特許第6713360号(P6713360)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6713360
(24)【登録日】2020年6月5日
(45)【発行日】2020年6月24日
(54)【発明の名称】インクジェットプリントヘッド用充填液
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/165 20060101AFI20200615BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20200615BHJP
【FI】
   B41J2/165 401
   B41J2/01 501
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-129343(P2016-129343)
(22)【出願日】2016年6月29日
(65)【公開番号】特開2018-1510(P2018-1510A)
(43)【公開日】2018年1月11日
【審査請求日】2019年4月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000105947
【氏名又は名称】サカタインクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】特許業務法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 洋一
(72)【発明者】
【氏名】森安 員揮
【審査官】 加藤 昌伸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−091846(JP,A)
【文献】 特開2013−241552(JP,A)
【文献】 特開2014−201719(JP,A)
【文献】 特開2014−105300(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0307687(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 − 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセチレングリコールのアルキレンオキサイド付加物と、保湿剤と、水とを含み、
前記アルキレンオキサイド付加物は、HLBが7〜12であり、液中に0.05〜0.5質量%含まれ、
前記保湿剤は、液中に18〜37質量%含まれ、
粘度が5cps以下であり、pHが11〜13である、インクジェットプリントヘッド用充填液。
【請求項2】
前記アルキレンオキサイド付加物は、エチレンオキサイド付加物であり、液中に0.1〜0.3質量%含まれ、
前記保湿剤は、ジエチレングリコールである、請求項1記載のインクジェットプリントヘッド用充填液。
【請求項3】
インクジェットプリントヘッドを洗浄するために使用される、請求項1または2記載のインクジェットプリントヘッド用充填液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットプリントヘッド用充填液に関する。より詳細には、本発明は、ノズル内における泡抜けがよく、かつ、ノズルの周囲等に付着するインクに対する洗浄効果の優れたインクジェットプリントヘッド用充填液に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクの初期充填性や連続印刷安定性を向上させるためのメンテナンス液が提案されている(特許文献1)。また、洗浄性の優れたインクジェット記録用メンテナンス液が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−79932号公報
【特許文献2】特開2005−7703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のメンテナンス液は、依然として、ノズル内に充填される際に、泡抜けが悪い。そのため、ノズル内が乾燥しやすく、インクの吐出時に、インクの吐出されないピンが生じることがあった。また、このようなメンテナンス液は、ノズル内を液密状態で充填するために、多くのメンテナンス液が必要であった。また、特許文献2のメンテナンス液は、ノズルの周囲等に付着するインクに対する洗浄効果が充分でなかった。
【0005】
