関節角度や使用者の角速度等を組み合わせることも勿論可能である。また、従来から歩行周期の検出に使用されてきたフットスイッチや、画像解析装置等と併用することにより、さらに高度な制御が可能になる。
【0134】
2.下肢装具
本発明の下肢装具について、
図7〜
図9を用いて説明する。
図7〜
図8は本発明の下肢装具の斜視図を表し、
図9は本発明の下肢装具50の構成を示すブロック図を表す。なお、部材が配置される位置を明確に表すために、
図7には計測部、処理部、駆動部が取り外された下肢装具が示されており、
図8には後述する計測部、処理部、駆動部が取り付けられた下肢装具が示されている。
【0135】
図7に示すように、下肢装具50(50A)は、大腿側の第1構成部材51と、下腿側の第2構成部材52と、第1構成部材51と第2構成部材52を保持する膝部回転部材53(53A、53B)と、を有する。
図7において下肢装具50は右足用の下肢装具であり、膝部回転部材53は、内側(左足側)に位置する膝部回転部材53Aと、外側に位置する膝部回転部材53Bを有する。
【0136】
大腿側の第1構成部材51は、使用者の大腿を支持する部材であり、例えば、大腿に巻かれて固定される大腿カフがある。第1構成部材51には、必要に応じて大腿の前面または後面を半周する半月が設けられてもよい。
【0137】
下腿側の第2構成部材52は、使用者の下腿を支持する部材であり、第1構成部材51と同様に、例えば、下腿に巻かれて固定される下腿カフがある。なお、第2構成部材52には、必要に応じて下腿の前面または後面を半周する半月が設けられてもよい。
【0138】
第1構成部材51、第2構成部材52の材料は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニルなどの高分子材料や、織物、編物、不織布等の布地、またはこれらの組み合わせから形成されればよい。第1構成部材51や第2構成部材52は、高分子材料から形成されることが好ましい。布地と比較して変形しにくく、弾力性を有しているためである。
【0139】
膝部回転部材53は、第1構成部材51と第2構成部材52を保持し、膝関節の回転、すなわち膝関節の屈曲および伸展を可能にする。下肢装具50Aにおいて、膝部回転部材53は、上側支柱54を介して第1構成部材51と接続され、下側支柱55を介して第2構成部材52と接続されている。図示していないが、膝部には膝当てやバンドが取り付けられてもよい。
【0140】
図8に示すように、下肢装具50には、計測部60と、処理部70と、駆動部80と、が設けられている。計測部60は、膝部回転部材53(53B)の回転中心における膝屈曲モーメントM1を計測する。処理部70は、膝屈曲モーメントM1が(1)式、(3)式および(5)式の条件を満足することを判定する。駆動部80は、(1)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときに膝部回転部材の回転に対する制動力を大きくし、(3)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときに膝部回転部材の回転に対する制動力を(1)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときの制動力よりも小さくし、(5)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときに膝部回転部材の回転に対する制動力を(3)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときの制動力よりも大きくする。
M1>C1・・・(1)
M1<C3・・・(3)
M1>C5・・・(5)
ただし、C1、C3、C5は定数であり、C1≧C3≧0、C5≧C3≧0である。
【0141】
本発明の下肢装具50は、計測部60が設けられているため、膝部回転部材53の回転中心における膝屈曲モーメントM1を計測することができる。計測部60において、膝屈曲モーメントM1が(1)式を満足しない状態から満足する状態に移行したかを判定することによって、立脚初期の開始時期を推定できる。また、立脚初期で膝関節の回転に対する制動力を大きくすることにより、膝関節が屈曲または伸展しにくくなる。
【0142】
計測部60において、膝屈曲モーメントM1が(3)式を満足しない状態から満足する状態に移行したかを判定することによって、立脚中期の開始時期を推定できる。立脚中期で膝関節の回転に対する制動力を(1)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときの制動力よりも小さくすることにより、膝関節の屈曲または伸展がしやすくなる。
【0143】
計測部60において、膝屈曲モーメントM1が(5)式を満足しない状態から満足する状態に移行したかを判定することによって、立脚終期の開始時期を推定できる。立脚終期で膝関節の回転に対する制動力を(3)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときの制動力よりも大きくする。これにより、過度な膝屈曲モーメントが発生することにより不安定な状態で立脚終期を迎えても、膝関節が屈曲または伸展しにくくなるため、膝折れが発生するのを未然に抑止できる。
【0144】
