(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6713462
(24)【登録日】2020年6月5日
(45)【発行日】2020年6月24日
(54)【発明の名称】溶融金属移送ポンプ
(51)【国際特許分類】
F04D 7/06 20060101AFI20200615BHJP
F04D 29/046 20060101ALI20200615BHJP
【FI】
F04D7/06 B
F04D7/06 H
F04D29/046 B
F04D29/046 A
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-526921(P2017-526921)
(86)(22)【出願日】2015年11月16日
(65)【公表番号】特表2017-535718(P2017-535718A)
(43)【公表日】2017年11月30日
(86)【国際出願番号】RU2015000790
(87)【国際公開番号】WO2016080866
(87)【国際公開日】20160526
【審査請求日】2018年11月2日
(31)【優先権主張番号】2014146270
(32)【優先日】2014年11月19日
(33)【優先権主張国】RU
(73)【特許権者】
【識別番号】517166158
【氏名又は名称】ジョイント・ストック・カンパニー「エーケーエムイー エンジニアリング」
(74)【代理人】
【識別番号】110001900
【氏名又は名称】特許業務法人 ナカジマ知的財産綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】シュチャッツキー セルゲイ・ユリエヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】アグリンスキー アンドレイ・ニコラエヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】パブロフ ニコライ・ニコラエヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】ブイコフ アレクサンダー・ニコラエヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】オルロフ ボリス・ヴァレンチノヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】シーモノフ ニキータ・イーゴレヴィッチ
【審査官】
松浦 久夫
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭57−181996(JP,A)
【文献】
特表2014−512480(JP,A)
【文献】
実開昭63−109024(JP,U)
【文献】
特開平05−332291(JP,A)
【文献】
特開平11−325078(JP,A)
【文献】
特表2003−514176(JP,A)
【文献】
米国特許第05685701(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 7/06
F04D 29/046
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インペラーに駆動可能に接続され、上側軸受と下側すべり軸受とに取り付けられたシャフトを内部に含み、前記シャフトと軸を同一とする円筒形の容器を備えたポンプであって、
前記下側すべり軸受は回転子と固定子とを含み、
前記回転子は2個の軸受筒として形成されて前記シャフトに実装され、
前記固定子は2個の軸受筒として形成され、前記シャフトと軸が合わされた状態で前記容器に固定され、
前記回転子と固定子との軸受筒は、互いに合わせられる滑り面を持ち、炭化ケイ素セラミックス製であり、
前記下側すべり軸受の上方において前記シャフトと容器との互いに対向する表面上に、互いに逆方向へ伸びる螺旋状の溝が複数本刻まれてラビリンス構造のスクリューポンプを形成しており、
前記回転子と固定子との軸受筒は、分かれた軸受筒が平らな環状部材により固定されたものであり、円筒形を周方向において等間隔に分割した形状の断片部材から構成され、当該断片部材は前記シャフトと容器との円筒形の溝の中に配置され、径方向においては、当該断片部材の滑り面が向く方向に錐台を有する錐台形状でかつ環状の押さえ部材により固定され、軸方向においては、軸方向に押圧力を与える環状のばねにより固定されている
