(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6713301
(24)【登録日】2020年6月5日
(45)【発行日】2020年6月24日
(54)【発明の名称】吸収式除去・濃縮装置
(51)【国際特許分類】
B01D 53/14 20060101AFI20200615BHJP
B01D 53/18 20060101ALI20200615BHJP
B01D 53/26 20060101ALI20200615BHJP
C01B 32/50 20170101ALI20200615BHJP
A01G 7/02 20060101ALI20200615BHJP
A01G 9/18 20060101ALI20200615BHJP
A01G 9/24 20060101ALI20200615BHJP
F24F 3/14 20060101ALI20200615BHJP
【FI】
B01D53/14 100
B01D53/18 120
B01D53/18 130
B01D53/26 220
C01B32/50
A01G7/02
A01G9/18
A01G9/24 Z
F24F3/14
【請求項の数】11
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-38709(P2016-38709)
(22)【出願日】2016年3月1日
(65)【公開番号】特開2017-154063(P2017-154063A)
(43)【公開日】2017年9月7日
【審査請求日】2019年1月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】390020215
【氏名又は名称】株式会社西部技研
(72)【発明者】
【氏名】黒田 彩子
(72)【発明者】
【氏名】井上 宏志
(72)【発明者】
【氏名】岡野 浩志
【審査官】
小川 慶子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2017−75715(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/013332(WO,A1)
【文献】
特許第5795423(JP,B2)
【文献】
特開2011−247566(JP,A)
【文献】
特表2014−522298(JP,A)
【文献】
国際公開第2016/005226(WO,A1)
【文献】
特開昭56−95335(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/02−53/28
F24F 3/14
A01G 7/02,9/18
C01B 32/50
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミン担持固体吸収剤に二酸化炭素を含有する処理対象空気を接触させて前記吸収剤に二酸化炭素を吸収させ、前記吸収剤に再生用空気を接触させて前記吸収剤から二酸化炭素を脱離させる事によって処理対象空気中の二酸化炭素を除去するものであって、前記処理対象空気のエンタルピーを調整する手段および前記再生用空気のエンタルピーを調整する手段の両方によって、前記処理対象空気のエンタルピーよりも前記再生用空気のエンタルピーを大きくする事によって、前記吸収剤から二酸化炭素を脱離させるようにし、前記再生用空気のエンタルピーと前記処理対象空気のエンタルピーの差を制御することにより、二酸化炭素除去量を制御するようにした吸収式除去・濃縮装置。
【請求項2】
前記アミン担持固体吸収剤は、1級アミン或いは2級アミン、或いはその両方をスチレン系ゲル樹脂、或いは活性炭、或いはメソポーラスシリカに担持させたものである請求項1に記載の吸収式除去・濃縮装置。
【請求項3】
前記処理対象空気のエンタルピーを調整する手段はヒートポンプのエバポレータであり、前記再生用空気のエンタルピーを調整する手段はヒートポンプのコンデンサである請求項1或いは請求項2に記載の吸収式除去・濃縮装置。
【請求項4】
前記再生用空気のエンタルピーを調整する手段はヒートポンプのコンデンサに加湿装置を加えた請求項3に記載の吸収式除去・濃縮装置。
【請求項5】