従って、本発明の下肢装具50は、膝屈曲モーメントM1と所定値C1、C3、C5との比較を行うことによって、歩行周期を容易に推定することができる。このため、膝関節の制御をリアルタイムで容易に行うことができる。
【0145】
以下では、下肢装具50(50A)の具体的な構成を説明する。
図7〜
図8に示すように、下肢装具50Aは、膝部回転部材53に計測部60Aと、処理部70と、駆動部80が設けられている。下肢装具50Aに計測部60A、処理部70、駆動部80を設ける方法としては、例えばネジ留め、接着、溶着等によって固定する方法や、面ファスナー等によって取り外し可能に接合する方法を用いることができる。
【0146】
図9に示すように、計測部60Aは、膝屈曲モーメントM1を計測する膝屈曲モーメント計測部61を有する。膝屈曲モーメント計測部61には、上述したロードセル、筋電計、トルクセンサを用いることができる。計測部60で計測された膝屈曲モーメントM1のデータは処理部70に送信される。
【0147】
処理部70は、計測部60から送信されたデータが所定の条件式を満足しない状態から満足する状態に移行したかを判定する。
図9に示すように、処理部70は、計測部60から送信されたデータを受信する受信部71と、所定値C1、C3、C5を格納する所定値格納部72と、計測部60Aから送信されたデータと所定値を用いて(1)、(3)、(5)式の条件が満足されるか判定する判定部73を有している。所定値C1、C3、C5の値を適宜変更することができるように、所定値格納部72には入力手段(図示していない)が設けられることが好ましい。なお、処理部70には、公知のマイクロプロセッサを用いることができる。
【0148】
受信部71に送信された膝屈曲モーメントM1と、所定値格納部72に格納されているC1、C3、C5を判定部73に送信し、判定部73で、受信部71に送信されたデータとC1、C3、C5との比較を行い、(1)式、(3)式、(5)式の条件が満足されるかを判定する。判定部73で(1)式を満足しない状態から満足する状態に移行するとの条件が満たされたら、膝関節の回転に対する制動力を大きくする信号、例えば膝関節の固定解除信号を駆動部80に送信する。また、処理部70の判定部73で(3)式を満足しない状態から満足する状態に移行するとの条件が満たされたら、膝関節の回転に対する制動力を(1)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときの制動力よりも小さくする信号を駆動部80に送信する。また、処理部70の判定部73で(5)式を満足しない状態から満足する状態に移行するとの条件が満たされたら、膝関節の回転に対する制動力を(3)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときの制動力よりも大きくする信号を駆動部80に送信する。
【0149】
駆動部80で、処理部70の判定部73から送信された膝関節の固定信号または固定解除信号に基づき、膝部回転部材53の回転に対する制動力の大小を制御する。これにより、膝関節の動きを歩行周期に合わせて適切に制御することができる。駆動部80では、処理部70からの固定解除信号に基づき、膝関節の回転に対する制動力を小さくし、自由に膝関節を動かせるようにする。また、駆動部80で、処理部70から固定信号を受信した場合は、膝関節の回転に対する制動力を大きくし、使用者が膝折れすることを抑止する。
【0150】
駆動部80は膝関節の回転に対して制動力を加えるものであるから、駆動部80は膝部回転部材53に設けられることが好ましい。膝関節の制御動作がスムーズに行われるように、駆動部80には油圧アクチュエータや空圧アクチュエータが用いられることが好ましい。
【0151】
図7に示すように、計測部60、処理部70、駆動部80は、下肢装具50から脱着可能に設けられることが好ましい。これにより、必要に応じて計測部60、処理部70、駆動部80が取り外された軽量な下肢装具として使用可能になる。
【0152】
以上のとおり、
図9に示す下肢装具50Aは、膝関節の制御に膝屈曲モーメントM1を用いているため、例えば、上述した「1.膝関節の制御方法」の実施の形態1の制御方法を実施することができる。
【0153】
上述した下肢装具50Aとは異なる態様の下肢装具について、
図7〜
図8、
図10〜
図12を用いて説明する。
図10〜
図12は、本発明の下肢装具の他の構成例を示すブロック図を表す。
【0154】
図7〜
図8および
図10に示すように下肢装具50(50B)は、足関節側の第3構成部材56と、第2構成部材52と第3構成部材56を保持する足首部回転部材57とを有し;計測部60において足首部回転部材57の回転中心における足関節底屈モーメントM2が計測され;処理部70において(1)式〜(6)式の条件を満足することを判定し;駆動部80において;(1)式を満足しない状態から満足する状態に移行したとき、または(2)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときに膝部回転部材53の回転に対する制動力を大きくし;(3)式を満足しない状態から満足する状態に移行したとき、または(4)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときに膝部回転部材53の回転に対する制動力を(1)式を満足しない状態から満足する状態に移行したとき、または(2)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときの制動力よりも小さくし;(5)式と(6)式の少なくとも一方の条件が満足される場合に膝部回転部材53の回転に対する制動力を(3)式を満足しない状態から満足する状態に移行したとき、または(4)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときの制動力よりも大きくすることが好ましい。
