特許第6713821号(P6713821)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6713821
(24)【登録日】2020年6月8日
(45)【発行日】2020年6月24日
(54)【発明の名称】Cs含有CHA型ゼオライトの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 39/46 20060101AFI20200615BHJP
【FI】
   C01B39/46
【請求項の数】12
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-93331(P2016-93331)
(22)【出願日】2016年5月6日
(65)【公開番号】特開2017-200865(P2017-200865A)
(43)【公開日】2017年11月9日
【審査請求日】2019年1月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】萩尾 健史
(72)【発明者】
【氏名】山崎 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】野田 憲一
【審査官】 若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】 特表2016−500360(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0286798(US,A1)
【文献】 特開2010−168269(JP,A)
【文献】 特開2012−211066(JP,A)
【文献】 IMAI, H. et al.,Direct crystallization of CHA-type zeolite from amorphous aluminosilicate gel by seed-assisted method in the absence of organic-structure-directing agents,Micropor. Mesopor. Mater. ,米国,Elsevier Inc. ,2014年 6月 5日,Vol. 196,pp. 341-348
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00−20/281
20/30−38/74
C01B 33/20−39/54
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cs源、アルカリ源、Al源及びSi源を少なくとも含む原料溶液にゼオライト種結晶を添加して100℃以上、170℃以下で水熱合成することによって、Cs含有CHA型ゼオライトを合成する工程を備え、
前記ゼオライト種結晶は、CHA型ゼオライト以外のゼオライトによって構成され、
前記ゼオライト種結晶の単位格子の少なくとも1つの軸寸法は、CHA型ゼオライトの単位格子の少なくとも1つの軸寸法の±10%以内であり、
前記原料溶液において、Csに対するCs以外のアルカリ金属のモル比は、50以下である、
Cs含有CHA型ゼオライトの製造方法。
【請求項2】
前記ゼオライト種結晶の単位格子の少なくとも1つの軸寸法は、CHA型ゼオライトを構成する単位格子の少なくとも1つの軸寸法の±8%以内である、
請求項1に記載のCs含有CHA型ゼオライトの製造方法。
【請求項3】
前記ゼオライト種結晶の単位格子の少なくとも2つの軸の寸法は、CHA型ゼオライトを構成する単位格子の少なくとも2つの軸の寸法の±10%以内である、
請求項1に記載のCs含有CHA型ゼオライトの製造方法。
【請求項4】
前記ゼオライト種結晶の単位格子の少なくとも2つの軸の寸法は、CHA型ゼオライトを構成する単位格子の少なくとも2つの軸の寸法の±10%以内であり、
前記ゼオライト種結晶の単位格子の前記少なくとも2つの軸がなす角度は、CHA型ゼオライトを構成する単位格子の前記少なくとも2つの軸がなす角度の±10%以内である、
請求項1に記載のCs含有CHA型ゼオライトの製造方法。
【請求項5】
