特許第6713807号(P6713807)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社カネカの特許一覧

特許6713807光学フィルムの製造方法および光学フィルム
<>
  • 特許6713807-光学フィルムの製造方法および光学フィルム 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6713807
(24)【登録日】2020年6月8日
(45)【発行日】2020年6月24日
(54)【発明の名称】光学フィルムの製造方法および光学フィルム
(51)【国際特許分類】
   B29C 48/19 20190101AFI20200615BHJP
   B29C 48/305 20190101ALI20200615BHJP
   B29C 48/08 20190101ALI20200615BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20200615BHJP
   B29L 7/00 20060101ALN20200615BHJP
   B29L 9/00 20060101ALN20200615BHJP
   B29L 11/00 20060101ALN20200615BHJP
【FI】
   B29C48/19
   B29C48/305
   B29C48/08
   G02B5/30
   B29L7:00
   B29L9:00
   B29L11:00
【請求項の数】11
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2016-69534(P2016-69534)
(22)【出願日】2016年3月30日
(65)【公開番号】特開2017-177596(P2017-177596A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2019年1月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】上仮屋 直也
【審査官】 ▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−032936(JP,A)
【文献】 実開昭54−165287(JP,U)
【文献】 特開2005−246607(JP,A)
【文献】 特開2015−210474(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/061917(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/079693(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/096374(WO,A1)
【文献】 特公昭55−027576(JP,B2)
【文献】 特開2012−087251(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 48/00 − 48/96
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋度が2.3重量%以上4.0重量%以下でありかつ粒子径が180nm以上400nm以下であるゴム部を有する多層構造粒子を含む第1熱可塑性樹脂組成物をダイ出口の幅方向に関する中央部から、前記多層構造粒子を含まないまたは前記第1熱可塑性樹脂組成物よりも低い量で含む第2熱可塑性樹脂組成物をダイ出口の幅方向に関する両端部から、共押出し、フィルム状に成形する光学フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記第2熱可塑性樹脂組成物は、前記多層構造粒子以外のゴム粒子を含む請求項1記載の方法。
【請求項3】
滑性粒子を含む第1熱可塑性樹脂組成物と、前記滑性粒子を含まないまたは前記第1熱可塑性樹脂組成物よりも低い量で含む第2熱可塑性樹脂組成物とを、ダイ出口の幅方向に関して互いに異なる箇所から共押出し、フィルム状に成形する光学フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記第2熱可塑性樹脂組成物を、前記ダイ出口の幅方向に関して二以上の部分から押出す請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記第2熱可塑性樹脂組成物を前記ダイ出口の両端部から押出す請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記第1熱可塑性樹脂組成物は、アクリル系樹脂を含有する請求項1から5いずれか記載の方法。
【請求項7】
前記第2熱可塑性樹脂組成物は、アクリル系樹脂を含有する請求項1から6いずれか記載の方法。
【請求項8】
熱可塑性樹脂を含有する光学フィルムであって、
前記光学フィルムの幅方向に関して、
中央部は、架橋度が2.3重量%以上4.0重量%以下でありかつ粒子径が180nm以上400nm以下であるゴム部を有する多層構造粒子を含む第1領域であり、
両端部は、前記多層構造粒子を含まないまたは前記第1領域よりも低い量で含む第2領域である、光学フィルム。
【請求項9】
熱可塑性樹脂を含有する光学フィルムであって、
前記光学フィルムの幅方向に関して、
滑性粒子を含む第1領域と、
前記滑性粒子を含まないまたは前記第1領域よりも低い量で含む第2領域と、を有する光学フィルム。
【請求項10】
前記第2領域は、前記光学フィルムの幅方向に関して二以上の領域を含む請求項9記載の光学フィルム。
【請求項11】
前記第2領域は、前記光学フィルムの幅方向に関する両端部を含む請求項10記載の光学フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルムの製造方法および光学フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
偏光子を保護するための偏光子保護フィルムや、液晶表示装置用のフィルム基板等に代表される光学フィルムには、光学的な透明性、および、光学的な均質性並びに平滑性が要求される。
このような光学フィルムの製造方法としては、フィルム原料たる樹脂組成物を押出機で溶融させ、ダイからフィルム状に押し出すことで製膜する溶融押出方法が知られている。
このようにして得られたフィルムを製品とする際には、ロール状にフィルムを巻き取る。しかし、この巻き取られたロール内部においてフィルム同士が接触することで、フィルムに傷や凹凸欠陥が生じる課題(以下、ブロッキング起因欠陥)があった。
【0003】
このブロッキング起因欠陥を抑制する方法としては、例えば、特定の粒子径を有するシリカ粒子等のアンチブロッキング性を有する滑性粒子を溶融樹脂に添加することでフィルム滑り性を向上させる方法が知られている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5587209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の方法のように溶融樹脂に滑性粒子を添加する場合、ブロッキングを防止する効果は得られるものの、透明性等のフィルム品質を落とす課題がある。
また、フィルム製造工程において、フィルム全面全幅が滑性を持つようになってしまうために、フィルム搬送時にフィルムが搬送ロールにグリップせずに蛇行しやすい。フィルムが蛇行すると、巻きズレの問題が生じやすい。
巻きズレは、フィルムをロール状に巻き取る際の端部位置のずれに起因する、ロール端面位置の不均一性に関する問題である。
【0006】
本発明は、上記現状に鑑み、フィルム同士の接触等により生じる、傷や凹凸の発生のようなブロッキング起因欠陥の発生の抑制と、フィルムの蛇行による巻きズレの発生の抑制とを両立できる、光学フィルムの製造方法と、当該製造方法により製造され得る光学フィルムとを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者が上記課題を解決するため鋭意検討したところ、架橋度が2.3重量%以上4.0重量%以下でありかつ粒子径が180nm以上400nm以下であるゴム部を有する多層構造粒子のようなフィルムに滑性を付与する粒子を含む第1熱可塑性樹脂組成物と、滑性を付与する粒子を含まないか少々しか含まない第2熱可塑性樹脂組成物とを、共押出ししてフィルムを形成することにより上記の課題を解決できることを見出し、本発明に至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
(i)架橋度が2.3重量%以上4.0重量%以下でありかつ粒子径が180nm以上400nm以下であるゴム部を有する多層構造粒子を含む第1熱可塑性樹脂組成物をダイ出口の幅方向に関する中央部から、多層構造粒子を含まないまたは第1熱可塑性樹脂組成物よりも低い量で含む第2熱可塑性樹脂組成物をダイ出口の幅方向に関する両端部から、共押出し、フィルム状に成形する光学フィルムの製造方法、
(ii)第2熱可塑性樹脂組成物は、多層構造粒子以外のゴム粒子を含む(i)に記載の方法、
(iii)滑性粒子を含む第1熱可塑性樹脂組成物と、滑性粒子を含まないまたは第1熱可塑性樹脂組成物よりも低い量で含む第2熱可塑性樹脂組成物とを、ダイ出口の幅方向に関して互いに異なる箇所から共押出し、フィルム状に成形する光学フィルムの製造方法。
(iv)第2熱可塑性樹脂組成物を、ダイ出口の幅方向に関して二以上の部分から押出す(iii)に記載の方法、
(v)第2熱可塑性樹脂組成物をダイ出口の両端部から押出す(iv)に記載の方法、
(vi)第1熱可塑性樹脂組成物は、アクリル系樹脂を含有する(i)から(v)のいずれかに記載の方法、
(vii)第2熱可塑性樹脂組成物は、アクリル系樹脂を含有する(i)から(vi)のいずれかに記載の方法、
(viii)熱可塑性樹脂を含有する光学フィルムであって、
光学フィルムの幅方向に関して、
中央部は、架橋度が2.3重量%以上4.0重量%以下でありかつ粒子径が180nm以上400nm以下であるゴム部を有する多層構造粒子を含む第1領域であり、
両端部は、多層構造粒子を含まないまたは第1領域よりも低い量で含む第2領域である、光学フィルム、
(ix)熱可塑性樹脂を含有する光学フィルムであって、
光学フィルムの幅方向に関して、
滑性粒子を含む第1領域と、
滑性粒子を含まないまたは第1領域よりも低い量で含む第2領域と、を有する光学フィルム、
