(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2のように、NiCu層を設ける場合、スパッタリングが適していない等、製造上の制約が多く、更に改善の余地がある。また、基材に設けられたITO層はタッチパネルを想定しており、厚みが大きく結晶性のものが通常であるため、屈曲性が充分ではない。一方、本発明者らの検討によると、導電層に用いるCuの酸化を防止するために、その表面にのみ防錆層を設けても十分な効果が得られず、その場合、酸化が樹脂フィルム由来の水分等に主に起因することを見出した。なお、特許文献1では、ITOが用いられているものの、一般的なタッチパネル用の透明導電層として用いられているのみであり、防錆層での使用とは異なり、同様の課題がある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、樹脂フィルムと導電層との間に、非晶質性のインジウムスズ複合酸化物を含有する防錆層を形成することで、導電性フィルムの表面抵抗値を安定化できるとともに、屈曲性を向上することができる導電性フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、下記構成を採用することにより上記目的を達成し得ることを見出し本発明にいたった。
【0009】
すなわち、本発明の導電性フィルムは、樹脂フィルムと、防錆層と、導電層とをこの順に含む導電性フィルムであって、前記防錆層は、非晶質性のインジウムスズ複合酸化物を含有しており、前記防錆層の厚みは、1nm〜10nmであることを特徴とする。なお、本発明における各種の物性値は、実施例等において採用する方法により測定される値である。
【0010】
本発明では、前述のように、比較的薄い膜厚で非晶質性のインジウムスズ複合酸化物を樹脂フィルムと導電層との間に形成することで、導電性フィルムの表面抵抗値を安定化できるとともに、屈曲性を向上することができる。
【0011】
表面抵抗値の変動のメカニズムは、定かではないものの下記の通りと考えられる。従来のように、PET等の樹脂フィルム上に、Cuからなる導電層のみを積層した導電性フィルムを65℃90%RHの加湿熱条件下で表面抵抗値の経時的変化を調べた場合、導電層(Cu)は酸化され、表面抵抗値は徐々に上昇することが確認されている。Cuは酸化被膜(酸化銅)などを形成して不動態化するため、Cu層の最表面側(PET基材が形成されていない側)では、いったん酸化被膜が形成されるとそれ以上は酸化されにくい。しかしながら、加湿熱条件下で表面抵抗値は徐々に上昇することから、導電層(Cu)のいずれか他の部分が酸化されている可能性があると本願発明者は推測した。本願発明者が、加熱後の導電性フィルム中の酸素原子含有量の割合を確認したところ、特に、PET側の導電層(Cu)にて酸素原子含有量が増加しており、酸化銅が形成されていることを確認できた。従って、樹脂フィルムと導電層との間に防錆層を形成して、主にPET側からの導電層(Cu)の酸化を防止することにより、加湿熱条件下での導電性フィルムの表面抵抗値の上昇を防止することができるのではないかと考えた。PET側の導電層(Cu)が酸化される理由は、加熱時のPET等から発生するガス等による酸化や、PET等の樹脂フィルムを水分等が透過すること(PET等の樹脂フィルムの透過性や透湿性)による酸化が影響していると考えられる。なお、近年の電子機器等のコンパクト化による樹脂基材の薄膜化の影響も大きいと考えられる。
【0012】
そこで、防錆層として、比較的薄い膜厚で非晶質性のインジウムスズ複合酸化物を用いたところ、表面抵抗値の上昇を防止するだけでなく、屈曲性にも優れることを本発明者等は見出した。屈曲性向上のメカニズムは、定かではないものの下記の通りと考えられる。従来、基材に設けられた透明導電層(ITO層)はタッチパネル用の透明電極を想定しており、表面抵抗値を低減するため、厚みがある程度大きく、結晶性のものを用いる必要がある。これにより、フィルムは剛直となり屈曲性が充分ではなくなる。また、結晶性ITO(インジウムスズ複合酸化物)では、結晶化により生じる粒界の隙間を水分等が通過しやすいため、導電層が酸化されやすいと考えられる。しかし、防錆層として、比較的薄い膜厚で非晶質性のインジウムスズ複合酸化物を形成することで、樹脂フィルム表面がアモルファス状態のITOで覆われているため、透過や透湿等による影響を防ぐことができ、加湿熱信頼性のみならず屈曲性にも優れると考えられる。
【0013】
本発明における前記防錆層の表面抵抗値は、500Ω/□以上であることが好ましい。これにより、非晶質膜からなるITO(インジウムスズ複合酸化物)を用いることができるため、導電層の酸化を確実に防ぐことができる。即ち、加熱時のPETのような樹脂フィルムから発生するガス等による導電層の酸化をアモルファスITOにより確実に防ぐことができるため、加熱後の導電性フィルムの表面抵抗値の上昇をより抑制することができる。また、ITOが非晶質膜からなるため、フレキシブルであり屈曲性がより得られやすい。
【0014】
本発明における導電層は、銅を含むことが好ましい。これにより、電気抵抗率が充分に小さく導電率が高いため、電磁波シールド特性を向上できるとともに、センサとしても使用しやすい。
【0015】
本発明における導電層の厚みは、50nm〜500nmであることが好ましい。この厚みにすることで、充分な導電性が確保でき、加湿熱条件下での導電性フィルムの表面抵抗値を安定化できる。また、ある程度の厚みがあるため、導電層の最表面側が酸化され被膜を形成したとしても、酸化被膜からの影響を小さくすることができ、導電性を充分に確保できる。
【0016】
本発明における樹脂フィルムと前記防錆層との間に、更に1層以上の易接着層を有することが好ましい。これにより、防錆層との接着性が向上できるとともに、樹脂フィルムからのオリゴマー析出を防止できる。
【0017】
本発明における樹脂フィルムは、ポリエステル系樹脂を含むことが好ましい。これにより、機械的特性や加工性が良好である導電性フィルムが得られるとともに、汎用性に優れる導電性フィルムを得ることができる。
【0018】
本発明における防錆層は、酸化スズを重量比で7〜15重量%ことが好ましい。酸化スズ含量割合が多い方が、結晶質膜ではスズの重量比を増加することで自由電子(キャリア)を生成し比抵抗を下げる一方で、非晶質膜ではスズが不純物となり結晶化しづらくなるため、アモルファス化しやすくなり、屈曲性に優れる導電性フィルムを得ることができる。
【0019】
