【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、銅ナノ粒子からなる銅焼結基板と、シングルナノ銀単分散液の該銅焼結基板への塗布・乾燥を組み合わせて、強接合かつ長期信頼性を示す加圧・短時間焼結接合型の接合シートを実現することにより上記課
題を解決するものである。すなわち、ナノ金属ペーストの金属成分を銅ナノ粒子に置き換えて低価格化を図り、ナノ銅ペーストを無加圧、あるいは低加圧下で焼成して、微細孔を多数保有する均一厚みで平行度が良く、内部応力緩和機能を保有する数十ミクロン程度の厚みの焼結完了済みの銅焼結基板を作成し、その接合面となる表面、好ましくは両方の表面には、均一粒子径のシングルナノ銀単分散液を表面から内部にしみこませて塗布して乾燥させる。好ましくは低分子カルボン酸で被覆された、銀シングルナノ粒子を単分散させたシングルナノ銀分散液の塗布乾燥膜(ナノ銀含浸領域)の焼成設定温度は250℃程度が可能であり、銀シングルナノ粒子の粒径分布幅が小さく、短時間内に焼成が一気に進む設計が可能な特徴がある。
【0012】
本発明の第1の形態は、焼結結合した複数の銅ナノ粒子からなる多孔質の銅焼結構造体である銅焼結基板と、該銅焼結基板の表面及び微細孔に配置された、有機被覆を有する複数の銀シングルナノ粒子から構成される接合シートであり、前記銀シングルナノ粒子は互いに結合し、前記銅焼結構造体とも結合し、前記銀シングルナノ粒子の数密度は、前記接合シートの少なくとも片側の表面で高く、内部では低く、傾斜濃度化されていることを特徴とする接合シートである。
【0013】
本発明の第2の形態は、前記銀シングルナノ粒子は、銀核の粒径分布における84%粒径(D
84)が1.4〜2.0nm、粒径分布幅が15%以下の銀ナノ粒子である前記接合シートである。
【0014】
本発明の第3の形態は、前記銀シングルナノ粒子が、有機被覆量10〜15質量%のカルボン酸被覆銀ナノ粒子である前記接合シートである。
【0015】
本発明の第4の形態は、前記数密度が、前記接合シートの裏表の両方の表面から内部に向けて低くなっている前記接合シートである。
【0016】
本発明の第5の形態は、前記数密度が、前記接合シートの裏表の表面のうち、片側の表面から他方の表面に向けて低くなっている前記接合シートである。ただし、該数密度が低い方の表面においても、銀シングルナノ粒子の数密度は、接合機能を有する程度の数密度となっている。
【0017】
本発明の第6の形態は、有機被覆を有する銀シングルナノ粒子を溶媒に分散させてシングルナノ銀分散液を得る、シングルナノ銀分散液準備工程と、銅ナノ粒子を含有するナノ銅ペーストを焼成して多孔質の銅焼結基板を形成する銅焼結基板形成工程と、前記銅焼結基板の表面に、前記シングルナノ銀分散液を塗布若しくは含浸させ、更に乾燥させることにより、前記銅焼結基板の前記表面及び該表面に隣接する体積領域に、傾斜濃度化された銀シングルナノ粒子を配置して、傾斜機能を付与する傾斜機能付与工程、を有することを特徴とする接合シートの製法である。
【0018】
本発明の第7の形態は、前記接合シートを介して、第1被接合物と第2被接合物を接合する接合方法であり、第1被接合物と、1枚以上の前記接合シートと、第2被接合物、をこの順に積層して積層体を形成する積層ステップと、圧力を加えつつ、当該積層体を焼成して接合体を形成するステップを有することを特徴とする接合方法である。
【0019】
本発明の第8の形態は、前記積層ステップにおいて、積層に先立って実装時の固定化を確実にするための固定化助剤を前記接合シートの表面に添加する前記接合方法である。
【0020】
本発明の第9の形態は、被接合物に、前記接合シートを積層して仮留めしてなる積層体である。
【発明の効果】
【0021】
