【文献】
ZHANG,Chao-ying, et al.,A bilayered scaffold based on RGD recombinant spider silk proteins for small
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
クモ糸フィブロインからなる繊維を含む織布と、前記織布の引張伸度と等しいか又は前記織布の引張伸度より大きい引張伸度を有する熱可塑性合成樹脂フィルム/シートとが積層され密着した構造を有する複合材であって、
前記織布および前記熱可塑性合成樹脂フィルム/シートの積層体の表面側および裏面側が前記熱可塑性合成樹脂フィルム/シートで構成されており、
前記熱可塑性合成樹脂フィルム/シートが溶融し前記織布に含浸することで、前記織布と前記熱可塑性合成樹脂フィルム/シートとが密着している、複合材。
クモ糸フィブロインからなる繊維を含む織布と、前記織布の引張伸度と等しいか又は前記織布の引張伸度より大きい引張伸度を有する熱可塑性合成樹脂フィルム/シートとを、前記織布および前記熱可塑性合成樹脂フィルム/シートの積層体の表面側および裏面側が前記熱可塑性合成樹脂フィルム/シートで構成されるように積層し、その積層体を加熱加圧することで前記熱可塑性合成樹脂フィルム/シートを溶融して前記織布に含浸させ、これらの溶融および含浸によって、前記織布と前記熱可塑性合成樹脂フィルム/シートとを密着させる、複合材の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0014】
(複合材)
まず、
図1を参照して、本実施形態の複合材について説明する。
図1に示されるように、複合材100は、例えば、合成樹脂フィルム50と、クモ糸フィブロインからなる繊維を含む生地である布60と、が交互に積層され、密着してなる構造を有する。合成樹脂フィルム50および布60は、加熱加圧されることで、互いに密着している。例えば、合成樹脂フィルム50および布60の積層体を加熱することで合成樹脂フィルム50が溶融し、その積層体を加圧することで、溶融した合成樹脂フィルム50の一部が布60に含浸する。例えばこの溶融と含浸によって、合成樹脂フィルム50と布60とが密着した状態が得られる。複合材100の表面側および裏面側は合成樹脂フィルム50であってもよいが、これに限られず、複合材100の表面側および裏面側に布60が露出してもよい。また、合成樹脂フィルム50および布60が必ずしも交互に積層されている必要はなく、いずれかの層が連続して積層されていてもよい。
【0015】
合成樹脂フィルム50は、合成樹脂シートであってもよい。合成樹脂フィルムおよび合成樹脂シートでは、厚みが異なる。合成樹脂フィルムは、たとえば所定の厚み(たとえば0.2〜0.25mm)よりも薄い板状であり、合成樹脂シートは、たとえば所定の厚み(たとえば0.2〜0.25mm)よりも厚い薄板状である。合成樹脂フィルム/シートは、熱可塑性ポリウレタン(Termoplastic Polyurethane;TPU)フィルム/シートであることが好ましい。布は、織布であることが好ましい。
【0016】
合成樹脂フィルム50の引張伸度は、布60の引張伸度と等しいか、又は布60の引張伸度よりも大きい引張伸度を有する。引張伸度とは、フィルムまたはシートの一端が固定され、そのフィルムまたはシートの他端が引っ張られて切断した時の伸び率(%)である。フィルムまたはシートが切断した時の荷重は、引張強度と呼ばれる。引張伸度は、この引張強度に相当する荷重がフィルムまたはシートに作用した時のフィルムまたはシートの伸び率(%)である。
【0017】
合成樹脂フィルム50および布60のそれぞれの厚みは、適宜に設定され得る。合成樹脂フィルム50の厚みと布60の厚みとが等しくてもよいし、合成樹脂フィルム50が布60より厚くてもよい。合成樹脂フィルム50と布60との積層体からなる複合材100は、例えば衝撃吸収部材(構造部材)として適当な形状に成形されて、例えば車両等の移動体に適用される。複合材100は、公知の成形方法によって成形され得る。成形された状態において、合成樹脂フィルム50と布60とが積層された断面が露出してもよい。なお、複合材100の用途は、車両等の移動体に限定されない。
【0018】
(クモ糸フィブロイン繊維)
クモ糸フィブロインは、天然クモ糸タンパク質、及び天然クモ糸タンパク質に由来するポリペプチド(人工クモ糸タンパク質)からなる群より選ばれるクモ糸ポリペプチドを含有していてもよい。
【0019】
