(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6713495
(24)【登録日】2020年6月5日
(45)【発行日】2020年6月24日
(54)【発明の名称】コネクティングロッド
(51)【国際特許分類】
F16C 7/02 20060101AFI20200615BHJP
【FI】
F16C7/02
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-36710(P2018-36710)
(22)【出願日】2018年3月1日
(65)【公開番号】特開2019-152253(P2019-152253A)
(43)【公開日】2019年9月12日
【審査請求日】2019年3月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】特許業務法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鎌倉 正典
(72)【発明者】
【氏名】小鶴 哲史
【審査官】
古▲瀬▼ 裕介
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−004463(JP,A)
【文献】
特開2007−247705(JP,A)
【文献】
実開平01−085516(JP,U)
【文献】
特開2005−221071(JP,A)
【文献】
特開2003−049822(JP,A)
【文献】
特開平11−303848(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 3/00− 9/06
F16C 17/00−17/26
F16C 33/00−33/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端部にピストンピンが回転可能に嵌入されるコンロッド本体と、
前記コンロッド本体の他端部との間にクランクピンを挟んで固定されるキャップと、
を備え、
前記キャップは、コンロッドボルトがそれぞれに挿通される一対のボルト通し孔を有し、
前記コンロッド本体は、
一対の前記ボルト通し孔と同一軸線上に形成された一対のボルト雌ネジ孔と、
前記一端部と前記他端部とを接続するロッド部と、
を有し、
前記コンロッド本体と前記キャップとが互いに重ね合わされる合わせ面は、前記ロッド部の長手方向に垂直な面から傾斜されており、
一対の前記ボルト雌ネジ孔のうちの前記一端部に近い側に形成された前記ボルト雌ネジ孔は、袋孔に形成され、
前記袋孔に連通する前記ボルト通し孔は、該ボルト通し孔の前記軸線と略直交する外方側に延びて前記キャップの外壁面に開口する洗浄液排出用の連通部を有する、
コネクティングロッド。
【請求項2】
請求項1に記載のコネクティングロッドにおいて、
前記連通部は、前記ボルト通し孔の前記軸線と略直交する外方側に延びて前記キャップの外壁面に開口する貫通孔を含む、
コネクティングロッド。
【請求項3】
請求項2に記載のコネクティングロッドにおいて、
前記キャップは、前記袋孔に連通する前記ボルト通し孔に挿通される前記コンロッドボルトの頭部が着座される座面を有し、
前記貫通孔は、前記キャップの前記座面側の端部に形成され、且つ、前記座面から前記貫通孔の内周面までの距離は、前記袋孔に連通する前記ボルト通し孔の前記軸線と略直交する方向の最小厚さ以上の距離に設定されている、
コネクティングロッド。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載のコネクティングロッドにおいて、
前記貫通孔は、前記袋孔に連通する前記ボルト通し孔に複数設けられている、
コネクティングロッド。
【請求項5】
請求項1に記載のコネクティングロッドにおいて、
前記キャップは、前記袋孔に連通する前記ボルト通し孔に挿通された前記コンロッドボルトの頭部が当接される座面を有し、
前記連通部は、前記座面に形成されて前記ボルト通し孔の前記軸線と略直交する外方側に延びる溝部を含み、
前記コンロッドボルトの前記座面に当接した前記頭部と前記溝部とによって、前記キャップの外壁面に開口する連通孔が形成される、