ことを特徴とする溶融金属移送ポンプ。
【請求項2】
前記下側すべり軸受の回転子を構成する断片部材は、それぞれが、背面の溝と、前記シャフトの対向する溝との中に配置された帯状のばねの弾性力で押さえられていることにより、自己整合することを特徴とする請求項1に記載の溶融金属移送ポンプ。
【請求項3】
前記固定子の含む平らな環状部材には径方向の穴が開いていることを特徴とする請求項1に記載の溶融金属移送ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は原子力産業に関し、特に原子炉施設の1次系において液体金属冷却材を循環させるポンプの設計に関する。
【背景技術】
【0002】
ある先行技術により開示された溶融金属移送ポンプ(特許文献1参照。)は、容器と羽根車(インペラー)とを備えている。インペラーはシャフトに取り付けられている。シャフトは駆動源に接続され、上下の軸受を用いて容器の中に収められている。下側の軸受はすべり軸受であり、溶融金属の熱と腐食とに耐えるセラミックス構造、具体的には、自己接着性を持つ炭化ケイ素もしくは窒化ケイ素、または、酸化アルミニウムを基本成分とする酸化物セラミックスから成る。このポンプは、溶融金属に浸されて熱と腐食とを受ける状態にある端部の稼働寿命が比較的長い。しかし、技術的には、セラミックス構造である下側すべり軸受の製造が極めて難しい。
【0003】
別の先行技術により開示された溶融金属移送ポンプ(特許文献2参照。)は、円筒形状の容器と、駆動系統に接続され、かつ容器の軸に沿って垂直に配置されたシャフトと、シャフトの下部をインペラーと共に支持する静圧すべり軸受とを備えている。このすべり軸受は、円筒形状のクラッチとしてシャフトに実装された回転子と、円筒形状の軸受筒(ブッシュ)としての固定子とを含む。固定子には、軸受の滑り面に溶融金属供給用の径方向の穴がある。軸受の回転子と固定子とはステンレス鋼製であり、それらの滑り面はステライト(登録商標。コバルト−クロム−タングステン合金。)製である。このポンプの欠点は、非定常状態モードでのポンプの動作時に合わせ面が破損する危険性にある。
【0004】
更に別の先行技術により開示された溶融金属移送ポンプ(特許文献3参照。)は、ポンプ室と、駆動系統に接続されてラジアル軸受面を持つ、グラファイトを含む耐火性物質から成るシャフトと、シャフトの端部に固定されたバケットホイールとを備えている。シャフトは、上下の軸受を用いてポンプ室の中に取り付けられている。下側のすべり軸受は、断面積が矩形である炭化ケイ素製の環状部材の対として形成され、容器に囲まれている。このポンプは液状のスズとアルミニウムとの移送用である。このポンプの欠点は、炭化ケイ素製の合わせ環の製造が複雑なことにある。
【0005】
他の先行技術に開示された溶融金属移送ポンプ(特許文献4参照。)は容器を備え、その中では、インペラーを備えたシャフトが、液体金属の界面よりも上に位置する上側転がり軸受と、その界面よりも下に位置する下側すべり軸受とに取り付けられている。下側すべり軸受は、シャフトに連続して実装されている2つのブッシュ(チャンバーで分けられている。)として形成され、円筒形状の表面に曲線状の流路を含み、それらがラビリンス構造のスクリューポンプを形成している。流路が渦を巻く方向は、1つのブッシュの表面上ではシャフトの回転方向と等しく、もう1つのブッシュの表面上では逆方向である。シャフトのブッシュは、容器に連続して実装され、シャフトと軸が合わされている2つのブッシュと相互に接続されている。これらのブッシュの円筒形状の内面には曲線状の流路が取り付けられ、それらが渦を巻く方向は、シャフトのブッシュの合わせ面上で流路が渦を巻く方向とは逆である。このポンプの欠点は、表面に曲線状の流路を含むブッシュの製造が複雑なことだけでなく、上側軸受と下側すべり軸受との間で軸が合っていない場合、ブッシュの流路間で螺旋状の表面に摩耗が生じることにある。
【0006】
