【実施例】
【0020】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何等限定されるものではない。実施例及び比較例において得られたZrO
2-Al
2O
3系セラミックス中には,不可避不純物として酸化ジルコニウムに対して酸化ハフニウムを1.3〜2.5重量%含有している。
尚、以下の実施例等で作製した各焼結体についてはそれぞれ、嵩密度(D
obs)、XRDパターン、ビッカース硬度(H
v)、破壊靱性値(K
IC)、曲げ強度(σ
b)、SEM/TEM画像を測定・撮影し、特性評価を行った。
曲げ強度σ
bは、スパン長さ8 mm、クロスヘッドの送り速度0.5 mm/minの条件で測定された三点曲げ強度の値であり、破壊靱性値K
ICは、荷重20 kg(196 N)で15 s、正四角錐のダイヤモンド圧子をセラミックス表面に押し込み、形成された圧痕の四隅に発生するクラックの長さから評価するインデンテーション(IF)法(K. Niihara et al., J. Master. Sci. Lett., 1, 13-16 (1982))に従って測定された値である。
【0021】
実施例1:
本発明の作製方法による高強度・強靱性ZrO
2-Al
2O
3系セラミックスの製造例
a)原料粉体の調製
まず最初に、市販の中和共沈法Y
2O
3部分安定化ZrO
2系粉体(3 mol% Y
2O
3添加品、第一稀元素化学工業株式会社製)を準備し、このY
2O
3添加ZrO
2と市販のAl
2O
3粉末(TM-Dグレード、大明化学工業株式会社製)とを、質量比率(mass%)が80:20となるように秤量し、ボールミルを用いて均質に混合し、原料粉体を調製した。
b)Y
2O
3添加ZrO
2-Al
2O
3系セラミックスの作製
上記の原料粉体を、700℃で空気中9 hの条件で仮焼し、更に900℃で1 h仮焼した後、ポリビニルアルコール(PVA)を3 mass%含む水溶液にて造粒し,ついで整粒(開口径200μmのメッシュを使用)し、これを金型成形(一軸加圧70 MPa)し、ついで冷間静水圧プレス処理(245 MPa/3 min)して密度を高めた。その後、得られた成形体を乾燥(110℃/2 h)してPVA中の水分を除去し、2.45 GHzマイクロ波発振器を備えたマイクロ波焼結装置(3000 W出力/完全水冷)を用いて、窒素雰囲気下、焼結温度1200℃、焼結時間60 min、昇温速度600℃までは10℃/min、600℃からは100℃/minの条件でマイクロ波焼結を行い、焼結体を作製した。
得られた焼結体は焼結密度が5.44g/cm
3、相対密度D
obs/D
xは99.0%であり、緻密体であった。XRDパターンから計算した結晶子径はt-ZrO
2、m-ZrO
2、α-Al
2O
3が各々12.4nm、3.84nm、47.3nmであった。本焼結体の機械特性を測定した結果、曲げ強度σ
bは1.03GPa、ビッカース硬度H
vは12.9GPa、破壊靱性値K
ICは6.02MPa・m
1/2であった。
【0022】
実施例2:
原料粉体の調整は実施例1のa)と同様に実施した。Y
2O
3添加ZrO
2-Al
2O
3系セラミックスの作製については焼結温度を1250℃にした以外は実施例1のb)と同様に実施した。得られた焼結体は焼結密度が5.44g/cm
3、相対密度D
obs/D
xは99.0%であり、緻密体であった。XRDパターンから計算した結晶子径はt-ZrO
2、m-ZrO
2、α-Al
2O
3が各々5.9nm、6.9nm、15.8nmであった。本焼結体の機械特性を測定した結果、曲げ強度σ
bは1.26GPa、ビッカース硬度H
vは13.1GPa、破壊靱性値K
ICは6.03MPa・m
1/2であった。
【0023】
実施例3:
原料粉体の調整は実施例1のa)と同様に実施した。Y
2O
3添加ZrO
2-Al
2O
3系セラミックスの作製については焼結温度を1300℃にした以外は実施例1のb)と同様に実施した。得られた焼結体は焼結密度が5.46g/cm
3、相対密度D
obs/D
xは99.3%であり、緻密体であった。XRDパターンから計算した結晶子径はt-ZrO
2、m-ZrO
2、α-Al
2O
3が各々17.7nm、9.25nm、23.0nmであった。本焼結体の機械特性を測定した結果、曲げ強度σ