本発明の第1の形態によれば、焼結結合した複数の銅ナノ粒子からなる多孔質の銅焼結構造体である銅焼結基板と、該銅焼結基板の表面及び微細孔に配置された、有機被覆を有する複数の銀シングルナノ粒子から構成される接合シートであり、前記銀シングルナノ粒子は互いに結合し、前記銅焼結構造体とも結合し、前記銀シングルナノ粒子の数密度は、前記接合シートの少なくとも片側の表面で高く、内部では低く、傾斜濃度化されていることを特徴とする接合シートを提供できる。
【0022】
本形態の接合シートは、焼成済の銅焼結基板と、未焼成の銀シングルナノ粒子群から構成される。銅焼結基板は銅ナノ粒子の焼結により、微細孔を有して互いに粒子間結合した銅金属の多孔質の焼結構造体(銅焼結構造体)を形成している。有機被覆を有する銀シングルナノ粒子群は、銅焼結基板の表面及び銅焼結構造体の微細孔内に吸着結合して分布している。
図2を参照して、銅焼結基板2と銀シングルナノ粒子5からなるこのような構成は、例えば、銅ナノ粒子4を含むナノ銅ペーストを焼成して銅焼結基板2を作製し、銅焼結基板2の表面に銀シングルナノ粒子5を含むシングルナノ銀分散液を塗布・含浸させ、さらにシングルナノ銀分散液の溶媒を乾燥除去することにより形成することができる。「銅焼結基板と・・銀シングルナノ粒子群から構成される」とは、銀シングルナノ粒子を銅焼結基板の表面及び微細孔に配置する際に用いられる溶媒などが除去されていることを意味する。本形態の接合シートは、溶媒が除去されているゆえに、乾燥状態の表面を有するから、特にカバーの為のフィルム等を施さなくても数枚を重ねて保管することに支障がなく、空気中の塵埃も付着しにくく、取り扱いが容易で保存性にも優れる。また、溶媒が除去されているから、該接合シートを用いた接合の為の加圧焼成の際には、溶媒の熱分解や酸化分解によるガスの発生がないので、銅金属の多孔質焼結構造体の破壊・劣化がなく、銀シングルナノ粒子の銀金属成分の低温融解現象により、銅金属の多孔質焼結構造体の銀メッキ化と銀銅合金化により強固な接合構造体が形成される。
【0023】
本形態の接合シートには2つのタイプがある。1つは図(1A)に示すように、裏表の両面に銀シングルナノ粒子が高密度に分布しているタイプAであり、もう1つは図(1B)に示すように、銀シングルナノ粒子が片面には高密度で、裏面は焼成時の接合が可能な程度に低濃度に分布制御されたタイプBである。本形態の接合シートの使用時には、例えば2つの被接合物の間にタイプAの本接合シートを挟んで積層体を形成し、この積層体を加圧焼成することにより、本接合シートに含まれる銀シングルナノ粒子の有機被覆を酸化除去しつつ、該銀シングルナノ粒子の銀核を、他の銀シングルナノ粒子の銀核や、焼結結合済の銅ナノ粒子や、被接合物と焼結結合させて、本接合シートを介して2つの被接合物が接合した接合体を形成する。接合のために焼成する際には、銅焼結基板は焼結済であり、銀シングルナノ粒子を焼結させるだけでよいから、焼成設定温度での焼成に要する時間は短くて済む。加えて本接合シートにおいては、焼結が必要な銀シングルナノ粒子は熱伝達の速い表面付近に集中しており、焼成設定温度での焼成に要する時間は10〜60秒程度の短時間で済み、従来のナノ銀ペーストによる接合の1/5程度の時間で焼成でき、熱分解してガスを発生する溶媒がそもそも存在せず、かつ、接合強度低下の原因となる銀シングルナノ粒子の有機被覆の熱分解に伴うガスの発生量も少ないから大きな接合強度を確保できる。更に、従来のナノ銀ペーストでは必要であった塗布の手間も、はみ出しの心配も、乾燥に要する時間も不要である。加えて、本形態の接合シートは、銀の使用量が少なくて済むから低コストで製造できる。
【0024】
更に、本形態の接合シートにおいては、表面に垂直な方向での銀シングルナノ粒子の濃度分布は、内部に進むにつれて濃度が小さくなり(図(1c)を参照)、被接合物との接合界面33付近には銀シングルナノ粒子がほぼ100%、すなわち95%以上の相対濃度(銀成分の密度の、銀成分と銅成分の密度の合計に対する割合)で集中しており、接合の