更に他の先行技術に開示された溶融金属移送ポンプ(特許文献5参照。)は、不可欠な特徴のほとんどにおいて、求められている解決手段に適合しており、見本として捉えられている。このポンプは容器と、シャフトに実装されたインペラーとを含む。シャフトは駆動源に接続され、上下の軸受を用いて容器の中に収められている。下側すべり軸受は固定子と回転子とを含む。固定子は、シャフトの軸に沿って間隔を開けて配置されている2つのブッシュとして形成され、シャフトと軸が合わされた状態で容器の中に取り付けられている。回転子は、シャフトに実装された2つのブッシュとして形成され、固定子のブッシュに対向するように配置されている。固定子と回転子とのブッシュは炭化ケイ素セラミックス製である。このポンプの欠点は、炭化ケイ素セラミックス製の合わせブッシュの製造が複雑なことだけでなく、ポンプの起動時と低速での動作時とにおけるブッシュの破損の危険性にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】ロシア特許第68077号明細書
【特許文献2】米国特許第4475866号明細書
【特許文献3】米国特許第5685701号明細書
【特許文献4】ロシア特許第73924号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2013068412号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、下側すべり軸受が製造の容易な設計である溶融金属移送ポンプを提供し、その破損の危険性を排除して、ポンプの動作上の信頼性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のこの目的は、次に提示される溶融金属移送ポンプの設計によって達成される。
すなわち、求められている技術的な効果は、以下に述べられる、請求項に記載された発明の特徴によって達成される。
この溶融金属移送ポンプは、インペラーに駆動可能に接続され、上側軸受と下側すべり軸受とに取り付けられたシャフトを内部に含
み、前記シャフトと軸を同一とする円筒形の容器を備えている。下側すべり軸受は回転子と固定子とを含む。回転子は2個の軸受筒として形成されてシャフトに実装され、固定子は2個の軸受筒として形成され、シャフトと軸が合わされた状態で容器に固定されている。回転子と固定子との軸受筒は、互いに合わせられる滑り面を持ち、炭化ケイ素セラミックス製である。このポンプの新規な特徴は、互いに対向する螺旋状の溝が複数本刻まれて、下側すべり軸受の上方においてシャフトと容器との互いに対向する表面上にラビリンス構造のスクリューポンプを形成していることにある。これだけでなく、回転子と固定子との軸受筒はそれぞれが、次のように分かれた軸受筒として形成されたものである。各軸受筒は、周方向において等間隔に配置された円筒の断片部材から構成されている。これらの断片部材はシャフトと容器との円筒形の溝の中に位置し、径方向においては、
当該断片部材の滑り面が向く方向に錐台を有する錐台形状でかつ環状の押さえ部材により固定され、軸方向においては、軸方向に押圧力を与える環状のばねにより固定されている。
【0010】
下側すべり軸受の回転子を構成する断片部材は、それぞれが、背面の溝と、シャフトの対向する溝との中に配置された帯状のばねの弾性力で押さえられていることにより、自己整合するものであってもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の実施で達成される技術的な効果は、特に、下側すべり軸受の破損の危険性が除去され、ポンプの動作上の信頼性が向上することである。具体的には、まず、下側すべり軸受の上方に形成されたラビリンス構造のスクリューポンプが、その軸受の回転子と固定子との対向面に流体摩擦を確実に与える。したがって、軸受筒を形成している周方向に配置された円筒の断片部材が炭化ケイ素セラミックス製であっても、それらの断片部材の破損の危険性が排除される。次に、軸受筒は、周方向に配置された円筒の断片部材から構成された、分かれた軸受筒として設計されている。これは、それらをセラミックス、たとえば炭化ケイ素セラミックスで製造することを著しく容易にする。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明による溶融金属移送ポンプの縦断面を示す模式図である。
【
図2】下側すべり軸受の組み立て部分(
図1に示されている組み立て部分I)を示す断面図である。
【
図3】
図2に示されている直線A−Aに沿った下側すべり軸受の横断面図である。
【
図4】下側すべり軸受の固定子の不等角投影図である。
【