bは1.41GPa、ビッカース硬度H
vは15.7GPa、破壊靱性値K
ICは6.90MPa・m
1/2であった。
【0024】
実施例4:
原料粉体の調整は実施例1のa)と同様に実施した。Y
2O
3添加ZrO
2-Al
2O
3系セラミックスの作製については焼結温度を1300℃にした以外は実施例1のb)と同様に実施した。得られた焼結体は焼結密度が5.46g/cm
3、相対密度D
obs/D
xは99.3%であり、緻密体であった。XRDパターンから計算した結晶子径はt-ZrO
2、m-ZrO
2、α-Al
2O
3が各々13.0nm、4.29nm、49.5nmであった。本焼結体の機械特性を測定した結果、曲げ強度σ
bは1.54GPa、ビッカース硬度H
vは15.7GPa、破壊靱性値K
ICは6.41MPa・m
1/2であった。
【0025】
比較例1:
原料粉体の調整は実施例1のa)と同様に実施した。Y
2O
3添加ZrO
2-Al
2O
3系セラミックスの作製については実施例1から4と比較するために電気式焼結炉で実施した。市販の電気式焼結炉を使用してアルゴン雰囲気下、焼結温度1200℃、焼結時間120 min、昇温速度5℃/minの条件にて焼結を行った。得られた焼結体は焼結密度が4.15g/cm
3、相対密度D
obs/D
xは75.5%であり、緻密体ではなかった。XRDパターンから計算した結晶子径はt-ZrO
2、m-ZrO
2、α-Al
2O
3が各々5.6nm、8.36nm、48.7nmであった。本焼結体の機械特性を測定した結果、曲げ強度σ
bは0.269GPa、ビッカース硬度H
vは5.26GPa、破壊靱性値K
ICは3.73MPa・m
1/2であった。
【0026】
比較例2:
原料粉体の調整は実施例1のa)と同様に実施した。Y
2O
3添加ZrO
2-Al
2O
3系セラミックスの作製については電気式焼結炉の焼結温度を1250℃にした以外は比較例1と同様に行った。得られた焼結体は焼結密度が4.76g/cm
3、相対密度D
obs/D
xは86.7%であり、緻密体ではなかった。XRDパターンから計算した結晶子径はt-ZrO
2、m-ZrO
2、α-Al
2O
3が各々32.9nm、6.33nm、9.9nmであった。本焼結体の機械特性を測定した結果、曲げ強度σ
bは0.532GPa、ビッカース硬度H
vは9.44GPa、破壊靱性値K
ICは4.72MPa・m
1/2であった。
【0027】
比較例3:
原料粉体の調整は実施例1のa)と同様に実施した。Y
2O
3添加ZrO
2-Al
2O
3系セラミックスの作製については電気式焼結炉の焼結温度を1300℃にした以外は比較例1と同様に行った。得られた焼結体は焼結密度が5.27g/cm
3、相対密度D
obs/D
xは96.0%であり、緻密ではあるが相対密度はやや低い焼結体であった。XRDパターンから計算した結晶子径はt-ZrO
2、m-ZrO
2、α-Al
2O
3が各々34.5nm、41.3nm、46.9nmであった。本焼結体の機械特性を測定した結果、曲げ強度σ
bは0.557GPa、ビッカース硬度H
vは13.8GPa、破壊靱性値K
ICは5.29MPa・m
1/2であった。
【0028】
比較例4:
原料粉体の調整は実施例1のa)と同様に実施した。Y
2O
3添加ZrO
2-Al
2O
3系セラミックスの作製については電気式焼結炉の焼結温度を1350℃にした以外は比較例1と同様に行った。得られた焼結体は焼結密度が5.46g/cm
3、相対密度D
obs/D
xは99.3%であり、緻密ではあるが相対密度はやや低い焼結体であった。XRDパターンから計算した結晶子径はt-ZrO
2、m-ZrO
2、α-Al
2O
3が各々27.0nm、6.17nm、41.7nmであった。本焼結体の機械特性を測定した結果、曲げ強度σ
bは0.651GPa、ビッカース硬度H
vは15.7GPa、破壊靱性値K
ICは5.81MPa・m
1/2であった。
【0029】
比較例5:
原料粉体の調整は実施例1のa)と同様に実施した。Y
2O
3添加ZrO
2-Al
2O
3系セラミックスの作製については実施例1から4と比較するためにパルス通電加圧焼結(PECPS)で実施した。市販のパルス通電加圧焼結装置(SPSシンテックス(株)/SPS-510Aを使用)を用いて、アルゴンガス雰囲気下、加圧圧力50 MPa、焼結温度1200℃、保持時間10 min、昇温速度70〜80℃/minの条件で焼結を行った。得られた焼結体は焼結密度が5.13g/cm