(x)第2領域は、光学フィルムの幅方向に関して二以上の領域を含む(ix)に記載の光学フィルム、および
(xi)第2領域は、光学フィルムの幅方向に関する両端部を含む(x)に記載の光学フィルム、
を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、フィルム同士の接触等により生じる、傷や凹凸の発生のようなブロッキング起因欠陥の発生の抑制と、フィルムの蛇行による巻きズレの発生の抑制とを両立できる、光学フィルムの製造方法と、当該製造方法により製造され得る光学フィルムとを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】挟み込み成形について模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
≪第1の製造方法≫
以下、架橋度が2.3重量%以上4.0重量%以下でありかつ粒子径が180nm以上400nm以下であるゴム部を有する多層構造粒子を含む第1熱可塑性樹脂組成物をダイ出口の幅方向に関する中央部から、多層構造粒子を含まないまたは第1熱可塑性樹脂組成物よりも低い量で含む第2熱可塑性樹脂組成物をダイ出口の幅方向に関する両端部から、共押出し、フィルム状に成形する光学フィルムの製造方法について、第1の製造方法と記載する。
【0012】
<フィルム成形>
まず、共押出しによるフィルム成形について、以下説明する。
図1は、光学フィルムの製造方法における挟み込み成形を模式的に示す図である。なお、図1中、共押出機10について、簡略化し、Tダイ11付近のみを図示する。
まず、フィルム原料たる所定の、第1熱可塑性樹脂組成物と、第2熱可塑性樹脂組成物とが共押出機10に投入され、共押出機10内において、ガラス転移温度以上の温度まで加熱され、溶融状態となる。
【0013】
溶融状態の第1熱可塑性樹脂組成物と、第2熱可塑性樹脂組成物とは、共押出機10の出口側に取り付けられたTダイ11に移行し、ダイ先端のダイ出口12において、それぞれ、幅方向に関する所定の位置から溶融状態のまま、吐出される。その吐出時においてダイ出口12の形状により、溶融状態の熱可塑性樹脂組成物13はシート形状をとる。
【0014】
ここで、第1熱可塑性樹脂組成物は、ダイ出口12の幅方向に関する中央部から吐出される。
そして、第1熱可塑性樹脂組成物は、上記の所定の要件を満たす多層構造粒子を含んでいるため、得られるフィルムにおいて、第1熱可塑性樹脂組成物からなる領域は滑性を有する。
このため、第1熱可塑性樹脂組成物をダイ出口12の幅方向に関する中央部から吐出すると、フィルムの中央の領域に滑性が付与され、フィルム同士やフィルムとロールとの接触に起因する傷や凹凸欠陥(ブロッキング起因欠陥)の発生が抑制される。
【0015】
他方、第2熱可塑性樹脂組成物は、ダイ出口12の幅方向に関する両端部から吐出される。
そして、第2熱可塑性樹脂組成物は、上記の多層構造粒子を含まないか、第1熱可塑性樹脂組成物よりも少量の多層構造粒子しか含まない。
このため、第2熱可塑性樹脂組成物をダイ出口12の幅方向に関する両端部から吐出すると、フィルムの両端の領域の滑性が乏しく、その結果、フィルム搬送時にフィルムが搬送ロールにしっかりとグリップされやすい。このため、フィルムの蛇行も抑制され、これによりフィルムへの皴や傷の発生や、巻きズレの問題も生じにくい。
【0016】
ここで、ダイ出口12の幅方向の両端部の幅は、本発明の目的が阻害されない範囲で特に限定されない。両端部の幅は、ダイ出口12の両最端部から各々20mm以上が好ましく、30mm以上がより好ましい。
また、両端部の幅の合計は、ダイの全幅に対して15%以下の範囲であるのが好ましい。
なお、フィルムの全幅によって両端部の幅の上限の好ましい値は異なるが、典型的には、両端部の幅は、ダイ出口12の両最端部から150mm以下が好ましく、100mm以下がより好ましい。
【0017】
両端部の幅が狭すぎると、フィルム両端における低滑性の部分の面積が狭いため、フィルムの蛇行を抑制しにくい場合がある。
また、本ダイ両端部として設定する位置のフィルムは、中央部と滑性やフィルム物性が異なるために、高品質が求められる製品に含まれることは好ましくない場合がある。この場合には、両端部にあたる部分のフィルムはスリットし、最終的に製品に含まないようにすることが好ましい。従って、ダイ両端部が15%よりも多くなると、両端部のロスが多くなり、幅方向の収率が落ちるために好ましくない。
ただし、中央部と両端部との滑性やフィルム物性の差異が製品に求められる許容範囲であれば、製品が両端部を含んでも構わない。
【0018】
共押出の方法として、第1熱可塑性樹脂組成物を溶融しダイ出口12の中央部に押出す主押出機と、第2熱可塑性樹脂組成物を溶融しダイ出口12の両端部に押出す端部用押出機と、を用いて、第1熱可塑性樹脂組成物および第2熱可塑性樹脂組成物を、それぞれダイ出口12の所定の位置から吐出させる方法が挙げられる。
ダイ両端部に押し出す端部押出機については、両端を1台でまかなってもよいし、片側ずつ2台でまかなってもよい。これら複数の押出機からTダイ11へフィードブロック方式等で導入するとよい。
【0019】
なお、本発明の目的が阻害されない範囲において、ダイ出口12の両端部と、ダイ出口12の中央部との間の領域から、第1熱可塑性樹脂組成物および第2熱可塑性樹脂組成物と異なる、熱可塑性樹脂組成物を共押出ししてもよい。
しかし、得られるフィルムの幅方向の物性のばらつきが少ない点から、ダイ出口12からは、第1熱可塑性樹脂組成物および第2熱可塑性樹脂組成物だけが押出されるのが好ましい。
【0020】
溶融状態にあるシート状の熱可塑性樹脂組成物13は、一対の平滑化ロールに挟み込まれることにより、その表面が平滑化される。この平滑化ロールの一方は弾性ロール14であり、他方はキャストロール15である。弾性ロール14は、ゴム等の弾性体からなるロールの表面が金属膜で覆われたロールをいい、表面の金属膜によりロール表面が平坦になり、平滑化ロールとして機能する。
キャストロール15は、金属から構成された硬質のロールである。
【0021】
ダイ出口12から吐出されたシート状の熱可塑性樹脂組成物13を、弾性ロール14とキャストロール15とで挟み込むことにより、そのガラス転移温度以下の温度に冷却し、シート表面の平滑性を向上させる。
なお、当該挟み込み成形工程は、フィルム表面の平滑化のための工程であり、フィルムを延伸するための工程とは異なる。
なお、図1は、シート状の熱可塑性樹脂組成物13を、ダイ出口12の幅方向に対して垂直な面からみた模式図である。
【0022】
以上のように、共押出機10(ダイ出口12)からの吐出、および、弾性ロール14とキャストロール15とによる挟み込み成形工程を連続的に行うことにより、長手方向に伸長した光学フィルムが連続的に製造される。
【0023】
また、第1の製造方法は、必要に応じ、フィルム中の異物を検査する工程や、延伸する工程を含んでいてもよい。
【0024】
上記方法に従って製造される光学フィルムの厚みは特に限定されない。
第1の製造方法では、例えば、厚み30μm以上、80μm以下といった極めて薄いフィルムにおいても両端部の滑性抑制が実現され、かつ中央部に滑性を付与することができるので、フィルム同士の接触等により生じる、傷や凹凸の発生のようなブロッキング起因欠陥の発生の抑制と、フィルムの蛇行による、フィルムへの皴や傷の発生や、巻きズレの発生の抑制とを両立できる。
従来の方法では、薄いフィルムの製造時に、フィルム同士の接触等により生じる、傷や凹凸の発生のようなブロッキング起因欠陥の発生の抑制と、フィルムの蛇行による、フィルムへの皴や傷の発生や、巻きズレの発生の抑制とを両立させることは困難であり、かかる効果は顕著である。
【0025】
<第1熱可塑性樹脂組成物>
第1の製造方法では、共押出しを行う。共押出しでは、少なくも、第1熱可塑性樹脂組成物および第2熱可塑性樹脂組成物を用いる。
第1熱可塑性樹脂組成物は、架橋度が2.3重量%以上4.0重量%以下でありかつ粒子径が180nm以上400nm以下であるゴム部を有する多層構造粒子を含む、熱可塑性樹脂組成物である。
以下、第1熱可塑性樹脂組成物が含有する、必須または任意の成分について説明する。
【0026】
(熱可塑性樹脂)
熱可塑性樹脂は、フィルムにおけるマトリックス部分を構成する材料である。フィルムの製造に使用される熱可塑性樹脂としては、光学フィルムとして使用可能な熱可塑性樹脂であって、溶融押出による成形が可能なものであれば、特に制限されない。
例えば、ポリカーボネート樹脂、芳香族ビニル系樹脂およびその水素添加物、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリアミド系樹脂、セルロース系樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂等の熱可塑性樹脂組成物が挙げられる。これらのうち、アクリル系樹脂が透明性の観点から特に好ましい。
【0027】
アクリル系樹脂としては、特に制限されないが、メタクリル酸メチルを単量体成分としたメタクリル系樹脂が使用でき、メタクリル酸メチル由来の構成単位が30〜100重量%含有されたものが好ましい。アクリル系樹脂の中でも、耐熱性のアクリル系樹脂が好ましい。
【0028】
耐熱性のアクリル系樹脂としては、例えば、
1)共重合成分としてN−置換マレイミド化合物が共重合されているアクリル系樹脂、
2)無水グルタル酸アクリル系樹脂、
3)ラクトン環構造を有するアクリル系樹脂、
4)グルタルイミドアクリル系樹脂、
5)水酸基および/またはカルボキシル基を含有するアクリル系樹脂、
6)芳香族ビニル単量体およびそれと共重合可能な他の単量体を重合して得られる芳香族ビニル含有アクリル系重合体(例えば、スチレン単量体およびそれと共重合可能な他の単量体を重合して得られるスチレン含有アクリル系重合体)
7)上記6)の樹脂の芳香族環を部分的にまたは全て水素添加して得られる水添芳香族ビニル含有アクリル系重合体(例えば、スチレン単量体およびそれと共重合可能な他の単量体を重合して得られるスチレン含有アクリル系重合体の芳香族環を部分水素添加して得られる部分水添スチレン含有アクリル系重合体)、
8)環状酸無水物繰り返し単位を含有するアクリル系重合体等を挙げることができる。
耐熱性および光学特性の観点からグルタルイミドアクリル系樹脂をより好ましく用いることができる。
【0029】
グルタルイミドアクリル系樹脂について、以下に詳述する。グルタルイミドアクリル系樹脂としては具体的には、例えば、下記一般式(1):
【化1】