本発明は、このような従来の問題に鑑みてなされたものであり、ノズル内における泡抜けがよく、かつ、ノズルの周囲等に付着するインクに対する洗浄効果の優れるインクジェットプリントヘッド用充填液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、特定のHLBを示すアルキレンオキサイド付加物を特定量含み、かつ、特定量の保湿剤と、水とを含むインクジェットプリントヘッド用充填液において、粘度およびpHを調整することにより、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、上記課題を解決する本発明のインクジェットプリントヘッド用充填液には、以下の構成が主に含まれる。
【0007】
(1)アセチレングリコールのアルキレンオキサイド付加物と、保湿剤と、水とを含み、前記アルキレンオキサイド付加物は、HLBが7〜12であり、液中に0.05〜0.5質量%含まれ、前記保湿剤は、液中に18〜37質量%含まれ、粘度が5cps以下であり、pHが8〜13である、インクジェットプリントヘッド用充填液。
【0008】
このような構成によれば、得られるインクジェットプリントヘッド用充填液は、ノズルに充填される際に、泡抜けがよい。また、このような充填液は、ノズルの周囲等に付着するインクに対する洗浄効果が優れる。
【0009】
(2)前記アルキレンオキサイド付加物は、エチレンオキサイド付加物であり、液中に0.1〜0.5質量%含まれ、前記保湿剤は、ジエチレングリコールである、(1)記載のインクジェットプリントヘッド用充填液。
【0010】
このような構成によれば、得られるインクジェットプリントヘッド用充填液は、ノズルに充填される際に、より泡抜けがよい。また、このような充填液は、ノズルの周囲等に付着するインクに対する洗浄効果がより優れる。
【0011】
(3)インクジェットプリントヘッドを洗浄するために使用される、(1)または(2)記載のインクジェットプリントヘッド用充填液。
【0012】
このような構成によれば、得られるインクジェットプリントヘッド用充填液は、ノズルの周囲等に付着するインクに対する洗浄効果がさらに優れる。充填液は、付着したインクが樹脂被覆顔料等を含んでいる場合に、特に洗浄効果が優れる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ノズル内における泡抜けがよく、かつ、ノズルの周囲等に付着するインクに対する洗浄効果の優れるインクジェットプリントヘッド用充填液を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<インクジェットプリントヘッド用充填液>
本発明の一実施形態のインクジェットプリントヘッド用充填液(以下、充填液ともいう)は、アセチレングリコールのアルキレンオキサイド付加物と、保湿剤と、水とを含む。以下、それぞれについて説明する。
【0015】
(アセチレングリコールのアルキレンオキサイド付加物)
本実施形態の充填液は、アセチレングリコールのアルキレンオキサイド付加物を含む。
【0016】
アセチレングリコールの主鎖の炭素数は、12以上であることが好ましい。主鎖の炭素数が12以上であるアセチレングリコールは、インク流路を構成するゴムやプラスチック等や、インク中に含まれる異物に対する濡れ性が優れる。そのため、このようなアセチレングリコールが用いられることにより、インクの流路やノズル内に、気泡が残留しにくい。その結果、ノズルからの泡抜けがよい。また、アセチレングリコールは、アルキレンオキサイド付加物であることにより、インク中における溶解性が優れる。
【0017】
本実施形態において、アセチレングリコールのアルキレンオキサイド付加物のHLBは、7以上であることが好ましい。また、アセチレングリコールのアルキレンオキサイド付加物のHLBは、12以下であり、10以下であることが好ましい。アセチレングリコールのHLBが7未満である場合、アセチレングリコールのアルキレンオキサイド付加物は、水に溶解しにくくなる。一方、アセチレングリコールのHLBが12を超える場合、ノズル内における泡抜けが低下するという問題がある。なお、本実施形態において、HLBは、グリフィン法で定義されるHLBである。
【0018】
アセチレングリコールとしては、以下に限定されない。一例を挙げると、アセチレングリコールは、下記式(1)で表される化合物である。
【0019】
【化1】
(上記式(1)中、R1、R1’、R2およびR2’は互いに独立して炭素数1〜5のアルキル基を表し、主鎖の炭素数は12以上であり、−OR3は−OHまたは−O(C24O)mHを表し、−OR3’は−OHまたは−O(C24O)nHを表す。その際、mおよびnは互いに独立して0.5〜25の小数を含む値であり、m+nは1〜40の小数を含む値である(ただし、−OR3および−OR3’が共に−OHである場合を除く))。
【0020】