前記加湿装置は、ヒートポンプのエバポレータの凝縮水を利用するものである請求項4に記載の吸収式除去・濃縮装置。
【請求項6】
前記アミン担持固体吸収剤はペレット状であり、前記アミン担持固体吸収剤ペレットの詰められたカラムに二酸化炭素を含有する処理対象空気を通過させる事によって、前記アミン担持固体吸収剤に前記処理対象空気を接触させ、前記カラムに前記処理対象空気よりもエンタルピーの大きな再生用空気を通過させる事によって前記アミン担持固体吸収剤から二酸化炭素を脱離させるようにした請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の吸収式除去・濃縮装置。
【請求項7】
前記アミン担持固体吸収剤はハニカムロータに担持されており、前記ハニカムロータを少なくとも処理ゾーンと再生ゾーンとに分割し、前記処理ゾーンに処理対象空気を流し、前記再生ゾーンには前記処理対象空気よりもエンタルピーの大きな再生用空気を通過させる事によって前記アミン担持固体吸収剤から二酸化炭素を脱離させるようにした請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の吸収式除去・濃縮装置。
【請求項8】
前記処理ゾーンを通過した使用済処理空気の一部または全量を循環処理対象空気として、前記処理対象空気とともに前記処理ゾーンに通過させるようにした請求項6或いは請求項7に記載の吸収式除去・濃縮装置。
【請求項9】
前記再生ゾーンを通過した使用済再生用空気の一部または全量を循環再生用空気として、前記再生用空気とともに前記再生ゾーンに通過させるようにした請求項6或いは請求項7に記載の吸収式除去・濃縮装置。
【請求項10】
前記再生ゾーンに通風する再生用空気の入口と出口に全熱交換器を設けて全熱回収できるようにした請求項6から請求項9のいずれか一項に記載の吸収式除去・濃縮装置。
【請求項11】
二酸化炭素の吸収性能を有する前記ハニカムロータと、湿気吸着又は吸収機能を有するハニカムロータと、SOx、NOx等の酸性ガスの吸着又は吸収機能を有するハニカムロータと、アルカリ性ガスの吸着又は吸収機能を有するハニカムロータと、VOC吸着機能を有するハニカムロータのいずれかを有するハニカムロータとを組み合わせた請求項7から請求項10のいずれか一項に記載の吸収式除去・濃縮装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、アミン添着多孔質材、弱塩基性陰イオン交換樹脂などの二酸化炭素吸収剤を保持したロータを用いて、処理対象空気に含まれる二酸化炭素を処理対象空気から、処理対象空気と再生空気とのエンタルピー差を用いて分離することで、例えばビル等の室内の二酸化炭素を除去する目的や、ビニルハウスや植物工場などに濃縮した高濃度の二酸化炭素を供給する目的など、目的に応じて二酸化炭素を除去・濃縮できる吸収式除去・濃縮装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ガス状の除去対象物質を処理対象空気から濃縮状態で、低温で分離除去できる装置として、例えば特許文献1に見られるようにアミン担持固体吸収剤を保持させた通気性の吸着ロータを用い、低温の再生空気を加湿することにより、再生エネルギーを抑えながらも装置の物質回収率を確保できる吸収式除去・濃縮装置が知られている。
【0003】
また現在、二酸化炭素の分離回収技術の一つに、アミン水溶液による化学吸収法が知られている。アミン水溶液は、二酸化炭素を吸収したアミン水溶液から二酸化炭素を分離(アミン水溶液を加熱再生)するために莫大なエネルギーを要することから、再生エネルギーの低減が望まれている。その解決策の一つとして、固体吸収剤の開発が進んでいる。固体吸収剤は、アミン水溶液の再生時に水溶液系で有るがゆえに必要な、水分の加熱・冷却に関する余分なエネルギーを低減することができる。
【0004】
アミン水溶液を用いた二酸化炭素の吸収過程は非特許文献1に見られるように一般的に以下の式で示される。一級アミン(R−NH
2)[1] 2R−NH
2 + CO
2 ⇔ R−NH
3+ + R−NH−COO
− [2a] R−NH
2 + CO
2 + H
2O ⇔ R−NH
3+ + HCO