(式中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜8のアルキル基であり、Rは、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基である。)
で表される単位(以下、「グルタルイミド単位」ともいう)と、
下記一般式(2):
【化2】
(式中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜8のアルキル基であり、Rは、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基である。)
で表される単位(以下、「(メタ)アクリル酸エステル単位」ともいう)とを含むグルタルイミドアクリル系樹脂を好適に用いることができる。
【0030】
また、上記グルタルイミドアクリル系樹脂は、必要に応じて、下記一般式(3):
【化3】
(式中、Rは、水素原子または炭素数1〜8のアルキル基であり、Rは、炭素数6〜10のアリール基である。)
で表される単位(以下、「芳香族ビニル単位」ともいう)をさらに含んでいてもよい。
【0031】
上記一般式(1)において、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子またはメチル基である。Rは水素原子、メチル基、ブチル基、またはシクロヘキシル基であることが好ましく、Rはメチル基であり、Rは水素原子であり、Rはメチル基であることがより好ましい。
【0032】
上記グルタルイミドアクリル系樹脂は、グルタルイミド単位として、単一の種類のみを含んでいてもよいし、上記一般式(1)におけるR、R、およびRが異なる複数の種類を含んでいてもよい。
グルタルイミド単位は、上記一般式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステル単位が連続している場合に、当該連続した(メタ)アクリル酸エステル単位に含まれる隣接した2つのアルコキシカルボニル基(カルボン酸エステル基)をイミド化することにより、形成することができる。
【0033】
また、無水マレイン酸等の酸無水物、または、このような酸無水物と炭素数1〜20の直鎖または分岐のアルコールとのハーフエステル;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、シトラコン酸等のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸等をイミド化することによっても、上記グルタルイミド単位を形成させることができる。
【0034】
上記一般式(2)において、RおよびRは、それぞれ独立して、水素またはメチル基であり、Rは水素またはメチル基であることが好ましく、Rは水素であり、Rはメチル基であり、Rはメチル基であることがより好ましい。
上記グルタルイミドアクリル系樹脂は、(メタ)アクリル酸エステル単位として、単一の種類のみを含んでいてもよいし、上記一般式(2)におけるR、R、およびRが異なる複数の種類を含んでいてもよい。
上記グルタルイミドアクリル系樹脂は、上記一般式(3)で表される芳香族ビニル構成単位として、スチレン、α−メチルスチレン等を含むことが好ましく、スチレンを含むことがより好ましい。
また、上記グルタルイミドアクリル系樹脂は、芳香族ビニル構成単位として、単一の種類のみを含んでいてもよいし、R、およびRが異なる複数の種類を含んでいてもよい。
【0035】
上記一般式(2)において、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子またはメチル基であり、Rは水素原子またはメチル基であることが好ましく、Rは水素原子であり、Rはメチル基であり、Rはメチル基であることがより好ましい。
上記グルタルイミドアクリル系樹脂は、(メタ)アクリル酸エステル単位として、単一の種類のみを含んでいてもよいし、上記一般式(2)におけるR、R、およびRが異なる複数の種類を含んでいてもよい。
上記グルタルイミドアクリル系樹脂は、上記一般式(3)で表される芳香族ビニル構成単位として、スチレン、α−メチルスチレン等を含むことが好ましく、スチレンを含むことがより好ましい。
また、上記グルタルイミドアクリル系樹脂は、芳香族ビニル構成単位として、単一の種類のみを含んでいてもよいし、R、およびRが異なる複数の種類を含んでいてもよい。
【0036】
上記グルタルイミドアクリル系樹脂において、一般式(1)で表されるグルタルイミド単位の含有量は、特に限定されるものではなく、例えば、Rの構造等に依存して変化させることが好ましい。
【0037】
一般的には、上記グルタルイミド単位の含有量は、グルタルイミドアクリル系樹脂の1重量%以上が好ましく、1重量%〜95重量%がより好ましく、2重量%〜90重量%がさらに好ましく、3重量%〜80重量%が特に好ましい。
グルタルイミド単位の含有量が上記範囲内であれば、得られるグルタルイミドアクリル系樹脂の耐熱性および透明性が低下したり、成形加工性、およびフィルムに加工したときの機械的強度が低下したりしにくい。
【0038】
一方、グルタルイミド単位の含有量が上記範囲より少ないと、得られるグルタルイミドアクリル系樹脂の耐熱性が不足したり、透明性が損なわれたりする傾向がある。また、上記範囲よりも多いと、不必要に耐熱性および溶融粘度が高くなり、成形加工性が悪くなったり、フィルム加工時の機械的強度が極端に脆くなったり、透明性が損なわれたりする傾向がある。
【0039】
上記グルタルイミドアクリル系樹脂において、一般式(3)で表される芳香族ビニル単位の含有量は、特に限定されるものではなく、求められる物性に応じて適宜設定することが可能である。使用される用途によっては、一般式(3)で表される芳香族ビニル単位の含有量は0重量%であってもよい。
一般式(3)で表される芳香族ビニル単位を含む場合、その含有量は、グルタルイミドアクリル系樹脂の総繰り返し単位を基準として、10重量%以上とすることが好ましく、10重量%〜40重量%とすることがより好ましく、15重量%〜30重量%とすることがさらに好ましく、15重量%〜25重量%とすることが特に好ましい。芳香族ビニル単位の含有量が上記範囲内であれば、得られるグルタルイミドアクリル系樹脂の耐熱性が不足したり、フィルム加工時の機械的強度が低下したりしにくい。
一方、芳香族ビニル単位の含有量が上記範囲より多いと、得られるグルタルイミドアクリル系樹脂の耐熱性が不足する傾向がある。
【0040】
上記グルタルイミドアクリル系樹脂には、必要に応じ、グルタルイミド単位、(メタ)アクリル酸エステル単位、および芳香族ビニル単位以外のその他の単位がさらに共重合されていてもよい。
その他の単位としては、例えば、アクリロニトリルやメタクリロニトリル等のニトリル系単量体、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系単量体を共重合してなる構成単位を挙げることができる。
これらのその他の単位は、上記グルタルイミドアクリル系樹脂中に、直接共重合していてもよいし、グラフト共重合していてもよい。
【0041】
上記グルタルイミドアクリル系樹脂の重量平均分子量は特に限定されるものではないが、1×10〜5×10であることが好ましい。上記範囲内であれば、成形加工性が低下したり、フィルム加工時の機械的強度が不足したりしにくい。一方、重量平均分子量が上記範囲よりも小さいと、フィルムにした場合の機械的強度が不足する傾向がある。また、上記範囲よりも大きいと、溶融押出時の粘度が高く、成形加工性が低下し、成形品の生産性が低下する傾向がある。
【0042】
また、上記グルタルイミドアクリル系樹脂のガラス転移温度は特に限定されるものではないが、110℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましい。ガラス転移温度が上記範囲内であれば、得られる熱可塑性樹脂組成物の適用範囲を広げることができる。
【0043】
上記グルタルイミドアクリル系樹脂の製造方法は特に制限されないが、例えば、特開2008−273140号公報に記載されている方法等があげられる。
【0044】
(ゴム部を有する多層構造粒子)
第1熱可塑性樹脂組成物は、架橋度が2.3重量%以上4.0重量%以下でありかつ粒子径が180nm以上400nm以下であるゴム部を有する多層構造粒子を含む。かかる多層構造粒子は、フィルムの滑性を高めフィルムにアンチブロッキング性を付与するとともに、フィルム内での分散性に優れ、フィルムの透明性を低下させにくい。
【0045】
また、多層構造粒子は、2.3重量%以上4.0重量%以下の架橋度を有するゴム部を含む。このため、多層構造粒子は、ある程度の硬さを有する。その結果、多層構造粒子を含むフィルムが、フィルム同士、またはフィルムとロールとで接触する場合に、多層構造粒子は変形しにくく、フィルムに滑性が付与される。
なお、架橋度とは、ゴム部の材質の製造に使用された単量体についての、単量体の総重量に対する、2官能性以上の多官能性単量体の重量の比率(重量%)である。
【0046】
ゴム部の架橋度が2.3重量%未満である場合、ゴム部が柔軟であるため、フィルム表面から突出した多層構造粒子がロールやフィルムに接触した場合に変形しやすい。このため、フィルムに所望する滑性を付与しにくい。
ゴム部の架橋度が4.0重量%超である場合、多層構造粒子に割れや欠けが発生しやすく、所望する滑性をフィルム中央部に付与できなかったり、フィルム製造時に微粉が生じたりする場合がある。
【0047】
さらに、ゴム部の粒子径は、180nm以上400nm以下である。かかるサイズのゴム部を含む多層構造粒子を用いることで、フィルムの透明性を損なうことなく、フィルムに滑性を付与しやすい。ゴム部の粒子径が、180nm未満である場合、フィルムに所望する程度の滑性を付与しにくい。また、ゴム部の粒子径が400nm超である場合、所望する程度の透明性を有するフィルムを得にくい。ここで、ゴム部の粒子径は、株式会社 日立ハイテクノロジーズのU−5100形レシオビーム分光光度計を用いて、546nmの波長の光散乱を用いて求められる。
【0048】
前述の熱可塑性樹脂と、上記の多層構造粒子とを含む第1熱可塑性樹脂組成物は、ダイ出口の幅方向に関する中央部から押し出されるため、得られる光学フィルムの幅方向に関する中央部付近は、滑性に優れる領域である。
このため、第1の製造方法では、フィルム同士やフィルムとロールとの接触に起因する傷や凹凸欠陥(ブロッキング起因欠陥)の発生が抑制される。
【0049】
多層構造粒子は、上記の所定の要件を備えるゴム部を有するコア粒子と、シェル層とからなる。シェル層は単層であっても、多層であってもよい。
