【実施例】
【0014】
図1および
図2に示すように、実施例に係る蓄熱剤用容器(以下、単に容器という)10は、蓄熱剤を収容可能な空間10aが内部に設けられた箱状体を本体部とし、外形が矩形状に形成されている。容器10の板面には、角隅部のそれぞれに凸部12または凹部14が設けられ、ほぼ矩形状に形成された板面の対角の一方に配置された2つの凸部12,12と、板面の対角の他方に配置された2つの凹部14,14とを備えている。また、容器10には、凸部12と凹部14とが表裏になるように配置されて、角隅部に凸部12が配置された一方の板面に対応して、他方の板面における同じ角隅部に凹部14が配置されている。なお、実施例において容器10の板面とは、矩形箱状の容器10において最も広い面を指している。凸部12は、板面から突出する半球形状に形成されて、凹部14は、凸部12より小径に形成する、または凸部12の高さより浅く形成するなどにより、凸部12の一部を収容可能に形成される。
図3に示すように、凸部14を凹部12に収容して互いにずれ止めした状態で、複数の容器10を段積み可能に構成されて、複数の容器10を段積みした際に、隣り合う容器10の間に空気流通用の隙間Sがあくようになっている。また、容器10には、両方の板面から凹ませて突き合った底部が互いに接合した補強部18が、容器10の短手方向中央に長手方向に離間して2箇所設けられている。なお、容器10には、成形に由来するピンチオフ部Pが、最も狭い面の長手に亘って存在しており、実施例では
図1に示す上面と下面とのそれぞれにピンチオフ部Pが存在している。
【0015】
前記容器10は、ポリアミド樹脂からなる成形品であって、コスト等の観点からブロー成形により形成するのが好ましい。ポリアミド樹脂としては、例えば、ヘキサメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ビス(p−アミノシクロヘキシルメタン)、m−又はp−キシリレンジアミン等の脂肪族、脂環族、芳香族等のジアミンと、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸の脂肪族、脂環族、芳香族等のジカルボン酸との重縮合により得られるポリアミド;ε−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸等のアミノカルボン酸の縮合により得られるポリアミド;ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタム等のラクタムから得られるポリアミドあるいはこれらの成分からなる共重合ポリアミド、これらポリアミドの混合物等が挙げられる。
実施例の容器10は、ポリアミド樹脂とし
て、脂肪族骨格のみで構成されるポリアミドを用い
ている。脂肪族骨格のみで構成されるポリアミドとしては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン9、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6/66、ナイロン66/610、ナイロン6/11等が挙げられる。また、容器10は、ポリアミド樹脂とポリエチレン等とを混合したアロイ樹脂ではなく、単体のポリアミド樹脂を用い
ている。
【0016】
ポリアミド樹脂で蓄熱剤が接する部分が構成された容器10は、内部に封入する蓄熱剤としてパラフィンを含むものを用いたとしても、蓄熱剤が外部にブリード(滲み出る)ことを防止できる。また、容器10をポリアミド樹脂で構成することで、蓄熱剤を凍結させるときなど、氷点下の低温時の耐久性および耐衝撃性を確保することができる。このように、前記容器10によれば、蓄熱剤のブリードを防止できるので、蓄熱剤をゲル化する必要がなく、液状の蓄熱剤を用いることが可能となる。液状の蓄熱剤は、ゲル化のための成分を添加する必要がないので、潜熱を高くすることができ、ゲル化工程が不要であるので、コストを抑えることができる。しかも、液状の蓄熱剤を容器10に封入した蓄熱体は、容器10の内部で対流が生じるので、対流が起きないゲルと比べて凍結時間を短縮することができる。蓄熱剤を液状とすると、容器10に封入し易くなる。また、容器10を構成するポリアミド樹脂として、脂肪族骨格を含むポリアミドを用いることで、芳香族骨格を含むポリアミドと比べて成形時に低い温度で溶融させることができ、容器10の成形性を向上することができると共に、設備を簡易にできる。