ための焼成後の接合界面での接合力は、銀シングルナノ粒子の焼結による低融点化した銀核の融液が全て担い、熱伝導度及び電気伝導度に優れた強接合が可能な設計となっている。また、接合シートの内部においては銀シングルナノ粒子の銀核と多孔質の銅焼結構造体がほぼ合金化されて一体化し、強固な結合を形成する。
【0025】
本明細書において、銅ナノ粒子とは、有機被覆されていない、平均粒径が約5×10
1nm程度の銅粒子をいう。本形態の接合シートは、焼結結合した複数の銅ナノ粒子からなる多孔質の銅焼結基板が応力緩和特性を発揮するから、接合のための焼成時には被接合物間の温度伸縮特性の相違によらない強固な接合の形成という利点を有し、接合のための焼成後には形成された接合の高耐久性及び長期信頼性という利点を有する。例えば、本形態の接合シートを間に挟んで、接合面には金属メッキ加工がなされたシリコン半導体と銅基板を、加圧焼成により強固に接合することができ、形成された接合は熱衝撃に対する長期耐久性を有する。
【0026】
なお、本明細書において、銀シングルナノ粒子とは、平均粒径が約2nm程度の銀ナノ粒子をいう。銅焼結基板に銀シングルナノ粒子を配置する際に使用する溶媒中での分散性の観点から、銀シングルナノ粒子は有機被覆を有しているが、上記の平均粒径とは、有機被覆の部分を含まない、銀核の粒径(直径)の平均(個数平均)をいう。
【0027】
本発明の第2の形態によれば、前記銀シングルナノ粒子は、銀核の粒径分布における84%粒径(D
84)が1.4〜2.0nm、粒径分布幅が15%以下の銀ナノ粒子である前記接合シートを提供できる。84%粒径(D
84)は、多数の粒子を粒径が小さい順に並べて、最も粒径が小さい粒子を0%、最も粒径が大きい粒子を100%の位置としたとき、84%の位置に存在する粒子の粒径のことであり、粒径分布が正規分布の場合には、平均粒径(m)に標準偏差(σ)を加えた値(m+σ)に相当する粒径である。本形態の銀シングルナノ粒子は、その84%の粒径が2.0nm以下であり、粒子の融点が250℃以下であるから、250℃程度の低い温度で焼結結合して銀化することが可能である。なお、84%粒径が1.4nm未満の銀シングルナノ粒子群は、作製時の粒径制御が難しい。また、粒径分布幅(粒径分布の標準偏差の、平均粒径に対する割合)は15%以下と狭いことが好ましい。例えば、平均粒径1.7nm±0.3nm(粒径の標準偏差)であれば、粒径分布幅は15%であるから、この条件を満たす。接合シートに含まれる銀シングルナノ粒子の粒径分布幅が狭いと、接合のための焼成の際に、該銀シングルナノ粒子同士はほぼ同一温度で溶融して結合可能となるから、焼結が一気に進み、短時間で効率的に焼結結合して、強固な接合が確実に形成される利点がある。
【0028】
本発明の第3の形態によれば、前記銀シングルナノ粒子が、有機被覆量10〜15質量%のカルボン酸被覆銀ナノ粒子である前記接合シートを提供できる。有機被覆の成分がカルボン酸由来の銀シングルナノ粒子は、焼結時にカルボン酸の酸化分解反応により発熱する。したがって、被接合物と本形態の接合シートを250℃程度の低温の焼結環境温度で接合する場合であっても、本接合シートにおいて、被接合物との接合界面付近に存在する銀シングルナノ粒子は焼結の進行とともに連鎖的に溶融状態となり、効率的かつ加速度的に接合が確実に進行する。すなわち、加温焼結時に銀シングルナノ粒子の有機被覆の酸化分解反応がもたらす発熱効果により、接合シートの接合界面付近全体の温度が自発高温化し、焼結が一気に加速されるように設計されているのである。本形態の接合シートは焼成時に、このように設計された「機能性銀銅ハイブリッド焼結層」を形成可能であるから、低温の焼結環境温度であっても、短時間焼結及び強固な結合の形成という利点を有する。なお、銀シングルナノ粒子の有機被覆量が10質量%未満である場合には、後述するシングルナノ銀分散液の溶媒中における銀シングルナノ粒子の分散性が悪くなり凝集しやすくなるため、銀シングルナノ粒子を銅焼結基板に配置する際に、その表面に沿った方向に均一に配置することが困難になる。また、有機被覆量が15質量%を超える場合には、有機
