特許第6713158号(P6713158)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6713158-トリチウム放射能汚染水の除染方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6713158
(24)【登録日】2020年6月5日
(45)【発行日】2020年6月24日
(54)【発明の名称】トリチウム放射能汚染水の除染方法
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/06 20060101AFI20200615BHJP
   G21F 9/12 20060101ALI20200615BHJP
【FI】
   G21F9/06 591
   G21F9/06 561
   G21F9/12 501B
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2020-502243(P2020-502243)
(86)(22)【出願日】2019年9月30日
(86)【国際出願番号】JP2019038567
【審査請求日】2020年1月23日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519240085
【氏名又は名称】株式会社ガブリエル
(74)【代理人】
【識別番号】100092668
【弁理士】
【氏名又は名称】川浪 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100148714
【弁理士】
【氏名又は名称】川浪 圭介
(74)【代理人】
【識別番号】100154232
【弁理士】
【氏名又は名称】幸田 京子
(72)【発明者】
【氏名】高塚 光
【審査官】 関口 英樹
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/199800(WO,A1)
【文献】 特開2011−230038(JP,A)
【文献】 特開2016−193407(JP,A)
【文献】 特表2017−504785(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F9/00−9/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
30〜80℃に加熱したトリチウム放射能汚染水100重量部に対し、二酸化ケイ素鉱石、古代貝化石又はラジウム鉱石から選択された1つ又は2つ以上の組み合せからなる鉱物を粉砕した鉱物粉状体0.5〜6重量部およびナノレベルカーボン液状体0.5〜6重量部を、添加処理槽において添加処理する第1工程と、
添加処理された添加処理水を、1〜7気圧の水圧ポンプにより添加処理槽から前記鉱物を、所定サイズに砕いた鉱物固形体を充填した鉱物固形体充填槽に圧送する第2工程と、
圧送された添加処理水を前記鉱物固形体と衝突させて鉱物固形体充填槽を通過処理する第3工程と、
通過処理された通過処理水を前記水圧ポンプにより添加処理槽に戻す第4工程と、
前記第2工程から第4工程を20〜80分間繰り返す循環処理を実施する第5工程と、の諸工程により、放射能汚染水からトリチウム放射能を減衰ないし消去することを特徴とするトリチウム放射能汚染水の除染方法。
【請求項2】
前記第1工程における鉱物粉状体およびナノレベルカーボン液状体の添加処理が、第1工程から第5工程の一連の処理工程を10〜60分間実行した後に、鉱物粉状体およびナノレベルカーボン液状体を、トリチウム放射能汚染水100重量部に対してそれぞれ0.5〜6重量部追加添加して、第2工程以降の一連の処理工程を10〜60分間実行することを特徴とする請求項1に記載のトリチウム放射能汚染水の除染方法。
【請求項3】
前記第1工程から第5工程の一連の処理工程を、所望のトリチウム放射能濃度に至るまで、繰り返し実行することを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載のトリチウム放射能汚染水の除染方法。
