(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6712937
(24)【登録日】2020年6月4日
(45)【発行日】2020年6月24日
(54)【発明の名称】シリンダヘッドの動弁機構
(51)【国際特許分類】
F01L 1/18 20060101AFI20200615BHJP
【FI】
F01L1/18 B
F01L1/18 N
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-199902(P2016-199902)
(22)【出願日】2016年10月11日
(65)【公開番号】特開2018-62861(P2018-62861A)
(43)【公開日】2018年4月19日
【審査請求日】2019年5月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000185488
【氏名又は名称】株式会社オティックス
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】特許業務法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鵜野 貴司
【審査官】
楠永 吉孝
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−059926(JP,A)
【文献】
特開2009−215919(JP,A)
【文献】
特開2001−271614(JP,A)
【文献】
実開平02−141606(JP,U)
【文献】
独国特許出願公開第102012221516(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中央部にローラを有するローラアームと、
軸部の端部に球状部が設けられたスクリュであって、前記ローラアームの一端部に前記軸部が固定されたスクリュと、
前記ローラアームの他端部に当接するバルブと、
前記ローラに接触することで前記ローラアームの他端部を揺動させるカムと、
前記球状部を受ける受け部を有するピボットと、
シリンダヘッドに設けられ、前記ピボットが装着された装着凹部と、
前記球状部が前記受け部から離間しないように保持する保持部を有し、前記ピボットとともに前記装着凹部に装着されたクリップとを備えたシリンダヘッドの動弁機構。
【請求項2】
前記クリップは、前記ピボットを前記装着凹部に装着する前において前記ピボットの側面よりも側方に突出する突出部と、前記突出部よりも前記ピボットに近い側に配された前記保持部とを有しており、
前記ピボットを前記装着凹部に装着した際に前記突出部が前記装着凹部の内壁に干渉することで前記保持部が前記球状部に接触する請求項1に記載のシリンダヘッドの動弁機構。
【請求項3】
前記装着凹部の内壁には、前記突出部が収容されることで前記ピボットが前記装着凹部から脱落することを防ぐ脱落防止溝が設けられている請求項2に記載のシリンダヘッドの動弁機構。
【請求項4】
前記クリップは、対向状態をなして配置された一対の前記保持部を有しており、前記ピボットが前記装着凹部に装着される前における前記一対の保持部の間には、前記球状部を前記受け部に組み付けるための組付用開口が設けられており、前記組付用開口の開口径は、前記球状部の最大径よりも小さい請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のシリンダヘッドの動弁機構。
【請求項5】
前記ピボットの外面には、前記クリップを装着するためのクリップ用装着溝が設けられており、前記クリップは突起部を有し、前記クリップ用装着溝の底壁には、前記突起部が圧入固定される固定孔が設けられている請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のシリンダヘッドの動弁機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書によって開示される技術は、シリンダヘッドの動弁機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ロッカーアームにより弁の開閉を行うシリンダヘッドの動弁機構として、例えば特開2007−177708号公報(下記特許文献1)に記載のものが知られている。この動弁機構はエンドピボットタイプであり、ロッカーアーム、ロッカーアームの中央部に設けられたローラの上方に配置されるカム等を備え、ロッカーアームの揺動によってバルブを開閉可能とされている。ロッカーアームの一端部には、アジャストスクリューがナットによって位置決め固定されている。このアジャストスクリューは半球面状の凸曲部を有し、この凸曲部がピボット受けの凹曲面に嵌合している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−177708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の動弁機構をスラントエンジンに適用すると、バルブレイアウトと重力の関係で、カムベース区間中ではアジャストスクリューの凸曲部がピボット受けの凹曲面から一時的に離間し、次のカムリフト区間の際にアジャストスクリューの凸曲部がピボット受けの凹曲面に衝突することになる。