【0050】
シェル層は、共有結合等によりゴム部に化学的に結合していてもよく、ゴム部に化学的に結合することなく、ゴム部を被覆していてもよい。また、シェル層が、2層以上の多層構造である場合、シェル層を構成する各層は、共有結合等により相互に化学的に結合していてもよく、化学的に結合していなくてもよい。
シェル層を、ゴム部の表面、または他のシェル層の表面に化学的に結合させる方法の好適な例としては、グラフト重合によりシェル層を形成させる方法が挙げられる。シェル層の存在により、混合する熱可塑性樹脂との相溶性が向上し、均一に粒子を分散させることができる。シェル層がない粒子を熱可塑性樹脂に混合すると、粒子が均一に分散しにくく、フィルムの透明性が低下する場合がある。
【0051】
ゴム部の材質としては、例えば、ブタジエン系架橋重合体、(メタ)アクリル系架橋重合体、オルガノシロキサン系架橋重合体等が挙げられる。なかでも、フィルムの耐候性(耐光性)、透明性の面で、(メタ)アクリル系架橋重合体(本願明細書において、(メタ)アクリル系共重合体からなるゴム部を、アクリル系ゴム粒子ともいう)が特に好ましい。
【0052】
アクリル系ゴム粒子としては、例えばABS樹脂ゴム粒子、ASA樹脂ゴム粒子、アクリル酸エステル系ゴム粒子が挙げられる。
多層構造粒子としては、これらのアクリル系ゴム粒子の表面に、所望する単量体を用いてグラフト重合を行ってシェル層を形成して得られるコアシェル粒子が好ましい。
得られるフィルムの透明性等の点から、多層構造粒子としては、以下に示すアクリル酸エステル系ゴム状重合体の粒子の表面にグラフト重合を行って得られる、アクリル系グラフト共重合体粒子が好ましい。
アクリル系グラフト共重合体粒子は、アクリル酸エステル系ゴム状重合体の粒子の存在下に、メタクリル酸エステルを主成分とする単量体混合物を重合して得ることができる。
【0053】
ゴム部の材質である、アクリル酸エステル系ゴム状重合体は、アクリル酸エステルを主成分としたゴム状重合体である。具体的には、アクリル酸エステル50〜100重量%および共重合可能な他のビニル系単量体50〜0重量%からなる単量体混合物(100重量%)並びに、1分子あたり2個以上の非共役な反応性二重結合を有する多官能性単量体を重合させてなるものが好ましい。
多官能性単量体は、ゴム部の架橋度が、2.3重量%以上4.0重量%以下の範囲内であるように、所望する量使用される。
単量体を全部混合して使用してもよく、また単量体組成を変化させて2段以上で使用してもよい。
【0054】
アクリル酸エステルとしては、重合性やコストの点より、アルキル基の炭素数1〜12のものを用いることが好ましい。例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸sec−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸フェニル、およびアクリル酸2−フェノキシエチル等が挙げられる。
これらのアクリル酸エステルは2種以上併用してもよい。
アクリル酸エステル量は、単量体混合物100重量%において50重量%以上100重量%以下が好ましく、60重量%以上99重量%以下がより好ましく、70重量%以上99重量%以下がさらに好ましく、80重量%以上99重量%以下が最も好ましい。
50重量%未満では耐衝撃性が低下し、引張破断時の伸びが低下し、フィルム切断時にクラックが発生しやすくなる傾向がある。
【0055】
アクリル酸エステルと共重合可能な他のビニル系単量体としては、耐候性、透明性の点より、メタクリル酸エステル類が特に好ましい。メタクリル酸エステル類としては、例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸sec−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2−フェノキシエチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸フェニル、およびメタクリル酸n−オクチル等が挙げられる。
【0056】
また、芳香族ビニル類およびその誘導体、およびシアン化ビニル類も好ましい。これらのビニル系単量体としては、例えば、スチレン、メチルスチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等があげられる。その他、無置換および/または置換無水マレイン酸類、(メタ)アクリルアミド類、ビニルエステル、ハロゲン化ビニリデン、(メタ)アクリル酸およびその塩、(ヒドロキシアルキル)アクリル酸エステル等が挙げられる。
【0057】
アクリル酸エステルを主成分とする単官能性の単量体と共重合される多官能性単量体としては、例えば、アリルメタクリレート、アリルアクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルフタレート、ジアリルマレート、ジビニルアジペート、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチルロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、およびこれらのアクリレート類等を使用することができる。これらの多官能性単量体は2種以上使用してもよい。
【0058】
多層構造重合体は、前記ゴム部の内側(中心側)に、さらに他の重合体層を有していてもよい。アンチブロッキング性の観点から、メタクリル酸アルキルエステル40〜100重量%、および、これと共重合可能な二重結合を有する他の単量体60〜0重量%からなる単量体混合物、並びに、当該単量体混合物100重量部に対して多官能性単量体0.01〜10重量部を重合して得られるメタクリル系架橋重合体層を有することが好ましい。共重合可能な二重結合を有する単量体としては、上述の共重合可能な他のビニル系単量体や、アクリル酸エステル等を同様に例示される。
ゴム部と、ゴム部の表面にグラフト重合により形成されたシェル層とを備える、アクリル系グラフト共重合体は、アクリル酸エステル系ゴム状重合体の粒子5〜90重量部(より好ましくは、5〜75重量部)の存在下に、メタクリル酸エステルを主成分とする単量体混合物95〜25重量部を少なくとも1段階で重合させることより得られるものが好ましい。
【0059】
グラフト共重合組成(単量体混合物)中のメタクリル酸エステルは50重量%以上が好ましい。50重量%未満では得られるフィルムの硬度、剛性が低下する傾向がある。
グラフト共重合に用いられる単量体としては、前述のメタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、これらを共重合可能なビニル系単量体を同様に使用でき、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステルが好適に使用される。アクリル系樹脂との相溶性の観点からメタクリル酸メチル、ジッパー解重合を抑制する点からアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチルが好ましい。
【0060】
光学的等方性の観点からは、脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有する(メタ)アクリル系単量体(「環構造含有(メタ)アクリル系単量体」と称する。)も、グラフト共重合用の単量体として好ましい。具体的には、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、および(メタ)アクリル酸2−フェノキシエチル等が挙げられる。
【0061】
その使用量は、グラフト共重合用の単量体混合物の総量(環構造含有(メタ)アクリル系単量体およびこれと共重合可能な他の単官能性単量体の総量)100重量%において1〜100重量%が好ましく、5〜70重量%がより好ましく、5〜50重量%が最も好ましい。
【0062】
ここでいう、環構造含有(メタ)アクリル系単量体と共重合可能な他の単官能性単量体には、前述のメタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、共重合可能な他のビニル系単量体が同様に使用できるが、メタクリル酸エステルおよびアクリル酸エステルを含むことが好ましい。
【0063】
メタクリル酸エステルは、前述の環構造含有ビニル系単量体およびこれと共重合可能な他の単官能性単量体の総量100重量%において0〜98重量%含まれることが好ましく、0.1〜98重量%含まれることがより好ましく、1〜94重量%がさらに好ましく、30〜90重量%が特に好ましい。
また、アクリル酸エステルは、前述の環構造含有ビニル系単量体およびこれと共重合可能な他の単官能性単量体の総量100重量%において0〜98重量%含まれることが好ましく、0.1〜98重量%含まれることがより好ましく、1〜50重量%がさらに好ましく、5〜50重量%が特に好ましい。
【0064】
アクリル酸エステル系ゴム状重合体の粒子に対するグラフト率は、10〜250%が好ましく、より好ましくは40〜230%、最も好ましくは60〜220%である。
グラフト率が10%未満では、フィルム中でアクリル系グラフト共重合体粒子が凝集しやすく、透明性が低下したり、異物原因となるおそれがある。また引張破断時の伸びが低下しフィルム切断時にクラックが発生しやすくなったりする傾向がある。250%を超えると、例えばフィルム成形時の溶融粘度が高くなり、フィルムの成形性が低下する傾向がある。
【0065】
上記グラフト率とは、アクリル系グラフト共重合体粒子におけるグラフト成分の重量比率であり、例えば、次の方法で測定される。
アクリル系グラフト共重合体粒子2gをメチルエチルケトン50mlに溶解させ、遠心分離機(日立工機(株)製、CP60E)を用い、回転数30000rpm、温度12℃にて1時間遠心し、不溶分と可溶分とに分離する(遠心分離作業を合計3回セット)。得られた不溶分の重量と、アクリル系グラフト共重合体粒子に含まれるアクリル酸エステル系ゴム状重合体の重量とから、以下の式によりグラフト率を算出する。
グラフト率(%)=[{(メチルエチルケトン不溶分の重量)−(アクリル酸エステル系ゴム状重合体の重量)}/(アクリル酸エステル系ゴム状重合体の重量)]×100
【0066】
アクリル系グラフト共重合体粒子は、一般的な乳化重合法によって製造できる。具体的には、水溶性重合開始剤の存在下、乳化剤を用いてアクリル酸エステル単量体を連続的に重合させる方法を例示できる。