【0017】
容器10を構成するポリアミド樹脂には、フィラーが含まれていない。すなわち、容器10を構成するポリアミド樹脂は、ガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、炭酸カルシウムウィスカ、ワラステナイトウィスカ、硼酸アルミウィスカ、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維などの繊維状フィラー、あるいはタルク、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、マイカ、カオリン、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、アスベスト、アルミナシリケートなどの珪酸塩、酸化珪素、酸化マグネシウム、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄などの金属化合物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの水酸化物、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラス粉、セラミックビーズ、窒化ホウ素、炭化珪素、カーボンブラックおよびシリカ、黒鉛などの非繊維状フィラーを含んでいない。容器10を構成するポリアミド樹脂は、衝撃が加わった際に破断の起点となるおそれがあるフィラーを含んでいないので、強度、耐久性および耐衝撃性をより向上することができる。特に、蓄熱剤が凍結する氷点下領域の低温において、容器10の強度、耐久性および耐衝撃性をより向上することができる。
【0018】
容器10を構成するポリアミド樹脂は、還元剤としてハロゲン化アル
カリを含有している。ハロゲン化アル
カリとしては、ヨウ化カリウム、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、塩化カリウム、臭化カリウム、臭化ナトリウムおよびヨウ化ナトリウムが挙げられ、この中でもヨウ化カリウムが好ましい。このように、容器10を構成するポリアミド樹脂にハロゲン化アル
カリを含んでいることで、成形に由来するピンチオフ部Pの強度を改善することができる。特に、蓄熱剤が凍結する氷点下領域の低温において、容器10におけるピンチオフ部Pの引張強度、耐久性および耐衝撃性をより向上することができる。ハロゲン化アル
カリは、ポリアミド樹脂100重量部に対して、0.1重量部〜0.5重量部の範囲で添加される。還元剤が0.1重量部よりも少ないと、成形時に形成される容器10のピンチオフ部P(
図1参照)の強度の改善効果が薄く、還元剤が0.5重量部よりも多いと、ピンチオフ部Pが脆くなってしまう。
【0019】
容器10を構成するポリアミド樹脂は、銅化合物を含んでいてもよく、銅化合物を用いることで、長期耐熱性を向上させることができる。銅化合物としては、ヨウ化第一銅、ヨウ化第二銅、塩化第一銅、塩化第二銅、臭化第一銅、臭化第二銅、硫酸第二銅、硝酸第二銅、リン酸銅、酢酸第一銅、酢酸第二銅、サリチル酸第二銅、ステアリン酸第二銅、安息香酸第二銅および無機ハロゲン化銅とキシリレンジアミン、2ーメルカプトベンズイミダゾール、ベンズイミダゾールなどの錯化合物などが挙げられる。この中でも1価の銅化合物、ヨウ化第一銅などの1価のハロゲン化銅化合物が特に好ましい。銅化合物は、ポリアミド樹脂100重量部に対して、0.01重量部〜2重量部の範囲であることが好ましく、0.015重量部〜1重量部の範囲であることがより好ましい。銅化合物の添加量が多いと、ポリアミド樹脂を溶融した際に金属銅の遊離が起こり易くなり、銅化合物の添加量が少ないと、長期耐熱性の改善効果を好適に得られない。
【0020】