前記ゼオライト種結晶の単位格子の少なくとも2つの軸の寸法は、CHA型ゼオライトを構成する単位格子の少なくとも2つの軸の寸法の±10%以内であり、
前記ゼオライト種結晶の単位格子の前記少なくとも2つの軸がなす角度は、CHA型ゼオライトを構成する単位格子の前記少なくとも2つの軸がなす角度の±5%以内である、
請求項1に記載のCs含有CHA型ゼオライトの製造方法。
【請求項6】
前記原料溶液において、Cs以外のアルカリ金属がNaまたはKである、
請求項1乃至5のいずれかに記載のCs含有CHA型ゼオライトの製造方法。
【請求項7】
前記原料溶液において、Alに対するSiのモル比は、7.5以下である、
請求項1乃至6のいずれかに記載のCs含有CHA型ゼオライトの製造方法。
【請求項8】
前記ゼオライト種結晶は、RHO型ゼオライトによって構成される、
請求項1乃至7のいずれかに記載のCs含有CHA型ゼオライトの製造方法。
【請求項9】
前記ゼオライト種結晶は、ANA型ゼオライトによって構成される、
請求項1乃至7のいずれかに記載のCs含有CHA型ゼオライトの製造方法。
【請求項10】
前記ゼオライト種結晶は、DDR型ゼオライトによって構成される、
請求項1乃至7のいずれかに記載のCs含有CHA型ゼオライトの製造方法。
【請求項11】
前記ゼオライト種結晶は、MER型ゼオライトによって構成される、
請求項1乃至7のいずれかに記載のCs含有CHA型ゼオライトの製造方法。
【請求項12】
前記ゼオライト種結晶は、BEA型ゼオライトによって構成される、
請求項1乃至7のいずれかに記載のCs含有CHA型ゼオライトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Cs含有CHA型ゼオライトの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、CHA(チャバサイト)型ゼオライトの製造方法として、出発原料に含まれるFAU(フォージャサイト)型ゼオライトを分解してCHA型ゼオライトを合成する手法(特許文献1及び非特許文献1参照)や、CHA型ゼオライトの合成原料に有機構造規定剤を添加する手法(特許文献2及び非特許文献2参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−16123号公報
【特許文献2】特開2011−121040号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】清住嘉道、長谷川泰久、佐野庸治、「FAUを出発原料としてつくる高シリカCHA膜の合成と酢酸水溶液からの脱水性能」、ゼオライト学会、Vol.31、No.1、p.19〜26、2014
【非特許文献2】Hiroyuki Imai, Nozomu Hayashida, Toshiyuki Yokoi, Takashi Tatsumi、「Direct crystallization of CHA−type zeolite from amorphous aluminosilicate gel by seed−assisted method in the absence of organic−structure−directing−agents」、Microporous and Mesoporous Materials 196、p341−348、2014
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の手法では、CHA型ゼオライトの合成に100時間以上が必要であり、非特許文献1の手法でも、CHA型ゼオライトの合成に3日以上が必要である。
【0006】
また、特許文献2及び非特許文献2の手法では、高価なN,N,N−トリメチル−1−アダマンタンアンモニウムヒドロキシド(TMAdaOH)を有機構造規定剤として用いる必要があるだけでなく、有機構造規定剤を焼成除去する必要もある。
【0007】
さらに、上記各文献の手法で合成されたCHA型ゼオライトにCs(セシウム)を導入してCO吸着性を付与するには、イオン交換法によってCsをCHA型ゼオライトに導入する必要がある。
【0008】