本発明の電磁波シールドシートは、前記導電性フィルムを含むことが好ましい。本発明の導電性フィルムを含むことで、加湿熱条件下での導電性フィルムの表面抵抗値が安定しており、導電性が充分に高く電磁波シールド特性を向上した電磁波シールドシートが得られる。また、導電性フィルムの屈曲性を向上できるため、生産効率に優れ実用的である電磁波シールドシートが得られる。
【0020】
本発明の面状センサは、前記導電性フィルムを含むことが好ましい。本発明の導電性フィルムを含むことで、加湿熱条件下での導電性フィルムの表面抵抗値が安定しており、導電性が充分に高くセンサ機能を向上した面状センサが得られる。また、導電性フィルムの屈曲性を向上できるため、生産効率に優れ実用的である面状センサが得られる。
【0021】
本発明の導電性フィルムの製造方法は、樹脂フィルムと、防錆層と、導電層とをこの順に含む導電性フィルムの製造方法であって、酸化スズを重量比で7〜15重量%含むインジウムスズ複合酸化物のターゲットを用いて、スパッタガス中に酸素を導入することなく、スパッタリングを行うことにより、樹脂フィルム上に非晶質性のインジウムスズ複合酸化物を含有し、厚みが1nm〜10nmである防錆層を形成する工程、及び導電層を形成する工程、を有することを特徴とする。これにより、導電性フィルムの表面抵抗値を安定化できるとともに、屈曲性を向上した導電性フィルムを提供できる。特に、酸化スズを高い含有割合で含有させたターゲットを用いて、酸素を導入することなく、スパッタリングを行うことにより、ITOはアモルファス化しやすくなり、本発明の効果を得る上で有利となる。
【0022】
また、インジウムスズ複合酸化物のターゲットを用いて、スパッタ成膜することは、生産効率や量産性の観点からも優れていると考えられる。防錆層にNiCu層を設ける場合、スパッタリングが適していない等、製造上の制約が多い。しかし、インジウムスズ複合酸化物のターゲットを用いることで、生産効率や量産性を更に向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の導電性フィルムの実施形態について、図面を参照しながら以下に説明する。ただし、図の一部又は全部において、説明に不要な部分は省略し、また説明を容易にするために拡大または縮小等して図示した部分がある。上下等の位置関係を示す用語は、単に説明を容易にするために用いられており、本発明の構成を限定する意図は一切ない。
【0025】
<導電性フィルム>
図1は、本発明の一実施形態に係る導電性フィルムの模式的断面図である。
図1に示す導電性フィルムは、樹脂フィルム1と、防錆層2と、導電層3とをこの順で含んでいる。なお、防錆層2と、導電層3とは、それぞれ1層からなる構成を図示しているが、それぞれが2層以上の多層構成であってもよい。
【0026】
図2は、本発明の他の実施形態に係る導電性フィルムの模式的断面図である。
図2に示す通り、樹脂フィルム1と防錆層2との間に、更に易接着層4を備えることができる。
図2では、樹脂フィルム1の片面に易接着層4を形成しているが、樹脂フィルム1の両面に形成することもできる。また、易接着層4が1層からなる構成を図示しているが、2層以上の多層構成であってもよい。
【0027】
なお、図示していないが、樹脂フィルム1上又は易接着層4上に、更に硬化樹脂層を備えることができる。硬化樹脂層は、樹脂フィルム1等の片面又は両面に形成することもでき、1層以上の構成とすることもできる。硬化樹脂層とは、ハードコート層、アンダーコート層、誘電体層、アンチブロッキング層等として機能するものを含む。さらに、樹脂フィルム1の片面又は両面は、粘着剤などの適宜の接着手段を用いて他の基材が貼り合わせたものや、他の基材と貼り合わせるための粘着剤層等にセパレータ等の保護フィルムが仮着されたものであってもよい。
【0028】
(樹脂フィルム)
樹脂フィルムとしては、絶縁性を確保できるものであれば特に制限されず、各種のプラスチックフィルムが用いられる。樹脂フィルムの材料としては、ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリブチレンテレフタレート(PBT),ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル系樹脂、ポリイミド(PI)等のポリイミド系樹脂、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン系樹脂、アセテート系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂等が挙げられる。これらの中でも、耐熱性、耐久性、柔軟性、生産効率、コスト等の観点から、ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル系樹脂、ポリイミド(PI)等のポリイミド系樹脂が好ましい。特に、コストパフォーマンスの観点から、ポリエチレンテレフタレート(PET)が好ましい。
【0029】
樹脂フィルムには、表面に予めスパッタリング、コロナ放電、火炎、紫外線照射、電子線照射、化成、酸化などのエッチング処理や下塗り処理を施して、樹脂フィルム上に形成される防錆層等との密着性を向上させるようにしてもよい。また、防錆層等を形成する前に、必要に応じて溶剤洗浄や超音波洗浄などにより、樹脂フィルム表面を除塵、清浄化してもよい。
【0030】
樹脂フィルムの厚みは、2〜200μmの範囲内であることが好ましく、10〜100μmの範囲内であることがより好ましく、20〜60μmの範囲内であることが更に好ましい。一般的には、樹脂フィルムの厚みが厚い方が、加熱時の熱収縮等の影響を受けにくくなるため望ましい。しかし、電子部品等のコンパクト化により、樹脂フィルムの厚みもある程度薄くすることが望ましい。一方、樹脂フィルムの厚みが薄すぎると、樹脂フィルムの透湿性や透過性が上昇して、水分やガス等を透過させてしまい、導電層が酸化されやすくなる。従って、本発明では、樹脂フィルムの厚みをある程度の厚みをもたしつつ薄くすることで、導電性フィルム自体も薄くでき、電磁波シールドシートやセンサ等に用いた場合の厚みを抑えることが可能となる。そのため、電磁波シールドシートやセンサ等の薄型化に対応できる。さらに、樹脂フィルムの厚みが前記の範囲内であると、樹脂フィルムの柔軟性を確保できつつ機械的強度が十分であり、フィルムをロール状にして防錆層や導電層等を連続的に形成する操作が可能である。
【0031】