M2>C2・・・(2)
M2<C4・・・(4)
M2>C6・・・(6)
ただし、C2、C4、C6は定数であり、C2≧C4≧0、C6≧C4≧0である。
膝関節の制御に膝屈曲モーメントM1と足関節底屈モーメントM2の両方を用いることにより、歩行周期の推定精度を向上させることができるため、膝関節の回転に対する制動力を調整するタイミングの精度を高められる。
【0155】
足関節側の第3構成部材56は、使用者の足部を載せるための足載置部材として機能する。足首部回転部材57は、第3構成部材56と第2構成部材52を保持し、足関節の回転、すなわち足関節の底屈および背屈を可能にする。下肢装具50(50B)において、足首部回転部材57は、第3構成部材56に取り付けられ、下側支柱55を介して第2構成部材52と接続されている。
【0156】
図10に示すように、下肢装具50Bは、計測部60(60B)が足関節底屈モーメントM2を計測する足関節底屈モーメント計測部62を有することが好ましく、足首部回転部材57に計測部60Bが設けられていることがより好ましい。膝屈曲モーメント計測部61と同様に、足関節底屈モーメント計測部62には、上述したロードセル、筋電計、トルクセンサを用いることができる。
【0157】
計測部60Bで計測された足関節底屈モーメントM2は、
図8に示す下肢装具50Aの膝屈曲モーメントM1と同様に、処理部70の受信部71に送信される。このとき、所定値格納部72には所定値C1〜C6を格納しておく。判定部73では(1)式〜(6)式の条件が満足されるか判定する。判定部73で(1)式を満足しない状態から満足する状態に移行する、または(2)式を満足しない状態から満足する状態に移行するとの条件が満たされたら、膝関節の回転に対する制動力を大きくする信号、例えば膝関節の固定解除信号を駆動部80に送信する。また、処理部70の判定部73で(3)式を満足しない状態から満足する状態に移行する、または(4)式を満足しない状態から満足する状態に移行するとの条件が満たされたら、膝関節の回転に対する制動力を(1)式を満足しない状態から満足する状態に移行したとき、または(2)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときの制動力よりも小さくする信号を駆動部80に送信する。さらに、処理部70の判定部73で(5)式を満足しない状態から満足する状態に移行する、または(6)式を満足しない状態から満足する状態に移行するとの条件が満たされたら、膝関節の回転に対する制動力を(3)式を満足しない状態から満足する状態に移行したとき、または(4)式を満足しない状態から満足する状態に移行したときの制動力よりも大きくする信号を駆動部80に送信する。
【0158】
このように、
図10に示す下肢装具50Bは、膝屈曲モーメントM1に加えて、膝関節の制御に足関節底屈モーメントM2を用いることが可能になるため、例えば、上述した「1.膝関節の制御方法」の実施の形態3〜5の制御方法を実施することができる。
【0159】
図11に示す下肢装具50(50C)は、
図9に示す下肢装具の計測部60(60A)に加速度計測部63が設けられた例である。これにより、膝関節の制御に加速度を用いることが可能になるため、例えば、上述した「1.膝関節の制御方法」の実施の形態5の制御方法を実施することができる。
【0160】
加速度計測部63には、例えば、ピエゾ抵抗体型加速度センサ、圧電型加速度センサ、静電容量型加速度センサなどを用いることができる。下肢装具50Cにおいて、加速度計測部63は膝部回転部材53に設けられているが、加速度計測部63が設けられる位置は特に限定されず、足首部回転部材57、第1構成部材51、第2構成部材52等、下肢装具を構成するその他の部材に設けられてもよい。
【0161】
計測部60Aで計測された加速度Aは、膝屈曲モーメントM1と同様に、処理部70の受信部71に送信される。この場合、所定値格納部72には、所定値C7を格納しておく。判定部73では(7)式を満足しない状態から満足する状態に移行したかを判定する。
【0162】
図12に示す下肢装具50(50D)は、処理部70が、計測部60および駆動部80と通信可能な外部端末90に設けられている例である。処理部が外部端末90に設けられていれば、使用者以外の医師等が、計測部60で計測されたデータの観察や、(1)式〜(7)式の右辺に記載されたC1〜C7の変更等を遠隔で行うことができる。外部端末90としては、例えば、PC、タブレット端末、スマートフォン等が用いられる。
【0163】
本明細書では、下肢装具を用いて膝関節を制御する例を示したが、関節モーメントを用いて関節の回転に対する制動力の大小を制御する方法は、股関節や肘関節等、他の関節に対しても勿論適用することができる。