図5】下側すべり軸受の回転子の不等角投影図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
溶融金属移送ポンプ(
図1参照。)は、原子炉施設の1次系において液体金属冷却材(たとえば、セロ(商標)合金を基本成分とする共晶合金)を確実に循環させることを目的とするものであり、容器1を含む。この中では、軸流型のインペラー5を実装したシャフト4が、上側の支持用軸受2では潤滑水の上に、下側のすべり軸受3では液体金属冷却材の中に設置されている。軸流型のインペラー5はシャフト4に固定されている。容器1の内部のうち、インペラー5の上方には吸込案内羽根(ガイドベーン)6が位置し、インペラー5の下方には吐出ガイドベーン7がある。このガイドベーン7には、ポンプから吐出される液体金属冷却材の流れを安定化させるための邪魔板(バッフル)8が備えられている。下側すべり軸受3の内側には、シャフト4と容器1との互いに対向する表面領域に刻まれた、互いに逆方向へ伸びる複数本の螺旋状の溝により、液体金属冷却材の流れが形成されている。この流れは、流路10を通してラビリンス構造のスクリューポンプ9へ向かう。容器1の中には、シャフト4に沿って上方へ向かう順に次の要素が位置する。遮熱壁11、断熱ユニット12、シャフト4用冷却器13、および磁性流体シール14。シャフトの上端は駆動源に、たとえば円筒型の軸継手(coupling torsion sleeve。図は示していない。)によって接続されている。駆動源は、たとえば耐火仕様の密閉モーターであってもよい。下側すべり軸受3は回転子15(
図2参照。)と固定子16(
図4参照。)とを含む。回転子15は、2つに分かれた軸受筒(ブッシュ)17として形成され、シャフト4に実装されている。固定子16は、2つに分かれたブッシュ18として形成され、シャフト4と軸が合わされた状態で籠状部材(ケージ)19に固定されている。回転子15の分かれたブッシュ17(
図5参照。)は、周方向において等間隔に配置された円筒の断片部材20(
図3では7個。)から構成されている。これらは、シャフト4の円筒形状の溝21(
図2参照。)の中に配置され、径方向においては、錐台形状でかつ環状の押さえ部材22により固定され、軸方向においては、軸方向に押圧力を与える環状のばね23により固定されている。回転子15のブッシュ17の間には平らな環状部材24があり、これが断片部材20を用いてブッシュ17を固定している。回転子15の断片部材20は、自己整合する部材として形成されていてもよい。この実施形態では、断片部材20はそれぞれ、背面の溝26と、シャフト4の対向する溝27との中に配置された帯状のばね25の弾性力で押さえることが可能である。このような設計により、鋼材とセラミックス材との間で熱膨張の差が相殺可能である。固定子16の分かれたブッシュ18(
図4参照。)は、周方向において等間隔に配置された円筒の断片部材28(
図3では11個。)から構成されている。これらは、ケージ19の円筒形状の溝29の中に配置され、径方向においては、錐台形状でかつ環状の押さえ部材30により固定され、軸方向においては、上側ブッシュ32から軸方向に押されている環状のばね31により固定されている。固定子16のブッシュ18の間には、径方向の貫通穴34を含む平らな環状部材33があり、これが断片部材28を固定すると共に、ポンプの起動時には断片部材28に対して潤滑作用を与える。回転子15のブッシュ17の断片部材20と、固定子16のブッシュ18の断片部材28とはそれぞれ、互いに合わせられる滑り面を持ち、炭化ケイ素製である。
【0014】
この溶融金属移送ポンプは次のように動作する。液体金属冷却材で満たされる前に、原子炉と一体鋳造のユニットが温められる。その後、そのユニットの1次系が液体金属冷却材で満たされ、さらに、それを溢れさせる。化学的に脱塩された温度15℃−40℃の水が冷却器13と上側支持軸受2とに供給され、その後、シャフト4のスイッチが入れられる。インペラー5の動作により液体金属冷却材が吸込ガイドベーン6へ流れ込み、更にインペラー5により、バッフル8を備えた吐出ガイドベーン7へ送られる。それと同時に流路10を通過している液体金属冷却材は、ラビリンス構造のスクリューポンプ9により下側すべり軸受3の端へ送り込まれる。これにより、その軸受3の回転子15と固定子16とのブッシュ17、18では断片部材20、28の対向面に流体摩擦が確実に与えられ、その軸受が破損することなく動作する。