また、樹脂フィルムの片面又は両面には、ハードコート層、アンダーコート層、誘電体層、アンチブロッキング層等の硬化樹脂層や易接着層が形成されていてもよい。また、粘着剤などの適宜の接着手段を用いて他の基材が貼り合わせたものや、他の基材と貼り合わせるための粘着剤層等にセパレータ等の保護層が仮着されたものであってもよい。
【0032】
(易接着層)
易接着層は、樹脂フィルムと防錆層との間に、1層以上形成することができる。これにより、防錆層との接着性が向上できるとともに、樹脂フィルムからのオリゴマー析出を防止できる。前記易接着層は、アクリル系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタンおよびポリビニルアルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種以上のポリマー成分を含有し、かつ架橋構造を形成できる官能基を有する組成物から形成することができる。なお、前記組成物には、前記ポリマー成分の他に、アミノ樹脂、エポキシ樹脂、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル等のポリマー成分を用いることができる。前記他のポリマー成分は、全ポリマー成分に対して、40重量%以下の範囲で用いることができる。
【0033】
アクリル系ポリマーは、アルキル(メタ)アクリレートのモノマーユニットを主骨格とする。なお、(メタ)アクリレートはアクリレートおよび/またはメタクリレートをいい、本発明の(メタ)とは同様の意味である。アクリル系ポリマーの主骨格を構成する、アルキル(メタ)アクリレートのアルキル基の炭素数は1〜14程度であり、これらは単独または組み合わせて使用できる。アルキル基の炭素数1〜9のアルキル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0034】
前記アクリル系ポリマー中には、1種類以上の各種モノマーを共重合により導入することができる。共重合モノマーの具体例としては、カルボキシル基含有モノマー、水酸基含有モノマー、窒素含有モノマー(複素環含有モノマーを含む)、芳香族含有モノマー等が挙げられる。これらの中でも、架橋剤との反応性が良好である点から、水酸基含有モノマー、アクリル酸などのカルボキシル基含有モノマーが好ましく用いられる。アクリル系ポリマー中の前記共重合モノマーの割合は、特に制限されないが、重量比率において、50重量%以下である。好ましくは0.1〜10重量%、より好ましくは0.5〜8重量%、さらに好ましくは1〜6重量%である。
【0035】
アクリル系ポリマーの製造は、溶液重合、塊状重合、乳化重合、各種ラジカル重合などの公知の製造方法を適宜選択できる。また、得られるアクリル系ポリマーは、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体などいずれでもよい。
【0036】
ポリエステルは、ポリエステル骨格を有する各種樹脂を用いることができる。ポリエステルは、共重合ポリエステル、ホモポリエステルのいずれでもよい。ポリエステルは、ジカルボン酸成分とグリコール成分とを重縮合させて得られるものが好ましい。ジカルボン酸としては、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、オキシカルボン酸(例えば、p−オキシ安息香酸など)等の一種または二種以上が挙げられる。グリコール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール等の一種または二種以上が挙げられる。ポリエステルには、カルボキシル基、スルホン酸基またはその塩等の官能基を導入して、水分散性を付与することできる。
【0037】
ポリウレタンは、ポリウレタン骨格を有する各種樹脂を用いることができる。ポリウレタンは、通常、ポリオール成分とイソシアネート化合物の反応により作成される。ポリオール成分としては、ポリカーボネートポリオール類、ポリエステルポリオール類、ポリエーテルポリオール類、ポリオレフィンポリオール類、アクリルポリオール類が挙げられ、これらの化合物は単独で用いても、複数種用いてもよい。ポリウレタンには、カルボキシル基、スルホン酸基またはその塩等の官能基を導入して、水分散性を付与することでできる。
【0038】
ポリビニルアルコールは、ポリビニルアルコール骨格等を有する各種樹脂を用いることができる。また、ポリビニルアルコールは、ポリ酢酸ビニルをケン化して得られたポリビニルアルコールの他;その誘導体;更に酢酸ビニルと共重合性を有する単量体との共重合体のケン化物;ポリビニルアルコールをアセタール化、ブチラール化、ウレタン化、エーテル化、グラフト化、リン酸エステル化等した変性ポリビニルアルコールが挙げられる。また、アセトアセチル基等を有するポリビニルアルコールが挙げられる。ポリビニルアルコールの重合度は特に限定されるものではないが、通常、100以上、好ましくは300〜40000の範囲のものが用いられる。ポリビニルアルコールのケン化度は特に限定されるものではないが、70モル%以上、好ましくは70〜99.9モル%の範囲であるのが好ましい。
【0039】
前記ポリマー成分は、水系または溶剤系のいずれの形態のものでもよいが、これらポリマー成分は1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。前記ポリマー成分の形態は、水系、溶剤系のいずれでもよい。なお、樹脂フィルムとして、延伸フィルムを用いる場合には、前記易接着層の形成をフィルム延伸中でのインライン塗工を行うことができる。このような場合には、非防爆設備でも塗工可能な点から、水系のポリマー成分を用いるのが好ましい。水系のポリマー成分は、水溶性または水分散性のいずれであってもよい。
【0040】
本発明の易接着層は、前記ポリマー成分を有する組成物は、架橋構造を形成できる官能基を有する。前記架橋構造を形成できる官能基は、例えば、前記組成物中に、前記ポリマー成分の他に、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、およびメラミン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物(架橋成分)を配合することにより、前記組成物中に含有することができる。また、前記架橋構造を形成できる官能基は、当該ポリマー成分として、前記架橋構造を形成できる官能基として、オキサゾリン基およびカルボジイミド基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を含有する自己架橋性のポリマー成分を用いることにより、前記組成物中に含有することができる。前記組成物は、自己架橋性のポリマー成分を用いて、かつ、架橋構造を形成できる官能基を有する化合物を用いることができる。