被覆の酸化分解に時間を要し、短時間焼結が難しくなる。
【0029】
本形態においては、上記の発熱効果を確保する観点から、銀シングルナノ粒子の銀核の粒径が小さくなるほど、カルボン酸被覆のカルボン酸の分子量および炭素数は小さいことが好ましい。しかし、小さすぎる銀核は、湿式還元法で形成する際の粒径の制御が困難である。粒径が約2.0nm程度の銀核に対しては、該カルボン酸は、炭素数8のオクタン酸が最適である。
【0030】
本発明の第4の形態によれば、前記数密度が、前記接合シートの裏表の両方の表面から内部に向けて低くなっている前記接合シートを提供できる。本発明の接合シートには、タイプAとタイプBの2つのタイプがある。本形態は、このうちタイプAの接合シートである。例えばシリコン半導体と銅基板のように、温度伸縮特性の異なる2つの被接合材をタイプAの接合シートを介して積層して低温で加圧焼成することにより、強固な接合を形成することができ、形成された接合は熱衝撃に対する長期耐久性を有する。
【0031】
タイプAの接合シートの場合には、図(2A)に示すように、銀シングルナノ粒子の数密度は、接合シートの裏表の両方の表面で大きく、内部で小さくなり、片側の表面からの距離を横軸に、前記比の値を縦軸にとってグラフを描くと、U字型のグラフとなる。タイプBの接合シートの場合には、図(2B)に示すように、前記数密度は、接合シートの片側の表面で大きく、内部方向に進むにつれて減少し、前記片側の表面からの距離xを横軸に、前記比の値を縦軸にとってグラフを描くとおよそ指数関数的に減少するグラフとなる。dを銅焼結基板の厚さ、C,Lを正のパラメータとして、0<x≦dの範囲で前記比の値を指数関数C×exp(−x/L)でフィットしたとき、長さL×ln(2)をタイプBの接合シートの半減厚という。また、タイプAの接合シートの場合には、C,D,Lを正のパラメータとして、0<x≦dの範囲で前記比の値を2つの指数関数の和C×exp(−x/L)+D×exp((x−d)/L)でフィットしたとき、長さL×ln(2)を半減厚という。なお、いずれのタイプの接合シートでも、ナノ銀がコートされた表面における、銀シングルナノ粒子の前記相対濃度はほぼ100%、すなわち95%以上である。
【0032】
接合シートのナノ銀がコートされた表面から深さLまでの範囲(0≦x≦L)に含まれる体積領域をナノ銀含浸領域という。ナノ銀含浸領域(3)は便宜上、定めた体積領域であって、接合シートのナノ銀含浸領域以外の部分にも銀シングルナノ粒子は存在している。また、接合シートの厚みが薄い場合には、タイプAでもタイプBでも、接合シート全体がナノ銀含浸領域となる。
【0033】
なお、十分な接合強度を確保する観点から、最低限の銀シングルナノ粒子の含有量は必要であり、半減厚は小さすぎないことが好ましい。半減厚は限定されるものではないが、概ね1〜100μmであり、より好ましくは5〜20μmである。なお、接合シートの厚みが薄い場合には、半減厚に上限を設ける必要はない。
【0034】
本発明の第5の形態によれば、前記数密度が、前記接合シートの裏表の表面のうち、片側の表面から他方の表面に向けて低くなっている前記接合シートを提供できる。本形態は、タイプBの接合シートである。タイプBの接合シートは通常、その厚みが薄くて接合シート全体がナノ銀含浸領域であるものを使用し、半分の厚みのものを2枚重ねて使用してタイプAの代わりに用いる。そうすることで、焼成接合後には、タイプAの接合シートにおいて最も脆弱な銅焼結基板の内部のかわりに、「機能性銀銅ハイブリッド焼結層」が配置され、大きな接合強度を確保することができる。