従って、簡便にCs含有CHA型ゼオライトを直接合成したいという要請がある。
【0009】
本発明は、上述の状況に鑑みてなされたものであり、簡便なCs含有CHA型ゼオライトの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るCs含有CHA型ゼオライトの製造方法は、Cs源、アルカリ源、Al源及びSi源を少なくとも含む原料溶液にゼオライト種結晶を添加して100℃以上、170℃以下で水熱合成することによって、Cs含有CHA型ゼオライトを合成する工程を備える。ゼオライト種結晶は、CHA型ゼオライト以外のゼオライトによって構成される。ゼオライト種結晶の単位格子の少なくとも1つの軸寸法は、CHA型ゼオライトの単位格子の少なくとも1つの軸寸法の±10%以内である。原料溶液において、Csに対するCs以外のアルカリ金属のモル比は、50以下である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、簡便なCs含有CHA型ゼオライトの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】Cs含有CHA型ゼオライトの製造方法を示すフロー図
図2】CHA型ゼオライトの単位格子を示す模式図
図3】RHO型ゼオライトの単位格子を示す模式図
図4】ANA型ゼオライトの単位格子を示す模式図
図5】DDR型ゼオライトの単位格子を示す模式図
図6】MER型ゼオライトの単位格子を示す模式図
図7】BEA型ゼオライトの単位格子を示す模式図
図8】合成したCHA型ゼオライトのX線回折パターン
【発明を実施するための形態】
【0013】
(Cs含有CHA型ゼオライトの製造方法)
本実施形態に係るCs含有CHA型ゼオライトの製造方法について、図面を参照しながら説明する。図1は、Cs含有CHA型ゼオライトの製造方法を示すフロー図である。
【0014】
1.ゼオライト種結晶の作製
まず、ステップS1に示すように、ゼオライト種結晶を作製する。
【0015】
本実施形態では、CHA型ゼオライト以外のゼオライトによって構成されるゼオライト種結晶が使用される。ゼオライト種結晶の単位格子の軸は、CHA型ゼオライトの単位格子の軸に近似した寸法を有する。具体的に、ゼオライト種結晶の単位格子の少なくとも1つの軸寸法は、CHA型ゼオライトの単位格子の少なくとも1つの軸寸法の±10%以内である。
【0016】
単位格子とは、ゼオライトの骨格を構成する一単位の構造である。単位格子は、格子定数によって形状や大きさが表される。ゼオライトの格子定数については、The International Zeolite Association (IZA) “Database of Zeolite Structures” [online]、[平成28年2月22日検索]、インターネット<URL:http://www.iza-structure.org/databases/>に開示されている。格子定数とは、単位格子を構成するa軸、b軸及びc軸それぞれの軸寸法である。
【0017】
図2に示すように、CHA型ゼオライトの単位格子10は、六角柱状に形成される。CHA型ゼオライトの単位格子10は、a軸、b軸及びc軸によって構成される。CHA型ゼオライトにおいて、a軸寸法(a軸方向の格子定数)は「13.675Å」であり、b軸寸法(b軸方向の格子定数)は「13.675Å」であり、c軸寸法(c軸方向の格子定数)は「14.767Å」である。a軸とb軸とが成す角γは120°であり、b軸とc軸とが成す角αは90°であり、c軸とa軸とが成す角βは90°である。
【0018】
上述のとおり、ゼオライト種結晶の少なくとも1つの軸寸法は、CHA型ゼオライトの少なくとも1つの軸寸法の±10%以内である。つまり、ゼオライト種結晶のある1つの軸寸法をx、CHA型ゼオライトのある1つの軸寸法をyとすると、(x−y)/y×100が±10(%)以内となるxとyの組み合わせが存在する。このような軸寸法の単位格子を有するゼオライトとしては、例えば、RHO、ANA、DDR、AFX、MER及びBEAが挙げられる。
【0019】