より具体的には、アセチレングリコールは、2,5,8,11−テトラメチル−6−ドデシン−5,8−ジオールのエトキシル化物および5,8−ジメチル−6−ドデシン−5,8−ジオールのエトキシル化物等が例示される。これらの中でも、アセチレングリコールのアルキレンオキサイド付加物は、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物およびアセチレングリコールのプロピレンオキサイド付加物が好ましく、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物がより好ましい。
【0021】
アセチレングリコール中のアルキレンオキサイド単位の付加モル数の総数(R3およびR3’の合計)は、好ましくは3〜5モルである。アルキレンオキサイドの付加モル数の総数が上記範囲内である場合、得られる充填液は、ノズル内での泡抜けが良好となる。その結果、ノズルは、内部が乾燥しにくく、インクの吐出時に、インクの吐出されないピンが生じにくい。また、充填液は、液密状態でノズル内に充填しやすいため、使用量が削減され得る。
【0022】
アセチレングリコールのアルキレンオキサイド付加物の含有量は、充填液中、0.05質量%以上であればよく、0.1質量%以上であることが好ましい。また、アセチレングリコールのアルキレンオキサイド付加物の含有量は、充填液中、0.5質量%以下であればよく、0.3質量%以下であることがより好ましい。アセチレングリコールのアルキレンオキサイド付加物の含有量が0.05質量%未満である場合、ノズル内における泡抜け、ノズルの周囲等に付着するインクに対する洗浄効果が低下するという問題がある。一方、アセチレングリコールのアルキレンオキサイド付加物の含有量が1質量%を超える場合、効果が変わらない、水に溶解しにくくなるという問題がある。
【0023】
(保湿剤)
本実施形態の充填液は、保湿剤を含む。保湿剤が含まれることにより、充填液の水分蒸発を抑制し、充填剤の変質を防止するという効果が奏される。このため、充填液は、ヘッド内に充填され長期間停止となった場合でも、効果の維持ができる。
【0024】
保湿剤としては特に限定されない。一例を挙げると、保湿剤は、ポリアルキレングリコール類、アルキレングリコール類またはグリセリン等である。ポリアルキレングリコール類としては、ポリエチレングリコール、または、ポリプロピレングリコールが例示される。アルキレングリコール類としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオジグリコール、1,3−ブタンジオール、または、1,5−ペンタンジオール等が例示される。これらの中でも、保湿剤は、水分蒸発の抑制に優れるという効果を奏する点から、グリセリン、ジエチレングリコールであることが好ましく、ジエチレングリコールであることがより好ましい。
【0025】
保湿剤の含有量は、充填液中、18質量%以上であることが好ましい。また、保湿剤の含有量は、充填液中、37質量%以下であることが好ましい。保湿剤の含有量が18質量%未満である場合、アセチレングリコールのアルキレンオキサイド付加物が水に溶解しにくくなる。一方、保湿剤の含有量が37質量%を超える場合、充填液は、粘度が上昇しやすく、インクジェットヘッドに充填しにくくなる。
【0026】
(水)
水は、上記アセチレングリコールのアルキレンオキサイド付加物および上記保湿剤を溶解するための溶媒である。
【0027】
(その他の任意成分)
本実施形態の充填液は、必要に応じて、任意成分としては、pH調整剤、有機溶剤、防腐剤、界面活性剤、消泡剤等が配合されてもよい。
【0028】
pH調整剤としては、アルコールアミン類(たとえば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2−アミノ−2−エチル−1,3−プロパンジオール等)、アルカリ金属水酸化物(たとえば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)、アンモニウム水酸化物(たとえば、水酸化アンモニウム、第4級アンモニウム水酸化物等)、ホスホニウム水酸化物、アルカリ金属炭酸塩等が例示される。
【0029】
有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、IPA、t−BuOH、1,2−ジメトキシエタン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、アセトン、アセトニトリル、DMF、トリエチルアミン、ピリジン等が例示される。
【0030】
防腐剤としては、ベンズイミダゾール系防腐剤、イソチアゾリン系防腐剤が例示される。
【0031】
界面活性剤としては、各種両性界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤等が例示される。