3、相対密度D
obs/D
xは93.4%であり、緻密体ではなかった。XRDパターンから計算した結晶子径はt-ZrO
2、m-ZrO
2、α-Al
2O
3が各々41.7nm、6.58nm、53.7nmであった。本焼結体の機械特性を測定した結果、曲げ強度σ
bは0.276GPa、ビッカース硬度H
vは14.0GPa、破壊靱性値K
ICは4.86MPa・m
1/2であった。
【0030】
比較例6:
原料粉体の調整は実施例1のa)と同様に実施した。Y
2O
3添加ZrO
2-Al
2O
3系セラミックスの作製については実施例1から4と比較するためにパルス通電加圧焼結(PECPS)の焼結温度を1250℃にした以外は比較例5と同様に行った。得られた焼結体は焼結密度が5.26g/cm
3、相対密度D
obs/D
xは95.7%であり、緻密体ではなかった。XRDパターンから計算した結晶子径はt-ZrO
2、m-ZrO
2、α-Al
2O
3が各々26.4nm、3.12nm、37.1nmであった。本焼結体の機械特性を測定した結果、曲げ強度σ
bは0.459GPa、ビッカース硬度H
vは14.9GPa、破壊靱性値K
ICは4.96MPa・m
1/2であった。
【0031】
比較例7:
原料粉体の調整は実施例1のa)と同様に実施した。Y
2O
3添加ZrO
2-Al
2O
3系セラミックスの作製については実施例1から4と比較するためにパルス通電加圧焼結(PECPS)の焼結温度を1300℃にした以外は比較例5と同様に行った。得られた焼結体は焼結密度が5.49g/cm
3、相対密度D
obs/D
xは99.9%であり、緻密体であった。XRDパターンから計算した結晶子径はt-ZrO
2、m-ZrO
2、α-Al
2O
3が各々34.2nm、14.70nm、40.3nmであった。本焼結体の機械特性を測定した結果、曲げ強度σ
bは0.973GPa、ビッカース硬度H
vは15.1GPa、破壊靱性値K
ICは5.88MPa・m
1/2であった。
【0032】
比較例8:
原料粉体の調整は実施例1のa)と同様に実施した。Y
2O
3添加ZrO
2-Al
2O
3系セラミックスの作製については実施例1から4と比較するためにパルス通電加圧焼結(PECPS)の焼結温度を1350℃にした以外は比較例5と同様に行った。得られた焼結体は焼結密度が5.44g/cm
3、相対密度D
obs/D
xは99.1%であり、緻密体であった。XRDパターンから計算した結晶子径はt-ZrO
2、m-ZrO
2、α-Al
2O
3が各々13.0nm、6.50nm、97.0nmであった。本焼結体の機械特性を測定した結果、曲げ強度σ
bは0.768GPa、ビッカース硬度H
vは15.5GPa、破壊靱性値K
ICは7.25MPa・m
1/2であった。
以下、図面と表で本発明の特徴を具体的に説明する。
【0033】
以下の表1は実施例1から4、比較例1から8の焼結体物性値をまとめたものである。
【0034】
【表1】
【0035】
上記表1から、実施例1から4のマイクロ波焼結により作製されたセラミックスのみ、すべての焼結温度域において、焼結密度について相対密度D
obs/D
xが99.0%以上でありかつその際のt-ZrO
2とα-Al
2O
3の両方の結晶子径がそれぞれ25nm以下、75nm以下を同時に満たし、焼結密度の上昇と結晶子径成長の抑制が確認された。比較例1から4に示した、雰囲気制御電気式焼結炉及びPECPSにより作製されたセラミックスでは加熱方式またはそれに由来する温度履歴から結晶子径の成長が促されたことにより、焼結密度と結晶子径の関係が異なる結果となったことが推察された。
【0036】
以下の表2は実施例1から4、比較例1から8の焼結体構造特性値をまとめたものである。
【0037】
【表2】
【0038】
上記表2から、実施例1から4のマイクロ波焼結により作製されたセラミックスのみ、すべての焼結温度域において、3点曲げ強度σ
bが1.0GPa以上でかつ破壊靭性値が6.0MPa・m
1/2を同時に満たす優れた構造特性値を示した。その時のビッカース硬度Hvは12.9〜15.6GPaであった。優れた構造特性を示す理由は定かではないが、比較例1から4に示した、雰囲気制御電気式焼結炉及びPECPSにより作製されたセラミックスに対して、表1で明らかとなった焼結密度の上昇と結晶子径成長の抑制がZrO