コネクティングロッド。
【請求項6】
請求項5に記載のコネクティングロッドにおいて、
前記溝部は、前記座面に複数設けられている、
コネクティングロッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に用いられるコネクティングロッドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関に用いられるコネクティングロッドに関する技術が種々提案されている。例えば、下記特許文献1に記載されるコネクティングロッドでは、キャップの外側部分にキャップを上方向に貫通するボルト通し孔を設けると共に、コンロッド本体の大端部の外側部にボルト通し孔と同一軸線上を延びるボルト雌ネジ孔を設ける。このボルト雌ネジ孔の先端部に残る不完全ネジ部は、大端部の肩部まで届かない位置で止まり、肩部に開口しない袋孔になるように形成されている。
【0003】
また、不完全ネジ部の円筒形部分には、この円筒形部分からボルト雌ネジ孔の軸線と略直交する左外側方に延びてコンロッド本体の大端部の縦面に開口する貫通孔が設けられ、ボルト雌ネジ孔の先端部付近に残る切粉が、貫通孔を介して円滑に排出されるように構成されている。また、不完全ネジ部に洗浄液等が溜まっていても、この貫通孔から蒸発して、コンロッドボルトの水素脆性による遅れ破壊の発生を抑止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−247705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、斜め割りコネクティングロッドの場合には、コンロッド本体とキャップとの相互に重ね合わされる合わせ面は、コネクティングロッドの長手方向に垂直な面から傾斜している。その結果、コンロッド小端部に近い側のボルト雌ネジ孔の先端部は、ロッド部の大端部側の基端部近傍に位置することとなる。このため、不完全ネジ部の円筒形部分からボルト雌ネジ孔の軸線と略直交する外方側へ貫通孔を形成した場合には、この貫通孔に応力集中が発生して、コンロッド本体の大端部側の強度が不十分になるという問題がある。
【0006】
一方、不完全ネジ部の円筒形部分からボルト雌ネジ孔の軸線と略直交する外方側へ貫通孔を形成しない場合には、不完全ネジ部に溜まった洗浄液等によって、コンロッドボルトに水素脆性による遅れ破壊が発生する虞がある。更には、この貫通孔の周辺を肉盛り補強すると、コネクティングロッドの軽量化、及び、製造コストの削減化が難しいという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、このような点に鑑みて創案されたものであり、コンロッド本体の大端部側の十分な強度を確保すると共に、コンロッドボルトの耐水素脆性を向上させることができるコネクティングロッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の第1の発明は、一端部にピストンピンが回転可能に嵌入されるコンロッド本体と、前記コンロッド本体の他端部との間にクランクピンを挟んで固定されるキャップと、を備え、前記キャップは、コンロッドボルトがそれぞれに挿通される一対のボルト通し孔を有し、前記コンロッド本体は、一対の前記ボルト通し孔と同一軸線上に形成された一対のボルト雌ネジ孔を有し、一対の前記ボルト雌ネジ孔のうちの少なくとも一方は、袋孔に形成され、前記袋孔に連通する前記ボルト通し孔は、該ボルト通し孔の前記軸線と略直交する外方側に延びて前記キャップの外壁面に開口する連通部を有する、コネクティングロッドである。
【0009】
次に、本発明の第2の発明は、上記第1の発明に係るコネクティングロッドにおいて、前記連通部は、前記ボルト通し孔の前記軸線と略直交する外方側に延びて前記キャップの外壁面に開口する貫通孔を含む、コネクティングロッドである。
【0010】
次に、本発明の第3の発明は、上記第2の発明に係るコネクティングロッドにおいて、前記キャップは、前記袋孔に連通する前記ボルト通し孔に挿通される前記コンロッドボルトの頭部が着座される座面を有し、前記貫通孔は、前記座面に近い位置に形成され、且つ、前記座面から前記貫通孔の内周面までの距離は、前記袋孔に連通する前記ボルト通し孔の前記軸線と略直交する方向の最小厚さ以上の距離に設定されている、コネクティングロッドである。