3− [2b] R−NH−COO
− + H
2O ⇔ R−NH
2 + HCO
3− 二級アミン(R
1R
2−NH)[3] 2R
1R
2−NH + CO
2 ⇔R
1R
2−NH
+ + R
1R
2−N−COO
− [4a] R
1R
2−NH + CO
2 + H
2O ⇔ R
1R
2−NH
2+ + HCO
3− [4b] R
1R
2−N−COO
− + H
2O ⇔ R
1R
2−NH + HCO
3−
【0005】
二酸化炭素吸収液が第二番目に示した経路[2a][2b][4a][4b]により二酸化炭素吸収を行えると、 [1]或いは[3]で示される反応よりも反応熱が小さくなり、脱離再生のエネルギーを少なくできるというメリットがある。即ち、アミン担持固体吸収剤を用いる場合、例えば吸収摂氏15℃(以降、温度は全て「摂氏」とする)、脱離45℃のような低温条件では、[2a][2b][4a][4b]で示されるような反応が起こると考えられる。ただし、これらの反応は水の存在下で進むため、水分(湿分)の共存が必須である。
【0006】
三級アミンはNH結合を持たないため、ここで示した反応は起きず、例えば吸収15℃、脱離45℃といった低温条件においては二酸化炭素の吸収脱離性能を示さない。
【0007】
アミン系二酸化炭素吸収剤は酸化分解による臭いや熱劣化の問題もあり、これを低減するためにも再生温度を低くすることは重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第5795423号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】公益財団法人 地球環境産業技術研究機構 平成22年二酸化炭素回収技術高度化事業 成果報告書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に開示されたものは、アミン担持固体吸収剤のような水分の共存が必要な吸収剤を保持したハニカムロータを使い、再生ゾーンの再生用空気を加湿することによって、再生用空気の温度を下げながら二酸化炭素除去性能を高めている。また、低温で再生することにより、アミン系二酸化炭素吸収剤の酸化劣化や臭いの問題も低減している。
【0011】
しかしながら、特許文献1に記載のものは、どのような制御方法で吸収式除去・濃縮装置を制御すれば、結果として装置の物質回収率η(即ち、処理ゾーンにおいて処理対象空気から除去対象物質を吸収により分離除去する効率)や除去対象物質の除去量がどのようになるか不明確で、設計条件や空気条件など種々の仕様が変わった場合の装置の最適化ができなかった。
【0012】
この実情に鑑み、本発明の主たる課題はアミン担持固体吸収剤のような二酸化炭素の吸収剤を用いて、再生用空気のエンタルピー(温度と湿度の両方)と処理対象空気のエンタルピー(温度と湿度の両方)を制御することにより、装置の除去対象物質の除去量を制御できる吸収式除去・濃縮装置を提供することにある。また、アミン系二酸化炭素吸収剤の劣化を防止できる二酸化炭素吸収式除去・濃縮装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は以上のような課題を解決するため、二酸化炭素の吸収剤を保持したロータを有し、このロータを少なくとも処理ゾーンと再生ゾーンとに分け、処理ゾーンに処理対象空気を通風することで、その処理対象空気に含まれる二酸化炭素をロータ部分の保持吸収剤に吸収させて処理対象空気から分離除去し、再生ゾーンでは、再生用空気を通風することで、その保持吸収剤が前記処理ゾーンで吸収した二酸化炭素を、再生用空気で脱離させて、ロータ部分の保持吸収剤を再生する吸収式除去・濃縮装置であって、前記再生ゾーンに通風する再生用加熱空気と処理ゾーンに通風する処理対象空気の何れか、または両方にエンタルピー(温度と湿度の両方)調整手段を設け、再生用空気と処理対象空気とのエンタルピー差を制御できるようにしたものである。
【0014】