天然クモ糸タンパク質としては、例えば、大吐糸管しおり糸タンパク質、横糸タンパク質、及び小瓶状腺タンパク質が挙げられる。大吐糸管しおり糸は、結晶領域と非晶領域(無定形領域とも言う。)からなる繰り返し領域を持つため、高い応力と伸縮性を併せ持つ。クモ糸の横糸は、結晶領域を持たず、非晶領域からなる繰り返し領域を持つという特徴を有する。横糸は、大吐糸管しおり糸に比べると応力は劣るが、高い伸縮性を持つ。
【0020】
大吐糸管しおり糸タンパク質は、クモの大瓶状腺で産生され、強靭性に優れるという特徴を有する。大吐糸管しおり糸タンパク質としては、例えば、アメリカジョロウグモ(Nephila clavipes)に由来する大瓶状腺スピドロインMaSp1及びMaSp2、並びに二ワオニグモ(Araneus diadematus)に由来するADF3及びADF4が挙げられる。ADF3は、ニワオニグモの2つの主要なしおり糸タンパク質の一つである。天然クモ糸タンパク質に由来するポリペプチドは、これらのしおり糸タンパク質に由来するポリペプチドであってもよい。ADF3に由来するポリペプチドは、比較的合成し易く、また、強伸度及びタフネスの点で優れた特性を有する。
【0021】
横糸タンパク質は、クモの鞭毛状腺(flagelliform gland)で産生される。横糸タンパク質としては、例えばアメリカジョロウグモ(Nephila clavipes)に由来する鞭毛状絹タンパク質(flagelliform silk protein)が挙げられる。
【0022】
天然クモ糸タンパク質に由来するポリペプチドは、組換えクモ糸タンパク質であってよい。組換えクモ糸タンパク質としては、天然型クモ糸タンパク質の変異体、類似体又は誘導体等が挙げられる。このようなポリペプチドの好適な一例は、大吐糸管しおり糸タンパク質の組換えクモ糸タンパク質(「大吐糸管しおり糸タンパク質に由来するポリペプチド」ともいう。)である。
【0023】
フィブロイン様タンパク質である大吐糸管しおり糸由来のタンパク質としては、例えば、式1:[(A)nモチーフ−REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質が挙げられる。ここで、式1中、(A)nモチーフは、アラニン残基を主とするアミノ酸配列を示し、nは2〜20、好ましくは4〜20、より好ましくは8〜20、更に好ましくは10〜20、更により好ましくは4〜16、更によりまた好ましくは8〜16、特に好ましくは10〜16の整数であってよい。また(A)nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数の割合は40%以上であればよく、60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、80%以上であることが更に好ましく、90%以上であることが更により好ましく、100%(アラニン残基のみで構成されることを意味する。)であってもよい。REPは2〜200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。mは2〜300の整数を示す。複数存在する(A)nモチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。大吐糸管しおり糸由来のタンパク質の具体例としては、配列番号1及び配列番号2で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質を挙げることができる。
【0024】
横糸タンパク質に由来するタンパク質としては、例えば、式2:[REP2]oで表されるドメイン配列を含むタンパク質(ここで、式2中、REP2はGly−Pro−Gly−Gly−Xから構成されるアミノ酸配列を示し、Xはアラニン(Ala)、セリン(Ser)、チロシン(Tyr)及びバリン(Val)からなる群から選ばれる一つのアミノ酸を示す。oは8〜300の整数を示す。)を挙げることができる。具体的には配列番号3で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質を挙げることができる。配列番号3で示されるアミノ酸配列は、NCBIデータベースから入手したアメリカジョロウグモの鞭毛状絹タンパク質の部分的な配列(NCBIアクセッション番号:AAF36090、GI:7106224)のリピート部分及びモチーフに該当するN末端から1220残基目から1659残基目までのアミノ酸配列(PR1配列と記す。)と、NCBIデータベースから入手したアメリカジョロウグモの鞭毛状絹タンパク質の部分配列(NCBIアクセッション番号:AAC38847、GI:2833649)のC末端から816残基目から907残基目までのC末端アミノ酸配列を結合し、結合した配列のN末端に配列番号4で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)が付加されたものである。
【0025】