2とAl
2O
3の調和的機能性を発現した結果であると考えられる。
【0039】
・本発明の高強度・強靱性ZrO
2-Al
2O
3系セラミックス焼結体作製法の工程例
図1には、マイクロ波焼結による本発明の高強度・強靱性ZrO
2-Al
2O
3系セラミックス焼結体作製法における工程の一例を示すフローチャートが示されており、実施例で使用した各工程の製造条件が記載されているが、本発明は、これら条件に限定されるものではない。尚、このフローチャートには、比較用に用いた電気式焼結及びパルス通電加圧焼結(PECPS)の焼結条件も併記されている。
【0040】
・XRDパターン測定結果
図2の(a)は、焼結前の出発原料であるZrO
2(3Y)-20mass% Al
2O
3組成粉体のXRDパターンであり、(b)は通常の雰囲気を制御した電気式焼結炉での焼結、(c)はPECPS、(d)はマイクロ波焼結により作製されたセラミックスのXRDパターンである。
これらXRDパターンから、出発原料粉中のm-ZrO
2(単斜晶ジルコニア)は焼結によって消失し、焼結体はいずれもt-ZrO
2(正方晶ジルコニア)とα-Al
2O
3相から構成されていることが確認された。
【0041】
・破面及び研磨面のSEM画像の比較
図3は各焼結方法を用いて作製されたZrO
2(3Y)-20mass% Al
2O
3組成セラミックス((a),(b),(c)については焼結温度1250℃、(d),(e),(f) については焼結温度1350℃)の破面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真で、
図4は、各焼結方法を用いて1350℃で作製されたZrO
2(3Y)-20mass% Al
2O
3組成セラミックスの研磨面のSEM写真である。
図4の写真においては、黒色の部分はアルミナ粒子が存在する部分であり、これらSEM写真の比較から、マイクロ波焼結によって作製されたセラミックスの表面状態は、他の焼結方法にて作製されたセラミックスの表面状態とは異なることがわかった。
【0042】
・相対密度の測定結果
図5には、各焼結方法を用いて作製されたZrO
2(3Y)-20mass% Al
2O
3セラミックスの相対密度と焼結温度との関係、及び、結晶粒径と焼結温度との関係が示されており、このグラフから、マイクロ波焼結の場合には他の焼結法の場合よりも結晶粒径の大きなセラミックスが得られ、且つ、焼結温度が従来の焼結法より約150℃低い1200℃であっても、相対密度99.0%の緻密な焼結体が作製できることが確認された。
【0043】
・各種物性の測定結果
図6には、各焼結方法を用いて作製されたZrO
2(3Y)-20mass% Al
2O
3セラミックスの曲げ強度σ
b、ビッカース硬度H
v、破壊靱性値K
ICと焼結温度との関係が示されている。マイクロ波焼結の場合、曲げ強度σ
bについては他の焼結方法の場合よりも大きな強度(1.0 〜 1.5 GPa)が、ビッカース硬度H
vについてはパルス通電加圧焼結により作製したセラミックスと同等の硬度(12 GPa以上)が、破壊靱性値K
ICについては焼結温度が1200〜1250℃であっても大きな値(約6 MPa・m
1/2)が得られることがわかった。
【0044】
・破面のTEM画像の比較
図7には、焼結温度1350℃において、通常の雰囲気を制御した電気式焼結炉での焼結では120 min、PECPSでは10 min、マイクロ波焼結では60 min焼結されたZrO
2(3Y)-20mass% Al
2O
3セラミックスの破面の透過型電子顕微鏡(TEM)写真が示されており、左側の写真が倍率20 k、中央が倍率100 k、右側が倍率600 k(ここで”k”は1000倍を示す)で撮影した写真である。
これらのTEM画像において、白く見える部分がAl
2O
3であり、黒く見える部分がZrO
2である。倍率600 kのTEM画像の比較から、マイクロ波焼結により作製されたセラミックスではZrO
2とAl
2O
3粒子の界面に縦方向に筋状組織が観察され、界面にX線回折では検出できない薄層が存在しているものと思われる。
【0045】
・微細構造のEDS画像の比較