図3に示すように、RHO型ゼオライトの単位格子20は、立方体状に形成される。RHO型ゼオライトの単位格子20は、a軸、b軸及びc軸によって構成される。RHO型ゼオライトにおいて、a軸寸法、b軸寸法及びc軸寸法それぞれは「14.919Å」である。a軸とb軸とが成す角γは90°であり、b軸とc軸とが成す角αは90°であり、c軸とa軸とが成す角βは90°である。
【0020】
RHO型ゼオライトの各軸寸法「14.919Å」は、CHA型ゼオライトのa軸寸法及びb軸寸法「13.675Å」の+9.1%であり、かつ、CHA型ゼオライトのc軸寸法「14.767Å」の+1.0%である。
【0021】
図4に示すように、ANA型ゼオライトの単位格子30は、立方体状に形成される。ANA型ゼオライトの単位格子30は、a軸、b軸及びc軸によって構成される。ANA型ゼオライトにおいて、a軸寸法、b軸寸法及びc軸寸法それぞれは「13.567Å」である。a軸とb軸とが成す角γは90°であり、b軸とc軸とが成す角αは90°であり、c軸とa軸とが成す角βは90°である。
【0022】
ANA型ゼオライトの各軸寸法「13.567Å」は、CHA型ゼオライトのa軸寸法及びb軸寸法「13.675Å」の−0.8%であり、かつ、CHA型ゼオライトのc軸寸法「14.767Å」の−8.1%である。
【0023】
図5に示すように、DDR型ゼオライトの単位格子40は、六角柱状に形成される。DDR型ゼオライトの単位格子40は、a軸、b軸及びc軸によって構成される。DDR型ゼオライトにおいて、a軸寸法及びb軸寸法は「13.795Å」であり、c軸寸法は「40.750Å」である。a軸とb軸とが成す角γは120°であり、b軸とc軸とが成す角αは90°であり、c軸とa軸とが成す角βは90°である。
【0024】
DDR型ゼオライトのa軸及びb軸寸法「13.795Å」は、CHA型ゼオライトのa軸及びb軸寸法「13.675Å」の+0.9%であり、かつ、CHA型ゼオライトのc軸寸法「14.767Å」の−6.6%である。
【0025】
図6に示すように、MER型ゼオライトの単位格子50は、直方体状に形成される。MER型ゼオライトの単位格子50は、a軸、b軸及びc軸によって構成される。MER型ゼオライトにおいて、a軸寸法及びb軸寸法は「14.012Å」であり、c軸寸法は「9.954Å」である。a軸とb軸とが成す角γは90°であり、b軸とc軸とが成す角αは90°であり、c軸とa軸とが成す角βは90°である。
【0026】
MER型ゼオライトのa軸及びb軸寸法「14.012Å」は、CHA型ゼオライトのa軸及びb軸寸法「13.675Å」の+2.5%であり、かつ、CHA型ゼオライトのc軸寸法「14.767Å」の−5.1%である。
【0027】
図7に示すように、BEA型ゼオライトの単位格子60は、直方体状に形成される。BEA型ゼオライトの単位格子60は、a軸、b軸及びc軸によって構成される。BEA型ゼオライトにおいて、a軸寸法及びb軸寸法は「12.632Å」であり、c軸寸法は「26.186Å」である。a軸とb軸とが成す角γは90°であり、b軸とc軸とが成す角αは90°であり、c軸とa軸とが成す角βは90°である。
【0028】
BEA型ゼオライトのa軸及びb軸寸法「12.632Å」は、CHA型ゼオライトのa軸及びb軸寸法「13.675Å」の−7.6%である。
【0029】
以上のように、RHO型ゼオライト及びANA型ゼオライトそれぞれの単位格子20,30を構成する全ての軸寸法が、CHA型ゼオライトの各軸寸法の±10%以内である。また、DDR型ゼオライトの単位格子40を構成するa軸及びb軸寸法、MER型ゼオライトの単位格子50を構成するa軸及びb軸寸法、及びBEA型ゼオライトの単位格子60を構成するa軸及びb軸寸法が、CHA型ゼオライトの各軸寸法の±10%以内である。そのため、RHO型ゼオライト、ANA型ゼオライト、DDR型ゼオライト、MER型ゼオライト及びBEA型ゼオライトは、CHA型ゼオライトを合成するための種結晶として好適に用いられる。
【0030】