【0032】
消泡剤としては、シリコーン系化合物、プルロニック系化合物等が例示される。
【0033】
本実施形態の充填液のpHは、8〜13である。充填液は、pHが8未満の場合、洗浄性が低下しやすいという問題がある。一方、充填液は、pHが13を超える場合、労働衛生上の問題を発生しやすく、かつ、付着部位(たとえばヘッドの部材等)を腐食させやすいという問題がある。
【0034】
本実施形態において、充填液は、pHが8〜13に調整されることにより、ノズルの周囲等に付着するインクに対する洗浄効果がさらに優れる。この場合、充填液は、インクジェットプリントヘッドを洗浄するための洗浄液として使用され得る。また、このようなpHの充填液は、付着したインクが樹脂被覆顔料等を含んでいる場合に、特に洗浄効果が優れる。なお、樹脂被覆顔料とは、イオン性基含有樹脂によって表面が被覆処理された顔料である。
【0035】
また、本実施形態の充填液は、25℃における粘度が5cps以下であればよく、1〜3cpsであることが好ましい。なお、充填液の粘度は、上記保湿剤または別途添加される粘度調整剤によって、適宜調整され得る。なお、充填液の粘度は、E型回転粘度計によって測定し得る。
【0036】
本実施形態の充填液を調製する方法は、特に限定されない。洗浄液は、上記した各成分をすべて混合することにより一剤化されてもよい。
【0037】
以上、本実施形態の充填液によれば、ノズル内における泡抜けがよく、かつ、ノズルの周囲等に付着するインクに対する洗浄効果が優れる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。本発明は、これら実施例に何ら限定されない。なお、特に制限のない限り、「%」は「質量%」を意味し、「部」は「質量部」を意味する。
【0039】
使用した原料および調製方法を以下に示す。
ジエチレングリコール
オルフィンE1004(日信化学工業(株)製、HLB7〜9:パンフレット値)
サーフィノール440(エアープロダクツジャパン(株)製、HLB8:パンフレット値)
オルフィンE1010(日信化学工業(株)製、HLB13〜14:パンフレット値)
サーフィノール104E(エアープロダクツジャパン(株)製、HLB4:パンフレット値)
プロキセルGXL(S)(ロンザジャパン社製)
NaOH
グリセリン

水性インクジェットインク組成物A(製造方法は以下を参照)
【0040】
<水性インクジェットインク組成物Aの製造方法>
以下の原料等を使用し、水性インクジェットインク組成物Aを製造した。
(カーボンブラックA)
商品名:プリンテックス90(平均粒子径14nm、比表面積300m2/g、pH9.0)、デグサ社製
(アルカリ可溶性樹脂A)
ガラス転移温度40℃、質量平均分子量20,000、酸価100mgKOH/gのアクリル酸/n−ブチルアクリレート/ベンジルメタクリレート/スチレン共重合体
(ワックスエマルジョンA)
ノニオン乳化ポリエチレンワックス、商品名:ハイテックE−6314(固形分35%、平均粒子径100nm)、東邦化学(株)製
(界面活性剤A)
アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物、商品名:アセチレノールE100、川研ファインケミカル(株)製
(陽イオン交換樹脂)
商品名:DOWEX MONOSPHERE (H)650C、ダウケミカル社製
(高圧乳化分散装置)
ゴーリンホモジナイザー、A.P.V. GAULIN INC社製
【0041】
アルカリ可溶性樹脂A25質量部を、水酸化ナトリウム3.2質量部と水71.8質量部との混合溶液に溶解させ、水性樹脂ワニスA(アルカリ可溶性樹脂濃度25質量%)を得た。得られた水性樹脂ワニスA32質量部、水48質量部、カーボンブラックA20質量部を攪拌混合し、湿式サーキュレーションミルで練肉して水性インクジェット用ベースインクAを得た。得られた水性インクジェット用ベースインクAを水で4倍に希釈し、希釈液Aを得た。得られた希釈液A100質量部に陽イオン交換樹脂5質量部を添加し攪拌して、pHが4未満となるまでイオン交換し、樹脂被覆顔料Aを得た。その後、イオン交換樹脂をメッシュフィルターで濾過した後、水を吸引濾過し、樹脂被覆顔料Aを含有する含水ケーキを得た。得られた含水ケーキに、樹脂被覆顔料A中のアルカリ可溶性樹脂の酸価の80%を中和する量の水酸化ナトリウムを加え、顔料濃度が20%となるよう水で希釈し、高圧乳化分散装置で攪拌し、水性顔料分散液Aを得た。得られた水性顔料分散液A60質量部、ワックスエマルジョンA5質量部、グリセリン15質量部、ジエチレングリコール15質量部、界面活性剤A1質量部、水4質量部を攪拌混合して、顔料濃度12質量%、顔料/アルカリ可溶性樹脂(質量)=10/4の水性インクジェットインク組成物Aを得た。