【0041】
架橋成分としては、例えば、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、メラミン化合物、ホウ酸、イソシアネート化合物、シランカップリング剤等が挙げられる。これらのなかでも、架橋成分としては、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、メラミン化合物が好ましい。架橋成分は、ポリマー成分に応じて適宜に選択することができる。前記架橋成分の配合割合は、前記ポリマー成分100重量部に対して、通常、50重量部以下、さらには、1〜40重量部、さらには5〜30重量部であるのが好ましい。
【0042】
エポキシ化合物としては、例えば、分子内にエポキシ基を含む化合物、そのプレポリマーおよび硬化物が挙げられる。例えば、エピクロロヒドリンとエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン、ビスフェノールA等の水酸基やアミノ基との縮合物が挙げられ、ポリエポキシ化合物、ジエポキシ化合物、モノエポキシ化合物、グリシジルアミン化合物等がある。ポリエポキシ化合物としては、例えば、ソルビトール、ポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、トリグリシジルトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアネート、グリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ジエポキシ化合物としては、例えば、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、モノエポキシ化合物としては、例えば、アリルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、グリシジルアミン化合物としてはN,N,N´,N´,−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノ)シクロヘキサン等が挙げられる。
【0043】
メラミン化合物としては、化合物中にメラミン骨格を有する化合物のことである。例えば、アルキロール化メラミン誘導体、アルキロール化メラミン誘導体にアルコールを反応させて部分的あるいは完全にエーテル化した化合物、およびこれらの混合物を用いることができる。エーテル化に用いるアルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、イソブタノール等が好適に用いられる。また、メラミン化合物としては、単量体、あるいは2量体以上の多量体のいずれであってもよく、あるいはこれらの混合物を用いてもよい。さらに、メラミンの一部に尿素等を共縮合したものも使用できるし、メラミン化合物の反応性を上げるために触媒を使用することも可能である。
【0044】
オキサゾリン化合物としては、分子内にオキサゾリン基を2個以上有する化合物が好ましく用いられ、具体的には、2´−メチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2´−エテンビス(2−オキサゾリン)、2,2´−エテンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2´−プロペンビス(2−オキサゾリン)、2,2´−テトラメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2´−ヘキサメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2´−オクタメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2´−p−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2´−p−フェニレンビス(4,4´−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2´−p−フェニレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2´−p(フェニレンビス(4−フェニル−2−オキサゾリン)等を挙げることができる。
【0045】
また前記易接着層は、樹脂フィルムに対して、150℃にて1時間の熱処理した後に、当該易接着層の表面に析出するオリゴマー量が1.0mg/m
2以下になるように制御されている。前記オリゴマー析出量は、0.8mg/m
2以下であるのが好ましく、さらには0.5mg/m
2以下であるのが好ましい。
【0046】
前記オリゴマー析出量は、易接着層を形成する材料の選定と前記架橋構造を形成する架橋成分および/または自己架橋性ポリマー中の架橋構造を形成することができる官能基の割合を調整することにより制御することができる。なお、易接着層の架橋密度が高くなりすぎると接着性が低下してしまうため、前記架橋成分および/または自己架橋性ポリマー中の架橋構造を形成することができる官能基の割合により範囲内において調整するのが好ましい。
【0047】
易接着層の形成は、前記ポリマー成分(自己架橋性ポリマーであるか、および/また架橋成分を含有)を含有する組成物(易接着層の形成材)を調製し、当該形成材をフィルム上に、公知の技術により塗工、乾燥することにより行われる。易接着層の形成材は、乾燥後の厚み、塗工の円滑性などを考慮して適当な濃度に希釈した溶液として、通常調整される。易接着層の乾燥後の厚みは、好ましくは0.01〜5μm、さらに好ましくは0.02〜2μm、さらに好ましくは0.03〜1μmである。なお、易接着層は複数層設けることができるが、この場合にも、易接着層の総厚みは前記範囲になるようにするのが好ましい。なお、樹脂フィルムが延伸フィルムの場合には、延伸前のフィルムに易接着層を形成しておくことができる。
【0048】
(硬化樹脂層)