クモ糸フィブロインからなる繊維、すなわちクモ糸フィブロイン繊維に主成分として含まれるタンパク質は、例えば、当該タンパク質をコードする核酸配列と、当該核酸配列に作動可能に連結された1又は複数の調節配列とを有する発現ベクターで形質転換された宿主により、当該核酸を発現させることにより生産することができる。
【0026】
クモ糸フィブロイン繊維に主成分として含まれるタンパク質をコードする核酸の製造方法は、特に制限されない。例えば、天然の構造タンパク質をコードする遺伝子を利用して、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などで増幅しクローニングする方法、又は、化学的に合成する方法によって、当該核酸を製造することができる。核酸の化学的な合成方法も特に制限されず、例えば、NCBIのウェブデータベースなどより入手した構造タンパク質のアミノ酸配列情報をもとに、AKTA oligopilot plus 10/100(GEヘルスケア・ジャパン株式会社)などで自動合成したオリゴヌクレオチドをPCRなどで連結する方法によって遺伝子を化学的に合成することができる。この際に、タンパク質の精製及び/又は確認を容易にするため、上記のアミノ酸配列のN末端に開始コドン及びHis10タグからなるアミノ酸配列を付加したアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする核酸を合成してもよい。
【0027】
調節配列は、宿主における組換えタンパク質の発現を制御する配列(例えば、プロモーター、エンハンサー、リボソーム結合配列、転写終結配列等)であり、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。プロモーターとして、宿主細胞中で機能し、目的とするタンパク質を発現誘導可能な誘導性プロモーターを用いてもよい。誘導性プロモーターは、誘導物質(発現誘導剤)の存在、リプレッサー分子の非存在、又は温度、浸透圧若しくはpH値の上昇若しくは低下等の物理的要因により、転写を制御できるプロモーターである。
【0028】
発現ベクターの種類は、プラスミドベクター、ウイルスベクター、コスミドベクター、フォスミドベクター、人工染色体ベクター等、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。発現ベクターとしては、宿主細胞において自立複製が可能、又は宿主の染色体中への組込みが可能で、目的とするタンパク質をコードする核酸を転写できる位置にプロモーターを含有しているものが好適に用いられる。
【0029】
宿主として、原核生物、並びに酵母、糸状真菌、昆虫細胞、動物細胞及び植物細胞等の真核生物のいずれも好適に用いることができる。
【0030】
原核生物の宿主の好ましい例として、エシェリヒア属、ブレビバチルス属、セラチア属、バチルス属、ミクロバクテリウム属、ブレビバクテリウム属、コリネバクテリウム属及びシュードモナス属等に属する細菌を挙げることができる。エシェリヒア属に属する微生物として、例えば、エシェリヒア・コリ等を挙げることができる。ブレビバチルス属に属する微生物として、例えば、ブレビバチルス・アグリ等を挙げることができる。セラチア属に属する微生物として、例えば、セラチア・リクエファシエンス等を挙げることができる。バチルス属に属する微生物として、例えば、バチルス・サチラス等を挙げることができる。ミクロバクテリウム属に属する微生物として、例えば、ミクロバクテリウム・アンモニアフィラム等を挙げることができる。ブレビバクテリウム属に属する微生物として、例えば、ブレビバクテリウム・ディバリカタム等を挙げることができる。コリネバクテリウム属に属する微生物として、例えば、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス等を挙げることができる。シュードモナス(Pseudomonas)属に属する微生物として、例えば、シュードモナス・プチダ等を挙げることができる。
【0031】
原核生物を宿主とする場合、目的タンパク質をコードする核酸を導入するベクターとしては、例えば、pBTrp2(ベーリンガーマンハイム社製)、pGEX(Pharmacia社製)、pUC18、pBluescriptII、pSupex、pET22b、pCold、pUB110、pNCO2(特開2002−238569号公報)等を挙げることができる。
【0032】
真核生物の宿主としては、例えば、酵母及び糸状真菌(カビ等)を挙げることができる。酵母としては、例えば、サッカロマイセス属、ピキア属、シゾサッカロマイセス属等に属する酵母を挙げることができる。糸状真菌としては、例えば、アスペルギルス属、ペニシリウム属、トリコデルマ(Trichoderma)属等に属する糸状真菌を挙げることができる。