したがって、アジャストスクリューとピボット受けの双方に衝撃荷重が加わることになるため、アジャストスクリューが破損する懸念がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書によって開示されるシリンダヘッドの動弁機構は、中央部にローラを有するローラアームと、軸部の端部に球状部が設けられたスクリュであって、前記ローラアームの一端部に前記軸部が固定されたスクリュと、前記ローラアームの他端部に当接するバルブと、前記ローラに接触することで前記ローラアームの他端部を揺動させるカムと、前記球状部を受ける受け部を有するピボットと、シリンダヘッドに設けられ、前記ピボットが装着された装着凹部と、前記球状部が前記受け部から離間しないように保持する保持部を有し、前記ピボットとともに前記装着凹部に装着されたクリップとを備えた構成とした。
【0006】
このような構成によると、カムが回転することによってローラが回転し、ローラアームの一端部に固定されたスクリュを支点として他端部が揺動することになる。ここで、従来の動弁機構ではカムベース区間中にスクリュの球状部がピボットの受け部から離間する場合があるところ、上記の動弁機構ではクリップの保持部によりスクリュの球状部がピボットの受け部から離間しないように保持されているため、次のカムリフト区間の際に球状部が受け部に衝突することはないものとされている。したがって、スクリュとピボットの双方に加わる衝撃荷重を緩和することでスクリュの破損を回避することができる。
【0007】
本明細書によって開示されるシリンダヘッドの動弁機構は、以下の構成としてもよい。
前記クリップは、前記ピボットを前記装着凹部に装着する前において前記ピボットの側面よりも側方に突出する突出部と、前記突出部よりも前記ピボットに近い側に配された前記保持部とを有しており、前記ピボットを前記装着凹部に装着した際に前記突出部が前記装着凹部の内壁に干渉することで前記保持部が前記球状部に接触する構成としてもよい。
このような構成によると、ピボットを装着凹部に装着することによって保持部を球状部に接触させることができる。言い換えると、ピボットを装着凹部に装着する前においては、保持部が球状部から離れた位置にあるため、スクリュをピボットに装着しやすくなる。
【0008】
前記装着凹部の内壁には、前記突出部が収容されることで前記ピボットが前記装着凹部から脱落することを防ぐ脱落防止溝が設けられている構成としてもよい。
このような構成によると、突出部を脱落防止溝に収容することでクリップが装着凹部から脱落することを防止し、保持部が球状部に接触することでピボットが装着凹部から脱落することを防止できる。
【0009】
前記クリップは、対向状態をなして配置された一対の前記保持部を有しており、前記ピボットが前記装着凹部に装着される前における前記一対の保持部の間には、前記球状部を前記受け部に組み付けるための組付用開口が設けられており、前記組付用開口の開口径は、前記球状部の最大径よりも小さい構成としてもよい。
このような構成によると、クリップをピボットに装着し、一対の保持部の間に設けられた組付用開口からスクリュの球状部をピボットの受け部に装着した際、組付用開口の開口径が球状部の最大径よりも小さいため、一対の保持部によって球状部を受け部に仮保持することができる。
【0010】
前記ピボットの外面には、前記クリップを装着するためのクリップ用装着溝が設けられており、前記クリップは突起部を有し、前記クリップ用装着溝の底壁には、前記突起部が圧入固定される固定孔が設けられている構成としてもよい。
このような構成によると、クリップをピボットのクリップ用装着溝に装着し、突起部を固定孔に圧入することでクリップをクリップ用装着溝に固定できる。
【発明の効果】
【0011】
本明細書によって開示される技術によれば、スクリュとピボットの双方に加わる衝撃荷重を緩和することでスクリュの破損を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態1におけるシリンダヘッドの動弁機構を示した断面図
【
図2】スクリュとピボットとクリップとを組み付ける前の状態を示した斜視図
【
図3】ピボットが装着凹部に装着される途中の状態を示した断面図
【
図4】ピボットが装着凹部に装着された状態を示した断面図
【
図5】実施形態2におけるクリップの一対の突出部が装着凹部の一対の脱落防止溝に収容された状態を示した断面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
<実施形態1>
実施形態1を
図1から
図4の図面を参照しながら説明する。実施形態1におけるシリンダヘッド1の動弁機構10は、
図1に示すように、ローラアーム20と、スクリュ30と、バルブ40と、カム50と、ピボット60と、クリップ70とを備えて構成されている。
【0014】