【請求項4】
請求項1に記載の第1工程から第5工程の一連の処理が実行された所定量の除染処理水を、棒状又は板状の電極が2〜30本配置された電解槽に導入して、10〜30時間電解処理を実施する第6工程により、放射能汚染水からトリチウム放射能を、減衰ないし消去することを特徴とするトリチウム放射能汚染水の除染方法。
【請求項5】
前記電解槽の電解処理水中が、不伝導体状態に至るまで電解処理を実施することを特徴とする請求項4に記載のトリチウム放射能汚染水の除染方法。
【請求項6】
前記電極が、鉄製電極、ステンレス製電極又は白金製電極であり、これらの電極のうち2種類又は3種類を組み合わせて電解槽に配置することを特徴とする請求項4又は5のいずれかに記載のトリチウム放射能汚染水の除染方法。
【請求項7】
前記電解処理が、100〜500Vの交流電流を電極に通電して実施されることを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載のトリチウム放射能汚染水の除染方法。
【請求項8】
前記電解処理を、所望のトリチウム放射能濃度に至るまで繰り返し実行することを特徴とする請求項4〜7のいずれかに記載のトリチウム放射能汚染水の除染方法。
【請求項9】
前記鉱物粉状体は撹拌装置で撹拌されて添加処理槽に押し出されることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載のトリチウム放射能汚染水の除染方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性物質、特にトリチウムによって汚染された放射能汚染水からトリチウム放射能を減衰ないし消去する除染方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トリチウムはベータ線を放出する放射性物質であり、セシウムやストロンチウムと同様に周辺に対して電磁波や粒子線の一種である放射線を放出する能力、すなわち放射能を有している。放射能の量を示す単位にはベクレル〔Bq〕が用いられ、1秒間に1つの原子核が崩壊する能力を1ベクレル〔Bq〕と表している。また、放射線量の単位にはグレイ、レントゲン等が用いられるが、生体への被曝線量を表す単位としてシーベルト〔Sv〕が用いられる。放射線は、人畜の皮膚、各種臓器、細胞等に対して回復困難なダメージをもたらす。
【0003】
多核種除去設備等によって、原子力発電所の事故により、発生した放射能汚染水の中のセシウムやストロンチウムの放射能濃度は、低減されている。また、放射能汚染水からトリチウム以外の放射性物質の大半は除去されている。しかしながら、汚染水からトリチウムを除去する有効な手段がなく、トリチウムは汚染水に残留している。トリチウム汚染水を希釈して海洋に放出する等の対応策が議論されているが、海洋汚染から海洋環境を守る必要があり海洋投棄はできない。そのため、トリチウム汚染水がタンクに貯蔵され、貯蔵タンクが増加し続けている。トリチウム汚染水のタンク貯蔵量が100万トンを超えているのが現状であり、汚染水からトリチウム放射能を除去する有効な手段が強く求められている。
【0004】
特許文献1は、トリチウムを含む大量の汚染水を実用的なレベルでの減容量化を可能としたトリチウム含有汚染水の処理方法を開示する。この処理方法は、トリチウム含有汚染水を、必要に応じて糖質の存在の下、吸水性ポリマーに吸水させ、含水吸水性ポリマーの水分を80℃以下の低温で吸水量の50%以上を蒸発又は留出させて水分中のトリチウム水を吸水性ポリマー中に濃縮し、トリチウム水が濃縮された濃縮含水吸水性ポリマーを容器に一定期間保管して無害化するものである。
【0005】
特許文献2は、放射能汚染水からトリチウムを除去するトリチウム分解無害化装置及びシステムを開示する。トリチウム分解無害化装置は、本体部材と本体部材に形成された放射能汚染水の通路部を有し、通路部の内側にアルファ線放射体が配置された構成によって、トリチウムを含む放射能汚染水中のトリチウムを分解処理するものである。これら特許文献1、2で提案された処理方法、装置では、トリチウム汚染水の有効な除染機能を発揮し得ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019−35735号公報