【0011】
次に、本発明の第4の発明は、上記第2の発明又は第3の発明に係るコネクティングロッドにおいて、前記貫通孔は、前記袋孔に連通する前記ボルト通し孔に複数設けられている、コネクティングロッドである。
【0012】
次に、本発明の第5の発明は、上記第1の発明に係るコネクティングロッドにおいて、前記キャップは、前記袋孔に連通する前記ボルト通し孔に挿通された前記コンロッドボルトの頭部が当接される座面を有し、前記連通部は、前記座面に形成されて前記ボルト通し孔の前記軸線と略直交する外方側に延びる溝部を含み、前記コンロッドボルトの前記座面に当接した頭部と前記溝部とによって、前記キャップの外壁面に開口する連通孔が形成される、コネクティングロッドである。
【0013】
次に、本発明の第6の発明は、上記第5の発明に係るコネクティングロッドにおいて、前記溝部は、前記座面に複数設けられている、コネクティングロッドである。
【0014】
次に、本発明の第7の発明は、上記第1の発明乃至第6の発明のいずれかの発明に係るコネクティングロッドにおいて、前記コンロッド本体は、前記一端部と前記他端部とを接続するロッド部を有し、前記コンロッド本体と前記キャップとが互いに重ね合わされる合わせ面は、前記ロッド部の長手方向に垂直な面から傾斜されており、一対の前記ボルト雌ネジ孔のうちの前記一端部に近い側に形成された前記ボルト雌ネジ孔は、前記袋孔に形成されている、コネクティングロッドである。
【発明の効果】
【0015】
第1の発明によれば、一対のボルト雌ネジ孔のうちの少なくとも一方は、袋孔に形成されている。また、キャップに設けられた一対のボルト通し孔のうち、この袋孔に連通するボルト通し孔は、該ボルト通し孔の軸線と略直交する外方側に延びてキャップの外壁面に開口する連通部を有している。
【0016】
これにより、キャップが、一対のコンロッドボルトによって、クランクピンを挟んでコンロッド本体に固定された場合には、袋孔に残った洗浄液等は、この袋孔に連通するボルト通し孔及び連通部を介して、キャップの外壁面から外部に気体となって排出される。従って、コンロッドボルトの水素脆性による遅れ破壊を抑止し、耐水素脆性を向上させることができる。また、コンロッド本体の他端部側、つまり、大端部側に貫通孔が形成されないため、コンロッド本体の他端部側の十分な強度を確保することができる。
【0017】
第2の発明によれば、キャップが、一対のコンロッドボルトによって、クランクピンを挟んでコンロッド本体に固定された場合には、袋孔に残った洗浄液等は、この袋孔に連通するボルト通し孔及び貫通孔を介して、キャップの外壁面から外部に気体となって排出される。従って、コンロッドボルトの水素脆性による遅れ破壊を抑止し、耐水素脆性を容易に向上させることができる。
【0018】
第3の発明によれば、貫通孔は、コンロッドボルトの頭部が着座される座面に近い位置に形成されるため、貫通孔のボルト通し孔の内周面側端縁部に形成されたバリ等を容易に削除することができる。また、座面から貫通孔の内周面までの距離は、袋孔に連通するボルト通し孔の軸線と略直交する方向の最小厚さ以上の距離に設定されているため、キャップの十分な強度を確保することができる。
【0019】
第4の発明によれば、貫通孔は、袋孔に連通するボルト通し孔に複数設けられているため、袋孔に残った洗浄液等は、この袋孔に連通するボルト通し孔及び複数の貫通孔を介して、キャップの外壁面から外部に気体となって迅速に排出される。従って、コンロッドボルトの水素脆性による遅れ破壊を確実に抑止し、耐水素脆性を更に向上させることができる。
【0020】
第5の発明によれば、キャップが、一対のコンロッドボルトによって、クランクピンを挟んでコンロッド本体に固定された場合には、コンロッドボルトの座面に当接した頭部と、座面に形成されてボルト通し孔の軸線と略直交する外方側に延びる溝部とによって、キャップの外壁面に開口する連通孔が形成される。これにより、袋孔に残った洗浄液等は、この袋孔に連通するボルト通し孔及び連通孔を介して、キャップの外壁面から外部に気体となって排出される。従って、コンロッドボルトの水素脆性による遅れ破壊を抑止し、耐水素脆性を容易に向上させることができる。