【0035】
本発明の第6の形態によれば、有機被覆を有する銀シングルナノ粒子を溶媒に分散させ
てシングルナノ銀分散液を得る、シングルナノ銀分散液準備工程と、銅ナノ粒子を含有するナノ銅ペーストを焼成して多孔質の銅焼結基板を形成する、銅焼結基板形成工程と、前記銅焼結基板の表面に、前記シングルナノ銀分散液を塗布若しくは含浸させ、更に乾燥させることにより、前記銅焼結基板の前記表面及び該表面に隣接する体積領域に、傾斜濃度化された銀シングルナノ粒子を配置して、傾斜機能を付与する傾斜機能付与工程、を有することを特徴とする接合シートの製法を提供できる。
【0036】
シングルナノ銀分散液準備工程においては、有機被覆を有する銀シングルナノ粒子を溶媒に分散させてシングルナノ銀分散液を得る。溶媒としては限定されるものではないが、アルカン系溶剤、例えばメチルシクロヘキサンを使用できる。粘度調整のために低沸点溶剤を少量加えてもよい。銀シングルナノ粒子は粒径分布幅が約15%以下と狭く、かつ、溶媒中に単分散していることが好ましい。エヴァポレータを用いて濃度を調整し、銀シングルナノ粒子を約10質量%の濃度で含むシングルナノ銀分散液を得る。
【0037】
銅焼結基板形成工程においては、銅ナノ粒子を含有するナノ銅ペーストを焼成して多孔質の銅焼結基板を形成する。鏡面研磨された基板、例えばシリコン基板上にナノ銅ペーストを約15〜200μm程度の均一な厚みで塗布し、ナノ銅ペーストに含まれる溶媒を乾燥させる工程を経て、純窒素ガス雰囲気で無加圧、若しくは低加圧で焼成して、シリコン基板から分離し、約10〜150μm程度の均一厚みの自立した焼結済みの銅焼結基板を得る。
【0038】
傾斜機能付与工程においては、多孔質の銅焼結構造体である銅焼結基板の少なくとも片側の表面に、前記シングルナノ銀分散液を塗布若しくは含浸させ、更に低温でゆっくり乾燥させることにより、前記銅焼結基板の少なくとも前記表面の側に、傾斜濃度化された有機被覆を有する銀シングルナノ粒子を含むナノ銀含浸領域を形成して、前記銅焼結基板にナノ銀をコートしてなる接合シートを得る。このようにしてナノ銀含浸領域を形成することにより、接合シートにおける銀シングルナノ粒子の濃度は、表面が高濃度で、内部に向かって低濃度化した傾斜濃度分布となる。
【0039】
傾斜機能付与工程において、銅焼結基板の表面にシングルナノ銀分散液を塗布若しくは含浸させ、更に低温でゆっくり乾燥させると、銀シングルナノ粒子が銅焼結基板の表面及び微細孔に配置され、前記有機被覆を有する銀シングルナノ粒子群は、銅焼結基板の表面及び多孔質の銅焼結構造体の微細孔内に吸着結合して分布した接合シートが得られる。一方、シングルナノ銀分散液の溶媒と、オプションで添加される低沸点溶剤とは、低温でゆっくり乾燥させる際に蒸発して除去される。したがって、接合シートの表面は乾燥状態となるから、当該接合シートは数枚を重ねて保管することに支障がなく、空気中の塵埃も付着しにくく、取り扱いが容易で保存性にも優れる。更に、接合のための焼成設定温度(250℃〜350℃)での焼成の際には、溶媒や低沸点溶剤は上記の通り蒸発除去されて存在しないから、溶媒や低沸点溶剤が銀シングルナノ粒子の焼結を妨げることはない。
【0040】
本発明の第7の形態によれば、図(3A)又は図(3B)を参照して、前記接合シート(1a又は1b)を介して、第1被接合物(6a)と第2被接合物(6b)を接合する接合方法であり、第1被接合物と、1枚以上の前記接合シート(1a又は1b)と、第2被接合物、をこの順に積層して積層体(10)を形成する積層ステップと、圧力を加えつつ、当該積層体を焼成して接合体を形成するステップ、を有することを特徴とする接合方法を提供できる。被接合物は限定されるものではないが、たとえば、パワー半導体等の半導体、電子部品、金属基板、回路基板、又は放熱板であり、特に、パワー半導体と銅基板が好適である。接合シートは、被接合物の形状にあわせて、自在にカットされた切断片として利用してもよい。