【0033】
真核生物を宿主とする場合、目的タンパク質をコードする核酸を導入するベクターとしては、例えば、YEP13(ATCC37115)、YEp24(ATCC37051)等を挙げることができる。上記宿主細胞への発現ベクターの導入方法としては、上記宿主細胞へDNAを導入する方法であればいずれも用いることができる。例えば、カルシウムイオンを用いる方法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA,69,2110(1972)〕、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、プロトプラスト法、酢酸リチウム法、コンピテント法等を挙げることができる。
【0034】
発現ベクターで形質転換された宿主による核酸の発現方法としては、直接発現のほか、モレキュラー・クローニング第2版に記載されている方法等に準じて、分泌生産、融合タンパク質発現等を行うことができる。
【0035】
タンパク質は、例えば、発現ベクターで形質転換された宿主を培養培地中で培養し、培養培地中に当該タンパク質を生成蓄積させ、該培養培地から採取することにより製造することができる。宿主を培養培地中で培養する方法は、宿主の培養に通常用いられる方法に従って行うことができる。
【0036】
宿主が、大腸菌等の原核生物又は酵母等の真核生物である場合、培養培地として、宿主が資化し得る炭素源、窒素源及び無機塩類等を含有し、宿主の培養を効率的に行える培地であれば天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。
【0037】
炭素源としては、上記形質転換微生物が資化し得るものであればよく、例えば、グルコース、フラクトース、スクロース、及びこれらを含有する糖蜜、デンプン及びデンプン加水分解物等の炭水化物、酢酸及びプロピオン酸等の有機酸、並びにエタノール及びプロパノール等のアルコール類を用いることができる。窒素源としては、例えば、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム及びリン酸アンモニウム等の無機酸又は有機酸のアンモニウム塩、その他の含窒素化合物、並びにペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスチープリカー、カゼイン加水分解物、大豆粕及び大豆粕加水分解物、各種発酵菌体及びその消化物を用いることができる。無機塩類としては、例えば、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅及び炭酸カルシウムを用いることができる。
【0038】
大腸菌等の原核生物又は酵母等の真核生物の培養は、例えば、振盪培養又は深部通気攪拌培養等の好気的条件下で行うことができる。培養温度は、例えば、15〜40℃である。培養時間は、通常16時間〜7日間である。培養中の培養培地のpHは3.0〜9.0に保持することが好ましい。培養培地のpHの調整は、無機酸、有機酸、アルカリ溶液、尿素、炭酸カルシウム及びアンモニア等を用いて行うことができる。
【0039】
また、培養中、必要に応じて、アンピシリン及びテトラサイクリン等の抗生物質を培養培地に添加してもよい。プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときには、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド等を、trpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはインドールアクリル酸等を培地に添加してもよい。
【0040】
発現させたタンパク質の単離、精製は通常用いられている方法で行うことができる。例えば、当該タンパク質が、細胞内に溶解状態で発現した場合には、培養終了後、宿主細胞を遠心分離により回収し、水系緩衝液に懸濁した後、超音波破砕機、フレンチプレス、マントンガウリンホモゲナイザー及びダイノミル等により宿主細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。該無細胞抽出液を遠心分離することにより得られる上清から、タンパク質の単離精製に通常用いられている方法、すなわち、溶媒抽出法、硫安等による塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)−セファロース、DIAION HPA−75(三菱化成社製)等のレジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S−Sepharose FF(Pharmacia社製)等のレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等のレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の方法を単独又は組み合わせて使用し、精製標品を得ることができる。