【0021】
第6の発明によれば、溝部は、座面に複数設けられているため、キャップが、一対のコンロッドボルトによって、クランクピンを挟んでコンロッド本体に固定された場合には、コンロッドボルトの座面に当接した頭部と、座面に形成された複数の溝部とによって、キャップの外壁面に開口する複数の連通孔が形成される。これにより、袋孔に残った洗浄液等は、この袋孔に連通するボルト通し孔及び複数の連通孔を介して、キャップの外壁面から外部に気体となって迅速に排出される。従って、コンロッドボルトの水素脆性による遅れ破壊を確実に抑止し、耐水素脆性を更に向上させることができる。
【0022】
第7の発明によれば、コンロッド本体とキャップとが互いに重ね合わされる合わせ面は、コンロッド本体の一端部と他端部とを接続するロッド部の長手方向に垂直な面から傾斜されている、所謂斜め割りタイプのコネクティングロッドである。そして、コンロッド本体の一対のボルト雌ネジ孔のうちの一端部に近い側に形成されたボルト雌ネジ孔は、袋孔に形成されている。
【0023】
これにより、キャップが、一対のコンロッドボルトによって、クランクピンを挟んでコンロッド本体に固定した場合には、袋孔に残った洗浄液等は、この袋孔に連通するコンロッド本体の一端部側に近いボルト通し孔及び連通部を介して、キャップの外壁面から外部に気体となって排出される。従って、コンロッドボルトの水素脆性による遅れ破壊を抑止し、耐水素脆性を向上させることができる。また、コンロッド本体の他端部側、つまり、ロッド部の他端部側の基端部近傍に貫通孔が形成されないため、コンロッド本体の他端部側、つまり、大端部側の十分な強度を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】第1実施形態に係るコネクティングロッドの断面図である。
【
図2】
図1のキャップの小端部に近い側のボルト通し孔の座面を示す平面図である。
【
図3】
図2のキャップの他の実施例の座面を示す平面図である。
【
図4】
図2のキャップの他の実施例の座面を示す平面図である。
【
図5】第2実施形態に係るコネクティングロッドの断面図である。
【
図6】
図5のキャップの小端部に近い側のボルト通し孔の座面を示す斜視図である。
【
図7】
図6キャップの他の実施例の座面を示す斜視図である。
【
図8】
図6キャップの他の実施例の座面を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係るコネクティングロッドを具体化した第1実施形態及び第2実施形態に基づき図面を参照しつつ詳細に説明する。先ず、本発明に係るコネクティングロッドを具体化した第1実施形態について
図1乃至
図4に基づいて説明する。
【0026】
[第1実施形態]
図1に示すように、第1実施形態に係るコネクティングロッド1は、細長状のコンロッド本体11と、コンロッド本体11の大端部(他端部)12に、固定されるキャップ13と、を備える。このコンロッド本体11の大端部12には、半円弧状の凹部15が形成されると共に、キャップ13にも半円弧状の凹部16が形成されている。そして、キャップ13がコンロッド本体11の大端部12に取り付けられることで、大端部12の凹部15の周方向の両端部とキャップ13の凹部16の周方向の両端部とが互いに当接されて、不図示のクランクシャフトのクランクピン17を回転可能に支持するための連結部18が構成される。この連結部18の内周面には、半割式の軸受メタル19が装着される。
【0027】
また、コンロッド本体11の大端部12に対して長手方向反対側には、不図示のピストンに連結されるピストンピン21が回転可能に嵌入される小端部(一端部)22が形成されている。コンロッド本体11は、小端部22と大端部12とを接続するロッド部23を有している。
【0028】
コンロッド本体11とキャップ13とが互いに重ね合わせられる合わせ面P1は、ロッド部23の長手方向に垂直な仮想面V1を想定したときに、当該仮想面V1から角度α(度)だけ傾斜されている。この傾斜角α(度)は、例えば、約30度〜50度の角度に設定されている。これにより、所謂斜め割りタイプのコネクティングロッド1が構成され、エンジン組み立て時にコンロッド本体11のシリンダヘッドへの挿入を良好に行うことができる。