図8には各焼結方法を用いて1350℃で焼結されたZrO
2(3Y)-20mass% Al
2O
3セラミックスの微細構造のEDS写真が示されている。左から順に通常の透過型電子顕微鏡写真、Alの存在位置を示す画像、酸素Oの存在位置を示す画像、Zrの存在位置を示す画像である。
これらのEDS画像から、(a)通常の雰囲気を制御した電気式焼結炉での焼結により作製されたセラミックスの場合にはAl
2O
3粒子の凝集性が強く見られ、(b)PECPSにより作製されたセラミックスの場合にはAl
2O
3粒子の凝集と粒成長が観察される。これに対して(c)マイクロ波焼結により作製されたセラミックスの場合には、Al
2O
3粒子がよく分散している様子が観察される。
【0046】
以下の表3は、1350℃で各焼結方法を用いて作製されたセラミックスについて、X線回折測定により求めた、正方晶t-ZrO
2相、単斜晶m-ZrO
2相、及びα-Al
2O
3相の格子定数及び結晶子径をまとめたものである。
【0047】
【表3】
【0048】
上記表3から、t-ZrO
2とα-Al
2O
3についてはそれぞれ正方晶、六方晶であるので稜間の角度βは一定であったが、単斜晶m-ZrO
2については稜間の角度βに違いが見られた。又、マイクロ波焼結により作製されたセラミックスは、通常の雰囲気を制御した電気式焼結炉での焼結及びPECPSにより作製されたセラミックスに比べて、ZrO
2の結晶子径が小さく、PECPSにより作製されたセラミックスよりもAl
2O
3の結晶子径が小さいことがわかった。
【0049】
・焼結温度を変化させた際のt-ZrO
2相、α-Al
2O
3相の結晶子径、結晶粒径の変化
図9には、各焼結方法を用いて1200〜1350℃で作製されたZrO
2(3Y)-20mass% Al
2O
3セラミックスにおけるt-ZrO
2相とα-Al
2O
3相の結晶子径、結晶粒径と、焼結温度との関係がグラフで示されている。
図9のグラフから、マイクロ波焼結により作製されたセラミックスは、雰囲気を制御した電気式焼結炉での焼結及びPECPSにより作製されたセラミックスに比べ、焼結温度1200〜1350℃の範囲において、t-ZrO
2相とα-Al
2O
3相の「結晶子径」が小さくなる傾向が見られ、一方、「結晶粒径」については大きくなることが確認された。特にマイクロ波焼結体ではジルコニア系セラミックスの強度σ
bと破壊靭性値K
ICを左右するt-ZrO
2相の結晶子径が5〜20 nmと小さいことが特徴的である。従来多結晶体の機械的特性は、相対密度が同一であれば、その結晶粒径Gsに逆比例することが報告されている。しかし、本発明に関するジルコニア系セラミックスでは、結晶粒径ではなく、結晶粒子を構成している結晶子のサイズすなわち「結晶子径」に依存し、結晶子径が小さいほど強度と靭性値が向上することが初めて見いだされた。
【0050】
以下の表4は、各焼結方法を用いて1350℃にて焼結されたセラミックスのt/m-ZrO
2相の体積比、相対密度D
obs/D
x、破壊靱性値K
IC、ビッカース硬度H
v、曲げ強度σ
bの値をまとめたものである。
【0051】
【表4】
【0052】
上記表4の結果から、1350℃焼結では各焼結方法とも、相対密度(99.1〜99.3%)、ビッカース硬度H
v(15.5〜15.7 GPa)、破壊靱性値K
IC(5.81〜7.25 MPa・m
1/2)の良好な結果が得られた。特に、マイクロ波焼結を用いた本発明の作製法は、従来の雰囲気を制御した電気式焼結炉での焼結やPECPSの場合に比べて約2倍以上の大きな曲げ強度σ
bを有するZrO
2-Al
2O
3系セラミックスが得られる点において優れている。
【0053】
尚、マイクロ波焼結を用いる本発明の作製法は、原料コストの点において、ゾル‐ゲル法で製造された市販のイットリア部分安定化ジルコニア-アルミナ粉体が、原料1 gあたりの価格が数千円以上であるのに対して、本発明の作製法で使用される一般の微粒子ZrO
2(3Y)と微粒子Al
2O
3の混合粉体や、中和共沈法で調製した粉体の場合には、上記価格の約100分の1以下の低コストで製造できるので、経済的にも非常に優れた方法である。更に、無加圧焼結のマイクロ波焼結では形状付与性が高く、本発明で作製されるセラミックスはその高い機械的特性と相まって応用展開がし易いという長所も有している。