【特許文献2】特開2019−28001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、特にトリチウムによって汚染された放射能汚染水から、トリチウム放射能を減衰ないし消去する除染方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のトリチウム放射能汚染水の除染方法は、30〜80℃に加熱したトリチウム放射能汚染水RCW:100重量部に対し、二酸化ケイ素鉱石、古代貝化石又はラジウム鉱石から選択された1つ又は2つ以上の組み合せからなる鉱物を粉砕した鉱物粉状体PM:0.5〜6重量部およびナノレベルカーボン液状体LC:0.5〜6重量部を、添加処理槽1において添加処理する第1工程(S1)と、添加処理された添加処理水を1〜7気圧の水圧ポンプPにより添加処理槽から前記鉱物を所定サイズに砕いた鉱物固形体SMを充填した鉱物固形体充填槽2に圧送する第2工程(S2)と、圧送された添加処理水を鉱物固形体と衝突させて鉱物固形体充填槽を通過処理する第3工程(S3)と、通過処理された通過処理水を水圧ポンプにより添加処理槽に戻す第4工程(S4)と、前記第2工程(S2)から第4工程(S4)を20〜80分間繰り返す循環処理を実施する第5工程(S5)と、の諸工程により、放射能汚染水からトリチウム放射能を減衰ないし消去するトリチウム放射能汚染水の除染方法である。
【0009】
本発明においては、第1工程(S1)における鉱物粉状体PMおよびナノレベルカーボン液状体LCの添加処理が、第1工程(S1)から第5工程(S5)の一連の処理工程を10〜60分間実行した後に、鉱物粉状体およびナノレベルカーボン液状体を、トリチウム放射能汚染水100重量部に対して、それぞれ0.5〜6重量部追加添加して第2工程(S2)以降の一連の処理工程を10〜60分間実行する。また、第1工程(S1)から第5工程(S5)の一連の処理工程を、所望のトリチウム放射能濃度に至るまで繰り返し実行する。
【0010】
また、本発明のトリチウム放射能汚染水の除染方法は、上記した第1工程(S1)から第5工程(S5)の一連の処理が実行された所定量の除染処理水を、棒状又は板状の電極(31)が2〜30本配置された電解槽(3)に導入して、10〜30時間電解処理を実施する第6工程(S6)により、放射能汚染水からトリチウム放射能を減衰ないし消去するトリチウム放射能汚染水の除染方法である。
【0011】
本発明においては、電解処理を電解槽の処理水中が、不伝導体状態に至るまで実施する。電極31は、鉄製電極、ステンレス製電極又は白金製電極であり、これらの電極のうち2種類又は3種類の電極が組み合わされて電解槽に配置される。電解処理は100〜500Vの交流電流を電極に通電して実施される。電解処理は、所望のトリチウム放射能濃度に至るまで繰り返し実行される。また、鉱物粉状体PMは、撹拌装置で撹拌されて添加処理槽1に押し出される。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る除染方法は、入手が容易な二酸化ケイ素鉱石等の鉱物、ナノレベルカーボン液を用いるため、大掛かりな設備を必要とせず、比較的低コストにより実現可能である。本発明に係る除染方法により、除染処理が行われた後の処理水は、トリチウム放射能が減衰されているので、海洋汚染を招来することなく海洋排水処理が実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係るトリチウム汚染水の除染方法の構成例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るトリチウム放射能汚染水の除染方法(以下、「本除染方法」という)について、図1を参照して説明する。