【0029】
キャップ13は、大端部12の小端部22に近い側の上側肩部25に対向する連結部18の径方向外側部分には、上側コンロッドボルト27が挿通される上側ボルト通し孔31が形成されている。また、キャップ13は、大端部12の小端部から遠い側の下側肩部26に対向する連結部18の径方向外側部分には、下側コンロッドボルト28が挿通される下側ボルト通し孔32が形成されている。
【0030】
また、大端部12の小端部22に近い側の上側肩部25には、上側ボルト通し孔31の軸線M1と同一軸線上に、上側コンロッドボルト27が螺合可能で、上側肩部25に開口しない袋孔(ボルト雌ネジ孔)35が形成されている。大端部12の小端部から遠い側の下側肩部26には、下側ボルト通し孔32の軸線M2と同一軸線上に、下側コンロッドボルト28が螺合可能なボルト雌ネジ孔36が、下側肩部26に貫通して形成されている。
【0031】
この構成で、コンロッド本体11とキャップ13とを合わせ面P1で当接させた状態で、上側コンロッドボルト27と下側コンロッドボルト28を合わせ面P1に垂直な方向にキャップ13側から上側ボルト通し孔31と下側ボルト通し孔32へ差し込み、袋孔35とボルト雌ネジ孔36にそれぞれ捩じ込む。これにより、キャップ13をコンロッド本体11に固定することができる。尚、上側コンロッドボルト27と下側コンロッドボルト28とは、同じ長さで同じネジ径に形成されており、同一の部品が使用されている。
【0032】
下側コンロッドボルト28の先端部は、ボルト雌ネジ孔36から僅かに突出するように、下側肩部26のボルト雌ネジ孔36に対向する部分を側面視三角形状に切り欠くことによりコンロッド本体11側の軽量化を図ることができる。
【0033】
キャップ13には、
図1及び
図2に示すように、上側コンロッドボルト27と下側コンロッドボルト28のそれぞれの頭部27Aと頭部28Aとが当接される各座面37、38が形成されている。2つの各座面37、38は、キャップ13の両肩部に配置され、いずれも合わせ面P1に平行な平坦面に形成されている。
【0034】
また、キャップ13には、袋孔35に連通する上側ボルト通し孔31の軸線M1と略直交する外方側(
図1中、斜め左上方向)へ、且つ、連結部18の径方向外方側へ延びて、キャップ13の外壁面13Aに開口する貫通孔(連通部)41が形成されている。この貫通孔41は、断面円形状の小径(例えば、直径2mm〜3mm)に形成されている。貫通孔41は、ドリル等の加工工具によって形成されている。尚、貫通孔41は、断面円形状に限らず、断面矩形状、断面三角形状、断面六角形状等、任意の断面形状に形成してもよい。
【0035】
また、座面37から貫通孔41の内周面までの距離L1は、袋孔35に連通する上側ボルト通し孔31の軸線M1と略直交する方向の最小厚さ、例えば、
図2に示すように、貫通孔41が形成される部分の厚さ(例えば、厚さ約3mm〜5mm)以上、つまり、貫通孔41の長さ以上の距離に設定されている。但し、貫通孔41は、座面37に近い位置に形成されるのが好ましい。
【0036】
以上詳細に説明した通り、第1実施形態に係るコネクティングロッド1は、コンロッド本体11とキャップ13とが互いに重ね合わされる合わせ面P1が、ロッド部23の長手方向に垂直な仮想面V1から角度α(度)だけ傾斜されている、所謂斜め割りタイプのコネクティングロッドである。このため、大端部12の小端部22に近い側の上側肩部25には、上側ボルト通し孔31の軸線M1と同一軸線上に、上側コンロッドボルト27が螺合可能な袋孔(ボルト雌ネジ孔)35が形成されている。また、上側ボルト通し孔31には、キャップ13の外壁面13Aに貫通する貫通孔41が、座面37に近い位置に形成されている。
【0037】