容器10を構成するポリアミド樹脂は、ポリアミド樹脂の分子鎖を伸ばすことができる添加剤を含んでいてもよい。添加剤は、シランカップリング剤やチタンカップリング剤などが挙げられる。特にシランカップリング剤が好ましく、このなかでも、アルコキシシラン化合物がより好ましい。アルコキシシラン化合物としては、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリルーN−(1,3−ジメチルーブチリデン)プロピルアミン、N−フェニルー3−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ基含有アルコキシシラン化合物、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランなどのエポキシ基含有アルコキシシラン化合物、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランなどのビニル基含有アルコキシシラン化合物、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシランなどのアクリロキシ基含有アルコキシシラン化合物、3−ウレイドプロピルトリエトキシシランなどのウレイド基含有アルコキシシラン化合物、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどのイソシアネート基含有アルコキシシラン化合物などが挙げられる。また、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルエチルジエトキシシランなどのグリシドキシ基を有するシラン化合物であってもよい。添加物は、アルコキシ基、水酸基、エポキシ基、アミノ基、ウレイド基およびイソシアネート基からなる群より選ばれる1つ以上の官能基を有していることが好ましく、これらの官能基を有していることで、ポリアミド樹脂との反応性を向上させることができる。このように、容器10を構成するポリアミド樹脂に前記添加剤を含んでいることで、溶融した樹脂の溶融粘度を適切に調節することができ、ブロー成形時のドローダウンを防止することができる。
【0021】
前記容器10は、ピンチオフ部PのJIS K7161に基づいて測定される引張強度が、5MPa以上で、より好ましくは10MPa以上であり、更に好ましくは15MPa以上である。容器10におけるピンチオフ部Pの引張強度が、5MPaより小さいと、蓄熱剤を凍結した状態で落下した際に割れてしまうおそれがある。このように、容器10は、成形時に形成されてしまうピンチオフ部Pの引張強度が高いので、全体として必要とされる強度、耐久性および耐衝撃性を確保できる。
【0022】
前記容器10に蓄熱剤が封入されて蓄熱体が構成される。蓄熱剤としては、ノルマルパラフィン、ノルマルパラフィンおよび脂肪族アルコールの混合物などを用いることができる。ノルマルパラフィンとしては、炭素数10〜30のノルマルパラフィンが好ましく、例えば、n−テトラデカン、n−ベンタデカン、n−ヘキサデカン、n−へプタデカン、n−オクタデカン、n−ノナデカン、n−エイコサン、n−イコサン、n−へンイコサン、n−トリアコンタンなどの炭素数10〜30のものが挙げられ、これらを単体または組み合わせて用いることができる。このように、炭素数10〜30のノルマルパラフィンであれば、融解温度または凝固温度の調整を行い易く、更に炭素数14以上のノルマルパラフィンであれば、融解温度が0℃以上であるので、水の融解温度近くから常温近くの温度領域を管理温度とすることができる。
【0023】
前記脂肪族アルコールとしては、主に一価アルコールが用いられる。また、脂肪族アルコールとしては、直鎖アルコール、分岐アルコール、一級アルコール、二級アルコール、三級アルコールのいずれも用いることができる。これらのなかでも、炭素数6〜20の脂肪族アルコールが、融解温度または凝固温度の調整の観点から好ましく、融解温度が0℃以上である炭素数10以上の1価アルコールが、管理温度として水の融解温度近くから常温近くの温度領域で対象物品を保温・保冷し得るので更に好ましい。炭素数10以上の1価アルコールとしては、例えば、1−デカノール、2−デカノール、ウンデカノール、ラウリルアルコール、トリデカノール、ミリスチルアルコール、ペンタデカノール、セチルアルコール、へプタデカノール、ステアリルアルコール、ノナデカノール、アラキルアルコール、ベヘニルアルコール、カルナウピルアルコール、セリルアルコール、エライジノレアルコール、1−メントール等が挙げられる。
【0024】
蓄熱剤としては、ゲル状のものに限らず、液状のものも採用することができる。また、蓄熱剤は、単独または2種類以上の材料を混合して用いることが可能であり、対象物品の管理温度と蓄熱剤の融解温度の関係から任意に選定される。