樹脂フィルムの片面又は両面に直接硬化樹脂層を形成することができるが、易接着層上に硬化樹脂層を形成することもできる。これにより、ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド(PI)等の樹脂フィルムはそれ自体が非常に傷つきやすい傾向にあるが、導電層や防錆層の形成または電子機器への搭載などの各工程で樹脂フィルムに傷が入ることを防ぐことが可能である。
【0049】
硬化樹脂層の形成材料としては、硬化樹脂層形成後の皮膜として十分な強度を持つものを特に制限なく使用できる。用いる樹脂としては熱硬化型樹脂、熱可塑型樹脂、紫外線硬化型樹脂、電子線硬化型樹脂、二液混合型樹脂などがあげられるが、これらのなかでも紫外線照射による硬化処理にて、簡単な加工操作にて効率よく硬化樹脂層を形成することができる紫外線硬化型樹脂が好適である。
【0050】
紫外線硬化型樹脂としては、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、アミド系樹脂、シリコーン系樹脂、エポキシ系樹脂等の各種のものがあげられ、紫外線硬化型のモノマー、オリゴマー、ポリマー等が含まれる。好ましく用いられる紫外線硬化型樹脂としては、アクリル系樹脂やエポキシ系樹脂が好ましい。
【0051】
硬化樹脂層には、必要に応じて、種々の添加剤を添加することができる。このような添加剤として、微粒子、帯電防止剤、可塑剤、界面活性剤、酸化防止剤、及び紫外線吸収剤などの常用の添加剤が挙げられる。
【0052】
硬化樹脂層は、各硬化型樹脂と必要に応じて加える架橋剤、開始剤、増感剤などを含む樹脂組成物を樹脂フィルム上に塗布し、樹脂組成物が溶剤を含む場合には、溶剤の乾燥を行い、熱、活性エネルギー線またはその両方のいずれかの適用により硬化させることにより得られる。熱は空気循環式オーブンやIRヒーターなど公知の手段を用いることができるがこれらの方法に限定されない。活性エネルギー線の例としては紫外線、電子線、ガンマ線などがあるが特に限定されない。
【0053】
硬化樹脂層の厚みは特に限定されないが、好ましくは0.5μm〜5μmであり、より好ましくは0.7μm〜3μmであり、最も好ましくは0.8μm〜2μmである。硬化樹脂層の厚みが前記範囲にあると、プラスチックフィルムからのオリゴマー等の低分子量成分の析出を抑止できるとともに、屈曲性を確保することができる。
【0054】
(防錆層)
防錆層は、樹脂フィルムの少なくとも一方の面側に形成される。防錆層は、導電層が錆びることを防ぐための層である。なお、ここで「錆びる」とは、導電層に含まれる金属が酸化して腐食生成物が発生することを含む。具体的には、防錆層は、例えば加熱時のPETのような樹脂フィルムから発生するガスによる導電層の酸化や、樹脂フィルムを透過した水分等による導電層の酸化を防ぐために形成される。
【0055】
防錆層は、非晶質性のインジウムスズ複合酸化物(α―ITO)を含有する。防錆層として、結晶質性のITOを形成した場合、剛直化して屈曲性に劣る上、経時的変化による影響が大きく安定した物性が得られない。また、結晶化により生じる粒界の隙間を水分等が通過しやすいため、導電層が酸化されやすいと考えられる。しかし、非晶質性のITO(α―ITO)を含有することで、生産効率を向上できるとともに、フレキシブルとなり屈曲性を向上できる。また、アモルファス状態であるため、PET等の樹脂フィルムからの水分やガス等を透過しにくく、酸化防止機能にも優れており、加湿熱信頼性を向上できる。なお、本願発明の効果を損なわない範囲で、一部結晶質性のITOを含有することは可能である。
【0056】
α―ITO中の酸化インジウムと酸化スズとの重量比としては、酸化インジウム80〜99重量%及び酸化スズ1〜20重量%を含有することが好ましく、酸化インジウム85〜93重量%及び酸化スズ7〜15重量%を含有することがより好ましく、酸化インジウム87〜92重量%及び酸化スズ8〜13重量%を含有することが更に好ましい。このように、通常より酸化スズの重量比を多くすることで、結晶膜では自由電子(キャリア)を生成し比抵抗を下げる一方で、非晶質膜ではスズが不純物となり結晶化しづらくなり、ITOはアモルファス化しやすくなり、本願発明の効果を得る上で有利である。
【0057】
なお、当該α―ITOは、必要に応じて、さらに下記群に示された金属原子を含んでいてもよい。亜鉛、ガリウム、アンチモン、チタン、ジルコニウム、マグネシウム、アルミニウム、金、銀、銅、パラジウム、タングステンからなる群より選択される少なくとも1種の金属の金属酸化物を含んでいても良い。例えば、アンチモンを含有する酸化スズ(ATO)、アルミドープ酸化亜鉛(AZO)、ガリウムドープ酸化亜鉛(GZO)、インジウムドープ酸化亜鉛(IZO)が含まれていても良い。
【0058】
防錆層の形成方法は特に限定されず、従来公知の方法を採用することができる。具体的には、例えば、スパッタリング法、化学気相成長法(CVD)や物理気相成長法(PVD)等の真空成膜法や、イオンプレーティング法、メッキ法(電解メッキ、無電解メッキ)、ホットスタンプ法、コーティング法、導電層の表面酸化処理等を例示できる。また、これらの製膜方法の複数を組み合わせてもよいし、必要とする膜厚に応じて適宜の方法を採用することもできる。中でも、スパッタリング法、真空成膜法が好ましく、スパッタリング法が特に好ましい。これにより、ロールトゥロール製法により連続生産でき生産効率を高めるとともに、成膜時の膜厚を制御することができるため、導電性フィルムの表面抵抗値の上昇を抑制できるとともに屈曲性を向上できる。また、薄くて膜厚が均一で、緻密な防錆層を形成することができる。
【0059】
防錆層の膜厚は、1〜10nmである。これにより、導電性フィルムの表面抵抗値を安定化できるとともに、屈曲性を向上することができる。防錆層の膜厚は、2〜9nmが好ましく、3〜8nmがより好ましい。これにより、加熱時に、PETのような樹脂フィルムから発生するガス等による導電層の酸化を防ぐことができるとともに、屈曲性も向上でき、加湿熱信頼性や屈曲性がバランスよく優れた導電性フィルムを得ることができる。
【0060】
防錆層の表面抵抗値の下限値は、500Ω/□以上であることが好ましく、5×10
3Ω/□以上であることがより好ましく、1.0×10
4Ω/□以上であることが更に好ましい。防錆層の表面抵抗値の上限値は、特に制限されないものの、 1.5×10
4Ω/□以下であることが好ましく、1.4×10
4Ω/□以下であることがより好ましく, 1.3×10
4Ω/□以下であることが更に好ましい。これにより、確実にアモルファス状態のITOとすることができるため、屈曲性が優れた導電性フィルムを得ることができる。
【0061】