アミン担持固体吸収剤のような二酸化炭素の吸収剤を用いて、処理対象空気のエンタルピーを再生用空気のエンタルピーより低くすることにより、処理ゾーンにおける二酸化炭素の吸収性能を発揮させ、再生用空気のエンタルピーを処理対象空気のエンタルピーより高くすることにより、再生ゾーンにおける脱離性能を発揮させることができる。このようにエンタルピー差によって目的物の吸収・脱離を行なう原理(以下、「エンタルピースイング吸収」または「ESA」(Enthalpy Swing Absorption)という)を用いて、吸収式除去・濃縮装置における除去・濃縮性能の制御を行なうようにした。
【0015】
エンタルピー調整手段としては、
図1のように温度調整手段
5、8と湿度調整手段
6、7を組み合わせたものか、各種条件によっては各々単独の手段を用いる。
また、温度調整手段5、8と湿度調整手段6、7の順番を逆にしてもよい。温度調整手段としては、冷却コイル、加熱コイル、ベルチェ素子、電気ヒータ、蒸気ヒータやヒートポンプの凝縮器(コンデンサ)、蒸発器(エバポレータ)などが用いられる。また、湿度調整手段としては、冷却コイルやヒートポンプの蒸発器(エバポレータ)などで冷却することによって空気中の水分を凝縮除去して、必要に応じて加湿装置で目的の湿度まで加湿する方法などが用いられる。加湿装置としては、水加熱式、気化式、水噴霧式、超音波式など種々の方式が用いられ、ヒートポンプの蒸発器(エバポレータ)で発生する凝縮水を利用してもよい。なお、この加湿装置による湿度調整が必要でない場合は、冷却コイルなどによる水分の凝縮除去のみでエンタルピー調整を行なう。
【0016】
再生ゾーンで脱離した水分と熱は、再生循環系路や全熱交換器等を併用することで、再生入口に湿分と温度を回収供給することができる。
【0017】
また、処理ゾーンでの二酸化炭素除去率を向上するため、処理ゾーンを出た空気の一部または全量を処理ゾーンの前に戻す処理循環系路を設けてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の吸収式除去・濃縮装置は前述の如く構成したもので、処理ゾーンに処理対象空気を通風することで、その処理対象空気に含まれる二酸化炭素をロータ部分の保持吸収剤に吸収させて処理対象空気から分離除去し、再生ゾーンでは、再生用空気を通風することで、その保持吸収剤が前記処理ゾーンで吸収した二酸化炭素を、再生用空気に脱離させて、ロータ部分の保持吸収剤を再生する。この保持吸収剤の再生の際に、処理ゾーンに流す空気と再生ゾーンに流す空気のエンタルピーの差で再生しているため、再生ゾーンに流す空気の温度が低くても十分に再生ができる。よってアミン系の二酸化炭素吸収剤を用いても、吸収剤の劣化を抑えることができる。また、処理ゾーンに通風する処理対象空気か、加熱再生ゾーンに通風する再生用空気の何れか又は両方のエンタルピー(温度と湿度の両方)を制御して、二酸化炭素の除去・濃縮性能の制御が可能となる。
【0019】
本発明の吸収式除去・濃縮装置の処理ゾーンに、室内の還気を通過させると、出口空気の二酸化炭素濃度が低くなり、ビルなどの二酸化炭素濃度が高くなっている室内に供給することで室内の二酸化炭素濃度を低くすることができる。この場合、室内の二酸化炭素濃度を低減させるために導入する外気量を大幅に低減することができるため、通常の換気と比べて省エネルギーとなる。また、本発明の吸収式除去・濃縮装置の再生ゾーンを通過した再生出口空気は二酸化炭素濃度が高くなっているため、ビニルハウスや植物工場などの植物の育成室に導くと植物の成長が早くなるとともに、環境への二酸化炭素の放出を抑制できる。本発明の吸収式除去・濃縮装置にて処理された、再生出口空気と処理出口空気の両方を用いて、室内の二酸化炭素を除去しながら、再生ゾーンの高濃度の二酸化炭素をビニルハウスに供給してもよい。本発明の吸収式除去・濃縮装置で、例えば、処理出口空気でビルを空調し、室内でヒトなどから発生した二酸化炭素をビルの屋上に設けたビニルハウスに供給し、植物の生長を促進させる、といった、二酸化炭素の循環空調も可能となる。
【0020】
さらに揮発性有機化合物(以下VOCと書く)やアンモニアなどの臭気物質の吸着能力を有するハニカムロータとESAによる二酸化炭素吸収式除去・濃縮装置を組み合わせることによって、さらに室内空気質を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は本発明の吸収式除去・濃縮装置の実施例1におけるフロー図である。