ローラアーム20は、バルブ40の端部からピボット60に向けて延びる形態とされ、その延出方向における中央部にはローラ21が回転可能に設けられている。ローラ21にカム50が接触しており、カム50の回転によりローラ21が回転し、ローラアーム20に固定されているスクリュ30の球状部33を支点として他端部24が揺動することでバルブ40が軸方向に移動するようになっている。
【0015】
ローラアーム20の一端部22には、スクリュ30の軸部31が固定される固定孔23が貫通して設けられている。スクリュ30は、軸部31が固定孔23に対して位置決めされた状態でナット32により固定されている。スクリュ30におけるナット32と反対側には球状部33が設けられている。球状部33は球状をなし、軸部31の端部に設けられている。
【0016】
ローラアーム20の他端部24は略円弧状をなし、他端部24の外周面側がバルブキャップ41の外面に当接している。バルブキャップ41はキャップ状をなし、バルブキャップ41の内面がバルブ40を構成するバルブステム42の端部に当接している。また、バルブステム42の端部には、ばね受け43が固定されている。ばね受け43には、バルブスプリング44の端部が常時接触している。
【0017】
カム50は全体として卵型をなしてカムシャフト53に連結され、カムベース51とカムロブ52を備えて構成されている。カムベース51は、カムシャフト53と同軸に配された円弧状をなすのに対し、カムロブ52は、カムベース51に連なってカムベース51よりも径方向外側に突出する形態をなしている。
【0018】
カムシャフト53の回転に伴ってカム50が回転し、カム50の回転に伴ってローラ21が回転する。カムベース51がローラ21に接触するカムベース区間では、ローラアーム20の他端部24が揺動せず一定の高さに保たれるものの、カムロブ52がローラ21に接触するカムリフト区間では、ローラアーム20の他端部24が揺動してバルブスプリング44を収縮させつつバルブ40が燃焼室側へと押し込まれる。
【0019】
ピボット60は、
図2に示すように、略円柱状をなし、ピボット60の軸方向における一端部61には、スクリュ30の球状部33を受ける半球面状の受け部62が凹設されている。ピボット60の両側面から他端部63にかけての範囲には、クリップ用装着溝64が凹設されている。クリップ用装着溝64は全体として略門形をなし、受け部62側の両端部には、径方向内側に傾斜する一対の切り欠き65が設けられている。また、ピボット60の他端部63におけるクリップ用装着溝64の底壁には、固定孔66が設けられている。固定孔66は、受け部62と他端部63の間を軸方向に貫通する形態をなしている。
【0020】
クリップ70は金属板をプレス加工したものであり、
図2に示すように、略門形をなして上方に開口する形態をなすクリップ本体71と、クリップ本体71の両端部に設けられた一対の保持部72とを備えて構成されている。一対の保持部72は略L字状をなし、互いに対向する配置で内側に向けられている。保持部72において側方に突出した直角部分は突出部73とされている。また、クリップ本体71の底面から上方に突出した円柱形状部分は突起部74とされている。
【0021】
クリップ70をピボット60に装着すると、
図3に示すように、クリップ本体71がクリップ用装着溝64に収容され、突起部74が固定孔66に圧入されてクリップ70がピボット60に固定される。一方、一対の保持部72は、クリップ用装着溝64から突出した状態となる。一対の保持部72の先端72Aの間には、組付用開口75が設けられている。組付用開口75の開口径D1は、球状部33の最大径D2よりも小さいものとされている。
【0022】
スクリュ30の球状部33をピボット60の受け部62に装着する際には、球状部33が一対の保持部72を外側に撓ませつつ組付用開口75を通過する。そして、球状部33が組付用開口75を通過した後は、一対の保持部72が弾性的に復帰して元の姿勢に戻る。このため、スクリュ30とピボット60は、一対の保持部72によって仮保持された状態となり、スクリュ30とピボット60とクリップ70とを予め組み付けた状態で一体として扱うことができる。
【0023】
図3および
図4に示すように、スクリュ30とピボット60とクリップ70とを一体として、
図3の矢線方向に向けてシリンダヘッド1に設けられた装着凹部2に押し込むと、一対の突出部73が装着凹部2の内壁に干渉することで、一対の保持部72が互いに近づく方向に変位して球状部33に接触する。一対の保持部72は、球状部33に対して受け部62とは反対側から接触しているため、球状部33が受け部62から離間しないように保持することができる。このため、スラントエンジンにおけるバルブレイアウトと重力の関係に関わりなく、球状部33と受け部62の間にクリアランスが形成されないようにすることができる。なお、一対の保持部72は、クリップ用装着溝64と一対の切り欠き65に収容され、一対の切り欠き65から突出した部分が球状部33に接触する。
【0024】
以上のように本実施形態では、カム50が回転することによってローラ21が回転し、ローラアーム20の一端部22に固定されたスクリュ30を支点として他端部24が揺動することになる。ここで、従来の動弁機構ではカムベース区間中にスクリュの球状部がピボットの受け部から離間する場合があるところ、上記の動弁機構ではクリップ70の保持部72によりスクリュ30の球状部33がピボット60の受け部62から離間しないように保持されているため、次のカムリフト区間の際に球状部33が受け部62に衝突することはないものとされている。したがって、スクリュ30とピボット60の双方に加わる衝撃荷重を緩和することでスクリュ30の破損を回避することができる。