樹脂フィルム上に易接着層を形成している場合は、易接着層上に防錆層を形成することもできる。即ち、樹脂フィルムと、易接着層と、防錆層と、導電層とをこの順に含む導電性フィルムとすることも可能である。防錆層は、1層からなる構成でも、多層構成であっても良い。なお、多層構成の場合は、酸化インジウム及び酸化スズの含有量比の異なるITOから構成することも可能である。
【0062】
(導電層)
導電層は、樹脂フィルムの少なくとも一方の面側に形成した防錆層上に形成することができる。導電層は、電磁波シールド効果やセンサ機能等を充分に得るため、電気抵抗率が50μΩcm以下であることが好ましい。導電層の構成材料としては、このような電気抵抗率を満足し導電性を有するものであれば特に限定されないが、例えば、Cu,Al,Fe,Cr,Ti,Si,Nb,In,Zn,Sn,Au,Ag,Co,Cr,Ni,Pb,Pd,Pt,W,Zr,Ta,Hf、Mo,Mn,Mg,V等の金属が好適に用いられる。また、これらの金属の2種以上を含有するものや、これらの金属を主成分とする合金等も用いることができる。これらの金属の中でも、電磁波シールド特性やセンサ機能に寄与する導電率が高く、比較的低価格である観点から、Cu,Alを含むことが好ましい。特に、コストパフォーマンスと生産効率の観点から、Cuを含むことが好ましいが、Cu以外の元素が不純物程度含まれていても良い。これにより、電気抵抗率が充分に小さく導電率が高いため、電磁波シールド特性やセンサ機能を向上できる。
【0063】
導電層の形成方法は特に限定されず、従来公知の方法を採用することができる。具体的には、例えば、膜厚の均一性や成膜効率の観点から、スパッタリング法、化学気相成長法(CVD)や物理気相成長法(PVD)等の真空成膜法や、イオンプレーティング法、メッキ法(電解メッキ、無電解メッキ)、ホットスタンプ法、コーティング法等により成膜されることが好ましい。また、これらの製膜方法の複数を組み合わせてもよいし、必要とする膜厚に応じて適宜の方法を採用することもできる。中でも、スパッタリング法、真空成膜法が好ましく、スパッタリング法が特に好ましい。これにより、ロールトゥロール製法により連続生産でき生産効率を高めるとともに、成膜時の膜厚を制御することができるため、導電性フィルムの表面抵抗値の上昇を抑制できる。また、薄くて膜厚が均一で、緻密な導電層を形成することができる。
【0064】
導電層の厚みは、50〜500nmであることが好ましく、70〜400nmであることがより好ましく、80〜300nmであることが更に好ましい。導電層の厚みが500nmを超えると、加熱後の導電性フィルムのカールが発生しやすくなり、50nmより小さいと、加湿熱条件下で導電性フィルムの表面抵抗値が高抵抗化しやすくなり目標とする加湿熱信頼性が得られない。従って、上記範囲内であると、加湿熱信頼性評価時の導電性フィルムの表面抵抗値を充分小さくすることができ、加湿熱条件下での表面抵抗値の上昇を抑制することができる。また、成膜時の生産効率が上がり、成膜時の積算熱量が小さくなり、フィルムに熱シワが生じにくくなる。
【0065】
(保護層)
保護層は、例えば導電層が大気中の酸素の影響を受けて自然に酸化することを防止するために、導電層の最表面側(樹脂フィルム基材とは反対側)に形成することができる。保護層は、導電層の錆び防止効果を示すものである限り特に限定されないが、スパッタできる金属が好ましく、Ni,Cu,Ti,Si、Zn,Sn,Cr,Fe、インジウム、ガリウム、アンチモン、ジルコニウム、マグネシウム、アルミニウム、金、銀、パラジウム、タングステンからなる中から選ばれるいずれか1種類以上の金属又はこれらの酸化物が用いられる。Ni,Cu,Tiは,不動態層を形成するため腐食されにくく、Siは耐食性が向上するため腐食されにくく、Zn,Crは表面に緻密な酸化被膜を形成するため腐食されにくい金属であるため好ましい。
【0066】
保護層の材料としては、導電層との密着性を向上させて確実に導電層の錆びを防止する観点から、2種の金属からなる合金を用いることはできるが、3種以上の金属からなる合金が好ましい。合金3種以上の金属からなる合金としては、Ni−Cu−Ti、Ni−Cu−Fe,Ni−Cu−Cr等が挙げられ、防錆機能と生産効率の観点から、Ni−Cu−Tiが好ましい。なお、導電層との密着性を向上させる観点から、導電層を含む合金であることが好ましい。これにより、導電層の酸化を確実に防ぐことができる。
【0067】
また、保護層の材料としては、例えば、インジウムドープ酸化スズ(ITO)、アンチモンを含有する酸化スズ(ATO)、アルミドープ酸化亜鉛(AZO)、ガリウムドープ酸化亜鉛(GZO)、インジウムドープ酸化亜鉛(IZO)が含まれていても良い。導電性フィルムの初期の表面抵抗値の上昇を抑制するだけでなく、加湿熱条件下の表面抵抗値の上昇を抑制することができ、表面抵抗値の安定化を最適にできるため、好ましい。
【0068】
前記金属の酸化物とは、SiOx(x=1.0〜2.0)、酸化銅、酸化銀、酸化チタン等の酸化物が好ましいが、導電性フィルムの表面抵抗値の安定化の観点から、SiOx(x=1.0〜2.0)が特に好ましい。これにより、導電層が腐食されにくくなる。なお、前述の金属、合金、酸化物等の代わりに、導電層上にアクリル系樹脂やエポキシ系樹脂のような樹脂層を形成することで防錆効果をもたらすことも可能である。防錆層と保護層とは、同種材料であっても異種材料であっても良い。
【0069】
保護層の膜厚は、1〜50nmが好ましく、2〜30nmがより好ましく、3〜20nmが好ましい。これにより、耐久性が向上し表面層から酸化を防ぐことができるため、加湿熱条件下での表面抵抗値は上昇を抑制できる。
【0070】
(本発明の導電性フィルム)
本発明の導電性フィルムは、樹脂フィルムと、防錆層と、導電層とをこの順に含む。前記樹脂フィルムと前記防錆層との間に、更に1層以上の易接着層を有することもできる。前記導電性フィルムは、初期の表面抵抗値R
1が、0.001Ω/□〜10.0Ω/□であることが好ましく、0.01Ω/□〜3.5Ω/□であることがより好ましく、0.1Ω/□〜1.0Ω/□であることが更に好ましい。これにより生産効率に優れた実用的な導電性フィルムを提供できる。
【0071】
また、導電性フィルムを65℃90%RH条件下で500hr放置した後の表面抵抗値R
hが、10Ω/□以下であることが好ましく、3.5Ω/□以下であることがより好ましく、1.0Ω/□以下であることが更に好ましい。導電性フィルムを65℃90%RH条件下で500hr放置した後の表面抵抗値R