ただし、単位格子を構成する少なくとも1つの軸寸法がCHA型ゼオライトのいずれかの軸寸法の±10%以内であればよく、全ての軸寸法が±10%以内である必要はない。軸寸法は±10%以内であればよいが、±5%以内がより好ましく、±2%以内が最も好ましい。また、軸寸法が±10%以内である軸が2軸ある方がより適しており、2軸の軸寸法が±10%以内で、かつその2軸がなす角度が±10%以内であることが更に好ましく、2軸の軸寸法が±10%以内で、かつその2軸がなす角度が±5%以内であることが特に好ましい。
【0031】
なお、本実施形態において、ゼオライト種結晶は、CHA型ゼオライト以外のゼオライトによって構成されるため、単位格子を構成する少なくとも1つの軸寸法が、CHA型ゼオライトのいずれかの軸寸法の±0%超である。
【0032】
ゼオライト種結晶は、Cs(セシウム)を含有していてもよい。Csは、周知のイオン交換法によってゼオライト種結晶に導入することができる。一般的に、CsはCHA型ゼオライトの合成を促進するため、ゼオライト種結晶にCsを導入することによって、CHA型ゼオライトを効率的に合成することができる。
【0033】
ゼオライト種結晶の作製には、ゼオライトの種類に適した周知の手法を用いることができる。例えば、RHO型ゼオライト種結晶の作製には、Man Park, Seok Han Kim, Nam Ho Heo, Sridhar Komarneni、「Synthesis of zeolite rho: Aging temperature effect」、Journal of Porous Materials、September 1996, Volume 3, Issue 3, pp 151-155に記載の手法を用いることができる。また、ANA型ゼオライト種結晶の作製には、R. Dimitrijevic, V. Dondur, N. Petranovic、「The high temperature synthesis of CsAlSiO4-ANA, a new polymorph in the system Cs2OAl2O3SiO2: I. The end member of ANA type of zeolite framework」、Journal of Solid State Chemistry、September 1991, Volume 95, Issue 2, pp 335-345に記載の手法を用いることができる。
【0034】
2.原料溶液の調製
ステップS2に示すように、純水にCs源とアルカリ源を添加して攪拌することによって、Cs源とアルカリ源を含有する第1水溶液を調製する。この際、アルカリ源としてCs源を用いてもよいし、Cs源にCs以外のアルカリ金属源を合わせて添加してもよい。Cs源とCs以外のアルカリ金属源は、第1水溶液に完全に溶解していることが好ましい。また、Cs以外のアルカリ金属は価数を合わせた量のアルカリ土類金属で代替してもよい。
【0035】
Cs源としては、CsOH水溶液、塩化セシウム、炭酸セシウム及び硝酸セシウムを用いることができる。アルカリ源としては、CsOH水溶液、NaOH、KOH、アンモニア水溶液などを用いることができる。アルカリ金属源としては、NaOH、KOH、NaAlO(アルミン酸ナトリウム)及びフッ化ナトリウムなどを用いることができる。
【0036】
次に、ステップS3に示すように、第1水溶液にAl(アルミニウム)源を添加して攪拌することによって、Cs源とアルカリ源とAl源とを含有する第2水溶液を調製する。Al源は、第2水溶液に完全に溶解していることが好ましい。
【0037】
Al源としては、NaAlO、硝酸アルミニウム、水酸化アルミニウム及び金属アルミニウムを用いることができる。第2水溶液では、1molのCsに対して、Alを0.1mol〜25molとすることができる。
【0038】
次に、ステップS4に示すように、第2水溶液にSi源を添加して攪拌することによって、Cs源とアルカリ源とAl源とSi源を含有する原料溶液を調製する。Si源は、原料溶液中に均一に分散していることが好ましい。原料溶液では、1molのCsに対して、Cs以外のアルカリ金属を0mol〜50mol、Alに対して、純水を20mol〜5000molとすることができる。
【0039】