【0042】
<実施例1〜10および比較例1〜7>
以下の表1に示される配合に従い、各原料をビーカーに仕込み、攪拌装置で攪拌混合して実施例1〜10および比較例1〜7の充填液をそれぞれ作製した。なお、本発明でpHが13を超える場合は洗浄性の面では有利になるが、ともに労働衛生上の面では好ましくないという理由から、今回は充填液を作製しなかった。得られた充填液を用いて、以下の評価方法に従って、充填液の粘度およびpH、ノズル内における泡抜け、水性インクジェットインク組成物Aの乾燥皮膜の溶解性評価と、吐出不良の改善性評価を行った。結果を表1に示す。
【0043】
(粘度)
E型回転粘度計(東機産業(株)製のRE215型)を用いて、25℃における充填液の粘度(cps)を測定した。
【0044】
(pH)
pHメータ((株)堀場製作所製のB−712)を用いて、25℃における充填液のpHを測定した。
【0045】
<ノズル内における泡抜け(ノズルチェックによる評価)>
インクジェットプリンター(PX−105 セイコーエプソン(株)製)に初期充填モードで実施例1〜10および比較例1、3、6および7のそれぞれの洗浄液を充填した後、水性インクジェットインク組成物Aを充填し、ノズルチェック印字を行った。インクの吐出不良が起こるノズルが複数確認された(ピン抜け)場合、ノズルのサッキング(吸引)によるクリーニングを繰り返してヘッド内の気泡の除去を行い、不吐出ノズルが解消するサッキング回数より、以下の評価基準により泡抜け性を評価した。
(評価基準)
◎:サッキング回数は、0回であった。
○:サッキング回数は、1回であった。
×:サッキング回数は、2回以上であった。
【0046】
<水性インクジェットインク組成物Aの乾燥皮膜の溶解性評価>
水性インクジェットインク組成物A5gを容器にとり、開放系にて50℃のオーブン中で3ヵ月間放置した。得られたインクの乾燥皮膜0.1gを実施例1〜10および比較例1、3、6および7のそれぞれの洗浄液5g中に浸漬し、乾燥皮膜の溶解性を以下の評価基準に従って評価した。
(評価基準)
◎:乾燥皮膜は、洗浄液に浸漬されてすぐに溶解を始め、全て溶解した。
○:乾燥皮膜は、洗浄液に浸漬された後、軽くかき混ぜると溶解し始め、全て溶解した。
△:乾燥皮膜は、洗浄液に浸漬された後、軽くかき混ぜると溶解し始め、一部が溶解した。
×:乾燥皮膜は、洗浄液に浸漬された後、激しくかき混ぜても溶解しなかった。
【0047】
<吐出不良の改善性評価>
インクジェットプリンター(PX−105 セイコーエプソン(株)製)に水性インクジェットインク組成物Aを充填し、A4サイズの紙に10枚連続でベタ印字を行ってインクが充填されていることを確認した。その後、水性インクジェットインク組成物Aが記録ヘッドの中に充填された状態で50℃のオーブンに3ヵ月間放置した。放置後、ノズルチェック印字を行うと、インクの吐出不良が起こるノズルが複数確認された(ピン抜け)。インクの吐出不良が起こった記録ヘッドに、初期充填モードで実施例1〜10および比較例1、3、6および7のそれぞれの洗浄液を充填し、吐出不良の改善性を以下の評価基準に従って評価した。
(評価基準)
◎:初期充填シーケンスのみで全ノズルが回復し、吐出不良が改善した。
○:初期充填シーケンス後にクリーニング操作を1〜2回行うことにより、全ノズルが回復し、吐出不良が改善した。
△:初期充填シーケンス後にクリーニング操作を3回行うことにより、全ノズルが回復し、吐出不良が改善した。
×:初期充填シーケンス後にクリーニング操作を3回行っても、ピン抜けが起こり、吐出不良が改善されなかった。
【0048】
【表1】
【0049】
表1に示されるように、実施例1〜10の充填剤は、いずれも、泡抜けが良好であり、かつ、乾燥皮膜の溶解性や、吐出不良の改善性も良好であった。一方、HLBの大きなアルキレンオキサイド付加物を使用した比較例1の充填液は、泡抜けが悪い結果となった。また、アルキレンオキサイド付加物の含有量の少なかった比較例2の充填液は、混和性が悪く、アルキレンオキサイド付加物が分離する結果となった。アルキレンオキサイド付加物の含有量の少なかった比較例3の充填液は、泡抜けが悪く、アルキレンオキサイド付加物の含有量の多かった比較例4の充填液は、混和性が悪く、アルキレンオキサイド付加物が分離する結果となった。また、保湿剤の含有量の少なかった比較例5の充填液についても、アルキレンオキサイド付加物が分離する結果となった。一方で、保湿剤の含有量の多かった比較例6の充填液は、粘度が高くなり、インクジェットヘッドに充填しにくく、また、泡抜けも悪い結果となった。また、pH調整剤を用いて、pHを7にした比較例7の充填液は、乾燥皮膜の溶解性や吐出不良の改善性が悪い結果となった。