これにより、キャップ13が、上側コンロッドボルト27と下側コンロッドボルト28とによって、クランクピン17を挟んだ状態でコンロッド本体11に固定された場合には、袋孔35に残った洗浄液等は、この袋孔35に連通する上側ボルト通し孔31及び貫通孔41を介して、キャップ13の外壁面13Aから外部に気体となって排出される。従って、上側コンロッドボルト27の水素脆性による遅れ破壊を抑止し、耐水素脆性を向上させることができる。また、ロッド部23の大端部(他端部)12側の基端部に、つまり、上側肩部25に貫通孔が形成されないため、コンロッド本体11の大端部12側の十分な強度を確保することができる。
【0038】
貫通孔41は、上側コンロッドボルト27の頭部27Aが当接される座面37に近い位置に形成されるため、貫通孔41の上側ボルト通し孔31の内周面側端縁部に形成されたバリ等を容易に削除することができる。また、座面37から貫通孔41の内周面までの距離L1は、袋孔35に連通する上側ボルト通し孔31の軸線M1と略直交する方向の最小厚さ以上の距離に設定されているため、キャップ13の十分な強度を確保することができる。
【0039】
尚、
図3及び
図4に示すように、貫通孔41に替えて、貫通孔41A、又は、貫通孔41Bを袋孔35に連通する上側ボルト通し孔31の軸線M1と略直交する外方側へ、且つ、連結部18の軸方向外方側へ延びて、キャップ13の外壁面13Aに開口するようにしてもよい。また、この場合にも、座面37から貫通孔41A、又は、貫通孔41Bの内周面までの距離L1は、袋孔35に連通する上側ボルト通し孔31の軸線M1と略直交する方向の最小厚さ以上の距離に設定されることが好ましい。但し、各貫通孔41A、41Bは、座面37に近い位置に形成されるのが好ましい。これにより、第1実施形態に係るコネクティングロッド1が奏する効果と同様の効果を奏することができる。
【0040】
また、例えば、前記第1実施形態では、貫通孔41は、座面37に近い位置に1個だけ形成したが、上側ボルト通し孔31の軸線方向に沿って、複数の貫通孔41を形成してもよい。各貫通孔41間の間隔は、上側ボルト通し孔31の軸線M1と略直交する方向の最小厚さ以上の距離に設定されることが好ましい。但し、各貫通孔41は、座面37に近い位置に形成されるのが好ましい。これにより、袋孔35に残った洗浄液等は、この袋孔35に連通する上側ボルト通し孔31及び複数の貫通孔41を介して、キャップ13の外壁面13Aから外部に気体となって確実に排出される。従って、上側コンロッドボルト27の水素脆性による遅れ破壊を抑止し、耐水素脆性を更に向上させることができる。
【0041】
また、例えば、前記第1実施形態では、貫通孔41は、座面37に近い位置に1個だけ形成したが、上側ボルト通し孔31の周方向に沿って、複数の貫通孔41を形成してもよい。これにより、袋孔35に残った洗浄液等は、この袋孔35に連通する上側ボルト通し孔31及び複数の貫通孔41を介して、キャップ13の外壁面13Aから外部に気体となって確実に排出される。従って、上側コンロッドボルト27の水素脆性による遅れ破壊を抑止し、耐水素脆性を更に向上させることができる。
【0042】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態に係るコネクティングロッド51の構成について
図5及び
図6に基づいて説明する。尚、
図1及び
図2に示す上記第1実施形態に係るコネクティングロッド1の構成と同一符号は、上記第1実施形態に係るコネクティングロッド1の構成と同一あるいは相当部分を示すものである。
【0043】
図5及び
図6に示すように、第2実施形態に係るコネクティングロッド51の構成は、第1実施形態に係るコネクティングロッド1とほぼ同じ構成である。但し、第2実施形態に係るコネクティングロッド51は、貫通孔41に替えて、座面37に溝部55を備えている点で異なっている。その他の点は、第1実施形態に係るコネクティングロッド1と同一であり、同一の部分についての再度の説明は省略する。
【0044】
図5及び
図6に示すように、キャップ13は、上側コンロッドボルト27の頭部27Aが当接する座面37に、座面37に対して略垂直に所定深さ(例えば、深さ約3mm〜5mm)窪む断面略コの字状の溝部55が、上側ボルト通し孔31の内周面からキャップ13の外壁面13Aまでの全幅に渡って形成されている。この溝部55は、袋孔35に連通する上側ボルト通し孔31の軸線M1と略直交する外方側(