【0041】
また、タンパク質が細胞内に不溶体を形成して発現した場合は、同様に宿主細胞を回収後、破砕し、遠心分離を行うことにより、沈殿画分としてタンパク質の不溶体を回収する。回収したタンパク質の不溶体はタンパク質変性剤で可溶化することができる。該操作の後、上記と同様の単離精製法によりタンパク質の精製標品を得ることができる。当該タンパク質が細胞外に分泌された場合には、培養上清から当該タンパク質を回収することができる。すなわち、培養物を遠心分離等の手法により処理することにより培養上清を取得し、その培養上清から、上記と同様の単離精製法を用いることにより、精製標品を得ることができる。
【0042】
クモ糸フィブロイン繊維は、上述したタンパク質を紡糸したものである。クモ糸フィブロイン繊維は、天然クモ糸タンパク質に由来するポリペプチド(人工クモ糸タンパク質)を紡糸したものであることが好ましい。クモ糸フィブロイン繊維は、公知の紡糸方法によって製造することができる。すなわち、例えば、クモ糸フィブロイン繊維を製造する際には、まず、上述した方法に準じて製造したクモ糸フィブロインをジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、又はヘキサフルオロイソプロノール(HFIP)等の溶媒に、溶解促進剤としての無機塩と共に添加し、溶解してドープ液を作製する。次いで、このドープ液を用いて、湿式紡糸、乾式紡糸又は乾湿式紡糸等の公知の紡糸方法により紡糸して、目的とするクモ糸フィブロイン繊維を得ることができる。
【0043】
図2は、クモ糸フィブロイン繊維を製造するための紡糸装置の一例を示す概略図である。
図2に示す紡糸装置10は、乾湿式紡糸用の紡糸装置の一例であり、押出し装置1と、凝固浴槽20と、洗浄浴槽21と、乾燥装置4とを、上流側から順に有している。
【0044】
押出し装置1は貯槽7を有しており、ここにドープ液(紡糸原液)6が貯留される。凝固浴槽20に凝固液11(例えば、メタノール)が貯留される。ドープ液6は、貯槽7の下端部に取り付けられたギヤポンプ8により、凝固液11との間にエアギャップ19を開けて設けられたノズル9から押し出される。押し出されたドープ液6は、エアギャップ19を経て凝固液11内に供給される。凝固液11内でドープ液6から溶媒が除去されてタンパク質が凝固する。凝固したタンパク質は、洗浄浴槽21に導かれ、洗浄浴槽21内の洗浄液12により洗浄された後、洗浄浴槽21内に設置された第一ニップローラ13と第二ニップローラ14により、乾燥装置4へと送られる。このとき、例えば、第二ニップローラ14の回転速度を第一ニップローラ13の回転速度よりも速く設定すると、回転速度比に応じた倍率で延伸されたクモ糸フィブロイン繊維36が得られる。洗浄液12中で延伸されたクモ糸フィブロイン繊維は、洗浄浴槽21内を離脱してから、乾燥装置4内を通過する際に乾燥され、その後、ワインダーにて巻き取られる。このようにして、クモ糸フィブロイン繊維が、紡糸装置10により、最終的にワインダーに巻き取られた巻回物5として得られる。なお、18a〜18gは糸ガイドである。
【0045】
凝固液11としては、脱溶媒できる溶液であればよく、例えば、メタノール、エタノール及び2−プロパノール等の炭素数1〜5の低級アルコール、並びにアセトン等を挙げることができる。凝固液11は、適宜水を含んでいてもよい。凝固液11の温度は、0〜30℃であることが好ましい。凝固したタンパク質が凝固液11中を通過する距離(実質的には、糸ガイド18aから糸ガイド18bまでの距離)は、脱溶媒が効率的に行える長さがあればよく、例えば、200〜500mmである。凝固液11中での滞留時間は、例えば、0.01〜3分であってよく、0.05〜0.15分であることが好ましい。また、凝固液11中で延伸(前延伸)をしてもよい。
【0046】
なお、クモ糸フィブロイン繊維を得る際に洗浄浴槽21内で実施される延伸は、温水中、温水に有機溶剤等を加えた溶液中等で行う、いわゆる湿熱延伸であってもよい。この湿熱延伸の温度としては、例えば、50〜90℃であってよく、75〜85℃が好ましい。湿熱延伸では、未延伸糸(又は前延伸糸)を、例えば、1倍〜10倍延伸することができ、2〜8倍延伸することが好ましい。
【0047】