本除染方法に係る第1の除染方法は、トリチウム放射能汚染水RCW(以下、「汚染水」ともいう)に対して、鉱物粉状体PMおよびナノレベルカーボン液状体LC(以下、「カーボン液」という)を添加処理する第1工程(以下、「S1」という)、添加処理水を鉱物固形体充填槽2に圧送する第2工程(以下、「S2」という)、添加処理水を鉱物固形体充填槽を通過処理する第3工程(以下、「S3」という)、通過処理水を添加処理槽に戻す第4工程(以下、「S4」という)及びS2からS4を繰り返す循環処理を実施する第5工程(以下、「S5」という)の諸工程を実行するものである。
【0015】
本除染方法を実施する除染処理に当たっては、汚染水RCWを添加処理槽1に投入し、鉱物粉状体PMを鉱物粉状体収容タンクPMTに収容し、カーボン液LCをカーボン液収容タンクLCTに収容する。また、鉱物固形体SMを鉱物固形体充填槽2に充填する。
【0016】
汚染水は、外気温にもよるが、30〜80℃、好ましくは40〜80℃に加熱する。なお、常温、即ち、冷却及び加熱しない15℃〜25℃程度の汚染水であってもよい。鉱物粉状体及びカーボン液の汚染水に対する添加量は、汚染水100重量部に対して、それぞれ0.5〜6重量部、好ましくは1〜5重量部とする。添加処理槽1において、汚染水に鉱物粉状体及びカーボン液を添加する。なお、汚染水に添加された鉱物粉状体及びカーボン液は、水圧ポンプによる水流によって、添加処理槽において汚染水と撹拌混合されるが、添加した後に添加処理槽内で混合撹拌してもよい。
【0017】
本発明においては、当該鉱物を粉砕機により粉砕してパウダー状にした鉱物粉状体を用いる。鉱物粉状体収容タンクPMT内で、撹拌して、添加処理槽1に押し出して汚染水に添加する。カーボン液収容タンクLCTに収容されたカーボン液LCは、添加処理槽1に落下して汚染水に添加される。なお、鉱石粉状体及びカーボン液の添加処理は、噴射装置によりシャワー状にして汚染水に添加することもできる。
【0018】
二酸化ケイ素鉱石は、一般にブラックシリカと呼ばれている。本発明においては、二酸化ケイ素鉱石としては陰イオン(マイナスイオン)を帯有する天然のブラックシリカを用いる。本発明で用いる古代貝化石は、一般にソマチットと呼ばれている。古代貝化石は、古代の海生貝類等が隆起・陸地化に伴って化石化して地中に堆積したものであり、陰イオン(マイナスイオン)を帯有する。ラジウム鉱石は、質量226ラジウムが通常であるが、本発明では質量223、224、228ラジウムを含む鉱石を使用することができる。本発明では、ラジウム鉱石として陰イオン(マイナスイオン)を帯有する天然のラジウム鉱石を用いる。
鉱物としては、二酸化ケイ素鉱石、古代貝化石又はラジウム鉱石の中から選ばれる1つの鉱物を単独で用いることができ、また、これらの鉱物から選択された2つ以上を組み合せた鉱物を用いることもできる。
【0019】
ナノレベルカーボンは、籾殻、草、花、木を実質的な無酸素状態において400℃〜1200℃で焼成して、0.1mm〜0.1−9mmに粉砕して製造する。粉砕したナノカーボンを塩素等の不純物を除去した精製水に混入して、液体化したナノレベルカーボンを使用する。本発明においては、液状ナノレベルカーボンとして、植物を原料としてナノレベル炭素液に製造加工され市販されている、株式会社環境衛生研究所製造の「KMKカーボン液(登録商標)」を用いる。このKMKカーボン液は、放射性物質を封じ込めて、放射性物質の電磁波を吸収し、熱エネルギーとして放射することにより放射能濃度の減衰に効力を発揮する。
【0020】
第1の除染方法で用いるポンプPの水圧は、一般の水道水に使用される1気圧程度とするが、装置の規模によって水圧を2〜7気圧とすることができる。当該水圧ポンプを用いて、添加処理槽1から、S1で添加処理された添加処理水を鉱物固形体充填槽2に圧送する(S2)。鉱物固形体充填槽に充填される鉱物固形体SMは、1〜4cm程度の大きさに破砕した砕石とする。
【0021】