Si源としては、SiOゾル(コロイダルシリカ)やSiO粉末、TEOS(オルトケイ酸テトラエチル)及びケイ酸ナトリウムを用いることができる。原料溶液において、Csに対するCs以外のアルカリ金属のモル比(以下、「M/Cs比」という。)は、50以下である。M/Cs比は20以下が好ましく、8以下がより好ましい。これによって、原料溶液に十分な量のCsが添加されるため、合成されるCHA型ゼオライトの結晶性を安定させることができる。
【0040】
次に、ステップS5に示すように、調製した原料溶液にゼオライト種結晶を添加して100℃以上、170℃以下で水熱合成することによって、Cs含有CHA型ゼオライトを合成する。水熱合成の温度を170℃以下とすることによって、CHA型ゼオライト以外のゼオライト種の生成を抑制することができる。水熱合成の温度は、160℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましい。水熱合成の温度は、105℃以上が好ましく、110℃以上がより好ましい。
【0041】
(作用及び効果)
以上のように、本実施形態に係るCs含有CHA型ゼオライトの製造方法は、CHA型ゼオライト以外のゼオライト種結晶を原料溶液に添加して水熱合成する工程を備える。ゼオライト種結晶の単位格子の少なくとも1つの軸寸法は、CHA型ゼオライトの単位格子の少なくとも1つの軸寸法の±10%以内であり、原料溶液におけるM/Cs比は50以下であり、かつ、水熱合成温度は100℃以上、170℃以下である。
【0042】
このような条件で水熱合成することによって、高価な有機構造規定剤を用いることなく、CHA型ゼオライト以外のゼオライト種結晶からCs含有CHA型ゼオライトを簡便に直接合成することができる。
【0043】
(他の実施形態)
上記実施形態では、図1のステップS2〜S4において、第1水溶液、第2水溶液及び原料溶液を順次調製することとしたが、Cs源、アルカリ源、アルカリ金属源、Al源及びSi源の添加順序は任意に或いは同時に実施可能である。
【0044】
上記実施形態では、図1のステップS5において、原料溶液にゼオライト種結晶を添加することとしたが、原料溶液の調製工程(図1のステップS2〜S4)中にゼオライト種結晶を添加してもよい。
【実施例】
【0045】
以下において本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0046】
(実施例1)
1.ゼオライト種結晶の作製
Man Park, Seok Han Kim, Nam Ho Heo, Sridhar Komarneni、「Synthesis of zeolite rho: Aging temperature effect」、Journal of Porous Materials、September 1996, Volume 3, Issue 3, pp 151-155に記載の手法を用いて、Cs含有RHO型ゼオライト種結晶を作製した。RHO型ゼオライトのa軸寸法、b軸寸法及びc軸寸法「14.919Å」は、CHA型ゼオライトのa軸寸法及びb軸寸法「13.675Å」の±9.1%であり、かつ、CHA型ゼオライトのc軸寸法「14.767Å」の+1.0%である。
【0047】
なお、表1の「CHA型ゼオライトとの軸寸法差」の欄には、ゼオライト種結晶のある1つの軸寸法をxとし、CHA型ゼオライトのある1つの軸寸法をyとした場合における(x−y)/y×100の絶対値の最小値が記載されている。
【0048】
2.ゼオライトの合成
純水68.0gに50wt%CsOH水溶液2.0gとNaOH0.7gを混合して完全に溶解させることによって、第1水溶液を調製した。
【0049】
次に、NaAlO2.1gとコロイダルシリカ(30wt%SiOゾル溶液)23.0gを第1水溶液に添加して1時間混合することによって、原料溶液を調製した。
【0050】
次に、原料溶液にゼオライト種結晶を添加した後、110℃で20時間水熱合成した。
【0051】
(実施例2〜17)
実施例2、3では、合成時間を60時間、80時間に変更した以外は、実施例1と同じ工程にて水熱合成した。
【0052】
実施例4では、合成温度を150℃に変更した以外は、実施例1と同じ工程にて水熱合成した。
【0053】