乳化重合法では、連続重合を単一の反応槽で行うことが好ましく、二槽以上の反応槽を用いるとラテックスの機械的安定性が低下するため好ましくない。
重合温度としては30℃以上100℃以下が好ましく、より好ましくは50℃以上80℃以下である。30℃未満では生産性が低下する傾向があり、100℃を超えた温度では、目標分子量が過剰に大きくなる等によって、品質が低下する傾向がある。
重合反応槽へ連続的に添加する単量体、開始剤、乳化剤および脱イオン水等の原料類は、定量ポンプの制御下で正確に添加するが、反応槽内で発生する重合熱の除熱量を確保するため必要に応じて予め冷却しても支障ない。
反応槽から払い出されたラテックスには、必要に応じて重合禁止剤、凝固剤、難燃剤、酸化防止剤、pH調節剤を添加してもよく、未反応単量体の回収や後重合を行ってもよい。その後、凝固、熱処理、脱水、水洗、乾燥等公知の方法を経て共重合体を得ることができる。
【0067】
乳化重合においては、通常の重合開始剤を使用できる。例えば過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の無機過酸化物や、クメンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等の有機過酸化物、さらにアゾビスイソブチロニトリル等の油溶性開始剤も使用される。これらは単独または2種以上併用してもよい。これらの開始剤は亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ナトリウムホルムアルデヒド、スルフォキシレート、アスコロビン酸、硫酸第一鉄、エチレンジアミン四酢酸2ナトリウム錯体等の還元剤と併用した通常のレドックス型重合開始剤として使用してもよい。
【0068】
重合開始剤と合わせて連鎖移動剤を併用してもよい。連鎖移動剤には炭素数2〜20のアルキルメルカプタン、メルカプト酸類、チオフェノール、四塩化炭素等が挙げられ、これらは単独または2種以上併用してもよい。
【0069】
乳化重合法にて使用する乳化剤に関して特に制限はなく、通常の乳化重合用の乳化剤を使用することが出来る。例えば、アルキル硫酸ナトリウム等の硫酸エステル塩系界面活性剤、アルキルベンゼンスルフォン酸ナトリウム、アルキルスルフォン酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等のスルホン酸塩系界面活性剤、アルキルリン酸ナトリウムエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸ナトリウムエステル等のリン酸塩系界面活性剤といったアニオン系界面活性剤が挙げられる。また上記ナトリウム塩はカリウム塩等の他のアルカリ金属塩やアンモニウム塩でもよい。これらの乳化剤は単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。さらに、ポリオキシアルキレン類またはその末端水酸基のアルキル置換体またはアリール置換体に代表される、非イオン性界面活性剤を使用または一部併用しても差し支えない。その中でも、重合反応安定性、粒子系制御性の点から、スルホン酸塩系界面活性剤、またはリン酸塩系界面活性剤が好ましく、中でも、ジオクチルスルホコハク酸塩、またはポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩がより好ましく用いることができる。
【0070】
乳化剤の使用量は、単量体成分全体100重量部に対して、0.05重量部以上10重量部が好ましく、0.1重量部以上1.0重量部以下であることがより好ましい。0.05重量部より少量では、共重合体の粒子径が大きくなり過ぎる傾向があり、10重量部より多量ではグラフト共重合体の粒子径が小さくなりすぎる、また、粒度分布が悪化する傾向がある。
【0071】
以上説明した多層構造粒子と、熱可塑性樹脂とが混合され、第1熱可塑性樹脂組成物が得られる。
多層構造粒子と、熱可塑性樹脂とは、フィルムを製造する前に、常法に従って、均一にペレット化されてもよいし、フィルム製造時に、押出機にて混合されてもよい。
多層構造粒子の使用量は、本発明の目的が阻害されない範囲で特に限定されない。多層構造粒子の使用量は、熱可塑性樹脂100重量部に対して、0.1〜2.0重量部が好ましく、0.2〜1.5重量部がより好ましい。
多層構造粒子の使用量が、0.1重量部よりも少ないと、得られるフィルムの第1樹脂組成物からなる部分に所望する程度の滑性を付与しにくく、フィルムを巻き取る際にブロッキング起因欠陥が発生しやすい。
また、多層構造粒子の使用量が、2.0重量部よりも多いと、フィルムに過度な滑性が与えられ、搬送トラブルが生じる場合がある。
【0072】
(その他の成分)
第1熱可塑性樹脂組成物は、多層構造粒子以外に、熱や光に対する安定性を向上させるための酸化防止剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤等を単独または2種以上含んでいてもよい。
【0073】
また、第1熱可塑性樹脂組成物は、第2熱可塑性樹脂組成物について後述する、多層構造粒子以外のゴム粒子を含んでいてもよい。
第1熱可塑性樹脂組成物が多層構造粒子以外のゴム粒子を含むことにより、フィルム中央部に靱性が付与され、その結果、搬送工程でのフィルムの割れや、スリット部でのスリット不良に伴う微粉の発生が生じにくくなり、生産性を向上させることができる。
【0074】
第1熱可塑性樹脂組成物における、多層構造粒子以外のゴム粒子の含有量は、熱可塑性樹脂と多層構造粒子以外のゴム粒子を併せて100重量部とした時に、3重量部以上30重量部以下であることが好ましく、5重量部以上20重量部以下であることがさらに好ましい。3重量部よりも少ないと、靭性の付与が十分に行えないために好ましくない。また、30重量部よりも多いと、溶融粘度が増大し成形が困難になるために好ましくない。
【0075】
<第2熱可塑性樹脂組成物>
前述の通り、第1の製造方法における共押出しでは、少なくも、前述の第1熱可塑性樹脂組成物と、第2熱可塑性樹脂組成物を用いる。
第2熱可塑性樹脂組成物は、前述の多層構造粒子を含まないか、第1熱可塑性樹脂組成物よりも少量の多層構造粒子を含む。
このため、第2熱可塑性樹脂組成物からなるフィルムの両端部は滑性に乏しく、その結果、フィルム搬送時の蛇行が抑制され、フィルムへの皴や傷の発生や、巻きズレも抑制される。
以下、第2熱可塑性樹脂組成物が含有する、必須または任意の成分について説明する。
【0076】
(熱可塑性樹脂)
第2熱可塑性樹脂組成物が含有する熱可塑性樹脂は、第1熱可塑性樹脂組成物について説明したものと同様である。
第1熱可塑性樹脂組成物と同様、透明性の観点から、第2熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂としてアクリル系樹脂を含むのが好ましい。
また、当該アクリル系樹脂としては、第1熱可塑性樹脂組成物について説明した耐熱性のアクリル系樹脂が好ましい。
【0077】
(ゴム部を有する多層構造粒子)
第2熱可塑性樹脂組成物がゴム部を有する多層構造粒子を含有する場合、当該多層構造粒子は、第1熱可塑性樹脂組成物について説明したものと同様である。
第2熱可塑性樹脂組成物における多層構造粒子の含有量は、第1熱可塑性樹脂組成物における多層構造粒子の含有量よりも少なければ特に限定されない。
第2熱可塑性樹脂組成物における多層構造粒子の含有量は、第1熱可塑性樹脂組成物における多層構造粒子の含有量の50重量%以下が好ましく、30重量%以下がより好ましく、10重量%以下が特に好ましい。
特に、フィルム搬送時の蛇行の抑制効果が優れる点からは、第2熱可塑性樹脂組成物が多層構造粒子を含まないのが最も好ましい。
【0078】
(ゴム粒子)
第2熱可塑性樹脂組成物は、上記の多層構造粒子以外のゴム粒子を含むのが好ましい。
第2熱可塑性樹脂組成物が多層構造粒子以外のゴム粒子を含むことにより、フィルム両端部に靱性が付与され、その結果、搬送工程でのフィルムの割れや、スリット部でのスリット不良に伴う微粉の発生が生じにくくなり、生産性を向上させることができる。
【0079】
ゴム粒子は、本発明の目的を阻害しないものであって、上記の多層構造粒子と異なるものであれば特に限定されない。
ゴム粒子も、上記の多層構造粒子と同じく、ゴム部からなるコアと、1層または2層以上のシェル層とからなる多層構造を有するのが好ましい。シェル層の存在により、混合する熱可塑性樹脂との相溶性が向上し、均一に粒子を分散させることができる。シェル層がないゴム粒子を用いることもできるが、シェル層がないゴム粒子を熱可塑性樹脂に混合すると、ゴム粒子が均一分散しにくく、フィルムの透明性が低下する場合がある。
ゴム部のガラス転移温度は、特に限定されないが、20℃未満が好ましい。
【0080】
ゴム粒子に含まれるゴム部の架橋度は、フィルム両端部の滑性を小さくできる点で、2.3重量%未満であるのが好ましく、低いほど好ましい。
また、ゴム粒子に含まれるゴム部の粒子径は特に限定されないが、上記の多層構造粒子に含まれるゴム部の粒子径と同様であるのが好ましい。
【0081】
多層構造を有する好適なゴム粒子は、ゴム部の架橋度が異なる他は、第1熱可塑性樹脂組成物について説明した多層構造粒子と、同様の材料および同様の方法により製造できる。
【0082】
第2熱可塑性樹脂組成物における、多層構造粒子以外のゴム粒子の含有量は、第1熱可塑性樹脂組成物におけるゴム粒子の含有量と好ましくは同様である。第1熱可塑性部樹脂と、第2熱可塑性樹脂とでゴム粒子の含有量に差異が大きいとTダイから吐出しフィルム状に引き伸ばす際の溶融伸びが、第1熱可塑性樹脂からなる領域と第2熱可塑性樹脂からなる領域とで変化し、フィルム厚みが変動する等の影響を与えるため、好ましくない。第1熱可塑性部樹脂と、第2熱可塑性樹脂とでゴム粒子の含有量の差異としては±30%以内が好ましい。
【0083】
(その他の成分)
第2熱可塑性樹脂組成物は、多層構造粒子、およびゴム粒子以外に、熱や光に対する安定性を向上させるための酸化防止剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤等を単独または2種以上含んでいてもよい。
【0084】
<光学フィルム>
以上説明した、第1の製造法によれば、光学フィルムの幅方向に関して、
中央部は、架橋度が2.3重量%以上4.0重量%以下でありかつ粒子径が180nm以上400nm以下であるゴム部を有する多層構造粒子を含む第1領域であり、
両端部は、多層構造粒子を含まないまたは第1領域よりも低い量で含む第2領域である、光学フィルムを製造することができる。