続いて、鉱物固形体充填槽2に圧送された添加処理水を、鉱物固形体SMと衝突させながら、鉱物固形体充填槽を通過処理する(S3)。添加処理水が鉱物固形体充填槽を通過する際に、水圧ポンプの水流によって、鉱物固形体充填槽に充填された鉱物固形体同士が衝突して高圧電流を発生させる。
【0022】
その後、鉱物固形体充填槽を通過処理した処理水を、水圧ポンプを用いて添加処理槽に戻す(S4)。そして、汚染処理水の量や装置の規模にもよるが、上述したS2からS4を20〜80分間、好ましくは30〜70分間程度繰り返し循環処理を実行する(S5)。S1からS5の諸工程を実行することによって、放射能汚染水からトリチウム放射能を減衰ないし消去することができる。なお、S5における繰り返し循環処理では、鉱物粉状体及びカーボン液の追加添加は行わずに、鉱物粉状体及びカーボン液は、S1からS5の一連の処理が終了して次の汚染水処理を行う際に添加する。
【0023】
本発明においては、S1からS5を20〜80分間程度実行する中間において、鉱物粉状体及びカーボン液を追加添加して、再度一連の処理工程を実行するように構成することができる。S1からS5の一連の処理工程を10〜60分間実行した後に、汚染水100重量部に対して、鉱物粉状体及びカーボン液をそれぞれ0.5〜6重量部追加添加して、S2からS5を10〜60分間続行する。
【0024】
本発明においては、S1からS5の一連の処理工程を、所望のトリチウム放射能濃度(以下、「トリチウム濃度」という)に至るまで繰り返し実行するように構成することができる。S1からS5の一連の処理工程は、人や生物等への被曝の可能性がないことが科学的に立証されて、海洋や河川への放流の安全性が確保されるトリチウム濃度に至るレベル、或いは、放射能汚染の風評被害等がなくなり、地域住民の同意が得られるトリチウム濃度に至るレベルに達するまで繰り返し実行される。
【0025】
次に、本除染方法に係る第2の除染方法について、図1を参照して説明する。第2の除染方法は、第1の除染方法のS1からS5を実行した除染処理水に対してさらに電解処理(以下、「S6」という)を実施する構成としている。なお、S1からS5の除染処理は、第1の除染方法の除染処理であるので、ここでは、第2の除染方法に係る電解処理について説明する。第2の除染方法においては、S1〜S5の処理を実施してもなおトリチウムが残留する場合に、残留トリチウムを除去ないし消去するために、S1からS5の一連の処理を実施した除染処理水を電解槽に導入して電解処理を行う。
【0026】
なお、本発明ではS1〜S5の処理に加えてS6を実施しても、残留放射能が人や生物に支障のないレベルまで低減していない場合は、S6を実施した処理水を再度、添加処理槽に戻して、S1〜S6の一連の除染処理を実施することができる。また、第1の除染方法にS6を一連の処理として組み入れた一つのシステム(装置)を構成することができる。装置を複数台接続して各装置に一連の除染処理を継続して実行させることによって、放射能汚染水からトリチウム放射能を減衰ないし消去する効果を、さらに向上させることが可能となる。なお、処理時間を長くし、高圧のポンプを用いることにより、また電解処理では高電圧を多数の電極に通電する等によって、規模を大きくした装置1台による除染処理が可能となる。
【0027】
第2の除染方法においては、添加処理槽のバルブ11を開放して、S1からS5の一連の処理が実行され、電解装置の電解処理能力の許容量の処理水を電解槽3に導入する。電解槽には、棒状又は板状の電極31が2〜30本程度配置されている。また、電解槽には、電解処理水中に電気が流れていないこと(電気不通)を検知するセンサが設置されている。添加処理槽から導入した処理水を電解槽に貯留して、電極に電流を通電し処理水中に電流を流して、電解処理を10〜30時間程度継続して実施する。棒状又は板状の電極の数は、電解装置の規模や電解処理水の量によるが、4〜100本とすることができる。板状の電極を10〜100枚設置することによって、電解処理時間を大幅に短縮できる。
【0028】