最終的な延伸倍率は、その下限値が、未延伸糸(又は前延伸糸)に対して、好ましくは、1倍超、2倍以上、3倍以上、4倍以上、5倍以上、6倍以上、7倍以上、8倍以上、9倍以上のうちのいずれかであり、上限値が、好ましくは40倍以下、30倍以下、20倍以下、15倍以下、14倍以下、13倍以下、12倍以下、11倍以下、10倍以下である。
【0048】
(布)
クモ糸フィブロイン繊維を含む布の製造に用いられるクモ糸フィブロイン繊維は、短繊維であってもよいし、長繊維であってもよい。クモ糸フィブロイン繊維は、単独で使用されてもよく、又は他の繊維と組み合わされて使用されてもよい。すなわち、布を製造する際には、材料糸として、クモ糸フィブロイン繊維のみからなる単独糸と、クモ糸フィブロイン繊維と他の繊維とを組み合わせてなる複合糸とが、それぞれ単独で用いられてもよい。あるいは、材料糸として、それらの単独糸および複合糸が組み合わされて用いられてもよい。なお、他の繊維とは、タンパク質を含まない繊維等をいう。単独糸には、撚糸、無撚糸等が含まれる。単独糸は撚糸であることが好ましく、その場合、撚糸は、Z撚りであってもよく、S撚りの撚糸であってもよい。複合糸には、例えば、混紡糸、混繊糸、カバーリング糸等が含まれ得る。
【0049】
布の種類も、特に限定されない。例えば、布は、織物または編物であってもよく、不織布であってもよい。布は、織布であることが好ましい。布が織布である場合、その織組織は、例えば平織、綾織、朱子織等であってもよい。使用される糸の種類は、1種類であってもよいし、複数種類であってもよい。布が編物である場合、その編物は、例えばトリコット、ラッセル等の経編物でもよく、横編、丸編等の緯編物でもよい。使用される糸の種類は、1種類であってもよいし、複数種類であってもよい。
【0050】
クモ糸フィブロイン繊維から布を作製する方法としては、公知の方法を利用することができる。クモ糸フィブロイン繊維から布を作製する方法は、特に制限されない。布は、公知の織機や編機によって作製され得る。布が不織布である場合、布は、ニードルパンチ法等の公知の手法によって作成され得る。
【0051】
(合成樹脂フィルム/シート)
上述した複合材100では、合成樹脂フィルム50が用いられている。合成樹脂フィルム50に熱可塑性ポリウレタンフィルムが用いられる場合、クモ糸フィブロイン繊維と同等以上の引張伸度を有する熱可塑性ポリウレタンが用いられ得る。熱可塑性ポリウレタンは、ポリエステル系の熱可塑性ポリウレタンエラストマーであってもよく、ポリエーテル系の熱可塑性ポリウレタンエラストマーであってもよく、その他の種類であってもよい。複合材には、合成樹脂フィルム50以外の合成樹脂フィルム/シートが用いられてもよい。布の引張伸度と等しいか、又はそれより大きい引張伸度を有する合成樹脂フィルム/シートであれば、他の材料が用いられてもよい
。
【0052】
(複合材の製造方法)
本実施形態の複合材100の製造方法について説明する。
図3は、複合材の製造手順を概略的に示す図である。
図3に示されるように、まず、複数枚の合成樹脂フィルム50Aと、複数枚の布60Aと、を用意する。合成樹脂フィルム50Aと布60Aとは、予め、フィルム状またはシート状に加工されている。これらの合成樹脂フィルム50Aおよび布60Aを交互に積層し、積層体100Aを得る。そして、積層体100Aを加熱加圧(加熱圧縮)する。この加熱加圧工程には、公知のプレス機が用いられ得る。その後、積層体100Aを放冷(冷却)し、本実施形態の複合材100を得る。複合材100は、公知の成形方法によって成形され得る。
【0053】
複合材の製造方法は、各種の変形態様を採り得る。たとえば、布を予め金型にセットした上で、合成樹脂を成形するインサート成形/インモールド成形によって、布と合成樹脂フィルム/シートとを積層させてもよい。また、長尺の布に連続的に合成樹脂を塗布するコーティング加工によって、布と合成樹脂フィルム/シートとを積層させてもよい。このコーティング加工では、ロール上を走行する布(繊維基材)の上面に、合成樹脂溶液が供給され、ドクターブレード等により塗布量を調整しながら合成樹脂が塗布される。
【0054】
本実施形態の複合材および複合材の製造方法によれば、布には、天然クモ糸フィブロインからなる繊維または天然クモ糸フィブロインに由来する人工クモ糸フィブロインからなる繊維が用いられる。この布と、この布の引張伸度と同等以上の引張伸度を有する合成樹脂フィルム/シートとが積層されて、これらが密着されている。この構造および製造方法により、従来の部材の応力歪み特性に比して、衝撃吸収部材としてより望ましい応力歪み特性を得ることができる。
【0055】
本明細書において、望ましい応力歪み特性とは、歪み0付近で応力が最大値に達した後、破断点に至るまでその応力を維持すること、即ち波形が矩形であることを意味する。一般に、衝撃吸収材において許容される変形量(歪み)と最大応力の上限(相手物にどれだけ応力が加わってよいか)は、衝撃吸収材の設置場所等によって決まり得る。例えば、許容される変形量と最大応力の上限の範囲内で可能な限りエネルギー吸収できる特性を有するよう、衝撃吸収材は設計される。