図5中、斜め左上方向)へ、且つ、連結部18の径方向外方側へ延びるように形成されている。尚、溝部55の断面は、略コの字状に限らず、略U字状、略V字状、略半円弧状等であってもよい。
【0045】
そして、キャップ13が、上側コンロッドボルト27と下側コンロッドボルト28とによって、クランクピン17を挟んでコンロッド本体11に固定された場合には、上側ボルト通し孔31の座面37に当接した上側コンロッドボルト27の頭部27Aと、溝部55と、によって、上側ボルト通し孔31の下端部の内周面からキャップ13の外壁面13Aまで貫通する断面矩形状の連通孔(連通部)57が形成される。
【0046】
これにより、キャップ13が、上側コンロッドボルト27と下側コンロッドボルト28とによって、クランクピン17を挟んでコンロッド本体11に固定された場合には、袋孔35に残った洗浄液等は、この袋孔35に連通する上側ボルト通し孔31及び連通孔57を介して、キャップ13の外壁面13Aから外部に気体となって排出される。従って、上側コンロッドボルト27の水素脆性による遅れ破壊を抑止し、耐水素脆性を向上させることができる。
【0047】
また、ロッド部23の大端部(他端部)12側の基端部に、つまり、上側肩部25に貫通孔等が形成されないため、コンロッド本体11の大端部12側の十分な強度を確保することができる。また、溝部55は、上側ボルト通し孔31の座面37に形成されるため、キャップ13の十分な強度を確保することができる。
【0048】
尚、
図7及び
図8に示すように、溝部55に替えて、溝部55A、又は、溝部55Bを座面37の上側ボルト通し孔31の軸線M1と略直交する外方側へ、且つ、連結部18の軸方向外方側へ延びるように形成してもよい。そして、キャップ13が、上側コンロッドボルト27と下側コンロッドボルト28とによって、クランクピン17を挟んでコンロッド本体11に固定された場合には、上側ボルト通し孔31の座面37に当接した上側コンロッドボルト27の頭部27Aと、溝部55A、又は、溝部55Bと、によって、上側ボルト通し孔31の下端部の内周面からキャップ13の外壁面13Aまで貫通する断面矩形状の連通孔(連通部)が形成される。これにより、第2実施形態に係るコネクティングロッド51が奏する効果と同様の効果を奏することができる。
【0049】
また、例えば、座面37に、
図6に示す溝部55と、
図7に示す溝部55Aと、を形成するようにしてもよい。また、例えば、
図6に示す溝部55と、
図8に示す溝部55Bと、を形成するようにしてもよい。また、例えば、
図7に示す溝部55Aと、
図8に示す溝部55Bと、を形成するようにしてもよい。また、例えば、座面37に、
図6に示す溝部55と、
図7に示す溝部55Aと、
図8に示す溝部55Bと、を形成するようにしてもよい。
【0050】
これにより、キャップ13が、上側コンロッドボルト27と下側コンロッドボルト28とによって、クランクピン17を挟んでコンロッド本体11に固定された場合には、上側コンロッドボルト27の頭部27Aと、複数の溝部55、溝部55A、溝部55Bと、によって、キャップ13の外壁面13Aに開口する複数の連通孔(連通部)が形成される。従って、袋孔35に残った洗浄液等は、この袋孔35に連通する上側ボルト通し孔31及び複数の連通孔を介して、キャップ13の外壁面13Aから外部に気体となって確実に排出される。従って、上側コンロッドボルト27の水素脆性による遅れ破壊を抑止し、耐水素脆性を更に向上させることができる。
【0051】
本発明のコネクティングロッドは、前記第1実施形態及び第2実施形態で説明した構成、構造、外観、形状、処理手順等に限定されることはなく、本発明の要旨を変更しない範囲内で種々の変更、改良、追加、削除が可能である。
【符号の説明】
【0052】
1、51 コネクティングロッド
11 コンロッド本体
12 大端部
13 キャップ
13A 外壁面
17 クランクピン
21 ピストンピン
22 小端部
23 ロッド部
27 上側コンロッドボルト
27A、28A 頭部
28 下側コンロッドボルト
31 上側ボルト通し孔
32 下側ボルト通し孔
35 袋孔
36 ボルト雌ネジ孔
37、38 座面
41、41A、41B 貫通孔
55、55A、55B 溝部
57 連通孔
P1 合わせ面
V1 仮想面