【0025】
次に、実施例に係る蓄熱剤用容器10のダイレクトブロー成形による製造方法について説明する。前述したポリアミド樹脂、還元剤および添加剤などの材料を混合して溶融し、押出機20より円筒状に押し出してパリソン22を形成する(
図4(a))。次に、パリソン22を成形型24で挟んだ後に(
図4(b))、パリソン22の内部に空気を吹き込んで、パリソン22を成形型24の型面に押し付けて成形する(
図4(c))。そして、成形型24を開いて、成形された容器10を取り出す(
図4(d))。このように、ダイレクトブロー成形では、パリソン22の上下を挟んだ際に接合された部分がピンチオフ部Pとなり、容器10においてピンチオフ部Pの強度が比較的劣ることになる。
【0026】
(試験)
ブリードの有無、低温時耐衝撃性、耐熱性および引張強度について試験を行った。なお、試験例および比較例の容器は、何れもダイレクトブロー成形で成形されたものであって、横150mm、縦200mm、厚さ25mmの四角形の中空箱状体である。なお、容器には、最も狭い上面と下面とに左右方向に延在するようにピンチオフ部が存在している。また、試験例および比較例は、110gの容器に、液状のノルマルパラフィン(炭素数14)からなる蓄熱剤を350g封入してある。なお、試験例および比較例で用いた樹脂、フィラーの有無および還元剤は、表1の通りである。なお、還元剤としては、ヨウ化カリウムを用いている。
【0027】
ブリードは、蓄熱剤を容器に封入してから、80℃で168時間静置した後に、容器の表面を触れてべたつきがあるか否かで、蓄熱剤の滲み出しを評価した。表1に示すように、評価者が蓄熱剤のべたつきを感じない場合は、「〇」とし、評価者が蓄熱剤のべたつきを感じる場合は、「×」としてある。耐衝撃性は、−25℃で24時間に亘って冷却することで蓄熱剤を凍結させた容器を、立てた姿勢で30cm、60cm、90cmの高さから自然落下させた。耐衝撃性は、同じ高さで5回ずつ試験を行った。表1に示すように、耐衝撃性は、5回の試行の全てでピンチオフ部またはその他の部位に割れがない場合は、「〇」とし、5回の試行のうち1回でも割れがある場合は、「×」と評価した。耐熱性は、容器を50℃または80℃の雰囲気内に24時間静置した後、容器に変形や割れ、蓄熱剤の漏れ等の異常があるか否かを評価した。表1に示すように、異常がない場合は、「〇」とし、異常がある場合は、「×」と評価した。引張試験は、JIS K7161に基づいて、引張速度2mm/分で実施した。試験片は、ピンチオフ部の幅が25mmで、ピンチオフ部から板面側への長さがそれぞれ25mmとなるように、試験例および比較例の容器をピンチオフ部を中心としてU字状に切り取って形成した。なお、引張試験は、ピンチオフ部の延在方向と直交する方向に両側から引っ張っている。
【0028】
【表1】
【0029】
表1に示すように、ポリアミド樹脂であるナイロン6やナイロン66を用いた容器は、ブリードが認められなかった。また、ポリアミド樹脂であっても、フィラーを含んでいないもののほうが、耐衝撃性に優れていることが判った。更に、還元剤であるヨウ化カリウムを所定範囲で含んでいるほうが、耐衝撃性に改善が見られる。還元剤を0.1重量部以上含んでいることで、引張強度が10MPa以上とすることができ、還元剤が0.6重量部含まれていると、耐衝撃性および引張強度が低下する。そして、還元剤を所定範囲で含むと共にフィラーを含んでいないことで、耐衝撃性と15MPa以上の引張強度とを併せ持たせることができる。なお、ポリエチレンで構成された比較例1は、耐ブリードおよび耐熱性に難がある。また、ナイロン6と無水マレイン酸変性ポリエチレンで構成された比較例2及びポリ塩化ビニルで構成された比較例3は、耐衝撃性、耐熱性および引張強度の何れも試験例と比べて低い。
【0030】
(変更例)
前述した構成に限定されず、例えば以下のようにも変更することができる。
(1)実施例では、容器に凸部および凹部を設けたが、その形状としては、実施例に限らず、円形状、三角や四角の多角形状など、適宜選択すればよい。また、凹部、あるいは凸部および凹部の両方を省略してもよい。
(
2)容器の板面には、空気の流通を促進させるために、格子状や円形状等の溝形状を設けてもよい。