実施例5では、最初の純水を3.0gに変更した以外は、実施例4と同じ工程にて水熱合成した。
【0054】
実施例6では、種結晶の作製条件を180℃で15時間に変更することで作製したCs含有ANA型ゼオライト種結晶を用いた以外は、実施例4と同じ工程にて水熱合成した。ANA型ゼオライトのa軸寸法、b軸寸法及びc軸寸法「13.567Å」は、CHA型ゼオライトのa軸寸法及びb軸寸法「13.675Å」の−0.8%であり、かつ、CHA型ゼオライトのc軸寸法「14.767Å」の−8.1%である。
【0055】
実施例7では、種結晶にCs非含有(Na含有)ANA型ゼオライト種結晶を用いた以外は、実施例3と同じ工程にて水熱合成した。
【0056】
実施例8では、種結晶に、「国際公開第2010/090049号明細書」に記載のとおり、160℃で16時間水熱合成して作製したオールシリカDDR型ゼオライト種結晶を用い、合成条件を150℃で16時間とした以外は、実施例1と同じ工程にて水熱合成した。DDR型ゼオライトのa軸寸法及びb軸寸法「13.795Å」は、CHA型ゼオライトのa軸寸法及びb軸寸法「13.675Å」の+0.9%であり、かつ、CHA型ゼオライトのc軸寸法「14.767Å」の−6.6%である。
【0057】
実施例9では、種結晶に、「H.Robson, Verified Synthesis of Zeolitic Materials, Second Edition, Elsevier, p196 (2001)」に記載のとおり、150℃で48時間水熱合成して作製したCs非含有(K含有)MER型ゼオライト種結晶を用いた以外は、実施例8と同じ工程にて水熱合成した。MER型ゼオライトのa軸寸法及びb軸寸法「14.012Å」は、CHA型ゼオライトのa軸寸法及びb軸寸法「13.675Å」の+2.5%であり、かつ、CHA型ゼオライトのc軸寸法「14.767Å」の−5.1%である。
【0058】
実施例10では、Cs含有RHO型ゼオライト種結晶の代わりに、市販のBEA型ゼオライト種結晶(東ソー社製、HSZ−940HOA)を用いた以外は、実施例4と同じ工程にて水熱合成した。BEA型ゼオライトのa軸寸法、b軸寸法及びc軸寸法「12.632Å」は、CHA型ゼオライトのa軸寸法及びb軸寸法「13.675Å」の−7.6%である。
【0059】
実施例11〜13では、実施例1と同じCs含有RHO型ゼオライト種結晶を用い、原料溶液中のCsとCs以外のアルカリ金属の総量(M+Cs)を一定に保った状態で、M/Cs比を0、1、20に調整した以外は、実施例8と同じ工程にて水熱合成した。
【0060】
実施例14では、実施例1と同じCs含有RHO型ゼオライト種結晶を用い、原料溶液中のSi/Al比を1に調整した以外は、実施例8と同じ工程にて水熱合成した。
【0061】
実施例15では、実施例1のNaAlOを増やし、更にKOHを加えることによって、Si/Al比を1、M/Cs比を50に調整し、合成温度を100℃に変更した以外は、実施例2と同じ工程にて水熱合成した。
【0062】
実施例16では、合成温度を170℃に変更した以外は、実施例15と同じ工程にて水熱合成した。
【0063】
実施例17では、実施例1のコロイダルシリカを増やし、Si/Al比を7.5に調整し、合成温度を170℃で36時間に変更した以外は、実施例1と同じ工程にて水熱合成した。
【0064】
(比較例1〜8)
比較例1では、ゼオライト種結晶を用いなかった以外は、実施例4と同じ工程にて水熱合成した。
【0065】
比較例2では、Cs含有RHO型ゼオライト種結晶の代わりに、コロイダルシリカを乾燥することによって作製した粉末状のアモルファスシリカを用いた以外は、実施例4と同じ工程にて水熱合成した。
【0066】
比較例3,4では、Cs含有RHO型ゼオライト種結晶の代わりに、SiO/Al比の異なる市販のFAU型ゼオライト種結晶(東ソー社製、HSZ−320HOA及びHSZ−390HUA)を用いた以外は、実施例4と同じ工程にて水熱合成した。比較例3では、市販のSiO/Al比=5.5のFAU型ゼオライト種結晶を用い、比較例4では、市販のSiO/Al比=390のFAU型ゼオライト種結晶を用いた。FAU型ゼオライトのa軸寸法、b軸寸法及びc軸寸法「24.345Å」は、CHA型ゼオライトのa軸寸法及びb軸寸法「13.675Å」の+78%であり、CHA型ゼオライトのc軸寸法「14.767Å」の+65%である。