【
図2】
図2は再生入口と処理入口のエンタルピー差に対する二酸化炭素除去量を示すグラフである。
【
図3】
図3は処理入口温度を一定にし、再生入口と処理入口のエンタルピー差を変えた場合の再生入口と処理入口の温度差に対する二酸化炭素除去量を示すグラフである。
【
図4】
図4は処理入口温湿度を一定にし、再生入口と処理入口の絶対湿度差に対する二酸化炭素除去量を示すグラフである。
【
図5】
図5は再生入口温湿度を一定にし、再生入口と処理入口の絶対湿度差に対する二酸化炭素除去量を示すグラフである。
【
図6】
図6は処理入口と処理出口の絶対湿度差Δxに対する二酸化炭素除去量を示すグラフである。
【
図7】
図7は本発明の吸収式除去・濃縮装置においてペレット状の吸収剤を用いたロータの実施例におけるフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、二酸化炭素吸収機能を持つアミン担持固体吸収剤などを保持したロータを有し、このロータを少なくとも処理ゾーンと再生ゾーンとに分割する。処理対象空気を処理ゾーンに通風して、処理対象空気から二酸化炭素を分離除去し、再生用空気を再生ゾーンに通風して、二酸化炭素を脱離させるという作用を有する。再生ゾーンに通風する再生用空気と処理ゾーンに通風する処理対象空気の何れか、または両方のエンタルピー(温度と湿度の両方)を制御するエンタルピー調整手段を設ける構成にしてある。
【実施例1】
【0023】
以下、本発明の吸収式除去・分離装置の実施例1について
図1に沿って詳細に説明する。1はハニカムロータであり、セラミック繊維紙やガラス繊維紙などの不燃性のシートをコルゲート(波付け)加工しロータ状に巻き付け加工したもので、トリエタノールアミン、モノエタノールアミンなどの有機系吸収剤、或いはアミン系の弱塩基性陰イオン交換樹脂、アミンを担持した活性炭やメソポーラスシリカなどのアミン担持固体吸収剤が担持されている。
【0024】
ハニカムロータ1は処理ゾーン2と再生ゾーン4に分割されている。処理ゾーン2には室内空気がブロアなど(一般的であるので図示せず)で供給される。
【0025】
処理対象空気を温度調整手段8と湿度調整手段7を通してエンタルピー調整した後、処理ゾーン2に通風して、処理対象空気に含まれる二酸化炭素をロータ部分の吸収剤に吸収させて処理対象空気から分離除去し、二酸化炭素の濃度は低減する。
【0026】
再生ゾーン4では、温度調整手段5により加熱した再生用空気を、湿度調整手段6に通してエンタルピー調整した後、再生ゾーン4に通風して、ロータに吸収した二酸化炭素を再生用空気に脱離させ、ゾーン内通過過程にあるロータ部分の保持吸収剤は再生される。なお、再生ゾーン4に通風する再生用空気の入口と出口にハニカムロータタイプや静止型直交流素子タイプの全熱交換器を設けて全熱回収できるようにしてもよい。
【0027】
特に一級アミン及び/又は二級アミンを官能基として有する弱塩基性陰イオン交換樹脂を固体吸収剤として用いると、前記の式[2a][2b][4a][4b]で示されるような反応が起こり、アミン−二酸化炭素−水系の連続誘導体モデルができると考えられている。つまり溶質としてのHCO
3−分子の周りに連続誘電体としての溶媒ができ、溶質分子の電荷分布が周りの溶媒に分極を引き起こす。連続誘導体モデルでは、このような溶質溶媒間相互作用により、式[2a][2b][4a][4b]を低温条件下で促進させるため、吸収速度や放散速度などの反応性が高くなる。したがって、低温度の再生温度で加湿することにより、従来技術である置換脱着のような、加熱した低温の再生用空気を加湿状態にして吸着状態にある除去対象物質を水分により吸着材から追い出すものと異なる挙動を示す。なお、これまで行ってきた種々の試験でも、三級アミンを官能基として有するアミン担持固体吸収剤を担持したハニカムロータでは、ほとんど二酸化炭素を除去・濃縮できないという知見が得られており、このことからも上記のような反応で二酸化炭素の除去・濃縮が起こっていると考えられる。
【0028】