【0085】
ブロッキング起因欠陥の発生と、フィルムの蛇行とを抑制しやすいことから、第1領域の静摩擦係数(荷重200g、FS50%)は0.2以上0.8以下が好ましく、第2領域の静摩擦係数(荷重200g、FS50%)は0.6以上が好ましい。
なお、第2領域の静摩擦係数は、第1領域の静摩擦係数よりも高い。第2領域の静摩擦係数は、第1領域の静摩擦係数よりも0.1以上高いのが好ましい。
【0086】
かかる光学フィルムは、フィルム同士の接触等により生じる、傷や凹凸の発生のようなブロッキング起因欠陥の発生と、フィルムの蛇行による、フィルムへの皴や傷の発生や、巻きズレの発生とが抑制されており、高品質である。
【0087】
ここで、フィルム幅方向に関する第2領域の幅は、本発明の目的が阻害されない範囲で特に限定されない。第2領域の幅は、フィルムの幅方向に関する両最端部から各々20mm以上が好ましく、30mm以上がより好ましい。
また、第2領域の幅の合計は、フィルム全幅に対して15%以下であるのが好ましい。
なお、フィルム全幅によって第2領域の幅の上限の好ましい値は異なるが、典型的には、第2領域の幅は、フィルムの幅方向に関する両最端部から150mm以下が好ましく、100mm以下がより好ましい。
【0088】
上記の光学フィルムは、例えばスリット加工等の方法により、第2領域を切除した後に使用されてもよい。
【0089】
≪第2の製造方法≫
以下、滑性粒子を含む第1熱可塑性樹脂組成物と、滑性粒子を含まないまたは第1熱可塑性樹脂組成物よりも低い量で含む第2熱可塑性樹脂組成物とを、ダイ出口の幅方向に関して互いに異なる箇所から共押出し、フィルム状に成形する光学フィルムの製造方法について、第2の製造方法と記載する。
【0090】
第2の製造方法について、第1の製造方法について説明した、第1熱可塑性樹脂組成物の必須成分である多層構造粒子が、後述する滑性粒子に変更されている。
その他の点について、第2の製造方法において用いる第1熱可塑性樹脂組成物は、第1の製造方法において用いる第1熱可塑性樹脂組成物と同様である。
また、第2熱可塑性樹脂組成物についても、前述の多層構造粒子にかえて、後述する滑性粒子が、必要に応じて、第1熱可塑性樹脂組成物における量よりも少量配合される。
【0091】
さらに、第2の製造方法では、第1熱可塑性樹脂組成物と、第2熱可塑性樹脂組成物とが、ダイ出口における幅方向に関して、それぞれ異なる箇所から吐出されればよい。
第2熱可塑性樹脂組成物が吐出される箇所は、ダイ出口の幅方向関する両端部に限定されない。
第2熱可塑性樹脂組成物が吐出される箇所は、1箇所であっても、2箇所以上の複数の箇所でもよい。第2熱可塑性樹脂組成物が吐出される箇所が、2箇所以上の複数の箇所である場合、第2熱可塑性樹脂組成物からなる複数の領域に挟まれた領域についてフィルム輸送時のずれが顕著に抑制される。
【0092】
滑性粒子は、フィルムに滑性を付与できる粒子であれば特に限定されず、従来から透明な樹脂組成物への滑性付与目的で使用されている種々の粒子状の添加剤を用いることができる。
ここで、滑性粒子とは、熱可塑性樹脂85重量部と粒子0.5重量部とからなる熱可塑性樹脂組成物をフィルム化して、得られたフィルムの静摩擦係数(荷重200g、FS50%)をAとする場合に、当該Aが、熱可塑性樹脂のみからなるフィルムの静摩擦係数(荷重200g、FS50%)Bに対して60%以下である粒子を言う。
なお、Aを測定するためのフィルムと、Bを測定するためのフィルムとは同条件で作成される。
【0093】
滑性粒子の好適な具体例としては、コロイダルシリカ等のシリカ、カオリン、タルク、酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、酸化マグネシウム、ガラス粒子、長石、およびゼオライト等の無機粒子や、アクリル粒子、シリコーン樹脂粒子、ポリイミド樹脂粒子、およびテフロン(登録商標)粒子等の有機粒子が挙げられる。
また、第1の製造方法について記載した多層構造粒子も滑性粒子として用いることができる。
【0094】
さらに、有機架橋重合体粒子を滑性粒子として用いることもできる。有機架橋重合体粒子としては、例えば、メタクリル酸メチル等の単官能モノマーと、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アリル、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の多官能モノマーとを、懸濁重合させて得た(メタ)アクリル架橋粒子(特許4034157号公報参照)が挙げられる。
懸濁重合時に、スチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン等のスチレン系モノマーをさらに共重合させたスチレン−(メタ)アクリル架橋粒子であってもよい。また、(メタ)アクリル酸モノマー、(メタ)アクリル酸エステルモノマーおよびスチレン系モノマーから選ばれる少なくとも1種を、乳化重合、ソープフリー乳化重合、ミニエマルジョン重合、分散重合またはシード重合させて得た(メタ)アクリル架橋粒子あるいはスチレン−(メタ)アクリル架橋粒子であってもよい。
【0095】
有機−無機複合粒子を滑性粒子として用いることもできる。有機−無機複合粒子は、有機質部分と無機質部分とからなる。有機−無機複合粒子における無機質部分の含有率は、無機酸化物換算で、例えば、0.5〜90重量%であり、1〜70重量%が好ましく、2〜60重量%がより好ましい。ここで、無機酸化物換算の含有率とは、具体的には、有機−無機複合粒子の重量に対する、当該粒子を空気中等の酸化雰囲気中において高温(例えば1000℃以上)で焼成したときに残留する無機酸化物の重量の比で表される数値である。
【0096】
有機−無機複合粒子の好ましい具体例は、特開平8−81561号公報に記載されている、有機ポリマー骨格と、当該骨格中の少なくとも1個の炭素原子にケイ素原子が直接化学結合した有機ケイ素を有するポリシロキサン骨格とを有し、ポリシロキサン骨格を構成するSiOの含有率が25重量%以上である粒子、並びに特開2003−183337号公報に記載されている、(メタ)アクリロキシ基を有するポリシロキサン粒子の構造中にビニル系重合体が含まれてなる粒子である。
【0097】
第1熱可塑性樹脂組成物における滑性粒子の含有量は、第1の製造方法において用いる第1熱可塑性樹脂組成物における多層構造粒子の含有量と同様である。
【0098】
第2の方法によれば、滑性粒子を含む第1熱可塑性樹脂組成物により、滑性が付与された第1領域がフィルム中に形成される。これにより、フィルム同士の接触等により生じる、傷や凹凸の発生のようなブロッキング起因欠陥の発生が抑制される。
また、滑性粒子を含まないか、少量しか含まない第2熱可塑性樹脂組成物により、滑性に乏しい第2領域がフィルム中に形成される。これにより、フィルム搬送時の蛇行が抑制され、その結果、フィルムへの皴や傷の発生や、巻きズレの発生が抑制される。
【0099】
ダイ出口における、第2熱可塑性樹脂組成物が吐出される幅方向に関する領域は、1箇所であっても、2箇所以上であってもよい。
第2熱可塑性樹脂組成物が吐出される幅方向に関する領域は、2箇所以上であるのが好ましく、当該2箇所はダイ出口の幅方向に関する両端部であるのが好ましい。
【0100】
ここで、ダイ出口における、第2熱可塑性樹脂組成物が吐出される幅方向に関する領域の幅の合計は、所望する効果が得られる限り特に限定されず、40mm以上が好ましく、60mm以上がより好ましい。
また、ダイ出口における、第2熱可塑性樹脂組成物が吐出される幅方向に関する領域の幅の合計は、ダイの全幅に対して15%以下であるのが好ましい。
なお、フィルムの全幅によって第2熱可塑性樹脂組成物が吐出される幅方向に関する領域の幅の合計の上限の好ましい値は異なるが、典型的には、300mm以下が好ましく、200mm以下がより好ましい。
【0101】
第2熱可塑性樹脂組成物がダイ出口の幅方向に関する両端部から吐出される場合、ダイ出口の幅方向に関する両端部の幅は、本発明の目的が阻害されない範囲で特に限定されない。両端部の幅は、ダイ出口12の両最端部から各々20mm以上が好ましく、30mm以上がより好ましい。
また、両端部の幅の合計は、ダイの全幅に対して15%以下であるのが好ましい。
なお、フィルムの全幅によって両端部の幅の上限の好ましい値は異なるが、典型的には、両端部の幅は、ダイ出口12の両最端部から150mm以下が好ましく、100mm以下がより好ましい。
【0102】
以上説明した、第1の製造法によれば、光学フィルムの幅方向に関して、
滑性粒子を含む第1領域と、
滑性粒子を含まないまたは第1領域よりも低い量で含む第2領域と、を有する光学フィルムが光学フィルムを製造することができる。
【0103】
ブロッキング起因欠陥の発生と、フィルムの蛇行とを抑制しやすいことから、第1領域の静摩擦係数(荷重200g、FS50%)は0.2以上0.8以下が好ましく、第2領域の静摩擦係数(荷重200g、FS50%)は0.6以上が好ましい。
なお、第2領域の静摩擦係数は、第1領域の静摩擦係数よりも高い。第2領域の静摩擦係数は、第1領域の静摩擦係数よりも0.1以上高いのが好ましい。
【0104】
かかる光学フィルムは、フィルム同士の接触等により生じる、傷や凹凸の発生のようなブロッキング起因欠陥の発生と、フィルムの蛇行による、フィルムへの皴や傷の発生や、巻きズレの発生とが抑制されており、高品質である。
【0105】
ここで、フィルム幅方向に関する第2領域の幅は、本発明の目的が阻害されない範囲で特に限定されない。第2領域のフィルムの幅方向に関する幅の合計は、40mm以上が好ましく、60mm以上がより好ましい。
また、第2領域の幅の合計は、フィルム全幅に対して15%以下の範囲であるのが好ましい。
なお、フィルム全幅によって第2領域の幅の合計の上限の好ましい値は異なるが、典型的には、第2領域の幅の合計は、300mm以下が好ましく、200mm以下がより好ましい。
【0106】
第2領域がフィルムの幅方向に関する両端部に形成される場合、両端部におけるそれぞれの第2領域の幅は、本発明の目的が阻害されない範囲で特に限定されない。両端部の第2領域のそれぞれの幅は、ダイ出口12の両最端部から各々20mm以上が好ましく、30mm以上がより好ましい。
また、両端部の第2領域の幅の合計は、フィルムの全幅に対して15%以下の範囲であるのが好ましい。
なお、フィルムの全幅によって両端部の第2領域の幅の上限の好ましい値は異なるが、典型的には、両端部の第2領域の幅は、フィルムの両最端部から150mm以下が好ましく、100mm以下がより好ましい。