【0041】
本発明に係る接合シートは、製造時及び実装時の取り扱い容易性の観点から、その厚さは、好ましくは10〜150μmの範囲で、より好ましくは20〜100μmの範囲で変える設計が可能で、放熱基板等大面積接合には厚く、小面積の半導体接合では薄くし、多数枚のシートの重ね合わせ接合も可能である。本接合シートによって形成される接合構造をせん断破壊すると、接合界面付近ではなく銅焼結基板の内部で破壊されることから、接合界面付近のナノ銀含浸領域で形成される「機能性銀銅ハイブリッド焼結層」は内部より高強度であることがわかる。したがって、本接合シートは、1枚の厚さが約30μm以下と薄い場合、本接合シートを重ね合わせて加圧・焼成して接合する方が、接合部全体の厚みを有する1枚のみの本接合シートを加圧・焼成して接合する場合と比較して、より低温・低加圧での焼成で同等の接合強度が確保できる。
【0042】
本発明の第8の形態によれば、前記積層ステップにおいて、積層に先立って実装時の固定化を確実にするための固定化助剤を前記接合シートの表面に添加する前記接合方法を提供できる。本形態の接合方法によれば、積層の際、被接合物と当接する接合シートの表面に固定化助剤が添加されているから、軽く抑えるだけで本接合シートを被接合物に確実に固定化することができる利点を有する。固定化助剤は一定の条件を満足するならばその種類を問わない。その条件とは、(1)上記固定化に必要な粘性を有し、(2)銅焼結基板のナノ銀含浸領域の表面に少量を添加したとき、表面全体に一様な厚みで広がる濡れ性を有し、(3)焼成設定温度(250℃〜350℃)より低い温度で蒸発するから、接合のための焼成時に、銀シングルナノ粒子の焼結を妨げることがなく、(4)少量の使用で足りるので、上記の蒸発で発生する気体も少ないこと、である。たとえば、固定化助剤として、イソボロニルシクロヘキサノールを10〜30質量%、より好ましくは20質量%の濃度でメチルシクロヘキサンに溶解させた溶液を用い、該溶液を銅焼結基板のナノ銀含浸領域の表面に1滴若しくは数滴を滴下することで、上記(1)〜(4)の条件を満たす固定化を達成することができる。
【0043】
本発明の第9の形態によれば、図(4A)又は図(4B)を参照して、被接合物(6)に、前記接合シート(1b)を積層して仮留めしてなる積層体を提供できる。被接合物は限定されるものではないが、たとえば、パワー半導体等の半導体、電子部品、金属基板、回路基板、又は放熱板であり、特に、放熱板が好適である。接合シートは、被接合物の形状にあわせて、自在にカットされた切断片として利用してもよい。
【0044】
本形態の利用例について説明する。整流素子など電流仕様の発熱の多い半導体と一般の半導体を同一基板上に接合・配置する際に、整流素子の上面に放熱板をさらに加えて接合する必要がある。1つの実装方法は、まず、一般の半導体と整流素子を本発明に係る接合シートにより基板上に焼成接合・配置し、次に、整流素子と放熱板を本発明に係る接合シートを介して焼成接合する方法である。この場合、本形態のように放熱板にあらかじめ本発明に係る接合シートを仮留めした中間積層体を準備しておくと、整流素子と本発明に係る接合シートと放熱板をこの順に接合した積層体を形成する際の位置合わせ等の手間が省ける。なお、仮留めの方法は限定されず、接着剤による局所接着や、局所加圧焼結など様々な方法があり得る。また、用いる接合シートはタイプAでもタイプBでも構わず、タイプBの裏表は被接合物の性質に応じていずれでもよく、複数枚の接合シートを仮留めしてもよい。