hの下限値は、特に制限されないが、0.001Ω/□以上であることが好ましく、0.01Ω/□以上であることがより好ましく、0.1Ω/□以上であることが更に好ましい。また、これにより生産効率に優れた実用的な導電性フィルムを提供できる。
【0072】
導電性フィルムを65℃90%RH条件下で500hr放置した後の表面抵抗値R
hを初期の表面抵抗値R
1で割った値であるRs(R
s=R
h/R
1)は、0.7〜1.3であることが好ましく、0.8〜1.2であることがより好ましく、0.9〜1.1であることが更に好ましい。これにより、加湿熱前後の表面抵抗値の安定化ができ、電磁波シールド特性やセンサ機能を向上できる。
【0073】
本発明の導電性フィルムの厚みは、樹脂フィルムと同様に、2〜200μmの範囲内であることが好ましく、10〜100μmの範囲内であることがより好ましく、20〜60μmの範囲内であることが更に好ましい。これにより、導電性フィルム自体も薄くでき、電磁波シールドシートやセンサ等に用いた場合の厚みを抑えることが可能となる。そのため、電磁波シールドシートやセンサ等の薄型化に対応できる。さらに、導電性フィルムの厚みが前記の範囲内であると、柔軟性を確保しつつ機械的強度が十分とすることができ、フィルムをロール状にして防錆層や導電層等を連続的に形成する操作が容易となり、生産効率が向上する。
【0074】
(本発明の導電性フィルムの製造方法)
本発明の導電性フィルムの製造方法は、樹脂フィルムと、防錆層と、導電層とをこの順に含む導電性フィルムの製造方法であって、酸化スズを重量比で7〜15重量%含むインジウムスズ複合酸化物のターゲットを用いて、スパッタガス中に酸素を導入することなく、スパッタリングを行うことにより、樹脂フィルム上に非晶質性のインジウムスズ複合酸化物を含有し、厚みが1nm〜10nmである防錆層を形成する工程、及び導電層を形成する工程、を有することを特徴とする。なお、前記樹脂フィルムと前記防錆層との間に、更に1層以上の易接着層を有するように導電性フィルムを製造方法することもできる。スパッタガス中に酸素を導入することないため、効率的に非晶質性のITOを形成させることができる。これにより、導電性フィルムの表面抵抗値を安定化できるとともに、屈曲性を向上した導電性フィルムを提供できる。
【0075】
また、インジウムスズ複合酸化物のターゲットを用いて、スパッタ成膜することは、生産効率や量産性の観点からも優れていると考えられる。防錆層にNiCu層を設ける場合、スパッタリングが適していない等、製造上の制約が多い。しかし、インジウムスズ複合酸化物のターゲットを用いることで、生産効率や量産性を更に向上させることができる。
【0076】
防錆層を形成する工程では、スパッタガス中に酸素を導入せずに、不活性ガス雰囲気下でスパッタリングを行う。不活性ガスとしては、アルゴンガス、窒素ガス等を用いることができる。これにより、酸素が無いため、ITOはアモルファス化しやすくなり、本願発明の効果を得る上で有利である。つまり、非晶質ITOを作成するためには、結晶化阻害するため酸素欠陥が多いことが必要であると考えられる。一方で、スパッタ成膜時の酸素導入により、酸素欠陥が埋まり結晶化し、キャリア移動度が増加することで低比抵抗化できると考えられる。
【0077】
また、本発明では、酸化スズを重量比で7〜15重量%含むインジウムスズ複合酸化物のターゲットを用いる。インジウムスズ複合酸化物のターゲットの重量比は、酸化インジウム85〜93重量%及び酸化スズ7〜15重量%の重量比が好ましく、酸化インジウム87〜92重量%及び酸化スズ8〜13重量%の重量比より好ましい。このように、通常より酸化スズの重量比を多くすることで、スズが不純物となり結晶化しづらくなり、ITOはアモルファス化しやすくなり、本願発明の効果を得る上で有利である。
【0078】
防錆層を形成する工程及び導電層を形成する工程では、フィルム送りスピードを2〜20m/分とするのが、好ましい。これにより、適度な膜厚に調製できるため、防錆効果を十分発揮できるとともに、屈曲性の高い導電性フィルムが得られる。また、生産効率を向上させることができる。
【0079】
(電磁波シールドシート)
本発明の電磁波シールドシートは、以上で述べた導電性フィルムを用いたものであり、タッチパネル等の形態で好適に使用することができる。前記電磁波シールドシートの厚みは、20μm〜300μmであることが好ましい。
【0080】
また本発明の電磁波シールドシートの形状は、特には限定されず、設置する対象物の形状などに応じて、積層方向(シートの厚み方向と同じ方向)からみた形状が方形状、円形状、三角形状、多角形状など、適宜の形状に選択できる。
【0081】
(面状センサ)
本発明の面状センサは、以上で述べた導電性フィルムを用いたものであり、モバイル機器のタッチパネルやコントローラ等のユーザーインターフェースに荷重測定用のフォースセンサや、対象物のセンシング領域、例えば自動車の外表面、ロボットや人形の表面に加わる外力を初めとする様々な物理量等をセンシングするセンサを含む。面状センサは、フォースセンサ等の形態で好適に使用することができる。前記面状センサの厚みは、20μm〜300μmであることが好ましい。
【実施例】
【0082】
以下、本発明に関して実施例を用いて詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0083】
<評価>
(1)厚みの測定
1.0μm未満の厚みは、透過型電子顕微鏡(日立製作所製、製品名「H−7650」)を用いて、導電性フィルムの断面を観察して測定した。1.0μm以上の厚みは、膜厚計(Peacock社製、デジタルダイアルゲージDG−205)を用いて測定した。測定した結果を表1に示す。
【0084】
(2)加湿熱信頼性
加熱温度65℃、湿度90%RH条件下の恒温恒湿器に500時間投入して、経時的変化(スタート時(初期),120hr、240hr、500hrで測定)による導電性フィルムの表面抵抗値をJIS K7194に準じて4端子法により測定した。加湿熱条件下での抵抗値変動は、初期の表面抵抗値R
1に対する、加湿熱後の表面抵抗値R
hの比で表される(R
h/R
1)。測定した結果を表1及び
図3に示す。
【0085】
(3)屈曲性試験