【0107】
上記の光学フィルムは、例えばスリット加工等の方法により、第2領域を切除した後に使用されてもよい。
【0108】
以上説明した、第1の製造方法および第2の製造方法によって製造される得る光学フィルムは、液晶表示装置、有機EL装置等の表示装置に用いられる部材、例えば、偏光板保護フィルム、位相差フィルム、輝度向上フィルム、液晶基板、光拡散シート、プリズムシート等に用いることができる。中でも、偏光板保護フィルムや位相差フィルムに好適である。
【実施例】
【0109】
以下、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0110】
以下の実施例および比較例で測定した各物性の測定方法は次の通りである。
(多層構造粒子のゴム部の平均粒子径)
得られた重合体ラテックスを、固形分濃度0.02%に希釈したものを試料として、株式会社 日立ハイテクノロジーズのU−5100形レシオビーム分光光度計を用いて、546nmの波長の光散乱を用いて求めた。
(ガラス転移温度)
セイコーインスツルメンツ製の示差走査熱量分析装置(DSC)SSC−5200を用い、試料を一旦200℃まで25℃/分の速度で昇温した後10分間ホールドし、25℃/分の速度で50℃まで温度を下げる予備調整を経て、10℃/分の昇温速度で200℃まで昇温する間の測定を行い、得られたDSC曲線から積分値を求め(DDSC)、その極大点からガラス転移温度を求めた。
(巻きズレ)
巻き上がったフィルムロールの端部のずれをノギスで測定し、1mm以下を無し(○)、1mmより大きく3mm以下を軽微に発生(△)、3mmよりも大きいものを発生(×)、として評価した。
(ブロッキング起因欠陥)
巻き上がったフィルムロールに高輝度ライトを端部から当てた際に色の濃淡が観察されないものを発生無し(○)、色の濃淡が観察されるものを軽微に発生(△)、高輝度ライトを使わずに蛍光灯下で色の濃淡が観察されるものを発生(×)とした。
【0111】
(製造例1)
<製造例1:アクリル系樹脂(A1)の製造>
製造例1では、原料樹脂としてポリメタクリル酸メチル(A2)、イミド化剤としてモノメチルアミンを用いて、グルタルイミドアクリル系樹脂であるアクリル系樹脂(A1)を製造した。
この製造においては、押出反応機を2台直列に並べたタンデム型反応押出機を用いた。
タンデム型反応押出機に関しては、第1押出機、第2押出機共に直径が75mm、L/D(押出機の長さLと直径Dの比)が74の噛合い型同方向二軸押出機を使用し、定重量フィーダー(クボタ(株)製)を用いて、第1押出機の原料供給口に原料樹脂を供給した。
第1押出機、第2押出機における各ベントの減圧度は−0.095MPaとした。さらに、直径38mm、長さ2mの配管で第1押出機と第2押出機を接続し、第1押出機の樹脂吐出口と第2押出機の原料供給口を接続する部品内圧力制御機構には定流圧力弁を用いた。
第2押出機から吐出された樹脂(ストランド)は、冷却コンベアで冷却した後、ペレタイザでカッティングしペレットとした。ここで、第1押出機の樹脂吐出口と第2押出機の原料供給口を接続する部品内圧力調整、または押出変動を見極めるために、第1押出機の吐出口、第1押出機と第2押出機間の接続部品の中央部、および、第2押出機の吐出口に樹脂圧力計を設けた。
第1押出機において、原料樹脂としてポリメタクリル酸メチル樹脂(Mw:10.5万)を使用し、イミド化剤として、モノメチルアミンを用いてイミド樹脂中間体1を製造した。この際、押出機の最高温部の温度は280℃、スクリュー回転数は55rpm、原料樹脂供給量は150kg/時間、モノメチルアミンの添加量は原料樹脂100部に対して2.0部とした。定流圧力弁は第2押出機の原料供給口直前に設置し、第1押出機のモノメチルアミン圧入部圧力を8MPaになるように調整した。
第2押出機において、リアベントおよび真空ベントで残存しているイミド化剤および副生成物を脱揮したのち、エステル化剤として炭酸ジメチルを添加しイミド樹脂中間体2を製造した。この際、押出機の各バレル温度は260℃、スクリュー回転数は55rpm、炭酸ジメチルの添加量は原料樹脂100部に対して3.2部とした。さらに、ベントでエステル化剤を除去した後、ストランドダイから押し出し、水槽で冷却した後、ペレタイザでペレット化することで、アクリル系樹脂(A1)を得た。
得られたアクリル系樹脂(A1)は、グルタミルイミド単位と、(メタ)アクリル酸エステル単位が共重合したアクリル系樹脂である。
【0112】
<製造例2:ゴム粒子(B1)の製造>
製造例2では、非滑性粒子であるゴム粒子(B1)を製造した。
撹拌機付き8L重合装置に、以下の物質を仕込んだ。
脱イオン水 200部
ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウム 0.05部
ソディウムホルムアルデヒドスルフォキシレ−ト 0.11部
エチレンジアミン四酢酸−2−ナトリウム 0.004部
硫酸第一鉄 0.001部
重合機内を窒素ガスで充分に置換し実質的に酸素のない状態とした後、内温を40℃にし、アクリル系ゴム粒子(ゴム部粒子)の原料混合物(アクリル酸ブチル90%、メタクリル酸メチル10%からなる単官能性単量体45重量部に対し、メタクリル酸アリル0.45部、クメンハイドロパーオキサイド0.041部)45.491部を225分かけて連続的に添加した。原料混合物の追加開始から20分後、40分後、60分後にポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウム(ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸(東邦化学工業株式会社製、商品名:フォスファノールRD−510Yのナトリウム塩)0.2部ずつ重合機に添加した。添加終了後、さらに0.5時間重合を継続し、ゴム部粒子を得た。重合転化率は98.6%であった。
その後、内温を60℃にし、ソディウムホルムアルデヒドスルフォキシレ−ト0.2部を仕込んだ後、シェル層の原料混合物(メタクリル酸メチル57.8%、アクリル酸ブチル4%、メタクリル酸ベンジル38.2%からなる単官能性単量体55重量部に対し、t−ドデシルメルカプタン0.3部、クメンハイドロパーオキサイド0.254部)55.554部を210分間かけて連続的に添加し、さらに1時間重合を継続し、グラフト共重合体ラテックス(コアシェル構造のゴム粒子)を得た。重合転化率は100.0%であった。得られたラテックスを硫酸マグネシウムで塩析、凝固し、水洗、乾燥を行い、白色粉末状のゴム粒子(B1)を得た。
ゴム粒子(B1)の平均粒子径は121nmであった。ゴム粒子(B1)のグラフト率は56%であった。
【0113】
<製造例3:多層構造粒子(B2)の製造>
製造例3では、フィルムに滑性を付与する粒子である多層構造粒子(B2)を製造した。
以下の物質をガラス製反応器に仕込んだ。
イオン交換水 125部
ホウ酸 0.47部
炭酸ナトリウム 0.05部
ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸 0.0042部
重合機内を窒素ガスで充分に置換した後、内温を80℃にし、単量体17.5部(アクリル酸n−ブチル3%、メタクリル酸メチル97%)、メタクリル酸アリル0.17部およびt−ブチルハイドロパーオキサイド0.065部からなる混合物の25%を重合機に一括で追加し、その後5%ソディウムホルムアルデヒドスルフォキシレ−ト0.00645部、エチレンジアミン四酢酸−2−ナトリウム0.0056部、硫酸第一鉄0.0014部を追加し、その15分後にt−ブチルハイドロパーオキサイド0.022部を追加し、さらに15分重合を継続させた。その後、2%の水酸化ナトリウム水溶液を0.013部追加した。残り75%を30分かけて連続的に添加した。添加終了30分後に69%のt−ブチルハイドロパーオキサイド0.0069部を追加し、同温度で30分保持し重合を完結させた。重合転化率は98%であった。
その後、得られた重合体ラテックスを窒素気流中で80℃に保ち、水酸化ナトリウム0.0346部、過硫酸カリウム0.0519部を添加した。その後単量体32.5部(アクリル酸n−ブチル82%、スチレン18%)、メタクリル酸アリル0.97部およびポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸0.3部からなる混合物を74分にわたって連続添加した。その後、重合を完結させるために45分保持した。得られた重合体の平均粒子径は260nmであり、重合転化率は99%であった。
さらに、得られた重合体ラテックスを80℃に保ち、過硫酸カリウム0.0097部、水酸化ナトリウム0.05部添加したのち、単量体50部(メタクリル酸メチル90%、アクリル酸n−ブチル10%)からなる混合物を150分にわたって連続添加した。混合物の添加終了後1時間保持し多層構造粒子(B2)のラテックスを得た。
多層構造粒子の平均粒子径は380nmであり、重合転化率は99%であった。
得られた多層構造粒子のラテックスを硫酸マグネシウムで塩析、凝固し、水洗、乾燥を行い白色粉末状の多層構造粒子(B2)を得た。
【0114】
<製造例4:樹脂ペレット(C1)の製造>
直径75mmの二軸押出機を用い、押出機の温度調整ゾーンの設定温度を255℃、スクリュー回転数を70rpmとし、アクリル系樹脂(A1)85重量部、および白色粉末状のゴム粒子(B1)15重量部、および白色粉末状の多層構造粒子(B2)0.5重量部の混合物を、150kg/hrの割合で供給した。押出機出口に設けられたダイスからストランドとして出てきた樹脂を水槽で冷却し、ペレタイザでペレット化した。樹脂ペレット(C1)のガラス転移温度Tgは119℃であった。
【0115】
<製造例5:樹脂ペレット(C2)の製造>
樹脂ペレット(C1)に多層構造粒子(B2)を添加しなかった以外は樹脂ペレットの製造(C1)と同様にペレットを製造した。
【0116】
<製造例6:樹脂ペレット(C3)の製造>
樹脂ペレット(C1)にゴム粒子(B1)を添加しなかった以外は樹脂ペレットの製造(C1)と同様にペレットを製造した。
【0117】
<実施例1>
中央部に製造例4で得られた樹脂ペレット(C1)(ガラス転移温度Tg119℃)を用い、乾燥機にて80℃で4時間乾燥させた後、φ90mm単軸押出機に供給した。押出機出口にはスクリーンメッシュを押出機側から#40、#100、#400、#400、#100、#40の順に重ねて設置した。押出機出口で樹脂温度が250℃となるよう加熱溶融し、ギアポンプを介し1850mm幅のTダイ上部に設けたフィードブロックへと溶融樹脂を押し出した。