また、再生入口を加湿しない場合、装置に適切な二酸化炭素除去性能を発揮させるためには、再生温度は50〜60℃以上必要となるが、再生空気を50〜60℃に加熱した後、気化冷却加湿することにより再生温度を30〜40℃程度に下げても二酸化炭素除去性能は維持でき、アミン担持固体吸収剤の熱劣化を低減させて、ハニカムロータの長寿命化を可能とする効果が有る。さらにアミンの分解などによる、アミン臭などのハニカムロータからの臭気発生も抑制することが可能となる。
【0029】
なお、実施例1では、処理ゾーン2と再生ゾーン4の両方にエンタルピー調整手段としての湿度調整手段6、7と温度調整手段5、8を設けてエンタルピーを制御できるようにしたが、これに限定されるものではなく、どちらかのゾーンだけに設けてもよい。また、湿度調整手段6、7と温度調整手段5、8の順番を逆にしてもよく、さらに、湿度または温度単独の調整手段としてもよい。さらに、室内空気や外気の条件が所定範囲内に収まるような場合には、処理ゾーン2に送る空気より再生ゾーン4に送る空気のエンタルピーが大きければ、室内の二酸化炭素が外気に放出される。よってこの場合には、エンタルピーを調整せずに、固定状態でもよい。
【0030】
また、実施例1の空気フローについても一方向に限定されるものではなく、再生ゾーン4から出た再生用空気の一部または全量をエンタルピー調整手段5の前に戻して再生循環させることにより、二酸化炭素の濃度をさらに高めるようにしてもよい。また、処理ゾーン2から出た空気の一部または全量をエンタルピー調整手段8の前に戻して処理循環させることにより、二酸化炭素除去量を高めるようにしてもよい。さらに、前に述べた再生循環と処理循環を組み合わせた吸収式除去・分離装置としてもよい。
【0031】
ハニカムロータ1についても処理ゾーン2と再生ゾーン4に2分割したものに限定されるものではなく、処理ゾーン2を2分割以上または再生ゾーン4を2分割以上するようにしてもよく、両ゾーンとも2分割以上する構成としてもよい。また、本発明はハニカムロータに限定するものではなく、
図7に示すようにハニカムロータの代わりにペレット状や粒状のアミン担持固体吸収剤9などを網やネットなどを用いたロータ、或いは、円柱状や角柱状などのカラムに充填して、直接空気と吸収剤などが接触できるようにしたロータやカラムなどを用いてもよい。さらに、アミン担持固体吸収剤などを担持した、少なくとも2種類以上のロータを用いて、交互に二酸化炭素を吸収及び脱離処理するような、バッチ式の構成としてもよい。
【0032】
この実施例1の吸収式除去・分離装置を用いて、種々の実験を行なった結果を以下に示す。なお、ハニカムロータは、アミン担持固体吸収剤を担持した直径200mmで幅が200mmのものを使い、処理入口の二酸化炭素濃度は800ppm、処理ゾーンと再生ゾーンの面積比は1:1、処理面風速と再生面風速は共に2m/sで試験を行なった。
【0033】
図2に処理入口温度を変えた場合の再生入口と処理入口のエンタルピー差に対する二酸化炭素除去量を示す。なお、再生入口の二酸化炭素濃度は500ppmで固定した。このグラフより再生入口と処理入口のエンタルピー差が大きいほど二酸化炭素除去量が多くなった。したがって、二酸化炭素除去量を多くするためには、処理入口空気のエンタルピーをできるだけ低くし、再生入口空気のエンタルピーをできるだけ高めるように装置のエンタルピー制御をすればよいことが分かった。そのような運転例として、二酸化炭素ヒートポンプの排熱、ボイラからの温水、他設備からの排熱など、90℃程度の排熱を使って、再生空気絶対湿度20g/kg'(夏空気条件)の空気を70℃に加熱して、さらに気化式加湿器で45℃に気化冷却すると、再生用空気のエンタルピーは128kJ/kg'となる。また、処理入口温度が低いほど二酸化炭素除去量が多くなる。
【0034】
図3に処理入口温度を20℃、再生入口二酸化炭素濃度800ppmと一定にし、再生入口と処理入口のエンタルピー差を変えた場合の再生入口と処理入口の温度差に対する二酸化炭素除去量を示す。このグラフより処理入口温度と再生入口温度の差が大きいほど二酸化炭素除去量が多くなっていることから、除去量は再生入口温度と処理入口温度の温度差に依存することが分かった。
【0035】
図4に処理入口温度を20℃、処理入口絶対湿度3.8g/kg'、再生入口二酸化炭素濃度800ppmと一定にし、再生入口絶対湿度を変えた場合の二酸化炭素除去量を示す。また、