【実施例】
【0056】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0057】
〔クモ糸フィブロイン繊維の製造〕
<(1)クモ糸フィブロイン(PRT799)の製造>
(クモ糸フィブロインをコードする遺伝子の合成、及び発現ベクターの構築)
ネフィラ・クラビペス(Nephila clavipes)由来のフィブロイン(GenBankアクセッション番号:P46804.1、GI:1174415)の塩基配列及びアミノ酸配列に基づき、配列番号2で示されるアミノ酸配列を有する改変フィブロイン(以下、「PRT799」ともいう。)を設計した。
【0058】
配列番号2で示されるアミノ酸配列は、ネフィラ・クラビペス由来のフィブロインのアミノ酸配列に対して、生産性の向上を目的としてアミノ酸残基の置換、挿入及び欠失を施したアミノ酸配列を有し、さらにN末端に配列番号4で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)が付加されている。
【0059】
次に、PRT799をコードする核酸を合成した。当該核酸には、5’末端にNdeIサイト及び終止コドン下流にEcoRIサイトを付加した。当該核酸をクローニングベクター(pUC118)にクローニングした。その後、同核酸をNdeI及びEcoRIで制限酵素処理して切り出した後、タンパク質発現ベクターpET−22b(+)に組換えて発現ベクターを得た。
【0060】
PRT799をコードする核酸を含むpET22b(+)発現ベクターで、大腸菌BLR(DE3)を形質転換した。当該形質転換大腸菌を、アンピシリンを含む2mLのLB培地で15時間培養した。当該培養液を、アンピシリンを含む100mLのシード培養用培地(表1)にOD600が0.005となるように添加した。培養液温度を30℃に保ち、OD600が5になるまでフラスコ培養を行い(約15時間)、シード培養液を得た。
【0061】
【表1】
【0062】
当該シード培養液を500mlの生産培地(下記表2)を添加したジャーファーメンターにOD600が0.05となるように添加した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。また培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持するようにした。
【0063】
【表2】
【0064】
生産培地中のグルコースが完全に消費された直後に、フィード液(グルコース455g/1L、Yeast Extract 120g/1L)を1mL/分の速度で添加した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。また培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持するようにし、20時間培養を行った。その後、1Mのイソプロピル−β−チオガラクトピラノシド(IPTG)を培養液に対して終濃度1mMになるよう添加し、PRT799を発現誘導させた。IPTG添加後20時間経過した時点で、培養液を遠心分離し、菌体を回収した。IPTG添加前とIPTG添加後の培養液から調製した菌体を用いてSDS−PAGEを行い、IPTG添加に依存したPRT799に相当するサイズのバンドの出現により、PRT799の発現を確認した。
【0065】
(PRT799の精製)
IPTGを添加してから2時間後に回収した菌体を20mM Tris−HCl buffer(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の菌体を約1mMのPMSFを含む20mMTris−HCl緩衝液(pH7.4)に懸濁させ、高圧ホモジナイザー(GEA Niro Soavi社)で細胞を破砕した。破砕した細胞を遠心分離し、沈殿物を得た。得られた沈殿物を、高純度になるまで20mM Tris−HCl緩衝液(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の沈殿物を100mg/mLの濃度になるように8M グアニジン緩衝液(8M グアニジン塩酸塩、10mM リン酸二水素ナトリウム、20mM NaCl、1mM Tris−HCl、pH7.0)で懸濁し、60℃で30分間、スターラーで撹拌し、溶解させた。溶解後、透析チューブ(三光純薬株式会社製のセルロースチューブ36/32)を用いて水で透析を行った。透析後に得られた白色の凝集タンパク質(PRT799)を遠心分離により回収し、凍結乾燥機で水分を除き、凍結乾燥粉末を回収した。