また、両端部に製造例5で得られた樹脂ペレット(C2)(ガラス転移温度Tg119℃)を、乾燥機にて80℃で4時間乾燥させた後、Φ40mm押出機に供給し、押出機出口で樹脂温度が250℃となるように加熱溶融し、ギアポンプを介して、同1850mm幅のTダイ上部に設けたフィードブロックへと溶融樹脂を押し出した。このとき、両端部範囲として、両際端部から150mmの範囲に調整した。
吐出した溶融樹脂に対し、ライン速度15m/分で引き取り、100℃に温調したキャストロールと100℃に温調したタッチロールにて挟み込み、冷却固化した。この時、Tダイから吐出されたフィルムが冷却固化されるまで端部の厚み変動や冷却不足による変化は見られなかった。その後、引き取りロールにて引き取り、巻き取りコア前にて両端部200mmをスリットし、巻き取りコアに厚み80μmのフィルム原反を得た。このとき、スリット前のフィルムの蛇行や端部の割れは見られず、スリット部分における割れや切粉の発生もなく、巻いた際のブロッキング起因欠陥も見られず、良好な巻き姿であった。
また、フィルム中央部の静摩擦係数(荷重200g、FS50%)は0.3であり、フィルム両端部の静摩擦係数(荷重200g、FS50%)は1.2であった。
【0118】
<実施例2>
両端部にフィードする材料を、樹脂ペレット(C2)からアクリル系樹脂(A1)に変更した以外は、実施例1と同様に実施した。
吐出した溶融樹脂に対し、ライン速度15m/分で引き取り、100℃に温調したキャストロールと100℃に温調したタッチロールにて挟み込み、冷却固化した。この時、Tダイから吐出されたフィルムが冷却固化されるまで端部の厚み変動や冷却不足による変化は見られなかった。その後、引き取りロールにて引き取り、巻き取りコア前にて両端部200mmをスリットし、巻き取りコアに厚み80μmのフィルム原反を得た。このとき、スリット前のフィルムの蛇行はなかったが、フィルム端部において2度割れが生じた。また、スリット部分における割れや切粉の発生はなく、巻いた際のブロッキング起因欠陥も見られず、良好な巻き姿であった。
また、フィルム中央部の静摩擦係数(荷重200g、FS50%)は0.3であり、フィルム両端部の静摩擦係数(荷重200g、FS50%)は1.8であった。
【0119】
<実施例3>
中央部にフィードする材料を、樹脂ペレット(C1)から、樹脂ペレット(C3)(ガラス転移温度Tg119℃)に変更した以外は、実施例1と同様に実施した。
吐出した溶融樹脂に対し、ライン速度15m/分で引き取り、100℃に温調したキャストロールと100℃に温調したタッチロールにて挟み込み、冷却固化した。この時、Tダイから吐出されたフィルムが冷却固化されるまで端部の厚み変動や冷却不足による変化は見られなかった。その後、引き取りロールにて引き取り、巻き取りコア前にて両端部200mmをスリットし、巻き取りコアに厚み80μmのフィルム原反を得た。このとき、スリット前のフィルムの蛇行はなかったが、フィルム端部において1度割れが生じた。また、スリット部分に切粉の発生が微細にあり若干フィルムに付着異物として残っていた。ただし、巻いた際のブロッキング起因欠陥は見られず、良好な巻き姿であった。
また、フィルム中央部の静摩擦係数(荷重200g、FS50%)は0.5であり、フィルム両端部の静摩擦係数(荷重200g、FS50%)は1.2であった。
【0120】
<実施例4>
中央部にフィードする材料を、樹脂ペレット(C1)から、樹脂ペレット(C3)(ガラス転移温度Tg119℃)に変更したことと、両端部にフィードする材料を、樹脂ペレット(C2)からアクリル系樹脂(A1)に変更したことと以外は、実施例1と同様に実施した。
吐出した溶融樹脂に対し、ライン速度15m/分で引き取り、100℃に温調したキャストロールと100℃に温調したタッチロールにて挟み込み、冷却固化した。この時、Tダイから吐出されたフィルムが冷却固化されるまで端部の厚み変動や冷却不足による変化は見られなかった。その後、引き取りロールにて引き取り、巻き取りコア前にて両端部200mmをスリットし、巻き取りコアに厚み80μmのフィルム原反を得た。このとき、スリット前のフィルムの蛇行はなかったが、フィルム端部において2度割れが生じた。また、スリット部分に切粉の発生が微細にあり若干フィルムに付着異物として残っていた。ただし、巻いた際のブロッキング起因欠陥も見られず、良好な巻き姿であった。
また、フィルム中央部の静摩擦係数(荷重200g、FS50%)は0.5であり、フィルム両端部の静摩擦係数(荷重200g、FS50%)は1.8であった。
【0121】
<比較例1>
中央部にフィードする材料を、樹脂ペレット(C1)から、アクリル系樹脂(A1)に変更したことの他は、実施例1と同様に実施した。
吐出した溶融樹脂に対し、ライン速度15m/分で引き取り、100℃に温調したキャストロールと100℃に温調したタッチロールにて挟み込み、冷却固化した。この時、Tダイから吐出されたフィルムが冷却固化されるまで端部の厚み変動や冷却不足による変化は見られなかった。その後、引き取りロールにて引き取り、巻き取りコア前にて両端部200mmをスリットし、巻き取りコアに厚み80μmのフィルム原反を得た。このとき、スリット前のフィルムの蛇行はなかったが、フィルム端部において3度割れが生じた。また、スリット部分に切粉の発生がありフィルムに付着異物として残っていた。ただし、巻いた際に顕著なブロッキング起因欠陥が発生した。
また、フィルム中央部の静摩擦係数(荷重200g、FS50%)は1.8であり、フィルム両端部の静摩擦係数(荷重200g、FS50%)は1.2であった。
【0122】
<比較例2>
樹脂ペレット(C3)(ガラス転移温度Tg119℃)を用い、乾燥機にて80℃で4時間乾燥させた後、φ90mm単軸押出機に供給した。押出機出口にはスクリーンメッシュを押出機側から#40、#100、#400、#400、#100、#40の順に重ねて設置した。押出機出口で樹脂温度が250℃となるよう加熱溶融し、ギアポンプを介し1850mm幅のTダイへと溶融樹脂を押し出した。
吐出した溶融樹脂に対し、ライン速度15m/分で引き取り、100℃に温調したキャストロールと100℃に温調したタッチロールにて挟み込み、冷却固化した。この時、Tダイから吐出されたフィルムが冷却固化されるまで端部の厚み変動や冷却不足による変化は見られなかった。その後、引き取りロールにて引き取り、巻き取りコア前にて両端部200mmをスリットし、巻き取りコアに厚み80μmのフィルム原反を得た。このとき、スリット前のフィルムの蛇行が発生した。一方、端部のフィルムは安定していた。また、スリット部分に切粉の発生が若干ありフィルムに付着異物として残っていた。ただし、巻いた際に顕著なブロッキング起因欠陥が発生し、巻きズレも生じていた。
フィルム全面の静摩擦係数(荷重200g、FS50%)は0.5であった。
【0123】
<比較例3>
中央部にフィードする材料を、樹脂ペレット(C1)から、アクリル系樹脂(A1)に変更したことと、両端部にフィードする材料を、樹脂ペレット(C2)から、樹脂ペレット(C3)変更したことと以外は、実施例1と同様に実施した。
吐出した溶融樹脂に対し、ライン速度15m/分で引き取り、100℃に温調したキャストロールと100℃に温調したタッチロールにて挟み込み、冷却固化した。この時、Tダイから吐出されたフィルムが冷却固化されるまで端部の厚み変動や冷却不足による変化は見られなかった。その後、引き取りロールにて引き取り、巻き取りコア前にて両端部200mmをスリットし、巻き取りコアに厚み80μmのフィルム原反を得た。このとき、スリット前のフィルムの蛇行はなく、端部の割れもなかった。ただし、スリット部分に切粉の発生が微細にあり若干フィルムに付着異物として残っており、また、巻いた際のブロッキング起因欠陥も発生した。
また、フィルム中央部の静摩擦係数(荷重200g、FS50%)は1.8であり、フィルム両端部の静摩擦係数(荷重200g、FS50%)は0.5であった。
【0124】
<比較例4>
樹脂ペレット(C3)にかえて、樹脂ペレット(C2)を用いたことの他は比較例2と同様に実施した。
吐出した溶融樹脂に対し、ライン速度15m/分で引き取り、100℃に温調したキャストロールと100℃に温調したタッチロールにて挟み込み、冷却固化した。この時、Tダイから吐出されたフィルムが冷却固化されるまで端部の厚み変動や冷却不足による変化は見られなかった。その後、引き取りロールにて引き取り、巻き取りコア前にて両端部200mmをスリットし、巻き取りコアに厚み80μmのフィルム原反を得た。このとき、スリット前のフィルムの蛇行や端部の割れは見られず、スリット部分における割れや切粉の発生もなかったものの、巻いた際のブロッキング起因欠陥が発生した。
フィルム全面の静摩擦係数(荷重200g、FS50%)は1.2であった。
【0125】
<比較例5>
両端部にフィードする材料を、樹脂ペレット(C2)から樹脂ペレット(C3)に変更した以外は、実施例1と同様に実施した。
吐出した溶融樹脂に対し、ライン速度15m/分で引き取り、100℃に温調したキャストロールと100℃に温調したタッチロールにて挟み込み、冷却固化した。この時、Tダイから吐出されたフィルムが冷却固化されるまで端部の厚み変動や冷却不足による変化は見られなかった。その後、引き取りロールにて引き取り、巻き取りコア前にて両端部200mmをスリットし、巻き取りコアに厚み80μmのフィルム原反を得た。このとき、スリット前のフィルムの蛇行が発生した。スリット部分における割れや切粉の発生はなく、巻いた際のブロッキング起因欠陥も見られなかったが、巻きズレが生じ、巻き姿不良であった。
また、フィルム中央部の静摩擦係数(荷重200g、FS50%)は0.3であり、フィルム両端部の静摩擦係数(荷重200g、FS50%)は0.5であった。
【0126】
以下、表1に、実施例および比較例の結果をまとめる。
【表1】
【0127】
表1より、実施例では、多層構造粒子を含有させないことにより両端部の滑性を抑える一方、多層構造粒子を含有させることにより中央部に滑性を付与することで、巻きズレと、ブロッキングに起因する不具合とを抑制できることが分かる。
他方、比較例によれば、多層構造粒子の有無によって、フィルム両端部における滑性が、フィルム中央部における滑性よりも低く設計されていない場合、巻きズレの抑制と、ブロッキングに起因する不具合の抑制とを両立できないことが分かる。
【符号の説明】
【0128】
10 共押出機
11 Tダイ
12 ダイ出口
13 熱可塑性樹脂組成物
14 弾性ロール
15 キャストロール
図1