図5に処理入口温度を20℃、再生入口絶対湿度17.0g/kg'、再生入口二酸化炭素濃度800ppmと一定にし、処理入口の絶対湿度を変えた場合の二酸化炭素除去量を示す。これらのグラフから処理入口絶対湿度と再生入口絶対湿度の差が大きい方が二酸化炭素除去量も多くなり、処理側の湿度を下げることにより二酸化炭素除去量が多くなることが分かった。従って、二酸化炭素除去量を多くするためには、処理入口空気のエンタルピーをできるだけ下げるように装置を制御すればよい。
図3〜
図5より、エンタルピー差によって目的物の吸収・脱離を行なうエンタルピースイング吸収は、温度スイングと湿度スイングの組合せにより発生しているものと考えられる。
【0036】
図6に処理入口と処理出口の絶対湿度差Δxに対する二酸化炭素除去量を示す。このグラフから二酸化炭素除去量が処理入口と処理出口の絶対湿度差Δxに依存していないことが分かる。従来技術にあるような水蒸気など湿分の高い空気を再生用空気に使用する置換脱着によって二酸化炭素が脱着しているのであれば、絶対湿度差Δxに対して二酸化炭素除去率に規則的な傾向がみられるはずであるが、そのような傾向がみられないため置換脱着は生じていない。
【0037】
以上のことから、二酸化炭素の吸収剤を保持したハニカムロータでエンタルピースイング吸収の原理を使った、本発明の吸収式除去・濃縮装置については、処理入口空気のエンタルピーをできるだけ低くし、再生入口空気のエンタルピーをできるだけ高めるように装置のエンタルピーを制御することが効果的であることが分かった。特に1、2級アミンを担持したスチレン系ゲル樹脂を吸収剤として用いると、他の固体二酸化炭素吸着剤と比較して価格が安くなる。また、アミン水溶液を用いた除去装置と比較して取り扱いが容易になり、イニシャルコストやランニングコストも安価となる。この1、2級アミンを担持したスチレン系ゲル樹脂は、耐熱性が弱いという欠点があるが、本発明のESAの原理を使った装置を用いることによって、再生温度を低くすることができるため、この問題も解消できる。
【0038】
さらに、弱塩基性陰イオン交換樹脂と弱酸性陽イオン交換樹脂を混ぜてハニカムロータに担持すると、二酸化炭素の他にSO
x、NO
xなど酸性ガスとアンモニアなどアルカリ性ガスも除去できる。これに加えて活性炭、疎水性ゼオライト、合成吸着剤を用いたロータと組み合わせてもよい。この場合にはハニカムロータは室内の臭気やVOCを吸着除去できる機能も有するようになる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、二酸化炭素の吸収剤を保持したロータでESAの原理を用いて、処理ゾーンで処理対象空気に含まれる二酸化炭素を吸収し、30〜80℃の再生用空気によって処理ゾーンで吸収した二酸化炭素を脱離するため、再生ゾーンに高温再生用空気を用いる場合に比べて省エネルギーである。
【0040】
本発明の吸収式除去・濃縮装置の処理ゾーンを通過した処理出口空気は、二酸化炭素濃度が低くなっているため、ビルなどの二酸化炭素濃度が高くなっている室内に供給することで室内の二酸化炭素濃度を低くすることができる。この場合、室内の二酸化炭素濃度を低減させるために導入する外気量を大幅に低減することができるため、通常の換気と比べて省エネルギーとなる。また、本発明の吸収式除去・濃縮装置の再生ゾーンを通過した再生出口空気は二酸化炭素濃度が高くなっているため、ビニルハウスや植物工場などの植物の育成室に導くと植物の成長が早くなるとともに、環境への二酸化炭素の放出を抑制できる。再生出口空気と処理出
口空気の両方を用いて、室内の二酸化炭素を除去しながら、再生ゾーンの高濃度の二酸化炭素をビニルハウスに供給してもよい。例えば、本発明の吸収式除去・濃縮装置で、室内空気からヒトなどから発生した二酸化炭素を除去して低濃度にした処理出口空気でビルを空調し、二酸化炭素が高濃度になった再生出口空気をビルの屋上等に設けたビニルハウスに供給して植物の生長を促進させるといった、二酸化炭素の循環空調も可能となる。
【符号の説明】
【0041】
1 ロータ
2 処理ゾーン
4 再生ゾーン
5、8 温度調整手段(エンタルピー調整手段)
6、7 湿度調整手段(エンタルピー調整手段)
9 ペレット状のアミン担持固体吸収剤