【0066】
得られた凍結乾燥粉末におけるPRT799の精製度は、粉末のポリアクリルアミドゲル電気泳動の結果をTotallab(nonlinear dynamics ltd.)を用いて画像解析することにより確認した。その結果、PRT799の精製度は約85%であった。
【0067】
<(2)クモ糸フィブロイン繊維の製造>(ドープ液の調製)
ジメチルスルホキシド(DMSO)に、上述のクモ糸フィブロイン(PRT799)を濃度24質量%となるよう添加した後、溶解促進剤としてLiClを濃度4.0質量%添加し、その後、シェーカーを使用して3時間溶解させた。その後、ゴミと泡を取り除き、ドープ液とした。ドープ液の溶液粘度は90℃において5000cP(センチポアズ)であった。
【0068】
(紡糸)
上記のようにして得られたドープ液と
図2に示される紡糸装置10を用いて公知の乾湿式紡糸を行って、クモ糸フィブロインのモノフィラメントを得た。なお、ここでは、乾湿式紡糸を下記の条件で行った。
押出しノズル直径:0.1mm
押出し速度:327.6ml/h
凝固液(メタノール)の温度:2℃
巻取り速度:99.5m/min
延伸倍率:4.52倍
乾燥温度:80℃
エアギャップ長さ:5mm
【0069】
(クモ糸フィブロイン織布)
上記のようにして得られたモノフィラメントを複数本束ねて180デニールとし、Z撚りの撚糸を得た。この撚糸を2本用いて、360デニールの諸撚糸を得た。そして、この諸撚糸を用いて、厚み0.2mmの織布(平織、目付=30m/m)を作製した。
【0070】
(熱可塑性ポリウレタンフィルム)
熱可塑性ポリウレタン(BASFジャパン社製「エラストラン」(国際登録商標)の「1180A」)を押出成形することで、厚み0.2mmのフィルムを作製した。そのフィルムを100mm×100mmにカットし、複合化用の素材とした。この熱可塑性ポリウレタンフィルムの引張伸度は、320%であった。
【0071】
(複合化)
上記ようにして作製した織布および熱可塑性ポリウレタンフィルムを2枚ずつ用い、フィルム−織布−フィルム−織布の順に積層した。プレス機((株)山本鉄工所製「CTA1−100」)を用いてその積層体を180℃で加熱加圧して密着させ、その後放冷した。これを100mm×25mmにカットして、厚み0.6mm、Vf(繊維体積含有率)15%の試験片とした(
図3の複合材100B参照)。
【0072】
上記の試験片について、オートグラフ((株)島津製作所製「AG−20kNX」)を用いて、引張試験を実施し、応力歪み特性を測定した。引張試験における標線間距離は80mmとし、試験速度は100mm/minとした。
【0073】
(比較例1)
また、比較のために、上記実施例と同じ熱可塑性ポリウレタンを押出成形することで、厚み0.6mmのシートを作製した。これを100mm×25mmにカットして、試験片とした。すなわち、この比較例1に係る試験片は、熱可塑性ポリウレタンのみの試験片である。応力歪み特性の測定は、上記実施例と同様に行った。
【0074】
(比較例2)
また、比較のために、上記実施例と同じ熱可塑性ポリウレタンフィルムと、シルク織布(荒井(株)製「TH241」/朱子織)とを用いて、上記実施例と同様に複合化し、厚み0.6mm、Vf15%の試験片を作製した。すなわち、この比較例2に係る試験片は、シルク織布と熱可塑性ポリウレタンからなる複合材である。応力歪み特性の測定は、上記実施例と同様に行った。
【0075】
(試験結果)
引張試験の結果、実施例、比較例1および比較例2について、
図4に示される応力歪み特性が得られた。
図4において、縦軸は、比較例1(熱可塑性ポリウレタンのみ)における応力の最大値を1とした応力の指数で表されている。
図4に示されるように、実施例の波形は、比較例1,2の波形に比べて、衝撃吸収部材として望ましい矩形に近い形になっていることがわかった。
【0076】
すなわち、縦軸の応力は衝突物に与えるダメージに相当し、横軸の歪みは衝突時のストロークに相当し、波形の面積(積分値)はエネルギー吸収量に相当する。実施例では、比較例1,2に比して、エネルギー吸収量が大きくなっている。一方で、実施例では、比較例2に比して、衝突物に与えるダメージが小さく、比較例1に比して、衝突時のストロークが小さい。衝撃吸収部材としては、エネルギー吸収量は大きい方がよいが、衝突物に与えるダメージは抑えることが望ましく、より小さいストロークで大きい衝撃を吸収したい。実施例の複合材は、応力に関して、応力の最大値が、比較例1における応力の最大値の約4倍であり、歪みに関しては、破断点における歪みが、約38%であった。実施例の複合材は、衝撃吸収部材としてより望ましい応力歪み特性を発揮できることがわかる。