【0067】
比較例5では、Cs含有RHO型ゼオライト種結晶の代わりにCs含有LTA型ゼオライト種結晶を用いた以外は、実施例4と同じ工程にて水熱合成した。比較例5では、市販のLTA型ゼオライト種結晶(東ソー社製、ゼオラムA−4)にCsCl水溶液を用いたイオン交換でCsを導入することによって、Cs含有LTA型ゼオライト種結晶を作製した。LTA型ゼオライトのa軸寸法、b軸寸法及びc軸寸法「11.919Å」は、CHA型ゼオライトのa軸寸法及びb軸寸法「13.675Å」の−13%であり、CHA型ゼオライトのc軸寸法「14.767Å」の−19%である。
【0068】
比較例6では、水熱合成の条件を180℃で15時間とした以外は、実施例1と同じ工程にて水熱合成した。
【0069】
比較例7では、原料溶液中のCsとCs以外のアルカリ金属の総量(M+Cs)を一定に保った状態で、M/Cs比を7.5に調整し、かつ、水熱合成の条件を80℃で120時間とした以外は、実施例1と同じ工程にて水熱合成した。
【0070】
比較例8では、Cs含有RHO型ゼオライト種結晶を用い、原料溶液中のCsとCs以外のアルカリ金属の総量(M+Cs)を一定に保った状態で、M/Cs比を無限大(Csなし)に調整した以外は、実施例10と同じ工程にて水熱合成した。
【0071】
(合成されたゼオライトの評価)
実施例1〜13及び比較例1〜8で合成されたゼオライトの結晶相をX線回折装置(リガク社製、MiniFlex)にて確認した。また、SEM−EDX(SEM:日立ハイテクノロジーズ社製、S−3400N、EDX:Horiba社製、E−max)を用いてCsが含まれていることを確認した。確認されたゼオライト結晶相を表1にまとめて示す。なお、図8は、CHA型ゼオライトのX線回折パターンの一例である。
【0072】
【表1】
【0073】
表1に示すように、実施例1〜17では、ゼオライト種結晶の軸寸法をCHA型ゼオライトの軸寸法の±10%以内とし、原料溶液におけるM/Cs比を50以下とし、かつ、水熱合成温度を100℃以上、170℃以下とすることによって、Cs含有CHA型ゼオライトを簡便に合成することができた。
【0074】
一方で、ゼオライト種結晶を用いなかった比較例1,2、ゼオライト種結晶の軸寸法がCHA型ゼオライトの軸寸法の±10%超であった比較例3〜5、水熱合成温度が100℃以上170℃以下でなかった比較例6,7、及び原料溶液におけるM/Cs比が過大であった比較例8では、Cs含有CHA型ゼオライトを合成することができなかった。
【0075】
また、実施例5〜10の比較から、CHA型ゼオライトの軸寸法との差が±10%以内であれば、ゼオライト種結晶の種類に関わらず、Cs含有CHA型ゼオライトを合成できることが分かった。
【0076】
また、実施例7〜10と他の実施例との比較から、種結晶にはCsが含まれていなくてもよいことが分かった。
【0077】
また、実施例8と他の実施例との比較から、種結晶にはAlが含まれていなくてもよいことが分かった。
【0078】
また、実施例8〜10と他の実施例との比較から、ゼオライト種結晶の単位格子を構成する3軸のうち少なくとも1つの軸がCHA型ゼオライトの軸寸法の±10%以内であればよいことが分かった。
【0079】
また、実施例11〜13,15,16の比較から、原料溶液におけるM/Cs(Csに対するCs以外のアルカリ金属のモル比)は特に制限されず、50以下であればよく、0でもよいことが確認された。
【0080】
また、実施例13〜17の比較から、原料溶液におけるSi/Al比は特に制限されず、7.5以下であればよいことが確認された。
【符号の説明】
【0081】
10 CHA型ゼオライトの単位格子
20 RHO型ゼオライトの単位格子
30 ANA型ゼオライトの単位格子
40 DDR型ゼオライトの単位格子
50 MER型ゼオライトの単位格子
60 BEA型ゼオライトの単位格子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8