S6は、電解槽の電解処理水中が、不伝導体状態に至るまで継続して実施する。電解槽内に、電解処理水中が不伝導体状態、すなわち電解処理水中に電気が流れていない状態(電気不通)を検知するセンサ32を設置する。当該センサによって、電解槽の処理水中が不伝導体状態に至ったか否かが判断され、当該センサから、電気不通検知の通知を受けるまで電解処理を実施する。電気不通検知の通知を受けた後、電解処理を停止する。センサからの通知は、ブザー音やランプの点燈によって確認できる。
【0029】
本発明においては、電解槽に配置する電極31として、鉄製、ステンレス製又は白金製の電極を用いる。また、これらの電極を電解槽に混在させることができ、鉄製電極とステンレス製電極、鉄製電極と白金製電極、ステンレス製電極と白金製電極、或いは鉄製電極、ステンレス製電極及び白金製電極とを組み合わせて電解槽に配置することができる。電極を合計で30本設置するとして、例えば、鉄製電極10本、ステンレス製電極10本、白金製電極10本を、電解槽に交互に配置することによって、電解槽の処理水中を電流が流れない状態、すなわち電解槽が不伝導体状態に至る時間を短縮することが可能となる。
【0030】
電解処理は、100〜500Vの交流電流を電極に通電して実施する。装置の規模や電解処理水の量にもよるが、200V以上の交流電流を電極に通電することによって、電解処理時間を大幅に短縮できる。また、電解処理を所望のトリチウム放射能濃度に至るまで、繰り返し実行するように構成することができる。第1の除染方法と同様に、電解処理は、海洋や河川への放流の安全性が確保されるトリチウム濃度レベル、或いは地域住民の同意が得られるトリチウム濃度レベルに達するまで繰り返し実行される。
【0031】
また、鉱物粉状体PMの添加処理槽1への添加は、撹拌装置で撹拌されながら添加処理槽に押し出される。鉱物粉状体は、例えばスクリュー式撹拌装置によって、鉱物粉状体が撹拌されながら添加処理槽内に押し出されて、汚染水に添加される。なお、本発明に係る除染方法は、セシウム、ストロンチウムその他の放射性物質の除染にも用いることができる。
【実施例1】
【0032】
公益社団法人日本アイソトープ協会から提供されたトリチウム試料液(H−3)について、蒸留操作による前処理を行い、トリチウム濃度の分析が株式会社化研によって実施された。
測定容器:20mL(リットル)低カリカラスバイアル
前処理:文部科学省放射能測定法シリーズ9「トリチウム分析法」の常圧蒸留法を参考として、測定用試料(蒸留水)を調製し、そのうち測定用試料1.0mLを測定容器に分取し、さらに精製水9mL(ミリリットル)を添加し、さらにシンチレータとして、ウルチマゴールドLLTを10mL添加し、撹拌・混合した。
【0033】
そして、精製水50L(リットル)に、トリチウム1.34mLを混合撹拌して、実証試験用試験水(以下、「試験水」という)とした。トリチウム放射能濃度1031±2Bq/mLの試験水を、本発明に用いるトリチウム放射能汚染水として、第1の除染方法によるトリチウム放射能濃度分析が、株式会社化研によって実施された。
実証試験日:2019年9月3日
測定日:2019年9月11日
分析装置:液体シンチレーションカウンタ(パーキンエルマ製・Tri-Carb 3110TR)
分析方法:前処理した測定用試料、精製水、ウルチマゴールドLLTを撹拌・混合した。混合後、1日以上冷暗所に放置し安定させた後、液体シンチレーションカウンタにより30分間測定した。バックグラウンド補正を行い、放射能濃度を算出した。
【0034】
添加処理槽に投入された約45.8℃の試験水(トリチウム放射能汚染水)約50Lに対し、ブラックシリカの粉状体100g及びKMKカーボン液(登録商標)100mLを添加(S1)して、添加処理槽において、約30分間混合撹拌した。その後、試験水に対して、同量の粉状体及びカーボン液を追加して添加し、約30分間混合撹拌した。粉状体及びカーボン液の添加処理水を、添加処理槽から約3cmの大きさに破砕したブラックシリカ鉱石を充填した鉱物固形体充填槽に、1気圧程度の水圧ポンプで圧送(S2)して通過(S3)させ、通過処理水を水圧ポンプで添加処理槽に還流させた(S4)。鉱物固形体充填槽への圧送(S2)、鉱物固形体充填槽の通過(S3)及び添加処理水槽への還流(S4)処理を実施し、その後、S2〜S4の一連の処理工程を60分間程度繰り返した(S5)。