【0025】
クリップ70は、ピボット60を装着凹部2に装着する前においてピボット60の側面よりも側方に突出する突出部73と、突出部73よりもピボット60に近い側に配された保持部72とを有しており、ピボット60を装着凹部2に装着した際に突出部73が装着凹部2の内壁に干渉することで保持部72が球状部33に接触する構成としてもよい。
このような構成によると、ピボット60を装着凹部2に装着することによって保持部72を球状部33に接触させることができる。言い換えると、ピボット60を装着凹部2に装着する前においては、保持部72が球状部33から離れた位置にあるため、スクリュ30をピボット60に装着しやすくなる。
【0026】
クリップ70は、対向状態をなして配置された一対の保持部72を有しており、ピボット60が装着凹部2に装着される前における一対の保持部72の間には、球状部33を受け部62に組み付けるための組付用開口75が設けられており、組付用開口75の開口径D1は、球状部33の最大径D2よりも小さい構成としてもよい。
このような構成によると、クリップ70をピボット60に装着し、一対の保持部72の間に設けられた組付用開口75からスクリュ30の球状部33をピボット60の受け部62に装着した際、組付用開口75の開口径D1が球状部33の最大径D2よりも小さいため、一対の保持部72によって球状部33を受け部62に仮保持することができる。
【0027】
ピボット60の外面には、クリップ70を装着するためのクリップ用装着溝64が設けられており、クリップ70は突起部74を有し、クリップ用装着溝64の底壁には、突起部74が圧入固定される固定孔66が設けられている構成としてもよい。
このような構成によると、クリップ70をピボット60のクリップ用装着溝64に装着し、突起部74を固定孔66に圧入することでクリップ70をクリップ用装着溝64に固定できる。
【0028】
<実施形態2>
次に、実施形態2を
図5の図面を参照しながら説明する。実施形態2における動弁機構11は、実施形態1の装着凹部2の構成を一部変更したものであって、その他の構成については同じである。本実施形態における装着凹部3の内壁には、突出部73が収容されることでピボット60が装着凹部3から脱落することを防ぐ脱落防止溝4が設けられている。クリップ70の保持部72は、そのばね弾性によって互いに離間する方向に移動しようとするから、突出部73が脱落防止溝4に嵌まり込んで収容される。
【0029】
突出部73は、脱落防止溝4の開口部に引っ掛かって係止されるため、クリップ70が装着凹部3から脱落することを防止できる。また、一対の保持部72が球状部33を受け部62に保持しているため、球状部33を介して受け部62の移動が阻止される。さらに、受け部62の移動が阻止されることでピボット60が装着凹部3に保持されることになる。
【0030】
以上のように本実施形態では、突出部73を脱落防止溝4に収容することでクリップ70が装着凹部3から脱落することを防止し、保持部72が球状部33に接触することでピボット60が装着凹部3から脱落することを防止できる。
【0031】
<他の実施形態>
本明細書によって開示される技術は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような種々の態様も含まれる。
(1)上記動弁機構10、11は、吸気側と排気側のいずれにも適用することができる。
【0032】
(2)上記実施形態では、一対の保持部72を有するクリップ70を例示しているものの、保持部の形状や数は限定されず、一つの保持部で球状部33を保持できるような形状の保持部にしてもよい。
【0033】
(3)上記実施形態では、ピボット60を装着凹部2、3に装着することによってクリップ70が弾性変形し、一対の保持部72が球状部33に接触するものとしたが、ピボット60を装着凹部2、3に装着する前の状態で一対の保持部が球状部33に接触するものとしてもよい。
【0034】
(4)上記実施形態では、突起部74が固定孔66に圧入されることでクリップ70をピボット60に固定しているものの、突起部74の代わりにクリップを固定孔にねじ止めすることでピボット60に固定してもよい。あるいは、突起部74の代わりにクリップ本体71がピボット60を左右両側から弾性的に挟むことでクリップ70がピボット60に固定されるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0035】
1…シリンダヘッド
2、3…装着凹部
4…脱落防止溝
10、11…動弁機構
20…ローラアーム
21…ローラ
22…一端部
24…他端部
30…スクリュ
31…軸部
33…球状部
40…バルブ
50…カム
60…ピボット
62…受け部
64…クリップ用装着溝
66…固定孔
70…クリップ
72…保持部
73…突出部
74…突起部
75…組付用開口
D1…組付用開口の開口径
D2…球状部の最大径