後述の実験例のようにして作製した導電層を形成していない導電性フィルムについて、両端5mmを銀ペーストで塗布した10mm×150mmサイズのサンプルにして、マンドレル芯棒に500gの荷重をかけ、防錆層面を外側として引張にて評価した。評価は、JIS K 5600−5−1に準拠して行った。マンドレル径は、21.5mm、20mm、18.5mm、17mm、15.5mm、14mm、12.5mm、11mm、9.5mm、8mm、6.5mm、5mm、4mm、3mm、2mmを用いた。測定した結果を表2及び
図4〜5に示す。
図4では、表面抵抗値変化率は、初期の表面抵抗値R
0に対する、屈曲後の表面抵抗値Rの比で表される(R/R
0)。
図5では、表面抵抗値の変化量(Δ)=R−R
0で表される。
【0086】
<実施例1>
(易接着層の形成)
先ず、幅1.085m、長さ2000m、厚さ38μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱樹脂株式会社製、品名「TA−38T613N(MT474)」、以下、PETフィルムという)の片面に、80nmの易接着層を形成した。
【0087】
(スパッタ成膜)
次に、PETフィルム上に易接着層が形成された長尺状樹脂フィルムを送り出しロールに巻いてスパッタ装置内に設置する。その後、スパッタ装置内を3.0×10
−3Torrの高真空にする。高真空にスパッタ装置内を真空引きした状態で、長尺状樹脂フィルムを送り出しロールから巻き取りロールへ送りながら、スパッタ成膜を行う。
【0088】
(防錆層(α−ITO)の形成)
まず、防錆層を形成するためにスパッタ製膜するにあたっては、フィルム送りスピードを2m/分として長尺状樹脂フィルムを搬送しつつ、Arガス体積100体積%からなる3.0×10
−3Torrの雰囲気中で、酸化インジウム90%−酸化スズ10%の焼結体材料を用いて、反応性スパッタリング法により、防錆層の厚みを5nmとなるように、易接着層が形成された樹脂フィルム上に非晶質性(アモルファス)のインジウム・スズ複合酸化物からなる防錆層(α−ITO)を形成した。なお、基材温度140℃、水分圧が8.0×10
−5Paの雰囲気にて製膜を行った。この時の水の分圧は、アルゴンガスの分圧に対して0.05%であった。さらに、巻き取りロールにα−ITOが形成した樹脂フィルムを巻き取った。
【0089】
(導電層(Cu層)の形成)
次に、防錆層を成膜してロール状に巻き取られたフィルムをフィルム送りスピードを2m/分で、Arガス100体積%からなる3.0×10
−3Torrの雰囲気中で、Cuターゲット材料を用いて、焼結体DCマグネトロンスパッタ法により、防錆層上に導電層(Cu層)を200nmの厚みでスパッタ成膜して、送り出しロールにフィルムを巻き取って、導電性フィルムを作製した。
【0090】
<比較例1>
実施例1において、防錆層を形成しなかったこと以外は、実施例1と同様の方法で導電性フィルムを作製した。
【0091】
以下の実験例1〜5で作製した導電性フィルムは、導電層を形成していない状態で、導電性フィルムを作製した。これは、例えばCu層のような導電層を積層後は、Cuの抵抗値が支配的なため、屈曲性と抵抗値との評価が難しかったためである。
【0092】
<実験例1>
実施例1において、導電層を形成しなかったこと及び防錆層(α−ITO)の厚みを30nmとなるようにしたこと以外は、実施例1と同様の方法で、導電層を形成していない導電性フィルムを作製した。
【0093】
<実験例2>
実験例1において、140℃で60分間の加熱処理を行い、導電層を非晶質(α−ITO)から結晶質(ITO)に転化させたこと以外は、実験例1と同様の方法で、導電層を形成していない導電性フィルムを作製した。
【0094】
<実験例3>
実験例1において、酸化インジウム97%−酸化スズ3%の焼結体材料を用いて、反応性スパッタリング法により防錆層(α−ITO)を形成したこと以外は、実験例1と同様の方法で、導電層を形成していない導電性フィルムを作製した。
【0095】
<実験例4>
実験例3において、140℃で60分間の加熱処理を行い、導電層を非晶質(α−ITO)から結晶質(ITO)に転化させたこと以外は、実験例3と同様の方法で、導電層を形成していない導電性フィルムを作製した。
【0096】
<実験例5>
実験例1において、防錆層(α−ITO)の厚みを5nmとなるようにしたこと以外は、実験例1と同様の方法で、導電層を形成していない導電性フィルムを作製した。
【0097】
【表1】
【0098】
【表2】
【0099】
(結果及び考察)
加湿熱条件下での表面抵抗値変化率については、表1及び
図3に示す。実施例1においては、加熱温度65℃で、湿度90%RHの条件下で、経時的変化(500hr)を測定したところ、導電性フィルムの表面抵抗値を抑制することができた。これは、非晶質性ITOはアモルファス状態でため、PET樹脂側から発生するガス等による酸化や、PET樹脂を水分等が透過することによる酸化等による影響を抑制できたためと推測できる。なお、Cu層の最表面側(PET基材が形成されていない側)は保護層等が形成されておらずオープンになっているが、Cuは酸化被膜(酸化銅)などを形成して不動態化するため、いったん酸化被膜が形成されるとそれ以上は酸化されにくく、抵抗値変化率への影響が少ないと考えられる。また、非晶質性ITOはアモルファス状態であり、かつ、ある程度厚みが薄いため、後述の通り、屈曲性についても良好であると考えられる。一方、比較例1のように、防錆層が形成されていないと、上記加湿熱条件下では、導電性フィルムの表面抵抗値が上昇した。これは、防錆層が形成されていないため、PET樹脂側から発生するガス等による酸化や、PET樹脂を水分等が透過することによる酸化等による影響を抑制できないためと推測できる。
【0100】
屈曲性については、表2及び
図4〜5に示す。まず、
図4では、マンドレル径2mmφの引張試験より、実験例1(10% α−ITO)の抵抗値変化率が5%ほどに対し、実験例2(10% 結晶化ITO) の抵抗値変化率が10%ほどであり、非晶質である方が屈曲性に優れることが分かった。これは、結晶質のものであると、剛直なものとなり屈曲性に劣るからであると考えられる。また、実験例1(10% α−ITO)と実験例3(3.3% α−ITO)を比較して、同じ非晶質であっても、酸化スズ含量割合が多い方が、屈曲性に優れることが分かった。これは、結晶質膜ではスズの重量比を増加することで自由電子(キャリア)を生成し比抵抗を下げる一方で、非晶質膜ではスズが不純物となり結晶化しづらくなり、アモルファス化しやすいためであると考えられる。次に、
図5では、実験例1(30nm)と実験例5(5nm)を比較して、α−ITOの厚みが小さい方が屈曲による抵抗値変化をより抑制できることが分かった。