【0035】
これら一連の処理を実施した処理水のトリチウム放射能濃度を測定した結果、927±2Bq/mLであった。試験水のトリチウム放射能濃度1031±2Bq/mLが、第1の除染方法を用いて除染処理したトリチウム放射能濃度は927±2Bq/mLとなり、除染処理後の放射能濃度が約10.1%減少している。トリチウム放射能濃度が大幅に減衰したことが分かる。
【実施例2】
【0036】
実施例1におけるS1〜S5の一連の処理が実施された除染処理水から取り出した3Lの処理水を電解処理し、電解処理した処理水を本発明の第2の除染方法によるトリチウム放射能濃度分析が、株式会社化研によって実施された。なお、上記した前処理、試験水の作製、分析装置、分析方法、トリチウム放射能濃度分析等は、実施例1と同様の要領で行われた。
実証試験日:2019年8月18日
測定日:2019年8月26日
実施例1の諸工程が実施された処理水3Lを、100Vの交流電流を電解槽の2本の棒状の電極に通電させ、電解槽内に設置したセンサから、電解処理水中が不伝導体状態、すなわち電解処理水中に電気が流れていない状態であることを検知したことをランプの点燈によって確認するまで、約24時間電解処理を実施した。
【0037】
電解処理を実施した電解処理水のトリチウム放射能濃度を測定した結果、864±2Bq/mLであった。試験水のトリチウム放射能濃度と比較して、処理後の放射能濃度が約16.5%減少している。トリチウム放射能濃度が大幅に減衰したことが分かる。
本発明による除染効果について考察してみると、KMKカーボン液(登録商標)の放射性物質の封じ込め作用、並びにKMKカーボン液が放射性物質の電磁波を吸収し熱エネルギーとして放射することにより、トリチウムが無機物の固定鉱石(岩石)として、自然界のカルシウム又は二酸化炭素(CO2)、或いはヘリウム3に変換され放射能が減衰すると考えられる。また、一連の処理工程における電解処理、イオン交換、遠赤外線、高圧電流の発生等の複合作用によって、放射性物質の原子核にβ崩壊を促進させ、トリチウムが無機物の固定鉱石(岩石)として、自然界のカルシウム又は二酸化炭素(CO2)、或いはヘリウム3その他の物質に変化するものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明に係る除染方法は、入手が容易な鉱物、カーボン液を使用することによって、従来困難とされた特にトリチウム汚染水の除染を実現することができる。本発明に係る除染方法は、放射性物質の加工・処理等を行う施設や保管施設の事故、自然災害等により発生する放射能汚染水の処理、汚染された土壌、焼却灰等から発生する放射能汚染水の処理が可能である。したがって、放射能汚染処理において広く使用することが期待できる。
【符号の説明】
【0039】
S1 添加処理工程
S2 鉱物固形体充填槽への圧送処理工程
S3 鉱物固形体充填槽の通過処理工程
S4 添加処理槽への還流処理工程
S5 S2〜S4の繰り返し循環処理
S6 電解処理工程
1 添加処理槽
2 鉱物固形体充填槽
3 電解槽
11 バルブ
31 電極
32 センサ
RCW トリチウム放射能汚染水
PM 鉱物粉状体
PMT 鉱物粉状体収容タンク
LC ナノレベルカーボン液状体
LCT ナノレベルカーボン液状体収容タンク
P 水圧ポンプ
SM 鉱物固形体
【要約】
【課題】 放射能汚染水からトリチウム放射能を減衰ないし消去する除染方法を提供する。
【解決手段】 加熱したトリチウム汚染水に対し、二酸化ケイ素鉱石等の鉱物粉状体及びナノレベルカーボン液状体を所定量添加処理槽で添加処理する工程と、添加処理水を水圧ポンプにより添加処理槽から鉱物固形体充填槽に圧送する工程と、添加処理水を鉱物固形体と衝突させて鉱物固形体充填槽を通過処理する工程と、通過処理水を水圧ポンプにより添加処理槽に戻す工程と、これら諸工程を所定時間繰り返す循環処理工程とを実行する。
【選択図】 図1
図1